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令和5(ワ)70228損害賠償等請求事件

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 令和8年10月9日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社ユナイテッドエフォート(以下「原告ユナイテッドエフォート」 株式会社ケンタウロス
被告A
法令 商標権
民法415条3回
商標法38条2項3回
商標法36条1項1回
キーワード 商標権28回
侵害23回
損害賠償14回
差止2回
主文 1 被告は、原告ユナイテッドエフォートに対し、1212万859
2円及びこれに対する令和5年6月17日から支払済みまで年3
2 原告ユナイテッドエフォートのその余の主位的請求及び原告らの
3 訴訟費用は、原告ユナイテッドエフォートに生じた費用の4分の
3及び被告に生じた費用の16分の9を原告ユナイテッドエフォー
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、⑴原告ユナイテッドエフォートが保有する別紙商標権目録記載の商標 権(以下「本件商標権」という。 )に関し、①同原告が被告に対し、被告が本件商 標権を侵害したとして、商標法36条1項及び2項に基づく差止め及び廃棄を求 め、②原告ケンタウロスが被告に対し、被告の上記行為により、本件商標権に係 る同原告の独占的通常使用権が侵害されたとして、民法709条に基づく損害賠 償金1633万5000円(侵害期間は令和2年3月1日から令和5年5月2日 まで)及びこれに対する不法行為以後の日である同年6月17日から支払済みま で民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、 ⑵原告ユナイテッドエフォートが所有する別紙物件目録記載1及び2の土地建物 (以下「本件土地」 、 「本件建物」という。 )に関し、同原告が被告に対し、主位的

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判決文

令和8年10月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和5年(ワ)第70228号 損害賠償等請求事件

口頭弁論終結日 令和8年7月8日

判 決

原 告 株式会社ユナイテッド エフォート

(以下「原告ユナイテッドエフォート」

という。)

原 告 株 式 会 社 ケ ン タ ウ ロ ス

(以下「原告ケンタウロス」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士 宮 本 督

深 井 麻 里

溝 口 哲 史

溝 口 仁 美

佐 々 木 康 之 郎

秋 山 正 裕

被 告 A

同訴訟代理人弁護士 塩 見 渉

塩 見 明

主 文

1 被告は、原告ユナイテッドエフォートに対し、1212万859

2円及びこれに対する令和5年6月17日から支払済みまで年3

パーセントの割合による金員を支払え。

2 原告ユナイテッドエフォートのその余の主位的請求及び原告らの

その余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、原告ユナイテッドエフォートに生じた費用の4分の

5 3及び被告に生じた費用の16分の9を原告ユナイテッドエフォー

トの負担とし、原告ケンタウロスに生じた費用及び被告に生じた費

用の4分の1を原告ケンタウロスの負担とし、その余は被告の負担

とする。

4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は、別紙被告標章目録1及び2記載の標章をワッペン若しくはその包装に付し、又はこの標章を付したワッペンを販売し、販売のために展示してはならない。2 被告は、別紙被告標章目録1及び2記載の標章を付したワッペンを廃棄せよ。3 被告は、原告ケンタウロスに対し、1633万5000円及びこれに対する令和5年6月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。4 被告は、原告ユナイテッドエフォートに対し、2951万8902円及びこれに対する令和5年6月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

1 事案の概要本件は、⑴原告ユナイテッドエフォートが保有する別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」という。)に関し、①同原告が被告に対し、被告が本件商標権を侵害したとして、商標法36条1項及び2項に基づく差止め及び廃棄を求め、②原告ケンタウロスが被告に対し、被告の上記行為により、本件商標権に係る同原告の独占的通常使用権が侵害されたとして、民法709条に基づく損害賠償金1633万5000円(侵害期間は令和2年3月1日から令和5年5月2日まで)及びこれに対する不法行為以後の日である同年6月17日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、

5 ⑵原告ユナイテッドエフォートが所有する別紙物件目録記載1及び2の土地建物(以下「本件土地」、「本件建物」という。)に関し、同原告が被告に対し、主位的に、①被告が、亡夫と共に、本件建物を使用貸借し、同契約上の原状回復義務の履行を怠ったとして、民法415条に基づく損害賠償金2951万8902円及びこれに対する履行請求後の日である同日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、

②被告が無断改築等により本件建物及び本件土地の所有権を侵害したとして、民法709条に基づき前記①と同額の損害賠償金の支払、③被告が本件建物の使用貸借契約の借主でないとしても、亡夫の同契約上の原状回復義務に係る債務は夫婦の日常家事債務であるとして、民法761条に基づき前記①と同額の損害賠償金の支払、④被告が本件建物の使用貸借契約の借主でないとしても、相続により亡夫の債務不履行に基づく損害賠償債務を2分の1の割合で承継したとして前記

①の半額の損害賠償金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。)

⑴ 当事者等ア 原告ユナイテッドエフォートは、不動産の賃貸、管理、保有及び運用業務等を目的とする株式会社である。イ 原告ケンタウロスは、自動車、自動二輪車、自転車、モーターボート、ヨット等の卸、小売り、及び整備並びに開発等を目的とする株式会社である。平成28年1月6日以降の代表取締役はB(以下「B」という。)である。(乙1、2)ウ C(以下「C」という。)は、昭和39年、オートバイ運転者によって構成されるモーターサイクルクラブ「MCケンタウロス」(以下「本件クラブ」という。)を創設し、長年にわたり、「大将」(「族長」ともいう。)として本件ク

5 ラブを運営してきた。(乙3)エ 被告は、平成16年11月、Cと婚姻した(以下、被告とCを「被告ら」という。)。

⑵ 本件商標権ア 原告ケンタウロスは、昭和60年6月25日、本件商標権の設定登録を受け、本件商標権を取得した。(甲1、5、6)イ 原告ユナイテッドエフォートは、平成27年5月25日、原告ケンタウロスから本件商標権の移転登録を受け、本件商標権を取得した。(甲5)ウ 原告ユナイテッドエフォート及び原告ケンタウロスは、本件商標権等につき原告ユナイテッドエフォートが原告ケンタウロスに専用使用権を設定する旨の平成27年4月13日付け商標権専用使用権設定契約書(甲2。以下「本件設定契約書」という。)を作成した。(甲2)

⑶ 被告標章1及び2を付した各ワッペンの交付等本件クラブでは、入団を認められたメンバーに対し、別紙被告標章目録1及び2記載の標章(以下「被告標章1」などという。)を付した各ワッペン(以下「本件ワッペン」と総称する。)と「YOKOHAMA」と記載されたワッペンのセット(以下「本件セット」という。)が交付されることになっていた。本件クラブに入団するメンバーは、入団時に100万円を支払い、本件セットをデニムジャケットの背中部分に取り付けて使用していた。(甲20、乙3ないし6)

⑷ 本件建物の引渡し等ア 原告ユナイテッドエフォートと少なくともCは、平成26年7月11日までに、本件建物について、借主の居住を目的とし、使用目的が終了する日までを使用貸借期間とする使用貸借契約を締結した(以下「本件使用貸借契約」という。被告が本件使用貸借契約の当事者であるかについては争いがある。)。その頃、同日付けで作成された建物使用貸借契約書(甲7。以下「本件使用貸借契約書」という。)には、冒頭に「借主 C」と記載されているが、署

5 名欄には「乙(借主)」として被告らの各署名押印があり、また、契約書は3通作成され各自1通を保有すると記載されている。(甲7)イ 被告らは、平成26年7月11日、原告ユナイテッドエフォートから、本件建物の引渡しを受けた。ウ 原告ユナイテッドエフォートは、本件建物及びその敷地である本件土地をいずれも有限会社千葉リゾート開発から購入し、平成26年8月8日売買を原因として所有権移転登記を受けた。本件建物は建築年月日不詳の古民家である。(甲3、乙8、9)

⑸ 本件建物の明渡し被告らは本件建物から転居し、本件使用貸借契約は令和2年9月20日までに終了した。被告らは、同日、本件建物を明け渡した。(争いなし)

⑹ Cの死亡Cは、令和4年10月15日、死亡した。Cの相続につき被告の相続分は2分の1である。(甲9)3 争点(本件商標権に関する請求について)

⑴ 被告が本件商標権を侵害したか(争点1)

⑵ 原告ケンタウロスが独占的通常使用権の設定を受けたか(争点2)

⑶ 独占的通常使用権の侵害による損害の発生及びその額(争点3)(本件使用貸借契約に基づく請求について)

⑷ 被告は本件使用貸借契約の当事者であるか(争点4)

⑸ 原状回復義務の不履行による損害の発生及びその額(争点5)

⑹ Cの原状回復義務に係る債務は夫婦の日常家事債務であるか(争点6)

⑺ 除斥期間(争点7)(本件土地及び本件建物の所有権侵害の不法行為に基づく請求について)

⑻ 被告が本件土地又は本件建物の所有権を侵害したか(争点8)

5 ⑼ 所有権侵害による損害の発生及びその額(争点9)4 争点に関する当事者の主張

⑴ 争点1(被告が本件商標権を侵害したか)について(原告らの主張)ア 被告標章1と本件商標権に係る登録商標(以下「本件商標」という。)の上部、被告標章2と本件商標の下部は、それぞれ外観が同一又は類似し、ギリシア神話に登場する半人半馬の種族であるケンタウロス又はモーターサイクルクラブという観念も同一である。また、本件商標の称呼は「ケンタウロス」又は「MCケンタウロス」であり、これは被告標章1及び2を組み合わせた称呼と同一である。したがって、被告標章1及び2は、いずれも本件標章と類似する。イ 本件ワッペンは、本件商標権に係る指定商品「ワッペン」と同一である。ウ 被告は、業者に依頼して被告標章1及び2が付された本件ワッペンを製造した。また、被告は、令和2年3月から5月頃、D(以下「D」という。)に対し、本件セットを100万円の代金で販売し、同年5月ないし6月頃、E及びF(以下「F」という。)に対し、本件セットを販売したほか、その後も、本件クラブへの入団を希望する少なくとも11名に本件ワッペンを販売した(以下、本件クラブへの入団を希望する者を「入団希望者」という。)。本件ワッペンを製造・販売した主体が被告であることは、①被告がDに入団希望者を募るよう指示をしたこと、②Dは、Fに対し、Fの入団希望を被告に報告する旨及び本件セットの代金100万円は被告に支払われる旨説明したこと、③被告が本件セットの交付や返還を自己の判断で行っていたこと、

④被告が業者に直接本件セットの製造を依頼していたこと等によって裏付けられている。エ したがって、被告は、本件ワッペンの製造により被告標章1及び2を商品

5 に付し、本件ワッペンの販売により被告標章1及び2を付した商品を譲渡し、本件商標権を侵害した。(被告の主張)いずれも否認ないし争う。本件ワッペンは販売の対象ではなく、本件クラブの「大将」であるCが入団を推挙する者に贈与されるものであり、被告の関与は、Cの妻として入院中のCの意を受けてのものである。

⑵ 争点2(原告ケンタウロスが独占的通常使用権の設定を受けたか)について(原告ケンタウロスの主張)原告ケンタウロスは、Bが代表取締役に就任してから間がない頃に、原告ユナイテッドエフォートから、本件商標権について、独占的通常使用権の設定を受けた。このことは、原告ケンタウロスが本件商標権を原告ユナイテッドエフォートに譲渡した後も途切れることなく使用できることを明らかにするため、平成27年4月13日付けで作成された本件設定契約書によって裏付けられている。(被告の主張)否認する。本件設定契約書から原告ケンタウロスが独占的通常使用権の設定を受けたことを読み取ることはできない。

⑶ 争点3(独占的通常使用権の侵害による損害の発生及びその額)について(原告ケンタウロスの主張)ア 商標法38条2項の損害被告は、令和2年3月1日から令和5年5月2日までの間に、本件ワッペンを少なくとも15セット販売した。1セットの販売価格は100万円、製造原価は1万円であるから、被告は、本件ワッペンを販売したことにより合計1485万円の利益を得た。以上によれば、本件ワッペンの販売による原告ケンタウロスの損害額は1485万円を下らない(商標法38条2項)。

5 イ 弁護士費用に係る損害被告の行為と相当因果関係がある弁護士費用に係る損害額は148万5000円を下らない。(被告の主張)いずれも否認ないし争う。商標法38条2項の損害について、本件ワッペンを贈与されたメンバーが、本件クラブの「入団金」として100万円を納めたことはあるが、それは本件ワッペンの販売の対価ではない。

⑷ 争点4(被告は本件使用貸借契約の当事者であるか)について(原告ユナイテッドエフォートの主張)本件使用貸借契約は原告ユナイテッドエフォートと被告らとの間で締結された。このことは、本件使用貸借契約書に被告が借主として署名押印していること等によって裏付けられている。(被告の主張)被告が本件使用貸借契約の当事者であることを否認する。被告は借主であるCの同居人であり、Bの指示通り本件使用貸借契約書に署名押印したにすぎない。このことは、本件使用貸借契約書の冒頭に「借主 C」と記載されていることによって裏付けられている。

⑸ 争点5(原状回復義務の不履行による損害の発生及びその額)について(原告ユナイテッドエフォートの主張)被告らは、本件使用貸借契約上の原状回復義務を履行しなかったため、原告ユナイテッドエフォートには原状回復費用相当額の損害が発生した。本件建物の引渡時及び明渡時の状態、原状回復工事の工事内容及び費用は別紙原状回復箇所一覧表(以下「別紙一覧表」という。)の該当欄のとおりであり(本件建物につきNo1〜6、本件建物の外構につきNo7〜31)、上記債務不履行による原告ユナイテッドエフォートの損害額は2951万8902円である。原状回復義務の不履行による損害賠償債務は不可分債務であるから、被告は

5 その全額を賠償する義務を負う。(被告の主張)否認ないし争う。別紙一覧表No1〜24について、原状回復の必要性は明らかではなく、協議が必要であるし、原状回復費用についてもその金額については検討の必要がある。また、同一覧表のすべての箇所について通常損耗であり、原状回復の対象とならない。

⑹ 争点6(Cの原状回復義務に係る債務は日常家事債務であるか)について(原告ユナイテッドエフォートの主張)仮に被告が本件使用貸借契約の当事者でないとしても、本件使用貸借契約に基づくCの原状回復義務に係る債務は夫婦の日常家事債務であるから、Cの妻であった被告も民法761条に基づき連帯してその責任を負う。(被告の主張)争う。

⑺ 争点7(除斥期間)について(被告の主張)原告ユナイテッドエフォートは、本件建物の返還を受けた時から1年以内に権利行使しておらず、平成29年6月2日号外法律第44号による改正前の民法(以下「旧民法」という。)600条の除斥期間が経過している。(原告ユナイテッドエフォートの主張)旧民法600条は、契約の本旨に反する使用収益に基づく損害賠償請求を対象とする規定であり、契約終了時に発生する原状回復義務違反に基づく損害賠償請求を対象とする規定ではないから、本件には適用されない。

⑻ 争点8(被告が本件土地及び本件建物の所有権を侵害したか)について(原告ユナイテッドエフォートの主張)被告は、平成28年3月6日から令和元年9月27日までの間に、原告ユナイテッドエフォートが所有する本件土地又は本件建物について、内装(土間の

5 破損等)及び外構(石の持出等)の無断改築等を行って別紙一覧表の該当欄のとおり損傷し、故意又は過失によって原告ユナイテッドエフォートの所有権を侵害した。(被告の主張)否認ないし争う。

⑼ 争点9(所有権侵害による損害の発生及びその額)について(原告ユナイテッドエフォートの主張)本件土地及び本件建物の無断改築等によって原告ユナイテッドエフォートに生じた損害は、前記⑸(原告ユナイテッドエフォートの主張)と同じである。(被告の主張)否認ないし争う。その理由は前記⑸(被告の主張)のとおりである。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(被告が本件商標権を侵害したか)について

⑴ 認定事実

前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。ア Cは、長年にわたり、本件クラブへのメンバーの入団時に、「看板」(本件セット)を背負うということは自分たちのアイデンティティを背負うということであり、武家社会における「家紋」、「旗印」、「馬印」等に相当すること等を記載した書面と共に本件セットを贈り、本件セットをデニムジャケットの背中部分に取り付けて使用させていた。また、本件クラブのメンバーは、入団時に、本件クラブへの入団の証として「入団金」を納めること等を記載した誓約書に署名した上で入団金を支払っていた。入団金の金額は、遅くとも平成14年頃から、1口100万円、1口以上とされていた。(甲20、乙3ないし6)イ Cは、平成26年頃以降、体調が悪化して入院療養を要することがあり、

5 同年7月11日に、本件使用貸借契約に基づき本件建物に入居した。Cは、

平成30年7月にBを本件クラブの「2代目大将」とし、Bに本件クラブを運営する権限を移譲する旨の承継書(以下「本件承継書」という。甲23)を作成したが、その後も入団を認めた者に本件セットを贈ったこともあった。(甲11)ウ Fは、令和2年5月16日、Dに対し、本件クラブの「看板」を背負いたいなどと連絡したところ、Dから、Fの希望を被告(「大将の奥様」)に報告したなどと返信があった。Cは、その頃、体調不良により入院していたが、当時は、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、入院患者との面会は制限されていた。Dは、Fに対し、同月18日に注文したベストが届き病院に行く日程が決まったら本件セットを受け取ることになる旨、同月19日にDの銀行口座の口座番号を伝え、Fは、同日、同口座に102万8000円(うち2万8000円はベスト代金)を振り込んで支払った。Fは、Dに対し、世相を踏まえた配送ではなく直接「看板」を受け取りたい旨の連絡をしたところ、Fは、入院中のCには会えないと思うが、被告が病院に本件セットを持参してCにサインを入れてもらい、被告らの自宅で被告から本件セットを受け取る流れになる旨の返信をした。Fは、同年6月7日、Fと待ち合わせをし、被告らの自宅で、被告から本件セット及びベストを受け取った。DはFが支払った100万円を被告に交付した。(甲13、18、19)エ Bは、令和2年6月27日及び同年8月7日付けで、被告に対し、入院中のCとの面会を拒絶した、本件セットをBの許可なく渡した、本件建物から夜逃げしたなどとして抗議する内容の書面(甲12、乙7の1)を送付し、被告は、親族の立会があれば面会が可能であるから日程調整をすること、本件承継書の作成後は本件セットを出していないこと、本件建物から荷物の運び出しをしているので待ってほしいことなどを回答した。(甲13、乙7の2)オ その後、Fにつき金銭関係の疑義が生じたとして、Fは、紛争の解決まで

5 「看板」を預けることになり、令和4年7月30日、被告に「看板」である本

件セットを交付して預け、「看板預り」となった。(甲17)カ Cは、令和4年10月15日に死亡した。Fは、Cの死亡を知り、被告に対し、「看板預りの身にて、日を改めましてお線香をあげにお伺い致します。」と連絡したところ、被告は、「今、おいで、渡すよ」などと返信し、Fは、同月24日、被告から上記オのとおり預けた本件セットの返還を受けた。(甲17)キ 被告は、令和2年9月頃に、Cの指示に基づき、業者に本件セットの製造を依頼した。また、被告は、令和4年9月14日にもメールで同じ業者に本件セットの製造を依頼したが、業者からBに相談するよう言われ、断られた。(甲10、11)

⑵ 被告が本件商標権を侵害したかについて

ア 原告らは、被告が、本件セットを1セット100万円で少なくとも14名の入団希望者に販売したと主張するが、前記⑴ウ及びキのとおり、被告がFに対して本件セットを交付したこと及び被告が本件セットの製造を依頼したことが認められるものの、被告がF以外の入団希望者13名に本件セットを販売したことを裏付ける証拠は見当たらない。そこで、被告が、Fに対して本件セットを交付したこと及び本件セットの製造を依頼したことにより、本件商標権を侵害したかが問題となるが、被告は、上記被告の関与は、Cの妻として入院中のCの意を受けてのものであると主張することから、被告が本件商標権の侵害の主体といえるかについて検討する。イ 本件ワッペンを含む本件セットは、長年にわたり、本件クラブの創設者であるCによって、本件クラブへの入団を認めたメンバーに、本件クラブのメンバーであることを示す「看板」として入団時に贈られていたものであるから(前記⑴ア)、本件セットは、メンバーの選別という本件クラブの運営上の

5 判断に基づいて、メンバーになった者に贈られていたものと認められる。

そして、本件全証拠によっても、被告が、メンバーの選別を含む本件クラブの運営上の判断を行っていたとする具体的な事実関係は認められないところ、前記⑴認定の事実経過に照らせば、被告が、Cの生前に、Fに本件セットを交付し、Fが支払った100万円をDから受領し(同ウ)、本件セットの製造を業者に依頼したこと(同キ)については、Cの妻として、Cに代わって本件クラブに関する業務を事実上代行したものとみるのが自然である。そうすると、本件ワッペンの製造につき、被告が製造の主体であるということはできないし、Fに対する本件ワッペンの交付についても、被告が譲渡の主体であるということはできないから、被告が、本件商標権を侵害したということはできない。なお、被告は、Cの死後にFに本件セットを返還しているが(同カ)、Fから預かった本件セットを返還したことをもって「譲渡」に当たるということはできない。ウ 原告らは、本件ワッペンの製造・販売の主体が被告であることを裏付ける事情として、①被告がDに入団希望者を募るよう指示をしたこと、②Dは、Fに対し、Fの入団希望を被告に報告する旨及び本件セットの代金100万円は被告に支払われる旨説明したこと、③被告が本件セットの交付や返還を自己の判断で行っていたこと、④被告が業者に直接本件セットの製造を依頼していたことを主張する。しかしながら、上記①の事実を裏付ける的確な証拠は見当たらない。また、上記②ないし④に関し、Cの生前の事情(前記⑴ウ、オ及びキ)について、被告が自己の判断で行ったことを認めるに足りる証拠はない。また、上記③に関し、被告がCの死亡後に本件セットを返還したこと(同カ)のみから、Cの生前に行われた本件セットの製造及び交付の主体が被告であるということはできない。

5 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。

⑶ 小括

以上のとおり、被告が本件商標権を侵害したということはできないから、原告ユナイテッドエフォートの本件商標権に基づく差止及び廃棄請求は理由がない。また、原告ケンタウロスの独占的通常使用権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、被告が本件商標権を侵害したことを前提とするものであるから、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

2 争点4(被告は本件使用貸借契約の当事者であるか)について

⑴ 前記前提事実⑷のとおり、本件使用貸借契約は、借主の居住目的で締結され

たものであること、本件使用貸借契約書には、「乙(借主)」として被告の署名押印がされていることからすれば、被告は、Cと共に借主として本件使用貸借契約を締結したことが認められる。本件使用貸借契約書は3通作成され被告も含む各自が1通を保有するとされていることも、以上の認定に沿うものといえる。

⑵ これに対し、被告は、被告が本件使用貸借契約の当事者ではなく、このこと

は本件使用貸借契約書の冒頭に「借主 C」と記載されていることによって裏付けられていると主張する。しかしながら、前記⑴に説示したところに照らし、本件使用貸借契約書の冒頭の記載のみをもって被告が契約当事者(借主)であったことを否定することは困難である。

⑶ 以上に照らせば、被告は本件使用貸借契約の当事者であったと認めるのが相

当である。

3 争点5(原状回復義務の不履行による損害の発生及びその額)について

⑴ 被告らが本件建物及び外構に加えた変更について

ア 別紙一覧表記載の証拠(ただし、No1、2、6、7、9ないし12、15、18ないし24欄のもの)及び弁論の全趣旨によれば、本件建物(土間

5 及び土間たたきの床、2階の障子)及び外構(正面門左側の石及び土、石灯

籠、五葉松、黒松及びその他の植栽、正面門右側の石、母屋正面の五葉松、マキ、皐月その他植栽及び石、母屋西側の石及び土、石灯籠及び植栽)の引渡時(平成26年7月11日)及び明渡時(令和2年9月20日)の状態は、それぞれ、別紙原状回復箇所一覧表No1、2、6、7、9ないし12、15、18ないし24の該当欄に記載のとおりであり、この間に、本件建物の床石(鉄平石)を撤去し、コンクリートを剥がす(同No1、2)、障子を破る(同No6)、敷地内にあった石や土(同No7、15、21、22)、石灯籠(同No9、23)、五葉松、黒松及びマキ(同No10、11、18、19)、その他の植栽等(同No12、20、24)を撤去するなどの変更が加えられたことを認めることができる(以下、これらの箇所を「本件変更箇所」という。)。イ 原告ユナイテッドエフォートは、別紙一覧表No3ないし5、8、13、14、16、17及び25ないし31の箇所の変更についても主張するが、そのように認められないことは同別紙の「補足説明」欄に記載のとおりであるから、これらの箇所について被告らが本件建物及び外構に変更を加えたことを認めることはできない。

⑵ 被告の責任について

借主は、使用貸借契約終了時に、目的物を原状に復する義務を負うものと解されるところ、前記前提事実⑷イ、前記2及び上記⑴によれば、被告らは、本件使用貸借契約に基づき本件建物の引渡を受け、本件変更箇所に変更を加え、本件使用貸借契約が終了したのであるから、被告らは、本件変更箇所を原状に復する義務(原状回復義務)を負っていたものといえる。そして、前記⑴ア認定の変更内容及び明渡時の状態からすれば、被告らが原状回復義務を履行していないことは明らかであるところ、借主の原状回復義務に係る債務は不可分債務であり、その不履行による損害賠償請求債務について

5 も、各借主がその全額を支払う義務を負うものと解される。

したがって、被告は、原告ユナイテッドエフォートに対し、民法415条に基づき、原状回復義務の不履行により生じた損害として、本件変更箇所の原状回復費用相当額について賠償責任を負う。

⑶ 原告の損害額について

ア 建築業者(G二級建築士事務所。以下「本件建築業者」という。)は、令和2年10月頃に本件建物の明渡時の状態を確認し、Bから提供された本件建物の引渡時頃の写真と比較し、同年12月14日頃、本件建物の原状回復費用を合計2954万円とする見積書(甲4。以下「本件見積書」という。)を作成したが、本件見積書における本件変更箇所に係る原状回復工事の内容及び費用は、別紙一覧表No1、2、6、7、9ないし12、15、18ないし24の「工事内容」及び「費用」欄のとおりである。(甲4及び弁論の全趣旨)イ 前記アのとおりの本件見積書の作成過程には相応の合理性が認められるが、

①本件建物は建築年月日不詳の古民家であり、本件建物の変更箇所(別紙一

覧表No1、2及び6)については、引渡時に経年劣化が進行していたと考えられるのに対し(本件見積書にも、経年劣化については要協議であると記載されている(甲4)。)、本件見積書の原状回復工事は新たに材料を調達することを前提としているものと解されるから、当該工事を行えば引渡時の水準を上回る回復となること、②本件建築業者において本件建物の引渡時頃の写真から、撤去された石の寸法や土の分量等(No7、15、21及び22)、石灯籠の種類、寸法等(No9及び23)、植栽の樹齢、樹高、幹周等(No10、11、18及び19)、樹種が特定されていない植栽の原状(No12、20及び24)を正確に算定・把握することは困難であるところ、石、石灯籠及び植栽の価格は素材や樹齢・枝ぶり等により大きく異なり得ることを考慮する必要がある。そこで、原状回復費用の認定においては、本件見積書の本件変更箇所の費用欄記載の金額(合計2021万4321円。別紙一覧表

5 「裁判所合計」欄)の6割として算定するのが相当である。

したがって、被告の債務不履行による原告の損害額は1212万8592円(2021万4321円×0.6)と認められる。ウ 被告は、本件変更箇所が通常損耗に当たり、原状回復の対象とならないと主張するが、仮に本件使用貸借契約が通常損耗に係る原状回復を不要とするものとして締結されたものと認められるとしても、前記⑴アのとおりの変更の内容に照らせば、本件変更箇所が通常損耗によるものであるとは認められない。

4 争点7(除斥期間)について

⑴ 被告は、原告ユナイテッドエフォートは、本件建物の返還を受けた時から1

年以内に権利行使しておらず、旧民法600条の除斥期間が経過していると主張する。しかしながら、同条は契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支払った費用の償還請求の除斥期間についての規定であり、原状回復請求権は契約の本旨に反する使用又は収益によって生じたものかにかかわらず契約終了時に当然に発生するものであるから、同条は原状回復請求権に関する規定であるとはいえない。したがって、被告に対する原状回復義務の不履行に基づく損害賠償請求権の行使は同条の除斥期間の経過によって制限されない。

⑵ そうすると、原告ユナイテッドエフォートの民法415条に基づく損害賠償

請求(主位的請求)は1212万8592円及びこれに対する令和5年6月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由がある。各予備的請求に係る損害額は上記損害額を上回るものとは認められないから、その余の請求はいずれも理由がない。

第4 結論

5 よって、原告らの請求は、主文第1項の限度で理由があるから、この限度で認

容し、その余の部分は理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 髙 橋 彩裁判官 西 山 芳 樹裁判官 瀧 澤 惟 子

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