平成23(ネ)10085意匠権侵害差止等請求控訴事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成24年6月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告)ジロー株式会社 控訴人(第1審原告)X 被控訴人(第1審被告)ジロー株式会社
|
法令 |
意匠権
意匠法37条1項1回
|
キーワード |
意匠権6回 侵害3回 損害賠償2回 差止2回
|
主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人(第1審原告)の負担とする。 |
事件の概要 |
原告は,意匠に係る物品を「目違い修正用治具」とする本件意匠権(原判決2頁
14行目ないし19行目記載の意匠権)を有する。原告は被告に対し,被告製品
(別紙イ号物件目録記載の製品)の製造,譲渡,貸渡し等をする被告の行為が原告
の有する本件意匠権の侵害に当たる旨主張して,意匠法37条1項及び2項に基づ
き,被告製品の製造,譲渡,貸渡し等の差止め及び廃棄を求めるとともに,意匠権
侵害の不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた。
原判決は,本件登録意匠(本件意匠権の登録意匠)と被告意匠(被告製品の意
匠)とは,需要者の注意を惹きやすい部分である把持部分の形状,取付基部の形状,
調整用ボルトの形状,補強板の有無等において差異があり,これらの差異により,
上記各部分において異なる美感を与えるものであるのみならず,全体的に観察して
も,本件登録意匠は,全体的に角張った,しっかりとした印象を与えるのに対し,
被告意匠は,全体的に丸みを帯びた,ソフトな印象を与えるものであり,両意匠は
全く異なった意匠的効果を有するものと認められ,被告意匠と本件登録意匠とは類
似しないとして,原告の請求をいずれも棄却した。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 意匠権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成24年6月28日判決言渡
平成23年(ネ)第10085号 意匠権侵害差止等請求控訴事件(原審 東京地
方裁判所平成23年(ワ)第131号)
口頭弁論終結日 平成24年3月6日
判 決
控訴人(第1審原告) X
訴訟代理人弁護士 西 田 研 志
同 上 野 潤
同 神 保 宏 充
被控訴人(第1審被告) ジ ロ ー 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 松 葉 栄 治
同 柴 田 正 広
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人(第1審原告)の負担とする。
事 実 及 び 理 由
以下,略語は,原判決と同じである。また,原判決別紙意匠公報及び別紙1を引
用する。
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人(第1審被告。以下「被告」という。)は,別紙イ号物件目録記載
の製品を製造し,譲渡し,貸渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
3 被告は,その保管に係る前項記載の製品を廃棄せよ。
4 被告は,控訴人(第1審原告。以下「原告」という。)に対し,200万円
及びこれに対する平成23年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被告の負担とする。
第2 事案の概要
原告は,意匠に係る物品を「目違い修正用治具」とする本件意匠権(原判決2頁
14行目ないし19行目記載の意匠権)を有する。原告は被告に対し,被告製品
(別紙イ号物件目録記載の製品)の製造,譲渡,貸渡し等をする被告の行為が原告
の有する本件意匠権の侵害に当たる旨主張して,意匠法37条1項及び2項に基づ
き,被告製品の製造,譲渡,貸渡し等の差止め及び廃棄を求めるとともに,意匠権
侵害の不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた。
原判決は,本件登録意匠(本件意匠権の登録意匠)と被告意匠(被告製品の意
匠)とは,需要者の注意を惹きやすい部分である把持部分の形状,取付基部の形状,
調整用ボルトの形状,補強板の有無等において差異があり,これらの差異により,
上記各部分において異なる美感を与えるものであるのみならず,全体的に観察して
も,本件登録意匠は,全体的に角張った,しっかりとした印象を与えるのに対し,
被告意匠は,全体的に丸みを帯びた,ソフトな印象を与えるものであり,両意匠は
全く異なった意匠的効果を有するものと認められ,被告意匠と本件登録意匠とは類
似しないとして,原告の請求をいずれも棄却した。
原告は,控訴し,上記第1記載の判決を求めた。なお,原告は,原判決において
原告が敗訴した損害賠償金2000万円及びその遅延損害金の支払請求については,
一部である200万円及びその遅延損害金の支払請求部分についてのみ控訴した
(上記第1の第4項参照)。
1 「争いのない事実等」,「争点」,「争点に対する当事者の主張」は,原判
決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に対する当事者
の主張」(原判決2頁10行目ないし21頁16行目)を引用する(なお,争いの
ない事実等は,弁論の全趣旨により認められる事実を含む。)。
2 当審における当事者の追加的主張(原審における主張を含む。)
(1) 原告の主張
ア 目違い修正用治具は,建設現場や造船所等で使用される製品であるから,当
該製品の需要者は,そのような場所で作業を行う者であるというべきである。そし
て,需要者は,当該作業場所に配置された,目違いが生じている種々の鋼材に目違
い修正用治具を取り付けることができるか否かに関心を払う。
したがって,需要者の注意を惹きやすい部分は,①基本的構成態様のうち,底面
部材と垂直部材とからなる取付基部,底面部材の上面に配置され両側に伸びる水平
基部,水平基部の両端部近傍に設けられた調整用ボルトを有する点,②具体的構成
態様のうち,底面部材と垂直部材と上部部材とからなる取付基部がコの字状を呈す
る点である。
これに対して,把持部材の形状,補強板の有無及び形状は,需要者の注意を惹き
やすい要素ではない。すなわち,把持部材は,目違い修正用治具を安全に持ち運び
できるように取り付けられているものにすぎないから,需要者がその形状に関心を
払わない。また,補強板は,目違い修正用治具の耐久性を高める観点から取り付け
られるのであり,修正用治具の機能を実現する手段にすぎないから,その有無,形
状が看者の注意を惹くものとはいえない。
イ 上記アの①,②が需要者の注意を惹きやすい部分であることを前提とすると,
被告意匠は,本件登録意匠の要部に係る各構成態様を備えており,両意匠を全体と
して観察した場合,両意匠が看者である需要者に与える印象は同一である。
また,取付基部の形状,調整用ボルトの形状の差異は,設計上のわずかな差とい
うべきであり,需要者に与える印象が大きく異なるとはいえない。
(2) 被告の反論
ア 原告は,需要者の注意を惹きやすい部分は,①基本的構成態様のうち,底面
部材と垂直部材とからなる取付基部,底面部材の上面に配置され両側に伸びる水平
基部,水平基部の両端部近傍に設けられた調整用ボルトを有する点,②具体的構成
態様のうち,取付基部がコの字状を呈する点であって,把持部材の形状,補強板の
有無及び形状は,需要者の注意を惹きやすいとはいえない旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
上記①,②の点は,目違い修正用治具の機能を実現するための基本的構成であり,
公知意匠が備える特徴と共通するから,本件登録意匠の特徴的部分ではない。
一方,把持部材は,持ち運びのためだけに設けられているものではなく,取付基
部を手で支持する際にも用いられ,把持部材の持ちやすさが作業効率に影響を与え
る。また,目違い修正の作業中,把持部材は,終始,需要者の目の前にある。さら
に,把持部材が,目違い修正用治具を安全に持ち運びできるように取り付けられて
いるものにすぎないとしても,目違い修正用治具は重さが5ないし8kgもあるか
ら,これを安全に運ぶことは極めて重要であり,把持部分の配置,形状,握りやす
さや強度,本体への固定方法等は,需要者の関心を払う要素である。したがって,
把持部材の配置及び形状は,需要者の注意を惹く部分というべきである。
また,補強板は,物品の機能を実現する基本的構成には当たらない。すなわち,
本件登録意匠においては,水平基部の形状及びその固定方法が特徴的であることか
ら,水平基部と底面部材との接合を維持し,水平基部の変形を防ぐため,補強板を
設けざるを得ないのであって,補強板が,目違い修正用治具の機能を実現するため
の基本的構成ということはない。加えて,補強板は,全体の面積の半分程度を占め,
底面から見た場合,補強板の突出は違和感を覚えるほどであるから,その存在及び
形状は,需要者の注意を惹く。
イ 原告は,上記アの①,②が需要者の注意を惹きやすい部分であることを前提
として,被告意匠と本件登録意匠が需要者に与える印象は同一である,取付基部の
形状,調整用ボルトの形状の差異は,設計上のわずかな差であり,需要者に与える
印象が大きく異なるとはいえない旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
上記アのとおり,①,②の点は,本件登録意匠の特徴的部分ではない。
また,取付基部は,本件登録意匠が角張った印象が強いのに対し,被告意匠は背
面部の角部に大きなアールが取り付けられ,上部部材の正面側の上部に傾斜面が付
けられ,その傾斜面の先端もアールに面取りされていることから,上面から背面,
底面にかけて一連の流れるような曲面をなし,全体としても丸みを帯びた柔らかな
印象を与える。底面部材の上下幅は,本件登録意匠では取付基部全体の高さの約5
分の1と狭いのに対し,被告意匠では取付基部全体の高さの約3分の1である。さ
らに,取付基部の全体形状が,本件登録意匠では縦長でありバランスを欠いた脆弱
な印象を与えるのに対し,被告意匠では縦横がほぼ等しいこともあってバランスが
取れ,コンパクトで強度の高い印象を与える。
調整用ボルトは,本件登録意匠が特徴のないありふれたボルトという印象を与え
るのに対し,被告意匠は頭部が締付ハンドル貫設用の孔が空けられた正六角柱状の
形状を呈し,先端部に締め付けパッドが設けられるなど,新鮮かつ高級感のある独
特の印象を与える。
したがって,取付基部と調整用ボルトの形状の差異は,設計上のわずかな差とは
いえない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,原告の請求には理由がなく,本件控訴を棄却すべきものと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 争点1(本件登録意匠と被告意匠の類否)について
原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「1 争点1(本件
登録意匠と被告意匠の類否)について」(原判決21頁19行目ないし29頁25
行目)を引用する。
2 当審における当事者の追加的主張について
(1) 原告は,需要者の注意を惹きやすい部分は,①基本的構成態様のうち,底面
部材と垂直部材とからなる取付基部,底面部材の上面に配置され両側に伸びる水平
基部,水平基部の両端部近傍に設けられた調整用ボルトを有する点,②具体的構成
態様のうち,取付基部がコの字状を呈する点であるのに対して,把持部材の形状,
補強板の有無及び形状は,需要者の注意を惹きやすい部分とはいえない旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
原判決22頁26行目ないし24頁15行目記載のとおり,底面部材と垂直部材
と上部部材とからなる取付基部,底面部材の前面に配置され両側に伸びる水平基部,
水平基部の両端部近傍に設けられた調整用ボルトを有し,取付基部がコの字状を呈
する目違い修正用治具の意匠は,本件登録意匠の登録出願前に公知であったことが
認められる。
また,原判決22頁1ないし25行目記載のとおり,目違い修正用治具は,建設
現場や造船所等で使用され,需要者は,そのような場所で作業を行う業者であり,
目違い修正用治具の使用方法及び需要者層からすれば,目違い修正用治具は,その
実用的な観点から,使用時における取り扱いやすさ(持ちやすさ,目違い修正の対
象となる突合部への目違い修正用治具の開口部の設定のしやすさ,調整用ボルトの
締めやすさなど),耐久性に着目して選択されると考えられるから,目違い修正用
治具の把持部材の形状,開口部を有する取付基部の形状,調整用ボルトの形状,補
強板の形状(補強板の有無を含む。)における特徴は,需要者の注意を惹きやすい
部分であると認められる。
以上の事情によれば,目違い修正用治具では,上記①,②の点が需要者の注意を
惹きやすい部分であり,把持部材の形状,補強板の有無及び形状は,需要者の注意
を惹きやすい部分ではないとする原告の主張は,採用の限りでない。
この点,原告は,把持部材は,目違い修正用治具を安全に持ち運びできるように
取り付けられているものにすぎず,需要者がその形状に関心を払うとはいえない,
補強板は,目違い修正用治具の耐久性を高める観点から取り付けられるのであり,
目違い修正用治具としての機能を実現するための手段にすぎないから,その有無,
形状が需要者の注意を惹くとはいえない旨主張する。しかし,原告の主張は採用で
きない。上記認定のとおり,目違い修正用治具の需要者は,持ち運びの容易性,安
全性や耐久性等を考慮して,製品を選択するものと考えられ,そのような機能性に
関連する形状等も美感を判断する要素であると解されるから,目違い修正用治具の
把持部材の形状,補強板の有無,形状も,需要者の注意を惹きやすい部分というべ
きである。
(2) 原告は,上記(1) の①,②が需要者の注意を惹きやすい部分であることを前
提として,被告意匠と本件登録意匠が需要者に与える印象は同一である,取付基部
の形状,調整用ボルトの形状の差異は,設計上のわずかな差であり,需要者に与え
る印象が大きく異なるとはいえない旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
上記(1) 認定のとおり,上記(1) の①,②は需要者の注意を惹きやすい部分とは
いえないから,原告の主張は前提を欠く。また,被告意匠と本件登録意匠における
取付基部の形状,調整用ボルトの形状は,原判決25頁14ないし22行目(②),
26頁5ないし13行目(④)記載のとおりであり,その形状の差異は,需要者に
異なる美感を与えるというべきであって,設計上のわずかな差であるとは評価でき
ない。
3 小括
以上のとおり,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由が
なく,原判決の判断は正当である。原告は,他にも縷々主張するが,いずれも採用
の限りでない。
第4 結論
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
池 下 朗
裁判官
武 宮 英 子
別紙イ号物件目録
製品:「目違い調整治具」
【正面図】
【平面図】
【右側面図】
【背面図】
【底面図】
【参考斜視図】
最新の判決一覧に戻る