平成23(行ケ)10345審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成24年5月31日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告ニッタ・ハース株式会社
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対象物 |
半導体研磨用組成物 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
刊行物54回 実施38回 審決20回 拒絶査定不服審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「半導体研磨用組成物」とする発明について,平成16年
3月29日に特許出願したが(以下,「本願」といい,同出願に係る明細書を「本願
明細書」という。)(甲1),平成22年11月4日付けで拒絶査定がされ,平成23
年2月8日,拒絶査定不服審判(不服2011-2862号事件)を請求した。 |
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判決文
平成24年5月31日判決言渡
平成23年(行ケ)第10345号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年4月24日
判 決
原 告 ニッタ・ハース株式会社
訴訟代理人弁理士 上 羽 秀 敏
同 松 山 隆 夫
同 坂 根 剛
同 川 上 桂 子
同 竹 添 忠
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 千 葉 成 就
同 長 屋 陽 二 郎
同 瀬 良 聡 機
同 田 村 正 明
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2011-2862号事件について平成23年9月13日にした審
決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「半導体研磨用組成物」とする発明について,平成16年
3月29日に特許出願したが(以下,
「本願」といい,同出願に係る明細書を「本願
明細書」という。(甲1)
) ,平成22年11月4日付けで拒絶査定がされ,平成23
年2月8日,拒絶査定不服審判(不服2011-2862号事件)を請求した。
特許庁は,同年9月13日,
「本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし,
」
その謄本は同月27日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
本願に係る特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである(以下,請求項1
に係る発明を「本願発明」という。。
)
「ヒュームドシリカの水分散液であって,粒径0.5μm以上のヒュームドシリ
カ粒子の粒子数が60万個/ml以下であり,かつ粒径1μm以上のヒュームドシ
リカ粒子の粒子数が6000個/ml以下であることを特徴とする半導体研磨用組
成物。」
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は次のとおりで
ある。
(1) 本願発明は,本願前に頒布された刊行物である特開2001-277106
号公報(甲2。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」と
いう。)及び特開2001-271058号公報(甲3。以下「刊行物2」という。)
記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許
法29条2項の規定により特許をすることができない。
(2) 審決が上記判断に至る過程で認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明
の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明の内容
「ヒュームドシリカの水分散液であって,砥粒分散液50μl中に含まれる0.
5μm以上の凝集粒子数が9100個又は1万1300個である半導体研磨用組成
物。」
イ 一致点
「ヒュームドシリカの水分散液であって,粒径0.5μm以上のヒュームドシリ
カ粒子の粒子数が62万個/ml未満である半導体研磨用組成物」である点。
ウ 相違点
(ア) 相違点1
粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数の上限について,本願発明
では,「60万個/ml」であるが,引用発明では,「22万6千個/mlを超え6
2万個/ml未満」である点。
(イ) 相違点2
粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数について,本願発明では「6
000個/ml以下」であるのに対して,引用発明では具体的範囲が明らかでない
点。
第3 当事者の主張
1 取消事由に関する原告の主張
審決には,相違点1の認定の誤り(取消事由1),相違点1及び2に係る容易想到
性の判断の誤り(取消事由2)があり,その結論に影響を及ぼすから,審決は違法
であるとして取り消されるべきである。
(1) 相違点1の認定の誤り(取消事由1)
審決では,引用発明における粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子
数の上限は「22万6千個/mlを超え62万個/ml未満」であると認定した上
で,本願発明と引用発明の相違点は,
「粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子
の粒子数の上限について,本願発明では,
『60万個/ml』であるが,引用発明で
は,『22万6千個/mlを超え62万個/ml未満』である点。」であると認定し
ている(相違点1)。しかし,以下のとおり,この認定には誤りがある。
刊行物1において,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が記載
されているのは,実施例1,2及び4であり,上記実施例における粒径0.5μm
以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数は,実施例1において9100個/50μl
(=18万2000個/ml) 実施例2において1万1300個/50μl
, (=2
2万6000個/ml) 実施例4において1万4000個/50μl
, (=28万個
/ml)である。そして,刊行物1には,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ
粒子の粒子数が28万個/mlを超える実施例は,記載されていない。また,上記
実施例のうち,スクラッチの低減に効果があると記載されているのは,粒径0.5
μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が28万個/mlのものだけである。
したがって,引用発明における粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒
子数の上限は,「28万個/ml」である。
(2) 相違点1及び2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
ア 相違点2に関し,課題解決のために複数の手段を重畳的に採用することの困
難性についての判断の誤り(取消事由2の1)
(ア) 引用発明は,高圧ホモジナイザーによってヒュームドシリカを分散させるこ
とを特徴とし(刊行物1の請求項1参照),刊行物1の実施例1,4では,高圧ホモ
ジナイザーによってヒュームドシリカを分散させるときの圧力は70MPaである。
刊行物2記載の発明も,高圧ホモジナイザーによってヒュームドシリカを分散させ
ることを特徴とし(刊行物2の請求項1参照),刊行物2のスラリー4では,高圧ホ
モジナイザーによってヒュームドシリカを分散させるときの圧力は1500kg/
cm2(約150MPa)である。
前記のとおり,刊行物1の実施例1における粒径0.5μm以上のヒュームドシ
リカ粒子の粒子数は18万2000個/mlであり,実施例4における上記粒子数
は28万個/mlである。一方,刊行物2のスラリー4における粒径1.0μm以
上のヒュームドシリカ粒子の粒子数は,約2万個/0.5ml(=約4万個/ml)
である。
(イ) 刊行物1記載の方法によって製造された砥粒分散液と刊行物2記載の方法
によって製造されたスラリーとを混合した場合,粒径0.5μm以上のヒュームド
シリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子が新たに凝集するため,
混合後の砥粒分散液における粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径
1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数は,それぞれ,混合前の砥粒分
散液における粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上
のヒュームドシリカ粒子の各粒子数とは異なる。
(ウ) また,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子と粒径1.0μm以上の
ヒュームドシリカ粒子の各粒子数とが所望の粒子数になるように高圧ホモジナイザ
ーによってヒュームドシリカを分散させる場合,高圧ホモジナイザーによってヒュ
ームドシリカを分散させるときの圧力は,刊行物1と刊行物2に記載されている7
0MPa又は150MPaとすることとなる。そして,上記圧力を70MPaとし
た場合,この圧力は刊行物2に記載されている150MPaよりも低く,圧力が低
くなれば凝集粒子数が増加するため,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子
の粒子数は約4万個/mlよりも多くなる。一方,上記圧力を150MPaとした
場合,この圧力は刊行物1に記載されている70MPaよりも高く,圧力が高くな
れば凝集粒子数が減少するため,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒
子数は18万2000個/ml又は28万個/mlよりも少なくなる。
(エ) このように,刊行物2に記載された事項を引用発明に適用するだけでは,本
願発明におけるように,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が6
0万個/ml以下であり,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が
6000個/ml以下である半導体研磨用組成物を得ることはできない。したがっ
て,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュー
ムドシリカ粒子の各粒子数を本願発明のように制限するには,格別の創意が必要で
あり,これを容易想到であると判断した審決には誤りがある。
イ 相違点1及び2の臨界的意義についての判断の誤り(取消事由2の2)
本願発明において,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を60
万個/ml以下としたことに臨界的意義,顕著な効果はなく,粒径1.0μm以上
のヒュームドシリカ粒子の粒子数を6000個/ml以下に限定したことに臨界的
効果はないとした審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア) 別紙図1は,本願明細書の表1に示す粒径0.5μm以上のヒュームドシリ
カ粒子の粒子数と径0.2μm以上の研磨傷数との関係を示すグラフであり,直線
k1は,本願明細書の実施例1,2における上記の関係を,直線k2は,本願明細
書の比較例1における上記の関係を示している。
別紙図2は,本願明細書の表1に示す粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒
子の粒子数と径0.2μm以上の研磨傷数との関係を示すグラフであり,直線k3
は,本願明細書の実施例1,2における上記の関係を,直線k4は,本願明細書の
比較例1における上記の関係を示している。
なお,別紙図3は別紙図1のグラフに,別紙図4は別紙図2のグラフに,いずれ
も“*”によって示される実験結果を追加したものであり,
“*”によって示される
実験結果は,比較例1に関する実験結果である。別紙図3及び別紙図4が示すよう
に,“*”によって示される実験結果は,直線k2上及び直線k4上に位置する。
別紙図1及び別紙図3に示されるように,粒径0.5μm以上のヒュームドシリ
カ粒子の粒子数が82万4688個/mlから減少した場合,69万9574個/
mlと54万8652個/mlとの間,すなわち60万個/ml辺りに,研磨傷数
が大幅に減少する変曲点が存在する。つまり,直線k1によって得られる研磨傷数
は,当業者が予測可能な研磨傷数の範囲を超えて大幅に減少しており,顕著な効果
が得られる。したがって,本願発明において,粒径0.5μm以上のヒュームドシ
リカ粒子の粒子数を60万個/ml以下と特定したことに臨界的意義が存在する。
また,別紙図2及び別紙図4に示されるように,粒径1.0μm以上のヒューム
ドシリカ粒子の粒子数が8710個/mlから減少した場合,7000個/mlと
5548個/mlとの間,すなわち6000個/ml辺りに,研磨傷数が大幅に減
少する変曲点が存在する。つまり,直線k3によって得られる研磨傷数は,当業者
が予測可能な研磨傷数の範囲を超えて大幅に減少しており,顕著な効果が得られる。
したがって,本願発明において,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒
子数を6000個/ml以下と特定したことに臨界的意義が存在する。
(イ) 別紙図5は,粒子数に対する研磨傷数の増加割合と,粒径0.5μm以上の
ヒュームドシリカ粒子の粒子数との関係を示すグラフであり,別紙図6は,別紙図
5に示す点線で囲った領域の拡大図である。また,別紙図7は,粒子数に対する研
磨傷数の増加割合と,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数との関
係を示すグラフであり,別紙図8は,別紙図7に示す点線で囲った領域の拡大図で
ある。別紙表Aは,別紙図5及び別紙図6のグラフの基となったデータであり,別
紙表Bは,別紙図7及び別紙図8のグラフの基となったデータである。
別紙図5及び別紙図6によると,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子
の粒子数と研磨傷数との相関関係を検討すると,粒子数が82万4688個/m
lと91万1642個/mlとの間及び54万8652個/mlと69万9574
個/mlとの間に,変曲点が存在する。
また,別紙図7及び別紙図8によると,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ
粒子の粒子数と研磨傷数との相関関係を検討すると,粒子数が8710個/mlと
1万1638個/mlとの間及び5548個/mlと7000個/mlとの間に,
変曲点が存在する。
本願発明は,研磨傷数を著しく少なくできるという理由から,粒径0.5μ
m以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数については,54万8652個/ml
と69万9574個/mlとの間に存在する変曲点に注目し,また,粒径1.
0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数については,5548個/mlと
7000個/mlとの間に存在する変曲点に注目してなされたものである。以
上のとおり,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を60万個
/ml以下と特定したこと,及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子
の粒子数を6000個/ml以下と特定したことに,臨界的意義が存在する。
(ウ) 本願明細書の段落【0026】
【0027】
【0079】の記載によれば,本
願発明は,粒子数と研磨傷数との相関関係に着目した発明であるといえる。また,
本願明細書の表1には粒子数及び研磨傷数に関するデータが記載されているので,
当業者は,表1を参酌すれば,技術的意義を理解するために,通常,粒子数と研磨
傷数との相関関係に着目する。
2 被告の反論
(1) 相違点1の認定の誤り(取消事由1)に対して
刊行物1において,砥粒がヒュームドシリカ,pHが11である実施例1及び2
における粒径0.5μm以上の粒子の数は「18万2000個/ml,22万60
00個/ml」であり,実施例1及び2と,砥粒,pHが同じである比較例1にお
ける粒径0.5μm以上の粒子の数は「62万個/ml」である。
そうすると,刊行物1の記載及び当業者の技術常識から,粒子数の望ましい範囲
の限界が,実施例2(22万6000個/ml)と比較例1(62万個/ml)と
の間であることは明らかであり,引用発明における粒径0.5μm以上のヒューム
ドシリカ粒子の粒子数の上限は,22万6000個/mlを超え62万個/ml未
「
満」にあるといえる。したがって,審決の相違点1の認定に誤りはない。
なお,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数は,引用発明におい
ては「18万2000個/ml」「22万6000個/ml」であり,本願発明で
,
は「60万個/ml以下」であるから,両者は「18万2000個/ml」「22
,
万6000個/ml」である点で一致し,
「60万個/ml以下」である点で,実質
的に相違しないといえる。
(2) 相違点1及び2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対して
ア 相違点2に関し,課題解決のために複数の手段を重畳的に採用することの困
難性についての判断の誤り(取消事由2の1)に対して
(ア) 本願発明が相違点2に係る構成を有することの技術的意義は,粒径1.0μ
m以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を6000個/ml 以下とすることで半導
体デバイス表面における研磨傷の発生を抑制する点にあるところ,このような技術
思想については,刊行物2に開示がある。そうすると,引用発明において,半導体
デバイス表面における研磨傷の発生を抑制しようとするに当たり,刊行物2に接し
た当業者が,1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子に着目してその粒子数を適切
な範囲に抑える(その粒子数の上限値を適宜設定する)ことに,格別の困難性はな
い。
(イ) 原告は,刊行物1記載の砥粒分散液(スラリー)に刊行物2記載の砥粒分散
液を単に適用しただけでは,本願発明の条件を満たす砥粒分散液を製造することは
できず,ヒュームドシリカの粒子径・粒子数を本願発明のように制限するには,格
別の創意が必要であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
本願発明はヒュームドシリカの粒子径・粒子数を特定した半導体研磨用組成物に
関する発明であって,そのような条件の組成物を製造する方法に関する発明ではな
い。また,本願明細書には,本願発明における半導体研磨用組成物を得る方法とし
て,粒子捕集フィルターを用いた分級と所定の濃度への希釈というありふれた方法
が示されているだけで,格別の創意を有する製造方法は示されていない。
そして,引用発明も刊行物2記載の技術事項も,スクラッチの発生の低減・防止
を目的とするものであり,引用発明は粒径0.5μm以上の,刊行物2記載の技術
事項は粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数に着目したものである
ところ,同一の課題を解決するに当たり,複数の解決手段に接した当業者が,より
良い課題解決のために,これら複数の解決手段を重畳的に用いることを試みること
は,本願時において普通に行われている。
なお,本願明細書には,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.
0μm以上のヒュームドシリカ粒子が共に数値範囲を満足することにより,相乗的
効果が生じる旨の記載はない。
したがって,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数の制限と粒径
1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数の制限を重畳的に採用することに,
格別の困難性はない。
イ 相違点1及び2の臨界的意義についての判断の誤り(取消事由2の2)に対
して
本願明細書には,本願発明の効果に関して,研磨傷の絶対的個数についての記載
があるにとどまり,原告主張のように,粒子数と研磨傷数との相関関係に着目した
と解される記載はない。
本願明細書は,大径の粒子が多いほど研磨傷数も多くなるという当業者にとって
常識的なデータを開示しているにすぎず,本願発明の臨界的意義や格別な効果があ
ることを示していない。
また,原告主張のように,粒子数と研磨傷数との相関関係に着目したとしても,
別紙図1ないし別紙図4は,本願明細書の実施例1及び2並びに比較例1のみを採
用して描かれたものであり,比較例2及び4を無視している。本願明細書の表1に
おけるヒュームドシリカ粒子の粒子数と研磨傷数との関係を,比較例2及び4のデ
ータを含めてグラフ化すると,別紙図A,別紙図Bのとおりであり,粒子数と研磨
傷数の間に,大径の粒子が多いほど研磨傷数も多くなるという常識的なデータが認
められるにすぎず,粒子数60万個又は6000個辺りに段差又は変曲点は存在し
ない。
したがって,本願発明においてヒュームドシリカ粒子の粒子数を特定したことに
は,臨界的意義はない。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は,審決の相違点1の認定内容に誤りはあるものの,同認定の誤りは審
決の結論に影響を与えるものではないから,原告の取消請求は理由がないと判断す
る。その理由は,以下のとおりである。
1 相違点1の認定の誤り(取消事由1)について
(1) 事実認定(刊行物1の記載)
審決が認定した引用発明の内容は,第2の3(2)ア記載のとおりである。
刊行物1(発明の名称を「研磨方法及び研磨装置」とする特許発明の公開特許公
報)には,以下の記載がある(甲2)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】砥粒分散液を研磨装置に供給しながら被研磨面を研磨する方法にお
いて,上記砥粒分散液を高圧ホモジナイザー及び/又は超音波ホモジナイザーによ
り分散処理した後,直ちに研磨装置に供給することを特徴とする研磨方法。
【請求項2】砥粒がヒュームドシリカである請求項1記載の研磨方法。」
「【0002】
【従来の技術】シリコンに代表される半導体ウェハの研磨やIC製造工程中での
絶縁膜や金属膜の研磨,或いはガラス基板や各種セラミックスの研磨には,研磨剤
として砥粒分散液が一般に使用されている。」
「【0004】このような砥粒分散液は,輸送中や保管中などにおいて,分散して
含まれる砥粒が液中で経時的に凝集して凝集粒子が生成したり,砥粒分散液の容器
や配管の壁面での乾燥により砥粒が凝集粒子となって混入する現象が起こり易く,
研磨時の被研磨面におけるスクラッチ(研磨傷)の発生原因の一つとなっていた。」
「【0011】
【発明が解決しようとする課題】従って,本発明の目的は,上記の種々の原因に
より生成した砥粒分散液中の凝集粒子を,該凝集粒子の量等を問わず確実に除去し,
これを使用して得られる研磨面におけるスクラッチの発生を効果的に防止できる研
磨方法を提供することにある。」
「【0017】上記溶媒としては,水が一般的である。」
「【0055】
【発明の効果】以上の説明により理解されるように,砥粒分散液を研磨装置に供
給しながら被研磨面を研磨する本発明の研磨方法において,該砥粒分散液を高圧ホ
モジナイザー及び/又は超音波ホモジナイザーによって分散処理し,直ちに該研磨
装置に供給する,本発明の研磨方法によれば,砥粒分散液中に存在する砥粒の凝集
粒子の量を確実に低減させることができるので,研磨の安定性が高く,スクラッチ
の発生を極めて効果的に抑えることが可能である。」
「【0057】
【実施例】以下,本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが,本発明はこれら
の実施例に何ら制限されるものではない。」
「【0060】2.粗粒子濃度
・・・凝集粒子濃度は,シリカ濃度1.5重量%に純水で希釈した砥粒分散液50
μl中に含まれる0.5μm以上の凝集粒子の個数と定義した。」
「【0068】実施例1
比表面積が90m2/gのヒュームドシリカを固形分濃度が13重量%になるよ
うに純水と混合すると共に,pHが11になるようにアンモニア水を加えて分散処
理することによって砥粒分散液を調製した。
【0069】上記の砥粒分散液を数週間貯蔵後,その一部を高圧ホモジナイザ
ー・・・を用いて分散処理し,そのまま研磨試験に供した。」
「【0072】比較例1
実施例1において,分散機による砥粒分散液の分散処理を,タービンステーター
型のホモジナイザー・・・による約20分間の処理に代えた以外は同様にして研磨
試験を行った。」
「【0075】実施例2
実施例1において,高圧ホモジナイザーによる分散処理に代えて,超音波ホモジ
ナイザー・・・による分散処理を施し,分散処理後そのまま研磨試験に供した。」
段落【0078】の【表1】の「凝集粒子数(個)」の欄の記載
実施例1: 9,100
比較例1:31,000
実施例2:11,300
「【0094】実施例4
比表面積が200m2/gのヒュームドシリカを7重量%,シュウ酸アンモニウ
ムを0.7重量%含む砥粒分散液を,アンモニア水を用いてpHを7に調整した。
上記の砥粒分散液を実施例1と同様の高圧ホモジナイザーを用いて,同条件で分散
処理し,金属用砥粒分散液を調整した。」
段落【0104】の【表4】の「凝集粒子数(個)」欄の記載
実施例4:14,000
「【0105】上記表4の結果について,研磨後の銅板の表面を光学顕微鏡で観察
したところ,砥粒分散液が製造直後のもの(参考例)や高圧ホモジナイザーで処理
した直後のもの(実施例4)はスクラッチの発生は認められなかった。」
(2) 相違点1の認定
上記記載によれば,刊行物1には,ヒュームドシリカの水分散液である半導体研
磨用組成物のうち,砥粒分散液50μl中に含まれる0.5μm以上の凝集粒子数
が,それぞれ,実施例1では9100個(=18万2000個/ml),実施例2で
は1万1300個(=22万6000個/ml) 及び実施例4では1万4000個
,
(=28万個/ml)である半導体研磨用組成物が開示されている。そうすると,
本願発明と引用発明とは,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数に
ついて,本願発明では「60万個/ml以下」であるのに対して,引用発明では,
「18万2000個/ml,22万6000個/ml又は28万個/ml」である
点において相違すると認定されるべきである。
なお,刊行物1における比較例1として,「砥粒分散液50μl中に含まれる0.
5μm以上の凝集粒子数が3万1000個(=62万個/ml)である半導体研磨
用組成物」が記載されているが,刊行物1中の上記比較例の記載から直ちに,刊行
物1において,0.5μm以上の凝集粒子数の「上限」が「62万個/ml未満」
であるとの技術が開示されていると認定することはできない。
(3) 小括
以上のとおり,本願発明と引用発明との間の,粒径0.5μm以上のヒュームド
シリカ粒子の粒子数に関する相違点は,
「本願発明では『60万個/ml以下』であ
るのに対して,引用発明では,
『18万2000個/ml,22万6000個/ml
又は28万個/ml』である点。 と認定されるべきであり,
」 審決が,これを超えて,
「粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数の上限について,本願発明
では,『60万個/ml』であるが,引用発明では,『22万6千個/mlを超え6
2万個/ml未満』である点。」と認定したことには,その限りにおいて,誤りがあ
る。
2 相違点1及び2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について
そこで,以下,本願発明と引用発明との間の,粒径0.5μm以上のヒュームド
シリカ粒子の粒子数に関する相違点1が,当裁判所の認定した限度であることを前
提として,相違点1及び2に係る構成に関する容易想到性の有無について判断する。
(1) 事実認定
ア 本願明細書の記載
本願明細書には,以下の記載がある(甲1)。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】本発明は,半導体研磨用組成物に関する。」
「【0004】研磨用組成物は,研磨剤を分散させた水性スラリーであり,ウエハ
の被研磨面に形成される膜の材質などに応じて,種々の研磨剤の中から適当なもの
が選択される。その中でも,コロイダルシリカ,ヒュームドシリカなどのシリカ系
研磨剤が汎用される・・・。」
「【0006】・・・ヒュームドシリカは,水中での分散性が不充分である。した
がって,ヒュームドシリカの水分散液である研磨用組成物は,CMP工程に供給す
る際の配管負荷(配管内壁への衝突など),供給ポンプの負荷(供給ポンプによる圧
力負荷など),加圧ヘッドの負荷(加圧ヘッドによる圧力負荷など),輸送時の環境
条件などの外的負荷によって,ヒュームドシリカの凝集が起こり易い。さらに,長
期保存時にもヒュームドシリカが凝集し易い。凝集により大粒化したヒュームドシ
リカは,ウエハに研磨傷を多数発生させる。このような研磨傷は,ウエハの電気接
続的な信頼性を損なうものであり,特にウエハ一枚当たりの径0.2μm以上の研
磨傷数が100個を超える場合,そのウエハは不良品になり,研磨工程における歩
留まりが低下する。」
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】本発明の目的は,ヒュームドシリカの水分散液であって,ウエハな
どの半導体デバイスを,研磨傷を発生させることなく,高い研磨速度で効率良く研
磨することができる半導体研磨用組成物を提供することである。」
「【発明の効果】
【0020】本発明によれば,ヒュームドシリカの水分散液であって,粒径0.
5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が60万個/ml以下であり,かつ粒
径1μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が6000個/ml以下である,半
導体研磨用組成物(以後特に断らない限り単に「研磨用組成物」と称す)が提供さ
れる。
【0021】本発明の研磨用組成物は,外的負荷および/または長期保存による
ヒュームドシリカの凝集が極めて少ない。したがって,該研磨用組成物を用いて半
導体デバイスを研磨すると,半導体デバイスに研磨傷をほとんど発生させることが
なく,半導体デバイスの研磨後の電気接続的な信頼性を一層向上させることができ
る。しかも,高い研磨速度で,効率良く,半導体デバイスの研磨(平坦化)を行う
ことができる。よって,研磨後の半導体デバイスの歩留りを向上させ,生産効率を
高めることができる。」
「【0027】粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が60万個/
mlを超えるか,または,粒径1μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が60
00個/mlを超えると,半導体デバイス表面に多数の研磨傷を発生させる原因に
なる。」
「【0077】
【表1】
(判決注:粒子数は1ml当たりの粒子数に換算したものであり,研磨傷数は,半
導体ウエハ1枚当たりの研磨傷数である。」
)
「【0079】表1から,実施例1~2の研磨用組成物は,径0.2μm以上の大
きさの研磨傷は50個に満たないのに対し,比較例1~4のものは100個を大幅
に超える研磨傷が発生するのが明らかである。ウエハの電気接続的な信頼性の確保
を目的とし,径0.2μm以上の研磨傷が100個未満であることが求められてい
るので,実施例1~2の組成物を用いれば,従来に比べ,研磨傷の発生数を著しく
少なくでき,顕著に優れた平坦化性能を有する,優れた研磨用組成物であることが
明らかである。」
イ 刊行物2の記載
刊行物2は,発明の名称を「研磨スラリーの製造方法」とする特許発明の公開特
許公報である。刊行物2には,以下の記載がある。(甲3)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】砥粒が水系媒体中に分散された砥粒の水性分散体を,高圧ホモジナ
イザーで分散処理する工程と,得られた砥粒の水性分散体に増粘剤を添加混合する
工程と,を包含する研磨スラリーの製造方法。」
「【請求項6】シリカ粒子が水系媒体中に分散されたシリカの水性分散体であって,
0.5mlの水性分散体中における,1μm以上の粒径を有するシリカ粒子が0~
100,000個であり,2μm以上の粒径を有するシリカ粒子が0~3,000
個であり,3μm以上の粒径を有するシリカ粒子が0~1,000個であり,5μm
以上の粒径を有するシリカ粒子が0~500個であり,10μm以上の粒径を有す
るシリカ粒子が0~100個であり,増粘剤を0.001~1重量%含有する研磨
スラリー。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体,電子部品の製造工程で使用する研
磨スラリーの製造方法に関するものである。」
「【0004】従来,半導体ウエハの研磨スラリーには,不純物がきわめて少ない
高純度な原料として,例えば,ヒュームド法のような気相法で合成したシリカ粒子
が用いられている。しかし,ヒュームド法によるシリカ粒子は,二次凝集が激しく,
ヒュームド法シリカの研磨スラリーを製造する場合,水中で凝集体を破壊,解砕す
る必要がある。凝集体の破壊が不十分であると,保管中に研磨スラリーが増粘した
り,研磨後にウエハ表面上にスクラッチ等を生じる等の欠点がある。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこれらの課題を解決するためになされ
たもので,CMP研磨後,ウエハ表面のスクラッチを低減できる研磨スラリーと研
磨スラリーの製造方法を提供する事を目的としている。」
「【0017】また,本発明で好ましく使用されるシリカ粒子は,通常,乾式法,
湿式法,ゾル-ゲル法等で製造されたシリカ粒子があげられ,中でも乾式法の中の
一つであるヒュームド法シリカの粒子が高純度である点で好ましい。分散に供する
シリカ粒子は一般に粉体であり,小さな粒子(一次粒子)の凝集体(二次粒子)と
して存在している。この一次粒子の平均粒子径は通常0.005~1μmである。」
「【0041】上記範囲を外れる場合には,ウエハ表面へのスクラッチが大きくな
る傾向にある。」
「【0062】・・・この結果から,新規分散方法により作成したスラリーにおい
て,かなりの欠陥の減少が見られた。このことは,上記の粒子個数の結果からも裏
付けされる。本発明の方法による粗大粒子の減少が,欠陥の減少をもたらしたと考
える。また,増粘剤に関しても,添加量が増えるにして欠陥が減少している。」
「【0064】
【発明の効果】本発明によれば,擬集粗大粒が原因で起こすスクラッチの発生が
ない研磨スラリーを提供することができる。得られた研磨スラリーは,例えば半導
体ウエハ表面の研磨用に使用することができる。」
(2) 相違点2に関し,課題解決のために複数の手段を重畳的に採用することの困
難性についての判断の誤り(取消事由2の1)について
ア 引用発明に刊行物2に開示された発明を組み合わせて,本願発明の相違点2
に係る構成に至ることは,当業者が容易になし得ることであると解する。その理由
は,以下のとおりである。
本願明細書の記載によると,本願発明は,ヒュームドシリカの水分散液である半
導体研磨用組成物において,凝集により大粒化したヒュームドシリカ粒子により半
導体デバイスに研磨傷が発生するのを防止するという課題を解決するため,粒径0.
5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を60万個/ml以下とし,かつ粒径
1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を6000個/ml以下とする発
明である。
前記の刊行物1の記載によると,引用発明における解決課題は,ヒュームドシリ
カの水分散液である半導体研磨用組成物において,水分散液中の凝集粒子を除去し
て,研磨面におけるスクラッチの発生を防止することであり,その課題解決方法と
して,砥粒分散液を高圧ホモジナイザー及び/又は超音波ホモジナイザーにより分
散処理した後,直ちに研磨装置に供給することにより,砥粒分散液中に含まれる0.
5μm以上の凝集粒子数を18万2000個/ml,22万6000個/ml又は
28万個/mlとする発明である。
また,刊行物2には,ヒュームドシリカの水性分散体である半導体研磨用組成物
において,凝集粗大粒子が原因であるスクラッチの発生を低減させるとの課題を解
決するために,ヒュームドシリカの水性分散体における1.0μm以上の粒径を有
するヒュームドシリカに着目して,ヒュームドシリカの水性分散体を高圧ホモジナ
イザーで分散処理等することにより,0.5mlの水性分散体中における,1.0
μm以上の粒径を有するヒュームドシリカ粒子を10万個以下とする発明が開示さ
れている。
上記のとおり,引用発明及び刊行物2に記載された発明は,本願発明と同様に,
半導体研磨用のヒュームドシリカの水分散液において,凝集粒子が原因で発生する
スクラッチを低減させることを解決課題としたものであり,解決課題において共通
する。引用発明に接した当業者が,引用発明における,ヒュームドシリカの水分散
液中の0.5μm以上の粒径を有するヒュームドシリカの凝集粒子を適宜選択した
範囲の個数とし,かつ,スクラッチの発生をより確実に防止するために,刊行物2
に開示された発明を組み合わせ,ヒュームドシリカの水分散液中の1.0μm以上
の粒径を有するヒュームドシリカに着目して,その凝集粒子数を適宜選択した範囲
の個数とすることに,困難な点はない。
イ 原告の主張に対して
原告は,①刊行物1記載の方法によって製造された砥粒分散液と刊行物2記載の
方法によって製造されたスラリーとを混合した場合,粒径0.5μm以上のヒュー
ムドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子が新たに凝集し,
混合前の粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒ
ュームドシリカ粒子とは粒子数が異なってしまうこと,②刊行物1と刊行物2とで
は,ヒュームドシリカを分散させるときの高圧ホモジナイザーの圧力が異なるため,
どちらの圧力で分散させるとしても,刊行物1又は刊行物2に記載された実施例と
はヒュームドシリカ粒子数が異なってしまうことから,刊行物2に記載された事項
を引用発明に適用するだけでは,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び
粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数を本願発明の範囲内とする
ことは容易ではないと主張する。
しかし,本願発明は,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.
0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数を一定の範囲内とする半導体研磨用
組成物についての製造方法の発明ではなく,物の発明である。粒子数を一定の範囲
内とする方法は,上記①(混合)や②(高圧ホモジナイザーによる分散)に限られ
ず,分級や加水による希釈などの周知技術も採用し得るのであり(乙1ないし4),
これらの手段を適用することによって,粒子数を一定の範囲内とすることは可能で
あるから,半導体研磨用組成物の製造方法が容易でないことを理由に,本願発明が
容易でないとする原告の主張は,主張自体失当である。
(3) 相違点1及び2の臨界的意義についての判断の誤り(取消事由2の2)につ
いて
ア 相違点1について
前記のとおり,引用発明では,ヒュームドシリカの水散液中の0.5μm以上の
凝集粒子数が,18万2000個/ml,22万6000個/ml,又は28万個
/mlである実施例の開示がされ,これらはいずれも本願発明における粒径0.5
μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数である「60万個/ml以下」に該当す
る。さらに,本願明細書の記載からは,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒
子の粒子数として「60万個/ml以下」の数値を採用したことに格別な技術的意
義があるとは認められない。したがって,引用発明に接した当業者が,本願発明の
相違点1に係る構成を採用することは容易であると認められる。
イ 相違点2について
本願明細書,刊行物1及び刊行物2の前記各記載によると,ヒュームドシリカの
水分散液である半導体研磨用組成物において,ヒュームドシリカの凝集粒子が少な
いほど,研磨面におけるスクラッチを低減させることができるということは,本願
時において,当業者の技術常識であったと認められる。さらに,本願明細書からは,
粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数として「6000個/ml以
下」の数値を採用したことに格別な技術的意義があるとは認められない。
したがって,刊行物1及び刊行物2に接した当業者が,引用発明に刊行物2に開
示された発明を組み合わせた上で,1.0μm以上の粒径を有するヒュームドシリ
カ粒子の粒子数を,刊行物2では,0.5mlの水性分散体中に10万個以下とな
っているところ,スクラッチの発生をより低減させるため,さらにその粒子数を減
少させて,本願発明の相違点2に係る構成である6000個/ml以下とすること
は,容易であると認められる。
ウ 原告の主張に対して
(ア) 原告は,別紙図1及び別紙図3から,本願発明において,粒径0.5μm以
上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を60万個/ml以下と特定したことによる臨
界的意義が,また,別紙図2及び別紙図4から,本願発明において,粒径1.0μ
m以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を6000個/ml以下と特定したことに
よる臨界的意義が,それぞれ存在するといえる旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,本願明細書の表1には,実施例1及び2並びに比較例1,2及び4に
ついての実験結果の数値が記載され,また,表1には,粒径0.5μm以上のヒュ
ームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数の増
加に伴って,径0.2μm以上の研磨傷も増加することが示されている。しかし,
同表から,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子については粒子数を60万
個/ml以下とすること,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子については
粒子数を6000個/ml以下とすることに,臨界的意義を見いだすことはできな
い。本願明細書の段落【0006】には,ウエハ一枚当たりの径0.2μm以上の
研磨傷数は100個を超えないことが要求されるという趣旨の記載があるが,表1
によると,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子については粒子数82万4
688個/ml,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子については粒子数8
710個/mlの場合(比較例1の2回目)でも,径0.2μm以上の研磨傷数は
100個未満であり,上記の要求が満たされている(この点に関し,本件明細書の
段落【0079】の記載には誤りがあると解される。。
)
また,別紙図1ないし別紙図4は,測定結果に基づき,ヒュームドシリカ粒子の
粒子数と研磨傷数(個数)との関係を図示したものである。同各図によれば,直線
k1と直線k2とは,一方が他方の延長線上に存在するように表記されてはいない
(直線k3と直線k4も同様である。。しかし,そのようなデータが示されていた
)
からといって,原告主張のように,ヒュームドシリカ粒子の粒子数が「60万個/
ml」ないし「6000個/ml」を境にして,同個数以下になると,当業者の予
測可能な範囲を超えて,研磨傷数(個数)が大幅に減少するとの事実を認めること
はできない。また,直線k1とk3は,実施例についての4個の測定値,直線k2
とk4は,比較例についての2又は3個の測定値に基づいて表記したものにすぎな
いこと,並びに比較例2及び4の測定値も取り込んでグラフにした別紙図A及び別
紙図Bも斟酌すると,原告主張に係るヒュームドシリカ粒子の粒子数における「6
0万個/ml」ないし「6000個/ml」の値に臨界的意義を認めることはでき
ない。
(イ) さらに,原告は,粒子数に対する研磨傷数の増加割合と粒子数との関係を示
したグラフである別紙図5ないし別紙図8を根拠として,粒径0.5μm以上のヒ
ュームドシリカ粒子の粒子数を60万個/ml以下と特定したこと,及び粒径1.
0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を6000個/ml以下と特定したこ
とによる臨界的意義が存在すると主張する。
しかし,原告のこの主張も,以下のとおり,理由がない。
粒子数に対する研磨傷数の増加割合と粒子数との関係については,本願明細書に
記載がなく,原告の主張は本願明細書に基づかない主張であって,採用できない。
本願発明が粒子数と研磨傷数との相関関係に着目したものであるとしても,本願明
細書の記載から,別紙図5ないし別紙図8の関係が存在することが,当業者にとっ
て自明のこととはいえない。さらに,別紙図5ないし別紙図8から,粒径0.5μ
m以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数については「60万個/ml」 粒径1.
,
0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数については「6000個/ml」
という数値が変曲点であると理解することもできない。
(4) 小括
以上のとおり,相違点1に関し,本願発明と引用発明とは,粒径0.5μm以上
のヒュームドシリカ粒子の粒子数について,本願発明では「60万個/ml以下」
であるのに対して,引用発明では,
「18万2000個/ml,22万6000個/
ml又は28万個/ml」である点において相違すると認定されるべきであるから,
これと異なる審決の認定は,その限度で誤りがある。しかし,本願発明の上記相違
点1に係る構成は,当業者において容易に想到することができるものであるから,
相違点1に係る審決の認定の誤りは,結論に影響を及ぼす違法とはいえない。また,
当業者が本願発明の相違点2に係る構成に至ることも容易であるといえる。原告主
張に係る取消事由はいずれも採用の限りでない。
3 結論
以上のとおり,審決にはこれを取り消すべき違法はない。その他,原告は,縷々
主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
八 木 貴 美 子
裁判官
小 田 真 治
別紙
別紙
別紙
別紙
図A
0.5μm以上の粒子数と傷数の関係
傷数
200 傷数
0 5,000,000 10,000,000 15,000,000 20,000,000
0.5μm以上の粒子数
拡大図
傷数
150 傷数
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000
0.5μm以上の粒子数
別紙
図B
1.0μm以上の粒子数と傷数の関係
傷数
200 傷数
0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 3,500,000
1.0μm以上の粒子数
拡大図
傷数
150 傷数
0 5,000 10,000 15,000
1.0μm以上の粒子数
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