平成23(行ケ)10153審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成23年12月21日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告コーニンクレッカフィリップス
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対象物 |
パッケージ内の量及びスペクトル感知能力とデジタル信号出力とを有するマルチチップLEDパッケージ |
法令 |
特許権
特許法29条2項2回
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キーワード |
審決29回 実施5回 優先権1回 進歩性1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 本件は,原告が名称を「パッケージ内の量及びスペクトル感知能力とデジタ
ル信号出力とを有するマルチチップLEDパッケージ」とする発明につき特許
出願をし,平成20年10月7日付けでも特許請求の範囲の変更を内容とする
手続補正(以下「本件補正」という。)をしたところ,拒絶査定を受けたので,
これに対する不服の審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けた
ことから,その取消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成23年12月21日 判決言渡
平成23年(行ケ)第10153号 審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日 平成23年12月14日
判 決
原 告 コーニンクレッカ フィリップス
エレクトロニクス エヌ ヴィ
訴訟代理人弁理士 宮 崎 昭 彦
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 門 田 か づ よ
同 服 部 秀 男
同 田 部 元 史
同 北 川 創
同 田 村 正 明
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための
付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2009-22992号事件について平成22年12月28
日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が名称を「パッケージ内の量及びスペクトル感知能力とデジタ
ル信号出力とを有するマルチチップLEDパッケージ」とする発明につき特許
出願をし,平成20年10月7日付けでも特許請求の範囲の変更を内容とする
手続補正(以下「本件補正」という。)をしたところ,拒絶査定を受けたので,
これに対する不服の審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けた
ことから,その取消しを求めた事案である。
2 争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)が
下記引用例との間で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記
・引用例:特開平7-137338号公報(発明の名称「発光素子アレイの利
用装置」,公開日 平成7年5月30日,甲1。以下,これに記載
された発明を「引用発明」という。)
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,平成13年(2001年)7月26日の優先権(米国)を主張し
て,平成14年7月23日,名称を「パッケージ内の量及びスペクトル感知
能力とデジタル信号出力とを有するマルチチップLEDパッケージ」とする
発明について国際特許出願(PCT/IB2002/003146 日本に
おける出願番号は特願2003-516108号)をし,平成16年1月2
6日に日本国特許庁に翻訳文を提出した(公表特許公報は特表2004-5
37173号,公表日 平成16年12月9日)。その後原告は,平成16
年2月10日付けで図面の変更を内容とする補正(甲7)を,平成17年7
月20日付けで全文変更を内容とする補正(甲6)を,さらに平成20年1
0月7日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする補正(請求項の数8,本
件補正。甲5)をしたが,平成21年8月18日付けで拒絶査定を受けたの
で,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2009-22992号事件として審理した
上,平成22年12月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決(出訴期間として90日附加)をし,その謄本は平成23年1月7日原
告に送達された。
(2) 発明の内容
本件補正後の請求項の数は前記のとおり8であるが,そのうち請求項1
(本願発明)の内容は,次のとおりである。
・【請求項1】
複数の発光ダイオードチップと,
センサと,
支持部材と,を備え,
この支持部材が,前記複数の発光ダイオードチップと前記センサを支持
し,
前記センサが,フィードバック信号を制御装置に提供するように構成さ
れ,この信号が前記発光ダイオードチップの光出力に関連する,一体化マ
ルチチップ発光ダイオードパッケージ。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願発明は
前記引用発明に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通
常の知識を有する者)が容易に発明することができたから特許法29条2
項により特許を受けることができない,というものである。
イ なお,審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点
及び相違点は,次のとおりである。
(ア) 引用発明の内容
「基板に多数の発光素子を一列に並べ,発光素子に近接させてこの温度
を検出するために温度センサが基板上に配置され,
温度センサより入力されるある時点の温度と所定の時間経過後の温
度とに基づいて入力信号レベルが求められ,この入力信号レベルより補
正係数が求められ空間光変調素子の出力特性が最適になるように補正
されたデータ信号に応じて発光量が変わる発光素子アレイであって,前
記発光素子は発光ダイオードである発光素子アレイ。」
(イ) 一致点
本願発明と引用発明は,「複数の発光ダイオードと,センサと,支持
部材と,を備え,この支持部材が,前記複数の発光ダイオードと前記セ
ンサを支持し,前記センサが,フィードバック信号を制御装置に提供す
るように構成され,この信号が前記発光ダイオードの光出力に関連す
る,一体化マルチ発光ダイオードパッケージ。」である点で一致する。
(ウ) 相違点
複数の発光ダイオードが,本願発明では,複数の発光ダイオードチッ
プであるのに対して,引用発明では,複数の発光ダイオードチップなの
かどうかが不明である点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には次のような一致点認定の誤りがあるから,審決は
違法として取り消されるべきである。
ア 審決は,「引用発明では,『温度センサより入力されるある時点の温度
と所定の時間経過後の温度とに基づいて入力信号レベルが求められ,この
入力信号レベルより補正係数が求められ空間光変調素子の出力特性が最
適になるように補正されたデータ信号に応じて発光量が変わる』ことか
ら,引用発明は,『センサが,フィードバック信号を制御装置に提供する
ように構成され,この信号が前記発光ダイオードの光出力に関連する』点
において,本願発明と一致する。」(審決4頁14行~20行)と認定し
ている。
しかし,本願発明では,LEDチップだけがマルチチップ発光ダイオー
ドパッケージ内の熱源であるから,基板温度をLEDの接合温度に相関さ
せることができるのに対し,引用発明では,基板の温度変化を測定するこ
とにより発光素子への入力信号レベルを求めようとしているのであって,
基板の温度変化は発光ダイオードの光出力に関連していない。また,引用
発明では,ドライバIC及び発光素子アレイ両方が基板の温度変化に寄与
するから,温度センサの出力から発光素子の光強度及びスペクトルが得ら
れるわけでもなく,得ることもできない。
また,本願明細書(平成17年7月20日補正後のもの〔甲6〕)では,
量(発光強度)及びスペクトル(波長)を含めて「光出力」を規定してい
るのに対し,審決は,量についてのみ「光出力」と同一視している。しか
し,この量に関してのみ光出力を相関させようとしたとしても,引用発明
では,温度センサが発光素子とドライバICとの熱に対する寄与を区別で
きないので,基板の温度をLEDの接合温度に相関させることはできな
い。その上,引用発明は,発光されるスペクトルの温度依存性について何
ら開示していない。
以上のとおり,引用発明では,発光ダイオードの光出力に関連するフィ
ードバック信号を制御装置に提供していないので,引用発明は,「センサ
が,フィードバック信号を制御装置に提供するように構成され,この信号
が前記発光ダイオードの『光出力』に関連する」点において本願発明と一
致するとした審決の認定は誤りである。
イ 被告は,温度センサで検出されて当該温度センサより入力されるある時
点の温度と所定の時間経過後の温度とに基づいて,入力信号,さらには補
正係数が求められ,データ信号が補正され,当該補正されたデータ信号に
応じて発光素子の発光量が変わり発光量が変われば光出力が変わること
になるので,上記温度センサより入力される温度は上記発光ダイオードの
光出力に関連することは明らかであるから,審決の認定に誤りはないと反
論する。
しかし,本願発明の「センサが,フィードバック信号を制御装置に提供
するように構成され,この信号が前記発光ダイオードチップの光出力に関
連する」という用語の解釈について,明細書の記載及び図面を考慮すると,
「発光ダイオードの光出力に関する量及びスペクトル情報を制御装置に
伝達する当該センサとを有する。」との記載(段落【0007】),「光
センサ16は,LED14の出力を量(光強度)及びスペクトル(波長)
に関して外部制御装置30に伝達する。」との記載(段落【0014】)
などから,センサからのフィードバック信号は,量及びスペクトル情報な
どの発光ダイオードの光出力に関する信号であって,このフィードバック
信号が制御装置に提供されると解釈されるべきである。
そうすると,温度センサにより入力信号の補正係数を求め,発光素子の
データ信号に応じて発光素子の発光量が変わることが,本願発明の「発光
ダイオードチップの光出力に関連する」という用語の意味に含まれないこ
とは,本願明細書の上記記載及び図面から明らかである。そして,発光素
子の発光量が変わることがたとえ本願明細書の「温度によりLEDチップ
14への電源電流を調整する補正作用」に相当したとしても,上記解釈に
影響を与えるものではない。
したがって,被告の上記反論は失当である。
ウ また,被告は,本願発明には「光出力」が量(発光強度)及びスペクト
ル(波長)を含むものに限定されることを示す記載はなく,本願明細書に
も「光出力」について明確に定義する記載はないと反論する。
しかし,本願明細書においては,発光ダイオードチップの光出力が常に
量(発光強度)及びスペクトル(波長)を含むものに限定されているから,
本願発明の「発光ダイオードチップの光出力に関連する」という用語の解
釈に当たって明細書の記載を考慮すれば,発光素子のデータ信号に応じて
発光素子の発光量が変わることが含まれないことは明らかである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3) の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 原告は,引用発明では発光ダイオードの光出力に関連するフィードバック
信号を制御装置に提供していないのに,審決は,「センサが,フィードバッ
ク信号を制御装置に提供するように構成され,この信号が前記発光ダイオー
ドの光出力に関連する」点において,本願発明と引用発明は一致するとの誤
った認定をしたと主張する。
しかし,温度センサで検出されて当該温度センサより入力される,ある時
点の温度と所定の時間経過後の温度とに基づいて,入力信号,さらには補正
係数が求められ,データ信号が補正され,当該補正されたデータ信号に応じ
て発光素子の発光量が変わり,発光量が変われば,光出力が変わることにな
るので,上記温度センサより入力される温度は,上記発光ダイオードの光出
力に関連することは明らかであるから,審決の上記認定に誤りはない。
また,温度センサより入力される温度に基づいて補正されたデータ信号に
応じて発光素子の発光量が変わることは,本願明細書(甲6)における,熱
センサ18により制御装置に伝達される「温度によりLEDチップ14への
電源電流を調整する補正作用」(段落【0015】)に相当するものといえ
るから,本願明細書(甲6)の記載に照らしても,審決の上記認定に誤りが
ないことは明らかである。
(2) この点に関し,原告は,本願発明ではLEDチップだけがマルチチップ発
光ダイオードパッケージ内の熱源であるから,基板温度をLEDの接合温度
に相関させることができるのに対し,引用発明では基板の温度変化を測定す
ることにより発光素子への入力信号レベルを求めようとしているのであっ
て,基板の温度変化は発光ダイオードの光出力に関連しておらず,また,引
用発明ではドライバIC及び発光素子アレイ両方が基板の温度変化に寄与
するから,温度センサの出力から発光素子の光強度及びスペクトルを得るこ
ともできないと主張する。
しかし,上記主張は,LEDチップだけがマルチチップ発光ダイオードパ
ッケージ内の熱源であることを前提とするものであるが,本願発明には,L
EDチップだけがマルチチップ発光ダイオードパッケージ内の熱源である
ことを特定する記載はなく,また,本願明細書(甲6)には,信号処理装置
(信号処理回路)が支持部材上に配置又は装着されることが記載されている
(段落【0008】及び【0011】)ことに照らしても,本願発明の支持
部材が,複数の発光ダイオードチップ以外の熱源(熱としての寄与の大小は
問わず)を支持することを排除したものと解する根拠はない。
また,引用例(甲1)の段落【0013】に「上記発光素子16に近接さ
せてこの温度を検出するために上記温度センサ14が配置されている。」と
記載されているように,引用発明における温度センサは,発光素子に近接さ
せて当該発光素子の温度を検出するためのものである。
さらに,本願発明においても,「光出力」が量(発光強度)及びスペクト
ル(波長)を含むものに限定されることを示す記載がないことは,後記(3)
のとおりである。
以上により,原告の上記主張は,本願発明の構成及び本願明細書の記載に
基づかないものであって,失当である。
(3) 原告は,本願明細書(甲6)では量(発光強度)及びスペクトル(波長)
を含めて「光出力」を規定しているのに対し,審決は量についてのみ「光出
力」と同一視しているが,この量に関してのみ光出力を相関させようとした
としても,引用発明では温度センサが発光素子とドライバICとの熱に対す
る寄与を区別できないので,基板の温度をLEDの接合温度に相関させるこ
とはできないし,引用発明は発光されるスペクトルの温度依存性について何
ら開示していないと主張する。
しかし,本願の請求項1には,「光出力」が量(発光強度)及びスペクト
ル(波長)を含むものに限定されることを示す記載はなく,本願明細書にも
「光出力」について明確に定義する記載はないから,原告の上記主張は,本
願発明の構成及び本願明細書の記載に基づかないものであり,失当である。
(4) 以上のとおり,本願発明と引用発明の一致点の認定の誤りを主張する原告
の主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1) (特許庁における手続の経緯),(2) (発明の内容),(3) (審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 容易想到性の有無
審決は,本願発明は引用発明(甲1)に基づいて当業者が容易に想到できる
とし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。
(1) 本願発明の意義
ア 本願明細書(特許請求の範囲は平成20年10月7日付け手続補正書
〔甲5〕のもの,発明の詳細な説明は平成17年7月20日付け手続補正
書のもの〔甲6〕 図面は平成16年2月10日付け手続補正書のもの
, 〔甲
7〕)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
【請求項1】 前記第3,1(2)のとおり。
(イ) 発明の詳細な説明
・「【技術分野】
本発明は,マルチチップ発光ダイオード(LED)パッケージに関す
るものであり,特に,2つ以上のLEDチップと,LEDの光出力の
量及びスペクトルの特性を測定する1つ以上のフィードバックセン
サと,アナログ-デジタル変換論理回路を具えるデジタル信号処理回
路であって,センサからのデジタル信号出力をパッケージ外部の制御
装置に供給し,LEDのルーメン出力及び色成分を制御する当該デジ
タル信号処理回路とを装着した支持部材を有するマルチチップLE
Dパッケージに関するものである。」(段落【0001】)
・「通常,LEDを少なくとも『ターンオン』及び『ターンオフ』させ
るために,これら装置と共に制御装置が用いられる。また,この制御
装置によりLEDの光出力及び色を調整制御することもできる。この
ようにするには,装置のルーメン出力及び色(波長)を検出しその情
報を制御装置に供給するある種類の外部光センサを用いる必要があ
る。」(段落【0004】)
・「外部光センサを用いると,装置の大きさ及び費用が不所望に増大し
てしまう。さらに,これら既知の装置においてはLEDの動作温度を
測定する方法が存在しない。LEDの動作温度は,その変化によりL
EDの量及びスペクトル出力に,従って装置に影響を及ぼすおそれが
あるために重要なことである。」(段落【0005】)
・「従って,上述した従来技術のマルチチップLEDパッケージの欠点
をほぼ解消し,且つ価格,占有スペース及び製造の簡便性の観点から
さらに改良されたマルチチップLEDパッケージが必要とされてい
る。」(段落【0006】)
・「マルチチップ発光ダイオードパッケージは,支持部材と,この支持
部材上に配置された少なくとも2つの発光ダイオードチップと,この
支持部材上に配置された少なくとも1つのセンサであって,発光ダイ
オードの光出力に関する量及びスペクトル情報を制御装置に伝達す
る当該センサとを有する。」(段落【0007】)
・「本発明の一例によれば,マルチチップ発光ダイオードパッケージは,
支持部材上に配置された信号処理回路であって,センサにより発生さ
れたアナログ信号出力を制御装置によりデジタル処理するために調
整する信号処理装置を有する。」(段落【0008】)
・「図1は,本発明の実施例によるマルチチップLEDパッケージ10
を示すものである。このマルチチップLEDパッケージ10は,2つ
以上(図示では4つ)のLEDチップすなわち「ダイ」14と,この
LEDパッケージ10の外部の制御装置30に量及びスペクトル情
報を伝達する少なくとも1つのフィードバックセンサ15と,制御装
置30によるデジタル処理のために,1つ以上のフィードバックセン
サ15により発生される信号を調整する信号処理回路20とを装着
した支持部材12を有する。支持部材12上のLEDチップ14,セ
ンサ16,18及び信号処理回路20の上に光学部材22を装着し
て,LEDパッケージ10により発生される光を光学的に処理するよ
うにしうる。」(段落【0011】)
・【図1】(本発明の実施例によるマルチチップLEDパッケージの斜
視図)
・「支持部材12は熱伝導性の部材であり,LEDチップ14を外部電
源28に結合する正及び負の電源ポート26(図示するように正のポ
ートをそれぞれのLEDチップ14に対して設け,各LEDチップ1
4に供給される電力を個々に調整しうるようにすることができる)
と,少なくとも1つのフィードバックセンサ15及び信号処理回路2
0を外部制御装置30に結合する少なくとも1つのデジタル信号入
/出力(I/O)ポート32とを有する。本発明の他の実施例におい
ては,このデジタル信号I/Oポート32を2つのデジタルポート
(図示せず)に,つまり1つの入力ポートと1つの出力ポートとに置
き換えることができる。本発明の実施例においては,支持部材12は,
個々のLEDチップを支持でき,これらLEDチップを同時に電源ポ
ートに電気的に接続でき,1つ以上のセンサを信号処理回路に電気的
に接続でき,この信号処理回路をデジタル信号ポートに電気的に接続
できるプリント回路基板,セラミック基板,ハウジング又は他の構造
体を有することができる。」(段落【0012】)
・「1つ以上のフィードバックセンサ15は,1つ以上の光センサ,又
は1つ以上の熱センサ,又は好ましくは図に示すように少なくとも1
つの光センサ16と少なくとも1つの熱センサ18との組合せを含
み得るものである。光センサ16は,LED14の出力を量(光強度)
及びスペクトル(波長)に関して外部制御装置30に伝達する。LE
Dパッケージ内に光センサを配置することにより,本発明のマルチチ
ップLEDパッケージ10を採用しうる光源LEDモジュールの大
きさ及び価格が低減される。光センサはホトダイオードのような通常
のホトセンサを有することができるが,これは説明のためであって,
これに限定されるものではない。」(段落【0014】)
・「熱センサ18は,半導体ダイオード接合,又はバンドギャップレフ
ァレンス回路,又は集積回路技術において用いられる他のいかなる種
類の熱感知素子を有することもできる。熱センサ18は,LEDチッ
プ14の動作温度と相関させることができる支持部材12の温度を
測定することにより,外部制御装置30にLEDチップ14の量及び
スペクトル出力を伝達する。LEDチップ14の動作温度の変化はこ
れらLEDチップ14の量及びスペクトル出力に影響を及ぼす。従っ
て,LEDチップ14の動作温度が変化した場合には,熱センサ18
により支持部材の温度を制御装置に伝達し,次にこの温度によりLE
Dチップ14への電源電流を調整する補正作用によりLEDチップ
14の量及びスペクトル出力を一定に保持することができる。」(段
落【0015】)
・「本発明を上述の実施例を参照して説明したが,本発明の精神から逸
脱することなく種々の変更及び変形を行うことができる。一例とし
て,熱センサ18を信号処理回路20内に組み込むことができるが,
これに限定されるものではない。さらに,熱センサ18をLEDチッ
プ1 4 のそれぞれに対し設けることもできる。これらの及び他のい
かなる変更及び変形も特許請求の範囲の範囲内にあるものである。」
(段落【0019】)
イ 上記記載によると,本願発明は,マルチチップ発光ダイオード(LED)
パッケージに関し,支持部材と,この支持部材上に配置された少なくとも
2つの発光ダイオードチップと,この支持部材上に配置された少なくとも
1つのセンサであって,発光ダイオードの光出力に関する量及びスペクト
ル情報を制御装置に伝達する当該センサを有する一体化したマルチチッ
プ発光ダイオードパッケージという構成を採用することによって,外部光
センサを用いると装置が大きくなり費用も増大してしまったり,あるいは
LEDの動作温度を測定する方法が存在しなかったという従来の欠点を
解消し,かつ価格,占有スペース及び製造の簡便性の観点から大きさ及び
価格を低減するという効果を有する発明であると認めることができる。
(2) 引用発明の意義
ア 一方,引用例(甲1)には,次の記載がある。
・「【産業上の利用分野】本発明は,発光素子アレイの利用装置に係り,
特に画像表示装置やプリンタ等の利用装置に関する。」(段落【000
1】)
・「【従来の技術】一般に,多くの発光ダイオード(LED)を高密度に
集積して文字や画像等を記録する装置として発光素子アレイの利用装
置は既に実用化されている。この利用装置は,一般には,上述のように
多数の発光素子をアレイ状に配列した発光素子アレイとこのアレイか
らの光により画像情報を表示させる空間光変調素子を有しており,これ
らは共に製造工程上の理由より,その光学的特性にバラツキを有してい
る。そのために,このような光学的特性のバラツキを補償して適正な画
像を得るために種々の研究開発が行なわれ,提案されている。」(段落
【0002】)
・「【発明が解決しようとする課題】ところで,上述したように光学的特
性のバラツキは光利用手段のみならず,発光素子アレイにも存在する。
例えば,発光素子としてLEDを用いた場合,ジャンクション温度によ
り発光特性が変化することが知られている。その内,発光強度に関して
は,温度変化と発光強度の変化率とが比例し,発光ピーク波長に関して
は,温度変化と波長シフト量とが比例する。従って,発光により,或い
は周囲温度の上昇によりジャンクション温度が上昇すると,発光強度が
減少し,且つ発光ピーク波長が長波長側にシフトする。」(段落【00
04】)
・「このような特願平5-128348号では,空間光変調素子の光導電
部材の分光感度特性と発光素子の温度特性とを考慮し,発光素子アレイ
を駆動するパルス幅を決定するための基準信号の周波数を発光素子の
温度特性に応じて変化させることにより階調性を補償する技術を開示
した。この技術により表示画像の品質についてはかなりの改善を図るこ
とができたが,しかしながら,更なる研究の結果,画像の品質に関して
は入力信号レベルの変化も大きな影響を与えていることが判明し,しか
るに上記した技術にあっては何ら入力信号レベルの変化については考
慮されてはおらず,従って,高品質画像を得るための補償も不十分であ
ることが判明した。」(段落【0006】)
・「本発明は,以上のような問題点に着目し,これを有効に解決すべく創
案されたものであり,その目的はある時点の発光素子の温度と一定期間
経過後の発光素子の温度とを検出し,入力信号レベルの変化を考慮した
温度変化に応じて発光量を制御し,元の画像情報における空間光変調素
子の出力特性を常に最適にすることができる発光素子アレイの利用装
置を提供することにある。」(段落【0007】)
・「【課題を解決するための手段】本発明は,上記問題点を解決するため
に,データ信号に応じて発光量を変える発光素子アレイと,この発光素
子アレイを駆動する駆動部と,前記発光素子アレイからの光に応じて画
像情報が書き込まれる空間光変調素子とを少なくとも有する発光素子
アレイの利用装置において,前記発光素子アレイの温度を検出する温度
検出手段と,前気温度検出手段より入力されるある時点の温度と所定の
時間経過後の温度とに基づいて入力信号レベルを求め,この入力信号レ
ベルより補正係数を求めて前記空間光変調素子の出力特性が最適にな
るように前記データ信号を補正して出力する発光量補正手段とを備え
るように構成したものである。」(段落【0008】)
・「【作用】本発明は,以上のように構成したので,温度検出手段からは
発光素子アレイの温度が検出され,発光量補正手段はある所定の時間差
におけるそれぞれの温度差に基づいてその時の入力信号レベルを算出
し,更にこの入力信号レベルから補正係数を算出する。この係数を入力
データ信号に乗算することにより補正する。これにより,発光素子アレ
イの発光量を制御して,元の画像情報における空間光変調素子の出力特
性が常に最適となるようにする。」(段落【0009】)
・「図示するようにこの発光素子アレイの利用装置は1,画像データ等を
形成して出力する入力ソース2と,この入力ソース2からの画像信号S
1に基づいてパルス幅変調(PWM)により駆動信号S2を形成する駆
動部としての駆動信号発生回路3と,この回路3より出力される駆動信
号S2により発光する発光素子アレイ4と,このアレイ4からの光を集
光する集光レンズ5と,このレンズ5からの光をこのアレイ4の発光素
子列と直交する方向へ偏向するためのポリゴンミラーのような回転鏡
車6と,偏向された光を受けて光-光変換を行なう空間光変調素子7と
により主に構成されており,この変調素子7へ2次元の画像情報を与え
ている。」(段落【0011】)
・「・・・上記駆動信号発生回路3には,これより出力されるデータを補
正して上記空間光変調素子7における出力特性が最適になるように出
力する本発明の特長とする発光量補正手段13が接続されている。」
(段落【0012】)
・「この補正手段13は,上記発光素子アレイ4の温度に基づいてデータ
に補正を加えるものであり,そのためにこのアレイ4には,図2に示す
ようにアレイの温度を検出するための温度検出手段として温度センサ
14が配置されている。具体的には,このアレイ4は,基板15に多数
の発光素子16を一列に並べ,それぞれの発光素子16とこれに並設さ
れたドライバIC17とをワイヤ18により接続することにより構成
されており,パルス幅変調により変調された駆動信号S2により駆動さ
れる。そして,上記発光素子16に近接させてこの温度を検出するため
に上記温度センサ14が配置されている。この温度センサ14としては
サーミスタ,白金抵抗測温体,熱電対等のように温度を電気抵抗或いは
電圧に変換でき,しかも小型のものであればどのような温度センサでも
よいが,好ましくはできるだけ応答性の速いものがよい。」(段落【0
013】)
・【図1】(発光素子アレイの利用装置を示す概略構成図)
・【図2】(発光素子アレイを示す拡大斜視図)
・【図3】(発光量補正手段を示すブロック図)
・「ここで,データ信号に対する補正の必要性及びその工程について説明
する。一般に,発光素子の発光強度は,この温度が一定であればデータ
信号の階調レベル(入力信号レベル)に比例して大きくなり,図5(A)
中の波線で示す直線A1,A2のように示される。直線A1は発光素子
の温度TがT1の時の特性を示し,直線A2は温度Tが温度T1よりも
大きなT2の時の特性を示す。しかしながら,実際には発光による温度
上昇のために階調レベルが大きくなるに従って発光強度の増加率は低
下し,例えば図5(A)中の実線で示す曲線B1のように表される。従
って,階調レベルに対応した発光強度を得るためには実線で示す曲線B
1が温度変化に対応させて直線となるように補正を行なう必要が生ず
る。」(段落【0015】)
・【図5】(補正の前後における階調レベルに対する発光素子の出力特性
の一例を示すグラフ)
イ 上記記載によれば,引用発明は,発光素子アレイの利用装置に関し,審
決が認定したとおり,「基板に多数の発光素子を一列に並べ,発光素子に
近接させてこの温度を検出するために温度センサが基板上に配置され,
温度センサより入力されるある時点の温度と所定の時間経過後の温度
とに基づいて入力信号レベルが求められ,この入力信号レベルより補正係
数が求められ空間光変調素子の出力特性が最適になるように補正された
データ信号に応じて発光量が変わる発光素子アレイであって,前記発光素
子は発光ダイオードである発光素子アレイ」,という発明であると認める
ことができる。
(3) 原告主張の取消事由に対する判断
ア(ア) 前記(1)及び(2)で認定した本願発明及び引用発明の内容によれば,
両者は,
「複数の発光ダイオードと,
センサと,
支持部材と,を備え,
この支持部材が,前記複数の発光ダイオードと前記センサを支持し,
前記センサが,フィードバック信号を制御装置に提供するように構
成され,この信号が前記発光ダイオードの光出力に関連する,一体化
マルチ発光ダイオードパッケージ。」
である点で一致すると認めるのが相当である。
したがって,審決における一致点の認定に誤りはない。
(イ) そうすると,本願発明と引用発明との相違点は,審決が認定するとお
り,「複数の発光ダイオードが,本願発明では,複数の発光ダイオード
チップであるのに対して,引用発明では,複数の発光ダイオードチップ
なのかどうかが不明である点。」と認められるところ,基板上に複数の
発光ダイオードを備える際にどのような構成とするかは当業者が適宜
設計する事項であり,その場合,複数の発光ダイオードを配置する構成
として複数の発光ダイオードチップを配置することも当業者が適宜な
し得ることであると認められるから,本願発明は,引用発明(甲1)に
基づいて当業者が容易に発明することができたものというべきである。
イ 原告は,引用発明では発光ダイオードの光出力に関連するフィードバッ
ク信号を制御装置に提供していないから,「センサが,フィードバック信
号を制御装置に提供するように構成され,この信号が前記発光ダイオード
の光出力に関連する」点において本願発明と引用発明が一致するとした審
決の認定は誤りであると主張する。
しかし,以下に述べるとおり,引用発明が,本願発明と同様に「センサ
が,フィードバック信号を制御装置に提供するように構成され,この信号
が前記発光ダイオードの光出力に関連する」ものであることは明らかであ
るから,原告の上記主張は採用することができない。
(ア) 引用発明において「センサが,フィードバック信号を制御装置に提供
するように構成され」ているか否かについて
引用例(甲1)の図1及び図3には,温度センサ14(温度検出手段)
からの信号としてセンサ信号SS2が示されており,このセンサ信号S
S2は発光量補正手段13の一部を構成するサンプリング部19に出
力される。そして,発光量補正手段13は,センサ信号SS2に基づい
て,「温度検出手段より入力されるある時点の温度と所定の時間経過後
の温度とに基づいて入力信号レベルを求め,この入力信号レベルより補
正係数を求めて前記空間光変調素子の出力特性が最低になるように前
記データ信号を補正して出力する」(段落【0008】参照)。
そうすると,引用発明において,上記センサ信号SS2が「フィード
バック信号」に,上記発光量補正手段13が「制御装置」にそれぞれ該
当し,「センサが,フィードバック信号を制御装置に提供するように構
成され」ていることは明らかである。
(イ) 引用発明において「フィードバック信号が前記発光ダイオードの光出
力に関連する」かについて
引用発明の温度検出手段は,「発光素子アレイの温度を検出する」
(段
落【0008】)ためのものであり,具体的には,「上記発光素子16
に近接させてこの温度を検出するために上記温度センサ14が配置さ
れている」(段落【0013】)。ここで,引用例(甲1)の図5(B)
に示された発光素子16の階調レベルの特性に関する段落【0015】
の記載によれば,発光素子16の階調レベルには温度依存性があること
が示されているから,温度センサで検出されたある時点の温度と所定の
時間経過後の温度とに基づいてデータ信号が補正されれば,この補正さ
れたデータ信号に応じて発光素子の発光量が変わり,この発光量が変わ
れば,光出力も変わることになるので,結局のところ,温度センサによ
り入力される温度は発光ダイオードの光出力に影響しているものと認
められる。
そうすると,引用発明においても「フィードバック信号が前記発光ダ
イオードの光出力に関連する」ことは明らかである。
ウ また,原告は,本願発明ではLEDチップだけがマルチチップ発光ダイ
オードパッケージ内の熱源であるから,基板温度をLEDの接合温度に相
関させることができるのに対し,引用発明では基板の温度変化を測定する
ことにより発光素子への入力信号レベルを求めようとしているのであっ
て,基板の温度変化は発光ダイオードの光出力に関連しておらず,また,
引用発明ではドライバIC及び発光素子アレイ両方が基板の温度変化に
寄与するから,温度センサの出力から発光素子の光強度及びスペクトルを
得ることもできないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,LEDチップだけがマルチチップ発光ダイ
オードパッケージ内の熱源であることを前提とするものであるが,本願の
請求項1にはそのような事項を特定する記載は存在しない。また,本願明
細書を参酌しても,マルチチップ発光ダイオードパッケージ内の熱源をL
EDチップに限定する趣旨の記載はなく,かえって,本願明細書には,「本
発明の一例によれば,マルチチップ発光ダイオードパッケージは,支持部
材上に配置された信号処理回路であって,・・・デジタル処理するために
調整する信号処理装置を有する。」(段落【0008】),「・・・1つ
以上のフィードバックセンサ15により発生される信号を調整する信号
処理回路20とを装着した支持部材12を有する。」(段落【0011】)
と記載されているように,熱源となる信号処理装置(信号処理回路)が支
持部材上に配置又は装着されている構成が記載されているから,本願発明
において,支持部材上において発光ダイオードチップ以外の熱源を有する
構成をを排除したものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は,本願発明の構成及び本願明細書の記載
に基づかないものであり,採用することができない。
エ さらに,原告は,本願明細書では量(発光強度)及びスペクトル(波長)
を含めて「光出力」を規定しているのに対し,審決は量についてのみ「光
出力」と同一視しているが,この量に関してのみ光出力を相関させようと
したとしても,引用発明では温度センサが発光素子とドライバICとの熱
に対する寄与を区別できないので,基板の温度をLEDの接合温度に相関
させることはできないし,引用発明は発光されるスペクトルの温度依存性
について何ら開示していないと主張する。
しかし,本願発明の「光出力」を量(発光強度)及びスペクトル(波長)
を含むものに限定すべき記載は本願の請求項1には存在しないし,甲6,
甲7及び甲8の本願明細書を参酌しても,量(発光強度)及びスペクトル
(波長)の説明は散見されるものの,「光出力」についての明確な定義す
ら存在しないから,本願明細書を参酌することによって,本願の請求項1
の「光出力」を量(発光強度)及びスペクトル(波長)を含むものに限定
して解釈しなければならない理由はない。
したがって,原告の上記主張も,本願発明の構成及び本願明細書の記載
に基づかないものであり,採用することができない。
3 結論
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,審決の認定に
誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 東 海 林 保
裁判官 矢 口 俊 哉
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