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平成23(ネ)10004特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成23年11月30日
事件種別 民事
当事者 被告)株式会社ナビタイムジャパン
控訴人(第1審原告)パイオニア株式会社
被控訴人(第1審被告)株式会社ナビタイムジャパン
対象物 車載ナビゲーション装置
法令 特許権
特許法29条2項2回
特許法100条1項1回
特許法29条1項3号1回
キーワード 侵害12回
実施9回
特許権7回
間接侵害3回
差止3回
無効3回
新規性3回
進歩性2回
損害賠償2回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人(第1審原告)の負担とする。
事件の概要 以下,略語は,当裁判所も原判決と同一のものを用いる。また,別紙被告装置説 明書及び別紙各特許公報は,原判決のものを引用する。 本件は,発明の名称を「車載ナビゲーション装置」とする特許発明に係る特許権 (2件)を有する原告が被告に対し,被告の提供するナビゲーションサービスに係 る装置等は,当該各特許発明の構成要件を充足し,被告がユーザに当該サービスを 使用させ,又は当該サービスに供する装置を生産することによって原告の各特許発 明を実施して当該各特許権を侵害し,かつ,当該サービスに供する携帯端末用のプ ログラムを譲渡等する行為は当該各特許権の間接侵害に該当する等と主張して,① 上記使用による特許発明の実施(特許権侵害)を理由とする別紙物件目録記載1の ナビゲーション装置に含まれるサーバーの使用の差止め(特許法100条1項)及 び別紙物件目録記載3のプログラムの廃棄(同条2項),②上記生産による特許発 明の実施(特許権侵害)又は前記間接侵害を理由とする別紙物件目録記載2の携帯 端末用プログラムの譲渡等及び譲渡等の申出等の差止め(同条1項)をそれぞれ求 めるとともに,③上記ナビゲーションサービスの使用による侵害に基づくロイヤリ ティ相当額の損害賠償金4億3200万円(民法709条,特許法102条3項)

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判決文

平成23年11月30日判決言渡
平成23年(ネ)第10004号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審 東京地
方裁判所 平成21年(ワ)第35184号)
口頭弁論終結日 平成23年7月11日
判 決
控訴人(第1審原告) パ イ オ ニ ア 株 式 会 社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 佐 長 功
同 服 部 誠
同 江 幡 奈 歩
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 加 藤 志 麻 子
被控訴人(第1審被告) 株式会社ナビタイムジャパン
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 熊 倉 禎 男
同 渡 辺 光
同 小 林 正 和
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 近 藤 直 樹
同 越 柴 絵 里
補 佐 人 弁 理 士 鈴 木 信 彦
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人(第1審原告)の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人(第1審被告)(以下「被告」という。)は,別紙物件目録記載1
のナビゲーション装置に含まれるサーバーを使用してはならない。
3 被告は,別紙物件目録記載2のプログラムを譲渡等(譲渡,貸渡し,電気通
信回線を通じた提供をいう。)し,譲渡等の申出をしてはならない。
4 被告は,別紙物件目録記載3のプログラムを抹消せよ。
5 被告は,控訴人(第1審原告)(以下「原告」という。)に対し,金10億
円及びこれに対する平成21年10月16日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
6 訴訟費用は,第1審,第2審を通じて,被告の負担とする。
第2 事案の概要
以下,略語は,当裁判所も原判決と同一のものを用いる。また,別紙被告装置説
明書及び別紙各特許公報は,原判決のものを引用する。
本件は,発明の名称を「車載ナビゲーション装置」とする特許発明に係る特許権
(2件)を有する原告が被告に対し,被告の提供するナビゲーションサービスに係
る装置等は,当該各特許発明の構成要件を充足し,被告がユーザに当該サービスを
使用させ,又は当該サービスに供する装置を生産することによって原告の各特許発
明を実施して当該各特許権を侵害し,かつ,当該サービスに供する携帯端末用のプ
ログラムを譲渡等する行為は当該各特許権の間接侵害に該当する等と主張して,①
上記使用による特許発明の実施(特許権侵害)を理由とする別紙物件目録記載1の
ナビゲーション装置に含まれるサーバーの使用の差止め(特許法100条1項)及
び別紙物件目録記載3のプログラムの廃棄(同条2項),②上記生産による特許発
明の実施(特許権侵害)又は前記間接侵害を理由とする別紙物件目録記載2の携帯
端末用プログラムの譲渡等及び譲渡等の申出等の差止め(同条1項)をそれぞれ求
めるとともに,③上記ナビゲーションサービスの使用による侵害に基づくロイヤリ
ティ相当額の損害賠償金4億3200万円(民法709条,特許法102条3項)
のうち2億円,及び,上記携帯端末用プログラムの譲渡等による間接侵害に基づく
ロイヤリティ相当額の損害賠償金16億5000万円(民法709条,特許法10
2条3項)のうち8億円の合計10億円,並びに,これに対する訴状送達の日の翌
日である平成21年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,被告装置は,本件各特許発明の構成要件である「車載ナビゲーション
装置」を充足せず,本件各特許発明の技術的範囲に属しない等と判示して,原告の
請求をいずれも棄却した。
原告は,原判決を不服として控訴し,控訴の趣旨記載の判決を求めた。
1 争いのない事実等
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実
等」(原判決3頁2行目から7頁10行目)記載のとおりであるから,引用する。
2 争点
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 争点」(原判決7
頁11行目から8頁24行目)記載のとおりであるから,引用する。
3 争点についての当事者の主張
次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点につい
ての当事者の主張」(原判決8頁25行目から108頁15行目)記載のとおりで
あるから,引用する。
(1) 原判決30頁12行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「すなわち,ディスプレイの表示は,『第1記憶手段』に記憶された複数のサー
ビス施設に関するデータが読み出され,読み出されたデータに『応じて』行われて
いるといえる。」
(2) 原判決35頁4行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「また,被告サービスにおいて,サービス施設のデータは,ユーザからの要求に
応じてその都度検索され,抽出されたものであるから,『データ』と『複数のサー
ビス施設』との表示は直接的な対応関係になく,表示データに『応じて』複数のサ
ービス施設を表示器に表示させるともいえない。」
4 当審において追加された当事者の主張
(1) 均等侵害について
(原告の主張-予備的主張)
以下のとおり,被告装置における「携帯電話端末とサーバーを電話通信回線で接
続して行うナビゲーションサービス」は,本件特許発明1及び本件特許発明2の
「車載ナビゲーション装置」と均等である。
ア 本件特許発明1の本質的部分は,目的地が設定される毎に目的地座標データ
をメモリの異なる記憶位置に書き込んでおき,目的地設定の際に当該メモリに記憶
された目的地座標データを読み出して目的地を設定するとの構成部分にあり,また,
本件特許発明2の本質的部分は,「ユーザ地点登録機能」において,簡単な操作で
地点登録が実現でき,地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより
地図に重畳して表示する構成部分にある。したがって,被告装置のうち,本件各特
許発明の構成(「車載ナビゲーション装置」)と異なる部分は,本件各特許発明の
本質的部分ではないから,被告装置は,均等の第1要件を充足する。
イ 本件特許発明1の課題解決原理は,過去に設定した目的地と同一の目的地を
設定する場合には簡単な操作により目的地の設定を可能とすることであり(本件明
細書1の段落【0003】),また,本件特許発明2の課題解決原理は,面倒な操
作をすることなくユーザ地点登録を可能とすることである(本件明細書2の段落
【0003】)。被告装置は,ナビゲーション装置の構成の一部を車両外の被告サ
ーバーにより実現しているが,本件各特許発明とその課題解決原理において同一で
ある。したがって,被告装置は,均等の第2要件を充足する。
ウ 被告装置は,その製造時において,ナビゲーション装置を車両の外に設けら
れたサーバーを含めて構成することは当業者において周知であったから(甲44),
「車載ナビゲーション装置」を被告装置のような構成に置換することは,当業者に
とって容易である。したがって,被告装置は,均等の第3要件を充足する。
エ 被告装置は,本件特許発明1及び本件特許発明2の特許出願時における公知
技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではない。した
がって,被告装置は,均等の第4要件を充足する。
オ 本件各特許発明の出願過程等において,「『車両には搭載されていない被告
サーバー』と『ユーザにおいて保持する本件携帯端末等』からなる(ナビゲーショ
ンサービス)」について,発明の技術的範囲に属しない旨を意識的に除外したこと
はない。したがって,被告装置は,均等の第5要件を充足する。
(被告の反論)
ア 時機に後れた主張等について
原告の予備的主張は,原審においては一度も触れられていなかった論点で,控訴
審において初めてされた主張であり,時機に後れたものとして却下されるべきであ
る。なお,原告の均等に係る主張は,本件特許発明1の構成要件1-A及び1-F,
並びに,本件特許発明2の構成要件2-A及び2-H(「車載ナビゲーション装
置」)の充足性に係るものである。しかし,被告装置は,本件各特許発明の構成要
件2-Bないし2-E及び2-Gの充足性も欠くから,均等の主張により,原告の
請求が肯定されるものではない。
イ 均等の主張に対する反論
以下のとおり,被告装置における「『車両には搭載されていない被告サーバー』
と『ユーザにおいて保持する本件携帯端末等』からなる(ナビゲーションサービ
ス)」は,本件特許発明1及び本件特許発明2の「車載ナビゲーション装置」と均
等であるとはいえない。
(ア) 第1要件について
以下のとおり,「車載ナビゲーション装置」における「車載」は,本件各特許発
明の本質的部分である。
すなわち,本件明細書1及び本件明細書2において,本件各特許発明が,使用可
能な記憶媒体としてCD-ROMあるいはDAT,ICカードなどの小型記録媒体
を用いることが前提とされ,CD-ROM等を使用しないことを提案するものでな
いこと等に照らせば,「車載ナビゲーション装置」の「車載」は,本件各特許発明
の本質的部分であるというべきである。
(イ) 第2要件について
被告装置の「携帯電話端末とサーバーを電話通信回線で接続して行うナビゲーシ
ョンサービス」は,本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」とは,以
下のとおり,課題解決原理,作用効果等において相違するから,置換可能とはいえ
ない。
すなわち,①本件特許発明は,目的地座標データとして目的地の属性のついたデ
ータをまとめて記憶する(本件特許発明1)のに対し,被告装置は,サーバーの記
憶容量の大きさと処理速度の速さ等から,過去に使用された全ての検索履歴のデー
タの中から任意(具体的にはカテゴリ)の条件により選択することが可能であり,
目的地を,過去に目的地として設定した場所のデータ以外のデータ等からも広く検
索し,選択できる点で,解決原理において相違する,②本件特許発明は,「複数の
サービス施設を示す表示データを記憶した第1記憶手段」,及び,これを「読み出
して」,「応じて」,「表示する」は,地域毎の種類別サービス施設のデータをま
とめてCD-ROM等の小型記憶媒体に記憶させ,これをそのまま読み出し表示す
る(本件特許発明2)のに対し,被告装置は,サーバーの記憶容量の大きさと処理
速度の速さ等からすべての施設のデータの中から任意の条件により選択することが
可能であるから,自動車の存在する地域に関係なく,検索条件に従って選択できる
膨大なデータベースを「店舗施設全文検索サーバー」に保存し,これを随時検索す
る点で,解決原理において相違する,③本件各特許発明の車載ナビゲーション装置
は,スタンドアローンの装置であり,電話通信回線の混雑・不通状態でも使用する
ことができるのに対し,被告装置は,携帯端末に対するサービスであるから,サー
バー接続ができないこと,本件各特許発明の車載ナビゲーション装置は,当該装置
を搭載した車両においてのみ使用が可能であるのに対し,被告装置は一定の電話会
社の携帯電話端末を有している者であれば,どの車両に搭乗しても使用可能である
点で,解決原理において相違する,④また,被告装置は,サーバーに地図データや
検索履歴を保管し,ルート検索処理を担わせることにより,携帯電話端末における
データの保存に要するメモリ容量を著しく減らすことが可能である,地図,サービ
ス施設等の情報を表示することが可能である,迅速かつ高度な検索が可能であるな
どの点で,本件各特許発明の車載ナビゲーション装置と,解決原理において相違す
る。
したがって,本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」を被告装置の
「携帯電話端末とサーバーを電話通信回線で接続して行うナビゲーションサービ
ス」への置換は可能といえない。
(2) 本件特許発明2についての無効理由の存在
(被告の主張)
本件特許発明2には,以下の無効理由がある。
ア 本件特許発明2の新規性欠如(乙7発明に基づく新規性欠如)
本件特許発明2は,乙7発明と構成が同一であり,作用及び効果も一致する。
したがって,本件特許発明2は,特許法29条1項3号の規定により特許を受け
ることができない。
イ 本件特許発明2の進歩性欠如(乙7発明に基づく容易想到)
仮に,本件特許発明2と乙7発明とは,本件特許発明2の構成要件2-C及び2
-Dにおいて相違するとしても,同相違点に係る構成は,乙7発明に,乙6発明,
乙8発明,乙10発明及び乙26発明(乙26の図4には,ディスプレイ画面上に
地図を表示するとともに,ホテル,駐車場,ガソリンスタンド,ディーラ等の複数
の施設名称を表示する「ガイドメニュー」をディスプレイ画面の所定位置(画面の
上部及び下部)に表示させ,施設名称の該当箇所を指で触ることによって,所望の
施設を選択できることが記載されている。)を適用することにより,容易に想到し
得る。
したがって,本件特許発明2は,特許法29条2項の規定により特許を受けるこ
とができない。
ウ 本件特許発明2の進歩性欠如(乙9発明に基づく容易想到)
本件特許発明2と乙9発明とは,本件特許発明の構成要件2-B,2-C,2-
D及び2-Eにおいて相違するとしても,同相違点に係る構成は,乙9発明に乙6
発明を適用することにより,当業者は,本件特許発明2に容易に想到し得る。
したがって,本件特許発明2は,特許法29条2項の規定により特許を受けるこ
とができない。
(原告の反論)
本件特許発明2に無効理由があるとの被告の主張は,以下のとおり失当である。
ア 乙7に基づく新規性欠如の主張に対し
本件特許発明2と乙7発明とは,以下のとおりの相違点があり,同一ではない。
(ア) 本件特許発明2においては,第1記憶手段から表示データを読み出して当該
表示データに応じて複数のサービス施設を表示器に表示させる手段,及び,当該表
示器に表示された複数のサービス施設のうちの1つのサービス施設を操作に応じて
指定する手段が備えられているのに対し,乙7発明においては,登録候補地点を1
つずつ地図上に表示させるとともに,併せてその記事情報(地点名称等)を表示す
る手段と,1つの登録候補地点が示されている時に,これを登録地点にセットする
地点登録手段が備えられているにすぎない点(構成要件2-C,2-D)
(イ) 本件特許発明2は,指定された1つのサービス施設に対応する地点座標デー
タを前記第1記憶手段から読み出す手段を備えるのに対し,乙7発明には,このよ
うな読み出す手段が設けられていない点(構成要件2-E)
(ウ) 本件特許発明2における表示手段は,地図が表示されているときに第2記憶
手段から当該登録した地点の座標データを読み出してその座標データが示す地図上
の地点を所定のパターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させるのに対し,
乙7発明の表示手段は,地図が表示されていても,当該地図に含まれる登録地点を
表示するためには,「地点」キーを順次押下して,1つずつ表示させなければなら
ない点(構成要件2-G)
以上のとおり,本件特許発明2と乙7発明とは,同一とはいえない。
イ 乙7発明に基づいて容易想到であるとの主張に対し
本件特許発明2の上記相違点に係る構成は,乙6,乙8,乙10及び乙26の記
載の技術を適用することによって,当業者が容易に想到し得るとはいえない。
ウ 乙9発明に基づいて容易想到であるとの主張に対し
本件特許発明2と乙9発明とは,以下のとおりの相違点がある。
(ア) 本件特許発明2の第1記憶手段には,複数のサービス施設を示す表示データ
及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データが予め記憶されているのに対
し,乙9発明のメモリには,地図情報が記憶されているにすぎない点(構成要件2
-B)
(イ) 本件特許発明2においては,第1記憶手段から前記表示データを読み出して
その前記表示データに応じて前記複数のサービス施設を前記表示器に表示させる手
段を有するのに対し,乙9発明においては,地図メモリから現在位置に対応するエ
リアの地図情報を呼び出して表示する手段を有するにすぎない点(構成要件2-
C)
(ウ) 本件特許発明2においては,表示器に表示された複数のサービス施設のうち
の1のサービス施設を操作に応じて指定する手段を有するのに対し,乙9発明にお
いては,表示された地図の任意の位置を指定する手段を有するにすぎない点(構成
要件2-D)
(エ) 本件特許発明2においては,指定された1のサービス施設に対応する地点
座標データを前記第1記憶手段から読み出す手段を有するのに対し,乙9発明にお
いては,指定された任意の地点の座標データを読み出す手段を有するにすぎない点
(構成要件2-E)
本件特許発明2は,地図上に存在するサービス施設のうち,ユーザに必要なもの
の存在地点を地図上で表示するための登録機能に関する発明であり,当該登録を面
倒な操作をすることなく実現できるようにしたものであるのに対し,乙9発明は,
地図上の任意の点に対して,地点の登録をする発明にすぎず,両者は異なる技術思
想に基づく発明であり,乙6発明は,地点登録機能とは無関係な発明であるから,
本件特許発明2の相違点に係る構成は,乙9発明に乙6発明を適用することによっ
て,容易に想到し得るとはいえない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,被告装置は,本件各特許権の文言侵害に当たらず,
また,均等侵害にも当たらないものと判断する。
1 争点(1) ア及び争点(2) アについて--「車載ナビゲーション装置」該当性
の有無(構成要件1-A及び1-Fの充足性,構成要件2-A及び2-Hの充足性
の有無)について
当裁判所は,被告装置は,構成要件1-A,1-F,2-A及び2-H所定の
「車載ナビゲーション装置」に該当しないと判断する。その理由は,以下のとおり
である。
(1) 「車載ナビゲーション装置」の意義--特許請求の範囲の記載
本件各特許発明の構成要件は,以下のとおりである。
「[本件特許発明1]
1-A 目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標デ―タ及び車両の
現在地を示す現在地座標デ―タに基づいて現在地から目的地に至る航行
情報を表示する車載ナビゲ―ション装置であって,
1-B 目的地座標デ―タを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと,
1-C 目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標デ―タを前記メモ
リの少なくとも前回の目的地座標デ―タの記憶位置とは異なる記憶位置
に書き込む手段と,
1-D 目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標デ―タを読み出
す読出し手段と,
1-E 読み出された目的地座標デ―タのうちから1の目的地座標デ―タを操作
に応じて選択し前記1の目的地座標デ―タの選択によって目的地を設定
する手段とを含むことを特徴とする
1-F 車載ナビゲ―ション装置。
[本件特許発明2]
2-A 地図を表示器に表示する車載ナビゲーション装置であって,
2-B 複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を
示す地点座標データを予め記憶した第1記憶手段と,
2-C 前記第1記憶手段から前記表示データを読み出してその前記表示データ
に応じて前記複数のサービス施設を前記表示器に表示させる手段と,
2-D 前記表示器に表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設
を操作に応じて指定する手段と,
2-E 指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを前記第1記憶
手段から読み出す手段と,
2-F 読み出された地点座標データを記憶する第2記憶手段と,
2-G 前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標
データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパ
ターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むこと
を特徴とする
2-H 車載ナビゲーション装置。」
本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載によれば,構成要件「1-F」に係
る「車載ナビゲーション装置」は,「1-B」ないし「1-E」記載の各手段を含
んだ,車に積み込まれているナビゲーション装置であることを必須の要件として規
定する。また,本件特許発明2に係る特許請求の範囲の記載によれば,構成要件
「2-H」に係る「車載ナビゲーション装置」は,「2-B」ないし「2-G」記
載の各手段を含んだ,車に積み込まれているナビゲーション装置であることを要件
として規定する。
ところで,「車載」の語義は,「車に荷物などを積みのせること。」,「荷物な
どを車に積むこと。」,「車に積みのせること。」(甲22ないし甲25)である
ことに照らすならば,「車載ナビゲーション装置」は,車両に積みのせられて,常
時その状態に置かれている「ナビゲーション装置」を意味するものと解される。そ
の理由は,以下のとおりである。
(2) 「車載ナビゲーション装置」の意義--各明細書の記載の参照
「車載ナビゲーション装置」の意義を詳細に検討するため,各明細書の記載を参
照する。
ア 本件明細書1の発明の詳細な説明には,「車載ナビゲーション装置」に関し
て,次のとおり記載されている(甲2の1)。
【0002】【背景技術】地図の道路上の各点を数値化して得られる道路データを
含む地図データをCD-ROM等の記憶媒体に記憶しておき,車両の現在地を認識
しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群を記憶媒体から読み出して
車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ上に映し出すとともに,その地図上に
車両の現在地を示す自車位置を自動表示させる車載ナビゲーション装置は例えば,
特開昭63-12096号公報に開示され既に公知である。
【0003】かかる車載ナビゲーション装置においては,現在地から目的地に至る
航行情報としての方位及び距離を方位センサ及び距離センサ等のセンサの出力に応
じて算出してディスプレイ上に表示することも行なわれている。目的地は運転者等
のユーザのキー操作によりデータ入力されてメモリに目的地座標データとして記憶
される。メモリに目的地座標データが記憶されている限り,その目的地座標データ
に基づいて現在地から目的地に至る方位及び距離が算出されてディスプレイ上に表
示されるが,車両の走行時に現在地から目的地までの距離が所定値以下になったと
き車両が目的地に到着したとして目的地座標データがメモリから自動的に消去され
て方位及び距離が表示されなくなる。従って,従来の装置においては,前回と同一
の目的地を新たな目的地として設定する場合であっても複雑なキー操作により設定
する必要があった。
【0004】【発明の目的】本発明の目的は,過去に設定した目的地と同一の目的
地を設定する場合には簡単な操作で目的地を設定することができる車載ナビゲーシ
ョン装置を提供することである。
【0005】【発明の構成】本発明の車載ナビゲーション装置は,目的地を設定し
その設定した目的地を示す目的地座標データ及び車両の現在地を示す現在地座標デ
ータに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲーション装
置であって,目的地座標データを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと,
目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データを前記メモリの少なく
とも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と,目
的地の設定の際にメモリに記憶された目的地座標データを読み出す手段と,読み出
された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し1
の目的地座標データの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とし
ている。
【0007】【実施例】図1は本発明による車載ナビゲーション装置の一実施例を
示すブロック図である。本ナビゲーション装置において,方位センサ1は車両の走
行方位を検出し,角速度センサ2は車両の角速度を検出し,距離センサ3は車両の
走行距離を検出するためのものであり,GPS(Global Positioning System) 装
置4は経度及び緯度情報等から車両の絶対的な位置を検出するためのものであり,
これら各センサ(装置)の検出出力はシステムコントローラ5に供給される。方位
センサ1としては,例えば地磁気(地球磁界)によって車両の走行方位を検出する
地磁気センサが用いられる。また,距離センサ3は車両のドライブシャフト(図示
せず)の所定角度の回転毎にパルスを発生するパルス発生器からなる。…
【0008】システムコントローラ5は各センサ(装置)1~4の検出出力を入力
としA/D(アナログ/ディジタル)変換等の処理を行なうインターフェース6と,
種々の画像データ処理を行なうとともにインターフェース6から順次送られてくる
各センサ(装置)1~4の出力データに基づいて車両の走行距離,走行方位及び現
在地座標(経度,緯度)等の演算を行なうCPU(中央処理回路)7と,このCP
U7の各種の処理プログラムやその他必要な情報が予め書き込まれたROM(リー
ド・オンリ・メモリ)8と,プログラムを実行する上で必要な情報の書込み及び読
出しが行なわれるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)9とから構成されている。
RAM9は本ナビゲーション装置の電源断時にもバッテリー(図示せず)の出力電
圧を安定化した電圧が供給されて後述する目的地座標データ,目的地記憶フラグ等
のデータが消滅しないようにバックアップされる。…
【0009】外部記憶媒体として,読出し専用の不揮発性の記憶媒体としての例え
ばCD-ROMが用いられる。なお,外部記憶媒体としては,CD-ROMに限ら
ず,DATやICカード等の不揮発性記憶媒体を用いることも可能である。CD-
ROMには,地図の道路上の各点をディジタル化(数値化)して得られる地図デー
タが予め記憶されている。このCD-ROMはCD-ROMドライバー10によっ
て記憶情報の読取りがなされる。CD-ROMドライバー10の読取出力はCD-
ROMデコーダ11でデコードされてバスラインLに送出される。
【0010】車両のいわゆるアクセサリスイッチ12を経たバッテリーからの車両
電源電圧がレギュレータ13で安定化されて装置各部の電源として供給されるよう
になっている。なお,上記したRAM9への供給電源はアクセサリスイッチ12を
介さずにレギュレータ13とは別の図示しないレギュレータで安定化される。CP
U7は,車両の走行時には,タイマー割込みにより所定周期で方位センサ1の出力
データに基づいて車両の走行方位を計算し,かつ距離センサ3の出力データに基づ
く一定距離走行毎の割込みにより走行距離及び走行方位から車両の現在地の座標デ
ータである経度及び緯度データを求め,その現在地点座標を含む一定範囲の地域の
地図データをCD-ROMから収集し,この収集したデータをRAM9に一時的に
蓄えるとともに表示装置16に供給する。
【0011】表示装置16は,CRT等のディスプレイ17と,V(Video)-R
AM等からなるグラフィックメモリ18と,システムコントローラ5から送られて
くる地図データをグラフィックメモリ18に画像データとして描画しかつこの画像
データを出力するグラフィックコントローラ19と,このグラフィックコントロー
ラ19から出力される画像データに基づいてディスプレイ17上に地図を表示すべ
く制御する表示コントローラ20とから構成されている。入力装置21はキーボー
ド等からなり,使用者によるキー操作により各種の指令等をシステムコントローラ
5に対して発する。そのキーとして目的地を設定するための設定キー,ディスプレ
イ17上に示された事項の選択用の数字キー及び過去に設定した目的地を呼び出す
ための目的地復帰キー(共に図示せず)等のキーが設けられている。
イ また,本件明細書2の発明の詳細な説明には,「車載ナビゲーション装置」
に関して,次のとおりの記載がある(甲2の2)。
【0002】【背景技術】地図の道路上の各点を数値化して得られる道路データを
含む地図データをCD-ROM等の記憶媒体に記憶しておき,車両の現在地を認識
しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群を記憶媒体から読み出して
車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ上に映し出すとともに,その地図上に
車両の現在地を示す自車位置を自動表示させる車載ナビゲーション装置は例えば,
特開昭63-12096号公報に開示され既に公知である。
【0005】【発明の目的】本発明の目的は,面倒な操作をすることなくユーザ地
点登録をすることができる車載ナビゲーション装置を提供することである。
【0006】【発明の構成】本発明の車載ナビゲーション装置は,地図を表示器に
表示する車載ナビゲーション装置であって,複数のサービス施設を示す表示データ
及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データを予め記憶した第1記憶手段
と,該第1記憶手段から表示データを読み出してその表示データに応じて複数のサ
ービス施設を表示器に表示させる手段と,表示器に表示された複数のサービス施設
のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段と,指定された1のサービ
ス施設に対応する地点座標データを第1記憶手段から読み出す手段と,読み出され
た地点座標データを記憶する第2記憶手段と,表示器に地図が表示されているとき
第2記憶手段から地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の
地点を所定のパターンにより地図に重畳して表示器に表示させる手段とを含むこと
を特徴とを特徴としている。
【0008】【実施例】図1は本発明による車載ナビゲーション装置の一実施例を
示すブロック図である。本ナビゲーション装置において,方位センサ1は車両の走
行方位を検出し,角速度センサ2は車両の角速度を検出し,距離センサ3は車両の
走行距離を検出するためのものであり,GPS(Global Positioning System) 装置
4は緯度及び経度情報等から車両の絶対的な位置を検出するためのものであり,こ
れら各センサ(装置)の検出出力はシステムコントローラ5に供給される。方位セ
ンサ1としては,例えば地磁気(地球磁界)によって車両の走行方位を検出する地
磁気センサが用いられる。また,距離センサ3は車両のドライブシャフト(図示せ
ず)の所定角度の回転毎にパルスを発生するパルス発生器からなる。…
【0009】システムコントローラ5は各センサ(装置)1~4の検出出力を入力
としA/D(アナログ/ディジタル)変換等の処理を行なうインターフェース6と,
種々の画像データ処理を行なうとともにインターフェース6から順次送られてくる
各センサ(装置)1~4の出力データに基づいて車両の走行距離,走行方位及び現
在地座標(経度,緯度)等の演算を行なうCPU(中央処理回路)7と,このCP
U7の各種の処理プログラムやその他必要な情報が予め書き込まれたROM(リー
ド・オンリ・メモリ)8と,プログラムを実行する上で必要な情報の書込み及び読
出しが行なわれるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)9とから構成されている。
RAM9は本ナビゲーション装置の電源断時にもバッテリー(図示せず)の出力電
圧を安定化した電圧が供給されて後述する経度及び緯度データ,地点表示パターン
データ,地点登録フラグ等のデータが消滅しないようにバックアップされる。…
【0010】外部記憶媒体として,読出し専用の不揮発性の記憶媒体としての例え
ばCD-ROMが用いられる。なお,外部記憶媒体としては,CD-ROMに限ら
ず,DATやICカード等の不揮発性記憶媒体を用いることも可能である。CD-
ROMには,地図の道路上の各点をディジタル化(数値化)して得られる地図デー
タの他に後述するサービスリスト表示データ,詳細表示データ,地点座標データと
しての経度及び緯度データ並びに地点表示パターンデータが予め記憶されている。
このCD-ROMはCD-ROMドライバー10によって記憶情報の読取りがなさ
れる。CD-ROMドライバー10の読取出力はCD-ROMデコーダ11でデコ
ードされてバスラインLに送出される。
【0011】車両のいわゆるアクセサリスイッチ12を経たバッテリーからの車両
電源電圧がレギュレータ13で安定化されて装置各部の電源として供給されるよう
になっている。なお,上記したRAM9への供給電源はアクセサリスイッチ12を
介さずにレギュレータ13とは別の図示しないレギュレータで安定化される。CP
U7は,車両の走行時には,タイマー割込みにより所定周期で方位センサ1の出力
データに基づいて車両の走行方位を計算し,かつ距離センサ3の出力データに基づ
く一定距離走行毎の割込みにより走行距離及び走行方位から車両の現在地の座標デ
ータである経度及び緯度データを求め,その現在地点座標を含む一定範囲の地域の
地図データをCD-ROMから収集し,この収集したデータをRAM9に一時的に
蓄えるとともに表示装置16に供給する。
【0012】表示装置16は,CRT等のディスプレイ17と,V(Video)-RA
M等からなるグラフィックメモリ18と,システムコントローラ5から送られてく
る地図データをグラフィックメモリ18に画像データとして描画しかつこの画像デ
ータを出力するグラフィックコントローラ19と,このグラフィックコントローラ
19から出力される画像データに基づいてディスプレイ17上に地図を表示すべく
制御する表示コントローラ20とから構成されている。入力装置21はキーボード
等からなり,使用者によるキー操作により各種の指令等をシステムコントローラ5
に対して発する。そのキーとしてディスプレイ17上に示された事項の選択用の選
択キー,ディスプレイ17の表示内容を切換えるための取消しキー及びRAM9に
データを記憶させるための地点登録キー(共に図示せず)等のキーが設けられてい
る。
ウ 上記(1) の特許請求の範囲の記載を基礎に,ア及びイの本件明細書1及び本
件明細書2(以下,これらを総称して「本件各明細書」ということがある。)の記
載を参照して,「車載ナビゲーション装置」の意義について判断する。
本件明細書1の段落【0003】ないし【0005】,及び,本件明細書2の段
落【0002】,【0005】,【0006】の各記載によれば,本件特許発明1
及び本件特許発明2の目的は,従来の車載ナビゲーション装置である「地図の道路
上の各点を数値化して得られる道路データを含む地図データをCD-ROM等の記
憶媒体に記憶しておき,車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地
域の地図データ群を記憶媒体から読み出して車両の現在地周辺の地図としてディス
プレイ上に映し出すとともに,その地図上に車両の現在地を示す自車位置を自動表
示させる車載ナビゲーション装置」に対して,一層の利便性・操作性を向上させる
ことを目的とするものである。すなわち,本件特許発明1では,「過去に設定した
目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な操作で目的地を設定することがで
きる」ための技術上の工夫を付加し,また,本件特許発明2では,「面倒な操作を
することなくユーザ地点登録をすることができる」ための技術上の工夫を付加した
点に,本件各特許発明の特徴がある。
ところで,本件明細書1の段落【0005】,【0007】ないし【0011】,
及び,本件明細書2の段落【0006】,【0008】ないし【0012】,並び
に各添付図面をみても,「ナビゲーション装置」の機能を発揮させるためには,安
定的な電力供給があることが必要であり,その電力は,「装置」と一体化している
車両から供給することを前提とした実施例が記載されているが,他方「装置」が車
両と一体化していない場合に,当然必要になると考えられる充電等の機能について
は,何らの記載,開示はない。
上記のとおりの本件各明細書の記載によれば,①本件各特許発明は,「車載ナビ
ゲーション装置は,出願前に公知であった従来型の「車載ナビゲーション装置」と
比較して,本件各特許発明の特徴たる新たな技術上の工夫を付加したものであるが,
そのような技術上の工夫がされたことにより,常時設置するとの態様について,必
然的に変更を伴うと理解すべき理由がないこと,②常時設置するとの態様に変更を
加えたと解されるに足りる記述は,明示的にも黙示的にも存在しないこと,③ユー
ザが,車両を利用しないときに,ナビゲーション装置を車外に搬出することの利便
性等を示唆するような記述も見あたらないこと,④ユーザが,車両を利用しないと
きに,ナビゲーション装置を車外に持ち出すことを含む趣旨であれば,特許請求の
範囲に,「車両用ナビゲーション装置」ないし「ナビゲーション装置」等の語が選
択されるのが自然であること等の事実を総合すれば,本件各特許発明の特許請求の
範囲に記載された「車載ナビゲーション装置」における「車載」とは,車両が利用
されているか否かを問わず,車両に積載されて,常時その状態に置かれていること
を意味するものと解するのが合理的である(なお,原告が提出する甲26(発明の
名称を「車載用映像再生装置」とする公開特許公報)は,ポータブル装置も含むこ
とが特許請求の範囲に明示的に記載され,ポータブルとして使用する場合の電源供
給についても発明の詳細な説明に開示されていることに照らすと,仮に,甲26に
おける「車載」の語について,本件各特許発明と上記の解釈と,異なる意義を有す
るものとして理解されることがあり得たとしても,そのことが,本件各特許発明の
解釈を左右するものとはいえない。)。
(3) 被告装置について
被告装置は,以下のとおりである(当事者間に争いがない。)。
ア 被告装置は,被告が管理・運営し,車両には搭載されていない被告サーバー
と,ユーザにおいて保持する本件携帯端末等から構成される。
イ 被告サーバーは,CPU,記憶手段,データ送受信部を含んで構成されてい
る。そして,当該記憶手段には,経路探索を行う探索エンジン,道路網データ及び
地図描画データが記憶されており,被告サーバーは,ルート探索結果に基づき,地
図描画データを作成することができる。また,本件携帯端末ごとの固有の情報を記
憶する記憶手段が設けられている。
ウ 本件携帯端末は,CPU,記憶手段,データ送受信部,GPS受信部,ディ
スプレイ,入力のためのキーを含んで構成されている。そして,当該記憶手段は,
被告サーバーで作成された地図描画データを表示するための地図レンダリングエン
ジンを含むアプリケーションが搭載されている。
エ 被告サーバーと本件携帯端末は,それぞれ次の機能を有する(弁論の全趣
旨)。
(ア) 本件携帯端末のGPS受信部によってGPS信号を受信することにより本件
携帯端末の所在地である現在地情報を取得し,また,本件携帯端末におけるキー操
作に基づき目的地が指定される。
(イ) これらの現在地情報及び目的地に関する情報は,被告サーバーに転送され,
被告サーバーにおいては,これらの情報に基づき,現在地から目的地に至るルート
を探索し,探索結果に基づき,地図描画データが作成される。
(ウ) 当該地図描画データは,本件携帯端末に転送され,本件携帯端末のディスプ
レイの画面上にルートの探索結果が表示される。
(エ) 移動中は,地図上に車両の現在地を表示し,車両の移動とともに地図がスク
ロールするマップモード(別紙被告装置説明書の画面1-⑫,1-⑯)等によりル
ート案内が行われる。
(4) 小括
以上のとおりであるから,被告装置は,「被告サーバー」はいうまでもなく,
「本件携帯端末」のいずれも,車両に積載されて,常時その状態に置かれることは
なく,被告装置は,「車載ナビゲーション装置」には該当しないというべきである。
被告装置は,本件特許発明1の構成要件「1-A」及び「1-F」,並びに,本件
特許発明2の構成要件「2-A」及び「2-H」を充足しない。
2 争点(1) エについて--「目的地座標データの選択」該当性の有無(構成要
件1-Eの充足性)について
当裁判所は,被告装置は,構成要件1-E所定の「目的地座標データの選択」を
有しないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 構成要件1-E所定の「目的地座標データの選択」の意義
ア 本件特許発明1の構成要件1-Eは,上記1の(1)記載のとおりである。
イ 本件明細書1の発明の詳細な説明には,上記1の(2) ア認定の段落【000
5】の記載のほか,次のとおりの記載がある(甲2の1)。
【0006】【発明の作用】本発明の車載ナビゲーション装置においては,目的地
が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データをメモリの少なくとも前回の
目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込んで過去に設定した目的
地の座標データを記憶して置き,目的地の設定の際にメモリに記憶された目的地座
標データを読み出し,読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標デ
ータを操作に応じて選択し1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する
ことが行なわれる。
【0012】次に,CPU7によって実行される目的地座標データのRAM9への
書き込みについて図3及び図4にフローチャートとして示した目的地設定ルーチン
に従って説明する。この設定ルーチンは,センサ1及び3の各出力データに基づい
て車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群をC
D-ROMから読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ17上に映
し出すとともに,その地図上に車両の現在地を示す自車位置を表示させる処理等を
なすメインルーチン(図示せず)の実行中において,入力装置21におけるユーザ
によるキー操作によって設定メニューが選択されたときに呼び出されて実行される
ものとする。
【0013】目的地設定ルーチンにおいて,CPU7は先ず,目的地設定方法の選
択要求を行なう(ステップS1)。これは例えば,ディスプレイ17上に「1.登
録選択設定 2.新規設定」の如く表示させて入力装置21によるキー操作により
いずれか一方を選択させることにより行なわれる。そして,選択のためにキー操作
されたか否かを判別し(ステップS2),キー操作されたならば選択結果が目的地
の新規設定であるか否かを判別する(ステップS3)。入力装置21の例えば,設
定キー或いは数字の「2」キーが操作されて新規設定が選択された場合には目的地
の指定要求を行なう(ステップS4)。これはディスプレイ17上に地図を表示さ
せて目的地を入力装置21によるキー操作により地図上にカーソルで指定するメッ
セージをその地図と共に表示させることにより行なわれる。そして,指定入力があ
ったか否かを判別し(ステップS5),指定入力があった場合にはその指定入力さ
れた地点の経度及び緯度データ(x,y)を地図データから得て目的地座標データ
DESTとしてRAM9に記憶させる(ステップS6)。
【0014】次いで,目的地記憶フラグFに1をセットし(ステップS7),目的
地座標データが設定されてRAM9へ書き込まれたことを記憶させて置く。そして,
ポインタPに1を加算し(ステップS8),ポインタPがRAM9の登録データテ
ーブルの最大アドレスAmaxより大であるか否かを判別する(ステップS9)。ポ
インタPはRAM9の登録データテーブルに現段階で最後に書き込まれた目的地座
標データの記憶位置のアドレスを示しており,RAM9への電源投入直後における
その初期値は例えば,最大アドレスAmaxにされている。P≦Amaxならば,目的地
座標データDESTを登録データテーブルのポインタPで指定されるアドレス位置
に書き込む(ステップS10)。P>Amaxならば,ポインタPを登録データテー
ブルの最小アドレスA1に等しくさせ(ステップS11),その後,ステップS1
0に移行して目的地座標データDESTを登録データテーブルに書き込む。…
【0015】入力装置21の例えば,目的地復帰キー或いは数字の「1」キーが操
作されてステップS3において登録選択設定と判別した場合にはアドレスAwをポ
インタPに等しくさせ(ステップS12),アドレスAwが登録データテーブルの
最小アドレスA1より小であるか否かを判別する(ステップS13)。Aw≧A1な
らば,そのアドレスAwで指定される登録データテーブルの記憶位置からデータを
読み出す(ステップS14)。Aw<A1ならば,アドレスAwを登録データテーブ
ルの最大アドレスAmax に等しくさせ(ステップS15),その後,ステップS1
4に移行する。ステップS14の実行後,読み出したデータが目的地座標データで
あるか否かを判別する(ステップS16)。…読み出したデータが目的地座標デー
タである場合には,読み出した目的地座標データが示す目的地を表示させるべくデ
ィスプレイ17上に表示すべく目的地座標データをグラフィックコントローラ19
に供給する(ステップS17)。これにより例えば,ディスプレイ17上に「目的
地:139°30′00″E,36°00′00″N」の如く目的地の経度及び緯
度が表示される。次いで,入力装置21の設定キーが操作されたか否かを判別する
(ステップS18)。…設定キーが操作されたならば,読み出した目的地座標デー
タを目的地座標データDESTとしてRAM9に記憶させ(ステップS21),ス
テップS7に進む。
【0016】従って,目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データ
がRAM9の登録データテーブルに記憶される。その記憶はアドレスA1からAmax
までにおいてアドレス順に繰り返し行なわれ,最新の目的地座標データの記録位置
のアドレスはポインタPによって示される。また,アドレスAmaxの次にはアドレ
スA1が指定され,いわゆるエンドレスで目的地座標データが記憶される。すなわ
ち,登録データテーブルには設定が新しい目的地座標データがポインタPで示され
るアドレスから順にアドレス数だけ記憶され得る。登録選択設定が選択された場合
には先ず,ポインタPによって示されるアドレスAwに記憶された前回の目的地座
標データが読み出され,その目的地座標データが示す経度及び緯度がディスプレイ
17上に表示される。次いで,入力装置21の目的地復帰キーが操作されたならば,
アドレスAwが1だけ減ぜられて前前回の目的地座標データが読み出され,その前
前回の目的地座標データが示す経度及び緯度がディスプレイ17上に表示される。
よって,目的地復帰キーが操作される毎に現在表示されている目的地より1だけ前
に設定された目的地の経度及び緯度がディスプレイ17上に表示される。目的地の
経度及び緯度がディスプレイ17上に表示されている状態で設定キーが操作される
と,表示されている目的地の経度及び緯度データが目的地座標データDESTとし
てRAM9に記憶され,ポインタPが1だけ加算されて,目的地座標データDES
Tが登録データテーブルのポインタPで指定されるアドレス位置に書き込まれる。
【0018】次いで,CPU7によって実行される現在地から目的地への距離及び
方位を算出する動作について図5にフローチャートとして示した距離及び方位算出
ルーチンに従って説明する。この算出ルーチンは,上記のメインルーチン中のサブ
ルーチンとして処理されるものである。距離及び方位算出ルーチンにおいて,CP
U7は先ず,目的地記憶フラグFが1であるか否かを判別する(ステップS31)。
F=0ならば,目的地座標データDESTがRAM9へ書き込まれていないので,
直ちに本ルーチンを終了する。F=1ならば,目的地座標データDESTがRAM
9へ書き込まれているので,目的地座標データDESTをRAM9から読み出し
(ステップS32),センサ1及び3の各出力データに基づいて車両の現在地を示
す経度及び緯度データからなる現在地座標データを求める(ステップS33)。…
ステップS33の実行後,目的地座標データ及び現在地座標データに基づいて現在
地から目的地への距離D及び方位θを算出し(ステップS34),算出した距離D
及び方位θをディスプレイ17上に所定期間だけ表示すべく距離D及び方位θを示
すデータをグラフィックコントローラ19に供給する(ステップS35)。…
【0019】なお,上記した実施例においては,目的地を示すデータとして目的地
座標データだけを登録データテーブルに書き込んでいるが,目的地座標だけでなく
目的地名をも含むデータを書き込み,目的地名をディスプレイ17に表示させても
良い。また,ディスプレイ17上に一度に複数の目的地名や目的地の経度及び緯度
を表示させてその表示させた複数の目的地のうちからキー操作により1の目的地を
選択させるようにしても良い。
【0020】【発明の効果】本発明の車載ナビゲーション装置においては,目的地
が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データをメモリの少なくとも前回の
目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込んで過去に設定した目的
地の座標データを記憶して置き,目的地の設定の際にメモリに記憶された目的地座
標データを読み出し,読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標デ
ータを操作に応じて選択し1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する
ことが行なわれる。よって,過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合
には簡単な選択操作だけで済むので,目的地を容易に設定することができる。
ウ 上記アの特許請求の範囲の記載を基礎とし,イの本件明細書1の記載を参照
して,構成要件1-Eの「読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座
標データを操作に応じて選択」の意義について判断する。
(ア) 本件特許発明1は,読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座
標データを操作に応じて選択し1の目的地座標データの選択によって目的地を設定
する手段とを含むことを特徴とする発明である(段落【0005】)。「目的地座
標データ」は,目的地を設定しその設定した目的地を示すものであり,ユーザが目
的地設定方法として「登録選択設定」を選択した場合,「RAM9の登録データテ
ーブル」に記憶された「目的地座標データ」が読み出され,読み出された「目的地
座標データ」のうちの1がユーザの操作に応じて選択され「目的地座標データDE
ST」としてRAM9に記憶されることによって「目的地」が「設定」されること
(ユーザが目的地設定方法として「新規設定」を選択した場合には,ディスプレイ
上に表示された地図上のカーソルで目的地を指定することによる入力を行うことに
よって「目的地」が「設定」される。),航行情報を表示するために必要な「現在
地から目的地への距離D及び方位θ」は,「目的地座標データDESTをRAM9
から読み出し」た上でこれと現在地座標データに基づいて算出されるものである。
そうすると,本件明細書1の発明の詳細な説明には,「RAM9の登録データテー
ブル」に記憶された「目的地座標データ」の読み出しは,「目的地」を「設定」す
べく1の目的地座標データを「選択」することに先立って行われることが開示され
ているといえる。
以上によれば,構成要件1-E所定の「読み出された目的地座標データのうちか
ら1の目的地座標データを操作に応じて選択」とは,ユーザの操作による「選択」
に先立って「目的地座標データ」が読み出され,そのうちの1から目的地の「選
択」が行われることを指す。
(イ) これに対し,原告は,本件明細書1の段落【0016】,【0019】の記
載からすれば,構成要件1-Eにおいては,登録データテーブルに,目的地座標デ
ータとともに当該目的地の目的地名のデータを書き込み,当該目的地名のデータに
基づいてディスプレイに複数の目的地名を表示させ,そのうちから1の目的地を選
ぶことによって当該目的地の目的地座標データが選択され,目的地が設定されるこ
とも当然に予定されている旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり誤りである。
すなわち,本件明細書1の段落【0016】,【0019】の記載によっても,
ユーザの操作による「選択」に先立って「RAM9の登録データテーブル」から読
み出されるデータは,「目的地座標データ」又は「目的地名をも含む目的地座標デ
ータ」にすぎない。確かに,「目的地名」が,ディスプレイ上に表示されることが
あるが,そのような表示がされたとしても,そのことが,「目的地座標データ」と
関係なく,直接,「目的地名」から目的地の「選択」が行われることを意味するも
のではない。この点の原告の主張は,採用の限りでない。
(2) 被告装置について
被告装置は,以下のとおりである(甲6,7,乙16,弁論の全趣旨)。
設定された目的地の履歴を利用する場合,「検索履歴」画面(別紙被告装置説明
書の画面2-⑬)において表示された目的地名等の情報(例えば「プランタン銀座
(09/10 09:41 修正)」,なお,座標データは含まれない。)が選択されることに
より「目的地」画面(同2-⑯)に遷移する。この画面において,「地図(確認/
修正)」を選択すると,選択された情報の地点(例えば「プランタン銀座(09/10
09:41 修正)」)を示すピンク色の星印が同地点付近の地図上に表示される(同2
-⑰)。また,上記の「目的地」画面において,「今すぐ出発」を選択すると,携
帯端末によるGPS信号の受信が開始され,選択された情報が示す履歴として格納
された座標データが読み出され,車両の現在地の経度・緯度を含む現在地の情報に
基づき,「現在地から目的地までのルートが探索されたことを示す画面」に遷移し,
この画面において,「ルート地図確認」を選択すると,現在地から目的地までの
「ルートを示す地図の画面」に遷移する。
(3) 小括
以上のとおり,被告装置においては,ユーザの操作による「選択」に先立って
「目的地座標データ」が読み出されることはない。したがって,被告装置は,「読
み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選
択」によって目的地を設定することはないから,構成要件1-Eを充足しない。
3 当審において追加された当事者の主張(1)--均等侵害について
原告は,予備的に,被告装置の「携帯電話端末とサーバーを電話通信回線で接続
して行うナビゲーションサービス」は,本件特許発明1の構成要件1-A及び1-
F,本件特許発明2の構成要件2-A及び2-H所定の「車載ナビゲーション装
置」と均等である,と主張する。
原告の上記予備的主張は,控訴審において新たに提出された攻撃方法であり,時
機に後れたものと評価されるべきであるが,その点はさておいても,原告の予備的
主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,本件各特許発明における「車載ナビゲーション装置」における「車
載」の意義は,前記のとおり,車両が利用されているか否かを問わず,車両に積載
されて,常時その状態に置かれていることを意味する。このような状態に置かれて
いることにより,ユーザは,ナビゲーションの利用を欲したにもかかわらず,持ち
込みを忘れるなどの事情によって,その利用の機会を得られないことを防止できる
効果がある。これに対して,被告装置は,前記のとおり,端末等は携帯(保持)さ
れているものであるから,ユーザは,端末等を車内に持ち込まない限り,車両用の
ナビゲーション装置としては利用することができない。したがって,本件各特許発
明における構成要件「車載ナビゲーション装置」を被告装置の「送受信部を含んだ
携帯端末」に置換することによって,本件各特許発明が「ナビゲーション装置が車
載されたこと」としたことによる課題解決を実現することはなく,本件各特許発明
において「車載ナビゲーション装置」としたことによる作用効果が得られず,結局,
本件各特許発明の目的を達することができない。
以上のとおりであり,被告装置におけるユーザにおいて保持する本件携帯端末が,
本件特許発明1の構成要件1-A及び1-F,本件特許発明2の構成要件2-A及
び2-H所定の「車載ナビゲーション装置」と均等であるとする原告の主張は採用
できない。
第4 結論
原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がない
から棄却すべきものであり,これと同旨の原判決は正当である。原告は,その他縷
々主張するが,いずれも上記認定判断を左右しない。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
池 下 朗
裁判官
武 宮 英 子
別紙
物件目録
1 「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービスに係るナビゲーショ
ン装置
2 「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービスに係る携帯端末用プ
ログラム
3 「EZ助手席ナビ」という名称のナビゲーションサービスに係るサーバー用プ
ログラム

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