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平成23(ネ)10033損害賠償請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成23年11月28日
事件種別 民事
当事者 被告)ソニー株式会社
控訴人(一審原告)承鎂源數位科技股份有限公司
被控訴人(一審被告)ソニー株式会社
法令 不正競争
民法709条1回
キーワード 侵害29回
損害賠償12回
進歩性6回
新規性6回
特許権5回
ライセンス1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 本件は,台湾法人で一審原告である控訴人が,日本法人で一審被告である被 控訴人に対し,被控訴人が平成18年12月1日から同19年11月30日ま での間に小型USBフラッシュメモリを台湾の会社に製造委託してこれを日本 に輸入して販売したことに関し, ①上記小型USBフラッシュメモリは控訴人が製造する商品の形態を模倣 したものであって,被控訴人による上記輸入・販売は不正競争防止法(以 下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争行為に該当する, ②上記小型USBフラッシュメモリは被控訴人が控訴人から示された営業 秘密を不正に使用して製造されたものであって,不競法2条1項7号の不 正競争行為に該当する, ③被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造は,台湾の著作権 法上,控訴人の著作物である小型USBフラッシュメモリの設計図の著作 権(翻案権)を侵害する, ④被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造・販売は,控訴人 の技術情報を使用して行われたものであって,民法709条の不法行為に

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判決文

平成23年11月28日 判決言渡
平成23年(ネ)第10033号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地裁平成1
9年(ワ)第31965号)
口頭弁論終結日 平成23年9月5日
判 決
控訴人(一審原告) 承鎂源數位科技股份有限公司
訴訟代理人弁護士 鈴 木 五 十 三
同 山 本 晋 平
同 尾 野 恭 史
被控訴人(一審被告) ソ ニ ー 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 三 好 豊
同 上 村 哲 史
同 佐 々 木 奏
同 内 田 晴 康
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成20年2月2日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要(略号は原判決の例による。)
1 本件は,台湾法人で一審原告である控訴人が,日本法人で一審被告である被
控訴人に対し,被控訴人が平成18年12月1日から同19年11月30日ま
での間に小型USBフラッシュメモリを台湾の会社に製造委託してこれを日本
に輸入して販売したことに関し,
①上記小型USBフラッシュメモリは控訴人が製造する商品の形態を模倣
したものであって,被控訴人による上記輸入・販売は不正競争防止法(以
下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争行為に該当する,
②上記小型USBフラッシュメモリは被控訴人が控訴人から示された営業
秘密を不正に使用して製造されたものであって,不競法2条1項7号の不
正競争行為に該当する,
③被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造は,台湾の著作権
法上,控訴人の著作物である小型USBフラッシュメモリの設計図の著作
権(翻案権)を侵害する,
④被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造・販売は,控訴人
の技術情報を使用して行われたものであって,民法709条の不法行為に
該当する,
を理由として(上記①ないし④は選択的併合),控訴人に生じた損害541億
8000万円(逸失利益540億円及び弁護士費用1億8000万円)の一部
である20億円(逸失利益19億円及び弁護士費用1億円)の賠償及びこれに
対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月2日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 平成23年3月2日に言い渡された原判決は,上記①ないし④の理由に該当
する事実は認められないとし,控訴人の請求を棄却したので,これに不服の控
訴人が本件控訴を提起した。
3 本件控訴は,上記本訴請求のうち,損害賠償1億円と平成20年2月2日か
らの遅延損害金の支払を求める限度でなしたものである(一部控訴)。
第3 当事者の主張
当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決記載のとおりである
から,これを引用する(ただし,「原告」は「控訴人」と,「被告」は「被控
訴人」と,それぞれ読み替える。)。
1 当審における控訴人の主張
(1) 被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人商品(原告商品)の形態を模倣し

ア 不競法2条1項3号の保護されるべき「商品」
不競法2条1項3号の「商品」として保護されるか否か,その保護対象
となる始期の問題は,事業者間の公正な競争の実現という不競法の目的,
とりわけ同法の他人の経済的成果へのただ乗りの防止という趣旨を踏ま
えて解釈すべきであり,事案によって販売前でも保護され得るのであっ
て,試作品や設計図の完成段階であってもその模倣は違法と解すべきであ
るし,見本市や展示会でも出品があれば,当然その時点で保護対象となる
と解すべきである。また,日本で販売されていなかったとしても,外国商
品の模倣も,ここにいう模倣に該当する。
ところが,原判決は,上記の点について何ら判断しておらず,誤りであ
る。
すなわち,原判決は,「本件協議前に原告商品が開発済みであったとし
て原告が主張する根拠は,いずれも理由がなく,かえって,本件協議が開
始されるに当たって,被告から原告に対し小型USBフラッシュメモリの
形態及び寸法を記載したインベンテック設計図が送付されていたと認め
られるから,本件協議前に,原告商品が,その回路構成等を含めて開発済
みであったと認めることはできない。」(原判決69~70頁)と判断す
る。 しかし,上記のとおり,この判示は,原告商品が開発済みであった
か否かについてのみ着目しており,優に認められるべき控訴人が提供した
技術情報の価値を正当に認定・評価しておらず,また,それゆえに,保護
の始期の問題として,競業者にとって有用性があると認められるべきであ
る商品の技術情報は,販売段階に至った製品の形に結実していない場合で
も,不競法2条1項3号の問題としても,保護に値し得ることを看過した
点で誤っている。
また,小型USBフラッシュメモリの形態及び寸法を記載したインベン
テック設計図(乙8の2)が送付されていたという事実のみで開発済みで
あったことを否定できる事情として考えている点も,重大な誤りであり,
控訴人は,基本的に乙8の2に基づいて作業を進めていない。
さらに,原判決は,インベンテック設計図1枚の送付をもって,その後
の控訴人提供情報の価値を認めないという意味でも誤りである。控訴人が
提供した本件技術情報の価値・独自性が否定され得ないことは,乙8の2
とその後の控訴人の提供した本件技術情報を比較すれば一目瞭然である。
イ 控訴人における控訴人商品(原告商品)の先行開発
原判決は,控訴人における先行開発の事実を認めていないが(原判決5
4~58頁),以下のとおり,その事実認定は誤りである。
(ア) 控訴人は,メモリ(記憶媒体)関連製品の開発・製造について高い技
術力を有していた。
(イ) そして,控訴人においては,被控訴人との接触以前の段階で,小型U
SBフラッシュメモリに関し複数のコントローラによる設計選択が存
在していた。この経過は,次の3つの段階に分けて考えることができる。
a 平成16年(2004年)7月~8月
内部構成も含めて初版製品の開発設計を終えた時期であり(甲2
1,甲40,甲49,甲50),対応コントローラであるSMI社製
SM321の設計図が最初に完成した時期と符合する(甲66)。
b 平成16年(2004年)11月
PDCアーキテクチャによって構成される小型USBフラッシュ
メモリについて,そのコントローラ周り・回路構成が開発・確定され
た(甲60,甲66,甲72,甲73)。
c 平成17年(2005年)1月~3月
控訴人は,平成17年(2005年)3月10日~16日にドイツ
・ハノーバーで開催された展示会「CeBIT」に,コントローラと
してSM321,フラッシュメモリとしてTSOPを選択して設計し
た小型USBフラッシュメモリを出展した(甲33,甲27の3,甲
47,甲48,甲59の2,甲60,甲61,甲62,甲63)。
(ウ) 以上の開発プロセスにおいて,「コントローラの用い方」(コントロ
ーラの配置場所,方向,ピン配置を含むコントローラ内部構成とコント
ローラ周りの部品配置・接続)の検討と,「コントローラ自体の開発設
計」とが並行的に進んだこと,SM321が少なくとも設計当初段階で
は,控訴人商品(原告商品)としての小型USBフラッシュメモリ(P
DC・SM321系小型USBフラッシュメモリ)における使用を想定
したコントローラとして開発設計されるプロセスを経たこと,まず汎用
性が高いSM321・LQFP-48が開発され,その上で,さらなる
小型化を目指してLGA-44の開発がなされたこと,当時SM321
を使用したUSBフラッシュメモリ製品は他に存在せず控訴人のノウ
ハウの蓄積の結果が反映されたものであること,控訴人がSMI社によ
るこの開発過程をよく知っており深く関与していたこと,以上の事実は
明らかである。
(エ) この点に関し,被控訴人はこれに反するかのような乙42(SMI社
社長の陳述書)を提出しているが,同証拠には現場の技術者等による経
過の詳細な説明があるわけでもなく,具体性が全くない。対照的に,控
訴人の詳細かつ具体的な説明は,開発過程への深い関与なしにできるよ
うなものではない。圧倒的な経済的地位を持つ重要な取引先との関係を
優先せざるを得ないSMI社長が被控訴人に提出した,内容の極めて薄
い陳述書は,控訴人の主張を否定できるような信用性を有するものでは
ない。
したがって,その内容・信用性を詳しく検討することなく乙42に安
易に依拠した原判決(55頁)の判断は誤りである。
(オ) また,原判決は,控訴人商品(原告商品)が既に開発済みであった証
拠として控訴人が提出した甲61~64について,フォルダ内に保存さ
れたファイルの内容が不明であるとか,作成時期を示す客観的な証拠は
ないなどとして,これらの図面が本件協議開始前に作成されていたと認
めることはできず,これをもって,控訴人が平成17年3月に製品の量
産に必要な準備を行っていたということはできないと判示する(原判決
56頁イ(イ) )が,甲61~63のデータが平成17年1月19日に,
甲64が平成17年4月28日に,それぞれ控訴人において開発され存
在していた事実は甲77及び甲78により明らかである。
ウ インベンテック社における開発・検討状況についての判断の誤り
原判決は,インベンテック社と被控訴人との間の検討状況を示すものと
して①~⑥の事実(原判決61~62頁)を指摘した上で,「以上のこと
からすれば,・・・小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸法と
基本的な回路構成は,被告及びインベンテック社において検討済みであっ
たと認められる。」(同62頁)と判示する。
しかし,実際には,被控訴人からは,回路構成を含む内部構造の問題が
解決されたことやその内容,当該設計に基づいて製造が可能であったこと
(例えば,ワーキング・サンプルに関する被控訴人による評価の内容)等
を示す証拠は提出されていない。被控訴人は控訴人に手交したとするワー
キング・サンプル(乙7)の稼動に関する報告書を提出しているが(乙5
2),乙7の手交の事実自体証明されておらず,原判決も特段認定してい
ない。原判決が認定する③④ではワーキング・サンプルに触れているが,
被控訴人がこれをどう評価していたか,商品化レベルの作動状況に達して
いたか否かに関する証拠はない。
このような証拠は,小型USBフラッシュメモリの「開発済み」の証拠
とはいえないことはもちろんであるが,原判決が認定するような「基本的
な回路構成」が検討済みであったことを示すものでもあり得ない。また,
原判決が認定する①~⑥は,いずれも「回路構成」に関する検討状況を示
すものではない。原判決は,証拠上,どこにも存在しない事実を勝手に認
定したものであって,極めて不合理である。
エ 乙1に関する認定・評価の誤り
被控訴人が乙8の1の添付ファイルと主張する乙8の2を控訴人が被
控訴人から受領したか否かについての事実経過に関して,原判決は,乙1
(電子メール)についての認定・評価を示したが,次のとおり,その認定
・評価については,重大な事実誤認がある。
(ア) 事実誤認①
原判決は,「また,前記アの被告とインベンテック社との間の小型U
SBフラッシュメモリの開発経過及び平成17年3月7日の時点でイ
ンベンテック設計図が存在していることに照らして,前記の同日午後2
時39分付け電子メールの送付の時点で,ガーバーファイルが存在し,
かつ,その交付を求めることも,何ら不自然ではない。」とする(原判
決65頁)。
しかし,小型USBフラッシュメモリのガーバーファイルを控訴人が
この時点で被控訴人に送付を求めることなどあり得ない。すなわち,控
訴人は,被控訴人がCOB技術による小型USBフラッシュメモリを開
発していないと認識している以上,そのガーバーファイルの送付を求め
ることはあり得ないし,控訴人は被控訴人からCOB技術以外での小型
USBフラッシュメモリを受託したとは認識していないのであるから,
COB技術以外のメモリ実装に基づくガーバーファイルの送付を求め
ることもないからである。
以上からすれば,控訴人が乙1により求めたのは,通常サイズのUS
Bフラッシュメモリに関するガーバーファイルと認定すべきであって,
原判決の上記認定は誤りである。
(イ) 事実誤認②
原判決は,上記事実誤認①の実質的な根拠について,「同電子メール
中の『ご興味をお持ちのUSBフラッシュカード』,『ご心配されてい
る規格の全部を強調するか,もしくは,我々より通常の規格とするよう
に致します。』との記載からすれば,これは,『通常の規格』とは異な
るUSBフラッシュメモリを話題にしているものとみるのが自然であ
る。」(事実誤認②)とし,また,「・・・Aが原告から送付を受ける
ことを期待していた見積書は,通常のUSBフラッシュメモリに関する
ものではなく,小型USBフラッシュメモリに関するものであったと認
められる。」と判示する(原判決65頁)。
しかし,上記2つの文のうち,まず後者について,これ自体は正しい
認定であるとしても,事実誤認①の根拠とはなり得ない事実である。す
なわち,被控訴人が期待していたものと異なる見積書(通常サイズの小
型USBフラッシュに関する見積書)を控訴人が送ったこと(甲27の
1)は証拠上明らかであり(甲27の2),原判決もそれを前提として
認定しているのであるが,そこから導かれるのは,この点で控訴人の認
識と被控訴人の認識がずれていたこと,そして,そうである以上,その
一方(被控訴人)の認識を根拠として,他方の乙1(控訴人担当者の電
子メール)の記載意図を同じ線で認定することは誤り,ということであ
る。実際,甲27の1に関する経過から判明するのは,控訴人としては,
まずは通常サイズのUSBフラッシュメモリについての製造委託が先
行し,容易に送ることができる見積書を送るのが順序だと考えていた,
ということである。このように,甲27の1は通常サイズの見積書であ
ったから,その用意として乙1で小型USBのガーバーファイルを求め
たはずはないのである。
上記のとおり,乙1が,甲27の1送付の見積書の用意を意識して送
られたと理解できる以上(原判決65頁も,実はそのような論理に立っ
ていると思われる。),乙1は,通常サイズの小型USBフラッシュメ
モリのガーバーファイルを求めるものであった,というのが必然的な事
実認定となるはずである。
そして,「もしくは,我々より通常の規格とするように致します。」
という記載は,英語では「or we will follow as normal spec」であり,
被控訴人による規格(仕様) の指定(ハイライト)がなければ,控訴
人は通常の規格(仕様)で作業する旨を告げている文章である。市場に
出ていない開発中の新製品であった小型USBフラッシュメモリにつ
いて「通常の規格(仕様)」などというものは存在しなかった。したが
って,この一文のみをもってしても,乙1は,通常サイズのガーバーフ
ァイルを求めるもの,と認定するのが自然である。仮に百歩譲ったとし
ても,この記載自体から小型サイズに関する記載であると決定づけるこ
とは不可能である。「通常の規格(仕様)とするように致します。」と
いう表現があるのに,原判決が「『通常の規格』とは異なるUSBフラ
ッシュメモリを話題にしているものとみるのが自然である。」という認
定をするのは,全く理解できない異常な認定である。
(ウ) 以上のとおり,原判決は,根拠薄弱の認定(事実誤認②)に基づいて,
他の認定(事実誤認①)を積み重ねており,事実認定に誤りがあること
は明らかである。
(2) 被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人から示された営業秘密を不正に使
用した
ア 控訴人が提供した本件技術情報の価値
原判決は,本件技術情報は公知であるか有用性がないと判示する。
しかし,控訴人が提供した技術情報の価値は,それ以前の控訴人におけ
る開発蓄積が認定されるか否かにかかわらず,以下のとおり,極めて価値
の高いものであった。
(ア) 小型サイズについては,通常サイズにかかる見積りを受けた被控訴人
がむしろ小型サイズについての技術情報の提供を求めたところから,控
訴人に情報提供を求める電子メール上のやり取りが開始され(甲27の
2,甲27の3),以後,控訴人は専らその保有する開発・商品化ノウ
ハウに基づいて小型サイズに関する技術情報を被控訴人に示し,被控訴
人の要望を受けながら,控訴人がその技術情報を加工し提供していく,
という経過をたどった(甲27の4~甲27の73)。
つまり,小型サイズに関しては,被控訴人は控訴人に対し専ら技術情
報の提供を求め,控訴人から無償で技術情報の提供を受け,その後に,
控訴人の承諾なく当該技術情報を利用して被控訴人各商品(被告各商
品)を開発・製造したということである。
(イ) 次に,具体的に小型USBフラッシュメモリに関する経過をみると,
被控訴人側におけるCOB版小型USBメモリの未開発については争
いがないと解されるところ,仮に被控訴人の主張に従うならば,被控訴
人の送付にかかる乙8の2及び乙8の3(インベンテック設計図等)は,
被控訴人とのやり取りを通じてインベンテック社が作成したものであ
るから,これらの図面等は,非COBメモリ実装を前提とした小型US
Bフラッシュメモリの開発設計情報ということになる(以下「被控訴人
非COB情報」という)。
(ウ) 他方,その後,控訴人が被控訴人に送付したのは,4月18日ころま
では,被控訴人の依頼に応えたCOB技術を用いたメモリ実装を前提と
した設計開発情報であった(以下「控訴人COB情報」という。)。
そして,控訴人が,COB技術以外のメモリ実装方法による容量増大
について提起したのは平成17年4月中旬以降であるが,この時期以
降,同年7月1日までの間,控訴人はCOB技術を前提とせずに容量増
大の要請にも応える形で多くの技術情報を提供した(以下「控訴人非C
OB情報」という。)。これが被控訴人との接触以前の控訴人の開発蓄
積に基づくものであったか否かは本件の争点であるが,被控訴人も,控
訴人非COB情報の送付・提供の事実自体は争っていない。
(エ) 本件で,被控訴人は,控訴人が被控訴人に送付した情報については,
控訴人COB情報も,控訴人非COB情報も,ことごとく被控訴人非C
OB情報に基づくものであったと主張し,それゆえ複製権侵害もなく,
「他人の」ものでもなく,控訴人の営業秘密の利用もない,と主張して
いる。また,原判決も,かなりの部分でこれに沿う認定をしている(原
判決69~70頁等)。
(オ) しかし,実のところ,被控訴人が控訴人に送った被控訴人非COB情
報として主張しているのは,実質的に乙8の2(インベンテック設計図)
にすぎない。なお,被控訴人の主張では,乙8の2だけでなく新製品の
回路構成までも示す乙8の3まで同時に控訴人に秘密保持契約も締結
せずに送ったとされているが,平成17年3月7日当時までの被控訴人
とインベンテック社との連絡内容をみても(乙29の1~乙29の26
の2),乙8の3は登場しない。つまり,乙8の2と同時に送付した書
面であると被控訴人が主張する乙8の3は,小型USBフラッシュメモ
リの開発過程で平成17年3月7日までに被控訴人及びインベンテッ
ク社が保有するに至っていた小型USBフラッシュメモリに関する資
料である,という証拠を被控訴人は提出していないのである。
(カ) インベンテック社における開発状況について,平成17年3月から7
月当時,商品化可能な段階に至っていたという証拠は何ら提出されてい
ないのであって,そのような不十分な検討状況であったからこそ,被控
訴人は控訴人への接触・委託を進めようとしたのである。
(キ) 以上のとおり,そもそも被控訴人非COB情報と控訴人COB情報は,
質的に異なる価値を有する。すなわち,被控訴人非COB情報は,非C
OB実装を前提とした1枚の図面にすぎないのに対して,控訴人COB
情報は,控訴人が当初から設計に取り掛かり,控訴人のノウハウに基づ
いてCOB実装による小型USBフラッシュメモリのための各種情報
(2D図面に限らない)を被控訴人の要望に応じて提供していったもの
である。
(ク) LEDの位置についても同様である。被控訴人は,LEDの設置や光
線方向について,「アイディアを出したのは被控訴人」などと主張して
いるが,被控訴人の質問は単なる質問であって「アイディア」と呼べる
ようなものでは全くなく,分からないから控訴人に質問していた,とい
う経過であったことは明らかである。
(ケ) 以上のような経過に照らせば,仮に控訴人が乙8の2(インベンテッ
ク設計図)を当時受領していたことを前提としても,また,仮にその内
容をその後の検討において何らかの形で参照していたとしても,控訴人
COB情報及び控訴人非COB情報に占める乙8の2の比重は僅かで
あること,逆に,控訴人の寄与・貢献度が極めて大きいことは明白であ
る。
(コ) なお,以上のように,被控訴人にとって有用な情報を控訴人が提供で
きたのは,被控訴人による接触以前に控訴人において独自の開発設計が
なされた蓄積があったからに他ならず,それ抜きには説明不可能といえ
る。仮にそうした控訴人の独自の開発蓄積が証拠上十分に認められない
としても,少なくとも前記の経過自体から,控訴人COB情報及び控訴
人非COB情報に占める控訴人の寄与・貢献度が極めて大きいことは本
件の証拠上明白であり,この点を無視するならば,その判断は採証法則
に背くものであって誤りというべきである。
イ 本件PCBAサンプルの授受
(ア) 原判決(71頁以下)は,「確かに,本件協議においてやりとりさ
れた原告と被告との間の電子メールの中には,これに触れたものとも解
し得る記載があるものがある(甲27の36,甲27の43)。」と述
べながら,「原告と被告との間の電子メールのやりとりにおいては,当
該PCBAサンプルを検討・評価したことをうかがわせる記載はないこ
と」「被告の原告に対する依頼は,COB技術を使用した小型USBフ
ラッシュメモリの製造であったと認められるところ,同月28日付け電
子メール(甲27の32,27の33)までCOB以外の他のメモリも
検討対象に加えることをうかがわせる電子メールの記載はなく,それ以
前にメモリとしてTSOPを使用したPCBAサンプルを交付すると
いうことは不自然であること」「他にPCBAサンプルの存在を示す証
拠もないこと」の3点を挙げて,本件PCBAサンプルの交付の事実を
否定した。
しかし,まず,原判決が第一に挙げる「原告と被告との間の電子メー
ルのやりとりにおいては,当該PCBAサンプルを検討・評価したこと
をうかがわせる記載はない」との根拠が誤りであることは明白である。
●(省略)●また,甲27の43(電子メール)でも「先月,私たちが
渡したPCBAのサンプル品をBさんが持っています。それで配置位置
を確認ください。」と記載されており,本件PCBAサンプルが控訴人
の技術情報(部品の配置等)を提供する役割を担っていたことが分かる。
以上の事実から,両者間の電子メールの中で本件PCBAサンプルは
明示的に言及されていることが確認できる。本件PCBAサンプルに機
能上の問題がなく,控訴人保有の本件技術情報を被控訴人に提供する役
割を果たしていたことは,これらの記載からも明らかである。
控訴人が平成17年4月20日に被控訴人に本件PCBAサンプル
を手渡したことは,コントローラ配置の方向・場所,ピン配置その他の
コントローラ周りの構成・配置を確認すること等が可能となるという実
務的に重要な意味があり,他の情報交付(原判決別紙データ目録及び説
明のための電子メール等)とあいまって,控訴人における小型USBフ
ラッシュメモリの設計・製造に関して極めて重要な情報を,「現物」の
形で提供したことを意味する。本件営業秘密が有機的に一体となって構
成され「現実化」したものであり,そうしたまとまりのある技術情報が
製品として機能している事実,そして,必要な性能で動作している状態
をも示す資料であった。
特に重要なのは,本件PCBAサンプルがインジェクション成型前の
筐体がない状態で被控訴人に提供されたことである。それゆえ,被控訴
人にとっては,コントローラ配置の方向・場所,ピン配置その他のコン
トローラ周りの構成・配置を確認すること等が容易となり,完成製品を
受け取るよりも一層役に立つ形で提供されたのである。
以上からすれば,本件PCBAサンプルの被控訴人における平成17
年4月20日時点の受領は証拠上明白であるから,これを否定した原判
決の認定は誤りである。
(イ) 本件PCBAサンプルについて,原判決は,「どのようなものであっ
て,どのような回路構成とされていたかについて,PCBAサンプルの
基となった図面を提出する等して,自らその内容・存在を明らかにする
ことができるにもかかわらず,何らこれを示す証拠を提出していないこ
と(・・・甲59ないし65の各図面等の作製時期について,原告の主
張を採用することができないことは,前記2のとおりである。)」と判
示する(原判決71頁)。
しかし,●(省略)●で設計・製造されており,筐体やLEDがない
点を除けば,動作の状況を含めて,ほぼ完成した製品といえるものであ
った。なお,本件PCBAサンプルの内容については,ここで述べたほ
か,甲59の2,甲60ないし甲62,甲66,甲71ないし甲73に
示されている。
なお,甲59ないし甲65に関する原判決の認定は誤りであり,また,
本件PCBAサンプルの基となった資料は,既に提出済みのもの以上に
は控訴人の手元に残されていない。
ウ 別紙データ目録1-1ないし10(7-1を除く。)
原判決は,別紙データ目録1-1ないし10(7-1を除く。)につい
て「具体的にどのような技術内容をもって営業秘密と主張するのか,明ら
かではない。」(原判決71~72頁)とするが,次のとおり,誤りであ
る。
(ア) 別紙データ目録1-1ないし5-2については,平成17年(200
5年)4月26日以前に提供された情報であり,控訴人COB情報に該
当する。
控訴人COB情報は,最終的に被控訴人各商品(被告各商品)の中で
利用されていないとしてもなお営業秘密に該当する。なぜなら,情報が
直接的にはバージョンアップ前製品の設計・製造に関するものである場
合に,当該情報がバージョンアップ後の製品との関係でも,当該情報を
利用して不必要な研究開発費用の投資を回避・節約できる等の意味で有
用性が認められる場合には「有用性」を持つ情報に該当するものとして
営業秘密に該当し得るからである。
そして,●(省略)●その商品化を可能にする貴重な情報であったも
のであり,また,商品化に必要な「結論」部分に加えて,メモリ実装方
法と,サイズ,容量の増大の可否,コストとの関連性等(すなわち結論
にたどり着く「プロセス」部分)に関する情報も被控訴人は得たのであ
って,被控訴人は,当初求めた技術成果が実務的に可能な形では実現で
きないことを学んだ上で最終的に別の技術成果を得た,というのが本件
の特徴である。(ここで,前者の「技術成果」とはCOB技術による小
型化で容量が大きい製品とするための技術情報を意味し,後者の「別の
技術成果」とは●(省略)●の両方の技術情報を指す。)。
換言すれば,プロセス情報の内容の価値の高さ(高度の技術力を有す
る控訴人が被控訴人の個別具体的な要請等に応えながらたどり着いた
ものであるという事実),なぜ価値(有用性)が高いか,なぜそのよう
な内容の情報になっているのか(例えば,なぜCOB技術を用いないと
いう設計選択がなされているのか),という根拠情報をも被控訴人は得
ていたのである。
こうした情報は,最終的な結果・結論部分だけの情報を得ることに比
べて,実務上,格段に価値の高い情報である。また,それらは他の情報
と組み合わされて全ての情報が有機的に一体となることにより,極めて
高い価値を備えるものである。
かかる情報をも備えた本件技術情報のまとまった形での提供に有用
性を認めないことは営業秘密保護法の立法趣旨に反するものであり,ま
た,本件において,被控訴人がインベンテック社の作業に満足せず,あ
えて控訴人に開発・製造の委託を考えたという経過自体にも反するもの
である。
(イ) 別紙データ目録6-1,6-2及び7-2ないし7-4の外形・寸法
情報については,後記エのとおりである。
(ウ) LEDに関する情報(別紙データ目録8ないし10)については,後
記オ(イ) のとおりである。
エ 付随情報・補足情報
(ア) 原判決は,「具体的に,小型USBフラッシュメモリの寸法と容量と
のどのような関係をもって営業秘密として主張するのか,明らかではな
く,また,いかなる趣旨で被告が当該情報を使用していると主張するの
かも明らかではない」(原判決73頁),「小型USBフラッシュメモ
リの組立価格については,被告の原告に対する依頼が,小型USBフラ
ッシュメモリの製造にある以上,当然に示されるべき情報であ」る(原
判決75頁)と判示する。
しかしながら,控訴人において,サイズ・容量問題を解決したという
事実,及びその解決結果としての形状・サイズ・容量・現物・コスト情
報(原判決別紙データ目録,説明のための電子メール,本件PCBAサ
ンプルによる部品配列や回路構成等)が一体的に提供されたならば,そ
れがそのまま商品化に利用できる技術情報であることは明らかであっ
て,また,証拠上,実際に被控訴人は控訴人が提供したこれらの技術情
報を利用していると推認されるから,競業者にとっての有用性があった
ことは確実である。このことはまた,被控訴人がインベンテック社の作
業に満足せず,あえて控訴人に開発・製造の委託を考えたという経過か
らも裏付けられる。
(イ) 原判決は,「このような被告が提供した寸法情報に基づき,公知であ
るメモリパッケージの寸法も考慮して容量の増大が可能か否かを検討
するのは,その製造の委託を受けた者であれば,通常の創意工夫の範囲
内で検討する設計的事項にすぎないというべきであるから,有用性を欠
くというべきである。」(原判決74頁),「COBを用いた場合の容
量と寸法との関係について,当業者であれば通常の創意工夫の範囲内で
検討することができる設計的事項であ」る(原判決74頁)などと判示
する。
しかし,まず,前記のとおり,控訴人は,「容量」とか「寸法」とか
の個別の情報をそれぞれ単独で営業秘密と主張しているのではない。容
量+各種寸法+形状+部品選択+部品配列+回路構成+回路構造など
の組み合わせ情報(そして,これによって技術課題が解決できているこ
とや,他の方法と比較した場合の利害得失情報)があることによって,
そのまま商品化できる技術情報であれば,有用性が認められなければな
らない。
もし,原判決が,製造委託を受けた者が創意工夫によって提供した一
定の独自の価値を有する情報についてまで営業秘密性を否定する趣旨
だとすれば,そのような判断は,営業秘密の要保護性として,特許権と
同等の新規性ないし進歩性を要求するものであって,営業秘密保護法の
意味を大きく失わせるものであって,立法趣旨に反するというべきであ
る。
オ 本件技術情報
(ア) 原判決は,本件技術情報1ないし8について,それぞれを個別に検討
することにより,公知である,技術常識である,あるいは当業者が通常
の工夫によって選択する設計的事項にすぎない等と判示するが,誤りで
ある。
すなわち,控訴人は,それぞれの個別の情報がそれ単独で営業秘密で
あると主張しているのではない。あらゆる営業秘密を分解していけば,
それぞれの要素は公知であったり技術常識であったりする情報であっ
て,それをどう組み合わせるかが有用性の鍵なのである。そして,控訴
人は,各情報が組み合わさった形で,かつ,作動する現物とあわせて提
供したのであるから,競業者にとって有用な情報であったことは確実で
ある。また,有用性の要件として,特許と同等の新規性・進歩性を要求
することも前記のとおり誤りである。
(イ) LEDの配置に関する情報の重要性
原判決は,「原告は,LEDの搭載の可否,搭載の位置,光線の方向,
実装に関する情報が営業秘密であると主張する。しかしながら,USB
フラッシュメモリには,LEDを搭載するのが一般的である(公知の事
実)。なお,原告は,SDカードやメモリスティック等にはLEDは搭
載されていないことを指摘するが,SDカード及びメモリスティック
は,その使用態様に照らして,LEDを搭載しないのは当然であるから,
原告の指摘は意味がないことは明らかである。」(原判決81頁)と判
示している。
しかし,通常サイズのUSBフラッシュメモリにはLEDを搭載する
のが一般的であるとしても,それが小型サイズでも同様に搭載できる
か,その場合どのような条件・制約が生ずるか,といった問題は全く別
の問題である。そして,平成17年3月当時,それは被控訴人において
確定されていない問題だったとみられる。
本件では,小型USBフラッシュメモリを,長さ約29.8mmある
いは約31.8mmにした場合に,かかる寸法の小型化にもかかわらず
LED搭載を犠牲にせずに実現できるか否か,どのようにするのが最も
他の条件と整合的か,といったことはそれ自体が検討を要する事柄であ
った。
したがって,「LEDの搭載の可否,搭載の位置,光線の方向,実装
に関する情報」もまた,それ自体でということではなく,小型化を実現
する寸法・形状との関係で「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事
実及びその方法」を伝える情報として,また,そうした寸法・形状での
小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両
立する事実及びその方法を伝える情報として,全てが組み合わされるこ
とによって,そのまま商品化を可能にする技術情報として有用性を獲得
するのである。個別の情報自体に大きな価値がなくとも,それら全部の
情報がまとまっていることによって,独自の価値を帯び,営業秘密に該
当するというべきである。
カ 本件技術情報の不正使用
控訴人が被控訴人に対し技術的成果を提供したことは前記のとおりで
あり,控訴人商品(原告商品)と被控訴人各商品(被告各商品)とは実質
的に同一の形態である。このことは,被控訴人各商品(被告各商品)が控
訴人が提供した技術情報に依拠していることを示すものである。そして,
被控訴人各商品(被告各商品)はPDCアーキテクチャで構成されるもの
であって,甲66を前提に控訴人が提供した当時の部品・回路構成などの
技術情報がなお被控訴人各商品(被告各商品)において一致する。
他方,控訴人が被控訴人に渡していない情報あるいは技術的に控訴人で
なければ達成できない手法,例えばインジェクションによる成形(平成1
7年4月20日に渡した本件PCBAサンプルはインジェクションによ
る射出成型をしておらず,筐体がないものである)などは,被控訴人各商
品(被告各商品)において利用されていない。
以上の事実によれば,被控訴人が控訴人の営業秘密を利用していること
は明らかである。
しかるに,被控訴人は,約4か月間で控訴人から得た貴重な技術情報を
利用して,控訴人に対する開発委託も関係解消の連絡もないまま無断で,
平成18年12月ころ以降,自ら被控訴人各商品(被告各商品)を量産し,
販売し,その利益を得るに至った。
不競法2条1項7号違反としての「不正利用」に該当するためには,被
控訴人が控訴人提供の本件技術情報を利用することが信義則違反といえ
る態様のものであったか否かが問題となるが,上記のとおり,本件ではそ
のような意味での信義則違反が認められる。
したがって,不競法2条1項7号違反を認めなかった原判決は誤りであ
る。
(3) 著作権侵害を理由する損害賠償請求権の準拠法
原判決は,法例11条2項又は通則法22条1項により,本件では,台湾
法のみならず,日本法によっても不法となることが必要であると解した上
で,かかる重畳適用について,日本法上,「単に翻案権侵害が違法とされれ
ばよいというものではなく,事実それ自体,すなわち,本件においては,原
告設計図1及び2から被告各商品を製造する行為が,日本法上,不法である
ことを要すると解すべき」(原判決89頁)と判示する。
しかしながら,この判断は誤りである。学説の多数説によれば,日本法上
の評価とは,同種の権利の侵害行為が日本法上も違法性を有し不法行為とさ
れるか否かということであり,その権利は管轄権のある法律によって成立し
た権利であれば足り,同種の権利の侵害が日本法上違法であって不法行為と
評価されれば足りるとされている。
被控訴人の行為は,著作権の一支分権たる翻案権の侵害であるところ,同
種の権利たる日本法上の翻案権の侵害も不法行為であって損害賠償請求が
認められることに異論はない。
したがって,本件の「被告の台湾著作権法違反行為」は,日本法上も「不
法」であるから,台湾著作権法違反による損害賠償請求は本件において可能
というべきである。
(4) 不法行為の成否
原判決は,「本件技術情報は,原告が保有するものではないか,又は,公
知であるか,若しくは有用性を欠くものであって,かつ,仮に,被告がこれ
を使用していたとしても,そのことは,本件技術情報が提供された趣旨に反
するものではなく,本件技術情報の不正使用ということはできないから,こ
れが社会的相当性を逸脱した違法な行為ということはできない。 (94頁)

と判示する。しかし,原判決の上記判断は,次の各理由により,誤りである。
ア 信義則違反
技術情報の提供者から入手した技術情報を,取得者が利用したからとい
って,直ちに,不競法2条1項7号所定の不正利用あるいは不法行為法上
の違法行為に該当するわけではなく,信義則上の義務違反の有無が問われ
なければならないところ,本件においては,次のとおり,信義則違反の根
拠となる事情が強く認められる。
(ア) まず,控訴人と被控訴人は,メモリ関連製品の開発・製造・販売とい
う観点からは,本件のように垂直関係の委託先・委託元とならない限り
は,基本的に水平関係の競争相手たる競業企業である。ただし,被控訴
人の側に圧倒的というべき経済的優位性や社会的信用があった。
(イ) こうした状況下で,控訴人が提供した技術情報を,被控訴人が利用し
てしまうと,競業者としての控訴人には絶対に勝ち目がない。控訴人は
特定の分野の技術力に限れば,被控訴人と同等の関係に立ちうるが,そ
の源泉たる特定技術情報が被控訴人に渡ってしまえば,ブランド力その
他の点で被控訴人の優位は圧倒的である。つまり,情報受領者たる被控
訴人が当該技術情報を利用してしまうことによる控訴人の不利益は,致
命的である。
(ウ) 他方,被控訴人は,控訴人が提供した技術情報を使わずに事業活動を
行うことは当然に可能である。せいぜい特定の寸法・形状による小型U
SBフラッシュメモリの開発・製造ができないだけである。仮に被控訴
人がそれを実行したいのであれば,控訴人に開発・製造を委託するか,
ライセンス料等の対価を支払って開発・製造を行えばよいだけであり,
被控訴人は,そのための資力も組織的資源も当然に有しており,控訴人
が提供した技術情報の「不使用」を確保することが,現実問題として実
務面で困難なわけでもない。
(エ) したがって,上記のような利益状況の下で,被控訴人が控訴人の技術
情報を無断で利用することは信義則に反する行為である。
イ 契約締結上の過失における交渉破棄
取引を開始し,契約準備交渉段階に入った者は,一般市民間における関
係と異なり,信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから,相互に相
手方の人格,財産を侵害しない信義則上の義務を負うというべきところ,
本件の経過に照らせば,技術情報の提供関係に入るに当たって,情報の取
扱いに関する信義則上の義務又は黙示の合意・条件があったというべきで
ある。そして,被控訴人は,控訴人に対して小型USBフラッシュメモリ
の開発・製造の委託を持ちかけたのであり,その目的のために,技術情報
の提供を求めたことは明らかであるから,被控訴人としては,矛盾行為を
避け,現実に委託をするか,そうでない場合には委託をせず対価の支払を
する意思がないことを予め告げて誤解のないようにすべきであった。それ
さえも行わないのであれば,黙示の合意・条件又は信義則上,少なくとも
提供された本件技術情報を控訴人の了解なく使用したり第三者に開示し
たりしないという不使用・秘密保持の義務に従うべきであった。さらに,
本件では,被控訴人が極めて積極的かつ主導的に両者間のやりとりを推進
したことも明白であるから,被控訴人には,より高度の是正・教示義務が
あったというべきである。
ところが,実際には被控訴人はその義務を果たさず,むしろ結果として
は控訴人の信頼・期待を利用し,控訴人が販売活動を抑えている一方で,
被控訴人は無断で被控訴人各商品(被告各商品)の製造・販売を行った。
以上によれば,本件においては,契約締結上の過失の観点に照らし,信
義則違反型の不法行為が認められるべきである。
2 当審における被控訴人の主張
(1) 「被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人商品(原告商品)の形態を模倣
した」との主張に対し
ア 保護されるべき「商品」につき
(ア) 控訴人は,販売される前であっても不競法2条1項3号の「商品」と
して保護されるべき場合があると主張し,この点について原判決は判断
を示していないと主張する。
しかし,原判決は,本件において控訴人商品(原告商品)なるものが
存在しないことを認定しているのであり,控訴人商品(原告商品)なる
ものが存在しない以上,それが販売されるはずもないのであるから,販
売前の商品が保護されるかどうかを判断する必要などない。
したがって,原判決が販売前の商品が同号の「商品」として保護され
るか否かに関して判断を示していないのは至極当然のことであって,控
訴人の上記主張は失当である。
(イ) 控訴人は,「競業者にとって有用性があると認められるべきである
商品の技術情報は,販売段階に至った製品の形に結実していない場合で
も,不競法2条1項3号の問題としても,保護に値し得ることを看過し
た点で誤っている。」と主張する。
しかし,同号の保護対象は「商品の形態」であって「技術情報」では
ないから,原告の上記主張は失当である。
(ウ) 控訴人は,原判決が乙8の2(インベンテック設計図)が送付されて
いたという事実のみで,「原告商品」が開発済みであったことを否定で
きる事情として考えている点が重大な誤りであると主張する。
しかし,積智科技らから被控訴人に送付された図面等はいずれも乙8
の2に依拠していることは明らかであり,他方,控訴人は本件協議前か
ら控訴人商品(原告商品)が開発済みであったことを客観的に示してい
る証拠を何ら提出できていないのであるから,控訴人主張は理由がな
い。
(エ) 控訴人は,原判決は設計図1枚の送付をもって,その後の控訴人提供
情報の価値を認めないという意味でも誤りであると主張する。
しかし,これについても「情報の価値」と「商品の形態」を混同する
ものであって失当である。
イ 「控訴人における先行開発」につき
控訴人の主張は,いずれも原審での主張の繰り返しにすぎず,控訴人が
控訴人商品(原告商品)を開発していた事実を何ら立証するものではない。
この点に関し,控訴人は,甲61ないし甲64の各データの作成時期等
を立証するものとして,甲77及び甲78を提出している。
しかし,甲77の添付1記載の作成日は控訴人において改ざんされてい
る可能性があり,信用できない。加えて,甲62及び甲63の基板は,い
ずれも本体部分と端子部分の幅が同一のストレート形状のものであり,控
訴人商品(原告商品)とは形状が全く異なっている。
また,甲77の添付2記載の作成日についても,控訴人において改ざん
されている可能性があり,信用できない。仮に,甲77の添付2記載の作
成日が事実であったとしても,その作成日は「2005年4月28日」で
あり,いずれにしても控訴人が主張するように,積智科技ら又は控訴人が
平成17年3月ころに製品の量産に必要な準備を行っていた事実を証明
するものではない。
ウ 「インベンテック社における開発・検討状況」につき
控訴人は,「小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸法と基本
的な回路構成は,被告及びインベンテック社において検討済みであった」
との原判決の事実認定が誤りであると主張するが,原審での主張の繰り返
しにすぎない。
被控訴人は,平成16年8月,インベンテック社に対し小型USBフラ
ッシュメモリの製品化を打診し,平成17年3月までにその基本的部分に
ついて共同で設計・検討済みであり,最終的に平成18年4月に被控訴人
各商品(被告各商品)を販売するに至っているのであって,控訴人の上記
主張は失当である。
エ 「乙1に関する認定・評価の誤り」につき
控訴人は,自らが乙8の2(インベンテック設計図)を受領したか否か
に関連して,乙1(電子メール)に関する原判決の認定・評価に誤りがあ
ると縷々主張する。
しかし,乙8の2(インベンテック設計図)は,平成17年3月1日付
け電子メール(乙8の1)の添付ファイルとして積智科技らに対して送信
されている以上,積智科技らがこれを受領していることに疑う余地はない
から,そもそも控訴人の上記主張は失当であるが,念のため,反論する。
(ア) 事実誤認①に対し
控訴人は,USBフラッシュメモリに関する技術情報の開発・保有に
ついての平成17年3月当時の控訴人の認識を前提として,控訴人が,
この時点で小型USBフラッシュメモリのガーバーファイルを被控訴
人に対し送付を求めることはあり得ないとし,この点で原判決に事実誤
認があると主張する。
しかし,被控訴人は,平成17年3月4日,被控訴人現地法人社内に
て積智科技らに対しインベンテック社が製造したワーキングサンプル
(乙7)を見せ,積智科技らにおいてもこのような小型USBフラッシ
ュメモリの製造が可能かどうかを検討してほしい旨伝え,その際,被控
訴人は積智科技らに対し,製造が可能かどうか判断する資料として,小
型USBフラッシュメモリの設計図面を送る旨を約束していた。
かかる約束に基づき,積智科技らが被控訴人に対し,平成17年3月
7日に設計図面の送付を求めたのであり,それゆえ原判決も判示すると
おり,「被告とインベンテック社との間の小型USBフラッシュメモリ
の開発経過及び平成17年3月7日時点でインベンテック設計図が存
在していることに照らして,前記同日の午後2時39分付け電子メール
の送付の時点で,ガーバーファイルが存在し,かつ,その交付を求める
ことも何ら不自然ではない」(原判決65頁)のである。
したがって,原判決には,控訴人が主張するような事実誤認は存在し
ない。
(イ) 事実誤認②に対し
控訴人は,原判決が「Aが原告から送付を受けることを期待していた
見積書は,通常のUSBフラッシュメモリに関するものではなく,小型
USBフラッシュメモリに関するものであったと認められる。」(原判
決65頁)と認定したことについて,甲27の1(電子メール)添付の
見積書が通常サイズのものであることから,乙1(電子メール)で求め
たのも通常サイズのガーバーファイルのはずであると主張する。
しかし,控訴人の主張は,乙1と甲27の1の各電子メールを無理や
りに関連付けるものであって誤りである。
すなわち,控訴人は,乙1(電子メール)が甲27の1(電子メール)
添付の見積書の用意を意識して送られたとの理解を前提にしているが,
かかる理解は誤りである。甲27の1(電子メール)は,その後に送信
した甲27の3下段の3月29日11時38分の電子メールにおいて,
C氏が,Aに対し,「説明をさせて下さい。あなた方のオフィスでの話
し合いの後,私たちのプロジェクトマネージャーがあなた方の現在のU
SB製品のため,D氏に会いにあなた方のオフィスを訪れました。つま
り,貴方が手にした価格表はその現在のUSB製品用のものであって,
みなさんと話し合った際のものではありません。」と述べていることか
らも明らかなとおり,被控訴人台湾法人社員のD氏に会って「現在のU
SB製品」についての話をしたことを踏まえて,後日,D氏に対して送
信した電子メールである。したがって,甲27の1(電子メール)は,
船橋に送られている乙1(電子メール)とは関係がない。
また,控訴人は,原判決が,「同電子メール中の『ご興味をお持ちの
USBフラッシュカード』,『ご心配されている規格の全部を強調する
か,もしくは,我々より通常の規格とするように致します。』との記載
からすれば,これは,『通常の規格』とは異なるUSBフラッシュメモ
リを話題にしているものとみるのが自然である。」(原判決65頁)と
認定した点について,「異常な認定」であると主張している。
しかし,乙1(電子メール)を素直に読めば,小型USBフラッシュ
メモリの規格について,被控訴人の指示がない部分については通常の規
格で作業を行うことを述べていることは明らかであって,控訴人の上記
主張は失当である。
(2) 「被控訴人各商品(被告各製品)は控訴人から示された営業秘密を不正に
使用した」との主張に対し
ア 「控訴人が提供した本件技術情報の価値」につき
控訴人は,控訴人が提供した本件技術情報の価値は極めて価値の高いも
のであるとして縷々主張するが,これらの主張は原審での主張の繰り返し
にすぎない。
そもそも,被控訴人は控訴人又は積智科技らからモックアップやPCB
Aサンプルの交付を受けていないため,それに関する技術情報の提供を受
けた事実はない。また,原判決も認定するとおり,本件技術情報は,「そ
の内容も公知であるか,又は,有用性を欠くものであって,本件各情報を
一体としてみても,公知のものを組み合わせたにすぎないもの」(原判決
87頁)であり,また,「被告が提供した情報・条件を基礎として検討さ
れたもので,本件協議以前に,原告が,その固有の情報として有していた
ものとは認められない情報であ(る)」(原判決87頁)から,控訴人が
主張するような価値はなく,控訴人の主張はおよそ失当である。
イ 「本件PCBAサンプルの授受」につき
(ア) 被控訴人が,PCBAサンプルなるものを控訴人及び積智科技らから
受領した事実は存在しない。
この点,控訴人は,甲27の36(電子メール)で言及されているサ
ンプルがPCBAサンプルであるとも主張するが,ここでいうサンプル
は,積智科技らが被控訴人に交付したと主張する「PCBAサンプル」
ではなく,被控訴人が保有していたインベンテック社によって開発され
たサンプルである(同電子メールでは単に「サンプル」となっており,
「PCBAサンプル」とはなっていない。)。
また,控訴人は,甲27の43(電子メール)にて,C氏が,「先月,
私たちが渡したPCBAのサンプル品をBさんが持っています。それで
配置位置を確認ください。」と述べたことをもって,被控訴人がPCB
Aサンプルを受領していることの根拠であると主張する。
しかし,前記のとおり,被控訴人はPCBAサンプルなるものを受領
していない。すなわち,原判決も判示するとおり,当時の事実経過から
すれば,「PCBAのサンプル品」を被控訴人従業員船橋に渡したとい
うのは,C氏の勘違いである。
(イ) また,控訴人は,PCBAサンプルの基となった資料に関する原判決
の認定は誤りであり,既に提出済みのもの以上に控訴人の手元には残さ
れていないと主張する。
しかし,原判決が認定するとおり,控訴人が既に提出済みであると主
張するPCBAサンプルに関する資料(甲59~甲65)は,その作成
時期が立証されていないから,被控訴人との協議開始以前に存在したも
のとはいえず,いずれもPCBAサンプルなるものの存在を推測させる
ものではない。
ウ 「別紙データ目録1-7ないし10(7-1を除く)」につき
控訴人は,別紙データ目録1-1ないし5-2については,平成17年
(2005年)4月26日以前に提供された情報であり,控訴人COB情
報に該当するとし,情報が直接的にはバージョンアップ前製品の設計・製
造に関するものである場合であっても,当該情報がバージョンアップ後の
製品との関係において,当該情報を利用して不必要な研究開発費用の投資
を回避・節約できる等の意味で有用性が認められるとし,●(省略)●を,
被控訴人が得て使用している等と主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,原審での主張の繰り返しにすぎないとこ
ろ,原判決は,控訴人の上記主張に関して,「被告が原告に委託したのは,
COB(これ自体は,公知の事実であると認められる。)を用いた小型U
SBフラッシュメモリの製造の可否であることからすれば,COBを使用
して被告が希望するサイズ・容量の小型USBフラッシュメモリを製造す
ることができるか否かということは,そもそも,被告にこれを開示し,被
告がこれを使用することを前提に検討されたものであるから,仮に,被告
が,原告が提供したCOBによっては被告が希望するサイズ・容量の小型
USBフラッシュメモリを製造することができないという情報に基づき,
被告各商品ではCOBを使用しなかったとしても,それは,被告の原告に
対する委託の趣旨に反するものではなく,技術情報の不正な使用に該当す
るものでもない」(原判決74頁~75頁)と正当に判断しているのであ
って,控訴人の上記主張にはおよそ理由がない。
エ 「付随情報・補足情報」につき
(ア) 控訴人は,その引用する原判決の判断部分が誤りであるとした上で,
サイズ・容量問題を解決したという事実,及びその解決結果としての形
状・サイズ・容量・現物・コスト情報(原判決別紙データ目録,説明の
ための電子メール,PCBAサンプルによる部品配列や回路構成等)が
一体的に提供されたならば,それがそのまま商品化に利用できる技術情
報であって,有用性が認められると主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,上記引用箇所で原判決が示した疑問に
何ら回答するものではない。加えて,控訴人が主張する「サイズ・容量
問題を解決したという事実,及びその解決結果としての形状・サイズ・
容量・現物・コスト情報(原判決別紙データ目録,説明のための電子メ
ール,本件PCBAサンプルによる部品配列や回路構成等)」なるもの
が具体的にはどのような内容なのか明らかではなく,営業秘密としての
特定性を欠く。さらに,「サイズ・容量問題を解決したという事実,及
びその形状・サイズ・容量・コスト情報」は,いずれも,フラッシュメ
モリ製造メーカーにフラッシュメモリのサイズを聞けば容易に分かる
公知の事項にすぎないのであり,結局のところ,控訴人が主張する上記
情報は公知情報と設計的事項の組合せにすぎないものであり,有用性を
欠くものである。
(イ) また,控訴人は,控訴人が指摘する判決の判断部分を誤りとした上で,
容量+各種寸法+形状+部品選択+部品配列+回路構成+回路構造な
どの組み合わせ情報(そして,これによって技術課題が解決できている
ことや,他の方法との比較した場合の利害得失情報)があることによっ
て,そのまま商品化できる技術情報であれば,有用性が認められなけれ
ばならないと主張する。
しかし,「容量+各種寸法+形状+部品選択+部品配列+回路構成+
回路構造などの組合せ情報(そして,これによって技術課題が解決でき
ていることや,他の方法と比較した場合の利害得失情報)」や「そのま
ま商品化できる情報」とは具体的にどのような内容を指すのか明らかで
はなく,営業秘密としての特定性を欠いているし,結局のところ,公知
情報と設計的事項の組合せにすぎないものであり,有用性も欠いてい
る。
(ウ) さらに,控訴人は,原判決の判断は特許権と同等の新規性ないし進歩
性を要求するものであり,有用性の解釈として誤りであると主張する。
しかし,原判決は,通常の創意工夫の範囲内で検討することができる
設計的事項に関して有用性を欠くと判示したにすぎず,特許権と同等の
新規性ないし進歩性を要求するものではない。そして,当業者において
適宜に選択される設計的事項に有用性が認められないことは多くの裁
判例が示すところであるから,控訴人の上記主張は失当である。
オ 「本件技術情報」につき
(ア) 控訴人は,それぞれ個別の情報がそれ単独で営業秘密であると主張し
ているのではなく,各情報が組み合わさった形で,かつ,作動する現物
と合わせて提供したのであるから,競業者にとって有用な情報であった
と主張する。
しかし,原判決が,「小型USBフラッシュメモリの寸法は,被告に
おいて決められていたのであり,その寸法に応じて,公知の技術をどの
ように組み合わせて各部品を配置するかは,当業者であれば,通常の工
夫の範囲内において適宜選択・決定する設計的事項であるということが
でき,当該組合せによって,予想外の格別の作用効果を奏するものとも
認められない。したがって,これらの情報を一体としてみたとしても,
有用性があるとは認められず,営業秘密であると認めることはできな
い。」(原判決85頁~86頁)と正当に判断するとおり,控訴人の上
記主張は失当である。
(イ) 「LEDの配置に関する情報の有用性」に対し
控訴人は,LEDの配置に関する情報について,小型化を実現する寸
法・形状との関係で「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事実及び
その方法」を伝える情報として,また,そうした寸法・形状での小型化
を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する
事実及びその方法を伝える情報として,全てが組み合わされることによ
って,そのまま商品化を可能にする技術情報として有用性を獲得すると
主張する。
しかし,そもそも控訴人主張の「当該寸法・形状とLED搭載が両立
する事実及びその方法」なるもの,「そうした寸法・形状での小型化を
達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事
実及びその方法を伝える情報」なるものが具体的にどのような内容なの
かが明らかではなく,営業秘密としての特定性を欠いている。控訴人の
主張を善解しても,結局のところ,単なるLEDの位置に関する情報に
すぎず,例えば,配置したLEDへの電力供給のための回路構成等の設
計上の工夫などに関しては何ら具体的な主張はなされていない。
いずれにせよ,LEDは,USBフラッシュメモリが通電状態にある
ことをユーザーに表示する目的で設置されるものであり,かかる目的に
照らせば,接続端子部分(差込部分)ではなく,本体部分の末端部分(接
続端子の反対側)に設置せざるを得ないものである。そして,小型US
Bフラッシュメモリを製造するためには,各部品を近接させて配置し余
分なスペースをできる限り少なくしなければならないところ,本体部分
の末端部分のどこにLEDを配置するかは,およそ右端,中央及び左端
ぐらいしか選択肢がないのである。したがって,このようなLEDの配
置は当業者であれば容易に思い付くものであり,有用性を欠く情報にす
ぎない。
カ 「本件技術情報の不正使用」に対し
(ア) 控訴人は,形態の実質的同一性や基本アーキテクチャの一致という主
張をして,被控訴人による本件技術情報の使用を推認させる事情がある
と主張する。
しかし,控訴人が上記項目で指摘する内容はいずれも控訴人の営業秘
密ではないから,控訴人の主張は失当である。
(イ) 仮に,被控訴人各商品(被告各商品)に控訴人の主張と同様の情報が
使用されていたとしても,被控訴人各商品(被告各商品)は,控訴人又
は積智科技らとは無関係に,インベンテック社に開発委託した結果,同
様の情報が使用されて,開発,設計されたものであり(乙43,乙49),
控訴人又は積智科技らから示された情報を使用したわけではないから,
控訴人の上記主張は失当である。
(3) 「著作権侵害を理由する損害賠償権の準拠法」に関する主張に対し
控訴人は,法例11条2項又は通則法22条1項の「不法」の意味につい
て,原判決の判断が誤っているとし,その根拠として,「日本法上の評価と
は,同種の権利の侵害行為が日本法上も違法性を有し不法行為とされるか否
かということであり,その権利は管轄権のある法律によって成立した権利で
あれば足り,同種の権利の侵害が日本法上違法であって不法行為と評価され
れば足りるとされている。」としつつ,「被控訴人の行為は,著作権の一支
分権たる翻案権の侵害であるところ,同種の権利たる日本法上の翻案権の侵
害も不法行為であって損害賠償請求が認められることに異論はない。」と主
張する。
しかし,控訴人の上記主張は,原判決で否定された原審での主張の繰り返
しにすぎない。
また,控訴人の引用部分である「同種の権利の侵害が日本法上違法」であ
るとは,同種の具体的な権利侵害行為が日本法上も違法であることを意味す
ることは明らかである。
そして,原判決は,原告設計図1及び2について,インベンテック設計図
を複製したものであり,控訴人が著作権を有するとは認められないとした上
で(原判決89頁以下),控訴人の著作権侵害に基づく損害賠償請求の準拠
法が台湾法であり,控訴人の請求が認められるためには,被控訴人の行為が
日本法上も不法であることが必要であるところ,被控訴人の行為は台湾法上
著作権侵害に該当せず,日本法上も不法ではないとしたものであって(原判
決91頁以下),その判断はいずれも正当なものである。
(4) 「不法行為の成否」に関する主張に対し
控訴人は,信義則違反型の不法行為が成立する旨縷々主張する。
しかし,次のとおり,控訴人が主張するような信義則上の義務が生じるこ
とはなく,仮に,被控訴人が控訴人主張の本件技術情報を使用したものと評
価されたとしても,信義則違反型の不法行為が成立する余地はない。
ア まず,原判決(70頁~71頁)が認定するとおり,そもそも被控訴人
はモックアップ及びTSOPを使用したPCBAサンプルの交付を受け
ていないから,これらに関する情報の提供を前提として不法行為の成否を
議論することは誤りである。
イ 次に,本件技術情報が控訴人の主張するように極めて価値が高いもので
あるならば,秘密保持契約を締結したうえで提供するのが自然であり,控
訴人としては秘密保持契約を締結しなければ情報を提供しないという選
択肢もあった。しかし実際には,積智科技らは秘密保持契約を締結するこ
となく本件技術情報を提供しているのであり,このような事実からすれ
ば,本件技術情報は,積智科技らにとってもその程度の価値しかない情報
と認識されていたものである。
ウ また,本件では,被控訴人は本件協議前に既に小型USBフラッシュメ
モリのワーキングサンプル(乙7)を保持しており,より安価で製造する
目的から,積智科技らに対してCOB技術を用いた小型USBフラッシュ
メモリの製造が可能か否かを打診したものであるところ,この段階では,
被控訴人は積智科技らに小型USBフラッシュメモリの製造を委託でき
るかどうかを検討していたにすぎず,控訴人が主張するような信義則上の
義務が発生するような関係にはなかった。すなわち,被控訴人は,積智科
技らの提供した情報によってCOB技術では256MB以下の容量の小
型USBフラッシュメモリしか製造できずコスト面でのメリットがない
ことが分かり,COB技術を用いた小型USBフラッシュメモリの製造の
委託を断念したものであって,実際,被控訴人各商品(被告各商品)では
COB技術を使用していない。万一,被控訴人のかかる行為が,控訴人が
主張するように本件技術情報の使用に当たるとしても,それは,積智科技
らの被控訴人に対する情報の提供の趣旨に反するものでもない。
エ さらに,被控訴人は,控訴人に対してインベンテック社との協議継続の
事実を告げていないが,積智科技らに独占的に製造委託をすることを打診
したわけではなく,ましてそのような契約を締結したわけでもないから,
これまで小型USBフラッシュメモリの開発を続けていたインベンテッ
ク社との間の協議を中止すべき理由は存在しない。他方で,製造委託の打
診に際しては,特定の一社のみに打診することは少なく,製造コストの削
減等の観点から,複数の候補に対して打診がなされるのが通常であり,委
託を受ける側としても当然それを承知している。
オ 本件の場合,契約締結前の段階にあったため,一般論として契約関係継
続中あるいは契約終了後と比較して両当事者間の信頼関係の程度は低か
ったし,しかも,被控訴人と控訴人又は積智科技との関係は基本的に水平
関係の競争相手たる競業企業であるから,両者の信頼関係は相当程度希薄
なものであった。
カ 控訴人は,被控訴人が極めて積極的な情報入手の姿勢を貫いていた旨主
張するが,被控訴人は,小型USBフラッシュメモリのワーキングサンプ
ル(乙7)を見せた上,自ら乙8の2(インベンテック設計図)を積智科
技らに提供し,積智科技らはそれをもとに商品の検討を進めていたにすぎ
ないのであるから,被控訴人が一方的に積極的な情報入手の姿勢を貫いて
いたなどという事実はない。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本訴請求は,結論において理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり訂正・付加するほか,原判決記載のとおりであるから,
これを引用する。
2 原判決の訂正
(1) 原判決65頁10行目の「同電子メールの中の『ご興味を・・・』」から
下6行目の「USBフラッシュメモリに関するものであったと認められる。
また,」までを削除する。
(2) 原判決87頁11行目の「仮に,本件技術情報に原告の」から14行目の
「に対して提供された趣旨に合致こそすれ,これに反するものではなく,」
までを削除した上,これを「仮に,被控訴人が本件技術情報を使用していた
としても,それは,被控訴人が控訴人に対して提供した情報・条件を基礎と
した公知の情報若しくは公知の情報の組合せを使用したにすぎないから,」
と改める。
3 当審における控訴人の主張に対する判断
(1) 「被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人商品(原告商品)の形態を模倣
した」との主張について
ア 不競法2条1項3号において保護されるべき「商品」につき
(ア) この点に関する控訴人の主張は,原審における主張の繰り返しにすぎ
ず,引用されている証拠によっても控訴人商品(原告商品)の存在した
事実が認められないことは,原判決(53頁(1))が説示するとおりで
ある。
(イ) 控訴人は,事案によっては販売前でも保護され得るのであって,試作
品や設計図の完成段階であってもその模倣は違法と解すべきであるし,
見本市や展示会でも出品があれば,当然その時点で保護対象となると解
すべきであると主張する。
しかし,本件において控訴人商品(原告商品)に関する完成段階にあ
る試作品や設計図の存在及び展示会への出品の事実が認められないこ
とは原判決(54頁~57頁イ,ウ)の認定したとおりであるから,控
訴人の上記主張は理由がない。
(ウ) 控訴人は,原判決は,保護の始期の問題として,競業者にとって有用
性があると認められるべき商品の技術情報は,販売段階に至った製品の
形に結実していない場合でも不競法2条1項3号の問題としても保護
に値し得ることを看過したと主張する。
しかし,不競法2条1項3号はその文言記載のとおり商品の形態を保
護する規定であって技術情報を保護する規定ではないから,控訴人の主
張は失当であるが,本件協議前に控訴人商品(原告商品)に関する有用
な技術情報が存在していたと認めるに足りる証拠がないことは原判決
(53頁~54頁ア)の認定したとおりであるから,控訴人の上記主張
は採用することができない。
イ 控訴人商品(原告商品)の先行開発につき
(ア) この点に関する控訴人の主張は,原審における主張の繰り返しにすぎ
ず,控訴人が平成16年7月ないし8月の段階で内部構成を含めて,初
版製品の開発設計を終えていたこと,平成16年11月にPDCアーキ
テクチャーによって構成される小型USBフラッシュメモリーのコン
トローラー周り・回路構成が開発・確定されていたこと,及び平成17
年3月10日からドイツで開催されたCeBITに控訴人が小型US
Bフラッシュメモリを出品していたこと,以上の事実はいずれも認める
に足りないことは,原判決(54頁~57頁イ,ウ)のとおりである。
(イ) 控訴人は,乙42(SMI社長の陳述書)に関し,圧倒的な経済的地
位を持つ重要な取引先との関係を優先せざるを得ないSMI社長が被
控訴人に提出した内容の極めて薄い陳述書であって,控訴人の主張を否
定できるような信用性を有するものではないにもかかわらず,その内容
・信用性を詳しく検討することなく乙42に安易に依拠した原判決は誤
りであると主張する。
しかし,全証拠を精査しても控訴人が主張するような事情を窺わせる
証拠はなく,SMI社長が圧倒的な経済的地位を持つ重要な取引先との
関係を優先せざるを得なかったとの控訴人の主張は憶測にすぎないか
ら,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 控訴人は,甲61ないし甲63のデータが平成17年1月19日に,
甲64のデータが平成17年4月28日に,それぞれ控訴人において開
発され存在していた事実は甲77及び甲78により明らかであると主
張する。
しかし,甲77及び甲78は,データファイルを専用ソフトで展開し
たところ甲61ないし甲64と同じファイルが展開されたことを確認
した旨の陳述書とデータファイルであるが,そのデータファイル自体当
時作成されたものであるか否かを確認することはできないから,控訴人
の上記主張を証明するに足りる証拠と認めることはできない。仮に,甲
77の添付1記載の日付によって甲61ないし甲63のデータが平成
17年1月19日に作成されたものであったとしても,そもそも甲62
及び甲63の基板はいずれも本体部分と端子部分の幅が同一のストレ
ート形状のものであって,控訴人が先行開発したと主張する控訴人商品
(原告商品)とは形状が異なっているから,上記証拠をもって,控訴人
が控訴人商品(原告商品)を先行開発したことを認めるに足りない。
また,同様に,仮に甲77の添付2記載の作成日が事実であったとし
ても,その作成日は「2005年(判決注:平成17年)4月28日」
であるから,上記証拠によっても,控訴人が平成17年3月以前に控訴
人商品(原告商品)を先行開発していた事実を証明するものではない。
以上のとおり,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 「インベンテック社における開発・検討状況」につき
控訴人は,原判決が「小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸
法と基本的な回路構成は,被告及びインベンテック社において検討済みで
あったと認められる。」(同62頁)と判示した点について,原判決の掲
げる証拠は,小型USBフラッシュメモリの「開発済み」の証拠とはいえ
ないことはもちろん,原判決が認定するような「基本的な回路構成」が検
討済みであったことを示すものでもあり得ず,原判決が認定する①~⑥
は,いずれも「回路構成」に関する検討状況を示すものではない等と主張
する。
しかし,ここで重要な点は,平成16年8月当時インベンテック設計図
が作成済みであったか否か及び同設計図に依拠したサンプルが存在した
か否かであるところ,原判決の採用した証拠によれば,被控訴人及びイン
ベンテック社においてインベンテック設計図(乙6の2,乙8の2)が作
成済みであったこと,複数個のワーキングサンプルがインベンテック社か
ら被控訴人に対して送付されていたことからすれば,本件協議当時,既に
乙7(サンプルの写真)のような小型USBフラッシュメモリが開発済み
であったと認めることができるから,乙7が手交されていたか否かにかか
わらず,小型フラッシュメモリの基本的な形態・寸法及び回路構成は,被
控訴人及びインベンテック社において検討済みであったとの原判決の判
断に誤りはなく,控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 「乙1に関する認定・評価の誤り」につき
(ア) 事実誤認①の有無
控訴人は,平成17年3月7日の時点で小型USBフラッシュメモリ
のガーバーファイルを控訴人が被控訴人に送付を求めることなどあり
得ず,控訴人が乙1(電子メール)により求めたのは,通常サイズのU
SBフラッシュメモリに関するガーバーファイルであって,原判決の認
定は誤りであると主張する。
しかし,被控訴人とインベンテック社との間における小型USBフラ
ッシュメモリの開発経過,インベンテック設計図の存在並びに甲27の
1及び2(電子メール)におけるやりとりからすれば,乙1(電子メー
ル)記載の「ガーバーファイル」は小型USBフラッシュメモリに関す
るものであったと認めるのが相当であるから,原判決の認定に誤りがあ
るとはいえず,控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 事実誤認②の有無
控訴人は,原判決が「同電子メール中の『ご興味をお持ちのUSBフ
ラッシュカード』,『ご心配されている規格の全部を強調するか,もし
くは,我々より通常の規格とするように致します。』との記載からすれ
ば,これは,『通常の規格』とは異なるUSBフラッシュメモリを話題
にしているものとみるのが自然である。」と認定したことに関し,甲2
7の1(電子メール)に記載されている見積書が通常サイズのものであ
ることから,乙1(電子メール)で求めたものも通常サイズのガーバー
ファイルであるから,原判決の認定は誤りであると主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,乙1と甲27の1の各電子メールを関
連付け,乙1(電子メール)が,甲27の1添付の見積書の用意を意識
して送られたとの理解を前提にしているが,そもそも,乙1と甲27の
1の各電子メールはそれぞれの日付及びその内容並びに被控訴人が指
摘する甲27の3(電子メール)下段の内容に照らし,相互に関連して
いるものとは認められない。したがって,控訴人の上記主張は,その前
提において誤っており採用することができない。
また,控訴人は,乙1(電子メール)にある「we will follow as normal
spec」(訳文:「我々はより通常の規格とするように致します。」)と
の記載を捉えて,市場に出ていない開発中の新製品であった小型USB
フラッシュメモリについて「通常の規格(仕様)」などというものは存
在しなかったとして,乙1(電子メール)記載のガーバーファイルとは
通常のサイズのガーバーファイルであったと主張する。
しかし,乙1(電子メール)の冒頭の「Regards the USB flash card
you are interested is no problem for PDC 」(訳文:「ご興味をお
持ちのUSBフラッシュカードは,PDCにとって問題ありません。」)
との記載からすれば,「ご興味をお持ちのUSBフラッシュカード」と
は,小型USBフラッシュメモリを意味することは明らかであり,文章
全体の脈絡からすれば,上記の「通常の規格」とは,被控訴人から小型
USBフラッシュメモリの規格の全部を指示しない場合は,控訴人の方
で通常の規格とするように作業を進めるという意味であることは明ら
かであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 「被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人から示された営業秘密を不正に
使用した」との主張について
ア 「控訴人が提供した本件技術情報の価値」につき
控訴人は,控訴人が提供した控訴人COB情報及び控訴人非COB情報
の価値は極めて高いものである旨主張する。
しかし,控訴人が被控訴人に対して提供したと主張する控訴人COB情
報及び控訴人非COB情報というものが具体的にどのような情報であり
(なお,控訴人は,別紙データ目録1-1ないし5-2が控訴人COB情
報に該当するとも主張するがそれが全てと主張するものではない。),何
をもって営業秘密というのか特定を欠いていること,控訴人が具体的に主
張する技術情報の内容も公知であるか,又は,有用性を欠くものであって,
各技術情報を一体としてみても,公知のものを組み合わせたにすぎないも
のであって,極めて価値が高い情報とはいえず,仮に価値のある情報があ
ったとしても,それは被控訴人が提供した情報・条件を基礎として検討さ
れたものであって控訴人の固有の情報とはいえず,それらの技術情報に占
める控訴人の寄与・貢献度が極めて大きいとも認められないことは原判決
認定のとおりであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 「本件PCBAサンプルの授受」につき
控訴人は,PCBAサンプルが控訴人から被控訴人に交付されたと主張
し,これを否定する原判決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,控訴人の主張するPCBAサンプルの具体的な内容は必ずしも
明らかでなく,また,その存在を示す的確な証拠がないことは原判決(7
0頁~71頁(1))の指摘するとおりであって,控訴人から被控訴人に対
しPCBAサンプルが交付されたと認めることができないとした原判決
の判断に誤りがあるとは認められないから,控訴人の上記主張は採用する
ことができない。
ウ 「別紙データ目録1-1ないし10(7-1を除く)」につき
控訴人が,別紙データ目録の技術情報のうち,具体的にどのような技術
内容をもって営業秘密と主張するのか明らかでなく,また,これらの情報
が営業秘密に該当しないことは,原判決(71頁~73頁(2))の認定の
とおりである。
この点に関し,控訴人は,別紙データ目録の技術情報につき,控訴人提
供の技術成果はCOB技術による小型化及びCOB以外のメモリ実装方
法による小型化の両方について,その商品化を可能にする貴重なものだっ
たのであり,また,商品化に必要な「結論」部分に加えて,結論にたどり
着く「プロセス」部分に関する情報も被控訴人は得たのであって,こうし
た情報は,最終的な結果・結論部分だけの情報を得ることに比べて,実務
上格段に価値の高い情報であり,それらは他の情報と組み合わされて全て
の情報が有機的に一体となることにより極めて高い価値を備えるもので
あって,かかる情報をも備えた本件技術情報のまとまった形での提供に有
用性を認めないことは営業秘密保護法の立法趣旨に反するものである等
と主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,控訴人の主張する営業秘密の外延を不明
確にするものであって,控訴人の主張のとおりだとすると,控訴人主張の
有機的一体となった技術情報の範囲はどこまでか,それらの情報が営業秘
密の要件を具備していることをどのように確定するのかがますます不明
になるといわざる得ない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 「付随情報・補足情報」につき
(ア) 控訴人は,控訴人においてサイズ・容量問題を解決したという事実,
及びその解決結果としての形状・サイズ・容量・現物・コスト情報が一
体的に提供されたならば,それがそのまま商品化に利用できる技術情報
であることは明らかである等と主張するが,そのような主張が失当であ
ることは,前記ウで判断したとおりである。
(イ) また,控訴人は,製造委託を受けた者が創意工夫によって提供した一
定の独自の価値を有する情報についてまで営業秘密性を否定するなら
ば,営業秘密の要保護性として特許権と同等の新規性ないし進歩性を要
求するものであって,営業秘密保護法の意味を大きく失わせる等と主張
する。
しかし,「製造委託を受けた者が創意工夫によって提供した一定の独
自の価値を有する情報」が営業秘密といえるためには営業秘密の内容が
特定され,営業秘密と認められるための要件を具備していることが必要
であるところ,原判決は控訴人の主張する技術情報がそれらの条件を満
たしていないと判断しているにすぎず,営業秘密の要保護性として特許
権と同等の新規性ないし進歩性を要求するものではないから,控訴人の
上記主張は採用することができない。
オ 「本件技術情報」につき
(ア) 控訴人は,本件技術情報1ないし8について,それぞれの個別の情報
がそれ単独で営業秘密であると述べているのではなく,各情報が組み合
わさった形で,かつ,作動する現物とあわせて提供したのであるから,
競業者にとって有用な情報であったことは確実であると主張する。
しかし,上記主張が失当であることは,前記ウのとおりである。
(イ) また,控訴人は,LEDに関する情報について,小型化を実現する寸
法・形状との関係で「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事実及び
その方法」を伝える情報として,また,そうした寸法・形状での小型化
を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する
事実及びその方法を伝える情報として,全てが組み合わさることによっ
て,そのまま商品化を可能にする技術情報として有用性を獲得すると主
張する。
しかし,「そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路
構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝え
る情報として,全てが組み合わさ」った情報とはどのような情報なのか
不明であり,営業秘密としての特定性を欠くといわざるを得ないばかり
か,原判決(81頁~82頁オ(イ))が説示するとおり,控訴人が提供
したとするLEDの搭載の可否,搭載位置,光線の方向及びLEDの実
装に関する情報は,被控訴人から提案された選択肢及び条件を満たすた
めに適宜控訴人において部品や搭載位置を選択したものであって,その
内容は,当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎ
ないものと認められるから,控訴人の上記主張は採用することができな
い。
(3)「本件技術情報の不正使用」に関する主張について
控訴人は,控訴人商品(原告商品)と被控訴人各商品(被告各商品)とは
実質的に同一の形態であること,技術情報についても両者が一致することな
どを理由として,被控訴人が控訴人の営業秘密を利用していることは明らか
であると主張する。
しかし,前記のとおり,控訴人が営業秘密であると主張する技術情報は営
業秘密とは認められないから,形態が実質的に同一であり,被控訴人各商品
(被告各商品)に控訴人が主張する技術情報が含まれていたとしても,被控
訴人が控訴人の保有する技術情報を不正に使用したことにはならない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 「著作権侵害を理由とする損害賠償請求権の準拠法」に関する主張につい

控訴人は,法例11条2項又は通則法22条1項の解釈に関し,これらの
条項が適用されるためには,その権利は管轄権のある法律によって成立した
権利であれば足り,同種の権利の侵害が日本法上違法であって不法行為と評
価されれば足りると解釈すべきとした上で,その解釈によれば,本件では,
被控訴人の行為は台湾法上の著作権の一支分権たる翻案権の侵害であると
ころ,同種の権利たる日本法上の翻案権の侵害も不法行為であって損害賠償
請求が認められると主張する。
控訴人の著作権侵害を理由とする本訴請求は,被控訴人がなした平成18
年12月1日から同19年11月30日までの行為を理由とするものであ
るところ,その根拠となる準拠法の決定方法に関する定めは,平成18年1
2月31日までは「法例」(明治31年法律第10号)により,平成19年
1月1日からは「法の適用に関する通則法」によることになる(上記「通則
法」の施行期日に関する平成18年政令289号参照)。
ところで,本件のような不法行為の準拠法について上記「法例」はその1
1条で,「通則法」では17条(不法行為)と22条(不法行為についての
公序による制限)で,それぞれ定めているが,法例11条2項又は通則法2
2条1項による「不法」とは,控訴人が主張するとおり,同種の権利の侵害
が日本法上違法であって不法行為と評価される場合をいうと解釈されると
ころ,その意味は,同種の具体的な権利侵害行為が日本法上も違法であると
いうことであり,本件についていえば,原判決が指摘するように,設計図か
ら工業製品を製造するという具体的な行為が日本法上も翻案権その他の著
作権侵害として違法であるという意味であることは明らかである。これを
「被告の台湾著作権法違反行為は日本法上も『不法』であるから,台湾著作
権法違反による損害賠償請求は本件において可能というべきである」とする
控訴人の解釈は,独自の解釈にすぎず,採用することはできない。
なお,原判決は,著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の準
拠法を台湾法であるとした上で,本件では,台湾法上,設計図から工業製品
を製造する行為は翻案権及びその他の著作権侵害になると認めることはで
きないとし,さらに,重畳適用される日本法上も,設計図に従って工業製品
を製造することは日本法上も翻案権及びその他の著作権の侵害行為には該
当しないと判断するものであるから,いずれにしても,控訴人の上記主張は
原判決の判断に影響を及ぼすものではなく,失当である。
(5) 「不法行為の成否」に関する主張について
控訴人は,被控訴人の行為が不法行為に該当する根拠として,さらに,被
控訴人の信義則違反や契約締結上の過失を主張する。
しかし,そもそも,本件では,本件協議前に控訴人商品(原告商品)が開
発済みであったとは認められず,また,その時点で控訴人設計図面1及び2
も存在したとはいえないこと,その後の交渉においても,控訴人からモック
アップや本件PCBAサンプルが交付されたものとは認められず,控訴人が
提供したと主張する本件技術情報も営業秘密とは認められないものであっ
たこと,かえって,本件協議の直後に,被控訴人から控訴人に対し,インベ
ンテック設計図(乙8の2)が交付されたこと,それによって小型USBフ
ラッシュメモリの寸法情報等が提供され,それを前提としてその後電子メー
ル等のやりとりが進行したこと,被控訴人は控訴人に対しCOB技術を用い
た小型USBフラッシュメモリの製造が可能か否かを打診したものであっ
たところ,この段階では,被控訴人は控訴人に小型USBフラッシュメモリ
の製造を委託できるかどうかを検討していたにすぎなかったこと,しかし,
結局,COB技術ではコスト面でのメリットがないこと等が分かり,COB
技術を用いた小型USBフラッシュメモリの製造の委託を断念し,被控訴人
各商品(被告各商品)ではCOB技術を使用しなかったという原判決の認定
した事実関係の下では,控訴人の主張する信義則違反や契約締結上の過失を
適用する前提事実自体が存在しないというべきであるから,控訴人の上記主
張は採用することができない。
4 結論
以上のとおりであるから,控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がない。
そうすると,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結論において誤りがなく,
本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 東 海 林 保
裁判官 矢 口 俊 哉

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