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平成23(行ケ)10141審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成23年11月22日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官山口由木
原告トマト建設株式会社久保山隆
対象物 集合住宅
法令 特許権
キーワード 刊行物68回
審決18回
進歩性3回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件訴訟は,特許出願拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決 の取消訴訟である。争点は,進歩性(容易想到性)の有無である。

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判決文

平成23年11月22日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10141号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成23年11月8日
判 決
原 告 ト マ ト 建 設 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 加 藤 久
久 保 山 隆
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 土 屋 真 理 子
山 口 由 木
新 海 岳
田 村 正 明
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 原告が求めた判決
特許庁が不服2010-2195号事件について平成23年3月15日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件訴訟は,特許出願拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決
の取消訴訟である。争点は,進歩性(容易想到性)の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成19年7月20日,名称を「集合住宅」とする発明につき特許出願
したが(特願2007-189066号) 平成21年10月29日に拒絶査定を受

けたので,平成22年2月1日,特許庁に対し不服審判請求をした(不服2010
-2195号)。
特許庁は,平成23年3月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その謄本は同月29日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨
本件出願は,天井裏収納室を備える集合住宅に関する発明についてのもので,審
決時において請求項1ないし6から成り,そのうち,平成21年8月10日付けの
手続補正書(甲3)に記載の請求項4の発明(本願発明)の特許請求の範囲は以下
のとおりである。
【請求項4】
「下階と上階とを備えた集合住宅において,
前記下階は,
玄関が設けられた下階第1スペースと,
前記下階第1スペースの奥に位置し,天井の位置が前記下階第1スペースの天井
の位置より低く形成された下階第2スペースと,
前記下階第2スペースの上に位置し,床面の位置が前記下階第1スペースの天井
の位置より低く形成され,かつ天井の位置が前記下階第1スペースの天井の位置よ
り高く形成された下階収納スペースとを備え,
前記上階は,
前記下階第1スペースの上に位置し,玄関が設けられ,床面の位置が前記下階第
2スペースの床面より高く形成され,天井の位置が前記下階第2スペースの天井よ
り高く形成された上階第1スペースと,
前記下階収納スペース上に位置し,床面の位置が前記上階第1スペースの天井の
位置より低く形成され,かつ天井の位置が前記上階第1スペースの天井の位置より
高く形成された上階第2スペースと,
前記上階第1スペースの上に位置し,床面の位置が前記上階第2スペースの床面
の位置より高く形成された上階収納スペースとを備えた集合住宅。」
3 審決の理由の要点
本願発明は,下記刊行物1記載の発明に周知技術を組み合わせることで,本件出
願当時の当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性を欠く。
【刊行物1】特開2007-120228号公報(甲1)
【刊行物1に記載された発明】
「下階Aと上階Bとにそれぞれ独立した住戸W’ W’
, を備える二階建の集合住宅
であって,
前記下階Aは,
玄関に連続して形成された設備スペースと,
その奥に位置し,天井部Ab’が下階Aの設備スペースの天井部Abより低い洋室
20’と,
下階Aの洋室20’の上に位置し,床面Haの位置が,前記下階Aの設備スペース
の天井部Abより低く形成され,かつ天井部Hbの位置が下階Aの設備スペースの
天井部Abより高く形成され,下階Aから出入り可能な天井裏収納室Hを備え,
前記上階Bは,
下階Aの設備スペースの上に位置し,玄関に連続して形成され,床面Baの位置
が,下階Aの洋室20’の床面Aaより高く形成され,天井部Bbの位置が下階Aの
洋室20’の天井部Ab’より高く形成された上階Bの設備スペースと,
天井裏収納室Hの上に位置し,床面Ba’を上階Bの設備スペースの床面Baより
高く形成した洋室20’とを備え,
上階の設備スペースの天井Bbと屋根との間には,屋根裏空間が形成され,
上階Bの洋室20’の天井は,屋根裏の位置に形成され,その屋根裏に近い上部位
置には,上階Bの設備スペースの天井部Bbと同じ高さの位置に,ロフト16を水
平に突き出すように設けた
集合住宅。」
【一致点】
「下階と上階とを備えた集合住宅において,
前記下階は,
玄関が設けられた下階第1スペースと,
前記下階第1スペースの奥に位置し,天井の位置が前記下階第1スペースの天井
の位置より低く形成された下階第2スペースと,
前記下階第2スペースの上に位置し,床面の位置が前記下階第1スペースの天井
の位置より低く形成され,かつ天井の位置が前記下階第1スペースの天井の位置よ
り高く形成された下階収納スペースとを備え,
前記上階は,
前記下階第1スペースの上に位置し,玄関が設けられ,床面の位置が前記下階第
2スペースの床面より高く形成され,天井の位置が前記下階第2スペースの天井よ
り高く形成された上階第1スペースと,
前記下階収納スペース上に位置し,床面の位置が前記上階第1スペースの天井の
位置より低く形成され,かつ天井の位置が前記上階第1スペースの天井の位置より
高く形成された上階第2スペースと,
を備えた集合住宅」である点
【相違点】
「本願発明は,上階第1スペースの上に位置し,床面の位置が上階第2スペース
の床面の位置より高く形成された上階収納スペースを有しているのに対し,刊行物
1記載の発明では,このような上階収納スペースを有していない点。」
【相違点に係る構成の容易想到性の判断(7,8頁)】
「屋根裏空間を収納空間として使用することは,例示するまでもなく周知の技術であり,刊
行物1記載の発明において,ロフトと同じ高さに形成されている上階Bの設備スペースの上の
屋根裏空間を,上階収納スペースとし,本願発明の相違点に係る構成とすることは,当業者が
容易に想到する程度のことである。
そして,本願発明全体の効果も,刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る
範囲のものであって格別なものということができない。
なお,原告は,審判請求書において,本願発明について,
「上階第2スペースが『天井の位置
が前記上階第1スペースの天井の位置より高く形成され』ていることで,上階第1スペースの
天井の位置は上階第2スペースの天井の位置より低い。従って,上階第2スペースの床面から
天井面までの高さを十分確保しても,上階収納スペースは上階第2スペースの天井位置と上階
第1スペースの天井位置との差を,空間として加算することができることにより,上階収納ス
ペースに十分な高さを確保しても,集合住宅の高さを低く抑えることができる。」と主張してい
るが,刊行物1記載の発明において,上階第2スペース(上階Bの洋室20’)のロフト以外の
部分の天井の位置は屋根裏の高さであり,上階第1スペース(上階Bの設備スペース)の上の
屋根裏空間を収納空間として利用しても,集合住宅の高さは変わらず,本願発明の作用効果は,
刊行物1記載の発明から予測できる程度のものである。
したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明
をすることができたものである。」
第3 原告主張の審決取消事由
1 相違点の看過(取消事由1)
本願発明では上階第2スペースの天井の位置が上階第1スペースの天井の位置よ
りも高く形成されているが,刊行物1記載発明では,上階Bの洋室20’の天井の
位置が上階Bの設備スペースの天井の位置よりも高く形成されているか否か不明で
ある。
そうすると,かかる点も本願発明と刊行物1記載発明の相違点となるが,審決は
この相違点を看過して本願発明と刊行物1記載発明の相違点を認定しており,審決
の相違点の認定には誤りがある。
2 容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
刊行物1の段落【0002】ないし【0005】,とりわけ段落【0005】の記
載に照らせば,刊行物1記載発明は従来周知であった床下収納や小屋裏収納におけ
る多種多様な一般的収納物の収納手段としての用法に難があったとの問題点を解決
するためのものであり,従来の小屋裏収納を否定するものであるということができ
る(図7には,従来のロフト構造が記載されている。。また,刊行物1記載発明で

は,上階Bに関し,居住空間(洋室20’)の上に収納スペース(ロフト16)を設
けるという発想しか開示されておらず,本願発明のように居住空間と同一の層に収
納スペースを設けるという発想は開示されていない。加えて,屋根裏空間に収納ス
ペースを設けるという周知技術を適用しても,上方の収納スペースの確保はロフト
16の上に収納スペースを設けることで尽きてしまい,さらに上方に収納スペース
を設けるべく設備スペースの屋根裏空間を利用するという発想まで新たに生じるも
のではない。そうすると,刊行物1中には,従来のロフト構造における問題点を解
決するために,ロフトの機能を有する新規な収納スペースを提供するべく,本願発
明にいう「上階第2スペース」
(刊行物1記載発明にいう「上階Bの洋室20’)と

平面的に異なる位置に本願発明にいう「上階収納スペース」を形成するという本願
発明に構成に至る動機付けとなる技術的課題自体が開示されていない。なお,刊行
物1記載発明が上記のとおり小屋裏収納自体を否定していることは,刊行物1記載
発明に屋根裏収納に係る周知技術を適用する阻害要因でもある。
刊行物1記載発明から本願発明に至るには,①上階Bの洋室20’の天井をロフ
ト16の位置(高さ)とし,②上階Bの設備スペースの天井を収納スペースを形成
する高さの分だけ下げ,③設備スペースの天井裏と居室空間の天井との間に収納ス
ペースを形成する,という手順を踏む必要があるが,かような手順を踏むことは当
業者には容易でない。
また,刊行物1に記載されているロフト構造は,居室空間に水平に張り出した構
造であるため,ロフトの下面を生活に支障のない高さにしなければならず,ロフト
が設けられない居室空間では必要以上に天井が高くなってしまう。事実,刊行物1
の集合住宅では,ロフトの高さを基準にして上階Bの洋室20’のロフト以外の部
分の天井の高さを屋根裏の高さにしているため,上記洋室20’のロフト以外の部
分の天井の高さが必要以上に高くなってしまっている。そうすると,刊行物1記載
発明に周知技術である屋根裏空間を収納空間とする構成を適用しても,上階Bの設
備スペースの上の屋根裏空間の高さだけ建物が高くなるだけで,本願発明の構成に
想到することはできないし,上階Bの洋室20’のロフト以外の部分の天井の高さ
を抑えることもできず,集合住宅の高さを低く抑えるという本願発明の作用効果を
奏することもできない。
そして,快適な居室空間を確保しつつ建築物の高さを低く抑えることは建築物に
とって非常に重要な要因であるところ,下階では床下スペースを収納スペースとし

て,上階では上階収納スペースを収納スペースとして確保でき,下階第1スペース,
上階第1スペース,および上階収納スペースのそれぞれの高さの合計が全体の高さ
となるので,高さが高くなることを抑制することができる。よって,上階と下階と
に収納スペースを確保しつつ,高さを抑えることができると共に,大幅なコスト増
大を抑制することが可能である」という作用効果及び「収納スペースを居室空間に
張り出すことなく形成されるため,幅広く下階収納スペースや上階収納スペースを
確保することができるので,上階や下階を開放感のある居室とすることができる」
という作用効果は,本願発明特有の顕著な作用効果である。
しかるに,審決は,上記の動機付けの不存在や,組合せの阻害事由の存在等を看
過し,刊行物1記載発明に周知技術を適用することに基づいて,本願発明と刊行物
記載1発明の相違点に係る構成に当業者が容易に想到することができたと判断した
もので,審決の容易想到性判断には誤りがある。
第4 取消事由に関する被告の反論
1 取消事由1に対し
刊行物1記載発明の住宅では,上階B洋室20’の天井の位置は屋根裏面に設け
られ,上階B設備スペースの天井の高さに等しいロフト下面(Bb)よりもさらに
上方に形成されており,洋室20’の天井の方が設備スペースの天井よりも高く形
成されていることは明らかである。そうすると,刊行物1記載発明も上階B洋室2
0’の天井の位置が上階B設備スペースの天井の位置より高く形成され,この点で
本願発明の構成と相違しないとした審決の一致点及び相違点の判断に誤りはない。
2 取消事由2に対し
住宅において収納スペースは広い方が望ましいということは,当業者ならずとも
一般居住者が通常認識するところであり,住宅における収納スペースの確保はごく
一般的な当然の課題であるし,この課題の解決方法として屋根裏等のデッドスペー
スを収納空間として使用することは,刊行物1の段落【0004】にも記載されて
いるように従来より行われてきた周知技術である。刊行物1記載発明の上階Bの設
備スペースには,特に用途のない屋根裏空間が存在しているから,その屋根裏空間
を収納スペースを確保すべく収納スペースにしようとすることには十分な動機があ
る。
また,刊行物1は,小屋裏収納について,
「収納対象物によっては,より効果的な
収納空間として用い得る」(段落【0005】)と評価しており,小屋裏収納を全面
的に否定していない。上記のとおり,住宅において収納スペースは広い方が望まし
いのであって,ロフト16が設けられているからといって,他の部分に収納スペー
スを作る動機がなくなるものではない。
また,本願発明では上階収納スペースは「上階第1スペースの上に位置し,床面
の位置が上階第2スペースの床面の位置より高く形成された」ものと特定されるに
とどまり,
「上階第2スペースと上階収納スペースが同層である」か否かが特定され
たものではないから,居住空間と同一の層に収納スペースを設ける発想が刊行物1
で開示されているか否かは問題とならない。あるいは,特に用途のない屋根裏空間
を有する刊行物1記載発明において,住宅に広い収納スペースを確保するという動
機に基づき,屋根裏空間を収納スペースとして使用するという周知の技術を採用し
て上階Bの設備スペースの天井と屋根の間の屋根裏空間を収納スペースとすれば,
当該収納スペースは,おのずから上階Bの洋室20’の上方の空間と同じ高さであ
って,平面的に異なる位置,つまり同層に形成されることとなる。したがって,上
記のような発想が刊行物1で開示されていなくても,刊行物1記載発明及び周知技
術に基づいて相違点に係る構成に想到できないものではない。
住宅における広い収納スペースの確保といういわば一般的な要請に対して,屋根

裏空間を収納スペースとして使用する」という周知の技術を採用し,ロフト16と
は別に,上階B設備スペース上部の屋根裏空間を収納スペースとすることは,当業
者が通常の創作能力を発揮してなし得たことにすぎない。なお,当業者が刊行物1
発明に周知技術を適用して本願発明の構成に想到するのに,原告が主張する手順を
踏む必要はない。
刊行物1記載発明も,全体の高さが高くなることを抑え,かつ,大幅なコスト増
大も抑制可能なものであるし 【発明の効果】,
( ) 上階Bの設備スペースの天井の上の
屋根裏空間を収納スペースとしても,建築全体の高さは変わるものではない。また
屋根裏空間を収納スペースとすれば,上階収納スペースと下階収納スペースとが設
備スペースと洋室20’とにそれぞれ配置された構造となり,ここで「下階収納ス
ペース」と「上階収納スペース」の高さを低く抑えれば,当然,設備スペースと洋
室20’の高さはともに小さくなり,その分全体の建築高さを低く抑えることが可
能である。なお,刊行物1記載発明において屋根裏空間を上階収納スペースとすれ
ば,
「上階収納スペース」が「上階第2スペース」
(上階B洋室20’)の位置とは平
面的に異なる位置に独立した空間として設けられたものとなるから,上階第2スペ

ース」(上階B洋室20’)の高さは,この「上階収納スペース」の有無に関係なく
設定可能である。
「上階と下階とに収納スペースを確保しつつ,高さを抑えることが
できると共に,大幅なコスト増大を抑制することが可能である」という原告主張の
作用効果は,当業者が刊行物1記載発明及び周知技術から予測できるものである。
刊行物1記載発明でも,下階収納スペースを,下階Aの洋室20’
(本願発明にい
う下階第2スペース)の天井の上方に形成することで,下階Aの洋室20’と同じ
床面積を確保できるし,上階Bの設備スペース(本願発明にいう上階第1スペース)
の天井の上の屋根裏空間は,上階Bの設備スペースと同じ床面積を有しているもの
であるから,この屋根裏空間を収納スペースとすれば当然上階Bの設備スペースと
同じ広い床面積を確保できることになる。したがって,
「収納スペースを居室空間に
張り出すことなく形成されるため,幅広く下階収納スペースや上階収納スペースを
確保することができるので,上階や下階を開放感のある居室とすることができる」
との作用効果は当業者が予測できるものにすぎない。
結局,本願発明には特有の顕著な作用効果はなく,審決の判断には顕著な作用効
果の看過は存しない。
以上のとおり,審決の進歩性判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
原告は,本願発明では上階第2スペースの天井の位置が上階第1スペースの天井

の位置よりも高く形成されているが,刊行物1記載発明では,上階Bの洋室20’
の天井の位置が上階Bの設備スペースの天井の位置よりも高く形成されているか否
か不明である」点も相違点であると主張する。
刊行物1には次のように図7が記載されているところ,刊行物1記載発明の住宅
Wでは,上階Bの洋室20’
(左上)の中にはロフトが設けられているが,同洋室2
0’の天井の位置はロフト16よりも高い屋根裏面に設けられている一方,上階B
の設備スペース(右上)の天井は上記ロフト16の高さに等しくなっていることが
認められる。したがって,上記洋室20’の天井の方が上記設備スペースの天井よ
りも高く形成されているということができる。なお,本件出願の図面2は下記のと
おりである。
【刊行物1の図7】
【本件出願の図2】
そうすると,
「上階Bの洋室20’の天井は,屋根裏の位置に形成され,その屋根
裏に近い上部位置には,上階Bの設備スペースの天井部Bbと同じ高さの位置に,
ロフト16を水平に突き出すように設けた」とした刊行物1記載発明に関する審決
の認定部分に誤りはないし,「前記上階は,・・・天井の位置が前記上階第1スペー
スの天井の位置より高く形成された上階第2スペース」との一致点認定部分にも誤
りはなく,原告主張の点をとらえて,相違点とすることはできない。したがって審
決がした本願発明と刊行物1記載発明の相違点の認定に原告主張の看過はない。
よって,原告が主張する取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について
(1) 刊行物1の段落【0002】には「一般的に,住宅内における快適な居住
性を高めるために当該住宅内に必要且つ十分な収納空間を用意し,日常用いられる
生活空間内において不要とされる物を当該収納空間内に納め入れて,スッキリとし
た居住空間内にして生活することが望まれている。 との記載がされているし,
」 段落
【0004】には従来の納戸等の平面的な広がりの要求される収納空間を住宅内に
設けることは敷地面積等の理由から制約を受けることが多かった旨が記載されてい
るし,段落【0005】には従来の床下収納等では収納手段として不十分であった
旨の記載がされているから,刊行物1記載発明においても,住宅内にできるだけ多
くの収納スペース(収納空間)を設けて収納量の向上を図ることと,収納スペース
の平面的な広がりを抑制して居住空間を狭くしないようにすることとの両立が一般
的な技術的課題として認識されているということができる。
ここで,居住空間の広がりを制約せずに収納スペースを確保するという技術的課
題を解決するための手段として,居住空間の上方の屋根裏(天井裏)に収納スペー
スを設けることは,審決も認定するとおり本件出願当時の当業者の周知技術である
ところ,この周知技術と刊行物1記載発明とは,これらによって解決すべき技術的
課題が上記の一般的技術的課題の限度で共通する。
また,刊行物1の段落【0002】ないし【0006】の記載に照らせば,刊行
物1記載発明が下階と上階の間に中間階を設け,これを収納空間(収納スペース)
として利用する構成を採用するに至ったのは,床下収納や小屋裏収納では収納量が
不十分であったことがその理由の一つであったと認められるし,段落【0005】
でも,小屋裏収納につき,
「収納対象物によっては,より効果的な収納空間として用
い得る」と一定の評価をしている。したがって,刊行物1記載発明においても,屋
根裏収納等の小屋裏収納をさらに設けることが排斥されているものではなく,阻害
要因は存しない。
刊行物1記載発明の住宅Wの上階Bの設備スペースの屋根裏には何ら設備が設け
られておらずデッドスペースとなっているから,このデッドスペースに屋根裏収納
を設けることは,本件出願当時の当業者であれば容易になし得る事柄であって,か
かる構成に想到すること,すなわち刊行物1記載発明に屋根裏収納に係る周知技術
を適用することは,動機付けに欠けるものではない。
(2) 原告は,刊行物1記載発明では,上階Bに関し,居住空間(洋室20’)
の上に収納スペース(ロフト16)を設けるという発想しか開示されておらず,居
住空間と同一の層に収納スペースを設けるという発想は開示されていないとか,屋
根裏空間に収納スペースを設けるという周知技術を適用しても,上方の収納スペー
スの確保はロフト16の上に収納スペースを設けることで尽きてしまうなどと主張
する。
しかしながら,本願発明の特許請求の範囲では,上階収納スペースは「上階第1
スペースの上に位置し,床面の位置が上階第2スペースの床面の位置より高く形成
された」とされているのみで,居住空間と同一の層に上階収納スペースを設けるこ
とが特定されているわけではない。他方,刊行物1記載発明の建物Wの上階Bの屋
根裏に収納スペースを設ければ,当該収納スペースはおのずから上階Bの洋室20’
の上方の空間と同じ高さになり,同空間と高さ方向には等しいが平面的には異なる
位置に配置されることになる。また,刊行物記載1発明の建物Wの上階Bの設備ス
ペースと洋室20’のいずれの屋根裏に収納スペースを設けるかは,居住者の使い
やすさ等を考慮して決定すべき事項にすぎないところ,洋室20’には既にロフト
16が設けられて収納スペースが確保されている一方,設備スペースには居住空間
内の収納設備と考えられる諸設備が設けられているし,洋室20’の天井は屋根裏
面に形成されており,袋状を成すスペースが存在しない一方,設備スペースは天井
面Bbで下方の居住空間と袋状の屋根裏空間が仕切られている。居住者の使いやす
さや設備の追加のしやすさを考慮すれば,設備スペースの方が屋根裏収納を設けや
すいということができるし,刊行物1記載発明に屋根裏収納の周知技術を適用した
ときであっても,収納スペースは広いほどよいから,上階Bの洋室20’のロフト
16の上に収納スペースを設けたことで収納スペースの確保は十分であり,これ以
上収納スペースを設ける必要はないとして,かかる周知技術に基づく動機付けが尽
きてしまうものでもなく,設備スペースに屋根裏収納を設ける構成が排除されるも
のではない。そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,刊行物1中には,従来のロフト構造における問題点を解決するた
めに,ロフトの機能を有する新規な収納スペースを提供するべく,本願発明にいう
「上階第2スペース」
(刊行物1記載発明にいう「上階Bの洋室20’)と平面的に

異なる位置に本願発明にいう「上階収納スペース」を形成するという本願発明に構
成に至る動機付けとなる技術的課題自体が開示されていないと主張する。しかしな
がら,本願発明の技術的課題は,住宅において,上階と下階の収納スペースを広く
確保しつつ,建物の高さを抑えることができるとともに,大幅なコスト増大を抑制
する点にあるところ(段落【0006】,収納スペースをできる限り広く確保する

ことは,住宅を建築しようとする者であれば誰でも志向する事柄にすぎないし,刊
行物1の【課題】には「標準的な階高,軒高で・・・天井裏収納室を備える住宅を」
との記載が,段落【0008】には「かかる中間階を有する建物では,上階と下階
との間に中間階が設けられ,しかも,下階における天井高さを中間階の天井高さと
してあることから,下階の階高を標準的な仕様における階高に対して100cm以
上高くして構成する必要があり,構造駆体,
・・・,階段の段数の増加,場合によっ
ては踊り場の別途設置等に伴って,標準施工に対して施工コストが著しく割高とな
る不具合があった。」との記載が,段落【0009】には「また,下階の階高が著し
く高くなることから全体的な意匠的調和性を欠き,不自然な形態となり,また,下
階の内部においても極端に天井の高い居住部分を生ずることから,自然な居住性を
損なう不具合があった。また,このように階高が著しく高められた階を備える住宅
は法規制の面で種々の対応がせまられる不具合があった。 との記載があるから,
」 刊
行物1記載発明においても建物の高さを抑えるとともに大幅なコスト増大を抑制す
ることが技術的課題と捉えられていることは明らかである。そして,前記のとおり,
建物Wの上階Bの設備スペースと洋室20’のいずれの屋根裏に収納スペースを設
けるかは,居住者の使いやすさ等を考慮して決定すべき事項にすぎないところ,建
物の高さを抑えるとともに大幅なコスト増大を抑制するという見地からは,設備ス
ペースに屋根裏収納を設けるのが合理的であるから,刊行物1記載発明の建物Wの
上階Bの設備スペースに屋根裏収納を設ける動機付けがあるということができ,原
告の上記主張は採用することができない。
なお,刊行物1記載発明に基づいて本願発明の構成に想到するのに,原告が主張
する手順を踏む必要はない。
そして,上階Bの設備スペースの屋根裏空間を収納スペースとして利用するから
といって,上記屋根裏空間の高さを必ずしも大きくしなければならないものではな
いから,これによって建物W全体の高さが必然的に大きくなるものではない。
(3) 前記(1),(2)のとおり,刊行物1記載発明に屋根裏収納に係る周知技術を適
用し,上階Bの設備スペースに屋根裏収納スペースを設ける構成に想到することは,
本件出願当時の当業者にとって容易であったところ,原告が主張する本願発明の作
用効果「上階と下階とに収納スペースを確保しつつ,高さを抑えることができると
共に,大幅なコスト増大を抑制することが可能である」こと及び居住空間をできる
だけ広く確保し,
「上階や下階を開放感のある居室とすることができる」という作用
効果は,刊行物1記載発明に上記周知技術を適用する上で,当業者において予測し
得る程度のものにすぎない。すなわち,刊行物1記載発明の建物Wの上階Bの設備
スペースの天井裏に収納スペースを設ければ,設備スペースがある方の空間と洋室
20’がある方の空間の双方に収納スペースを配置することとなり,設備スペース
上方の収納スペースと洋室20’下方の収納スペースの高さを抑えることで,建物
Wの高さを小さく抑えることができるし,これによって居住空間をより広く活用で
きることは当然に予想できるからである。
(4) 以上のとおり,本件出願当時,刊行物1記載発明に屋根裏収納に係る周知
技術を適用することで,当業者において本願発明と刊行物1記載発明の相違点に係
る構成に容易に想到することができるから,この旨をいう審決の容易想到性判断に
は誤りはない。
したがって,原告が主張する取消事由2は理由がない。
第6 結論
以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩 月 秀 平
裁判官
古 谷 健 二 郎
裁判官
田 邉 実

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