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平成22(ワ)3846不当利得金返還請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成23年10月27日
事件種別 民事
当事者 被告アライドテレシス株式会社
原告パナソニック電工株式会社
法令 特許法36条5項1号1回
キーワード 実施11回
進歩性8回
特許権4回
無効3回
侵害1回
無効審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 前提事実(当事者間に争いがない又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認 定できる。) (1) 当事者 原告は,電気設備,制御機器,電子材料等を製造販売する会社である。

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判決文

平成23年10月27日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成22年(ワ)第3846号 不当利得金返還請求事件
口頭弁論終結日 平成23年7月19日
判 決
原 告 パナソニック電工株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩 坪 哲
同 速 見 禎 祥
被 告 アライドテレシス株式会社
同訴訟代理人弁護士 菅 尋 史
同 宍 戸 充
同 上 田 有 美
同補佐人弁理士 細 田 益 稔
同 石 井 総
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成22年3月26日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 前提事実(当事者間に争いがない又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認
定できる。)
(1) 当事者
原告は,電気設備,制御機器,電子材料等を製造販売する会社である。
被告は,ネットワーク機器等を製造販売する会社である。
(2) 原告の有する特許権
原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本
件特許発明」と,本件特許に係る出願明細書を「本件明細書」という。)に係
る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
特許番号 2530771号
発明の名称 送受信線切替器
出願年月日 平成3年7月8日
登録年月日 平成8年6月14日
特許請求の範囲
【請求項1】
IEEE802.3 規格の 10BASE-T に準拠するツイストペア線を使用した
ネットワークにおいて,MAU 又は DTE に接続される送受信線を切り替え
るための切替器であって,信号線の接続を検査するために送信器から受信
器に伝送されるリンクテストパルスを検出するリンクテストパルス検出
手段と,リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを
判断して信号線を切り替える信号線切替制御部とを備えることを特徴と
する送受信線切替器。
(3) 構成要件の分説
本件特許発明は,以下のとおり分説することができる(なお,後記のとお
り,構成要件Cの分説については当事者間で争いがあり,以下の分説は原告
の主張に沿ったものである。。

A IEEE802.3 規格の 10BASE-T に準拠するツイストペア線を使用した
ネットワークにおいて,MAU 又は DTE に接続される送受信線を切り替え
るための切替器であって,
B① 信号線の接続を検査するために送信器から受信器に伝送されるリンク
テストパルスを検出する
② リンクテストパルス検出手段と,
C① リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断
して
② 信号線を切り替える
③ 信号線切替制御部とを備えることを特徴とする
D 送受信線切替器。
(4) IEEE802.3 規格等について(甲8,乙5)
ア IEEE802.3 規格の 10BASE-T(以下「10BASE-T」という。)
アメリカ電気・電子技術者協会(IEEE;The Institute of Electrical and
Electronics Engineers)が,ツイストペア線を用いた 10Mbs の Ethernet
について定めた標準化規格である。
イ MAU
Ethernet で用いられるデータの送受信装置(Media Access Unit)の略
又はこれを内包する,ネットワーク上でデータのやり取りを行う際にデジ
タル信号とアナログ信号の相互変換,コリジョンの監視などを行い,OSI
参照モデルにおける「物理層」の役割を果たす(Media Attachment Unit)
の略である。以下では,Media Access Unit を指すものとして用いる。
ウ DTE
データ端末装置(Data Terminal Equipment)の略であり,データ通信
網に接続されたパソコンやサーバ等の機器をいう。
エ ツイストペア線
10BASE-T で使われるケーブルであり,ソケットコネクタに8本の信号
線を含む4つのペア線があり,これらが1本のケーブルにまとめられてい
る。両端において,4ペアのツイストペアの偶数番目の信号線が左から橙,
青,緑及び茶色の順に並んだ「ストレートケーブル」と,一端はこれと同
じで,他端ではツイストペアの偶数番目の信号線が左から緑,青,橙及び
茶色の順に並んだ「クロスケーブル」の2種類がある。
10BASE-T において信号伝送に用いられるのは,上記図のうち1,2ピ
ンのペア線と,3,6ピンのペア線である。
MAU と DTE は,ペア線に対応するコネクタピンの配列が異なるため,
MAU と DTE との間ではストレート接続,MAU 又は DTE 同士の間では
クロス接続をする必要がある。
オ リンクテスト及びリンクテストパルス
リンクテストとは 10BASE-T に特有の機能であり,データを送信してい
ない状態でも,定期的にリンクテストパルスと呼ばれるパルス信号を送出
することによって,セグメントの接続状態を監視する機能である。
10BASE-T の MAU は,接続を確認するために RD 回路上のフレーム・
データおよびリンクテストパルスを監視し,所定の期間,データもリンク
テストパルスも受信しなかった場合には,リンクテストフェイル状態(link
test fail)になる。この待ち時間はリンクロス時間(link loss time)と呼
ばれ,50 から 150ms の間と規定されている。
リンクテストフェイル状態では, 回路および DI 回路ともアイドル状
TD
態となるが,フレーム・データを受信するか,またはリンクテストパルス
を所定回数連続受信すると,リンクテストのパス状態(link test pass)に
移行する。
カ 自動 MDI/MDI-X 構成(Automatic MDI/MDI-X configuration)
IEEE802.3 規格により定められた標準規格で,同じような装置間でクロ
スケーブルを必要としないようにすることを目的とするものである。
具体的には,Automatic MDI/MDI-X state machine を用い,ストレー
ト結線である MDI モードとクロス結線である MDI-X モードとの間をラン
ダムな時間間隔で繰り返し遷移させ,その時間内にツイストペア線の他端
からリンクテストパルス又は PH dependent data を検出すると当該結線
の状態を維持し,検出しなければ別の結線状態に変更する(遷移を続ける)
というものである。
この構成の具体的態様は,以下の図(Auto Crossover state diagram)
で示される。
(5) 被告の行為
被告は,遅くとも平成16年4月1日から,上記自動 MDI/MDI-X 構成を
備えた以下の製品(以下「被告製品」という。)を製造販売した。なお,被告
が吸収合併した株式会社コレガも被告製品を販売していたかについて,後記
のとおり争いがある。
ア スイッチングハブ FS705TX ほか
CG-SW05TXPL ほか
イ ルータ AR260S ほか
CG-BARFX2 ほか
ウ アクセスポイント WR540APS ほか
CG-WLAPGMN ほか
エ LAN アダプタ CG-LAPCIGT2 ほか
2 原告の請求
原告は,被告の行為により本件特許権を侵害されたとして,不当利得に基づ
き,被告に対し,内金として1億円の利得返還及びこれに対する本件訴状送達
の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求めている。
3 争点
(1) 被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか
ア 被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか(争点1-1)
イ 被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか
(争点1-2)
(2) 本件特許は,以下の無効理由を有しており特許無効審判により無効とされ
るべきものであるか
ア 特願昭61-141401号公報(以下「乙1文献」という。)に記載さ
れた発明(以下「乙1発明」という。)に基づく進歩性欠如(争点2-1)
イ 特願昭59-263379号公報(以下「乙2文献」という。)に記載さ
れた発明(以下「乙2発明」という。)に基づく進歩性欠如(争点2-2)
ウ 特願平1-507235号公報(以下「乙3文献」という。)に記載され
た発明(以下「乙3発明」という。)に基づく進歩性欠如(争点2-3)
エ IEEE 規格(以下「乙4文献」という。)に記載された発明(以下「乙4
発明」という。)に基づく進歩性欠如(争点2-4)
オ 平成6年12月14日法律第116号による改正前の特許法36条5項
1号(以下「サポート要件」という。)違反(争点2-5)
(3) 被告の利得(争点3)
第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1-1(被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか)につ
いて
【原告の主張】
以下のとおり,被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足する。
(1) 被告製品の構成
a 10BASE-T に準拠するツイストペア線を使用したネットワークにおい
て,MAU 又は DTE に接続される送受信線を切り替えるための切替器を備
えたスイッチングハブ,ルータ,アクセスポイント,LAN アダプタである。
b① 信号線の接続を検査するために,被告製品に接続される機器から被告
製品に伝送される,リンクテストパルスを検出する,
② リンクテストパルス検出手段を有する。
c① リンクテストパルス検出手段の検出結果から,被告製品に接続される
機器のツイストペア線の信号線が,送信線か受信線かを判断する。
すなわち,リンクテストパルスが入力されない通信未確立の状態では,
MDI モードと MDI-X モードとの間をランダムな時間間隔で繰り返し遷
移し,被告製品と接続される機器のツイストペア線の信号線のいずれが
送信線でいずれが受信線かの判断は行われない。
これは,前提事実(4)カの図における Link_Det=FALSE(リンクテス
トパルス未検出)によって遷移する赤枠の状態である。
ところが,リンクテストパルスが入力され,該リンクテストパルスが
リンクテストパルス検出手段において検出された時点(上図における
Link_Det=TRUE)で,該リンクテストパルスが検出された方のツイス
トペア線の信号線を送信線と判断し,もう一方の信号線を受信線と判断
する。
② その判断結果に基づき該「送信線」に対応する被告製品に接続された
信号線(「1,2ピン」若しくは「3,6ピン」)を被告製品の「受信器」
に,もう一方の「受信線」に対応する被告製品に接続された信号線(同
上)を被告製品の「送信器」に接続し,通信を確立する処理が行われる。
すなわち,リンクテストパルスの検出をトリガーとして,接続される
通信機器の種別や信号線の種類を判断し,正常な通信伝送ができる状態
「MDI モード」ないし「MDI-X モード」に被告製品の信号線接続状態
を切り替える。
③ 以上の信号線切替制御部を備える。
d 送受信線切替器である。
(2) 構成要件充足性
ア 被告製品の構成aは本件特許発明の構成要件Aを充足する。
イ 被告製品の構成b①及び②は本件特許発明の構成要件B①及び②をそれ
ぞれ充足する。
ウ 以下のとおり,被告製品の構成cは,本件特許発明の構成要件Cを充足
する。なお,本件特許発明の構成要件Cは,リンクテストパルス検出手段
の検出結果に基づき信号線が送信線か受信線かを判断して信号線の接続状
態を切り替え,接続される通信機器の種別や信号線の種別に関係なく常に
正常な信号伝送が可能となるように信号線の接続を行うことができるもの
であることを要するものの,それ以上に何らの限定もない。
(ア) 被告製品の構成c①
前記(1)のとおり,被告製品は自動 MDI/MDI-X 構成を備えており,リ
ンクテストパルス検出手段の検出結果から,被告製品に接続される機器
のツイストペア線の信号線が送信線か受信線かを判断している。
したがって,被告製品の構成c①は,本件特許発明の構成要件C①を
充足する。
(イ) 被告製品の構成c②
被告製品は,リンクテストパルスの検出をトリガーとして,MDI モー
ドか MDI-X モードかどちらかが確定していない状態(無接続状態/前
提事実(4)カの図の赤枠の状態)から,MDI モード接続の結線状態(ス
トレート接続状態/同図の青枠の状態)もしくは MDI-X モード接続の
結線状態(クロス接続状態/同図の緑枠の状態)への切替えを行うこと
(「MDI/MDI-X 自動切替機能」)によって,本件特許発明の課題を解決
するものである。
周知技術(甲25~27,乙1)からいっても,上記被告製品の構
成は,信号線の切替えにあたる。
したがって,被告製品の構成c②は,本件特許発明の構成要件C②を
充足する。
(ウ) 被告製品の構成c③
前記(1)のとおり,被告製品には本件発明と全く同一目的の信号線切替
制御部が備わっているから,被告製品の構成c③は本件特許発明の構成
要件C③を充足する。
なお,後記3で,被告は,ランダムに配線を切り替えながら信号を受
信した時点で配線の切替えを止めるという乙1発明の構成についても,
本件特許発明にいう「信号線切替部」に当たると主張しており,原告は,
これを自己に有利に援用する。
エ 被告製品の構成dは,本件特許発明の構成要件Dを充足する。
(3) 作用効果
被告製品は,本件特許発明と同一の作用効果を奏する。
【被告の主張】
(1) 被告製品の構成
ア 被告製品の構成は,標準規格である自動 MDI/MDI-X 構成に準拠してい
るものである。
イ 前記【原告の主張】(1)について
被告製品の構成c①のうち,「リンクテストパルスが入力され,該リン
クテストパルスがリンクテストパルス検出手段において検出された時点」
で「Link_Det=TRUE」となることは認めるが,そのことによって,被告
製品が「送信線か受信線かを判断」しているわけではないし,同c②にお
いて「判断結果に基づき」処理を行っているわけでもない。
また,被告製品において,リンクテストパルスを検出した場合,MDI
モード又は MDI-X モードは,そのままの状態が維持されるのであって,
MDI モードから MDI-X モード(又はその逆)への切替えは行われない。
(2) 構成要件充足性
以下のとおり,本件特許発明の動作と被告製品の動作とは,全く異なって
おり,技術思想自体が大きく異なるものである。
ア 構成要件C①及び②
(ア) 被告製品は,リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受
信線かを判断していないから,本件特許発明の構成要件C①を充足しな
い。
(イ) 構成要件C②の「信号線を切り替える」は機能的表現であり,本件明
細書の記載内容から当業者が実施し得る構成に限定して解釈すべきであ
るところ,本件明細書に開示された「信号線を切り替える」構成とは,
送信線と受信線をストレート接続(MDI モード)からクロス接続(MDI-X
モード)に又はその逆に切り替えることをいう。また,これらの信号線
の切替えは,物理的な配線の切替えを意味する。
被告製品においては,前記(1)イのとおり,リンクテストパルスが検出
された場合,MDI モード又は MDI-X モードはそのまま維持されるので
あって,MDI モードから MDI-X モード(又はその逆)への切替えは行
われない。
(ウ) 本件特許発明の構成要件C①及び②の文言からすると,信号線を切り

替える」動作が「リンクテストパルス検出手段の検出結果」が得られた
後に行われなければ,これらの構成要件を充足しない。
前記(1)イのとおり,被告製品は,リンクテストパルスが検出された時
点で「Link_Det=TRUE」となるが,リンクテストパルス検出直前に
MDI モードであれば,その後も引き続き MDI モードのままである。こ
のことは MDI-X モードでも同様である。
このように,被告製品では,リンクテストパルスが検出されて
「Link_Det=TRUE」となった後に,MDI モードから MDI-X モードへ
の切替え(又はその逆)が行われることはないから,上記構成要件を充
足しない。
イ 本件特許発明の構成要件A,C③及びDは,構成要件C①及び②の充足
を前提とするから,被告製品は,これらも充足しない。
ウ 被告製品の構成b①及び②が,本件特許発明の構成要件B①及び②をそ
れぞれ充足することは認める。
(3) 作用効果
被告製品は,本件特許発明と同一の作用効果を奏さない。
2 争点1-2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に
属するか)について
【原告の主張】
仮に,本件特許発明の構成要件C②の「信号線の切替え」が,送信線と受信
線をストレート接続(MDI モード)からクロス接続(MDI-X モード)に又は
その逆に切り替えるという有体物としての配線の切替えであると限定解釈され
ることにより,被告製品が文言上,同要件を充足しないとしても,構成要件C
①及び②の「信号線を切り替える切替制御部」が,被告製品においては,リン
クテストパルスの検出結果から「送信線か受信線かを判断」し,
「信号線が周期
的に切り替わる動作を止めストレート接続かクロス接続かのいずれかに接続状
態を確立させる制御部」に置換されている。
このことからすれば,以下のとおり,被告製品は,本件特許発明と均等なも
のである。
(1) 本件特許発明の本質的部分
本件特許発明の本質的部分は,信号線の接続を検査するために送信器から
受信器に伝送されるリンクテストパルス機能を利用し,リンクテストパルス
検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断して送信器から受信器への
信号伝送を正常に行えるようにしたことにある。
そして,物理的な配線の切替えも,信号線が周期的に切り替わる動作を止
めて接続状態を確立させるという被告製品の構成も,いずれも周知技術にす
ぎないから,本件特許発明における新規な特徴的原理ではない。
しかも,本件特許発明において,配線時に正しく接続された場合には物理
的な配線の切替えがされないことからしても,物理的な配線の切替えをする
かどうかは,本件特許発明の本質的部分ではない。
したがって,切替えをどのように行うかという具体的実施態様は,本
件特許発明の非本質的部分である。
(2) 置換可能性
被告製品は,本件特許発明と同一の作用効果を奏するから置換可能性
がある。
(3) 置換容易性
前記1【原告の主張】(2)ウ(ア)のとおり,被告製品は,自動 MDI/MDI-X
構成を備えているところ,これは本件特許出願後に標準規格として導入され
たものであり,被告の行為時においては当業者が慣用していた周知技術であ
るから,置換容易性がある。
【被告の主張】
被告製品は,本件特許発明と均等なものではない。
(1) 本件特許発明の本質的部分
特許発明の本質的部分とは,課題を解決するための特徴的な部分であり,
本件特許発明においては,送信線と受信線の接続が間違っている場合に自動
的に物理的な配線を切り替えることで,正常な信号伝送が可能となるように
信号線の接続を行うことができるという効果を奏するようにした部分である。
(2) 置換可能性
前記1【被告の主張】のとおり,被告製品では,リンクテストパルス検出
の前後で,MDI モード,MDI-X モードの切替えが行われておらず,本件特
許発明において,上記の切替えが行われるのと全く正反対の動作であり,本
件特許発明と被告製品とは作用効果が全く異なるものである。
したがって,置換可能性はない。
(3) 置換容易性
上記(2)と同様,本件特許発明と被告製品は,全く正反対の動作を行ってお
り,置換容易性もない。
3 争点2-1(乙1発明に基づく進歩性欠如)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に想到す
ることができたものである。
(1) 乙1発明の内容
乙1文献には,以下の発明(乙1発明)が記載されている。
「RS-232C ケーブルを使用したネットワークにおいて,DCE 又は DTE に
接続される送受信線(ドライバ26に接続されている線及びレシーバ27に
接続されている線)を切り替えるための切替器(半導体スイッチ28)であっ
て,RS-232C ケーブルを伝送される信号であるレシーバ27の入力を検出す
る手段と,レシーバ27の入力の検出結果からレシーバ27に接続されてい
る線が送信線か受信線かを判断して信号線を切り替える手段とを備える送受
信線切替器。」
(2) 本件特許発明との対比
本件特許発明と乙1発明には,以下の一致点及び相違点がある。
ア 一致点
(ア) ケーブル(線)を使用するネットワークである。
(イ) DTE に接続される送受信線を切り替えるための切替器を有する。
(ウ) ケーブル(信号線)で伝送される信号の検出手段を有する。
(エ) 信号の検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替える
手段を有する。
(オ) 送受信線切替器である。
イ 相違点
(ア) 相違点1A
本件特 許発 明が ツイ ストペ ア線 を使 用す るのに 対し ,乙 1発 明は
RS-232C ケーブルを使用する。
(イ) 相違点1B
本件特許発明は MAU を使用するのに対し,乙1発明はこれを使用し
ない。
(ウ) 相違点1C
本件特許発明はリンクテストパルスを検出するのに対し,乙1発明は
これを検出しない。
(エ) 相違点1D
本件特許発明がリンクテストパルスの検出結果を使用するのに対し,
乙1発明はこれを使用しない。
(3) 周知技術
上記(2)イの相違点に係る「ツイストペア線」,MAU 又は DTE に接続され
る「送受信線」及び「リンクテストパルス」を使用したネットワークは,い
ずれも本件特許出願前に周知の技術的構成であった。
(4) 動機付け
以下のとおり,乙1発明とツイストペア線を使用したネットワークは技術
分野及び課題が共通であり,本件特許発明の課題も公知であったから,当業
者が乙1発明にツイストペア線を使用したネットワークを適用する動機が
あった。
ア 乙1発明とツイストペア線を使用したネットワークは,いずれも通信の
技術分野に属する。
イ 乙1発明が解決しようとする課題は,ドライバ同士及びレシーバ同士を
誤って接続してしまうという問題であった。
ツイストペア線についても,クロス接続とストレート接続とを誤って接
続すれば,送信器同士及び受信器同士を接続してしまうという問題が生ず
ることは自明であり,本件特許出願前に公知の課題であった。
(5) 容易想到性
以下のとおり,乙1発明に,本件特許出願前に周知技術であったツイスト
ペア線を使用したネットワークを適用すると,当然に本件特許発明の構成と
なる。したがって,上記(2)イの相違点に係る乙1発明の構成を本件特許発明
の構成に置き換えることは,本件特許出願時,当業者において容易であった。
ア 相違点1A
RS-232C ケーブルとツイストペア線は,いずれも送受信線であり,機能
も共通で,規格が相違するにすぎない。
イ 相違点1B
乙1発明にツイストペア線を使用した場合,ツイストペア線は MAU に
も DTE にも接続されうる。
また,MAU も DTE も,送受信を行うという機能が共通であり,規格が
相違するにすぎない。
ウ 相違点1C
乙1発明は,レシーバの入力電圧を監視し,その電圧により接続が正し
いか否かを判定するものであり,レシーバの入力電圧は接続が正しいか否
かを判定するための信号である。
したがって,ケーブル(線)を伝送されるという機能及び接続が正しい
か否かを判定するために検出されるという機能の点において,リンクテス
トパルスと共通する。
エ 相違点1D
上記ウのとおり,乙1発明にツイストペア線を使用し,検出する信号と
してリンクテストパルスを選択すれば,リンクテストパルスの検出結果を
使用することとなる。
【原告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,本件特許出願時,乙1発明に基づいて当業
者が容易に想到することができたものではない。
(1) 乙1発明の内容
乙1文献に記載された発明(乙1発明)は,「複数の電気的接続条件を
有するデータインタフェース装置に於て,リスタート信号をディジタル
交換機から受信する前は入力信号の電圧に基づいて,選択すべき電気的
接続条件を決定することにより,該接続の時間の短縮を図ったもの」で
ある。
(2) 本件特許発明との対比
ア 被告が主張する一致点(ア)について
乙1発明は,いわゆるシリアル回線のデータインタフェース装置の電気
的接続条件の選択方式に関するものであり,乙1文献には,有線通信又は
無線通信による電気通信網であるネットワークが記載されていない。
イ 被告が主張する一致点(ウ)及び相違点1Cについて
乙1発明は,データインタフェース装置の入力電圧を検出し,電気的な
物理量が所定範囲内にあるか否かによって接続状態を判定するものであ
る。これに対し,本件特許発明は,リンクテストパルスを検出し,通信接
続の相手方がLAN対応機器であるか否かを判断することにより,接続が
正しいか否かを判定するものである。
このように電圧とリンクテストパルスとの間に機能の共通性はない。
ウ その他の相違点
リンクテストは,正しい信号線の接続が形成され,回線確保が完了した
ことを認識する機能である。
これに対し,乙1文献には,正しい信号線の接続(ツイストペアリン
ク)が形成されたか及び回線確保が完了したかを認識する機能につい
て,一切の示唆又は教示が存在しない。
そもそもシリアル回線の通信方式では,正しい接続がされることは
保証されない。
(3) 動機付け及び容易想到性について
ア シリアル通信は,送信側と受信側という1対1の機器間の信号伝送に用
いられるものであり,ネットワークとは無縁のものである。
現に,乙1文献にも配線を拡張してネットワークとする示唆はなく,乙
1発明においてリンクテストパルスを使用する動機は全くない。
イ 前記(2)のとおり,乙1発明の入力電圧値とリンクテストパルスとは,機
能が全く異なるものであり,乙1発明の入力電圧値をリンクテストパルス
に置き換える技術思想は乙1文献をみても記載や示唆が全くない。
ウ ツイストペア線について誤接続が生ずるという問題及びこれを解決する
手段としてリンクテストパルスの検出結果を利用するという技術的構成は,
本件特許出願時において周知のものではなかった。
エ 被告の主張は,乙1発明で検出する信号を入力電圧からリンクテストパ
ルスに替えれば,その結果として乙1発明の構成は本件特許発明の構成と
なるというものである。これは,本件特許発明の解決手段を知った上での
事後分析的思考に基づくものであって,失当な主張である。
4 争点2-2(乙2発明に基づく進歩性欠如)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,乙2発明に基づいて当業者が容易に想到す
ることができたものである。
(1) 乙2発明の内容
乙2文献には,以下の発明(乙2発明)が記載されている。
「V.28インタフェイスに準拠した線を使用したネットワークにおいて,
モデム又は DTE に接続される送受信線(ドライバ10に接続される線及び
レシーバ11に接続される線)を切り替えるための切替器(受信信号電圧検
出回路14,切替接点12,13)であって,レシーバ11の入力を検出す
る受信信号電圧検出回路14と,レシーバ11の入力の検出結果からレシー
バ11に接続されている線が送信線か受信線かを判断して信号線を切り替え
る受信信号電圧検出回路14とを備える送受信線切替器。」
(2) 本件特許発明との対比
本件特許発明と乙2発明には,以下の一致点及び相違点がある。
ア 一致点
(ア) 線を使用するネットワークである。
(イ) DTE に接続される送受信線を切り替えるための切替器を有する。
(ウ) 信号を検出する「リンクテストパルス検出手段」
(本件特許発明)ない
し「受信信号電圧検出回路」(乙2発明)を有する。
(エ) 「信号の検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替え
る」「信号線切替制御部」(本件特許発明)ないし「受信信号電圧検出回
路」(乙2発明)を有する。
(オ) 送受信線切替器である。
イ 相違点
(ア) 相違点2A
本件特許発明がツイストペア線を使用するのに対し,乙2発明は V.28
インタフェイスに準拠した線を使用する。
(イ) 相違点2B
本件特許発明が MAU を使用するのに対し,乙2発明はこれを使用し
ない。
(ウ) 相違点2C
本件特許発明がリンクテストパルスを検出するのに対し,乙2発明は
これを検出しない。
(エ) 相違点2D
本件特許発明がリンクテストパルスの検出結果を使用するのに対し,
乙2発明はこれを使用しない。
(3) 周知技術
前記3【被告の主張】(3)と同じ。
(4) 動機付け
以下のとおり,乙2発明とツイストペア線を使用したネットワークは技術
分野及び課題が共通であり,本件特許発明の課題も公知であったから,当業
者がツイストペア線を使用したネットワークに乙2発明を適用する動機が
あった。
ア 乙2発明とツイストペア線を使用したネットワークは,いずれも通信の
技術分野に属する。
イ 乙2発明が解決しようとする課題は,DCE において,x端子(y端子)
が入力端子(出力端子)となったり,出力端子(入力端子)となったりす
るため,外部結線をモードごとに使い分けなければならないという問題で
あった。
本件特許発明が解決しようとする課題も,ツイストペア線について,ク
ロス接続とストレート接続とを使い分けなければならないという問題で
あり,外部結線を使い分けなければならないという課題が乙2発明と共通
である。
ウ 前記3【被告の主張】(4)のとおり,本件特許発明が解決しようとする課
題は,本件特許出願前に公知であった。
(5) 容易想到性
以下のとおり,乙2発明に,本件特許出願前に周知技術であったツイスト
ペア線を使用したネットワークを適用すると,当然に本件特許発明の構成と
なる。したがって,上記(2)イの相違点に係る乙2発明の構成を本件特許発明
の構成に置き換えることは,本件特許出願時,当業者において容易であった。
ア 相違点2A
ツイストペア線と V.28 インタフェイスに準拠した線は,いずれも送受信
線であり,機能も共通であって,規格が相違するにすぎない。
イ 相違点2B
乙2発明にツイストペア線を使用した場合,ツイストペア線は MAU に
も DTE にも接続されうる。
ウ 相違点2C
乙2発明の検出対象である「レシーバ11の入力」は,「レシーバ11
に接続されている線が送信線か受信線かを判断」するためのものである。
そうすると,受信器に送信線が接続されているか否かを判断するために
検出されるという機能がリンクテストパルスと共通である。
エ 相違点2D
上記ウのとおり,乙2発明にツイストペア線を使用し,検出する信号と
してリンクテストパルスを選択すれば,リンクテストパルスの検出結果を
使用することとなる。
【原告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,本件特許出願時,乙2発明に基づいて当業
者が容易に想到することができたものではない。
(1) 乙2発明の内容
乙2文献に記載された発明(乙2発明)は,
「データ通信装置に係り,特に
同一のデータ回線終端装置を自動切替えにより,或る時はデータ回線終端装
置,又或る時はデータ端末装置として動作させるデータ通信モード自動選択
方式に関するものである」。
(2) 本件特許発明との対比
ア 被告が主張する一致点(ア)について
乙2発明は,シリアル回線(RS-232C)のデータ通信モード自動選択方
式に関するものであり,乙2文献には,有線通信又は無線通信による電気
通信網,すなわちネットワークは記載されていない。
イ 被告が主張する一致点(ウ)並びに相違点(ウ)及び(エ)について
乙2発明は,レシーバの入力端の受信信号電圧を検出するものであり,
本件特許発明は,リンクテストパルスを検出するものである。そして,リ
ンクテストパルスは,回線確保のためのLAN特有の信号であるから,乙
2文献のデータ通信モード自動選択方式に転用することはできない。
ウ 被告が主張する一致点(エ)について
乙2発明の受信信 号電圧検出回路14 が監視しているのは 単に送信
器と受信器との間の受信信号電圧が±3Vの範囲の内外であるか否か
のみであり,送信線か受信線かを判断してはいない。
また,乙2文献には,該回路14が能動的に該回路に接続されている
信号線について送信線か受信線かを判断して切替えを行っている旨の
記載や示唆はない。
(3) 動機付け及び容易想到性について
ア 乙2発明の受信信号電圧は,リンクテストパルスとは全く異なるもので
あり,これをリンクテストパルスに置き換えるという技術思想について,
乙2文献には記載や示唆がない。
イ 前記3【原告の主張】(3)ウ及びエと同じ。
5 争点2-3(乙3発明に基づく進歩性欠如)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,乙3発明に基づいて当業者が容易に想到す
ることができたものである。
(1) 乙3発明の内容
乙3文献には,以下の発明(乙3発明)が記載されている。
「ライン L1 ないし L16 を使用したネットワークにおいて,DCE 又は DTE
に接続される送受信線(ディマルチプレクサ回路54の出力及びマルチプレ
クサ回路52の入力)を切り替えるための切替器(I/O 回路51内のインタ
コネクションフィールド部513及び制御理論部514)であって,信号線
(ライン L1 と L2)への入力をインピーダンスとして検出する検出回路51
1と,信号線(ライン L1 と L2)への入力の検出結果から信号線が送信線か
受信線か(信号線が送信機に接続されているのか,又は受信機に接続されて
いるのか)を判断して信号線を切り替える(マルチプレクサ回路52の入力
またはディマルチプレクサ回路54の出力として機能するように接続する)
信号線切替制御部(I/O 回路51内の制御理論部514)とを備える送受信
線切替器。」
(2) 本件特許発明との対比
本件特許発明と乙3発明には,以下の一致点及び相違点がある。
ア 一致点
(ア) 線を使用するネットワークである。
(イ) DTE に接続される送受信線を切り替えるための切替器を有する。
(ウ) 信号線への入力を検出する「リンクテストパルス検出手段」
(本件特許
発明)ないし「検出回路」(乙3発明)を有する。
(エ) 信号の検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替える
「信号線切替制御部」を有する。
(オ) 送受信線切替器である。
イ 相違点
(ア) 相違点3A
本件特許発明がツイストペア線を使用するのに対し,乙3発明はライ
ン L1 ないし L16 を使用する。
(イ) 相違点3B
本件特許発明は MAU を使用するのに対し,乙3発明はこれを使用し
ない。
(ウ) 相違点3C
本件特許発明がリンクテストパルスを検出するのに対し,乙3発明は
これを検出しない。
(エ) 相違点3D
本件特許発明がリンクテストパルスの検出結果を使用するのに対し,
乙3発明はこれを使用しない。
(3) 周知技術
前記3【被告の主張】(3)と同じ。
(4) 動機付け
以下のとおり,乙3発明とツイストペア線を使用したネットワークは技術
分野及び課題が共通であり,本件特許発明の課題も公知であったから,当業
者が乙3発明にツイストペア線を使用したネットワークを適用する動機が
あった。
ア 乙3発明とツイストペア線を使用したネットワークは,いずれも通信の
技術分野に属する。
イ 乙3発明の解決しようとする課題は,信号の所要のクロスコネクション
(信号線の接続)を実施するために新しい接続ケーブルの据付け(接続ケー
ブルの交換)を必要とするというものである。
ツイストペア線についても,クロス接続の接続媒体をストレート接続の
接続媒体と交換しなければならないという問題が生ずることは自明である
から,接続媒体を交換しなければならないという課題が共通である。
ウ 前記3【被告の主張】(4)のとおり,本件特許発明が解決しようとする課
題は,本件特許出願前に公知であった。
(5) 容易想到性
以下のとおり,ツイストペア線を使用したネットワークに乙3発明を適用
すると,当然に本件特許発明の構成となる。したがって,上記(2)イの相違点
に係る乙3発明の構成を本件特許発明の構成に置き換えることは,本件特許
出願時,当業者において容易であった。
ア 相違点3A
ライン L1 ないし L16 とツイストペア線は,いずれも送受信線であり,
機能も共通である。
イ 相違点3B
乙3発明の DCE も本件特許発明の MAU も,送受信を行うという機能
が共通であり,単に規格が相違するにすぎない。
ウ 相違点3C
乙3発明におけるインピーダンスの測定(信号線の入力の測定)は,接
続されているのが送信器か否かを判断するために行われるものである。
したがって,送信器が接続されているか否かを判断するために検出され
るという機能の点で,リンクテストパルスと共通である。
エ 相違点3D
上記ウのとおり,乙3発明における検出対象の信号を,信号線の入力か
らリンクテストパルスに置き換えると,乙3発明における信号線の入力の
検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替えるという構成
は,リンクテストパルスの検出結果から送信線か受信線かを判断して信号
線を切り替える構成となる。
【原告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,本件特許出願時,乙3発明に基づいて当業
者が容易に想到することができたものではない。
(1) 乙3発明の内容
乙3文献に記載された発明(乙3発明)は,DCE(データ通信機器)
と DTE とを備えるデータ通信システムに関するものである。
具体的には, 受信機及び送信器のいずれがラインに接続されている

か」「によって,ラインからのインピーダンスレベルの高低が変動する」
ことを「インターフェースが取り付けられる装置が,端末機器DTAま
たはデータ通信機器DCEであるかどうかを自動的に判別できる」こと
に用い,「この判別に基づいて,制御論理部514が,今までは新しい接
続ケーブルの据え付けまたは他の複雑な処理を必要としていた,信号の
所要のクロスコネクションを実施できるように自動的に制御される」も
のである。
(2) 本件特許発明との対比
被告が主張する一致点(ア)についてみると,乙3発明は,機器間のデータ通
信に関するものであり,乙3文献には,有線通信又は無線通信による電気通
信網,すなわちネットワークが記載されていない。
(3) 動機付け及び容易想到性について
ア 乙3発明の解決しようとする課題は,CCITT 規格のネットワークに
おけるデータ端末装置の通信範囲の制約や,接続ケーブルが何十もの並
列導体となることによる課題, DCE に接続できるようにするという課
題である。
これらは,本件特許発明の解決しようとする課題と全く無縁のもの
である。
イ 前記3【原告の主張】(3)ウ及びエと同じ。
6 争点2-4(乙4発明に基づく進歩性欠如)
【被告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,乙4発明に基づいて当業者が容易に想到す
ることができたものである。
(1) 乙4発明の内容
乙4文献には,以下の発明(乙4発明)が記載されている。
「IEEE802.3 規格の 10BASE-T に準拠するツイストペア線を使用したネッ
トワークにおいて,MAU 又は DTE に接続される送受信線を切り替えるため
の切替器であって,信号線の接続を検査するために送信器から受信器に伝送
されるリンクテストパルスを検出するリンクテストパルス検出手段と,信号
線切替制御部とを備える送受信線切替器。」
(2) 本件特許発明との対比
本件特許発明と乙4発明には,以下の一致点及び相違点がある。
ア 一致点
いずれも,
「IEEE802.3 規格の 10BASE-T に準拠するツイストペア線を
使用したネットワークにおいて,MAU 又は DTE に接続される送受信線を
切り替えるための切替器であって,信号線の接続を検査するために送信器
から受信器に伝送されるリンクテストパルスを検出するリンクテストパ
ルス検出手段と,信号線切替制御部とを備える送受信線切替器」である。
イ 相違点
信号線切替制御部について,本件特許発明がリンクテストパルス検出手
段の検出結果から送信線か受信線かを判断して切り替えるものであるの
に対し,乙4発明ではこの点が明記されていない。
(3) 周知技術
前記3ないし5のとおり,ネットワークの DTE 等に接続される送受信線
を切り替えるために,送信器から受信器に伝送される電気的情報を検出する
電気的情報検出手段と,その検出結果から送信線か受信線かを判断して切り
替える信号線切替制御部を有する技術は,本件特許出願前に周知であった。
(4) 動機付け及び容易想到性
乙4発明は,信号線の接続を検査するために送信器から受信器に伝送され

るリンクテストパルス」及び「信号線の接続を検査するために送信器から受
信器に伝送されるリンクテストパルスを検出するリンクテストパルス検出手
段」を備えるものである。
このように,乙4発明は,信号線切替自動化のために使用すべき電気的情
報を提供するものであるから,それ自体,上記(3)の周知技術を組み合わせる
動機付けを含んでいる。
したがって,乙4発明に上記(3)の周知技術を組み合わせることは,本件特
許出願時,当業者において容易に想到することができた。
【原告の主張】
本件特許発明は,本件特許出願時,乙4発明に基づいて当業者が容易に想到
することができたものではない。
乙4文献において,「リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か
受信線かを判断して信号線を切り替える信号線切替制御部」の記載がないこと
は明らかである。
7 争点2-5(サポート要件違反)
【被告の主張】
以下のとおり,本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載された範囲を超え
るものであるから,サポート要件に違反する。
(1) 本件特許発明からすると,
「信号線」とは送受信線切替器の外部にあるツイ
ストペア線をいい,
「信号線を切り替える」とは送受信線切替器の外部にある
ツイストペア線を切り替えることをいうとする解釈が成立しうる。
しかし,送受信線切替器の内部の配線の切替えはともかく,送受信線切替
器の外部の配線の切替えについては明細書に記載がなく,出願時の技術水準
でも可能ではない。
そうすると,本件特許発明の構成要件C②の「信号線を切り替える」とい
う構成は,実施不可能な構成を含んでおり,発明の詳細な説明に記載された
範囲を超えるものである。
(2) 原告は,信号線接続が確立していない状態から確立した状態に切り替える
構成も本件特許発明の構成要件C②の「信号線を切り替える」を充足すると
主張する。
しかし,前記1【被告の主張】(2)ア(イ)のとおり,このような解釈は本件特
許発明の明細書の記載から採り得ないのであって,仮にこのような解釈を含
むのであれば,本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載された範囲を超え
るものである。
【原告の主張】
本件特許発明の請求項及び本件明細書の記載によれば,本件特許発明が,異
別の種類の信号線を用いた場合に生じる誤接続の可能性を切替器に備えた信号
線切替制御部によって解消しようとするものであることは,明確である。
外部のツイストペア線を本件特許発明の切替器によってクロスケーブルかス
トレートケーブルかに切り替えることが解釈として成り立つとする被告の主張
は荒唐無稽なものであり,本件特許発明にサポート要件違反はない。
8 争点3(被告の利得)について
【原告の主張】
(1) 被告による被告製品の販売額
被告による被告製品の販売額は,少なくとも,平成14年4月1日から平
成21年3月31日までの間において1年当たり約166億4800万円で
あり(内訳:ルータ約17億9800万円,スイッチングハブ約147億5
000万円,LAN アダプタ約1億円),合計では1165億3600万円で
ある。
(2) 被告が吸収合併した株式会社コレガによる被告製品の販売額
株式会社コレガによる被告製品の販売額は,少なくとも,平成16年4月
1日から平成21年3月31日までの間において1年当たり約65億500
0万円であり(内訳:ルータ約37億5000万円,スイッチングハブ約1
5億5000万円,アクセスポイント約12億5000万円) 合計では45

8億5000万円である。
被告は,平成21年7月,株式会社コレガを吸収合併した。
(3) 被告がその行為により受けた利益額など
上記(1)及び(2)のとおり,被告は,平成14年4月1日から平成21年3月
31日までの間に,被告製品の販売により合計1623億8600万円の利
益を受けた。
被告製品に対する本件特許発明の寄与率は40%を下回らず,本件特許発
明の実施に対し支払われるべき実施料額は販売額の2.5%を下回らない。
したがって,原告は,被告に対し,少なくとも16億2386万円の不当
利得返還請求権を有する。
【被告の主張】
被告は,現在,型式 WR540APS のアクセスポイント以外の製品を販売して
いない。
また,株式会社コレガが被告製品を販売したことはない。
その余は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1-1(被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか)につ
いて
(1) 本件明細書には,以下の記載がある。
ア 従来の技術(段落【0002】)
「近年,IEEE802.3 規格の 10BASE-T に準拠するツイストペア線を使
用したローカルエリアネットワーク(LAN)が普及しつつある。この規格
の LAN では,伝送媒体として,8本の信号線を含む4ペアのツイストペ
ア線を使用する。そして,LAN の媒体アクセス装置 MAU(Media Access
Unit)と,データ端末装置 DTE(Data Terminal Equipment)間での通
信は,8本の信号線のうち,1,2番線を1対の信号線とし,3,6番線
を他の1対の信号線として,合計4本の信号線を使用して,信号の送信と
受信を行う。この際,MAU と DTE の接続をするときには,MAU からの
送信用の信号線が DTE での受信用の信号線に対応し,DTE からの送信用
の信号線が MAU での受信用の信号線に対応するように,使用すべき信号
線が決められている。これをストレート接続と呼び,10BASE-T の標準的
な接続形式である。一方,MAU と MAU を接続したり,あるいは,DTE
と DTE を接続する場合には,送信線を受信側に,受信線を送信側に付け
替えたクロス接続のツイストペア線を使用して配線しなければならない。
このため,使用する LAN 機器の内容を熟知していないユーザーでは送信
線と受信線の誤接続を行う可能性がある。」
イ 発明が解決しようとする課題(段落【0003】)
「本発明は上述のような点に鑑みてなされたものであり,その目的とす
るところは,送信線と受信線の接続が間違っている場合には自動的に信号
線を切り替えることが可能な送受信線切替器を提供することにある。」
ウ 課題を解決するための手段(段落【0004】)
「本発明の送受信線切替器は,上記の課題を解決するために,IEEE802.3
規格の 10BASE-T に準拠するツイストペア線を使用したネットワークに
おいて,図1に示すように,MAU 又は DTE に接続される送受信線を切り
替えるための切替器であって,信号線の接続を検査するために送信器から
受信器に伝送されるリンクテストパルスを検出するリンクテストパルス検
出手段1,2,4,5と,リンクテストパルス検出手段1,2,4,5の
検出結果から送信線か受信線かを判断して信号機を切り替える信号線切替
制御部3とを備えることを特徴とするものである。」
エ 作用(段落【0005】)
「本発明の送受信線切替器では,各ツイストペア線に対応するリンクテ
ストパルス検出手段1,2,4,5によりリンクテストパルスの有無が検
出される。リンクテストパルスは,信号線の接続を検査するために送信器
から受信器に伝送されるものであるから,リンクテストパルスが検出され
れば,そのツイストペア線の先には送信器が接続されているということで
あり,反対に,リンクテストパルスが検出されなければ,そのツイストペ
ア線の先には受信器が接続されているということである。このことから,
信号線切替制御部3では,ツイストペア線が送信線であるか受信線である
かを判断して,送信器から受信器への信号伝送が正常に行えるように,信
号線を切り替えるものである。」
オ 発明の効果(段落【0011】
「本発明の送受信線切替器にあっては,上述のように,IEEE802.3 規格
の 10BASE-T に準拠するツイストペア線を使用したネットワークにおい
て,MAU 又は DTE に接続される送受信線を切り替えるための切替器で
あって,信号線の接続を検査するために送信器から受信器に伝送されるリ
ンクテストパルスを検出するリンクテストパルス検出手段を設けて,その
検出結果に基づいて送信線と受信線とを判別し,信号線を切り替える信号
線切替制御部を設けたものであるから,接続される通信機器の種別や信号
線の種別に関係なく,常に正常な信号伝送が可能となるように,信号線の
接続を行うことができるという効果がある。また,10BASE-T において,
MAU と DTE を接続するときにはストレート接続,MAU 同士あるいは
DTE 同士を接続するときにはクロス接続が要求されるという 10BASE-T
に固有の問題点を,リンクテストパルスという 10BASE-T に元々備わって
いる機能をうまく利用して解決したものであるから,コストの増加を最小
限に抑えることができるという効果がある。また,10BASE-T に元々備
わっているリンクテストパルスの機能を有効に活用しているので,非常に
汎用性が高く,10BASE-T に準拠しているネットワークであれば常に使用
が可能であるという有利さがある。さらにまた,配線に用いるツイストペ
アケーブルについても,ストレート接続のものとクロス接続のものとを2
種類用意する必要がなくなるので,この点においてもコスト的に有利にな
る。」
カ 図面の簡単な説明
図1 (本発明の一実施例のブロック図)
図2 (本発明の他の実施例のブロック図)
(2) 以上を踏まえて,本件特許発明の技術的範囲について検討すると,以下の
理由から,被告製品は本件特許発明の構成要件C①ないし③を文言上充足し
ないというべきである。
ア 本件特許発明の構成要件A,C①ないし③の解釈
(ア) 信号線,送受信線の意義
本件特許発明の構成要件Aの文言は,「IEEE802.3 規格の 10BASE-T
に準拠するツイストペア線を使用したネットワークにおいて,MAU 又
は DTE に接続される送受信線を切り替えるための切替器であって」と
いうものである。このうち送受信線が何を指すかについて検討すると,
文言自体からすれば,ツイストペア線を構成する信号線を指すものと解
される。
また,前記(1)アのとおり,本件明細書では,従来の技術として,ツイ
ストペア線が送受信線として用いられていること,その接続方法にはス
トレート接続とクロス接続の2種類があることが記載されており,この
記載も上記解釈を裏付けるものである。
他にこれと異なる解釈をとるべき根拠となる記載は,本件明細書に見
当たらない。
したがって,送受信線とは,ツイストペア線の8本の信号線,すなわ
ち物理的な配線を指していると解される。
また,構成要件C①ないし③における信号線の意義について,構成要
件Aにおける送受信線と区別する理由はなく,前記(1)の本件明細書の記
載においても,区別されてはいないから,同義のものであると認めるこ
とができる。
(イ) 送信線か受信線かの判断
次に,本件特許発明の構成要件C①の文言は,
「リンクテストパルス検
出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断して」というものである。
この文言からすると,被告製品に接続されている信号線のいずれが送信
線で,いずれが受信線かを判断するものであると解するほかない。
また,前記(1)エのとおり,本件明細書には,
「リンクテストパルスは,
信号線の接続を検査するために送信器から受信器に伝送されるもので
あるから,リンクテストパルスが検出されれば,そのツイストペア線の
先には送信器が接続されているということであり,反対に,リンクテス
トパルスが検出されなければ,そのツイストペア線の先には受信器が接
続されているということである。このことから,信号線切替制御部3で
は,ツイストペア線が送信線であるか受信線であるかを判断」すると記
載されている。
この記載からすると,本件特許発明の構成要件C③の信号線切替制御
部は,リンクテストパルスが検出されたツイストペア線を送信線である
と判断し,検出されないツイストペア線を受信線と判断することが明ら
かである。
(ウ) 送受信線の判断と切替えの関係
さらに,本件特許発明の構成要件C①ないし③は,
「リンクテストパル
ス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替
える信号線切替制御部とを備えることを特徴とする」というものである。
この文言からすると,信号線切替制御部は,
「リンクテストパルス検出
手段の検出結果から送信線か受信線かを判断」した後に,
「信号線を切り
替える」ものと解するのが自然である。
前記(1)エ及びオの記載からしても,本件特許発明の構成要件C①は,
C②よりも時間的に先行すると解するほかない。また,前記(1)カの実施
例においてツイストペア線と信号線切替制御部との間にリンクテストパ
ルス検出手段が設けられていることからしても,やはり上記先後関係を
前提としているものとしか解釈できない。
(エ) 信号線の切替えの意義
原告は,
「信号線を切り替える」の意義について,信号線の接続が未確
立の状態から接続が確立した状態に移行させることをいい,上記図2は,
被告製品の構成を開示したものであるとも主張する。
しかしながら,前記(1)イないしオのとおり,本件明細書の記載によれ
ば,本件特許発明はツイストペア線を用いることを前提としていること,
リンクテストパルスの検出結果に基づいて信号線を切り替えるもので
あることが認められるのであり,上記(ア)で検討したところからしても,
物理的な配線を切り替えるものと解するほかなく,信号線が上記の物理
的な配線以外のものを指していると解すべき記載は,本件明細書の中に
は見当たらない。上記図2から MDI モードと MDI-X モードとをランダ
ムな時間間隔で繰り返し遷移させるという被告製品の構成を読み取る
ことができないことも明らかである。
この点に関する原告の主張は,本件特許発明が解決しようとする課題
及び作用効果のみから解釈を重ねたものであり,本件特許発明の請求項
の文言及び本件明細書の記載のいずれとも整合しないものであって,採
用することはできない。
イ 被告製品の構成
被告製品が,標準規格である自動 MDI/MDI-X 構成に準拠した構成であ
ることについては,当事者間に争いがない。
ウ 被告製品の構成要件C①ないし③の充足性
(ア) 被告製品の備えている自動 MDI/MDI-X 構成が,MDI モードと MDI-X
モードとをランダムな時間間隔で繰り返し遷移させた上,リンクテスト
パルスが検出された時点で,この遷移を停止させる構成のものであるこ
とも当事者間で争いがない。
本件特許出願当時の技術常識からすると,リンクテストパルスは,送
信線が MAU の受信端子に正しく接続されているかを確認するものであ
るところ,上記のような被告製品の構成からすると,リンクテストパル
スを検出した時点で,MDI モードと MDI-X モード間の遷移を停止させ
るに過ぎず,被告製品は,ツイストペア線が送信線か受信線かを判断し
ているとはいい難い。
(イ) 仮に,被告製品において,リンクテストパルスが検出されたツイスト
ペア線を送信線であると判断し,そのことにより,もう一方のツイスト
ペア線を受信線と判断していると評価することができたとしても,被告
製品では,上述したとおり,リンクテストパルスを検出した時点で,必
ず,ストレート結線とクロス結線の遷移を停止させるのであって,リン
クテストパルス検出後,信号線を物理的に切り替えることは,その構成
上予定されていない。したがって,「リンクテストパルス検出手段の検
出結果から送信線か受信線かを判断」した後に「信号線を切り替える」
ものでもない。
(ウ) そもそも,本件特許においては,ツイストペア線の使用を前提として
いるから,送受信線の接続の誤りを自動的に修正する(信号線を切り替
える)ことは,本件特許発明の課題に過ぎず(前記1(1)イ),課題の解
決手段として,切替えの具体的方法を特許請求しているものと理解すべ
きであり,その具体的方法は,構成要件Cの構成に基づく「切替え」と
いうことになる(上記具体的方法について,実施例に限定する趣旨では
ない。。

被告製品(MAU が想定されている。)は,DTE と接続する場合はス
トレートケーブル,MAU と接続する場合はクロスケーブルによるべき
ところ,ケーブルの選択を誤った際に,これを自動的に修正しようとい
うものである。確かに,その点で,本件特許発明と課題において共通し
ており,その奏する効果も共通している。しかし,その具体的方法(切
替えの手段についての技術的思想)が異なるというべきである。
すなわち,被告製品では,リンクテストパルスを検出するまでは,MDI
モードと MDI-X モードとの遷移を繰り返し(これは,リンクテストパ
ルスを検出しない限り,物理的な接続の切り替えを繰り返し,そのため,
接続は未確定の状態にあるといえる。 ,リンクテストパルスを検出した

時点で正しい接続状態となったことが判明し(ストレートケーブル又は
クロスケーブルの選択の誤りがなかった場合,もしくは,信号線切替部
において適切な切替え〔被告製品では,この場面において,物理的な信
号線の切替えがされているといえる。〕が既に終了した状態となった場
合),上記遷移を停止して,接続を確定するものであるが,リンクテス
トパルスを検出した後に,誤った接続を修正するために,切り替えると
いう動作は全く予定されていない。
一方,本件特許発明では,MAU と DTE とのいろいろな組合せにおけ
る接続に際し,正しいケーブルを選択した場合は,リンクテストパルス
の検出により,送信線か受信線かを判断し,その結果,正しい接続であ
ると判断するため,信号線を切り替えることはしないが,送受信線の判
断の結果,誤った接続であると判断した場合は,信号線の接続を物理的
に切り替えることとされており,この点において,被告製品と本件特許
発明との間で,課題を解決するための具体的方法(作用)は異なってい
るといわざるを得ない。
(エ) したがって,被告製品は,本件特許発明の構成要件C①ないし③の「リ
ンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断し
て信号線を切り替える信号線切替制御部とを備えることを特徴とする」
という構成を充足しない。
(3) よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は本件特許発
明の構成要件を文言上充足しない。
2 争点1-2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に
属するか)について
(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場
合であっても,① 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,② 上記部分
を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することが
でき,同一の作用効果を奏するものであって, 上記のように置き換えるこ

とに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することが
できたものであり, 対象製品等が,
④ 特許発明の特許出願時における公知技
術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,
かつ, 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から

意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象
製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明
の技術的範囲に属する。
(2) 以下の理由から,前記1で認定した本件特許発明と被告製品の相違点(原
告の主張する置換部分)は,本件特許発明の本質的部分(前記(1)①)である
と認めることができる。
ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構
成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,
言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として
当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいう
ものと解される。
そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発
明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴
的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解
決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異
なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。
イ 本件特許発明の構成要件A及びB,すなわち「10BASE-T に準拠するツ
イストペア線においてリンクテストパルスが伝送されること」が周知技術
であることは,当事者間で争いがない。
そうすると,本件特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで
本件特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分は,本件特許
発明の構成要件Cであると解するよりほかない。
そして,前記1のとおり,本件特許発明の課題の解決手段における特徴
的原理は,リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線か

を判断」した後に「信号線を切り替える」というものである。
これに対し,被告製品の備える解決手段は,
「ストレート結線とクロス結
線とをランダムな時間間隔で繰り返し遷移させた上,リンクテストパルス
が検出された時点で,この遷移を停止させる構成」を採用したことにある。
確かに,本件特許発明と被告製品とは,リンクテストパルスの検出結果
を用いるという点では共通する。しかし,前記1(2)ウ(ウ)のとおり,本件特
許発明では,ツイストペア線(リンクテストパルスが伝送されるもので,
出願時周知であった。)を使用することが前提となっているのであるから,
リンクテストパルスを使用すること自体は課題の前提条件にすぎず,課題
解決手段における特徴的原理を共通するとはいえない。
そして,これに基づく課題解決手段の原理は,本件特許発明が検査結果
に基づいて信号線を自動的に切り替えるというものであるのに対し,被告
製品は検査結果に基づいて信号線の切替えをやめるというものであって,
原理として表裏の関係にある又は論理的に相反するものであり,異なる原
理に属するものというほかない。
(3) よって,被告製品と本件特許発明とは本件特許発明の本質的部分である構
成要件Cの点で相違するから,その余の点について判断するまでもなく,被
告製品は本件特許発明と均等なものということはできない。
第5 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件請求には理由
がない。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三
裁 判 官 達 野 ゆ き
裁 判 官 西 田 昌 吾

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