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平成23(行ケ)10087審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成23年7月21日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官渡邉健司
原告エムアイピーメトロプロパティーゲゼルシャフト
法令 商標権
商標法4条1項11号8回
商標法6条1項1回
キーワード 審決12回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,原告が,下記1の商標登録出願に対する下記2のとおりの手続において, 原告の拒絶査定不服審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙 審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のと おりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

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判決文

平成23年7月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10087号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成23年7月7日
判 決
原 告 エムアイピー メトロ
グループ インテレクチュアル
プロパティー ゲゼルシャフト
ミット ベシュレンクテル
ハフツング ウント コンパニー
コマンディートゲゼルシャフト
同訴訟代理人弁護士 加 藤 義 明
松 永 章 吾
同訴訟代理人弁理士 アインゼル フェリックス
ラインハルト
山 崎 和 香 子
齋 藤 宗 也
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人  橋 謙 司
渡 邉 健 司
板 谷 玲 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2009-17933号事件について平成22年11月2日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1の商標登録出願に対する下記2のとおりの手続において,
原告の拒絶査定不服審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙
審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のと
おりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 本願商標(乙2の1)
商標登録出願日:平成20年3月6日
出願番号:商願2008-17198
商標の構成及び指定商品:別紙商標目録記載のとおり
2 特許庁における手続の経緯
 拒絶査定及び審判請求
拒絶査定日:平成21年6月18日
審判請求日:平成21年9月24日(不服2009-17933号事件)
 本件審決
審決日:平成22年11月2日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない
審決謄本送達日:平成22年11月12日
3 本件審決の理由の要旨
本件審判の理由は,要するに,本願商標と別紙引用商標目録記載の商標(以下「引
用商標」という。)とは,類似の商標であり,かつ,指定商品が同一又は類似のも
のであるから,商標法4条1項11号に該当し登録を受けることができない,とい
うものである。
4 取消事由
本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
 取引の実情について
原告は,世界有数の流通企業であるメトログループに属し,同グループに帰属す
る知的財産権を包括的に管理することを業とする企業である。
メトログループは,日本において,「メトロ キャッシュアンドキャリージャパ
ン株式会社」を設立し,同社は,東京都や神奈川県等で飲食店等の食品事業者を対
象とする卸売専業店「メトロ」(以下「メトロ店舗」という。)9店舗を経営して
いる。
メトロ店舗は,飲食店等の食品事業の営業許可を受けている者のみを顧客とし,
一般消費者との取引は一切行っていない(甲3)。かかる業態を維持するため,メ
トロ店舗の利用には事前の会員登録が必要とされており,その登録に際しては,登
録者本人の身分証明書のほか,法人登記簿や営業許可証の写しの提示が求められ,
許可を受けた飲食店等の食品事業者だけを入店させるという厳格な顧客管理及び店
舗管理がされている(甲3)。
また,メトロ店舗では,顧客が自ら店舗を訪れ,購入する商品の代金をその場で
現金で支払い,購入した商品を自ら持ち帰るという,「キャッシュ&キャリー」(C
&C)方式と呼ばれる販売方式が採られている(甲4)。
本願商標は,メトログループが世界各国で販売し,日本国内では「メトロ キャ
ッシュアンドキャリージャパン株式会社」がメトロ店舗において販売する飲食店向
け高品質商品のプライベートブランドについて使用され(甲5,6),各商品の包
装に付されているほか,同店舗の売場に掲示されているサインボードにも記載され
ている(甲7,8)。
 本願商標について
ア 外観について
本願商標は,装飾的な5つの星形図形とともに,左右の下部両角がやや丸みを帯
びた青色の四角形内に,コック帽を模した図形の左右に星形図形を配し,その下に
「Select」の文字と弧を白抜きで表し,さらに該文字の下部に黄色で「HO
RECA」の欧文字を書してなる。
イ 称呼について
 本願商標は,装飾的な5つの星形図形,コック帽を模した図形,その左右の
星形図形,「Select」の文字,「HORECA」の文字など,多くの構成を
持つ商標であり,また,各構成要素は,いずれかが大きく目立つ態様で表されてい
るというよりも,青色の四角形の中あるいはその周辺にまとまりよく配置されてい
るものである。このように多くの構成要素が特に軽重なく並列的に配置されている
場合,商標の構成要素のどの部分から称呼を生ずるのかは明らかではなく,商標の
構成自体から何らかの称呼が一義的に生ずるということはできないから,本願商標
に接した取引者,需要者は,本願商標からいかなる称呼が生ずるのか,直ちに理解
し認識することはできない。
もっとも,実際の取引における本願商標の使用態様を見ると,メトログループが
展開している6つのプライベートブランドについてそれぞれの特徴を紹介したホー
ムページ(甲5),会員登録した顧客に隔週で送付され,メトロ店舗の取扱商品や
特売品などを紹介する冊子「メトロメール」及びパンフレット(甲8の1~3),
店内に掲示されているサインボード(甲7)のいずれにおいても,本願商標は「ホ
レカセレクト」の片仮名文字を横書きにしてなる表示とともに使用されている。
そうすると,本願商標に接した取引者,需要者は,本願商標はメトログループの
プライベートブランドである「ホレカセレクト」の商品を表示するものと認識する
ということができる。
したがって,かかる取引の実情からすると,本願商標からは「ホレカセレクト」
の称呼のみが生ずることが明らかである。
 この点に関し,本件審決は,簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては,本願商
標に接する取引者,需要者は,顕著に表されて強く印象付けられる「HORECA」
の文字部分に相応して,「ホレカ」の称呼をも生ずると説示している。
しかしながら,かかる認定は,本願商標が,多くの構成要素が特に軽重なく並列
的に配置されている商標であり,その図形部分と文字部分とが一体不可分のものと
して認識,把握され,その図形部分ないし文字部分が単独で自他商品識別機能を果
たすものではないこと,本願商標の取引者,需要者が「HORECA」ないし「ホ
レカ」の用語に通じた飲食業に携わる者であるから,「ホレカ」の称呼が識別力を
獲得し得ないことを看過したものであり,失当である。
また,本件審決の前記認定は,本願商標の構成中,「HORECA」の文字部分
が「Select」の文字部分に比べ顕著に大きく表されているとの誤った事実認
定に基づいてされたものである点でも失当である。すなわち,本願商標においては,
「HORECA」の文字部分の方が,同じく6文字で構成される「Select」
の文字部分よりも横方向に長く表示されているが,「HORECA」の文字部分が
立体(ローマン体)で表記されているのに対して,「Select」の文字部分は,
一般的に文字間隔が詰まって表示される斜体(イタリック体)で表示されているこ
とや,「Select」の文字部分の天地の長さが「HORECA」の文字部分の
天地の長さよりも長いことからすれば,「HORECA」の文字部分が「Sele
ct」の文字部分に比べて顕著に大きく表されているとの事実認定は誤りであり,
かかる誤った事実認定に基づく称呼の認定には合理性がない。
ウ 観念について
 前記記載の本願商標の使用態様からすると,本願商標からは,メトログル
ープが展開する飲食店向け高品質商品のプライベートブランドである「ホレカセレ
クト」との観念が生ずる。
 この点に関し,本件審決は,本願商標からは特定の観念は生じないと認定し
ているが,かかる認定は,本願商標が,取引上,その図形部分と文字部分とが一体
不可分のものとして認識,把握される商標であり,その図形部分ないし文字部分が
単独で自他商品識別機能を果たすものではないこと,本願商標の取引者,需要者が
「HORECA」ないし「ホレカ」の用語に通じた飲食業に携わる者であるから,
「HORECA」ないし「ホレカ」の標章が自他商品の識別力を獲得し得ないこと
を看過したものであり,失当である。
 引用商標について
ア 外観について
引用商標は,「HORECA」の欧文字と「ホレカ」の片仮名文字を上下2段に
書してなる。
イ 称呼について
引用商標からは,その構成文字に相応して,「ホレカ」の称呼を生ずる。
ウ 観念について
引用商標を構成する「HORECA」及び「ホレカ」の文字は,「ホテル,レス
トラン,カフェ等」ないし「ホテル,レストラン,カフェ等での飲食物の提供に使
用される商品」との用途ないし品質を表す飲食業界の業界用語であるから(甲9の
1~13),引用商標からは,「ホテル,レストラン,カフェ等」ないし「ホテル,
レストラン,カフェ等での飲食物の提供に使用される商品」との観念が生ずる。
 商標法4条1項11号該当性について
ア 以上のとおり,本願商標と引用商標の外観及び観念は,明らかに相違する。
また,本願商標から生ずる「ホレカセレクト」との称呼は,格別冗長なものでは
ないから,よどみなく一連に称呼されるものである。そして,本願商標から生ずる
「ホレカセレクト」と引用商標から生ずる「ホレカ」の各称呼を比較すると,前者
は7音,後者は3音からなり,「セレクト」の有無という明確な差異を有するから,
この差異が両称呼の違いに与える影響は決して小さなものではなく,両者を聞き誤
るおそれはない。したがって,本願商標と引用商標の称呼は類似していない。
イ 仮に,「ホレカセレクト」及び「ホレカ」の称呼の類似性が認められるとし
ても,本願商標が商品の出所に誤認混同をきたすおそれがないことは明白である。
すなわち,本願商標に接する取引者,需要者は,自ら店舗に足を運んで商品を確認,
選択して購入する必要があり,本願商標について電話を用いた口頭による取引が行
われることはない。したがって,本願商標に接する取引者,需要者は,本願商標を
耳で捉えることはなく,店頭で商品の包装に付された本願商標を目で確認し,また
は,インターネットのホームページ上に表示された本願商標を見ることにより,視
覚をもって捉えるのが取引の実情である。このように,本願商標においては,商標
の称呼は,取引者,需要者が商品の出所を識別する上で重要ではなく,称呼や観念
と比較して外観が果たす役割は極めて大きいものということができるから,引用商
標との類否判断においては,外観の類否を最も重視すべきである。そうすると,本
願商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品が同一又は類似の商品であること
は認めるものの,本願商標と引用商標は,外観上著しく相違し,また,観念も明ら
かに相違するから,本願商標が商品の出所に誤認混同をきたすおそれがないことは
明らかである。
ウ よって,本願商標は,引用商標と類似するということはできず,商標法4条
1項11号に該当しない。
〔被告の主張〕
 取引の実情について
商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は,当該商標が現に,当該指定商
品に使用されている特殊的,限定的な実情に限定して理解されるべきではなく,当
該指定商品についてのより一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,
需要者層,商標の使用状況等を総合した取引の実情を含めて理解されるべきである。
これを踏まえて検討すると,本願商標に係る指定商品中の「包装用プラスチック
フィルム及び袋,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ご
み収集用袋」と,引用商標に係る指定商品中の「アイスペール,こしょう入れ・砂
糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。),卵立て(貴金属製のもの
を除く。),ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。),
盆(貴金属製のものを除く。),ようじ入れ(貴金属製のものを除く。),ざる,
シェーカー,しゃもじ,手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき,じょうご,
すりこぎ,すりばち,ぜん,栓抜,大根卸し,タルト取り分け用へら,なべ敷き,
はし,はし箱,ひしゃく,ふるい,まな板,麺棒,焼き網,ようじ,レモン絞り器,
ワッフル焼き型(電気式のものを除く。)」は,互いに類似する商品であるところ,
これらの商品は,日常的に消費される,いわゆる日用品に相当するものであるから,
その取引者,需要者は,これらの商品を取引する専門業者のほか,広く一般の消費
者も含むものである。
したがって,本願商標と引用商標との類否については,一般の消費者の通常有す
る注意力を基準として判断すべきである。
 本願商標について
ア 外観について
本願商標は,装飾的な5つの星型図形とともに,青色の四角形内に,コック帽と
おぼしき図形とその左右に2個ずつの星形図形を円弧を描くように配し,その下に,
「Select」の文字と円弧状の曲線を描き,さらに,最下部に,「HOREC
A」の文字をやや大きめかつ肉太に書してなるものである。そして,四角形内の各
構成部分をみると,青地を背景に,コック帽とおぼしき図形,その左右の星形図形,
「Select」の文字及び円弧状の曲線が,全て白抜きでまとまりよく表されて
いるのに対し,「HORECA」の文字は,黄色で表されている。また,「HOR
ECA」の文字部分は,「Select」の文字部分に比して,天地方向は,ほぼ
同じ高さであるものの,横方向は,約1.5倍の幅で表されている。そうすると,
「HORECA」の文字部分は,他の構成部分と段を変えて配され,文字が大きめ
であることに加え,青地を背景に鮮やかな黄色で表されていることも相まって,視
覚上強い印象を受けるものであるから,視覚的に分離されて看取されるものという
ことができる。
イ 称呼について
 本願商標は,構成中の「Select」及び「HORECA」の各文字部分
に相応して,「セレクトホレカ」と称呼する場合もあるが,外観的,観念的に,こ
れらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合
しているものということはできず,また,必ずしもこれらを常に一連に称呼しなけ
ればならない特段の事情があるということはできないから,その構成文字部分中,
強い印象を与える文字部分のみを捉えて称呼し,この部分の称呼をもって取引に資
することも決して少なくないと判断するのが相当である。
したがって,本願商標については,その構成中,独立して自他商品の識別標識と
しての機能を果たす部分と認識される「HORECA」の文字部分から,「ホレカ」
の称呼を生ずるものである。
 この点に関し,原告は,本願商標の取引者,需要者は,「HORECA」な
いし「ホレカ」の用語に通じた飲食業に携わる者であるから,「ホレカ」の称呼は
識別力を獲得しない旨主張するが,前記のとおり,本願商標に係る指定商品及び引
用商標に係る指定商品は,いわゆる日用品であるから,その取引者,需要者は,飲
食業に携わる者に限定されるということはできず,広く一般の消費者も含むもので
ある。原告は,「HORECA」ないし「ホレカ」は,「ホテル,レストラン,カ
フェ等の飲食業」等を表す飲食業界の用語であると主張するが,一般の消費者がか
かる意味合いを理解しているということはできないから,「HORECA」ないし
「ホレカ」は,特定の意味合いを有する語とはいえず,特定の観念を生じない造語
というべきである。そうすると,「HORECA」の文字部分は,その取引者,需
要者全般に「飲食業界で広く用いられている業界用語」として理解されるものとい
うことはできないから,該文字部分が識別力を有さない部分であるとすることはで
きず,原告の主張は失当である。
ウ 観念について
 本願商標は,図形部分と文字部分から構成されているところ,その文字部分
についてみると,「Select」の文字は,「選ぶ,えり抜きの,上等の」等の
意味を有する語であるから(乙3の1~3),その商品が「えり抜きの商品,上等
の商品」という意味合いを想起させるものであって,自他商品の識別標識としての
機能は弱い部分である。
他方,「HORECA」及び「ホレカ」の文字は,一般的な辞典類(乙4の1~
18)に記載されている事実が見当たらないものであるから,特定の意味合いを有
する語ということはできず,特段の観念を生じない造語というべきである。
そして,「Select」及び「HORECA」の文字部分は,一体として一つ
の言葉が存するわけではないから,文字全体として特定の意味合いを有するものと
いうこともできない。
 次に,本願商標を構成する図形部分についてみると,コック帽とおぼしき図
形や星形図形,円弧状の曲線を表してなるものであるが,それぞれ「コック帽のよ
うなもの」「星形」「円弧」という程度の意味合いを理解するに止まるものであっ
て,図形部分全体として特定の意味合いを有するものではない。
 また,本願商標を構成する文字部分と図形部分とが一体となって,特定の意
味合いを有するものではないから,全体として観念上のつながりは見出せない。
そうすると,本願商標を構成する文字部分と図形部分とは,常に一体不可分のも
のとしてのみ認識,把握されなければならない特段の事情を見出し得ないものであ
る。
 この点に関し,原告は,本願商標からは,メトログループが展開する飲食店
向け高品質プライベートブランドの観念が生ずる旨主張する。
しかしながら,本願商標に係る指定商品や引用商標に係る指定商品の取引者,需
要者は,飲食業に携わる者に限定されず,広く一般消費者を含むものであるところ,
本願商標の使用開始時期は不明であるし,メトロ店舗の店舗数も関東に8店舗があ
るに止まり,そのうち5店舗は営業期間が3年にも満たず,商品の市場規模やメト
ロ店舗の市場占有率等も不明確であるから,本願商標が一般の消費者に対して,全
国的に相当程度知られているとは認められず,本願商標からメトログループが展開
する飲食店向け高品質プライベートブランドとの観念が生ずるということはできな
い。
 引用商標について
ア 外観について
引用商標は,「HORECA」の欧文字と「ホレカ」の片仮名文字とを二段に書
した構成からなるものである。
イ 称呼について
引用商標は,「HORECA」の文字と「ホレカ」の文字よりなるところ,「ホ
レカ」の文字部分は,「HORECA」という欧文字の読みを特定したものと無理
なく認識できるから,構成文字に相応して,「ホレカ」の称呼を生じるものである。
ウ 観念について
引用商標を構成する「HORECA」及び「ホレカ」の文字は,前記のとおり,
一般的な辞典類に収録されていないから,特定の意味合いを有する語ということは
できず,特段の観念を生じない造語というべきである。
 商標法4条1項11号該当性について
ア 本願商標と引用商標は,その構成全体を視覚的に対比観察した場合,図形の
有無や「Select」の文字の有無という差異があり,外観上は相違するもので
ある。しかしながら,本願商標の構成中,独立して自他商品の識別標識としての機
能を果たし得る「HORECA」の文字と引用商標の構成中の「HORECA」の
文字を比較すると,両者ともに格別特異な態様からなるものではなく,大文字で表
された同一の綴りの文字からなる近似性を有している。また,本願商標と引用商標
とは,「ホレカ」の称呼で共通し,観念については,互いに造語であるから比較す
ることができないものである。そして,前記のとおり,本願商標に係る指定商品と
引用商標に係る指定商品には,類似するものがあるから,本願商標をその指定商品
に使用した場合には,当該商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるとい
える。
イ よって,本願商標は,引用商標と類似するものであり,商標法4条1項11
号に該当する。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由(本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした判断の誤り)
について
 商標の類否判断
商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用
された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記
憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を
明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最
高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22
巻2号399頁参照)。
しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構
成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分
的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,
この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則
として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は
役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,そ
れ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合な
どには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を
判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38
年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行
ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最
高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事
228号561頁参照)。
そこで,以上説示した見地から本願商標と引用商標との類否について検討する。
 本願商標について
本願商標は,装飾的な5つの星形図形とともに,左右の下部両角がやや丸みを帯
びた青色の四角形内に,コック帽を模した図形の左右に2個ずつ星形図形を配し,
その下に「Select」の欧文字と弧を白抜きで表し,さらに該文字の下部に黄
色で「HORECA」の欧文字を記載した構成からなるものである。
上記構成において,コック帽を模した図形,その左右の星形図形,「Selec
t」の文字及び弧は,青色の四角形のほぼ中央部にいずれも白抜きでまとまりよく
配置されているのに対し,「HORECA」の文字は,青色の四角形の下部に,本
願商標の上段に配置された装飾的な星形図形と同色の黄色で記載されていること,
「Select」の文字は,イタリック体で記載されているのに対し,「HORE
CA」の文字は,ローマン体で記載され,かつ,「Select」の文字幅に比し
て1.5倍程度横に長く記載されていることからすると,外観上,「HORECA」
の文字部分は,他の部分に比して,見る者も注意をより引くものであるといえる。
また,「Select」の文字は,「選ぶ,えり抜きの,上等の」等の意味を有す
る語であるから(乙3の1~3),本願商標を付して販売に供する商品が「選ばれ
た商品」,「上等な商品」であるとの意味合いを持たせるものではあるが,「Se
lect」という文字自体が自他商品の識別のために格別の意義を有するものとは
いえない。
これらのことからすると,本願商標のうち,「HORECA」の文字部分は,こ
れを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合して
いるものということはできず,本願商標のうち,「HORECA」の部分だけを引
用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
したがって,本願商標からは,「Select HORECA」のみならず,「H
ORECA」の部分からも,称呼,観念を生じ得るものというべきである。
 引用商標について
他方,引用商標は,「HORECA」の欧文字と「ホレカ」の片仮名文字を上下
2段に記載した構成からなるものである。
したがって,引用商標からは,「ホレカ」との称呼が生ずるものである。
 本願商標と引用商標との類否
ア 本願商標のうち「HORECA」の部分からは,引用商標と同じ「ホレカ」
の称呼が生じる。
また,「HORECA」は,飲食業界のいわゆる業界用語として,「ホテル,レ
ストラン,カフェ等のサービス業種」を指す造語であり,一般的な外国語辞典や国
語辞書等には収録されていない(甲9の1~13,乙4の1~18)。後記のとお
り,本願商標に係る指定商品の取引者,需要者は,飲食業に携わる者に限定される
のではなく,広く一般の消費者を含むものであるから,本願商標に係る指定商品の
取引者,需要者が本願商標に接した場合に,特定の観念を有するものとは認められ
ない。よって,本願商標の「HORECA」の部分からも,引用商標からも,特定
の観念が生じるとはいえない。
本願商標と引用商標とは,全体としてその外観そのものは類似するものではない
が,上記のとおり,同一の称呼が生じる。
そして,1個の商標から2個以上の称呼,観念を生じる場合には,その1つの称
呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきであ
るから(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照),本件商標から生
じる称呼の1つである「HORECA」と引用商標とが同一である以上,本願商標
は,引用商標と類似するものである。
イ 取引の実情(原告の主張)について
原告は,本願商標が使用されているメトロ店舗は事前に会員登録をした飲食店等
の食品事業者のみを対象とした卸売専業店であることを前提として,本願商標に接
する取引者,需要者は,「HORECA」又は「ホレカ」の用語に通じた飲食業に
携わる者であるから,本願商標からは,メトログループのプライベートブランドで
ある「ホレカセレクト」の称呼のみが生ずるとか,当該プライベートブランドの観
念が生ずるなどと主張する。
しかしながら,本願商標に係る指定商品は,別紙商標目録のとおり,あて名印刷
機,印字用インクリボン等の事務用品や,幼児用紙おしめ,家庭用食品包装フィル
ム等のいわゆる日用品であり,これらの商品の取引者,需要者がメトロ店舗を利用
する飲食業に携わる者に限定されるものでないことは明らかである。商標登録出願
は,その商標を使用する商品又は役務を指定して行われるものであり(商標法6条
1項),本願商標に係る指定商品の取引者,需要者については,飲食業に携わる者
に限定されるのではなく,広く一般の消費者を含むものと想定される以上,現在の
メトロ店舗の販売形態が原告が主張するとおりであったとしても,本願商標と引用
商標との類否を検討するに当たり,メトロ店舗を利用する飲食業に携わる者だけを
その判断基準とすることはできない。
そして,本願商標に係る指定商品の取引者,需要者である一般の消費者において,
本願商標について,メトログループのプライベートブランドである「ホレカセレク
ト」との称呼のみを生ずるとか,当該プライベートブランドの観念のみが生ずるな
どの事実を認めるに足りる証拠はない。
 商品の類否
本願商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品とが同一又は類似の商品であ
ることは,当事者間に争いがない。
 商標法4条1項11号該当性について
以上のとおり,本願商標と引用商標は,類似し,本願商標に係る指定商品と引用
商標に係る指定商品とが同一又は類似の商品であるから,本願商標は,商標法4条
1項11号に該当するものと認めるのが相当である。
2 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求は棄却
されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 齋 藤 巌
(別紙)
商 標 目 録
商標の構成:
指定商品:第16類「幼児用紙おしめ,あて名印刷機,印字用インクリボン,自動
印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,
タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,郵便料金
計器,輪転複写機,包装用プラスチックフィルム及び袋,家庭用食品包装フィルム,
紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,マーキング用孔開型板」
(別紙)
引用商標目録
商標登録番号:第1119936号
商標の構成:
出願日:昭和46年12月22日
設定登録日:昭和50年5月6日
更新登録日:平成17年6月7日
更新登録後の指定商品:第21類「なべ類,コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製
のものを除く。),食器類(貴金属製のものを除く。),米びつ,食品保存用ガラ
ス瓶,水筒,魔法瓶,アイスペール,こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振り出し容器
(貴金属製のものを除く。),卵立て(貴金属製のものを除く。),ナプキンホル
ダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。 , (貴金属製のものを除く。 ,
)盆 )
ようじ入れ(貴金属製のものを除く。),ざる,シェーカー,しゃもじ,手動式の
コーヒー豆ひき器及びこしょうひき,じょうご,すりこぎ,すりばち,ぜん,栓抜,
大根卸し,タルト取り分け用へら,なべ敷き,はし,はし箱,ひしゃく,ふるい,
まな板,麺棒,焼き網,ようじ,レモン絞り器,ワッフル焼き型(電気式のものを
除く。),霧吹き,ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。),
植木鉢,家庭園芸用の水耕式植物栽培器,じょうろ,愛玩動物用食器,愛玩動物用
ブラシ,犬のおしゃぶり,小鳥かご,小鳥用水盤,貯金箱(金属製のものを除く。 ,

お守り,紙タオル取り出し用金属製箱,せっけん用ディスペンサー」(ただし,指
定商品中,「愛玩動物用食器,愛玩動物用ブラシ,犬のおしゃぶり,小鳥かご,小
鳥用水盤」は平成22年11月5日に,「なべ類,コーヒー沸かし(電気式又は貴
金属製のものを除く),米びつ,食品保存用ガラス瓶,水筒,魔法瓶,植木鉢,家
庭園芸用の水耕式植物栽培器,じょうろ」は同月8日に,「霧吹き」は同月15日
に,それぞれ商標登録を取り消す旨の審判の確定登録がされた。)

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