平成21(ワ)11317損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成23年4月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告B 原告A
株式会社ナウデザインハウス
ら訴訟代理人弁護士赤沢敬之
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法令 |
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キーワード |
許諾11回 損害賠償9回 実施1回 特許権1回
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主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告らが,被告に対し,被告の行為により信用を毀損されたと主張して,
不法行為に基づき,それぞれ損害賠償金500万円及びこれに対する不法行為の日の
後である平成21年8月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成23年4月28日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成21年(ワ)第11317号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成23年2月28日
判 決
原 告 A
原 告 株式会社ナウデザインハウス
原告ら訴訟代理人弁護士 赤 沢 敬 之
被 告 B
同訴訟代理人弁護士 田 中 一 郎
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告ら各自に対し,500万円及びこれに対する平成21年8月3日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告らが,被告に対し,被告の行為により信用を毀損されたと主張して,
不法行為に基づき,それぞれ損害賠償金500万円及びこれに対する不法行為の日の
後である平成21年8月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 判断の基礎となる事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告株式会社ナウデザインハウス(以下「原告会社」という。)は,内装その他
の業務を目的とする株式会社である。
イ 原告Aは,建築デザイナーであり,原告会社の代表取締役を務めている者であ
る。
ウ 被告は,タック化成株式会社(以下「タック化成」という。)が存続した平成2
0年ころまで同社の専務取締役を務める一方,平成14年12月19日に設立さ
れた電界発光素材の輸入販売その他の業務を目的とする日本ウエルコ株式会社
(以下「日本ウエルコ」という。)の代表取締役をその設立当初から務めている者
である。なお,日本ウエルコは,平成18年10月頃からは事業活動を停止して
いる。(乙9)
エ Cは,原告Aの長男であり,日本ウエルコ設立時から同社の取締役を務めてい
た者である。
オ Dは,原告Aの二男であり,日本ウエルコ設立時から,同社の従業員として稼
働していた者である。
(2) 日本ウエルコ設立に至る経緯等
ア 原告Aは,平成6年頃から,白色無機エレクトロルミネセンス(以下「白色E
L」という。)の開発に取り組むようになり,平成10年頃からは,原告Aあるい
は原告会社が出願人となって,白色ELに関する特許出願をするようになり,別
紙特許出願リスト記載のとおり,白色ELに関する特許出願をした。
別紙特許出願リスト記載の特許リスト(国内分)の1ないし3及び6の特許出
願については,原告Aが発明者あるいは共同発明者とされており,同特許リスト
(国内分)の1及び8については,既に特許査定がされて特許権の設定登録がさ
れている。(甲15,甲26,甲51)
イ 原告会社は,白色ELを使用した製品の販売に向けた準備を進め,平成14年
9月20日には,東芝ライテック株式会社(以下「東芝ライテック」という。)と
の間で,原告会社が企画開発した白色ELを使用した道路標識の製作・販売を互
いに協力して行うこと,東芝ライテックが主として道路標識の製作販売を行うこ
と,原告会社において白色ELシートを東芝ライテックに販売する販売会社を設
立することなどを合意した。(甲8)
ウ タック化成の専務取締役であった被告は,原告Aから白色ELの説明を受け,
平成14年10月18日,原告Aとの間で,下記内容の同日付け「白色発光EL
シート及びEL標識板の加工・販売権許諾基本合意書」
(以下「本件合意書」とい
う。)を「タック化成株式会社 専務取締役」との肩書きで作成して取り交わした
(押印は,被告の個人印によりなされている。。
)(甲1,乙1)
記
「株式会社ナウデザインハウス(以下「甲」という)とタック化成株式会社(以下
「乙」という)は,以下の内容につき合意する。
1.
(目的)
本合意は,甲が企画・開発した「白色発光ELシート」
(以下「本素材」とい
う)の加工・販売権を乙に許諾するに当たり,甲乙両者間の取引及び協力関係
に関する取り決めを行うことを目的とする。
2.
(加工・販売権の許諾)
(1) 甲は乙に対し,本素材についての加工・販売権を許諾する。
(4) 乙は甲に対し,本素材の加工・販売権許諾の対価として,次のとおり権利
金を支払う。
①権利金は5億円とする。
15.(新会社の設立)
① 甲乙は本合意締結後,当事業を遂行するために新会社を資本金(判決注:
空欄)円で設立して,甲30%,乙70%の比率で株式を保有する。」
エ 平成14年12月19日,白色ELの販売会社となる日本ウエルコが設立され,
被告が代表取締役,Cが取締役,原告Aが監査役にそれぞれ就任し,Dも従業員
となった(甲7)。
(3) 原告Aの監査役退任登記
ア 被告は,平成17年2月22日,平成15年12月29日付けで原告Aが日
本ウエルコの監査役を退任し,同日付けでDが監査役に就任し,その余の取締
役が重任された旨の登記手続をした。(甲45)
イ 原告Aは,上記登記につき,平成18年2月に公正証書原本不実記載及び同行
使の罪で被告とCを刑事告発し,被告とCは,平成19年12月に,略式命令に
より同罪でそれぞれ10万円の罰金を科せられた。(甲50)
(4) 原告らによる先行訴訟(乙2ないし乙5)
ア 原告会社は,本件合意書に基づく合意が原告会社とタック化成との間に成立
したことを前提として,タック化成を被告として,本件合意書記載の許諾料5
億円の支払等を求める訴訟(平成17年(ワ)第8125号 許諾料請求事件)
を大阪地方裁判所に提起したが,同裁判所は,本件合意書作成に関与した被告
にはタック化成を代理する権限を認めず,また被告による不法行為も認めず,
平成18年8月23日に原告会社の請求を棄却する判決をした。
原告会社は,これを不服として大阪高等裁判所に対して控訴(平成18年(ネ)
第2501号 許諾料請求控訴事件)を提起したが,同裁判所も,原審裁判所
と基本的に同じ判断をしたほか,追加された主張も認めず,平成19年2月2
2日に控訴を棄却した。
イ 原告会社は,上記訴訟の結果を受け,本件合意書の作成に直接関わった被告
を相手取って原告会社と被告との間に本件合意書に基づく契約が成立したこと
等を前提として,本件合意書記載の許諾料5億円の支払を求める訴訟(平成2
0年(ワ)第4565号 許諾料請求事件)を大阪地方裁判所に提起したが,
同裁判所は,平成21年8月27日,本件合意書の個別の条項に基づく法的拘
束力を有する合意を認めることはできないとして,原告会社の請求を棄却する
判決をした。
原告会社は,これを不服して,大阪高等裁判所に対して控訴(平成21年(ネ)
第2454号 許諾料請求控訴事件)を提起したが,同裁判所は,平成22年
1月28日,原審と基本的には同じ判断で,控訴を棄却する判決をした。
2 当事者の主張
【原告らの主張】
(1) 被告の不法行為
被告は,C及びDと共謀して,原告Aを日本ウエルコから排除し,白色EL開発
の成果を奪おうとして,以下のような一連の不法行為をした。
ア 被告は,Cと共謀の上,原告Aが海外出張中である平成17年2月22日頃,
日本ウエルコの事務所を他に移転し,以後,原告Aが日本ウエルコの事務所に入
室できないようした。
イ 被告は,Cと共謀の上,上記同日,原告A所有のパソコンに保存していた各種
資料を窃取した上,同パソコンを破壊して使用不能にした。
ウ 被告は,平成17年2月,原告Aに無断で,平成15年12月付けで原告Aが
日本ウエルコの監査役を退任した旨の虚偽の登記手続をした。
エ 被告は,平成17年8月31日に開催された第5回日本MITビジネスプラン
コンテストにおいて,原告らが作成した白色ELの事業化のためのビジネスプラ
ンの骨子をそのまま使用して発表を行い,その中で,白色ELの開発者は日本ウ
エルコである旨の虚偽の事実を述べた。
オ 被告は,白色ELの開発者「日本ウエルコ㈱D」名義で,同志社大学E教授ら
と共同で,平成17年度及び平成18年度の照明学会全国大会において,原告A
が先に作成してF教授に提供した白色ELの資料を原告Aに無断で利用し,白色
ELの特性についての評価内容を発表した。
カ 被告は,日本ウエルコが使用した営業用パンフレット(甲13)においても,
会社役員紹介欄に監査役Dと表記した上,
「開発者は日本ウエルコのD監査役と台
湾の技術者です。」と虚偽の記載をした。
なお,被告は,上記ウないしオの各行為を行ったのは日本ウエルコのDである
と主張するが,日本ウエルコの代表取締役である被告が上記各行為を指示ないし
容認していたことは明らかであり,被告が責任を免れることはできない。
(2) 原告らの損害
ア 原告会社の損害
原告会社は,平成17年2月以降の被告による上記(1)記載の一連の不法行
為により,白色ELの実用化・事業化のための提携先企業から,白色ELの開発
者の資格や開発者の権利関係についての紛争があるものとの疑問を投げられ,そ
の信用を毀損され,これによって業務提携等の業務遂行が妨げられるなどした。
原告会社が受けた無形の損害は計り知れず,その損害額は少なくとも500万
円を下らない。
イ 原告Aの損害
原告Aは,白色ELの開発者であるにもかかわらず,被告の承認のもとで日本
ウエルコが純白ELの開発者と詐称して営業活動や宣伝を進めたことにより,原
告会社と同様に信用を毀損された。
原告Aの被った損害額も少なくとも500万円を下らない。
【被告の主張】
(1) 原告らの主張(1)(被告の不法行為)について
ア 上記(1)アの主張について
被告が,原告Aに対し,日本ウエルコの事務所への立入りを禁止する措置をと
ったことは認める。その経緯は,後記キで主張するとおりである。
イ 原告らの上記(1)イの主張について
原告らが主張するパソコンは日本ウエルコが所有するものであり,原告Aが所
有するものではない。
被告が同パソコン内の資料を窃取した事実はない。
被告が同パソコンを物理的に破壊したことも,使用不能にしたこともない。
ウ 原告らの上記(1)ウの主張について
被告が,平成17年2月,原告Aが日本ウエルコの監査役を退任した旨の登記
手続をしたことは認める。その経緯は,後記キで主張するとおりである。
エ 原告らの上記(1)エの主張について
原告らの主張は否認する。
第5回日本MITビジネスプランコンテストにおいてプレゼンテーションをし
たのは,被告ではなく日本ウエルコ所属のDである。また,Dは,上記ビジネス
プランコンテストにおいて,日本ウエルコが研究開発した白色ELのプレゼンテ
ーションをしただけであり,原告Aが開発したと自称する白色ELについては何
らコメントをしていない。
オ 原告らの上記(1)オの主張について
原告らの主張は否認する。
平成17年度と平成18年度の各照明学会全国大会において,日本ウエルコの
Dを含む連名の論文(甲19,甲20)が発表されたことは認める。
上記各大会において上記論文を発表したのは大学生であるGであり,被告は発
表に関与していない。
また,上記論文には,白色ELの開発者が「日本ウエルコ(株)D」であるとは記
載されていない。
さらに,甲19と甲20の論文で取り上げられている素材は,日本ウエルコが
製作して同志社大学のE教授(F教授ではない)に提供したものであって,原告
Aが製作して同教授に提供したものではない。
カ 原告らの上記(1)カの主張について
原告らの主張は否認する。
被告は,原告らが主張する営業用パンフレット(甲13)を交付したことはな
いし,日本ウエルコもこれを交付したことはない。
原告らが主張するパンフレット(甲13)は,Dが日本ウエルコの会社案内を
パソコンで作成していた際に作業中のデータを印刷したものであり,それを原告
Aが日本ウエルコの意思に反して持ち出したものである。
キ 原告ら主張の上記(1)ア,ウの行為をするに至った経緯等について
原告Aは,日本ウエルコ設立時に何ら出資をしておらず,また監査役に就任し
たにすぎないにもかかわらず,代表取締役である被告やCらに無断で同社の資金
を支出し,また,支出した資金の使途を被告及びCに全く明らかにせず,さらに,
日本ウエルコ名義の預金通帳を事実上所持したまま引き渡さないという違法行為
をした。
日本ウエルコの決算期は10月であり,平成15年12月には,決算報告書の
作成,定時株主総会の開催,役員の改選が法律上必要であったが,監査役である
原告Aの上記違法行為のため,同社は,平成15年10月期の決算報告書を作成
することができないばかりか,決算承認のための定時株主総会の開催や役員の改
選もできないという事態となった。
そのため被告及びCは,平成17年2月中旬頃まで,原告Aに対し,何度も不
正支出の停止・回復,預金通帳の引渡などを要請したが,原告Aはこれに応じず,
詐欺的な資金集めと見られても仕方のない行為を継続した。
そこで,被告及びCは,平成17年2月,いわば緊急避難的に,日本ウエルコ
の役員の変更登記をし,かつ,原告Aの日本ウエルコの事務所への出入りを禁止
する措置をとったのであるから,これらの行為には違法性はない。
また,そもそも日本ウエルコは,平成14年12月19日,被告が資本金10
00万円を全額出資して設立した会社であるから,被告がその意思で原告Aを監
査役から解任することは自由であり違法性はない。
(2) 原告らの主張(2)(原告らの損害)について
平成17年,18年当時,原告らのいう白色ELについて,その品質等に対する
社会的信頼は全くなく,そもそも原告らが毀損されたとする信用を観念することが
できないから,原告らに損害が生じたということはできない。
第3 当裁判所の判断
1 原告らは,被告は,原告Aを日本ウエルコから排除し,白色EL開発の成果を奪
おうとして,上記第2の2【原告らの主張】欄記載の一連の不法行為をしたと主張
するが,以下に検討するとおり,それらの行為は,そもそも事実として認められな
いものか,あるいは原告ら主張に係る損害を発生させたものと認められないから,
これらの一連の不法行為を理由とする原告らの損害賠償請求は,理由がないという
ことになる。
2 上記第2の2【原告らの主張】(1)ア,ウについて
(1) 被告が平成17年2月以降,原告Aが日本ウエルコの事務所へ立ち入りできな
いようにしたこと(上記ア),また同月,原告Aが日本ウエルコの監査役を退任し
た旨の登記手続をしたこと(上記ウ)は,当事者間に争いがない。
(2)ア 被告は,日本ウエルコは,平成14年12月19日,被告が資本金1000万
円を全額出資して設立した会社であるから,被告がその意思で原告Aを監査役
から解任することは自由であり違法性はない旨主張する。
しかしながら,現実の資金負担が被告によってされたのだとしても,日本ウエ
ルコ設立前に株主の構成は,被告を70%,原告Aを30%とすることが予め
合意されていたというのであるから,法的には,被告が原告Aに対して立替金
債権あるいは貸金債権を有するだけであって,日本ウエルコが被告の一人会社
になるわけではない(なお,被告の陳述書(乙7p3)に,被告が原告Aに対
して出資金相当額の債権を有する旨の記載がある。。したがって,原告Aが全
)
く関与しないところでされた本件の登記手続は,その動機目的にかかわらず違
法な行為である(なお,旧商法273条2項によれば,
「最初ノ監査役ノ任期ハ
前項ノ規定ニ拘ラズ就任後一年内ノ最終ノ決算期ニ関スル定時総会ノ終結ノ時
迄トス」とされているのであるから,再任決議がされていない原告Aの退任登
記手続には本来問題はなく,刑事手続で問題にされたのは,その余の取締役等
を重任した旨の登記ではないかと推測されるが,いずれにしても,株主である
原告Aが関与していないところでの取締役,監査役の選任はあり得ないから,
上記登記手続の違法性には変わりはない。。
)
イ また,監査役である原告Aの不在中に日本ウエルコの事務所内に入れないよう
にしたという行為についても,その経緯は,被告の供述によれば,D及びCが主
導的になし,被告は事後的に知らされたにすぎないと認められるが,それまで日
本ウエルコで稼働していた監査役である原告Aを実力で日本ウエルコから排除し
たものであって,その動機目的にかかわらず違法な行為である。
(3) しかしながら,原告らは,本件訴訟における損害発生事実として日本ウエルコが
白色ELの開発者と詐称して営業活動をしたことにより信用を毀損され,業務提携
等の業務遂行が妨げられたと主張するが,原告Aの日本ウエルコの事務所への立入
りができないようにされたこと,あるいは原告Aの監査役の退任登記がされたこと
が,いかなる形で原告らの信用毀損となったのかについて具体的に主張しているわ
けではない。
原告Aが日本ウエルコの事務所へ立ち入りできないようにされたという事実関係
については,それが少なくとも取引先に知られるところとなり,その結果,原告ら
の対外的信用を傷つけて営業に支障をもたらしたというような事実関係をうかがわ
せるような主張立証はされておらず,また原告Aについて退任登記がされたことに
ついても同様であって,かえって原告Aが被告及びCを刑事告訴したのが,そのよ
うな登記がされた1年後のことであることからすると,上記一連の行為の結果は,
原告Aと被告あるいはC及びDとの間の内部紛争の原因となったにとどまる様子さ
えうかがえる。
(4) したがって,上記ア,ウの事実関係を原因とする不法行為に基づく原告らの被告
に対する損害賠償請求は,これを認めることはできない(なお原告らは,第4回
弁論準備手続期日において,裁判所の釈明に対し,直接的な信用毀損に結びつか
ないと考えられるパソコンの破壊や,虚偽の登記等については信用毀損を裏付け
る事情として主張する旨述べていたが,本人尋問等が実施された第2回口頭弁論
期日の証拠調べ終了後に,各行為も独立した不法行為であると主張した。そこで
当裁判所は,直ちに口頭弁論を終結せず,期日を続行したが,上記説示のとおり,
具体的な損害発生について主張はされていない。。
)
3 上記第2の2【原告らの主張】(1)イについて
(1) 上記行為についても,上記2で検討したのと同様,その事実が,そもそも原告ら
の主張する損害発生とどのように結びついているのか判然としないが,少なくとも,
原告ら主張に係る原告Aのパソコンに保存していた各種資料を窃取した上,同パソ
コンを破壊して使用不能にしたとの事実(上記イ)については,被告がこの行為を
したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告Aの供述中には,日本ウエルコの事務所に出入りできなくされてから1か月
くらいして入室できるようになった後,Dから原告Aの資料の返却を受けたが,パ
ソコン内のデータが破壊されていたことをいう供述部分があり,これによれば,破
壊されたというのはパソコンそのものではなく,パソコン内のデータをいう趣旨の
ようであるが,いずれにしても,被告の直接的関与を推認させる事実関係をいう部
分はない。
かえって証拠(乙2ないし乙5,甲50,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,
① 日本ウエルコは,もともと原告Aが中心となり,子であるD及びCが手伝って,
いわば原告A親子で経営されており,被告は当初から経営には関与していなかった
こと,② しかし,原告Aと子であるD及びCは,日本ウエルコの運営方針等に関
する考え方 の違いなどから対立するようになり,DとCは,原告Aを日本ウエル
コの運営に関与させないようするため,平成17年2月,原告Aがアメリカに出国
している間に日本ウエルコの事務所を移して,原告Aを事務所に入室できないよう
にしたり,また被告を巻き込んで,原告Aが日本ウエルコの監査役からの退任した
旨の登記手続とDが監査役に就任した旨の登記手続を行ったりしたこと,③ それ
以降の日本ウエルコの事業活動は,D及びCが中心となって行うようになったこと,
④ 被告は,その後も代表取締役の地位にとどまったものの,日本ウエルコの事業
活動には実質的に関与していないこと,以上の事実が認められ,これらの事実によ
れば,原告らが主張する資料窃取やパソコン破壊の事実が,仮にあったとしても,
それは,その当時,日本ウエルコを実質的に運営していた原告Aと,子であるC及
びDの会社の運営方針を巡る対立が原因となったものであるから,これに被告は全
く関与していなかったものと認められる。また,それらの資料窃取やパソコン破壊
の行為は,仮にあったとしても,日本ウエルコの事業活動そのものとは関係ないか
ら,被告が日本ウエルコの代表取締役であったからといって,その行為の結果につ
いて責任を問われるべき根拠はない。
(3) したがって,上記イの事実関係を原因とする不法行為に基づく原告らの被告に対
する損害賠償請求は,これを認めることはできない。
4 上記第2の2【原告らの主張】(1)エについて
(1) 原告らは,被告は,平成17年8月31日に開催された第5回日本MITビジネ
スプランコンテストにおいて,原告らが作成した白色ELの事業化のためのビジネ
スプランの骨子をそのまま使用して発表を行い,その中で,白色ELの開発者は日
本ウエルコである旨の虚偽の事実を述べた行為が不法行為を構成する旨主張する。
(2) 証拠(甲21ないし甲23,甲36)によれば,日本ウエルコは,平成17年8
月31日に開催された第5回MITビジネスプランコンテストにおいて,
「純白発光
ELの販売と蛍光体の研究開発事業」をテーマとする発表をし,Dが,同コンテス
トにおいて,純白発光ELの開発者は日本ウエルコである旨を含む下記の発言をし
た事実が認められる。
記
「・・・現在,看板,サイン,表示板の市場では,蛍光灯やLEDその他の光源が
主に使用されております。しかし,これらは熱を発したり,有害物質などを含んでい
るため,環境の面ではさまざまな問題があります。しかし,これまでにはそれにかわ
る光源はありませんでした。そこで,当社が開発した,今回開発した純白発光ELを,
当社ではまず,道路交通標識,サイン,看板市場に販売しています。
・・・無機ELで
すが,これはもともと純白の白色などはなく,そして寿命が短く,これも屋外で使用
するのが今まで困難でした。そういうものをすべてクリアして,今回,当社が開発し
た純白発光ELを発表させていただきます。・・・」
(3) しかしながら,日本ウエルコが上記コンテストで発表した「純白発光EL」が,
原告Aあるいは原告会社が開発した白色ELのことであり,日本ウエルコが開発し
たと発言することが間違っていたとしても,原告Aが純白発光ELの開発者である
との事実を虚偽であると積極的に述べているわけではないから,これをもって原告
らの信用を毀損すると直ちにいうことは困難である。
そして,その点をおいても,上記コンテストで実際に発表したのはDである上,
上記3(2)で認定した事実関係によれば,平成17年8月当時,日本ウエルコの事業
活動はCとDが中心となってなし,被告は日本ウエルコの代表取締役にとどまって
いたものの実質的に関与していたものとは認められないから,被告がDによる上記
発表内容を事前に指示したり容認していたりしていたとはおよそ認められない。
また,そのほかに,上記発言内容について被告が責任を負うべき法的根拠を原告
らは具体的に主張しているわけではないから,上記発言をもって,被告の不法行為
という原告らの主張は採用できない。
なお原告らは,Dが,上記コンテストにおいて,原告らが作成した白色ELの事
業化のためのビジネスプランの骨子をそのまま使用して発表を行ったと主張するが,
この事実を認めるに足りる証拠はないことはもとより,上記認定のとおり被告が,
これを指示ないし容認していたことを認めるに足りる証拠もない。
(4) したがって,上記(2)の事実を原因とする不法行為に基づく原告らの被告に対する
損害賠償請求は,これを認めることはできない。
5 上記第2の2【原告らの主張】(1)オについて
(1) 原告らは,被告が,白色ELの開発者「日本ウエルコ㈱D」名義で,同志社大学
E教授らと共同で,平成17年度及び平成18年度の照明学会全国大会において,
原告Aが先に作成してF教授に提供した白色ELの資料を原告Aに無断で利用し,
白色ELの特性についての評価内容を発表したことが不法行為を構成する旨主張す
る。
(2) 証拠(甲19,甲20)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 平成17年7月14日と15日,第38回照明学会全国大会が開催され,同大
会において,同志社大学の大学生であるGは,同人,E,H,D及びIの名義で
作成された「白色無機EL素子の基本特性に関する検討」と題する論文(甲19)
に基づく発表をした。なお,同論文の作成名義人には,それぞれ肩書きが付され
ており,Dについては,「日本ウエルコ㈱」との肩書きが付されていた。
イ 平成18年8月24日と25日,第39回照明学会全国大会が開催され,同大
会において,同志社大学の大学生であるGは,同人,J,E,H,Dの名義で作
成された「白色発光無機EL素子の特性評価」と題する論文(甲20)に基づく
を発表した。なお,同論文の作成名義人には,それぞれ肩書きが付されており,
Dについては,「日本ウエルコ㈱」との肩書きが付されていた。
(3) 原告らは,上記照明学会全国大会においてそれぞれ発表に用いられた論文が,原
告Aが先に作成してF教授に提供した白色ELの資料を原告Aに無断で利用した
ものであるとするが,上記各論文にはDが白色ELの開発者であるとは記載され
ていないし,また,同論文において,原告Aが作成した資料が使用されていたこ
とを認めるに足りる証拠もない。
また仮に,上記各論文に原告Aが作成した資料が原告Aに無断で使用されてい
たとしても,被告が上記各論文の作成に関わったことを認めるに足りる証拠はな
いし,また被告が原告Aの資料を使用して上記各論文を発表することを指示ない
し容認していたことを認めるに足りる証拠もなく,かえって既に認定したその当
時の日本ウエルコにおける被告の実質的な地位役割からすると,そのような事実
関係は考え難い。
そして,そもそも原告Aの資料の無断利用が違法であると評価すべき根拠は見
あたらないし,その点を措いても,原告らが主張するそのような事実関係によっ
て,いかなる事情で原告らの信用が毀損されたことになるのか理解し難いものが
ある。
(4) したがって,上記事実を原因とする不法行為に基づく原告らの被告に対する損害
賠償請求は,これを認めることはできない。
6 上記第2の2【原告らの主張】(1)カについて
(1) 原告らは,被告が,日本ウエルコが使用した営業用パンフレット(甲13)にお
いても,会社役員紹介欄に監査役Dと表記した上,
「開発者は日本ウエルコのD監査
役と台湾の技術者です。」と虚偽の記載をした行為が不法行為を構成する旨主張する。
(2) 証拠(甲13)によれば,日本ウエルコの営業用資料と思われる「自発光(純白
EL)の紹介」と題する文書に,日本ウエルコの監査役がDであり,純白無機EL
の開発者が日本ウエルコのD監査役と台湾の技術者であると記載されていることが
認められる。
しかし,被告は,上記営業用資料(甲13)は,Dが日本ウエルコの会社案内を
パソコンで作成していた際に作業中のデータを印刷したものであり,それを原告A
が日本ウエルコの意思に反して持ち出したものであって,被告及び日本ウエルコが
これを交付したことはないと主張しているところ,上記営業用資料が実際に日本ウ
エルコの顧客に配布されたことを認めるに足りる証拠はない。
また,被告自身が上記資料を作成したと認めるに足りる証拠もないし,上記資料
を作成することについて被告が指示ないし容認したことを認めるに足りる証拠もな
い。
(3) したがって,上記事実を原因とする不法行為に基づく原告らの被告に対する損
害賠償請求は,これを認めることはできない。
7 以上検討してきたとおり,原告らの主張する不法行為は,主張に係る損害発生と
結びつくものではないか,またはそもそも事実として認められないものであるから,
原告らの被告に対する不法行為を理由とする損害賠償請求は,その余の判断に及ぶ
までもなく理由がない。
8 以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 達 野 ゆ き
裁判官山下隼人は転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 森 崎 英 二
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