平成22(ワ)35800損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成23年4月27日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告アーネスト株式会社 原告X
|
対象物 |
模様入りおにぎり具 |
法令 |
著作権
著作権法75条3項5回 著作権法12条1項3回 実用新案法10条の31回 著作権法76条1回 著作権法114条2項1回
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キーワード |
侵害21回 実施5回 損害賠償4回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,原告が,被告の商品台紙(乙1の1,2。以下「本件台紙」と
いう。)の裏面に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載
1。以下「被告説明1」という。)並びに同商品のリーフレット(乙2の
1,2。以下「本件リーフレット」といい,本件台紙と併せて「本件台紙
等」という。)に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載
2∼5。以下「被告説明2∼5」という。)は,いずれも原告の著作物で
ある「手続補正書」(甲6の2。原告が実用新案登録出願の願書に添付し
た明細書及び図面を補正するため特許庁に提出した同庁昭和57年1月7
日受付の手続補正書。以下「本件手続補正書」といい,このうち明細書部
分を「本件明細書」,図面部分を「本件図面」といい,その写しを別紙2
として添付する。)を複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行
為は,原告の有する本件手続補正書の著作権(複製権,翻案権)及び著作
者人格権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)を侵害すると主張して,
被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利
益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基 |
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判決文
平成23年4月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(ワ)第35800号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成23年3月23日
判 決
福岡県三潴郡<以下略>
原 告 X
新潟県三条市<以下略>
被 告 ア ー ネ ス ト 株 式 会 社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 永 野 周 志
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,300万円を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告の商品台紙(乙1の1,2。以下「本件台紙」と
いう。)の裏面に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載
1。以下「被告説明1」という。)並びに同商品のリーフレット(乙2の
1,2。以下「本件リーフレット」といい,本件台紙と併せて「本件台紙
等」という。)に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載
2∼5。以下「被告説明2∼5」という。)は,いずれも原告の著作物で
ある「手続補正書」(甲6の2。原告が実用新案登録出願の願書に添付し
た明細書及び図面を補正するため特許庁に提出した同庁昭和57年1月7
日受付の手続補正書。以下「本件手続補正書」といい,このうち明細書部
分を「本件明細書」,図面部分を「本件図面」といい,その写しを別紙2
として添付する。)を複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行
為は,原告の有する本件手続補正書の著作権(複製権,翻案権)及び著作
者人格権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)を侵害すると主張して,
被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利
益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基
づき慰謝料100万円,合計300万円の損害賠償の支払を求める事案で
あ る。
2 前提事実(証拠等を掲記したもののほかは当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,昭和56年1月5日,特許庁長官に対し,考案の名称を「模様
入りおにぎり具」とする考案について実用新案登録出願(実願昭56−8
23。以下「本件出願」という。)をした。(甲6の1,3)
原告は,平成18年5月29日付けで,文化庁長官に対し,本件出願に
係る願書(甲6の1。以下「本件願書」という。)について,著作物の題
号を「模様入りごはん」,著作物の種類を「編集著作物」,著作物の内容
又は体様を「ごはんの上に型当て板をのせ,ふりかけ,桜でんぶ等の具で
ごはんに模様を入れる料理法の説明文,及び図面。」として,第一発行年
月日を「昭和56年1月5日」とする第一発行年月日登録を申請し,平成
18年7月5日付けで登録がされた。(甲7。以下「本件登録」という。)
イ 被告は,日用品雑貨の販売等を業とする株式会社であり,「ふりか け フ
レーム ポポロ」とい う名称の商品(以下「被告商品」という。)を 製
造販売している 。(乙1の1,2,乙2の1,2,弁論の全趣旨)
(2) 本件手続補正書作成の経緯等
原告は,昭和57年1月頃,本件願書に添付した明細書及び図面を補正す
る本件手続補正書(別紙2)を作成し,同月7日受付をもって特許庁長官に
提出した。
昭和57年7月12日,本件出願は公開された。
なお,本件出願は,請求期間内(平成5年法律第26号による改正前の実
用新案法10条の3により出願の日から4年以内)に出願審査の請求がなか
ったため,同期間の経過により取り下げたものとみなされた。
(甲6の1∼3,弁論の全趣旨)
(3) 被告商品と本件台紙等
被告商品は,ポリスチレン製の本体フレームとカバーから成る製品で
あり,これを使用して御飯の上に熊の顔の輪郭を形成でき,裏返して同
輪郭の「抜き型」としても使用することができる。
本件台紙等は,いずれも被告商品に添付するものとして平成20年頃
に被告が作成したものであり,本件台紙には,被告商品について使用上
の注意や手入れ方法等が,本件リーフレットには,使用方法やレシピ等
がそれぞれ記載されている。
本件台紙の裏面には被告説明1が,本件リーフレットの見開き部分に
は被告説明2∼5がそれぞれ掲載されている(各記載内容は,別紙1被
告説明目録1∼5のとおりである。)。
(乙1の1,2,乙2の1,2,弁論の全趣旨)
3 争点
(1) 本件手続補正書の著作物性
ア 編集著作物としての著作物性
イ 言語の著作物としての創作性
ウ 著作権法75条3項の推定
(2) 著作権(複製権,翻案権)侵害の成否
(3) 著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)侵害の成否
(4) 損害及びその額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件手続補正書の著作物性)について
(原告の主張)
ア 編集著作物としての著作物性
本件手続補正書は,「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,「具」,
「型当て板」の各素材を編集した編集著作物であり,その選択及び配列に
創作性が認められる。
すなわち,「ごはん」に「型当て板」を当て,「ふりかけ」をかけて「ご
はん」に模様を入れる料理法は,本件出願当時,どの料理雑誌にも載って
いない初めての料理法であり,当然同料理法の説明書もなかったものであ
る。したがって,その素材である「ごはん」,「ふりかけ」,「具」,「型
当て板」の取捨選択にも個性が表れているし,この料理を作る順序による
素材の配列にも個性,独自性が現れており,新しい料理法(思想)の説明
書(表現)は個性,独自性のある表現である。
イ 言語の著作物としての創作性
仮に本件手続補正書が編集著作物とは認められないとしても,本件手続
補正書のうち次の部分(被告により複製権又は翻案権が侵害された部分)
は,それぞれ原告の個性,独自性が創作的に表現されているから,言語の
著作物としての創作性が認められる。
(ア) 本件明細書の「3 考案の詳細な説明」の「例Ⅰ おにぎり(5’)
の上に型当て板(1)を当て上からふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり
等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板(1)をと
りのぞけばおにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出され
て美しいおにぎりとなっている。」とある部分(明細書3頁9行目から
14行目。以下「A部分」という。)
A部分は,原告が独自に考え思い付いたものを説明したものであって,
言語による表現で何らかの個性,独自性があり,他人の真似,模倣でな
いものが言語で表現されている創作的部分である。
(イ) 本件明細書の「4.図面の簡単な説明」の「1:型当て板」,「5:
ごはん」,「6:具」とある部分(明細書5頁。以下「B部分」という。)
B部分における用語の選択は,原告の考えによるもので,個性,独自
性がある。
(ウ) 本件図面のうち第5図∼第7図の部分(以下「C部分」という。)
第5図のごはんの上に型当て板を載せた用語の配列,第6図及び第7
図のおにぎりの上にふりかけの具による模様入りの配列図に原告の考え
による個性,独自性があり,創作的部分である。
ウ 著作権法75条3項の推定
著作権法75条3項には,「……著作物の著作者と推定する」とあると
ころ,本件願書は現に「著作物」として文化庁に登録(本件登録)されて
いるから,同項により著作物と推定される(仮に著作物として認められな
いのであれば,却下理由になるはずである。)。
原告は,本件手続補正書についても文化庁に登録を申請したところ,重
複登録であるとして登録を拒絶されたことから,本件手続補正書は本件願
書と実質的に同一の著作物といえる。
したがって,本件手続補正書は,本件願書と同様,同項により著作物と
推定される。
(被告の主張)
ア 編集著作物としての著作物性の主張に対し
編集著作物とは,「編集物(データベースに該当するものを除く。)で
その素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」(著作権法12条
1項)をいう。
そして,「編集」には,「一定の方針に従って資料を整理し,新聞・雑
誌・書物などにまとめること」(国語辞典「大辞泉」),あるいは「書物
(書籍や雑誌)・文章・映画,などの知的集積の制作過程の一部。すでに
ある程度出来上がっている素材を,取捨選択,構成,配置,関連づけ,調
整,などすること」(フリー百科事典「ウィキペディア」)との国語的意
味がある。
したがって,原告が著作物と主張する本件手続補正書が編集著作物であ
るといえるためには,その記載内容が「資料」(国語辞典「大辞泉」)又
は「すでにある程度出来上がっている素材」(フリー百科事典「ウィキペ
ディア」)を取捨選択又は配列したものであって,かつ,素材の選択又は
配列に個性の表れがあることを要する。
しかるところ,本件手続補正書は,「考案の詳細な説明」との見出し中
の「説明」との文言が端的に意味しているとおり,「模様入りおにぎり具」
の考案についての技術的内容を説明したものであって,何ら「資料」ある
いは「すでにある程度出来上がっている素材」を編集した(「整理してま
とめた」あるいは「取捨選択,構成,配置,関連づけ,調整した」)もの
ではないから,そもそも編集物に当たらない。
原告の主張は,著作権法12条1項所定の「素材の選択又は配列」が編
集方針に基づく「素材の選択又は配列」であるにもかかわらず,特定の技
術的思想の着想(アイデア)であると誤解又は曲解して,本件手続補正書
が編集著作物であると主張するものであって,主張自体失当である。
イ 言語の著作物としての創作性の主張に対し
(ア) A部分につき
A部分は,考案の技術的構成や作用効果等を記述したものであり,誰
がそれを記述しても同一の記述にならざるを得ないものであって自由度
がないから,創作的表現ではない。
(イ) B部分につき
B部分は,「1:型当て板」等の各単語を羅列したものであって,ひ
とつのまとまりのある文章ではない。したがって,当該記述は,「ひと
つのまとまりの文章」という言語の著作物の前提条件を欠いている。さ
らに,当該部分は,図面の簡単な説明であって,誰が記述しても同一の
記述とならざるを得ないものであり,自由度がないから,創作的表現で
はない。
なお,用語の選択は,ある記述が言語の著作物であることの要件では
ないから,用語の選択に個性,独自性があることは,上記記述が言語の
著作物としての創作性があることの根拠とはならない。原告の主張は,
言語の著作物における創作的表現と,編集著作物における創作的表現と
を混同した主張である。
(ウ) C部分につき
C部分は,そもそも図であって言語の著作物ではない。
また,第5図は実施例の側面透視図であり,第6図は模様入りおにぎ
りの正面図であり,第7図は模様入りおにぎりの側面図であって,第5
図∼第7図の各図は考案の技術的内容ないしは意義を説明したものであ
る。
したがって,誰が考案の技術的内容ないしは意義を図示しても同じ結
果とならざるを得ず,選択の余地はないから,第5図∼第7図の各図の
記載内容には著作物性がない。
ウ 著作権法75条3項の推定の主張に対し
著作権法75条3項は,実名登録がされているものが著作物である場合
に,実名の登録がされている者を当該著作物の著作者と推定することを定
めたにとどまり,実名登録がされている対象が当然に著作物であるとみな
しているわけでもないし,実名登録されている対象が著作物として推定さ
れる旨を規定しているものでもない。
そして,同法施行令23条は,実名の登録申請に係る対象が著作物では
ないことを実名の登録申請の却下事由として定めてはいない。したがって,
著作物として認められなければ却下理由になるとの原告の主張は,理由が
ない。
しかも,本件登録をもって登録されているのは,同法75条所定の実名
の登録ではなく,同法76条所定の第一発行年月日の登録であるから,こ
の点においても原告の主張は失当である。
(2) 争点(2)(著作権〔複製権,翻案権〕侵害の成否)について
(原告の主張)
被告は,次のとおり,本件手続補正書に依拠して,本件手続補正書と基本
的部分を同じくする本件台紙等を作成することによって,本件手続補正書を
複製,翻案しており,かかる被告の行為は,原告が有する本件手続補正書の
著作権(複製権,翻案権)を侵害する。
ア 複製権侵害
(ア) 素材(用語)の選択の同一
a 本件手続補正書(A部分,B部分)
「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」
b 被告説明1
「ご飯」,「具」,「ふりかけ」,「本体フレーム」
(イ) 作り方の順序の同一
a 本件手続補正書(A部分)
①おにぎりの上へ,②型当て板を当てる,③上から具をふりかけ,
④型当て板を取る,⑤おにぎりの上に模様が入っている,の順序
b 被告説明1
①ご飯の上へ,②本体フレームを乗せる,③○ ,○ (被告説明1の
a b
枠1)に具をふりかける,④本体,カバーを外す,⑤ご飯の上に模様
が入っている,の順序
(ウ) 素材(用語)の配列の同一
a 本件手続補正書(A部分)
①おにぎり,②型当て板,③具,④ふりかけ,⑤型当て板,⑥模様
入りおにぎり,の配列
b 被告説明1
①ご飯,②本体フレーム,③具,④ふりかけ,⑤本体,⑥模様入り
ご飯,の配列
(エ) 図面,写真による素材(用語)の配列の同一
a 本件手続補正書(C部分)
第5図(ごはんの上に型当て板),第6,7図(おにぎりの上にふ
りかけの具による模様)の配列
b 被告説明1の写真部分
被告説明1における枠1の写真(ご飯の上に本体フレーム) 枠2,
,
3の写真(ご飯の上にふりかけ具による模様)の配列
イ 翻案権侵害
本件台紙等の写真部分は,本件手続補正書の第5図∼第7図(C部分)
を,その表現形式を変えて再現したものである。
(被告の主張)
ア 原告が著作物であると主張する本件手続補正書における各記述は,創作
的表現でもなければ,編集著作物でもないから,そもそも原告の主張はそ
の前提を欠いている。
イ 原告が主張する「素材(用語)の選択」,「作り方の順序」,「素材(用
語)の配列」,「図面,写真による素材(用語)の配列」の同一性,本件
台紙等の写真部分が本件手続補正書の第5図∼第7図(C部分)の再現で
あることは,いずれも否認ないし争う。本件台紙等は本件手続補正書の複
製物でも翻案物でもない。
(3) 争点(3)(著作者人格権〔公表権,氏名表示権,同一性保持権〕侵害の成否)
について
(原告の主張)
ア 公表権侵害
本件台紙等は,本件手続補正書の複製物ないし翻案物であり,原告の有
する公表権を侵害する。
イ 氏名表示権侵害
本件台紙等においては,原告の氏名は何ら表示されておらず,原告の有
する氏名表示権を侵害する。
ウ 同一性保持権侵害
本件台紙等においては,本件手続補正書における「型当て板」の素材(用
語)を「本件フレーム」に変更し,素材の「ふりかけ」に「そぼろ」を加
え,図の表現形式を写真に変更するなど,無断で改変が加えられており,
原告の有する同一性保持権が侵害されている。
(被告の主張)
本件出願は,昭和57年7月12日に公開実用新案公報(甲6の3)をも
って公開されており,本件手続補正書は閲覧可能となっているから,その記
載内容は公表されている。したがって,本件台紙等が原告の有する本件手続
補正書の公表権を侵害するとの主張は失当である。
また,本件台紙等は,本件手続補正書の複製物でも翻案物でもないから,
本件台紙等が原告の有する氏名表示権,同一性保持権を侵害するとの主張も
理由がない。
(4) 争点(4)(損害及びその額)について
( 原告の主張)
ア 被告は,原告が有する本件手続補正書の著作権(複製権,翻案権)
を侵害することにより200万円の利益を上げているから,同額が原
告の損害額(逸失利益の額)と推定される(著作権法114条2 項 )。
イ 原告が本件手続補正書の著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一
性保持権)を侵害されたことで被った精神的苦痛に対する慰謝料とし
ては100万円が相当である。
( 被告の主張)
原告の主張はいずれも争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件手続補正書の著作物性)について
(1) 編集著作物としての著作物性
原告は,本件手続補正書は,「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,
「具」,「型当て板」の各素材を編集した編集著作物であり,その選択及び
配列に創作性が認められると主張する。
しかしながら,編集著作物とは,編集物でその素材の選択又は配列によっ
て創作性を有するもの(著作権法12条1項)をいうところ,本件手続補正
書は,本件願書に添付した明細書及び図面を補正するために作成されたもの
であって,「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」
の各用語も,本件明細書の本文中において,使用する器具又は具材を示すも
のとして通常の意味,方法で用いられているにすぎず,それ以上に,何らか
の編集方針に基づいて,上記各用語が編集の対象である素材として選択され
又は配列されているとは認められない。したがって,本件手続補正書は編集
著作物とは認められない。
原告は,「ごはん」に「型当て板」を当て,「ふりかけ」をかけて「ごは
ん」に模様を入れる料理法は,本件出願当時,どの料理雑誌にも載っていな
い初めての料理法であり,当然同料理法の説明書もなかったものであるから,
その素材である「ごはん」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」の取捨選
択にも個性が表れているし,この料理を作る順序による素材の配列にも個性,
独自性が現れているとして,新しい料理法(思想)の説明書(表現)は個性,
独自性のある表現であると主張する。
しかし,著作権法上の保護を受ける著作物とは,思想又は感情を創作的に
表現したものであって,アイデアや着想がそれ自体として著作権法の保護の
対象となるものではなく,この理は編集著作物においても同様である。これ
を本件についてみると,上記料理法は,御飯に模様を入れる料理法というア
イデアそのものであるから,それ自体は著作権法によって保護されるべき対
象とはならない。したがって,原告の上記主張は失当というほかない。
以上によれば,本件手続補正書に編集著作物としての著作物性を認めるこ
とはできない。
(2) 言語の著作物としての創作性
ア A部分につき
A部分は,本件明細書の「3 考案の詳細な説明」の「例Ⅰ おにぎり
(5’)の上に型当て板(1)を当て上からふりかけ,ごま,桜でんぶ,青
のり等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板(1)を
とりのぞけばおにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出され
て美しいおにぎりとなっている。」とある部分である。
原告は,A部分は,原告が独自に考え思い付いたものを説明したもので
あって,言語による表現で何らかの個性,独自性があり,他人の真似,模
倣でないものが言語で表現されている創作的部分である旨主張する。
しかし,A部分は,実施例についての記述であり,実施例に表れた技術
的思想や実施例に示された実施方法それ自体は,アイデアであって表現で
はないから,それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とならない
ことは上記(1)に説示したところと同様である。
そして,A部分の具体的表現も,①おにぎりの上に型当て板を当て,②
上から,ふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり等の粒状の具をくり抜き部に
埋め込んで,③型当て板を取り除くと,④おにぎりに花や動物等の絵,模
様や,字が描き出されて,⑤美しいおにぎりができあがるということを,
一般に使用されるありふれた用語で表現したものにすぎず,表現上の創作
性を認めることはできない。
したがって,A部分に言語の著作物としての創作性を認めることはでき
ない。
イ B部分につき
B部分は,本件明細書の「4.図面の簡単な説明」の「1:型当て板」,
「5:ごはん」,「6:具」とある部分である。
原告は,B部分における用語の選択は,原告の考えによるもので,個性,
独自性がある旨主張する。
しかし,B部分は,明細書中の図面の簡単な説明の部分であって,願書
に添付した図面に図示された符号の説明を記載したものにすぎず,その具
体的表現にも創作性を認めることはできない。
したがって,B部分に言語の著作物としての創作性を認めることはでき
ない。
ウ C部分につき
C部分は,本件図面のうち第5図∼第7図の部分である。
原告は,C部分について,第5図のごはんの上に型当て板を載せた用語
の配列,第6図及び第7図のおにぎりの上にふりかけの具による模様入り
の配列図に原告の考えによる個性,独自性があり,創作的部分である旨主
張する。
しかし,C部分のうち図自体は,言語若しくはそれに類する表現手段に
よる表現がなされているものではないから,そもそも言語の著作物には当
たらない。
また,C部分の図について美術又は図形としての著作物性をみても,第
5図は「模様を入れている側面透視図」,第6図は「模様入りおにぎりの
正面図」,第7図は「模様入りおにぎりの側面図」であって,いずれもお
にぎりの上に型当て板が載っている様子又はおにぎりの上に具が載ってい
る様子を正面ないし側面から極めてありふれた手法で図示したにすぎず,
何ら個性のある表現とはいえないから,創作性を認めることはできない。
C部分のうち,日本語で「第5図」,「第6図」及び「第7図」と記載
されている部分は,単に図の番号を記載したものにすぎず,創作性を認め
ることはできない。
エ 以上によれば,本件手続補正書のうち原告が言語の著作物として創作性
を主張するA部分∼C部分は,いずれも創作性を認めることはできず,著
作物であると認めることはできない。
(3) 著作権法75条3項の推定
原告は,本件手続補正書は,本件願書と実質的に同一の著作物であるとこ
ろ,本件願書は著作物として登録がされているから,著作権法75条3項に
より著作物と推定されると主張する。
しかし,本件願書について登録がされているのは,著作権法76条の登録
(第一発行年月日等の登録)であって,同法75条の登録(実名の登録)で
はない。
また,著作権法75条3項で推定されるのは当該登録に係る著作物の著作
者であること,同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日にお
いて最初の発行又は最初の公表があったことであって,登録に係る対象が著
作物性を有することが推定されるのではない。
原告は,著作物として認められないのであれば却下理由になるはずである
と主張するが,著作権に関する登録は,いわゆる形式審査により行われ,法
令の規定に従った方式により申請されているかなど却下事由に該当しないか
どうかを審査するものである(同法施行令23条参照)から,著作権に関す
る登録により著作物性を有することについて事実上の推定が及ぶと解するこ
ともできない。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。そして,
本件手続補正書に編集著作物としての著作物性を認めることはできず,また,
原告が言語の著作物として創作性を主張するA部分∼C部分についても著作
物性を認めることができないことは,前示のとおりである。
2 結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく
いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決
す る。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡 本 岳
裁判官
鈴 木 和 典
裁判官
寺 田 利 彦
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