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平成18(ワ)17244著作権確認請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所
裁判年月日 平成22年12月22日
事件種別 民事
当事者 被告
原告株式会社グローバルヘルスコンサルティン
法令 著作権
著作権法15条2項13回
民法109条3回
民事訴訟法61条1回
キーワード ライセンス7回
許諾3回
実施2回
損害賠償1回
主文 1 原告が,別紙著作物目録記載2,3及び4の各プログラムについて,著作権を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。
事件の概要 本件は,医療に関するコンサルティング業務等を行う会社である原告が,原 告の取締役であった被告が取締役就任前後に作成した,診療報酬に関するDP C(Diagnosis Procedure Combination,診 断群分類別包括評価)制度の下でコンサルティング業務を行うために用いられ るDPC分析プログラムである別紙著作物目録記載1ないし4の各プログラム (以下,これらの各プログラムを,それぞれその名称に従い 「DAVE04, 2 「DAVE−Pro 「DAVE−DRUG」及び「DAVE−CP」と」, 」, いい,これらのプログラムを総称して「本件各プログラム」という )につい。 て,本件各プログラムが著作権法15条2項所定の職務著作に該当するなどと 主張して,被告に対し,原告が本件各プログラムについて著作権を有すること の確認を求める事案である。

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判決文

平成22年12月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成18年(ワ)第17244号 著作権確認請求事件
口頭弁論終結日 平成22年9月27日
判 決
東京都渋谷区〈以下略〉
原 告 株式会社グローバルヘルスコンサルティン
グ・ジャパン
同訴訟代理人弁護士 鳥 海 哲 郎
同 藤 原 道 子
同 大 江 修 子
同 井 坂 和 香 子
同訴訟復代理人弁護士 谷 口 達 哉
東京都大田区〈以下略〉
被 告 A
同訴訟代理人弁護士 早 川 学
同 古 谷 誠
同 佐 々 木 奏
主 文
1 原告が,別紙著作物目録記載2,3及び4の各プログラムについて,著作権
を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
原告が,別紙著作物目録記載1ないし4の各プログラムについて,著作権を
有することを確認する。
第2 事案の概要
本件は,医療に関するコンサルティング業務等を行う会社である原告が,原
告の取締役であった被告が取締役就任前後に作成した,診療報酬に関するDP
C(Diagnosis Procedure Combination,診
断群分類別包括評価)制度の下でコンサルティング業務を行うために用いられ
るDPC分析プログラムである別紙著作物目録記載1ないし4の各プログラム
(以下,これらの各プログラムを,それぞれその名称に従い ,「DAVE04
2 」 「DAVE−Pro 」 「DAVE−DRUG」及び「DAVE−CP」と
, ,
いい,これらのプログラムを総称して「本件各プログラム」という 。)につい
て,本件各プログラムが著作権法15条2項所定の職務著作に該当するなどと
主張して,被告に対し,原告が本件各プログラムについて著作権を有すること
の確認を求める事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する 。)
(1) 当事者等
ア 原告
原告は,平成16年3月30日,医療に関するコンサルティング業務,
医療に関する情報処理及び情報提供サービス業務等の医療経営コンサルテ
ィングを目的とする有限会社として設立され,平成19年5月15日,会
社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87
号)45条により現在の商号に変更して株式会社に移行した(弁論の全趣
旨)。
イ 被告
被告は,平成17年8月16日から平成18年3月31日までの間,原
告の取締役であった者である(ただし,取締役就任登記がされたのは平成
17年10月17日である 。 。なお,被告は,原告の取締役となる前の同

年8月15日まで,株式会社NTTデータ(以下「NTTデータ」という。
)に勤務していた。
ウ B
Bは,原告の設立当初から原告の取締役に就任した者であり,その後,
原告の取締役を退任し,平成18年4月14日付けで取締役の辞任登記が
された。
(2) DPC(診断群分類別包括評価)制度の概要
ア 日本における診療報酬制度の改正
平成15年4月,診療報酬制度が改正され,DPC(診断群分類別包括
評価)制度と呼ばれる新しい診療報酬制度が導入された。
それまで長らくの間,日本においては,診療報酬について出来高払い制
度が採用されてきた。これは,診療行為,投薬行為等を多くすれば報酬が
上がる制度であり,無駄を生じさせる可能性のある制度であるという指摘
もあった。
そこで,平成15年4月,診断群分類(疾病の分類)ごとに,DPCコ
ードと呼ばれる14桁で構成される診断群分類番号を振り,DPCコード
(診断群分類番号)ごとに入院治療費の1日当たりの金額を定額と定める
制度が導入されることになった。これがDPC制度である。
イ DPCコード(診断群分類番号)
DPC制度の下では,すべての症例は,疾病名,年齢,意識障害レベル,
手術,処置の有無等の要素の組合せにより分類(分類区分数は平成19年
5月現在で2347区分)され,分類区分に従って,14桁で構成される
DPCコード(診断群分類番号)が割り振られた上,各コードに点数が定
められており,その点数に応じて入院1日当たりの定額報酬が決定される
仕組みとなっている。
ウ DPCコーディング(診断群分類番号の決定)の情報源
DPCコーディング(診断群分類番号の決定)のためには,患者の診療
等に関する情報が必要となるが,その情報は,病院から厚生労働省に提供
される資料,情報を基に行おうとする場合,様式1,Eファイル及びFフ
ァイルと呼ばれる資料(以下,この3種類の資料から取得される患者の診
療等に関する情報を併せて「DPCデータ」という 。)から取得されるこ
とになる。様式1,Eファイル及びFファイルは,厚生労働省が毎年度ご
とに指定するフォーマットに従って記入又は入力されるものであり,様式
1には,カルテ情報(入退院情報,診断情報,手術情報等)が記載され,
Eファイル(診療明細情報)及びFファイル(行為明細情報)には,いわ
ゆるレセプト情報(いつ,どのような診療行為を行ったか)が記載される。
Fファイルは,Eファイルを詳細化したものである。
なお,患者の診療等に関する情報を保有する病院自身がDPCコーディ
ングを行おうとする場合,様式1,Eファイル及びFファイルを用いなく
ても,自ら保有する患者の診療等に関する情報を基にDPCコーディング
を行うことは可能である。
エ DPC制度の下における医療経営コンサルティング
このようなDPC制度が,出来高制に代わって導入されたことにより,
DPC制度を導入した病院では,定額報酬に見合った出費に抑えるように,
コスト削減の意識が高まることになり,これに伴い,医療経営コンサルテ
ィングの必要性も認識されるようになった。
ただし,DPC制度の下においても,すべての診療行為の報酬が定額
( 包括払い」と呼ばれる 。
「 )になるのではなく,包括払いの対象は,入院
基本料,検査の一部,画像の一部,投薬,注射等であり,それ以外の診療
行為は,依然として,出来高払いの対象であった。そこで,コンサルティ
ングの主眼は,包括払い部分での無駄な支出を減らし,出来高払い部分で
の報酬を効率的に増加させるという点に置かれることになる。他方で,コ
ストを削減させるだけではなく,医療の質を維持・向上させなければなら
ないという要請もある。
この点,何が無駄な診療行為であるか,質の高い医療とはどのようなも
のであるかを知るためには,他病院との比較分析が有益となってくる。そ
こで,医療経営コンサルティングにおいても,ベンチマーク分析の手法
(ここでは,一定の指標を設定し,その指標に基づき比較分析する手法を
いう 。)により,自病院内の他の医師の診療行為との比較分析だけでなく ,
他病院における診療行為との比較分析を行い,他との比較における自らの
位置付けを知り,その結果を基に医療経営の改善を進めるという手法が提
供されることになった。
オ 本件各プログラムの概要
このようなDPC制度を踏まえた医療経営コンサルティング業務を行う
ためのツールとして開発されたのが本件各プログラムである。すなわち,
後記(3)のとおり,本件各プログラムは,病院から提供されるDPCデー
タ(様式1,Eファイル及びFファイル)に記録された患者の診療等に関
する情報を取り込んで,各患者の情報をDPCコードに置換して表示する
機能等を有するものである。
(3) 本件各プログラムについて
本件各プログラムは,後記アの目的のために作成された,DPC分析プロ
グラムである。そして,後記イのとおり,本件各プログラムは,いずれも特
徴的機能を有するプログラムの著作物であり,DAVE−Pro,DAVE
−DRUG及びDAVE−CPは,DAVE042を原著作物とする二次的
著作物である。また,後記ウのとおり,本件各プログラムは,いずれも原告
の発意に基づき,被告が作成したものである。
ア 本件各プログラムの目的
本件各プログラムは,前記(2)のとおり,DPC制度の下において,各
病院から提供されるDPCデータに基づき,DPCコーディングと診療報
酬の収入計算を行った上,各病院の診断群分類別(DPC別)の医療の質
(例えば死亡率や再入院率 ),経営効率(月ごと年度ごとの時系列変化,
症例数や収入が多い疾病群リスト,診療報酬制度がDPC導入以前の出来
高払いのときと比較した収入の増減,在院日数,請求項目別医療資源の使
用状況,各症例別の治療内容等)を分析し,また,他病院のDPCデータ
のデータベースを利用して行う他病院との比較によって自病院のポジショ
ン,問題点を分析し,さらに,このような問題点の解決方法を探索するた
めのシミュレーションを行うことを目的とするプログラムである。
イ 本件各プログラムの著作物性及び本件各プログラム相互の関係
本件各プログラムは,それぞれ,前記アの目的のため,次のような特徴
的機能を有するDPC分析プログラムであり,創作性のあるプログラムの
著作物である。そして,DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDA
VE−CPは,DAVE042を原著作物とする二次的著作物である。
(ア) DAVE042
DAVE042は,①DPCデータを基にして,DPCコーディング
や収入計算を行う機能,②コーディングされたDPCデータを利用して
自病院を分析するための機能,③他病院との比較による自病院の問題点
を分析するための機能,④症例内容を踏まえて分析するための機能,⑤
DPCコーディングの正確性をチェックするための機能を有する。
(イ) DAVE−Pro
DAVE−Proは,DAVE042をバージョンアップし,薬効分
類別に薬剤の使用状況を一覧表示する機能,対象となる疾病について対
象病院における診療行為(投薬,注射,処置,検査,画像等)が標準化
されているか否か(クリティカルパスの遵守レベル)を把握する機能を
付加したものである。
(ウ) DAVE−DRUG及びDAVE−CP
DAVE−DRUG及びDAVE−CPは,DAVE042になかっ
た後記の機能を実現するプログラムであり,DAVE042(あるいは
その後継版としてのDAVE−Pro)のコーディング・収入計算の結
果としてのデータベースを利用することに関連してDAVE042のプ
ログラムの一部を利用するものである。
すなわち,DAVE−DRUGは,薬剤変更シミュレーション機能
(①適正使用,②薬剤の標準化,③注射薬から経口薬への変更,④ジェ
ネリックへの変更という4つの方式のうち薬剤特性に応じた方式を使用
して,薬剤費のコスト削減金額を自動計算する機能)を実現するプログ
ラムである。
また,DAVE−CPは,診療行為の内容をシミュレーションする機
能,シミュレーションした結果の診療行為に,診療報酬として請求でき
ないが実際の看護の現場では重要な行為等を加えて,クリティカルパス
(診療・看護計画)として決定し,アウトプットできる機能を実現する
プログラムである。
ウ 本件各プログラムの作成者等
本件各プログラムは,原告の依頼又は発意に基づき,被告が作成したも
のである。すなわち,DAVE042は,原告の依頼に基づき,被告がN
TTデータに勤務していた当時に作成したものであり,DAVE042を
原著作物とする二次的著作物であるDAVE−Pro,DAVE−DRU
G及びDAVE−CPは,原告の発意に基づき,原告の取締役として原告
の業務に従事する被告がその職務上作成したものである。
そして,DAVE042は,平成16年4月から平成17年7月にかけ
て開発されたプログラムであり,DAVE−Proは,平成17年9月こ
ろから平成18年1月ころにかけて開発されたプログラムであり,DAV
E−DRUGは,平成17年10月から同年11月にかけて開発されたプ
ログラムであり,DAVE−CPは,平成17年8月ころから同年12月
ころにかけて開発されたプログラムである(甲6の2及び3 )。
(4) 被告の取締役辞任に伴う原告,被告間の知的財産権の取扱いに関する合意
原告と被告は,平成18年4月12日,被告の取締役辞任に伴う事後処理
について,それぞれの代理人を通じて,合意書を取り交わしたが,その中で,
本件各プログラムの知的財産権の取扱いについて,①平成18年3月30日
の被告から原告に対するソースコード等の送付が前記知的財産権の譲渡又は
その実施/使用/利用の許諾を意味するものでないこと,②前記知的財産権
の帰属及びこれに関連する事項については,当事者間に争いがあることを確
認し,今後の原告,被告間の協議又は裁判手続により解決することを相互に
確認した(甲16 )。
本件訴えは,前記合意書の確認事項に従い,原告が本件各プログラムの著
作権が原告に帰属することの確認を求めて提起したものである。
2 争点(原告が本件各プログラムの著作権を有するか否か)
(1) DAVE042について
ア 被告が原告の「業務に従事する者 」(著作権法15条2項)に該当する
か否か。
イ 原告と被告の間で著作権譲渡の合意が成立したか否か。
ウ 原告と被告との間に「別段の定め 」(著作権法15条2項)があるか否
か。
(2) DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−CPについて
原告と被告との間に「別段の定め 」(著作権法15条2項)があるか否か 。
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)ア(DAVE042について被告が原告の「業務に従事する者 」(著
作権法15条2項)に該当するか否か)について
(原告の主張)
被告は,DAVE042が開発された当時,NTTデータに勤務しており,
形式的には原告の被雇用者ではなかったが,次のとおり,被告に対する指揮監
督の状況,業務態様,作業環境,被告への対価の支払状況,被告の社内待遇,
原告被告間の契約内容及び被告の言動という原告と被告との関係を実質的にみ
れば,原告の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,原告の
「業務に従事する者」に該当する。
(1) 被告に対する指揮監督の状況
ア 被告がDAVE042を単独で作成することは不可能であり,原告の逐
次,個別かつ具体的な指示が予定されたものであったこと
DAVE042は,DPC制度の下で有効な医療経営分析,コンサルテ
ィング業務を行う際の分析ツールとして,原告が開発を発意したものであ
る。
そもそも,このような分析とコンサルティングは,DPC制度の下にお
ける各病院の報酬額を知るところから始まる。したがって,DAVE04
2には,正確で間違いのない収入計算ができること,その前提として,各
病院から提出されるDPCデータに基づき,正確なDPCコーディングが
できること,加算,減算の処理及び包括払い部分と出来高払い部分の区別
といった処理が正確に行えることが必要不可欠な機能として求められる。
このような機能を実現するためには,当然ながら,DPC制度について
の知識が必要となる。
特に,DAVE042の開発当時,DPCコーディングのために公表さ
れていた資料は,DAVE042のようなDPC分析プログラムを開発す
るには不十分な内容であったため,DAVE042のDPCコーディング
機能を実現するためには,独自にDPCコーディングロジック(診断群分
類番号決定の理論及び方法)を確立する必要があった。すなわち,当時,
DAVE042のようなDPC分析プログラムを開発するためには,まず
試作レベルのたたき台のプログラムを作った後,病院から受領したDPC
データを実際に使用して動かし,動作を見ながら不備を発見して,修正し
ていくほかなかった。そして,このような実際に動かす中での不備の発見
は,DPCに関する広範な知識や経験なくしてできることではなかった。
しかしながら,被告は,DAVE042の開発当時,DPCに関しては全
くの素人であった。
したがって,DAVE042は,そのプログラムとしての目的及び特徴
からして,本質的に,そもそも,原告とプログラム作成者である被告との
共同作業なくして完成できないものであった。すなわち,DAVE042
の開発においては,原告が,被告に対し,DPCの基礎知識から具体的な
コーディングロジックまで,適宜,情報提供し,指示することが必要不可
欠であった。被告が原告の情報提供や指示に基づいてプログラムを作成し,
原告がその不備を発見して被告への指示を行い,被告がそれに基づいてプ
ログラムを修正するという繰り返しがなければ,DAVE042は,プロ
グラムとして完成し得ないものであった。
このように,原告と被告との関係は,委託者の一定の依頼事項の実現の
ため,受託者がその能力と判断に基づいて一定期間内に成果物を作成する
という,通常の委託又は請負とはその内実が全く異なり,DAVE042
開発当初から,原告の開発チームにおいて,継続的にDPCのコーディン
グロジックを検討の上,これに基づき,原告が,被告に対して,逐次,個
別かつ具体的な指示を与え,DAVE042のプログラムを完成させてい
くことが予定されたものであった。
イ 実際にも,DAVE042は,原告の被告に対する逐次,個別かつ具体
的な説明,指示に基づいて開発されていること
DAVE042の開発においては,平成16年5月1日ころ,前記アの
たたき台のプログラムとして,DAVE042の初期版が被告により作成
された。しかし,前記アのとおり,被告は,DPCに関する十分な知識,
知見を有しておらず,この初期版を原告の指揮監督なしに作成することは
できなかったものである。DAVE042の完成は,Bが被告に対しDP
Cの基本的知識からDAVE042の具体的構成に至るまでの指揮監督を
行ったことにより実現されたものである。
しかし,この初期版は,当初想定されたとおり試作レベルのたたき台の
プログラムであって,DPC分析プログラムとして使えるレベルにはなか
った。
実際,初期版は,コーディングや収入計算というDPC分析プログラム
としての根幹機能において,誤りや不十分な点が多く,利用できるもので
はなかった。このような誤りや不十分さの生じた原因は大きく分けて2つ
あった。1つは,当時厚生労働省が発表していたDPCに関する資料を被
告が理解できず,あるいは,誤って理解していたため,誤ったコーディン
グロジックを使用したこと,もう1つは,当時厚生労働省が発表していた
DPCに関する資料に不明確な点があり,これをコーディングロジックと
してプログラムに落とし込むだけではうまく機能しなかったことである。
そのため,Bは,被告に対して,たたき台のプログラムとしてDAVE
042の初期版が作成された後も,継続的にプログラムの修正,訂正,追
加業務の指示を与え,被告も,それに従ってプログラム作成作業を進め,
その都度,Bに対して作業報告を行っていた。
このようにして,DAVE042は,平成17年7月に完成した。
(2) 対価の支払状況
原告は,被告に対し,被告が原告に平成17年8月に取締役として入社す
る前においても,他の原告従業員に対するのと同様に,給料支払日である毎
月25日に,次のとおり定額の対価を支払っていた(甲179,180,乙
10の1ないし3 )。
・平成16年6月まで 合計50万円(支払時期不明)
・同年7月∼同年11月 各20万円(ただし10月と11月は35万円に
増額)
10月及び11月の増額は,被告の作業時間(労働時間)が想定より長
くなったため,それに応じて増額したものである。
・同年12月 100万円
原告の決算月で利益が予想されたため,他の原告従業員と同様に,被告
への給与の支払に賞与を加えることとしたものである。
・平成17年1月∼同年3月 各50万円(ただし3月は60万円)
・同年4月∼同年7月 各40万円(ただし,4月は140万円,6月は9
0万円)
4月に給与に加えて100万円が支払われているのは,平成17年1月
から同年3月の被告の作業量が当初の予想を超えて多くなったこと,また,
このころには,被告がアルバイト社員というよりも原告の正社員と同程度
に原告の業務に従事していたことから,原告において,給与に賞与的金額
を加えて支払うこととしたものである。
これらの対価は,原告の経理上も,被告の税務申告上も,アルバイト代
(給与所得,雑給)として処理され,原告の所得税源泉徴収簿兼賃金台帳に
も社員コードが付されていた(甲179,180 )。そして,平成16年分
の「給与所得の源泉徴収票」には,種別として「給与・賞与」と記載され,
源泉徴収税として48万3000円が控除されていた(甲17 )。
さらに,原告被告間の業務委託契約書(その形態,内容が他のアルバイト
社員と同様であることは,後記(3)のとおりである 。)においては,DAVE
042の開発に係る経費は,すべて原告が負担し,被告に実費精算されるこ
とになっていた。
(3) 業務態様及び作業環境
被告は,自宅でプログラミングを行っていたが,原告では,以前から,各
従業員が自宅で作業し,原則として,相互の連絡は電子メールや電話で行い,
原告のオフィスは会議の場としてのみ使うという,ホームオフィス制を導入
していた。そして,被告の勤務場所等の勤務形態は,被告がNTTデータを
退職したという点を除いて,原告への入社前後で何ら変わりはない。
また,原告は,被告と同じころに原告に在籍していた者のうち,原告から
指揮監督を受けるアルバイトを経て正社員となった者との間でも,被告と同
様に ,「業務委託契約書」と題する契約書を作成しており(甲177,17
8),その内容も,被告のそれとほとんど同じであった。また,その雇用形
態も,アルバイト期間中は原告のオフィスの鍵は渡されないこと,作業場所
及び作業時間が自由であったこと,給料が月払いとされていたことなど被告
と酷似していた。
(4) 社内待遇
被告は,平成17年8月16日に原告の取締役に就任したが,それ以前か
ら,原告に入社することを前提として,①被告は,同年1月ころには,原告
のクライアント病院に,自身を原告のスタッフとして自己紹介しており,同
年3月から6月にかけては,自ら「グローバルヘルスコンサルティングジャ
パンのA」と名乗っていた,②原告は,同年5月に,役職員のスケジュール
を管理するためのシステムを導入したが,その当初から,被告を同システム
のメンバーグループに加えていた,③被告は,同年5月,原告の人事採用面
接に同席していた,④原告は,同年6月から,被告に原告のファイルサーバ
ーの使用を開始させ,被告は,原告の機密が格納されているサーバーに自宅
からでも自由にアクセスできるようになった,⑤原告は,同年7月から,原
告のドメインによるメールアカウントの使用を被告に許可したなど,原告従
業員と同等の扱いを受け,被告自身も,それを当然のこととして受け入れて
いた 。(甲119ないし122,124ないし126,128ないし132

(5) 原告被告間の契約内容
原告被告間で締結された契約は,業務委託関係では到底考え難いものであ
った。すなわち,通常のソフト開発業務委託契約書であれば当然規定される
開発期間,納品すべき成果物,成果物の納品時期,検収に関する事項,瑕疵
担保責任,著作権の帰属に関する事項が一切記載されていない。
さらに,ある会社が外部委託先に対してソフトウェアの開発を委託する場
合,通常,要件定義とこれを前提とした見積もりの確認をし,これらは,必
ず書面として明文化された上で,委託者と受託者が保管しているものである。
これらの常識の履行は,個人の受託者にとって,自らを守るという観点から
特に重要な意味を持つものであり,一般的に,個人の外部受託者が要件定義
や見積りを明確化した書面なくして,ソフトウェアの開発作業に着手するこ
とはあり得ない。そして,DAVE042の開発に加わる前から長年にわた
りITコンサルティング業務に携わってきた被告が,このような常識を知ら
なかったということはあり得ない。
それにもかかわらず,被告がDAVE042の開発作業に着手するに当た
り,委託契約において通常行われるべき要件定義も見積りもされていない。
その代わりに,開発作業の過程では,被告とBを始めとする原告のDAVE
開発に関わるメンバーとが密接なやりとりを行い,難解なDPCデータを解
釈しながら分析手法や表現方法をその都度設計し,試行錯誤し,コーディン
グロジックの修正,開発を繰り返しながら,原告の発案に係る機能を実現,
具体化して,DAVE042を作り上げていったのである。これは,当時,
DAVE042が原告のコンサルティング業務を行う上で社内用分析システ
ムとして開発が急務であったところ,原告にとってすべてが初体験で,その
ためシステムの完成形をほとんどイメージできていない状況で試行錯誤を前
提として開発を開始したという背景に起因する。
このような背景を前提として,原告被告間で締結された各「業務委託契約
書」上 ,「業務内容」は ,「DPC分析に関する業務支援 」 「その他乙のコン

サルティング業務に必要な作業」とされ,その詳細として,仕様書には,
「1.DPC分析システム及びベンチマーク分析に関する業務 (1)システ
ムコンサルティング業務 (2)システム開発業務 (3)システム運用,サポー
ト」等と記載され,被告には,DAVE042の開発作業に限らず,原告の
コンサルタント業務に必要なIT技術関連全般につき,その技術力,能力及
び労力が提供されることが期待されていた。実際にも,被告の業務内容は,
当初からIT技術関連の多岐にわたっていた。
このような実態の下で,被告がソフトウェアの委託開発において必須とさ
れている見積りも要件定義も原告に提示せずにDAVE042の開発作業を
進めたことは,被告自身が,原告従業員と共に,また原告従業員と同様の開
発チームの一員として,原告におけるDAVE042の開発において,自ら
の技術力と労務を提供すると認識していたことを強く推認させるものである。
このような実態と被告の認識の下に進められたDAVE042の開発作業
は,委託開発とはいえず,被告は,原告の一員としてDAVE042の開発
作業を遂行したものといえる。
(6) 被告の言動
被告は,DAVE042の著作権が原告にあることを認めるような言動を
したり,原告がDAVE042の開発者であるとした紹介記事についてその
存在を知りながら不服を述べなかったり,本件紛争に至るまでの間,被告が
本件各プログラムの著作権者であるとの主張を行わないなど,DAVE04
2の著作権が被告にあるという本件訴訟における主張と反する言動をしてい
る(甲4,11ないし13,135,143 )。
(被告の主張)
次のとおり,被告は,原告の「業務に従事する者」に該当するとはいえない。
(1) 業務態様
ア 個人的な友人関係が基礎となった特殊性
被告がDAVE042の開発を行ったのは,被告がNTTデータに勤務
していた当時の同僚で,友人でもあったBから依頼を受けたことによる。
被告は,Bの依頼に対して,あくまでもBの友人として,Bのビジネスが
成功することに協力すること,著作権等の成果を原告に譲渡することなく,
被告が有することを基本的なスタンスとして,Bからの依頼を受けること
にしたものである。このようなBと被告の友人関係が基礎となっているこ
とは,原告代表者も十分に承知していた(乙7ないし9 )。
このような背景からして,本件において,当初の段階から,Bが被告を
指揮監督するなどということは,全く想定されていなかった。
イ 原告被告間における「業務委託契約書」の存在
(ア) 契約書のタイトルと記載内容
DAVE042は,平成16年5月2日までにいったん完成したが
(原告の主張するところの「初期版 」 ,この期間におけるDAVE04

2の開発については,原告と被告との間で契約書は作成されなかった
(乙19 )。
その後,原告と被告との間で契約書(乙10の1∼3,甲36)が作
成されるようになったが,そのタイトルは,いずれも「業務委託契約書
」とされており,雇用契約書とはされていなかった。それだけでなく,
契約書に記載された内容も ,「システム開発業務」と明記されるなど,
業務委託に相応した内容であり,労務の提供を目的とする雇用契約書に
通常記載される内容とは全く異なっている。
(イ) 契約書の作成経過
原告被告間の業務委託契約書は,原告代表者からBに対して参考とな
る実例が電子メールで送信されたことを踏まえて作成されたものである。
しかも,原告代表者は,Bとの電子メールのやりとりにおいて,被告と
締結する契約がソフトウェア開発を目的とするものであると考えていた
(乙15 )。
(ウ) アルバイトとの業務委託契約書は参考にされていないこと
原告は,雇用契約であるアルバイト社員との間でも「業務委託契約書
」と題する契約書を作成していたと主張するが,被告は,当時,原告に
おいてアルバイト社員との間でどのような契約を締結しているか全く知
らなかったのであるから,そのような事実から,被告の当時の意思を斟
酌することはできない。しかも,原告代表者が,被告をそれらのアルバ
イト社員と同様に考えていたのであれば,それらのアルバイト社員との
間で作成した業務委託契約書を参考実例とすることができたはずである。
それにもかかわらず,原告代表者は,それらを参考実例とせず,ソフト
ウェア開発の雛形の参考として,開発の続きを実施してもらうときの契
約書を参考実例としたのである。このことは,原告代表者が被告をアル
バイト社員とは異なる立場であると認識し,あるいは,ソフトウェア開
発を委託する相手であると認識していたことを示している。なお,アル
バイト社員との間で作成した業務委託契約書と被告との間で作成した業
務委託契約書を比較すれば自明であるが,契約書において最も肝心な内
容である「業務内容」は,全く異なるものとなっている。
ウ 原告被告間における契約内容の実質
原告被告間で締結した契約の内容,目的は,DPC分析プログラムの開
発等(業務委託)であって,原告のアルバイト社員になって労務を提供す
ること(雇用)ではなかった。原告から被告に支払われる対価も,ソフト
ウェアの開発等に対する対価であって,労務提供に対する対価ではない
(乙14,15,19 )。
エ 被告は原告の外部者と位置付けられていたこと
被告は,原告内部のアルバイト社員とは位置付けられておらず,原告も,
このことを対外的にも対内的にも認めていた。例えば,被告は,原告が対
外的に提出した平成17年5月15日作成の原告の組織図(乙16)にお
いて,原告のサーバーのホスティングを行っている会社等と並んで ,「主
な外部委託先」として位置付けられていた。このほか,被告は,①Bの過
度な配慮,②原告代表者やCとの関係の希薄さ,③原告の社員に送付され
た電子メールの不送付,④原告のオフィスの使用許可の不存在(鍵の不受
領),⑤原告の電子メールアドレスの不設定,⑥被告個人のパソコンの利
用,⑦ボーナスの不支給,⑧対価の額を巡る係争的な交渉などの点におい
て,原告のアルバイト社員とは全く異なっていた。
オ 業務の行われた場所など
DAVE042の開発が行われた場所は,被告の自宅であった。DAV
E042の開発に利用された機器は,平成16年4月の開発当初は,パソ
コン,プリンター等の被告が個人で所有する機器のみであった。その後,
平成16年5月にDAVE042が完成した後は,原告が購入したサーバ
ーもDAVE042の開発に利用されるようになったが,当該サーバーが
置かれた場所も被告の自宅であった。Bの自宅にも,被告の自宅に置かれ
たサーバーとは別に,もう1台,DAVE042が記録されるサーバーが
置かれていたが,これらの2台のサーバーは,いずれも被告が管理し,被
告以外の者は,DAVE042に係わる部分にアクセスできなかった。
カ 原告から被告にソースコードの開示要請がなかったこと
DAVE042は,平成16年5月2日までに完成された後,平成17
年7月ころまで,随時,機能の追加等の変更が行われたが,その間,原告
から被告にDAVE042のソースコードの提出の求めは,一切なかった。
原告が被告にDAVE042のソースコードの提出を初めて求めたのは,
Bと被告が原告を退職することを表明し,原告と被告とが係争関係になっ
た後の平成18年3月以降にすぎない。
(2) 指揮監督の有無
ア 原告の被告に対する時間的場所的管理がなかったこと
被告は,原告から,DAVE042の開発に関して,開発場所や開発時
間についての指図は全く受けておらず,好きな場所で空いた時間にプログ
ラムの開発作業を行っていた。被告は,原告から,タイムカード,勤務簿
等による時間管理を一切受けていないことはもとより,開発に要した時間
数について報告も求めておらず,原告に報告することもしていない。また,
開発場所についても,何らの制限も課されていなかった。
イ DAVE042のプログラミングに関する指示がなかったこと
被告は,DAVE042の開発に先立ち,原告から概括的に原告の希望
する機能やDPC制度やコンサルティング手法,分析手法に関する説明は
受けたものの,DAVE042のプログラミングに関する具体的な指図は
一切受けていない。
そもそも,DAVE042に関して,PHPというプログラミング言語
で書くことを決めたのは被告であり,被告は,プログラミング言語の選択
に関して,原告に事前の相談をしておらず,事後に報告したにすぎない。
平成16年5月2日にDAVE042が完成した後は,原告から被告に
仕様の変更やバグの修正の依頼がされたが,これらの依頼も,DAVE0
42のプログラミングについての具体的な指図ではなかった。原告には,
当時,DAVE042のプログラミングを指揮監督できる能力を有する者
はおらず,プログラミングの点において原告が被告を指揮監督することは,
そもそも不可能であった。
ウ 原告は被告に強く出ることのできる立場にはなかったこと
被告と原告との関係は,被告とBとの個人的な友人関係に基礎を置くも
のにすぎず,被告は,原告からの業務委託費の支払に経済的に全く依存し
ていなかったから,両者の関係は,雇用関係で典型的に想定されるような
使用者が強く,業務従事者が弱いという関係には全くなかった。むしろ,
被告の方が強く,原告が被告に依存しているような関係にあり,およそ原
告が被告に対して指揮監督するという関係にはなかった。
エ 被告はNTTデータの正社員としての指揮監督を受けていたこと
被告は,DAVE042の開発を行っていた期間,NTTデータの正社
員として勤務し,その指揮監督を受ける立場にあり,その勤務に支障が生
じないように,空いた時間を利用してDAVE042の開発を行っていた
にすぎず,原告から指揮監督を受けることはおよそ不可能であった。
(3) 対価の額,支払方法等
ア 対価の額は時期により大きく増減していること
被告が原告からDAVE042の開発に関連して支払を受けた対価は,
次のとおりである。
・平成16年6月まで 50万円(支払時期不明)
・同年7月∼同年11月 各20万円(なお10月及び11月は35万円
に増額されている 。)
・同年12月 100万円
・平成17年1月∼同年3月 各50万円(なお,3月は,日当として別
途10万円受領している 。)
・同年4月∼同年8月 各40万円(なお,8月は,同月に原告の取締役
に就任したため,半額の20万円であった。また,
別途合計115万円の追加報酬も受領している。

このように,対価の額は,時期により大きく変動(増減)している。
イ 対価の対象はシステム開発等であり労務提供ではないこと
被告が原告から受領した対価は,①DAVE042(DPC分析プログ
ラム)の開発業務,②システムコンサルティング業務,③システム運用サ
ポート業務に対する対価であって,単なる労務提供に対する対価ではない。
(ア) 最初の50万円
最初の50万円の支払が,被告がDAVE042を開発したことに対
する対価であることは,Bと原告代表者との電子メールのやりとりやB
と被告との電子メールのやりとりから,明らかである(乙15,19 )。
(イ) その後の支払
次に,最初の50万円の支払後の支払が,①DAVE042の開発業
務,②システムコンサルティング業務,③システム運用サポート業務に
対する対価であり,被告の原告に対する労務提供の対価でないことは,
「業務委託契約書」とその別紙の「業務委託仕様書 」(乙10の1から
3)に明記されたとおりである。なお,これらの業務委託契約書に添付
された「業務委託仕様書」の内容は,契約書ごとに異なっており,この
ことだけからしても,各回の契約書の作成に際して,原告社内において
委託業務の内容が検討されていたことは,明らかである。
また,B,原告代表者,被告の間で交わされた電子メールのやりとり
(乙17,18,20,30,110)からしても,原告が被告に支払
った業務委託料が,被告が原告から委託を受ける業務の内容,成果に対
する対価であって,被告の原告に対する労務提供の対価でないことは,
明らかである。
ウ 対価の額の変更は業務の内容,成果を反映したものであること
前記アのとおり,対価の額が変更されたのは,原告から委託を受けて被
告の遂行した業務の内容,成果を反映した結果であり,このことからも,
原告が被告に支払った対価が,委託業務の内容,成果の対価であり,労務
提供の対価でないことは,明らかである。
エ 対価が低廉であること
被告が原告からDAVE042の開発に関して受領した対価の額は,被
告の果たした業務の内容,成果の価値に比べて極めて低廉なものである。
例えば,DAVE042の開発に対して最初に支払われた金額は,わずか
に50万円であり,被告が受領した総額も,750万円にすぎない。
このような金額の低廉さも,まさに,被告とBとの個人的な友人関係が
背景にあることを示しており,原告と被告が雇用契約で想定されるような
関係になかったことを示している。
オ 原告は被告に対する対価を社員に対する給与と別に取り扱っていること
原告の平成17年度の予算上,被告に対する対価の支払は,社員,アル
バイトに対する人件費と全く異なり,原告の予算に含まれておらず ,「ホ
スティングサービス」や「認証」を行う外部の受託業者に対する対価の支
払と同様の取扱いを受けていた。
このことからも,原告において,被告がアルバイトとして位置付けられ
ておらず,外部の受託業者と同様の取扱いを受けていたことが理解できる。
カ 原告の主張について
(ア) 原告は,被告に対する逐次,個別かつ具体的な説明,指示を行った
と主張するが,その内容は,いずれもDAVE042の仕様に関する変
更追加の依頼やプログラムのバグ修正の依頼にすぎない。プログラムの
開発委託契約において,委託者が,受託者に対し,仕様を提示し,これ
に関する指示をすることは当然のことであり,これをもって,原告の被
告に対する指揮監督を基礎付けることはできない。
(イ) 原告は,被告がDAVE042の開発に着手し,原告のいうところ
の初期版を完成するまでの間,被告がプログラムを完成させるのを待っ
ているだけであった。そして,被告が作成したDAVE042の初期版
の完成度は高く,その後に加えられた変更のうち大規模なものは,唯一,
クライアント提供版(商用版)の作成であった。もっとも,そのクライ
アント提供版(商用版)の開発に際しても,原告が被告に伝えた要望は,
極めて漠たるものにすぎず(甲108の3 ),被告は,自らの着想によ
って,原告の要望に含まれない機能を備えさせることを決定し,その機
能や表示画面を実現すべく,独自にプログラミングした。
この点,原告は,DAVE042の初期版が不十分なものであったと
主張する。
しかしながら,原告は,DAVE042の初期版を,その完成直後か
ら,病院に対するコンサルティングや分析報告のために,実際に活用し
ている。また,原告は,原告のホームページにおける告知,セミナーの
開催,雑誌記事への掲載等により,対外的にも,DAVE042を活用
していることを公表していた(甲135,乙54ないし58 )。
また,DAVE042は,その初期版から質的,量的に重要な修正は
されておらず,そのことは,DAVE042の初期版の完成度の高さを
裏付けるものである。
2 争点(1)イ(DAVE042について原告と被告の間で著作権譲渡の合意が
成立したか否か)について
(原告の主張)
(1) 譲渡の時期等について
仮に,DAVE042につき被告が原告の「業務に従事する者」に該当し
ないとしても,前記1の(原告の主張)の各事実を前提とすれば,原告と被
告との間で,被告が平成17年8月に原告に入社した時点において,DAV
E042の著作権を被告から原告に譲渡する旨の黙示の合意が成立している。
また,そうでないとしても,被告は,平成17年12月17日にCに送っ
た電子メールにおいて,本件各プログラムについて ,「現在でも,DAVE
はGHCの資産であり」と明言しているのであるから(甲143 ),その時
点では,DAVE042を含む本件各プログラムについて,その著作権が被
告から原告に譲渡されていたということができる。
(2) 譲渡の対価について
被告が原告に本件各プログラムの著作権を譲渡した対価は,原告が被告に
対しアルバイト期間中に支払った給料の一部である。被告に対する給料は,
被告の労務(アルバイト業務)に対する対価ではあるが,DAVE042の
開発業務及びそれに付随する業務への労務提供,開発成果物並びに同開発成
果物の著作権譲渡に対する対価も含まれている。
(3) 著作権表示について
被告は,被告が原告入社後も本件各プログラムに著作権表示をしていたと
主張するが,①「 c)2004−2005
( ●●」との表示では,著作権
者が誰であるか全く特定されていないこと,②当該表示の前に表示されてい
る「 c)2004−2005
( Global Health Consu
lting」は,著作権者の特定が可能であり,しかも被告自身が記載した
ものであること,③元々は,前記②の表示であったが,いつの間にか,前記
①の表示が付記されるようになり,そのことに気づいた原告代表者がCに相
談したところ,DAVE042が原告の貴重な財産であって,被告に注意し
て,やる気をなくされては困るという懸念があり,原告としてはあえて放置
したことなどから,被告の前記主張は,被告の主張を理由付けるものとはい
えない。
(被告の主張)
原告は,被告と原告との間に黙示の著作権譲渡の契約が成立したと主張する
が,次のとおり,当該主張は失当である。なお,原告の主張は,著作権につい
ての売買契約を主張するものである(贈与契約でない以上,売買契約である。
)にもかかわらず,その成立時期,対価,目的物(売買対象)について,あい
まいな特定しかできておらず,主張自体失当に等しいものであり,このような
原告の主張のあいまいさは,原告と被告との間に黙示の著作権譲渡(売買)契
約が成立していないことを示すものである。
(1) DAVE042の開発当時,被告が著作権を有することが合意されてい
たこと
原告は,原告と被告との間で著作権譲渡の合意が成立したことを基礎付け
る事実として,前記1の「業務に従事する者」であることを基礎付ける事実
を援用するが,原告の前記主張は,失当である。
そもそも,本件においては,原告と被告との間で,DAVE042の著作
権が被告に帰属することについて明示的なやりとりがされたという事実関係
が存在する(乙5∼9 )。このことを前提とすれば,その後に,当該事実を
覆すに足りる事実がない限り,被告の原告に対する著作権譲渡の意思を認め
ることはできない。
しかしながら,著作権譲渡の合意(被告の原告に対する著作権譲渡の意思
)を推認させる事実として原告が主張する事実は,いずれも些末なものばか
りであって,これらの些末な事実を積み重ねたところで,被告が原告に対し
てDAVE042の著作権を譲渡する意思があったということも,原告と被
告との間に著作権譲渡の合意が成立したということもできない。
(2) 被告は原告入社後も被告名義の著作権表示を付していたこと
被告は,DAVE042の開発当時のみならず,原告に入社する際にも,
また,入社した後においても,DAVE042の著作権を原告に譲渡する意
思を全く有していなかった。そのため,被告は,原告に入社した後において
も,DAVE042を含む本件各プログラムの画面表示に,被告名義の著作
権表示を一貫してつけ続けていた(乙1 )。当該表示は,原告内部において
使用されるもののみならず,原告の顧客に対して提供されるものにも付され
ていた。
そして,原告の役職員も,誰一人として,被告に対して,被告が被告名義
の著作権表示を付すことについて異議を述べたことはなく,被告が被告名義
の著作権表示を付すことが問題視されたこともない。
仮に,DAVE042の著作権が原告に帰属し,原告としてそのように信
じていたのであれば,被告の上司にあたるC,原告代表者,Dにおいて,被
告に対し,被告名義の著作権表示をしないように命じることが当然であり,
これを命じることができない事情は皆無であった。それにもかかわらず,そ
のような命令は,一度たりとも発せられていない。
被告名義の著作権表示を原告の経営陣が問題にしなかったことこそ,DA
VE042の著作権が被告に帰属すること,すなわち,DAVE042の著
作権が被告から原告に譲渡されていないことを示している。
(3) 以上のとおり,DAVE042の開発当時,原告と被告との間において ,
被告がDAVE042の著作権を有するとの明示的な合意がされており,し
かも,その開発当初から,被告が原告に入社した後に至るまで,一貫して,
DAVE042に被告名義の著作権表示が付されており,このことに原告の
役職員の誰一人として異議を述べずに承認していた事実にかんがみれば,原
告の主張する事実を考慮しても,およそ原告被告間に著作権譲渡の黙示の合
意が成立していたということはできない。
3 争点(1)ウ(DAVE042について原告と被告との間に「別段の定め 」(著
作権法15条2項)があるか否か)について
(被告の主張)
前記1のとおり,DAVE042は,被告が原告の「業務に従事する者」と
いえないから,原告の職務著作に該当しないが,仮に,被告が原告の「業務に
従事する者」に該当するとしても,著作権法15条2項の「別段の定め」とし
て,原告と被告の間で,被告がDAVE042の著作権を有するとの合意が成
立している。したがって,DAVE042の著作者は被告であり,その著作権
は,被告に帰属し,原告には帰属しない。
(1) Bと被告との合意内容
Bは,平成16年4月11日,被告との間で,DPC分析プログラムの開
発を委託するに際し,被告が開発するプログラムの著作権が被告にあること
について明示的に合意(確認)した(乙5,以下「本件合意」という 。 。

Bは,電子メール(乙5)で,著作権を被告が有するという点を含めて,
「100%OKです 。」と述べたのであるから,この電子メールが送信され
た時点で,B被告との間に,被告が開発するプログラムの著作権が被告にあ
ることについての合意(別段の定め)が成立したことは明らかである。
(2) Bと被告のした本件合意の原告に対する効力
ア Bは本件合意をする権限を有していたこと
原告は,原告とBとの間の別件訴訟において,Bについて「原告と被告
とをつなぐ窓口として終始機能し,当該契約の締結段階においても,原告
担当者として被告と交渉をして,契約書の草案を作成するなどした。原告
は,Bに当該契約に関する一切の交渉権限を委ねていたものである 。」と
主張している。
また,原告代表者も,原告とBとの間の別件訴訟において,Bに対して
被告との関係に関する事項を含めてDAVE開発に関する権限を与えてい
たことを供述している(乙99 )。
このように,Bは,当時,被告と著作権に関する交渉を行い,被告との
間でシステム開発に関する契約を締結する権限を原告から与えられていた
以上,本件合意の効力が原告に及ぶことは明らかである。
イ 表見代理等により,本件合意の効力が原告に及ぶこと
仮に,Bに前記アの権限がなかったとしても,後記(ア)ないし(ウ)のい
ずれの構成によっても,本件合意の効力は,原告に帰属する。
(ア) 会社法354条(表見代表取締役)の適用
Bは,当時,原告の取締役「副社長」であった上,被告は,Bが代理
権を有しないことに関して善意無重過失であった。
したがって,被告との間でプログラムの開発委託契約を締結するに際
し,当該契約の一部として,著作権を被告に帰属させる旨の本件合意を
成立させたBの行為には,表見代表取締役の規定が適用されるから,本
件合意の効果は,原告に帰属する。
(イ) 会社法14条(商業使用人)の適用
Bは,プログラム開発担当の取締役であったから,原告から,被告と
の間でプログラム開発という特定の事項について委任を受けていた使用
人にも当たり,また,被告との間でプログラムの開発委託契約を締結す
るに際して,当該契約の一部として,著作権を被告に帰属させる旨の本
件合意をする権限を有していたから,本件合意の効果は,原告に帰属す
る。
仮に,原告がBの当該権限を制限していたとしても,被告は,当該制
限の存在について善意無重過失であるから,原告は,当該制限をもって,
被告に対抗することができず,本件合意の効果は,原告に帰属する。
(ウ) 民法109条,110条(表見代理)の適用
前記アで述べたところからすれば,Bには,少なくともプログラム開
発に関する基本代理権が存した(民法110条の基本代理権の存在 )。
また,原告は,Bに対して「副社長」との肩書を付与し,さらに,原
告代表者は,被告に対して,自ら,電子メール(乙8)を送付して,B
に原告を代理して被告との間でプログラムの開発委託契約を締結する権
限があることを表示している(民法109条の代理権授与表示の存在 )。
そして,被告は,これらの基本代理権や代理権授与表示を信頼し,B
には,原告を代理して,被告との間でプログラム開発委託契約を締結す
る権限(当該権限の中には,著作権の帰属について合意する権限も含ま
れる)があると信じ,かつ,被告がそのような信じたことにつき正当の
理由が存在するから,表見代理(民法109条若しくは110条又はそ
れらの規定の重畳適用)が成立し,本件合意の効果は,原告に帰属する。
(3) 原告代表者の承認(被告が著作権を有することに異議を述べていないこ
と)
ア 前記(2)アのとおり,Bが,原告から,被告との間でプログラム開発に
関して合意する権限を与えられていた以上,Bが被告との間で取り交わし
た本件合意の効力が原告に及ぶことは当然であり,本件合意の効力は,原
告代表者の一存で事後的に覆滅できるものではない。
したがって,本件合意成立後の原告代表者の認識は,法的には意味を持
つものではないが,実際にも,後記イのとおり,原告代表者も,被告がD
AVE042の著作権を有することを承認していた。
イ 原告代表者は,Bと被告から,被告の開発するプログラムの著作権を被
告が有することを伝えられたにもかかわらず,そのことについて,何らの
異議を述べておらず,被告がDAVE042の著作権を有することを承認
していた。
すなわち,原告代表者は,Bから,被告が開発するプログラムの著作権
を有する旨を表明していると伝えられたにもかかわらず,そのことについ
て,Bに対して何らの異議も述べずに承認している(乙6 )。また,原告
代表者は,Bだけでなく被告からも ,「成果を横取りされないこと」を明
確に表明されたにもかかわらず,何らの異議を述べておらず,これを承認
している(乙7,8 )。
(4) Cも被告が著作権を有することを承諾していること
さらに,原告の経営を実質的に支配する取締役であるCも,DAVE04
2の著作権が被告にあることを認めていた。このことも,原告と被告との間
に被告が著作権を有する旨の「別段の定め」が成立していたことを裏付ける
ものである。
すなわち,Cは,原告社内で,DAVE042を対外的にライセンスする
かどうか議論された際,ライセンスするに当たっては被告の意思を確認し,
被告に対してライセンシングフィーを支払うことになると認識していた(乙
17 )。DAVE042の著作権が原告に帰属しているのであれば,原告が
DAVE042をライセンスするに際して被告の意思を確認する必要もなけ
れば,被告に対してラインセンシングフィーを支払う必要もない。すなわち,
Cが,DAVE042の著作権が原告に帰属していると認識していたとすれ
ば,前記のような認識を抱くはずもない。
(5) 被告による被告名義の著作権表示
ア 被告による被告名義の著作権表示
被告は,DAVE042を開発するに際し,画面表示に ,( c)200

4−2005 Global Health Consulting,
(c)2004−2005 ●●」と被告名義の著作権表示が掲出される
ようにプログラミングを行い,DAVE042が利用されている間,画面
上に,被告名義の著作権表示が掲出されていた(乙1の1 )。
前記の「●●」とは,被告の氏名における名の部分の冒頭2文字であり,
被告のメールアドレスが,プライベートのものが「 略 〉 ,原告時代のも
〈 」
のが「 略 〉
〈 」であったことからも ,「●●」が被告を意味することは明ら
かであり,このことは,原告の関係者も皆知っていた。
被告は,著作権法の専門家でないから,著作権表示マークの法的位置付
けなどは承知していなかったが ,(c)マークが著作権を表示するもので
あることは知っていたので,その知識を前提として,前記のとおり,被告
名義の著作権表示が掲出されるようにDAVE042のプログラミングを
行ったものである。
なお,前記の表示のうち ,( c)2004−2005
「 Global
Health Consulting」の部分は,本来不要な誤った表示
である。被告がこのような表示をしてしまったのは,被告が著作権法に精
通していなかったことから,DAVE042に格納されているデータ(病
院から受領したデータ)は原告から提供されたものであり,この部分は,
被告の著作物ではないと考えたからにすぎない。
イ 被告名義の著作権表示に対して原告から異議が述べられていないこと
被告は,DAVE042の開発当初から原告を退社するまでの間,一貫
して,DAVE042について被告名義の著作権表示を付していた(少な
くとも被告があえて意図して当該著作権表示を付さなかったことは一度も
ない 。)が,このことについて,原告から異議を述べられたことは一度も
なく,そもそも,被告名義の著作権表示が,原告社内で問題視されたこと
もなかった。
原告代表者は,被告名義の著作権表示について,Cとの間で相談したと
いうが,そもそも,原告代表者が,被告やBに対して異議を述べなかった
ということについては争いがない。
ウ 以上のとおり,被告によって被告名義の著作権表示が一貫して表示され,
かつ,原告代表者,Cらが被告に対し被告名義の著作権表示について何の
異議も述べていないことは,被告と原告との間に,被告が著作権を有する
旨の別段の定めがあったことを推認させるものである。
(6) 全社連にDAVE042を導入した収入の被告への分配
原告は,平成17年8月1日付けで,全国社会保険協会連合会(全社連)
との間で,DAVE042を全社連に導入(レンタル)する旨の契約を締結
し,全社連が原告に月額使用料50万円を平成17年11月から1年間にわ
たって支払う旨合意した。そして,原告と被告は,平成17年8月ころ,被
告が原告に入社するに際し,DAVE042を全社連に導入することにより
原告の得る前記収入の半分を,原告から被告に分配する旨合意し(乙106
),平成18年1月以降,当該合意に従い,本来の取締役報酬(月額83万
3334円,年額1000万円)に加算して,原告から被告に月額25万円
が支払われた(乙128の1∼3 )。
このように,原告と被告との間において,全社連へのDAVE042導入
により原告の得る収入の半分を被告に分配する旨の合意が成立し,これが履
行された事実は,原告と被告との間に,DAVE042の著作権を被告が有
する旨の合意が成立していることと整合する。
(原告の主張)
(1) 本件合意の主張立証がされていないこと
本件合意の主張立証責任は被告にあるところ,被告は,本件合意が成立し
た証拠として電子メール(乙5)の内容を指摘するのみであり,原告被告間
で合意が成立した日時やその具体的な内容等について明確な主張がされてい
ない(このこと自体,著作権留保の合意が存在しなかったことを示している。
)。
したがって,被告の主張するような合意が存在したとは認められない。前
記の電子メールの文言は ,「OKです 。 ,
」 「要望どおりでいいですよ 。」など
漠然としたものばかりであり,何ら具体的な条件,詳細な条件を述べるもの
ではなく,著作権の帰属という基本的で重大な内容,大きく利益を左右する
事項を決定する文言として相応なものとは到底いえない。
(2) 本件合意の効力が原告に帰属しないこと
ア Bの権限逸脱行為
(ア) 平成16年4月11日に被告とBの間で送受信された電子メール
(乙5)において,Bが「100%OKです 。」と述べた趣旨が,被告
が著作権を有するということを含むものとは,その文面からは推測され
ないが,仮に,Bがそのような趣旨で記載したとすれば,Bが原告から
付与された権限を逸脱してされたものであり,その効果は,原告に及ば
ない。
したがって,原告と被告間で,著作権が被告にあるとの合意(別段の
定め)は成立していない。
(イ) 被告は,原告が,原告とBとの間の別件訴訟において,Bに対して
被告との関係に関する事項を含めてプログラム開発に関する権限を与え
ていたことを主張立証していると主張するが,被告が指摘する別件訴訟
における原告の主張は,いずれも,Bが,DAVE042の開発におい
て,原告における被告との交渉窓口であり交渉権限を与えられていたこ
とを示すものではあっても,開発の成果物としてのDAVE042の著
作権の帰属について決定する権限を与えられていたことを示すものでは
ない。当然のことながら,ある企業におけるシステム開発の責任者だか
らといって,当該企業の機関決定なく当該企業以外に当該システムの著
作権等の知的財産権を帰属させる権限まで与えられるものではない。
(ウ) Bは,前記電子メールを被告に送信する際に,原告代表者やCの承
認を得ておらず,その送信後に ,「著作権は彼が有したいと言っていま
す。これは彼としてはGHC以外の人が使うことを嫌がってのことです。
」と,原告代表者に伝えてきたものである(乙6 )。
これに対し,原告代表者は ,「火曜日に相談いたしましょう 。」と返信
し(乙6 ),平成16年4月13日(火曜日)に予定されていた会合で
話し合うことを提案し,実際,同日にB,原告代表者及びCの間で持た
れた会合において,著作権についても話合いが行われた。
その席上で,CからBに対して,なぜ被告が著作権を持ちたいのかを
尋ねたところ,Bは,被告は原告以外の第三者が使うことに抵抗がある,
もし第三者が使って問題が発生したときに,被告自身は製造物責任を負
えないと言っている,という趣旨のことを答えた。このような説明を聞
いたCは,Bに対して,開発するプログラムはコンサルティングのため
に原告社内で使うツールなので,第三者が使うことはないし,被告に責
任を押し付けるつもりは毛頭ないので,心配する必要はなく,よって,
被告が著作権を持つ必要はないので,その旨Bから被告に伝えるよう指
示した。これに対して,Bも ,「分かりました 。」と明言し,かつ,その
後Bが何も言ってこなかったため,原告としては,著作権が被告に帰属
するものでないことについて,被告が納得したものと思っていた。
イ 表見代理等が成立しないこと
前記アのとおり,仮に,Bが,被告に対し,著作権を被告に帰属させる
との意思表示を行ったのであれば,それは,Bの権限逸脱行為であるが,
次のとおり,これについて,表見代理等が成立することはない。
(ア) 会社法354条(表見代表取締役)の要件を満たさないこと
被告は,被告が善意,無重過失であったと主張するが,被告は,原告
に著作権の帰属に関して確認しておらず,また,著作権が原告に帰属す
ることを容認するかのような行動をとっていたことなどからすれば,善
意,無重過失であったということはできない。
(イ) 会社法14条(商業使用人)の要件を満たさないこと
原告がBに与えていたのは,DAVE042の開発方法や手順などに
関し被告と交渉するという事実行為についての権限にすぎず,DAVE
042の著作権帰属に関する合意を行うという重要な法律行為を行う権
限は,受任事項の範囲外であった。会社法14条は,事実行為を委任さ
れていたにすぎない場合に,法律行為に関する権限まで認めるものでは
ない。また,前記(ア)のとおり,被告は,善意,無重過失ではない。
(ウ) 民法109条・110条(表見代理)の要件を満たさないこと
a 特定事項について代理権授与表示をした事実が存在しないこと
民法109条,110条の重畳適用には,特定事項について代理権
授与表示をした事実が要件となるところ,被告の主張する,原告がB
に副社長の肩書きを付与したことや,原告代表者が被告に電子メール
(乙8)を送付したことは,前記要件を満たすものではない。
b 正当事由が存在しないこと
被告は,BがDAVE042の著作権帰属に関する合意を行う権限
があったと信ずべき正当事由があると主張するが,前記(ア)で述べた
被告の言動からすれば,被告に正当事由があるとはいえない。
(3) 原告代表者はDAVE042の著作権が被告に帰属することを承認して
いないこと
被告は,電子メール(乙6)の記載をもって,原告代表者が,被告が著作
権を有したいとの意思を伝えられたにもかかわらず,Bに対して何らの異議
も述べていないと主張するが,原告代表者は,その点も含めて ,「火曜日に
相談いたしましょう 。」と記載しているのであって,何ら被告が著作権を有
することを承認しているものではない。
また,被告は,被告が原告代表者に「当方の成果を横取りされないこと」
と記載して送信した電子メール(乙7)の返信として,原告代表者が被告に
送信した電子メール(乙8)において,原告代表者が前記記載に何らの異議
を述べていないことをもって,原告代表者が,被告が著作権を有することを
承認していたと主張する。
しかしながら,被告の原告代表者に対する電子メール(乙7)は,機密保
持契約の締結を渋っていた被告が「リスクを鑑みると…このままの文面で,
これを締結することは致しかねます 。」と述べたものであって,他に著作権
に関しては一切触れていない。原告代表者としては,著作権問題は,既にB
を通じて被告との間で解決済みとの認識でいたため,被告のいう「当方の成
果」が著作権であるとは考えもしなかった。原告代表者としては,成果とは,
コンサルティング業務に開発するプログラムを使用することによる効果,す
なわち,分析の質やスピードの向上,より多くのコンサルティング契約を意
味し,その成果を生み出す被告の労務作業について正当な対価で報いること
が「成果を横取りされないこと」と考えていた。
したがって,原告代表者が「横取りされないこと」について直接的にコメ
ントしていないからといって,原告代表者が被告に著作権を帰属させること
を承認していたことにはならない。
(4) CはDAVE042の著作権が被告に帰属することを承認していないこ

Cは,Bを通じて,被告に対して,開発するプログラムはコンサルティン
グのために原告社内で使うツールであり,第三者が使うことはなく,製造物
責任等の問題が生じることはないので心配する必要はない旨伝えていたとの
認識であった。しかし,平成17年に入り,被告への支払額を増額させたい
と考えるBがDAVE042を販売したいと言い出し,Cは,原告からクラ
イアント病院等へのDAVE042のライセンシングを考え始めた。そこで,
前記の説明をしていたCは,第三者が使用することへの懸念を持っていた被
告への配慮として,Bに対し ,「動物さんがデイブをライセンシングアウト
したいのかどうかも慎重に考える必要があ」ると記載した電子メール(乙1
7)を送付したのである。また,この電子メールでの「インセンティブ」と
は,まさに被告への支払を意味し ,「インセンティブに関しては,ライセン
シングフィーという形で,対応できます」とは,BのいうとおりDAVE0
42を社外に出せば,原告がライセンス先からライセンスフィーを受けて,
これをもって被告への支払にまわせるということを意味するものであって,
いずれも,被告に著作権が帰属することを前提として,原告が被告にライセ
ンスフィーを支払うという話をしているものではない。
(5) 被告名義の著作権表示について
被告は ,( c)2004−2005
「 ●●」との表示をもって,被告にD
AVE042の著作権が帰属する根拠(著作権留保合意の根拠)となると主
張するが失当である。
(c)の表示は,本来的には,万国著作権条約3条に基づき,著作権の成
立について方式主義を採用する国においても著作権保護の要件を満たしたも
のとみなされるためのものであり,著作権者が誰であるのか対外的に特定さ
れて初めて意味を持つものである。フルネームならいざ知らず,●●との略
称では全く特定されておらず,実質的な意味を持つものではない。自己顕示
欲の強い被告において自らが開発担当者であった痕跡を残そうとしたものに
すぎない 。(c)の表示についていえば,一番目に書かれている「 c)20

04−2005 Global Health Consulting」の
表記(こちらは著作権者の特定が可能である 。)のみ実質的な意味がある。
また,被告の主張によれば,この表記は,被告自身によってされたものであ
るところ,被告に著作権が帰属し,原告に譲渡もしていないとの被告の主張
とは完全に矛盾する。
しかも,DAVE042の著作権表示については,もともと ,( c)20

04−2005 Global Health Consulting」と
表示されていたが,いつの間にか,その後ろに ,( c)2004−2005

●●」との表示が付け加えられていた。このことに気付いた原告代表者は,
Cに対応を相談したが,被告に注意して,やる気をなくされては困るという
懸念があり,あえて放置したという事情がある。
(6) 全社連の分配の件について
被告は,原告と被告が,平成17年8月1日付けで全社連と締結したDA
VE042をレンタルする旨の契約における原告収入の半分を,原告から被
告に支払うこととした事実をもって,被告が著作権を有していたことの裏付
けであると主張するとともに,被告が原告に入社する際にこのような合意が
され,入社後に当該合意が履行された事実が,被告が原告入社後に開発する
DAVE042についても,原告入社前に開発したDAVE042と同様に
その著作権を有する旨の合意が適用されると考えていたことを示すものであ
ると主張する。
しかしながら,原告が被告に全社連からの収入の半分300万円を月割り
で支払うことになったのは,次の事情による。すなわち,従前より,Bから
原告に対して,被告の給与が低すぎるので増額してほしいとの要請が再三あ
ったが,原告は,Bが思うほどには応えられずにいた。そこで,平成17年
8月に全社連へのレンタルが決まった際に,Bのいう低すぎる分を補い,被
告が正社員となってからのインセンティブとする趣旨で,前記のとおり支払
うこととした。
したがって,全社連との契約に関連しての被告への支払は,著作権の帰属
とは何ら関係がない。なお,全社連と同時期に,他の大学病院に対してもコ
ンサルティング業務と併せてDAVE042のレンタルを開始したが,この
際には被告に対する支払はなく,また,翌年2月から開始したDAVE−P
roの販売についても,被告に対する支払は想定されておらず,いずれも,
被告との協議の対象ともなっていない。
4 争点(2)(DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−CPにつ
いて,原告と被告との間に「別段の定め 」(著作権法15条2項)があるか否
か)について
(被告の主張)
(1) 被告は,DPC分析プログラムの開発に当たり,原告(その担当取締役
であるB)との間で,被告が開発するプログラムの著作権を被告が有するこ
とを明示的に合意(本件合意)した(乙5 )。このほか,本件合意が成立し
たことを示す間接事実が多数あることは,前記3の(被告の主張)のとおり
である。
本件合意において,被告が著作権を有する対象について,被告が開発する
最初のプログラム(後にDAVE042と命名された)に限定することは,
全く合意されていなかった。むしろ,電子メール(乙5)においては,被告
の開発するプログラム全般にわたって包括的に被告が著作権を有する旨が表
明されていた。しかも,電子メール(乙5)では,クリティカルパスについ
ての言及もされているから,いったん開発されたプログラムについて,その
後も相当程度の修正がされることも想定されており,そのような修正がされ
たプログラムも,被告の開発するプログラムとして,被告に著作権が帰属す
ることが合意されていた。
したがって,原告と被告との間には,最初に開発されたプログラムのみな
らず,被告が開発する一連のプログラムについて,被告が著作権を有する旨
の合意が成立していたといえる。
(2) 被告は,原告に取締役として入社するに際し,当該合意を反古にして,
入社後に開発するプログラムの著作権を原告に帰属させることを合意したこ
とはない。むしろ,前記3の(被告の主張)の(6)のとおり,被告が原告に
入社するに際し,原告が全社連にDAVE042を導入したことにより得ら
れる収入を,被告に分配することが合意され,しかも,被告の原告入社後に
当該合意が履行されたという事実は,原告も被告も,原告入社後に開発する
プログラムについても,原告入社前に開発したプログラムと同様に,その著
作権を被告が有する旨の合意の対象と考えていたことを推認させる。
(3) 以上のとおり,DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−
CPについても,平成16年4月11日ころに成立した原告と被告との間に
おける,被告が著作権を有する旨の合意(本件合意)が,著作権法15条2
項にいう「別段の定め」として効力を有するから,被告に著作権が帰属する。
なお,仮に,Bに前記合意をする権限が存在しないとしても,表見代理等
により,合意の効力が原告に及ぶことは,前記3の(被告の主張)の(2)イ
のとおりである。
(原告の主張)
被告が著作権留保合意を行ったものとして指摘する電子メール(乙5)が作
成された平成16年4月11日時点では,DAVE042の二次的著作物であ
るDAVE−Pro(平成17年9月から平成18年1月に開発 ),DAVE
−DRUG(平成17年10月から同年11月に開発)及びDAVE−CP
(平成17年8月から同年12月に開発)は,開発着手前であり,その開発の
可能性すら予測されていなかった。しかも,被告は,平成16年4月11日付
け電子メール(乙5)が作成された後の平成17年8月に原告に入社している。
乙5の電子メールが著作権留保合意を示すものであるという被告の主張自体,
到底認められるべきものでないが,まして,前記のような事情にもかかわらず,
当該合意の効力が,DAVE042だけでなくDAVE−Pro,DAVE−
DRUG及びDAVE−CPにまで及ぶとする被告の主張は,合理性を欠くも
のであり,認められるべきものでない。
なお,表見代理等が成立しないことは,前記3の(原告の主張)の(2)イの
とおりである。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
前記第2の1の争いのない事実等,証拠(甲150,216,乙33,99,
100,101,127,141のほか本文中に掲記したもの)及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告がBからDPCに関するプログラムの作成を依頼された経緯
ア 被告
被告は,平成6年4月,大学(航空宇宙工学科)を卒業してNTTデー
タ(当時はNTTデータ通信株式会社)に入社した後,NTTデータグル
ープの経営コンサルティングファームである株式会社NTTデータ経営研
究所(以下「経営研究所」という 。)への出向期間(平成13年7月から
平成16年3月まで)を除いて,原告の取締役に就任する平成17年8月
16日までの間,NTTデータに正社員として勤務していた。
被告は,小学生のころからコンピューターやプログラミングに関心を持
ち,大学では,本格的にプログラミングを学んだが,NTTデータに勤務
当時,仕事として,プログラミングを行うことはなかった。もっとも,被
告は,NTTデータに勤務当時,趣味でプログラミングを行うことはあり,
また,所属部門の会議室予約システムやスケジュール管理ソフトの構築な
ど,会社の業務に使用するためのプログラムを作成するなどしていた。
イ B
Bは,平成5年4月,大学(経済学部経済学科)を卒業してNTTデー
タに入社し,平成13年12月に退社するまでの間,同社に勤務していた
(甲37の1 )。
Bは,NTTデータを退社後,平成14年1月から平成15年6月まで
の間,ジョンソン&ジョンソン株式会社のコンサルティング事業部に勤務
し,病院経営コンサルティングの業務に関与するなどしていたが,同社勤
務時の同僚であった原告代表者に誘われ,平成16年3月,当時の勤務先
を退社し,同月30日の原告の設立当初から,原告の取締役に就任した
(なお,Bは,勤務先を退社後の同月1日から原告が設立される前日の同
月29日までの間,米国グローバルヘルス・コンサルティング社に従業員
として所属していた 。 。なお,米国グローバルヘルス・コンサルティング

社は,Cが米国で設立した,病院経営コンサルティング等を行う会社であ
り,Cのほか,原告代表者,Dが役員を務める会社である。また,原告は,
米国グローバルヘルス・コンサルティング社の役員でもある原告代表者が
設立した会社であり,設立当初の取締役は,B,原告代表者,C及びDで
あった(甲222 )。
ウ 被告とBの関係
被告とBは,NTTデータに勤務当時,仕事を通じた接点はなかったが,
同じ社内サークルに所属して知り合い,その中核的なメンバーとして活動
し,単なる後輩,先輩という以上の親しい間柄であった。しかし,BがN
TTデータを退社して社内サークルからも退会した後は,被告とBとの接
点は,希薄となっていた。
エ Bの被告に対するDPCに関するプログラムの作成の打診
被告は,Bから,平成16年3月中旬ころ,DPCコーディングのため
のプログラムの作成を打診された。被告は,当時,足を骨折するけがをし
ており,出向先の経営研究所からNTTデータに復帰する時期で大きな仕
事も抱えておらず,時間的にも精神的に余裕があったことや,親しい間柄
であるBが,新しい会社に転職したばかりで,困っているような感じでも
あったことから,Bの打診を引き受けることにした。
(2) 被告によるエクセル版のプログラム作成
Bは,被告にDPCに関するプログラムの作成を依頼するに当たり,被告
の自宅を訪問して,作成するプログラムで実現したいことや,その前提とな
るDPC制度の概要等を説明した。
被告は,日本のDPC制度の詳細を知らなかったものの,当時出向してい
た経営研究所で,日本のDPC制度に類似する米国のDRG制度(疾病群別
包括支払制度 )(甲12)等について調査した経験があったことから,Bの
説明により,日本のDPC制度の概要を理解できる程度の知識を有していた。
被告は,Bの要望を基に,平成16年3月22日,当初の打合せから1週
間程度で,DPCコーディングのためのプログラムを作成した。もっとも,
当初作成されたプログラムは,プログラム言語VBAを用いたエクセル版の
プログラムであった。
Bは,原告代表者及びCに対し,同日,このエクセル版のプログラムを,
Bが被告と二人でプログラミングして作成したものとして,プログラムが完
成したことを電子メールで報告したが(甲1,1の2 ),このエクセル版の
プログラムは,実際には被告が一人でプログラミングしたものであった。
このエクセル版のプログラムは,DPC制度に関する知識が十分でなかっ
たBの誤った説明や被告の誤った理解などにより,作成当初から修正が必要
となる誤りが発見されることとなった(乙23,24 )。そして,誤りの修
正に伴いプログラムが複雑になっていったことから,被告は,エクセル版の
プログラムで解決するのは困難と考え,被告が普段使っているLAMPとい
うウェブ系のシステムに切り替えることにした。この切替えは,速やかに完
了し,Bが当初に依頼したプログラム作成の作業は,平成16年3月末には
終了した(乙25 )。なお,LAMPとは,複数のソフトウェアの組合せを
示し,OSとしてLinux,ウェブサーバとしてapache,データベ
ースとしてMySQL,プログラム言語としてPHPを利用するものである。
Bは,被告に対して,平成16年3月26日ころ,このエクセル版のプロ
グラムの作成やLAMPへのシステム切替えに関して,5万円の商品券を送
付し,これについて,その後の同月30日に被告に送付した電子メールにお
いて ,「本当に感謝してます これからも動物(注:被告を表示する名称と
して使用されている。以下同じ 。)に頼る機会が出てくると思います 今度
はちゃんと報酬としてもっとお支払します 。」と述べた(乙25 )。被告は,
このプログラムを作成する以前に,プログラムを作成して報酬を得た経験は
なく,Bから依頼されたこのプログラムの作成についても,Bを友人として
支援するという認識の下で行ったものであったことから,Bから送付された
商品券についても,一度は受取りの辞退を申し出るなどしており,その後も,
Bとの間で,このプログラムの作成に関して,報酬の話をすることはなかっ
た。
(3) Bの被告に対するDAVE042の作成依頼
ア DAVE042の作成依頼の経緯
被告の作成した前記(2)記載のプログラムは,DPCコーディングを自
動で行うプログラムとしてはよくできたものであったが,DPCデータに
は,症例別に,より詳細な情報(EファイルやFファイルに記録された情
報)があり,これらの情報を活用してDPC分析を行うことができれば,
病院経営のコンサルティングとして,これまでにないインパクトのあるも
のとなることが予想された。すなわち,原告では,これらの情報が記録さ
れたEファイル,Fファイルをコンサルティング先の病院から入手するこ
とが可能であったので,これらの情報を経営分析のために有効に活用する
ことができれば,他社の先駆けとなる病院経営コンサルティングを提供す
ることができるのではないかという期待を有していた。しかし,他方で,
これらの情報を手作業の処理で分析することは,その情報量が膨大なため
困難であり,限界もあった。そこで,原告では,Eファイル,Fファイル
に記録された情報などDPCデータを利用して,病院経営を分析するため
の,DPC分析システムを開発することが急務の課題となっていた。
そこで,Bは,被告に対して,平成16年4月10日,改めて,これら
の情報を活用したDPC分析システムを開発したいと相談し,電子メール
でその概要を説明するとともに,要望する機能を記載した書面や,システ
ム開発に当たり参考にしてもらいたい,他社の提示しているコンセプトの
記載された書面を添付して送付した(乙12(甲46の2 ),13,26 ,
27 )。
イ 被告が原告からDAVE042の開発を引き受けるまでの経緯
(ア) Bと被告との間の平成16年4月11日の電子メールのやりとり
被告は,平成16年4月11日,Bが被告に送付した前記アの電子メ
ール(乙26)に対して,実現に向けた段取りについての被告の認識等
のほか,依頼を受ける条件として次の内容を記載した電子メールを返信
した(乙5 )。
「 前略)

全力は尽くしますが,今回は開発量が多くなる,内容が重たくなるた
め,トラブルの温床が多そうです。
(中略)
自分が使うシステムではないため,バグが100%除去できない可能
性があります。その都度指摘いただければ修正するという形態をとらせ
てください。
バグの発見については,Bさん側の責任で行ってください。すなわち,
バグがあって,お客様に迷惑をかけたとしても動物は責任をとりません。
もちろん,動物側でも試験はちゃんとやりますが,100%完璧な商用
のクオリティではないということです。
開発するソフトの著作権は動物にあります。Bさんの会社の日本法人
以外の方が利用する場合やこのソフトウェアはBさんの会社が販売する
場合には動物との調整が必要になります。
報酬は別途調整。アウトプットを見て,決めてください。ただ,今回
は作るモノのバリューが高そうだから相応の評価し(ママ)くださいね。
(後略 )」
これに対して,Bは,同日,次の内容を記載した電子メールを返信し
た(乙5 )。
「Bです。忙しいのにありがとう。条件については100%OKです。
内の会社はソフトを販売する会社ではなく,このようなシステムを使っ
て分析結果を莫大な資料で提出するのではなく,ポイントをつかんで向
こうが分かる文脈で説明することをコアのモデルにしています。
ですので,ソフトを販売することで病院がこれを使うことは絶対に避
けたいと思っています。
3週間でできそうと言うのは心強すぎます。無理しないでくださいね。
仕様の詰めやバグ取りは全面的に協力しますので,何なりと言って頂
戴な。
著作権の問題や報酬のこともあるので,あらかじめ契約を結ぼうか?
条件は,動物の要望どおりでいいですよ。その方がいいかもしれない
ね。
いずれにしろ色々世話になります。よろしくお願いします 。」
(イ) Bと原告代表者との間の平成16年4月11日の電子メールのやり
とり
Bは,原告代表者から,平成16年4月11日(ただし,被告と前記
(ア)の電子メールの送受信をした後である 。 ,
) 「動物君へのお支払いは
どれくらいを考えておけばよいか,ある程度estimateをいただ
けますか。それも踏まえてCさんと3人で火曜日に決めましょう!」と
記載された電子メールを受信し,これに対して,次の内容を記載した電
子メールを返信した(乙6 )。
「 前略)

「軽く 」「安く 」「早く」作ることが大事だと思っています。彼には金
額のことは相談していませんが,とりあえず基本料金として50万円
もし,出来上がったものが素晴らしければインセンティブを払う。ぐら
いでどうかなと漠然と考えています。
3週間で終わりではなく,1年間は,バグや仕様変更に無償で対応し
てもらうことも条件としたいと思います。
著作権は彼が有したいと言っています。これは彼としてはGHC以外
の人が使うことを嫌がってのことです。改変権はこちらに与えてくれる
ことと,ソースはすべて公開することでこちらでも修正をかけることが
出来ます。
1週間毎に出来上がり具合をレビューするつもりです。そこで,仕様
の確認や使い勝手をチェックしていきます 。(後略 )」
これに対して,原告代表者は,同日 ,「 軽く 」
「 「安く 」「早く」に賛成
です。E,Fファイルもどう・いつ変わるかわからないもんね。火曜日
に相談いたしましょう 。」と記載した電子メールを返信した(乙6 )。
(ウ) 平成16年4月13日(火曜日)の原告における打合せ
B,原告代表者及びCは,平成16年4月13日,被告にDPC分析
システムの開発を依頼する件についての打合せを行った。その際,席上
では,被告に対する対価の支払の問題や,開発するプログラムの著作権
の問題などが話題となった。しかし,開発するプログラムの著作権の帰
属に関しては,原告にその著作権が帰属することを被告との間で明確に
させておくなど,原告として被告に対してどのような対応をとるのか明
確に決定されることはなかった。また,原告から被告に対して,被告が
Bに対して伝えた著作権の帰属に関する被告の意向について,原告とし
てどのような対応をとるのか明確な回答が伝えられることもなかった。
(エ) 平成16年4月13日の打合せ後の原告代表者と被告との電子メー
ルのやりとり
原告代表者は,被告に対して,平成16年4月17日,次の内容を記
載した電子メールを送信した(乙28 )。
「グローバルヘルスコンサルティングのEです。BさんからいつもAさ
んの素晴らしいお噂をお聞きしております。今回E・Fファイルの開発
には大変期待しております。
さて,患者データを取り扱うに当たり機密保持契約を結ぶ必要があり
ますので添付の書類をご覧下さい。これは一般的な機密保持契約ですが
内容に問題がないかご査収いただき数日中にご連絡いただけますでしょ
うか 。」
これに対して,被告は,平成16年4月18日,次の内容を記載した
電子メールを返信した(乙7 )。
「今回は,B様のご依頼のもと,あくまで個人としてご支援させていた
だいております。
[ご依頼への回答]
機密保持契約について,ビジネスの常識からすれば,その必要性は十
分理解できますが,一方で,当方のリスクを鑑みると,以下の2つの観
点からこのままの文面で,これを締結することは致しかねます。
1.善管注意義務の範囲が不明確
2.賠償責任の上限が設定されておらず,事故が生じた場合に当方の損
害が大きすぎる
故意に情報を漏洩することは致しませんが 一方で,事故による漏洩
の可能性は否定できません。当方は,当該開発を主たる事業としている
わけではなく,それゆえに,機密保持を遵守できるだけの環境を有して
おりません。もし,環境を整備するとなれば,自宅のネットワーク環境,
PCの管理方法,自宅の物理的なセキュリティなど,相当なコストを要
します。
私の本件をご支援させていただくスタンスとは,B様のビジネスが成
功するよう自分の力を提供することに加え,
・当方がリスクは背負わないこと
・当方の成果を横取りされないこと
であります。
※詳細は,以前,B様にメールを致しております。
[今後の進め方]
1.機密保持条件を緩和していただく。
(中略)
2.テスト用のサンプル・データを作成いただく。
(中略)
3.本件を中止する。
誤解いただきたくないことは,御社のビジネスが成功するよう,ご支
援させていただく所存ではありますが,一方で,過度なリスクを背負う
ことができない旨をご理解下さい 。」
これに対して,原告代表者は,同日,次の内容を記載した電子メール
を返信した(乙8 )。
「A様
A様はBさんの親友で,今回の無理なお願いに対応していただいてい
る事に私達は心から感謝しております。ご存知の様にこの類の機密保持
契約は,業務委託で患者データが外に出る場合に病院および患者に対し
て会社としての社会的責任・姿勢を示すものです。特にここ最近患者デ
ータの取り扱いが厳しくなっているためかなり気を使っています。しか
しおっしゃられる様に今回A様への依頼内容はサンプルデータで開発可
能ですので,それができればこの様な機密保持契約は必要ないですね。
A様にリスクを押し付けるつもりは全くなく,気持ちよく仕事をして
いただくことを最優先に考えております。選択肢としてサンプルデータ
をお使いいただく事は膨大なデータの加工を伴いあまり現実的ではあり
ませんので,善管注意義務の範囲や損害賠償の上限などA様が気になる
点を変更いただけませんか。機密保持条件を緩和する事に異議はござい
ません。ご検討いただければ幸いです。
それからBさんが日本に帰ってきたら今度食事でもいかがでしょうか。

その後,原告から被告に対して機密保持契約に関する話が出されるこ
とはなく,被告としても,機密保持契約を締結することについて,自分
にメリットのある話ではなかったことから,そのまま放置し,結局,原
告と被告との間で,機密保持契約が締結されることはなかった。
(4) 被告によるDAVE042の作成と原告の被告に対する報酬の支払
ア DAVE042の作成
被告は,NTTデータに正社員として勤務し,平日の日中はフルタイム
で仕事をしていたので,原告から依頼されたプログラムの作成は,平日の
業務時間終了後や週末の間に行い,Bとの電子メールのやりとりは,深夜
や朝の時間帯に行っていた。
プログラムの作成作業は,被告の自宅や被告の職場近くの喫茶店などで,
被告のパソコンを使用して行われた。プログラムの作成作業に関して,B
が被告に対して,作業時間や作業場所を指示したり,その報告を求めたり
することはなく,また,被告がBに対して,その報告をすることもなかっ
た。
被告は,平成16年5月2日,DPC分析プログラムであるDAVE0
42の作成作業を終え,Bは,Cに対して,同日,その旨報告した(甲2
4)。Bは,Cに対して,被告とBの二人で作業を行ったかのような報告
をしたが,DAVE042のプログラミングは,被告が一人で行っていた。
イ 報酬の支払
Bは,被告に対して,前記の作成作業を終えた後の平成16年5月6日,
業務委託契約書とともに機密保持契約書を作成した上で,報酬として,5
0万円の支払をしたい旨連絡した(乙14 )。Bは,原告代表者に対して ,
同月10日,被告との間で作成する契約書について,ひな形があるか問い
合わせたところ,原告代表者は,Bに対して,個人との間のソフトウェア
開発の契約書のひな形はなかったが,会社にソフトウェア開発の続きを依
頼する際の契約書案が参考になると思い,この契約書案を電子メールに添
付して送付した(乙15 )。
しかし,NTTデータの正社員であった被告は,兼業をするには勤務先
のNTTデータに届け出て許可を受ける必要があったことから,その許可
を受けていない状態で契約書等の書面を作成することに難色を示した。そ
のため,Bは,被告に対して,同月14日,契約書等を作成せずに,現金
を直接渡す方法で報酬である50万円を支払うという方法を提案し(乙1
9),その後程なくして,被告は,原告代表者から,原告オフィスで開か
れたパーティの席上で,50万円を現金で受け取った。
(5) 原告によるDAVE042の利用開始,バグの発生や修正指示等
ア 原告によるDAVE042の利用開始
原告は,被告から,被告が作成を終了したDAVE042を受け取ると,
その直後から,クライアント病院に対するコンサルティングや分析報告の
ために使用を開始した。また,原告は,平成16年5月ころから,DAV
E042による分析事例や原告でDAVE042を活用していることにつ
いて,医療関係の雑誌記事等に掲載して紹介したり,同年9月には,DP
Cを導入している病院等を対象として,DAVE042のデモンストレー
ションを提供するDPC対策セミナーを開催したりするなどして,DPC
分析プログラムとしてDAVE042を対外的に紹介し,これを原告のコ
ンサルティング業務に積極的に活用していることを対外的に公表していた
(甲135,138,乙54∼56,58 )。
イ バグの発生等と修正の指示等
DAVE042は,作成が終了した当初から,バグ(プログラム上の欠
陥)が発見されたが(乙14 ),その後も,原告がDAVE042をコン
サルティング業務のために使用する中で,多くのバグが発見された。もっ
とも,プログラムに何らかのバグが存在することは当然に予想されていた
ものである(作成終了直後のBから被告宛ての電子メール(乙14)では,
「あと,半年から1年ぐらいバク修正や問い合わせに答えて頂くことを条
件に20万円追加で支払うというのはどうでしょうか?」との提案がある。
)。発見されたバグについては,Bから被告に対して,その修正等に関す
る多くの指示等がされた。
これらのバグは,DAVE042を使用してコンサルティング業務を行
っている原告従業員の指摘やこれを使用したコンサルティングを受けたク
ライアント病院の担当者からの指摘等に基づいて発見され,これらのバグ
等が発見されるごとに,Bから被告にその内容が伝えられた。Bの被告に
対する指示等は,クライアント病院での使用が進むにつれて,バグの修正
にとどまらず,利便性向上のための機能の追加等まで徐々にその数が増え,
五月雨式に行われるようになっていった。被告は,本業であるNTTデー
タでの仕事があり,DAVE042の開発にいわば片手間として関与して
いるという認識でもあったことから,そのように五月雨式に伝えられるB
の指示等への対応に苦慮するようになった。そのため,被告は,Bに対し
て,平成16年8月末ころ,バグの修正等の指示等について,依頼事項と
優先順位を整理して連絡して欲しいと伝え,同月31日以後は,Bの被告
に対する指示等は,オーダー依頼票という形式で行われるようになった
(乙29 )。
そして,このようなBの被告に対するバグの修正の指示等は,被告が原
告に入社するまでの間,バグが発見されるごとに,また,機能の追加等の
必要が生じるごとに,Bから被告に対して伝えられた(甲65の1ないし
3,77の1ないし3,79,83の1・2,87の1ないし3,88,
89,91,94,96,104,107の1・2,108の1ないし3,
109の1・2,110の1・2,111の1・2,112,113の1
・2,114ないし116,192 )。
しかし,これらの修正依頼によって,プログラムの骨格を成す,プログ
ラムやデータベースの基本的な構造に変更が加えられることはなかった。
Bの被告に対する指示の中には,プログラムの修正を必要とするものも
含まれていたが,それらの修正依頼が必要になったのは,Bを始めとする
原告において,DPCに関する情報や理解に不十分,不正確なところがあ
り,そのため,Bの被告に対する指示や依頼,あるいは被告に提供された
情報に不十分,不正確な点があったことなどによるものであった。
(6) DAVE042のクライアント病院への提供の開始
原告では,平成16年5月以降,クライアント病院に対するコンサルティ
ング業務を行うに当たり,DAVE042を使用していたが,その際,クラ
イアント病院の担当者らにDAVE042の機能を紹介するなどしていた。
原告からDAVE042の機能の紹介を受けたクライアント病院は,その当
初から,原告に対して,DAVE042を販売して欲しいという要望を寄せ
ており(乙34 ),DAVE042の提供を受けて自ら使用したいという要
望は,平成16年9月ころ以降,原告に強く寄せられるようになった。
被告は,Bから,平成16年9月ころ,クライアント病院からそのような
強い要望が寄せられていることを聞かされた。被告は,Bに対して,平成1
6年5月26日,DAVE042の商用版(クライアント病院への提供版)
が必要か聞いたことがあったが,原告以外の第三者がDAVE042を使用
することにより発生する可能性のある問題への懸念等もあったため,実際に
DAVE042をクライアント病院に提供することには消極的であった。し
かし,被告は,Bから,クライアント病院の強い要望があることを聞かされ,
また,原告としても,DAVE042を無闇にクライアント病院に配布する
つもりはない様子であったため,DAVE042をクライアント病院に提供
できるようにするため,原告に協力することとした。
被告は,DAVE042をクライアント病院に提供する方法として,病院
にサーバーを設置する構成を想定していたが,そのような方法によった場合,
比較分析のために必要となる他病院のDPCデータをサーバーに入れるわけ
にはいかないので,DAVE042の大きな魅力の1つであるベンチマーク
分析の提供ができなくなるのではないかということを懸念した。そこで,被
告は,DAVE042について,他病院のDPCデータをサーバーに入れる
ことなく,ベンチマーク分析の提供をできるようにする,原告の担当者が現
地のクライアント病院に赴くことなく,クライアント病院に設置したシステ
ムのバージョンアップを行うことができるようにするなどの機能を追加した。
また,被告は,クライアント病院に提供するプログラムの不正コピー防止の
ための処理や,ソースコードの難読化のための処理を行うなど,DAVE0
42のクラアント病院への提供に向けて,DAVE042に様々な機能の追
加を行った。
原告では,DAVE042をクライアント病院に提供する方法として,コ
ンサルティングサービスの一環として貸与し,コンサルティング料金とは別
の対価を徴収しない方法と,有償で貸与する方法との2つの方法を考えてい
た(乙127 )。
原告は,平成17年3月,まず,約15のクライアント病院にDAVE0
42をコンサルティングサービスの一環として提供(無償貸与)し,その後,
同年8月には,社会保険病院を統括する社団法人全国社会保険協会連合会
(全社連)との間で,DAVE042を有償で貸与する契約を締結した(乙
109 )。
この間のクライアント病院へのDAVE042の提供が始まるまでの間に,
Bは,原告の他の従業員(コンサルタント)と共に,全国のクライアント病
院を回り,DAVE042の使用方法に関する研修を精力的に行っていた。
このようなDAVE042のクライアント病院への提供に向けた作業が行わ
れている中でも,前記(5)イのようなDAVE042のバグ(DPCコーデ
ィングのエラー,収入計算のエラー)が発見され,それらの発見されたバグ
は,その都度,Bから被告に報告され,機能の追加等と併せて,被告がプロ
グラムを修正するという作業を繰り返しながら,DAVE042をクライア
ント病院に設置していった。
(7) 業務委託契約書の作成と報酬の支払
ア 業務委託契約書の作成
被告は,前記(4)イのとおり,原告からDAVE042の作成の報酬と
して50万円の支払を受けたが,その後,平成16年6月11日にNTT
データから兼業の許可を得たことから,その旨Bに伝え,原告との間で契
約書を作成することになった。
原告と被告は,平成16年6月から平成17年4月までの間に,要旨次
の内容の業務委託契約書(合計3通(乙10の1∼3 ))を作成した。な
お,この業務委託契約書は,原告が原告のアルバイト従業員との間で作成
している業務委託契約書(甲177,178)と,形態,内容において類
似するが,これらの者との間で作成した業務委託契約書には,被告が原告
との間で作成した業務委託契約書に別紙として添付されている,委託する
業務内容を個別に列挙して記載した業務委託仕様書のようなものは添付さ
れていない。
(ア) 業務委託契約書(乙10の1)
業務内容(詳細は別紙仕様書)
A DPC分析に関する業務支援
B その他原告のコンサルティング業務に必要な作業
業務委託期間 平成16年7月1日から同年11月30日まで
月額報酬 20万円(毎月25日払い)
直接経費 業務に係る被告の経費は,原告から被告に実費で精算され

別紙業務委託仕様書
1 DPC分析システム及びベンチマーク分析に関する業務
(1) システムコンサルティング業務
(中略)
(2) システム開発業務
① DPC分析システムサーバ構築
(中略)
② DPC分析システム機能改善,追加
(中略)
③ データベース構築
(中略)
(3) システム運用,サポート
(後略)
(イ) 業務委託契約書(乙10の2)
業務内容(詳細は別紙仕様書)
A DPC分析に関する業務支援
B その他原告のコンサルティング業務に必要な作業
業務委託期間 平成16年12月1日から平成17年3月31日まで
報酬 平成16年12月に100万円,平成17年1月から3月まで
50万円ずつ(毎月25日払い)
直接経費 業務に係る被告の経費は,原告から被告に実費で精算され

別紙業務委託仕様書
1 DPC分析システム及びベンチマーク分析に関する業務
(1) システムコンサルティング業務
(中略)
(2) システム開発業務
① DPC分析システム商用版作成
② DPCデータ暗号化ツール作成
(3) システム運用,サポート
(後略)
(ウ) 業務委託契約書(乙10の3)
業務内容(詳細は別紙仕様書)
A DPC分析に関する業務支援
B その他原告のコンサルティング業務に必要な作業
業務委託期間 平成17年4月1日から同年9月30日まで
月額報酬 40万円(毎月25日払い)
直接経費 業務に係る被告の経費は,原告から被告に実費で精算され

別紙業務委託仕様書
1 DPC分析システム及びベンチマーク分析に関する業務
2 グローバルヘルスコンサルティングジャパンに対するビジネスコ
ンサルティング業務
3 グローバルヘルスコンサルティングジャパンに対するセキュリテ
ィコンサルティング業務
イ 報酬の支払
原告は,被告に対して,業務委託契約書(乙10の1∼3)に基づく報
酬を含めて,被告が原告の取締役として入社するまでの間に,次の金員を
支払った(甲17,179,180,216,乙19,106 )。
・平成16年5月 50万円
・同年7月∼同年11月 各20万円(なお,10月と11月は各35万
円)
・同年12月 100万円
・平成17年1月∼同年3月 各50万円(なお,3月は別途10万円)
・同年4月∼同年8月 各40万円(なお,8月は被告が同月16日に被
告の取締役に就任したため半額の20万円。また,
別途合計215万円の報酬も支払われた(なお,
うち100万円は,ISMS認証取得に係わるコ
ンサルティング業務の対価として支払われたもの
である(甲216,乙106 ) ) )
。。
ウ 報酬の額について
2回目の業務委託契約(前記ア(イ))において,報酬の額が,平成16
年12月が100万円,平成17年1月から3月までが月50万円とされ,
1回目の業務委託契約書(前記ア(ア))の月額報酬20万円と比較して大
幅に増額された理由は,12月が近づいて原告の損益の見通しがついたこ
とや,被告の作業内容として,DAVE042のクライアント病院への提
供のための開発作業(前記ア(イ)の業務委託契約書の別紙業務委託仕様書
に記載された「DPC分析システム商用版作成 」 「DPCデータ暗号化ツ

ール作成」等)や,DAVE042の機能充実の作業といった具体的な案
件があったためである(乙18 )。
これに対して,3回目の業務委託契約(前記ア(ウ))においては,月額
報酬が40万円とされた。これは,次の経緯によるものである。すなわち,
Bは,原告代表者に対して,平成17年3月,同年4月以降の被告との契
約について,月額60万円の報酬としたいという提案をしたが,原告代表
者は,Bに対して,同年4月1日,月額30万円での調整を提案し,結局,
月額40万円で被告と調整するようにBに依頼した。原告代表者からこの
ような月額報酬が提案された理由は,平成17年3月に,DAVE042
のクライアント病院への提供が実現し,その後の開発業務の減少が見込ま
れ,その時点で被告に依頼する明確な作業が定まっておらず,具体的な案
件の依頼予定もなかったことや,時期的に原告のキャッシュフローがよく
なかったことであった 。(乙17,18)
Bは,被告に対して,平成17年4月2日,更新する契約について,月
額報酬40万円で6か月とし,DAVE042の機能改善,原告に対する
ITコンサルティング,セキュリティ強化の支援などを内容とする基本契
約を結び,例えば,第2のDAVE042のような新規システムの開発な
ど大きな作業が出てくる場合には,追加で別契約を締結するという方法を
提案した(乙20 )。
被告は,それまでの作業で原告のために相当な時間を費やしてきたこと
や被告の貢献により原告の営業活動を拡大させてきたという自負があった
ことから,Bから報酬月額を40万円としたいという原告の提案を聞かさ
れて,それまでの月額50万円から,増額ではなくむしろ減額されるとい
うことに不満を抱くとともに,Bに対して,そのような不満を伝えたほか,
原告の対応次第では,被告の原告に対する支援についても考え直したいと
いう意向も伝えた。被告の意向を聞いたBが,原告代表者やCに被告の意
向を伝えたところ,被告は,原告代表者,Cから食事の招待を受け,Cら
から,契約条件が良くないことについての詫びや今後も支援を継続して欲
しいとの要望を伝えられるとともに,短期的なボーナスの支払やストック
オプションの提供なども視野に入れているとの考えも伝えられた。被告は,
原告代表者及びCに対して,被告としても,無理に現金を支払わせて原告
の経営に悪影響を及ぼすことは本望でないことを伝えるとともに,ストッ
クの提供を受けたいとの要望を伝え,平成17年4月から同年9月までの
6か月,月額40万円という報酬で業務委託契約を締結することを了承し,
同年4月中旬ころ,業務委託契約書を作成した 。(乙104,105)
(8) 被告の原告への入社
被告は,平成16年12月から平成17年3月にかけて行われたNTTデ
ータの次期ビジョンの策定プロジェクトで,次の社長候補といわれていた当
時の副社長(後に社長となる)の経営者としての考えに失望するなどしたこ
とから,NTTデータの将来に希望がもてなくなっていた。そのような中で,
被告は,平成17年6月上旬,C,Bが,病院を訪問してDAVE042の
デモンストレーションを行う席に同行し,DAVE042に触れた病院の反
応を直接に感じることができたことや,同月下旬,米国グローバルヘルス・
コンサルティング社を訪問した際に,Cから,原告の経営に参加して欲しい
との強い誘いを受けたことなどから,原告に入社する意向を固め,同年7月
上旬,Cと共にクライアント病院への訪問を終えた帰りがけに,その意向を
Cに伝えた。
Cは,原告の従業員らに対して,その日のうちに被告が原告に参画するこ
とになったことを電子メールで伝え,被告は,原告代表者やBから,歓迎の
電子メールをもらった。
被告は,原告から,平成17年7月14日,原告のメールアドレスを与え
られた(甲119 )。
被告は,NTTデータを退社する日が平成17年8月15日となったこと
から,その翌日から,原告に取締役として入社することになった。
被告は,原告に入社するに当たり,原告から,役職はCIOであり取締役
となることや報酬に関する説明を受けるとともに,年金や社会保険の切替え
など多岐にわたって説明を受けたが,DAVE042や被告が原告に入社後
に作成するプログラムの権利関係について,原告から説明を受けることはな
く,また,原告との間で,それらの権利関係についての話をすることもなか
った。
また,原告では,原告の各従業員が各自の自宅等で必要な作業を行い,各
従業員相互の連絡は,原則として電子メールや電話で行い,原告の広尾のオ
フィス(アメリカを拠点に活動しているCの日本の滞在先でもあった 。)は ,
基本的に打合せや会議の場として使用するという,いわゆるホームオフィス
制を採用していたところ,被告は,原告から,原告への入社を機に,原告の
広尾にあるオフィスの鍵を与えられ,その利用が許されたが,自宅等で必要
な作業を行うという被告の業務の形態自体は,被告が原告に入社する前後で,
大きな変化はなかった。
(9) 被告によるDAVE−Pro,DAVE−CP及びDAVE−DRUG
の作成
ア DAVE−CPの開発
被告は,DAVE042の開発当初から,DPCデータの分析の先には,
クリティカルパス(診療・看護計画)の提供があるという認識を有してい
たところ,Bから伝えられた原告の発意に基づいて,平成17年8月,ク
リティカルパス提供のためのプログラムの開発に着手した。
被告は,クリティカルパス提供のためのプログラムの開発には,作成し
たプログラムを実際に利用し,改善点をフィードバックしてくれる病院が
必要と考えていたところ,Cの調整によって,日本でクリティカルパスの
先端を行く病院の協力が得られることになった。しかし,同病院からは結
局被告が望むような協力が得られなかったことなどから,原告では,原告
のプログラム開発に理解を示してくれる別の病院の協力を得て,クリティ
カルパス提供のためのプログラムの開発を継続することになった。そして,
DAVE−CPは,これらの病院の協力の下で,平成17年12月に完成
した 。(乙33)
イ DAVE−Proの開発
前記アのとおり,DAVE−CPは,病院の協力を得ながら完成させた
ものであったことから,これを原告の顧客に提供するためには,原告の顧
客に提供することについて,協力を依頼した病院の理解を得ることが必要
であったところ,当初に協力を依頼した病院との関係等から,DAVE−
CPを顧客に提供することは難しい状況であった。そのため,原告では,
原告の発意に基づいて,クリティカルパス提供のためのプログラムを顧客
に提供できるようにするために,被告が,DAVE042にDAVE−C
Pの機能を一部抜き出して組み込むなどして,DAVE042をバージョ
ンアップさせたDAVE−Proを作成した。
ウ DAVE−DRUGの開発
原告代表者とBは,かつてジョンソン&ジョンソン株式会社に勤務して
いた当時,薬剤の削減を目指すコンサルティングに関与していた。そして,
原告においても,このような薬剤のコスト削減のコンサルティングを行う
ことを幹部会議で決定し,薬剤削減シミュレーションを自動化するための
プログラムの開発が発案された。被告は,その発案に基づいて,平成17
年10月から同年11月にかけて,DAVE042をベースとして,DA
VE−DRUGを作成した。
(10) 表示画面への被告の名称表示
被告は,作成した本件各プログラムの表示画面に ,( c)2004−20

05 Global Health Consulting」に続けて
「 c)2004−2005
( ●●」との表示がされるようにプログラミン
グしていた(乙1の1ないし4 ) 「●●」とは被告の名前である「 略 〉
。 〈 」の
冒頭2文字をアルファベット表記したものであり,被告は ,「●●」という
表示を,私用のメールアドレスの表記として使用していたほか,原告に在籍
中の原告のメールアドレスの表記としても使用しており,原告代表者,Cを
含め原告の関係者は,被告が「●●」という表記を,自己を表示する表記と
して使用していることを認識していた(甲119 )。
この「 c)2004−2005
( Global Health Con
sulting ,(c)2004−2005 ●●」との表示は,原告内部
において使用されるプログラムの表示画面だけでなく,原告のクライアント
病院に提供されるプログラムの表示画面にも表示されていた。被告は,B,
原告代表者,Cほか原告の関係者から,この表示について異議を述べられた
ことはなかった。原告代表者は,このような表示がされていることについて,
Cに相談したことがあったが,Cから,この点を被告に指摘して,被告の協
力が得られなくなっては困るという懸念が示されたため,被告に指摘するこ
とはしなかった。
(11) 本件各プログラムのソースコード
被告は,原告に対して,平成16年5月2日には,作成したDAVE04
2を提供し,その後,DAVE042は,平成17年7月ころまでの間,適
宜,バグの修正や機能の追加等の変更が行われたが,その間,原告から,D
AVE042のソースコードの提出を求められることはなかった。また,原
告は,平成18年2月,Bと被告から原告を退職したいという意向を表明さ
れ,その後,原告と被告との間が係争関係となった後の同年3月ころになっ
て,初めて被告に対して本件各プログラムのソースコードの提出を求めるよ
うになった。
(12) 被告が原告に入社する前の行動等
被告は,平成17年3月,原告がDAVE042をクライアント病院に提
供する際,クライアント病院との連絡において,自らを「グローバルヘルス
コンサルティングのA」と名乗っていた。また,そのころ,被告は,原告か
ら,原告のITインフラの整備やセキュリティ対策も任されていたが,調整
先の業者と連絡をとる際,自らを「グローバルヘルスコンサルティングのA
」と名乗っていた。
さらに,被告は,平成17年5月,原告の人事採用面接に同席した。これ
は,ITスペシャリストの応募であり,採用することになった場合,被告と
の間で原告側の対応の窓口になる可能性が高かったため,原告から同席を求
められたためであった。
2 争点(1)ア(DAVE042につき被告が原告の「業務に従事する者 」(著作
権法15条2項)に該当するか否か)について
(1) 判断基準
本件各プログラムは,プログラムの著作物であるところ(前記争いのない
事実(3)),プログラムの著作物につき,著作権法15条2項の規定により,
法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に
従事する者」であることを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこ
れに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同
項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作
成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務
を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提
供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価
の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきも
のと解するのが相当である(最高裁判所平成13年(受)第216号平成1
5年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照 )。
本件において,被告は,被告がDAVE042を作成した当時,NTTデ
ータに勤務しており,原告との間で雇用関係にあったと認めるに足りる証拠
はない(この点,原告も,その当時,形式的には被告が原告の被雇用者でな
かったことを争っていない(前記第3の1(原告の主張 ) 。 。そこで,以下,
))
被告がDAVE042を作成した当時,原告と被告との関係を実質的にみて,
被告が原告の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,原告が
被告に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,
業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を
総合的に考慮して検討する。
(2) 検討
ア 被告によるDAVE042の作成は,被告とBとの個人的な友人関係を
基礎として始まったものであり,原告と被告との関係は,原告が被告を指
揮監督することを想定したものでなかったことについて
前記1(1)ないし(3)で認定したとおり,被告は,当初,BからDPCに
関するプログラムの作成を依頼され,これを契機として,Bを通じて,原
告からDAVE042の作成を依頼されることになったものである。そし
て,DAVE042の作成を依頼されるきっかけとなった,当初のBの被
告に対するDPCに関するプログラムの作成依頼は,被告がエクセル版の
プログラムを作成した際,Bから被告に商品券が送付されたほかには,原
告と被告との間で,被告の作成したプログラム(エクセル版のプログラム
)について,報酬の話が全くされていないといった事実等にも現れている
とおり,被告とBとの個人的な友人関係を基礎とするものであったという
ことができる。
このように,被告のDPC分析プログラム作成への関与が被告とBとの
個人的な友人関係を基礎として始まっていることに照らして,原告と被告
との関係は,当初から,原告あるいはBが被告に対して指揮監督を行った
り,被告が原告あるいはBの指揮監督を受けるといったことが想定された
ものでなかったと認められる。プログラム作成依頼の当初において,原告
が被告に対して指揮監督を行うことが想定されていなかったことは,前記
1(3)で認定したとおり,原告代表者が被告に対して,機密保持契約を締
結したいと持ちかけた際に,被告が原告代表者に対して,被告が原告のプ
ログラム開発への関与(この関与について,被告は ,「B様のご依頼のも
と,あくまで個人としてご支援させていただいております 。 (乙7)とし

て,「支援」と称していた 。)について,支援を中止することも含めて機密
保持契約の締結についての再検討を促していることや(その後,機密保持
契約は締結されないまま放置された 。 ,前記1(4)で認定したとおり,原

告は,被告に対して,当初の50万円の報酬について,秘密保持契約と共
に業務委託契約の契約書を作成した上で支払いたいとの意向を伝えたが,
被告から,契約書の作成に難色を示されたことから,そのような被告の意
向を踏まえて,これらの契約書を作成することなく,当初の報酬50万円
の支払に応じていることなどにも現れているところである。
以上のとおり,被告によるDAVE042の作成は,被告とBとの個人
的な友好関係に基づいて始まったものであり,DAVE042の開発に関
する原告と被告との関係は,原告が被告の指揮監督を行うといったことが
想定されたものではなかったと認めることができる。
イ 原告は,平成16年5月2日までの原告の被告に対する指示等の具体的
な内容について何ら主張立証しておらず,また,原告の被告に対する指示
等も,原告と被告との指揮監督関係を基礎付ける事実といえないことにつ
いて
(ア) 前記1(4)及び(5)で認定したとおり,被告は,平成16年5月2日
に,原告から依頼を受けたDPC分析プログラムであるDAVE042
の作成を終えて,原告にこれを交付し,原告は,被告に対して,当初の
報酬である50万円を支払った上で,その後すぐに,これをクライアン
ト病院に対するコンサルティング業務等で使用を開始し,対外的にも,
DAVE042をコンサルティング業務に積極的に活用していることを
紹介している。これらのことからすると,DAVE042は,平成16
年5月2日に被告から原告に交付された段階で,DPC分析プログラム
として完成していたと認めることができる。
この点,原告は,被告がDAVE042の作成作業を開始した平成1
6年4月11日ころから同年5月2日ころまでの間に,原告が被告に行
った指示等の内容について,資料等が存在しないなどとして,何ら具体
的な主張立証をしていないから,この間(DAVE042がDPC分析
プログラムとして完成するまでの間)に,原告が被告に対して,何らか
の指示等を行ったと認めることはできない。
(イ) 原告は,DAVE042の開発は,原告の個別かつ具体的な指示が
予定されたものであり,実際にも,DAVE042は,そのような指示
等に基づいて開発されたものであるとし,平成16年5月2日に作成を
終えたDAVE042についても ,「たたき台のプログラム」としての
「初期版」と称して,その後に原告から被告に対して継続的に指示等が
されたことが,原告の被告に対する指揮監督を基礎付ける事実であると
主張する。
しかしながら,平成16年5月2日より後に,DAVE042のプロ
グラムの骨格を成す,プログラムやデータベースの基本的な構造に変更
が加えられたことはなく,DAVE042が同日に完成していたことは,
前記(ア)のとおりである。したがって,プログラムの完成後にその指示
等によりプログラムの一部の修正がされたとしても,その指示等は,プ
ログラムの著作権の帰属に変動をもたらすような原告の被告に対する指
揮監督を基礎付ける事実ということはできない。
また,仮に,原告の主張するように,DAVE042の完成が平成1
7年7月であることを前提としても,前記1(5)で認定したとおり,原
告の被告に対するこのような継続的な指示等が必要となった理由は,次
のような事情に基づくものであり,このような指示等が行われたことを
もって,被告が原告の指揮監督下において労務を提供するという実態に
あったか,原告が被告に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評
価できるかの判断において,原告の被告に対する指揮監督を基礎付ける
積極的な事実と解することはできないというべきである。
すなわち,原告自身が,DAVE042の作成に当たり,原告と被告
との間で要件定義や見積もりがされていないことや,原告と被告との間
で作成した業務委託契約書に納品すべき成果物等が記載されていないこ
とをこの訴訟において指摘するとおり,原告が被告にDAVE042の
開発を依頼するに当たり示した内容は,Bが作成した,開発するプログ
ラムについて要望する機能を記載した書面や,他社が既に提示している
コンセプトの記載された書面程度にすぎず(前記1(3) ),これにBから
被告に対して説明等が補足されていることを考慮に入れたとしても,そ
の説明内容が,プログラムの開発を依頼にするに当たって当然に必要と
される説明の範囲として十分なものであったと認めるに足る証拠はない。
そして,前記1(5)で認定したとおり,原告の被告に対する継続的な指
示(依頼)は,原告におけるDPCに関する情報や理解に不十分,不正
確なところがあり,そのため,Bの被告に対する指示や説明等に,不十
分,不正確な点があったことが要因となっている。このように,これら
の継続的な指示(依頼)は,被告によるDAVE042の作成が,被告
とBとの個人的な友好関係を基礎として行われたという事情が継続して
いる状況下で,Bの被告に対する指示や説明の内容を事後的に補足する
という性格のものであり,このような原告による継続的な指示(依頼)
がされていたことをもって,原告の被告に対する指揮監督を基礎付ける
積極的な事実ということはできない。
(ウ) このように,原告がたたき台と称するDAVE042の初期版が作
成された平成16年5月2日までの間に,原告から被告に対して行われ
た具体的な指示等が何ら主張立証されておらず,また,その後に原告か
ら被告に対して継続的に行われた指示等についても,原告と被告との指
揮監督関係を基礎付ける積極的な事実と認めることはできないから,D
AVE042の開発が当初から原告の個別かつ具体的な指示が予定され
たものであり,実際にも,その指示がされたという原告の主張は,採用
することができず,また,平成17年7月ころまで継続的に行われた原
告の被告に対する変更,修正の指示等が,原告の被告に対する指揮監督
を基礎付けるものであるという原告の主張は,採用することができない。
ウ 業務委託契約書の作成と対価の支払について
(ア) 前記1(7)及び(8)で認定したとおり,原告と被告との間で,平成1
6年6月から被告が原告に取締役として入社するまでのわずか1年余り
の期間について,3回にわたり業務委託契約書が作成され,契約が更新
されているところ,当該契約書には,被告に委託すべき業務の内容が記
載された業務委託仕様書が別紙として添付され,その内容は,契約が更
新されて契約書が作成されるごとに,異なるものとなっており,また,
月額報酬の額も,契約が更新されて契約書が作成されるごとに,大きく
増減している(1回目は月額20万円,2回目は月額50万円,3回目
は,Bの60万円という増額提案,原告代表者の30万円という減額提
案を経て,最終的に月額40万円として決着している 。 。

これらによれば,原告と被告との間では,契約を更新し,これらの業
務委託契約書を作成するごとに,その都度,被告に委託すべき業務内容
が検討され,委託すべき業務内容を別紙として添付した業務委託仕様書
に個別に列挙して記載し,その業務内容の重要度や被告の負担,作業量
等に応じて,月額報酬という形式により,被告に支払うべき報酬額が各
別に決められていたものと認めることができる。
このような,原告が被告に委託する業務内容の決定や,原告が被告に
対して支払う対価の額の変動(増減)に照らせば,原告が被告に支払っ
た対価は,原告が被告に委託した業務内容や被告のした成果に対する対
価の性質を有するというべきであって,被告が原告に提供した労務の対
価の性質を有するということはできない。
(イ) この点,原告は,雇用契約であるアルバイト社員との間でも「業務
委託契約書」と題する契約書を作成していたと主張する。
しかしながら,原告が被告との間で作成した業務委託契約書(乙10
の1ないし3)は,原告が雇用契約であるアルバイト社員との間で作成
したとする「業務委託契約書 」(甲177,178)と,業務委託契約
書自体の体裁には類似する点が認められるものの,原告が被告との間で
作成した業務委託契約書には,別紙として業務委託仕様書が添付され,
この別紙に委託すべき業務の内容を個別に列挙して記載している点にお
いて,両者の内容は異なっており,このような相違は,アルバイト従業
員の業務内容と被告が原告から依頼された業務内容とが異なるものであ
ったことを示すものというべきである。そして,原告代表者は,Bから
被告との間で作成する契約書案のひな形があるかとの問い合わせを受け
た際,既に原告のアルバイト従業員との間で作成していたこれらの業務
委託契約書ではなく,会社にソフトウェア開発の続きを依頼する際の契
約書案を参考として送付しており,このことは,原告としても,原告と
被告との関係,被告との間で締結する契約,被告に依頼する業務内容が,
原告とアルバイト従業員との関係,アルバイト従業員との間で締結する
契約,アルバイト従業員に行わせる業務内容とは異なるものであるとい
う認識であったことを表すものということができる。
したがって,原告が雇用契約であるアルバイト社員との間でも「業務
委託契約書」と題する契約書を作成していたとの原告の主張は,原告と
被告との関係が指揮監督関係であったことを基礎付けるものということ
はできない。
(ウ) また,原告は,原告の経理上や被告の税務申告上,被告への対価の
支払がアルバイト代として処理され,源泉徴収税が控除されていたこと
などを主張する。
しかしながら,被告と原告との間に雇用関係があったと認めるに足り
る証拠がなく,原告も,形式的には被告が原告の被雇用者でなかったこ
とについて争っていないことは,前記(1)で述べたとおりである。そし
て,被告への対価の支払に関して原告の主張するような形態がとられた
理由について,原告の経理上の都合,理由に基づくということ以上に,
原告と被告との間の指揮監督関係を基礎付けるような積極的な事情も何
らうかがわれない。
したがって,本件において,被告への対価の支払について,原告がア
ルバイト代として処理するなど,原告の主張するような形態がとられて
いたとしても,被告が原告の指揮監督下において労務を提供するという
実態にあったといえるか,原告が被告に対して支払う金銭が労務提供の
対価であると評価できるかの判断において,原告と被告との指揮監督関
係を基礎付ける事実として,さほど意味のあるものということはできな
いというべきである。
エ 原告は,被告が原告に取締役として入社する以前,被告を外部の者と扱
っていたことについて
前記1(8)で認定したとおり,被告は,原告への入社の意向を固めこれ
を原告に伝えた後である平成17年7月14日ころまでの間,原告のメー
ルアドレスを与えられていなかったことや,原告に入社するまでの間,原
告の広尾のオフィスの鍵を与えられていなかったことのほか,原告が対外
的に提出した平成17年5月15日作成の原告の組織図(乙16)によれ
ば,原告は,原告のサーバーのホスティングを行っている会社等と並んで,
被告を「主な外部委託先」として表示していたことなどが認められる。こ
れらによれば,原告は,被告が原告に取締役として入社する以前は,被告
を外部の者と扱っていたことが認められ,また,被告の待遇は,原告のア
ルバイト従業員のそれとも異なるものであったことから,アルバイト従業
員とも異なる立場の者と扱っていたことを認めることができる。
なお,原告は,被告が原告の「業務に従事する者」であったことを基礎
付ける事実として,被告が,原告の取締役に就任する以前から「グローバ
ルヘルスコンサルティングのA」と名乗っていたこと(甲130ないし1
32)や,原告の人事採用面接に同席していたことなどを主張する。
しかしながら,甲130ないし甲132は,被告が,原告において導入
を検討しているITサービスに関して,外部の業者に対して電子メールで
連絡するに当たり ,「グローバルヘルスコンサルティングのA」と名乗っ
たものにすぎず,IT業界においては,システム開発を外部の専門業者に
委託した際に,当該外部の専門業者が委託者の名前を名乗ることも珍しい
ことでないことも考慮すると(乙33 ),被告がこのように名乗ったこと
について,外部の業者に対する問合せの便宜ということ以上に,被告が原
告の従業員であることを自ら認識していたとか,それを対外的に表明して
いたことを示すものということはできない。また,被告が原告の人事採用
面接に同席したのも,これを採用した場合には,採用した者が原告におけ
る被告との窓口になる可能性があったことから,原告から同席を求められ
たからにすぎないのであって,これをもって,被告が原告の「業務に従事
する者」であることを基礎付ける積極的な事実ということはできない。
オ その他の原告の主張について
原告は,被告の作成した電子メール(甲4,13,143 ),原告ある
いはBがDAVE042を開発したという雑誌の掲載記事(甲11,12,
135)などを根拠として,被告がDAVE042の著作権が原告にある
ことを認めるような行動をしており,本件訴訟における被告の主張に反す
ると主張する。
しかしながら,被告の作成した電子メール(甲4,143)は,その記
載内容に照らして,いずれも原告とクライアント病院との関係における権
利関係を念頭において作成されたものであって,原告と被告との間におけ
る権利関係を念頭に置いたものとは認められない。そして,前記1(10)で
認定したとおり,DAVE042の表示画面には ,( c)2004−20

05 Global Health Consulting」に続けて
「 c)2004−2005
( ●●」との表示がされており,これは,被
告が,自己を表示する名称が表示画面に現れるようにプログラミングした
ものであること,前記1(3)で認定したとおり,被告は,DAVE042
の開発をBから依頼された当初から,開発プログラムの著作権の帰属とい
う問題を意識していたことなども考慮すれば,これらの電子メールの記載
をもって,被告が,原告と被告との関係で,原告にDAVE042の著作
権が帰属しているという認識を有していたことを示すものということはで
きない。
また,被告の作成した電子メール(甲13)も ,「ソースについては,
権利さえ譲らないのであれば,先方に提供することは絶対に許容できない
ことではありません 。」と記載されているとおり,むしろ,被告が,本件
各プログラムの著作権を有するという認識を有していたことをうかがわせ
るものである(前記1(11)で認定したとおり,そもそも,原告は,被告と
の関係が係争状態になった平成18年3月ころまで,被告から本件各プロ
グラムのソースコードの開示を受けておらず,これを開示するように求め
ることもしていない 。 。

そして,雑誌の掲載記事(甲11,12,135)は,原告あるいはB
がDAVE042を開発したことを対外的に公表するものであり,著作権
の帰属について記載されたものでないだけでなく,いずれの掲載記事も,
被告がNTTデータに正社員として勤務していた当時に発行されたもので
あり,被告として,原告やBに対して,被告の関与が記載されていないこ
とについて積極的に異議を述べる状況ではなかったということができるか
ら,これらの雑誌記事が掲載されたことや,これらについて被告が何らか
の異議を述べていないことをもって,被告が原告にDAVE042の著作
権が帰属するという認識を有していたことを示すものということはできな
い。
カ 小括
以上検討したところによれば,原告と被告の関係は,被告が原告の指揮
監督下において労務を提供するという実態にあったということはできず,
原告が被告に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価することも
できない。そして,被告が原告の「業務に従事する者」であることを基礎
付ける事実として原告の主張する事実は,前記アないしオで説示したとお
り,いずれも,これを基礎付ける事実ということができないものであるか,
あるいは周辺的な事情にすぎないものであり,他方で,被告が原告の「業
務に従事する者」でないことを示す多数の事実が認められる。これらの事
実を含む前記1で認定した具体的事情を総合的に考慮すれば,被告は,D
AVE042が作成された当時,原告の「業務に従事する者」であったと
認めることはできないというべきである。
したがって,DAVE042について被告が原告の「業務に従事する者
」(著作権法15条2項)に該当するとはいえないから,この点について
の原告の主張は,理由がない。
3 争点(1)イ(DAVE042につき原告と被告の著作権譲渡の合意が成立し
た否か)について
(1) 原告は,DAVE042につき,被告が平成17年8月に原告に入社し
た時点,あるいは被告がCに電子メールを送付した平成17年12月17日
時点において,被告から原告に譲渡する合意が成立していると主張する。
(2) しかしながら,前記1(3)で認定したとおり,被告は,BからDAVE0
42の開発の依頼を受けた当初から,開発するプログラムの著作権を被告に
帰属させることを条件として提示しており,開発するプログラムの著作権の
帰属について関心を持っていたこと,前記1(8)で認定したとおり,被告が
原告に入社するに当たり,原告と被告との間で,DAVE042や被告が原
告に入社後に作成するプログラムの権利関係について,やりとりがされるこ
とはなかったこと,前記1(10)で認定したとおり,被告は,DAVE042
の表示画面に ,( c)2004−2005
「 ●●」と被告を表示する名称が
表示されるようにプログラミングしており,原告に入社した後に作成したD
AVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−CPの表示画面にも,
同様の表示がされるようにプログラミングしていたこと,前記1(11)で認定
のとおり,被告は,原告との関係が係争状態になった平成18年3月ころま
での間,原告に本件各プログラムのソースコードを開示しておらず,原告も,
被告に対して,これを開示するように求めていないことなどからすれば,原
告の主張する前記の各時点において,原告と被告との間で,DAVE042
の著作権を被告から原告に譲渡する合意が成立したと認めることはできない。
なお,原告は,平成17年12月17日に被告がCに送付した電子メール
(甲143)において,被告が「現在でも,DAVEはGHCの資産であり
」と記載している点を指摘するが,その後に続く ,「病院への貸与であり,
病院に売っているわけではない。あくまでコンサルティング契約の範疇であ
る。」との記載や,その前後の文脈からも明らかなとおり,原告が指摘する
記載部分は,原告とクライアント病院との関係を問題にした記載の一部分を
取り出したものにすぎず,この記載をもって,被告が,原告と被告との関係
でDAVE042の著作権が原告に帰属することを表明したものであるとか,
原告にDAVE042の著作権を譲渡する意思を表明したものであるという
ことはできない。
また,被告の作成した電子メール(甲4,13)や原告あるいはBがDA
VE042を開発したという雑誌の掲載記事(甲11,12,135)など
が,原告と被告との間の著作権譲渡の合意や被告の原告に対する著作権譲渡
の意思を表すものでないことは,前記2(2)オにおいて説示したのと同様で
ある。
(3) ところで,前記1(5),(6)のとおり,DAVE042は,平成16年5
月ころから,原告内部においてクライアント病院に対するコンサルティング
や分析報告のために利用が開始され,平成17年3月には,クライアント病
院に無償で,同年8月にはクライアント病院に有償で提供(貸与)されるよ
うになった。
しかし,このことは,被告が原告にDAVE042の著作権を譲渡してい
たことを示すものとはいえない。被告は,DAVE042の開発の当初から,
その著作権の帰属については強い関心を示していたが(前記1の(3)イ(ア)
(エ)),その利用の許諾により被告が収益を上げることについて強い関心を
有していた様子はうかがわれない。被告は,原告の取締役に就任する以前は
業務委託による報酬を,また取締役就任後は,比較的高額の取締役報酬を得
ていたところから,特に利用許諾による収益という形式をとった分配につい
て積極的に主張することはなかったと考えられる。
他方,原告においても,被告からDAVE042の利用について異議が述
べられなければ,当面事業を進めるについては支障がなかったのであり,被
告がDAVE042の著作権が自己に帰属していることについての明確な主
張を有することを知っていた原告としては,トラブルを避けるためにも,D
AVE042の著作権の帰属については明確にしないまま事業を進めたもの
と理解される(前記1の(3)イ(ウ),(10) )。
(4) したがって,DAVE042につき原告と被告との間で著作権譲渡の合
意が成立したという原告の主張は,理由がない。
4 小括(DAVE042について)
以上によれば,DAVE042の作成者である被告が,DAVE042の著
作者であり,その著作権を有すると認められ,原告がDAVE042の著作権
を有すると認められないから,争点(1)ウ(DAVE042について,原告と
被告との間に「別段の定め 」(著作権法15条2項)があるか否か)について
判断するまでもなく,原告がDAVE042の著作権を有することの確認請求
は,理由がない。
5 争点(2)(DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−CPにつ
いて,原告と被告との間に「別段の定め 」(著作権法15条2項)があるか否
か)について
前記第2の1争いのない事実等(3)ウのとおり,DAVE−Pro,DAV
E−DRUG及びDAVE−CPは,原告の発意に基づき原告の業務に従事す
る被告が職務上作成したプログラムであるところ,被告は,著作権法15条2
項の「別段の定め」を主張するので,この点について検討する。
(1) 被告は,被告とBとの間で送受信された平成16年4月11日の電子メ
ール(乙5)を根拠として,被告は,原告(その担当取締役であるB)との
間で,被告が開発するプログラムの著作権を被告が有することを明示的に合
意(本件合意)し,これにより,被告が開発する一連のプログラムについて,
被告が著作権を有する旨の合意が成立していたから,被告が原告に入社後に
作成したDAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−CPについ
ても,本件合意が「別段の定め 」(著作権法15条2項)として効力を有す
ると主張する。
(2) しかしながら,前記2(2)アで説示したとおり,DAVE042の作成を
依頼されるきっかけとなった,当初のBの被告に対するDPCに関するプロ
グラムの作成依頼は,被告とBとの個人的な友人関係を基礎とするものであ
り,被告とBとの間でやりとりされた電子メール(乙5)も,被告とBとの
個人的な友人関係を基礎として,そのような関係の中で交わされたやりとり
にすぎない。
この点,前記1(3)で認定したとおり,Bは,被告に対して,開発するソ
フトの著作権の問題のほか,いくつか示された条件について ,「条件につい
ては100%OKです 。 ,
」 「条件は動物の要望どおりでいいですよ 。」などと
記載した電子メール(乙5)を送付しているが,その後に,原告代表者に送
付した電子メール(乙6)では,被告との合意が成立したという報告ではな
く,著作権の帰属については ,「著作権は彼が有したいと言っています 。」と
記載し,報酬を含めたその他の条件についても,被告との調整が必要である
ことを前提として,Bがどのような内容を考えているのか記載するにとどま
っている。このことは,Bとしても,乙5の電子メールのやりとりは,被告
との個人的な友人関係を基礎として交わされた双方の要望の伝達,あるいは
調整,相談といった域を出るものでなく,乙5の電子メールを交わしたこと
によって,開発するソフトの著作権の帰属を含めて,被告との間で何らかの
明確な合意がされたという認識でなかったことを示している。
また,前記1(3)で認定したとおり,被告は,原告代表者からの機密保持
契約の締結を要請する電子メールに対して,被告が原告のプログラム開発に
関与するスタンス(条件)について ,「※詳細は,以前,B様にメールを致
しております 。」と記載した上で,今後の進め方について,被告の関与(支
援)の中止も示して原告代表者に検討を促している。このことは,被告とし
ても,Bとの間で交わした乙5の電子メールは,個人的な友人関係を基礎と
して交わされたものであり,Bとの間でやりとりした電子メール(乙5)に
よって,そのような友人関係にあるBに対して被告の要望,意向を提示して
いるということ以上に,Bとの間で既に何らかの約束が交わされ,合意がで
きているという認識でなかったことを示している。
このように,被告とBとの間で送受信された平成16年4月11日の電子
メール(乙5)は,Bが被告に対して個人的な友人関係を基礎として依頼し
たプログラムの開発について,被告からBに対して,依頼を受ける条件とし
て,開発するプログラムの著作権の帰属に関する要望が伝えられ,Bとして
も,友人関係にある被告の要望を受け入れる内容で話を進めたいという考え
を被告に伝えたものにすぎないものというべきであって,原告が被告に開発
を依頼するプログラム(DAVE042)の著作権の帰属のほか報酬を含め
た他の条件についても,Bと被告との間で,あるいは原告と被告との間で,
何らかの合意が成立したということはできない。まして,その時点で具体的
な開発予定が定まっておらず,開発に着手すらしていなかったその他のプロ
グラム(DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−CP)の著
作権についても,被告に帰属させることとする合意が成立していたというこ
とは,到底できないし,また,当該メールのやりとりがされた時点では,被
告が原告に入社することなど想定もされていなかったのであるから,被告が
原告に入社した後に作成するプログラムの著作権に関して何らかの合意がさ
れたということも,到底考えられない。
よって,被告の前記主張は,採用することができない。
(3) その他の被告の主張について
ア 被告は,電子メール(乙6ないし8)のやりとりなどを根拠として,原
告代表者は,被告がDAVE042の著作権を有することを承認していた
と主張する。
しかしながら,乙6の電子メールにおいて,原告代表者は ,「火曜日に
相談いたしましょう 。」としており,これをもって,異議を述べていない
とか,被告が著作権を有することを承認していたということはできないし,
また,乙7,8の電子メールも,機密保持契約の締結を主題としてやりと
りされたものであり ,「当方の成果を横取りされないこと」との記載があ
り,原告代表者が,これについて何の言及もしていないからといって,被
告が著作権を有することについて異議を述べていないとか承認していたと
いうことはできない。
よって,被告の前記主張は,採用することができない。
イ 被告は,電子メール(乙17)などを根拠として,原告の経営を実質的
に支配する取締役であるCも,被告がDAVE042の著作権を有するこ
とを承認していたと主張する。
しかしながら,前記1(7)で認定したとおり,3回目の業務委託契約を
締結するに当たり,2回目の業務委託契約からの減額を希望する原告側
(原告代表者,C)の意向と,増額を希望する被告及びBの意向とが対立
していたところ,乙17の電子メールも,被告への支払を増額したいとい
うBの意向や,報酬額の増額を希望する被告の意向を踏まえて,被告への
支払を増額させる手段として,DAVE042の販売という方法が議論さ
れたものであり,被告に著作権が帰属することを前提として,そのライセ
ンス料の支払が議論されたものでもないから,この電子メールの記載をも
って,Cが,被告DAVE042の著作権を有することを承認していたと
いうことはできない。
よって,被告の前記主張は,採用することができない。
ウ 被告は,本件各プログラムの表示画面には,被告名義の著作権表示が一
貫して表示されており,原告代表者やCは,これについて何の異議も述べ
ていないことは,被告と原告との間に,本件合意が成立していたことを推
認させるものであると主張する。
しかしながら,本件各プログラムの表示画面には,被告を表示する
「 c)2004−2005
( ●●」という表示のほか,その前に「 c)

2004−2005 Global Health Consultin
g」と原告を示す表示もされているのであるから,原告において ,( c)

2004−2005 ●●」という表示を認識していたにもかかわらず,
殊更にこれを取り上げることなく放置していたとしても,そのことによっ
て,直ちに,本件合意が成立していたことを推認させるものということは
できないし,原告において,本件各プログラムの著作権を被告が有するこ
とを承認していたことを示すものということもできない。
よって,被告の前記主張は,採用することができない。
エ 被告は,全社連へのDAVE042の導入(貸与)により原告の得る収
入の半分を被告に分配するとの合意が成立し,これが履行された事実は,
原告と被告との間に,DAVE042の著作権を被告が有する旨の合意が
成立していることを示すものであると主張する。
しかしながら,全社連へのDAVE042の導入(貸与)により原告が
得る収入の被告に対する分配は,その性質が明確にされた上で支払われた
ものではない。そして,前記1(7)で認定したとおり,3回目の業務委託
契約を締結するに当たり,2回目の業務委託契約からの減額を希望する原
告側(原告代表者,C)の意向と,増額を希望する被告及びBの意向とが
対立し,これを調整するための話合いがされていたといった経緯なども踏
まえると,この原告から被告への分配は,被告への支払を増額したいとい
うBの意向や,報酬額の増額を希望する被告の意向を踏まえて,被告への
支払額を増額させるという目的のためにされたものと認めることができ,
被告にDAVE042の著作権があることを念頭に置いた金銭の支払であ
ったと認めることはできない。このことは,前記1(6)で認定したとおり ,
全社連に有償で貸与する以前の平成17年3月には,原告は,クライアン
ト病院に対して,コンサルティングサービスの一環としてDAVE042
を貸与しているところ,その際には,DAVE042の著作権の対価の被
告への支払や,そのことについての議論がされた形跡のないことからもう
かがわれるところである。また,前記1(7)で認定したとおり,原告代表
者とCは,平成17年4月の3回目の業務委託契約書の作成の際に,被告
との間で報酬の金額をめぐって紛糾し,被告との食事の席を設けた上で,
短期的なボーナスの支払など被告への配慮をする考えを伝えており,平成
17年8月に被告が原告に入社するに当たり,このような分配の約定がさ
れたことは,原告において,DAVE042の著作権が被告に帰属すると
いう認識を有していなかったということと矛盾するものではない。
よって,被告の前記主張は,採用することができない。
(4) 小括(DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−CPにつ
いて)
以上によれば,DAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE−C
Pは,原告の発意に基づき原告の業務に従事する被告が職務上作成したプロ
グラムであって,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定め
があるといえないから,著作権法15条2項の規定により,原告がそれらの
プログラムの著作者と認められ,同法17条1項の規定により,著作者であ
る原告が,それらのプログラムの著作権を有すると認めることができる。
したがって,原告がDAVE−Pro,DAVE−DRUG及びDAVE
−CPの著作権を有することの確認請求は,理由がある。
第5 結論
以上の次第で,原告の請求は,原告が別紙著作物目録記載2,3及び4の各
プログラムについて著作権を有することの確認を求める限度で理由があるから,
これを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき
民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大 須 賀 滋
裁判官 坂 本 三 郎
裁判官 岩 崎 慎
著作物目録
次の各名称を有し,次の各作成時期ころに被告が作成した,DPCの分析プログ
ラム
1 名 称 DAVE042
作成時期 平成16年4月から平成17年7月
2 名 称 DAVE−Pro
作成時期 平成17年9月から平成18年1月
3 名 称 DAVE−DRUG
作成時期 平成17年10月から同年11月
4 名 称 DAVE−CP
作成時期 平成17年8月から同年12月

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