平成22(行ケ)10128審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成22年12月20日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官小関峰夫 原告浦安電設株式会社三田大智
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対象物 |
エンジン |
法令 |
特許権
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キーワード |
審決51回 実施2回 進歩性1回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とする審決の取消訴訟
である。争点は,本願発明の進歩性の有無である。 |
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判決文
平成22年12月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10128号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成22年12月8日
判 決
原 告 浦 安 電 設 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 市 橋 俊 一 郎
三 田 大 智
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 川 向 和 実
小 関 峰 夫
金 丸 治 之
紀 本 孝
田 村 正 明
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた判決
特許庁が不服2008−28327号事件について平成22年3月9日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とする審決の取消訴訟
である。争点は,本願発明の進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成19年2月26日,名称を「エンジン」とする発明について特許出
願(特願2007−45906号,請求項の数4。公開公報は特開2008-208
768号〔甲7〕)をし,平成20年5月26日付けで特許請求の範囲の変更を内容
とする手続補正(請求項の数1,甲10)をしたが,拒絶査定を受けたので,これ
に対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2008−28327号事件として審理した上,平成
22年3月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は
平成22年3月31日原告に送達された。
2 本願発明の要旨(請求項1の記載)
「一軸線上に第一シリンダーと第二シリンダーを対置し,該第一シリンダー内の
第一ピストンと第二シリンダー内の第二ピストンを上記軸線上に延在するピストン
ロッドで直結して上記第一,第二ピストンとピストンロッドとが一体に往復運動す
る構成を有し,該ピストンロッドに出力機構を連結したエンジンにおいて,上記出
力機構としてピストンロッドに対し軸対称に配置した第一出力機構と第二出力機構
とを備え,該第一出力機構の第一コネクティングロッドの一端と第二出力機構の第
二コネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中心に支軸を介
し回動可に連結すると共に,上記第一コネクティングロッドの他端と第二コネクテ
ィングロッドの他端を第一,第二クランクレバーに支軸を介し夫々回動可に連結し,
上記直結ピストンロッドの往復運動を該ピストンロッドの中心に連結した上記第一,
第二コネクティングロッドを介して第一,第二クランクレバーの回転運動に変換す
る構成を有することを特徴とするエンジン。」
3 審決の理由の要点
(1) 引用例1(特開2006−46314号,甲1)には,実質的に次の発
明(引用発明)が記載されていることが認められる。
「一軸線上に気室(4a)と気室(4b)を対置し,気室(4a)内のピストン(2
a)と気室(4b)内のピストン(2b)を上記軸線上に延在するピストン接続棒
で接合して上記ピストン(2a),ピストン(2b)とピストン接続棒とが一体に往
復運動する構成を有し,接合ピストン接続棒の軸線方向の中心に連結したコンロッ
ド部分にクランクを取り付ける構成を有することを特徴とするガソリンエンジン。」
(2) 本願発明と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】
「一軸線上に第一シリンダーと第二シリンダーを対置し,該第一シリンダー内の
第一ピストンと第二シリンダー内の第二ピストンを上記軸線上に延在するピストン
ロッドで直結して上記第一,第二ピストンとピストンロッドとが一体に往復運動す
る構成を有し,該直結ピストンロッドの軸線方向の中心に連結した出力機構を有す
ることを特徴とするエンジン。」
【相違点】
出力機構として,本願発明が「ピストンロッドに対し軸対称に配置した第一出力
機構と第二出力機構とを備え,該第一出力機構の第一コネクティングロッドの一端
と第二出力機構の第二コネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方
向の中心に支軸を介し回動可に連結すると共に,上記第一コネクティングロッドの
他端と第二コネクティングロッドの他端を第一,第二クランクレバーに支軸を介し
夫々回動可に連結し,直結ピストンロッドの往復運動を該ピストンロッドの中心に
連結した上記第一,第二コネクティングロッドを介して第一,第二クランクレバー
の回転運動に変換する構成」であるのに対して,引用発明は「ピストン接続棒の軸
線方向の中心に連結したコンロッド部分にクランクを取り付ける構成」である点。
(3) 往復運動を回転運動に変換する構成の機械は周知のものであるから,引用
発明における出力機械の構成に引用例2(実願昭57−136727号〔実開昭5
9-41632号〕,甲2)に記載の事項を適用して相違点である本願発明の構成と
することは,当業者にとって容易想到の範囲である。本願発明の効果も,引用発明
及び引用例2に記載の事項が有する総和を超えるものではなく,当業者が予測し得
る範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載の事項に基づいて,当業
者が容易に発明できたものである。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用例1の図1及び図2の記載内容の認定の誤り)
審決は,引用例1の図1及び図2から,引用例1の記載内容として「ピストン接
続棒・コンロッド(3)は,ピストン接続棒とクランクを取り付けるコンロッドと
からなり,コンロッドはピストン接続棒の軸線方向の中心に連結されている。(3
」
頁22行∼24行)と認定した。
しかし,引用例1の図1及び図2からは「コンロッドはピストン接続棒の軸線方
向の中心に連結されている」ことが明らかとはいえない。
すなわち,第一に「ピストン接続棒の軸線方向の中心」とは「軸線たるピストン
接続棒の中心線上であって,かつ,該ピストン接続棒の長さ寸法を2分の1にした
位置」をいうところ,引用例1の図1及び図2においては,
「コンロッドがピストン
接続棒の長さ寸法を2分の1にした位置から延びていること」は明らかであるが,
「コンロッドがピストン接続棒の中心線上から延びていること」までは明らかにさ
れていない。
第二に「連結」とは「つらねむすぶこと」をいい,元々一体の物にはあてはまら
ない。引用例1の図1及び図2においては,
「ピストン接続棒とコンロッド部分とが
一体化したT字形のピストン接続棒・コンロッドの構造」が開示されており,この
一体物たるピストン接続棒・コンロッドについて,
「ピストン接続棒にコンロッド部
分を連結した」とはいえない。
よって,審決には,引用例1の図1及び図2の記載内容の認定の誤りがある。
2 取消事由2(引用発明認定の誤り)
審決は,前記のとおり,引用発明を「一軸線上に気室(4a)と気室(4b)を
対置し,気室(4a)内のピストン(2a)と気室(4b)内のピストン(2b)
を上記軸線上に延在するピストン接続棒で接合して上記ピストン(2a) ピストン
,
(2b)とピストン接続棒とが一体に往復運動する構成を有し,接合ピストン接続
棒の軸線方向の中心に連結したコンロッド部分にクランクを取り付ける構成を有す
ることを特徴とするガソリンエンジン。 3頁30行∼35行)
」
( であると認定した。
しかし,上記認定のうち「接合ピストン接続棒の軸線方向の中心に連結したコン
ロッド部分」は,上記取消事由1の誤った認定に基づくものである。また,引用例
1の明細書にはピストン接続棒とコンロッド部分との関係を示す記載はなく,ピス
「
トン接続棒・コンロッド」と一つの物として記載されている。
したがって,審決の上記引用発明の認定は誤りである。
3 取消事由3(本願発明と引用発明との対比に関する前提認定の誤り)
審決は,本願発明と引用発明を対比し,
「引用発明の『ガソリンエンジン』は本願
発明の『エンジン』に,同様に,
『気室(4a)』は『第一シリンダー』に,
『気室(4
b)は『第二シリンダー』に,
『ピストン(2a)』は『第一ピストン』に,
『ピスト
ン(2b)』は『第二ピストン』に,『ピストン接続棒』は『ピストンロッド』に,
『接合』は『直結』に,
『コンロッド部分にクランクを取り付ける構成』は『出力機
構』にそれぞれ相当する。(4頁15行∼20行)と認定した。
」
しかし,引用発明の「コンロッド部分」は本願発明の「出力機構」には含まれず,
「引用発明の『コンロッド部分にクランクを取り付ける構成』は本願発明の『出力
機構』に相当する」との上記認定は誤りである。なぜなら,本願発明に限らずエン
ジンの「出力機構」はピストンロッドの往復運動をクランク機構を介して回転運動
に変換するものであるところ,引用発明の「コンロッド部分」はピストンロッド(ピ
ストン接続棒)と共に往復運動する主体であって,この往復運動をクランク機構を
介して回転運動に変換する機構には含まれないからである。換言すれば,引用発明
の「コンロッド部分」はピストンロッド(ピストン接続棒)と一体化して往復運動
するものであり,『往復運動するコンロッド部分』と『回転運動するクランク』と
「
を繋いで該コンロッド部分の往復運動をクランクを介して回転運動に変換する機
構」が本願発明の「出力機構」に相当すると認定すべきだからである。
なお,引用発明の「コンロッド部分」が往復運動することは引用例1の図4に記
載の「コンロッド部分の出口・移動部分13」から明らかであり,審決においても,
「ピストン接続棒・コンロッド部分の往復運動をクランク機構を介して回転運動に
変換していることは明らかである。(5頁7行∼8行)と認定している。
」
また,上記往復運動する「コンロッド部分」をクランクに直接連結しても回転運
動に変換することは不能であるため,引用例1には具体的記載がないが,コンロッ
ド部分とクランクとの間に「『往復運動するコンロッド部分』と『回転運動するクラ
ンク』とを繋いで該コンロッド部分の往復運動をクランクを介して回転運動に変換
する機構」が配されるのは明らかである。
4 取消事由4(一致点認定の誤り)
審決は,本願発明と引用発明は,前記のとおり,
「一軸線上に第一シリンダーと第
二シリンダーを対置し,該第一シリンダー内の第一ピストンと第二シリンダー内の
第二ピストンを上記軸線上に延在するピストンロッドで直結して上記第一,第二ピ
ストンとピストンロッドとが一体に往復運動する構成を有し,該直結ピストンロッ
ドの軸線方向の中心に連結した出力機構を有することを特徴とするエンジン。(4
」
頁24行∼28行)である点で一致するとした。
しかし,前記取消事由3のとおり,引用発明の出力機構は「コンロッド部分」に
連結しており,
「ピストンロッド」には連結されていないから,上記一致点のうち「直
結ピストンロッドの軸線方向の中心に連結した出力機構を有する」との認定は誤り
である。
5 取消事由5(相違点認定の誤り)
審決は,前記のとおり,本願発明と引用発明は,
「出力機構として,本願発明が『ピ
ストンロッドに対し軸対称に配置した第一出力機構と第二出力機構とを備え,該第
一出力機構の第一コネクティングロッドの一端と第二出力機構の第二コネクティン
グロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中心に支軸を介し回動可に連結
すると共に,上記第一コネクティングロッドの他端と第二コネクティングロッドの
他端を第一,第二クランクレバーに支軸を介し夫々回動可に連結し,上記直結ピス
トンロッドの往復運動を該ピストンロッドの中心に連結した上記第一,第二コネク
ティングロッドを介して第一,第二クランクレバーの回転運動に変換する構成』で
あるのに対して,引用発明は『ピストン接続棒の軸線方向の中心に連結したコンロ
ッド部分にクランクを取り付ける構成』である点。(4頁31行∼5頁1行)で相
」
違するとした。
しかし,上記取消事由3のとおり,引用発明の「ピストン接続棒の軸線方向の中
心に連結したコンロッド部分にクランクを取り付ける構成」は「出力機構」ではな
い。
したがって,審決の上記の相違点認定は誤りである。
6 取消事由6(相違点判断の誤り)
(1) 前提認定の誤り1
審決は,
「エンジンの出力機構は,ピストンおよびピストンロッドの往復運動をク
ランク機構を介して回転運動に変換するものである。 (5頁4行∼5行)とした上
」
で,
「引用発明の『ピストン接続棒の軸線方向の中心に連結したコンロッド部分にク
ランクを取り付けた構成』では,ピストン接続棒・コンロッド部分の往復運動をク
ランク機構を介して回転運動に変換していることは明らかである。 (5頁6行∼8
」
行)と認定した。
しかし,引用発明において,
「ピストン接続棒・コンロッド部分の往復運動をクラ
ンク機構を介して回転運動に変換していること」は明らかであるとしても,ピスト
ン接続棒・コンロッド部分の往復運動を回転運動に変換する構成が「ピストン接続
棒の軸線方向の中心に連結したコンロッド部分にクランクを取り付けた構成」であ
ることは明らかでない。すなわち,引用例1にはコンロッド部分にクランクをどの
ように取り付けるかについては一切記載されていないし,上記往復運動するコンロ
ッド部分に直接クランクを取り付けても回転運動に変換することはできない。
また,審決の上記記載からも明らかなように,
「エンジンの出力機構は,ピストン
およびピストンロッドの往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換するも
の」であるから,ピストンロッドと一体に往復運動するコンロッド部分が「ピスト
ンロッドの往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換するもの」に該当しな
いことは明らかである。
よって,審決の上記認定は誤りである。
(2) 前提認定の誤り2
審決は,『引用例2に記載の事項』において,
「 『1つのピストンロッド5』『コン
,
ロッド10a』 『コンロッド11a』は,それぞれ本願発明の『ピストンロッド』
, ,
『第一コネクティングロッド』『第二コネクティングロッド』に相当し,
, 『クランク
軸8』および『クランク軸9』はそれぞれクランクレバーに支軸を介して出力軸を
回転するクランク機構を構成しているから,本願発明の『第一出力機構』『第二出
,
力機構』に相当している。(5頁9行∼15行)とした上で,『ピストンロッドに
」 「
対し軸対称に配置した第一出力機構と第二出力機構とを備え,該第一出力機構の第
一コネクティングロッドの一端と第二出力機構の第二コネクティングロッドの一端
を上記ピストンロッドに支軸を介し回動可に連結すると共に,上記第一コネクティ
ングロッドの他端と第二コネクティングロッドの他端を第一,第二クランクレバー
に支軸を介し夫々回動可に連結し,ピストンロッドの往復運動を該ピストンロッド
に連結した上記第一,第二コネクティングロッドを介して第一,第二クランクレバ
ーの回転運動に変換する構成』は引用例2である実願昭57−136727号(実
開昭59−41632号)のマイクロフィルム,特に第1図,第2図に開示されて
いるといえる。 (5頁16行∼25行)とした。
」
しかし,そもそも発明思想が全く異なる「本願発明」と「引用例2に記載の事項」
とを同等に比較することは誤りである。すなわち,
「本願発明」は第一ピストンと第
二ピストンとを直結したピストンロッドに交互に往動又は復動のための推進力を与
えることを要件とする発明である。これに対し,
「引用例2に記載の事項」は既知の
レシプロエンジン(4サイクルエンジン)を構成する2つのピストン機構を対向配
置したエンジンを示しているに過ぎず,別個独立のピストンロッド5とピストンロ
ッド6を備えること,及び,両ピストンロッド5・6に同時に往動のための推進力
のみを与えることを要件とする発明である。両者は相容れないエンジン形式の発明
であり,両者を同等に比較する根拠がない。
よって,審決の上記認定は誤りである。
(3) 相違点についての判断の誤り1
審決は,
「引用発明における出力機構の構成に,上記の引用例2に記載の事項を適
用して上記相違点である『ピストンロッドに対し軸対称に配置した第一出力機構と
第二出力機構とを備え,該第一出力機構の第一コネクティングロッドの一端と第二
出力機構の第二コネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中
心に支軸を介し回動可に連結すると共に,上記第一コネクティングロッドの他端と
第二コネクティングロッドの他端を第一,第二クランクレバーに支軸を介し夫々回
動可に連結し,上記直結ピストンロッドの往復運動を該ピストンロッドの中心に連
結した上記第一,第二コネクティングロッドを介して第一,第二クランクレバーの
回転運動に変換する構成』とすることは,当業者にとって容易想到の範囲といえる。」
(5頁30行∼39行)とした。
しかし,前記(1)のとおり,引用発明の「出力機構」の認定に誤りがあり,こ
の誤った認定に基づく「出力機構」の構成に「引用例2に記載の事項」を適用した
としても,正しい判断は得られない。
よって,審決の上記判断は誤りである。
(4) 相違点についての判断の誤り2
審決の「引用発明における出力機構の構成に,上記の引用例2に記載の事項を適
用して『第一出力機構の第一コネクティングロッドの一端と第二出力機構の第二コ
ネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中心に支軸を介し回
動可に連結する』構成とすることは,当業者にとって容易想到の範囲といえる。」と
の判断は誤りである。
すなわち,本願発明の出力機構は「第一出力機構」を構成する「第一コネクティ
ングロッド」の一端と「第二出力機構」を構成する「第二コネクティングロッド」
の一端を「ピストンロッドの軸線方向の中心」に支軸を介して回動可に連結する構
成を有しており,上記「ピストンロッドの軸線方向の中心」とは,本願明細書の段
落【0019】 【0020】【0022】 【0023】及び図1∼図11からすれ
・ ・ ・
ば,
「軸線Xたるピストンロッドの中心線上であって,且つ,該ピストンロッドの長
さ寸法を二分の一にした位置O」をいう。これに対し,引用発明の出力機構は,そ
の具体的な構成は不明であるが,出力機構に「コンロッド部分」は含まれない。ま
た,引用例2に記載の出力機構は,
「第一出力機構」を構成する「コンロッド10a」
及び「第二出力機構」を構成する「コンロッド11a」がピストンロッド5の周面
の上下側に支軸を介して回動可に連結する構成を有しており,上記「コンロッド1
0a」及び「コンロッド11a」は「ピストンロッドの軸線方向の中心」に連結し
ているものではない。そのため,
「引用発明」に「引用例2に記載の事項」を適用し
ても,第一出力機構の第一コネクティングロッドの一端と第二出力機構の第二コネ
「
クティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中心に支軸を介し回動
可に連結する構成」を容易に想到することはできない。
よって,審決の相違点についての判断には誤りがある。
(5) 相違点についての判断の誤り3
そもそも「引用発明」に対し引用発明とは発明思想が全く異なる「引用例2に記
載の事項」を適用すること自体が誤りである。
すなわち,
「引用発明」はピストン(2a)とピストン(2b)とを接続したピス
トン接続棒に交互に往動又は復動のための推進力を与えることを要件とする発明で
ある。これに対し,
「引用例2に記載の事項」は既知のレシプロエンジン(4サイク
ルエンジン)を構成する2つのピストン機構を対向配置したエンジンを示している
に過ぎず,別個独立のピストンロッド5とピストンロッド6を備えること,及び,
両ピストンロッド5・6に同時に往動のための推進力のみを与えることを要件とす
る発明である。両者は相容れないエンジン形式のものであり,一方に他方を適用す
る妥当な根拠がない。
よって,審決の相違点についての判断には誤りがある。
(6) 効果についての判断の誤り
審決は,
「本願発明の効果も,引用発明及び引用例2に記載の事項が有する効果の
総和を超えるものではなく,当業者が予測し得た範囲内のものである。(6頁1行
」
∼3行)とした。
しかし,前記のとおり,引用発明に引用例2に記載の事項を適用したとしても,
その発明は本願発明の「第一出力機構の第一コネクティングロッドの一端と第二出
力機構の第二コネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中心
に支軸を介し回動可に連結する」構成を備えていない。この構成の相違により,
「本
願発明」は「引用発明」や「引用例2に記載の事項」では奏し得ない格別の効果を
奏するものである。
すなわち,
「本願発明」は上記構成を備えることにより,第一ピストンと第二ピス
トンを直結する直結ピストンロッドに交互に往動又は復動に係る推進力を与えてそ
の中心部から第一,第二出力機構を回転せしめる動力を得るため,偏荷重によるピ
ストンロッドの破損や変形を有効に防止するとともに,ピストンロッドの往復運動
を回転運動にスムーズに変換する。これらの効果は,上記構成を備えることで初め
て奏するものである。これに対し,
「引用発明」はピストンロッドから延びるコンロ
ッド部分から出力機構を回転せしめる動力を得るものであり,ピストンロッドが偏
荷重を受け早期に破損又は変形する恐れがあると共に,このような偏荷重を受ける
ピストンロッドの往復運動を回転運動にスムーズに変換することはできない。また,
「引用例2に記載の事項」は分離独立した2つのピストンロッドを備え,両ピスト
ンロッドの周面の上下側から出力機構を回転せしめる動力を得るものであり,両ピ
ストンが同期して往復運動しなければ,それぞれのピストンロッドが偏荷重を受け
早期に破損又は変形する恐れがあるとともに,ピストンロッドの往復運動を回転運
動に変換することもできない。
よって,「引用発明」に「引用例2に記載の事項」を適用したとしても,「本願発
明」が奏する上記効果を予測することはできず,審決には本願発明の格別の効果を
看過した誤りがある。
第4 被告の反論
1 取消事由1,2,4に対し
原告は,引用例1の図1及び図2から「コンロッドはピストン接続棒の軸線方向
の中心に連結されている」ことが明らかとはいえないと主張する。
しかし,引用例1における「ピストン接続棒の軸線方向の中心」は,
「軸線たるピ
ストン接続棒の中心線上であって,かつ,該ピストン接続棒の長さ寸法を2分の1
にした位置」をいうものではなく,
「ピストン接続棒の長さ寸法を2分の1にした位
置」をいうものである。そして,引用例1の図1及び図2より,
「ピストン接続棒の
長さ寸法を2分の1にした位置」から「コンロッド」が延びていることは明らかで
ある。
一方,引用例1の段落【0006】には,(イ)ピストン(2a)とピストン(2
「
b)をピストン接続棒・コンロッド(3)により背中合わせに接合する。,(ニ)
」「
ピストン接続棒・コンロッド(3)のコンロッド部分にクランクを取り付ける。」と
記載されている。上記記載並びに図1及び図2より,
「ピストン接続棒・コンロッド
(3)」のうち「ピストン接続棒」はピストン(2a)とピストン(2b)を背中合
わせに接合するものであり,
「コンロッド」はクランクを取り付けるものであること
が認められる。すなわち,引用例1の図1及び図2では,ピストン接続棒とコンロ
ッドは一体のものとして図示されてはいるが,引用例1に開示の技術において「ピ
ストン接続棒」と「コンロッド」とは,一体のものであるか別体のものであるかに
関係なく,別機能を有する別構成であることが認められ,
「ピストン接続棒」と「コ
ンロッド」とは「つらねむすばれ」ている,すなわち「連結されている」ことが認
められる。
したがって,引用例1の記載内容として「コンロッドはピストン接続棒の軸線方
向の中心に連結されている。」が明らかであるとした点につき,審決に誤りはない。
2 取消事由3,5,6(1),6(3)に対し
(1) 原告は,引用発明の「コンロッド部分」は本願発明の「出力機構」には含
まれず,審決の『引用発明の「コンロッド部分にクランクを取り付ける構成」は本
願発明の「出力機構」に相当する』との認定は誤りであり,
「ピストン接続棒の軸線
方向の中心に連結したコンロッド部分にクランクを取り付けた構成」によって,ピ
ストン接続棒・コンロッド部分の往復運動を回転運動に変換することはできないと
主張する。
(2) しかし,本願発明の「出力機構」は,本願の明細書及び図面を参酌しても
その定義は明確ではないが,ピストンロッドの往復運動をクランク機構を介して回
転運動に変換するものと認められる。一方,引用例1の段落【0006】の「(ニ)
ピストン接続棒・コンロッド(3)のコンロッド部分にクランクを取り付ける」と
の記載より,「コンロッド」はクランクを取り付けるための構成であり,また,「コ
ンロッド」は「ピストン接続棒」と一体に往復運動するものではあるが,
「ピストン
接続棒」とは別機能を有する別構成であることが認められる。
したがって,引用例1の「ピストン接続棒・コンロッド(3)」のうちクランクを
取り付けるための構成である「コンロッド」を出力機構の一部とし,
「コンロッド部
分にクランクを取り付ける構成」を本願発明の「出力機構」に相当するとしたこと
に誤りはない。
(3) 引用例1の段落【0006】の「(ニ)ピストン接続棒・コンロッド(3)
のコンロッド部分にクランクを取り付ける」との記載について,段落【0002】
に【背景技術】として「シリンダーに直結したクランク棒を介しクランクを回転さ
せる」と記載されていることからすれば,引用例1に記載された技術が,クランク
によって往復運動を回転運動に変換しようとするものであることが認められる。し
たがって,上記「(ニ)ピストン接続棒・コンロッド(3)のコンロッド部分にクラ
ンクを取り付ける」との記載は,コンロッド部分に直接クランクを取り付ける構成
のみを示しているものではなく,クランクを含む機構によって往復運動を回転運動
に変換しようとするものを包含するとするのが相当である。
したがって,審決が 『ピストン接続棒の軸線方向の中心に連結したコンロッド部
「
分にクランクを取り付けた構成』では,ピストン接続棒・コンロッド部分の往復運
動をクランク機構を介して回転運動に変換していることは明らか」と認定したこと
に誤りはない。
3 取消事由6(2),6(5)に対し
原告は,発明思想が全く異なる「本願発明」と「引用例2に記載の事項」につき,
両者は相容れないエンジン形式の発明であり,両者を同等に比較する妥当な根拠が
なく,両者を同等に比較することは誤りであり,あるいは「引用発明」に対して引
用発明とは発明思想が全く異なる「引用例2に記載の事項」を適用することは誤り
であると主張する。
しかし,「引用例2に記載の事項」は,審決に記載されているとおり,「1つのピ
ストンロッド5に対し軸対称に配置したクランク軸8とクランク軸9とを備え,コ
ンロッド10aの一端とコンロッド11aの一端を上記ピストンロッド5の支軸を
介し回動可に連結すると共に,コンロッド10aの他端とコンロッド11aの他端
を支軸を介し夫々回動可に連結し,ピストンロッド5の往復運動を該ピストンロッ
ド5に連結したコンロッド10aとコンロッド11aを介してクランク軸の回転運
動に変換する構成」であり,原告が主張する「本願発明」及び「引用発明」とは異
なるエンジン形式としての引用例2のエンジン形式の構成を引用したものではない。
そして,
「引用発明」及び「引用例2に記載の事項」は,いずれも「本願発明」と同
様に,シリンダ及びピストンを有しピストンの往復運動を回転運動に変換するエン
ジンに関するものである点で共通しており,同一の技術分野に属する発明として,
その組合わせないし置換を妨げる理由はない。
よって,審決が,
「引用発明」及び「引用例2に記載の事項」を同一の技術分野に
属する発明として,その組合わせないし置換について検討し,
「本願発明」が容易に
想到し得るかどうか検討を行ったことに誤りはない。
4 取消事由6(4)に対し
(1) 原告は,審決の「引用発明における出力機構の構成に,上記の引用例2に
記載の事項を適用して『第一出力機構の第一コネクティングロッドのー端と第二出
力機構の第二コネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中心
に支軸を介し回動可に連結する』構成とすることは,当業者にとって容易想到の範
囲といえる。」との判断は誤りであると主張する。
しかし,本願発明の「ピストンロッドの軸線方向の中心」とは,
「ピストンロッド
の長さ寸法を二分の一にした位置O」をいうものであるが,引用発明は当該「ピス
トンロッドの軸線方向の中心」から「コンロッド」が延びているものである。そし
て,前記「取消事由3,5,6(1),6(3)に対し」のとおり,引用発明におけ
る「コンロッド部分にクランクを取り付ける構成」は出力機構の構成に相当するも
のであるから,当該出力機構の構成に引用例2に記載の事項を適用することは当業
者であれば困難なことではなく,審決が「引用発明における出力機構の構成に,上
記の引用例2に記載の事項を適用して『第一出力機構の第一コネクティングロッド
の一端と第二出力機構の第二コネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの
軸線方向の中心に支軸を介し回動可に連結する』構成とすることは,当業者にとっ
て容易想到の範囲といえる。」と判断したことに誤りはない。
(2) なお,原告は,本願発明は「ピストンロッドの長さ寸法を二分の一にした
位置O」であり,かつ「軸線Xたるピストンロッドの中心線上」にコネクティング
ロッドを連結する構成を有するのに対し,引用例2に記載の出力機構は,
「コンロッ
ド10a」及び「コンロッド11a」が「軸線Xたるピストンロッドの中心線上」
に連結しているものではない旨主張する。
しかし,コネクティングロッドを「軸線Xたるピストンロッドの中心線上」に連
結することは請求項1に明記されていないが,仮に本願発明が上記構成を有すると
しても,審決の判断に影響しない。
すなわち,引用例2において,コンロッド10a及びコンロッド11aは,ピス
トンロッド5の軸線に対して線対称の位置に連結しているものであり,当該構成に
よってコンロッド10a及びコンロッド11aに対して同様の運動を伝達し,単一
のピストンロッドの往復運動を軸対称出力として取り出していることが認められる。
また,審決において例示した各周知例も,2つのコンロッドをピストンの軸線に対
して線対称の位置に連結しているものである。引用例2及び各周知例のコンロッド
は,厳密な意味で中心線上に連結されていないとしても,その連結部分は,中心線
上に連結されているのと同視できる程度に中心線に近接している。そして,中心線
上に連結することに特段の技術的意義はない。そうすると,引用例2や各周知例に
記載された単一のピストンロッドから2つのコンロッドに出力するような出力機構
において,2つのコンロッドに同様の運動を伝達し,単一のピストンロッドの往復
運動を軸対称出力として取り出すものとして,2つのコンロッドを軸線たるピスト
ンロッドの中心線上に連結する程度のことは,当業者であれば容易に想到し得る程
度の事項にすぎない。
5 取消事由6(6)に対し
原告は,審決の「本願発明の効果も,引用発明及び引用例2に記載の事項が有す
る効果の総和を超えるものではなく,当業者が予測し得た範囲内のものである。 と
」
の判断は誤りであると主張する。
しかし,本願明細書に記載の本願発明の効果,すなわち「本発明によれば,上記
ピストンロッドは第一ピストンに加えられた強力な推進力によって往動力が得られ,
第二ピストンに加えられた強力な推進力によって復動力が得られる。上記第一,第
二ピストンに加えられた往動方向と復動方向の推進力でピストンロッドを安定且つ
強力に往復動でき,該双方向の推進力で出力機構の各周回運動を安定且つ強力に取
り出すことができる。 (段落【0015】【0016】
」 , 。以下「効果1」という。)
及び「本発明によれば,ピストンロッドに対し軸対称に設けた出力機構により,単
一のピストンロッドの往復運動を軸対称出力として取り出すことができ,例えば船
舶の一対のスクリューを回転駆動するエンジンとして有効に適用できる。 段落
」
( 【0
017】。以下「効果2」という。)は,相互に独立した構成によって奏する効果で
ある。そして効果1は,引用発明の構成によって奏するものであり,効果2は引用
例2に記載の事項によって奏するものである。本願発明の効果は,引用発明及び引
用例2に記載の事項が相互に作用し合い,予測することのできない新たな効果をも
たらすものではないものであるから,審決が「本願発明の効果も,引用発明及び引
用例2に記載の事項が有する効果の総和を超えるものではなく,当業者が予測し得
た範囲内のものである。」と判断したことに誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例1の図1及び図2の記載内容の認定の誤り)について
(1) 本願発明
本願明細書(甲7,10)の記載によれば,従来,シリンダーを並列して設けたエ
ンジン,シリンダーを水平対向して設けたエンジンが知られており,何れもシリン
ダーの配置が異なるのみで,ピストンにコネクティングロッドを直結し,ピストン
から直接駆動力を得てコネクティングロッドを作動し,同ピストンの往復運動を回
転運動に変換する点で共通しているところ,本願発明はピストンから直接駆動力を
得て往復運動を回転運動に転換する方式を排し,上記何れの方式にも属さない新た
な変換機構を有するエンジンを提供することをその目的とし,請求項1に記載され
た技術的事項を備えることにより,第一,第二ピストンに加えられた往動方向と復
動方向の推進力でピストンロッドを安定かつ強力に往復動でき,該双方向の推進力
で出力機構の各周回運動を安定かつ強力に取り出すことができる,ピストンロッド
に対し軸対称に設けた出力機構により,単一のピストンロッドの往復運動を軸対称
出力として取り出すことができ,例えば船舶の一対のスクリューを回転駆動するエ
ンジンとして有効に適用できるという効果を有するものであることが認められる。
(2) 引用発明
ア 引用例1(甲1)には,【課題を解決するための手段】として,
「シリンダー(1)内部にピストン(2a)と,ピストン(2b)を背中合わせに
ピストン接続棒・コンロッド(3)により接合し,二つのピストンの前にある気室
(4a)と気室(4b)でを交互に爆発させ,繰り返し運動をさせる。(段落【0
」
004】)
と記載され,【発明の効果】として,
「次のような効果が生まれる。
イ・ピストン(2a)の前に位置する気室(4a)内でおこる爆発により,ピス
トン(2a)が後退すると,ピストン(2b)が気室(4b)の圧縮を行い,気室
(4b)で爆発すると,ピストン(2b)が後退し,ピストン(2a)が気室(4
a)の圧縮を行う。
ロ・ピストン(2a)の前の気室(4a)と,ピストン(2b)の前の気室(4
b)の圧縮は従来の惰性力でなく,背中合わせのピストン(2a)とピストン(2
b)のそれぞれの前の気室(4a)と気室(4b)で爆発した力で,強制的に行わ
れる。
ハ・スピードが弱まらないため,圧縮力が強く,ガソリンと空気の混合物は濃く
爆発力も大きく,完全燃焼に近くなる。
ニ・完全燃焼に近いため,排気ガスも少なくなる。
ホ・爆発力が強いため,小さな容量で大きな力を発生させることが出来る。
ヘ・小さなエンジンですむため,ガソリンの消費量を減らすことが出来る。 (段
」
落【0005】)
と記載されている。そして,【発明を実施するための最良の形態】として,
「この発明の実施の形態を説明する。
(イ)ピストン(2a)とピストン(2b)をピストン接続棒・コンロッド(3)
により背中合わせに接合する。
(ロ)シリンダー(1)内部に(イ)を組み込む。
(ハ)シリンダー(1)の内の気室(4a)の前に,シリンダーヘッド(5a)を
取りつけ,気室(4b)の前にシリンダーヘッド(5b)を取りつける。
(二)ピストン接続棒・コンロッド(3)のコンロッド部分にクランクを取り付け
る。
本発明は以上のような構造で,自動車のエンジンを型作る。 (段落【0006】
」 )
と記載されている。また,引用例1の図1,2は次のとおりである。
【図1】引用発明の全体図
【図2】ピストン(2a)とピストン(2b)をピストン接続棒・コンロッド(3)
で接合した一体型部分
イ 上記記載によれば,1機のシリンダー内部に1ピストンを持つ従来のガ
ソリンエンジンでは,ピストンが惰性力で戻るためスピードが遅く力も弱くなる,
スピードが遅く力も弱くなると圧縮力が弱くなり爆発力が弱くなる,大きな力を得
るためにはエンジンそのものが大きくなるといった解決すべき課題があり,それを
解決するために,シリンダー(1)内部にピストン(2a)とピストン(2b)を
背中合わせにピストン接続棒・コンロッド(3)により接合し,二つのピストンの
前にある気室(4a)と気室(4b)を交互に爆発させ,繰り返し運動をさせ,そ
れにより,ピストン(2a)の前の気室(4a)と,ピストン(2b)の前の気室
(4b)の圧縮は従来の惰性力でなく,背中合わせのピストン(2a)とピストン
(2b)のそれぞれの前の気室(4a)と気室(4b)で爆発した力で強制的に行
われるようになるため,スピードが弱くならず,圧縮力が強く,爆発力も大きく,
完全燃焼に近くなり,その結果,小さな容量で大きな力を発生させることができる,
小さなエンジンですむためガソリンの消費量を減らすことが出来る,といった効果
を奏するものであることが認められる。
また,
「ピストン(2a)とピストン(2b)をピストン接続棒・コンロッド(3)
により背中合わせに接合」し,
「ピストン接続棒・コンロッド(3)のコンロッド部
分にクランクを取り付け」「自動車のエンジンを型作る。
, 」ものであるから,「ピス
トン接続棒・コンロッド(3)」のうち「ピストン接続棒」によって,ピストン(2
a)とピストン(2b)を背中合わせに接合し,
「コンロッド部分」にクランクを取
り付けて,ピストン(2a)とピストン(2b)の往復運動をクランクの回転運動
に変換するものであることが認められる。すなわち,まず,
「ピストン接続棒」によ
ってピストン(2a)とピストン(2b)が一体で往復運動するように構成されて
いるから,
「ピストン接続棒」は,ピストン(2a)とピストン(2b)とを一体的
に接続する機能を果たしているといえる。次に,
「コンロッド部分」を直接クランク
に取り付けても回転運動に変換することができないことは技術的に明らかであるか
ら,
「コンロッド部分」とクランクとの間に何らかの部材を介することにより,ピス
トン(2a)とピストン(2b)の往復運動を最終的にクランクへ伝達し,クラン
クを回転させることが認められ,
「コンロッド部分」は出力に関わる機能を果たして
いるといえる。よって,
「ピストン接続棒」と「コンロッド部分」は,それぞれ果た
す機能が異なっており,「ピストン接続棒・コンロッド(3)」としては図面上一体
物のように記載されているものの,それぞれ別機能を有する別構成であるとして評
価すべきものである。
(3) 対比
ア 「ピストンロッドの軸線方向の中心」の意味
本願発明は,該第一出力機構の第一コネクティングロッドの一端と第二出力機構
「
の第二コネクティングロッドの一端を上記ピストンロッドの軸線方向の中心に支軸
を介し回動可に連結する」ものであるが,この「中心」の位置について検討する。
「中心」とは「周囲や両端から等距離にあるような点とそのまわりの部分」
(広辞
苑第5版)をいうと解されることからすると,「ピストンロッドの軸線方向の中心」
とは,ピストンロッドの軸線方向の両端から等距離にあるような位置,すなわち,
ピストンロッドの長さ寸法を2分の1にした位置と解するのが相当である。これに
加えて,ピストンロッドの径方向についても等距離にあるような位置,すなわち,
軸線上であって,かつ,ピストンロッドの径方向の長さ寸法を2分の1にした位置
とまでは解することはできない。
イ 引用例1の図1及び図2から看取できる構造
上記の意味に照らすと,引用例1の図1及び図2において,「ピストン接続棒・
コンロッド部分(3)」のうちの「コンロッド部分」は,「ピストン接続棒」の長さ
寸法を2分の1にした位置から延びているということができ,
「ピストン接続棒」の
軸線方向の中心に連結されている構造を看取することができる。
この点,原告は,
「ピストン接続棒の軸線方向の中心」とは「軸線たるピストン接
続棒の中心線上であって,かつ,該ピストン接続棒の長さ寸法を二分の一にした位
置」をいうところ,引用例1の図1及び図2においては,
「コンロッド(図中下方に
延びる部分)がピストン接続棒の長さ寸法を2分の1にした位置から延びているこ
と」は明らかであるが,
「コンロッドがピストン接続棒の中心線上から延びているこ
と」までは明らかにされていない旨主張する。
しかし,本願発明における「ピストンロッドの軸線方向の中心」とは,ピストン
ロッドの長さ寸法を2分の1にした位置であれば足り,軸線たるピストンロッドの
中心線上であって,かつ,該ピストンロッドの径方向の長さ寸法を2分の1にした
位置であることまでは要しないことは上記のとおりであって,原告の主張はその前
提において誤りがあり,採用することができない。
また,原告は,「連結」とは「つらねむすぶこと」をいい,元々一体の物にはあ
てはまらない,引用例1の図1及び図2においては,
「ピストン接続棒とコンロッド
部分とが一体化したT字形のピストン接続棒・コンロッドの構造」が開示されてお
り,この一体物たるピストン接続棒・コンロッドを「ピストン接続棒にコンロッド
部分を連結した」とはいえない旨主張する。
しかし,引用例1における「ピストン接続棒」と「コンロッド部分」は,それぞ
れ果たす機能が異なっており,「ピストン接続棒・コンロッド(3)」として図面上
一体物のように記載されているものの別機能を有する別構成と評価すべきものであ
ることは前記のとおりであるから,本願発明との対比の観点からみるときにおいて,
引用発明は「ピストン接続棒」と「コンロッド部分」が連結されていると評価する
ことができる。
(4) 小括
したがって,審決が,引用例1の図1及び図2から,
「ピストン接続棒・コンロッ
ド(3)は,ピストン接続棒とクランクを取り付けるコンロッドとからなり,コン
ロッドはピストン接続棒の軸線方向の中心に連結されている。と認定した点に誤り
」
はなく,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(引用発明認定の誤り)について
原告は,審決が認定した引用発明中,
「接合ピストン接続棒の軸線方向の中心に連
結したコンロッド部分」は,前記取消事由1の誤った認定に基づくものであり,ま
た,引用例1の明細書にはピストン接続棒とコンロッド部分との関係を示す記載は
なく,
「ピストン接続棒・コンロッド」と一つの物として記載されているので,審決
の引用発明の認定は誤りである旨主張する。
しかし,審決が,引用例1の図1及び図2から,
「ピストン接続棒・コンロッド(3)
は,ピストン接続棒とクランクを取り付けるコンロッドとからなり,コンロッドは
ピストン接続棒の軸線方向の中心に連結されている。 と認定したことに誤りはない
」
ことは,前記のとおりであって,原告の主張はその前提において理由がなく,採用
することができない。
3 取消事由3(本願発明と引用発明との対比に関する前提認定の誤り)につい
て
本願発明において,
「ピストンロッド」は「第一ピストン」と「第二ピストン」を
直結するものであり,
「出力機構」はピストンロッドの往復運動を回転運動に変換す
るもので,ピストンロッドの中間延在部に連結されたコネクティングロッドを介し
て上記往復運動を回転運動に変換する構成を有するものである。本願明細書の段落
(
【0009】【0012】 【0014】
, , )
他方,前記のとおり,引用発明において,「コンロッド部分」はピストン(2a)
とピストン(2b)を接続するものではなく,
「コンロッド部分」とクランクとの間
に何らかの部材を介することにより,ピストン(2a)とピストン(2b)の往復
運動を最終的にクランクへ伝達し,クランクを回転させるもので,コンロッド部分」
「
は出力に関わる機能を果たしている。
そうすると,その機能に鑑みれば,引用発明の「コンロッド部分」は出力機構の
一部を構成しているということができ,本願発明の「出力機構」に相当すると解す
ることができる。
この点,原告は,本願発明に限らずエンジンの「出力機構」はピストンロッドの
往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換するものであるところ,引用発明
の「コンロッド部分」はピストンロッド(ピストン接続棒)と共に往復運動する主
体であって,この往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換する機構には含
まれない,引用発明の「コンロッド部分」はピストンロッド(ピストン接続棒)と
一体化して往復運動するものであり,
「往復運動するコンロッド部分」と「回転運動
するクランク」とを繋いで該コンロッド部分の往復運動をクランクを介して回転運
動に変換する機構が本願発明の「出力機構」に相当すると認定すべきである旨主張
する。
しかし,引用発明の「コンロッド部分」が出力に関わる機能を果たしていること
は前記のとおりである。そして,原告主張のように,エンジンの「出力機構」はピ
ストンロッドの往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換するものであるな
らば,引用発明の「コンロッド部分」は,ピストンロッドである「ピストン接続棒」
の往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換する機構の一部を構成している
ということができ,そうした意味においても「出力機構」といえるものである。
よって,審決が,引用発明の「コンロッド部分にクランクを取り付ける構成」は
本願発明の「出力機構」に相当する旨認定したことに誤りはなく,原告主張の取消
事由3は採用することができない。
4 取消事由4(一致点の認定の誤り)について
原告は,審決が認定した一致点のうち「直結ピストンロッドの軸線方向の中心に
連結した出力機構を有する」点について,取消事由3のとおり,引用発明の出力機
構は「コンロッド部分」に連結しており,
「ピストンロッド」には連結されていない
ので,上記一致点の認定は誤りである旨主張している。
しかし,引用発明の「コンロッド部分」が本願発明の「出力機構」に相当するこ
とは前記のとおりであり,直結ピストンロッドの軸線方向の中心に連結した出力機
構を有するといえるものである。
したがって,原告主張の取消事由4は採用することができない。
5 取消事由5(相違点認定の誤り)について
原告は,取消事由3のとおり,引用発明の「ピストン接続棒の軸線方向の中心に
連結したコンロッド部分にクランクを取り付ける構成」は「出力機構」ではないの
で,審決の相違点の認定は誤りである旨主張している。
しかし,引用発明の「コンロッド部分」が本願発明の「出力機構」に相当するこ
とは前記のとおりである。
よって,審決の相違点認定に誤りはなく,原告主張の取消事由5は採用すること
ができない。
6 取消事由6(相違点判断の誤り)について
(1) 容易想到性につき
引用例2(甲2)には,自動車に搭載される往復動式エンジンのクランク機構の
改良に関し,1つのピストンロッドに対して軸対称に配置した2つのクランク軸を
備えてピストンロッドの往復運動をクランク軸を介して回転運動に変換する技術,
具体的には,1つのピストンロッド5に対し軸対称に配置したクランク軸8とクラ
「
ンク軸9とを備え,コンロッド10aの一端とコンロッド11aの一端を上記ピス
トンロッド5の支軸を介し回動可に連結すると共に,コンロッド10aの他端とコ
ンロッド11aの他端を支軸を介し夫々回動可に連結し,ピストンロッド5の往復
運動を該ピストンロッド5に連結したコンロッド10aとコンロッド11aを介し
てクランク軸の回転運動に変換する構成」が記載されており,上記「1つのピスト
ンロッド5」「コンロッド10a」 「コンロッド11a」は,それぞれ本願発明の
, ,
「ピストンロッド」「第一コネクティングロッド」 「第二コネクティングロッド」
, ,
に相当し,
「クランク軸8」および「クランク軸9」はそれぞれクランクレバーに支
軸を介して出力軸を回転するクランク機構を構成しているので,本願発明の「第一
出力機構」「第二出力機構」に相当しているから,
, 「ピストンロッドに対し軸対称に
配置した第一出力機構と第二出力機構とを備え,該第一出力機構の第一コネクティ
ングロッドの一端と第二出力機構の第二コネクティングロッドの一端を上記ピスト
ンロッドに支軸を介し回動可に連結すると共に,上記第一コネクティングロッドの
他端と第二コネクティングロッドの他端を第一,第二クランクレバーに支軸を介し
夫々回動可に連結し,ピストンロッドの往復運動を該ピストンロッドに連結した上
記第一,第二コネクティングロッドを介して第一,第二クランクレバーの回転運動
に変換する構成」が開示されていると認められる。
そして,引用発明と引用例2に記載された事項とは,ピストン及びピストンロッ
ドの往復運動を回転運動に変換する機構を有するエンジンに係る技術である点で共
通しており,前記の引用発明の目的(課題及び効果)からすると,ピストンの往復
運動を最終的に回転運動に変換する場合,その往復運動を取り出す態様は適宜に変
更できること,さらに,当該出力機構の機能に関しては,ピストン及びピストンロ
ッドの往復運動に関する具体的構成とは分けて論ずることができるとともに,両者
に適用を妨げるほどの相違がないと考えられ,このことは当業者が容易に理解でき
ると解される。
そうすると,当業者にとって,引用発明の出力機構として,引用例2に記載され
た事項を採用することは格別困難ではなく,相違点に係る構成とすることは容易に
想到できたものである。
(2) 前提認定の誤り1について
原告は,引用例1にはコンロッド部分にクランクをどのように取り付けるかにつ
いては一切記載されていないし,往復運動するコンロッド部分に直接クランクを取
り付けても回転運動に変換することはできない上,
「エンジンの出力機構は,ピスト
ンおよびピストンロッドの往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換するも
の」であるから,ピストンロッドと一体に往復運動するコンロッド部分が「ピスト
ンロッドの往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換するもの」に該当しな
いことは明らかであるなどと主張する。
しかし,引用例1において,
「コンロッド部分」を直接クランクに取り付けても回
転運動に変換することができないことは技術的に明らかであるから,コンロッド部
「
分」とクランクとの間に何らかの部材を介することにより,ピストン(2a)とピ
ストン(2b)の往復運動を最終的にクランクへ伝達し,クランクを回転させるこ
とが認められ,
「コンロッド部分」は出力に関わる機能を果たしているといえること
は前記のとおりである。そして,エンジンの出力機構がピストン及びピストンロッ
ドの往復運動をクランク機構を介して回転運動に変換するものであるならば,引用
発明の「コンロッド部分」は,ピストン(2a)とピストン(2b)及びピストン
ロッドである「ピストン接続棒」の往復運動をクランク機構を介して回転運動に変
換する機構の一部を構成しているといえ,そうした意味において「出力機構」とい
えるものであることも前記のとおりである。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 前提認定の誤り2について
原告は,発明思想が全く異なる「本願発明」と「引用例2に記載の事項」とを同
等に比較することは誤りであるなどと主張する。
しかし,審決は,本願発明と引用発明の相違点に係る出力機構の具体的構成に着
目して,引用例2を示したものと認められる。そして,引用例2に記載された事項
は,ピストン及びピストンロッドの往復運動を回転運動に変換する機構を有する点
で本願発明と共通しており,出力機構の機能に関し本願発明との対応関係を検討す
る場合,ピストン及びピストンロッドの往復運動に係る構成の異同が重要でないこ
とも技術的に明らかである。そうすると,本願発明と引用発明の相違点に係る構成
に関し,引用例2を示して本願発明と比較することが誤りということはできない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 相違点についての判断の誤り1について
原告は,審決には引用発明の「出力機構」の認定に誤りがあると主張するが,審
決における引用発明の「出力機構」の認定に誤りはないことは前記のとおりである。
(5) 相違点についての判断の誤り2について
まず,本願発明における「ピストンロッドの軸線方向の中心」とは,ピストンロ
ッドの長さ寸法を2分の1にした位置と解するのが合理的で,軸線上であって,か
つ,ピストンロッドの径方向の長さ寸法を2分の1にした位置とまでは解すること
はできないこと,引用発明の「出力機構」に「コンロッド部分」が含まれること,
「コンロッド部分」がピストン接続棒の軸線方向の中心に連結されていることは,
いずれも前記のとおりである。
よって,原告の主張はその前提において理由がなく,採用することができない。
(6) 相違点についての判断の誤り3について
引用発明と引用例2に記載された事項とは,ピストン及びピストンロッドの往復
運動を回転運動に変換する機構を有するエンジンに係る技術である点で共通してお
り,引用発明においてピストンの往復運動を取り出す態様は適宜に変更できること,
出力機構の機能に関し,ピストン及びピストンロッドの往復運動に関する具体的構
成とは分けて論ずることができるとともに,両者に適用を妨げるほどの相違がない
ことは当業者が容易に理解できるものであることは前記のとおりである。
(7) 効果についての判断の誤りについて
原告は,審決の「本願発明の効果も,引用発明及び引用例2に記載の事項が有す
る効果の総和を超えるものではなく,当業者が予測し得た範囲内のものである。 と
」
の判断は誤りであると主張する。
しかし,本願明細書記載によれば,本願発明は,前記のとおり,①第一,第二ピ
ストンに加えられた往動方向と復動方向の推進力でピストンロッドを安定かつ強力
に往復動でき,該双方向の推進力で出力機構の各周回運動を安定かつ強力に取り出
すことができること,②ピストンロッドに対し軸対称に設けた出力機構により,単
一のピストンロッドの往復運動を軸対称出力として取り出すことができ,例えば船
舶の一対のスクリューを回転駆動するエンジンとして有効に適用できるという効果
を有するものであるが,上記①の効果は引用発明の構成によって奏するものであり,
上記②の効果は引用例2に記載の事項によって奏するものであると認められる。本
願発明の効果は,引用発明及び引用例2に記載の事項が相互に作用し合い,予測す
ることのできない新たな効果をもたらすものではないものであるから,審決が「本
願発明の効果も,引用発明及び引用例2に記載の事項が有する効果の総和を超える
ものではなく,当業者が予測し得た範囲内のものである。 と判断したことに誤りは
」
ないというべきである。
なお,原告は,本願発明は,偏荷重によるピストンロッドの破損や変形を有効に
防止するとともに,ピストンロッドの往復運動を回転運動にスムーズに変換する点
で格別の効果を有すると主張するが,かかる効果は明細書には記載されていない。
仮に本願発明がかかる効果を有するとしても,それをもって当業者が引用発明及び
引用例2に記載された事項から予測できないほどの格別の効果であるということは
できないというべきである。
第6 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官
塩 月 秀 平
裁判官
真 辺 朋 子
裁判官
田 邉 実
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