平成22(行ケ)10096等審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成22年11月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告Y 原告株式会社山忠
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対象物 |
ショーツ,水着等の衣料 |
法令 |
特許権
特許法29条2項2回
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キーワード |
審決20回 実施14回 無効9回 刊行物4回 無効審判4回 特許権1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「ショーツ,水着等の衣料」とする発明について,平
成11年5月26日,国際特許出願(特願2000−620828号)をし,
平成15年1月17日,特許権の設定登録を受けた(特許第3389573号。
甲15。以下「本件特許」といい,同特許に係る発明を「本件発明」という。)。
原告は,平成21年6月23日,本件特許について特許無効審判を請求し(甲
14。無効2009−800134号),審判手続中に証拠として甲1ないし8
を提出した。特許庁は,平成22年2月23日,「本件審判の請求は,成り立た
ない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その審決の謄本は,同
年3月5日原告に送達された。
2 本件特許の一部譲渡
共同訴訟参加人(以下「参加人」という。)は,被告から本件特許の一部を譲
り受けたとして,平成22年3月31日付けで,特許庁に対し,移転登録申請
を行い登録がされた(乙1,丙1)。参加人は,平成22年5月15日,本訴に
ついて,適法に参加の申立てをした。 |
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判決文
平成22年11月30日判決言渡
平成22年(行ケ)第10096号 審決取消請求事件
平成22年(行ケ)第10161号 共同訴訟参加事件
平成22年10月26日 口頭弁論終結
判 決
原 告 株 式 会 社 山 忠
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 庄 司 建 治
被 告 Y
共 同 訴 訟 参 加 人 ト ラ タ ニ 株 式 会 社
両名訴訟代理人弁理士 鈴 江 正 二
同 木 村 俊 之
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2009−800134号事件について平成22年2月23日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「ショーツ,水着等の衣料」とする発明について,平
成11年5月26日,国際特許出願(特願2000−620828号)をし,
平成15年1月17日,特許権の設定登録を受けた(特許第3389573号。
甲15。以下「本件特許」といい,同特許に係る発明を「本件発明」という。 。
)
原告は,平成21年6月23日,本件特許について特許無効審判を請求し(甲
14。無効2009−800134号) 審判手続中に証拠として甲1ないし8
,
を提出した。特許庁は,平成22年2月23日,
「本件審判の請求は,成り立た
ない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その審決の謄本は,同
年3月5日原告に送達された。
2 本件特許の一部譲渡
共同訴訟参加人(以下「参加人」という。)は,被告から本件特許の一部を譲
り受けたとして,平成22年3月31日付けで,特許庁に対し,移転登録申請
を行い登録がされた(乙1,丙1)。参加人は,平成22年5月15日,本訴に
ついて,適法に参加の申立てをした。
3 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲は,次のとおりである(なお,構成要件の各分説
及びその符号は,審判におけるものである。また,本件特許に係る願書に添付
された図面1,2,5は,順に別紙図面1ないし3のとおりである。)
【請求項1】
A 下方開放状の足口(15)を左右対称に形成した伸縮性を有する前身頃(1
1)の左右端縁(16,16)の各下端部を,左右の足口内周のヒップ裾ラ
イン(15a,15a)の下端部と交差させ,かつ,前記左右端縁(16,
16)の各上下方向中間部から下端部までの間の部分を外方へ凸型の曲縁(1
6a)でつなぐ形に裁断し,
B 該曲縁(16a)の上下方向中間部より下方部(16b)は直線または曲
線状に形成してあり,
C 伸縮性を有する後身頃(12)はこれの左右端縁(19,19)の各上下
方向中間部から下端部までの間の部分(19a)が下方拡がりの形に裁断し
てあり,
D しかも,後身頃(12)の左右端縁(19,19)の下端部間の幅(P)
は上記前身頃(11)の左右端縁(16,16)の下端部間の幅(H)に対
して0.6倍以上で6倍以下に設定され,
E これら後身頃(12)の左右端縁(19,19)と前身頃(11)の左右
端縁(16,16)とは縫合され,
F この縫合線(L)が後部ウエスト部(24,25)からヒップの頂部(T)
より外側に迂回してヒップ裾ライン(15a)に至るように形成しているこ
とを特徴とするショーツ,水着等の衣料。
4 審決の理由
本件発明は,以下のとおり,登録実用新案第3022949号公報(甲1),
特開昭62−141101号公報(甲2),特開昭50−83153号公報(甲
3),特開平9−316708号公報(甲4)及び特公平4−40441号公報
(甲5)に記載された発明によって,当業者が容易に発明をすることができた
とはいえないから,本件特許を無効とすることはできない。すなわち,
(1) 本件発明は,前記構成要件AないしFを備えることにより,着用時には
激しく腰を曲げるなどして動いてもヒップ裾ラインのずり上がりを防止でき,
直立姿勢時にヒップ下部,臀溝部に「弛みじわ」,及び「だぶつき」が発生
することが殆ど無く美しいヒップ裾ラインを出すことができ,座り姿勢でも
縫合線による違和感がほとんど無く,またタイトな薄い外衣を着用したとき
にもその縫合線に沿ったラインが外衣に目立ちにくくなるという作用効果を
奏するものである。そして,本件明細書の記載を総合すると,本件発明にお
いては,構成要件C(後身頃の上下方向中間部から下端部までの間を下方拡
がりの形にする点)と,構成要件E及びF(後身頃と前身頃との縫合線が,
後部ウエスト部からヒップの頂部より外側に迂回してヒップ裾ラインに至る
点)とを兼ね備える点に技術的意義があるといえる。
(2) 一方,構成要件C,E及びFを兼ね備えることは,甲1ないし甲5のい
ずれにも記載されておらず,示唆もされていない。甲2の第6図(判決注・
別紙図面4),及び甲5の第4図(判決注・別紙図面5)は,縫合線が後部
ウエスト部を通るものではないから構成要件Fと異なるし,また,後身頃が
下方窄まりの形状であるから構成要件Cとも異なる。さらに,甲4の図6(判
決注・別紙図面6)に示されたもので,布辺部1A1,1A2,1B1,1
B2を縫合したものが,後身頃に相当すると解した場合には,構成要件E及
びFを兼ね備えたということができるが,構成要件Cは備えていない。
と,判断した(別紙審決書写し参照)。
第3 取消事由に関する原告の主張
本件発明は,以下のとおり,発明の属する技術の分野における通常の知識を
有する者ならば,刊行物等に基づき容易に着想することができる発明であり,
これと異なる判断をした審決は誤りである。
1 取消事由1
審決は,本件発明においては,構成要件C,E,Fを兼ね備える点に技術的
意義があると認定している。しかし,本件発明は,共に限定された形状をもっ
て裁断される前身頃(構成要件A)及び後身頃(構成要件C)の縫合線がヒッ
プ頂部より外側に迂回すること(構成要件E,F)が兼ね備わることに技術的
意義があり,共に限定形状の前身頃と後身頃を縫合させないと縫合線をヒップ
頂部より外側に迂回させることができない。
審決は,本件発明の技術的意義の認定において,構成要件Aを看過し,構成
要件C,E,Fに限定して容易想到性の判断をした誤りがある。
(判決注 当裁判所は,原告の取消事由に係る主張は,自己に不利な主張であ
り,その主張自体失当であると解するが,その点はさておいて,原告の主張す
るとおり,摘示した。)
2 取消事由2
構成要件C,E,Fを兼ね備えることは,次のとおり,刊行物に示唆されて
いる。
(1) 構成要件Cに関する示唆の有無について
甲1には, (別紙図面7) 図2
図1 , (別紙図面8)に示す実施例について,
「1は下方拡がりの形状の後身頃片(半折して図示),
」「図1の記号1と下方
拡がりの端縁(6a)」との記載があり,後身頃が下方拡がりの形に裁断して
あること(構成要件C)が記載ないし示唆されている。また,甲9ないし1
3にも,上記構成要件Cに近似した構成が示されている。
(2) 構成要件Eに関する示唆の有無について
甲1には,図1(別紙図面7)に示す実施例について,
「2は左右後身頃片
に縫合される側部片(左右一対) 3は側部片と縫合されて前身頃を構成する
,
前身頃片(半折して図示)」と記載され,甲4には,図2(別紙図面9)にお
いて,前身頃に当たる布片(1A)(1B)の端縁と下方拡がりの後身頃片
,
が縫合されている実施例が示されており,前身頃と後身頃が縫合されること
(構成要件E)が示唆されている。
(3) 構成要件Fに関する示唆の有無について
甲1には,図4(A)
(別紙図面10)において,立体ショーツの後身頃と
前身頃の左右対称の縫合線が,臀部の頂部より外側に迂回する構成が示され
ている。また,甲2には,第6図(別紙図面4)に示す実施例について,
「そ
うして臀部充当片aの臀部縫合辺2は臀部のトップ付近またはその外寄りを
通過する」と記載されている。さらに,甲4には,図6(別紙図面6)に示
す実施例について,図6は本発明に係るヒップ体形をシェープアップする衣
「
類として適用したパンティ型のショートガードルの他の実施の形態を示す背
面図であり,この場合は,上記左右二枚の布片1A,1Bのうち,上記裏面
側縫合線3Bの両側のウエストライン部5から左右の臀部の外周を通って上
記股布4の上端縁4eよりも上部位置の裏面側縫合線3Bに至るほぼ円弧状
縫合線8A,8Bを形成して,
・・・」と記載されている。上記刊行物におい
ては,縫合線が後部ウエスト部からヒップの頂部より外側に迂回してヒップ
裾ラインに至るように形成していること(構成要件F)が示唆されている。
(4) したがって,本件発明の構成要件C,E,Fを兼ね備えた構成に着想す
ることは容易であった。
第4 被告及び参加人の反論
以下のとおり,原告の主張には理由がなく,審決に誤りはない。
1 取消事由1に対し
審決は,構成要件C, Fを兼ね備えることの容易想到性について検討し,
E,
それに想到することが容易ではないから,構成要件Aについて検討するまでも
なく,本件発明の容易想到性を否定しているのであって,構成要件Aに技術的
特徴があることを看過したものではない。
また,原告の主張は,構成要件C,E,Fの相互関係を断ち切り,それらを
別々に把握した上,個々の構成要件が,別個の文献又は同一文献でも別個の箇
所に別個の技術的思想として記載されていることを指摘するものにすぎず,本
件発明が容易想到であるとする根拠を示していない。
さらに,甲9ないし13は,審判段階で提出されておらず,本訴において追
加したものであり,審理の対象とすることは許されない。
2 取消事由2に対し
甲1には,図4(A)
(別紙図面10)に示す実施例の縫合線がヒップの頂部
より外側に迂回してヒップ裾ラインに至るように形成されているとは記載され
ていない。仮にこれが認められるとしても,甲1の図4(A)(別紙図面10)
に示す実施例の後身頃は,下方窄まりの形状であるから,構成要件Cを備えて
いない。甲1の図4(A)
(別紙図面10)に示す実施例が,本件発明の構成要
件C,E,Fを兼ね備えているとはいえない。
以上のとおり,取消事由2に関する原告の主張は,失当である。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,原告が主張する取消事由には,理由がないものと判断する。その
理由は,以下のとおりである。
1 はじめに
(1)特許法29条2項所定の要件の判断,すなわち,その発明の属する分野に
おける通常の知識を有する者(当業者)が同条1項各号に該当する発明に基
づいて容易に発明をすることができたか否かの判断は,通常,先行技術のう
ち,特許発明の構成に近似する特定の先行技術(以下「主たる引用発明」と
いう場合がある。 を対比して,
) 特許発明と主たる引用発明との相違する構成
を認定し,主たる引用発明に,それ以外の先行技術(以下「従たる引用発明」
という。 ,技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通
)
常の知識)を組み合わせ,特許発明と主たる引用発明との相違する構成を補
完ないし代替させることによって,特許発明に到達することが容易であった
か否かを基準として判断すべきものである。
(2)ところで,審決は,前記第2の4のとおり,本件発明と先行技術とを対比
し,相違点を認定することなく,①本件明細書に基づいて,本件発明の技術
的意義について検討し,同意義を,構成要件C(後身頃の上下方向中間部か
ら下端部までの間を下方拡がりの形にする点)と,構成要件E及びF(後身
頃と前身頃との縫合線が,後部ウエスト部からヒップの頂部より外側に迂回
してヒップ裾ラインに至る点)とを兼ね備える点にあるとした上で,②構成
要件C,E及びFを兼ね備えた技術は,甲1ないし甲5のいずれにも記載さ
れておらず,示唆もされていないと判断して,本件発明は,原告の主張に係
る各引用発明から容易に想到することができないとの結論を導いている。
この点,特許法29条2項所定の容易想到性の有無を判断するに当たり,
特定の引用発明と対比して,相違点を認定することをせずに,先に,当該発
明の技術的意義なるものを設定した上で,各引用発明に当該発明の技術的意
義が記載されているか否かを判断する手法は,判断の客観性を担保する観点
に照らし疑問が残るといえる。
しかし,本件においては,原告(無効審判請求人)は,無効審判手続にお
いて,甲1の図1,2には構成要件AないしEが記載又は示唆され,甲1の
図4(A)には構成要件Fが示唆され,甲2には構成要件Fが示唆され,甲
4の図2には構成要件D及び構成要件Bが示唆され,甲5には構成要件Fが
示唆されているなどとの主張はするものの,特定の先行技術を主たる引用発
明として挙げた上で,本件発明との相違点に係る構成を明らかにし,従たる
引用発明等を組み合わせることによって,本件発明に至ることが容易である
とする論理的な主張を明確にしているわけではない。このような無効審判手
続における原告の無効主張の内容に照らすならば,本件における審決の判断
手法が,直ちに違法であるとまではいえない(なお,このような場合であっ
ても,審判体としては,①原告に対して釈明を求めて,本件発明が容易想到
であるとの原告の主張(論理)を明確にさせた上で判断するか,あるいは,
②原告に対する釈明を求めることなく,原告の挙げた引用発明を前提として,
それらの引用発明との相違点を認定した上で,本件発明の相違点に係る構成
が容易想到であるか否かを,個別具体的に判断するか,いずれかの審理を採
用するのが望ましいといえる。 。
)
2 取消事由2について
先に,取消事由2について,判断する。
(1)原告は,甲1の図4(A)(別紙図面10),甲2の第6図(別紙図面4),
甲4の図6(別紙図面6)に示す実施例において,縫合線が後部ウエスト部
からヒップ頂部より外側を迂回してヒップ裾ラインに至るように形成される
との構成(構成要件F)が示唆されていると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,
甲1の図4(A)
(別紙図面10)に示す実施例においては,縫合線が,後
部ウエスト部から形成されていない上,ヒップの頂部より外側を迂回してい
るか否かも判然としない(なお,後身頃が下方拡がりの形に裁断されておら
ず,構成要件Cも有していない。。
)
また,甲2には,第6図(別紙図面4)に示す実施例について,
「臀部充当
片aの臀部縫合辺2は臀部のトップ付近またはその外寄りを通過する・・・」
(3頁右上欄13∼14行)との記載があるが,縫合線(縫合辺)が後部ウ
エスト部から出発していない上,ロングガードルに関する発明であって,縫
合線(縫合辺)が裾ぐり辺16にまで達しており,ヒップ裾ラインに至るよ
うに形成されていない(なお,後身頃が下方拡がりの形に裁断されておらず,
構成要件Cも有していない。。
)
さらに,甲4には,図6(別紙図面6)に示す実施例について,
「・・・左
右二枚の布片1A,1Bのうち,上記裏面側縫合線3Bの両側のウエストラ
イン部5から左右の臀部の外周部を通って上記股布4の上端縁4eよりも上
部位置の裏面側縫合線3Bに至るほぼ円弧状縫合線8A,8Bを形成し
て,・・・」(4欄44∼48行)との記載があるところ,布片部1A1,1
A2,1B1及び1B2の各縫合線(縫合辺)は,後部ウエスト部からヒッ
プ裾ラインに至るように形成されていない(仮に,甲4の図6(別紙図面6)
の布片部1A1,1A2,1B1及び1B2を縫合したものが本件発明の後
身頃に相当するものだとしても,これが下方拡がりの形に裁断されていると
は認められず,構成要件Cを有していない。 。
)
以上のとおり,甲1の図4(A)(別紙図面10),甲2の第6図(別紙図
面4),甲4の図6(別紙図面6)に示す実施例において,構成要件Fが示唆
されているとはいえない。したがって,上記各証拠に構成要件Fが示唆され
ているとする原告の上記主張は採用することができない。そして,本件全証
拠によるも,前記刊行物に記載された技術及びその他の技術を組み合わせる
ことによって,構成要件F(縫合線が後部ウエスト部からヒップの頂部より
外側を迂回してヒップ裾ラインに至るように形成されるとの構成)を備える
ことが容易であると判断するに足りる証拠はない。
(2)なお,原告は,本件審判手続中に,大手衣料メーカーのショーツの実測結
果であるとして甲6ないし8を提出する。しかし,上記各証拠には,本件特
許出願日前に存在したショーツの実測結果が記載されているか否かは明らか
でなく,上記各証拠をもって本件発明の容易想到性を判断することはできな
い。また,原告は,本訴において,審判手続において提出されていなかった
甲9ないし13を提出し,これに基づき,構成要件Cを備えることが,容易
である旨主張する。しかし,上記各証拠は,本件特許出願日当時における技
術常識の内容及びその存在を立証するための証拠を追加するものとは認めら
れず,新たな無効理由を主張するものであるから,上記各証拠に基づく原告
の主張は許されない。
以上のとおりであり,原告の取消事由2に係る主張は,失当である。
3 取消事由1について
次いで,取消事由1について判断する。
原告は,審決には,本件発明の技術的意義の認定に当たり,構成要件Aを看
過し,構成要件C,E,Fに限定して容易想到性の判断をした誤りがあると主
張する。
しかし,原告の主張は,第3の1で注記したとおり,採用の限りでない。
まず,審決は,本件発明の技術的意義との概念を使用して,本件発明の技術
的意義は,構成要件C,E,Fを同時に併せ持つものであるとした上で,甲号
各証には,同構成要件を同時に併せ持つものを記載ないし示唆したものは存在
しないとの判断をしている。これに対して,原告が,本件発明の技術的意義は,
構成要件C,E,Fに加えて,構成要件Aをも併せ持つものと認定すべきであ
ると主張することは,審決の論理を前提とする限り,より多くの技術的要素を
同時に備えていることが必須であると主張することとなり,原告にとっては,
むしろ不利益な主張であって,審決の判断に影響を与えるものとはいえない。
原告の主張を前提としても,審決が,本件発明の容易想到性を判断するに当た
り,構成要件C,E,Fを取り上げて判断したことに誤りがあるとの結論を導
くこともできず,原告の上記主張は採用することができない。
4 結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に本件審決には
これを取り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主張するが,
いずれも,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
中 平 健
裁判官
知 野 明
(別紙)図面1 図面2
図面3 図面4
図面5 図面6
図面7 図面8
図面9 図面10
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