平成20(ワ)36935損害賠償請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成22年11月4日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社トーソー
株式会社平成化成 原告株式会社ベストエバー
株式会社ベストエバージャパン
ら訴訟代理人弁護士山本昌彦
|
法令 |
不正競争
不正競争防止法2条1項3号1回 不正競争防止法5条1項1回
|
キーワード |
許諾3回 損害賠償2回
|
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という )を製造。
している原告ベストエバー及び同商品を販売している原告ベストエバージャパ
ンが,別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」という )は原告商品。
の形態を模倣したものであり,被告らが被告商品を販売した行為は不正競争防
止法2条1項3号の不正競争に該当すると主張して,被告らに対し,不正競争
防止法4条に基づき,損害賠償として,原告らにそれぞれ400万円及びこれ
に対する不正競争の後である平成20年12月28日(訴状送達の日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払う
よう求めた事案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 不正競争に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成22年11月4日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成20年(ワ)第36935号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成22年8月26日
判 決
大韓民国ソウル市<以下略>
原 告 株式会社ベスト エバー
横浜市<以下略>
原 告 株式会社ベストエバージャパン
原告ら訴訟代理人弁護士 山 本 昌 彦
同 高 橋 邦 明
愛知県蒲郡市<以下略>
被 告 株 式 会 社 ト ー ソ ー
同訴訟代理人弁護士 坂 口 良 行
同 丑 野 雅 紀
群馬県伊勢崎市<以下略>
被 告 株 式 会 社 平 成 化 成
同訴訟代理人弁護士 中 川 顯 一 郎
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告らは ,連帯して ,原告株式会社ベストエバー( 以下「 原告ベストエバー 」
という 。)に対し,400万円及びこれに対する平成20年12月28日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,連帯して,原告株式会社ベストエバージャパン(以下「原告ベス
トエバージャパン」という 。)に対し,400万円及びこれに対する平成20
年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という 。)を製造
している原告ベストエバー及び同商品を販売している原告ベストエバージャパ
ンが,別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」という 。)は原告商品
の形態を模倣したものであり,被告らが被告商品を販売した行為は不正競争防
止法2条1項3号の不正競争に該当すると主張して,被告らに対し,不正競争
防止法4条に基づき,損害賠償として,原告らにそれぞれ400万円及びこれ
に対する不正競争の後である平成20年12月28日(訴状送達の日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払う
よう求めた事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いがな
い事実である 。)
( 1) 当事者
原告ベストエバーは ,玩具類の製造 ,販売業及び輸出入業等を目的として ,
大韓民国(以下「韓国」という 。)で設立された会社である(甲1 )。
原告ベストエバージャパンは,動物,人形等のぬいぐるみの販売及び輸入
等を目的とする会社である(甲2 )。
被告株式会社トーソー(以下「被告トーソー」という 。)は,インテリア
用品の製造,販売等を目的とする会社である。
被告株式会社平成化成(以下「被告平成化成」という 。)は,インテリア
用品の加工販売等を目的とする会社である。
( 2) 原告商品の製造,販売
原告ベストエバーは,原告ベストエバージャパンに対し,原告ベストエバ
ーが製造した商品を日本国内において独占的に販売する権利を許諾してい
る。原告ベストエバージャパンは,上記許諾に基づき,平成16年8月ころ
から,日本国内において,原告ベストエバーが製造した原告商品の販売を開
始した(甲20の1・2,弁論の全趣旨 )。
( 3) 被告商品の製造,販売
被告商品は,中華人民共和国(以下「中国」という 。)に所在する会社で
ある上海徐徑紅三角長毛絨玩具廠(以下「紅三角」という 。)が製造した商
品である(なお,被告商品の形態を企画した者が誰であるかについては,後
記3( 1)のとおり当事者間に争いがある 。 。
)
被告トーソーは,平成18年4月ころ,紅三角から被告商品を購入し,同
商品を日本に輸入した 。被告トーソーは ,被告商品を被告平成化成に販売し ,
被告平成化成は,同商品を株式会社しまむら(以下「しまむら」という 。)
に販売した。
2 争点
( 1) 被告らは,原告商品の形態を模倣して被告商品の形態を企画し,紅三角
に被告商品を製造させたか(争点1 )。
( 2) 原告商品の形態は,同商品の機能を確保するために不可欠なものか(争
点2 )。
( 3) 被告らは,被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意か
つ無重過失であったか(争点3 )。
( 4) 原告らの損害(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
( 1) 争点1(被告らは,原告商品の形態を模倣して被告商品の形態を企画し
たか)について
[原告らの主張]
ア 被告商品の形態を企画した者
被告商品の形態は,被告トーソーが利用していた日本人のデザイナーで
あるアトリエ裕と被告らが,共同で企画し,紅三角に製造させたものであ
る。
イ 原告商品の形態と被告商品の形態は実質的に同一であること
原告商品の形態は,別紙原告商品・被告商品形態目録(以下「別紙商品
形態目録」という 。)の【原告商品 】「原告らの主張」欄記載のとおりで
あり,被告商品の形態は,同目録の【被告商品 】「原告らの主張」欄記載
のとおりである。
上記目録の記載によれば,原告商品と被告商品は,①目,耳等の構成の
種類,②縫い目の位置,③黒い糸で指を成形する方法,④商品全体や構成
部分の大きさ,⑤足や尾等の構成部分の取付け位置,⑥色が白色系である
こと,がほぼ同じであり,両者の形態は,実質的に同一である。
ウ 被告商品の形態が原告商品の形態に依拠したものであること
被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であることに加え,次
のとおり,原告商品は日本において広範囲で販売され,宣伝等もされてい
たことからすると,被告ら及びアトリエ裕が原告商品の形態に依拠して被
告商品の形態を企画したことは,明らかである。
(ア) 原告ベストエバーは,平成15年度から,筒状の胴体と犬の頭部の
ある商品を , Petite Holder」 プチ
「 ( ホルダー )という名のシリーズ( 以
下「プチホルダー商品」という 。)で販売を開始した(甲9 )。
(イ) 原告ベストエバージャパンは,平成15年9月に東京で開催された
東京インターナショナルギフトショー(以下「東京ギフトショー」とい
う。)にプチホルダー商品を出展し,審査員特別賞を受賞した。また,
東京ギフトショーの主催者である株式会社ビジネスガイド社が発行した
月刊「 Personal Gift」平成15年10月号に,東京ギフトショーにおけ
る特別賞受賞作品として,原告商品を含むプチホルダー商品の写真が掲
載された(甲10・21頁 )。
(ウ) 原告ベストエバージャパンは,平成16年8月から,日本において
原告商品の販売を開始した。原告ベストエバージャパンは,同社の商品
カタログに原告商品を掲載した(甲12,甲20の1・2)ほか,同社
のウェブサイトに原告商品を掲載し(甲19 ),販売した。
(エ) 原告ベストエバージャパンは ,原告ベストエバーが製造した商品を ,
株式会社三越の恵比寿店,株式会社高島屋及び仙台ロフトなどの著名な
百貨店等に納入して販売しており,現在までに販売した原告商品の個数
は,合計330個である。また,原告商品以外のプチホルダー商品の販
売個数は,合計で1万7316個である。
[被告トーソーの主張]
原告らの主張を否認ないし争う。
被告商品の形態を企画したのは,被告らではなく紅三角である。また,原
告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるとは認められない。そ
の理由は,次のとおりである。
ア 被告商品の形態を企画したのは紅三角であること
被告商品は ,「ワンワンランドシリーズ」という企画の延長で,そのシ
リーズの一つの商品として作られたものである。同企画は,平成18年2
月ころ,被告ら及びアトリエ裕が共同して企画したものであるが,そのシ
リーズには,犬を素材に使った背当てクッション,ティッシュボックスカ
バー,ペーパーホルダー,小物シリーズなどが企画されていた(乙1 )。
上記企画書は,平成18年2月20日ころに完成し,被告トーソーは,紅
三角に対し,上記背当てクッションなどのサンプルの製作を依頼した。
被告トーソーの従業員であるAは,同年3月ころ,上記サンプルを確認
するため,中国にある紅三角を訪れた。Aは,その際,紅三角のデザイナ
ーから,同工場において製造されているアメリカ向けのスヌーピー犬の小
物入れ(乙3。以下「スヌーピーの小物入れ」という 。)を見せられたこ
とから,同小物入れを参考にして,それと同じような動物(犬,熊等の動
物)の小物入れができないかと考え,紅三角に対し,上記小物入れのサン
プルの製作を依頼した。なお,Aは,上記依頼の際,紅三角に対し,上記
のとおり動物の小物入れのサンプルの形状の大まかな要望を伝えただけで
あり,具体的なデザイン,形状等を設計図面や製作図面等で指図して依頼
したものではなく,具体的なデザインや形状,色彩,大きさなどについて
は,紅三角に一任していた。
その後,被告トーソーは,紅三角から,上記動物の小物入れのサンプル
として4種類( 熊 ,ハスキー犬 ,柴犬及びプードル犬の各小物入れ 。乙4 。
以下「本件サンプル」という 。)を受け取り,これを被告トーソーの納品
先である被告平成化成に見せたところ,被告平成化成から,被告商品を実
験販売の形で試験的に販売するので発注したい旨の連絡があった。
そこで,被告トーソーは,本件サンプルと同じ動物の小物入れの製造を
紅三角に発注し,紅三角から被告トーソーに対してこれらの商品が納品さ
れた。なお,被告トーソーは,同社が紅三角に対して上記サンプルの製作
を依頼した時点では,原告商品の存在を知らなかった。
イ 原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一とはいえないこと
原告商品及び被告商品の形態に関する原告らの主張に対する被告トーソ
ーの認否は,別紙商品形態目録の「被告トーソーの認否」欄記載のとおり
である。
被告商品の形態は,以下の点において原告商品の形態と相違しており,
原告商品と実質的に同一の形態を有するものではない。
(ア) 頭顔部について
被告商品の方が,頭部,目及び耳が大きく,目と鼻の距離が近い。ま
た,被告商品の方が,顔面部を覆う布の布目が細かく,耳にリボンが付
いている。
一方,鼻の突き出し方は,原告商品の方が大きく,鼻と口の大きさや
構成,耳の形も,原告商品と被告商品とでは異なる。
口の形状は,原告商品が緩やかな山の形であるのに対し,被告商品は
「へ」の字型と「V」字型が組み合わさっており ,「V」字の所に黒い
糸が入っている。
(イ) 胴体部について
被告商品は,尾が極めて小さい。また,腕の上部の縫い目が,原告商
品は縫って繋いでいるのに対し ,被告商品は縫い合わせたものではない 。
タグの形状も,原告商品と被告商品とでは異なる。また,原告商品に
は,下部に接着用シート(マジックテープ)が付いている。
[被告平成化成の主張]
被告平成化成は,被告商品の形態の企画に関与していない。また,原告商
品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるとは認められない。その理
由は,次のとおりである。
ア 被告平成化成は被告商品の形態の企画に関与していないこと
被告トーソーは,被告平成化成が扱う商品の仕入先の一つであり,約1
0年前から取引があった。被告平成化成は,被告トーソーから商品(サン
プル)の提案を受けると,そのサンプルを得意先に示して商談し,商談が
成立すれば,被告トーソーに対して同商品を発注していた。また,被告平
成化成は,被告トーソーから仕入れる商品について,その企画段階から関
与することはなかった。
被告商品は,平成18年3月に被告トーソーからサンプルの提案を受け
た商品である。被告平成化成は,同サンプルをしまむらのバイヤーに見せ
て商談したところ,実験販売の形で採用となったため,被告トーソーに対
し,被告商品を発注した。なお,被告平成化成は,被告商品の企画に関与
しておらず,被告商品を発注した当時は,原告商品が存在することを知ら
なかった。
イ 原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一とはいえないこと
原告商品及び被告商品の形態に関する原告らの主張に対する被告平成化
成の認否は,別紙商品形態目録の「被告平成化成の認否」欄記載のとおり
である。
被告商品の形態は,以下の点において原告商品の形態と相違しており,
原告商品と実質的に同一の形態を有するものではない。
(ア) 頭顔部について
被告商品の方が ,頭部 ,耳及び目は大きく ,鼻の突き出し方は小さい 。
また,被告商品の方が,顔面部を覆う布の目が細かく,目と鼻の距離が
近い。
さらに,原告商品と被告商品とでは,口の形状が異なっており,被告
商品には,耳にリボンが付いている。
(イ) 胴体部について
被告商品の方が ,尾が小さく ,タグの形状も原告商品と異なる 。また ,
原告商品には,接着用シート(マジックテープ)が付いている。
[被告らの主張に対する原告らの反論]
被告トーソーは,被告商品は紅三角がスヌーピーの小物入れに依拠して製
造したものであると主張する。
しかしながら ,スヌーピーの小物入れの形態は ,①犬の胴体が容器に入り ,
頭部が出ている,②頭部の後ろに蓋が存在する,③容器は,犬の胴体や腕,
足と関係がない,④容器内に犬の胴体と頭部が入っているため,小物を収容
できない ,などの点において ,被告商品と著しく異なっている 。したがって ,
同小物入れに依拠して被告商品を開発することはできない。
また,被告平成化成は,しまむらなど,なるべく多くの売上げ,利益を得
ることを目的とする小売業者から依頼を受けて商品を試作したり,本件のよ
うに,被告トーソーやアトリエ裕と共同で商品を企画,作成し,当該商品を
小売業者のバイヤーに見せて販売活動をしていると考えられる。被告トーソ
ーは,被告平成化成から発注を受けて商品を製造,輸入し,販売する以上,
被告平成化成の意向に沿った商品を企画しなければならず,そのためには,
被告平成化成に対して,企画する商品の形態を具体的に示さなければならな
い。したがって,被告商品の企画には,被告平成化成も当然に関与していた
はずである。
仮に ,被告トーソーが紅三角に商品サンプルの製作を一任したのであれば ,
被告トーソーにおいて事前に商品を企画,検討していないのであるから,売
れ筋の商品を開発することが遠のき,ひいては,小売業者向けの商品開発,
製造販売も計画性がなくなり,小売業者の意向も不要になるものであって,
著しく不自然かつ不合理である。
( 2) 争点2(原告商品の形態は,同商品の機能を確保するために不可欠なも
のか)について
[被告トーソーの主張]
被告商品は,プードル犬をモチーフとした小物入れであり,プードル犬と
しての一般的な特徴である頭顔部 , ,鼻 ,
目 大きな耳及び口を組み合わせて ,
その部分を蓋になるようにし,胴体部分を小物入れ部分として使用できるよ
うに製作したものである。こうした商品形態は,従前から存在していた,動
物モチーフと物入れとを組み合わせたものの一つ(例えば,ペーパーホルダ
ーやティッシュボックスカバー)にすぎない。
動物の頭顔部を上に出し,胴体部分を物を入れるスペースに利用する形態
は,一般的にありふれており,被告商品の形態は,当該商品の機能を確保す
るために不可欠のものである。
[被告平成化成の主張]
被告商品は,プードル犬をモチーフとした小物入れであるから,円筒状の
部分が不可欠であり,円筒状の部分がプードル犬の胴体部分に該当すること
も不可欠である。
また,プードル犬をモチーフとすることから,プードル犬の頭部分は円筒
状の部分の上方に,前足の部分は物の出し入れの邪魔にならないように円筒
状の部分の上端部分に,後足の部分は円筒状の部分の下部前方に,尾の部分
は円筒状の部分の下部後方に,それぞれ付着させる必要がある。
このように,被告商品の形態は,プードル犬をモチーフとした小物入れと
しての商品の機能を確保するために不可欠なものである。
[原告らの主張]
被告らの主張を否認ないし争う。
( 3) 争点3(被告らの善意無重過失の有無)について
[被告トーソーの主張]
仮に,被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であったとしても,被告
トーソーは,前記( 1)[被告トーソーの主張]のとおり,紅三角に被告商品
の製造を発注した当時,かかる事実を知らなかった。
また,原告商品は,販売された数量も少なく,一般に広く認知された商品
ではないため,被告トーソーが被告商品を購入する際,取引上要求される通
常の注意を払ったとしても,原告商品の存在等を認識することはできなかっ
た。さらに,被告トーソーが紅三角に対して動物の小物入れのサンプルの製
作を依頼した当時,紅三角は,アメリカ向けのブランドものであるスヌーピ
ーの小物入れを製作している有力な会社であったことから ,被告トーソーは ,
動物小物入れのサンプルの一つが原告商品と似ているサンプル(被告商品)
として出来上がってくることを全く予想することができなかった。
以上のとおり,被告トーソーは,被告商品を紅三角から購入した当時,被
告商品が原告商品の形態を模倣した商品であることにつき,善意かつ無重過
失であった。
[被告平成化成の主張]
仮に,被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であったとしても,被告
平成化成は,前記( 1)[被告平成化成の主張]のとおり,被告トーソーから
被告商品を購入した当時,かかる事実を知らなかった。
また,原告商品は,販売された数量も少なく,一般に広く認知された商品
ではないため,被告平成化成が被告商品を購入する際,取引上要求される通
常の注意を払ったとしても,原告商品の存在等を認識することはできなかっ
た。
このように ,被告平成化成は ,被告商品を被告トーソーから購入した当時 ,
被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であることにつき,善意かつ無重
過失であった。
[原告らの主張]
被告らの主張を否認ないし争う。
前記( 1)[原告らの主張]のとおり,被告らは,アトリエ裕とともに,原
告商品に依拠して被告商品を開発したものであり,被告商品が原告商品の形
態を模倣した商品であることを知っていた。
( 4) 争点4(原告らの損害)について
[原告らの主張]
被告商品は,紅三角において5万個製造された。
原告ベストエバーは,原告ベストエバージャパンに対し,原告商品を1個
約230円で卸しており,その4割程度が原告ベストエバーの利益となる。
また,原告ベストエバージャパンは,原告商品を1個588円で小売店舗に
卸しており,その4割程度が原告ベストエバージャパンの利益となる。
したがって,原告商品5万個を販売したときの,原告ベストエバーの利益
は460万円(230円×0.4×5万個)であり,原告ベストエバージャ
パンの利益は1176万円(588円×0.4×5万個)であって,同利益
額が,被告商品の販売によって原告らの受けた損害の額である(不正競争防
止法5条1項 )。
原告らは,被告らに対し,上記損害の一部請求として,それぞれ400万
円及びこれに対する不正競争の後である平成20年12月28日(訴状送達
の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を
連帯して支払うよう求める。
[被告トーソーの主張]
原告らの主張を否認ないし争う。
被告トーソーが紅三角から購入し,被告平成化成に販売した被告商品の数
は,合計336個にすぎない。
[被告平成化成の主張]
原告らの主張を否認ないし争う。
被告平成化成が被告トーソーから購入した被告商品の数は,336個であ
り,被告平成化成がしまむらに販売した被告商品の数は,123個である。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
( 1) 前記争いのない事実等並びに証拠(甲3ないし5,甲6,7の各1ない
し6,甲8の1ないし8,甲9ないし12,14,17,19,甲20の1
・2,甲21,甲22の1・2,甲25,33,乙1,3,4,6,8,丙
1,丙2の1ないし6,丙3ないし5,証人A,同B)及び弁論の全趣旨に
よれば,次の事実が認められる。
ア 原告商品の販売及び宣伝の状況
(ア) 原告ベストエバーは,玩具類の製造,販売,輸出入等を業とする韓
国法人であり,同社の製造した玩具等の商品を,アメリカ,フランス,
オーストラリア,香港,韓国及び日本などにおいて販売している。
原告ベストエバージャパンは,原告ベストエバーから日本における同
社の商品の独占的販売権を許諾されており,原告ベストエバーが製造し
た商品を,株式会社三越の恵比寿店,株式会社高島屋,仙台ロフトなど
の百貨店等に納入して販売している。
(イ) 原告ベストエバーは,筒状の胴体と犬の頭部とを備え,胴体部分に
携帯電話や眼鏡等を入れることのできる形態の商品(小物入れ)を開発
し , これを 「 Petite Holder」 と名づけて , 平成15年度から , 同商品( プ
チホルダー商品)の販売を開始した。
プチホルダー商品は,頭部分の犬の種類は様々なものがあるものの,
いずれも,胴体部が円筒状で,その背面側の上端で頭顔部が連結され,
胴体部の上端に円を囲む形で前足があり,上端の正面で前足の先端を合
わせており,胴体部の正面から見て下側に後足が付いているなどの形態
は,各商品に共通している。
(ウ) 原告ベストエバージャパンは,東京において平成15年9月2日か
ら同月5日まで開催された東京ギフトショーに,プチホルダー商品を含
む生活雑貨等を出展し,プチホルダー商品は,同ショー開催中に行われ
たホームファッショングッズコンテストにおいて,審査員特別賞を受賞
した。なお,東京ギフトショーの出展社数は2250社であり,来場者
数は19万人を超え,約30万点のギフト商品が展示された。また,同
ショー開催中の各種コンテストにおいて受賞の対象となった商品の数
は,プチホルダー商品を含めて19点であった。
東京ギフトショーの開催中の状況のほか,原告ベストエバージャパン
がプチホルダー商品について審査員特別賞を受賞したことは,業界誌で
ある月刊「 Personal Gift」平成15年10月号に掲載され,受賞作品と
して ,原告商品を含むプチホルダー商品6点の写真が掲載された なお ,
(
この時点では,原告商品は,原告ベストエバーにおいて開発中であった
ものであり,日本では販売されていなかった 。 。
)
(エ) 原告ベストエバージャパンは,平成16年8月ころから,日本にお
ける原告商品の販売を開始した。原告商品の形態は,別紙商品形態表の
「原告商品」欄記載のとおりである。
原告ベストエバージャパンは,同社が毎年発行している同社の商品カ
タログの平成17年度版(甲20の1・2)及び平成18年度版(甲1
2)に,他の犬種のプチホルダー商品7点とともに原告商品の写真を掲
載したほか,同社のウェブサイト(甲19)に,原告ベストエバージャ
パンの販売している他の商品の写真とともに原告商品の写真を掲載する
などした。
原告ベストエバージャパンが現在までに販売した原告商品の個数は,
330個である(甲25 )。また,その売上高は,19万0487円で
ある。
イ 被告商品の製造及び販売
(ア) 被告トーソーは,インテリア用品の製造,販売等を業とする会社で
あり,被告平成化成は,ウレタン加工及び商品の仕入れ販売等を業とす
る会社である。
被告平成化成は,主に被告トーソーから商品を仕入れ,仕入れた商品
の大半をしまむらに販売している。被告平成化成と被告トーソー及びし
まむらとの取引は,平成10年ころから行われている。
平成18年当時,上記取引における被告トーソー側の担当者はAであ
り,被告平成化成側の担当者はCであった。
(イ) 被告平成化成が,被告トーソーから商品を仕入れて,これをしまむ
らに販売するまでの取引の流れは,次のとおりである。
① まず,被告トーソーから,被告平成化成に対し,商品のサンプルが
提案される。被告トーソーは,サンプルの製作を自社で行うのではな
く,中国の会社に依頼することが多い。
被告トーソーは,サンプルの製作を依頼する際,被告平成化成の担
当者に対し,事前に,どのような形のサンプルを依頼するかについて
説明したり,担当者の意見を求めたりすることがある。
② 被告平成化成は,上記サンプルを検討し,同商品をしまむらが購入
する見込みがあると考えると,同サンプルをしまむらの担当者(バイ
ヤー)に示して,商談をする。
被告平成化成の担当者としまむらのバイヤーとの間で,同商品をし
まむらが購入する旨の商談が成立すれば,被告平成化成は,被告トー
ソーに対し,同商品を発注する。なお,しまむらにおいて販売実績の
ない形状,素材の商品を発注する場合は,実験販売の形,すなわち,
千数百店に上るしまむらの全店舗で当該商品を販売するのではなく,
売上げ上位又は下位の百店舗ほどで実験的に販売し,売行きの様子を
見た上で,売上げが良ければ本格的に採用する(多数の店舗で販売す
ることができるよう多数の商品を発注する 。)という方法をとること
が多い。
③ 被告トーソーは,上記サンプルを製造した会社に対し,同商品を発
注する。商品が製造されると,被告トーソーは,被告平成化成に商品
を納品し,被告平成化成は,同商品をしまむらに納品する。
(ウ) 被告トーソーは ,平成18年の初めころ ,同社で企画している , ワ
「
ンワンランドシリーズ」という,主に犬のぬいぐるみとクッション等の
室内用品とを組み合わせた商品の企画の延長として ,背当てクッション ,
ティッシュボックスカバー,ペーパーホルダー,小物シリーズなどを企
画した。被告トーソーは,上記企画を立てるに当たって,同社の利用し
ているデザイナーであるアトリエ裕に依頼した。
上記企画書(乙1)は,平成18年2月20日ころに完成し,被告ト
ーソーは,紅三角に対し,上記背当てクッションなどのサンプルの製作
を依頼した。
(エ) Aは,同年3月ころ,上記サンプルを確認するため,中国にある紅
三角を訪れた。Aは,その際,紅三角のデザイナーから,同工場におい
て製造されているスヌーピーの小物入れを見せられたことから,同小物
入れを参考にして,それと同じような動物(犬,熊等の動物)の小物入
れができないかと考え,紅三角に対し,上記小物入れのサンプルの製作
を依頼した。なお,Aは,上記依頼の際,紅三角に対し,サンプルの形
状の大まかな要望を伝えただけで,具体的なデザインや形状等について
は特に指図せず,細かい点については紅三角に一任した。
(オ) 被告トーソーは,同年3月ころ,紅三角から本件サンプル(熊,ハ
スキー犬,柴犬及びプードル犬の4種類。それぞれ,大・小の2種類の
サイズがある 。)を受け取り,これをCに見せた。Cは,本件サンプル
をしまむらのバイヤーに見せて交渉した結果,しまむらにおいて,とり
あえず実験販売の形で,同社の約百店舗で本件サンプルの各種類を1個
ずつ試験的に販売することとなり ,CからAに対し ,その旨を連絡した 。
また,このように実験販売であったことから,紅三角に発注する商品の
個数は少量とされ,上記のとおり8種類ある本件サンプルの各種類ごと
に336個ずつ発注することとなった。
(カ) 被告トーソーは,同月ころ,本件サンプルと同じ商品の製造を紅三
角に発注し,紅三角から,被告商品を含む本件サンプルの8種類の商品
を ,336個ずつ輸入し ,同年4月20日に ,これらの商品のすべてが ,
被告平成化成に納品された。被告商品の形態は,別紙商品形態表の「被
告商品」欄記載のとおりである。
被告トーソーは,紅三角に対して上記サンプルの製作を依頼した時点
では,原告商品の存在を知らず,被告平成化成も,被告トーソーから被
告商品を購入した時点では,原告商品の存在を知らなかった。
被告平成化成は,同月24日から同年6月30日までの間に,しまむ
らに対し,合計123個の被告商品を納品し,しまむらは,同社の小売
店舗において被告商品を販売した。しかしながら,被告商品の売上状況
があまり良くなかったため,しまむらにおいて,それ以上に被告商品を
購入することはなかった。
( 2) 原告らは,被告商品の形態はアトリエ裕と被告らが原告商品の形態を模
倣して共同で企画して,紅三角に製造させたものであると主張し,原告ベス
トエバージャパンの代表者であるDの陳述書(甲46)中には,同主張に沿
う部分がある。また,原告らは,上記主張を裏付ける事情として,① 仕入
業者が商品を仕入れる場合には,商品の販売先である卸問屋や小売業者の意
向をあらかじめ確認しておくのが当然であり,被告トーソーが独自の判断で
商品を企画したり,中国の業者に商品のデザインを一任したりするというこ
とは,著しく不自然かつ不合理であって,およそあり得ないこと,② 原告
商品の形態と被告商品の形態は ,実質的に同一であること ,③ 原告商品は ,
日本において広範囲で販売され,宣伝等もされていたこと,などを挙げてい
る。
しかしながら ,原告らの主張する上記①の点 ,すなわち ,被告トーソーが ,
紅三角等の製造業者に対してサンプルの製作を依頼する場合,その商品のす
べてに関して,卸問屋である被告平成化成や小売業者であるしまむら等の意
向を確認した上で,具体的なデザインや形状等を指図して製作させていたと
の点については ,これを裏付けるに足りる客観的な証拠は存在しない なお ,
(
証拠(甲14,乙1,8,証人A)によれば,被告トーソーが製造業者に商
品のサンプルの製作を依頼する際,一部の商品については,乙第1号証のよ
うに被告トーソーにおいて商品の形態を具体的に指示して依頼することがあ
ったと認められるが,すべての商品についてこのような取扱いがされている
と認めるに足りる証拠はない 。 。また,被告トーソーが製造業者に対して
)
依頼するのは,あくまでもサンプルの製作であり,製作個数は少なく,製作
費用も少額であって,製作費用については製造業者が負担することからする
と(乙8,証人A ),このようなサンプルの制作を依頼するに当たって,被
告トーソーが卸問屋や小売業者の意向をあらかじめ確認せず,サンプルの形
状の大まかな要望を製造業者に伝えるだけで,具体的な形状のデザインなど
については製造業者に任せることがあったとしても,特段,不自然,不合理
であるとはいえない。
他方,原告らの主張する上記②の点については,前記認定の原告商品及び
被告商品の形態を比較すると,両商品は,胴体部が円筒状で,その背面側の
上端で頭顔部が連結され,胴体部の上端に円を囲む形で前足があり,上端の
正面で前足の先端を合わせており,胴体部の正面から見て下側に後足が付い
ていることなど,原告商品を含むプチホルダー商品の特徴的形状において共
通していることが認められることから,被告商品の形態は原告商品の形態を
模倣して製作されたものとうかがえなくはない。しかしながら,前記認定の
とおり ,原告商品を含む原告ベストエバーの製造する商品は ,日本以外でも ,
アメリカ,フランス,オーストラリア,韓国,香港などの諸国においても販
売されているため,被告商品を製作した当時,紅三角が原告商品の存在を知
っていた可能性も否定することはできない。したがって,上記②の事実から
直ちに,被告商品の形態を企画したのが紅三角ではなく被告らであると認め
ることはできないというべきである。
また,原告らの主張する上記③の点については,前記( 1)のとおり,東京
ギフトショーにおいてプチホルダーが審査員特別賞を受賞した際,原告商品
は日本国内では販売されていなかったこと,原告商品は平成16年8月から
日本国内で販売が開始されたものの,その販売数量は現在までに合計330
個,販売金額は合計19万0487円にすぎず,その宣伝,広告も,原告ベ
ストエバージャパンのウェブページや商品カタログに原告商品の写真が他の
商品とともに掲載されている程度にとどまることからすると,東京ギフトシ
ョーにおいてプチホルダーが審査員特別賞を受賞し,その事実が業界誌に掲
載されたことなどを考慮したとしても,原告商品は,一般に広く認知された
商品とは認められないというべきである。これらの事情に照らすと,原告ら
の主張する上記③の販売,宣伝の事実から,被告商品が製造された当時被告
らが原告商品の存在を知っていたと認めることはできない。
以上のとおりであるから,甲第46号証中の被告商品の形態の企画者に関
する記載はその裏付けを欠くものであって採用することができず,他に,被
告らが被告商品の形態を企画したとの原告らの主張事実を認めるに足る証拠
はない。
2 争点1(被告商品の形態は,被告らが原告商品の形態を模倣して企画したも
のか)
前記認定に係る事実によれば,被告商品の形態は,被告らが共同で企画した
ものであるとは認められず,かえって,同商品の形態は,紅三角においてデザ
インをしたものであると認められる。
したがって,被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であるか否かについ
て判断するまでもなく,争点1に関する原告らの主張は理由がない。
3 争点3(被告らの善意無重過失の有無)について
仮に,被告商品が,紅三角において,原告商品の形態を模倣して製造された
ものであったとしても,前記認定のとおり,被告らは,被告商品を購入した当
時は原告商品の存在を知らなかったものと認められる。
また,インテリア用品の仕入れ業者である被告トーソー及び商品の仕入れ販
売業者である被告平成化成が1年間に取り扱う商品の数は相当な数に及ぶこと
がうかがわれること,前記認定のとおり,原告商品は,その販売数量及び販売
金額はわずかであり,その宣伝,広告の方法に鑑みても,一般に広く認知され
た商品とは認められないことに照らすと,被告らは,被告商品を購入するに当
たり ,取引上要求される通常の注意を払ったとしても ,原告商品の存在を知り ,
被告商品が原告商品の形態を模倣した事実を認識することは困難であったとい
うべきである。
したがって,仮に,被告商品が原告商品の形態を模倣して製造されたもので
あったとしても,被告らは,被告商品の購入時にそれが原告商品の形態を模倣
したものであることを知らず,かつ,知らなかったことにつき重大な過失はな
かったものと認められる。
4 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも
理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿 部 正 幸
裁判官 山 門 優
裁判官 小 川 卓 逸
最新の判決一覧に戻る