平成21(ワ)31831特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成22年10月1日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告明光ホームテック株式会社小島浩一 原告株式会社ヒロ・プランズ西島和
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法令 |
特許権
特許法104条の33回 特許法36条4項1号2回 特許法36条6項2号2回 特許法36条6項1号1回 特許法102条1項1回 特許法29条2項1回 特許法100条1回
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キーワード |
実施21回 刊行物13回 特許権9回 無効9回 進歩性4回 侵害3回 分割2回 無効審判2回 差止2回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は 座椅子に関する後記2(2)の特許 以下 本件特許 といい その特, ( 「 」 ,
許権を 本件特許権 という の特許権者である原告が 被告の製造販売する「 」 。) ,
別紙物件目録記載の物件 以下 被告製品 という は本件特許権を侵害する( 「 」 。)
と主張して,被告に対し,①特許法100条に基づき,被告製品の製造販売等
の差止め及び被告製品の廃棄を求めるとともに,②不法行為による損害賠償請
求権に基づき 逸失利益480万円及びこれに対する平成21年9月19日 訴, (
状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成22年10月1日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成21年(ワ)第31831号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成22年7月20日
判 決
群馬県太田市 <以下略>
原 告 株式会社ヒロ・プランズ
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 榊 原 輝
西 島 和
同 補 佐 人 弁 理 士 首 藤 俊 一
岐阜県各務原市 <以下略>
被 告 明光ホームテック株式会社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 廣 瀬 英 二
小 島 浩 一
加 藤 千 鶴
同 補 佐 人 弁 理 士 樋 口 武 尚
柘 植 千 咲
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の物件を生産し,譲渡し,又は譲渡の申出(譲渡
のための展示を含む)をしてはならない。
2 被告は,その占有する前項記載の物件を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,480万円及びこれに対する平成21年9月19日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は ,座椅子に関する後記2(2)の特許( 以下「 本件特許 」といい ,その特
許権を「 本件特許権 」という 。 の特許権者である原告が ,被告の製造販売する
)
別紙物件目録記載の物件( 以下「 被告製品 」という 。 は本件特許権を侵害する
)
と主張して,被告に対し,①特許法100条に基づき,被告製品の製造販売等
の差止め及び被告製品の廃棄を求めるとともに,②不法行為による損害賠償請
求権に基づき ,逸失利益480万円及びこれに対する平成21年9月19日 訴
(
状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない 。)
(1) 当事者
ア 原告は,寝具・家具及びその資材の製造販売等を目的とする株式会社で
ある 。(弁論の全趣旨)
イ 被告は,インテリア家具の製造販売,各種物品の輸出入及び販売等を目
的とする株式会社である。
(2) 原告の有する特許権
原告は,次の特許(本件特許)の特許権者である(以下,本件特許の特許
請求の範囲【請求項1】記載の発明を「本件発明」という。また,本件特許
権に係る特許請求の範囲,明細書及び図面を「本件明細書」といい,その特
許公報〔甲1〕を別紙として添付する 。 。
)
ア 特許番号 特許第4132056号
イ 登録日 平成20年6月6日
ウ 出願日 平成16年6月17日
エ 発明の名称 座椅子
オ 特許請求の範囲の【請求項1】
「座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において,前
記座部は,座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を有す
ると共に,当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円
穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体
として弧状になるように配設された低反発クッション部材を有することを
特徴とする座椅子 。」
(3) 構成要件の分説
本件発明は,次のように分説される。
A 座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において,
B 前記座部は,座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を
有するとともに,
C 当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周
面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧
状になるように配設された低反発クッション部材
D を有することを特徴とする座椅子。
(以下,それぞれ「構成要件A」∼「構成要件D」と表記する 。)
(4) 被告の行為
被告は,業として,被告製品を製造販売している。被告製品の形態は,別
紙添付図1∼6に図示するとおりである(各図面中の番号10は座部,同2
0は背もたれ,同30はフレーム,同40は芯材,同50は低反発材,同6
0は低弾性材,同70は被覆材,同80は中空孔,同101∼104は空気
層を指す 。 。
) (弁論の全趣旨)
(5) 構成要件の充足
被告製品は,座部と同座部に対して傾倒自在な背部(背もたれ)とを備え
た座椅子であり,本件発明の構成要件A,Dを充足することについては,当
事者間に争いがない。
3 争点
(1) 技術的範囲の属否(構成要件B,Cの充足)
(2) 無効事由の有無(特許法104条の3の抗弁の成否)
(3) 損害額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(技術的範囲の属否)について
[原告の主張]
ア 構成要件Bの充足性
(ア) 被告製品の座部10は,座面中央に座面側に向かって内径が次第に拡
大する形状の中空孔80を有する。
(イ) 被告製品の中空孔80は,本件発明の「円穴」と実質的に同一である
(当該中空孔80は,座部の中央に位置していないとはいえない範ちゅ
うに位置し,しかも,本件発明の作用効果−臀部の前後左右方向の位置
ずれ防止等−が生じる位置にある )から ,上記(ア)の被告製品の構成は本
件発明の構成要件Bを充足する。
イ 構成要件Cの充足性
(ア) 被告製品は,座部10の垂直断面において被覆材70の直下に中空孔
80の内周面側から座部10の外周面側にかけてその長さ方向の中央が
高く全体として弧状となるように配設された低反発材50(ウレタンフ
ォーム)を有する。
(イ) 被告製品の中空孔80は本件発明の「円穴」と,低反発部材50(ウ
レタンフォーム)は本件発明の「低反発クッション部材」と各々実質的
に同一であるから ,上記(ア)の被告製品の構成は本件発明の構成要件Cを
充足する。
[被告の主張]
ア 構成要件Bの充足性
(ア) 原告の主張は争う。
(イ) 被告製品の「中空孔80」は,人が背もたれ20にもたれかけて座部
10に着座するから,その重心位置を受けるために背部の取付位置と座
部との距離関係で「座部10を上から見たとき,その面の前後の略2対
1の比率位置」に設定されている。
これに対し,本件発明の構成要件Bの「・・・,座面中央に・・・円
穴を有する」は,本件明細書の段落【0005】に「座部の座面に臀部
が落ち込む円穴を設けてあるので ,座面に対する臀部の前後左右方向 こ
(
こで前方とは足先方向をいう )の位置連れ( 判決注: 位置ずれ 」の誤記
「
と認める 。 を防止することができる・・・ 」とある一方で ,ほかに背部
)
の傾斜角度とともに円穴の位置が決定されるとの記載が全くないことか
らすると,座部のみを基準に決定しており,背部との相対関係から決定
されるものではない。
してみれば , 中空孔80 」の「 略2対1の比率位置 」は ,本件発明の
「
構成要件Bの「座面中央」とは,単純な寸法の相違に止まらず,技術背
景を全く異にするものである。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Bを有していない。
(ウ) また,構成要件Bの「座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」
は,円穴に臀部が落ち込んだときでも,縁が角張った形の円穴となって
おらず,開口上端側の縁に角が存在しない状態であることを前提とした
記載と解釈するのが合理的である。ところが,被告製品は,座部に臀部
を下ろしたとき,内部の構造上,中空孔80の開口上端側の縁に「角」
が発生するから,構成要件Bの「座面側に向かって次第に拡大する形状
の円穴」を有していないことになる。よって,かかる意味でも,本件発
明の構成要件Bを充足しない。
イ 構成要件Cの充足性
(ア) 原告の主張は争う。
(イ) 構成要件Cの「 全体として弧状 」の「 全体 」は , 低反発クッション部
「
材 」が「 板状全体 」という意味ではなく , 中層クッション部材6の外表
「
面を含んでの全体」と解釈するのが合理的である(そうでなければ,臀
部の前後左右方向の位置ずれを防止することができない 。 。
)
(ウ) 被告製品は,低反発材50が,空気層101,102,103を介し
て,本件発明の中層クッション部材60に対応する芯材40 ,すなわち ,
角張った形状(断面長方形状)の大芯材41及びその上の角張った形状
(断面長方形状)の小芯材42の上面側に,かつ,大芯材41の下面を
覆う低弾性材60の端部に接合されて,張力を付与された状態で配設さ
れており,大芯材41と低反発材50との間には,大芯材41の弾性に
加えて,内側に空気層101,外側に空気層102が存在し,上側から
加えられた外力に対しては,被覆材70及び低反発材50の弾性並びに
空気層101又は空気層102に入りこむ被覆材70及び低反発材50
の弾性張力が作用する構成のため,構成要件Cの「当該座部の垂直断面
において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周
面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配
設された低反発クッション部材」の構成を有していないことになる。
(エ) 仮に ,構成要件Cの「 全体として弧状 」の「 全体 」が , 低反発クッシ
「
ョン部材」の「板状全体」という意味であるとしても,被告製品は,低
反発材50と低弾性材60の張力によって大芯材41と小芯材42の角
が低反発材50又は低弾性材60に食い込み,低反発材50の外表面全
体はわん曲した形態を呈しているが,内面側は単位接触圧力が高い部位
においては変形が大となっており,やはり,構成要件Cの「全体として
弧状」の構成を有していないことになる。
(2) 争点(2)(無効事由の有無)について
[被告の主張]
本件特許は,以下のとおり無効事由があり,特許無効審判により無効にさ
れるとすべきものと認められるから,原告は本件特許権を行使することがで
きない(特許法104条の3第1項 )。
ア 進歩性欠如(特許法29条2項違反)
(ア) 本件発明は,次の公知文献,周知文献の組合せによって,その発明の
属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」とい
う。)が容易に発明をすることができたものである。以下,詳述する。
a 実願昭63−57584号(実開平1−159873号)のマイク
ロフィルム(乙1)
b 実公昭45−33574号公報(乙2)
c 実願昭63−39417号(実開平1−143952号)のマイク
ロフィルム(乙3)
d 実願昭63−101178号(実開平2−22142号)のマイク
ロフィルム(乙4)
e 実願昭62−26203号(実開昭63−133142号)のマイ
クロフィルム(乙5)
f 特開平2−52607号公報(乙6)
g 平成16年3月6日付け日経流通新聞(日本経済新聞社発行)9面
記載の「選択,特注感覚で」と題する記事(乙11)
(イ) 上記各文献の記載事項
a 乙1
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙1の記載事項及び図
示内容を総合すると,乙1には次の発明が記載されている。
「尻乗せ座4と背もたれ部6とを備えた座椅子において,前記尻乗
せ座4は,尻が乗る面の尻乗せ座4の回動中心よりも背部側に,尻が
乗る面の側に向かって次第に拡大する形状の凹部41を有すると共
に,当該尻乗せ座4の垂直方向の断面において表面張材4eの直下に
凹部41の内周面側から尻乗せ座4の外周面側にかけて上方突出状態
に張設されているクッション材4dを有する座椅子 。 (以下,この発
」
明を「乙1発明」という 。)
b 乙2
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙2には,図面ととも
に,次の事項が記載されている。
(a) 「この支版10にもたれの脚枠7の脚端11を枢支して,この枢
支部を基点としてもたれ6は座版に向って伏倒できる 。 (1頁2欄
」
14∼16行目)
(b) 「 もたれを座版に向け伏倒できるようにした座椅子に於て・・・ 」
(2頁4欄2∼10行目)
(c) 「1は中心部に孔2を穿設した輪状板体であって3は図面第5図
に示すように中心部に孔2’を有するスポンジ又はポリウレタン等
から成る発泡体の弾力ある輪状緩衝体である。4は図面第4図に示
すスポンジ又はポリウレタン等の柔軟弾力性の嵌込緩衝体である 。」
(1頁1欄35行目∼2欄1行目)
(d) 「本案の座版は座版の中心部に嵌込緩衝体4が喰嵌されているか
ら座版の外周部より中心部の緩衝が大きいから着座者の臀部が楽で
あって疲労を感じないし殊に嵌込緩衝体4の部分は無底であるから
嵌込緩衝体4に加えられる重力は直接この部分だけは座版の下の量
に加えられることになるから従来の座椅子のように使用中に座椅子
のように使用中に座椅子が前方に移動したり,又座椅子と共に人体
が前方に移動する虞れがない甚大な効果がある 」 1頁2欄34行目
(
∼2頁3欄4行目)
(e) 第1図∼第3図には,孔2が円の形状をしていることが図示され
ている。
c 乙3
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙3には,図面ととも
に,次の事項が記載されている。
(a) 「座部3と背もたれ部4とから座椅子を構成してある。座部3の
中央部分をカットして透孔5を形成してある 。 (3頁8∼l0行
」
目)
(b) 「透孔5と薄肉部7は共に矩形状に形成したが,円形や楕円形そ
の他の形状であっても差し支えないことは勿論である 。 (4頁8∼
」
10行目)
d 乙4
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙4には,図面ととも
に,次の事項が記載されている。
「 5 )は背もたれ部分で ,
( ・・・ 6 )で好みに合わせて角度切り替
(
えが可能である 。 (明細書1頁の実用新案登録請求の範囲)
」
e 乙5
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙5には,図面ととも
に,次の事項が記載されている。
(a) 「本考案の前記の構成において,凹陥部5は前記実施例に限定す
るものではなく,第4図示のように,座部2の中央を単に凹ませて
でん部を受け入れるようにしても良い 。 (5頁7∼10行目)
」
(b) 第4図には,凹陥部5が円の形状をしていることが図示されてい
る。
f 乙6
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙6には,図面ととも
に,次の事項が記載されている。
(a) 「 1 )発泡シート構造体において ,上層部には ,反発弾性値が2
(
5%以下の低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用し,反発弾
性値が55%以上の高反発弾性発泡成形クッションパッドの下層部
にて支持する構成を特徴とするシートクッション 。 (1頁左下欄の
」
特許請求の範囲)
(b) 「 発明が解決しようとする課題 〕従来のシートクッションは ,上
〔
層部の反発弾性が30%以上のものを使用しているので,着座時の
圧力分散が悪く,横揺れに対する支持性の感触がよろしくなく,特
に,肥満型の人は両サイドが窮屈となり,部分的に高圧力が発生し
やすく ,疲れやすい状態を生起することになる 。因って ,本発明は ,
従来の発泡体の密度,硬さを主体に構成されてきた構想を変え,人
体に接触する上層部の発泡体を,すぐれたヒステリシスロスによる
減衰能を発揮させる構想による低反発弾性の発泡体の構成を提供す
ることを目的としている 。 (1頁右下欄20行目∼2頁左上欄12
」
行目)
(c) 「 作用 〕この発明のシートクッションは ,積層体の上層部の反発
〔
弾性を25%以下の可及的低反発弾性のヒステリシスロスの大きな
物性とし,下層部を高反発弾性の物性としたものであり,因って,
着座する人のどんな体型の人にも,また,どんな姿勢に対しても良
好な沿接形態が得られ,必要以上の圧接感を与えることなく,横揺
れ等の動揺に対して良好なソフトな支持性を発揮する。また,下層
部に高反発弾性クッションパッドを使用するため,上層部のソフト
な接触感による緩衝性と下層部の高反発弾性との相乗作用により,
より一層の動揺に対する順応性と良好な支持性と復元性作用を長期
に発揮するものである 。 (3頁左下欄ll行目∼右下欄4行目)
」
g 乙11
乙11には,次の事項が記載されている。
「オーダーメード感覚で選べる座いす『着せ替え座椅子(いす)バ
リエ 』。クッションの形(四角か丸形 ),中材(低反発ウレタンなど3
種類 ) カバー( 合皮かキャンバス地 )から組み合わせてオーダー 。店
,
に在庫があればその場で完成品を持ち帰ることができる 。 (9面「新
」
製品」欄の「住」欄)
(ウ) 本件発明と乙1発明との対比
a 共通点
本件発明と乙1発明とを対比すると ,乙1発明の「 尻乗せ座4 」は ,
各文言の意味 ,機能又は構成等からみて本件発明の「 座部 」に相当し ,
以下同様に , 背もたれ部6 」は「 背部 」に , 尻が乗る面 」は「 座面 」
「 「
に,「垂直方向の断面」は「垂直断面」に ,「表面張材4e」は「上面
側表層カバー部材 」に , 張設されている 」は「 配設された 」に ,それ
「
ぞれ相当する。
また,乙1発明の「上方突出状態に」は,尻乗せ座4の垂直方向の
断面において凹部41の内周面側から尻乗せ座4の外周面側にかけ
て,その長さ方向の中央が高く全体として弧状になるような状態であ
るといえるから,本件発明の「その長さ方向の中央が高く全体として
弧状になるように」に相当する。
本件発明の「円穴」について,本件明細書の段落【0011】には
「この円穴3は座部1の座面11に乗せられる臀部が,少なくともそ
の臀部の中央が浅く落ち込む穴或いは有底の窪み(以下これらを総称
して円穴ともいう)を設けて」と記載されている。そして,乙1発明
の 凹部41 」は ,尻乗せ座4の尻乗せ中心部に形成されていること ,
「
及び乙第1号証の第1図からみて,尻乗せ座4の尻が乗る面に乗せら
れた尻が,少なくともその尻の中央が凹部41に浅く落ち込むといえ
る。
したがって ,乙1発明の「 凹部41 」と ,本件発明の「 円穴 」とは ,
どちらも本件明細書で規定される「穴」である点で共通する。
乙1発明の「クッション材4d」と,本件発明の「低反発クッショ
ン部材」とは,どちらも「クッション部材」である点で共通する。
してみると,本件発明と乙1発明とは,本件発明の用語を用いて表
現すると,
「座部と背部とを備えた座椅子において,前記座部は,座面に座面
側に向かって次第に拡大する形状の穴を有するとともに,当該座部の
垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に穴の内周面側から座
部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状にな
るように配設されたクッション部材を有する座椅子 。」
である点で一致する。
b 相違点
(a) 相違点1
本件発明では,背部が座部に対して傾倒自在であるのに対して,
乙1発明では,背部(背もたれ部6)が座部(尻乗せ座4)に対し
て傾倒自在ではない点。
(b) 相違点2
穴を設ける位置について,本件発明では,座面中央であるのに対
して,乙1発明では,座面(尻が乗る面)の尻乗せ座4の回動中心
よりも背部側である点。
(c) 相違点3
本件発明では,円穴を有しているのに対して,乙1発明では,穴
(凹部41)を有しているものの,円穴かどうか明らかでない点。
(d) 相違点4
本件発明では,低反発クッション部材を有しているのに対して,
乙1発明では,クッション部材(クッション材4d)を有している
ものの,低反発クッション部材かどうか明らかでない点。
c 相違点についての検討
(a) 相違点1について
座椅子において,背部が座部に対して傾倒自在であることは,例
えば,乙2,乙4等に見られるように本件特許の出願前に周知の技
術である。したがって,乙1発明に周知技術を適用し,相違点1に
係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し
得たことである。
(b) 相違点2について
乙1発明の座椅子は,単なる休息用座椅子として利用し,通常の
座椅子として使用することができるものである。そして,通常の座
椅子において ,穴を座面中央に設けることは ,例えば ,乙2 ,乙3 ,
乙5等に見られるように本件特許の出願前に周知の技術である。し
たがって,乙1発明に周知技術を適用し,相違点2に係る本件発明
の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであ
る。
(c) 相違点3について
座椅子において,座面に有する穴を円穴とすることは,例えば,
乙2,乙3,乙5等に見られるように本件特許の出願前に周知の技
術である。したがって,乙1発明に周知技術を適用し,相違点3に
係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し
得たことである。
(d) 相違点4について
乙6には,着座時の感触をよくし,どんな姿勢に対しても良好な
沿接形態が得られ,必要以上の圧接感を与えないように,シートク
ッションの上層部に低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用す
ることが記載されている 。そして ,着座時の感触を良くすることは ,
椅子において一般的に普通に考慮されることである。したがって,
乙1発明に乙6に記載された技術を適用し,乙1発明の座椅子にお
いて,着座時の感触をよくするために,クッション部材(クッショ
ン材4d)を低反発クッション部材とし,相違点4に係る本件発明
の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであ
る。しかも,座椅子において,中材に,低反発クッションを用いる
ことは,例えば,乙11等に見られるように本件特許の出願前に周
知の技術であって,乙1発明に該周知技術を適用し相違点4に係る
本件発明の発明特定事項とすることにも格別の困難性は見いだせな
い。
(エ) 以上によれば,本件発明は上記公知文献,周知文献の組合せによって
容易に発明されたものということができ,進歩性が否定されるので,上
記(ア)の結論に至る。
イ 特許請求の範囲の記載不備(特許法36条6項1号,2号違反)
特許請求の範囲には , 前記座部は ,座面中央に座面側に向かって次第に
「
拡大する形状の円穴 」 構成要件B )及び「 円穴の内周面側から座部の外周
(
面側にかけてその長さ方向の中央が高く 」(構成要件C)と記載されてい
る。しかし,当該記載の構成要件は技術的に不明であり,特許法36条6
項2号の要件を具有しないものである。
また , 円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央
「
が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材 」 構
(
成要件C ) ,
は 実施例のシート状の低反発クッション部材5のことであり ,
低反発クッション部材5は外力が加わると,低反発であるため,その形状
が維持できなくなるものである 。ゆえに , 座部1の垂直断面において円穴
「
3の内周面側31から座部1の外周面側12にかけて,その長さ方向の中
央が高く全体として弧状となるように配設する」ことができるには,中層
クッション部材6の存在が必要不可欠である。例えば,本件明細書の段落
【 0018 】には , 例えば ,図示の如く ,中層クッション部材6の断面形
「
状を楕円形にしておけば,その中層クッション部材6の外表面を上下に2
分割した領域の上面側に均等の厚さのシート状低反発クッション部材5を
重ねて接着するだけで,低反発クッション部材5を・・・,座部1の垂直
断面において円穴3の内周面側31から座部1の外周面側12にかけて,
その長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設することもで
きる 。 と記載されている 。しかし ,本件発明の特許請求の範囲には「 中層
」
クッション部材6」が存在しない。ゆえに,特許を受けようとする発明が
発明の詳細な説明に記載したものでないから,同項1号の要件を具有しな
いものである。
したがって,本件請求項1に係る発明は,同号及び同項2号に規定する
要件を満たしていない。
ウ 発明の詳細な説明の記載不備(特許法36条4項1号違反)
(ア) 記載不備1
低反発クッション部材5を「臀部が触れる円穴3の上端側の開口縁部
(縁)31側から座部1の外周面側12にかけて配設する ラッパ形状 )
( 」
ことにより , 臀部が座面11からはみ出すほどの大きさ 」であっても ,
「
座部1の外周面側12において,臀部の形状に相応した形状で臀部を座
部1に受けることができ,低反発クッション部材5にはその位置ずれを
防止する機能が存在する旨の段落【 0006 】 及びこれと同様の記載の
(
段落【 0014 】 の記載は ,技術的に矛盾があり ,記載内容が不明であ
)
る。
(イ) 記載不備2
段落【 0014 】 同【 0016 】及び同【 0018 】には「 内周面側
,
31」と記載され,かつ,符号の説明では ,「開口縁部(円穴の縁 )」と
記載され,また,図示では,いずれにも該当しない位置が「31」とし
て示されている。
したがって , 円穴3の上端側の縁即ち開口縁部31が無用に臀部に当
「
らず ,心地よい据わり感触が得られるように形成している 」 段落【 00
(
07 】及びこれと同様の記載の同 0012 】 はその部位が不明である 。
【 )
一方,同【0014】には「図示されていない臀部が触れる円穴3の上
端側の開口縁部( 縁 )31側 」との記載もあり , 臀部が触れる 」との記
「
載との間に技術的に矛盾があり不明である。
(ウ) 記載不備3
段落【0016】の低反発クッション部材5が「座部1の垂直断面に
おいて円穴3の内周面側31から座部1の外周面側12にかけて,その
長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設してある」こと
と , 座部1の座面11に対する垂直方向のクッション性を高めること 」
「
とは全く異なったことを意味している。低反発クッション部材5を弧状
と配置しても「座部1の座面11に対する垂直方向のクッション性を高
めること 」は不可能である 。また , 臀部の先後左右方向のずれを更に効
「
果的に防止すること」は,低反発クッション部材5には当該機能を有し
ていないから , 【 0016 】 及びこれと同様の記載の同 0008 】
段落 ( 【 )
の記載は,技術的に矛盾があり,記載内容が不明である。
(エ) 記載不備4
本件発明が解決しようとする課題として,段落【0003】で「本発
明は,背部の傾斜角度如何に拘わらず,或いは長時間使用しても,初期
の座り位置から位置ずれが生じ難い座椅子の提供を目的とする 。 と記載
」
されている。ところが,同【0005】の「当該座面の表層カバー部材
の直下に低反発クッション部材が配設してあるので,臀部の形状に相応
した形状で臀部を座部に受けることができ,これによって更に位置ずれ
を防止することができる」との記載は,低反発クッション部材の特性で
はなく,特に,位置ずれ防止は,座部1の円穴3作用に基づくものであ
るから,本件発明の課題と,その発明の構成と,作用効果の関係が矛盾
しており,発明が不明である。
(オ) したがって,上記(ア)ないし(エ)に記載したように,本件請求項1に係
る発明には,発明の詳細な説明の項に記載不備が存在し,特許法36条
4項1号に規定する要件を満たしていない。
[原告の主張]
被告の無効事由の主張は争う。
ア 進歩性欠如の主張に対し
被告の主張は,次の理由から成り立たない。
(ア) 本件発明の「円穴」は,乙1発明の「凹部41」には該当しない。
確かに ,本件明細書の段落【 0011 】には , この円穴3は座部1の
「
座面11に乗せられる臀部が,少なくともその臀部の中央が浅く落ち込
む穴或いは有底の窪み・・・を設け 」との記載があるが ,ここでいう 窪
「
み」とは,円穴3と同様の作用効果を発揮する「窪み」と解釈すべきで
あり,円穴3と同様の作用効果を発揮し難い「窪み」と解釈されるいわ
れはない。
本件発明の円穴は ,特許請求の範囲請求項1に記載のとおり , 座面側
「
に向かって次第に拡大する形状の円穴 」であるから ,ここでいう「 窪み 」
もまた , 座面側に向かって次第に拡大する形状の窪み 」と解釈されてし
「
かるべきである。
しかるに ,乙1発明の「 凹部41 」は , 座面側に向かって次第に拡大
「
する形状の窪み」とは到底認め難い形状である。
乙2,乙3,乙5等において見られると被告が主張する円穴について
も同様である。
被告の主張は ,本件明細書の段落【 0011 】の文言のみ取り上げて ,
「円穴≧窪み 」 「窪み=凹部41」であるから「円穴≒凹部41」とい
,
う構図を描き,この構図を前提として主張しているにすぎず,本件発明
の実質を看過している。
(イ) 次に,本件発明の低反発クッション部材は,前記した形状の円穴すな
わち窪みに ,特許請求の範囲請求項1に記載のとおり , 当該座部の垂直
「
断面において , ・・・円穴の内周面側から・・・その長さ方向の中央が
高く全体として弧状になるように配設 」されているが , 円穴の内周面側
「
から・・・弧状になるように配設」されている本件発明の構成を容易に
想到させる記載は ,乙1ないし乙6及び乙11のいずれにも存在しない 。
(ウ) さらに ,被告は , 相違点4 」について ,本件発明が「 低反発クッショ
「
ン部材」を用いている技術的理由を「着座時の感触を良くする」ことと
勝手に解釈しているが,これは明らかに誤認である。
本件発明は ,本件明細書の段落【 0003 】に記載のとおり , 背部の
「
傾斜角度如何に拘わらず,或いは長時間使用しても,初期の座り位置か
ら位置ずれが生じ難い座椅子の提供 」を目的としているのであり ,また ,
本件明細書の段落【0005】に記載のとおり,座部の座面に臀部が落
ち込む円穴を設け,その円穴との関係において所定の条件で低反発クッ
ション部材の配設により,座面に対する臀部の前後方向の位置ずれを防
止し ,臀部の形状に応じた形状で臀部を受け ,これによって , 更に位置
「
ずれの防止」と「初期の座り心地(着座時のショックの緩和ではない)
を長時間にわたって保持させる」ために,請求項1の本件発明の構成と
しているのである。
しかるに ,乙1ないし乙6及び乙11のいずれにおいても , 位置ずれ
「
防止」のために,円穴を「座面側に向かって次第に拡大する形状」に設
けたり,低反発クッション部材を「円穴の内周面側から・・・弧状にな
るように 」設けることを容易に想到させるような記載は全く存在しない 。
イ 特許請求の範囲の記載不備の主張に対し
否認ないし争う。
構成要件B,Cは,いずれも容易に理解されるものであり,特許法36
条6項2号違反に該当しない。
構成要件Cに「 中層クッション部材6 」の記載がなくても , 低反発クッ
「
ション部材5」の下に何らかのクッション部材(実施例では中層クッショ
ン部材6)が配設されることは「座部」の構成として当然であり,同項1
号違反にも該当しない。
ウ 発明の詳細な説明の記載不備の主張に対し
否認ないし争う。
(ア) 記載不備1の主張につき
本件発明では ,低反発クッション部材が臀部の形状に応じて窪むから ,
それなりの位置ずれを防止する機能が発揮されるとともに,初期の座り
心地を長時間にわたって保持できるものである。
(イ) 記載不備2の主張につき
「ラッパ状に形成された」円穴3の内周面はラッパ形状であるから,
図1中の符号31の指示線は正に「円穴3の内周面」の「側」を端的に
指示している。また,円穴3の開口縁部(円穴の縁)は円穴がラッパ形
状であるが故に,テーパ面的となるため図上では指示部位があいまいと
ならざるを得ないが,概念的には明りょうである。すなわち,開口縁部
(円穴の縁)は開口側に近づくほど臀部が当たり,遠ざかるほど臀部が
当たらなくなるのである 。 無用に臀部に当たらず 」というのは ,臀部に
「
当たって「 心地よい据わり感触が得られるように形成( ラッパ状に ) し
」
ているという意味である。
(ウ) 記載不備3の主張につき
弧状の両端側に比べて弧状の中央は低反発クッション部材5が厚くな
るため,弧状の両端側に比べて低反発クッション部材特有のクッション
性,すなわち,外力吸収力が高められ,臀部の形状に相応して形成され
る窪みが深まるのは当然である。低反発クッション部材5には,被告が
指摘するように反発力というクッション性はほとんどないが,外力を受
け入れるように窪んで吸収するというクッション性(外力吸収力)があ
る。それ故に,座面に臀部が下ろされると低反発クッション部材は臀部
の形状に応じた窪みを形成するから,その窪みに収まった臀部は,その
ような窪みがない場合に比べて臀部の前後左右方向のずれを防止できる
し,その窪みが深いほど「ずれを効果的に防止」することができよう。
(エ) 記載不備4の主張につき
本件発明は,低反発クッション部材5が外力に反発せず受け入れるよ
うに窪んで吸収するという特有のクッション性を座椅子に活用し,座面
に下ろされる臀部の形状に応じた窪みを形成させることにより,そのよ
うな窪みが生じない従来の座椅子に比べて座面における臀部の前後左右
方向のずれを効果的に防止できることは明白である。本件発明では,本
件明細書の段落【0018】で,シート状の低反発クッション部材5を
用いる場合には沈みしろを考慮して「適当な厚み」が必要であることを
明記している。被告が主張するように臀部の位置ずれが表層カバー部材
の特性にゆだねられる可能性が高いこともあろうが,表層カバー部材は
発明が成立するような材質,材料が選択されるものである。
(3) 争点(3)(損害額)について
[原告の主張]
ア 被告は,平成20年6月6日から平成21年9月5日までの1年3か月
の間に,被告製品を少なくとも6250個販売した。
被告の侵害行為がなければ,原告が販売できた特許製品の単位数量当た
りの利益の額は768円である。
原告は,平成19年度(平成19年2月1日∼平成20年1月31日)
に,特許製品と同一の製品を4336個販売しており,平成20年6月6
日以降,被告物件の販売数量に相当する需要があれば,これに応じる能力
は十分あった。
イ 以上のとおり ,特許製品の単位数量当たりの利益は768円であるから ,
特許法102条1項の損害額は,480万円(768円×6250個)と
なる。
[被告の主張]
否認ないし争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(技術的範囲の属否)について
(1) 被告製品が本件発明の構成要件A,Dを充足することについては,当事者
間に争いがない。
(2) 構成要件Bの充足性について
ア 被告製品を上方から見た場合,それが座面中央に位置しているものと直
ちに評価できるかどうかはともかくとして,被告製品の座部が上方に向か
って次第にその径を拡大する形状の中空孔80を有することは,当事者間
に争いがない。
イ 被告は ,中空孔80の設置位置につき , 座部10を上から見たとき ,そ
「
の面の前後の略2対1の比率位置」に設定されているとして,中空孔80
が構成要件Bでいうところの「座面中央」に位置することを否定する。
しかし,この場合の「座面中央」とは,本件明細書の段落【0003】
に記載されている本件発明の目的「本発明は,背部の傾斜角度如何に拘わ
らず,或いは長時間使用しても,初期の座り位置から位置ずれが生じ難い
座椅子の提供を目的とする 。 や ,段落【 0005 】に記載されている本件
」
発明の効果「本発明によれば,座部の座面に臀部が落ち込む円穴を設けて
あるので,座面に対する臀部の前後左右方向(ここで前方とは足先方向を
いう)の位置連れ(判決注: 位置ずれ」の誤記と認める 。
「 )を防止するこ
とができると共に,当該座面の表層カバー部材の直下に低反発クッション
部材が配設してあるので,臀部の形状に相応した形状で臀部を座部に受け
ることができ,これによって更に位置ずれを防止することができると共に
初期の座り心地を長時間にわたって保持することができる 。 からすれば ,
」
その位置は厳密に解されるべきものではなく,要するに,座部の座面に臀
部が落ち込む円穴を設けたこと自体で,座面に対する臀部の前後左右方向
の位置ずれが防止できればよいのであって,そのためには,当該円穴の位
置は,上記目的及び効果を達成できる程度の範囲をもって,座部の中央部
の辺りに存在すればよいというべきである。
そうすると , 前後の略2対1の比率位置 」は ,上記の意味合いで座部の
「
中央部の辺りということができるから,被告製品の中空孔80は,構成要
件Bとの対比においては ,なお「 座面中央 」に位置するものと評価できる 。
ウ 被告は,構成要件Bの「座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」
は,円穴に臀部が落ち込んだときでも,縁が角張った形の円穴となってお
らず,開口上端側の縁に角が存在しない状態であることを前提とした記載
と解釈するのが合理的であるとも主張する。
しかし,本件明細書の段落【0002】記載の背景技術,段落【000
7】記載の発明の効果及び段落【0012】記載の実施例の各記載内容か
らすれば,構成要件Bは,飽くまで平たんな座面に円穴を形成した場合と
比べて ,円穴の上端部の縁が「 無用に 」 すなわち不必要に )臀部に当たら
(
ず,心地よい座り感触を得られることを作用効果としているにすぎず,被
告が主張するように,円穴に臀部が落ち込んだときでも,縁が角張った形
の円穴となっておらず,開口上端部の縁に角が存在しない状態であること
までをその作用効果として求めているものとは解されない。
エ 以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件Bを充足するものと認
められる。
(3) 構成要件Cの充足性について
ア 被告製品の形態は,別紙添付図1∼6に図示するとおり(前記第2の2
(4))であって,これによれば,
(ア) 前記座部10には,座部側フレーム31に固定された外径が大きく内
径が小さく形成された体積の大きい大芯材41及びその上に配設された
外径が大芯材41よりも小さく内径が大芯材41よりも大きく形成され
た体積の小さい小芯材42が同心円状に配置固定されており,
(イ) 大芯材41及びその上の小芯材42は,それらの露出する上面側に低
反発材50が,空気層101,102,103を介して,かつ,大芯材
41の下面を覆う低弾性材60の端部に接合されて,低反発材50に張
力を付与した状態で配設されていること
が認められる。
イ 被告は ,構成要件Cの「 全体として弧状 」の「 全体 」は , 低反発クッシ
「
ョン部材 」が「 板状全体 」という意味ではなく , 中層クッション部材6の
「
外表面を含んでの全体 」と解釈するのが合理的である旨主張する 。しかし ,
本件明細書の記載によれば,構成要件Cは,必ずしも中間クッション層を
念頭に置いているとは認められず,そこでいう「全体として弧状」とは,
飽くまで作成された座部において低反発クッション部材がどのような形状
を呈しているかを規定したものと理解される。
また,被告は,仮に構成要件Cの「全体として弧状」の「全体」が「低
反発クッション部材」の「板状全体」という意味であるとしても,構成要
件Cの「全体として弧状」の構成を有していない旨主張するが,上記認定
の被告製品の形態を見れば,被告製品の低反発材50は,被告が主張する
ように内面側に変形が見られるものの,全体としては弧状を呈していると
評価できる。
ウ 以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件Cを充足するものと認
められる。
(4) よって,被告製品は,本件発明の構成要件をすべて充足し,その技術的範
囲に属するものと認められる。
2 争点(2)(無効事由〔進歩性欠如〕の有無)について
(1) 乙1の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である乙1には,図面とともに,次の
事項が記載されている。
ア 「1 尻乗せ座4,背もたれ部6及び肘掛け部7を備えた座椅子であっ
て,前記尻乗せ座4を本体フレーム1に対し,縦軸芯まわりに回動自在に
取り付けると共に,前記肘掛け部7を本体フレーム1に対し,その高さが
着座者の正常着座姿勢における肘相当高さ及び肩相当高さに変更され得る
ように枢支連結してある座椅子。
2 前記尻乗せ座4及び前記背もたれ部6を後傾姿勢にし,該尻乗せ座4
に尻乗せ中心部となる凹部41を形成し,該凹部41の尻乗せ中心を尻乗
せ座4の回動中心よりも背部側に設定してある請求項1記載の座椅子。
・・・
4 前記尻乗せ座4を正面向き姿勢に固定する固定具9が設けられている
請求項1記載の座椅子 。 (1枚目の実用新案登録請求の範囲 )
」 。
イ 「本発明は・・・安らかな休息が従来通り得られる上に,必要に応じて
着座姿勢のまま積極的に軽運動を行って日頃の運動不足を簡易に解消する
ことができる座椅子を提供することを目的とする 。 (明細書3頁2∼6行
」
目)
ウ 「 考案の効果〕
〔
・・・さらに前記固定具が付設されている場合は,該固定具を用いて前
尻乗せ座を正面向き姿勢に固定することにより,前記座椅子を単なる休息
用座椅子として利用することができる 。 (明細書5頁2行目∼6頁9行
」
目)
エ 「 実施例 〕
〔 ・・・第1図∼第3図において , 1 )はパイプ材からなる方
(
形枠状の本体フレームを示しており,該本体フレーム(1)の中央部に架
設された取付け版(1a)には,スラスト軸受体2がその縦軸芯を5°∼
10°後傾させた状態で取り付けられており,該スラスト軸受体(2)を
介し,パイプ材からなる方形枠状の座フレーム(3)が前記縦軸芯まわり
に回動自在に取り付けられている。なお前記縦軸芯を5°∼10°後傾さ
せたのは,その傾斜角度が5°未満であると後述の後傾させることによる
効果が不十分になる一方,10°を超えると着座者の姿勢が無理な傾姿勢
となるからである。そして該座フレーム(3)の中央部には,尻乗せ中心
部となる凹部(41)を形成した尻乗せ座(4)が,前後方向約70㎜に
わたる摺動を可能とした状態で且つスプリング(5)の弾性復元力による
最後方ポジションへの位置決め復帰を可能とした状態で設置され,もって
該尻乗せ座(4)が前記縦軸芯まわりに回動できるように且つ前後方向へ
の位置を変更できるようになっている。また座フレーム(3)の背部側は
前記縦軸芯と略平行な方向に折曲しており,その折曲部(3a)には背も
たれ部(6a)を傾動自在に枢支する枢支部材(6b)が上下方向へ摺動
できるように且つ止め具(6c)にて上下方向適宜位置にて固定できるよ
うに嵌合され,もって座フレーム(3)の背部に背もたれ(6a)を枢支
部材(6b)にて傾動自在に且つ高さ調整自在に枢支してなる背もたれ部
(6)が装着されている。
なお,前記尻乗せ座(4)は具体的には,尻乗せ中心部となるべき位置
に貫通孔が形成された木製ベース板(4a)を基礎とし,その貫通孔以外
の部分に成形クッショク材(判決注: 成形クッション材」の誤記と認め
「
る 。( 4b )を上方突出状態に付設した上でその上から成形張材( 4c )
) ,
クッション材(4d)及び表面張材(4e)をこの順序で張設することに
よって構成されている。また最後方ポジションに位置する尻乗せ座(4)
の尻乗せ中心部となる凹部(41)は,前記縦軸芯即ち尻乗せ座(4)の
回動中心よりも背部側に10∼50㎜だけずれた位置に設けられている。
また,前記本体フレーム(1)の最背部側にはくの字状に折曲した左右
一対の肘掛け部(7)の基端側が夫々枢支連結され,該肘掛け部(7)は
いずれもその枢支連結部を旋回中心として旋回し,その高さが着座者の正
常な着座姿勢における肘相当高さ(・・・)及び肩相当高さ(・・・)に
変更され得るようになっている。
なお,前記フレーム本体(1)の適宜位置(例えば着座者からみて右側
位置)には上向きにストッパ(8)が突設されており,該ストッパ(8)
は第3図に示す如く,前記尻乗せ座(4)を設置した座フレーム(3)の
回動を接当規制するようになっており,もって該ストッパ(8)は前記尻
乗せ座(4)の回動範囲を一定角度に規制し得るようになっている。
また,前記フレーム本体(1)におけるストッパ(8)突設位置と反対
側位置(例えば着座者からみて左側位置)には上下方向へ揺動自在な固定
具(9)が装着されており,該固定具(9)が上下方向へ揺動すると,正
面向き姿勢となった座フレーム(3)の一部と係合し得るようになってい
る。そして該固定具(9)と座フレーム(3)との係合によって前記尻乗
せ座(4)は正面向き姿勢に固定されるようになっている。
かかる構成の座椅子を用いる場合には,先ず前記背もたれ(6a)の高
さ調整を行う。そしてこれを通常の座椅子として使用するときには,第5
図及び第6図に示す如く,前記固定具(9)を用いて座フレーム(3)を
正面向き姿勢に固定すると共に前記肘掛け部(7)を前記肘相当高さに変
更し,その状態を維持しつつ尻乗せ座(4)に着座した着座者は座フレー
ム(3)を尻乗せ座(4)共々前後方向へ移動させて背もたれ部(6)の
傾斜調整を行い,且つ,前記肘掛け部(7)に肘を掛けて着座者は安らか
な休息を得る。
そして ,着座者が着座姿勢のまま軽運動を行いたいときには ,着座者は ,
前記固定具( 9 )による座フレーム( 3 )の固定を解除して尻乗せ座( 4 )
を前記縦軸芯まわりに回動できる状態となすと共に,前記肘掛け部(7)
を前記肩相当高さに変更し,第4図に示す如く,肘掛け部(7)を把持し
つつ回動自在な尻乗せ座(4)に尻を乗せたまま該尻乗せ座(4)を回動
させ,踵を床に着けつつ膝を立てた姿勢にて腰を左右に動かして軽運動を
行う。
なお,上述の座椅子は,尻乗せ座(4)及び背もたれ部(6)が後傾姿
勢とされ,尻乗せ座(4)には尻乗せ中心部となる凹部(41)が形成さ
れ,更に該凹部(41)の尻乗せ中心が尻乗せ座(4)の回動中心よりも
背後側に設定されているため,着座者はその身体を振り子のように振らせ
ることが可能となって前記軽運動をより容易に行うことができる。また前
記ストッパ(8)が付設されているため,該ストッパ(8)によって尻乗
せ座(4)の過剰回動が防止される結果,着座者は前記関節や筋肉の動か
し過ぎ,脊椎や腹部の捻り過ぎ等を回避してその身体の安泰を確保するこ
とができる 。 (明細書6頁16行目∼11頁17行目)
」
(2) 乙1記載の発明
上記(1)の記載から ,乙1には ,少なくとも以下のア∼カの構成を有する座
椅子に関する発明が開示されていると認められる。
ア 尻乗せ座(4)とこれに対して前後に傾斜調整自在に連結された背もた
れ部6及び肘掛け部(7)を備えた座椅子であって,
イ 前記尻乗せ座(4)を本体フレーム(1)に対し,縦軸芯まわりに回動
自在に取り付けるとともに,
ウ 前記肘掛け部(7)を本体フレーム(1)に対し,その高さが着座者の
正常着座姿勢における肘相当高さ及び肩相当高さに変更され得るように枢
支連結してあり,
エ 前記尻乗せ座(4)は,尻乗せ中心部となるべき位置に貫通孔が形成さ
れた木製ベース板(4a)を基礎とし,その貫通孔以外の部分に成形クッ
ション材(4b)を上方突出状態に付設した上でその上から成形張材(4
c ) クッション材( 4d )及び表面張材( 4e )をこの順序で張設して構
,
成されており,
オ 前記尻乗せ座(4)を正面向き姿勢に固定する固定具(9)が設けられ
ている
カ ことを特徴とする座椅子。
(以下,この発明を「引用発明」という 。)
(3) 本件発明と引用発明の対比
ア 引用発明の「 尻乗せ座 」 「 前後に傾斜調整自在 」 「 背もたれ部 」 「 表面
, , ,
張材 」 は , それぞれ , 本件発明の 「 座部 」 「 傾倒自在 」 「 背部 」 「 上面側
, , ,
表層カバー部材」に相当する。
引用発明の「クッション材」も,本件発明の「低反発クッション部材」
も,「クッション部材」という点では一致している。
また,本件発明も,その実施例の構成から明らかなように,低反発クッ
ション部材の下方に他のクッション材を配置してもかまわないものである
から ,引用発明が「 成形クッション材( 4b ) を備えることにより本件発
」
明と相違することにはならない。
引用発明は,尻乗せ座(4)が本体フレーム(1)に対して縦軸芯まわ
りに回動自在に構成されているが,固定具(9)により尻乗せ座(4)を
正面向き姿勢に固定できるものである。また,引用発明は,着座姿勢のま
ま軽運動が行えるようにした点に特徴があるものの,従来の座椅子と同様
に安らかな休息が得られるものでもある。したがって,引用発明は,尻乗
せ座(4)を回動自在にする構成を備えている点をもって本件発明と相違
するものではない。さらに,本件発明は,引用発明のように肘掛け部やフ
レームを設けることをその技術的範囲から除外したものではないと解され
る。
なお ,引用発明の「 凹部( 41 ) は ,必ずしも本件発明にいうところの
」
「円穴」に該当するものとは断定できない。
イ そうすると,両者の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア) 一致点
「 座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において ,
当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下にクッション
部材を有する座椅子」である点
(イ) 相違点
a 本件発明では,座部が「座面中央に座面側に向かって次第に拡大す
る形状の円穴 」を有しており , クッション部材を座部の垂直断面にお
「
いて上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面
側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配
設している」のに対し,引用発明では,木製ベース板(4a)に貫通
孔があって,その貫通孔以外の部分に成形クッション材(4b)を上
方突出状態に付設しているものの,成形クッション材(4b)の上方
に位置する上面側表層カバー部材及びクッション部材に明確な「穴」
が存在するとまでは認められない点
b 座部の表面張材の直下に張設されるクッション部材につき,本件発
明では , 低反発 」性のものに限定されているのに対して ,引用発明で
「
は,そのような性質のものであるか否かが明らかでない点
(4) 相違点についての容易想到性
そこで,上記各相違点に係る構成について,当業者が容易に想到できたも
のであるか否かについて検討する。
ア 相違点aについて
(ア) 実願昭63−39417号(実開平1−143952号)のマイクロ
フィルム(乙3)の記載事項
上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a 「実用新案登録請求の範囲
1.ホットカーペット上に置かれクッション材が詰った座部と背もた
れ部とから成り,
座部の中央部分をカットして透孔に形成あるいは当該部分のクッシ
ョン材を熱プレス等により薄肉部に形成したことを特徴とするホット
カーペット用座椅子 。 (明細書1頁3∼9行目)
」
b 「第1実施例・・・座部3の中央部分をカットして透孔5を形成し
てある 。・・・第2実施例は ,座部3の中央部に薄肉部7を形成したも
のである 。・・・透孔5と薄肉部7は共に矩形状に形成したが ,円形や
楕円形その他の形状であっても差し支えない 」 同3頁6行目∼4頁1
(
0行目)
c 「このように波型の凹凸を表面に有する薄肉部7に臀部Hを着座さ
せたときに,凹凸があるために臀部Hが蒸れる虞れが少なくなる。ま
た,滑り止めにもなっている。このような凹凸を有する薄肉部7の他
に平板状の薄肉部であっても差し支えない 」(同4頁末行∼5頁5行
目)
d 第2図は第1実施例に係る着座状態の側面図,第3図は同断面図,
第6図は第2実施例に係る側面図であり,いずれも透孔5が座面側に
向かって次第に拡大する形状を有することが図示されている。
(イ) 実願昭62−26203号(実開昭63−133142号)のマイク
ロフィルム(乙5)の記載事項
上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a 「2.実用新案登録請求の範囲
(1) 臀部をのせる座部と,該座部の一端に立設した背もたれ部とか
ら成る座椅子において,前記座部に,臀部を受け入れる凹陥部を設け
たことを特徴とする座椅子 。 (明細書1頁3∼7行目)
」
b 「 従来の技術」および「考案が解決しようとする問題点」
「
・・・座部にのせたでん部が滑り易く,例えば足を伸ばして座椅子に
座ったときや,座椅子に座って「こたつ」に入っているとき等,上半
身の体重を背もたれ部にもたれかけていると,座部上のでん部が次第
に前方にずれて不自然な姿勢になり ,座り直すことがたびたびある 。」
(同1頁12行目∼2頁6行目)
c 「 問題点を解決するための手段」
「
以上の目的を達成する本考案の座椅子は「でん部をのせる座部とそ
の座部の一端に立設した背もたれ部とから成る座椅子において,その
座部に ,でん部を受け入れる凹陥部を設けた構造 」が特徴である 。 同
」
(
2頁13∼18行目)
d 「 作用」
「
以上の構造の本考案の座椅子は,座部に使用者のでん部を受け入れ
る凹陥部が設けてあるので,使用者のでん部はその凹陥部に嵌め込む
ようにして受け入れられ,背もたれ部に上半身の体重をもたれかけさ
せていても,でん部が前方にずれることがなく,正常な座り姿勢を安
定させる 」(同2頁19行目∼3頁5行目)
e 「第一実施例・・・座部2の中央部分は,円形に切り抜いた凹陥部
5が設けてあり,その凹陥部5の前端部分は座部2の前縁部2’を切
り離した形状になっている。即ち,凹陥部5は座部2の前縁部2’を
狭隘な入口部とし,座部2の中央部分で概ね円形に膨大する形状に切
り抜かれた貫通孔になっている 。そして ,その凹陥部5の周縁5 ’は ,
下方に向かって緩やかにせばまる曲縁に成っており,座椅子1の使用
者が座部2に自己のでん部をのせたとき,そのでん部の外面を滑らか
に受け入れるように形成されている 。 (同3頁9行目∼4頁2行目)
」
f 「第二実施例・・・座部2の中央部分に第1図実施例と同様の凹陥
部5を形成すると共に,その凹陥部5の前縁部位は,座部2より若干
薄くした連結部6によって座部2の前縁部2’が連結されており,凹
陥部5へでん部を嵌めたときの外力によって座部2の形状が崩れるの
を防止すると共に,凹陥部5と使用者のでん部をフィットさせて使用
感が向上するように配慮してある 。 (同4頁3∼11行目)
」
g 「第三実施例・・・前記実施例と同様に,座部2の中央部分に凹陥
部5が設けてあり,その凹陥部5の底は座部2と連続した薄めの底板
部7に形成してある 。 (同4頁12∼15行目)
」
h 「なお,本考案の前記の構成において,凹陥部5は前記実施例に限
定するものではなく,第4図示(判決注:凹陥部5が円の形状をして
いることが図示されている 。 のように ,座部2の中央を単に凹ませて
)
でん部を受け入れるようにしても良い 。 (同5頁7∼10行目)
」
i 第1図(B)及び第2図は,いずれも実施例の断面図であり,凹陥
部5が座面側に向かって次第に拡大する形状を有することが図示され
ている。
(ウ) 引用発明では,木製ベース板(4a)に貫通孔が形成され,その貫通
孔以外の部分に成形クッション材(4b)が上方突出状態に付設されて
いる 。この「 貫通孔 」の形状が座部( 尻乗せ座( 4 ) の外周囲まで至ら
)
ないものなのか,それとも木製ベース板(4a)及び成形クッション材
(4b)を分割するように座部の外周囲にまで至っているのかは一見し
て明らかではないが,実施例の底面図である第2図,第3図の記載内容
からは,孔が尻乗せ座(4)の外周まで至っているようには見えず,か
えって ,組立後の概観を示す第5図では尻乗せ中心部となる凹部 41 )
(
はほぼ円状になっていることからすると,当該貫通孔は円形の穴,すな
わち「円穴」の構成を備えているものと認められる。そして,当該「円
穴」がその上部に付設された成形クッション材(4b)の部分まで含め
ると「座面側に向かって次第に拡大する形状」を備えていることは,乙
1の第1図(座椅子の前後方向での部分断面側面図)に図示されたとお
りである。
また,本件発明は,本件明細書の段落【0011】に「この円穴3は
座部1の座面11に乗せられる臀部が,少なくともその臀部の中央が浅
く落ち込む穴或いは有底の窪み(以下これらを総称して円穴ともいう)
を設けて・・・ 」とあるように ,座面上に設けられる円穴は , 貫通孔 」
「
に限定しておらず,したがって,当業者が当該「円穴」を「貫通孔」と
して構成するか,それとも有底の「窪み」として構成するかは,正に設
計事項にすぎないといえる。そして,引用発明のうち木製ベース板(4
a)に設けられた貫通孔が「円穴」の構成を備えていることは前示のと
おりであり,その上部に形成される凹部(41)についても,完全な円
形かどうかはともかくとして,おおむね「窪み」の形状をしていること
は図面上明らかといえる。したがって,相違点aのうち,座部の「座面
中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」を設けることにつ
いては,既に引用発明においてその開示があるか,少なくとも示唆があ
るということができる。
そして,上記乙3及び乙5の記載によれば,本件特許の出願時におい
て,座椅子の座部の座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の
円穴を設けることは ,周知の技術的事項であったと認めることができる 。
また,引用発明においても,既に木製ベース板(4a)と成形クッショ
ン材(4b)に孔が設けられていることからすると,この周知技術を適
用して ,更に上方の成形張材( 4c ) クッション材( 4d )及び表面張
,
材(4e)にも孔を設けたからといって,直ちに技術的不合理(所与の
課題が解決できなくなる,あるいは著しい欠点が生じる等)が生じるも
のとも認められない。
したがって,上記に検討したところによれば,引用発明自体から,あ
るいは,引用発明に乙3及び乙5に記載される周知の技術的事項を考慮
して ,座部の 座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴 」
「
を設ける構成を採用することは,当業者が格別の創作能力を発揮しなく
とも想到し得たものと認められる。
(エ) 相違点aのうち , クッション部材を座部の垂直断面において上面側表
「
層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその
長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設している」点に
ついて,引用発明では,貫通孔が形成された木製ベース板(4a)を基
礎とし,その貫通孔以外の部分に成形クッション材(4b)を上方突出
状態に付設している(乙1の第1図は,座椅子の前後方向での部分断面
側面図であるが,これによれば,成形クッション材(4b)は,貫通孔
の内周面側から尻乗せ座(4)の外周面側にかけて,その長さ方向の略
中央が高く全体として略弧状になるように形成されている 。 ところ ,引
)
用発明において,クッション材(4d)は,成形クッション材(4b)
の上面に沿って配置するものと理解されるから ,その成形張材( 4c ),
クッション材(4d)及び表面張材(4e)にも円穴が設けられる場合
に,併せて,当該クッション材(4d)を円穴の内周面側から座部の外
周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように
配設することも,当業者が格別の創作能力を発揮しなくともなし得たも
のと認められる(低反発クッション部材の具体的な配置の仕方として,
座椅子に穴が空いているのであれば,臀部との接触が想定される部位,
すなわち,穴の内周面側から座部の外周面側に至るまで配置させること
は,当業者が通常の創作能力を発揮してなし得た程度のことというべき
であるし,座部の垂直断面を中央部が高くなるようにすることは一般に
行われる周知の技術的事項というべきであるから,穴がある座部につい
て,穴の内周面側から座部の外周面側にかけて,その長さ方向の中央が
高く全体として弧状になるように当該クッション部材を配設すること
も,当業者にとって通常の創作能力を発揮してなし得た程度のことと認
めるのが相当である 。 。
)
イ 相違点bについて
(ア) 特開平2−52607号公報(乙6)
上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a 「2.特許請求の範囲
(1) 発泡シート構造体において,上層部には,反発弾性値が25%以
下の低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用し,反発弾性値が5
5%以上の高反発弾性発泡成形クッションパッドの下層部にて支持す
る構成を特徴とするシートクッション 。 (1頁左欄3∼9行目)
」
b 「 発明が解決しようとする課題〕
〔
従来のシートクッションは,上層部の反発弾性が30%以上のもの
を使用しているので,着座時の圧力分散が悪く,横揺れに対する支持
性の感触がよろしくなく ,特に ,肥満型の人は両サイドが窮屈となり ,
部分的に高圧力が発生しやすく,疲れやすい状態を生起することにな
る。
因って,本発明は,従来の発泡体の密度,硬さを主体に構成されて
きた構成を変え,人体に接触する上層部の発泡体を,すぐれたヒステ
リシスロスによる減衰能を発揮させる構想による低反発弾性の発泡体
の構成を提供することを目的としている 。 (1頁右下欄末行∼2頁左
」
上欄12行目)
c 「 作用〕
〔
この発明のシートクッションは,積層体の上層部の反発弾性を25
%以下の可及的低反発弾性のヒステリシスロスの大きな物性とし,下
層部を高反発弾性の物性としたものであり,因って,着座する人のど
んな体型の人にも,また,どんな姿勢に対しても良好な沿接形態が得
られ,必要以上の圧接感を与えることなく,横揺れ等の動揺に対して
良好なソフトな支持性を発揮する。また,下層部に高反発弾性クッシ
ョンパッドを使用するため,上層部のソフトな接触感による緩衝性と
下層部の高反発弾性との相乗作用により,より一層の動揺に対する順
応性と良好な支持性と復元性作用を長期に発揮するものである 。 (3
」
頁左下欄11行目∼右下欄4行目)
d 第2図(断面図)には,座面の上層部に低反発弾性発泡成形クッシ
ョンが,座面の下層部には高反発弾性発泡成形クッションパッドがそ
れぞれ配設されている構造が図示されている。
(イ) 特開2000−106969号公報(乙7)
上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a 「 特許請求の範囲】
【
【請求項1】シートフレーム,シートパッド及び座部表皮からなる座
席において,前記シートパッドの上下両面及び前記シートフレームと
シートパッド間のシートフレームとバネとの間に加速度負荷を吸収す
るための高密度低反発物質又は衝撃吸収物質を挿入したことを特徴と
する加速度抑制型簡易座席装置の緩衝構造 。 (2頁1欄1∼7行目)
」
b 「 発明が解決しようとする課題 】
【 ・・・
【0005】人体に伝達される衝撃力を抑制するためには,運動量の
伝達過程で速度変化を漸減し,人体に伝達する力を漸増伝達し,新た
な衝撃成分を発生させない吸収方法及び低反発材料によって,運動エ
ネルギを停溜吸収して消費させる構造が必要である 。 (2頁1欄22
」
∼42行目)
c 図1及び図4(いずれも断面図)には,シートパッドの上下両面に
高密度低反発物質又は衝撃吸収物質を挿入する構造が図示されてい
る。
(ウ) 特開2002−336070号公報(乙9)
上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a 「 特許請求の範囲】
【
【請求項1】座部(1)と背もたれ部(2)とからなる座椅子であっ
て,前記座部(1)の一方の端部と前記背もたれ部(2)の端部が変
曲点Sにおいて一体化されており,前記背もたれ部(2)の表面にお
いて,前記変曲点Sから5∼25㎝(1)離隔した箇所に頂点Tを有
する突出部(2a)が形成されており,頂点Tと変曲点Sとを結ぶ直
線と,前記座部(1)の他方の端部の端点Uと変曲点Sとを結ぶ直線
とで形成する角αが直角若しくは鋭角であることを特徴とする座椅
子。
・・・
【請求項5】所定の厚みの複数の座布団部(3a,3b)が,前記水
平面(1a)上に配設されたことを特徴とする,請求項1乃至4のい
ずれか一項に記載の座椅子 。 (2頁1欄1∼26行目)
」
b 「 0039 】
【 ・・・本発明の座椅子は,ウレタン,発泡ウレタン,
ウレタンフォーム,チップウレタン,低反発ウレタンフォーム,ポリ
ウレタン,コルマビーズ,ポリエチレン,低反発マイクロフォーム,
スポンジ,衝撃吸収シート,発泡スチロール,プラスチック,木材,
及びこれらの組み合わせから選択される材料から構成されてもよい 。」
(5頁8欄49行目∼6頁9欄5行目)
c 「 0040 】好ましくは ,座部は発泡スチロール若しくはプラスチ
【
ック等の比較的固い材料から成り,座布団部はそれに対してウレタン
若しくは衝撃吸収シート等の柔らかい材料から成る。これにより,座
り心地がよい一方で,確実に座位前屈運動が実施できる座椅子が提供
できる 。 (6頁9欄6∼11行目)
」
(エ) 特開2000−5327号公報(乙10)
上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a 「 特許請求の範囲】
【
【請求項1】人体に接して使用される器具に磁石を取り付けた磁石付
き健康器具において,前記磁石として,大磁石の上に少なくとも一つ
の小磁石を載せて磁力を高めた複合磁石を用い,この複合磁石の前記
小磁石を,人体が当接する面に向けて配置したことを特徴とする磁石
付き健康器具。
・・・
【請求項4】前記健康器具が,枕,腰枕,敷ふとん,椅子,足枕から
選ばれた一種である請求項1∼3のいずれか1つに記載の磁石付き健
康器具 。 (2頁1欄1∼17行目)
」
b 図1には,本発明を磁石付き枕に適用した実施形態として,低反発
性 ,すなわち比較的軟質のポリウレタンフォーム( 上 )と ,高反発性 ,
すなわち比較的硬質のポリウレタンフォーム(下)とを上下に接合し
てなる枕本体の構造が図示されている。
c 図7には,本発明を磁石付き座椅子に適用した他の実施形態が図示
されている。
(オ) 上記(ア)∼(エ)の記載によれば,本件特許の出願当時,椅子用のクッシ
ョン材として上層に低反発クッション部材を配設することは,当業者に
とって周知の技術的事項であったということができ,また,通常の座椅
子である以上 ,当業者がその「 着座位置の安定 」を図ることや , 座り心
「
地の良さ」を求めることは,製品の性質上,自明の課題ともいうべき事
項であることを考慮すれば,引用発明に上記周知技術を適用してクッシ
ョン材(4d)を低反発クッション部材とすることは,当業者が通常の
創作能力を発揮してなし得たことと認められる。
ウ 以上によれば,本件発明の相違点a,bに係る構成は,引用発明に,乙
3及び乙5に記載された周知の技術的事項(座椅子の座部が座面中央に座
面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を設けること )及び乙6 ,乙7 ,
乙9及び乙10に記載された周知の技術的事項(椅子用のクッション材と
して上層に低反発クッション部材を配設すること)を組み合わせることに
より,当業者が容易に想到できたものと認められる。
(5) 以上のとおり,本件発明は,当業者が引用発明及び上記の周知の技術的事
項に基づいて容易に発明をすることができたものであり,本件特許は特許無
効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許法104条の3
第1項により,原告は被告に対し本件特許権を行使することができない。
3 結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理
由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡 本 岳
裁判官
鈴 木 和 典
裁判官
寺 田 利 彦
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