知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成22(行ケ)10139 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成22(行ケ)10139審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成22年9月8日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官芦場松美
原告株式会社ニューみやこ畠山文夫
法令 商標権
商標法4条1項11号5回
キーワード 審決11回
商標権3回
拒絶査定不服審判1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶 査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書 (写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由 があると主張して,その取消しを求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成22年9月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成22年8月4日
判 決
原 告 株式会社ニューみやこ
同訴訟代理人弁理士 小 林 か お る
畠 山 文 夫
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 稲 村 秀 子
芦 場 松 美
豊 田 純 一
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2009−14177号事件について平成22年3月29日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書
(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由
があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成20年6月25日,「こころをなでる静寂 みやこ」の文字
を標準文字で表し,指定商品を第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約
の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,動物の宿泊施設の提供,保育所における乳幼児
の保育,高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。),会議室の貸与,展
示施設の貸与,布団の貸与,業務用加熱調理機械器具の貸与,業務用食器乾燥機の
貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カ
ーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,タオルの貸与」とする商
標(以下「本願商標」という。)の登録出願(商願2008−50747号)をし
(甲3),同21年3月30日付けの手続補正書によって,指定役務を「宿泊施設
の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,
展示施設の貸与,布団の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物
の貸与,タオルの貸与」に補正したが(甲4),拒絶査定を受けたので,同年8月
7日,これに対する不服の審判を請求した。
(2) これに対し,特許庁は,原告の請求を不服2009−14177号事件と
して審理し,平成22年3月29日に「本件審判の請求は,成り立たない。」とす
る本件審決をし,同年4月8日,その謄本は原告に送達された。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本願商標と別紙引用商標目録記載の引用商標とは,
相紛れるおそれのある類似の商標であり,かつ,指定役務が同一又は類似のものを
含むものであるから,商標法4条1項11号に該当し登録を受けることができない,
というものである。
3 取消事由
本願商標が引用商標に類似するとした判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
本願商標は,以下の(1)ないし(3)のとおり,引用商標とは非類似であるにもかか
わらず,両者が類似すると判断した本件審決は,違法なものとして取り消されるべ
きである。
(1) 本願商標から生ずる称呼について
ア 本件審決は,簡易迅速を尊ぶ取引の実際にあっては,本願商標に接する取引
者,需要者は,比較的記憶しやすい平易な語である後半の「みやこ」の文字部分に
着目し,これより生ずる「ミヤコ」の称呼をもって取引に資する場合も決して少な
くないと判断するのが相当であると説示する。
しかしながら,Google の検索結果によると,「みやこ」を含む旅館等は極めて
数多く存在すること(甲5,6)から,「ミヤコ」の称呼をもって取引に資する場
合も少なくないというのは,他の「みやこ」と識別した上であることが前提となる。
また,Google の検索結果によると,出願人施設の営業表示は,「みやこ」では
なく「こころをなでる静寂みやこ」と表示されている(甲5,6)。したがって,
需要者は,多くの「みやこ」が存在するという実情を認識した上で本願商標に接す
ることになる。
イ 本願商標は,横書きに一列標記されていることから需要者の注意をひくのは
左側の「こころをなでる」である。これに加えて,本願商標は,「静寂」のみが漢
字表記される以外はすべて平仮名表記がされているため,需要者の注意をひくのは
中央に配置された「静寂」でもある。
そして,上記のように「みやこ」が多数存在する実情から,需要者は「こころを
なでる」や「静寂」と「みやこ」とを組み合わせた態様で認識するものといえる。
ウ したがって,本願商標「こころをなでる静寂 みやこ」から生じる称呼は,
「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」,「ココロヲナデルセイジャク」,「ココロ
ヲナデル」,「セイジャク」,「セイジャクミヤコ」であり,「ミヤコ」のみの称
呼を生じることはない。
エ さらに,「みやこ」については,引用商標のような登録商標が存在するとは
いえ,同業者間で多用されている。例えば,Google の検索結果によると,約17
万8000件の「旅館みやこ」(甲5),約777万件の「みやこ」(甲6),約
633万件の「旅館都」(甲7),約6680万件の「都」(甲8)にそれぞれヒ
ットする。これらはいずれも,本願商標の指定役務である「宿泊施設の提供」を業
として営む者を多く含む。
このように「ミヤコ」という称呼を含む商標や営業表示が同業者間で多用されて
いる現実は,需要者も旅館等には「ミヤコ」という称呼を生ずる言葉が含まれるも
のが多いことを承知しており,商標そのものの個別具体的な外観,商標とその他の
文字図形等との組合せ態様等,商標以外の構成部分を考慮して識別する実情がある
ことを裏付ける。すなわち,「ミヤコ」という称呼を含む商標単独での使用以外の
使用方法を採用することにより,「都」,「みやこ」及び「ミヤコ」は,それぞれ
すみ分けを図ることが旅館・ホテル業界では可能となっている。
したがって,需要者が本願商標の後半の構成部分である「みやこ」の文字部分の
みに着目することはないと判断すべきである。
(2) 本願商標から生ずる観念について
「みやこ」の文字部分が分離して存在するとの理由だけで「都」等の観念を生ず
るとするべきではない。
引用商標の漢字表記の「都」は,「ミヤコ」又は「ト」という称呼を生じる。そ
して,インターネットの Wikipedia(甲9)によると,「都(みやこ)」は,①
「宮処(みやどころ,みやこ)」から転じた言語で,天皇の宮殿のあるところをい
う言葉であり,古代の難波京(大阪),平城京(奈良),平安京(京都)など,現
在では京都及び東京とされ,②上記の意味が転じて,政治や行政の中枢機関が置
かれた都市,統治システムの階層ごとにその中枢が設置される都市があるため,国
家レベルの中枢都市は「首都」といい,広域自治体(米国では州,日本では都道府
県)レベルの中枢都市は「州都」,「道都」,「県都」などという,③都会,④何
かを特徴とする都会をいい,「花の都・パリ」,「水の都・大阪」「杜の都・仙
台」というように用いられ,都市を形容する通称といった意味があると説明されて
いる。
また,インターネット So-net 辞書(甲10)によると,「都(みやこ)」は,
①皇居のある所,②首府,首都,③政治・経済・文化の中心としてにぎやかな所,
都会,あることが盛んであったり特徴であったりする都会といった意味があると説
明されている。
これらを勘案すると,引用商標は,「都」が大きく表示されていることから,皇
居所在地,政治や行政の中枢機関が置かれた都市,都会を観念させるものといえる。
他方,本願商標は,「みやこ」がスペースを置いて標記されているとはいえ,前半
がやや冗長であることから一字分のスペースを置いて「みやこ」と記載したにすぎ
ず,あくまで「こころをなでる静寂」を特徴とする「みやこ」を観念させるもので
ある。さらに,本願商標は,「みやこ」と平仮名表記されていることから,都会と
いうよりは,都会のけん騒から離れた静かな場所(田舎)を観念させるものであっ
て,引用商標の観念とは一線を画する。
以上のとおり,本願商標は,全体として「都」の観念を生ずるということはない。
(3) 具体的出所の混同について
ア 業種面からの具体的出所の混同の有無
現実のホテル・旅館の取引界においては,シティーホテル,コミュニティホテル,
ビジネスホテル,リゾートホテル,旅館,温泉旅館,民宿等として,立地・規模・
使用目的に応じてカテゴリー分けされている。
この点について,引用商標の権利者である近畿日本鉄道株式会社は,そのホーム
ページにおいて,都ホテルズ&リゾーツとの表示を用い,シティーホテルやリゾー
トホテルとして,シェラトン都ホテル東京,金沢都ホテル,岐阜都ホテル,四日市
都ホテル,津都ホテル,志摩観光ホテル,ホテル志摩スペイン村,プライムリゾー
ト賢島,ホテル近鉄アクアヴィラ伊勢志摩,ウェスティン都ホテル京都,新・都ホ
テル,奈良ホテル,シェラトン都ホテル大阪,天王寺都ホテル,博多都ホテル,沖
縄都ホテル及び都ホテル・ロサンゼルスで事業展開を行っている。これらのホテル
のうち「都」が含まれるものは,十数か所のホテルであって,これらのホテルにお
いて引用商標が使用されている。
他方,本願商標の出願人である原告の施設は,いわゆる温泉旅館である(甲1
1)。
以上のとおり,引用商標と本願商標との使用場所やこれが使用されるホテル・旅
館規模,対象とする需要者層,具体的なサービス内容の一部は全く異なる。特に,
需要者層やサービス内容についてみると,引用商標については,出張,結婚式・各
種宴会,都会で休日を過ごすことを目的とする需要者が引用商標に接することにな
るが,本願商標については,田舎の静かな温泉でおいしい物を食べてゆっくり過ご
すというサービスを受けようという目的を持つ需要者層が本願商標に接することに
なる。
したがって,同一称呼を含み,場所を示すという意味で観念が共通する言葉を有
するという理由のみで,本願商標が引用商標と類似すると判断することは,取引の
実情に照らして妥当ではなく,需要者が,引用商標と本願商標との間で具体的出所
の混同を生ずることはない。
イ 「みやこ」と「都」とのすみ分けからの具体的出所の混同の有無
現実のホテル・旅館の取引界では,「みやこ」や「都」が多用されている(甲5
∼8,12)。
このように,引用商標が存在するにもかかわらず,「みやこ」が多用されている
のは,旅館業界・ホテル業界において,少なくとも,「みやこ」と「都」とは十分
なすみ分けが意識的に図られている結果である。
すなわち,Google の検索の「旅館みやこ」(甲5),「旅館都」(甲7)及び
「都」(甲8)では,スポンサーリンクの欄で引用商標の商標権者の「都ホテル」
が表示されるが,これによって,需要者は他の「ミヤコ」という称呼を含む商標の
識別が十分可能である。ここで,「旅館みやこ」の場合(甲5)においても,「都
ホテル」がスポンサーリンクされているのは,引用商標の商標権者の役務は宿泊施
設の提供という点では旅館業務と共通するため,需要者のタイプミス(都とタイプ
すべきところをミヤコとタイプする等)にも対処できるようにしたためと推察され
る。他方,「みやこ」の場合(甲6)では,「都ホテル」はスポンサーリンクすら
されていないが,これは,「みやこ」と「都」とでは,イメージ(観念)が全く異
なり,同列で比較すべきではないという意図の表れである。さらに,「都」の場合
(甲8)では,引用商標の商標権者の各系列ホテルが上位でヒットする一方,「み
やこ」を含む温泉旅館は見当たらない。これは「都」が,皇居所在地,都会,都市
をイメージ(観念)させることを物語っている。
これらを勘案すると,ホテル・旅館業界においては,「都」と「みやこ」とは,
別個の商標として認識されており,すみ分けが可能であって,「都」と「みやこ」
とでは具体的出所の混同は生じないということができる。
以上のとおり,みやこ・都・ミヤコ等の「ミヤコ」という称呼を含む商標は,他
の構成部分との組合せやその具体的態様によって識別力を発揮していると考えるべ
きである。その意味において,「ミヤコ」という称呼を含む商標は,出所の混同を
生ずる範囲が極めて狭く,一般的には商標の構成一部のみに着目して出所の混同を
生ずると擬制される態様であっても,「商標の構成全体として同一称呼及びこれと
紛らわしい称呼」ということができない限りにおいては,具体的出所の混同は生じ
ないと判断すべきであり,これが取引の実情に沿う。
したがって,引用商標が「都」と中央に大きく表示されるのに対して,本願商標
が「こころをなでる静寂 みやこ」とスペースを置いても全体として同じ比重で表
示されている以上,本願商標は,引用商標とは「ミヤコ」という称呼を共通にする
だけであって,「商標の構成全体として同一称呼及びこれと紛らわしい称呼」とい
うことはできず,具体的出所の混同は生じない。
以上によると,本願商標は,引用商標とは非類似であり,本願商標が商標法4条
1項11号に該当するとした本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
以下の(1)ないし(3)のとおり,原告の主張は理由がなく,本願商標が商標法4条
1項11号に該当するとした本件審決の判断には違法はない。
(1) 本願商標から生ずる称呼について
ア 本願商標は,「こころをなでる静寂 みやこ」の文字を標準文字で表してな
るところ,その構成において,「こころをなでる静寂」の文字と「みやこ」の文字
との間には,一文字程度の空白(スペース)を有していることから,「こころをな
でる静寂」の文字と「みやこ」の文字とは,外観上分離して看取されるものである。
イ 本願商標は,その構成文字全体から,特定の熟語的な意味合いを生ずるとは
いい難いものである。特に,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供」の業界,す
なわち,宿泊施設を提供する旅館やホテル等の業界においては,宿泊施設の雰囲気,
そのコンセプト等を記述的に記載した宣伝,広告のためのキャッチコピーといえる
ような内容を表した文言を,その営業に当たってごく普通に用いている事情にある
ことは通常よく見受けられるところである。
そして,そのような文言に次いで宿泊施設の名称を表示している例が,多数存在
する(乙1∼20)。
さらに,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供」との関係において,「ここ
ろをなでる」や「静寂」の語は,宿泊施設の雰囲気等を説明する文言に用いられて
いる(乙20∼24)。
これらの取引の実情に照らしても,本願商標の構成前半の「こころをなでる静
寂」の文字部分は,宿泊施設の雰囲気,そのコンセプト等を記述的に記載した宣伝,
広告のためのキャッチコピーのように理解させるものといえるから,上記文字部分
は,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供」との関係においては,強い出所識別
標識としての機能を果たす部分とはいえないものであって,構成後半の「みやこ」
の文字部分が,宿泊施設の名称を表したものと理解,認識させるものということが
でき,強い自他役務の識別標識としての機能を果たすものというのが相当である。
ウ 本願商標は,「こころをなでる静寂 みやこ」の構成文字全体から,「ココ
ロヲナデルセイジャクミヤコ」の称呼を生ずるものであるところ,その音数は14
音で,全体として冗長といえるものであって,一連の称呼を生ずるほか,構成の一
部から生ずる称呼をもって取引に資されることも少なくないというのが相当である。
エ 以上のとおりの本願商標の外観,観念及び称呼上の分離性並びに取引の実情
を考慮すると,本願商標の構成後半の「みやこ」の文字部分が,宿泊施設の名称を
表したものと理解,認識されるものであって,強い自他役務の識別標識としての機
能を果たす要部としてとらえられるものというべきである。
そして,上記証拠資料から,「みやこ」及び「都」の文字が,本願商標及び引用
商標の指定役務中「宿泊施設の提供」との関係において,役務の質等やありふれた
名称を表示するものであるなどとはいえず,これらの文字が,自他役務の識別標識
としての機能を果たし得ないものとみるべき事情はないといえるものである。
そうすると,「ミヤコ」という称呼を含む商標単独での使用以外の使用方法を採
用することにより,「都」「みやこ」「ミヤコ」は,それぞれすみ分けを図ること
が旅館・ホテル業界では可能となっているとの,あたかも「みやこ」や「都」及び
「MIYAKO」の文字部分が自他役務の識別標識として機能しないかのような原
告の主張は,「都」及び「MIYAKO」の文字部分が要部であると考えられる引
用商標の権利範囲を理由もなく狭くみるものであり,かつ,本願商標の要部の認定
判断を誤った主張であって,適切なものとはいえない。
(2) 本願商標から生ずる観念について
前記(1)アないしウのとおりの本願商標の外観,観念及び称呼上の分離性,取引
の実情を考慮すると,本願商標は,構成後半の「みやこ」の文字部分が宿泊施設の
名称を表したものと理解・認識されるものであって,強い自他役務の識別標識とし
ての機能を果たす要部としてとらえられるものというべきである。
以上によると,本願商標は,原告主張のように「こころをなでる静寂」を特徴と
する「みやこ」のみを観念させるものとはいえず,構成中の「みやこ」の文字部分
から生ずる観念をもって取引に資されるものといえる。
そして,本願商標の構成中の「みやこ」の文字が,「都」を意味する語であるこ
とは,広辞苑等の辞書(乙25∼27)からもいうことができるものである。
さらに,これらの辞書やインターネット上の辞典(甲9,10)をみても,「み
やこ」の文字が,「都会のけん騒からはなれた静かな場所(田舎)」を意味する語
として掲載されている事実もない。
そうとすると,本願商標の構成中「みやこ」の文字が,需要者等に「都会のけん
騒からはなれた静かな場所(田舎)」の意味合いを看取させるものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
(3) 具体的出所の混同について
ア 業種面からの具体的出所の混同の有無
本願商標及び引用商標に共通する指定役務「宿泊施設の提供」の表示は,「シテ
ィーホテル・リゾートホテルの提供」や「温泉旅館の提供」のように限定されたも
のではないから,本願商標と引用商標との使用場所が異なるとする原告の主張は,
その前提において失当である。
また,引用商標がシティーホテルやリゾートホテルにおいて使用され,本願商標
が温泉旅館で使用されるものであるとしても,このような役務の需要者は,「宿泊
施設を利用する者」であって,「シティーホテルやリゾートホテルを利用する者」
と「温泉旅館を利用する者」とが,例えば,性別や年齢層等によってその需要者層
が明確に区別されるような実情があるものではないから,本願商標及び引用商標に
接する需要者層が異なるとすることはできない。
さらに,「シティーホテルやリゾートホテルの提供」や「温泉旅館の提供」であ
っても,宿泊施設を提供することがサービスの目的であるから,シティーホテルや
リゾートホテルにおいて提供されるサービスと温泉旅館において提供されるサービ
スとは,同じものといえるものである。
したがって,原告の主張は,失当である。
イ 「みやこ」と「都」とのすみ分けからの具体的出所の混同の有無
本願商標は,その構成中,独立して,自他役務の識別標識としての機能を果たす
要部として看取される「みやこ」の文字部分より,「ミヤコ」の称呼及び「都」等
の観念を生ずるものである。
他方,引用商標は,その構成中,独立して,自他役務の識別標識としての機能を
果たす要部として看取される「都」及び「MIYAKO」の文字部分より,「ミヤ
コ」の称呼及び「都」の観念を生ずるものである。
そうすると,本願商標と引用商標とは,「ミヤコ」の称呼及び「都」の観念を共
通にするものである。
そして,「みやこ」あるいは「都」等の文字に他の文字を結合させ,一体的に表
された構成態様の例が多く見受けられるものであり(甲5∼8,12),本願商標
及び引用商標の構成態様とは異なるものであることから,これらの例をもって,本
願商標と引用商標との類否についての判断を左右するものとはいえない。
また,「みやこ」,「都」及び「MIYAKO」の文字が,「宿泊施設の提供」
との関係において,役務の質やありふれた名称を表示する等という事由を見いだす
こともできない。
そうとすると,本願商標の構成中の「みやこ」の文字及び引用商標の構成中の
「都」及び「MIYAKO」の文字は,自他役務の識別標識としての機能を果たす
ものであり,このような文字部分は,共に両商標の要部としてとらえられるもので
あるから,「みやこ」あるいは「都」等の文字に他の文字を結合させた構成態様の
例が多く見受けられること(甲5∼8,12)によって,本願商標と引用商標とが
類似する商標であるとの判断を左右するものとはいえない。
引用商標と類似する商標である本願商標を登録することは,その指定役務の取引
に混乱を生じさせるおそれがあるものであるから,適切とはいえない。
したがって,本願商標と引用商標とは,「ミヤコ」の称呼及び「都」の観念を共
通にする類似の商標であって,かつ,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供,飲
食物の提供」と,引用商標の指定役務中「宿泊施設の提供,日本料理を主とする飲
食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,
アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の
提供」とは,同一又は類似の役務であるから,本願商標をその指定役務に使用する
ときは,役務の出所の混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。
第4 当裁判所の判断
1 商標の類比判断について
商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用
された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記
憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に
考察すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日
第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構
成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分
的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,
この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則
として許されないが,他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又
は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,
それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合
などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否
を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同3
8年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年
(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,
最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民
事228号561頁参照)。
そこで,以上説示した見地から本願商標と引用商標との類否について検討するこ
ととする。
2 本願商標について
(1) 外観
本願商標は,標準文字によって,「こころをなでる静寂 みやこ」と12文字を
横書きしてなるものである。そして,1ないし9字目の「こころをなでる静寂」と
10ないし12字目の「みやこ」との間には,1文字分程度の空白が存在し,視覚
上,両者は分離してみることができるものである。
(2) 観念
本願商標の「なでる」には,「手のひらでやさしくさする。いつくしむ。かわい
がる。大事にする。」との意味があり(広辞苑〔第6版〕),「こころをなでる静
寂」とは,「静寂が心をいつくしむ,大事にする」との観念が生ずるものというこ
とができる。また,「みやこ」からは,①帝王の宮殿のある所,②首府,首都,③
人口が密集し,政治・経済・文化などの中心地となる繁華なところなどの意味のあ
る「都」(乙25∼27)や,地名である「宮古」との観念が生ずることがあるも
のと認められる。
他方,「こころをなでる静寂」又は「静寂」と「みやこ」との間には一般的な関
連性を認めることができず,本願商標の構成全体からは,特定の観念が生ずるとい
うことはできない。
そして,本願商標のうちの「こころをなでる静寂」は,指定役務のうちの「宿泊
施設の提供」に係る旅館・ホテル等における宿泊施設の雰囲気を表す語句や広告文
(キャッチコピー)としての意味を有し得るものであり,また,「みやこ」は,地
名や名前等の固有名詞として存在し得るものであることからすると,指定役務のう
ちの「宿泊施設の提供」についてみると,「こころをなでる静寂」との語句は,
「みやこ」との名称の宿泊施設の雰囲気を表す語句や広告文とみることができ,役
務の質とみることができるから,「みやこ」の部分について,取引者,需要者に対
し,役務の出所識別機能を有するものとして強く支配的な印象を与えるものとみる
ことができる。
(3) 称呼
本願商標は,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」と称呼が比較的長く,また,
上記(1)及び(2)のとおり,全体として一個不可分の概念を示すものとは認められな
い12文字から成る外観が比較的長い商標であり,反面,「心をなでる静寂」と
「みやこ」とからはそれぞれ一定の観念が生じ,簡易迅速性を重んずる取引の実際
においては,その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものというこ
とができるから,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」の外に,「みやこ」の文字
部分に相応した「ミヤコ」の称呼も生ずるものということができる。
3 引用商標について
(1) 外観
引用商標は,別紙引用商標目録のとおり,中央に「都」の文字があり,その周り
に円弧状に,上部に「MIYAKO HOTELS」の文字,下部に「KINTE
TSU GROUP」の文字を配した構成よりなるものであるところ,このうちの
「都」の文字部分は,中央に大きく表されており,引用商標を見る者は,「都」の
文字に着目することになる。
(2) 観念
引用商標は,上部に「MIYAKO HOTELS」の文字が配されており,こ
のうちの「HOTELS」の文字部分は,引用商標の指定役務のうちの「宿泊施設
の提供」に関係した「ホテル」や「ホテル業」を認識させる役務の内容を示すもの
であるから,中央に大きく表された「都」と併せて,「都」との観念及びホテル名
としての「都」及び「MIYAKO」との観念が生ずるものということができ,
「都」及び「MIYAKO」の各部分について,取引者,需要者に対し,役務の出
所識別機能を有するものとして強く支配的な印象を与えるものとみることができる。
(3) 称呼
引用商標は,上部から順に,「MIYAKO HOTELS」,「都」及び「K
INTETSU GROUP」ごとに分けてみることができるものであるところ,
これらは,全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められず,また,
欧文字で25字,漢字で1字から成る外観及び称呼が比較的長い商標であるから,
簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に称呼
され得るものであるということができ,構成の一部である「ミヤコ」との称呼も生
ずるものということができる。
4 本願商標と引用商標との類否について
以上によると,本願商標と引用商標とは,その外観が異なるが,いずれも,
「都」との観念及び「ミヤコ」との称呼を有する類似の商号ということができる。
また,本願商標と引用商標とは,いずれも指定役務において「宿泊施設の提供」
において共通し,また,本願商標の「飲食物の提供」は,引用商標の「日本料理を
主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲
食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主と
する飲食物の提供」を含むものであって,本願商標の指定役務のうちの「宿泊施設
の提供,飲食物の提供」と引用商標の指定役務のうちの「宿泊施設の提供,日本料
理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とす
る飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を
主とする飲食物の提供」とは類似する役務であるということができる。
そして,引用商標の権利者は,我が国有数の鉄道会社である近畿日本鉄道株式会
社であり(甲1),同社の関連会社は,大手ホテルチェーンとして,都ホテルズ&
リゾーツとの表示を用い,シティーホテルやリゾートホテルとして,シェラトン都
ホテル東京,金沢都ホテル,岐阜都ホテル,四日市都ホテル,津都ホテル,志摩観
光ホテル,ホテル志摩スペイン村,プライムリゾート賢島,ホテル近鉄アクアヴィ
ラ伊勢志摩,ウェスティン都ホテル京都,新・都ホテル,奈良ホテル,シェラトン
都ホテル大阪,天王寺都ホテル,博多都ホテル,沖縄都ホテル及び都ホテル・ロサ
ンゼルスと,広く事業展開を行っており(弁論の全趣旨),これらのホテルチェー
ン名及びうち12のホテル名には「都」が存在し,引用商標が使用されているもの
と解されるから,「都」との観念及び「ミヤコ」との称呼が引用商標と共通する本
願商標を,その指定役務のうちの「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介
又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与」に使用するならば,取引者,需要者に
対して,その出所について誤認混同を生ずるおそれがあるということができる。
したがって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するものとして,商標登
録を受けることができないものというべきである。
5 原告の主張について
(1) 原告は,本願商標から生じる称呼は,「ココロヲナデルセイジャクミヤ
コ」,「ココロヲナデルセイジャク」,「ココロヲナデル」,「セイジャク」,
「セイジャクミヤコ」であり,「ミヤコ」のみの称呼を生じるものではなく,「ミ
ヤコ」という称呼を含む商標や営業表示が同業者間で多用されている現実によると,
需要者が本願商標の後半の構成部分である「みやこ」の文字部分のみに着目するこ
とはないと主張する。
しかしながら,前記2のとおり,本願商標の外観,観念及び称呼の点からみると,
本願商標においては,「ミヤコ」のみの称呼も生じ得るところであって,これに対
応する「みやこ」の部分も,取引者,需要者に対し,役務の出所識別機能を有する
ものとして強く支配的な印象的を与えるものであって,「ミヤコ」のみの称呼が生
じないことを前提とする原告の主張は失当というほかない。
(2) 原告は,漢字表記の「都」との対比で,「都」は都市,都会を観念させる
が,平仮名表記の「みやこ」は都会のけん騒から離れた静かな場所(田舎)を観念
させると主張するが,「都」や「みやこ」が,過去に首都が置かれたが現在は都会
のけん騒から離れた土地となった「古都」との意味で使用されることがあるとして
も,「都」との対比で,漢字表記の「都」が都市,都会を観念させ,平仮名表記の
「みやこ」が都会のけん騒から離れた静かな場所(田舎)を観念させるという原告
の主張は,独自の見解に基づく主張であって,これを採用し得る根拠がない。
(3) 原告は,引用商標が使用されているのはシティーホテルやリゾートホテル
であるのに対し,本願商標の出願人である原告の施設は温泉旅館であるから,引用
商標と本願商標との使用場所やこれが使用されるホテル・旅館規模,対象とする需
要者層,具体的なサービス内容の一部は全く異なると主張する。しかしながら,引
用商標が使用されているのがシティーホテルやリゾートホテルであったとしても,
本願商標の指定役務中には,シティーホテルやリゾートホテルの業務としても存在
する「宿泊施設の提供,飲食物の提供,会議室の貸与」等が含まれているものであ
って,これらの役務について温泉旅館に限定されているものではないから,本願商
標と引用商標との使用場所やこれが使用されるホテル・旅館規模,対象とする需要
者層,具体的なサービス内容の一部は全く異なるとの原告の主張もまた,失当とい
わざるを得ない。
6 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 本 多 知 成
裁判官 荒 井 章 光
(別紙)
引用商標目録
商標登録番号:第3171360号(甲1)
商標の構成:
指定役務:平成13年経済産業省令第202号による改正前の商標法施行規則別
表第42類「宿泊施設の提供,日本料理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主と
する飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする
飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の提供,美容,理容,入浴施
設の提供,写真の撮影,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,あん摩,
マッサージ及び指圧」
出願日:平成4年9月29日
設定登録日:平成8年6月28日
更新登録日:平成18年6月6日
存続期間満了日:平成28年6月28日

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

来週の知財セミナー (3月10日~3月16日)

3月11日(火) - 東京 港区

特許調査の第一歩

3月12日(水) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅰ)

3月12日(水) - 愛知 名古屋市中区

技術情報管理と秘密保持契約

3月13日(木) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅱ)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

スプリング弁理士法人

茨城県牛久市ひたち野東4-7-3 ブリーズノース101 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

西川国際特許事務所

〒170-0013 東京都豊島区東池袋3丁目9-10 池袋FNビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

あいぎ特許事務所【名古屋・岐阜】

名古屋本部オフィス 〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅3-13-24 第一はせ川ビル6F http://aigipat.com/ 岐阜オフィス 〒509-0124 岐阜県各務原市鵜沼山崎町3丁目146番地1 PACビル2階(旧横山ビル) http://gifu.aigipat.com/ 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング