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平成21(行ケ)10389審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成22年8月31日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社高島屋 補助参加人郵便事業株式会社 補助参加人株式会社電通
原告株式会社壽
法令 実用新案権
実用新案法47条2項1回
実用新案法40条の21回
実用新案法40条の31回
実用新案法37条1項1号1回
キーワード 審決118回
無効65回
分割59回
無効審判42回
訂正審判6回
実施5回
進歩性1回
主文 1 原告の請求を棄却する。, , 。2 訴訟費用は 補助参加によって生じた費用を含め 原告の負担とする
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ( ) 原告の実用新案1 原告は,次の実用新案(以下「本件実用新案」という。登録時の請求項の 数は6であった。実用新案登録公報は,別添のとおりである )を有してい。 る。 実用新案登録番号 第2573636号 考案の名称 筆記具のクリップ取付装置 出願年月日 平成5年11月26日 登録年月日 平成10年3月20日 ( ) 訂正,無効審判等の経緯2 ア 訂正審判(訂正2007−390006号) 原告は,平成19年1月19日,本件実用新案に係る明細書の実用新案 登録請求の範囲の請求項1,2及び5の訂正を求める訂正審判(訂正20 07−390006号)を請求した。特許庁は,平成19年3月20日, 訂正を認める審決をし,同審決は,同年3月30日,確定した(甲38。

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判決文

平成22年8月31日 判決言渡
平成21年(行ケ)第10389号 審決取消請求事件
平成22年6月24日 口頭弁論終結
判 決
原 告 株 式 会 社 壽
訴訟代理人弁護士 城 山 康 文
同 井 口 直 樹
同 池 田 彩 穂 里
訴訟代理人弁理士 石 戸 久 子
被 告 株 式 会 社 高 島 屋
訴訟代理人弁理士 蔵 田 昌 俊
同 河 野 哲
同 幸 長 保 次 郎
同 中 村 誠
被告補助参加人 郵 便 事 業 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 辻 居 幸 一
同 高 石 秀 樹
同 佐 竹 勝 一
同 水 沼 淳
被告補助参加人 株 式 会 社 電 通
訴訟代理人弁護士 升 永 英 俊
訴訟代理人弁理士 佐 藤 睦
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2007−800163号事件について平成21年10月28
日にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告の実用新案
原告は,次の実用新案(以下「本件実用新案」という。登録時の請求項の
数は6であった。実用新案登録公報は,別添のとおりである 。)を有してい
る。
実用新案登録番号 第2573636号
考案の名称 筆記具のクリップ取付装置
出願年月日 平成5年11月26日
登録年月日 平成10年3月20日
(2) 訂正,無効審判等の経緯
ア 訂正審判(訂正2007−390006号)
原告は,平成19年1月19日,本件実用新案に係る明細書の実用新案
登録請求の範囲の請求項1,2及び5の訂正を求める訂正審判(訂正20
07−390006号)を請求した。特許庁は,平成19年3月20日,
訂正を認める審決をし,同審決は,同年3月30日,確定した(甲38。
同訂正後の明細書を「本件明細書」という。。

イ 差戻前の無効審判(無効2007−800163号)
(ア) 被告は,平成19年8月15日,特許庁に対し,本件実用新案の請
求項1,2及び5についての実用新案登録を無効とすることを求める無
効審判(無効2007−800163号)を請求した。
(イ) 原告は,平成19年11月16日(受付日 ),上記(ア)の無効審判
において,請求項1,2及び5を訂正することを請求した。
(ウ) 原告は,平成20年3月5日(受付日 ),上記(ア)の無効審判にお
いて,請求項1,2及び5を訂正することを請求した(甲39) なお,

上記平成20年3月5日付け訂正請求がされたことによって,前記(イ)
の訂正請求は,取り下げられたものとみなされた(平成5年法律第26
号附則4条1項により,なお効力を有するとされ,平成15年法律第4
7号附則12条により改正された平成5年法律第26号附則4条2項に
より読み替えて適用される実用新案法 以下 読替実用新案法 」
( 「 という 。)
40条の2第4項。本件の実用新案は,読替実用新案法の適用されるも
のである。。

(エ) 特許庁は,平成20年10月2日付けで,前記(ウ)の訂正請求を認
め,かつ,請求項1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨
の審決をした(甲40 )。
ウ 審決取消訴訟・訂正審判請求・差戻決定
(ア) 原告は,平成20年10月31日,前記イ(エ)の平成20年10月
2日付け審決の取消を求めて知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」と
いう。)に審決取消訴訟(平成20年(行ケ)10408号)を提起し
た。
(イ) 原告は,平成20年12月26日,本件明細書の請求項1ないし6
の訂正を求める訂正審判(訂正2009−390001号)を請求した
(甲41)。
(ウ) 知財高裁は,平成21年2月12日,本件実用新案登録を無効とす
ることについて実用新案無効審判においてさらに審理させることが相当
であるとし,事件を審判官に差し戻すため,前記イ(エ)の審決を取り消
す旨の決定をした(読替実用新案法47条2項において準用する特許法
181条2項)。
エ 差戻後の無効審判(無効2007−800163号)
(ア) 原告は,平成21年4月16日,前記ウ(イ)(訂正2009−39
0001号)の訂正審判の請求書に添付された全文訂正明細書を援用す
る訂正(以下「再訂正」といい,再訂正後の明細書を「再訂正明細書」
という 。)請求を行い,前記ウ(イ)(訂正2009−390001号)
の訂正審判は取り下げられたものとみなされた(読替実用新案法40条
の3第5項)。
(イ) 特許庁は,平成21年10月28日 ,「実用新案登録第25736
36号の請求項1,2,5に係る考案についての実用新案登録を無効と
する。」との審決をし,その謄本は,同年11月9日,原告に送達され
た。
2 実用新案登録請求の範囲
(1) 訂正審決(訂正2007−390006号)後の考案
平成19年3月20日の訂正審決(訂正2007−390006号,前記
1(2)ア)による訂正後(同訂正により訂正されたのは請求項1,2及び5
であった。)の請求項1ないし6は,次のとおりである(以下,同訂正後の
請求項1ないし6に記載された考案をそれぞれ「本件考案1」ないし「本件
考案6」という。。

ア 請求項1
筆記具本体と,この筆記具本体の後部に取り付けられるクリップとから
成り,このクリップはクリップ片と,筆記具本体にクリップを取り付ける
ための取付リングと,上記クリップ片と取付リングとを接続するための二
分割された接続手段とから構成され,接続手段はCリング形状の取付リン
グの両開放端から外方に延出しており,クリップ片の裏側と一体に形成さ
れて成ることを特徴とする筆記具のクリップ取付装置 。(本件考案1)
イ 請求項2
筆記具本体と,この筆記具本体の後部に取り付けられるクリップとから
成り,このクリップはクリップ片と,筆記具本体にクリップを取り付ける
ための取付リングと,上記クリップ片と取付リングとを接続するための二
分割された接続手段とから構成されて成り,前記筆記具本体のリング取り
付け個所の外周面と前記取付リングの内周面とにクリップの回転防止手段
を形成して成ることを特徴とする筆記具のクリップ取付装置。(本件考案
2)
ウ 請求項3
前記回転防止手段が,前記筆記具本体におけるリング取り付け個所の外
周面に形成された多角形状部と,前記取付リングの内周面に形成された多
角形状部とから成ることを特徴とする請求項2の筆記具のクリップ取付装
置。(本件考案3)
エ 請求項4
前記筆記具本体の多角形状部と筆記具本体の外周面との間に径方向の段
差を形成して成ることを特徴とする請求項3の筆記具のクリップ取付装
置。(本件考案4)
オ 請求項5
筆記具本体と,この筆記具本体の後部に取り付けられるクリップとから
成り,このクリップはクリップ片と,筆記具本体にクリップを取り付ける
ための取付リングと,上記クリップ片と取付リングとを接続するための二
分割された接続手段とから構成されて成り,前記筆記具本体のリング取り
付け個所の外周面に取付リングの後方への移動を防止する抜落防止手段を
備えて成ることを特徴とする筆記具のクリップ取付装置。(本件考案5)
カ 請求項6
前記抜落防止手段が,前記筆記具本体のリングの取り付け個所の後端に
形成されたリブであることを特徴とする請求項5の筆記具のクリップ取付
装置。(本件考案6)
(2) 再訂正後の考案
再訂正(前記1(2)エ(ア))後の請求項1ないし6は,次のとおりである
(再訂正は,請求項1,2及び5を再訂正するとともに,請求項2を引用す
る請求項3,及び請求項3を引用する請求項4を請求項2の再訂正に伴い再
訂正し,請求項5を引用する請求項6を請求項5の再訂正に伴い再訂正する
ものであった(甲41 )。以下,再訂正後の請求項1ないし6に記載された
考案をそれぞれ「再訂正考案1」ないし「再訂正考案6」という。。

ア 請求項1
筆記具本体と,この筆記具本体の後部に取り付けられるクリップとから
成り,このクリップはクリップ片と,筆記具本体にクリップを取り付ける
ための取付リングと,上記クリップ片と取付リングとを接続するための二
分割された接続手段とから構成される一部品のみから成り,クリップ片と
取付リングとは該二分割された接続手段によってのみ接続され,接続手段
はCリング形状の取付リングの両開放端から外方に延出しており,割れ目
のないクリップ片の裏側と一体に形成されて成り,
前記二分割された接続手段の間隔は,前記割れ目のないクリップ片の裏
側の幅よりも狭く形成され,二分割された接続手段とクリップ片とが,そ
の二か所の接続部分においてそれぞれ,クリップ片を取付リングよりも上
側にした状態でクリップの後方から見てT字形状をなしており,
クリップは,取付リングの内周面に離間した突条を設けることなく,前
記割れ目のないクリップ片の前記二分割された接続手段との二か所の接続
部分の間隔を広げずに,前記二分割された接続手段の広がりにより取付リ
ングの内径を広げて,前記筆記具本体に取り付けられるものであることを
特徴とする筆記具のクリップ取付装置。(上記下線は再訂正箇所を示す。
再訂正考案1)
イ 請求項2
前記筆記具本体のリング取り付け個所の外周面と前記取付リングの内周
面とにクリップの回転防止手段を形成して成ることを特徴とする請求項1
の筆記具のクリップ取付装置。(再訂正考案2)
ウ 請求項3
前記回転防止手段が,前記筆記具本体におけるリング取り付け個所の外
周面に形成された多角形状部と,前記取付リングの内周面に形成された多
角形状部とから成ることを特徴とする請求項2の筆記具のクリップ取付装
置。(再訂正考案3)
エ 請求項4
前記筆記具本体の多角形状部と筆記具本体の外周面との間に径方向の段
差を形成して成ることを特徴とする請求項3の筆記具のクリップ取付装
置。(再訂正考案4)
オ 請求項5
前記筆記具本体のリング取り付け個所の外周面に取付リングの後方への
移動を防止する抜落防止手段を備えて成ることを特徴とする請求項1の筆
記具のクリップ取付装置。(再訂正考案5)
カ 請求項6
前記抜落防止手段が,前記筆記具本体のリングの取り付け個所の後端に
形成されたリブであることを特徴とする請求項5の筆記具のクリップ取付
装置。(再訂正考案6)
3 審決の理由
(1) 審決の要旨
別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。
ア 再訂正は,実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものであるもの
の,無効審判の請求がされていない請求項3,4及び6に係る考案(再訂
正考案3,4及び6)の独立特許要件を欠き,請求項3,4及び6につい
ての訂正は,無効審判の請求がされている請求項1,2及び5の訂正に伴
ったものである。したがって,読替実用新案法40条の2第5項で準用さ
れる同法39条5項の規定に適合しないから,再訂正を認めることはでき
ない。
イ 再訂正は認められないから,本件実用新案の請求項1ないし6に係る考
案は,本件考案1ないし6である。
ウ 本件考案1,2及び5は,引用例(実願昭53−158472号(実開
昭55−73388号 )のマイクロフィルム,甲5。別添のとおりである。)
に記載された引用考案,引用例に記載された技術及び周知技術に基づいて
当業者がきわめて容易に考案することができたものである。
エ 本件考案1,2及び5について再訂正が認められたとしても,再訂正考
案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された技術及び周知技術に
基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものである。
オ したがって,本件実用新案の請求項1,2及び5に記載された考案は,
平成5年改正前の実用新案法3条2項の規定に違反して登録されたもので
あり,読替実用新案法37条1項1号の規定に該当し,無効とすべきもの
である。
(2) 審決の認定
審決がその結論を導く過程で認定した引用例考案の内容,各再訂正考案と
引用例考案との一致点,相違点は,次のとおりである。
ア 引用例考案の内容
筆記具の軸筒である筒体5と,この筒体5の後部に取り付けられる筆記
具のクリップ装置とから成り,この筆記具のクリップ装置は,金属クリツ
プAと,筒体5を通す非金属装着環Bとからなり,金属クリツプAは割れ
目のない脚杆1の片端を裏側に折返えして取付片2を形成すると共に,そ
の取付片2に係合辺3を形成して構成し,非金属装着環Bは高分子物質環
体4に突壁6を対峙突設すると共に,その突壁6間に支持壁7を架設して
同一体に設け,その装着環Bの支持壁7を金属クリツプAの脚杆1と取付
片2とで挟むと共に金属クリツプの係合辺3を非金属装着環Bの支持壁7
に係合せしめたものであり,
筆記具のクリップ装置は,非金属装着環Bの高分子物質環体4部分に筒
体5の後部が通され取り付けられている筆記具のクリップ取付装置。
イ 再訂正考案3と引用例考案の対比
(ア) 一致点
筆記具本体と,この筆記具本体の後部に取り付けられるクリップとか
ら成り,このクリップはクリップ機能を有する被接続部と,筆記具本体
にクリップを取り付けるための取付リングと,上記クリップ機能を有す
る被接続部と取付リングとを接続するための二分割された接続手段とか
ら構成されて成り,クリップ機能を有する被接続部と取付リングとは該
二分割された接続手段によってのみ接続され,接続手段はCリング形状
の取付リングの両開放端から外方に延出しており,接続部分の間隔を広
げることのないクリップ機能を有する被接続部の裏側と一体に形成され
て成り,
前記二分割された接続手段の間隔は,前記クリップ機能を有する被接
続部の裏側の幅よりも狭く形成され,
前記接続部分の間隔を広げることのないクリップ機能を有する被接続
部の前記二分割された接続手段との二か所の接続部分の間隔を広げず
に,前記二分割された接続手段の広がりにより取付リングの内径を広げ
て,前記筆記具本体に取り付けられるものである
筆記具のクリップ取付装置。
(イ) 相違点
a 相違点1
クリップ機能を有する被接続部に関し,再訂正考案3では,「クリ
ップ片」あるいは ,「割れ目のないクリップ片」と特定されているの
に対して,引用例考案のクリップ機能を有する被接続部は,筆記具の
軸筒である筒体5(筆記具本体)をポケット等に取り付ける機能を有
し,接続部分によって「高分子物質環体4」(取付リング)に接続さ
れるものであり,接続部分の間隔を広げることのない機能を有するも
のの, 突壁6の非リング側部」「支持壁7」及び「金属クリップA 」
「 ,
である点。
b 相違点2
クリップに関し,再訂正考案3では「クリップ片と,筆記具本体に
クリップを取り付けるための取付リングと,上記クリップ片と取付リ
ングとを接続するための二分割された接続手段とから構成される一部
品のみから成り」と特定されているのに対して,引用例考案は,金属
クリツプAと非金属装着環Bとからなる点。
c 相違点3
再訂正考案3では ,「二分割された接続手段とクリップ片とが,そ
の二か所の接続部分においてそれぞれ,クリップ片を取付リングより
も上側にした状態でクリップの後方から見てT字形状をなしており」
と特定されているのに対して,引用例考案は,二か所の接続部分にお
いてT字形状をなしていない点。
d 相違点4
再訂正考案3では「クリップは,取付リングの内周面に離間した突
条を設けることなく・・・前記二分割された接続手段の広がりにより
取付リングの内径を広げて,前記筆記具本体に取り付けられる」と特
定されているのに対して,引用例考案は,二分割された接続手段の広
がりにより取付リングの内径を広げて,筆記具本体に取り付けられる
ものであるものの,離間した突条を設けないことが明示されていない
点。
e 相違点5
再訂正考案3では「前記筆記具本体のリング取り付け個所の外周面
と前記取付リングの内周面とにクリップの回転防止手段を形成して成
り,前記回転防止手段が,前記筆記具本体におけるリング取り付け個
所の外周面に形成された多角形状部と,前記取付リングの内周面に形
成された多角形状部とから成る」と特定されているのに対して,引用
例考案は,そのような回転防止手段を有していない点。
ウ 再訂正考案4と引用例考案の対比
再訂正考案4と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点(前記イ(ア))と同様であり,相違点は,再訂正考案3と引用例考案
の相違点1ないし5(前記イ(イ)aないしe,ただし「再訂正考案3」を
「再訂正考案4」と読み替える 。)と下記相違点6である。
相違点6
再訂正考案4では「前記筆記具本体の多角形状部と筆記具本体の外周面
との間に径方向の段差を形成して成る」と特定されているのに対して,引
用例考案は,そのような段差を有していない点。
エ 再訂正考案6と引用例考案の対比
再訂正考案6と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点(前記イ(ア))と同様であり,相違点は,再訂正考案3と引用例考案
の相違点1ないし4(前記イ(イ)aないしd,ただし「再訂正考案3」を
「再訂正考案6」と読み替える 。)と下記相違点7である。
相違点7
再訂正考案6では「前記筆記具本体のリング取り付け個所の外周面に取
付リングの後方への移動を防止する抜落防止手段を備えて成り,前記抜落
防止手段が,前記筆記具本体のリングの取り付け個所の後端に形成された
リブである」と特定されているのに対して,引用例考案は,そのような抜
落防止手段を有していない点。
オ 再訂正考案1と引用例考案の対比
再訂正考案1と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点(前記イ(ア))と同様であり,相違点は,再訂正考案3と引用例考案
の相違点1ないし4(前記イ(イ)aないしd,ただし「再訂正考案3」を
「再訂正考案1」と読み替える 。)である。
カ 再訂正考案2と引用例考案の対比
再訂正考案2と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点(前記イ(ア))と同様であり,相違点は,再訂正考案3と引用例考案
の相違点1ないし4(前記イ(イ)aないしd,ただし「再訂正考案3」を
「再訂正考案2」と読み替える 。)と,下記相違点5’(再訂正考案3と引
用例考案の相違点5の一部)である。
相違点5’
再訂正考案2では「前記筆記具本体のリング取り付け個所の外周面と前
記取付リングの内周面とにクリップの回転防止手段を形成して成る」と特
定されているのに対して,引用例考案は,そのような回転防止手段を有し
ていない点。
キ 再訂正考案5と引用例考案の対比
再訂正考案5と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点(前記イ(ア))と同様であり,相違点は,再訂正考案3と引用例考案
の相違点1ないし4(前記イ(イ)aないしd,ただし「再訂正考案3」を
「再訂正考案5」と読み替える 。)と,下記相違点7’(再訂正考案6と引
用例考案の相違点7の一部)である。
相違点7’
再訂正考案5では「前記筆記具本体のリング取り付け個所の外周面に取
付リングの後方への移動を防止する抜落防止手段を備えて成る」と特定さ
れているのに対して,引用例考案は,そのような抜落防止手段を有してい
ない点。
第3 取消事由に関する原告の主張
審決には,再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1),再訂正
考案3と引用例考案の一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2),再訂正
考案3と引用例考案の相違点(相違点1ないし5)に関する容易想到性の判断
の誤り(取消事由3),再訂正考案4と引用例考案の相違点(相違点6)に関
する容易想到性の判断の誤り(取消事由4 ),再訂正考案6と引用例考案の相
違点(相違点7)に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)の違法があ
り,これらは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は,違法として取り消され
るべきである。
1 再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)
審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項についての再訂正が許さ
れないことのみを理由として,無効審判請求の対象とされている請求項につい
ての再訂正は認められないとした点で判断の誤りがある。
すなわち,訂正請求は無効審判請求に対する防御手段としての実質を有する
ものであるから,実用新案登録無効審判事件の係属中に複数の請求項に係る訂
正請求がされた場合,無効審判が請求されている請求項についての特許請求の
範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごと
に個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の
要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂
正の全部を認めないとすることは許されない。
したがって,審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項3,4及び
6についての再訂正が独立登録要件を欠き許されないことのみを理由として,
無効審判請求の対象とされている請求項1,2及び5についての再訂正は認め
られないと判断した点で誤りがある。
2 再訂正考案3と引用例考案の一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2)
(1) クリップ機能を有する被接続部について
ア クリップ機能を有する被接続部について,審決の一致点及び相違点の認
定には,次のとおり誤りがある。
(ア) 一致点の認定の誤り
「クリップ機能を有する被接続部と取付リングとは該二分割された接
続手段によってのみ接続され 」 「接続手段は ,
, ・・・クリップ機能を有
する被接続部の裏側と一体に形成されて成り」「前記二分割された接続

手段の間隔は,前記クリップ機能を有する被接続部の裏側の幅よりも狭
く形成され」「クリップ機能を有する被接続部の前記二分割された接続

手段との二か所の接続部分」を一致点とした審決の認定は誤りである。
(イ) 相違点の認定の誤り
審決による相違点の認定は,次の点を看過しているため,誤りである。
a 再訂正考案3においては,クリップ片と取付リングとは二分割され
た接続手段によって接続されているのに対し,引用例考案においては ,
「脚杆1」と「高分子物質環体4」とは ,「突壁6のリング側部」の
みならず,「突壁6の非リング側部」 「支持壁7」及び「金属クリッ

プAの取付片」によって非金属装着環Bに接続されている。
b 再訂正考案3においては,接続手段はクリップ片の裏側と一体に形
成されて成るのに対し,引用例考案においては,「突壁6のリング側
部」は金属クリップAの 脚杆1 」
「 の裏側と一体に形成されていない。
c 再訂正考案3においては,二分割された接続手段の間隔は,クリッ
プ片の幅よりも狭く形成されているのに対し,引用例考案においては ,
「突壁6のリング側部」の間隔は,金属クリップAの脚杆1の幅より
も狭く形成されていない。
イ 前記アのとおりクリップ機能を有する被接続部について審決の一致点及
び相違点の認定に誤りがある理由は,次のとおりである。
審決は,一致点及び相違点の認定の前提として,引用例考案の「突壁6
の非リング側部」「支持壁7」及び「金属クリップA」全体は,再訂正考

案の「クリップ片」と,「クリップ機能を有する被接続部」を構成する点
で共通すると認定した(15頁12行目ないし22行目)。しかし,以下
のとおり,引用例考案において,「クリップ機能を有する被接続部」を構
成するのは,「金属クリップAの脚杆1」のみであり,「突壁6の非リング
側部」 「支持壁7」及び「金属クリップAの取付片」は,
, 「クリップ機能
を有する被接続部」を構成するものではない。
すなわち,審決が,再訂正考案の「クリップ片」が「クリップ機能を有
する接続部」を構成すると述べていることから,「クリップ機能」とは,
「クリップ片が有する機能」を意味するものと解する他ない。そして,ク
リップ片が有する機能とは,具体的には,筆記具本体をポケット等に取り
付ける際に細長板状の自由端が大きく揺動することができるため,ポケッ
ト等の縁を筆記具本体との間に容易に挿入することができる機能である。
また,引用例考案の「金属クリップAの脚杆1 」(以下「脚杆1」とい
うことがある。)は,図面によれば,「クリップ片」と同様に細長板状であ
り,筆記具本体をポケット等に取り付ける際に,その細長板状の自由端が
大きく揺動することができるので,ポケット等の縁を筆記具本体との間に
容易に挿入することができ,そのため,引用例考案の「脚杆1」は,「ク
リップ機能」を果たすことができる。これに対し ,「突壁6の非リング側
部」及び「支持壁7」は ,「脚杆1」の揺動の際,細長板状の「脚杆1」
とは分離しているため,その揺動の影響を直接受けず,クリップ片の機能
を果たさない。むしろ,「突壁6の非リング側部 」 「支持壁7」及び「金

属クリップAの取付片」は,突壁6のリング側部と一体となって ,「脚杆
1」を非金属装着環Bに接続する機能を有するものであって,接続手段に
相当する。
したがって,引用例考案において ,「クリップ機能を有する被接続部」
を構成するのは ,「脚杆1」のみであり ,「突壁6の非リング側部 」 「支

持壁7」及び「金属クリップAの取付片」は ,「クリップ機能を有する被
接続部」を構成するものではない。
(2) 取付について
ア 取付について,審決の一致点及び相違点の認定には,次のとおり誤りが
ある。
(ア) 一致点の認定の誤り
「前記二分割された接続手段の広がりにより取付リングの内径を広げ
て,前記筆記具本体に取り付けられる」を一致点とした審決の認定は誤
りである。
(イ) 相違点の認定の誤り
引用例考案は,突条8を設けることにより,二分割された接続手段の
広がりによらずに,取付リングの内径を広げて,取付リングを筆記具本
体に取り付けるものであり,審決が,相違点4について,再訂正考案3
では「クリップは,取付リングの内周面に離間した突条を設けることな
く,・・・前記二分割された接続手段の広がりにより取付リングの内径
を広げて,前記筆記具本体に取り付けられる」のに対して,引用例考案
では,二分割された接続手段の広がりにより取付リングの内径を広げて
筆記具本体に取り付けられるものの,離間した突条を設けないことが明
示されていない,とした認定は誤りである。
イ 前記アのとおり取付について審決の一致点及び相違点の認定に誤りがあ
る理由は,次のとおりである。
審決は,一致点及び相違点の認定の前提として,引用例考案について,
「前記二分割された『突壁6のリング側部』(接続手段)の広がりにより
高分子物質環体4(取付リング)の内径を広げて,筆記具の軸筒である筒
体5(筆記具本体)に取り付けられるものであるといえる。(16頁15

行目ないし18行目)と認定した。しかし,引用例考案は ,「高分子物質
環体4」の内径を広げて「筒体5」に取り付けるものではなく, 突状8 」

を必須とし ,「突状8」によって「高分子物質環体4」を「筒体5」に取
り付けるものである。
すなわち,実験報告書(甲33,34)によれば,Cリング形状の環体
と突壁と支持壁から構成される部品において,突壁と支持壁の接続部分が
L字形状のものは,接続部分がT字形状のものに比べて取付力が弱い。そ
のため,接続部分がL字形状の引用例考案においては ,「高分子物質環体
4」の「筒体5」への取付力を確保するために,「突条8」を設けること
は不可欠である 。「突条8」を設けることにより,複数の突条同士の間に
隙間ができて環体が変形するので,その環体の変形を利用して弾性力を得
て,取付力を確保することができる。突壁6と金属クリップAとをがたつ
きなく接続するためには,突壁6以外の手段によって筆記具とクリップ片
を固定させる必要があり,突条8がそのための構造に当たる。引用例にも,
「高分子物質環体 4)
( の内面に筒体 5)
( の表面に圧接する縦長突条 8)

又は凸起 図示せず)
( を数個所設けて ,取付け後の動きを防止し, (5)
筒体
からの脱落を防止せしめるようにして構成する。 4頁8ないし12行目)


と記載されている。
突条8を設けることなくクリップ片を筆記具に取り付けると,突壁6の
伸縮によって筆記具とボールペンを固定することになるが,突壁6が不可
避的に外側に広がってしまうため,取付片2と突壁6の間に緩みが生じ,
金属クリップAにがたつきが発生することになり,クリップ片を筆記具に
確実に取り付けることができない。
3 再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違点1ないし5)に関する容易想到
性の判断の誤り(取消事由3)
(1) 相違点1及び2に関する容易想到性の判断の誤り
審決が,相違点1及び2に関し,「筆記具本体の後部に取り付けられるク
リップにおいて,クリップ片と,取付リングと,クリップ片と取付リングと
を接続する接続手段とを一部品のみから成るものとすることが周知技術であ
ると認められ,製造の容易性,安価な製造等を考慮すると,引用例考案の筆
記具のクリップ装置(クリップ)を一部品のみから成るものとすることは当
業者がきわめて容易になし得る程度のことである。」とした判断は,誤りで
ある。その理由は,以下のとおりである。
ア 引用例考案における一部品構成の除外について
引用例考案において,脚杆1,突壁6及び支持壁7を一部品で構成する
とした場合,これを金属により製造すると,製造自体が非常に困難なため
多額のコストを要するばかりか,引用例に記載されているように,使用中
の装着環の動き等により筒の表面にきずをつけることが多くなるという問
題が生じる。また,これを合成樹脂で製造すると,引用例に記載されてい
るように,脚杆のバネ性に欠け,締め付け力が劣り,脚杆の片端が非常に
脆くなるという問題が生ずる。そのため,引用例考案は,装着環とクリッ
プを二部材で構成することにより,金属クリップAに強いバネ性を付与し
てすぐれた締め付け力を発揮させ,装着環を非金属物質で構成することに
より,筒体にきずをつけることを避けるものであって,装着環とクリップ
を一部品で構成することを除外している。引用例考案を一部品で構成する
ことは,製造の容易性,安価な製造等の要請に逆行することになる。さら
に,再訂正考案3は,接続手段がクリップ片の裏側と一体に形成されるこ
とを特徴としているが,仮に引用例考案を一部品で構成した場合には,脚
杆1がその片端でのみ支持壁7と一体に形成されることになり,再訂正考
案3とは全く別の構成となってしまう。
イ 一部品構成に対する阻害要因について
審決は,引用例及び甲7ないし11から,筆記具本体後部に取り付けら
れるクリップにおいて,クリップ片と,取付リングと,クリップ片と取付
リングとを接続する接続手段とを一部品のみから成るものとすることは周
知技術であるとする。しかし,甲7ないし11のいずれの構成にも,引用
例考案の突壁6及び支持壁7に相当する部材は存在せず,単に装着環と脚
杆とを同一素材で同一体に形成した構成となっている。引用例考案では,
金属クリップAと非金属装着環Bを別の素材から成る二部材により構成す
ることから,金属クリップAを非金属装着環Bに取り付けるため,支持壁
7と一対の突壁6が設けられたものであり,クリップ装置を一体に構成す
るのであれば,支持壁7と一対の突壁6を設ける必要性はない。したがっ
て,支持壁7と一対の突壁6が存在することは,引用例考案において装着
環と脚杆とを一部品で構成することに対する阻害要因となる。
ウ 相違点1及び2に関する容易想到性の有無について
引用例考案は装着環とクリップを一部品で構成することを除外しており
(前記ア),支持壁7と一対の突壁6が存在することは引用例考案のクリ
ップ片と装着環を一部品で構成することに対して阻害要因となる 前記イ )

から,引用例考案の筆記具のクリップ装置(クリップ)を一部品のみから
成るものとすることは当業者がきわめて容易に想到し得ることではない。
(2) 相違点3に関する容易想到性の判断の誤り
審決が,相違点3に関し ,「二分割された接続手段の幅とクリップ片の幅
は自由に設計できるものである。また,甲第15∼17号証に開示されてい
るように,接続手段の幅よりクリップ片の幅を広くすることは周知技術でも
あるから,二分割された接続手段の幅よりクリップ片の幅を広くし,その結
果として相違点3のような構成とすることは,当業者がきわめて容易になし
得る程度のことである 。 ,
」 「二か所の接続部分においてそれぞれ,クリップ
片を取付リングよりも上側にした状態でクリップの後方から見てT字形状を
なすと,取付力が強くなる実験報告書を提出しているが,構成から自ずと予
想される程度の結果であり,予想し得ない格別の効果を奏しているものとは
いえない。 とした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。

ア クリップの幅について
引用例考案においては,金属クリップAの折り返しによって形成された
取付片2を,非金属装着環Bにおける一対の突壁6の間に設けられた支持
壁7に差し込むことによって金属クリップAを非金属装着環Bに取り付け
ており,突壁6の間隔が,金属クリップAを非金属装着環Bに接続する接
続手段として利用されているため,突壁6の間隔と支持壁7の幅,及び金
属クリップAの幅はすべて必然的に同一にならなければならない。そのた
め,引用例考案においては,二分割された接続手段の幅とクリップ片の幅
は自由に設計することはできない。
イ 周知技術の適用について
(ア) 筒体とクリップの一体性
甲15ないし17に示された周知技術は,いずれもクリップ片を備え
る部材が筒体に相当する部材に取り付けられるものではなく,筒体に相
当する部材に一体的にクリップが形成されているものであるから,これ
を引用例考案に適用することはできない。
(イ) 接続手段の間隔
再訂正考案3における「二分割された接続手段の間隔」は,その間隔
が広がると装着環の弾性復元力が弱まってクリップ装置の筆記具本体へ
の取付力が弱まり,その間隔が狭くなると装着環の弾性復元力が強まっ
てクリップ装置の筆記具本体への取付力が強まるから,クリップ装置の
筆記具本体への取付力に直接影響する。これに対し,甲15ないし17
に示された周知技術は,二分割されない接続手段の幅がクリップ片の裏
側の幅よりも狭く形成されているにすぎないから,接続手段の幅はクリ
ップの筆記具本体への取付力とは無関係である。
そうすると,二分割されない接続手段の幅がクリップ片の裏側の幅よ
りも狭く形成されているにすぎない周知技術から,再訂正考案3におけ
るような,二分割された接続手段の間隔がクリップ片の裏側の幅よりも
狭く形成される構成をきわめて容易に想到することはできない。
ウ 作用効果について
再訂正考案3に予測し得ない格別の作用効果があるか否かは,再訂正考
案3自体の構成から予測し得るか否かにより判断すべきではなく,引用例
考案との比較から判断すべきであり,実験報告書(甲34)によれば,再
訂正考案3には,引用例考案と比べて,クリップの筆記具本体への取付力
の強化という予測し得ない作用効果があることが裏付けられている。
すなわち,実験報告書(甲34)によれば,製造誤差の影響を同程度に
受けている部品Bと部品Cの平均値において部品Cの方が高い値を示して
いることから,部品Bよりも部品Cの方が取付力が高いことが分かる。引
用例考案の脚杆と再訂正考案3のクリップ片の幅を同じとするならば,引
用例考案は部品Aに相当し,再訂正考案3は部品Cに相当し,部品Cは部
品Aの2倍の取付力があるから,再訂正考案3は引用例考案より格別の効
果がある。接続部がT字形状をしている場合には,T字形状によって外側
に突出するクリップ片の側端部と二分割された接続手段との間で構成され
る角度を元の大きさに戻そうとする弾性復元力と,クリップ片自体が変形
して元に戻ろうとする弾性復元力が働くことにより,接続部分がL字形状
をしている場合よりも取付力が大きくなる。
エ 相違点3に関する容易想到性の有無について
引用例考案において,二分割された接続手段の幅とクリップ片の幅は自
由に設計することはできず(前記ア ),筒体に一体的にクリップを形成す
る甲15ないし17に示された周知技術を引用例考案に適用することはで
きず(前記イ(ア)),二分割されない接続手段の周知技術から,二分割さ
れた接続手段の間隔がクリップ幅よりも狭い構成をきわめて容易に想到す
ることはできず(前記イ(イ)),再訂正考案3には予測し得ない格別の作
用効果があるから(前記ウ),二分割された接続手段の幅よりクリップ片
の幅を広くし,その結果として相違点3のような構成とすることは,当業
者がきわめて容易に想到し得ることではない。
(3) 相違点4に関する容易想到性の判断の誤り
審決が,相違点4に関し ,「縦長突条は必須のものではなく,しかも,甲
第12号証,甲第14号証に開示されているように,二分割された接続手段
の広がりにより取付リングの内径が広がるクリップにおいて,取付リングの
内周面に離間した突条を設けないことが周知技術でもあるから,相違点4の
ような構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得る程度のことであ
る。」とした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
前記2(2)イのとおり,引用例考案は,突条8を必須の構成とするもので
ある。これに対し,甲12,14に記載された構成は,突条がなく,筆記具
に無理矢理押し込んで筆記具本体又はクリップ自体に塑性変形を起こさせて
筆記具本体の公差を吸収する構成と解される。そうすると,引用例考案と甲
12,14に開示された技術は,取付原理が異なるから,引用例考案と甲1
2,14に開示された技術を組み合わせて,相違点4に係る再訂正考案3の
構成を容易に想到することはできない。
(4) 相違点5に関する容易想到性の判断の誤り
審決が,相違点5に関し ,「引用例のeに『高分子物質環体(4)の内面
に筒体(5)の表面に圧接する縦長突条(8)又は凸起(図示せず)を数箇
所設けて,取付け後の動きを防止し,筒体(5)からの脱落を防止せしめる
ようにして構成する。』と記載されているように,筆記具の軸筒である筒体
5(筆記具本体)と筆記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に
相対的に移動しないことが要求されることは明らかである。しかも,甲第2
3∼26号証に開示されているように,共通の軸方向に結合された2部材の
回転を防止する技術として,一の部材への他の部材の取付箇所において接合
される,一の部材の外周面と他の部材の内周面とに多角形状部を設け,これ
らを嵌め合わせることで両部材の回転を防止することが周知技術であるか
ら,引用例考案の相対移動防止手段として,上記周知技術を採用し,相違点
5のような構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得る程度のこと
である 。」とした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
ア 突条の機能について
引用例に「筒体(5)からの脱落を防止せしめるようにして構成する」
(4頁11行目ないし12行目)と記載されていることから明らかなよう
に,引用例考案において,突条8には,高分子物質環体4の脱落を防止し
てこれを筒体5に取り付けること以上の機能はなく,回転防止の役割は求
められていない。審決は,突条8に取付以上の役割が期待されていないと
しながら,「相対的に移動しない」という極めて曖昧な表現を用いて,突
条8に取付以上に回転防止の効果もあるように判断している点で誤りがあ
る。
イ 周知技術について
甲23は吸着用パッド,甲24はボルトの台座についての考案であり,
筆記具と技術分野が異なるから,それらの中に開示されている多角形状部
を筆記具のクリップの装着に取り入れることは,きわめて容易に想到する
ことができたとはいえない。
また,甲25,26は,いずれもシャープペンシルの組立方法等につい
ての考案であり,再訂正考案3とは筆記具という技術分野において共通す
るが,これらの考案において多角形状部が設けられている理由は,確実に
固定させると同時に,必要に応じて部材の移動や着脱を可能にすることに
ある。これに対し,再訂正考案3のクリップは,筆記具に取り付けられた
後に移動させたり取り外したりすることは予定されておらず,むしろ一旦
取り付けた場合に,回転すら許さないほど確実に筆記具に取り付けること
を予定している。このように,多角形状部に要請される役割は,甲25,
26に記載された周知技術においては着脱であるのに対し,再訂正考案3
においては固定であり,異なっているから,周知技術から再訂正考案3を
容易に想到することはできない。
4 再訂正考案4と引用例考案の相違点(相違点6)に関する容易想到性の判断
の誤り(取消事由4)
審決が,相違点6に関し,「筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)と筆
記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に相対的に移動しないこと
が要求されることは明らかである。しかも,甲第1号証,甲第19∼21号証
に開示されているように,筆記具に形成された溝にクリップの取付リングを取
り付けることによって,溝の筆記具の軸方向両端にある段差(甲第1,19,
21号証)若しくはリブ(甲第20号証)で取付リングの後方への移動を防止
することで両部材の軸方向の移動を防止することが周知技術で 」あるから , 引

用例考案の相対移動防止手段として,上記周知技術を採用し,段差の具体的形
成位置を筆記具本体の多角形状部と筆記具本体の外周面との間とし,相違点6
のような構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得る程度のことであ
る。」とした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,前記3(4)アのとおり,審決は,引用例考案における突条8につ
いて ,「相対的に移動しない」という極めて曖昧な表現を用いて,取付以上の
回転防止の効果もあるように判断している点で誤りがある。そして,再訂正考
案4は,「回り止め手段」として多角形状部をクリップ装置の内側に設け,か
つ,「軸方向への移動防止」手段として「筆記具本体の外周面との間に径方向
の段差を形成」し,クリップ装置が回ることも軸方向へ移動することも制限し
てこれを筆記具本体に確実に取り付けるものである。他方,引用例考案の突条
8は取付の効果を生じるだけで,回転防止の効果はなく,甲1,19ないし2
1に記載された周知技術も,いずれも段差によって軸方向への移動を防止して
いるだけであり,回転防止の効果はない。そのため,引用例考案に甲1,19
ないし21を組み合わせても,回転を防止することはできず,再訂正考案4を
きわめて容易に想到することはできない。
5 再訂正考案6と引用例考案の相違点(相違点7)に関する容易想到性の判断
の誤り(取消事由5)
審決が,相違点7に関し,「筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)と筆
記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に相対的に移動しないこと
が要求されることは明らかである。しかも,甲第1号証,甲第19∼21号証
に開示されているように,筆記具に形成された溝にクリップの取付リングを取
り付けることによって,溝の筆記具の軸方向両端にある段差(甲第1,19,
21号証)若しくはリブ(甲第20号証)で取付リングの後方への移動を防止
することで両部材の軸方向の移動を防止することが周知技術で 」あるから , 引

用例考案の相対移動防止手段として,上記周知技術を採用し,具体的形状をリ
ブとし,形成位置を筆記具本体のリング取り付け位置箇所の後端とし,相違点
7のような構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得る程度のことで
ある。」とした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,審決は,引用例考案における突条8について ,「相対的に移動し
ない」という極めて曖昧な表現を用いて,取付以上の効果もあるように判断し
ている点で誤りがある。そして,再訂正考案6は,軸方向への移動防止手段と
してリングの取り付け個所の後端にリブを設けたことに特徴があり,引用例考
案に甲1,19ないし21を組み合わせても,再訂正考案6をきわめて容易に
想到することはできない。
第4 被告の反論
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がな
い。
1 再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)に対し
(1) 訂正の許否を請求項ごとに判断することの可否
訂正の許否は,訂正請求された請求項のすべてについて一体として判断す
べきである。訂正の許否を請求項ごとに判断すると,無効審判請求された請
求項を引用する無効審判請求されていない請求項について,常に無効審判請
求された請求項の訂正の効果が及ぶという不合理が生ずるから,訂正の許否
を請求項ごとに判断することはできない。
すなわち,無効審判の請求がされている請求項1,2及び5に対してのみ
訂正の許否を検討する場合,独立登録要件を要しないから,訂正は認められ
ることとなるが,訂正後の請求項1,2及び5に係る考案は ,進歩性を欠き,
無効となるから,訂正を認めた上で請求項1,2及び5に係る考案を無効と
する審決が先に確定することとなる。他方,無効審判の請求がされていない
請求項3は請求項2を引用し,請求項4は請求項3を引用し,請求項6は請
求項5を引用し,請求項2と請求項5は請求項1を引用しているから,請求
項1,2及び5を引用する請求項3,4及び6については,何ら法律等に規
定された手続によることなく,常に請求項1,2及び5に対する訂正の効果
が及び,その請求項の内容が変わるという不合理が生ずる。したがって,訂
正の許否を請求項ごとに判断することはできない。
(2) 審決の結論への影響
仮に,訂正の許否は,訂正請求された請求項のすべてについて一体として
判断すべきであるとの審決の判断が誤りであり,訂正の許否を請求項ごとに
判断すべきであるとしても,審決の上記判断の誤りは,審決の結論に影響し
ない。すなわち,審決は,請求項1,2及び5についての再訂正が認められ
たとしても,再訂正考案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された
技術及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができた
ものであるとし,再訂正考案1,2及び5についての実用新案登録を無効と
する旨判断したから,審決の上記判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼさ
ない。
2 再訂正考案3と引用例考案の一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2)
に対し
審決には,再訂正考案3と引用例考案の一致点及び相違点の認定に誤りはな
い。
(1) クリップ機能を有する被接続部について
クリップ機能を有する被接続部について,審決の一致点及び相違点の認定
に誤りはない。
すなわち,クリップ片は,金属クリップAの脚杆1の細長形状の自由端が
揺動することで筆記具本体をポケット等に取り付ける機能を有する。脚杆1
のそのような機能は,脚杆1単独では発揮することができず,脚杆1の端部
が何らかの態様で固定される必要がある。再訂正考案3においては,クリッ
プ片16は筆記具本体11に対して二分割された接続手段(接続部18)に
より接続され,接続手段(接続部18)はクリップ片16の裏側と一体に形
成されている。再訂正考案3におけるこのような構成に対応して引用例考案
の認定を行うと,再訂正考案3の接続手段(接続部18)に機能的に対応す
る構成は,引用例考案の「突壁6のリング側部」であり ,再訂正考案3の「ク
リップ片」に機能的に対応する構成は,「突壁6の非リング側部」 「支持壁

7」及び「金属クリップA」であり,審決は,訂正考案3の「クリップ片」
と機能的に共通する構成を総称して「クリップ機能を有する被接続部」と認
定したものであって,審決の認定に誤りはない。
(2) 取付について
取付について,審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
すなわち,引用例考案の「突壁6のリング側部」は,「突壁6の非リング
側部」 「支持壁7」との関係で,これらに拘束されている状態であり,
, 「突
壁6の非リング側部」 「支持壁7」及び「金属クリップA」
, (これら全体が
クリップ機能を有する被接続部)と高分子物質環体4との間に接続部分が存
在するから,審決が,これを踏まえた上で ,『突壁6のリング側部 』
「 (接続
手段)の接続部分の間隔を広げることのないものであり,接続部分を除いた
部分において『突壁6のリング側部』間が広がり,それにともなって高分子
物質環体4の内径が広がる」とした認定に誤りはない。
原告は ,「引用例考案は,突条を必須とするものであり,突条により,高
分子物質環体4(取付リング)が筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)
に取り付けられるものである。」と主張する。しかし,引用例考案の突条8
は,高分子物質環体4の内面と筒体5の表面を圧接するものであり,取り付
け後の動きを防止し,筒体5からの脱落を防止するとの作用効果を奏するも
のであって,あくまでも補助的な構成である。特にこのような突条8がなく
ても,高分子物質環体4の内面を筒体5の表面に圧接するような所定の寸法
の形状を採用することにより,上記と同様な作用効果を得ることは可能であ
り,引用例考案は,突条を必須とするものではない。したがって,原告の上
記主張は,採用することができない。
3 再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違点1ないし5)に関する容易想到
性の判断の誤り(取消事由3)に対し
(1) 相違点1及び2に関する容易想到性の判断の誤りに対し
審決の相違点1及び2に関する容易想到性の判断に誤りはない。
すなわち,引用例には,クリップ片と,取付リングと,クリップ片と取付
リングとを接続する接続手段とを一部品とすることが周知技術として記載さ
れており,これらを一部品で構成することを除外するとの記載はなく,一部
品で構成することに対する阻害要因もないから,これらを一部品で構成する
ことは,当業者がきわめて容易に想到することができた。
(2) 相違点3に関する容易想到性の判断の誤りに対し
審決の相違点3に関する容易想到性の判断に誤りはない。
ア クリップの幅について
クリップ片と,取付リングと,クリップ片と取付リングを接続する接続
手段とを一部品とした場合に,筆記具のクリップ片とその接続手段の幅を
どのようにするかは,設計的事項であり,それが設計的事項であることは ,
当業者にとって自明である。引用例考案において,金属クリップA,突壁
6及び支持壁7の幅が等しいとしても,クリップ片と,取付リングと,そ
れらの接続手段を一部品とした場合に,筆記具のクリップ片とその接続手
段の幅が設計事項であることは,否定されない。
イ 周知技術について
(ア) 筒体とクリップの一体性
審決は,甲15ないし17により,接続手段の幅よりクリップ片の幅
を広くするとの周知技術を認定しているにすぎず,クリップ片を備える
部材が筒体に相当する部材に取り付けられているか,それらが一体かを
認定しているものではない。
(イ) 接続手段の間隔
二分割された接続手段の間隔の広狭が取付力に影響するかどうかとい
うことと,審決が甲15ないし17に基づいて認定した周知技術とは技
術事項を異にする。
ウ 作用効果について
再訂正考案3が格別の作用効果を奏するか否かは,再訂正考案3が奏す
る作用効果と,引用例考案が奏する作用効果を認定し,両者の効果を対比
することにより判断される。そして,再訂正考案3には,格別の作用効果
はない。
(3) 相違点4に関する容易想到性の判断の誤りに対し
審決の相違点4に関する容易想到性の判断に誤りはない。
すなわち,審決が,甲12ないし14により,二分割された接続手段の広
がりにより取付リングの内径が広がるクリップにおいて,取付リングの内周
面に離間した突条を設けないとの周知技術を認定したことに誤りはなく,そ
の周知技術に基づいて相違点4に係る再訂正考案3の構成をきわめて容易に
想到し得たとした判断に誤りはない。
(4) 相違点5に関する容易想到性の判断の誤りに対し
審決の相違点5に関する容易想到性の判断に誤りはない。
すなわち,審決が,引用例の記載から,筆記具の軸筒である筒体5(筆記
具本体)と筆記具のクリップ装置とが取り付け後に相対的に移動しないこと
が技術的課題として要求されるとし,甲23ないし26により,一部材の外
周面と他部材の内周面の多角形状部を嵌め合わせて両部材の回転を防止する
ことを周知技術として認定し,この周知技術に基づいて相違点5に係る再訂
正考案3の構成をきわめて容易に想到し得たとした判断に誤りはない。
4 再訂正考案4と引用例考案の相違点(相違点6)に関する容易想到性の判断
の誤り(取消事由4)に対し
審決の相違点6に関する容易想到性の判断に誤りはない。
すなわち,審決が,引用例の記載から,筆記具の軸筒である筒体5(筆記具
本体)と筆記具のクリップ装置とが取り付け後に相対的に移動しないことが技
術的課題として要求されるとし,甲1,19ないし21に基づいて,筆記具に
形成された溝にクリップの取付リングを取り付け,溝の筆記具の軸方向両端に
ある段差で取付リングの後方への移動を防止することにより,両部材の軸方向
の移動を防止することが周知技術であると認定し,この周知技術に基づいて相
違点6に係る再訂正考案4の構成をきわめて容易に想到し得たとした判断に誤
りはない。
5 再訂正考案6と引用例考案の相違点(相違点7)に関する容易想到性の判断
の誤り(取消事由5)に対し
審決の相違点7に関する容易想到性の判断に誤りはない。
すなわち,審決が,引用例の記載から,筆記具の軸筒である筒体5(筆記具
本体)と筆記具のクリップ装置とが取り付け後に相対的に移動しないことが技
術的課題として要求されるとし,甲1,19ないし21に基づいて,筆記具に
形成された溝にクリップの取付リングを取り付け,溝の軸方向後端にあるリブ
によって取付リングの後方への移動を防止することにより,両部材の軸方向の
移動を防止することが周知技術であると認定し,この周知技術に基づいて相違
点7に係る再訂正考案6の構成をきわめて容易に想到し得たとした判断に誤り
はない。
第5 被告補助参加人の反論
被告補助参加人株式会社電通は,再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違
点1ないし5)に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)のうち,相違
点3に関する容易想到性の判断の誤りの主張に対して,次のとおり反論する。
審決が,甲33(審判の乙7) 34(審判の乙8)の実験報告書について,

構成から自ずと予想される程度の結果であり,予想し得ない格別の効果を奏し
ているものとはいえないとした判断に誤りはなく,甲33,34に基づき,再
訂正考案3にクリップの筆記具本体への取付力の強化という予想し得ない作用
効果が認められるという原告の主張は,採用することができない 。その理由は,
以下のとおりである。
すなわち,甲33は,部品A(支持壁が広く接続部分がL字形状の部品),
部品B(支持壁が狭く接続部分がL字形状の部品),部品C(支持壁が狭く接
続部分がT字形状の部品)各1個について,治具に取り付けた部品を引っ張る
ときに作用する力を測定した実験によるものであるところ,測定した部品数が
少ないことから,その結果は採用することができない。甲34は,部品A ,B,
C各10個について,同様に測定した実験によるものである。
甲34によれば,部品Bと部品Cとの間で,それらの平均値 部品Bは29.

03N,部品Cは33.38N )に顕著な差はなく,しかも ,部品Cの中には ,
部品Bの最大値に満たないものが7個存在する。また,部品Bと部品Cの平均
値の差は4.35Nしかないのに対し,部品Cの測定値は,最大値と最小値に
15.1Nもの差があり(番号10の40.6Nと番号1の25.5Nの差),
部品Bと部品Cの平均値の差の3倍以上の大きなばらつきがある。そのため,
部品Cの測定値は,部品Bとの形状の差異以外の要素によって左右されている
ものである。
したがって,甲34は,部品の形状の差異が取付力に顕著な影響を与えるも
のではないことを示しているといえるとしても,甲34により,再訂正考案3
にクリップの筆記具本体への取付力の強化という予想し得ない作用効果がある
ことが裏付けられているとはいえない。
第6 当裁判所の判断
審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項についての再訂正が許さ
れないことのみを理由として,無効審判請求の対象とされている請求項につい
ての再訂正は認められないと判断した点で誤りがある(取消事由1) しかし,

審決は,無効審判請求の対象とされている請求項についての再訂正が認められ
たとしても,再訂正後の考案は,当業者がきわめて容易に考案することができ
たものであるとし,その実用新案登録を無効とする旨判断しており,その点の
審決の判断に誤りはなく,その他の取消事由について,原告の主張はいずれも
理由がないから,上記の審決の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすこと
はない。したがって,審決に,これを取り消すべき違法はない。以下,原告主
張の取消事由について検討する。
1 再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)について
(1) 判断の誤りの有無と審決の結論への影響
実用新案登録無効審判請求について,各請求項ごとに個別に無効審判請求
することが許されている点に鑑みると,実用新案登録無効審判手続における
実用新案登録の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請
求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。
そうすると,2以上の請求項を対象とする無効審判の手続において,無効審
判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが実用新
案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象にな
っている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そ
のうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由とし
て,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めない
とすることは許されない。そして,この理は,無効審判の手続において,無
効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていな
い請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無
効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないこ
とのみを理由(この場合,独立登録要件を欠くという理由も含む。 として,

無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとす
ることは許されない。
本件においては,請求項1,2及び5に係る考案について無効審判請求が
され,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項1,2及
び5のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項3,4及び6に
ついても再訂正請求がされたところ,審決は,無効審判請求の対象とされて
いない請求項3,4及び6についての再訂正請求が独立登録要件を欠くこと
のみを理由として,再訂正は認められないと判断したから,審決には,上記
説示した点に反する判断の誤りがある。
しかし,後記6のとおり,請求項1,2及び5についての再訂正は認めら
れるべきであるが,審決は,請求項1,2及び5についての再訂正が認めら
れたとしても,再訂正考案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載され
た技術及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができ
たものであるとし,再訂正考案1,2及び5についての実用新案登録を無効
とする旨判断しており,その点の審決の判断に誤りはないから,上記の判断
の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことはない。
(2) 被告の主張に対し
被告は,訂正の許否を請求項ごとに判断すると,無効審判請求された請求
項を引用する無効審判請求されていない請求項について,常に無効審判請求
された請求項の訂正の効果が及ぶという不合理が生ずるから,訂正の許否を
請求項ごとに判断することはできず,訂正の許否は,訂正請求された請求項
のすべてについて一体として判断すべきであると主張する。
しかし,訂正の許否を請求項ごとに判断するのであれば,各請求項につい
てどのような訂正が請求されているかを検討し,それぞれの訂正の許否を判
断するものであって,他の請求項を引用する従属項であることから,直ちに
他の請求項の訂正の効力が及ぶとはいえない。本件において,原告は,請求
項1,2及び5についてそれぞれ再訂正を請求するとともに,請求項3,4
及び6についても,請求項2を引用する請求項3,及び請求項3を引用する
請求項4を請求項2の再訂正に伴い再訂正し,請求項5を引用する請求項6
を請求項5の再訂正に伴い再訂正するように,それぞれ再訂正を請求してお
り,請求項1,2及び5について訂正が認められるとしても,それとは別に
請求項3,4及び6について訂正の許否を判断すれば足りるものであって,
請求項1,2及び5についての訂正の効力は,当然に請求項3,4及び6の
訂正の効力に影響するとはいえない。したがって,被告の上記主張は,採用
することができない。
2 再訂正考案3と引用例考案の一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2)
について
(1) クリップ機能を有する被接続部について
クリップ機能を有する被接続部について,審決の一致点及び相違点の認定
には誤りはない。
すなわち,審決が,一致点及び相違点の認定の前提として,引用例考案の
「突壁6の非リング側部」「支持壁7」及び「金属クリップA」全体が,再

訂正考案3の「クリップ片」と ,「クリップ機能を有する被接続部」を構成
する点で共通するとした認定に誤りはなく,引用例考案において,「クリッ
プ機能を有する被接続部」を構成するのは,「金属クリップAの脚杆1」の
みであり,「突壁6の非リング側部」 「支持壁7」及び「金属クリップAの

取付片」は「クリップ機能を有する被接続部」を構成するものではないとの
原告の主張は,採用することができない。その理由は,以下のとおりである。
ア クリップ機能等の意義
原告は,「クリップ機能」とは ,「クリップ片が有する機能」を意味する
と解するほかなく,クリップ片が有する機能とは,具体的には,筆記具本
体をポケット等に取り付ける際に細長板状の自由端が大きく揺動すること
ができるため,ポケット等の縁を筆記具本体との間に容易に挿入すること
ができる機能であると主張する。
仮に,クリップ機能が上記の原告主張のとおりであるとしても,クリッ
プ機能を果たすというためには,単に細長板状の部材が存在するだけでは
足りず,細長板状の部材の片端側が固定され,他方の自由端が大きく揺動
することができなければならない。そうすると,「クリップ機能を有する
被接続部」は,クリップ機能を有するものでなければならないから,細長
板状の部材のみでは足りず,細長板状の部材の片端側が固定され,他方の
自由端が大きく揺動するものでなければならないこととなる。
イ 引用例考案においてクリップ機能を有する部位
引用例考案において,金属クリップAの脚杆1は,細長板状の部材であ
るが,それのみではクリップ機能を有するということはできない。引用例
考案においては,突壁6間に支持壁7を架設して同一体に設け,支持壁7
を金属クリップAの脚杆1と取付片2とで挟むとともに金属クリップの係
合片3を支持壁7に係合させており,それによって,脚杆1の片端側が固
定され,他方の自由端が大きく揺動することができるようになっている。
そうすると,引用例考案においては ,「突壁6の非リング側部」 「支持壁

7」及び「金属クリップA」全体により,細長板状の部材である脚杆1を
備えるとともに,脚杆1の片端側が固定され,他端の自由端が大きく揺動
することができるようにした構成が実現されているといえる。
なお,原告は,引用例考案の脚杆1は,揺動した状態では,支持壁7か
ら離反するから,支持壁7に固定されていないと主張するが,金属クリッ
プAは,脚杆1と取付片2が支持壁7を挟んでいるから,自由端が揺動し
た状態においても,脚杆1の片端は,支持壁7から離れることはなく,そ
の点をもって,脚杆1は支持壁7に片端側において固定されているという
ことができるから,原告の上記主張は,採用することはできない。
したがって ,「クリップ機能」について原告主張のとおり解するとして
も,引用例考案の「突壁6の非リング側部」「支持壁7」及び「金属クリ

ップA」全体は , クリップ機能を有する被接続部 」に該当すると解され,

これらが,再訂正考案の「クリップ片」と,「クリップ機能を有する被接
続部」を構成する点で共通するとした審決の認定に誤りはなく,引用例考
案において,「クリップ機能を有する被接続部」を構成するのは,「金属ク
リップAの脚杆1」のみであり,「突壁6の非リング側部 」 「支持壁7」

及び「金属クリップAの取付片」は「クリップ機能を有する被接続部」を
構成するものではないとの原告の主張は,採用することができない。
(2) 取付について
取付について,審決の一致点及び相違点の認定には誤りはない。
すなわち,審決が,一致点及び相違点の認定の前提として,引用例考案に
つき「前記二分割された『突壁6のリング側部』(接続手段)の広がりによ
り高分子物質環体4(取付リング)の内径を広げて,筆記具の軸筒である筒
体5(筆記具本体)に取り付けられるものであるといえる。(16頁15行

目ないし18行目)とした認定に誤りはなく,引用例考案は ,「高分子物質
環体4」の内径を広げて「筒体5」に取り付けるものではなく,「突状8」
を必須とし ,「突状8」によって「高分子物質環体4」を「筒体5」に取り
付けるものであるとの原告の主張は,採用することができない 。その理由は,
以下のとおりである。
ア 「突壁6のリング側部 」(接続手段)の広がりによる取付
引用例考案においては ,突壁6の間に支持壁7を架設して同一体に設け ,
支持壁7に金属クリップAが係合されているから, 突壁6のリング側部」

(接続手段)のクリップ片側(取付リング側の反対側)の端は,「突壁6
の非リング側部 」 「支持壁7」及び「金属クリップA 」
, (これら全体がク
リップ機能を有する被接続部)と,二分割された「突壁6のリング側部」
(接続手段)との二箇所の接続部分に該当する。そして,この二箇所の接
続部分は,支持壁7によってその間隔を拘束されているから,その間隔は
広げられることはない。他方,「突壁6のリング側部 」(接続手段)の取付
リング側(クリップ片側の反対側)の端は,高分子物質環体4に接続され
ているにとどまり,「突壁6のリング側部」(接続手段)は,支持壁7以外
の部材によって直接にその間隔を拘束されているものではないから,「突
壁6のリング側部」(接続手段)は,上記の二箇所の接続部分以外の部分
(特に高分子物質環体4との接続箇所)において若干広がることが可能で
あるものと認められ,そうすると,上記二箇所の接続部分の間隔を広げず
に,同接続部分以外の部分において「突壁6のリング側部 」(接続手段)
の間隔が広がり,それに伴って高分子物質環体4(取付リング)の内径が
広がり,筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)に取り付けられるもの
と認められる。
イ 引用例考案における「突条」の要否
(ア) 引用例の記載
引用例の実用新案登録請求の範囲には,高分子物質環体4の内面に設
けられた突条8は記載されていない。考案の詳細な説明のうち,考案の
目的を記載した個所には ,「本考案はかかる周知のクリツプに着目して
なしたもので,・・・装着環を合成樹脂,硬質ゴム質等の高分子物質に
よる非金属装着環とすることにより,・・・非金属装着環には動いても
筒体にきずつけることなからしめ,かつ筒体を通した後は動き難くし,
もつて周知のクリツプの不利欠点を大巾に解消せしめることを目的とす
る。(2頁12行目ないし3頁1行目)との記載があり,考案の効果を

記載した個所には,「本考案は叙上のように金属クリツプと,非金属装
着環とを使用するから,・・・全体が金属の周知のクリツプに比し,非
金属装着環着脱の際,使用中に該環が移動した際などに軸筒やキヤツプ
等の筒体にきずつける惧れがない効果を奏し,(4頁19行目ないし5

頁6行目)との記載がある。他方,実施例を記載した個所には ,「高分
子物質環体(4)の内面に筒体(5)の表面に圧接する縦長突条(8)
又は凸起(図示せず)を数個所設けて,取付け後の動きを防止し,筒体
(5)からの脱落を防止せしめるようにして構成する 。(4頁8ないし

12行目)との記載がある。
上記の引用例の記載によれば,突条8は実施例に示されているのみで
あって,引用例の実用新案登録請求の範囲に記載された考案は,突条8
を構成要件とするものではなく,突条の有無にかかわらず,装着環を非
金属としたことにより,非金属装着環が動いても筒体にきずをつけるこ
とがなく,筒体を通した後は動き難くするとの課題を達成するものと認
められる。そうすると,審決が引用例の記載に基づいて認定した引用例
考案は,突条8を必須とするということはできない。そして,高分子物
質環体4を筒体5に取り付けた後は,高分子物質環体4が動かないよう
にする必要があり,硬質合成樹脂,硬質ゴム等の高分子物質がある程度
の伸縮性を有することに鑑みると,引用例記載の考案は,高分子物質環
体4の内面に突条8を設けない場合は,高分子物質環体4の内径を広げ
て筒体5に取り付けるものであると推認される。
この点につき,原告は,突条8を設けることなくクリップ片を筆記具
に取り付けると,突壁6の伸縮によって筆記具とボールペンを固定する
ことになるが,突壁6が不可避的に外側に広がってしまうため,取付片
2と突壁6の間に緩みが生じ,金属クリップAにがたつきが発生するこ
とになり,クリップ片を筆記具に確実に取り付けることができないと主
張する。しかし,突条8を設けなかった場合に,突壁6に外側に広がる
力が働くとしても,筆記具という物品の性質に鑑みれば,筆記具とクリ
ップ片の固定のために必要とされる強度は,当業者にとって,一定の範
囲内で想定されるものと解され,突壁6や高分子物質環体4の材質,寸
法等の工夫により,必ずしも突条を設けなくても,そのような強度を確
保することは可能と推認され,突条8を設けなければクリップ片を筆記
具に確実に取り付けることが不可能であるとはいえない。
なお,甲42は,引用例に記載された考案の考案者作成の陳述書(平
成20年6月9日作成)であり,そこには ,「突条は,装着環を筆記具
本体に取り付けるためには,不可欠である」旨の記述がある。しかし,
引用例には,非金属装着環を筒体に通した後に動き難くすることが考案
の目的の一つとして記載されているにもかかわらず,突条8は実施例に
のみ記載され,実用新案登録請求の範囲の構成要件として記載されてい
ないから,甲42の上記陳述は,引用例に記載された考案自体について
の説明とは異なるというべきである。また,引用例に記載された考案は
昭和53年出願であり,甲42は,出願から約30年後に作成されたも
のであるから,出願当時の考案者の意図をそのまま反映しているか定か
ではない。そうすると,甲42を参照しても,突条8が引用例考案に不
可欠であるとは認められない。
したがって,引用例考案は, 高分子物質環体4」の内径を広げて「筒

体5」に取り付けるものではなく,「突状8」を必須とし,「突状8」に
よって「高分子物質環体4」を「筒体5」に取り付けるものであるとの
原告の主張は,採用することはできない。
(イ) 実験の結果
原告は,実験報告書(甲33,34)によれば,Cリング形状の環体
と突壁と支持壁から構成される部品において,突壁と支持壁の接続部分
がL字形状のものは,接続部分がT字形状のものに比べて取付力が弱い
ため,接続部分がL字形状の引用例考案においては,「高分子物質環体
4」の「筒体5」への取付力を確保するために ,「突条8」を設けるこ
とは不可欠であると主張する。しかし,原告の上記主張は,以下の理由
により,採用することができない。
すなわち,甲33は,部品A(支持壁が広く接続部分がL字形状の部
品),部品B(支持壁が狭く接続部分がL字形状の部品)
,部品C(支持
壁が狭く接続部分がT字形状の部品)を各1個作成して行った実験によ
るものである。しかし,測定対象となった部品は各1個であり,同一形
状の複数個の部品間のばらつきによる測定差の有無が考慮されていない
から,甲33によっては,予想し得ない格別の効果が立証されていると
はいえない。
また,甲34は,部品A,部品B,部品C各10個について,治具に
取り付けた部品を引っ張るときに作用する力を測定した実験によるもの
である。しかし,甲34によれば,同じ形状の部品10個のうちでも,
取付力の測定値にかなりのばらつきがみられ,部品Bの最大の取付力 3

6.6N)よりも取付力の弱い部品Cは7個,部品Cの最小の取付力 2

5.5N)よりも取付力の強い部品Bは8個存在する。また,平均値と
の関係をみると,部品B10個のうち3個の取付力は,部品Cの平均取
付力(33.38N)より強く,部品C10個のうち2個の取付力は,
部品Bの平均取付力(29.03N)より弱い。そうすると,甲34に
よれば,全体として,部品Cの方が部品Bよりも取付力が強い傾向があ
ることを認識し得るとしても,部品Cの方が部品Bよりも取付力が強い
との格別の効果があるとは認められない。
そして,取付力の強弱は,接続部分の形状がL字形状かT字形状かと
いう点以外に,筒体5(筆記具本体)及び高分子物質環体4(取付リン
グ)の寸法,材質又は形状など様々な要因によっても左右されると推認
されるから,甲34の実験条件において,仮に,L字形状の場合の方が
T字形状の場合よりも取付力が弱い傾向があるとしても,そのことから,
L字形状の場合に突条8を設けることが不可欠であるとはいえない。
3 再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違点1ないし5)に関する容易想到
性の判断の誤り(取消事由3)について
再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違点1ないし5)に関する審決の容
易想到性の判断には,以下のとおり,誤りはない。
(1) 相違点1及び2に関する容易想到性の判断の誤りについて
審決が ,相違点1及び2に関し, 引用例考案の筆記具のクリップ装置(ク

リップ)を一部品のみから成るものとすることは当業者がきわめて容易にな
し得る程度のことである。」とした判断に誤りはない。その理由は,以下の
とおりである。
ア 容易想到性の有無
引用例考案の「突壁6の非リング側部 」「支持壁7」及び「金属クリッ

プA」のうち,「突壁6の非リング側部」及び「支持壁7」は,「突壁6の
リング側部」及び 高分子物質環体4」
「 とともに一体に形成されているが,
「金属クリップA」とは,一体に形成されていない。
しかし,引用例には「筆記具の軸筒又はキヤツプ等の筒体を通す装着環
に脚杆を同一体に形成したクリツプは周知である 」(1頁18行目ないし
2頁2行目)と記載されていること,甲7ないし11には,筆記具本体の
後部に取り付けられるクリップにおいて,クリップ片と,取付リングと,
クリップ片と取付リングを接続する接続手段が一部品で形成されている例
が示されていることに照らすならば,クリップ片と,取付リング及び接続
手段を一体的に形成する技術は,周知であったと認められる。そして,ク
リップ片と,取付リングと,クリップ片と取付リングとを接続する接続手
段とを一部品のみから成るものとすれば,これを二部品から成るものとす
る場合に比べて,部品数や工程数が減少し,製造工程が容易になり,製造
費用が安価になることは,当業者であれば容易に認識し得るものと認めら
れる。そうすると,製造工程を容易にすること,製造費用を安価にするこ
となどを考慮し,引用例考案の筆記具のクリップ装置(クリップ)を一部
品のみから成るものとすることは,当業者がきわめて容易に想到し得ると
認められる。そして,引用例考案の筆記具のクリップ装置(クリップ)を
一部品のみから成るものとすれば, 突壁6の非リング側部 」「支持壁7」
「 ,
及び「金属クリップA」の部分を「クリップ片」又は「割れ目のないクリ
ップ片」と称することができる。
イ 原告の主張に対し
原告は,審決の相違点1及び2に関する容易想到性の判断は誤りである
と主張し,その理由として,①引用例考案は装着環とクリップを一部品で
構成することを除外していること,②支持壁7と一対の突壁6が存在する
ことは,装着環と脚杆とを一部品で構成することに対する阻害要因となる
ことを主張するが,原告の主張は,以下のとおり,採用することができな
い。
(ア) 引用例には,次のとおりの記載がある。
「筆記具の軸筒又はキャツプ等の筒体を通す装着環に脚杆を同一体に形
成したクリツプは周知であるが,その周知のクリツプは,金属板を利用
して装着環と脚杆と同一体につくり,脚杆を装着環の表側に折曲加工し
た構造のものと,合成樹脂で装着環と脚杆とを同一体につくつた構造の
ものとの2種がある。ところが,前者は筆記具に着脱する際や使用中に
装着環が動いて,装着環によつて軸筒又はキャツプ等の筒体表面にひつ
かききずのようなきずをつけることが多くなる不利があり,後者は脚杆
がバネ性に欠けて締付け力に劣る欠点があつた。
本考案はかかる周知のクリツプに着目してなしたもので,クリツプを
金属とし,装着環を合成樹脂,硬質ゴム質等の高分子物質による非金属
装着環とすることにより,脚杆に強力なバネ性を附与してすぐれた締付
け力を発揮せしめ,かつ非金属装着環には動いても筒体にきずつけるこ
となからしめ,かつ筒体を通した後は動き難くし,もつて周知のクリツ
プの不利欠点を大巾に解消せしめることを目的とする 。(1頁18行目

ないし3頁1行目)
上記の引用例の記載によれば,引用例考案は,装着環と脚杆を金属又
は合成樹脂で同一体に作った場合の欠点を解決することを目的とするも
のと認められる。しかし,装着環と脚杆を合成樹脂で同一体に作った場
合,引用例に記載されたように,脚杆を金属とし装着環を非金属とする
二部材から成る場合( 脚杆に強力なバネ性を附与してすぐれた締付け

力を発揮」させることができる)に比べて脚杆がバネ性に欠けて締付け
力に劣ることがあるとしても,クリップ片の形状等の工夫により,脚杆
に相当程度バネ性を付与し,締付け力を確保することは可能と考えられ
る。また,装着環と脚杆を合成樹脂で同一体に作れば,二部材から成る
場合に比べて,部品数や工程数が減少し,製造工程が容易になり,製造
費用が安価になる。そして,これらのことは,当業者であれば容易に理
解し得るものと推認される。したがって,当業者としては,クリップ片
を金属で作る場合よりは締付け力が劣るとしても,クリップ片の形状等
の工夫により,クリップ片に相当程度バネ性を付与して締付け力を確保
しつつ,製造工程を容易にし,製造費用を安価にするために,装着環と
脚杆を合成樹脂で同一体に作ることは,きわめて容易に想到し得るもの
と認められる。装着環と脚杆を合成樹脂で同一体に作るならば,クリッ
プ装置の形状を問わず,およそクリップ片の締付け力が著しく小さくな
り,クリップ装置として機能しなくなるといった事情は,引用例の記載
からも窺うことはできず,合成樹脂の同一体としても実用に耐えるクリ
ップ装置の作成は,格別困難を伴うものとは考えらない。以上のとおり,
引用例考案は,脚杆と装着環を合成樹脂の一部品に構成することを除外
しているとはいえないし,引用例の上記記載が,これらを一部品に構成
することに対して阻害要因となるとはいえない。
(イ) 引用例考案は,非金属装着環Bの支持壁7を金属クリップAの脚杆
1と取付片2とで挟むとともに,金属クリップAの係合片3を支持壁7
に係合させるとの構成を備え,これによって,金属クリップAを非金属
装着環Bに強固に取り付けるとの作用効果を奏するものと解される。そ
して,装着環と脚杆を一部品で構成する場合には,脚杆と支持壁が一体
となるため,金属クリップを非金属装着環に強固に取り付けるとの課題
解決のために支持壁を設ける必要はなくなるが,このことは,事柄の性
質に照らし,当業者であればきわめて容易に認識し得るものと認められ
るから,引用例考案に支持壁7と一対の突壁6が存在することは,装着
環と脚杆を一部品に構成することの阻害事由となるとはいえない。
(ウ) したがって,審決の相違点1及び2に関する容易想到性の判断は誤
りであるとの原告の主張は,採用することができない。
(2) 相違点3に関する容易想到性の判断の誤りについて
審決が,相違点3に関し ,「二分割された接続手段の幅よりクリップ片の
幅を広くし,その結果として相違点3のような構成とすることは,当業者が
きわめて容易になし得る程度のことである 。 ,
」 「被請求人は ,・・・二か所
の接続部分においてそれぞれ,クリップ片を取付リングよりも上側にした状
態でクリップの後方から見てT字形状をなすと,取付力が強くなる実験報告
書を提出しているが,構成から自ずと予想される程度の結果であり,予想し
得ない格別の効果を奏しているものとはいえない。」とした判断に誤りはな
い。その理由は,以下のとおりである。
ア 容易想到性の有無
前記( 1)のとおり,脚杆と装着環を一部品に構成することは,きわめて
容易に想到し得ることであり,脚杆と装着環を一部品に構成する場合には,
二分割された接続手段の幅とクリップ片の幅は,同一にする必要はなく,
二分割された接続手段の幅よりもクリップ片の幅を広くすることができ
る。そして,甲15ないし17に開示されているように,接続手段の幅よ
りクリップ片の幅を広くすることは周知技術であると認められるから,二
分割された接続手段の幅よりクリップ片の幅を広くし ,その結果として 二

分割された接続手段とクリップ片とが,その二か所の接続部分においてそ
れぞれ,クリップ片を取付リングよりも上側にした状態でクリップの後方
から見てT字形状をなしており」との相違点3に係る再訂正考案3の構成
とすることは,当業者がきわめて容易に想到し得ると解される。
イ 原告の主張に対し
(ア) 原告は,審決の相違点3に関する容易想到性の判断は誤りであると
主張し,その理由として,①引用例考案においては,突壁6の間隔と支
持壁7の幅,及び金属クリップAの幅はすべて必然的に同一にならなけ
ればならず,二分割された接続手段の幅とクリップ片の幅は自由に設計
することはできないこと,②甲15ないし17に示された周知技術は,
いずれもクリップ片を備える部材が筒体に相当する部材に取り付けられ
るものではなく,筒体に相当する部材に一体的にクリップが形成されて
いるものであるから,これを引用例考案に適用することはできないこと,
③二分割された接続手段の間隔はクリップ装置の筆記具本体への取付力
に直接影響するから,二分割されない接続手段の幅がクリップ片の裏側
の幅よりも狭く形成されているにすぎない周知技術 甲15ないし17)

から,二分割された接続手段の間隔がクリップ片の裏側の幅よりも狭く
形成される構成をきわめて容易に想到することはできないことを主張す
る。しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用することができない。
a 引用例考案は,金属クリップAと非金属装着環Bにより構成される
ものであり,脚杆と装着環を,金属と高分子物質という別材質で構成
することを前提とするのであれば,装着環の突壁6間の支持壁7を金
属クリップAの脚杆1と取付片2で挟み,金属クリップAの係合片3
を装着環Bの突壁6又は支持壁7に係合させることにより,金属クリ
ップAを装着環Bに取り付けることとなるため,突壁6の間隔,支持
壁7の幅及び金属クリップAの幅は同一になるものと解され,引用例
の図面に示された実施例も,突壁6の間隔,支持壁7の幅及び金属ク
リップAの幅は同一のものとして示されている。
しかし,前記( 1)のとおり,脚杆1と装着環Bを一部品に構成する
ことは,きわめて容易に想到し得ることであり,脚杆1と装着環Bを
一部品に構成する場合には,金属クリップAを装着環Bに取り付ける
必要はないから,装着環Bの突壁6間の支持壁7を金属クリップAの
脚杆1と取付片2で挟み,金属クリップの係合片3を装着環Bの突壁
6又は支持壁7に係合させる必要もなく,そのため,突壁6の間隔と
支持壁7の幅,及び金属クリップAの幅を同一にするとの要請はなく ,
接続手段の幅と脚杆の幅を同一にする必要はない。したがって,脚杆
と装着環を一部品に構成する場合には,二分割された接続手段の幅よ
りもクリップ片の幅を広く設計することは可能である。
b 甲15ないし17に示された技術は,いずれもクリップ片を備える
部材が筒体に相当する部材に取り付けられるものではなく,筒体に相
当する部材に一体的にクリップが形成されているものである。しかし ,
前記( 1)のとおり,脚杆と装着環を一部品に構成することはきわめて
容易に想到することができたものであり,前記aのとおり,脚杆と装
着環を一部品に構成する場合には,接続手段の幅と脚杆の幅を同一に
する必要はなく,二分割された接続手段の幅よりもクリップ片の幅を
広く設計することはできる。審決は,二分割された接続手段の幅より
もクリップ片の幅を広く設計することができることを前提として,甲
15ないし17に基づいて,接続手段の幅よりクリップ片の幅を広く
するとの周知技術を認定し,そのような周知技術を適用したものであ
るから,甲15ないし17に示された周知技術の適用に誤りがあると
は認められない。
(イ) また,原告は,作用効果について,再訂正考案3に予測し得ない格
別の作用効果があるか否かは,再訂正考案3自体の構成から予測し得る
か否かを判断すべきではなく,引用例考案との比較から判断すべきであ
り,実験報告書(甲34)に基づいて,再訂正考案3には,引用例考案
と比べて,クリップの筆記具本体への取付力の強化という予測し得ない
作用効果があることが裏付けられると主張し,その根拠として,①製造
誤差の影響を同程度に受けている部品Bと部品Cの平均値において部品
Cの方が高い値を示していることから,部品Bよりも部品Cの方が取付
力が高いこと,②引用例考案の脚杆と再訂正考案3のクリップ片の幅を
同じとするならば,引用例考案は部品Aに相当し,再訂正考案3は部品
Cに相当し,部品Cは部品Aの2倍の取付力があるから,再訂正考案3
は引用例考案より格別の効果があること,③接続部がT字形状をしてい
る場合には,T字形状によって外側に突出するクリップ片の側端部と二
分割された接続手段との間で構成される角度を元の大きさに戻そうとす
る弾性復元力と,クリップ片自体が変形して元に戻ろうとする弾性復元
力が働くことにより,接続部分がL字形状をしている場合よりも取付力
が大きくなることを主張する。しかし,原告の上記主張は,以下の理由
により,採用することができない。
すなわち,①平均値において部品Cが部品Bを上回っているとしても,
部品Bと部品Cの計測値は,ばらつきが大きいから,形状の相違以外の
要因により取付力が左右されている可能性が高いといえる。②また,相
違点3は,クリップ片と接続手段の接続部分の形状の相違のみであり,
接続手段の幅は相違点3に含まれないから,部品Cと,接続部分の形状
のみならず接続手段の幅も相違する部品Aを比較しても,相違点3に係
る接続部分の形状の相違によって予測し得ない作用効果があるか否かは
明らかにならない。さらに,③例えば,接続部分より突出したクリップ
片の両端が,固定等の方法により動きが制限されていれば,それに伴っ
て,クリップ片の中央部分の動きも制限され,その結果,クリップ片の
中央部分と接続手段との間で弾性復元力が増加する余地のあることは推
測される。ところが,再訂正考案においては,接続部分より突出したク
リップ片の両端が自由端であり,固定等の方法により動きが制限されて
おらず,それによって,クリップ片の中央部分の動きが制限されること
もない。高分子物質環体4(取付リング)を内側に締め付ける方向での
弾性復元力を増加させるという効果との関係で ,「接続部がT字形状を
採ることによって接続手段の外側にクリップ片の側端部が突出してい
る」との構成が,何らかの意味で寄与しているとの合理的な説明が尽く
されていると解することはできない。
したがって,実験報告書(甲34)によっても,再訂正考案3に,引
用例考案と比べて,クリップの筆記具本体への取付力の強化という予測
し得ない作用効果があるとは認められない。
(ウ) 以上のとおり,審決の相違点3に関する容易想到性の判断は誤りで
あるとの原告の主張は,採用することができない。
(3) 相違点4に関する容易想到性の判断の誤りについて
原告は,引用例考案が突条8を必須の構成とするものであることを前提と
し,引用例考案と甲12,14に開示された技術は,取付原理が異なり,引
用例考案と甲12,14に開示された技術を組み合わせて,相違点4に係る
再訂正考案3の構成を容易に想到することはできないと主張する。
しかし,前記2(2)イのとおり,引用例考案は突条8を必須の構成とする
ものではないから,原告の上記主張は,その前提において採用することがで
きず,審決の相違点4に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められ
ない。
(4) 相違点5に関する容易想到性の判断の誤りについて
審決が,相違点5に関し ,「筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)と
筆記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に相対的に移動しない
ことが要求されることは明らかである。しかも,甲第23∼26号証に開示
されているように,共通の軸方向に結合された2部材の回転を防止する技術
として,一の部材への他の部材の取付箇所において接合される,一の部材の
外周面と他の部材の内周面とに多角形状部を設け,これらを嵌め合わせるこ
とで両部材の回転を防止することが周知技術であるから,引用例考案の相対
移動防止手段として,上記周知技術を採用し,相違点5のような構成とする
ことは,当業者がきわめて容易になし得る程度のことである 。」とした判断
に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
ア 容易想到性の有無
引用例には ,「高分子物質環体(4)の内面に筒体(5)の表面に圧接
する縦長突条(8)又は凸起(図示せず)を数箇所設けて,取付け後の動
きを防止し,筒体(5)からの脱落を防止せしめるようにして構成する。」
(4頁8行目ないし12行目)との記載があることから,筆記具の軸筒で
ある筒体5(筆記具本体)と筆記具のクリップ装置(クリップ)とは,ク
リップ装置(クリップ)を筒体5(筆記具本体)に取り付けた後に相対的
に移動しないようなものであると認められる。そして,縦長突条8は,引
用例に,上記のとおり「取付け後の動きを防止し」と記載されているとと
もに,引用例の実施例の図面において,高分子物質環体4の全長にわたる
長さを有するものとして示されているから,突条8は,高分子物質環体4
が筒体5から抜ける方向の動き 軸筒に沿った動き)
( を防止するとともに,
軸筒の回りに回転する動き(軸筒の回転方向の動き)も妨げる機能を有す
るものと推認される。そして,甲23ないし26によれば,共通の軸方向
に結合された2部材の回転を防止する技術として,一の部材への他の部材
の取付箇所において接合される,一の部材の外周面と他の部材の内周面と
に多角形状部を設け,これらを嵌め合わせることで両部材の回転を防止す
ることは周知技術であることが認められる。したがって,引用例考案の相
対移動防止手段として,上記周知技術を採用し,相違点5に係る再訂正考
案3のような構成とすることは,当業者がきわめて容易に想到し得る。
イ 原告の主張に対し
原告は,審決の相違点5に関する容易想到性の判断は誤りであると主張
し,その理由として,①甲23,24は筆記具と技術分野が異なるから,
その中に開示されている多角形状部を筆記具のクリップの装着に取り入れ
ることは,きわめて容易に想到することができたとはいえないこと,②多
角形状部に要請される役割は,甲25,26に記載された周知技術では着
脱であるのに対し,再訂正考案3では固定であり,異なっているから,周
知技術から再訂正考案3をきわめて容易に想到することはできないことを
主張するが,原告の主張は,以下のとおり,採用することができない。
すなわち,甲23,24に記載された考案は,筆記具と技術分野を異に
するが,甲25,26と相まって,甲23ないし26により,共通の軸方
向に結合された2部材の回転を防止する技術として,一の部材の外周面と
他の部材の内周面の多角形状部を嵌め合わせることにより両部材の回転を
防止することが ,技術分野を問わず周知であったことが認められる。また,
甲25,26に記載された考案が,固定のみならず移動や着脱を可能とす
るものであったとしても,少なくとも,内外両部材の多角形状部を嵌め合
わせることによって回転を防ぎ,両部材を確実に固定するとの技術を用い
ているものであり,それに加えて更に移動や着脱が可能であったとしても ,
それによって,固定の手段として多角形の嵌め合わせを用いることの技術
的意義が変わるとは認められない。
そうすると,甲23ないし26により,内外両部材の多角形状部を嵌め
合わせることによって回転を防止することは周知であったことが認められ
るから,引用例考案の相対移動防止手段として,上記周知技術を採用し,
相違点5に係る再訂正考案3のような構成とすることは,当業者がきわめ
て容易に想到し得たものということができ,原告の上記主張は,採用する
ことができない。
4 再訂正考案4と引用例考案の相違点(相違点6)に関する容易想到性の判断
の誤り(取消事由4)について
審決が,相違点6に関し,「筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)と筆
記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に相対的に移動しないこと
が要求されることは明らかである。しかも,甲第1号証,甲第19∼21号証
に開示されているように,筆記具に形成された溝にクリップの取付リングを取
り付けることによって,溝の筆記具の軸方向両端にある段差(甲第1,19,
21号証)若しくはリブ(甲第20号証)で取付リングの後方への移動を防止
することで両部材の軸方向の移動を防止することが周知技術であ」るから , 引

用例考案の相対移動防止手段として,上記周知技術を採用し,段差の具体的形
成位置を筆記具本体の多角形状部と筆記具本体の外周面との間とし,相違点6
のような構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得る程度のことであ
る。」とした判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 容易想到性の有無
前記3(4)アのとおり,引用例考案の筆記具の軸筒である筒体5(筆記具
本体)と筆記具のクリップ装置(クリップ )とは,クリップ装置(クリップ )
を筒体5(筆記具本体)に取り付けた後に相対的に移動しないようなもので
あった。そして,甲1,19,21によれば,筆記具に形成された溝にクリ
ップの取付リングを取り付け,溝の筆記具の軸方向両端にある段差によって
取付リングの後方への移動を防止することにより,両部材の軸方向の移動を
防止することが周知であったことが認められる。そうすると,引用例考案の
相対移動防止手段として,上記周知技術を採用し,段差の具体的形成位置を
筆記具本体の多角形状部と筆記具本体の外周面との間とすることにより,相
違点6に係る再訂正考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易に想到
し得たものと認められる。
(2) 原告の主張に対し
原告は ,審決の相違点6に関する容易想到性の判断に誤りがあると主張し,
その理由として,①審決には,引用例考案における突条8について,取付以
上の回転防止の効果もあるように判断している点で誤りがあること,②引用
例考案の突条8は回転防止の効果はなく,甲1,19ないし21に記載され
た周知技術は,いずれも段差のみによって軸方向への移動を防止しているに
すぎないから,引用例考案に甲1,19ないし21を組み合わせても,再訂
正考案4をきわめて容易に想到することはできないと主張する。
しかし,前記3(4)アのとおり,引用例考案における突条8は,軸筒に沿
った移動を防止するのみならず,回転方向の動きも妨げるから回転防止の効
果も有するものであり,それによって,筆記具の軸筒である筒体5(筆記具
本体)と筆記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に相対的に移
動しないものと認められ,原告の主張は,その前提において,採用すること
ができない。そして,引用例考案に甲1,19ないし21を組み合わせるこ
とによって相違点6に係る再訂正考案の構成とすることは,当業者がきわめ
て容易に想到し得たものと認められる。
5 再訂正考案6と引用例考案の相違点(相違点7)に関する容易想到性の判
断の誤り(取消事由5)について
審決が,相違点7に関し ,「筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)と
筆記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に相対的に移動しない
ことが要求されることは明らかである。しかも,甲第1号証,甲第19∼2
1号証に開示されているように,筆記具に形成された溝にクリップの取付リ
ングを取り付けることによって,溝の筆記具の軸方向両端にある段差(甲第
1,19,21号証)若しくはリブ(甲第20号証)で取付リングの後方へ
の移動を防止することで両部材の軸方向の移動を防止することが周知技術で
あ」るから ,「引用例考案の相対移動防止手段として,上記周知技術を採用
し,具体的形成形状をリブとし,形成位置を筆記具本体のリング取り付け位
置箇所の後端とし,相違点7のような構成とすることは,当業者がきわめて
容易になし得る程度のことである。 とした判断に誤りはない。その理由は,

以下のとおりである。
( 1) 容易想到性の有無
前記3(4)アのとおり,筆記具の軸筒である筒体5(筆記具本体)と筆
記具のクリップ装置(クリップ)とは,クリップ装置(クリップ)を筒体
5(筆記具本体)に取り付けた後に相対的に移動しないようなものであっ
た。そして,甲1,19ないし21によれば,筆記具に形成された溝にク
リップの取付リングを取り付け,溝の筆記具の軸方向後端にあるリブによ
って取付リングの後方への移動を防止することにより,両部材の軸方向の
移動を防止することが周知であったことが認められる。そうすると,引用
例考案の相対移動防止手段(リングが軸方向に移動して抜け落ちることを
防ぐ抜落防止手段であることも含む 。)として,上記周知技術を採用し,
具体的形状をリブとし,形成位置を筆記具本体のリング取り付け位置箇所
の後端とし,相違点7のような構成とすることは,当業者がきわめて容易
に想到し得たものと認められる。
(2) 原告の主張に対し
原告は,審決の相違点7に関する容易想到性の判断に誤りがあると主張
し,その理由として,①審決には,引用例考案における突条8について,
取付以上の回転防止の効果もあるように判断している点で誤りがあるこ
と,②再訂正考案6は,軸方向への移動防止手段としてリング取り付け個
所の後端にリブを設けたことに特徴があり,引用例考案に甲1,19ない
し21を組み合わせても,再訂正考案6をきわめて容易に想到することは
できないと主張する。
しかし,前記3(4)アのとおり,引用例考案における突条8は,軸筒に
沿った移動を防止するのみならず,回転方向の動きも妨げるから回転防止
の効果も有するものであり,それによって,筆記具の軸筒である筒体5 筆

記具本体)と筆記具のクリップ装置(クリップ)とは,取付けた後に相対
的に移動しないものと認められ,原告の主張は,その前提において,採用
することができない。そして,引用例考案に甲1,19ないし21を組み
合わせることによって相違点7に係る再訂正考案の構成とすることは,当
業者がきわめて容易に想到し得たものと認められる。
6 取消事由1に関する判断の誤りの審決の結論への影響
以下のとおり,請求項1,2及び5についての再訂正は認められるが,審決
は,請求項1,2及び5についての再訂正が認められたとしても,再訂正考案
1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された技術及び周知技術に基づい
て当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとし,再訂正考案
1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨判断しており,その点の
判断に誤りはないから,審決の取消事由1に関する判断の誤りは,審決の結論
に影響を及ぼすことはない。
(1) 訂正の許否
前記1のとおり,訂正の許否は請求項ごとに判断すべきであるところ,請
求項1,2及び5の再訂正は,いずれも実用新案登録請求の範囲の減縮を目
的とするものであるから,許されるべきである。
(2) 再訂正後の請求項1,2及び5に係る実用新案登録の無効の成否
ア 再訂正後の請求項1に係る実用新案登録の無効の成否
再訂正考案1と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点と同じであり,再訂正考案1と引用例考案の相違点は,再訂正考案3
と引用例考案の相違点1ないし4と同じである。
前記3のとおり,審決には,再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違
点1ないし5)に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。
そうすると,再訂正考案1は,引用例考案,引用例に記載された技術及
び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたもの
であり,再訂正考案1についての実用新案登録は無効というべきである。
イ 再訂正後の請求項2に係る実用新案登録の無効の成否
再訂正考案2と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点と同じであり,再訂正考案2と引用例考案の相違点は,再訂正考案3
と引用例考案の相違点1ないし4に加え,相違点5の一部である相違点5
’である。
前記3のとおり,審決には,再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違
点1ないし5)に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。
相違点5’で特定した事項を含み,更にその他の限定事項を付け加えた相
違点5に係る構成について当業者がきわめて容易に想到し得ることから,
相違点5’に係る構成についても当業者がきわめて容易に想到し得るもの
と認められる。
そうすると,再訂正考案2は,引用例考案,引用例に記載された技術及
び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたもの
であり,再訂正考案2についての実用新案登録は無効というべきである。
ウ 再訂正後の請求項5に係る実用新案登録の無効の成否
再訂正考案5と引用例考案の一致点は,再訂正考案3と引用例考案の一
致点と同じであり,再訂正考案5と引用例考案の相違点は,再訂正考案3
と引用例考案の相違点1ないし4に加え,再訂正考案6と引用例考案の相
違点7の一部である相違点7’である。
前記3のとおり,審決には,再訂正考案3と引用例考案の相違点(相違
点1ないし5)に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。
また,前記5のとおり,相違点7’で特定した事項を含み,更にその他の
限定事項を付け加えた相違点7に係る構成について当業者がきわめて容易
に想到し得ることから,相違点7’に係る構成についても当業者がきわめ
て容易に想到し得るものと認められる。
そうすると,再訂正考案5は,引用例考案,引用例に記載された技術及
び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたもの
であり,再訂正考案5についての実用新案登録は無効というべきである。
(3) 審決の結論への影響
審決は,請求項1,2及び5についての再訂正が認められたとしても,再
訂正考案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された技術及び周知技
術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであると
し,再訂正考案1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨判断し
ており,その点の判断に誤りはないから,審決の取消事由1に関する判断の
誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことはない。また,取消事由1以外の取
消事由について,原告の主張はいずれも理由がない。
7 結論
以上のとおり,審決には,その結論に影響を及ぼす違法はない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
中 平 健
裁判官
知 野 明

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