知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成22(行ケ)10083 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成22(行ケ)10083審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成22年7月28日
事件種別 民事
当事者 被告特許業務法人小野国際特許事務所
原告藤森工業株式会社高橋詔男
法令 商標権
商標法50条1項7回
商標法2条3項1号3回
商標法50条1回
商標法4条1項11号1回
商標法3条1項1号1回
キーワード 審決21回
拒絶査定不服審判7回
商標権4回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,下記1の原告の本件商標に係る商標登録について,その指定商 品中,第16類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その 他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」に対する不使用を理由とする当 該登録の取消しを求める被告の下記2の本件審判請求を認めた特許庁の別紙審判書 (写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの 取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成22年7月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10083号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成22年7月14日
判 決
原 告 藤 森 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 志 賀 正 武
高 橋 詔 男
渡 辺 隆
高 柴 忠 夫
鈴 木 博 久
被 告 特許業務法人小野国際特許事務所
同訴訟代理人弁理士 鶴 目 朋 之
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が取消2009−300454号事件について平成22年1月27日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1の原告の本件商標に係る商標登録について,その指定商
品中,第16類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その
他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」に対する不使用を理由とする当
該登録の取消しを求める被告の下記2の本件審判請求を認めた特許庁の別紙審判書
(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの
取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 本件商標
本件商標(登録第2723314号商標)は,「ECOPAC」の欧文字を横書
きしてなり,昭和63年4月26日に登録出願され,第18類「包装用容器および
その他本類に属する商品」を指定商品として,平成9年10月24日に設定登録さ
れ,その後,平成19年5月1日に商標権の存続期間の更新登録がされ,同年10
月10日に第6類「金属製包装用容器(金属製栓,金属製ふたを除く。)」,第1
6類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・
竹製又はプラスチック製の包装用容器」を指定商品とする書換登録がされたもので
ある(甲10,乙1,2)。
2 特許庁における手続の経緯
被告は,平成21年4月15日,本件商標が,その指定商品中,第16類「紙製
包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプ
ラスチック製の包装用容器」に対して,継続して3年以上日本国内において商標権
者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって,
不使用による取消審判を請求し,当該請求は,同年5月7日に登録された。
特許庁は,これを取消2009−300454号事件として審理し,平成22年
1月27日,「登録第2723314号商標の指定商品中,第16類「紙製包装用
容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチ
ック製の包装用容器」については,その登録を取り消す。」との本件審決をし,同
年2月8日にその謄本が原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件商標に係る商標権の通常使用権者(以下「本
件使用権者」という。)は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内におい
て,指定商品について「エコパック」なる商標(以下「本件使用商標」という。)
を使用していたが,本件使用商標は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標
とは認められないのみならず,「経済的,環境にやさしい包装容器」という,プラ
スチック製包装容器の品質を表示するものとして認識され,商品の出所を表示する
機能を果たし得ないから,本件商標の使用とは認められないし,また,本件商標の
商標権者である原告も,指定商品について,本件商標と社会通念上同一と認められ
る商標を使用したとは認められない,というものである。
4 取消事由
(1) 本件使用権者が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用し
ていないとした判断の誤り(取消事由1)
(2) 原告が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用していな
いとした判断の誤り(取消事由2)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件使用権者が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件
商標を使用していないとした判断の誤りについて)
〔原告の主張〕
(1) 本件商標と本件使用商標との同一性について
ア 本件審決は,本件商標について,「ECOPAC」の文字を同書,同大,
等間隔に構成上一体的に表示してなるから,その構成文字に相応して「エコパッ
ク 」 の 称 呼 を 生 ず る が , こ れ が 「 ecology 」 の 省 略 形 の 「 ECO 」 の 文 字 と
「package」の省略形の「PAC」の文字を結合してなるものと理解されるべき特段
の理由も見当たらないから,特定の観念を有しない造語よりなるものと判断する
のが相当であるとする。
しかしながら,現在において,「ECO」が「ecology」あるいは「economical」
の略称として通用していることは,「エコ」が「エコロジー」あるいは「エコノ
ミカル」の略称として通用していることと同様,周知の事実である。
また,「PAC」は,「包装容器」を示す「package」あるいは「pack」の省略形
として,国内外において多数使用されている(甲2(枝番を含む。特に断らない
限り,以下同じ。))。
したがって,本件商標からは,「環境に優しい包装」の観念が生じることは明
らかである。
イ 本件審決は,取引者及び需要者が,本件使用権者の製造販売に係る「モイ
スチャーローション」及び「アミノボディーケアソープ」(以下,総称して,
「本件使用商品」という。)に使用されている本件使用商標「エコパック」に接
した場合,本件商標「ECOPAC」を想起するよりは,「環境に優しい包装」
の意味を有する「ECOPACK」を想起すると判断するのが相当であるから,本件使
用商品のプラスチック製包装用容器に本件商標と社会通念上同一の商標を使用し
ているとはいえないとする。
しかしながら,「ECOPAC」も「ECOPACK」も,いずれも「環境に優しい
包装」の観念を生ずるものであるし,「エコパック」の欧文字表現を「ECOPAC」
とする例も多数ある(甲4)から,簡易迅速を旨とする現代の商取引においては,
「エコパック」から,「ECOPAC」を想起することも多い。
したがって,「ECOPAC」も「ECOPACK」も,同一の観念を有する商標と
して,「エコパック」との関係においては,称呼・観念ともに一対のものという
べきであって,本件使用商標「エコパック」は,本件商標「ECOPAC」と社
会通念上同一の商標というべきである。
(2) 本件使用商標の使用形態について
ア 本件審決は,本件使用商標と本件商標とが社会通念上同一の商標といえる
としても,「エコパック」は,プラスチック製包装用容器の品質を表示するもの
と認識されるものであって,商品の出所を表示するものとしての機能を果たし得
ないから,本件商標の使用とは認められないとする。
しかしながら,商標法50条1項の「登録商標の使用」とは,不使用商標によ
る第三者の商標選択の余地が狭められることを防止するという制度趣旨からする
と,当該商標がその指定商品について何らかの態様で使用されていれば足り,識
別標識としての使用(商標の本質的機能を果たす態様における使用)に限定しな
ければならない理由はない。
イ 本件商標と本件使用商標とが,称呼・観念を同じくする社会通念上同一の
商標と認められる以上,本件使用権者が,本件使用商品などの「プラスチック製
包装用容器」に,本件使用商標を使用(甲6,7)することは,本件商標の使用
に該当するものである。
(3) 小括
以上からすると,指定商品「プラスチック製包装用容器」について,本件使用
権者による本件商標の使用の事実は認められないとした本件審決の判断は誤りで
あって,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1) 本件商標と本件使用商標との同一性について
ア 原告は,本件商標「ECOPAC」は,本件使用商標「エコパック」と同様
に,「環境に優しい包装」の観念を有すると主張するが,その裏付けに欠けるもの
である。
すなわち,海外において「ECOPAC」の使用例(甲3)があるからといって,
我が国において「ECOPAC」が「環境に優しい包装」という意味合いで一般的
に使用されているとはいえないし,「エコパック」と「ECOPAC」がともに記
載されている例(甲4)があったとしても,そのことが片仮名の「エコパック」か
ら欧文字の「ECOPAC」が想起されることを必ずしも意味するものではない。
実際,「ECOPAC」は,運送業を営む会社の社名や省エネルギーシステムの
名称として用いられており(甲4),「ECO」をその構成に含むことから,環境
技術や内燃機関用冷却液の名称など,環境関連の商品・役務等を意味する場合はあ
っても,およそ,それらの使用からは「環境に優しい包装」という意味合いは生じ
得ない。
イ 原告自身,本件商標の登録審査における意見書(乙2),拒絶査定不服審判
請求書(乙3),本件商標に対する登録異議申立てにおける答弁書(乙4)におい
て繰り返し主張しているとおり,本件商標「ECOPAC」は,「パック」につい
て,一般的には「PACK」と表記されるところを,あえて「PAC」と表記する独特
の綴りで構成され,全体として特定の観念を生じ得ない造語よりなるものというべ
きものである。
また,拒絶査定不服審判における審決(乙5)及び登録異議申立てにおける決定
(乙6)では,「本願商標は,「エコパック」と一連にのみ称呼され特定の観念を
有しない造語よりなるものと判断するのが相当である。」とされている。
他方,本件使用商標「エコパック」は,その構成から,「エコロジーな包装,環
境にやさしい包装」との観念を生じることは,数多くの使用例により裏付けられて
おり,実際,本件使用権者が属する化粧品業界では,専ら「エコパック」がエコ対
応の詰替用商品を表す語として普通に採択,使用されているし(乙12),食品や
その他様々な業界においても,「経済的,あるいは環境にやさしい包装」との意味
合いで使用されているものである(乙13)。
ウ 小括
以上からすると,取引の実情を踏まえれば,本件使用商標「エコパック」からは,
「環境にやさしい包装」という観念が生じることは明らかであるのに対し,本件商
標「ECOPAC」は,前記出願経過における原告主張のとおり,特定の観念を生
じない造語であるから,両者は社会通念上同一の商標ということはできない。
(2) 本件使用商標の使用形態について
ア 本件使用商標「エコパック」を,商品の包装容器に使用した場合,商品の品
質又は商品の包装について普通に用いられる方法で表示するものであって,商品の
出所を表示する機能を果たし得ないことは本件審決が指摘するとおりである。
使用された商標そのものが,出所識別機能を果たしていない場合には,登録商標
の使用とは認められないものというべきであり,商標法50条1項の「登録商標の
使用」は,識別標識としての使用に限定されないとする原告の主張は失当である。
イ 小括
以上からすると,本件商標から,「環境にやさしい包装」という観念が生じたと
しても,本件使用権者による本件使用商標の使用は,商品の品質を普通に用いられ
る方法で表示するものであって,当該商品の出所を表示する機能を果たし得ないか
ら,本件商標の使用とは認められない。
2 取消事由2(原告が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使
用していないとした判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 原告と卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引について
ア 本件審決は,原告と卸売先(以下「本件卸売先」という。)との間のプラ
スチック製包装用容器バイオタッチ 800(以下「バイオタッチ 800」という。)
の取引では,「BIOTCH SHCO800JP 95853593」又は「SHCO 800JP 95853593」の記
載により取引されていたから,原告は指定商品「プラスチック製包装用容器」に
ついて,本件商標を使用したことを証明していないとする。
しかしながら,原告は,「バイオタッチ 800」との名称で取引されているプラ
スチック製包装用容器を外装段ボール箱に梱包し,当該段ボール箱の表面に,
「ECOPAC(エコパック)」なる商標を付して,得意先である本件卸売先に
納品しているのである。このような納品形態は,「口付個別規格書」(以下「本
件規格書」という。甲8)に基づいて行われたが,同規格書の「外装ダンボール
種」の欄(外装ダンボール箱の種類を指定する欄)に,「ECOPAC」の片仮
名表記である「エコパック」の記載があることから,商標として「ECOPA
C」が付された外装段ボール箱(以下「本件段ボール箱」という。)を使用して,
納品されているものといえる(甲9)。
イ 取消事由1について先に指摘したとおり,商標法50条1項の「登録商標
の使用」とは,商標がその指定商品について何らかの態様で使用されていれば足
り,識別標識としての使用までは必要ないと解すべきである。
したがって,本件商標の指定商品「プラスチック製包装用容器」を収納した本
件段ボール箱に,本件商標を付して顧客に配送する行為が,商標法50条1項所
定の「指定商品についての登録商標の使用」に該当することは明らかである。
なお,本件審決は,本件段ボール箱に本件商標を付した点について,紙製包装
用容器に本件商標の使用をしていることを証明していないとするが,原告は,当
該段ボール箱自体についての本件商標の使用を主張しているのではなく,当該段
ボールに梱包された中味であるプラスチック製包装用容器(バイオタッチ 800)
についての本件商標の使用を主張するものであるから,本件審決の認定は誤りで
ある。
(2) 小括
以上からすると,原告は,本件卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引につ
いて,本件段ボール箱に本件商標を付して納品していたのであるから,本件商標を
使用していないとした本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1) 原告と卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引について
ア 原告は,本件卸売先との取引において,プラスチック製包装用容器について
は,「BIOTCH SHCO800JP 95853593」又は「SHCO 800JP 95853593」との品名を用い
ており,製品の管理においても,同様に品名を用いている(甲8,乙17∼19)。
また,原告は,当該プラスチック製包装用容器を,「バイオタッチ 800」と略称
していた(甲9)。
したがって,原告は,プラスチック製包装用容器について,本件商標を付して取
引していたわけではないものである。
イ 他方,バイオタッチ 800 を梱包していた本件段ボール箱の購買発注書(乙2
0),納品書(乙21),請求書(乙22)には,当該段ボール箱の品名として,
「エコパック」との記載があり,さらに,本件規格書には,外装段ボール箱の名称
として「エコパック」との記載が見られるから,原告は,プラスチック製包装用容
器を梱包するための外装段ボール箱そのものについて,「エコパック」という品名
を付して取引をしているものというべきである。
ウ 外装段ボール箱が発注者に注文品を納品するためだけに使用されており,内
容物である商品そのものについては標章が付されておらず,納品された外装段ボー
ル箱にも中身が何であるかを示す表示が存在しない場合,当該段ボール箱に標章が
付されていたとしても,収納されている商品との結びつきが著しく希薄であり,収
納されている商品について商標として付されたと解するのは困難であるから,商品
が収納されている段ボール箱に標章を付す行為は,商標法2条3項1号の「商品又
は商品の包装に標章を付する行為」には当たらず,また,これを発注者に納品して
も,同項2号の「商品の包装に標章を付したものを譲渡等する行為」には当たらな
いものというべきである。
したがって,梱包された中身であるバイオタッチ 800 自体には,本件商標が付さ
れておらず,本件段ボール箱にも中身が何であるかを示す表示が存在せず,同段ボ
ール箱のみに本件商標が付されているだけでは,商標法2条3項1号の「商品又は
商品の包装に標章を付する行為」には該当しないものというべきである。
原告は,商標法50条1項の「登録商標の使用」とは,識別標識としての使用
までは必要ないと主張するが,取消事由1について先に述べたとおり,原告の主
張は失当である。
(2) 小括
以上からすると,本件商標の指定商品であるプラスチック製包装用容器を梱包す
る本件段ボール箱の表面に,「ECOPAC(エコパック)」を付す行為は,プラ
スチック製包装用容器についての本件商標の使用には該当しない。
したがって,本件審決の判断は相当である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件使用権者が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件
商標を使用していないとした判断の誤り)について
(1) 本件商標と本件使用商標との同一性について
ア 本件使用商標の称呼及び観念について
本件使用商標は,「エコパック」の片仮名文字を横書きにしてなるものであり,
その構成文字に応じて「エコパック」の称呼を生じるものである。
そして,近時,「ECO」,「エコ」が「ecology」,「エコロジー」あるいは
「economical」,「エコノミカル」の略称として通用していることは,周知であ
るということができる。
また,「パック」が,「包装容器」の略称として通用していることも,同様に
周知であるということができる。
さらに,近時の環境保護に対する意識の高まりを受けて,環境に配慮し,かつ,
経済的な容器や包装が用いられるようになっている(甲2の21,甲4の4,5,
8,9,11,乙7∼乙13の26)という取引の実情を考慮すると,包装用容器
類の取引者及び需要者の間において,「エコパック」は,「経済的で,環境に配慮
した包装用容器」を意味する語として定着しているものと認めることができる。
したがって,本件使用商標「エコパック」は,「経済的で,環境に配慮した包装
用容器」という観念を有するものということができる。
イ 本件商標の称呼について
本件商標は,「ECOPAC」の欧文字を同書,同大,等間隔に構成上一体的
に表示してなり,その構成文字に相応して「エコパック」の称呼を生ずるもので
ある。
ウ 本件商標「ECOPAC」の観念について
(ア) 「ecology」と「package」あるいは「pack」の省略形について
原告は,本件商標「ECOPAC」は,「ecology」の省略形の「ECO」の欧文
字と「package」の省略形の「PAC」の欧文字とを結合してなるものであり,本件
使用商標と同一の観念を生じると主張する。
こ の 点 に つ い て , 前 記 の と お り , 近 時 , 「 ECO 」 が 「 ecology 」 あ る い は
「economical」の略称として通用していることは,周知であるということができる。
また,「包装容器」を示す英単語は,「package」あるいは「pack」であると
ころ,欧文字「PAC」は,「パック」と称呼されるのみならず,特にインターネ
ット取引などにおいて,「package」の省略形として使用されているという取引
の実情(甲2)を考慮すると,「PAC」についても,「包装用容器」の意味を読
み取ることが可能であるということができる。
したがって,本件商標「ECOPAC」についても,「経済的で,環境に配慮
した包装用容器」という観念を有すると解する余地がある。
(イ) 本件商標の出願経過における原告の主張について
a 拒絶理由通知に対する意見書(乙2)
原告は,本件商標の登録出願時,「エコー」の片仮名文字を普通の書体をもって
一連に横書きしてなる先願商標又は「EKCO」の欧文字と「エコー」の片仮名文
字をそれぞれ普通の書体をもって二段に横書きしてなる先願商標を引用商標として,
本件商標は商標法4条1項11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。
原告は,同拒絶理由通知に対する平成2年7月25日付け意見書において,「包
装用容器」を指称する外来語として商取引上普通に採択使用されている語は
「package」あるいは「pack」であるところ,本件商標(出願経過に関する認定に
おいても,「本願商標」ではなく,「本件商標」という。以下同じ。)の構成中,
「PAC」の文字は,指定商品との関係より看取しても,指定商品の品質,用途,
用法等を直接記述するものとはいい得ない事情があることを勘案すると,本件商標
は,特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の称呼のみ
生じる特定の観念を生じ得ない造語よりなるものと主張していた。
b 拒絶査定不服審判における原告の主張(乙3)
原告は,本件商標の登録出願が引用商標と「エコ」と「エコー」の称呼において
まぎらわしい類似の商標であるとしてされた拒絶査定に対し,拒絶査定不服審判を
申し立てた。
同審判手続において,原告は,拒絶理由通知に対する意見書における主張と同様,
本件商標は,特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の
称呼のみ生じる特定の観念を生じ得ない造語よりなるものであり,本件商標を「E
CO」と「PAC」に分離し,「ECO」の文字部分のみを抽出して考察しなけれ
ばならない特段の理由は存在しないなどと主張した。
特許庁は,平成9年8月27日,本件商標は,原告の主張するとおり,「エコパ
ック」と一連にのみ称呼され,特定の観念を有しない造語よりなるものと判断する
ことが相当であるとして,拒絶査定を取消し,登録すべきものとする旨の審決をし
た(乙5)。
c 商標登録異議の申立てに対する原告の主張(乙4)
本件商標の登録査定に対し,商標登録異議の申立てがされた。異議申立人は,本
件商標を構成する「ECOPAC」の文字は,「ecology」と「package」との合
成語を想起させ,指定商品との関係において,「環境保護に十分配慮した包装容
器」を指称する普通名称あるいはそのような容器の品質表示としてのみ認識され
るから,本件商標を指定商品に使用した場合には,自他商品識別機能を果たし得
ず,それ以外の商品に使用した場合には商品の品質の誤認を生じさせるから,商
標法3条1項1号,3号及び同法4条1項16号に該当すると主張するとともに,
本件商標は,引用商標と類似の商標であると主張した。
これに対し,原告は,本件商標は,「ECO」と「PAC」とに分離されるも
のではないし,仮に個々に看取したとしても,「ECO」の文字が「ecology」の
略称を表示するものとして普通一般に採択使用されている事実はなく,また,「包
装用容器」を指称する外来語として,商品取引上,普通に採択使用されている語は,
「package」あるいは「pack」であるから,本件商標の「PAC」とは構成を異
にするものである,「ECO」と「PAC」部分が結合された「ECOPAC」
と一連と連綴した構成よりなる本件商標は,「環境保護に十分配慮した包装容
器」の意味合いを指称するものではないし,包装用容器の普通名称又は品質等を
表示するものとして取引者及び需要者が普通に採択使用している事実はなく,原
告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するもので
あるなどと主張した。
特許庁は,平成9年8月27日,「エコパック」,「ECOPAC」のいずれ
も,「環境保護に十分配慮した包装用容器」について普通名称又は品質を表示す
るものとして使用されている事実を認めることはできず,また,本件商標は,原
告の主張するとおり,「エコパック」と一連にのみ称呼され,特定の観念を有し
ない造語であり,観念については比較することができないから,引用商標にも類
似しないと判断し,登録を維持する旨の決定をした(乙6)。
(2) 検討
先に指摘したとおり,現在において,本件使用商標「エコパック」は,「経済的
で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有するものである。
また,本件商標「ECOPAC」は,「エコパック」の称呼を有するから,「包
装容器」を意味する英単語は,「package」あるいは「pack」であることを考慮し
ても,取引者及び需要者は,本件商標の構成部分「ECO」からは「ecology」の
省 略 形 の 「 ECO 」 を 想 起 し , さ ら に , 「 P A C 」 か ら は 「 包 装 容 器 」 で あ る
「pack」を想起することにより,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という
観念を有すると解する余地があることは先に指摘したとおりである。
しかしながら,原告は,そもそも,本件商標の出願経過において,本件商標は,
特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の称呼のみ生じ
る特定の観念を生じ得ない造語よりなるものであることを繰り返し主張し,拒絶査
定不服審判を経て,登録査定されているものである。
特に,原告は,商標登録異議の審理において,本件商標である「ECOPAC」
は,「ecology」と「package」との合成語を想起させ,指定商品との関係において,
「環境保護に十分配慮した包装容器」を指称する普通名称あるいはそのような容器
の品質表示としてのみ認識されるとの異議申立人の主張に対し,本件商標は,「E
CO」と「PAC」とに分離されるものではないし,仮に個々に看取したとしても,
「ECO」の文字が「ecology」の略称を表示するものとして普通一般に採択使用
されている事実はなく,また,「包装用容器」を指称する外来語として商品取引上,
普通に採択使用されている語は,「package」あるいは「pack」であるから,本件
商標の「PAC」とは構成を異にするものであって,「ECOPAC」と一連と連
綴した構成よりなる本件商標は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合い
を指称するものではなく,取引者及び需要者は,原告により創作された特定の観念
を生じ得ない造語として把握し,理解するものであるなどと主張しているのである。
そして,特許庁において,原告の主張が容れられて,本件商標の登録査定を受け,
さらに,登録を維持すべき旨の決定を受けているのである。
したがって,拒絶査定不服審判等における争点と,本件訴訟の取消事由とは必ず
しも一致するものではないことや,本件商標と本件使用商標との社会通念上の同一
性の判断において,本件商標の登録出願当時(昭和63年)及び拒絶査定不服審判
の審決当時(平成9年)と比較して,現在においては環境保護に関する意識が高ま
っているという社会の情勢を考慮するとしても,原告自身,本件商標の出願経過に
おいて,「PAC」は「包装容器」を意味する外来語とは構成を異にするものであ
って,「ECO」と一連と連綴した構成よりなる本件商標「ECOPAC」は,
「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく,取引者
及び需要者は,原告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,
理解するものであると明確に主張している以上,本件において,原告が,その前言
を翻して,本件商標から「環境に優しい包装」の観念が生じるなどと主張すること
は,禁反言則に反し,許されないものというべきである。
そうすると,本件商標と本件使用商標とが,称呼及び観念において同一であるこ
とを前提として,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一であるとする原告の
主張を採用することはできない。
(3) 小括
以上からすると,原告が,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一である
と主張することは許されないから,本件使用権者による本件使用商標の使用をも
って,本件商標について,商標法50条1項の「登録商標の使用」に該当するも
のと認めることはできない。
2 取消事由2(原告が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使
用していないとした判断の誤り)について
(1) 原告と卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引について
ア 原告は,本件卸売先との間で,同社の製品を充填するプラスチック製包装
用容器(バイオタッチ 800)に関する取引を行っていた。
原告が,平成19年6月10日に撮影したとするバイオタッチ 800 の梱包状況
を示す写真(甲9の1,2。以下,総称して「本件写真」という。)には,外装
段ボール箱(本件段ボール箱)の側面に,原告の会社名とともに,「ECOPA
C®(エコパック)」と記載されていた。
イ 本件卸売先が,平成19年8月21日,同月31日,同年9月6日,同年1
0月4日付けでそれぞれ作成し,原告に送付した各発注書には,商品名として,
「95853593 PO BIOTCH SH CO 800 JP」と記載されていた(乙15)。
ウ 原告の営業担当者が,本件卸売先に対して送信した平成19年10月16日
付け電子メール(以下「本件メール」という。甲9の3)には,「…弊社にて口付
けいたしますバイオタッチ 800ml について,弊社の梱包形態とダンボールの写真を
添付致します。現行品と区別するとの事でしたので,ダンボールの違いで,管理可
能と思われます。」と記載されていた。
エ 原告が,本件卸売先との取引に関し,原告の名張事業所に対して作成した平
成19年10月16日付け作業註文書には,品名欄に「SHCO 800JP 95853593」と
記載されていた(乙19)。
オ 原告が,本件卸売先との取引に関し,平成19年10月17日付けで作成し
た口付個別規格書(本件規格書)には,商品名欄に「SHCO 800JP 95853593」,外装
段ボール種欄に「エコパック」と記載されていた(甲8)。
カ 原告が,平成19年10月18日,同月19日,22日ないし24日付け
でそれぞれ作成した製品LOT表には,品名欄に「SHCO 800JP 95853593」と記
載されていた(乙18)。
キ 原告が平成19年10月19日,同月22日ないし24日,26日付けで
それぞれ作成し,本件卸売先に送付した出荷御案内書には,商品名として,
「SHCO 800JP 95853593」と記載されていた(乙17)。
ク 原告と本件卸売先との取引に関し,それぞれ作成された荷物受領原票(平
成19年10月22日,同月24日ないし26日,29日本件卸売先各受領
分。)には,品名として,「PO BIOTCH SHCO 800JP」,「PO BIOTCH SHCO 800
JP 95853593」などと記載されていた(乙16)。
ケ 原告と,プラスチック製包装容器用外装段ボール箱の購入先との間におけ
る取引関係書類(発注書,納品書等)には,外装段ボール箱の品名として,「エ
コパック」とそれぞれ記載されていた(乙20∼22)。
(2) 検討
ア 原告は,本件卸売先との間において,「バイオタッチ 800」という名称で取
引されているプラスチック製包装用容器の外装段ボール箱(本件段ボール箱)に,
本件商標を付していることをもって,商標法50条 1 項の「登録商標の使用」に該
当するものであると主張するものであって,プラスチック製包装用容器自体に本件
商標が付されていると主張するものではない。
実際,本件卸売先との取引において作成された各書類には,いずれも商品名と
しては,「PO BIOTCH SHCO 800 JP 95853593」,「SHCO 800JP 95853593」等と
記載され,本件メールにも,「バイオタッチ 800ml」と記載されていたものであ
り,本件段ボール箱以外に本件商標「ECOPAC」が表示されていたことはな
い。
イ そして,本件段ボール箱には,確かに本件商標「ECOPAC」が表示さ
れていたが,本件段ボール箱は,バイオタッチ 800 の名称で取引されているプラ
スチック製包装用容器を注文主である本件卸売先に納品するために使用されてい
るものと認め得るにすぎない。本件段ボール箱には,梱包された商品がどのよう
なものであるかに関する表示はされておらず,また,本件写真によると,梱包さ
れた商品は,注文主である本件卸売先自身が内容物を充填し,各種印刷を施した
上で商品として販売することが予定されているようであり,その外面には,何の
記載もされていないものであって,梱包された商品にも,本件商標「ECOPA
C」が表示されているものではない。
したがって,バイオタッチ 800 が収納されている本件段ボール箱に本件商標
「ECOPAC」が表示されていたとしても,内容物であるバイオタッチ 800 と
の関連性はなく,当該表示がバイオタッチ 800 の出所を表示しているものという
ことはできないから,バイオタッチ 800 という名称のプラスチック製包装用容器
について,本件商標が使用されているものという余地もなく,商標法2条3項1
号の「商品…に標章を付する行為」には該当しない。
この点について,原告は,商標法50条1項にいう「登録商標の使用」とは,
商標がその指定商品について何らかの態様で使用されていれば足りると主張する
が,そもそもバイオタッチの容器であるプラスチック製包装用容器に本件商標が
使用されているという余地がないのであるから,原告の主張は,その前提を欠き,
採用することができない。
ウ 以上からすると,本件指定商品のプラスチック製包装用容器ではなく,これ
を梱包するにすぎない外装段ボール箱の表面に,商標「ECOPAC(エコパッ
ク)」を付したからといって,本件商標の指定商品であるプラスチック製包装用容
器に本件商標を使用したものと認めることはできない。
3 小括
以上の検討結果によれば,本件商標の指定商品中,第20類「プラスチック製包
装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」について,本件使
用権者及び原告の使用を認めなかった本件審決の判断は,これを是認し得ることが
明らかである。
原告は,本件商標の指定商品中,第16類「紙製包装用容器」についての使用に
関し,何ら主張していない。
したがって,本件商標の指定商品中,第16類「紙製包装用容器」及び第20類
「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容
器」について不使用取消しを認めた本件審決の判断に,誤りはない。
4 結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 本 多 知 成
裁判官 荒 井 章 光

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

来週の知財セミナー (3月10日~3月16日)

3月11日(火) - 東京 港区

特許調査の第一歩

3月12日(水) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅰ)

3月12日(水) - 愛知 名古屋市中区

技術情報管理と秘密保持契約

3月13日(木) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅱ)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

IPボランチ国際特許事務所

東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目35-14-202 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 鑑定 コンサルティング 

西川国際特許事務所

〒170-0013 東京都豊島区東池袋3丁目9-10 池袋FNビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

日本知財サービス 特許出願・商標登録事務所

〒106-6111 東京都港区六本木6丁目10番1号 六本木ヒルズ森タワー 11階 横浜駅前オフィス:  〒220-0004  神奈川県横浜市西区北幸1丁目11ー1 水信ビル 7階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング