平成22(行ケ)10099審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成22年6月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告Y大野詩木 原告コスメテックス
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法令 |
商標権
商標法53条1項7回 商標法51条1回 商標法3条1項3号1回
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キーワード |
審決38回 商標権33回 許諾14回 侵害5回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の有する本件商標に係る
商標権の通常使用権者が原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある使用を
したとして,商標法53条1項に基づいて,本件商標に係る商標登録を取り消すこ
とを求める原告の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別
紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の
とおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 |
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判決文
平成22年6月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10099号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成22年6月9日
判 決
原 告 コ ス メ テ ッ ク ス
ロ ー ラ ン ド 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 石 川 幸 吉
被 告 Y
同訴訟代理人弁理士 高 野 登 志 雄
大 野 詩 木
中 嶋 真 也
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が取消2009−300903号事件について平成22年2月23日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の有する本件商標に係る
商標権の通常使用権者が原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある使用を
したとして,商標法53条1項に基づいて,本件商標に係る商標登録を取り消すこ
とを求める原告の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別
紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の
とおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
A 本件商標(甲2−1−1及び2)
商標登録番号:第4073391号
商標の構成:
指定商品:第3類「化粧品」
商標登録出願日:平成8年5月14日
出願人:株式会社リバティー
登録査定日:平成9年9月5日
設定登録日:平成9年10月24日
被告に対する移転登録日:平成13年5月16日
存続期間更新登録日:平成19年10月9日
A 審判請求
審判請求日:平成21年8月10日(取消2009−300903号)
審決日:平成22年2月23日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
原告に対する審決謄本送達日:平成22年3月5日
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,株式会社ニッセン(以下「ニッセン」という。)
及び有限会社天意和ゴールド(以下「天意和ゴールド」という。)が「薬用ヴァー
ジン&ピンク」又は「ヴァージン&ピンク」なる商標(以下,総称して「使用商標
1」という。)を使用し,また,天意和ゴールドが,「ヴァージンピンク」なる商
標(以下「使用商標2」という。)を使用し,それぞれ化粧品(以下「本件使用商
品」という。)の広告をしたことが認められるが,ニッセン及び天意和ゴールドは,
本件商標に係る商標権の通常使用権者とは認められないから,本件商標に係る商標
権の通常使用権者が他人の業務に係る商品と混同を生じる使用をしたとは認められ
ない,というものである。
なお,本件審決は,その理由中において,使用商標1については,本件商標に類
似するが,原告の業務に係る商品を表示する商標であると原告が主張する別紙引用
商標目録記載1及び2の商標(以下,順に「引用商標1」及び「引用商標2」とい
い,総称して「引用商標」という。)には類似せず,しかも,引用商標が原告の周
知表示であるとも認められないとし,また,使用商標2については,本件商標とは
類似しないが,引用商標とは類似し,天意和ゴールドが平成20年8月ころに販売
した本件使用商品は,取引者及び需要者をして,原告の商品とその出所について混
同を生じさせるおそれがあったものということができると付言している。
3 取消事由
A ニッセン及び天意和ゴールドが通常使用権者に該当しないとした判断の誤り
(取消事由1)
A 引用商標が原告の周知商標でないとした判断の誤り(取消事由2)
A 本件商標と使用商標2との類否判断の誤り(取消事由3)
A 引用商標と使用商標1との類否判断の誤り(取消事由4)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(ニッセン及び天意和ゴールドが通常使用権者に該当しないとし
た判断の誤り)について
〔原告の主張〕
A 商標法53条1項の趣旨について
ア 本件審決は,ニッセン及び天意和ゴールドが商品の販売において原告の商品
(以下「原告商品」という。)との誤認混同行為を行っていることを認めながら,
ニッセン及び天意和ゴールドは,日本全国に少なからず存在するであろう小売業者
の一つといえる者であり,本件商標に係る商標権の通常使用権者とは認められない
と判断した。
イ 商標法51条は,商標権者自らが故意により類似商標等の使用を行い,その
結果他人の業務に係る商品等と混同を生じさせたときは,商標権者としての商標の
正当使用義務に違反するのみならず,他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害す
るものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとし,商標
権を不法に行使する者に対して制裁を課すとともに,第三者の権利及び一般公衆の
利益を保護しようとしたものである(最高裁昭和58年(行ツ)第31号同61年
4月22日第三小法廷判決・裁判集民事147号587頁参照)。
ウ しかるところ,被告は,本件使用商品の製造販売を全く行うことなく,本件
商標の使用許諾によって収入を得ており,自己の信用とは関係なく原告商品の信用
にただ乗りし,原告による商標の権利行使を妨害しているものである。
このような実情からすると,本件商標の使用許諾は公衆を欺瞞するものであり,
本件商標に係る商標権は,商標法53条1項あるいは同法51条1項の適用を受け
るべきものである。
実際,インターネット検索において,引用商標「ヴァージンピンク」や「バージ
ンピンク」を検索すると,本件商標を付した商品も複数検索されるが,その中には,
「前から気になっているシミとかは余計に目立つような気がします。」「バージン
ピンクは効果はないですよ」などという書き込みがされており(甲45),劣悪な
商品が混入することにより,原告商品の信用が毀損されている。
A 本件審決における証拠判断は社会通念に反することについて
ア 本件審決は,ニッセンの販売に係る商品はさくら薬品株式会社(以下「さく
ら薬品」という。)からの提案により採用した商品であり,同社が商標権者より許
諾を受けて使用しているので,原告の商標権を侵害するものではないとのニッセン
の回答(以下「ニッセン回答」という。甲7−1−1及び2)から,ニッセンは,
さくら薬品から本件使用商品の仕入れをし,これを単に販売したにすぎないとする。
しかしながら,ニッセン回答には,通常使用権者でなければ知り得ない事項であ
る商標権者(被告)の名前と本件商標の登録番号まで明記してあり,ニッセン回答
から,ニッセンを単なる販売業者にすぎないとする本件審決の証拠判断は,証拠法
則にも,社会通念にも反するものである。
また,ニッセン回答においては,さくら薬品は,本件使用商品の販売に関する提
案者とされ,同商品の仕入先については,「弊社仕入先」と記載するのみで,これ
を明らかにしていない。被告の主張を前提とすると,さくら薬品は本件商標に係る
商標権の通常使用権者であり,本件使用商品を製造してニッセンに卸している製造
卸売業者ということになるが,本件使用商品にはさくら薬品の名は全く表示されて
いない。登録商標を付した商品を卸して販売業者の名において販売させる場合,そ
の販売業者に登録商標の使用許諾を与えないことはあり得ない。
まして,本件審決が,「ニッセンは,法的に問題のある商品については一切取り
扱わない方針である」との記載から,ニッセンは違法行為をすることはないと判断
したことは,明らかに常識に反するものである。しかも,さくら薬品は,平成15
年10月8日に資本金100万円で設立され,その後本店の所在地を数回移転した
のみならず,設立当初の役員6名のうち,代表取締役を含む4名が辞任するなど,
到底,信用のおける会社ではない。ニッセン回答は,「18年間販売の事実につき
ましても,弊社仕入先より確約をいただいております。」とするが,ニッセン回答
の当時,さくら薬品は設立後5年しか経過しておらず,18年間の販売実績がある
とする余地はなく,回答内容が虚偽であることも明らかである。
この点につき,被告は,株式会社リバティー(以下「リバティー社」という。)
の販売実績を含めて回答したものであると主張するが,18年間の販売実績とは,
平成2年からの実績を意味するところ,リバティー社が株式会社エムツウプロダク
ツ(以下「エムツウ社」という。)から原告商品の販売代理店としての地位を引き
継いだのは,平成3年(甲29)であるから,リバティー社の販売実績のみでは足
りないものである。18年間の販売実績とは,原告商品の販売実績と一致するもの
であり,ニッセンにおける本件使用商品の宣伝文句は,原告商品の販売実績にただ
乗りし,原告商品と誤認混同を生じさせる意図を有しているものである。
イ 本件審決は,天意和ゴールドによる誤認混同行為についても,同社は本件使
用商品の製造委託を受けた太陽製薬から商品を受け取り,単に販売のみを行ってい
たものと推認されるとした。
しかしながら,太陽製薬の回答(以下「太陽製薬回答」という。甲7−2−1及
び2)は,本件使用商品については,本件商標をカタカナ書き(ヴァージン&ピン
ク)にした登録第4224557号商標(被告が商標権者である。以下,「本件カ
タカナ商標」という。甲2−2−1及び2)を有するという株式会社日本薬粧(以
下「日本薬粧」という。)の依頼により製造し,同社にのみ全品販売している,日
本薬粧の依頼により天意和ゴールドに商品を直送したことがあるが,商標に関して
は商標権者と話し合ってほしい,日本薬粧は破産手続に入っているなどと,原告を
嘲笑するような内容である。
しかも,被告は,本件カタカナ商標を付した商品を,10年間にわたり,天意和
ゴールドに出荷している旨の太陽製薬回答(乙3)や,平成11年10月から現在
に至るまで,本件使用商品を販売しているが,その間,原告商品との誤注文を受け
たことがなく,原告商品を取り扱ったこともない旨の天意和ゴールド作成の証明書
(乙2)を,それぞれ書証として提出しているから,被告と天意和ゴールドとの間
には,何らかの関係が存すること,すなわち天意和ゴールドが被告の通常使用権者
であることは明らかである。
なお,以上の各回答書の内容は明らかに虚偽であるが,その記載内容からしても,
太陽製薬回答の内容は虚偽であって,天意和ゴールドが本件使用商品販売システム
の中核を担っているものと推測される。
A 小括
以上からすると,ニッセン及び天意和ゴールドは,いずれも本件商標に係る商標
権の通常使用権者であるというべきである。
〔被告の主張〕
A 商標法53条1項の趣旨について
ニッセン及び天意和ゴールドは,本件使用商品を仕入れ,カタログ販売するいわ
ゆる通販小売業者にすぎず,本件商標に係る商標権の通常使用権者ではない。
したがって,商標法53条1項が適用される前提を欠くものである。
なお,原告は,同法51条についても主張するが,本件において,同条適用の余
地はない。
A 本件審決における証拠判断は社会通念に反することについて
この点に関する本件審決の事実認定及び証拠判断は,以下のとおり,何ら社会通
念に反するものではない。
ア ニッセン回答に,本件商標の商標権者である被告と登録番号が明記されたの
は,通販業者であるニッセンが,商品を仕入れて小売するに当たり,提案者のさく
ら薬品から商標権者等の情報を入手したからにすぎない。したがって,これらの情
報が記載されているからといって,通常使用権者であると認めることはできない。
イ 原告は,さくら薬品の役員の減少等を根拠に,同社が信用の置ける会社では
ないなどと主張するが,役員数と会社の信用とは無関係であって,原告の主張こそ,
むしろ社会通念に反するものである。
ウ 原告について,引用商標の使用実績(原告商品の販売実績)が認められない
以上,ニッセンや天意和ゴールドの「18年間のロングセラー」等のキャッチコピ
ーが,原告の信用にただ乗りする意図を有するものではないことは明らかである。
なお,原告が指摘する,ニッセン回答における「18年間の販売実績」なる表現
は,リバティー社による販売実績を含む趣旨のものと思われる。
エ 原告は,天井和ゴールドの証明書(乙2)や太陽製薬の回答書(乙3)が被
告から書証として提出されていることから,天意和ゴールドが通常使用権者である
などと主張する。
しかしながら,被告は,これら各文書を,通常使用権者であるさくら薬品を介し
て小売業者である天意和ゴールドから入手したにすぎず,これらをもって天意和ゴ
ールドが通常使用権者であるといえないことは明らかである。
A 小括
以上からすると,ニッセン及び天意和ゴールドが本件商標に係る商標権の通常
使用権者とは認められないとした本件審決の判断は正当である。
2 取消事由2(引用商標が原告の周知商標でないとした判断の誤り)について
〔原告の主張〕
A 原告における引用商標使用の経緯
原告は,昭和62年2月ころ,引用商標を発案し,美肌を保持する化粧用ジェル
である原告商品に使用した。
引用商標を付した原告商品は,けがれを知らぬ処女の桃色の肌をイメージして,
爆発的な人気を得た。
原告商品は,エムツウ社やリバティー社などの販売代理店を通じて大々的に販売
され,取引者及び需要者の間において,引用商標は,原告の周知商標として認識さ
れるに至った。
A 本件審決の認定判断の是非
ア 本件審決は,原告が,エムツウ社及びリバティー社が原告の販売代理店であ
った事実を示す証拠として提出した女性週刊誌の広告(甲8∼27)は,不鮮明で
あるなどとして,引用商標の著名性を立証する証拠として採用できないとする。
しかしながら,十数年以上の年月を経過した縮小コピーではあるものの,同各証
拠には,雑誌名や発行日等が明確に記載され,不鮮明ではあるものの,引用商標が
判読できるのであるから,証拠能力を否定することは相当ではない。
この宣伝広告活動は,エムツウ社及びリバティー社が,原告の販売代理店として,
原告の責任において製造した原告商品を販売するに当たり,原告の検閲を受け,そ
の管理下において,原告のために行ったものであり,その宣伝広告費についても奨
励費として原告から支払われた補助金によって補填されている。
また,これら雑誌広告類に加え,リバティー社が原告の販売代理店として利用し
ていた当時の容器表示印刷の版下(以下,総称して「本件版下」という。甲33∼
甲34の3)も存在しており,同社が原告の販売代理店であったことは明らかであ
る。
当時,原告の販売代理店として,原告商品を販売していたのは,エムツウ社やリ
バティー社だけではなく,有限会社A化学(以下「A化学」という。)を始めとす
る多数の小売業者等もそれぞれ独自の宣伝広告を行って販売しており,原告商品を
開発し,その製造を行っているのが原告であることは,業界で知らぬ者はなかった
のである。
イ 本件審決は,株式会社ベルトゥリー・エンタープライズ(以下「エンタープラ
イズ社」という。)が原告の販売代理店であることを認めるに足りる証拠はないとす
るが,当該事実は,同社作成の証明書(甲44)から明らかである。
ウ そのほか,本件審決は,化粧品製造品目追加許可申請書及び許可書(甲3−
1∼甲3−3)によっては,原告商品が,原告により開発されたものであることの
証明にはならないとするが,これらの事実は原告代表者の報告書(甲28)からも
明らかであるし,被告も,原告商品が原告により開発されたことについては争わな
いのであるから,本件審決の認定判断は明らかに誤りである。
A 小括
以上からすると,引用商標は,原告の周知商標として,取引者及び需要者に認識
されていたものであるから,ニッセン及び天意和ゴールドが引用商標の周知性にた
だ乗りしようとしたことは明らかである。
〔被告の主張〕
A 原告の商標としての引用商標の周知性
ア 原告は,引用商標は原告の周知商標であると主張するが,「ヴァージンピン
ク」なる商標(引用商標)は,被告が代表者であったリバティー社の周知商標であ
る。
すなわち,エムツウ社は,平成元年6月ころから,引用商標を付した化粧品の販
売を開始し,それ以降,週刊誌上に定期的に広告を掲載して宣伝広告活動を行った。
リバティー社も,平成3年2月1日付けで,エムツウ社より引用商標を化粧品に
ついて使用する権利を譲り受け(甲29),その後も継続して,引用商標を付した
化粧品を販売すると共に,週刊誌等やテレビを通じて全国的な宣伝広告活動を行っ
た(甲8∼27,乙6∼17)。
このような宣伝広告活動の実績により,引用商標は,むしろリバティー社の業務
に係る化粧品を表示するものとして,遅くとも平成6年ころには取引者及び需要者
の間に広く認識され,いわゆる周知商標となっていたものである。
イ リバティー社は,引用商標の使用実績を根拠に,平成6年,不正競争防止法
に基づき,A化学を債務者として,東京地方裁判所に仮処分命令の申立て(東京地
方裁判所平成6年(ヨ)第22030号)をした。リバティー社とA化学とは,同
事件において,「ヴァージンピンク」なる商標は,リバティー社が使用し,A化学
及びその利害関係人(「A」「A商店」「西日本エラン販売」「西日本エラン販売
株式会社」及びその他のいかなる呼称を用いる場合も含む。)は,平成8年3月6
日以降,化粧品に「ヴァージンピンク」なる商標を使用せず,A化学は,医薬部外
品製造承認申請における名称を「ヴァージンピンク」から「バージンビンク」に変
更する旨の和解(乙1)をした。これにより,A化学及びその利害関係人は,平成
8年3月6日以降,化粧品に「ヴァージンピンク」なる商標を適法に使用する権原
を有しないことが確定したものである。原告とA化学とは,密接な関係を有してお
り,実質的に同一であるというべきであるし,少なくとも,原告は,同和解におけ
る利害関係人に該当するものである。したがって,A化学及び原告が,平成8年3
月6日以降,化粧品に「ヴァージンピンク」なる商標を使用することはあり得ない。
ウ 以上からすると,原告には,「ヴァージンピンク」なる商標を使用する権原
がないのであるから,商標法53条1項により保護されるべき信用も,妨害される
とする権利自体も存在しない。
原告による本件審判請求は,むしろ権利の濫用に該当するものというべきである。
A 本件審決の認定判断の是非
ア 雑誌広告(甲8∼27)は,いずれもリバティー社の雑誌広告であり,原告
の表示は一切存在しない。したがって,原告提出の各書証によっては,引用商標が
原告の周知著名商標であったことを認定することはできず,出所の混同は生じない
とした本件審決の判断は正当である。
イ 本件版下にも,原告が製造元であることを示す表示は一切存在せず,原告が
引用商標を使用した商品を製造販売した事実を認定できないことは明らかである。
原告が製造元ではない以上,リバティー社やエムツウ社等が原告の販売代理店と
なることもあり得ない。
A 小括
以上からすると,引用商標は,原告の周知商標とは認められないとした本件審決
の認定判断は相当である。
3 取消事由3(本件商標と使用商標2との類否判断の誤り)について
〔原告の主張〕
A 商標の類否判断の基準
最高裁判例において,商標の類否に関する判断基準については,「著名性及び類
似性のみならず,引用商標の独創性や,取引者及び需要者において普通に払われる
注意力をも判断の要素とすべき」ものとされている(最高裁平成10年(行ヒ)第
85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
A 本件審決の類否判断の是非
ア 称呼及び外観について
本件審決は,本件商標を構成する「Virgin」と「Pink」の各語を「&」で並列的
に結合することにより,「おとめと桃色」なる意味合いを容易に想起することがで
きるが,これは,観念上判然としないものであるから,構成全体をもって,一体不
可分の造語を表したものと認識されるとし,さらに,かかる造語性を根拠として,
本件商標は,「ヴァージンアンドピンク」又は「バージンアンドピンク」の一連の
称呼のみを生じるとする。
また,同様に,造語である使用商標2の称呼は,「ヴァージンピンク」であるか
ら,両商標の称呼は非類似であるとする。
しかしながら,特許庁の審査基準は,文字部分の一部が異なっていても,特徴的
部分が共通していれば類似の商標としており,また,結合商標の一部が特に顕著で
あれば,その部分のみが用いられても類似の商標であると定めているのであるから,
結合商標の中間部に「&」の1文字が加えられたことをもって,非類似であると解
することはできない。
「Virgin」と「Pink」とは,それぞれ,6文字と4文字の独立した意味を有する
単語で,本件商標の登録以前に,原告の商品に係る「Virgin Pink」の商標(引用
商標)が存在する以上,取引者及び需要者は,各単語の間に1文字の記号である
「&」が入ったとしても無視するか,気付かないのが通常であり,仮に気付いたと
しても,同一の出所表示であると考えるのが通常である。
しかも,特に意味を有さない記号「&」の1文字を,正確に「ア」「ン」「ド」
と称呼するとは到底考えられず,短くはない10文字の引用商標に加えて,13文
字となる本件商標について,格別なくても意味の通じる「&」が省略されるのはむ
しろ自然である。
したがって,「ヴァージンアンドピンク」が無理なく一連に称呼され,また,
「ヴァージンアンドピンク」の称呼しか生じないという本件審決の判断は,社会通
念を無視しているものというほかない。
同様に,特に意味を有さず,無視されがちな記号である「&」1文字が用いられ
ていることによって,外観が非類似であるとの判断も,相当ではない。
イ 観念について
「Virgin」と「Pink」とが,それぞれ「処女,おとめ」,「桃色,ピンク」の意
味を有することは,本件審決も認めており,同一の単語要素から成り立つ本件商標
と使用商標2が同一の観念を有することも明らかである。
被告は,本件商標及び使用商標2は,「ヴァージン」あるいは「ピンク」のみか
ら構成されるものではないから,各構成要素にそれぞれ意味があるからといって,
両商標はいずれも全体として特定の熟語的意味合いが生じない以上,両商標を観念
上比較すべくもないと主張する。
しかしながら,原告が引用商標を発案した昭和60年代において,引用商標は,
「処女の桃色」という印象を与える観念を有することから,当時の厚生省が,商品
名として不適切であると評価したため,原告は,約1年間,「エレガンスゼリー」
の商品名を用いざるを得なかったものである。
被告は,引用商標2の出願に対する拒絶理由通知について提出された意見書(乙
18)において,「ヴァージンピンク」が,格別な意味観念を認識させることのな
い造語であると主張して登録を受けていることを指摘するが,同意見書は,引用商
標2が,商標法3条1項3号(その商品の産地,販売地,品質,原材料……を普通
に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標),同法4条1項16号(商品
の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標)に該当するとの指摘に対し,
引用商標2から,商品がヴァージンピンク色の品質,原材料等の格別な意味観念を
認識させることは有り得ないので,産地,販売地や品質の誤認を招くことはないと
主張しているもので,本件における観念の対比とは無関係である。
したがって,使用商標2は,本件商標と同一の観念を有するものというべきであ
る。
ウ 原告の商標の独創性について
使用商標2は,原告が原告商品に付している引用商標と同一又は類似であるとこ
ろ,引用商標は,昭和62年2月ころに原告代表者らによって発案された極めて独
創性の高いものである。引用商標の対象商品は,美肌を保持する化粧用ジェルであ
り,けがれを知らぬ処女の桃色の肌をイメージして爆発的な人気を得てきたことか
らも,高い独創性を有することは明らかである。
A 小括
以上からすると,本件商標と使用商標2とは,称呼及び観念が類似する商標であ
り,最高裁判例における商標の類否判断に関する基準を前提としても,類似するも
のである。
そして,本件審決は,使用商標2は,引用商標と類似であるとしている。
したがって,使用商標2は,本件商標及び引用商標のいずれにも類似するもので
あって,本件使用商品に使用商標を付して販売する行為は,原告の業務に係る商品
と混同を生ずるおそれが生じるものである。
〔被告の主張〕
A 本件審決の類否判断の是非
本件商標と使用商標2は,称呼及び外観のいずれにも顕著な相違があり,観念は
比較することができないから,非類似とした本件審決の判断は相当である。
ア 称呼について
本件商標から生じる称呼は「ヴァージンアンドピンク」であり,使用商標2から
生じる称呼は「ヴァージンピンク」である。
両者の称呼には,「ア」「ン」「ド」の3音の有無という顕著な差があり,混同
のおそれなく,明瞭に聴別し得る非類似の称呼であることは明らかである。
なお,原告は,「&」の文字は,取引者及び需要者により無視されるか,気付か
れることがないから,本件商標は「ヴァージンピンク」との称呼も生じるなどと主
張するが,本件商標は,取引者及び需要者の注意を惹く中央部において,「&」マ
ークが明記されている以上,本件商標から生ずる称呼は「ヴァージンアンドピン
ク」が最も自然であることは明らかである。
イ 外観について
本件商標と使用商標2は,取引者及び需要者の注意を惹く中央部において,
「&」マークの有無という顕著な差があり,混同のおそれはなく,明確に識別し得
る非類似の外観であることは明らかである。
ウ 観念について
本件商標と使用商標2からは,特定の観念を想起することはできない。したがっ
て,観念上の類否は問題とならない。
この点につき,原告は,「ヴァージン」は「処女」の,「ピンク」は「桃色」の
意味を有するから,観念的に同一である旨主張するが,本件商標及び使用商標2と
も,「ヴァージン」のみ,あるいは「ピンク」のみから構成されるものではなく,
構成要素の個々には意味があるからといって,両商標のいずれからも全体として特
定の観念が生じ得ない以上,両商標を観念上比較することはできない。
なお,引用商標2については,出願人であったA化学が,拒絶理由通知に対する
意見書(乙18)において,「ヴァージンピンク」は,その全体として,何ら格別
な意味観念を認識させることがない造語であると主張して登録を受けているもので
ある。
エ 引用商標の独創性について
「ヴァージンピンク」なる商標程度のネーミングは,普通一般に見受けられるも
のにすぎず,なんらの独創性は認められない。「Virgin」を含む商標は,他にも多
数登録されているものである。
A 小括
以上からすると,本件商標と使用商標2とが類似しないとした本件審決の判断は
相当である。
4 取消事由4(引用商標と使用商標1との類否判断の誤り)について
〔原告の主張〕
取消事由3(本件商標と使用商標2との類否判断の誤り)において主張したとこ
ろは,引用商標と使用商標1の類否判断についても当てはまるものであって,引用
商標と使用商標1とは類似する。
したがって,使用商標1は,本件商標及び引用商標のいずれにも類似するもので
あって,本件使用商品に使用商標を付して販売する行為は,原告の業務に係る商品
と混同を生ずるおそれが生じるものである。
〔被告の主張〕
取消事由3において主張したところは,引用商標と使用商標1との類否判断につ
いても当てはまるものであって,引用商標と使用商標1とが類似しないとした本件
審決の判断は相当である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(ニッセン及び天意和ゴールドが通常使用権者に該当しないとし
た判断の誤り)について
原告は,ニッセン及び天意和ゴールドが本件商標の通常使用権者であることを前
提に,被告の本件商標に係る商標登録の取消しを求めるが,ニッセン及び天意和ゴ
ールドは,いずれも通常使用権者として商標登録原簿に登録されているものではな
く,また,本件審判請求の段階から本件訴訟の段階まで,ニッセン及び天意和ゴー
ルドが被告から本件商標の通常使用権を許諾されていたことを直接的に証明する証
拠は一切提出されていない。原告にとってみれば,そのような証拠は,仮に存在す
るとしても,第三者である被告あるいはニッセン及び天意和ゴールドが所持するも
のであるから,自ら進んで提出する余地はないが,これを踏まえ,原告は,本件に
おいては,ニッセン及び天意和ゴールドの業務形態からしても,また,ニッセン回
答及び太陽製薬回答からしても,被告がニッセン及び天意和ゴールドに本件商標の
通常使用権を許諾していたことは明らかであると主張する。そこで,原告の主張が
本件訴訟において占める意義を理解した上で,以下,原告の主張が採用し得るもの
であるか否かについて検討することとする。
A ニッセン及び天意和ゴールドの本件使用商品の販売状況
ア ニッセンは,カタログを利用した通信販売業者であるところ,2008年春
号カタログ(甲6−1−1及び2),2008年秋号カタログ(甲6−2−1及び
2),2009年春号カタログ(甲6−3−1及び2)において,本件使用商品を
掲載して販売した。
イ 天意和ゴールドは,平成20年9月2日ころ,「いいもの見つけ隊」と題す
るウェブページで,本件使用商品を掲載して販売した。同ウェブページには,本件
使用商品について,「…その人気も偽者が出回るほどの勢いですが,当店で取扱う
ヴァージンピンクは本物ですのでご安心ください」と記載された(甲6−4,弁論
の全趣旨)。
A 本件使用商品の販売に係るニッセン回答及び太陽製薬回答
ア 原告は,平成20年10月21日付けで,ニッセンに対し,通知書を送付し,
本件使用商品の商品名が,原告の有する商標権を侵害するなどと指摘した。
ニッセンは,同年11月10日付けで,原告に対し,回答書(ニッセン回答)を
送付した。
ニッセンは,同回答において,ニッセンの販売に係る本件使用商品は,さくら薬
品からの提案により採用した商品で,同商品の商品名は登録商標であり,同社が商
標権者より許諾を受けて使用しているので,原告の商標権を侵害するものではない
こと,カタログにおける,18年間のロングセラーとの記載は,ニッセンで18年
間販売しているという意味ではなく,仕入先であるさくら薬品から確約された情報
であることなどを回答するとともに,本件商標及び本件カタカナ商標の登録番号,
商標権者(被告)などを記載した(甲7−1−1及び2,弁論の全趣旨)。
なお,さくら薬品は,平成15年10月8日に設立された,医薬品及び医薬部外
品の製造並びに通信販売及び輸出入等を業とする株式会社である(甲40)。
イ また,太陽製薬は,平成20年11月13日付け及び同月20日付けで,原
告の問合せに対し,回答書を送付した(太陽製薬回答)。
太陽製薬は,同回答において,太陽製薬は受託製造会社で,本件使用商品は日本
薬粧の依頼により製造した,日本薬粧からは,本件カタカナ商標を有していると説
明されており,支給された容器及び箱を用いて充填し,日本薬粧に全品販売した,
商標については,直接商標権者と話してほしい,日本薬粧の依頼で,天意和ゴール
ドへ本件使用商品を直送したことはあるが,同社とは全く面識がなく,どのような
ルートで販売しているかは知らないなどと回答した(甲7−2−1及び2)。
A 被告のニッセン及び天意和ゴールドに対する通常使用権の許諾の有無
ア ニッセン及び天意和ゴールドの業務形態と通常使用権の必要性
ニッセンは,いわゆるカタログ通販業者であるところ,かかる業者は,自主開発
商品を販売することもあるものの,仕入れた商品をカタログに掲載し,販売するこ
とが一般的であるから,本件使用商品をさくら薬品から仕入れ,販売したにすぎな
いというニッセン回答の内容も,ニッセンの業務形態からすると,不合理というも
のではない。
同様に,天意和ゴールドは,インターネット通販サイトを運営しているところ,
インターネット通販業者においても,仕入れた商品をウェブサイトに掲載し,販売
することが一般的であるから,天意和ゴールドのウェブサイトにおける,「当店で
『取扱う』ヴァージンピンク」との説明文言,日本薬粧の依頼により太陽製薬が製
造し,天意和ゴールドに直送したとの太陽製薬回答,天意和ゴールドの業務形態を
前提とすると,天意和ゴールドが日本薬粧などから本件使用商品を仕入れ,販売し
ていたものと推測することが自然である。
したがって,ニッセン及び天意和ゴールドが本件使用商品を販売するに当たって,
自ら進んで被告から本件商標の通常使用権の許諾を受ける必要は乏しく,被告とニ
ッセン及び天意和ゴールドとの間には,その許諾に係る契約などは締結されていな
いものと推認されなくもない。
イ ニッセン回答及び太陽製薬回答からみた通常使用権の許諾の可能性
この点について,原告は,ニッセン回答や太陽製薬回答には,通常使用権者では
ないと知り得ない本件商標や本件カタカナ商標の情報が記載されていることや,被
告が天意和ゴールド作成の証明書等(乙2,3)を書証として提出したことをもっ
て,ニッセンや天意和ゴールドが本件商標に係る商標権の通常使用権者であると主
張する。
しかしながら,ニッセン回答や太陽製薬回答は,本件使用商品の販売が原告の有
する商標を侵害するとの原告からの通知に応じて作成されたものであるところ,そ
のような通知を受けた者としては,取引先等に照会し,必要な情報を入手した上で
返答することがむしろ自然であって,本件商標等の情報が記載されていることをも
って,通常使用権者であることが裏付けられるものではない。また,被告が天意和
ゴールド作成の証明書等を入手できたことから,被告が天井和ゴールドと直接ある
いは間接的な取引関係にある可能性があることは推測されるものの,直ちに天意和
ゴールドが本件商標に係る商標権の通常使用権者であると推測することは明らかに
飛躍がある。
さらに,原告は,ニッセン回答において,さくら薬品は本件使用商品の仕入先と
は明記されていない,販売業者に登録商標の使用許諾を与えないことはあり得ない
などとも主張する。
しかしながら,ニッセン回答は,「「さくら薬品株式会社」(以下「弊社仕入
先」といいます)」(甲7−1−1)と記載しており,本件使用商品の仕入先がさ
くら薬品であることを明記しているし,登録商標を付した商品の販売において,販
売業者の仕入先と商標権者との間で適切な権利処理がされていれば,販売業者が通
常使用権者となることが必ずしも必要になるというわけでもない。
そのほか,原告は,天意和ゴールドの証明書等(乙2,3)の記載内容からする
と,太陽製薬回答は虚偽であり,天意和ゴールドが本件使用商品販売システムの中
核に位置し,本件商標に係る商標権の通常使用権者であることは明らかであるとも
主張する。
しかしながら,天意和ゴールドの証明書等に照らし,太陽製薬回答の内容が虚偽
であるとされる理由や,太陽製薬回答が虚偽であることから,直ちに天意和ゴール
ドが本件使用商品販売システムの中核に位置するものであり,本件商標に係る商標
権の通常使用権者であるものと断定できる根拠については,原告の主張それ自体に
おいても不明である。原告の主張は採用することができない。
ウ 原告の販売実績からみたニッセン回答の信用性の有無
なお,原告は,ニッセンのカタログや天意和ゴールドのウェブページにおいて,
18年間の販売実績として記載されているのは,明らかに虚偽であり,原告商品と
混同させる意図を有しているものであるし,仕入先から確約を得たなどと記載して
いるニッセン回答は虚偽であるとも主張する。
しかしながら,原告が,原告商品の販売実績や,エムツウ社及びリバティー社が
原告の販売代理店であった事実を示す証拠として提出した女性週刊誌の広告(甲8
∼27)は,不鮮明で読み取り難いものも含まれているところ,読み取ることがで
きる広告は,いずれも販売元であるエムツウ社及びリバティー社が広告の主体であ
り,各広告には,同2社の社名のみが表示されているが,原告やその関連会社の社
名は一切表示されていない。原告は,この宣伝広告は,原告の検閲や管理下におい
て行なわれたものであり,費用も原告からの補助金により填補されたと主張するが,
そのことを裏付けるに足りる的確な証拠はないばかりか,当該広告に原告の表示が
一切されておらず,広告対象が原告商品であるか否かも不明であることからすると,
原告主張の事実を認めることはできない。
また,エムツウ社及びリバティー社が,本件版下(甲33∼甲34−3)を使用
して印刷された容器に充填された商品を販売していた(甲41)としても,同容器
にも,販売元であり,広告の主体であるエムツウ社やリバティー社と,製造元であ
るクー・インターナショナル社とが併記されているだけで,原告の表示は存在しな
い。
したがって,これらの証拠によっては,原告商品の販売実績を裏付けることはで
きず,ニッセン回答が虚偽であるものと断定することはできない。
さらに,原告は,「18年間の販売実績」は,平成2年からの実績を意味すると
ころ,リバティー社がエムツウ社の業務を引き継いだのは平成3年であることから,
原告商品の販売実績を前提としているとも主張するが,原告商品の販売実績自体,
立証されていないこと,リバティー社がエムツウ社の業務を引き継いだのは平成3
年2月1日であるところ(甲29),リバティー社がエムツウ社の業務を引き継い
でいる以上,エムツウ社における販売実績を通算することも不合理ではないことな
どからすると,ニッセンにおける販売実績の記載が原告商品の販売実績を含んでい
るものと断定することもできない。
エ 以上のほかに,ニッセン及び天意和ゴールドが本件商標に係る商標権の通常
使用権者であることを認めるに足りる的確な証拠は存しない。
オ したがって,本件において,被告とニッセン及び天意和ゴールドとの間に本
件商標の通常使用権の許諾に係る契約が締結されていたと仮定した場合に原告が自
ら進んで当該契約に係る契約書等を証拠として提出する余地がないことを勘案して
も,そもそも被告がニッセン及び天意和ゴールドに対して本件商標の通常使用権を
許諾していたと認めることはできず,原告の主張を採用することはできない。
A 小括
以上の検討結果によれば,ニッセン及び天意和ゴールドが本件商標に係る商標権
の通常使用権者であると認めることができないとした本件審決の認定判断は,これ
を是認し得ることが明らかである。
2 取消事由2(引用商標が原告の周知商標でないとした判断の誤り)について
取消事由1についての判断で説示したとおり,ニッセン及び天意和ゴールドが本
件商標に係る商標権の通常使用権者であると認めることはできないが,事案にかん
がみ,取消事由2についても進んで判断することとする。
A 原告の商標としての引用商標の周知性
原告は,引用商標は原告の商標として周知であり,引用商標と類似する使用商標
の使用は,商標法53条1項の定める「他人の業務に係る商品と混同を生ずるも
の」をしたものというべきであると主張する。そこで,引用商標が原告の周知商標
であるかについてまず検討する。
ア 雑誌広告(甲8∼27)について
取消事由1について先に指摘したとおり,原告がエムツウ社及びリバティー社が
原告の販売代理店であった事実を示す証拠として提出した女性週刊誌の広告(甲8
∼27)は,販売元であるエムツウ社及びリバティー社が広告の主体であり,各広
告には,同2社の社名のみが表示されているが,原告やその関連会社の社名は一切
表示されていない。
原告は,この宣伝広告は,原告の検閲や管理下において行なわれたものであり,
費用も原告からの補助金により填補されたと主張するが,そのことを裏付けるに足
りる的確な証拠はないばかりか,当該広告に原告の表示が一切されておらず,広告
対象が原告商品であるか否かも不明であることからすると,原告主張の事実を認め
ることはできない。
イ 本件版下(甲33∼甲34の3)について
仮に,原告主張のとおり,エムツウ社及びリバティー社が,本件版下を使用して
印刷された容器に充填された商品を販売していた(甲41)としても,同容器にも,
発売元であり,広告の主体であるエムツウ社やリバティー社と,製造元であるク
ー・インターナショナル社とが併記されているだけで,原告の表示は存在しない。
したがって,本件版下をもってしても,原告主張の事実を認めることはできない。
ウ 新聞広告及び雑誌広告(甲5−1∼甲5−19)について
各広告には,商品名として,「ヴァージンピンク」の文字が記載され,また,
「Virgin Pink」の文字が印刷された商品容器の写真が表示されており,引用商標
が使用されている。もっとも,各広告は,いずれも販売元であるハイテクサービス
株式会社(以下「ハイテクサービス社」という。)及びエンタープライズ社が広告の主
体であり,各広告には,同2社の社名のみが表示されているが,原告やその関連会
社の社名は一切表示されていない。なお,エンタープライズ社の広告には,「テレ
ビ,ラジオでおなじみのベルトゥリーの「薬用ヴァージンピンク」。」などと記載
されているもの(甲5−11∼甲5−13)など,当該商品が,広告主体の商品で
あるかのように記載されているものもあり,また,「当社の商品は,日本で初めて
「薬用ヴァージンピンク」を開発・製造したメーカーのものです。」との記載があ
るものもある(甲5−17及び18)が,開発・製造したメーカーの具体的名称は
記載されていない。
したがって,かかる新聞広告及び雑誌広告をもってしても,原告主張の事実を認
めることはできない。
エ そのほかの証拠について
A 証拠(甲37−1∼甲37−4)によると,原告は,平成8年3月18日,
厚生大臣より販売名「薬用オレイアホワイトニングエッセンス」で,医薬部外品製
造承認を得た化粧品を,現在まで,「ハイテク薬用ヴァージンピンク ホワイトニ
ングエッセンス」として販売しており,平成21年9月17日撮影の同化粧品の外
箱には,販売元としてハイテクサービス社が,製造元として原告が,それぞれ表示
されている事実が認められる。
もっとも,同化粧品は,クリームである本件化粧品とは形状が異なるのみならず,
外箱の形状も明らかに異なること,当該化粧品が,当初から「ヴァージンピンク」
を含む名称で販売されていたか否かや,平成21年9月17日現在の外箱を採用し
た時期も不明であり,同証拠によっても,引用商標が原告の周知商標であることを
裏付けるには足りないものである。
A そのほか,原告は,化粧品関連業者等の証明書(甲42,43)を提出する
が,原告の取引先等,化粧品業界に関与する者のごく一部の者が作成した証明書を
もって,取引者及び需要者において,引用商標が原告の周知商標であったことを認
めるに足りない。
A 小括
以上からすると,引用商標は,原告の周知商標として取引者及び需要者に認識さ
れていたとまでは認められず,使用商標の使用が「他人の業務に係る商品と混同を
生ずる」おそれもまた,認めることはできない。
したがって,引用商標が原告の周知商標であることを前提として,本件商標に係
る商標登録を取り消すことを求める原告の請求は理由がない。
3 結論
以上の次第であるから,本件審決が付言した理由に係る認定判断の誤りをいう原
告のその余の取消事由について検討するまでもなく,原告の請求は棄却されるべき
ものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 本 多 知 成
裁判官 荒 井 章 光
(別 紙)
引 用 商 標 目 録
1 商標登録番号:第4157557号
商標権者:原告
商標の構成:
指定商品:第3類「化粧品」
商標登録出願日:平成8年12月24日
設定登録日:平成10年6月19日
存続期間更新登録日:平成20年4月8日
2 商標の構成:ヴァージンピンク
以 上
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