平成20(ワ)7756等不正競争行為差止等請求事件
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裁判所 |
一部認容 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成22年6月8日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
不正競争
不正競争防止法2条6項4回 不正競争防止法2条1項5号3回 不正競争防止法3条1回 不正競争防止法2条1項7号1回 不正競争防止法2条1項6号1回 不正競争防止法2条1項4号1回 民法420条1回
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キーワード |
損害賠償22回 差止3回 許諾2回 実施2回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告は,被告Aに対し,16万9860円及びこれに対する平成20年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Aのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1事件・第2事件を通じて,原告に生じた費用の30分の1と被告Aに生じた費用の10分の1を被告Aの負担とし,その余をすべて原告の負担とする。
5 この判決の第2項は仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
1 事案の要旨
( ) 第1事件1
第1事件は,電話占い業を営む原告が,①原告の受付業務等に従事してい
た分離前第1事件被告E及び原告と業務請負契約を締結して原告の顧客に対
して電話による占い鑑定をしていた被告らが共謀して,Eにおいて不正競争
防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当する原告の顧客情報(別紙営業秘
密目録記載の情報,以下「本件顧客情報」という。)を持ち出した上,Eが
代表を務める分離前第1事件被告HER−BER−SU合同会社(以下「H
。 ,ER−BER−SU」という )が本件顧客情報を用いて電話占い業を営み
被告らもHER−BER−SUと業務請負契約を締結してHER−BER−
SUの顧客に対して電話による占い鑑定をしているとして,被告らに対し,
不正競争防止法3条(2条1項5号,6号,8号又は9号)に基づき,本件
顧客情報を用いた営業の差止め及び本件顧客情報が記録された記録媒体等の
廃棄を求め,②被告らが原告との間の業務請負契約上の顧客接触・顧客情報
漏洩禁止義務,相互連絡禁止義務及び引抜禁止義務に違反したとして,被告 |
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判決文
平成22年6月8日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成20年(ワ)第7756号 不正競争行為差止等請求事件(以下「第1事件」という。)
平成20年(ワ)第9083号 請負代金等請求事件(以下「第2事件」という 。)
口頭弁論終結日 平成22年3月23日
判 決
第1事件原告・第2事件被告 有 限 会 社 サ プ リ メ ン ト
( 以 下 「 原 告 」 と い う 。)
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 中 世 古 裕 之
平 山 芳 明
山 田 庸 男
二 宮 誠 行
中 村 和 洋
西 村 勇 作
増 田 広 充
西 原 和 彦
三 好 吉 安
大 森 剛
河 合 順 子
小 津 充 人
梁 栄 文
松 尾 友 寛
佐 藤 朋 子
第1事件被告・第2事件原告 A
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 濱 田 諭
第 1 事 件 被 告 B
第 1 事 件 被 告 C
第 1 事 件 被 告 D
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告は,被告Aに対し,16万9860円及びこれに対する平成2
0年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Aのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1事件・第2事件を通じて,原告に生じた費用の3
0分の1と被告Aに生じた費用の10分の1を被告Aの負担とし,そ
の余をすべて原告の負担とする。
5 この判決の第2項は仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 第1事件
【主位的請求】
(1) 被告らは,別紙営業秘密目録記載の内容を用いて,顧客に対して,電話を
し,郵便物を送付し,又は電子メールを送信する等して占いに関する契約の
締結,締結方の勧誘等をしてはならない。
(2) 被告らは,別紙営業秘密目録記載の顧客名簿に記載する内容が記録された
コンピュータ内の記録媒体,又はPCカード,CD−ROM,DVD−RO
M,フロッピーディスク等の電磁的記録媒体等から同記録内容を抹消し,同
記録媒体又は電磁的記録媒体からの印刷物を廃棄せよ。
(3) 被告らは,原告に対し,それぞれ200万円及びこれに対する被告A及び
被告Bは平成20年6月30日から,被告C及び被告Dは平成20年7月2
日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
【被告Aに対する主位的請求( 3)の予備的請求】
被告Aは,原告に対し,183万0140円及びこれに対する平成20年6
月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(1) 主文第2項と同じ。
( 2) 原告は,被告Aに対し,ホームページ( http://freedom-uranai.com) 掲 載用の
被告Aの写真を返還せよ。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 第1事件
第1事件は,電話占い業を営む原告が,①原告の受付業務等に従事してい
た分離前第1事件被告E及び原告と業務請負契約を締結して原告の顧客に対
して電話による占い鑑定をしていた被告らが共謀して,Eにおいて不正競争
防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当する原告の顧客情報(別紙営業秘
密目録記載の情報,以下「本件顧客情報」という。)を持ち出した上,Eが
代表を務める分離前第1事件被告HER−BER−SU合同会社(以下「H
ER−BER−SU」という 。)が本件顧客情報を用いて電話占い業を営み ,
被告らもHER−BER−SUと業務請負契約を締結してHER−BER−
SUの顧客に対して電話による占い鑑定をしているとして,被告らに対し,
不正競争防止法3条(2条1項5号,6号,8号又は9号)に基づき,本件
顧客情報を用いた営業の差止め及び本件顧客情報が記録された記録媒体等の
廃棄を求め,②被告らが原告との間の業務請負契約上の顧客接触・顧客情報
漏洩禁止義務,相互連絡禁止義務及び引抜禁止義務に違反したとして,被告
らに対し,業務請負契約で定められた違約金各200万円及びこれに対する
第1事件の訴状送達の日の翌日(被告A及び被告Bは平成20年6月30日,
被告C及び被告Dは平成20年7月2日)から各支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めるとともに,被告Aに対
し,予備的に,200万円の違約金請求債権と第2事件における被告Aの原
告に対する16万9860円の未払鑑定料請求債権とを相殺した残額である
183万0140円及びこれに対する第1事件の訴状送達の日の翌日である
平成20年6月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める事案である。
(2) 第2事件
第2事件は,原告と電話占い鑑定に関する業務請負契約を締結していた被
告Aが,原告に対し,①業務請負契約に基づき,未払鑑定料16万9860
円及びこれに対する第2事件の訴状送達の日の翌日である平成20年3月2
9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めるとともに,②原告との業務請負契約が終了したとして,ホームページ掲
載用に原告に交付した写真の返還を求める事案である。
2 前提事実(末尾に証拠の掲記のない事実は,当事者間に争いのない事実又は
弁論の全趣旨により容易に認められる事実である 。)
(1) 当事者等
ア 原告は,平成14年2月19日に設立された,電話による占い業等を営
む会社である。
イ 原告代表者であるF(従前の氏は「F1」であり,平成18年8月に婚
姻して現在の氏となった。以下,氏の変更の前後を問わず「F」とい
う。)は,平成12年4月ころ ,「フリーダム」の名称で電話占い業を始
め(以下,原告設立前にFが営んでいた電話占い業を単に「フリーダム」
ということがある 。 ,平成14年2月19日には原告を設立し,フリー
)
ダムの事業を原告に承継した者である。
ウ Eは,平成14年11月から平成19年3月までの間,原告の事務所で
受付業務等に従事していた者である。
エ 被告Aは,平成18年11月から平成19年12月ころまでの間,占い
師名を「A1」として,原告の顧客の占い鑑定をしていた者である。
オ 被告Bは,平成13年11月から平成19年1月ころまでの間,占い師
名を「B1」として,フリーダム及び原告の顧客の占い鑑定をしていた者
である。
カ 被告Cは,平成13年6月から平成18年12月までの間,占い師名を
「C1」として,フリーダム及び原告の顧客の占い鑑定をしていた者であ
る。
キ 被告Dは,平成14年3月から同年11月までの間,占い師名を「D
1」として,原告の顧客の占い鑑定をしていた者である。
ク HER−BER−SUは,平成19年8月3日に設立された各種占い業
等を目的とする合同会社であり,Eが業務執行社員及び代表社員を務めて
いる 。(甲2)
ケ 有限会社オブジェ(以下「オブジェ」という 。)は,アクセサリーの製
造販売等を目的とする会社であり,Eの姉のGが代表取締役を務めている。
(甲1)
(2) HER−BER−SUの設立等
オブジェは,平成19年5月19日 ,「ハーバース」の名称で電子メール
や電話による占い事業を開始したが,同年8月3日に設立されたHER−B
ER−SUにその事業を承継した 。(乙A26,27)
(3) 被告らとオブジェとの契約
被告らは,平成19年5月19日付けでオブジェと業務請負契約を締結し,
オブジェ及びHER−BER−SUの顧客に対して電話による占い鑑定をし
ている(ただし,被告Aは,現在はHER−BER−SUとの業務請負契約
を解消している 。 。
) (乙A4の1∼4の3)
(4) 原告による相殺の意思表示
原告は,被告Aに対し,平成20年8月26日の第2事件の第1回口頭弁
論期日において,被告Aに対する業務請負契約上の義務違反を理由とする違
約金請求債権を自働債権として,被告Aの原告に対する第2事件に係る未払
鑑定料債権全額を対当額で相殺するとの意思表示をした 。(当裁判所に顕著
な事実)
3 第1事件の争点
(1) 不正競争防止法に基づく請求に係る争点
ア 本件顧客情報が不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当する
か(争点1)
イ E及びHER−BER−SUによる不正競争行為の有無(争点2)
ウ 被告らによる不正競争行為の有無(争点3)
(2) 業務請負契約上の義務違反を理由とする請求に係る争点
ア 原告と被告らとの間の業務請負契約の成否及びその契約内容(争点4)
イ 被告Dが原告との間の業務請負契約を未成年を理由に取り消すことがで
きるか(争点5)
ウ 被告らによる業務請負契約上の顧客接触・顧客情報漏洩禁止義務,相互
連絡禁止義務及び引抜禁止義務違反の有無(争点6)
4 第2事件の争点
(1) 原告の被告Aに対する鑑定料の未払額(争点7)
(2) 被告Aが原告に自己の写真の返還を求めることができるか(争点8)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件顧客情報が不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当
するか)について
【原告の主張】
(1) 有用性
本件顧客情報は,原告が事業を営む上で有用な営業上の情報である。
(2) 非公知性
本件顧客情報は,不特定多数の第三者に公知の情報になっているものでは
ない。
(3) 秘密管理性
ア 事務所のセキュリティ
原告は,事務所の玄関,各ドア,窓等について,セコムによる警備シス
テムを設定している。
イ パソコンのセキュリティ
本件顧客情報は,原告の事務所内に設置されたパソコンで管理されてい
るが,パソコンには「ウラデン」と称するオリジナルのセキュリティソフ
トを導入している。
ウラデンは,IDと9階層のパスワードが設定されているセキュリティ
ソフトであり,データのコピーや持出しができないようになっている。
原告では,一般の従業員にはID・パスワードを教えておらず,Eを含
む管理受付責任者だけにパソコンを起動させるためのID・パスワードと
顧客情報管理ソフトを起動させるためのパスワードを教えていた。
そして,原告では,パソコンを一日中立ち上げた状態にはしておらず,
年に数回はパスワードの変更もしていた。
ウ タックシールの管理体制
原告では,平成19年3月当時,1か月に3000人ほどの顧客に対し
てダイレクトメールを発送していたが,顧客の住所及び氏名の印刷された
タックシール(宛名シール)は,F又はその夫のHが原告の事務所の3階
にあるマスターパソコンで1か月分をまとめて作成して管理受付責任者に
手渡し,その後は管理受付責任者が鍵付きの引出しの中に入れて保管して
いた。
エ 秘密保持義務を負わせる契約の締結
原告(あるいは原告設立前のF)は,平成12年ころから,管理受付責
任者,一般受付及び占い師との間で,原告を通さずに原告の顧客に対して
連絡を取ることや原告の顧客データを外部に流すなどの行為を禁止事項と
し,違反した場合には違約金を支払わせる内容の労働契約あるいは業務請
負契約を締結している。
オ 管理責任者による情報の管理
原告においては,一般の受付従業員と受付業務その他の業務を管理する
立場の管理受付責任者とを区別し,管理受付責任者には管理手当として月
額5000円を支払っていた。Eが原告に在職していた当時は,E及びI
だけが管理受付責任者であった。
そして,原告では,管理受付責任者だけに原告事務所のセコムの鍵及び
宛名シールを保管する引出しの鍵を渡しており,パソコンを立ち上げるた
めのID及びパスワードと顧客情報管理ソフトを立ち上げるためのパスワ
ードも管理受付責任者だけに教えていた。
カ 顧客情報の重要性を認識させる指導
原告では,従業員らが勤務を開始する際の最初のオリエンテーションで
顧客情報の重要性についての教育を行うとともに,日常的にも顧客情報の
重要性を認識させる指導を行っていた。
キ 以上からすれば,原告において本件顧客情報が客観的に秘密として管理
されていることは明らかであり,原告の受付従業員,管理受付責任者及び
占い師のいずれにとっても本件顧客情報が秘密として管理されていること
が認識可能な状態に置かれていたことも明らかである。
(4) したがって,本件顧客情報は不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」
に該当する。
【被告らの主張】
不知。
2 争点2(E及びHER−BER−SUの不正競争行為の有無)について
【原告の主張】
(1) HER−BER−SUの銀行預金口座への入金者と原告の顧客との重複
HER−BER−SUの銀行預金口座に鑑定料を振り込んだ利用者と原告
の顧客の氏名を比較すると,入金件数で見ると191件のうち157件が原
告の顧客と重複しており,入金者で見ると89人のうち61名が原告の顧客
と重複している。
(2) HER−BER−SUによる原告の顧客へのダイレクトメールの送付
複数の原告の顧客に対して,HER−BER−SUから突然ダイレクトメ
ールが送付されている。
(3) Eが本件顧客情報を持ち出すことが十分に可能であったこと
Eは,原告在職当時,管理受付責任者の地位にあり,事務所玄関のセコム
の鍵,宛名シールを保管していた引出しの鍵を管理していた。そして,原告
においては,日中にダイレクトメールの作成作業を行っていたが,管理受付
責任者として中心的役割を担っていたのはEであり,しかも,土曜日などは
Eが一人で原告事務所でダイレクトメールの作成業務に従事していた。
したがって,Eが原告を退職する直前の平成19年2月あるいは3月ころ,
ダイレクトメールの作成に用いる原告の顧客の住所,氏名が印刷されたタッ
クシールのコピーなどを取って本件顧客情報を不正に取得する機会は十分に
あった。
(4) EとHER−BER−SUとの関係
「ハーバース」の名称で電話占い業を立ち上げたのはオブジェであるが,
オブジェの代表者であるGはEの姉であり,Eは事業立上げの準備に携わっ
ている。
しかも,電話占い業を立ち上げた際のオブジェの担当者であるJは,数年
前から占い業務に関心を持ち,ようやく平成19年5月に事業を開始するこ
とができたにもかかわらず,そのわずか3か月後の同年8月にはEが代表を
務めるHER−BER−SUがその事業を承継している。
(5) 以上によれば,Eは,平成19年3月ころ,本件顧客情報を原告から不正
に窃取し,その後,HER−BER−SUに開示し,HER−BER−SU
においてこれを利用して電話占い業を行っていることは明らかである。
このようなEの行為は,不正競争防止法2条1項4号又は7号所定の不正
競争行為に該当し,HER−BER−SUの行為は,同法2条1項5号又は
8号所定の不正競争行為に該当する。
【被告らの主張】
不知。
3 争点3(被告らによる不正競争行為の有無)について
【原告の主張】
HER−BER−SUが設立された時点で,HER−BER−SUに登録し
た占い師は原告の占い師であった被告ら4名だけであったこと,被告らとHE
R−BER−SU(オブジェ)との間の業務請負契約がいずれも平成19年5
月19日という同じ日に締結されていること,被告らがHER−BER−SU
を通じて原告の顧客に接触していることなどからすれば,被告らとEとが共謀
してHER−BER−SUを立ち上げ,Eが原告から本件顧客情報を無断で持
ち出し,被告らにおいて,本件顧客情報をHER−BER−SUから開示を受
けて利用し,原告の顧客に対して連絡を取ったり電話占い鑑定を実施している
ことは明らかである。
また,原告は,平成20年3月27日付けで被告らに対して照会書(甲22
の1)を送付しているから,被告らは,遅くともその時点で,Eによる本件顧
客情報の不正取得及び不正開示を認識していた。
以上の被告らの行為は,不正競争防止法2条1項5号,6号,8号又は9号
所定の不正競争行為に該当する。
【被告Aの主張】
否認する。
被告Aは,E,被告B,被告C及び被告Dと全く面識がなく,これらの者と
共謀することはあり得ない。
被告Aは,オブジェのJの要請により,オブジェが新たに始める占い事業に
参加することにしたものである。
原告は,被告Aにおいて,原告が送付した照会書(甲22の1)を受け取っ
たことをもって,Eによる本件顧客情報の不正取得行為を知り得たと主張する
が,この照会書は原告の主張が一方的に記載されているものであり,これを読
んだだけでEが本件顧客情報を不正取得したことを知ることなど到底不可能で
ある。
【被告Bの主張】
否認する。
被告Bは,平成19年5月上旬,オブジェの占い師になるために電話オーデ
ィションを受けたが,担当者のJと電話で話しただけであり,EがHER−B
ER−SUを運営していることすら知らなかった。被告Bは,原告の代理人か
ら照会書(甲22の1)を受け取った平成20年3月下旬ころ,HER−BE
R−SUに確認し,その際に初めてEが原告の関係者であることを知った。
【被告Cの主張】
否認する。
被告Cは,原告との契約中はもちろん,オブジェと契約を締結した後も,E
が原告の関係者であったとは知らなかった。
【被告Dの主張】
否認する。
被告Dは,原告の代理人から照会書(甲22の1)を受け取った平成20年
3月下旬ころ,Eが原告の関係者であることを初めて知った。
4 争点4(原告と被告らとの間の業務請負契約の成否及びその契約内容)につ
いて
【原告の主張】
(1) 原告は,被告らとの間で,以下の規約を含む業務請負契約を締結した(た
だし,原告設立前の契約主体は原告ではなくFである 。 。なお,以下の規
)
約中の乙は原告を,甲は被告らを指す。
「 乙の顧客に対し,乙を通さずに連絡を取る,又はその顧客のデータ(相
談内容を含め)を外部に流すなどの行為をとった際には,損害賠償金とし
て,甲は乙に100万円を支払うことに異議ないものとする。
乙の鑑定師並びにスタッフに対し,被告らが引き抜き行為を行った場合,
甲は原告に損害賠償金100万円を支払うことに異議ないものとする。業
務契約者同士が乙の許可無く個人的に連絡を取り合うことも禁止する。
上記規約は契約解除後も有効とする。・・・」
(2) 上記規約の文言上は,契約者同士の相互連絡行為についての賠償額の予定
に関する記載はないが,原告は,被告らに対し,相互連絡行為についても賠
償金の支払対象となる行為であることを説明し,その了解を得ている。
【被告Aの主張】
原告が主張する内容の業務請負契約を締結したことは認める。
【被告Bの主張】
被告Bが署名した業務請負に関する契約書(甲35)には,原告の名前は記
されていない。
また,上記契約書では,情報流出についての損害賠償金は50万円となって
いる。
【被告Cの主張】
被告Cが署名した業務請負に関する契約書(甲6)は,フリーダム代表者の
「K」との間の契約書であり,被告Cと原告との間の契約書ではない。
また,上記契約書には,100万円の賠償金の記載はなく,50万円と30
万円の賠償金が記載されているにすぎない。
【被告Dの主張】
被告Dは,原告と業務請負に関する契約を締結したことはない。
5 争点5(被告Dが原告との間の業務請負契約を未成年を理由に取り消すこと
ができるか)について
【被告Dの主張】
被告Dは,原告との間で業務請負契約を締結した当時18歳であり,契約締
結について親権者の同意も得ていなかった。
被告Dは,原告に対し,平成20年8月26日の第1事件の第1回口頭弁論
期日において,業務請負契約を取り消すとの意思表示をした。
【原告の主張】
原告と被告Dとの間で業務請負契約が締結された当時,被告Dが未成年であ
ったことは認めるが,被告Dは親権者(母)である被告Cの同意を得て同契約
を締結したのであるから,未成年を理由に取り消すことはできない。
6 争点6(被告らによる業務請負契約上の顧客接触・顧客情報漏洩禁止義務,
相互連絡禁止義務及び引抜禁止義務違反の有無)について
【原告の主張】
上記3【原告の主張】のとおり,被告らは,原告との業務請負契約上の顧客
接触・情報漏洩禁止義務,相互連絡禁止義務及び引抜禁止義務に違反したもの
である。
また,被告Aは,原告を通じて知り合った顧客である●●●●●(以下「●
●」という 。)及び●●●●(以下「●●」という 。)に対し,被告Aが開設
する占いのホームページを紹介,案内しており,被告Aによる顧客接触禁止義
務に違反する行為がうかがわれる。
【被告Aの主張】
否認する。
原告は,被告Aが●●にホームページを紹介したことを指摘するが,被告A
は,原告から紹介された●●を鑑定した際,鑑定内容を正確に理解してもらう
ために被告Aが開設している「A2」というホームページ(乙B16)を紹介
しただけである。同ホームページは,営業目的のものではないため,被告Aの
電話番号やメールアドレス等の連絡先は記載されておらず,霊的な問題等につ
いて説明しているだけのものである。
【被告B,被告C及び被告Dの主張】
否認する。
7 争点7(原告の被告Aに対する鑑定料の未払額)について
【被告Aの主張】
被告Aは,原告と電話占い鑑定に関する業務請負契約を締結した際,鑑定料
金は1分50円,支払方法は毎月末日締めの翌月15日払と合意し,その後,
平成19年7月以降の鑑定料金は1分につき80円,リピート客の鑑定の場合
は一定金額(30分以内500円,30分以上1000円)を加算することを
合意した。
そして,被告Aは,甲2の1のとおり平成19年11月及び12月にも原告
の顧客に対して電話による占い鑑定をしたが,平成19年11月分の鑑定料金
11万9560円,同年12月分の鑑定料金5万0300円が支払われていな
い。
【原告の主張】
被告Aが主張する上記の業務請負契約の内容(平成19年7月以降の鑑定料
金の変更を含む 。)は認める。
しかし,原告の被告Aに対する未払鑑定料が合計16万9860円であるこ
とは否認する。被告Aが鑑定料金計算のために作成した甲2の1では平成19
年11月18日の「●●●●●●」の鑑定時間が37分とされているが実際は
35分である。また,甲2の1には同年12月8日の「●●●●●●● 」(鑑
定時間21分)及び同月9日の「●●●●●● 」(鑑定時間52分)の記載が
あるが,これらについては鑑定の事実がない。したがって,被告Aに対する未
払鑑定料金は,原告が主張する鑑定料金16万9860円から上記75分に対
応する鑑定料金6000円(75分×80円/分=6000円)を控除した1
6万3860円である。
8 争点8(被告Aが原告に自己の写真の返還を求めることができるか)につい
て
【被告Aの主張】
被告Aは,平成19年2月ころ,原告に対し,ホームページ掲載用として写
真を渡したが,原告と被告Aとの間の業務請負契約は平成20年2月ころに終
了した。
したがって,被告Aは,原告に対し,上記写真の返還を求めることができる。
【原告の主張】
原告と被告Aの業務請負契約が終了したとしても,そのことを理由として写
真の返還を求めることはできない。
原告は,平成19年1月ころまでに,被告Aから写真を受け取ったことは認
めるが,それは履歴書に貼付する写真であり,履歴書全体を含めて返還しない
旨の合意をしている。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件顧客情報が不正競争防止法2条1項6号所定の「営業秘密」に
該当するか)について
(1) 事実関係
前記前提事実並びに証拠(甲84,乙A27,証人H,原告代表者本人,
分離前被告HER−BER−SU代表者兼分離前被告E本人及び各項末尾に
掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告の設立等
Fは,平成12年4月ころ ,「フリーダム」の名称で電話による占い業
を始め,平成14年2月19日には原告を設立し,それまで営んでいたフ
リーダムの個人事業を原告に承継した。原告においても,電話による占い
事業を営むにあたっては,フリーダムの名称を継続して使用している。
Fの母であるKは,原告設立前からフリーダムの事業を手伝っており,
一時期はFからフリーダムの代表者の肩書きを使用してFの業務を代行す
ることを許諾されていたことがあったところ,原告を設立した際にはその
取締役に就任した。
Fの夫であるHは,平成13年3月ころから,Fが営んでいた電話占い
業の事務経理を手伝うようになり,原告が設立された際にはその取締役に
就任した 。(甲82,83,乙A1)
イ 原告の事業形態
原告は,電子メールや電話による占い業等を営んでいるが,電話による
占い業の事業形態は,以下のとおりである。すなわち,①原告のホームペ
ージや雑誌の広告等を見た顧客が,原告に電話をかけて受付スタッフに電
話占いを希望する旨と電話番号を伝える,②原告と業務請負契約を締結し
ている占い師が自宅等で待機しており,原告の受付スタッフが占い師に連
絡をして顧客の電話番号を伝える,③占い師が顧客に電話をかけて占い鑑
定をする(顧客の希望によっては当該顧客から占い師に連絡をする場合も
ある 。 ,④占い終了後,顧客が原告の口座に料金を支払い,占い師には
)
契約で定められた委託料金が原告から支払われる 。(甲8)
ウ 原告事務所のスタッフ
平成19年当時,原告には5,6名のスタッフ(原告と業務請負契約を
締結して受付業務等に従事する者。以下,単に「スタッフ」という 。)が
在籍しており,原告事務所2階において,電話受付,パソコンによる顧客
情報のデータの登録・更新作業,顧客へのダイレクトメールの発送作業等
に従事していた。原告の営業時間は午後1時から午前3時までであり,ス
タッフは3交代制で勤務していたので,原告事務所に常時待機しているス
タッフは1,2名であった。
エ パソコンによる顧客情報の管理
(ア) 原告は,平成14年ころ,Fの知人であるLに「ウラデン」と称す
る顧客情報管理ソフト(以下「ウラデン」という 。)を開発してもらい ,
「 電 話 番 号 」 「 氏 名 」 「フ リ ガ ナ 」 「 住 所 」 「 何 を 見 て 」 「 転 送 区
, , , , ,
分 」 「DM区分 」 「コレクト区分 」 「備考区分 」 「入力担当 」 「更新
, , , , ,
担当 」 「入力日時 」 「更新日時」等の入力欄を設け,そこに顧客の情
, ,
報に関する所定の入力をして顧客情報を管理していた 。(甲55ないし
57[いずれも枝番を含む 。 ,甲69)
]
(イ) ウラデンを起動させるためには,まず,パソコン本体のログインパ
スワードを手動で入力してパソコンを起動させ,次に,ウラデンをメニ
ュー画面から立ち上げるためにパスワードを手動で入力する必要がある。
これに加えて,ウラデンを作動させるためのパスワードが7つ設定され
ているが,この7つのパスワードについては手動で入力する必要はなく,
ウラデンを操作する過程で自動的にパスワード認証がされるように設定
されている。ウラデンを起動するためのパスワードは,ウラデンを導入
してから何度か変更されている 。(甲69)
(ウ) Eが原告を辞める前,原告の事務所には2階に受付用のパソコンが
2台,3階にF又はHだけが使用していたマスターパソコンが1台設置
されていたが,これら3台のパソコンにはそれぞれ異なるパスワードが
設定されていた。原告の事務所の2階に設置されていた受付用パソコン
のパスワードは,勤務年数の長いスタッフだけが知らされており,すべ
てのスタッフがパスワードを知らされていたわけではなかった。上記受
付用のパソコンからは,顧客情報を閲覧・入力をすることはできるもの
の,顧客情報のデータのコピーやプリントアウトはできない設定になっ
ていた。
(エ) 原告では,始業時にパスワードを入力してウラデンを起動させた後
は,営業が終了するまで起動させたままの状態であり,受付担当者が,
占い鑑定の利用があった際には随時顧客の情報を入力することとなって
いた。
オ ダイレクトメール送付用のタックシールの管理
原告は,毎月3000人の顧客にダイレクトメールでパンフレット等を
送付していたが,遅くとも平成16年11月に現在の事務所に引っ越した
後は,F又はHだけが事務所3階の部屋に設置してあるマスターパソコン
を使用し,ウラデンで管理している顧客のデータを用いてダイレクトメー
ル送付用のタックシール(顧客の住所,氏名が記載された宛名シール)を
印刷し,スタッフにこれを渡してダイレクトメールの作成,送付作業をさ
せていた。
そして,原告は,遅くとも平成18年ころには,鍵のかかる引出の付い
た棚を購入して事務所2階に設置し,宛名を印刷した後のタックシールは
この棚の引出しに入れて鍵をかけて保管するようになり,タックシールを
取り出す際には枚数をノートに記録し,F,HとEを含む数名のスタッフ
が鍵を管理していた。
カ スタッフ又は占い師との間で作成された業務請負契約書の内容
原告あるいはフリーダム(F)は,占い師又はスタッフと契約を締結す
る際 ,「業務請負に関する契約書」を作成しているが,同契約書には,ス
タッフ又は占い師が原告の顧客に原告を通さずに連絡を取ったり,原告の
顧客のデータ(相談内容を含め)を外部に流すなどの行為をした場合には
損害賠償金として一定金額を支払う旨の規定がある(E,被告A及び被告
Dの損害賠償金はそれぞれ100万円であり,被告C及び被告Bの賠償金
はそれぞれ50万円であった。詳細は後記4のとおり 。 。
) (甲4ないし7,
35)
(2) 検討
ア 秘密管理性
上記認定のとおり,原告は,ウラデンと称する顧客情報管理ソフトを導
入し ,「電話番号 」 「氏名 」 「フリガナ 」 「住所 」 「何を見て 」 「転送区
, , , , ,
分 」 「DM区分 」 「コレクト区分 」 「備考区分 」 「入力担当 」 「更新担
, , , , ,
当 」 「入力日時 」 「更新日時」等の欄を設けて顧客に関する情報を入力
, ,
してデータとして保管していたところ,営業時間中はウラデンを起動させ
た状態にしており,スタッフが顧客情報を閲覧すること自体は制限されて
いなかった。しかし,ウラデンを起動させるために必要なパスワードにつ
いては,勤務年数の長いスタッフにしか知らされていなかった上,F及び
H以外のスタッフが使用する原告事務所2階に設置されているパソコンは
顧客情報のデータのコピー及びプリントアウトができないような設定がさ
れており,スタッフが顧客情報を持ち出すことを困難にする措置が講じら
れていた。
また,原告では,ウラデンで管理されている顧客情報を用いてタックシ
ールを作成し,これを貼付してダイレクトメールを送付していたが,顧客
の住所,氏名が記載されるタックシールは,スタッフが使用するパソコン
では作成することができず,FあるいはHだけが使用していたマスターパ
ソコンで同人らだけが作成していた上,貼付前のタックシールについては,
事務所2階に設置していた鍵付き引出しのある棚で施錠した上で保管し,
鍵については一部のスタッフが管理するとともに,タックシールの枚数に
ついてもノートに記載して管理していたというのである。
そして,原告においては,スタッフ及び占い師と契約を締結する際,原
告の顧客情報を外部に流出させるなどした場合に,損害賠償金として50
万円や100万円といった高額の違約金を支払わせる内容の業務請負契約
を締結していたものであり,以上の事情に照らせば,原告のスタッフある
いは占い師としては,原告が顧客情報を他の情報とは区別して,秘密とし
て管理していたことを十分に認識することができたといえる。
以上のような原告における管理態様からすれば,原告が営業秘密と主張
する本件顧客情報は,これに接した者において,原告が秘密として管理し
ていることを十分に認識することができる措置が取られていたというべき
であり,本件顧客情報にアクセスすることができるスタッフが6名程度で
あったという原告の規模等も考慮すれば,秘密として管理されているもの
と認めるのが相当である。
イ 有用性
本件顧客情報は,原告を利用した顧客の住所,氏名,電話番号等であり,
これらの顧客は今後も同様に電話による占いを依頼する可能性の高い顧客
ということができるから,電話による占い事業を営むに当たって有益な営
業上の情報であることは明らかである。
ウ 非公知性
前記認定事実によれば,本件顧客情報は,原告が事業を継続する中で集
積した顧客の情報であって,公然と知られているものではないというべき
である。
エ まとめ
したがって,本件顧客情報は,不正競争防止法2条6項所定の「営業秘
密」に該当する。
2 争点2(E及びHER−BER−SUによる不正競争行為の有無)について
(1) 事実関係
前記前提事実並びに証拠(甲84,乙A27,原告代表者本人,分離前被
告HER−BER−SU代表者兼分離前被告E本人及び各項末尾に掲記のも
の)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア Eの原告における業務
Eは,平成14年11月から原告に勤務するようになり,電話の受付業
務,占い師への鑑定依頼の連絡,ダイレクトメールの作成作業等に従事し
ていた。Eは,土曜日や日曜日には原告事務所に1人で出勤をして作業を
していた。
イ Eの退職
Eは,平成19年3月中旬,Fに対し,Eの姉のGが代表者を務めるオ
ブジェの仕事を手伝わなければならなくなったとして,原告を退職したい
旨を伝え,Fはこれを了承した。
そして,Eは,平成19年3月に原告を退職し,同年4月初旬からオブ
ジェで仕事をするようになった。
ウ オブジェによる占い事業の開始
オブジェは,平成19年4月中旬頃から,占い事業の開業準備を始め,
同年5月19日から「ハーバース」の名称で電話又は電子メールによる占
い業を開始した(以下,オブジェが営んでいた占い事業を「ハーバース」
ということがある 。 。
) (甲14,乙A26)
エ HER−BER−SUの設立
Eは,平成19年8月3日,HER−BER−SUを設立して業務執行
社員及び代表社員に就任し,オブジェが営んでいたハーバースの事業を譲
り受けた。HER−BER−SUにおいても ,「ハーバース」の名称を継
続して使用している。
オ HER−BER−SUの事業形態
HER−BER−SUは,電子メール又は電話による占い鑑定を提供し
ているが,電話による占い鑑定の事業形態は原告と同様であり,HER−
BER−SUに連絡をしてきた顧客を占い師に紹介して電話鑑定をしても
らうというものである。HER−BER−SUでは,顧客を勧誘する方法
として,ダイレクトメールの送付,雑誌やインターネット等の広告等を利
用している 。(甲14)
カ 被告らとオブジェとの契約
被告らは,平成19年5月19日付けでオブジェと業務請負契約を締結
し,オブジェから顧客の紹介を受けて電話による占い鑑定をするようにな
ったが,当初は,オブジェと業務請負契約を締結した占い師は被告らだけ
であった 。(乙A4の1∼乙A4の3,乙A26,証人J)
キ ハーバースによる原告の顧客へのダイレクトメールの送付
平成19年5月ころから,原告の顧客のもとにハーバースからのダイレ
クトメールが届くようになり,そのことについて顧客から原告に問合せが
くるようになった 。(甲31ないし34,75,76)
ク HER−BER−SUを利用した顧客と原告の顧客との一致
HER−BER−SUが鑑定料の徴収のために使用している銀行預金口
座(平成19年8月7日開設,乙A17)には,平成19年8月10日か
ら同年11月14日までの間に合計89名の利用者が鑑定料金を入金して
いるが,そのうち61名が原告がウラデンで管理していた顧客名簿に記載
されている顧客の氏名と一致する 。(甲57,63の1,乙A17)
(2) 検討
上記で認定した事実,とりわけ,Eが,土曜日や日曜日には原告事務所に
1人で出勤してダイレクトメールの作成作業に従事しており,顧客の氏名,
住所が印刷されたタックシールを持ち出すことが容易な状況にあったこと,
Eが原告を退職してオブジェに勤務を開始した直後,オブジェにおいて原告
と同様の電話占い業の開業準備が始められたこと,オブジェがハーバースを
開業した当時にオブジェと業務請負契約を締結した占い師は,いずれも原告
と契約を締結していた被告ら4名だけであること(ただし,被告Aについて
は,この時点では原告との契約が継続していた 。 ,オブジェがハーバース
)
を開業してからわずか3か月後には,EがHER−BER−SUを設立して
その代表者となり,オブジェからハーバースの事業を譲り受けたこと,ハー
バースが開業した平成19年5月ころから,原告の顧客のもとにハーバース
からダイレクトメールが届くようになったこと,平成19年8月10日(H
ER−BER−SU設立直後)から同年11月14日までの期間でみると,
89名中61名,すなわちHER−BER−SUの利用者の実に約68.5
%もの利用者が,原告がウラデンで管理していた顧客名簿に記載されている
顧客の氏名と一致することなどの事実を総合すれば,Eにおいて,原告と競
業する電話占い業を自ら立ち上げることを企て,原告がダイレクトメール送
付用に作成したタックシールを印刷するなどして原告の本件顧客情報を持ち
出し,連絡先を把握していた被告らに自らあるいは第三者を通じて接触して
オブジェと契約を締結させ,本件顧客情報をオブジェに開示し,オブジェ及
びHER−BER−SUが,占い事業を営むに当たり,本件顧客情報を利用
して原告の顧客のもとへダイレクトメールを送付するなどしたことが推認さ
れるというべきである。
以上のEの行為は,不正の競業をする目的で,営業秘密である本件顧客情
報をオブジェ(後のHER−BER−SU)に開示したものであるから,不
正競争防止法2条1項7号所定の不正競争に該当し,Eから開示された本件
顧客情報を用いて原告の顧客にダイレクトメールを送付して勧誘等をするH
ER−BER−SUの行為は,同項8号所定の不正競争行為に該当するとい
うべきである。
3 争点3(被告らによる不正競争行為の有無)について
(1) 原告は,被告らとEとが共謀してHER−BER−SUを立ち上げ,Eが
原告から本件顧客情報を無断で持ち出し,被告らにおいて,本件顧客情報を
HER−BER−SUから開示を受けて利用し,原告の顧客に対して連絡を
取ったり電話占い鑑定を実施していることが明らかであるとし,かかる被告
らの行為は不正競争防止法2条1項5号,6号,8号又は9号所定の不正競
争行為に該当すると主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,オブジェがハーバースを開業した当初,オブジェ
と契約を締結した占い師は被告ら4名だけであり,被告らは,いずれも原告
と契約を締結していた占い師(被告Aについては当時も原告との契約を続け
ていた 。)であったことが認められる。しかし,このことは,Eが,原告の
スタッフであったころに把握した被告らの連絡先をオブジェに開示し,オブ
ジェがこれを利用して被告らに接触して契約を締結したことを推認させるも
のということはできるものの,被告らがEと共謀して,原告から本件顧客情
報を持ち出してこれを使用していることまでをも推認させるものではない。
そして,被告らは,いずれも,オブジェの担当者のJによるオーディショ
ンを受けるなどしてオブジェと契約を締結したのであり,その時点では,ハ
ーバースにEが関与しているとは知らず,平成19年8月ころ,JからEに
ハーバースの事業を引き継ぐ旨の連絡を受けて初めてEを知ったという趣旨
の供述をしているところ,オブジェと被告らとの間で作成された業務請負契
約書(乙A4の1∼4の3)にはJがハーバースの代表として記名押印して
おり,オブジェの開業準備は対外的にはJが中心となって行っていたものと
推認されることからすれば,オブジェによる開業準備がされていた時点でE
が被告らと接触しなかった可能性もある。したがって,オブジェと契約した
際にEのことを知らなかったとする被告らの供述もあながち不自然なものと
して,これをたやすく排斥することはできない。
そして,他に,被告らとEが共謀して,原告から本件顧客情報を持ち出し
てこれを使用している事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) また,上記のとおり,HER−BER−SUが営む電話による占い事業は,
上記のとおり,原告と同様の形態であり,①HER−BER−SUが,ダイ
レクトメールの送付,雑誌やインターネット等の広告等により宣伝活動をす
る,②顧客が,HER−BER−SUに電話をかけて受付スタッフに電話占
いを希望する旨と電話番号を伝える,③HER−BER−SUと業務請負契
約を締結している占い師が自宅等で待機しており,HER−BER−SUの
受付スタッフが占い師に連絡をして顧客の電話番号を伝える,④占い師が顧
客に電話をかけて占い鑑定をする(顧客の希望によっては当該顧客から占い
師に連絡をする場合もある 。 ,⑤占い終了後,顧客がHER−BER−S
)
Uの口座に料金を支払い,占い師には契約で定められた委託料金がHER−
BER−SUから支払われる,というものである。
本件において,原告は,被告らに対し,本件顧客情報の内容を用いて,顧
客に対して,電話をし,郵便物を送付し,又は電子メールを送信する等して
占いに関する契約の締結,締結方の勧誘等をすることの差止めを求めている
が,ダイレクトメールを送付する等して顧客を勧誘して契約を締結している
のはHER−BER−SUであって,被告らは,HER−BER−SUと業
務請負契約を締結して,HER−BER−SUからの依頼に基づいて占い鑑
定をしているだけであり,HER−BER−SUによる本件顧客情報の使用
を認識していると認めるに足りる証拠もないから,HER−BER−SUと
被告らを一体と捉えて,被告らが本件顧客情報を使用しているとするのは相
当でない。
なお,原告は,平成20年3月27日付けで被告らに対して照会書(甲2
2の1)を送付しているから,被告らは,遅くともその時点で,Eによる本
件顧客情報の不正取得及び不正開示を認識していると主張する。確かに,上
記照会書には,Eが原告のデータを悪用した可能性について言及する記載が
あるが,あくまで原告の言い分を一方的に記載した文書であり,同照会書を
もって,被告らがEによる本件顧客情報の持出し等の事実を認識することが
できたとは認められない。
(4) 以上のとおりであるから,被告らが不正競争防止法2条1項5号,6号,
8号又は9号所定の不正競争行為をしていると認めることはできない。
よって,原告の被告らに対する不正競争防止法に基づく請求には理由がな
い。
4 争点4(原告と被告らとの間での業務請負契約の成否及びその内容)につい
て
(1) 被告Aについて
原告と被告Aとの間で,電話占い鑑定に関する業務請負契約が締結された
際,①被告Aが,原告を通さずに原告の顧客の鑑定をした場合,原告を通さ
ずに原告の顧客に連絡をとった場合,原告の顧客データ(相談内容を含む)
を外部に流した場合には,原告に対し,損害賠償金100万円を支払う,②
被告Aが,原告と契約を締結している鑑定師の引抜行為をした場合には損害
賠償金100万円を支払う,との合意が成立したことは,原告と被告Aとの
間において争いがない。
(2) 被告Bについて
ア 証拠(甲35)によれば,被告Bが,フリーダムの占い師となって電話
による占い鑑定業務を開始するに当たり,以下の内容の規約を含む平成1
3年11月付け「業務請負に関する契約書」に署名押印したこと(契約書
で被告Bは「甲」と表記されている 。 ,同契約書には契約の相手方とし
)
て「フリーダム 代表者 K」(契約書では「乙」と表記されている 。)
の記名があること認められる。
「規約
1.乙の顧客に対し,乙を通さず鑑定をする・連絡をとる・又はその顧
客データ(相談内容も含む)を外部に流すなどの行為を行った際には,
損害賠償金として甲は乙に50万円を支払うことに異議ないものとす
る。契約解除後であっても同じものとする。
・・・
1.乙の鑑定師にたいし,甲が引き抜き行為を行った場合,甲は乙に損
害賠償金30万円を支払うことに異議ないものとする。業務契約者同
士が乙に関係なく個人的に連絡を取り合うことを禁止する。
・・・」
イ 契約当事者について
被告Bが署名した上記契約書には,契約の相手方として「フリーダム
代表者 K」と記載されているところ,上記1で認定のとおり,当時,F
は,その母であるKにフリーダムの代表者の肩書きを使用してFの業務を
代行することを許諾していたのであるから,上記契約書に基づく業務請負
契約は,Fが営むフリーダムの事業活動の一環として締結されたものであ
る。そして,Fは,平成14年2月19日に原告を設立し,それまで営ん
でいたフリーダムの事業を原告に承継し,被告Bも,平成19年1月ころ
まで原告のもとで電話による占い鑑定を続けていたのであるから,上記業
務請負契約は原告設立後に原告に承継されたものと認められる。
ウ 契約内容について
上記契約書によれば,原告と被告Bとの間で,①被告Bが,原告を通さ
ずに原告の顧客の鑑定をした場合,原告を通さずに原告の顧客に連絡をと
った場合,原告の顧客データ(相談内容を含む)を外部に流した場合には,
原告に対し,損害賠償金50万円を支払う,②被告Bが,原告と契約を締
結している鑑定師の引抜行為をした場合には損害賠償金30万円を支払う,
との賠償額の予定(民法420条)に係る合意を含む業務請負契約が存続
していたものと認められる。
原告は,上記①,②の違反行為に対する損害賠償金が各100万円と定
められたと主張するが,上記契約書の客観的な文言に反するものであり,
他にそのような合意が成立したことを認めるに足りる証拠はないから,同
主張を採用することはできない。
(3) 被告Cについて
ア 証拠(甲6)によれば,被告Cは,フリーダムの占い師となって電話に
よる占い鑑定業務を開始するに当たり,以下の内容の規約を含む平成13
年6月15日付けの「業務請負に関する契約書」に署名押印したこと(契
約書では被告Cは「甲」と表記されている 。 ,同契約書には契約の相手
)
方として「フリーダム 代表者 K」との記名があることが認められる。
「規約
1.乙の顧客に対し,乙を通さず鑑定をする・連絡をとる・又はその顧
客のデータ(相談内容も含む)を外部に流すなどの行為を行った際に
は,損害賠償金として甲は乙に50万円支払うことに異議ないものと
する。契約解除後であっても同じものとする。
・・・
1.乙の鑑定師にたいし,甲が引き抜き行為を行った場合,甲は乙に損
害賠償金30万円を支払うことに異議ないものとする。業務契約者同
士が乙に関係なく個人的に連絡を取り合うことを禁止する。
・・・」
イ 被告Bについて検討したところと同様,上記契約書に基づく業務請負契
約は,Fが営むフリーダムの事業活動の一環として締結されたものであり,
原告設立後に原告に承継されたものと認められる。
そして,上記契約書によれば,原告と被告Cとの間で,①被告Cが,原
告を通さずに原告の顧客の鑑定をした場合,原告を通さずに原告の顧客に
連絡をとった場合,原告の顧客データ(相談内容を含む)を外部に流した
場合には,原告に損害賠償金50万円を支払う,②被告Cが,原告と契約
を締結している鑑定師の引抜行為をした場合には,原告に損害賠償金30
万円を支払う,との賠償額の予定に係る合意を含む業務請負契約が存続し
ていたものと認められる。
(4) 被告Dについて
ア 証拠(甲7)によれば,被告Dは,フリーダムの占い師となって電話に
よる占い鑑定業務を開始するに当たり,以下の内容の規約を含む平成14
年3月23日付けの「業務請負に関する契約書」に署名押印したこと,同
契約書には契約の相手方として「フリーダム 代表者 K」(契約書では
「乙」と表記されている 。)の記名があることが認められる。
「1,乙の顧客に対し 乙を通さず連絡をとる,またはその顧客のデータ
(相談内容を含め)を外部に流すなどの行為を行った際には,損害賠
償金として甲は乙に100万円を支払うことに意義(判決注:異議の
誤記と認める 。)ないものとする。
1,乙の鑑定師に対し,甲が引き抜き行為を行った場合 甲は乙に損害
賠償金100万円を支払うことに意義(判決注:異議の誤記と認め
る。)ないものとする。業務契約者同士が乙の許可なく個人的に連絡
を取り合うことも禁止する。
1,上記規約は契約解除後も同じとする。・・・」
イ 被告Dが署名した上記契約書には,契約の相手方として「フリーダム
代表者 K」と記載されており,原告の名称は記載されていないものの,
当時,原告がフリーダムの名称で電話による占い事業を行っていたこと,
原告の代表者はF(当時の氏名はF1)であること,被告Dは,上記契約
書の作成後,原告のもとで占い鑑定をしていたことからすれば,上記契約
書に基づく契約は,原告と被告Dとの間で成立したものと認められる。
そして,上記契約書によれば,原告と被告Dとの間で,平成14年3月
23日,①被告Dが,原告を通さずに原告の顧客の鑑定をした場合,原告
を通さずに原告の顧客に連絡をとった場合,原告の顧客データ(相談内容
を含む)を外部に流した場合には,原告に対し,損害賠償金100万円を
支払う,②被告Cが,原告と契約を締結している鑑定師の引抜行為をした
場合には損害賠償金100万円を支払う,との賠償額の予定に係る合意が
成立したものと認められる。
(5) 相互連絡禁止義務違反についての損害賠償の予定の有無について
原告は,被告らに対し,相互連絡行為についても賠償金の支払対象となる
行為であることを説明し,その了解を得たと主張するが,契約書の文言上は
契約者同士の相互連絡行為に関して賠償額を予定する旨の記載はなく,他に
そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
5 争点6(被告らが業務請負契約上の義務に違反したか否か)について
事案にかんがみ,争点5(被告Dが原告との間の業務請負契約を未成年を理
由に取り消すことができるか)の前に争点6(被告らが業務請負契約上の義務
に違反したか否か)について判断する。
(1) 原告は,被告らが業務請負契約上の顧客接触・情報漏洩禁止義務,相互連
絡禁止義務及び引抜禁止義務に違反したとして違約金の支払を求めていると
ころ,上記4のとおり,相互連絡禁止義務違反についての違約金に関する合
意があったとは認められない上,被告らが相互に連絡を取ったことにより,
原告に何らかの損害を与えたとも認められない。
したがって,以下,被告らによる顧客情報の漏洩禁止義務違反(原告の顧
客データ[相談内容を含む]を外部に流したか否か ),顧客への接触禁止義
務違反(原告を通さずに原告の顧客の鑑定をしたか否か,原告を通さずに原
告の顧客に連絡をとったか否か ),引抜禁止義務違反(原告と契約を締結し
ている鑑定師の引抜行為をしたか否か)の有無について順次検討する。
(2) 顧客情報の漏洩禁止義務違反の有無について
上記3のとおり,Eが,原告がダイレクトメール送付用に作成したタック
シールを印刷するなどして本件顧客情報を持ち出し,これをHER−BER
−SUに開示したことは認められるものの,被告らがEと共謀していたとま
で認めることはできないから,被告らが原告との間の業務請負契約上の顧客
情報の漏洩禁止義務に違反したと認めることはできない。
(3) 被告らがHER−BER−SUを通じて原告の顧客に対して占い鑑定をし
ていることが顧客への接触禁止義務違反行為となるか
ア 原告は,被告らがHER−BER−SUを通じて原告の顧客に対して占
い鑑定をしていることが,業務請負契約上の顧客への接触禁止義務違反行
為に該当すると主張する。
イ 被告B,被告C及び被告Dがオブジェと契約を締結した時点では,同被
告らと原告との契約は終了しており,本件契約上,契約終了後に同被告ら
が原告以外の業者と契約を締結して占い鑑定をすることは禁止する旨の条
項はなく,被告Aについても,オブジェとの契約締結時に原告との契約は
終了していなかったものの,後記のとおり,原告以外の業者と契約を締結
して占い鑑定をすることは禁止されていなかったのであるから,被告らが
オブジェと契約を締結して占い鑑定をすること自体は原告との間の業務請
負契約に違反する行為ということはできない。
そして,HER−BER−SUの勧誘活動が本件のように原告の顧客情
報を利用するという不当なものでなければ,HER−BER−SUに占い
鑑定を依頼してきた顧客が過去に原告を利用したことがあったとしても,
被告らがHER−BER−SUを通じて当該顧客の占い鑑定をすることは
自由な営業活動として許されるべきであって,原告と被告らとの間の業務
請負契約上の顧客への接触禁止義務も,被告らに当該顧客からの占い鑑定
の依頼を拒否する義務までを課すものとは考えがたい。
したがって,被告らがHER−BER−SUを通じて原告の顧客(過去
に原告を利用した者)に対して占い鑑定をしたことをもって,業務請負契
約上の顧客への接触禁止義務に違反したというためには,被告らにおいて,
少なくともHER−BER−SUが本件顧客情報を使用して原告の顧客へ
の勧誘活動をしていることを認識している必要があると解される。
ウ これを本件について見ると,確かに,上記のとおり,HER−BER−
SUが,本件顧客情報を用いて原告の顧客にダイレクトメールを送付する
などして顧客を募集していること,HER−BER−SUの利用者の氏名
の大部分が原告の顧客名簿に記載されている顧客の氏名と一致することか
らすれば,被告らがHER−BER−SUを通じて占い鑑定をした顧客の
中には原告の顧客(過去に原告を利用した者)が含まれていると認められ
る。
しかし,被告らは,HER−BER−SUと業務請負契約を締結し,H
ER−BER−SUから依頼を受けてHER−BER−SUの顧客に電話
による占い鑑定をしているにすぎず,Eによる本件顧客情報の持ち出し及
びHER−BER−SUにおける使用について,被告らがEと共謀してい
た事実を認めることができないだけでなく,被告らにおいて,HER−B
ER−SUが本件顧客情報を使用して原告の顧客に対する勧誘活動をして
いることを認識しているとも認められないことは,上記3で認定説示した
とおりである。したがって,被告らがHER−BER−SUを通じて原告
の顧客(過去に原告を利用したことがある者)に対して占い鑑定をしたこ
とをもって,本件業務請負契約上の顧客への接触禁止義務に違反したと認
めることはできない。
(4) 被告Aの●●及び●●に対する接触禁止義務違反の有無
ア 原告は,被告Aが,原告の顧客であった●●及び●●にAが開設する占
いのホームページを紹介,案内しているとして,このことから,被告Aに
よる顧客接触禁止義務に違反する行為がうかがわれると主張する。
イ 被告Aが負う顧客への接触禁止義務の内容
証拠(乙B2,乙B14,被告A本人)によれば,被告Aは,原告と業
務請負契約を締結する前から,宮崎県において占い師として活動していた
こと,原告は,平成18年11月22日に被告Aに送信した電子メールに
「当方(判決注:原告)はご自身(判決注:被告A)のお客様も鑑定を続
けられたまま うち(判決中:原告)のお仕事についていただいてかまい
ませんし 時間的なダブルブッキングさえなければ特に問題視はしていま
せん 。 と記 載し ,同 年 12 月2 9日 に被 告A に送 信 した 電子 メ ー ルに
」
「かけもちはオッケイですので対面鑑定を外部でされることは問題ありま
せん 。」と記載したことが認められる。
上記事実によれば,原告と被告Aとの業務請負契約においては,被告A
が原告を通さずに同被告自身の固有の顧客に対して占い鑑定をすること自
体は許容されていたことが明らかであるから,業務請負契約上の顧客への
接触禁止義務は,被告Aが原告を通さずに顧客と接触して占い業務を行う
ことを一般的に禁止する競業禁止義務ではなく,原告を通じて知った顧客
に対して自ら連絡を取ったり,顧客へ被告Aの連絡先を伝えるなどして連
絡をさせるなどの行為に限り,これを禁止するものと解するのが相当であ
る。
ウ ●●の関係について
証拠(乙B11,被告A本人)によれば,被告Aが,原告を通して占い
鑑定をした●●に対し,原告を通さずに占い鑑定をしたことは認められる
ものの,被告Aから●●に連絡を取ったり,被告Aが●●に自身の連絡先
を伝えるなどして同人に連絡をさせたことまでを認めるに足りる証拠はな
い。
そして,被告Aは,●●はインターネットで被告Aの連絡先を調べて個
人的に鑑定を依頼してきたのであり,被告A自ら●●に連絡をしたことは
ないという趣旨の供述をしているところ,証拠(乙B15)によれば,被
告Aは,自身が提供する占い鑑定の内容,問合せ先等を記載した「A2」
というホームページ(乙B15)を開設していたことが認められるから,
占い鑑定に興味を持っている●●が,インターネットを検索し,被告Aが
運営する上記ホームページを見て被告Aに連絡を取ってきた可能性を否定
することはできず,他に被告Aの上記供述の信用性を否定すべき事情も見
あたらないから,被告Aの上記供述を直ちに排斥することはできない。
したがって,被告Aが,●●に対し,原告との業務請負契約上の顧客へ
の接触禁止義務に違反する行為をしたと認めることはできない。
エ ●●の関係について
(ア) 証拠(甲30の1,甲30の2の1ないし甲30の2の4,甲43,
乙B17)によれば,次の事実が認められる。
a 原告を通じて被告Aの占い鑑定を受けた●●は,平成19年10月
18日,原告に対し,以下の内容を記載した電子メールを送信した。
(甲30の2の1)
「A1先生から,霊体のひずみを,修正した方が良いと,言われたの
ですが,別料金とのことでした。
霊体の修正を申し込むためには,どうすれば良いのでしょうか,料
金は,いくらなのでしょうか,教えて下さい 。」
b Fは,同日,●●からの上記aの電子メールに対する返信として,
以下の内容の電子メールを送信した 。(甲30の2の2)
「御連絡たまわりました。フリーダムです。こんばんは。
料金について先生は電話鑑定の中で何かいっておられませんでした
か?」
c ●●は,同日,Fからの上記bの電子メールに対する返信として,
以下の内容の電子メールを送信した 。(甲30の2の3)
「7万円ではないかと,思うのですが・・。
普通に,電話鑑定の際に,霊体の修正をお願いすれば良いのでしょ
うか・」
d Fは,同日,●●からの上記cの電子メールに対する返信として,
以下の内容の電子メールを送信した 。(甲30の2の4)
「フリーダムです。レイショウ鑑定の件で先ほどケイタイへお電話を
させていただいたのですが,お留守のようでした。また明日お電話
させていただいてよろしいでしょうか。ご心配が募りお急ぎの際に
は本日11時まででしたらお電話させていただくことが可能ですの
でよろしくお願いします 。」
e Fは,翌10月19日,●●に電話をかけ,概ね次の内容の会話を
した(甲30の1,乙B17)
「・・・
F 『で,一応ですね,あの,先生とどこまで,どのような話にな
っているかと思って,ちょっと教えていただければと思い
まして 。』
●● 『あの。左のほうの,その歪みがあって,で,修正をまあ,
あの,すると,した方がいいといわれ・・・具体的なお金と
か,祝詞とかそういうような申込みの仕方とかがわからな
かったので,とりあえずそういう感じですよ 。』
F 『じゃ先生からとしては,御祓いをしたほうがいいということ
と,て,先生があの,ま,自分に頼めば有料だけどもでき
るよ。という話だったということですよね 。』
●● 『そう?なんかあの,別料金ですかと言ったら,ま,少し料
金はかかるという話で。えーよくちょっとわからないです
けど, それってどういうこと,どういう感じなん で すか
ね?』
・・・
●● 『あ,なんか先生の鑑定,ん?なんか私のホームページを見
てほしいというふうなことを言われまして,ちょっと見た
んですけど,探したんですが,なくて,で,ホームページ
調べたんですけども,なんかようするにそのフリーダムさ
んから申し込むのか,あるいはその先生の方に直接,先生
のそのホームページから申し込むのかわからないんですけ
ど。ちょっと別料金だと言われまして 。』
F 『あ,うーむ,そうだんですね。じゃ,そのホームページとい
うのは,フリーダムのホームページではなくて,先生のホ
ームページをという感じですよね 。』
●● 『うーん。あの,A1の世界というふうな,・・・ウェブでは
なかったんで。聞き間違えたかも知れないんですけ ど・・
・』
・・・」
(イ) 以上の認定事実によれば,被告Aが,原告を通じて●●の占い鑑定
をした際,●●に対し,霊体のひずみを修正したほうがいいと告げ,料
金については別途7万円が必要であると伝えたこと,●●に対し,被告
Aの開設するホームページを見るよう勧めたことが認められ,これによ
れば,被告Aが,原告の顧客である●●に対し,原告を通さずに霊体の
ひずみの修正をすることを持ちかけたものと考えられなくもない。
しかし,被告Aは,原告を通して●●の占い鑑定をした際,鑑定内容
を正確に理解してもらうために被告Aが開設している連絡先等の記載の
ない「A2」というホームページを紹介しただけであると主張し,これ
に沿う供述をしている。
そして,証拠(乙B16)によれば,被告Aは ,「A2」というホー
ムページを作成していたところ,同ホームページには前世や霊体に関す
る説明はあるものの,被告Aの連絡先等の記載はないことが認められる。
そして,被告Aが●●に紹介したホームページはこの「A2」のことで
あったと考えられるから(●●は,被告Aに紹介されたホームページが
「A3」であったと話しているが,被告Aが原告ではA1の名称を用い
ていたことから,●●において被告Aから紹介された「A2」を「A
3」と思い込んでしまったものと考えられる 。 ,被告Aの上記主張及
)
び供述には一応の裏付けがあり,直ちに排斥することはできない。
また,被告Aが,●●に対し,原告を通さずに個人的に霊体のひずみ
の修正をすることを持ちかけたのであれば,被告Aの連絡先や霊体のひ
ずみの修正をするための具体的な手続等について説明したはずであるが,
上記のとおり,被告Aが,連絡先や鑑定料金等の記載のある「AA」と
いうホームページ(乙B15)を開設していたにもかかわらず,●●に
は被告Aの連絡先等の記載のない「A2」というホームページ(乙B1
6)を紹介したこと,実際,●●が,霊体のひずみの修正を申し込む方
法がわからず,原告に電子メールで問合せをしていることからすれば,
被告Aから同被告の連絡先等についての説明を受けていないことは明ら
かであり,このことからすれば,被告Aが霊体のひずみを修正するため
の料金が7万円であると説明した点についても,あくまで一般的な料金
についての説明をしたにすぎないとも考えられる。
そうすると,上記(ア)で認定した事実からは,被告Aが,原告を通じ
て●●の占い鑑定をした際,原告を通さずに霊体のひずみの修正をする
ことを持ちかけたとまで認めることはできず,他に,これを認めるに足
りる証拠もない。
したがって,被告Aが,●●に対して,原告との間の業務請負契約上
の接触禁止義務に違反する行為をしたと認めることはできない。
(5) 引抜禁止義務違反について
原告は,被告らが業務請負契約上の引抜禁止義務に違反したと主張するが,
被告らがオブジェと業務請負契約を締結したことは認められるものの,被告
らが原告の鑑定師の引抜行為をしたと認めるに足りる証拠はない。
なお,証拠(乙E1,被告D本人)によれば,被告Dがオブジェと業務請
負契約を締結したのは,平成19年5月ころに同被告の母である被告Cから
オブジェを紹介されたことがきっかけであったことが認められるが,原告と
被告Dとの業務請負契約は平成14年11月には終了しているのであるから,
被告Cが原告の鑑定師を引き抜いたということにはならない。
(6) まとめ
以上のとおりであるから,原告の被告らに対する業務請負契約上の義務違
反を理由とする請求には理由がない。
6 争点7(原告の被告Aに対する鑑定料の未払額)について
被告Aは,原告の被告Aに対する鑑定料金の未払額が16万9860円(平
成19年11月分は11万9560円,同年12月分は5万0300円)であ
ると主張し,これを裏付けるものとして,占い鑑定をした日付,顧客氏名,鑑
定時間等を集計した資料(第2事件の甲2の1)を提出している。この資料は,
その作成経緯が必ずしも明確ではないものの,その体裁及び内容からして,各
月ごとに各顧客から占い鑑定の依頼があった順に,顧客名,受付時刻,鑑定に
要した時間等を記載しているものであって,日々記帳する帳簿書類に準ずるも
のであると認められる。そうすると,この資料の記載内容については一定の信
用性を肯定することができる。
他方,原告は,被告Aに対する未払鑑定料金が16万3860円である限度
で認め,鑑定料金の算出根拠については,上記資料では平成19年11月18
日の「●●●●●●」の鑑定時間が37分とされているが実際は35分である,
同年12月8日の「●●●●●●● 」(鑑定時間21分)及び同月9日の「●
●●●●● 」(鑑定時間52分)の記載があるがこれらについては鑑定の事実
がないと説明している。しかし,原告はそのように主張するだけで,その根拠
となる資料を一切開示しないから,原告の上記主張の信用性をたやすく肯定す
ることはできず,上記甲2の1の信用性を覆すには足りないというべきである。
したがって,未払鑑定料の額は,被告Aの主張するとおり,16万9860
円であると認められる。
7 争点8(被告Aが原告に自己の写真の返還を求めることができるか)につい
て
被告Aは,平成19年2月ころ,原告に対し,ホームページ掲載用として被
告Aの写真を渡したが,原告と被告との間の業務請負契約は平成20年2月こ
ろに終了したとして,同写真の返還を求めている。
被告Aの上記請求は,業務請負契約の終了をその根拠とするものと解される
ところ,現時点において被告Aが上記写真の所有権を有する旨の主張立証がな
い以上,被告Aが,原告と業務請負契約を締結するに当たって,同契約終了時
に写真を返還するという合意をしたなどの事情が認められない限り,原告の被
告Aに対する上記写真の返還義務を直ちに肯定することはできない。これを本
件についてみると,被告Aが,同契約締結時に,同契約終了時に上記写真を返
還するとの合意をしたとの主張はなく,かつ,これを認めるに足りる証拠もな
い(契約書〔甲5〕には上記趣旨の合意に係る記載はない 。)から,原告と被
告A間の業務請負契約が終了したからといって,直ちに原告の被告Aに対する
写真の返還義務を肯定することはできないというべきである。本件において,
他に写真の返還義務を基礎づける事実上・法律上の根拠についての主張立証は
ない。
したがって,原告に対し写真の返還を求める被告Aの請求は理由がない。
第5 結語
以上によれば,第1事件における原告の請求は,いずれも理由がないから棄
却することとし,第2事件の被告Aの請求は,業務請負契約に基づき,原告に
対し,未払鑑定料金16万9860円及びこれに対する弁済期到来後の平成2
0年3月29日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の
請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田 中 俊 次
裁判官 北 岡 裕 章
裁判官 山 下 隼 人
別紙
営業秘密目録
原告業務に使用するコンピューターの記録媒体内に記録された原告作成にかかる
顧客名簿(顧客の「電話番号 」 「氏名 」 「フリガナ 」 「住所 」 「何を見て 」 「チ
, , , , ,
ェック 」 「転送区分 」 「 DM 区分 」 「コレクト区分 」 「備考区分 」 「備考 」 「入
, , , , , ,
力担当 」 「更新担当 」 「入力日時」及び「更新日時」の記入欄があるもの)及び
, ,
当該顧客名簿をもとに封筒に貼付するタックシール上に印字された顧客情報
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