平成21(行ケ)10399審決取消請求当事者参加事件
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裁判所 |
知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成22年2月24日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官
|
対象物 |
活性成分の即開放性を有する高純度配合物の経口フルダラ |
法令 |
特許権
特許法29条2項2回
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キーワード |
審決43回 実施41回 進歩性8回 優先権1回
|
主文 |
1 当事者参加人の請求を棄却する。
2 訴訟費用は当事者参加人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 本件は,脱退原告(出願当時の名称「シエリング アクチエンゲゼルシャフ
ト )が名称を「活性成分の即開放性を有する高純度配合物の経口フルダラ」」
とする発明について国際特許出願(本願)をしたところ,日本国特許庁から拒
絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をし,その係属中の平成17
年12月28日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正(以下「本
件補正」という )をしたが,同庁から請求不成立の審決を受けたことから,。
その取消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成22年2月24日判決言渡
平成21年(行ケ)第10399号 審決取消請求当事者参加事件(被参加事件 平
成21年(行ケ)第10184号)
口頭弁論終結日 平成22年2月22日
判 決
当 事 者 参 加 人 アルカフロイ マネージメント
ゲゼルシャフト ミット
ベ シ ュ レ ン ク テ ル
ハフツング ウント コンパニー
コマンディト ゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士 上 谷 清
同 永 井 紀 昭
同 仁 田 陸 郎
同 萩 尾 保 繁
同 笹 本 摂
同 山 口 健 司
同 薄 葉 健 司
同 石 神 恒 太 郎
訴訟代理人弁理士 福 本 積
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 川 上 美 秀
同 星 野 紹 英
同 北 村 明 弘
同 田 村 正 明
脱 退 原 告 バイエル・シエーリング・ファーマ
アクチエンゲゼルシャフト
主 文
1 当事者参加人の請求を棄却する。
2 訴訟費用は当事者参加人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2005−23466号事件について平成21年2月24日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,脱退原告(出願当時の名称「シエリング アクチエンゲゼルシャフ
ト」)が名称を「活性成分の即開放性を有する高純度配合物の経口フルダラ」
とする発明について国際特許出願(本願)をしたところ,日本国特許庁から拒
絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をし,その係属中の平成17
年12月28日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正(以下「本
件補正」という。)をしたが,同庁から請求不成立の審決を受けたことから,
その取消しを求めた事案である。
なお,当事者参加人は,本件訴訟の係属中に,脱退原告から本願に係る特許
を受ける権利の譲渡を受けてこれを承継した。
2 争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(本願発明)が下記引用例1∼5
との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記
・引用例1:ジェームズ エム フォランら「 低度』非ホジキン型リンパ腫
『
患者及びB細胞性慢性リンパ球性白血病患者へのリン酸フルダ
ラビンの単独経口投与の動物動態学研究 」 James M.Foran ほか
(
「Pharmacokinetic Study of Single Doses of Oral Fludarabine
Phosphate in Patients With "Low-Grade" Non-Hodgkin's Lymphoma
and B-Cell Chronic Lymphocytic Leukemia」 (Journal of Clinical
)
Oncology 17巻5号,1999年〔平成11年〕5月,15
74頁∼1579頁。以下これに記載された発明を「引用例1
発明」という。甲1)
・引用例2:特表2001−525418号公報(発明の名称「リン酸フル
ダラビンのリチウム,ナトリウム,カリウム,カルシウム及び
マグネシウム塩の製造方法,リン酸フルダラビンを製造するた
めの精製方法及び少なくとも99.5%の純度を有するリン酸
フルダラビン」,出願人 シエリング アクチェンゲゼルシャフ
ト〔脱退原告〕,公表日 平成13年12月11日。甲2)
・引用例3:国際公開第01/41770号公報(発明の名称「ナノ粒子エ
プレレノン組成物」 出願人 ファーマシア コーポレーション,
,
国際公開日 2001年6月14日,甲3)
・引用例4:国際公開第99/63970号公報(発明の名称「デラビルジ
ン錠剤製剤」,出願人 ファーマシア アンド アップジョン カ
ンパニー,国際公開日 1999年12月16日,甲4)
・引用例5:米国特許第3,903,297号公報(発明の名称「プロスタ
グランジン類似体を使用した胃分泌過多,並びに胃及び十二指
腸潰瘍の治療及び予防方法」,発明の譲受人 ザ アップジョン
カンパニー,特許公報発行の日 1975年9月2日,甲5)
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
ア 脱退原告(当時の名称「シエリング アクチエンゲゼルシャフト」)は,
2001年(平成13年)12月20日の優先権(ドイツ)を主張して,
2002年(平成14年)11月25日,名称を「活性成分の即開放性を
有する高純度配合物の経口フルダラ」とする発明について国際特許出願 P
(
CT/EP02/13252,日本における出願番号は特願2003−5
54177号。以下「本願」という。請求項の数12)をし,平成16年
7月26日に日本国特許庁に翻訳文(甲9)を提出(国内公表は特表20
05−519043号〔甲10〕)したが,拒絶査定を受けたので,平成
17年12月5日付けで不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2005−23466号事件として審理し,そ
の中で脱退原告は平成17年12月28日付けで本件補正(請求項の数1
1。甲13)をしたが,特許庁は,平成21年2月24日 ,「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決(出訴期間として90日附加)をし,
その謄本は平成21年3月10日脱退原告に送達された。
イ 当事者参加人は,脱退原告から本願に係る特許を受ける権利の譲渡を受
け,平成21年8月21日に特許庁にその旨届け出た上,脱退原告の提起
した本件訴訟(平成21年(行ケ)第10184号)に平成21年12月
9日付けで当事者参加をし,これを受けて脱退原告は,平成21年12月
10日の本件第2回弁論準備手続期日において,被告及び当事者参加人の
承諾を得て上記訴訟から脱退した。
(2) 発明の内容
本件補正後の請求項の数は,前記のとおり11であるが,そのうち請求項
1に係る発明 本願発明)
( の内容は,下記のとおりである 下線は補正箇所 )
( 。
記
【請求項1】
50 ∼ 100mg のラクトース一水和物,
0.1 ∼ 5mg のコロイド状二酸化珪素,
40 ∼ 100mg の微晶性セルロース( avicel),
1∼ 10mg のクロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボキシメチ
ルセルロース),及び
0.5 ∼ 10mg のステアリン酸マグネシウムと共に,
99.19 %以上の純度での活性成分フルダラ( fludara)1 ∼ 70mg を含
んで成る即開放性錠剤配合物であって,前記フルダラ中の汚染物が次
のような%を越えない:
0.02 %の2−フルオロ−2−(β−d−アラビノフラノシル)− 9H
−プリン−6−アミン,
0.12 %の6−アミノ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −アラビノ
フラノシル)− 9H −プリン−2−オール,
0.02 %の2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン,
0.02 %の6−アミノ− 9H −プリン−2−オール,
0.05 %の2−フルオロ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −リボフ
ラノシル)− 9H −プリン−6−アミン,
0.1 %の9−(3,5− O −ジホスホノ−β− D −アラビノフラノ
シル)−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン,
0.1 %の9−(2,5− O −ジホスホノ−β− D −アラビノフラノ
シル)−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン,
0.02 %の2−フルオロ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −アラビ
ノフラノシル)− 9H −プリン−6−アミン,
0.06 %の2−エトキシ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −アラビ
ノフラノシル)− 9H −プリン−6−アミン,
0.02 %の2−(6−アミノ− 9H −プリン−2−イル)−9−(5
− O −ホスホノ−β− D −アラビノフラノシル)− 9H −プリン−
6−アミン及び O, O’−ビス[2−(6−アミノ−2−フルオロ− 9H
−プリン−9−イル)−5−デオキシ−α− D −アラビノフラノス
−5−イル]−ホスフェート,
0.1 %の9−(2−クロロ−2−デオキシ−5−ホスホノ−β− D
−アラビノフラノシル)−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン ,
0.1 %の9−(2,5−アンヒドロ−β− D −アラビノフラノシル )
−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン;
ことを特徴とする配合物。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,その出願前に頒布された上記引用例1
ないし5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特
許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
イ なお審決は,上記判断をするに当たり,引用例1発明の内容,本願発明
と引用例1発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
〈引用例1発明の内容〉
「経口用に調剤された,リン酸フルダラビン 10mg を含んで成る即開放
性錠剤。」
〈一致点〉
いずれも,
「活性成分フルダラ fludara)
( 10mg を含んで成る即開放性錠剤配合物。
」
である点
〈相違点1〉
錠剤の成分について,本願発明では, 50 ∼ 100mg のラクトース一水
「
和物, ∼ 5mg のコロイド状二酸化珪素, ∼ 100mg の微晶性セルロー
0.1 40
ス(avicel),1∼ 10mg のクロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボ
キシメチルセルロース),及び 0.5 ∼ 10mg のステアリン酸マグネシウム
と共に」と特定されているのに対し,引用例1発明ではそのような言及
がない点。
〈相違点2〉
上記審決写し記載のとおり
(4) 審決の取消事由(相違点1についての判断の誤り)
審決の一致点及び相違点の認定,相違点2の容易想到性の判断は認める。
しかしながら,以下に述べるとおり,相違点1についての容易想到性の判
断は誤りであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア 相違点1に関する本願発明の構成の進歩性
相違点1にかかる本願発明の特定事項(錠剤の成分について , 50 ∼
「
100mg のラクトース一水和物,0.1 ∼ 5mg のコロイド状二酸化珪素,40 ∼
100mg の微晶性セルロース avicel) 1 ∼ 10mg のクロスカラメロース― Na
( ,
(ナトリウムカルボキシメチルセルロース),及び 0.5 ∼ 10mg のステアリ
ン酸マグネシウムと共に」としている点)は,非常に不安定で分解しやす
い「フルダラ」を活性成分として含む錠剤を安定化するために必須の構成
を特定したものである。
そして,そこに記載の ラクトース−水和物」 コロイド状二酸化珪素」
「 ,「 ,
「微晶性セルロース」 「クロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボキ
,
シメチルセルロース)」及び「ステアリン酸マグネシウム」の5種類の物
質(以下「5種の配合物質」という場合がある)を用いることが記載され
た公知技術は存在せず,また5種のうち1種でも欠ければ十分な安定性が
得られないものであることからすれば,たとえ個々の配合物質が慣用のも
のであったとしても,相違点1にかかる全ての添加物を所定の量でフルダ
ラの錠剤成分として使用することは,出願時の当業者に想到し得なかった
ものである。
なお,フルダラが非常に不安定な物質であることは,本願明細書(甲9)
の段落【0005】の記載からも明らかである。同箇所は,従来技術とし
て, WO99/29710 号(引用例2の基礎出願)の高純度の活性成分フルダラ
を位置付けた上で,その課題として,「すばやく溶解し,そして従って,
活性成分をすばやく開放する,定義された残留汚染物とともに高純度での
フルダラを有する安定した錠剤配合物を有することが所望される 。」と記
載している。すなわち,従来技術である上記 WO99/29710 号のフルダラが
不安定で分解しやすいことから ,「安定した錠剤配合物を有することが所
望される。」旨記載されているのである。
また,フルダラが非常に不安定で分解しやすい物質であることは,平成
17年8月1日付け意見書(甲6)に記載の測定データによっても裏付け
られる。
すなわち,同意見書の表1は,種々の pH 環境下でのフルダラの分解生
成物を測定した結果であり,表2は種々の温度/相対湿度でのフルダラの
分解生成物を測定した結果である。これらの結果から,フルダラが pH や
温度に対して非常に不安定であることが明らかである。
以上のとおり,フルダラは非常に不安定であり,錠剤の設計に当たって
は,配合物質の選択において特別の考慮が必要となるものであった。
相違点1にかかる本願発明の特定事項を採用することによって,上記の
欠点が克服できたことは,本願明細書の段落【0006】∼【0012】
に記載されている。
すなわち ,「定義された濃度の残留汚染物と共に,活性成分フルダラが
99.19%以上の純度で,微粉化されていないが,しかし篩分けされた形で存
在する錠剤配合物が,既知の錠剤の欠点を克服することが現在,見出され
た。 (段落【0006 】
」 )とし,当該欠点を克服した錠剤配合物の構成と
して ,「好ましい配合物質は,ラクトース,コロイド状二酸化珪素,微晶
性セルロース(avicel),クロスカラメロース―ナトリウム(ナトリウムカ
ルボキシメチルセルロース)及びステアリン酸マグネシウムである 。(段
」
落 0007】 とし,
【 ) さらに好ましい配合物質の構成として, 50 ∼ 100mg
「
のラクトース一水和物,0.1 ∼ 5mg のコロイド状二酸化珪素,40 ∼ 100mg
の微晶性セルロース(avicel) 1 ∼ 10mg のクロスカラメロース― Na(ナ
,
トリウムカルボキシメチルセルロース),及び 0.5 ∼ 10mg のステアリン酸
マグネシウム」
(段落【0012】
)と記載されているのである。
また,相違点1にかかる5種の配合物質のうち1種でも欠ければ十分な
安定性が得られないことは,平成18年10月13日付け上申書(甲8)
に記載の測定データから明らかである。
すなわち,そこに記載されている実験は,実施例1に記載されている錠
剤と全く同じ錠剤を対照とし,5種の配合物質のうちのそれぞれ1種類ず
つを使用しないで調整した各錠剤の安定性を見たものである。
当該実験結果は,ラクトース,コロイド状二酸化珪素,微晶性セルロー
ス( avicel),クロスカラメロース―ナトリウム(ナトリウムカルボキシメ
チルセルロース)及びステアリン酸マグネシウムの5種を有する完全錠剤
の貯蔵安定性が最もよく,5種の配合物質のうち1種でも欠けたものは,
完全錠剤よりも貯蔵安定性が低下していることが明らかである。
以上を考慮すれば,相違点1にかかる本願発明の特定事項は,出願時の
当業者に容易に想到し得なかったことが明らかである。
イ 審決の判断の具体的な誤り
(ア) 相違点1の判断
審決は,相違点1につき ,「しかし,本願発明で用いられる『ラクトー
ス一水和物 』 『コロイド状二酸化珪素 』 『微晶性セルロース 』 『クロス
, , ,
カラメロース―Na(ナトリウムカルボキシメチルセルロース )』及び『ス
テアリン酸マグネシウム』は,いずれも錠剤を構成する成分として従来知
られていたもの(例えば,上記『3 .』で摘示した引用例3∼5を参照)
で,適宜用いられている成分にすぎず,そのような成分を,フルダラを有
効成分とする錠剤の構成成分として採用することに格別の困難性があると
は認められない。(11頁13行∼19行)とするが,誤りである。
」
上述のとおり,フルダラは非常に不安定な物質であり,錠剤の設計に当
たっては,錠剤配合物質の選択において特別の考慮が必要である 。そして ,
本願発明は,相違点1にかかる5種の配合物質の組み合わせという構成を
採用することで,フルダラを活性成分として含む安定した錠剤配合物を提
供するものである。
たとえ,本願発明の特定する5種の配合物質のそれぞれが錠剤の成分と
して慣用のものであったとしても,フルダラの錠剤配合物としてこれら5
種を同時に用いる構成は引用例3∼5に開示も示唆もないことからすれ
ば,出願時の当業者に当該5種を同時にフルダラの錠剤配合物に使用する
動機付けは存在しない。また,これら5種を同時に含むフルダラの錠剤配
合物が,いずれか1種を欠くものより貯蔵安定性に優れるという顕著な効
果を奏するものであることは,引用例3∼5を参酌しても,予測し得るも
のではない。
よって,相違点1にかかる構成を当業者が容易に想到し得なかったこと
は明らかである。
(イ) 上申書(甲8)の実験データ
審決は,上申書(甲8)の実験データにつき,①「…前記提示されたデー
タの『完全錠剤(実施例1) は,貯蔵前においてその不純物量が既に1 .
』
18%であって,フルダラの純度は98.82%(=100−1.18)
となるから,前記本願明細書の実施例1でないことが明らかであり,又本
願発明の発明特定事項である『純度99.19%以上』との条件を満たさ
ず実施例でないことも明白である。(15頁13行∼17行) ②「更に,
」 ,
安定性試験で不純物量が1.18%から8.11%まで増加することは,
審判請求理由での『医薬組成物の安定性としては,活性成分の分解減少は
2%以下であることが要請されている』との主張と矛盾することも明白で
ある。(15頁17行∼21行)として,上申書に記載されたデータは勘
」
案できるものではない旨述べるが,これも誤りである。
まず,①の点については,確かにフルダラの純度の点で上記実験データ
は本願発明の実施例を正確に追試したものとはいい難いかもしれないが,
上記実験データは,フルダラを活性成分として含有する錠剤の配合物質と
して,相違点1にかかる5種の錠剤配合物質のうち1種でも欠ければ十分
な安定性が得られないことを裏付けるための実験なのであって,「5種の
錠剤配合物質のうち1種でも欠ければ十分な安定性が得られない」という
事実は,フルダラの純度が本願発明のそれと若干異なっている上記実験に
よっても,十分に立証される事項である。よって,①の点は,上記データ
を勘案しない理由とはなり得ない。
②の点は,明らかに審決の誤解である。甲8の上申書にかかる実験は,
」
「迅速安定試験(Accelerated Storage Test) ,いわゆる加速劣化試験であ
る。すなわち,実験体を過酷な条件の実験下におき,意図的・短期的に経
時的な変化を進行させて,そこから通常の条件下における経時的変化(寿
命ないし安定性)を検証するという実験方法である。審決の指摘する「…
医薬組成物の安定性としては,活性成分の分解減少は2%以下… 」(15
頁19∼20行)との要請は,通常の条件下における医薬品の安定性につ
いてのものであって,通常の条件下における試験ならともかく,このよう
な過酷な条件による加速劣化試験に要請されるものではないことは当然で
ある。よって,②の点も,上記データを勘案しない理由とはなり得ない。
以上のとおり,審決が上申書(甲8)の実験データを勘案しないとした
理由は ,いずれも成り立たないから,これを勘案しなかった審決の判断は,
誤りである。
(ウ) 対応特許出願に特許が付与されていること
本願発明の対応外国出願は,米国においても(米国特許第7,148,
207号,甲14),欧州共同体においても(EP1455760号,甲
15),特許が付与されている。主要3極の特許庁のうちの2極までが本
願発明の特許性を認めている事実は,本願発明が進歩性を有することを,
何よりも裏付けているといえる。
2 請求原因に対する認否
請求の原因(1)・(2)・(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
(1) 本願明細書(甲9)に記載された発明は,「定義された濃度の残留汚染物
と共に,活性成分フルダラが 99.19 %以上の純度で,微粉化されていないが ,
しかし篩分けされた形で存在する錠剤配合物が,既知の錠剤の欠点を克服す
ることが現在,見出された。(段落【0006】
」 )というものであり,「ラク
トース,コロイド状二酸化珪素,微晶性セルロース(avicel),クロスカラメ
ロース−ナトリウム(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)及びステア
リン酸マグネシウム」の5種(5種の配合物質)については,活性成分フル
ダラの「好ましい配合物質」として含有されているにすぎず ,「一般的に当
業者に知られている他の配合物質もまた,考えられる」とされていたもので
ある(段落【0007】。
)
そして,本願明細書の具体的な記載によれば,例1に処方例として 99.19
%以上の高純度のフルダラと5種の配合物質から製造した錠剤配合物の記載
があるものの,その錠剤がどのように優れているのかについて何も記載され
ていない。また,例2には従来例(純度 98 %以下)との比較で,精製され
たフルダラの純度と汚染物の割合についての記載があるに止まり,作用効果
について何も記載されていない。
しかるに,当事者参加人は,本願発明について,「ラクトース−水和物,
コロイド状二酸化珪素,微晶性セルロース(avicel),クロスカラメロース−
Na(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)及びステアリン酸マグネシ
ウム」の5種の配合物質を用いたことによってフルダラ錠剤の安定性が得ら
れ,5種のうち1種でも欠けると十分な安定性が得られないという本願明細
書に記載されていない作用効果を主張し,その作用効果に基づいて本願発明
には進歩性があると主張している。
しかし,このような当事者参加人の主張は,フルダラの残留汚染物と純度
が問題であるとされていた本願明細書の記載を超えるものであって,単に好
ましい例として記載されていた5種の配合物質を本願発明の枢要な特徴点に
位置付けるため新たな作用効果を主張していることにほかならず,かかる主
張により進歩性があるとすることはできない。
( 2) 当事者参加人は,相違点1にかかる本願発明の特定事項は,非常に不安
定で分解しやすい「フルダラ」を活性成分として含む錠剤を安定化するため
に必須の構成を特定したものであると主張するが,本願明細書の記載に基づ
かない主張である。
本願明細書(甲9)には,次の記載がある。
・ 「 0002】
【
で表される,99.19%以上の純度のフルダラ(高純度フルダラ)を,活
性成分として有する即開放性錠剤配合物に関する。98%以下の純度でのフ
ルダラを有する錠剤配合物はすでに知られている。次の研究において,種々
の配合物及び用量が示されている…」
・ 「 0005】
【
99.5%以上の純度での活性成分,及び定義された組成の前記活性成分の
汚染物を,配合物に有するフルダラ配合物は今日まで知られていない。WO
99/29710号から,99.19%以上の純度を有する活性成分フルダ
ラは知られている。しかしながら,またこの従来技術においては,配合物に
含まれる純粋なフルダラの定義された組成は提供されていない。
従って,すばやく溶解し,そして従って,活性成分をすばやく開放する,
定義された濃度の残留汚染物と共に高純度でのフルダラを有する安定した錠
剤配合物を有することが所望される。」
・ 「 0006】
【
定義された濃度の残留汚染物と共に,活性成分フルダラが99.19%以
上の純度で,微粉化されていないが,しかし篩分けされた形で存在する錠剤
配合物が,既知の錠剤の欠点を克服することが現在,見出された。前記錠剤
配合物は,活性成分を,5∼100mg,8∼75mg,特に好ましくは1
0−50mgの量で,特に10∼20mgの量で含んで成る。」
これらの記載によれば, 98 %以下の純度でフルダラを有する錠剤配合物
が知られていること(段落【0002】,99.5 %以上の純度での活性成分及
)
び汚染物を有するフルダラ組成物は知られていないこと, 99.19 %以上の活
性成分フルダラは知られているが,配合物に含まれる組成は知られていない
こと,定義された濃度の残留汚染物と共に高純度でのフルダラを有する安定
した錠剤配合物が所望されること(段落【0005】,定義された濃度の残
)
留汚染物と共に,活性成分フルダラが 99.19 %以上の純度とする錠剤配合物
が既知の錠剤の欠点を克服することが見出されたこと(段落【0006 】)
との記載はある。
しかし ,相違点1に係る本願発明の特定事項である ラクトース−水和物」
「 ,
「コロイド状二酸化珪素」「微晶性セルロース」「クロスカラメロース− Na
, ,
(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)」及び「ステアリン酸マグネシ
ウム」の5種類の物質(5種の配合物質)を配合することによって ,「フル
ダラ」を活性成分として含む錠剤を安定化したことについては,本願明細書
(甲9)に明示的な記載を見い出せない。
この5種の配合物質については,本願明細書の段落【0007】に,「好
ましい配合物質は,ラクトース,コロイド状二酸化珪素,微晶性セルロース
(avicel),クロスカラメロース−ナトリウム(ナトリウムカルボキシメチル
セルロース及びステアリン酸マグネシウムである。」と記載されているよう
に, 好ましい配合物質」とされているにすぎない。続いて「しかしながら,
「
一般的に当業者に知られている他の配合物質もまた,考えられる。」と記載
されているように,5種の配合物質以外の物質であっても使用可能であるこ
とが示唆されているのであるから,本願発明において5種の配合物質に限定
される理由は本願明細書に記載がない。
( 3) また当事者参加人は,5種の配合物質を用いることが記載された公知技
術は存在しない旨主張する。
しかし,審決が引用例3,4(甲3,甲4)に関し摘示した,(3-i)
「 『よ
り好ましい即開放性錠剤…の具体例としては,…ラクトース一水和物;…微
結晶セルロース;…クロスカルメロースNa; %は重量%)である。この
(
ような錠剤…は,付加的に…ステアリン酸マグネシウム,…コロイド状二酸
化珪素を成分とできる 。』…」(5頁下3行∼6頁6行 ) 「 請求項32】…
,【
クロスカルメロースナトリウム…微結晶性セルロース…乳糖一水和物…コロ
イド状二酸化珪素…ステアリン酸マグネシウム…の非徐放性医薬錠剤組成
物。…」(7頁23行∼32行)と記載されているように,相違点1に係る
本願発明の特定事項である5種の配合物質全てを配合した即開放性錠剤が知
られている。
したがって,相違点1に係る本願発明の特定事項である5種の配合物質を,
フルダラの即開放錠剤の錠剤成分とすることは,当業者が容易に想到し得た
ものであり,当事者参加人の主張は失当である。なお,配合量についても,
実施に当たり適宜設定される事項であって,薬効成分が異なれば,採用され
る各構成成分の数値範囲も適宜異なるものであるから,薬効成分としてフル
ダラを用いる際に適宜採用される程度のものというべきである。
(4) 当事者参加人は,5種の配合物質のうち1種でも欠ければ十分な安定性
が得られないと主張するが,本願明細書(甲9)には,5種の配合物質のう
ち1種でも欠ければ十分な安定性が得られないとの作用効果について何ら記
載されていない。
しかも,本願明細書の具体例をみると,実施例1は,錠剤配合物の製造例
(段落【0018】∼【0021】)であり,活性成分フルダラ及び5種の
配合物質により, 約30%の乾燥混合物まで加工する」 段落 0018】,
「 ( 【 )
「成形加工物を,錠剤コアーに圧縮する」(段落【0019】,
)「錠剤コアー
を,水性被覆フィルム懸濁液によりペイントした」(段落【0020】,
)「生
成されたフィルム錠剤をさらに加工する」(段落【0021】
)のように,錠
剤配合物,錠剤コアー及びフィルム錠剤を製造したことが記載されているが,
錠剤配合物については ,「生成された錠剤配合物は,次の個々の成分を含ん
で成る」として,フルダラ等の含有量が記載されているだけで,その製造で
得られた錠剤配合物がどのように優れているのかについて記載がない。
なお,段落【0021】に「配合物の安定性が確保される」との記載はあ
るが,これは,「次に,錠剤コアーを,水性フィルム懸濁液によりペイント
した。そのようなフィルム被覆は,例えば次の成分を含んで成る:… 」【0
(
020 】 ,
) 「次に,このようにして生成されたフィルム錠剤をさらに加工す
ることができる。フィルム錠剤を,例えばAlu−ブリスターにパッケージ
ングすることができ,これにより,配合物の安定性が確保される。 ( 00
」【
21】)と記載されているように,所定配合物からなる錠剤にフィルム被覆
したフィルム錠剤を,さらにパッケージングすることにより「配合物の安定
性が確保される」ことを述べたものである。すなわち,本願発明の錠剤を加
工したフィルム錠剤のパッケージによって得られた効果を述べたにすぎず,
本願発明の配合成分による作用効果を説明したものではない。
さらに,例2には,表1∼表6において,従来の 98 %以下の純度のフル
ダラ,イオン交換カラムで精製したフルダラ,バッチ1∼3の高純度フルダ
ラの各組成物について,汚染物の割合が記載されているに止まり,本願発明
の配合物の作用効果を何ら明らかにするものではない。このように,実施例
に関しては,上記の例1及び例2以外に具体例はなく,本願発明の作用効果
を明らかにするデータは何も示されていない。
したがって,5種の配合物質のうち1種でも欠ければ十分な安定性が得ら
れないものであることが本願明細書に記載されているとは到底いえない。
そして,本願明細書には,本願出願後に提示された平成18年10月13
日付け上申書(甲8)のデータによって釈明されるほどの作用効果が記載さ
れているとは認められないこと(審決12頁11行∼14頁4行),当該上
申書のデータは,本願発明を実施したものではないから勘案できるものでは
ないこと(審決14頁5行∼15頁26行)は,いずれも審決に記載されて
いるとおりである。
以上のことから,当事者参加人の「相違点1にかかる全ての添加物を所定
の量でフルダラの錠剤成分として使用することは,出願時の当業者に想到し
得なかったものである。」との主張は理由がない。
(5)ア 当事者参加人は,フルダラが非常に不安定な物質であることは,本願
明細書の段落【0005】の記載からも明らかであり,従来技術である
WO99/29710 のフルダラが不安定で分解しやすいことから,
「安定した錠剤
配合物を有することが所望される。」旨記載されていると主張するが,本
願明細書にはそのように記載されていると解することはできない。
すなわち,本願明細書の段落【0005】の記載は,前記( 2)のとおり
であり, WO99/29710 のフルダラが不安定で分解しやすいことから」とは
「
記載されていない。WO99/29710 号に関しては, WO99/29710 号から,
「 99.19
%以上の純度を有する活性成分フルダラは知られている。しかしながら,
またこの従来技術においては,配合物に含まれる純粋なフルダラの定義さ
れた組成は提供されていない 。 (段落【0005 】
」 )と記載されているだ
けであり,それに続く「従って,すばやく溶解し,そして従って,活性成
分をすばやく開放する,定義された濃度の残留汚染物と共に高純度でのフ
ルダラを有する安定した錠剤配合物を有することが所望される。 段落 0
」
( 【
005 】)との記載をみても,高純度のフルダラを即開放性錠剤とするこ
とが記載されているに止まり,WO99/29710 号のフルダラが非常に不安定
な物質であるとか,WO99/29710 号のフルダラが不安定で分解しやすいと
いった解釈が生じる余地はない。
そして,段落【0005】の「安定した錠剤配合物を有することが所望
される 。」との記載についても,医薬製剤において当然に要望される事項
であって,フルダラに限らないものである。「安定した錠剤配合物」との
記載は,一般的な要望について記載されているにすぎないと解するのが相
当である。
イ 当事者参加人は,フルダラが非常に不安定で分解しやすい物質であるこ
とは,平成17年8月1日付け意見書(甲6)に記載の測定データである
表1及び表2の結果から,フルダラが pH や温度に対して非常に不安定で
あることが明らかである旨主張する。
しかし,上記意見書に係る当事者参加人の主張については,審決におい
て「…請求人は,意見書(平成17年8月1日付け)において,種々のp
H環境下と種々の温度/相対湿度での分解生成物の測定データを提示し,
『フルダラがpHや温度に対して非常に不安定である』ことを主張してい
るが,本願明細書にはフルダラの純度の観点からの記載があるものの,フ
ルダラ自体の不安定性と錠剤配合物の安定性について言及されていないか
ら,そもそも勘案できないし,仮にその測定データを検討したところで,
単にフルダラが不安定であるというだけで,その不安定性がどのような理
由でどの程度改善されたのかは不明という他ないことから,本願発明の作
用効果を明らかにするものでもない 。 (13頁15行∼23行)と記載さ
」
れているとおりであり,甲6記載の測定データである表1及び表2の結果
は,本願発明の作用効果を明らかにするものではない。
ウ 以上のとおり ,「フルダラは非常に不安定であり,錠剤の設計に当たっ
ては,配合物質の選択において特別の考慮が必要となるものであった 。」
との当事者参加人の主張は理由がない。
なお,仮にフルダラが非常に不安定であったとしても,その理由だけか
ら,錠剤の配合物質の選択に特別の配慮が当然に必要であると言うことは
できないし,本願明細書に記載のない「錠剤の設計に当たっては,配合物
質の選択において特別の考慮が必要となるものであった。」との主張を裏
付ける根拠とすることもできない。
(6) 当事者参加人は,相違点1にかかる本願発明の構成を採用することによっ
て,フルダラの不安定性の欠点が克服できたことは,本願明細書の【000
6】∼【0012】に記載されていると主張する。
しかし,段落【0006】の記載は,「定義された濃度の残留汚染物と共
に,活性成分フルダラが 99.19%以上の純度」としたこと,すなわち,汚染
物の濃度を特定のものとしたこと及びフルダラを高純度としたことが記載さ
れているだけである。また,段落【0007】の記載は,単に好ましいとさ
れているにすぎず,これに続く「しかしながら,一般的に当業者に知られて
いる他の配合物質もまた,考えられる 。」との記載からみて,5種の配合物
質に限定される技術的意義は明らかでない。また,段落【0012】の当事
者参加人摘示の記載も配合例を示したに止まり,技術的意義までは記載され
ていない。
したがって,相違点1にかかる本願発明の特定事項を採用することによっ
て,上記の欠点が克服できたとの点は,本願明細書に具体的に記載されてい
ないというべきであり,当事者参加人の主張は失当である。
(7)ア 当事者参加人は,上申書(甲8)に記載の測定データについて,そこ
に記載されている実験は,実施例1に記載されている錠剤と全く同じ錠剤
を対照とし,5種類の配合物質のうちのそれぞれ1種類ずつを使用しない
で調整した各錠剤の安定性を見たものであると主張する。
しかし,上記実験で対照とされた「完全錠剤(実施例1 )」は,本願明
細書の実施例1に記載された錠剤を用いたものではないし,本願発明の発
明特定事項である「純度99.19%以上」を満たす実施例でもない。こ
のことは,審決に「本願明細書の実施例1に記載された錠剤は,『フルダ
ラ(99.19%以上の高純度 )[段落【0018】参照…]を配合する
』
ものであるのに対し,前記提示されたデータの『完全錠剤(実施例1)』
は,貯蔵前においてその不純物量が既に1.18%であって,フルダラの
純度は98.82%(=100−1.18)となるから,前記本願明細書
の実施例1でないことが明らかであり,又本願発明の発明特定事項である
『純度99.19%以上』との条件を満たさず実施例でないことも明白で
ある。(15頁7行∼17行)と記載されているとおりである。
」
すなわち,上記で述べたように,本願明細書の実施例1に記載された錠
剤は,実際に用いられたフルダラの純度が不明であること,及び,汚染物
の割合が本願発明の条件を満たさないイオン交換カラムによるもの(純度
99.19%;表1∼6参照)をも包含していることから,本願発明の実
施例としての適格性に欠けるものである。
さらに ,上申書の「完全錠剤(実施例1 ) は,
」 貯蔵前の不純物量が「1.
18%」であって,フルダラの純度が「98.82%」となり,本願発明
の「99.19%以上」より低いのであるから,本願発明の実施例に該当
しないことが明らかである。
また,汚染物の割合からみても,上申書の「完全錠剤(実施例1)」は,
本願発明の実施例に該当するとはいえない。なぜなら,本願発明で特定さ
れた13種の各汚染物の許容値の合計は0.73%であるところ,当該完
全錠剤(実施例1)の不純物量つまり汚染物の割合が1.18%であるか
ら,本願発明の13種以外の汚染物が0.45%(=1.18%−0.7
3%)を超えて含有されない限り,当該完全錠剤(実施例1)における1
3種の汚染物の幾つかは許容値を超えることになる。しかるに,本願発明
で特定された汚染物は13種と多い上に,各許容値は最大でも0.12%
であるから,13種以外に0.45%という量の汚染物が含まれるケース
を想定することは困難であり,実際,本願明細書の表1∼6に示された具
体例によれば,いずれも%純度と%汚染物の合計が100.00%であり,
13種以外の汚染物は含まれていない。そうすると,当該完全錠剤(実施
例1)の汚染物が本願発明の範囲を超えることは明らかである。
したがって ,「そこに記載されている実験は,実施例1に記載されてい
る錠剤と全く同じ錠剤を対照とし」という当事者参加人の主張は根拠を欠
くものであり失当である。
イ また当事者参加人は ,「当該実験結果は,…5種を有する完全錠剤の貯
蔵安定性が最もよく,5種類の配合物質のうち1種でも欠けたものは,完
全錠剤よりも貯蔵安定性が低下していることが明らかである。」と主張す
る。
しかし,上記で述べたように,上申書記載の測定データの錠剤は,本願
発明の実施例及び比較例に該当するものとはいえないから,それらのデー
タを勘案することはできない。
また,上申書における安定性試験で「完全錠剤(実施例1)」の不純物
量が1.18%から8.11%まで増加しており,これは,活性成分の分
解物が2%を大きく超え,2%の4倍以上も分解した結果を示している。
そうすると,上申書におけるこの試験結果が,審判請求理由補正書におけ
る「医薬組成物の安定性としては,活性成分の分解減少は2%以下である
ことが要請されている」(甲7,4頁6行∼7行)という主張と矛盾する
ことは明らかであり,この点は,審決15頁18行∼21行に記載されて
いるとおりである。
なお,審判請求理由補正書の上記「活性成分の分解減少は2%以下」と
は,「…フルダラの純度はほぼ100%で分解は殆ど起こっておらず,3
6ケ月後にはおよそ98%まで低下しており…。医薬組成物の安定性とし
ては,活性成分の分解減少は2%以下であることが要請されているため…
フルダラの純度がほぼ98%まで低下する36ケ月まで試験を継続してい
ます。(甲7,4頁3行∼9行)の記載からみて,フルダラ純度100%
」
が98%まで低下することを指していると解される。これが仮に不純物の
増加量を意味するとしても,上申書の安定性試験において不純物量が1.
18%から8.11%まで増加することは,活性成分に「6.93%」 2
(
%の約3.5倍)の分解減少が生じた結果を示しているから,審判請求書
における当該主張と矛盾することに変わりはない。
さらに,上申書記載のデータによると,完全錠剤の不純物は,貯蔵前に
1.18%,貯蔵後に8.11%と増加し,他方,完全錠剤から微晶性セ
ルロースを欠いた錠剤の不純物は,貯蔵前に1.04%,貯蔵後に8.3
5%と増加した。いずれも貯蔵後の不純物量が8%程度となっており,分
解許容範囲(2%)の4倍を超える条件であっても同程度の結果が示され
ている。また,両者の錠剤における不純物量の増加分をみても,それぞれ
6.93%,7.31%と7%程度の増加分であって,両数値を比べても
1.05倍(=7.31/6.93)程度の違いにすぎず,両者の錠剤に
おける不純物の変化にはほとんど差異がない。これらの結果によれば,両
者の錠剤の安定性には殆ど差異がないといえる。
このように,微晶性セルロースを欠いても完全錠剤と同程度の結果が得
られることからみても,上申書記載のデータに基づいて「5種類の配合物
質のうち1種でも欠けたものは,完全錠剤よりも貯蔵安定性が低下してい
ることが明らかである」とする当事者参加人の主張は根拠を欠くものであ
る。
ウ 以上のとおり,当事者参加人の主張は失当であるから,それらを根拠と
する「相違点1にかかる5種の配合物質のうち1種でも欠ければ十分な安
定性が得られないことは,平成18年10月13日付け上申書(甲8)に
記載の測定データから,明らかである。」との当事者参加人の主張は前提
を欠くものであり失当である。
また,本願明細書には,上記で述べたように,本願出願後に提示された
データによって釈明できるほどの作用効果が記載されているものとは認め
られないから,上申書(甲8)のデータを勘案すべき理由はない。
(8) 当事者参加人は,審決の相違点1の判断は誤りであるとして,具体的に
は,①フルダラは非常に不安定な物質であり,錠剤の設計に当たっては,錠
剤配合物質の選択において特別の考慮が必要である,そして,本願発明は,
相違点1にかかる5種の配合物質の組み合わせという構成を採用すること
で,フルダラを活性成分として含む安定した錠剤配合物を提供するものであ
る,②たとえ本願発明の特定する5種の配合物質のそれぞれが錠剤の成分と
して慣用のものであったとしても,フルダラの錠剤配合物としてこれら5種
を同時に用いる構成は引用例3∼5に開示も示唆もないことからすれば,出
願時の当業者に当該5種を同時にフルダラの錠剤配合物に使用する動機付け
は存在しない,③これら5種を同時に含むフルダラの錠剤配合物が,いずれ
か1種を欠くものより貯蔵安定性に優れるという顕著な効果を奏するもので
あることは,引用例3∼5を参酌しても,予測し得るものではない,とする。
ア 上記①については,既に述べたように,本願明細書には ,「フルダラは
非常に不安定な物質であり,錠剤の設計に当たっては,錠剤配合物質の選
択において特別の考慮が必要である」あるいは「本願発明は,相違点1に
かかる5種の配合物質の組み合わせという構成を採用することで,フルダ
ラを活性成分として含む安定した錠剤配合物を提供するものである」と記
載されているとはいえない。当事者参加人の主張は本願明細書の記載に基
づかないものであり失当である。
イ 上記②については,既に述べたように,薬効成分以外のこれらの5種の
配合物質は,即開放性錠剤配合物として慣用されているだけではなく,即
開放性錠剤に5種の配合物全てを同時に配合したものが引用例3,4で採
用されている。このように5種の配合物質を同時に用いた即開放性錠剤が
知られていることは,他の薬効成分を用いた即開放性錠剤において,5種
の配合物質を同時に用いる動機付けとなるといえるから,「出願時の当業
者に当該5種を同時にフルダラの錠剤配合物に使用する動機付けは存在し
ない。」とする当事者参加人の主張は失当である。
したがって,フルダラの即開放性錠剤において,慣用成分である5種の
配合物質を同時に用いる態様を採用することは格別のことではない。
ウ 上記③については,既に述べたように,「これら5種を同時に含むフル
ダラの錠剤配合物が,いずれか1種を欠くものより貯蔵安定性に優れると
いう顕著な効果を奏するものであること」は,本願明細書に記載されてい
る作用効果ではない。そして,上申書(甲8)に記載された測定データは,
本願発明の実施例及び比較例に該当しないから,勘案できるものではない。
したがって ,「これら5種を同時に含むフルダラの錠剤配合物が…顕著
な効果を奏するものであること」は根拠を欠くものであるから,「引用例
3∼5を参酌しても,予測し得るものではない」という当事者参加人の主
張は,その前提において失当である。
エ 以上のとおり,上記①∼③には理由がないから ,「そのような成分を,
フルダラを有効成分とする錠剤の構成成分として採用することに格別の困
難性があるとは認められない」との審決の判示が誤りであるとして,「相
違点1にかかる構成を当業者が容易に想到し得なかったことは明らかであ
る。」という当事者参加人の主張は失当である。
相違点1について,本願発明で用いられる5種の配合物質は「いずれも
錠剤を構成する成分として従来知られていたもの(例えば,上記「3.」
で摘示した引用例3∼5を参照)で,適宜用いられている成分にすぎず,
そのような成分を,フルダラを有効成分とする錠剤の構成成分として採用
することに格別の困難性があるとは認められない。(審決11頁16行∼
」
19行)として ,「相違点1にかかる本願発明の発明特定事項もまた当業
者が容易に想到し得たものといえる 。」とした審決の判断に誤りはない。
(9)ア 当事者参加人は,審決が上申書(甲8)について判断した部分につい
て,明らかに誤りであるとして摘示するが,その箇所(審決15頁13行
∼22行)は,上申書(甲8)で提示されたデータについて判断した部分
であるところ,この箇所は,仮に検討した部分であって,補足的に判断を
示したものにすぎない。そして,その前の記載である, 本願明細書には,
「
既に検討したように,そのような出願後に提示されたデータによって釈明
されるほどの作用効果が記載されているものとは認められないから,そも
そもそのようなデータを勘案すべき理由がない。(14頁2行∼4行)と
」
の審決の判断は,既に述べたとおり妥当なものであるから,上申書 甲8)
(
の試験データを勘案しないとした審決の判断に誤りはない。
イ また当事者参加人は ,「5種の錠剤配合物質のうち1種でも欠ければ十
分な安定性が得られない」という事実は,フルダラの純度が本願発明のそ
れと若干異なっている上申書の実験によっても,十分に立証される事項で
あると主張する。
しかし,本願発明は,フルダラの純度を「99.19%以上」とパーセ
ンテージで下2桁という厳密な範囲で特定し,各汚染物についても13種
類を特定し且つその許容濃度をパーセンテージで下2桁という厳密な範囲
で特定したものである。それに対し,上申書の安定性試験によるデータは,
本願発明の純度に該当しない錠剤を用いた試験結果であるから,かかる
データを勘案すべき理由がないのは明らかである。
また,汚染物(不純物)の割合をみると,本願発明の配合物は,純度9
9.19%のフルダラにおける汚染物の割合が0.81%であるが,本願
発明で特定された13種の汚染物の各許容値の合計は0.73%である。
それに対し,上申書の試験で用いられた「完全錠剤(実施例1)」は,上
記3(4)イで述べたとおり,汚染物の当初割合が1.18%であり,本
願発明の0.73%と比較すると,約1.7倍(=1.18/0.73)
になる 。0.81%と比較しても,約1.5倍(=1.18/0.81)]
である。そうすると,当事者参加人が主張する「若干異なっている」程度
とはいえず,その差異は大きく,既に述べたように,本願発明が下2桁の
パーセンテージという範囲でフルダラの純度及び汚染物の許容濃度を特定
したことに照らせば,本質的に異なるものというべきである。
そのような本願発明と本質的に異なる錠剤を用いたデータによって, 5
「
種の錠剤配合物質のうち1種でも欠ければ十分な安定性が得られない」と
いう事実は,フルダラの純度が本願発明のそれと若干異なっている上記実
験によっても,十分に立証される事項であるということはできない。既に
述べたように,本願発明は,特定濃度を超えない残留汚染物と共に99.
19%以上の純度であることを発明特定事項とするところ,上申書の「完
全錠剤(実施例1) は,純度(98.82%)については本願発明の「9
」
9.19%以上」を満たさず,且つ13種の汚染物についても濃度条件を
満たさない。そうすると,仮に,上申書の試験データによって,錠剤の5
種の配合成分の1つでも欠けると安定性が劣ると認められたとしても,本
願発明の錠剤において上申書のデータと同じ結果が得られるとはいえな
い。
上申書のデータによると,微晶性セルロースを欠いても,それを含む場
合と比べて安定性に殆ど差異がないから,当事者参加人が主張する「5種
の錠剤配合物質のうち1種でも欠ければ十分な安定性が得られない」とい
う根拠は,上申書のデータによっても得られない。
ウ 当事者参加人は,上申書の試験は,加速劣化試験であるから,審決の指
摘する医薬組成物の安定性としては,活性成分の分解減少は2%以下との
要請はされない旨主張する。
しかし,審決は,加速劣化試験そのものを問題にしているわけではなく ,
上申書記載の試験データが,審判請求理由で脱退原告が主張した本願発明
の目的にあった試験によるものとはいえないことを指摘したものである。
すなわち,上申書記載の加速劣化試験においては, 完全錠剤 実施例1)
「 ( 」
について不純物量が1.18%から8.11%に達するまで試験を行って
おり,「2%以下」を大きく超えている。あるいは,不純物の増加量が上
記「活性成分の分解減少」に相当するとしても,この場合の6.93%(=
8.11%−1.18%)は,同じく「2%以下」を大きく超えている。
そうすると,当該加速劣化試験では,審判請求理由で記載された医薬組成
物の安定性として要請される「活性成分の分解減少は2%以下」という数
値を大きく超える程度まで試験を実施しており,このように大きく貯蔵安
定性を損なうまで試験を行わないと,本願発明の配合物の安定性において
差異が生じないのであれば,そのようなデータがどの程度の意義を有する
のか疑義があり,本願発明の作用効果として勘案すべきものとはいえない。
したがって,当該データは,必要とする保存期間後に,上申書の「完全
錠剤(実施例1 )」が本願発明の配合物の安定性を示すことを明らかにす
るものではない。また,同様の理由から,5種の錠剤配合物質のうち1種
を欠いたものが所期の安定性を示さないことを明らかにするものではな
い。
よって,当事者参加人の主張は,上申書を勘案できないとした審決の判
断に影響するものではない。
(10) 当事者参加人は,本願発明の対応外国出願は,米国においても 甲14)
( ,
欧州共同体においても(甲15 ),特許が付与されており,主要3極の特許
庁のうちの2極までが本願発明の特許性を認めている事実は,本願発明が進
歩性を有することを裏付けると主張する。
しかし,外国特許の成立は,各国によって法制度も異なり,要請される判
断が異なるのであるから,本願発明の特許性についての審決の判断を左右す
るものではない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯) 2)(発明の内容) 3)(審決
,( ,(
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,当事者参加人主張の取消事由について判断する。
2 本願発明の意義
(1)ア 本件補正後の特許請求の範囲(甲13)の【請求項1 】は,前記第3 ,
1(2)記載のとおりである。
また【請求項2】∼【請求項11】は,次のとおりである(甲13)。
・ 「 請求項2】
【
60 ∼ 90mg のラクトース一水和物,
0.5 ∼ 1mg のコロイド状二酸化珪素,
50 ∼ 90mg の微晶性セルロース( avicel),
2.5 ∼ 5mg のクロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボキシメチ
ルセルロース),及び
1 ∼ 3mg のステアリン酸マグネシウムと共に,
99.19 %以上の純度での活性成分フルダラ 1 ∼ 50mg を含んで成る請
求項1記載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項3】
【
74.75mg のラクトース一水和物,
0.75mg のコロイド状二酸化珪素,
60.00mg の微晶性セルロース(avicel),
3.00mg のクロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボキシメチル
セルロース),及び
1.5 ∼ 2.00mg のステアリン酸マグネシウムと共に,
99.19 %以上の純度での活性成分フルダラ 10mg を含んで成る請求項
1又は2記載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項4】
【
99.37 %以上の純度での活性成分フルダラを含んで成る請求項1∼3
のいずれか1項記載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項5】
【
99.57 %以上の純度での活性成分フルダラを含んで成る請求項1∼4
のいずれか1項記載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項6】
【
99.80 %以上の純度での活性成分フルダラを含んで成る請求項1∼5
のいずれか1項記載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項7】
【
99.85 %以上の純度での活性成分フルダラを含んで成る請求項1∼6
のいずれか1項記載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項8】
【
前記錠剤コアーが,次の成分:
1∼5 mg のヒドロキシプロピルメチルセルロース,
0.1 ∼ 1mg のタルク,
0.1 ∼ 5mg の二酸化チタン,
0.01 ∼ 0.1mg の黄の酸化鉄顔料,及び
0.01 ∼ 0.1mg 赤の酸化鉄顔料,
を含んで成る被膜により封入される請求項1∼7のいずれか1項記
載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項9】
【
前記錠剤コアーが,次の成分:
1∼3 mg のヒドロキシプロピルメチルセルロース,
0.1 ∼ 0.8mg のタルク,
0.1 ∼2 mg の二酸化チタン,
0.01 ∼ 0.05mg の黄の酸化鉄顔料,及び
0.01 ∼ 0.05mg 赤の酸化鉄顔料,
を含んで成る被膜により封入される請求項1∼8のいずれか1項記
載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項10】
【
前記錠剤コアーが,次の成分:
2.250mg のヒドロキシプロピルメチルセルロース,
0.450mg のタルク,
1.187mg の二酸化チタン,
0.036mg の黄の酸化鉄顔料,及び
0.036mg 赤の酸化鉄顔料,
を含んで成る被膜により封入される請求項1∼9のいずれか1項記
載の即開放性錠剤配合物。」
・ 「 請求項11】
【
癌の処理のための薬物製造のためへの請求項1∼ 10 のいずれか1項
記載の錠剤配合物の使用。」
イ また,【発明の詳細な説明】の記載は,次のとおりである(甲9)
。
・ 「本発明は,定義された組織の残留汚染物と共に,下記式:
【化1】
」(段落【0001】)
・ 「で表される,99.19 %以上の純度のフルダラ(高純度フルダラ)
を,活性成分として有する即開放性錠剤配合物に関する。
98 %以下の純度でのフルダラを有する錠剤配合物はすでに知ら
れている。次の研究において,種々の配合物及び用量が示されてい
る…」(段落【0002】)
・ 「アメリカ特許第 3,903,297 号においては,ラクトース,微晶性セ
ルロース,コロイド状二酸化珪素及びステアリン酸マグネシウムと
共に活性成分から成る錠剤配合物は,例(例2)により記載されて
いる。配合物がまた,クロスカラメロース− Na を含むことができ
る事実また,例(例5)により記載されている。WO00/71134 号に
おいては,一般的に,ラクトース,微晶性セルロース,コロイド状
二酸化珪素,クロスカラメロース− Na 及びステアリン酸マグネシ
ウムから成る錠剤配合物が記載されている。そのような組成物はま
た,化学療法物質も含むことができる。(段落【0003】
」 )
・ 「 WO99/40846 号から,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,
二酸化チタン及び色素,例えば酸化鉄色素を含む錠剤腹膜が知られ
ている。
WO00/50423 号から,ラクトース,微晶性セルロース,クロスカ
ラメロース− Na,等から成り,そしてすばやく溶解する錠剤配合
物は知られている。
ア メ リ カ 特 許 第 6,197,785 号 , EP1065206 号 , EP819430 号 ,
EP1065204 号及び EP985666 号は,経口投与のために使用され得,
そしてラクトース,微晶性セルロース,コロイド状二酸化珪素,ス
テアリン酸マグネシウム,クロスカラメロース− Na,タルク,等
から成る錠剤配合物を記載する。活性成分として,フルダラが包含
され得る。(段落【0004】
」 )
・ 「99.5 %以上の純度での活性成分,及び定義された組成の前記活
性成分の汚染物を,配合物に有するフルダラ配合物は今日まで知ら
れていない。
WO99/29710 号から,99.19 %以上の純度を有する活性成分フルダ
ラは知られている。しかしながら,またこの従来技術においては,
配合物に含まれる純粋なフルダラの定義された組成は提供されてい
ない。
従って,すばやく溶解し,そして従って,活性成分をすばやく開
放する,定義された濃度の残留汚染物と共に高純度でのフルダラを
有する安定した錠剤配合物を有することが所望される。(段落【0
」
005】)
・ 「定義された濃度の残留汚染物と共に,活性成分フルダラが 99.19
%以上の純度で,微粉化されていないが,しかし篩分けされた形で
存在する錠剤配合物が,既知の錠剤の欠点を克服することが現在,
見出された。
前記錠剤配合物は,活性成分を,5∼ 100mg,8∼ 75mg,特に
好ましくは 10 − 50mg の量で,特に 10 ∼ 20mg の量で含んで成る。」
(段落【0006】)
・ 「好ましい配合物質は,ラクトース,コロイド状二酸化珪素,微
晶性セルロース( avicel),クロスカラメロース−ナトリウム(ナト
リウムカルボキシメチルセルロース)及びステアリン酸マグネシウ
ムである。
しかしながら,一般的に当業者に知られている他の配合物質もま
た,考えられる。
錠剤における配合物質は,合計 100 ∼ 250mg の量,好ましくは合
計 120 ∼ 200mg の量,特に好ましくは,合計 130 ∼ 180mg の量を
含んで成る。(段落【0007】
」 )
・ 「0.02 %の2−フルオロ−2−(β−d−アラビノフラノシル)
− 9H −プリン−6−アミン,
0.12 %の6−アミノ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −アラビ
ノフラノシル)− 9H −プリン−2−オール,
0.02 %の2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン,
0.02 %の6−アミノ− 9H −プリン−2−オール,
0.05 %の2−フルオロ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −リボ
フラノシル)− 9H −プリン−6−アミン,
0.1 %の9−(3,5− O −ジホスホノ−β− D −アラビノフラ
ノシル)−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン ,(段落【0
」
009】)
・ 「0.1 %の9−(2,5− O −ジホスホノ−β− D −アラビノフ
ラノシル)−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン,
0.02 %の2−フルオロ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −アラ
ビノフラノシル)− 9H −プリン−6−アミン,
0.06 %の2−エトキシ−9−(5− O −ホスホノ−β− D −アラ
ビノフラノシル ) 9H −プリン−6−アミン , 段落 0010】
− 」
( 【 )
・ 「0.02 %の2−(6−アミノ− 9H −プリン−2−イル)−9−
(5− O −ホスホノ−β− D −アラビノフラノシル)− 9H −プ
リン−6−アミン及び O, O’−ビス[2−(6−アミノ−2−フル
オロ− 9H −プリン−9−イル)−5−デオキシ−α− D −アラビ
ノフラノス−5−イル]−ホスフェート,
0.1 %の9−(2−クロロ−2−デオキシ−5−ホスホノ−β− D
−アラビノフラノシル)−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミ
ン,
0.1 %の9−(2,5−アンヒドロ−β− D −アラビノフラノシ
ル)−2−フルオロ− 9H −プリン−6−アミン;ことを特徴とす
る。(段落【0011】
」 )
・ 「本発明の配合物は,一般的に知られている方法に従って成型化
合物に加工され,そして前記成形化合物は錠剤コアーに圧縮される。
それらの錠剤コアーは,一般的に知られている方法により被膜を供
給され得る。原則的に,当業者に知られているすべての被膜が使用
され得る。好ましい被膜は,例えば次の成分:
1∼5 mg,好ましく1∼3 mg,特に好ましくは 2.250mg のヒド
ロキシプロピルメチルセルロース,
0.1 ∼ 1mg,好ましくは 0.1 ∼ 0.8mg,特に好ましくは 0.450mg の
タルク,
0.1 ∼ 5mg,好ましくは 0.1 ∼2 mg,特に好ましくは 1.187mg の
二酸化チタン,
0.01 ∼ 0.1mg,好ましくは 0.01 ∼ 0.05mg,特に好ましくは 0.036mg
の黄の酸化鉄顔料,及び
0.01 ∼ 0.1mg,好ましくは 0.01 ∼ 0.05mg,特に好ましくは 0.036mg
の赤の酸化鉄顔料。
それらの被膜はまた,本発明の対象である。(段落【0016】
」 )
・ 「本発明の錠剤配合物は,癌を処理するための薬物製造のために
使用され得る。
従って,本発明はまた,癌を処理するための薬物製造のためへの
本発明の配合物の使用も含んで成る。
さらなる詳細を伴わないで,当業者は,前述の記載を用いて,本
発明をその十分な程度まで利用できると思われる。従って,次の好
ましい特定の態様は,単なる例示であり,そして本発明の開示を制
限するものではない。
前述の及び次の例においては,すべての温度は℃で示され,すべ
ての部及び%は,特にことわらない限り,重量によってである。
次の例は,本発明の高純度錠剤配合物のフルダラの製造,及び 98
%以下の純度のフルダラと 99.19 %以上の純度のフルダラとの比較
を記載する。(段落【0017】
」 )
・ 「例1.錠剤配合物の製造:
本発明の錠剤配合物の製造のために,活性成分フルダラ(フルダ
ラビンホスフェート)をまず篩にかけ,そして次に,ラクトース一
水和物,微晶性セルロース( avicel)及びコロイド状二酸化珪素に
より,約 30 %の乾燥混合物まで加工する。次に,その混合物を篩
にかける。その品質又は粒度を篩い分けにより試験する。追加の混
合順序におけるクロスカラメロースナトリウム(ナトリウムカルボ
キシメチルセルロース)及びステアリン酸マグネシウムを,前記乾
燥混合物連続的に添加する。(段落【0018】
」 )
・ 「成形化合物を,錠剤コアーに圧縮する。
例えば,このようにして生成された錠剤配合物は,次の個々の成
分を含んで成る:
フルダラ(99.19 %以上の高純度) 10.00mg
ラクトース一水和物 74.75mg
コロイド状二酸化珪素 0.75mg
微晶性セルロース(avicel) 60.00mg
クロスカラメロース− Na 3.00mg
(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)
ステアリン酸マグネシウム 1.5 − 2.00mg」 段落 0
( 【
019】)
・ 「次に,このようにして生成されたフィルム錠剤をさらに加工す
ることができる。フィルム錠剤を,例えば Alu −ブリスターにパッ
ケージングすることができ,これにより,配合物の安定性が確保さ
れる。(段落【0021】
」 )
・ 「例2.
98 %(97.67 %)以下の純度のフルダラの従来の組成物と,イオ
ン交換体により精製された 99.19 %以上,又は 99.57 %以上,及び
99.19 %のフルダラの組成物との比較。(段落【0022】
」 )
・ 「前記結果は,市販のフルダラ(最大 97.67 %のフルダラ)から
成る配合物,又はイオン交換体を通して精製されるフルダラ(最大
99.19 %のフルダラ)を含む配合物が,本発明の配合物に含まれる
高純度フルダラ( 99.37 %∼ 99.57 %のフルダラ)の配合物よりも
相当に多くの汚染性副生成物を有することを示す。
従来の精製方法,例えば非常に有能なイオン交換クロマトグラフ
ィーによれば,かなり適度な程度の純度が達成され得る。
本発明のフルダラ配合物は, WO99/29710 号にすでに記載される
ナトリウム塩を通して開放される高純度フルダラを含む。さらに高
い程度の純度のフルダラが,カリウム塩(99.8 %)又はリチウム塩
(99.85 %)により生成され得る。(段落【0029】
」 )
・ 「本明細書に引用され,そして 2001 年 12 月 20 日に出願された対
応するドイツ出願番号 101 64-510.4 号及び 2002 年8月 20 日に出願
されたアメリカ特許仮出願番号第 60/404,399 号のすべての出願,
特許及び出版物のすべての開示は,引用により本明細書に組込まれ
る。
前述の例は,前述の例に使用される反応体及び/又は操作条件の代
わりに本発明の一般的に特異的に記載されるそれらを用いることに
よって類似する好結果を伴って反復され得る。(段落【0030】
」 )
・ 「前述の記載から,当業者は,本発明の必須特徴を容易に確認す
ることができ,そして本発明の範囲内で,本発明の種々の変更及び
修飾を,種々の使用法及び条件に適合するために行うことができ
る。(段落【0031】
」 )
(2) 上記(1)によれば,本願発明は,定義された組織の残留汚染物と 99.19 %
以上の純度のフルダラ(高純度フルダラ)を活性成分として有する即開放性
錠剤配合物であり(段落【0002】,癌を処理するための薬物製造に使用
)
されるものである(段落【0017】。
)
本願発明は,本願発明の有効成分として用いられる 99.19 %以上の純度を
有する活性成分フルダラは既に知られていることを前提とし(段落【000
5】,これを活性成分(有効成分)として用い,経口投与した場合(発明の
)
名称)にすばやく溶解して活性成分をすばやく開放する,定義された濃度の
残留汚染物と共に上記フルダラを有する,安定した錠剤配合物を提供するこ
とを目的とする(段落【0005】。
)
本願発明における上記定義された残留汚染物は,0.02 %の2−フルオロ−
2−(β−d−アラビノフラノシル)− 9H −プリン−6−アミン等の【請
求項1 】・段落【0009】∼【0011】に記載された13個のものであ
り,【請求項1】に記載の含有量(合計 0.73 %)を超えないものである。
そして本願発明は,癌を処理するための有効成分である活性成分フルダラ
につき,既に知られた 99.19 %以上のフルダラとし,これを 1 ∼ 70mg を含
むとともに,これを錠剤化し活性成分を即開放するための配合物質として,
【請求項1】記載の量のラクトース一水和物,コロイド状二酸化珪素,微晶
性セルロース( avicel),クロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボキシ
メチルセルロース),ステアリン酸マグネシウムの5種(5種の配合物質)
を含むものとされている。
上記5種の配合物質については,発明の詳細な説明においては,「好まし
い配合物質」と説明され,「一般的に当業者に知られている他の配合物質も
また,考えられる。(段落【0007】
」 )とされている。
そして,本願発明の化合物は,一般的に知られている方法に従って成型化
合物に加工され,錠剤コアーに圧縮されるが(段落【0016】,一般的に
)
知られている方法により被膜を供給され(段落【0016】【0020】,
・ )
このように生成されたフィルム錠剤をさらに加工することができるとし,例
えば「Alu −ブリスターにパッケージングすることができ,これにより,配
合物の安定性が確保される。(段落【0021】
」 )とされている。
本願発明の効果に関連しては,「前記結果は,市販のフルダラ(最大 97.67
%のフルダラ)から成る配合物,又はイオン交換体を通して精製されるフル
ダラ(最大 99.19 %のフルダラ)を含む配合物が,本発明の配合物に含まれ
る高純度フルダラ(99.37 %∼ 99.57 %のフルダラ)の配合物よりも相当に
多くの汚染性副生成物を有することを示す。…本発明のフルダラ配合物は,
WO99/29710 号にすでに記載されるナトリウム塩を通して開放される高純度
フルダラを含む。さらに高い程度の純度のフルダラが,カリウム塩 99.8 %)
(
又はリチウム塩(99.85 %)により生成され得る。(段落【0029 】
」 )とし
て,本件補正後の 請求項4 】
【 の高純度フルダラ 99.37 %) 請求項5】 99.57
( ,
【 (
%のフルダラ)について,発明の詳細の段落【0022】∼【0028】に
示された「例2」記載の純度 99.37 %∼ 99.57 %の本願発明よりも純度の高
い高純度フルダラについての記載がある。しかし,本願発明(純度 99.17 %
以上のフルダラ)については,「前述の記載から,当業者は,本発明の必須
特徴を容易に確認することができ,そして本発明の範囲内で,本発明の種々
の変更及び修飾を,種々の使用法及び条件に適合するために行うことができ
る。(段落【0031】
」 )とあるのみである。
3 取消事由(相違点1についての判断の誤り)の有無について
(1)ア 『
引用例1(ジェームズ エム フォランら「 低度』非ホジキン型リンパ
腫患者及びB細胞性慢性リンパ球性白血病患者へのリン酸フルダラビンの
単独経口投与の動物動態学研究 」Journal of Clinical Oncology 17巻5号,
1999年〔平成11年〕5月,1574頁∼1579頁。甲1)には,
以下の記載がある(脱退原告提出の訳文による。なお,便宜のため判決で
①以下の番号を付した)
。
① 「 低度』非ホジキン型リンパ腫患者及びB細胞性慢性リンパ球性白血病
『
患者へのリン酸フルダラビンの単独経口投与の薬物動態学研究 」(タイト
ル部分,1574頁)
② 「目的:プリン類似化合物であるリン酸フルダラビン(F−AMP)の場
合,日次の静脈注射処置が必要とされている 。『低度』非ホジキン型リン
パ腫患者及びB細胞性慢性リンパ球性白血病患者に対して,経口用に調剤
された形態(10mg即開放性錠剤)の薬物動態学研究が実施された。(1
」
574頁左欄1∼6行)
③ 「患者及び方法:経口型F−AMPが『従来型』治療スケジュールに組み
込まれた。50mg,70mg及び90mgのF−AMPの単独経口試験
投与が3つの周期の治療の第一日目に行われ,比較手法として第4の周期
の1日目には,静脈注射による50mgの試験投与が行われた。(157
」
4頁左欄7行∼12行)
④ 「最初の3周期の間,患者には1錠あたり10mgに調剤された50mg,
70mg及び90mgの経口F−AMPが一晩の絶食後に順序を定めずに
投与された。(1575頁左欄20行∼22行)
」
イ 上記アによれば,引用例1には,リン酸フルダラビン(F−AMP)に
つき(①)
,経口用に 10 mgに調剤した(②,④)即開放性錠剤(②)が
記載されているから,審決が認定した(8頁下6行∼下5行)とおり,引
用例1発明は ,「経口用に調剤された,リン酸フルダラビン 10mg を含ん
で成る即開放性錠剤。」であることが認められる。
そして,上記によれば,本願発明と引用例1発明とは,「活性成分フル
ダラ(fludara)10mg を含んで成る即開放性錠剤配合物。 との点で一致し ,
」
錠剤化するための成分について,本願発明では, 50 ∼ 100mg のラクトー
「
ス一水和物,0.1 ∼ 5mg のコロイド状二酸化珪素,40 ∼ 100mg の微晶性
セルロース( avicel),1∼ 10mg のクロスカラメロース− Na(ナトリウ
ムカルボキシメチルセルロース ),及び 0.5 ∼ 10mg のステアリン酸マグネ
シウムと共に」と特定されている(5種の配合物質)のに対し,引用例1
発明ではそのような言及がない点(相違点1 ),及び審決写し記載の相違
点2の内容について相違することが認められる(審決の相違点2の認定・
判断については争いがない)。
ウ また,本願発明の5種の配合物質に関しては,以下のとおりである。
(ア) 引用例3(国際公開第01/41770号公報,発明の名称「ナノ
粒子エプレレノン組成物 」,出願人 ファーマシア コーポレーション,
国際公開日 2001年6月14日,甲3)には,以下の記載がある(脱
退原告提出の訳文による)
。
「より好ましい即開放性錠剤又はカプセルの具体例としては,
約20%∼約30%のナノ粒子のエプレレノン;
約53%∼約63%のラクトース一水和物;
約6.5%∼約16.5%の微結晶セルロース;
約0.5%∼約6%のクロスカルメロースNa;
全ての%は重量%である。このような錠剤又はカプセルは,付加的
に,約0.25∼約4%のラウリル硫酸ナトリウム,約0.25%∼
約5%のステアリン酸マグネシウム,約0.5%∼約5%のタルク,
約0.1%∼約5%のコロイド状二酸化珪素を成分とできる。好まし
くはこれらの成分は,カプセル形態が望ましい。(23頁27行∼2
」
4頁4行)
(イ) 引用例4(国際公開第99/63970号公報,発明の名称「デラ
ビルジン錠剤製剤」,出願人 ファーマシア アンド アップジョン カン
パニー,国際公開日 1999年12月16日,甲4)には,以下の記
載がある(脱退原告提出の訳文による)
。
・ 【請求項1】約5ないし約60%の量の急速沈殿薬物と,微結晶性
セルロースと,約2ないし約25%の量の結合剤および約6ないし
約40%の量の超崩壊剤よりなる群から選択される少なくとも一つ
のメンバーとを含み,ここに,該急速沈殿薬物,微結晶性セルロー
ス,結合剤および超崩壊剤は加熱,溶媒または粉砕なくして混合さ
れ圧縮して錠剤とされたことを特徴とする非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項6】該超崩壊剤が,クロスカルメロースナトリウム,デン
プングリコール酸ナトリウム,L−ヒドロキシプロピルセルロース
である請求項1記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項7】該超崩壊剤が,約6ないし約35%の量にて存在する
請求項1記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項9】約50%までの量の微結晶性セルロースを含有する請
求項1記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項12】該微結晶性セルロースが,約10ないし約40%の
量にて存在する請求項1記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項13】約80%までの量にて乳糖を含有する請求項1記載
の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項15】該乳糖が,乳糖一水和物のスプレー工程標準品(N.
F.)である請求項13記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項16】該乳糖が,約5ないし約20%の量にて存在する請
求項12記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項19】該フロー剤が,コロイド状二酸化珪素(N.F .)
である請求項17記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項20】該フロー剤が,約0 .25ないし約2%の量にて存
在する請求項1記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項21】約5%までの量の滑沢剤を含有する請求項1記載の
非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項23】該滑沢剤が,ステアリン酸マグネシウムである請求
項21記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項24】該滑沢剤が,0 .25ないし約2%の量にて存在す
る請求項1記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項30】結合剤および超崩壊剤の双方を含む請求項1記載の
非徐放性医薬錠剤組成物。
・ 【請求項31】
量(約ないし約)
項目 %
デラビルジンメシラート 10−40
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 5−20
クロスカルメロースナトリウム 6−35
微結晶性セルロース 10−50
乳糖 0−15
コロイド状二酸化珪素 0−5
ステアリン酸マグネシウム 0−5
である非徐放性医薬錠剤組成物であって,ここに,加熱,溶媒また
は粉砕なくして,デラビルジンメシラート,微結晶性セルロース,
ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびクロスカルメロースナ
トリウムを混合させ,錠剤に圧縮した該組成物。
・ 【請求項32】
量(約ないし約)
項目 %
デラビルジンメシラート 30.2
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 2910U.S.P 3cps 11.3
クロスカルメロースナトリウム NF タイプA 16.6
微結晶性セルロース NF 微粉末 30.0
乳糖(判決注:原文は「lactose」)一水和物 NF
スプレー工程標準品 10.7
コロイド状二酸化珪素 NF 0.23
ステアリン酸マグネシウム NF粉末 食品グレードV選別品
0.76
である請求項31記載の非徐放性医薬錠剤組成物。
(ウ) 上記(ア),(イ)によれば,引用例3(甲3)に記載された「即開放
性錠剤 」,及び引用例4(甲4)の【請求項32】に記載の「非徐放性
医薬錠剤組成物」は,いずれも,本願発明の即開放性錠剤配合物に相当
するものである。
そして,上記(ア),(イ)によれば,引用例3,4には,いずれも本願
発明に含まれる5種の配合物質である, ラクトース(乳糖)一水和物」
「 ,
「コロイド状二酸化珪素 」 「微晶性セルロース」
, (引用例3では「微結
晶セルロース」,
)「クロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボキシメ
チルセルロース ) (引用例3では「クロスカルメロースNa」
」 ,引用例
4では「クロスカルメロースナトリウム」)及び「ステアリン酸マグネ
シウム」が即開放性錠剤に製剤化するための成分として配合されている
ことが明らかである。
そうすると,本願発明の有効成分(活性成分)である純度 99.19 %以
上のフルダラは既に公知であるところ,即開放性錠剤に製剤化するため
の成分として公知となっている5種の配合物質を配合することは,医薬
の有効成分の製剤化を企図する当業者(その発明の属する技術の分野に
おける通常の知識を有する者)にとって,通常の創作能力の発揮である
ということができる。そうすると,引用例1(甲1)から公知のリン酸
フルダラビン即ち本願発明にいう活性成分フルダラ( fludara)の即開放
性錠剤において,同じく即開放性錠剤に製剤化するための成分として配
合することが引用例3(甲3 )・引用例4(甲4)により公知となって
いる上記5種の配合物質を採用して配合することに当業者が格別の創意
を要したものとはいえない。
以上の検討によれば,本願発明と引用例1発明との相違点1につき,
容易想到とした審決の判断に誤りはないというべきである。
(2) 当事者参加人の主張に対する補足的判断
ア 当事者参加人は,フルダラの錠剤配合物として,上記5種の配合物質を
同時に用いる構成は,引用例3∼5に開示も示唆もないことからすれば,
本願の出願当時の当業者において,5種の配合物質を同時にフルダラの錠
剤配合物に使用する動機付けは存在しない,また,引用例3,4にも,こ
れら錠剤組成をフルダラに利用することを示唆する記載はないのであるか
ら,相違点1につき容易想到とはいえないと主張する。
しかし,上記2で検討したとおり,本願発明の有効成分である 99.19 %
以上の純度のフルダラは公知であるところ,これを即開放性錠剤に製剤化
するための成分として,既に知られた5種の配合物質を配合することは,
医薬の有効成分の製剤化を企図する当業者にとっては,通常の創作能力の
発揮の範囲内の事柄である。また,上記(1)ウで検討したとおり,引用例
3,4はいずれも即開放性錠剤に関し5種の配合物質を用いるとするもの
であるから,これをフルダラの即開放性錠剤に用いることについては動機
付けが存するというべきである。そうすると,引用例1(甲1),引用例
3(甲3)
,引用例4(甲4)の記載に接した当業者であれば,純度 99.19
%以上のフルダラに上記5種の配合物質を配合して即開放性錠剤に製剤化
することを容易に想到し得ると解されるから,当事者参加人の上記主張は
採用することができない。
イ また当事者参加人は,フルダラは非常に不安定な物質であり,錠剤の設
計に当たっては,錠剤配合物質の選択において特別の考慮が必要である,
そして,本願発明は,引用例1発明との相違点1にかかる5種の配合物質
の組み合わせという構成を採用することで,フルダラを活性成分として含
む安定した錠剤配合物を提供するものであると主張し,フルダラが非常に
不安定な物質であることの根拠として,本願明細書(甲9)の段落【00
05】の記載,引用例2(特表2001−525418号公報,甲2)の
発明の詳細な説明の段落【0003 】(3頁)の記載,及び平成17年8
月1日付け意見書(甲6)記載の測定データを挙げる。
しかし,フルダラが不安定であるとする根拠として当事者参加人が主張
する本願明細書の段落【0005】の記載は,上記のとおり, 99.5 %以
「
上の純度での活性成分,及び定義された組成の前記活性成分の汚染物を,
配合物に有するフルダラ配合物は今日まで知られていない。… 99.19 %以
上の純度を有する活性成分フルダラは知られている。しかしながら,また
この従来技術においては,配合物に含まれる純粋なフルダラの定義された
組成は提供されていない。従って,すばやく溶解し,そして従って,活性
成分をすばやく開放する,定義された濃度の残留汚染物と共に高純度での
フルダラを有する安定した錠剤配合物を有することが所望される 。」とす
るものであって,そこでいう「安定した錠剤配合物」の意味するところに
ついて本願明細書には具体的な記載がない。すなわち,本願明細書におい
て「安定」性について言及するのは,段落【0021】のみであるところ,
そこでの記載は上記のとおり,
「…フィルム錠剤を,例えば Alu −ブリス
ターにパッケージングすることができ,これにより,配合物の安定性が確
保される。 (段落【0021】
」 )というもので,錠剤として製剤化された
後,公知の方法によりパッケージングする際に配合物の安定性が確保でき
るとの記載に過ぎない。そうすると,本願明細書の記載から,フルダラが
非常に不安定な物質である,ということを読み取れるものとはいえない。
また,引用例2(特表2001−525418号公報,甲2)の段落【0
003】
(3頁,当事者参加人の摘示箇所)には,
「 0003】
【
現在,利用されている製造法においては,9−β−D−アラビノフラノシ
ル−2−フルオロアデニンから出発して,これをリン酸トリメチル及びオキ
シ塩化リンと反応させる(リン酸化)。抽出物を反応させ,引き続き水から
結晶させる。ほぼ75℃の温度で再結晶させると物質の一部が分解するのは,
この温度の水においてリン酸フルダラビンが,熱的に不安定であることによ
る。さらに欠点として指摘されるが,現在の技術で知られる再結晶を行って
も,純度は,ごく僅かしか改善されず,かつ工業的に製造する場合でも,こ
の方法によると出発物質の量は約1kgにも満たない。ドイツ特許 DE
4141454 A1 に記載されるリン酸フルダラビンの塩は,記載の教示によって
実施しても合成ができない。記載の反応条件を用いると,分子内においてリ
ン酸が分離することが主な原因と考えられる。」
と記載されている。しかし,上記は,フルダラが,ほぼ75℃の温度の
水において熱的に不安定であると書かれているのみであって,医薬品を保
存するための通常の環境とは大きく異なる75℃の温度の水において熱的
に不安定であるとの記載が,当事者参加人の主張するフルダラが非常に不
安定な物質であることの根拠となるとはいえない。
また,フルダラが非常に不安定な物質であるとの点について,本願の優
先日当時(2001年〔平成13年〕12月20日)に周知の事柄である
ことを示す的確な証拠もない。
さらに,平成17年8月1日付け意見書(甲6)には,以下の記載があ
る。
「1.本願に対する拒絶理由は,本願発明は,…に記載の発明に基づいて当
業者が容易に発明するこが出来たものであるから,特許法第 29 条第2項の規
定により特許を受けることが出来ない,とする点にあり,
(1)具体的には,引用文献1には,本願発明の活性成分である「フルダラ」
を含む即効性錠剤が記載されており,…とするものです。
しかしながら,審査官殿の上記のご見解には承服致しかねますので,以下
に意見を申し述べます。
2.フルダラの不安定性について
本願発明の医薬組成物の活性成分であるフルダラは非常に不安定であり,
錠剤の設計に当っては,基剤の選択において特別な考慮が必要です。そこで
先ず,フルダラが, 及び温度に対して非常に不安定であることを示します。
pH
下記の表1は種々の pH 環境下でのフルダラの分解生成物を測定した結果で
あり,表2は種々の温度/相対湿度でのフルダラの分解性生物を測定した結
果です。これらの結果から,フルダラが pH や温度に対して非常に不安定で
あることが明らかです。
そして,いずれの引用文献にも,それらに記載されている基剤の組成が,
不安定なフルダラの錠剤基剤として適当である旨の示唆は存在しません 。」
しかし,上記意見書は,本願に対する平成17年1月26日付け拒絶理
由通知書(甲11)に対するものであるところ,上記意見書に記載の「…
フルダラは非常に不安定であり,錠剤の設計に当たっては,基剤の選択に
おいて特別な考慮が必要です。…フルダラが,pH 及び温度に対して非常
に不安定であることを示します。…」とするフルダラが不安定であること
により基剤の選択において考慮が必要であること,及びフルダラが pH 及
び温度に対して不安定であることについては,いずれも本願明細書には記
載がない。むしろ,基剤の考慮に関しては,本願明細書においては,上記
で摘記したとおり,「…アメリカ特許第 6,197,785 号…は,経口投与のため
に使用され得,そしてラクトース,微晶性セルロース,コロイド状二酸化
珪素,ステアリン酸マグネシウム,クロスカラメロース− Na,タルク,
等から成る錠剤配合物を記載する。活性成分として,フルダラが包含され
得る。 (段落【0004 】 ・ 好ましい配合物質は,ラクトース,コロイ
」 )「
ド状二酸化珪素,微晶性セルロース(avicel),クロスカラメロース−ナト
リウム(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)及びステアリン酸マグ
ネシウムである。しかしながら,一般的に当業者に知られている他の配合
物質もまた,考えられる。…」(段落【0007】)とするとおりであり,
公知の配合物質を好ましい例として挙げるのみで,基剤の選択について考
慮が必要であると理解できる記載は一切ない。以上の検討によれば,当事
者参加人の上記主張は採用することができない。
ウ 次に当事者参加人は,本願発明は,引用例1発明との相違点1にかかる
発明特定事項を採用することによって,フルダラは非常に不安定な物質で
あり錠剤の設計に当たっては錠剤配合物質の選択において特別の考慮が必
要である,との欠点が克服できたものであり,これは本願明細書の段落 0
【
006】∼【0012】に記載されており,平成18年10月13日付け
上申書 甲8)
( の記載の測定データを参酌すれば明らかであると主張する。
本願明細書(甲9)の段落【0006】∼【0012】の記載は上記2
(1)イのとおりであるが,既に検討したとおり,本願明細書において,引
用例1発明との相違点1にかかる特定事項である5つの配合物質を採用す
ることにより不安定な物質であるフルダラの錠剤の設計に当たっての欠点
が克服できた旨の記載を見出すことはできない。また,本願明細書の段落
【0012】の記載も,5つの配合物質について好ましい配合量を示して
いるが,その配合量がいかなる意味で好ましく,どのような意義を有する
ものであるかについては何らの記載がない。本願明細書において,唯一5
つの配合物質の配合量を示す実施例である段落【0019】の記載も,上
記2( 1)イ摘記のとおり,一例としての数値を挙げるのみでありこれによ
る効果の記載もない。そうすると,相違点1に係る上記5種の配合物質を
同時に含むフルダラの錠剤配合物が,そのすべてを規定量含むことで貯蔵
安定性に優れるという顕著な作用効果を奏するものであることも,本願明
細書には何ら記載されていないものであるから,かかる効果は引用例3∼
5を参酌しても予測し得るものではないとの当事者参加人の主張も本願明
細書に基づくものとはいえない。
また当事者参加人は,相違点1に係る5種の配合物質のうち1種でも欠
ければフルダラの十分な安定性が得られないことは,平成18年10月1
3日付け上申書(甲8)記載の実験結果から明らかであると主張するが,
その構成及び作用効果に関する主張は本願明細書の記載に基づくものでは
ないことにつき既に検討したとおりであるから,上記上申書(甲8)を参
酌する根拠を欠くものである。当事者参加人の上記主張は採用することが
できない。
なお,上記平成18年10月13日付け上申書(甲8)は,拒絶査定後
の平成18年2月16日付け手続補正書 不服審判請求理由の補正,
( 甲7)
の【本願発明が特許されるべき理由】(2頁22行以下)において,「…本
願発明は,上記の引用文献の記載からは予想できない顕著な効果を奏する
ものであり,引用文献に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とが出来たものではありません。…本願発明の即開放性錠剤の活性成分で
ある『フルダラ』は,非常に不安定な化合物であり,錠剤として安定であ
り,且つ投与後に胃の中で即開放性であるためには,錠剤は(a)ラクトー
ス一水和物, b)
( コロイド状二酸化珪素, c)
( 微晶性セルロース avicel)
( ,
(d)クロスカラメロース− Na(ナトリウムカルボキシメチルセルロー
ス),及び(e)ステアリン酸マグネシウム,のすべてを特許請求の範囲
に記載されている範囲の量で含む必要があり,引用文献に記載されている
錠剤のように成分のいずれかを欠いた状態で『フルダラ』を錠剤化します
と,錠剤に全ての成分を含めた場合に較べてフルダラが不安定になります。
…」とした点に関し更に補足する内容のものであるところ,上記上申書 甲
(
8)の1頁23行以下には,次の記載がある。
「…そこで,このことを証明するため,下記の実験結果を提出します。
実験は,実施例1に記載されておる錠剤と全く同じ錠剤を対照とし,
コアー成分の内の添加剤1種類のみを使用しないで調製した錠剤の安
定性を見たものです。
貯蔵実験に使用した方法は, 60 ℃の飽和食塩水と平衡にある飽和
湿度の環境下に被験錠剤を1週間貯蔵し,貯蔵の前後における不純物
(%)を HPLC で測定したものです。不純物(%)は,HPLC チャー
トの全ピークの総面積を 100 %とし,不純物の全ピークの面積を%で
表したものです。従って,例えば,不純物に量が 8.11%の場合,活性
成分『フルダラ』の比率は 91.89 %です。
結果は,次のとおりでした。
被験錠剤 貯蔵前 貯蔵後 増加量
完全錠剤(実施例1) 1.18 8.11 6.93
クロスカラメロース−Na 欠 1.09 13.80 12.71
ステアリン酸マグネシウム 欠 1.00 10.85 9.85
微晶性セルロース 欠 1.04 8.35 7.31
コロイド状二酸化珪素 欠 1.10 14.35 13.25
ラクトース一水和物 欠 1.09 17.21 16.12
上記の結果から,本願発明の錠剤の成分が1種類でも欠ければ貯蔵
安定性が低下することが明らかです。
そして ,『フルダラ』にとって最適の本願発明の組成は,何れの引
用文献またはそれらの組合せからも予想できる(判決注: でこる」
「
は誤記)ことではありません。
なお,上記のような安定性試験は,『迅速安定性試験 』 Accelerated
(
Storage Test)として,一般に認められている方法です。」
上記によれば,甲8の実験に完全錠剤(実施例1)として用いられたの
は,不純物 1.18 %を含有する純度 98.82 %(100 − 1.18)のフルダラであっ
て本願発明の純度 99.19 %以上のフルダラではないし,本願発明において,
これを超えないとする不純物の含有量合計 0.73 %を遙かに超える不純物
を含有しており,上記実験結果から,本願発明について当事者参加人が主
張する顕著な作用効果が立証されているとはいえないものである。当事者
参加人の上記主張は採用することができない。
エ さらに当事者参加人は,本願発明に対応する外国特許出願は,米国にお
いても(甲14),欧州特許庁においても(甲15 ),特許が付与されてお
り,主要3極の特許庁のうちの2極までが本願発明の特許性を認めている
事実は,本願発明が進歩性を有することを何よりも裏付けていると主張す
るが,他国での審査結果は尊重すべきであっても直ちに我が国において進
歩性を認めるべき根拠となるものではなく,上記検討の結果を左右するも
のではない。当事者参加人の上記主張は採用することができない。
4 結語
以上によれば,当事者参加人主張の取消事由は理由がない。
よって ,当事者参加人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する 。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 今 井 弘 晃
裁判官 真 辺 朋 子
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