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平成20(ワ)14681補償金請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成22年1月29日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社バーズ情報科学研究所
原告
法令 特許権
特許法35条1回
キーワード 実施89回
分割65回
特許権16回
許諾6回
職務発明6回
ライセンス4回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は,光学的文字読取装置(OCR)に関するパターン認識方法,同装置 及び同辞書作成方法に係る発明の発明者である原告が,被告に対し,平成16 年法律第79号による改正前の(同法附則2条1項参照)特許法35条 以下 旧( 「 35条」という )に基づき,原告が被告に承継させた上記発明に係る特許を。 受ける権利の相当対価(ただし,外国において特許を受ける権利に係るものを 除く。)の内金として1000万円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日で ある平成20年6月6日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅 延損害金の支払を求める事案である(なお,原告は,相当対価の算定の基礎と して,特許権が消滅するまでの間に被告が自ら発明を実施することにより得た 利益に限定して主張,立証をしているから,当裁判所の判断もこれに沿ってす る 。。) 2 前提となる事実 (1) 当事者 ア 原告は,昭和63年4月に被告に入社し,主に認識科学研究室に所属し, OCR等の研究開発に従事していたが,平成9年11月,被告を退職した。

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判決文

平成22年1月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成20年(ワ)第14681号 補償金請求事件
口頭弁論終結日 平成21年10月30日
判 決
埼玉県朝霞市 <以下略>
原 告 A
同訴訟代理人弁護士 平 井 哲 史
同 志 村 新
東京都千代田区 <以下略>
被 告 株式会社バーズ情報科学研究所
同訴訟代理人弁護士 坂 田 英 明
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成20年6月6日か
ら支払済みまで年6%の割合による金員を支払え
第2 事案の概要
1 本件は,光学的文字読取装置(OCR)に関するパターン認識方法,同装置
及び同辞書作成方法に係る発明の発明者である原告が,被告に対し,平成16
年法律第79号による改正前の(同法附則2条1項参照)特許法35条 以下 旧
( 「
35条」という 。)に基づき,原告が被告に承継させた上記発明に係る特許を
受ける権利の相当対価(ただし,外国において特許を受ける権利に係るものを
除く。)の内金として1000万円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日で
ある平成20年6月6日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅
延損害金の支払を求める事案である(なお,原告は,相当対価の算定の基礎と
して,特許権が消滅するまでの間に被告が自ら発明を実施することにより得た
利益に限定して主張,立証をしているから,当裁判所の判断もこれに沿ってす
る。 。

2 前提となる事実
(1) 当事者
ア 原告は,昭和63年4月に被告に入社し,主に認識科学研究室に所属し,
OCR等の研究開発に従事していたが,平成9年11月,被告を退職した。
(争いのない事実)
イ 被告は,昭和57年に設立された経営管理システム開発の総合コンサルテ
ィング,情報処理サービスとそのコンサルティング等を目的とする株式会社
である。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(2) 本件発明に至る経緯
被告は,原告が入社する2年前の昭和61年ころから,OCRソフトウェア
の開発に取り組み始め,昭和63年6月以降,OCRソフトウェアを販売して
いた。平成2年4月,原告は,この開発を担当する認識科学研究室に配属とな
った。しかし,同研究室において開発したOCRソフトウェアの性能が相対的
に低く,事業部門としては赤字が続いたことから,被告は,平成3年12月に
OCR開発事業を大幅に縮小することを決定した。原告は,平成4年4月から
開発部システム3部に異動し,CAD開発事業に携わった。
原告は,平成4年4月,当時の被告代表者に,OCRの研究開発をさせてほ
しい旨を申し入れたが聞き入れられず,CAD開発業務に携わる傍ら,独自に
パターン認識技術の研究を開始した。同年7月には被告の了承も得られたこと
から,OCR開発業務に専従した。
平成5年1月ころ,原告は,被告に対し,上記成果について特許を出願する
ことを提案した。
(争いのない事実,乙1,弁論の全趣旨)
(3) 本件発明の成立
原告は,遅くとも平成5年11月までに,次の特許権(以下「本件特許権」
といい ,これに係る特許を「 本件特許 」という 。)に係る発明(以下「 本件発明 」
という。)をした。
ア 登 録 番 号 特許第2937729号
イ 発明の名称 パターン認識方法及び装置及び辞書作成方法
ウ 出 願 日 平成5年12月21日
エ 公 開 日 平成7年7月21日
オ 登 録 日 平成11年6月11日
(4) 本件発明の内容及び特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲は,下記アのとおりであり,また,本件発明の内
容は,本件特許発明に係る明細書及び図面(以下,併せて「本件明細書」とい
う。)に記載されたもの(本件発明)と同一であり,その関係部分の記載は,下
記イのとおりである(なお,本件発明に係る特許公報〔甲2〕を別紙として添
付する。)。
ア 特許請求の範囲
「 請求項1】 パターン入力部(1)からの入力パターンを,辞書(2)を

参照してパターン認識処理部(3)により認識するパターン認識方法に於い
て,
前記辞書(2)は,手本パターン対応にN個の要素からなる特徴ベクトルを
求め,該特徴ベクトルのN個の要素の上位又は下位から順に選択組合せを行
って,1個~(N-1)個の要素からなる特徴集合を形成し,該特徴集合と文
字名 ,数字名 ,各種パターン名等のカテゴリー名とを対応させた構成を有し ,
前記パターン認識処理部(3)は,前記パターン入力部(1)からの入力パタ
ーンについて,N個の要素からなる特徴ベクトルを求め,該特徴ベクトルの
N個の要素の上位又は下位から順に選択組合せを行って,1個~(N-1)個
の要素からなる特徴集合を形成した後,該特徴集合と前記辞書(2)の特徴集
合との類似度を前記カテゴリー名対応に求め,該類似度が最大となるカテゴ
リー名を,前記入力パターンのカテゴリー名と判定することを特徴とするパ
ターン認識方法。
【請求項2】 パターンを格納したメモリ或いはパターンの走査読取りを
行うパターン入力部(1)と,
文字名,数字名,各種パターン名等のカテゴリー名のそれぞれに対して単
一又は複数の手本パターンを基に,各手本パターン対応にN個の要素からな
る特徴ベクトルを求め,該特徴ベクトルの複数のN個の上位又は下位から順
に選択組合せを行って ,1個~(N-1)個の要素からなる特徴集合を形成し ,
該特徴集合と前記カテゴリー名とを対応させてメモリに格納したパターン認
識用の辞書(2)と,
前記パターン入力部(1)からの入力パターンについて,N個の要素からな
る特徴ベクトルを求め,該特徴ベクトルのN個の要素の上位又は下位から順
に選択組合せを行って ,1個~(N-1)個の要素からなる特徴集合を形成し ,
該特徴集合と,前記辞書(2)の特徴集合との類似度を前記カテゴリー名対応
に求め,該類似度が最大となるカテゴリー名を,前記パターン入力部(1)か
らの入力パターンのカテゴリー名と判定するパターン認識処理部(3)とを備
えたことを特徴とするパターン認識装置。
【請求項3】 パターン入力部(1)からの入力パターンをパターン認識処
理部(3)により認識する為の辞書(2)を作成する方法に於いて,
手本パターンよりN個の要素からなる特徴ベクトルを求め,該特徴ベクト
ルのN個の要素の中の上位又は下位から順に,該上位又は下位の要素を含め
て1個~(N-1)個の要素の組合せからなる特徴集合を形成し,該特徴集合
と前記手本パターンのカテゴリー名とを対応させてメモリに格納する処理を
含むことを特徴とするパターン認識用の辞書作成方法。
【請求項4】 パターン入力部(1)からの入力パターンをパターン認識処
理部(3)により認識する為の辞書(2)を作成する方法に於いて,
手本パターンの認識対象領域をN個の等面積に分割し,該N個の分割領域
に領域番号を付与し,該N個の分割領域内のドット数の合計を求め,該合計
の値が大きい順に前記領域番号を配列して特徴ベクトルとし,該特徴ベクト
ルのN個の要素を構成する前記領域番号を,上位又は下位から順に,該上位
又は下位の要素を含めて1個~(N-1)個の要素の組合せから特徴集合を形
成し,該特徴集合と前記手本パターンのカテゴリー名とを対応させてメモリ
に格納する処理を含むことを特徴とするパターン認識用の辞書作成方法。
【請求項5】 パターン入力部(1)からの入力パターンをパターン認識処
理部(3)により認識する為の辞書(2)を作成する方法に於いて,
手本パターンの認識対象領域を,それぞれドット数の合計が同一となるよ
うにN個に分割して領域番号を付与し,該N個の分割領域の面積が大きい順
に前記領域番号を配列して特徴ベクトルとし,該特徴ベクトルのN個の要素
を構成する前記領域番号を,上位又は下位から順に,該上位又は下位の要素
を含めて1個~(N-1)個の要素の組合せからなる特徴集合を形成し,該特
徴集合と前記手本パターンのカテゴリー名とを対応させてメモリに格納する
処理を含むことを特徴とするパターン認識用の辞書作成方法 。」
イ 本件明細書の記載
(ア) 解決課題
「 0006 】
【 ・・・本発明は,辞書作成時間を短縮し,多数の文字種が
混在するような場合でも認識処理を容易とし,且つ認識率の向上を図ること
を目的とする 。」
(イ) 作用
「 0012 】
【 【作用】(1)パターン認識用の辞書2は,手本パターン対
応にN個の要素からなる特徴ベクトルを求め,その特徴ベクトルのN個の要
素を上位から順に配列し,例えば,最上位の要素を1個,次にその最上位の
要素と次の要素との2個,次に,最上位の要素と次の要素と更にその次の要
素との3個,次に,それらを含めて次の要素の4個というように,N-1個
の要素の組合せを求めて特徴集合とし,この特徴集合とカテゴリー名とを対
応させて格納したものである。この場合,図1に於ける例として,特徴集合
{1,3}はカテゴリー名A,Bに対応し,特徴集合{1,3,4}はカテ
ゴリー名A,C,Dに対応するような場合を示している。又パターン認識処
理部3は,パターン入力部1からの入力パターンについて,辞書2を作成す
る手順と同様にして特徴集合を求め,この特徴集合と,辞書2の特徴集合と
の類似度をカテゴリー名対応に求める 。例えば ,入力パターンの特徴集合が ,
{1,3 } {1,3,4 } ・・・・の場合,図示の辞書2の特徴集合とカ
, ,
テゴリー名対応に類似度を求めると ,カテゴリー名Aの類似度が最大となる 。
そして,類似度が最大となるカテゴリー名を入力パターンのカテゴリー名と
判定する 。」
「 0015】(4)又辞書作成方法は,手本パターンの認識領域を等面積

にN個に分割し,分割領域内のドット数(白地に黒のパターンの場合,黒ド
ット数)又は重みづけした値を合計する 。又分割領域に領域番号を付与する 。
そして,合計した値の大きいものから順に領域番号を配列する。このN個の
領域番号の配列から,上位又は下位から順に,1個~N-1個の要素の組合
せを形成して特徴集合とする。又例えば,同一文字についての手書き文字,
印刷文字等の複数の文字種について手本パターンとすることもできる 。即ち ,
1個のカテゴリー名について複数の手本パターンから特徴集合を求めて格納
することができる 。」
【0016】(5)又辞書作成方法は,手本パターンの認識領域内のドット
数又はドットに重みづけした値を合計し,その合計した値が同一の面積とな
るようにN個に分割する。この場合,白の多い部分は大きい面積となり,又
黒の多い部分は小さい面積となる。或いは,重みづけの大きいドットが多く
含まれる部分は小さい面積となる。そして,分割領域に領域番号を付与し,
面積の大きいものから順にN個の領域番号を配列する。このN個の領域番号
の配列から,上位又は下位から順に,上位又は下位を含めて1個,2個 ,・
・・N-1個の領域番号(要素)の組合せからなる特徴集合を形成する。この
特徴集合と手本パターンのカテゴリー名とを対応させてメモリに格納する 。」
(ウ) 実施例
「 0018】前述のパターン認識用の辞書2は,パターン入力部1又は

他のスキャナー等からの手本パターンについて ,特徴集合を求めて ,文字名 ,
数字名,パターン名等のカテゴリー名と対応してメモリに格納したものであ
り,この特徴集合は,特徴ベクトルから求めるものである。この特徴ベクト
ルは,手本パターンの認識領域を等面積,等ドット数等に従ってN個に分割
し,各分割領域のドット数や面積等を要素とするか,又は手本パターンより
N個の他の特徴量を求めて要素とするものである。この特徴ベクトルVは,
V={v 1 ,v 2 ,v 3 ,・・・v i ,・・v N } …(1)
と表すことができる。
【0019】そして,特徴ベクトルVの複数の要素V 1~V N の上位(最大
の数)から順に,或いは下位(最小の数)から順に選択組合せを行って,N-
1個の集合について ,1の順番に並べた集合の列T 1 ,T 2 ,・・・ ,T N-1
を特徴集合列とするものである。例えば,(1)式が大きいものから順に要素
が配列(要素の上位から順に配列)されている場合,I=1は{v 1 },I=
2は{ v 1 ,v 2 } I=3は{ v 1 , v 2 , v 3 } となり ,I=N-1は{ v

1 ,v 2 ,v 3 ,・・・,v N-1 }となる。これらの各個を特徴集合と称す
るものである。この特徴集合と手本パターンのカテゴリー名(文字名,数字
名,パターン名等)とを対応させてメモリに格納することにより,パターン
認識用の辞書2を作成する 。」
【0020】例えば,図2の(A)に示す文字「A」について,認識領域が
X(ドット)×Y(ドット)の構成の場合,縦に4等分,横に4等分すると,1
6個の等面積の分割領域が形成される。そして,各分割領域に領域番号1~
16を付与し,文字部分を黒とすると,各分割領域内の黒ドット数を計数す
る。この計数値をそれぞれv 1 ~v 16 とすると,(1)式の特徴ベクトルV
が得られる。そして,v 1 ~v 16 の大きいもの順に,順次I(=1~N-
1)個を選び,N-1(=16-1=15)個の集合を求め,これをIの順番
に並べた集合の列T 1 ~T N-1 (=T 1 ~T 15 )を特徴集合列とする。
【0021】この文字「A」について,領域番号1~16の分割領域内の
黒ドット数が大きいものから順に並べた時,6,7,10,11,13,1
6,2,3,9,12,5,8,1,4,14,15であるとすると,特徴
集合列T 1 ~T 15 は,
T 1 ={6}
T 2 ={6,7}
T 3 ={6,7,10}
T 4 ={6,7,10,11}
T 5 ={6,7,10,11,13}


T 15 ={6,7,10,11,13 ,・・・5,8,1,4,14}
となる。従って,これをカテゴリー名Aとしてメモリに格納する 。」
「図2

「 0022】又図2の(B)は,1文字分の黒ドット数が同一となるよう

に1文字分の領域を分割した場合を示し,分割領域の面積に大小の差が生じ
ることになる。この場合,例えば,1文字分の黒ドット数を総て計数し,合
計数をZとすると,縦に4分割,横に5分割する場合,例えば,縦方向に走
査して黒ドット数を計数し,順次加算して(Z/4)の値と同一或いは近似し
た値となった時に,縦に分割した1縦分割領域が得られる。同様に,縦方向
に走査して黒ドット数を計数し,順次加算して(Z/4)の値と同一或いは近
似した値となるように,縦分割領域を順次形成する。そして,各縦分割領域
内を横方向に走査して黒ドット数を計数し,順次加算して〔(Z/4)/5〕の
値と同一或いは近似した値となった時に,横にも分割した分割領域が得られ
る。これを繰り返すことにより,黒ドット数が同一の分割領域を得ることが
できる。そして,分割領域に番号1~20を付し,その番号1~20の分割
領域の面積をそれぞれv 1 ~v 20 とすると,(1)式の特徴ベクトルVが得
られる 。そして ,面積の大きいものから順に(上位のものから順に),或いは ,
面積の小さいものから順に(下位のものから順に),順次I(I=1~N-1)
個を選び ,N-1(=20-1=19)個の集合を ,Iの順番に並べた集合T 1
~T N-1 (=T 1 ~T 19 )を特徴集合列とするものである 。」
「図2

「 0057】例えば,カテゴリー名「A 」 「B」について,複数種類の
【 ,
印刷文字,手書き文字等のそれぞれ手本パターンを4種類入力し,認識領域
を6個に分割し(特徴ベクトルの次元を6とし),分割領域番号を1~6とし
て,それぞれの分割領域のドット数を計数した結果,次のようになった場合
を仮定する。
領域番号 1 2 3 4 5 6
VA1=( 100, 90, 80, 70, 60, 50)
VA2=( 40, 50, 45, 33, 35, 34)
VA3=(1980, 12,2000, 1, 0, 2)
VA4=( 96, 95, 94, 99, 98, 97)
VB1=( 24, 22, 30, 32, 28, 26)
VB2=( 24, 22, 64, 60, 52, 56)
VB3=( 154,155, 175,174,165,164)
VB4=( -60, -5, -4, -3, -2, -1)
【0058】特徴ベクトルVA1~VA4,VB1~VB4から作成され
る特徴集合TA1~TA4,TB1~TB4は,特徴ベクトルの要素の大き
いものから順に,1個,それと次の要素との2個というように,6個の要素
の中から順次要素1~5個組み合わせるものであり,
TA1={ 1 } { 1 ,2 } { 1 ,2 ,3 } { 1 ,2 ,3 ,4 } { 1 , 2 .
, , , ,
3.4.5}
TA2={ 2 } { 2 ,3 } { 1 ,2 ,3 } { 1 ,2 ,3 ,5 } { 1 , 2 .
, , , ,
3.5.6}
TA3={ 3 } { 1 ,3 } { 1 ,2 ,3 } { 1 ,2 ,3 ,6 } { 1 , 2 .
, , , ,
3.4.6}
TA4={ 4 } { 4 ,5 } { 4 ,5 ,6 } { 1 ,4 ,5 ,6 } { 1 , 2 ,
, , , ,
4,5,6}
TB1={ 4 } { 3 ,4 } { 3 ,4 ,5 } { 3 ,4 ,5 ,6 } { 1 , 3 .
, , , ,
4.5.6}
TB2={ 3 } { 3 ,4 } { 3 ,4 ,6 } { 3 ,4 ,5 ,6 } { 1 , 3 .
, , , ,
4.5.6}
TB3={ 3 } { 3 ,4 } { 3 ,4 ,5 } { 3 ,4 ,5 ,6 } { 2 , 3 .
, , , ,
4.5.6}
TB4={ 6 } { 5 ,6 } { 4 ,5 ,6 } { 3 ,4 ,5 ,6 } { 2 , 3 ,
, , , ,
4,5,6} 」
「図16

「 0059】なお,分割領域番号1~N(N=6)の場合に,1個~(N

-1)個の要素の組合せを得るもので,この場合,1~N個の要素による組
合せとすると,前述のTA1~TA4は,N=6であるから,6個の要素の
組合せは,それぞれ同一の{1,2,3,4,5,6}となる。従って,こ
れは特徴集合としては意味をなさないので,前述のように,1~(N-1)個
の組合せとしているものである。そして,前述の特徴集合とカテゴリー名と
を対応させてメモリに格納して辞書を形成するものであり,図16は前述の
例を用いた辞書の一例を示す 。例えば ,特徴集合 3 } ,
{ は カテゴリー名 A 」

「B」に共通の場合を示している。このように,辞書は,手本パターンより
特徴集合を作成し,カテゴリー名と対応させて,特徴集合の順番に並べるも
のであり,又これらの特徴集合に対して複数のカテゴリー名を対応させるも
のであるから,辞書作成に要する時間は,手本パターン数に比例した時間で
済み,辞書作成の為の所要時間を従来例に比較して大幅に短縮することがで
きる。又手本パターンを追加する時も,辞書の一部を修正,追加するだけで
済むから,簡単に追加することができる。又このような辞書構造を有するも
のであるから,パターン認識処理に於ける所要時間を短縮することが可能と
なる 。」
「 0072】入力パターンから求めた特徴集合と,文字認識用辞書に格

納された特徴集合とについて,前述の(6)式による巾空間類似度を計算し,
最大の類似度となる手本パターンのカテゴリー名を,入力パターンのカテゴ
リー名と判定するものである。
【0073】例えば,未知のカテゴリー名の入力パターンPX1,PX2
について,図16に示すパターン認識用の辞書を用いて認識する場合,入力
パターンPX1,PX2の特徴ベクトルVX1,VX2が,
VX1=( 6,888,9999,-55,77,-444)
VX2=(25, 16, 34, 61,52, 43)
であるとすると,入力パターンPX1の特徴ベクトルVX1から作成される
特徴集合は , 3 } { 2 ,3 } { 2 ,3 ,5 } { 1 ,2 ,3 ,5 } { 1 ,2 ,
{ , , , ,
3,4,5}となり,入力パターンPX2の特徴ベクトルVX2から作成さ
れる特徴集合は , 4 } { 4 ,5 } { 4 ,5 ,6 } { 3 ,4 ,5 ,6 } { 1 ,
{ , , , ,
3,4,5,6}となる。
【0074】入力パターンPX1の特徴集合と,図16の辞書の特徴集合
とをみると,入力パターンPX1の特徴集合{3}はカテゴリー名A,Bに
リンクし ,{2,3}はA ,{2,3,5}は何れにもリンクしていない。
又{ 1 ,2 ,3 ,5 }はA , 1 ,2 ,3 ,4 ,5 }はAにリンクしている 。

従って,前述のリンク1回について1/5点を与えることとすると,入力パ
ターンPX1のカテゴリー名Aとの類似度は,4/5となり,入力パターン
PX1のカテゴリー名Bとの類似度は1/5となる。
【0075】同様計算して,入力パターンPX2のカテゴリー名Bとの類
似 度 は 3 /5 と な り , 入 力 パ タ ー ン P X 2 の カ テ ゴ リ ー 名 B と の 類 似 度 は
4/5となる。従って,入力パターンPX1はカテゴリー名Aと認識し,入
力パターンPX2はカテゴリー名Bと認識するが,類似度の順に認識候補カ
テゴリー名を表示することも可能である 。」
(エ) 発明の効果
「 0077 】
【 【発明の効果】以上説明したように,本発明は,パターン
入力部1から入力した文字等の入力パターンを,パターン認識処理部3に於
いてパターン認識用の辞書2を参照して認識するものであり,入力パターン
の特徴集合と,辞書2の特徴集合との類似度を求めて,最大の類似度のカテ
ゴリー名を入力パターンのカテゴリー名と判定するものであり,認識率が高
いことが確認されている。又類似度計算に於いては,辞書が特徴集合の順番
に配列し,例えば,2分割法等によってサーチすることにより,辞書の全部
の特徴集合との間の類似度計算を行うことなく,その一部を参照すれば済む
から,認識所要時間を短縮できる利点がある。又類似度計算は,全カテゴリ
ー名に対して行うものであるから,パターン認識に於ける大分類等に適用で
きる等の応用性にも優れている利点がある 。」
「 0080】又パターン認識用の辞書2は,手本パターンよりN個の特

徴量を抽出して特徴ベクトルとし,その特徴ベクトルの要素の大きいものか
ら或いは小さいものから順に,1個の要素,その要素と次の要素との2個,
その2個の要素と更に次の要素との3個というように,N-1個の組合せを
特徴集合とし,手本パターンのカテゴリー名と対応させてメモリに格納する
ものであり,一つの特徴集合に複数のカテゴリー名を対応させることができ
るので,手本パターン及びカテゴリー名が多数の場合でも,辞書作成に要す
る時間は短くて済み,経済的に辞書を作成することができる。更に,手本パ
ターンを追加する場合でも,辞書の一部を修正,追加すれば良いから,簡単
に追加することができる利点がある 。」
(5) 本件発明規程
被告は,平成5年11月,次の内容を含む従業員の発明に関する「社員発明
規程」との職務発明規程を定めた(以下「本件発明規程」という。)。(争いの
ない事実,甲1)
「(発明の報告)
第2条 社員が,会社の業務範囲に属する事項について,発明をした場合は
すみやかに会社に報告しなければならない。
(特許権の承継及び協議)
第3条 前条の発明で,その発明をするに至った行為が,会社におけるその
者の現在又は過去の職務に属するものについては,会社が,特許を受ける
権利又は特許権(外国における場合を含む)を承継する。ただし,会社が必
要でないと認めた場合はこの限りではない。
2 ・・・・・
(譲渡補償金)
第4条 前条の規定により,会社が特許を受ける権利を承継して出願した場
合は,発明者に対し,譲渡補償金として,1出願につき30,000円を
支給する 。ただし ,出願後の分割出願又は変更出願については支給しない 。
2 ・・・・・
3 ・・・・・
(登録補償金)
第5条 第3条の規定により,会社が特許を受ける権利を承継して,特許権
を取得した場合は,発明者に対し,登録補償金として30,000円を支
給する。ただし,特許法第38条ただし書の規定による2以上の発明を含
む特許権については,15,000円を加算する。
2 ・・・・・
3 第3条の規定により,会社が特許権を承継した場合は,せん議のうえ相
応の補償金を支給する。
(追加補償金)
第6条 前2条の補償金を支給した後においても,出願中及び特許権存続期
間中の発明実施の成績が顕著であると認めた場合は,追加補償金を支給す
る。」
(6) 本件発明に係る特許を受ける権利の承継
本件発明に係る特許を受ける権利(以下「本件権利」という。)は,平成5年
11月ころ,本件発明規程に基づき,原告から被告に譲渡された。(争いのな
い事実)
(7) 本件発明に係る特許出願
被告は,平成5年12月21日,特許庁に対し,本件発明に係る特許出願を
した。(争いのない事実)
(8) 本件発明の実施
ア 被告は,平成5年ころから,本件発明を利用したOCRソフトウェアであ
る「カスタムOCR 」 「手書READER 」 「FAXREADER 」 「郵
, , ,
振OCR 」 「字由字在」等の商品を販売した(乙1,2。ただし,この実施

については補償金請求の基礎とはされていない。)。
イ 本件サービス
被告は,平成9年7月,次のような,顧客から依頼された文書等のデジタ
ルデータ化を行うサービス(「バーズ e-エントリーサービス 」。以下「本
件サービス」という。)を始めた。(争いのない事実,甲3,10,11,乙
1,7,8,14~16,24~26,弁論の全趣旨)
(ア) 構成
本件サービスを行うシステム(以下「本件システム」という。)は,蒲田セ
ンター ,広島センター ,名古屋センター及び中国センターに分かれているが ,
それぞれの構成はほぼ同様である(以下,主に「蒲田センター」を例に説明
する。)。
本件システムは,①クライアントから被告に送信されたFAX送信の受信
等のFAX処理,文字認識処理及び文字認識後処理などを行うFAX/認識
サーバ(34サーバ)と,②クライアントから被告に郵送された帳票の読取り
などを行うスキャナと,③ベルトコンベア編集,認識不能帳票の修正,イメ
ージワークフロー入力などを行う編集クライアント(7サーバ,100~3
00端末)と,④クライアントによるデータのダウンロード,イメージデー
タの照会などを行う通信制御サーバ(22サーバ)と,⑤顧客管理,データ管
理などを行うデータベースサーバ(2サーバ)と,⑥イメージデータ管理など
を行うイメージ管理サーバ(2サーバ)と,そのほかに,PBX,システム監
視サーバ,周辺機器,ハブなどの機器から構成され,それぞれの機器が通信
回線により接続されている。システム性能としては,受信能力が1時間当た
り約4万枚,処理能力が1時間当たり1万5000枚及び1日当たり約15
万枚であり,実績値は,最大受信枚数が1時間当たり2万枚,最大処理枚数
が1時間当たり約1万2000枚及び1日当たり約10万5000枚である。
(イ) サービス内容
a FAX受付時間は,年中毎日24時間である。
b 帳票受付は,FAX又は郵送でされ,処理対象帳票は,OCR帳票又は
非OCR帳票である。FAX帳票については,FAXボードで受信後イメ
ージ処理がされ,郵送帳票については,私書箱経由で受け付け後,スキャ
ナで読み取られる。OCR帳票が利用された場合にはOCRの認識結果の
全カラムを目視で検査するが,非OCR帳票が利用された場合には,イメ
ージデータからオペレータがパンチ入力をする。
c 処理サイクルは,スタンダード・タイプとしては,当日(9:00~2
0:00)に受信したFAXを翌営業日の午前9時までにデータ化し,エ
クスプレス・タイプとしては,当日FAX受信後30分以内にデータ化す
るというものである。
d 処理されたデータについては,CSV形式などでクライアントがダウン
ロードすることができる。イメージデータについては,通信回線を利用し
て原帳票の照会ができるほか,CD-ROM等によりクライアントに提供
される。なお,判別不能帳票については,クライアントの指定FAXに転
送される。
e FAX,郵便のほか,Webを利用したサービスもある。
(ウ) 処理手順
a FAX処理(サブシステム1)
(a) FAX,郵送などによりセンターに送信,送付された帳票を受信し,又
はそのイメージをスキャナで取り込む。
(b) FAX処理(サブシステム1)は,FAX制御(モジュール1),キュー
管理(モジュール2),受信処理(モジュール3),送信処理(モジュール4)
及び音声応答(モジュール5)から成る。
(c) 勤務表についてFAXとOCRを用いた処理をするに当たり,セイコー
プレシジョン株式会社の「勤怠管理システム」(平成4年9月2日出願,
平成8年3月6日公告〔特公平8-23895号〈乙26 〉 ,特許第2

121312号)に係る発明(以下「乙26発明」という。)が使用されて
いる。なお,被告がセイコープレシジョン株式会社との間で実施許諾契約
を締結したのは平成16年12月1日であるが,実施許諾は平成8年3月
6日に遡ってされており,被告はこれに相応する実施料をセイコープレシ
ジョン株式会社に支払っている。
b 認識処理(サブシステム2)
(a) オペレータの目視によるOCR認識結果の確認及び修正,各種エラーチ
ェック,エラー修正などが行われる。
(b) 認識処理(サブシステム2)は,帳票切り出し(モジュール6),文字切り
出し(モジュール7),文字認識(モジュール8)及び認識後処理(モジュー
ル9)から成る。
(c) 帳票切り出し(モジュール6)については ,「ノイズ成分除去方法及びノ
イズ成分除去プログラムを記録した記録媒体」(平成10年1月実施,同
年8月26日出願,平成12年2月10日登録,特許第3030814号
〈 乙15 〉)に係る発明(以下「 乙15発明 」という 。)が使用されている 。
(d) 文字認識(モジュール8)については,本件発明及び「文字認識方法及び
認識装置」(平成17年12月7日出願,平成18年4月実施,平成19
年6月21日公開〔特開2007-156938号〈乙16 〉〕)に係る
発明(以下「乙16発明」という。)が使用されている。
(e) 文字認識(モジュール8)では,OCRによる漢字認識が実用に供するレ
ベルに達していないため,手書き及び活字の数字(0~9),英字(A~Z)
及びカタカナ(ア~ン)の認識についてのみ実施している。
c 後処理(サブシステム3)
共通チェック(モジュール10),カスタマイズチェック(モジュール1
1)及びデータベース登録(モジュール12)から成る。
d 編集処理(サブシステム4)
(a) WKF制御(モジュール13),対象外編集(モジュール14),先行編集
(モジュール15),ベルトコンベア編集(モジュール16),エラー編集(モ
ジュール17),再認識処理(モジュール18)及びリモート編集システム
(モジュール19)から成る。
(b) ベルトコンベア編集(モジュール16)については ,「キー入力編集方法
及び編集装置」(平成9年6月19日出願,同年7月実施,平成11年1
1月12日登録 ,特許第3000349号)に係る発明(以下 乙14発明 」

という。)が使用されている(以下,乙14発明を使用した編集方法を「ベ
ルトコンベア編集」という。)。
ベルトコンベア編集とは,3枚程度の帳票の各カラムの各文字ごとにO
CRによる各文字の認識結果をコード順にソートし,上段に元イメージ,
下段に認識結果をカラムごとに対応するように表示して,イメージと認識
結果を確認するものである。すなわち,上段に各カラム1文字分のイメー
ジ(例・ 7 」 ,
「 )を 下段にこの文字に対する認識結果である文字(例・ 7 」
「 )
が配置され,これら文字が認識結果である文字種ごとに連続して並べれら
(例・上段に 「 7 」 7 」 7 」
「 「 ・・・ 8 」 8 」
「 「 ・・・ , 下段に 「 7 」 7 」

「7 」・・・ 8 」
「 「8 」・・・。),上段のイメージと下段のイメージが一
致しないものが修正の対象となる(例・上段が「 7 」 7 」 7 」 7 」 7 」
「 「 「 「
・・・,下段が「7 」「9 」「7 」「7 」「7 」・・・であれば,2番目の認
識結果が修正される。乙14発明を使用した編集方法は,あたかも数字が
ベルトコンベアに乗って流れてきて,オペレータが不良品を排除するよう
に誤認識した文字を修正することから ,「ベルトコンベア編集」と名付け
られている。
(c) ベルトコンベア編集の後にページ編集方法を利用した論理チェックが行
なわれる。論理チェックとは,例えば,勤務表の休憩時間の結果が「90
0(9時間)」となるのは間違っている可能性が高く ,これをエラーとする 。
エラーとなった帳票をページ編集(帳票1枚単位の編集方法で,元帳票と
同じような配置で各項目ごとに元イメージと認識結果を配置する。)で認
識結果を再確認している。
(d) OCRに向かないフィールド部分のイメージは,イメージワークフロー
入力がされる。これは,切り出されたフィールド部分をオペレータの入力
画面に表示させ,オペレータはそのイメージを参照しながら,下に配置さ
れた入力フィールドに該当の文字をパンチ入力するものである。
e データ処理(サブシステム5)
通信制御(モジュール20),ダウンロード(モジュール21),イメージ
照会(モジュール22),各種カスタマイズ(モジュール23)及びWeb連
携(モジュール24)から成る。
f Web処理(サブシステム6)
イメージ照会1(モジュール25),着信検索(モジュール26),イメー
ジ照会2(モジュール27)及び各種カスタマイズ(モジュール28)から成
る。
(9) 本件特許の成立
特許庁は,平成11年6月11日,本件特許権について設定の登録をした。
(争いのない事実)
(10) 補償金の支払
被告は,原告に対し,本件発明規程に基づき,平成5年12月,第4条の譲
渡補償金として3万円を,平成12年,第5条の登録補償金として4万500
0円をそれぞれ支払った。
原告は,平成9年11月に被告を退職する際に,被告に対して同規程第6条
の追加補償金の支払を受けられるかどうかを問い合わせたが,被告は ,「部門
全体は赤字である 。」と回答し,その支給はしていない。
(争いのない事実)
(11) 本件サービスの売上高
本件サービスの売上高は ,次のとおりである(単位:千円)。(乙19~21 ,
23)
16期(平成9年7月~8月) 229万2000円
17期(平成9年9月~同10年8月) 1億2931万5000円
18期(平成10年9月~平成11年8月) 1億5185万1000円
19期(平成11年9月~平成12年8月) 2億3890万2000円
20期(平成12年9月~平成13年8月) 4億0797万4000円
21期(平成13年9月~平成14年8月) 5億9146万0000円
22期(平成14年9月~平成15年8月) 7億5695万5000円
23期(平成15年9月~平成16年8月) 9億6970万8000円
24期(平成16年9月~平成17年8月) 10億3781万1000円
25期(平成17年9月~平成18年8月) 11億3997万5000円
26期(平成18年9月~平成19年3月) 6億4448万5000円
27期(平成19年4月~平成20年3月) 11億4766万9000円
28期(平成20年4月~
平成20年6月10日) 2億0858万4000円
合計 74億2698万1000円
(12) 訴訟提起
平成20年5月30日,原告は,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)
(13) 本件特許権の消滅
平成20年6月11日,本件特許権は,年金未納付により消滅した。
(14) 時効援用の意思表示
被告は,平成20年9月1日の本件第1回弁論準備手続期日において後記4
(5)ア(ア)~(ウ)の時効について,平成21年2月18日の本件第4回弁論準備
手続期日において同(エ)の時効について,本件補償金請求について消滅時効を
援用する旨の意思表示をした。(顕著な事実)
3 争点
(相当の対価について)
(1) 超過売上高
(2) 超過利益
(3) 使用者貢献度
(4) 相当対価額
(時効消滅について)
(5) 時効期間の経過
(6) 援用権の喪失
(弁済)
(7) 補償金の支払の有無
4 争点に関する当事者の主張
(1) 超過売上高
ア 原告
本件発明により生じた超過売上高は,売上高の100%であり,少なくと
も90%を下回るものではない。
(ア) 本件発明の特徴
a 本件発明のように,特徴ベクトルの値を順位付けして特徴集合を構成さ
せること,各マス目のドット数の値を特徴ベクトルにすること,各マス目
の中のドット数が等しくなるような各マス目の面積を特徴ベクトルにする
こと,及びこれに類似する技術は,すべて原告が独自に考案したものであ
る。
b(a) 本件発明の学習処理は,理論的に最速であり,学習が高速に行える。
OCRソフトウェア開発の過程では,1回の学習で最終的な認識プログ
ラムが完成するわけではなく,何回かのテストを行い,その結果を検証し
て学習をやり直すなどの作業が含まれる。そのほかに,研究作業において
も,色々な改良手法を何回も試して,学習,テスト,プログラムの修正を
繰り返す作業がある。それらのいずれにおいても,学習時間が短いという
ことが,開発期間の短縮と作業効率の向上に大きく寄与している。
(b) 本件発明の識別処理は,非常に高速である。
認識時間については,他の手法では大型コンピューター(FACOM-
M360)を使用して1文字当たり0.37秒であったが,本件発明では
平成5年当時のパソコンを使用しても1文字当たり0.02秒程度であっ
た 。 また ,本件発明は ,学習データをいかに大量に学習させたとしても ,
識別時間が全く変化しない。識別処理が早ければ,それだけ,同じ期間内
に大量の依頼を受けることができ ,処理が早ければ顧客満足度も高くなる 。
したがって,商品としての魅力が高く,市場競争力が高いということにな
る。しかも,同じ作業をするのに処理速度が速いほうが作業時間を短縮で
きるため,この作業にかける人件費もより安くて済むことになる。
c 本件発明は,すべてのカテゴリーに対する類似度情報を返すことから,
この類似度を認識結果の信頼性の判断に利用することができる。実用的に
は,たとえ認識棄却が多くても誤認識を極力排除したいという要求が非常
に高いところ,この要求に応えるためには,何らかの方法で認識結果の信
頼度を判断しなければならないが,そのためには類似度情報が不可欠であ
る。そして,すべてのカテゴリーに対して類似度情報を返せば,一番類似
度の高い情報のみを返す場合と比べて誤認識をより高い確率ではじき出す
ことが可能となる。数字のようにカテゴリー数が10個の場合にすべての
カテゴリーに対して類似度を返す識別手法は各種存在するが,漢字のよう
に種類が3000以上もある場合にすべのカテゴリーに対して類似度情報
を返す実用的な手法は現在でさえまれであり,少なくとも本件発明の時点
では他に存在しなかった。
d 本件発明は,漢字のように種類が何千個もある場合でも,すべてのカテ
ゴリーに対して類似度情報を返しつつ ,しかも識別処理が速い手法である 。
したがって ,「データマイニング 」「画像からの一般物体認識」等の大量
カテゴリーの識別問題に係る分野に応用できる有望な技術である。
e(a) 本件発明の認識率は高い。
孫ほか2名の「連想整合法に基づく高速文字認識アルゴリズム」(平成
3年3月1日発行「情報処理学会論文誌」Vol.32No.3の404
~413頁。甲9。以下「甲9論文」という。)によると,平成3年3月
当時の文字認識技術では,活字文字の認識率は99.88%(全数整合法)
~99.87%(連想整合法)であるが,本件発明の漢字の認識率は,99.
97%である(本件明細書【 0079 】の「 99.7% 」は誤記である 。)。
また,ひらがな,カタカナ,アルファベット,各種記号とJIS第1水準
全文字を合わせた3503文字種での認識率は,99.93%,これにJ
IS第2水準全文字を加えた6891文字種での認識率は,99.96%
であった 。本件発明を使用した活字用OCR商品である 字由字在 」と 読
「 「
取革命Lite Ver1.06」(パナソニックソリューションテクノロ
ジー株式会社,平成19年8月購入)とを対比してみると ,「字由字在」
の認識率は98.78%で ,「読取革命Lite Ver1.06」の認識
率は98.94%であったが,その原因は「読取革命Lite Ver1.
06」がしている文脈処理を「字由字在」がしていないことや ,「字由字
在」が行切り出しや文字切り出しに失敗していることによるものと考えら
れ,正味の文字認識性能は「字由字在」の方が上回る可能性があり ,「字
由字在 」が本件発明当時 ,いかに進歩的で優秀なものであったかが分かる 。
(b) 仮に被告が主張するように,本件発明の手書き数字の認識率が97.0
~98.5%程度としても,一般には認識率は95%程度であるから,や
はり本件発明の文字認識率は高い 。「IPTP手書き数字認識技術調査」
の結果は,対象が様々な筆記具を念頭においた手書き数字に特化している
ことや,学習用及びテスト用のサンプル数が1万8000パターン程度と
少なかったことから,本件発明の効果が十分発揮されなかったが,それで
も,認識率が18アルゴリズム中7~8位であり,また,認識速度は,パ
ソコンを用いたにもかかわらず2位であった。
(イ) 代替技術
a ハードウェアを利用するOCRではなく,パソコンで実行できるOCR
の技術は,本件発明当時,本件発明以外に産業的実用性のあるものはなか
った。したがって,本件発明の識別技術は,製造コストが掛かる専用ハー
ドウェアを利用しなくてもよいため,製品価格が抑えられ,価格競争力の
点で有利である。
b 被告が本件発明を使用せずに本件サービスを行うためには,他者からハ
ードウェアOCRを導入しなければならなかったが,性能の高いOCRを
有する大手メーカーが競合関係に立つ被告に技術をライセンスすることは
考えにくく,仮にライセンスを受けても被告にとって支払が不可能なほど
高額なものになったに違いなく,それでは被告は本件サービスをすること
はなかった。各種認識プログラムが市場に出回っている中において,被告
のように企業規模も小さく知名度も低く営業力も低い企業のサービスが売
上げを上げることができたのは,本件特許権による排他的効力によるもの
にほかならない。
c 本件特許の審査に当たって参考とされた特開昭63-75989号公報
(乙29の1)に開示された発明(以下「乙29①発明」という。),特開
昭62-166487号公報(乙29の2)に開示された発明(以下「乙
29②発明」という。),特開昭63-780号公報(乙29の3)に開
示された発明(以下「乙29③発明」という。),特開昭63-10608
8号公報( 乙29の4 )に開示された発明(以下「 乙29④発明 」という 。)
及び特開平4-299484号公報(乙29の5)に開示された発明(以
下「乙29⑤発明」という。)は,いずれも本件発明と全くつながりがな
い。
(ウ) 本件サービスへの寄与
a 本件サービスは,OCRを利用することによって,大幅な人件費削減が
可能となり,かつ,依頼から納品までの時間を短縮することによって顧客
層を広げることが可能となり,これによって初めてビジネスとして成り立
つのであるから,その中核的な技術はOCRである。すなわち,OCRを
使用すれば,オペレータは,すべての文字を入力する必要はなくなり,そ
の作業量は,①認識結果を目視する作業と,②誤認識又は認識棄却の文字
のみを入力する作業の2つだけとなる。例えば,認識率が97.69~9
6.97%であれば ,オペレータが入力する文字数は全体の2.31%~3.
03%であり,OCRを使用しない場合と比較して,オペレータの入力作
業量は33分の1~43分の1に軽減される。また,オペレータはOCR
の誤った認識部分のみを入力すればよいから,その入力誤りの率をも減ら
すことができる。
b 本件サービスは,FAXを受信し,OCR処理をし,データを送信する
という既存のビジネスモデルに,認識結果を確認編集する部分を追加した
だけであるところ,OCRの認識結果の確認編集技術は各種のものが以前
から存在していたから,被告ビジネスモデルは従来技術の単なる組合せに
すぎない。実際,別会社が類似のサービスを行っている。
(エ) 排他的実施
仮に被告が職務発明に基づく通常実施権によって同程度の売上げを得られ
たかどうかという観点からみるとしても,競合他者が本件発明を使用できる
となれば,高い認識技術を有する企業,多額のコストを負担できる企業のみ
ならず,被告と同程度の中小企業が本件発明の実施許諾を受けて市場に参入
するようになり,被告は現在のような売上げを得られなかった。すなわち,
被告は本件発明の使用を他者に禁じることによってコストを負担できない中
小規模の事業者の参入を抑えていたのである。
イ 被告
本件発明の排他的実施権による効果はない。本件発明により生じた超過売
上高は,極めて少なく,売上高の10分の1以下である。
(ア) 本件発明の特徴
a 各マス目の中のドット数を特徴ベクトルにしたり,ドット数が等しくな
るような各マス目の面積を特徴ベクトルとすることは,既存技術であり,
本件発明はこれらの既存技術を利用するものにすぎない。
b 文字認識の結果,どこが間違っているかはあらかじめ分からないので,
結局,全文字を目視により確認しなくてはならないが,この確認作業は決
して容易な作業ではない。目視による確認時間とベテランのオペレータが
紙からそのまま打鍵する入力時間は同じくらいである。実際にオペレータ
がかけている時間のほとんどは目視確認の時間であり,OCRによって軽
減される作業量は修正入力時間のみであるが,修正入力時間はごく少ない
ため,作業時間減少による人件費の節減効果はほとんど生じない。
c 類似度情報は,実用的には上位2~3文字までのもの(確定,曖昧,不
認識が判定できる程度)があれば十分で,すべてのカテゴリーに対する類
似度情報は不要である。また,類似度情報が常に正しいとも限らない。結
局,実用上は,全件を目視で確認するという作業をせざるを得ない。
なお,漢字認識については,本件サービスで実用に供するレベルに達し
ておらず,採用していない。
d 特徴ベクトルを特徴ベクトル値の順位に置き換えてしまう本件発明の手
法からして,本件発明が大量カテゴリーの識別問題に応えられるなどとい
うのは過大評価ないし誇張である。
e(a) 本件発明の認識率はそれなりの水準にあるものの,反面,誤認識が多
く,単純な文字パターンを見誤るという欠点がある。手書き数字の実際の
帳票(勤務表)1000枚をサンプルとした本件発明による認識率は ,96.
97%にすぎない。本件サービスにおける実測値では,おおむね手書き数
字で97.0~98.5%程度である。したがって,本件発明の認識率は格
別優れているというまでのものではない。本件発明を利用したパソコン用
OCRソフトである「字由字在」の世間一般での評価は,極めて低いもの
であった。
(b) 本件明細書に記載された認識率は,辞書作成用の手本パターンと認識率
測定用の入力パターンとに同じもの(測定用の文字をあらかじめ辞書登録
している。)を用いた認識率であって(本件明細書の段落【0078 】 【0

079】),一般の実用(測定用の文字は未知である。)での認識率とは異
なる。甲9論文における認識率についても,測定条件が異なるため比較の
対象にはならない。
(イ) 代替技術
a リコー製,メディアドライブ製,NEC製等,他社製の専用ハードウェ
アを使用しない文字認識プログラムが各種出回っており,本件発明には代
替技術が存していたから ,本件特許に他者の参入を阻止できる効果はない 。
b 被告が本件サービスで本件発明を使用し続けたのは,認識率が高いから
ではない。いずれ全件を目視確認せざるを得ないため認識率の優劣はさほ
ど問題でなく ,一定水準(実装で97%以上)であればどのOCRでもよく ,
ただ ,自社製品であれば ,使い慣れており ,バグ対応も自社で可能であり ,
周辺ツールも完備している一方,他社製品へ変更すると多額のシステム改
修費が必要になるという理由にすぎない。
c 原告の主張(イ)cは争う。
(ウ) 本件サービスへの寄与
a 原告の主張は,OCRを全く用いない場合と比較しているだけであり,
本件発明の効果を主張するものではない。
b 本件サービスの最大の特徴は,文字認識の弱点である誤認識と不認識に
ついてオペレータによる全文字の確認・修正を実施することにあり,その
ために重要なのは,いかに効率的な編集システム,編集設備を準備し,オ
ペレータに効率的な編集を行わせるかであり,文字認識プログラムの良否
ではない。被告が他者の参入を抑えて当該分野で独占的な地位を有してい
るのは,乙14発明による「ベルトコンベア編集」などの効率的な編集方
法を可能とする各発明,及びFAXによる郵送費の削減とデリバリータイ
ムの大幅な削減,OCR,ベルトコンベア編集による編集効率・精度の向
上と簡単な操作での編集費用の削減,クリーンデータによる顧客側の修正
工数の大幅な削減,通信回線を利用した結果(クリーンデータ)の配信によ
るデリバリータイムの削減,イメージ(デジタルデータ)保管によるリアル
タイムの検索など,デジタルサービスを提供するビジネスモデルの構築に
よるものであり,本件発明のような特定の文字認識技術によるものではな
い。
(エ) 排他的実施
原告の主張は争う。
(2) 超過利益
ア 原告
(ア) 超過利益率
本件サービスの利益率は,会社全体の利益率を下回ることはないところ,
被告の売上高経常利益率は,平成12年8月決算から平成16年8月決算ま
での5年分でみると,平均して2.95%である。そうすると,超過利益率
は,少なくとも2.95%を下回ることはない。
(イ) 仮想実施料率
被告の主張は争う。
a 乙14発明,乙15発明及び乙16発明は,いずれも本件発明の基礎の
上にあるものであり,それぞれ単独で本件サービスを成り立たせるような
ものではない。
(a) 乙14発明を採用しても,オペレータが目視すべき文字の全体数も,修
正すべき文字数も変化しないから,この発明によってオペレータの作業効
率はさして向上しない。従来の編集方法でも文字画像と認識結果を並べて
表示し目視することはされており,また,イメージデータと認識文字との
位置関係が上下以外の場合には乙14発明の技術的範囲外となるから,こ
の発明を簡単に回避して同等の機能と効果を実現させることができ,乙1
4発明に係る特許には,特許権としての効力は皆無である。
(b) 乙15発明は,FAX特有のノイズ(黒い斑点や黒い線)の出ないスキャ
ナの画像には関係がなく,FAX画像のみにしか効力を発揮しないもので
あり,しかも,その場合でも,乙15発明によってどの程度誤認識が削減
されるかについては全く不明である。例えば,OCRの誤認識率及び認識
棄却率が2.31~3.03%であった場合,この発明による入力作業削減
の向上率は理論的最大値でも3.03%にすぎず,事業の収益性への寄与
度は相対的に非常に低い。
(c) 乙16発明のように類似度が一定以上の場合には目視を不要とするとい
う手法は,ごく一般的な考え方として以前から採られていたものにすぎな
い。また,乙16発明が,類似度を返す本件発明を前提とする以上,本件
発明を離れて独自の技術としての価値を有するものではない。この発明に
よりどの程度作業が効率化されたかについても全く不明である。なお,乙
16発明は平成18年4月以降に実施されたにとどまるから,仮に貢献が
あったとしても,実施期間中のごく一部のみに対してである。
(d) 乙26発明の寄与については争う。
b プログラムの価値は,機能(モジュール)数で比較されるようなものではな
い。通信回線を利用してサービスを行うようになれば,内部的なシステム構
成とフローも当然それに符合したものになるが,このこと自体はごく当たり
前のことであり,それ自体についてビジネス的な先進性は何もない。
c プログラムの価値は,ステップ数などで比較されるようなものではない。
全体の作業のなかで当該プログラムがどのような位置を占め,どのような役
割を果たしているかが重要である。
イ 被告
(ア) 超過利益率
原告の主張は争う。
(イ) 仮想実施料率
仮に超過売上高が存するとしても ,その仮想実施料率は ,1%以下である 。
a 本件サービスには,本件発明のほか,次の3つの発明が関係しており,
発明の数で多くとも4分の1の役割を果たすにすぎない。
(a) 被告は,乙14発明により,大量の帳票を短時間で,かつ,熟練を必要
としないオペレータが画面を操作するだけで文字認識の結果の間違いを見
つけて修正することを可能とした。その結果,オペレータを廉価なパート
か派遣社員によりまかない,かつ,変動するトラフィックに合わせて要員
を配置することができ,それでいて専門の熟練されたオペレータと同等の
作業をこなすことができるようになった。
被告が先行する大手企業が行っているサービス形態と差別化し,かつ,
コストを見合わせるサービスができたのは ,乙14発明によるものであり ,
この発明がなければ本件サービスは実現しなかった。
(b) 被告は,乙15発明により,FAX帳票のノイズを除去し,認識率の向
上と誤認識を低下させることができるようになった。なお,本件サービス
ではスキャン画像を処理することもあるが,ほとんどがFAX受信を処理
するものである。
(c) 被告は,乙16発明により,超確定認識(絶対に間違えていない確定認
識)を実現し,超確定認識した文字については,オペレータの目視確認を
不要とし ,編集効率を改善させることができるようになった 。実測値でも ,
15%~25%の編集効率が改善できている。
(d) さらに,被告は,乙26発明について実施許諾を受けたことにより,勤
務表についてFAXとOCRを用いた処理を行えることとなった。
b 本件サービスは,6つのサブシシテムに分かれ,全体として28の機能
(モジュール)に分かれている。本件発明は,機能(モジュール)数で28分
の1の役割を果たすにすぎない。
c 本件サービスは,認識処理(サブシステム2)のステップ数が全体の15
分の1であり,さらに,本件発明を利用した文字認識モジュールが,認識
処理(サブシステム2)の中のステップ換算で10%程度となる。したがっ
て,本件発明は,ステップ数で全体の150分の1の役割を果たすにすぎ
ない。
(3) 使用者貢献度
ア 原告
本件発明における被告の貢献度はない。
(ア) 被告が一般的にOCRの開発を行っていたとしても,本件発明に対する被
告の具体的な貢献度は明らかではない。本件発明がされた当時,被告のOC
R開発事業は閉鎖に向かっていたところ,原告は,認識科学研究室からシス
テム3部に移った後,自ら申し出て,所定労働時間外に単独で本件発明をし
たのであり,被告の研究成果は一切利用していない。被告のOCR技術に係
る成果は原告一人の業績に負っており,それ以外の被告がした膨大な研究開
発は,原告の研究の礎になるどころか原告に振り分けるべき研究資源を削っ
たというマイナス要素にしかなっていない。
(イ) サンプルデータの収集に被告従業員らの協力があったことは認めるが,何
ら発明を基礎付けるものではなく,本件発明を利用したプログラムの性能を
高めるためのものにすぎず,発明に対する貢献ではない。
(ウ) 発明の実施に当たってした使用者の貢献は,本件補償金の算定について関
係がない。いずれにしても,原告は,本件サービスの中核をなすOCR技術
を開発したから,本件サービスに大きく貢献しているといえる。また,原告
が本件サービスのシステム開発に従事しなかったのは,被告が原告に対して
その従事を指示していなかったからである。
イ 被告
本件発明における被告の貢献度は,95%を下回るものではない。
(ア) 被告は原告が入社する前の昭和61年ころからOCRの研究を行ってお
り,原告は,平成2年4月以降,認識科学研究室に配属されて上司であった
Bの指導の下で始めて文字認識技術を学び ,その認識研究に携わった 。また ,
被告は,昭和61年以降,多額の試験研究費を投じてきている。さらに,O
CRの開発には,認識エンジンの開発だけではなく,検証,辞書登録,操作
画面・業務処理の開発,販売を含め多くの社員がかかわっている。本件発明
は,そのような経緯と背景があったからこそ成し得たものである。
(イ) 辞書サンプルデータの収集に当たっては,被告の全社員及びその家族等が
各自用紙に文字を記入してデータの収集に協力したほか,辞書作成,性能評
価に当たっては,新規に補佐要員を採用して本件発明への支援を行った。
(ウ) 本件サービスのシステム開発プロジェクトがスタートしたのは,平成8年
1月であるが,原告は,このプロジェクトには全く参加しようとせず,事業
そのものにも否定的であった。原告は,事業開始の平成9年7月のすぐ後で
ある同年11月には退職しており,本件サービスを軌道に乗せるまでの企業
努力に何のかかわりも持たなかった。
(4) 相当対価額
ア 原告
相当対価額は,1億7274万9057円(58億5590万0250円
〔売上高〕×100%〔超過売上高〕×2.95%〔超過利益率〕×100
%〔発明者貢献度〕)を下回るものではない。
イ 被告
相当対価額は ,37万1349円(74億2698万1000円〔 売上高 〕
×10%〔超過売上高〕×1%〔仮想実施料率〕×5%〔発明者貢献度〕)
を上回るものではない。
(5) 時効期間の経過
ア 被告
(ア) 権利承継
a 職務発明の承継に対する相当対価の支払を受ける権利の消滅時効は,特
段の事情のない限り,特許を受ける権利を使用者等に承継させた時から進
行するが,勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支
払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を
受ける権利の消滅時効の起算点となる。本件発明規程第6条は ,「発明実
施の成績が顕著であると認めた場合」に追加補償金を支給すると定めてい
るが,追加補償金の支払時期が発明実施の成績が顕著であることの認定と
いういわば被告の意思いかんによって左右されるものでないから ,「発明
実施の成績が顕著であると認めた場合」とは,支払時期を定めたものでは
なく,支給要件を定めたものである。また,本件発明規程第6条には,追
加補償金の支払が「前2条の補償金を支給した後においても」と規定され
ているが,これは ,「支給前はもちろん」との意を含むから,追加補償金
の支払時期が譲渡補償金,登録補償金の支払後にされるという趣旨ではな
い。
b 原告が被告に本件権利を承継させたのは平成5年であり,本件訴訟提起
までに10年を経過しているから,被告は上記消滅時効を援用する。
(イ) 発明の実施
a 仮に発明実施前の請求は困難であるから起算点を発明実施の時とするに
しても,被告は本件発明を平成5年には実施している。
b 本件訴訟提起までに10年を経過しているから,被告は上記消滅時効を
援用する。
(ウ) 顕著な成績(その1)
a 原告は,年6分の遅延損害金を請求しているなど,本件請求権を商事債
権であると自認している。
b 原告が本件発明の実施の成績が顕著になったとする平成11年8月から
本件訴訟提起まで5年を経過しているから,被告は上記消滅時効を援用す
る。
(エ) 顕著な成績(その2)
a 仮に後記原告の主張のとおり起算点を「発明実施の成績が顕著であると
客観的に認められる場合」であるとしても,被告は,平成5年4月1日,
本件発明について売上に寄与した功績が大きいとして原告を表彰し,本件
発明規程も同年11月1日から実施されたから,原告は,同日から追加補
償金を請求することが可能であった。
b 同日から本件訴訟提起まで5年ないし10年の時効期間を経過している
から,被告は上記消滅時効を援用する。
イ 原告
(ア) 権利承継
a 本件発明規程は,第4条において譲渡補償金の支給時期を権利承継時と
し,第5条において登録補償金の支払時期を特許権の取得時点とし,これ
を受けた第6条において,これら補償金を「支給した後」においても「発
明実施の成績が顕著であると認めた場合」に追加補償金を支給するとして
いるのであるから,その規定振りからみて第6条は支給時期を定めたもの
である。そして,発明実施の成績が顕著であることが被告の主観により左
右されるべきではないから , 発明実施の成績が顕著であると認めた場合 」

とは ,「発明実施の成績が顕著であると客観的に認められる場合」を意味
する。
b 本件発明の実施の成績が客観的に顕著になったと認められる時期は,平
成11年8月末ころであるから ,本件補償金請求権の消滅時効の起算点は ,
平成11年8月末である。
(イ) 発明の実施
被告の主張は争う。消滅時効の起算点を本件発明の実施のときとする根拠
はない。
(ウ) 顕著な成績(その1)
被告の主張は争う。本件補償金請求権は法定債権であり,その時効期間は
10年である。
(エ) 顕著な成績(その2)
被告の主張は争う。
(6) 援用権の喪失
ア 原告
仮に権利承継時の平成5年を起算点としたとしても,被告は,原告が平成
9年11月の退職時に追加補償金の支払を求めた際,部門全体は赤字なので
実績が顕著とは言えない旨を主張して原告の請求を断念させたのであるか
ら,事後,実績が顕著であるとして及んだ本訴請求で消滅時効を援用するこ
とは,信義則違反として許されない。
イ 被告
被告は,部門全体が赤字なので支払は難しい旨を答えたにすぎず,黒字に
なったら支払うなどの約束はしていない。
(7) 補償金の支払の有無
ア 被告
仮に原告が被告に対して補償金請求権を有するとしても,次のとおり,弁
済がされている。
(ア) 被告は,平成5年,原告に対し,本件発明について表彰するとともに10
万円を支払った。
(イ) 被告は,平成5年,原告を一般社員から2階級特進させ,主任研究員(P
L級)とした。この進級は,通常の最短での進級に比べても2年ほど早く,
その差額分を金額に換算すると,200万円ほどになる。
イ 原告
(ア) 原告が平成5年に表彰を受け金一封を支給されていることは認めるが,こ
れは,表彰を受ける者の功績をたたえ,将来の励みにする趣旨のものにすぎ
ない。
(イ) 原告が平成5年に主任研究員に昇進したことは認めるが,功績のあった社
員を昇級させる人事は,会社組織においては当然のことであり,単なる通常
の人事がされたというにすぎない。
第3 当裁判所の判断
1 旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」について
旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」について
は,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権
利であり,その発明により使用者等が将来得ることのできる独占的実施による
利益をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発
明の独占的実施による利益を得た後の時点において,その独占的実施による利
益の実績をみて法的独占権に由来する利益の額を事後的に認定することも,同
条項の文言解釈として許容されると解される。
また,使用者等は,職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継す
ることがなくても当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有するこ
とにかんがみれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利
益の額」とは,自己実施の場合には,単に使用者が有する通常実施権(法定通
常実施権)に基づいて得るべき利益をいうものではなく,これを超えて,使用
者が従業員等から特許を受ける権利を承継し,その結果特許を受けて発明の実
施を排他的に独占し又は独占し得ることによって得られる独占の利益と解すべ
きである。そして,ここでいう「独占の利益」とは,自己実施の場合には,他
者に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が上げた利益,すな
わち,他者に対する禁止権の効果として,他者に許諾していた場合に予想され
る売上高と比較してこれを上回る売上高(以下,この差額を「超過売上高」と
いう。)を得たことに基づく利益(以下「超過利益」という。)が,これに該当
するものである。
この超過利益については,超過売上高に対する利益率なるものが認定困難で
ある一方,その額は,仮に本件特許発明を他者に実施許諾した場合に第三者が
当該超過売上高の売上げを得たと仮定した場合に得られる実施料相当額を下回
るものではないと考えられることからすると,超過売上高に当該実施料率(仮
想実施料率)を乗じて算定する方法によることが許されるものと解される。
2 争点(1)(超過売上高)について
(1) 本件発明の実施の範囲につき
ア 前記第2,2前提となる事実(8)イによれば,本件サービス中に本件発明
が実施されているのは,同(8)イ(ウ)b(d)の認識処理サブシステム中の文字
認識モジュール部分だけであり,証拠(甲2,7,8,乙18)及び弁論の全
趣旨によれば,その実施態様は,概略 ,「手本パターンの認識対象領域を面
積又は黒ドット数に従って等分割し,当該分割領域に含まれる黒ドット数又
は当該分割領域の面積の大小に従って各分割領域を順序付けした後,その順
番に従って,順に,要素を1,2 ,・・・N-1個(分割数-1)取り出して
1~N-1個の要素を組み合わせた特徴集合として形成したものを1つの手
本パターンとし,入力パターンについて,その1~N-1個の集合列につい
て,それぞれの集合につき,かつ,すべての手本パターンとの対照を行い,
各手本パターンに合致する度合いを評価したものを類似度とし,最も類似度
の高かったものを当該入力パターンに該当する手本パターンとするパターン
認識方法及びパターン認識装置の使用並びに当該文字認識方法における辞書
の作成方法」と認められる。これによると,本件発明として排他的に実施さ
れているのは特許請求の範囲の請求項4又は請求項5に対応する発明とこれ
に関係する請求項1~3に対応する発明であると認められる。
イ 一方 ,特許請求の範囲の請求項1~3のその余に対応する発明については ,
被告がこれを排他的に実施していることを認めるに足りる証拠はなく,そも
そも,これら発明には事実上においても他者の実施を禁止する効力があるも
のとは認め難い。
すなわち,これら請求項の内容は,前記第2,2前提となる事実(4)アの
とおり , 【 請求項1 】
「 ・・・ 手本パターン対応にN個の要素からなる特徴
ベクトルを求め,該特徴ベクトルのN個の要素の上位又は下位から順に選択
組合せを行って ,・・・ 」 「 請求項2 】
,【 ・・・N個の要素からなる特徴ベク
トルを求め,該特徴ベクトルの複数のN個の上位又は下位から順に選択組合
せを行って ,・・・ 」 「 請求項3 】
,【 ・・・N個の要素からなる特徴ベクトル
を求め,該特徴ベクトルのN個の要素の中の上位又は下位から順に,該上位
又は下位の要素を含めて1個~(N-1)個の要素の組合せからなる特徴集合
を形成し ,・・・ 」というものである 。上記特許請求の範囲の記載によれば ,
請求項1~3記載の発明においては,どのような特徴ベクトルを抽出するか
が文字の認識率に最も影響する点であるにもかかわらず,何が「要素」であ
るかを特定していないものであるのみならず,仮に,文言どおり特徴ベクト
ルの要素をその要素に従って上位又は下位から順に選択して組み合わせると
いうのであれば,手本パターン及び入力パターンの特徴がいずれも全く失わ
れてしまうから(例えば,ドット数に従って上位から順に組み合わせただけ
では,当該ドット数がどの場所を示すのかという領域番号に関する情報がな
いまま組み合わせたものになるにすぎない。),パターン認識に資するとこ
ろがない。
ウ また ,乙16発明に係る特開2007-156938号公報(乙16)には ,
次の記載がある。
①「 請求項1】入力文字パターンから文字を認識する文字認識方法に於い

て,
文字パターンの認識対象文字領域をN個の領域に分割して領域番号を付
与し,該N個の分割領域の前記文字パターンによる特徴量を求めて,該特
徴量を要素とする特徴ベクトルを作成し,該特徴ベクトルのN個の要素の
中の最大から最小の順序に配列し,最大の1個の要素,該最大の要素と次
の要素との2個の要素,以下最大の要素を先頭に順次組み合わせ配列した
(N-1)個の特徴集合を作成し,該特徴集合とカテゴリー名とを対応させ
て格納した第1認識辞書を備え,前記入力文字パターンの特徴集合を求め
て前記第1認識辞書の特徴集合との類似度を求め,該類似度が最大となる
カテゴリー名を第1認識処理による認識結果の候補文字とし,
前記最大となる類似度が,他の候補文字の類似度との差が大きい場合の
前記入力文字パターンに対して,上下左右方向から見た文字の輪郭と特徴
量とを求め,認識辞書を参照して候補文字を判定する文字輪郭抽出法と,
文字のほぼ中心の線上の白ドットから上下左右に見た黒ドットの配置を線
状の組み合わせと,該線状の組み合わせ対応の特徴量とを求め,認識辞書
を参照して候補文字を判定する位相情報抽出法とによる第2認識処理を行
い,前記文字輪郭抽出法による認識結果と,前記位相情報抽出法による認
識結果と,前記第1認識処理による認識結果とが一致した時に,認識属性
を超確定とする過程を含む
ことを特徴とする文字認識方法 。」
②「 請求項2】前記第1認識処理に於ける認識属性が確定認識で,且つ文

字パターンのかすれやノイズを含まない前記入力文字パターンに対して,
前記第2認識処理に移行し,該第2認識処理に於ける前記文字輪郭抽出法
による認識結果と,前記位相情報抽出法による認識結果とが前記第1認識
処理による認識結果と一致した時に,認識属性を超確定とし,一致しない
時は,前記第1認識処理による認識結果を採用し,且つ認識属性を確定認
識又は曖昧認識又は不認識とする過程を含むことを特徴とする請求項1記
載の文字認識方法 。」
③「 請求項3】入力文字パターンから文字を認識する文字認識装置に於い

て,
文字パターンの認識対象文字領域をN個の領域に分割して領域番号を付
与し,該N個の分割領域の前記文字パターンによる特徴量を求めて,該特
徴量を要素とする特徴ベクトルを作成し,該特徴ベクトルのN個の要素の
中の最大から最小の順序に配列し,最大の1個の要素,該最大の要素と次
の要素との2個の要素,以下最大の要素を先頭に順次組み合わせ配列した
(N-1)個の特徴集合を作成し,該特徴集合とカテゴリー名とを対応させ
て格納した第1認識辞書と,
前記入力文字パターンに対して前記特徴集合を求め,前記第1認識辞書
の特徴集合との類似度を求め,該類似度が最大となるカテゴリー名を認識
結果の候補文字として出力する第1認識処理部と,
文字パターンに対して,上下左右方向から見た文字の輪郭と特徴量とを
求めて,スコアを付与して格納した文字輪郭抽出法の認識辞書と,文字の
ほぼ中心の線上の白ドットから上下左右に見た黒ドットの配置を線状の組
み合わせと特徴量とを求めて,スコアを付与して格納した位相情報抽出法
の認識辞書とを含む第2認識辞書と,
前記第1認識処理部の認識結果の候補文字と前記入力文字パターンとを
入力して,該入力文字パターンに対して上下左右方向から見た文字の輪郭
と特徴量とを求めて,前記第2認識辞書の文字輪郭抽出法の認識辞書の特
徴量と一致する該特徴量のスコアを加算して,最大スコアとなる文字を文
字輪郭抽出法による候補文字とし,前記入力文字パターンの文字のほぼ中
心の線上の白ドットから上下左右に見た黒ドットの配置を線状の組み合わ
せと特徴量と求めて,前記第2認識辞書の位相情報抽出法の辞書の特徴量
と一致するスコアを加算して,最大スコアとなる文字を位相情報抽出法に
よる候補文字とし,前記各候補文字が一致する時に認識属性を超確定とし
た認識文字を出力する第2認識処理部と
を備えたことを特徴とする文字認識装置 。」
④「 0006】本発明は,従来の問題を解決するもので,認識結果が絶対

に誤っていない確からしさ示す超確定の区分を設け,この超確定区分の認
識結果については ,見直しを必要としないようにすることを目的とする 。」
⑤「 発明の効果 】
【 【0010】第1認識処理の次に,文字輪郭抽出法及び
位相情報抽出法を含む第2認識処理を実施して,それぞれの認識結果の候
補文字が一致した時に,超確定の認識属性とし,この超確定の認識属性の
認識結果文字については,信頼性が高いので,照合作業を省略することが
可能となる。従って,文字認識処理後の照合作業等が軽減されることにな
る。例えば,手書き文字をファクシミリ送信し,受信した文字を光学的に
読み取り,前述の文字認識処理を,約500万文字について検証実験を行
った結果,約20%の100万文字が超確定の認識属性となり,信頼性を
向上すると共に照合確認作業の著しい削減を図ることができた 。」
以上の記載からすると,乙16発明は,第1認識処理(本件発明)で候補と
なった文字について,文字輪郭抽出法及び位相情報抽出法で構成された第2
認識処理における認識とも一致した場合には「超確定」として,オペレータ
による見直しの対象から外すとした文字認識方法に関する発明であり,本件
発明を前提としたものと認められる。しかし,乙16発明は,単純に3つの
認識方法を組み合わせただけのものであって,類似度を返す同様の効果を有
する発明であれば,本件発明以外の文字認識に係る発明であっても,代替が
可能であると認められる(そのような発明の存在は,第2,4争点に関する
当事者の主張(2)ア(イ)a(c)において,原告が自認するところである 。 。

そのほか,前記第2,2前提となる事実(8)イの本件サービスの実施態様
によると,本件サービスにおいて,本件発明による文字認識処理とその他の
部分とが一体不可分の関係にあるとは認められないから,本件サービスが,
本件発明を必須の構成としているものとは認められない。
(2) 本件発明の特徴につき
ア 従来技術
(ア) 乙29①発明
a 乙29①発明に係る特開昭63-75989号公報(乙29の1)には,
次の記載がある。
①「 特許請求の範囲〕認識すべき画像を囲む所定形状の領域を画定する

領域画定手段と,
該領域画定手段で画定された所定形状の領域を所定の複数の副領域に
分割する分割手段と,
該分割手段で分割された各副領域内に存在する画像の画素数を求める
画素数算出手段と,
該画素数算出手段で求めた各副領域の画素数の多い順に前記複数の副
領域を順位付けし ,各副領域に対する順位値を求める順位値算出手段と ,
該順位値算出手段で求めた各副領域の順位値を基準画像の各副領域の
順位値と比較して両者の順位相関を求める順位相関算出手段と,
該順位相関算出手段で求めた順位相関に基づいて認識すべき画像が基
準画像と同じであるか否かを判定する判定手段と,
を有することを特徴とする画像認識方式 。」
②「 1頁右欄3~5行目〕本発明は,画像認識方式に関し,特に文字パ

ターン等の画像を順位相関を使用して適確に認識する画像認識方法に関
する 。」
③「 2頁右上欄19行目~左下欄4行目 〕
〔 ・・・この文字パターンを含
むまたは囲む最小矩形を(b)に示すように算出し,更にこの矩形を大き
さの等しい複数の副領域,すなわち第1図の(c)に示すようにM×N個
の複数のブロックに分割する(ステップ110,120)。」
④「 2頁左下欄6~7行目〕次に,M×N個に分割された各ブロック内

に存在する画素数,図示の場合には黒画素数を求める 。」
⑤「 2頁左下欄11~18行目〕それから,このように求めた各ブロッ

ク 毎 の 画 素 数 の 多 い 順 に 各 ブ ロ ッ ク に 順 位 付 け を 行 う (ス テ ッ プ 1 3
0)。第1図の(e)は第1図の(d)に示す画素数に基づいてその多い順
に番号を1から16までの順位値を付したものであるが,画素数が『8
5』と最も多いブロックが順位値1を付され,画素数が「5」の最も少
ないブロックが順位値16を付されている 。」
⑥「 2頁右下欄15~19行目 〕
〔 ・・・すべての文字パターンに対する
順位値α j を求め,これらの順位値α j を各文字パターンに対応してメ
モリ等に記憶して辞書データを構成しておくのである 。」
⑦「 3頁左上欄1~4行目 〕
〔 ・・・この辞書パターンの順位値α j を上述
したように算出した入力文字パターンの順位値i j と比較し,両パター
ンの順位相関r iα を求める(ステップ140)。」
⑧「 3頁左上欄10~12行目〕両パターンの順位相関r iα を求めた

後は,この順位相関r iα の最大値r α * を求める(ステップ150) 。」
⑨「 3頁左上欄14~19行目〕そして,この順位相関r iα の最大値

r α * をすべての辞書パターンに対して求め,この最大値r α * の最も
大きな辞書パターンα * の画像,すなわち文字パターンを入力文字パタ
ー ン に 対 応 す る 文 字 パ タ ー ン と し て 認 識 す る の で あ る (ス テ ッ プ 1 6
0)。」
⑩「 3頁左下欄2~9行目〕なお,上記実施例においては,文字パター

ンを含む最小矩形を求め,これを分割しているが,この形状は矩形に限
定されるものでなく ,認識すべき画像パターンを含む他の形状でもよい 。
また,各ブロック内で算出する画素数は黒画素数に限定されるもので
なく,反対に黒画素数のない白または無画素あるいはこれに相当するも
のを用いてもよい 。」
以上の記載によれば,乙29①発明は,概略 ,「手本パターンの認識対
象領域を複数の領域に等分割し,当該分割領域に含まれる画素数の大小に
従って各分割領域を順序付けした後,その順序に従って配列した順位値を
1つの手本パターンとし,入力パターンについて,その順位値につき,か
つ,すべての手本パターンと対照を行い,順位相関が最大のものを当該入
力パターンに該当する手本パターンとする画像認識方式 。」の発明と認め
られる。
b 以上からすると,本件発明のうち,手本パターンの認識対象領域を面積
に従って等分割し,当該分割領域に含まれる黒ドット数の大小に従って各
分割領域を順序付けした後,これを利用して形成した集合を1つの手本パ
ターンとし,入力パターンについて,この集合につき,かつ,すべての手
本パターンとの対照を行い,最も類似度が高いものを当該パターンに該当
する手本パターンとするパターン認識方法は,公知の技術であると認めら
れる。
(イ) 乙29④発明
a 乙29④発明に係る特開昭63-106088号公報(乙29の4)に
は,次の記載がある。
①「 特許請求の範囲〕(1)一定のアルゴリズムにより2値の文字画像に

特徴付けを行い,それと同時にまたはその後に特徴画素の総数とX方向
およびY方向への射影のヒストグラムHX i ,HY j を求め,前記総数
および前記ヒストグラムHX i ,HY j に基づき特徴画素をほゞ均等に
含む複数のメッシュ領域に前記文字画像をX方向およびY方向に分割す
ることを特徴とする領域分割方式 。」
②「 2頁左下欄6~9行目〕本発明は前記問題点に鑑みてなされたもの

であり,安定した特徴抽出を可能にするために,分割すべき文字画像に
応じて分割点を適正化する領域分割方式を提供することを目的とする 。」
③「 2頁右下欄7~19行目〕まず,ステップ100において,文字画

像に特徴付け処理が施される。この実施例においては,この特徴処理に
より,文字画像の文字線輪郭画素(白画素)に第2図に示すような方向コ
ードが付けられる。なお,文字線輪郭部の黒画素に同様に方向コードを
付けるようにしてもよい。
このような処理は,文字画像のラスタースキャンを行いながら,注目
している白画素の上下左右の画素のパターンを調べることにより行われ
るが,この処理と同時に,方向コード付与画素(特徴画素)の総数PEと
X方向軸およびY方向軸への射影のヒストグラムHX i ,HY j が求め
られてテーブルに登録される 。」
以上の記載によれば,乙29④発明は,概略 ,「方向コードを付与した
特徴画素について,その総数とX方向およびY方向ごとの数に従って,特
徴画素を分割された領域に均等に配分する方式 。」の発明と認められる。
b したがって,本件発明のうち,認識対象領域を注目する画素数(ドット
数)が均等になるように領域を分割する方法は,公知の技術であるといえ
る。
(ウ) 乙29②発明
a 乙29②発明に係る特開昭62-166487号公報(乙29の2)に
は,次の記載がある。
①「 特許請求の範囲〕(1)入力パタンから生成した入力特徴ベクトルと

カテゴリに対応した標準パタンからあらかじめ生成してある標準特徴ベ
クトルとの間の類似性の大小関係に基づいて候補カテゴリを抽出するパ
タン照合装置において,前記標準特徴ベクトルの各ベクトル要素ごとに
カテゴリ名を要素値の大きさ順にソートしてなる辞書を格納した辞書メ
モリと,入力特徴ベクトルの要素値の大きさにしたがって各ベクトル要
素ごとに前記辞書メモリから一部のカテゴリ名を選択して読み出す選択
処理手段と,この選択処理手段によって各ベクトル要素ごとに読み出さ
れるカテゴリ名に基づいてカテゴリ別に評価値を累積する評価値累積処
理手段と,この評価値累積処理手段から出力されるカテゴリ別の評価値
の累積値の大小関係によって候補カテゴリを抽出するソート処理手段と
で構成したことを特徴とするパタン照合装置 。」
②「 2頁左上欄13~17行目〕この発明は,パタン認識に用いるパタ

ン照合装置に関し,特に手書き漢字認識等における変形を許容した入力
パタンと多数の標準パタンとの照合を高能率で実行するパタン照合装置
に関するものである 。」
③「 3頁左上欄18行目~右上欄1行目〕そこでこの発明の目的は,全

部のカテゴリでなく一部のカテゴリに対する累計計算によって高精度,
かつ高速に全カテゴリから候補カテゴリを抽出できるパタン照合装置を
提供することにある 。」
④「 4頁右下欄4~12行目 〕
〔 ・・・入力特徴ベクトルの要素値ix(i
1 ,i 2 ,……i m の任意のものを示す)にしたがって下限がix-Δ,
上限がix+Δに相当するベクトル1の要素値j lx ,j hx を計算し,
要素値の大きさの範囲j lx ≦j x ≦j hx を選択範囲,これ以上の要素
値の大きさの範囲を非選択範囲とする。ここでΔは,特徴ベクトルの要
素値の変動幅等にしたがって決められる値である 。」
⑤「 5頁左上欄4~7行目〕次いで評価値累積処理では,第9図の原理

図に示すように,選択範囲に含まれるカテゴリには評価値e,非選択範
囲に含まれるカテゴリには”0”を対応させる 。」
⑥「 5頁右上欄3~11行目〕次のソート処理では,第1図のソート処

理手段4において,評価値累積処理手段3から与えられる全カテゴリ分
の評価値累積値と対応するカテゴリ名を評価値累積値が大きい方から順
に第8図の候補カテゴリーテーブルに並べ替える処理を行う。並べ替え
が終了した時点で,評価値累積値が最大の第1候補カテゴリから所定の
順位までの候補カテゴリを出力することによって,1入力パタン分のパ
タン照合処理を完了する 。」
⑦「 5頁左下欄17行目~右下欄3行目〕以上説明した第1の実施例の

パタン照合装置では,各ベクトル要素の選択範囲に含まれるカテゴリ数
分の累積計算で,入力特徴ベクトルと全カテゴリの標準特徴ベクトルと
のベクトル間距離に相当する評価値累積値が得られるため,従来の総当
たりでベクトル間距離を計算するパタン照合処理よりも高速に処理を実
行することができる 。」
以上の記載から,乙29②発明は,概略 ,「標準特徴ベクトルと入力特
徴ベクトルとの対比に当たり,標準特徴ベクトルの各ベクトル要素ごとに
複数の候補パターンが準備されている辞書から,入力特徴ベクトルの各ベ
クトル要素ごとに所定の条件範囲に含まれる候補パターンを選択し,その
評価値を累積させ,最大の評価値から所定の順位までの候補カテゴリを出
力することを特徴とするパタン照合装置 。」の発明と認められる。
b したがって,本件発明のうち,特徴ベクトルの要素ごとに,各手本パタ
ーンに合致する度合いを評価したものを累積させ,もっとも類似度の大き
いものを入力パターンに該当する手本パターンとするパターン認識装置
は,公知の技術であると認められる。
(エ) 乙29③発明
a 乙29③発明に係る特開昭63-780号公報(乙29の3)には,次の
記載がある。
①「 特許請求の範囲 〕
〔 (1)多層方向ヒストグラム法によるパターン認識
方式において,辞書パターンの特徴ベクトルはその成分を標準偏差また
は分散の大きい次元順に予め並べ替えた形で辞書に登録されており,未
知パターンから抽出された特徴ベクトルは,辞書パターンの特徴ベクト
ルの成分の並べ替え順に従って成分が並べ替えられたのち,上位次元の
成分から優先的に辞書パターンの特徴ベクトルの対応次元成分との距離
または類似度が演算されることを特徴とするパターン認識方式 。」
②「 1頁右欄2~4行目〕本発明は文字などのパターンの認識方式に関

し,さらに詳細には,多層方向ヒストグラム法によるパターン認識方式
に関する 。」
③「 1頁右欄11行目~2頁左上欄1行目〕この多層方向ヒストグラム

法によるパターン認識方式においては,文字などのパターンの輪郭画素
に方向コードを付け,そのパターンの枠の各辺から対向する辺に向かっ
てパターンを走査して白画素(背景)の次に出現する方向コードを検出
し,その方向コードをそれが走査線上で何番目に検出されたかによって
複数の層に層別する。そして,パターンの枠内の分割領域毎に,ある層
までの層別の方向コードのヒストグラムを求め,それぞれのヒストグラ
ムを成分(特徴量)としてベクトルを,パターンの特徴ベクトルとして用
いる 。」
④「 2頁右下欄4~10行目 〕
〔 ・・・パターン識別能力の高い部分から
優先的に距離または類似度を演算することにより,パターン識別能力の
高い一部の成分について距離または類似度を演算した段階で,候補とな
り得ない辞書パターンを排除し,候補となり得る辞書パターンを早い段
階で絞り込むことができるであろう 。」
⑤「 4頁右上欄8~18行目〕このように,この実施例では,パターン

識別能力の高い上位N次元に関して距離演算を行い,その距離を閾値と
比較することにより,未知パターンの候補パターンとなり得ない辞書パ
ターンを排除し,候補パターンとなり得る辞書パターンについてだけ全
次元を対象とした距離演算を行う。つまり,上位N次元だけのマッチン
グにより未知パターンの大分類(候補パターンの絞り込み)を行い,無駄
な距離演算を排除している。このような絞り込みにより,無駄な距離演
算が大幅に減少し,マッチング効率の大幅な向上が達成される 。」
以上の記載からすると,乙26③発明は,概略 ,「特徴ベクトルを識別
力の高い標準偏差又は分散の大きい次元順に並べ替えておき,より上位の
成分と優先的に対応を行うパターン認識方式 。」の発明であると認められ
る。
b したがって,本件発明のうち,特徴ベクトルの要素を所定の基準に従っ
て並べ替えて類似度が演算されるパターン認識方法は,公知の技術である
と認められる。
イ 本件発明の特徴点
前記(1)アの本件発明の内容と上記アの従来技術とを対比すると,結局,
本件発明の特徴は,領域番号に置き換えられた特徴ベクトルの要素を構成す
る集合の1~N-1個の部分集合を辞書とし,これとすべての標準パターン
との照合をする点にあるものと認められる。そして,本件発明は,領域番号
の順序情報に従い部分集合を構成しておきながら,この部分集合における順
序情報を捨象し,そのようにして構成されたすべての部分集合との照合を逐
一行うなど重複した処理を繰り返すものであって,独創性はあるものの,文
字認識方法としての技術的な優位性は高いものとは認め難い。
(3) 認識率の対比
ア 本件明細書には,次の記載がある。
「 0078】実際に,ドットプリンタにより,半角文字のアルファベッ

トの大小52文字と,数字10文字とをプリントアウトし,分解能300
(dpi;ドット/インチ)のスキャナーにより読取って,辞書作成用の手本
パターンと,認識率測定用の入力パターンとした。その場合,辞書に使用し
た文字数は62文字種×80セット=4960文字,認識率測定用に入力し
た文字数は62文字種×40セット=2480文字とした。その結果,辞書
作成に要する時間は,パーソナルコンピュータを使用した場合,約1300
秒,認識率は98.75%であった。この場合,大文字と小文字とが殆ど類
似のパターンを有することにより,誤認識が生じたが,文字の大きさの情報
を入力することにより,認識率を99.75%とすることができる。
【 0079 】又JIS第1水準の漢字2965文字種をプリントアウトし ,
前述のスキャナーにより読取って辞書作成用の手本パターン及び認識率測定
用の入力パターンとした。その場合,認識率は,99.7%であった。この
場合の1文字当たりの認識所要時間は約0.14秒であった。又0~9及び
A~Xの手書き文字について辞書作成及び認識率測定を行った。その場合,
全文字数10994に対して,認識率は98.86%であった。即ち,実用
充分な認識率を得ることができた 。」
上記記載によれば,本件発明は,ドットプリンタにより印刷された活字体
を対象とし,かつ,手本パターンと認識パターンを同一のものとした場合の
認識率で99.75%に達するものの,手本パターンと認識パターンを同一
のものとした場合でも,手書き文字の認識率は98.86%である。
イ 他方,郵政省郵政研究所が平成7年度に各参加機関に参加を求め実施した
手書き数字データベース「IPTP CD-ROM1」を対象とした認識実
験(16機関18アルゴリズム)には,被告も本件発明を使用した製品でこれ
に参加した。なお ,「IPTP CD-ROM1」とは,実際の年賀はがき
に記載された3桁の手書き郵便番号の画像イメージを収録したものであり,
収録部分は郵便番号枠を含む横30mm,縦15mmの部分であり,データ
数は1万2000サンプル(3万6000字),使用筆記具はボールペン(2
5%),万年筆(15%),サインペン(32%)及び筆(28%)である 。また ,
調査方法は,郵政省郵政研究所が定めた調査要綱に基づき各参加機関が認識
実験を行い,その結果を同研究所に報告するというものであり,サンプルデ
ータは,半分を学習データに使用し,残り半分を評価データに用い,郵便番
号枠の除去処理,文字切出し処理等の前処理は同研究所の指定した方式で行
うというものである。(乙31の1~3)
この結果によると,本件発明のアルゴリズムは,正読率(3文字すべてが
正しく認識できた場合)が96.95%で,学習データ,評価データとも指定
外のものを使用したアルゴリズムを除く12アルゴリズム中7位であり,評
価データのみ指定のものを使用した7アルゴリズム中でも4位であり(なお ,
筆を除いた場合でも,本件発明のアルゴリズムの認識精度の順位はほとんど
変わらない。),認識速度は,1文字当たり0.016秒で,学習データ,評
価データとも指定外のものを使用したアルゴリズムを除く13アルゴリズム
中2位であった。
ウ 原告及び中川正樹の「線形時間学習及び定数時間識別の一パターン識別手
法」(平成18年11月発行「電子情報通信学会論文誌」Vol.J89-
A No.11の981~992頁。甲7)によると,本件発明を原型とする
手法であるPSSによる公開されている手書き数字データベースMNIST
に対する認識率は,95.94%にすぎなかった。
エ 手書き数字による実際の帳票(勤務表)1000枚をサンプルとして,本件
発明による文字認識率を調査したところ,96.97%であった。(乙3,1
7)。
(4) 代替技術
ア 平成4年5月社団法人日本電子工業振興協会作成の 光学文字読取装置(O

CR)に関する技術動向調査報告書」(乙30の1)によると,平成3年度,
同協会が,光学文字読取装置(帳票OCR)について63社に対してアンケー
ト調査をした結果,被告の1機種を含む15社32機種の回答が得られた。
その回答内容は,①読取り字種については,手書き及び活字とも,漢字30
00字種までは50%超,4000字種も一部では可,②字形自由度につい
ては,数字は自由手書きまで50%超,英字・記号・片仮名は常用手書きま
では50%超 ,自由手書きも一部で可 ,平仮名は常用手書きまでは50%超 ,
漢字は制限手書きは50%超,常用手書きが一部で,③文字切出しについて
は,フリーピッチまでは50%超,重なり文字や接触文字も一部で可,④文
字枠については,表形式や黒線枠までは50%超,文字枠なしも一部で可,
⑤帳票制限緩和については,OCR帳票,小型帳票は50%超,罫線様式帳
票や従来帳票も一部で可というものであった。
イ 平成6年3月社団法人日本電子工業振興協会作成の 光学文字読取装置(O

CR)に関する技術動向調査報告書」(乙30の2)によると,同協会が,平
成5年度に帳票OCR装置について69社にアンケート調査をした結果,1
1社31機種の回答が得られ,その回答内容は,25機種(81%)が手書き
漢字まで読み取れる機種であったというものであった。
ウ 平成7年10月社団法人日本電子工業振興協会OCR専門委員会作成の参
考資料(乙30の4)によると ,手書き ,FAX対応の帳票OCR製品として ,
NEC「N6370R/10」ほか(平成3年7月~平成7年8月発売),沖
電気工業「FAX-OCR Sシリーズ」ほか(平成6年7月発売),日立製
作所「HT-4172」ほか(平成3年9月~平成5年12月発売),富士通
・PFU「DATAEYE-200」ほか(平成4年10月~平成7年3月
発売),東邦ビジネス管理センター「カンタンOCR 読丸くん」(平成7年
1月発売),日本アイビーエム「IBM日本語OCRシステム」(平成3年1
月発売)が販売されていたことが認められる。
エ 平成9年3月社団法人日本電子工業振興協会作成の「入力装置に関する調
査報告書 第Ⅲ部 OCRに関する調査」(乙30の6)によると,平成9年
3月当時,手書帳票OCR製品として,本件発明を使用した被告「BIRD
S 手書きREADER V3.0」のほか,メディアドライブ「Win
Reader Hand V2.0」及び「Win Reader Han
d V3.0 」,日本IBM「IBM SoftReco for OS/2
V1 」,日立「Friendly-OCR 」,富士通・PFU「認識ユー
ティリティ」が存在していたことが認められる。
オ 平成8年のOCR関連装置/ソフトの出荷状況は,デバイスタイプ(伝票処
理用)が6584台(159億6900万円),デバイスタイプ(文書用)が1
723台(5億6100万円),ソフトウェアタイプ(伝票処理用)が1187
個(10億6800万円),ソフトウェアタイプ(文書用)が9万6182個(1
4億2400万円)であった。(乙30の6)
(5) 上記(1)~(4)に検討したところによれば,本件サービスは,本件発明を必須
の構成とするものではない上,文字認識方法として本件発明は従来技術に比し
て格別技術的な優位性を有するものではなく,遅くとも本件サービス実施時,
認識率において他の製品に比して格別顕著な差を有していたものではないこ
と,他方,文字認識に係る代替技術は,市場に多く存在していたことが認めら
れるというのであるから,被告と競合する他者は,いつでも,文字認識部分に
ついて,本件発明と技術的に同等以上の代替技術を使用して,本件発明を使用
することなく,本件サービスと同様のサービスを行うことができたものという
べきである。そうすると,被告が,本件発明を排他的に実施していたことによ
って,すなわち,他者に対する禁止権の効果として,超過売上高を得たという
関係を認めることはできない。
(6) 原告の主張につき
ア 「本件発明の特徴」に関して
(ア) 原告は,本件発明はすべて原告が独自に考案したものである旨を主張する
が,それが採用できないことは前記(2)において説示したとおりである。
(イ) 原告は,本件発明を使用した文字認識の学習処理及び識別処理が高速であ
る旨を主張する。
しかしながら,学習処理時間は,既に完成したプログラムを運用する本件
サービスにおいて格別の効果を有するとは認め難い。また,本件サービスの
開始された平成9年当時,本件発明の文字認識の識別処理時間が,オペレー
タの待ち時間の有無又はその程度につき,他の技術と比して有意な差があっ
たことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 原告は,すべてのカテゴリーに対する類似度情報を返す本件発明は,誤認
識をより高い確率ではじき出すことが可能となるなどと主張するが,すべて
のカテゴリーに対して類似度情報を返すことにより原告主張の効果が生じる
と認めるに足りる証拠はなく,採用することができない。
(エ) 原告は,本件発明が大量カテゴリーの識別問題に係る分野に応用できる旨
を主張するが,被告がそのような発明を実施していることを認めるに足りる
証拠はない。
(オ) 原告は,本件発明の認識率は高い旨を主張するが,その主張を採用するこ
とができないことは,上記(3),(4)に説示したところから明らかである。
イ 「代替技術」に関して
(ア) 原告は,本件発明は専用ハードウェアを利用しなくてもよい点で有利であ
る旨を主張するが,自社実施形態である本件サービスの実施に当たっては,
上記の点は格別有利に働くものとは認められず,原告の上記主張は採用する
ことができない。
(イ) 原告は,被告は競合他者からライセンスを受けられる立場にはなかった旨
を主張するが,被告は職務発明である本件発明を無償で実施でき,それを妨
げる理由はないのであるから,被告が競合他者からライセンスを受ける必要
性は,いずれにしても生じ得ない。原告の上記主張は前提を誤るものであり
失当である。
(ウ) 原告は,乙29①~⑤発明のいずれもが本件発明と全くつながりがない旨
を主張するが,その主張が採用することのできないものであることは,前記
(2)に認定のとおりである。
ウ 「本件サービスへの寄与」に関して
(ア) 原告は,本件サービスはOCRを利用することによって初めて成り立つ旨
を主張する。
しかしながら,被告はいずれにしても職務発明である本件発明を実施でき
るのであって,その実施による効率化は,本件権利の譲渡を受けて実施する
場合と法定通常実施権に基づき実施する場合とで何らの差異を見いだすこと
ができない。原告の上記主張は,本件発明を実施していない場合と本件発明
を実施している場合との対比を述べるのみであり,本件発明の譲渡を受けて
実施する場合と法定通常実施権に基づき実施する場合においていかなる差異
が生じるかを述べているものではない。原告の主張は,前提を誤るものであ
って,採用することができない。
(イ) 原告は,本件サービスは,本件発明を除けば従来技術の単なる組合せにす
ぎない旨を主張するが,仮にそうであるとしても,本件発明についてもまた
代替技術が存する以上,本件サービスの性質が本件発明の排他的実施による
利益を基礎付けるものではない。原告の主張は,採用することができない。
エ 「排他的実施」について
原告の主張の趣旨は,必ずしも明らかではないが,いずれにしても,本件
サービス実施時に本件発明と同等以上の代替技術が存していた以上,競合他
者はその技術を使用して市場に参入すればよく,被告が本件発明を排他的に
実施していたことによって超過売上高を得たという関係を認めることができ
ないことは,上記(5)のとおりであるから,原告の上記主張は,採用するこ
とができない。
(7) まとめ
以上の次第であり,被告に超過売上高があったことを認めることはできない
から,前記1に説示したところに照らし本件発明について旧35条に基づく相
当対価を認めることはできないというべきである。
3 結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない
から,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡 本 岳
裁判官
中 村 恭
裁判官
鈴 木 和 典

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