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平成21(ネ)10046特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成21年12月28日
事件種別 民事
当事者 控訴人ノードソンコーポレーション
被控訴人武蔵エンジニアリング株式会社
法令 特許権
特許法101条4号3回
特許法100条1項1回
特許法29条2項1回
キーワード 特許権9回
実施6回
侵害4回
無効3回
間接侵害2回
差止2回
優先権1回
進歩性1回
無効審判1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 事案の要旨 原判決2頁5行目ないし14行目を,次のとおり改める。 「控訴人(原審原告。以下,単に「原告」という )は,発明の名称を「少量。 材料分配用装置」とする特許第3762384号(以下,この特許を「本件特 許1 ,その特許権を「本件特許権1」という )及び特許第3506716号」 。 (以下,この特許を「本件特許2 ,その特許権を「本件特許権2」という )」 。 の特許権者であり,被控訴人(原審被告。以下,単に「被告」という )は,。 別紙物件目録記載の各非接触型液体分配装置(以下,包括して「被告装置」と いう )を業として製造販売している。。 原告は,被告装置が,本件特許1に係る願書に添付した明細書(以下,図面 を含めて「本件明細書1」という )の特許請求の範囲の請求項5記載の発明。 (以下「本件発明1」という。物の発明である )の技術的範囲に属し,被告。 装置の製造,販売及び販売の申出が本件特許権1の侵害に当たるとして,特許 法100条1項,2項に基づき,被告装置の製造,販売及び販売の申出の差止 め,並びに被告装置の廃棄を求めるとともに,被告装置により少量の液体材料

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判決文

平成21年12月28日 判決言渡
平成21年(ネ)第10046号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審 東京地方裁判所 平成19年(ワ)第10772号)
平成21年11月11日 口頭弁論終結
判 決
控 訴 人 ノードソン コーポレーション
訴訟代理人弁護士 近 藤 惠 嗣
同 森 田 聡
同 重 入 正 希
被 控 訴 人 武蔵エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 竹 田 稔
同 川 田 篤
同 服 部 謙 太 朗
訴訟代理人弁理士 須 藤 阿 佐 子
同 須 藤 晃 伸
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の非接触型液体分配装置を製造し,販
売し,その販売の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の非接触型液体分配装置を廃棄せよ。
4 訴訟費用は,第1,第2審を通じて被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
原判決2頁5行目ないし14行目を,次のとおり改める。
「控訴人(原審原告。以下,単に「原告」という。)は,発明の名称を「少量
材料分配用装置」とする特許第3762384号(以下,この特許を「本件特
許1」,その特許権を「本件特許権1」という。)及び特許第3506716号
(以下,この特許を「本件特許2」,その特許権を「本件特許権2」という。)
の特許権者であり,被控訴人(原審被告。以下,単に「被告」という 。)は,
別紙物件目録記載の各非接触型液体分配装置(以下,包括して「被告装置」と
いう。)を業として製造販売している。
原告は,被告装置が,本件特許1に係る願書に添付した明細書(以下,図面
を含めて「本件明細書1」という。)の特許請求の範囲の請求項5記載の発明
(以下「本件発明1」という。物の発明である 。)の技術的範囲に属し,被告
装置の製造,販売及び販売の申出が本件特許権1の侵害に当たるとして,特許
法100条1項,2項に基づき,被告装置の製造,販売及び販売の申出の差止
め,並びに被告装置の廃棄を求めるとともに,被告装置により少量の液体材料
を分配する方法が,本件特許2に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含
めて「本件明細書2」という。)の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以
下「本件発明2」という。方法の発明である。)の技術的範囲に属し,被告装
置は本件発明2の使用にのみ用いる物(特許法101条4号)に当たるとし,
被告装置の製造,販売及び販売の申出が本件特許権2の間接侵害に当たるとし
て,特許法101条4号,同法100条1項,2項に基づき,被告装置の製造,
販売及び販売の申出,並びに被告装置の廃棄を求めた。
原判決は,本件発明1,2は,いずれも進歩性を欠くものであり,本件特許
1,2には,いずれも特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1
項2号)があり ,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとし,
原告は,同法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件特許権1,
2を行使することができないとし,原告の請求をいずれも棄却した。
これに対し,原告は,原判決を不服として本件控訴を提起した。
なお,略語表示は,これまで示したもののほか(これまで示した略語は原判
決と同じである。,原判決のものを当審でもそのまま用いる。
) 」
2 争いのない事実
原判決の 事実及び理由」欄の「第2
「 事案の概要」「2
, 争いのない事実 」
(原判決2頁16行目ないし9頁8行目)記載のとおりであるから,これを引
用する。
3 争点
次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概
要」 「3
, 争点 」(原判決9頁10行目ないし16行目)記載のとおりである
から,これを引用する。
原判決9頁11行目ないし12行目の「被告方法が本件発明2の構成要件を
充足し,本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2 )」を次のとおり改
める。
「被告方法が本件発明2の構成要件を充足し,本件発明2の技術的範囲に属す
るか否か(争点2−1 ),被告装置は本件発明2の使用にのみ用いる物に当た
るか(特許法101条4号)(争点2−2)」
第3 争点に関する当事者の主張
次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点
に関する当事者の主張 」(原判決9頁18行目ないし72頁5行目)記載のと
おりであるから,これを引用する。
1 原判決21頁9行目の 2
「 争点2 被告方法の構成要件充足性)
( について」
を「2−1 争点2−1(被告方法の構成要件充足性)について」と改める。
2 原判決26頁26行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「2−2 争点2−2(間接侵害の成否)について
(1) 原告の主張
被告装置は,本件発明2の使用にのみ用いる物に当たる(特許法10
1条4号)。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。」
3 原判決60頁21行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「(エ) 乙22記載の装置は,液体供給源の圧力によって液体が放出されるこ
とを基本原理としており,逆流を生じないから,乙22記載の装置が逆流
を生じることを前提として,乙22記載の装置と乙36記載の技術を組み
合わせて本件発明1が容易想到であるということはできない。以下,詳述
する。
a 乙22記載の装置に逆流は生じないこと
(a) 乙22記載の発明の液体放出の基本原理
乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出される
ことを基本原理とする。その理由は,以下のとおりである。
① 乙22には,「液体が放出されるべきときに圧縮されるわけでは
ない。そのかわり,ノズル放出口は,中の分析液体が(たとえば0.
1から5barの)永続的な圧力を受けている圧力チャンバーと,
流体的に連結している( hydraulically connected)。特定量の分析液
体の放出は,圧力チャンバーとノズル放出口の間の液圧連結
(hydraulic connection)を短時間開口し再び閉鎖するバルブユニッ
トの閉鎖素子によって,制御される 。 ( 0012 】
」【 ,以下,この
記載部分を「○」と特定することがある 。
A )との記載があり,液体
が液体供給源により永続的な圧力を受けており,バルブを開口する
とこの圧力によって液体が放出されるという乙22記載の発明の基
本原理が記載されている。
さらに,乙22には,「本発明において,閉鎖操作の間,すなわ
ちバルブユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動
くことによって,液体の放出が阻止されず維持され促進されるよう
に考慮してバルブユニットが組み立てられるならば,分析液体の調
整に要求される高精度な調整にとって,本発明が非常に有利である」
( 0015 】 以下,
【 , この記載部分を ○」
「 B と特定することがある。,

「閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方
向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動す
る。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きによっ
てバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持され促進
される 」【0021 】
( ,以下,この記載部分を「○」と特定するこ

とがある 。 ,
) 「バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗
ではなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということ
が保証される」【0024】
( ,以下,この記載部分を「○」と特定

することがある。)との記載がある。
上記の乙22の記載(○ないし○)によれば,乙22記載の発明
A D
は,
バルブを開いている時間によって液体の放出量を調節しており,
これは,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原
理としていることにほかならない。
② 乙22には,圧力チャンバー1内における分析液体の圧力が0.
1から5barと記載されている( 0012 】 。しかし,乙22
【 )
記載の発明は,分析液体の供給装置の発明であり,乙22には,分
析液体の例として,試薬液体,較正用液体,あるいは特に血液や血
清のようなサンプル液体が記載されているところ( 0002 】 ,
【 )
これらは粘性が小さいから,バルブが開いている間に液体を流すた
めに大きな圧力を必要としない。このように分析液体の粘性が小さ
いことを考慮すると,0.1barという圧力も,決して低い圧力
ではない。水の粘性は約1センチポアズであるのに対し,本件発明
1の実施例で分配の対象とされている液体の粘性は約50,000
∼約250,000センチポアズであるところ 甲4 0029 】,
( 【 )
同じ断面の管路を同じ速さで液体を流すために必要な圧力は液体の
粘性に比例するから,水を流すことを前提とした場合の0.1ba
rという圧力は,本件発明1,2の実施例で分配の対象とされた液
体材料を流す場合には,5,000barないし25,000ba
rにも相当し,被告の行っている単位の換算(1bar=15ps
i)に従って換算すると75,000psiないし375,000
psiとなる。これに対し,本件明細書1に記載されている圧力は
約4psi∼約30psi(甲4【0029】)であるから,本件
発明1の液体材料に加えられた圧力は,液体の粘性が高いことを考
慮すれば極めて低い圧力である。そうすると,乙22で分析液体に
印加されている「0.1から5bar」の圧力は,液体の粘性等に
照らすと,高いものである。
液体が供給源の圧力により供給されている場合に,バルブの開き
が大きければ,バルブの動きが液体の流量に影響することはないの
で,乙22記載の発明において,閉鎖素子13とシーリングシート
17の間隔が広いときは,閉鎖素子13の位置は,液体の流量に影
響せず,放出口3における流体抵抗が液体の流量に影響する。これ
に対し,閉鎖素子13とシーリングシート17の間隔が狭くなるに
従って,この部分における流体抵抗を無視することができなくなり,
流量が減少するため,乙22には,液圧加速(hydraulic gearing up)
という効果により流量を補い,閉鎖素子13が閉鎖方向に移動して
いる間の流量を一定に保つことが開示されているが,これによって,
乙22記載の発明の基本原理(液体供給源の圧力によって液体が放
出されるという基本原理)が変わるわけではない。
乙38は,乙4,5,23記載の発明とは前提を異にし,乙33
のシュミレーションは,乙38と同じ前提に立つものであり,乙2
2記載の発明の作動状況を正しく示していない。
(b) 流量を一定化する方法
乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出される
ことを前提として,流量を一定にするものであるのに対し,本件発明
1は,バルブの位置によって流速を変化させるものであるから,乙2
2記載の発明と本件発明1は,流速・流量に係る技術思想において異
なる。
すなわち,乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体が
放出されることを前提として,特に,バルブが開いている間の流量を
一定にすることを目的としている。流速は,液体供給源の圧力と放出
口3の流体抵抗によって決定されるところ,この圧力及び流体抵抗は
いずれも一定であるから,その結果,分析液体の流速も一定となる。
乙22の「バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではな
くおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保証さ
れる 」【0024】
( )との記載は,上記のように分析液体の流速が一
定となることを意味している。
甲13に係る米国特許第5356034号は,乙22に係る特許 特

願平5−11517号,特開平5−264412号)と同様に,乙2
3に係るドイツ国特許第4202561号を基礎とする優先権主張を
して出願されたものである。甲13に係る米国特許第5356034
号の請求項15には,ノズルを通過する分析液体の流量が閉鎖動作の
間を通じて実質的に変化しないことが記載されており,請求項15は
独立項であるから,甲13に記載された発明の特徴を十分に表現して
いる。このように,流量の変化をなくすということは,甲13に記載
された発明の特徴的な構成であり,乙22記載の発明の特徴でもある。
乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体を分配すると
いう基本原理に基づき,バルブを開閉する時間を調節することによっ
て分配量を制御する点で乙4記載の発明と共通するものである。
これに対し,本件発明1は,バルブの位置によってバルブの流体抵
抗とノズルオリフィスの流体抵抗の相対的な関係を変化させて流速を
変化させるものであるから,この点において,乙22記載の発明とは
明確に異なる。
(c ) 逆流の有無
乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出される
ことを前提とするから,逆流が生ずることはない。これに対し,本件
発明1は,バルブの位置によって流体抵抗が変化することを積極的に
利用しているから,第一流路にある液体材料の大部分に逆流が生ずる。
b 乙36記載の技術と乙22記載の発明の組合せによる容易想到性の有

前記a( a)のとおり,乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によっ
て液体が放出されることを基本原理とするものであり,乙36記載の技
術と作動原理が異なるから,乙36記載の技術を乙22記載の発明と組
み合わせる動機付けはなく,また,本件発明1は,乙22記載の発明と
流速・流量に係る技術思想が異なるから,仮に,乙36記載の技術と乙
22記載の発明を組み合わせたとしても,本件発明1を容易に想到する
ことはできない。以下,詳述する。
( a) 乙36記載の技術と乙22記載の発明との組合せの動機付けの有

乙36には,「バルブニードルのサイズは,バルブニードルが2つ
の両端位置間を移動する際に分配すべき粘性物質の量に等しい分だけ
容量を変化させるように選択するのが極めて有利である。(乙36,

訳文4ページ3∼5行目,原文第2欄37∼41行目 )「プランジャ

として作用するバルブニードルがその前方に存在する一定量の粘性物
質をノズルに向かって押すことで,排除量におおよそ等しい量の粘性
物質が吐出される。(同訳文4ページ9∼11行目,原文第2欄47

∼51行目)と記載されている。これは,それぞれ「バルブニードル
が一方の端から他方の端まで移動する際に押しのける容積が,分配す
べき粘性物質の量と等しくなるようにバルブニードルのサイズを選択
しておくことが極めて有利である 。 ,
」 「バルブニードルがプランジャ
として作用していて,その前方に存在する粘性物質をノズルに向かっ
て押し出すから,それによって押しのけられる容積とほぼ等しい量の
粘性物質が吐出される 。」という意味である。このように,乙36に
は,バルブニードルによって押しのけられた容積が吐出されること 容

積式ポンプ類似の技術)が記載されており,乙36記載の技術の作動
原理は,乙22記載の装置の作動原理と異なる。
そして,乙36には,「粘性物質に作用する圧力は,ノズル部24
の底部にある粘性物質を流出させるのに充分なものとし,バルブニー
ドル30とバルブ当たり面32が粘性物質の通過を開始及び停止させ
る単なるドロップシャッタとして作用するようにしてもよい。(乙3

6,訳文6ページ22∼27行目,原文第4欄18∼23行目)と記
載され,乙36記載の技術の作動原理が乙22記載の装置の作動原理
と択一的なものであり両立しないことも記載されている。
したがって,乙36記載の技術を乙22記載の発明に組み合わせる
動機はない。
(b) 乙22記載の発明と本件発明1との流速・流量に係る技術思想の
相違
前記a(b)のとおり,乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によ
って液体が放出されることを前提として,流量を一定にするものであ
るのに対し,本件発明1は,バルブの位置によって流速を変化させる
ものであるから,乙22記載の発明と本件発明1は,流速・流量に係
る技術思想が異なる。したがって,仮に乙36記載の技術と乙22記
載の発明を組み合わせたとしても,本件発明1を容易に想到すること
はできない。」
4 原判決61頁3行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「(3) 被告の反論
ア 原告は,乙22の記載(○ないし○)に基づいて,乙22記載の発明
A D
は液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理としてい
ると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
(ア) 乙22の【0012】の記載部分○の「0.1から5bar」と

いう圧力単位をpsiに換算すると「1.5psiから72.5ps
i」となる。他方,本件明細書1の発明の詳細な説明には ,「バルブ
シャフト42の周りの穴22と流路24の中に,約4psi∼約30
psiの一定の圧力で液体又は粘性材料を押し込む 。 (甲4,
」 【00
29】)との記載がある。そうすると,液体に加えられている圧力に
関して,乙22記載の発明は,本件発明1において想定されている範
囲に含まれており,この程度の圧力では,圧力により液体が放出され
るものとは考えにくく,逆流を生じなくするほどの高圧とも考えにく
い。
(イ) 乙22の【0012】の記載部分○には,特定量の分析液体の放

出がバルブユニットの閉鎖素子によって制御されることが記載されて
いるだけであり,開放している時間を制御することによって液体の放
出量を決めているのかどうか明らかではない。この点は,甲20,2
1の記載を考慮しても,同様である。
(ウ) 乙22には,液圧加速により,「閉鎖素子13の比較的ゆっくり
した動きによってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく
維持され促進される」【0021】 記載箇所○)と記載されており,
( , C
液圧加速は,高速度で運転することの問題点を回避するために閉鎖素
子13をゆっくり動かした場合においても,液体の放出がよく維持さ
れ促進されるという作用を有することが開示されているにとどまり
( 0021】ないし【0024 】 ,原告が主張するような「バルブ
【 )
の開きが小さくなったときに流量が減少するという問題」は開示され
ていない。
イ 乙22記載の発明において,閉鎖素子が動作する際に逆流が生じてい
ることは,流体力学における技術常識を踏まえれば明らかであり,それ
と符合する結果が,乙38や乙33のシュミレーションの結果にも反映
されている。
ウ このように,乙22の記載等によれば,乙22記載の発明は,閉鎖素
子の下降動作の初期に,閉鎖素子の下方から側方への液体の流れが相対
的に多くなり,逆流が生じていることは明らかであり,閉鎖素子は,単
に放出口の開閉のみをしているわけではない。」
5 原判決71頁9行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「(ウ) 乙22記載の方法は逆流を生じないから,乙22記載の方法が逆流を
生じることを前提として,乙22記載の方法と乙36記載の技術を組み合
わせて本件発明2が容易想到であるということはできない。
乙36記載の技術と乙22記載の発明の組合せにより本件発明2を容易
に想到することはできないことは,乙36記載の技術と乙22記載の発明
の組合せにより本件発明1を容易に想到することはできないことと同様で
ある。なお,本件発明2の実施例で分配の対象とされている液体の粘性が
約50,000∼約250,000センチポアズであることは,本件明細
書2(甲6)の14欄22ないし23行に記載されており,圧力が約4p
si∼約30psiであることは,本件明細書2(甲6)の14欄27な
いし28行に記載されている。」
6 原判決72頁5行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「(3) 被告の反論
①乙22記載の発明は液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を基本原理としているとの原告の主張が採用できないこと,②乙22記載
の発明において,閉鎖素子が動作する際に逆流が生じており,それと符合
する結果が,乙38や乙33のシュミレーションの結果にも反映されてい
ること,③乙22記載の発明は,閉鎖素子の下降動作の初期に,閉鎖素子
の下方から側方への液体の流れが相対的に多くなり,逆流が生じており,
閉鎖素子は,単に放出口の開閉のみをしているわけではないことは,前述
のとおりである。」
第4 当裁判所の判断
次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁
判所の判断」(原判決72頁7行目ないし95頁17行目)記載のとおりであ
るから,これを引用する。
1 原判決88頁25行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「( 4) 原告は,乙22記載の装置は,液体供給源の圧力によって液体が放出
されることを基本原理としており,逆流を生じないから,乙22記載の装
置が逆流を生じることを前提として,乙22記載の装置と乙36記載の技
術を組み合わせて本件発明1が容易想到であるということはできないと主
張する。
しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができな
い。
ア 乙22記載の発明の液体流出の基本原理について
乙22記載の発明は,閉鎖素子の移動によって液体が放出されるもの
と認められ,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原
理とするものとは認められない。その理由は,以下のとおりである。
(ア) 閉鎖素子の移動による液体の放出について
a 乙22の記載
乙22には,次のとおりの記載がある。
( a) 「閉鎖領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子
13が閉鎖する間“液圧加速( hydraulic gearing up)”あるいは“
液圧伝動(hydraulic transmission) ”を引きおこす,言い換えれば,
閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方
向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動
する。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きに
よってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持さ
れ促進される。( 0021】
」【 )
(b) 「本発明においてとくに重要な点は,液圧加速にある。イン
クジェット技術(いわゆる“ジェッティング( jetting) ”)におい
て,要求される液体の放出を確実にするためには,ノズル内での
流速が少なくとも1m/sでなければならない 。本発明において ,
液体の流れの正確な中断を達成するためにはバルブの閉鎖する間
も同様に高速度が要求されることが見出された。したがって,液
圧加速がなければ,閉鎖素子が開口位置から閉鎖位置まで1m/
sのオーダーの速度で移動することが必須である。前記高速度に
ともなう困難な点 バルブのシーリングシートに対するダメージ ,

位置決め素子に対するダメージ,閉鎖位置からの閉鎖素子のはね
返り)は,液圧加速により回避される。最適の流体動力学的条件
は,理にかなった構造の経費で達成されうる。( 0022】
」【 )
( c) 「ノズルプレ−チャンバー4の壁4aはシーリングシート1
7からノズル放出口3まで,少なくともある断面において好まし
くは円錐形である。液体加圧を確実にするために,閉鎖素子は合
致した円錐をさらに備える必要はなく,かわりに,閉鎖領域19
は,おおむね(示したように)水平であるか,わずかに内にわん
曲しているか,もしくはノズル放出口3の方へわん曲しているな
らば少なくともノズルプレ−チャンバー4の円錐形の壁4aより
は有意に平らであることが望ましい。相互にかみ合い合致したシ
ーリング面を有する円錐形のシールは,多くの場合シーリングに
有利であるとみなされるが,それにもかかわらず,本発明におい
ては目的とする液圧加速のために不都合である 。( 0023 】
」【 )
(d) 「液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口2
3,これはシーリングリム15とシーリングシート17との間の
環状のすきまによって形成されるが,その開口横断面( opening
cross-section)が閉鎖領域19より小さい方が有利である。他方,
バルブ口23の開口横断面はノズル放出口3の横断面より大きく
なければならない。それによって,バルブ開口時の分析液体の流
速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗によっ
て決定されるということが保証される。( 0024】
」【 )
b 判断
前記aの乙22の記載によれば,乙22記載の発明は,閉鎖領域
19がノズル放出口3より広いことにより,閉鎖素子13の移動の
速さよりもノズル放出口3から放出される液体の速さが速くなるこ
と(液圧加速)を利用して液体の放出を維持促進すること(前記a
(a)),液体の放出を確実にするためには,ノズル内での液体の流速
を1m/s程度にしなければならないが,そのために閉鎖素子の速
さを1m/s程度の高速にすることは困難であり,液圧加速を利用
すればその困難は回避されること(前記a(b))
,液圧加速を確実に
するためには,閉鎖素子19はおおむね水平であるか,わずかに内
にわん曲しているか,又はノズル放出口3の方へわん曲しているな
らば少なくともノズルプレ−チャンバー4の円錐形の壁4aよりは
有意に平らであることが望ましいこと(前記a(c)),液圧加速が有
効であるためには,バルブ11のバルブ口23の開口横断面が閉鎖
領域19よりも小さい方が有利であり,バルブ口23の開口横断面
はノズル放出口3の横断面より大きくなければならず,それによっ
て,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくお
もに放出口3の流体抵抗によって決定されること(前記a(d))が
認められる。そうすると,乙22記載の発明は,液体の放出に閉鎖
素子19の移動によって生じる液圧加速を利用したものであり,閉
鎖素子の移動によって液体が放出されるものと認められる。
(イ) 液体供給源の圧力について
a 乙22の記載に基づく判断
(a) 乙22の記載
乙22には,次のとおりの記載がある。
① 「液体がノズル放出口(3)を通してノズル(2)から少量 ,
パルス方式でターゲット(5)へ放出される分析液体(7)の
ターゲットへの供給装置であって,分析液体が加圧下に保持さ
れる圧力チャンバー(1)からなり,圧力チャンバー(1)か
らノズル放出口(3)までの液体の流路にバルブ口(23)と,
バルブ口(23)の開閉のための位置決め素子(12)によって動
く閉鎖素子(13)とを有するバルブユニット(11)が備えられ,
および,バルブ口が閉鎖するあいだ,閉鎖素子(13)の動きに
よって液体の放出が維持されるようにバルブユニット( 11)が
組み立てられていることを特徴とする装置。( 請求項1】
」【 )
② 「 作用】本発明のばあい,前記の“ドロップ オン デマン

ド”微調整のための装置とは対照的に,ノズル区画(これはノ
ズル放出口のすぐうしろに位置する)が特定量の液体が放出さ
れるべきときに圧縮されるわけではない。そのかわり,ノズル
放出口は,中の分析液体が(たとえば0.1 から5barの )
永続的な圧力を受けている圧力チャンバーと,流体的に連結し
ている(hydraulically connected) 特定量の分析液体の放出は,

圧 力 チ ャ ン バ ー と ノ ズ ル 放 出 口 の 間 の 液 圧 連 結 ( hydraulic
connection)を短時間開口し再び閉鎖するバルブユニットの閉
鎖素子によって,制御される。( 0012 】
」【 )
③ 「図1に示される分析液体の微調整のための装置は,分析液
体のための圧力チャンバー1および,ノズル放出口3とノズル
プレ−チャンバー4を有しそれを通って分析液体が少量,ター
ゲット5(簡単に図で示される)へ放出されうるノズル2から
なる。分析液体7は圧力チャンバー1中で加圧下に保持される。
分析液体は,圧力発生デバイス9により,接続しているブラン
チ6aを経由して貯蔵容器6から供給される。たとえば,ポン
プが圧力発生デバイス9として役立ちうる。しかしながら,外
部の圧力源(たとえば圧縮空気)の圧力を隔膜( diaphragm)
を経由して,圧力チャンバー1中の分析液体7へと伝達するこ
とも可能である。( 0017 】
」【 )
(b) 判断
前記(a)の乙22の記載によれば,分析液体7は,圧力発生デ
バイス9により加圧され,圧力チャンバー1内で加圧下に保持さ
れることが認められる。しかし,分析液体7が圧力チャンバー1
内で加圧下に保持されていたとしても,そのことから直ちに,放
出口を開いたときに圧力のみによって液体が流出するとは限ら
ず,乙22記載の発明が液体供給源の圧力によって液体が放出さ
れることを基本原理とするものとは認められないし,液体を放出
するために液体に加えられた圧力を利用している旨を明確に示す
記載は,前記(a)にも乙22の他の部分にも認められない。
b 原告の主張について
( a) 原告は,乙22の【0012】の「液体が放出されるべきと
きに圧縮されるわけではない。そのかわり,ノズル放出口は,中
の分析液体が(たとえば0.1から5barの)永続的な圧力を
受けている圧力チャンバーと,流体的に連結している
(hydraulically connected)。特定量の分析液体の放出は,圧力チ
ャンバーとノズル放出口の間の液圧連結(hydraulic connection)
を短時間開口し再び閉鎖するバルブユニットの閉鎖素子によっ
て,制御される。(○)との記載に,液体が液体供給源により永
」 A
続的な圧力を受けており,バルブを開口するとこの圧力によって
液体が放出されるという乙22記載の発明の基本原理が記載され
ていると主張する。また,原告は,乙22の「本発明において,
閉鎖操作の間,すなわちバルブユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)
の方向へと閉鎖素子が動くことによって,液体の放出が阻止され
ず維持され促進されるように考慮してバルブユニットが組み立て
られるならば,分析液体の調整に要求される高精度な調整にとっ
て,本発明が非常に有利である」【0015 】 B ) 「閉鎖素子
( ,○ ,
13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動く
よりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動する。そ
れによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きによってバ
ルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持され促進さ
れる 」【0021】 C ) 「バルブ開口時の分析液体の流速がバ
( ,○ ,
ルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定
されるということが保証される 」【0024 】 D
( ,○)との記載に
よれば,乙22記載の発明は,バルブを開いている時間によって
液体の放出量を調節しており,これは,液体供給源の圧力によっ
て液体が放出されることを基本原理としていることにほかならな
いと主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することがで
きない。
① 乙22の【0012】には,原告主張の記載(○)があるが,

前記a(a)②のとおり,その前には,【作用】本発明のばあい ,

前記の“ドロップ オン デマンド”微調整のための装置とは対
照的に,ノズル区画(これはノズル放出口のすぐうしろに位置
する)が特定量の液体が放出されるべきときに圧縮されるわけ
ではない。」との記載がある。そして,乙22には,更に次の
とおりの記載がある。
「ヨーロッパ特許出願公開第119573号および同第26
8237号(米国特許第4877745号)明細書において前
記のような様式の装置が記載されている。それらの技術は,コ
ンピュータープリンタ(インクジェットプリンタ)のために独
自に開発されたインクジェット技術にもとづくものである。両
文献はその技術の既知の状況についてのさらに詳細な説明を含
んでおり,ここに参照される。( 0005 】
」【 )
「分析液体の微調整( microproportioning)(少量の分析液体
を高精度にターゲットに適用すること)のためのこれら既知の
装置は,いずれも分析液体の特定量を放出するためにその容積
が短時間圧縮されるノズル区画( compartment)を有する。ヨ
ーロッパ特許出願公開第119573号明細書では,ノズル区
画は弾性チューブ部分によって形成されており,1滴が放出さ
れるべきときにチューブに対して動かされる電磁気作動の円柱
形ロッドがその側面に向けられている。ヨーロッパ特許出願公
開第268237号明細書では,ノズル区画は,同じく管状形
に形成された同軸の圧電作動素子で囲まれた管状部分からな
る。( 0006】
」【 )
「 ドロップ
“ オン デマンド(drop on demand)”印刷技術
は,ごく少量の分析液体を非接触で,正確にそして迅速にター
ゲットへ適用することを可能にする。しかしながら,きわめて
少量の各々の量は,それは通常約0.2nlで約1nlをこえ
ない量であるが,多数の適用にとって不都合である 。・・・」
( 0007】
【 )
「 発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,前記の

不都合を避け,分析液体のために現在まで通常に使用される“
ドロップ オン デマンド”法のばあいよりも実質的に多い,
しかし一方では,希釈器やディスペンサーで現在まで成し遂げ
られる最少量よりも少ない,厳密に決められた量の,分析液体
の特定量を生じ( generate)させうるような,分析液体のター
ゲットへの供給装置を提供することである。( 0008】
」【 )
上記の乙22の【0005】ないし【0008】の記載に照
らせば,【0012】の記載は,“ドロップ オン デマンド”
の装置との対比で乙22記載の発明の説明をしたものと解さ
れ,【0012】の「液体が放出されるべきときに圧縮される
わけではない。」との部分は,“ドロップ オン デマンド”の
装置のように液体が放出されるときにノズル区画が圧縮される
ものではないことを述べたものと解され,閉鎖素子の動きによ
って液体が放出されるものでないことまでを述べたものとは解
されない。
そして,【0012】の「そのかわり,ノズル放出口は,中
の分析液体が(たとえば0.1から5barの)永続的な圧力
を受けている圧力チャンバーと,流体的に連結している
(hydraulically connected)。特定量の分析液体の放出は,圧力
チ ャ ン バ ー と ノ ズ ル 放 出 口 の 間 の 液 圧 連 結 ( hydraulic
connection)を短時間開口し再び閉鎖するバルブユニットの閉
鎖素子によって,制御される。(○の一部)との部分は,その
」 A
部分のみを読んだ場合,圧力によって液体が流出する趣旨と解
する余地もあるが,「バルブユニットの閉鎖素子によって,制
御される。」との記載があることから,閉鎖素子の移動によっ
て液体の放出が制御される趣旨と解することも可能であり,乙
22の他の箇所の記載(前記(ア)a)も参照すれば,閉鎖素子
の移動によって液体の放出が制御される趣旨と解するのが相当
である。そうすると,【0012】の○の記載部分から,乙2

2記載の発明が,原告主張のように液体供給源の圧力によって
液体が放出されることを基本原理とするものであると断定する
ことはできない。
② 乙22の「本発明において,閉鎖操作の間,すなわちバルブ
ユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くこ
とによって,液体の放出が阻止されず維持され促進されるよう
に考慮してバルブユニットが組み立てられるならば,分析液体
の調整に要求される高精度な調整にとって,本発明が非常に有
利である」【0015】 B
( ,○)との記載は,閉鎖素子の移動に
よって液体が放出されることとも合致するものであり,この記
載から,乙22記載の発明が,液体供給源の圧力によって液体
が放出されるものであるということはできない。
③ 前記(ア)bのとおり,乙22の【0021】ないし【002
4】の記載によれば,乙22記載の発明は,液体の放出に閉鎖
素子19の移動によって生じる液圧加速を利用したものであ
り,閉鎖素子の移動によって液体が放出されるものと解される。
「閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3
の方向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通っ
て移動する。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくりし
た動きによってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくに
よく維持され促進される 」【0021 】 C
( ,○)との記載は,そ
の内容に照らし,液圧加速により液体を放出する過程を説明し
たものと認められ,この記載から,乙22記載の発明が,液体
供給源の圧力によって液体が放出されるものであるということ
はできない。
④ 乙22の【0024】の記載( 液圧加速が有効であるため

には,バルブ11のバルブ口23,これはシーリングリム15
とシーリングシート17との間の環状のすきまによって形成さ
れるが,その開口横断面(opening cross-section)が閉鎖領域1
9よりも小さい方が有利である。他方,バルブ口23の開口横
断面はノズル放出口3の横断面より大きくなければならない。
それによって,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体
抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されると
いうことが保証される 。 )
」 (前記(ア)a( d))によれば,乙2
2記載の発明において,バルブ口23の開口横断面が閉鎖領域
19よりも小さく,ノズル放出口3はバルブ口23の開口横断
面よりも更に小さいことから,バルブ開口時の液体の流速は,
バルブの流体抵抗ではなく,おもに,最も小さい放出口3の流
体抵抗によって決定されることが認められる。そうすると, バ

ルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおも
に放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保証さ
れる 」【 0024 】 D
( ,○)との記載は,上記の趣旨を述べたも
のと認められ,この記載から,乙22記載の発明が,液体供給
源の圧力によって液体が放出されるものであるということはで
きない。
⑤ 以上によれば,分析液体7が,圧力発生デバイス9により加
圧され,圧力チャンバー1内で加圧下に保持されることを考慮
に入れたとしても,乙22の○ないし○の記載部分により,乙
A D
22記載の発明が液体供給源の圧力によって液体が放出される
ことを基本原理とするものと認めることはできないし,その他
の乙22の記載により,乙22記載の発明が液体供給源の圧力
によって液体が放出されることを基本原理とするものと認める
こともできない。
(b) また,原告は,乙22に,圧力チャンバー1内における分析
液体の圧力が0.1から5barと記載されていること( 00

12 】)に関連して,乙22記載の発明は,流体圧により分析液
体が放出されるものであると主張し,その理由として,①乙22
記載の発明の分析液体は粘性が小さいから,バルブが開いている
間に液体を流すために大きな圧力を必要とせず,このように分析
液体の粘性が小さいことを考慮すると,0.1barという圧力
も,決して低い圧力ではないこと,②水の粘性は約1センチポア
ズであるのに対し,本件発明1の実施例で分配の対象とされてい
る液体の粘性は約50,000∼約250,000センチポアズ
であるところ(甲4【0029 】,同じ断面の管路を同じ速さで

液体を流すために必要な圧力は液体の粘性に比例するから,水を
流すことを前提とした場合の0.1barという圧力は,本件発
明1の実施例で分配の対象とされた液体材料を流す場合には, ,

000barないし25,000barにも相当し,被告の行っ
ている単位の換算(1bar=15psi)に従って換算すると
75,000psiないし375,000psiとなること,他
方,本件明細書1に記載されている圧力は約4psi∼約30p
si(甲4【0029】)であるから,本件発明1の分析液体に
加えられた圧力は,液体の粘性が高いことを考慮すれば極めて低
い圧力であること,③そうすると,乙22で分析液体に印加され
ている「0.1から5bar」の圧力は,液体の粘性等に照らす
と,高いものであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することがで
きない。
すなわち,確かに,同じ断面の管路に同じ速さで液体を流すこ
とを前提とするならば,粘性の高い液体にはその分だけ高い圧力
を必要とすることとなる。しかし,実際の装置における液体の流
速は,ノズルの長さ,大きさや液体の粘性などの諸条件に応じて
異なり,液体に加えられる圧力も異なるものと認められ,乙22
に記載された「0.1から5bar」という圧力は,一概に低い
とは言い切れないとしても,高いとも断言できないものである。
また,前記a(b)のとおり,乙22記載の発明において分析液体
7が圧力チャンバー1内で加圧下に保持されていたとしても,そ
のことから直ちに,乙22記載の発明が液体供給源の圧力によっ
て液体が放出されることを基本原理とするものとは認められな
い。
( c) さらに,原告は,液体が供給源の圧力により供給されている
場合に,バルブの開きが大きければ,バルブの動きが液体の流量
に影響することはないので,乙22記載の発明において,閉鎖素
子13とシーリングシート17の間隔が広いときは,閉鎖素子1
3の位置は,液体の流量に影響しないこと,これに対し,閉鎖素
子13とシーリングシート17の間隔が狭くなるに従って,この
部分における流体抵抗を無視することができなくなり,流量が減
少するため,乙22には,液圧加速(hydraulic gearing up)とい
う効果により流量を補い,閉鎖素子13が閉鎖方向に移動してい
る間の流量を一定に保つことが開示されているが,これによって
乙22記載の発明の基本原理が変わるわけではないことを主張す
る。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することがで
きない。
すなわち,前記(ア)bのとおり,乙22の記載( 0021】

等)によれば,液圧加速とは,閉鎖領域19がノズル放出口3よ
り広いことにより,閉鎖素子13の移動の速さよりもノズル放出
口3から放出される液体の速さが速くなることを意味するものと
認められ,原告主張のように,閉鎖素子の移動によってバルブの
開きが小さくなったときに流量が減少するという問題に対して流
量を補うものとは認められない。
(ウ) 小括
以上によれば,乙22記載の発明は,閉鎖素子の移動によって液体
が放出されるものと認められ,液体供給源の圧力によって液体が放出
されることを基本原理とするものとは認められない。
原告は ,「乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体が
放出されることを前提とするから,逆流が生ずることはない。」と主
張する。しかし,上記のとおり,乙22記載の発明は,液体供給源の
圧力によって液体が放出されることを基本原理とするものと認めるこ
とはできないから,原告の上記主張は,採用することができない。
イ 流量を一定化する方法について
原告は ,「乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体が放
出されることを前提として,流量を一定にするものであり,バルブの位
置によって流速を変化させる本件発明1とは異なる。」と主張する。し
かし,前記ア(ウ)のとおり,乙22記載の発明は,液体供給源の圧力に
よって液体が放出されることを基本原理とするものと認めることはでき
ないから,原告の上記主張は,その前提において採用することができな
い。
ウ 乙36記載の技術と乙22記載の発明の組合せによる容易想到性の有
無について
原告は,乙22記載の発明が,液体供給源の圧力によって液体が放出
されることを基本原理とするとの主張を前提として,乙22記載の発明
と乙36記載の技術とは作動原理が異なるから,乙36記載の技術と乙
22記載の発明を組み合わせる動機付けはなく,また,本件発明1は,
乙22記載の発明と流速・流量に係る技術思想が異なるから,仮に,乙
36記載の技術と乙22記載の発明を組み合わせたとしても,本件発明
1を容易に想到することはできないと主張する。
しかし,乙22記載の発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出
されることを基本原理とするものと認めることはできないから,原告の
上記主張は,その前提において採用することができない。」
2 原判決88頁26行目の「(4)」を「(5)」と改める。
3 原判決95頁6行の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「( 4) 原告は,乙22記載の装置は,液体供給源の圧力によって液体が放出
されることを基本原理としており,逆流を生じないから,乙22記載の装
置が逆流を生じることを前提として,乙22記載の装置と乙36記載の技
術を組み合わせて本件発明2が容易想到であるということはできないと主
張する。
しかし,前述のとおり,乙22記載の発明は,閉鎖素子の移動によって
液体が放出されるものと認められ,液体供給源の圧力によって液体が放出
されることを基本原理とするものとは認められないから,原告の上記主張
を採用することはできない。なお,本件発明2の実施例で分配の対象とさ
れている液体の粘性が約50,000∼約250,000センチポアズで
あることは,本件明細書2(甲6)の14欄22ないし23行に記載され
ており,圧力が約4psi∼約30psiであることは ,本件明細書2 甲

6)の14欄27ないし28行に記載されている。」
4 原判決95頁7行目の「(4)」を「(5)」と改める。
5 原判決95頁16,17行目を次のとおり改める。
「 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対
する本訴請求はいずれも理由がない。
よって,原告の被告に対する本訴請求をいずれも棄却すべきものとした原
判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,
主文のとおり判決する。」
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
中 平 健
裁判官
上 田 洋 幸

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