平成21(行ケ)10171審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成21年12月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告ニューコア・コーポレーション 原告株式会社ニュースチール
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法令 |
商標権
商標法50条1項2回 商標法50条1回
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キーワード |
審決16回 商標権8回 ライセンス5回
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主文 |
1 特許庁が取消2007−301355号事件について平成21年5月14日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
原告は,登録第4107315号商標(平成7年12月15日登録出願,出
願番号商願07−129515号,平成10年1月30日登録。以下「本件商
標」という。)の商標権者である。本件商標は,別紙1のとおりの「NU−S
TEEL」の文字及び図形からなり,その指定商品は,別紙指定商品目録のと
おりである。 |
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判決文
平成21年12月28日判決言渡
平成21年(行ケ)第10171号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成21年11月11日
判 決
原 告 株 式会社 ニュースチール
・ ホ ー ム ズ ・ ジ ャ パ ン
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 城 山 康 文
同 盛 里 吉 博
訴訟復代理人弁護士 岩 瀬 吉 和
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 北 口 貴 大
被 告 ニューコア・コーポレーション
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 浜 田 治 雄
主 文
1 特許庁が取消2007−301355号事件について平成21年5月
14日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
原告は,登録第4107315号商標(平成7年12月15日登録出願,出
願番号商願07−129515号,平成10年1月30日登録。以下「本件商
標」という。)の商標権者である。本件商標は,別紙1のとおりの「NU−S
TEEL」の文字及び図形からなり,その指定商品は,別紙指定商品目録のと
おりである。
被告は,平成19年10月22日,本件商標は,指定商品「鋼」について,
継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者,通常使用権者の
いずれにおいても使用されていないとして,商標法50条1項の規定に基づ
き,指定商品「鋼」について商標登録の取消しを求めて登録取消審判請求(取
消2007−301355号。以下「本件審判請求」という。)をし,同年1
1月6日,取消審判の請求の予告登録がされた。
特許庁は,平成21年5月14日,「登録第4107315号商標の指定商
品中「鋼」については,その登録は取り消す。」との審決(以下「審決」とい
う。)をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
2 審決の理由
別紙審決書写しのとおりであり,要するに,本件商標は,本件審判請求の登
録前3年以内に,日本国内において,その指定商品中の取消請求に係る商品
「鋼」について,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによって
も使用されておらず,その使用していないことについて正当な理由があるもの
とも認められない,というものである。
審決のした,①本件商標が「鋼」に使用されたか否か,②本件商標と原告が
使用する標章(以下「使用標章」という。その構成は別紙2のとおりであ
る。)が社会通念上同一と認められるか否かについての判断の概要は,次のと
おりである。
(1) 本件商標の「鋼」への使用の有無について
原告の取扱いに係るスチールハウスに,原告独自のM型鋼材を採用してい
ることは認められるとしても,M型鋼材が建築材料や建設部材としての用途
以外の商品として,単独・個別的に取引されている具体的事実はない。
そうすると,M型鋼材の取引は建築用又は構築用の金属専用材料に関する
取引ということはできても,建築材料や建設部材としての用途以外の取引と
いうことはできない。
したがって,原告の商品は,取消請求に係る「鋼」の範疇に属する商品と
認めることはできない。
(2) 本件商標と使用標章は社会通念上同一と認められるか否かについて
本件商標は,上段に山形太線,中段に黒塗り矩形内に縁取りや陰影画法に
よるやや図案化した「NU−STEEL」の欧文字,下段に直太線とを配し
た構成からなる。一方,使用標章は,上段に山形太線,中段に赤塗り矩形内
に縁取りや陰影画法によるやや図案化した「NU−STEEL」の欧文字及
びその下に白抜き様に「HOMES」の欧文字,下段に直太線を配した構成
からなる。
そうすると,本件商標と使用標章とは,中段の矩形部において,色彩やそ
の厚みなどの差異を除いても,一見して「HOMES」の欧文字の有無にお
ける相違を容易に認識できる。そして,「HOMES」の欧文字が常に商品
の品質などを表した付記的なものと認識されて取引に資されているとするの
は困難であり,「HOMES」の欧文字の有無が商標を識別する上で看者に
与える影響は少なくないものがあるから,本件商標と使用標章とは,構成に
置いて相違し,両者を同一視することはできない。
また,本件商標と使用標章の「NU−STEEL」の欧文字は,全体とし
て造語であって,特定の意味合いを生じるものではなく,使用標章には,こ
れに加えて「家,家庭,故郷」等の意味合いを有する英単語,あるいは住宅
関連の商品や事業内容と理解することのある「HOMES」の欧文字を含
み,本件商標と使用標章は自ずと相違する観念が生じる。
使用標章にあっては,二段に併記された「NU−STEEL」と「HOM
ES」の欧文字から,一連に「ニュースチールホームズ」の称呼を生じ,
「ニュースチールホームズ」の称呼を生じない本件商標とは称呼上も同一と
いえない。
本件商標と使用標章は社会通念上同一とはいえない。
第3 当事者の主張
1 取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1) 使用標章が使用された商品に係る認定判断
の誤り(取消事由1),(2) 本件商標と使用標章の社会通念上の同一性判断
の誤り(取消事由2)がある。
(1) 使用標章が使用された商品に係る認定判断の誤り(取消事由1)
審決は,使用標章が使用された原告の商品は,取消請求に係る「鋼」の範
疇に属する商品と認めることはできないと判断した。
しかし,審決の判断には,次のとおり誤りがある。
ア 原告の販売した商品は,以下のとおり,「鋼」に該当する。
原告が販売した商品は,断面がM字形の形鋼(以下「原告商品」という
場合がある。)である。
形鋼とは,円形断面ではない鋼材の総称であり,H形鋼,I形鋼等がこ
れに含まれる(甲26,甲27の1,2)。鋼材の分野における取引者・
需要者の一般的認識においては,鋼を使用した代表的な商品である「形
鋼」は,建築用であるか否かに関係なく,鋼として理解されている。した
がって,形鋼を「鋼」に含まれないとするのは,取引者・需要者の一般的
認識から乖離する誤った判断である。
なお,「形鋼」は圧延鋼材の一種であるが,「圧延鋼材」は「鋼」の下
位概念として,類似群コード「06A01」に分類されている(甲2
8)。「形鋼」であるH形鋼,I形鋼は,「鋼」と同じ類似群コード「0
6A01」に分類されている。
イ 原告商品は,以下のとおり,汎用性のある形鋼として販売した。
原告は,原告商品の販売について,「M型形鋼」(甲7),「M型鋼
材」(甲9,4頁),「形鋼」(甲9,10頁)と表示し,汎用性のある
形鋼として販売した。
建築用材料として用いるのは,需要者であって,原告ではない。
原告が販売する「M型形鋼」は,最終的には,需要者によって何らかの
用途に用いられる。需要者が当該商品をどのような用途に使用したかによ
って,商品分類が決定され,「鋼」への分類が否定されることは,合理性
を欠く。
原告は,汎用材として販売し,用途を限定して販売するものではない
が,原告商品は,大型ごみ収集箱(甲23),テーブル・下駄箱・多目的
棚(甲24)など,建築用途以外にも使用可能である。
なお,需要者に対して,特定の用途を示して販売する態様は,需要拡大
のための通常の商取引活動であり,その際に,その用途に応じた取引単
位,性能表示,価格表等も表示することも通常行われることである。
ウ 審決は,「建築用又は構築用の金属製専用材料」に該当する以上,
「鋼」には該当しないことを前提として,「鋼」への使用を否定する。
しかし,「鋼」と「建築用又は構築用の金属製専用材料」とが常に互い
に排他的関係にあるという根拠はない。「鋼」について使用の事実が認め
られるか否かについて,「建築用又は構築用の金属製専用材料」について
の使用した事実があることをもって,「鋼」に使用されていないという結
論を導くことは誤りである。
(2) 本件商標と使用標章の社会通念上の同一性判断の誤り(取消事由2)
審決は,使用標章は,下部に「HOMES」の文字が付加されていること
を理由に,当該付加部分に識別力を認め,使用商標の使用は本件商標と社会
通念上同一と認められる商標の使用とはいえないと判断した。
しかし,審決の判断には,次のとおり誤りがある。
使用標章の構成には,本件商標の外観上特徴的な構成がすべて変更するこ
となく含まれている。使用標章における「HOMES」の欧文字は,「NU
−STEEL」の下に位置する塗りつぶし部分に,単純な白抜き文字で記載
され,文字の縦の長さはその直上の「NU−STEEL」の文字の長さより
も3割ほど短く表記されているにすぎず,影付きで立体的に表示された「N
U−STEEL」の欧文字部分と比較して需要者の注目度において大きな差
異がある。「HOMES」の文字に需要者が注目することはない。
「HOMES」の語は,親子関係や関連企業体の基幹的名称に付加される
こともある。この場合,需要者は「HOMES」の部分ではなく,それ以外
の部分により商品・役務の出所を判断する。
本件においては,使用標章が使用された商品は,「形鋼」の1つである
「M型鋼材」であり,他の「形鋼」(H形鋼やI形鋼など)と同様に,汎用
材ではあるものの,建築・構造用であることに照らすと,使用商標中の「H
OMES」の文字部分は,「鋼」の用途等を示すものとして理解され,自他
商品識別機能を生じない。
以上によれば,本件商標と使用標章は社会通念上同一ではないとした審決
の判断は,誤りである。
2 被告の反論
(1) 使用標章が使用された商品に係る認定判断の誤り(取消事由1)に対し
原告は,原告商品が「形鋼」に属するから,請求に係る指定商品である
「鋼」に該当すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,原告商品は,「建築用又は構築用の金属製専用材料」である。
原告のプレスリリース用メモ(甲7)には,「M型形鋼は,24年前(1
981年)世界で初めてスチールハウスを手がけ,アメリカ,日本でシステ
ム,工法を普及させたNu−STEEL HOMES グループが独自に開
発考案したものです。」,「『国土交通大臣認定取得』オーストラリア C
DS NU−STEEL社が建築基準法第37条第2項二号の建築材料第一
号物件として大臣認定を取得しました」,「鋼材−高強度G550(オース
トラリアBHP社製)をM型に加工(CDS社保有特許)した建築部材」と
の記載がある。また,「WORK’s ニュースチール パーソナルヒスト
リー作品集」の会社概要欄(甲8)には,原告の事業内容について,「ライ
センス供与による建築資材の販売」,「住宅の建築,販売及び関連するシス
テムの販売」,「建築資材の輸入,輸出販売及び開発,製造販売」,「建築
資材の製造販売に関するシステムの販売」と記載されている。甲2ないし甲
10にも,原告商品は,家屋を建築するのに用いられているのみで,機械,
金型,家具の材料等となる汎用鋼材として使用している例はない。
以上によれば,原告商品は「建築用部材」に該当するから,「鋼」には当
たらない。
原告は,原告商品がH形鋼やI形鋼のような他の形鋼と同様,建築・構造
用以外の用途にも利用可能な汎用材であると主張する。しかし,原告の挙げ
る甲23は,ゴミを一時的に収納しておくための金属製ゴミ収集箱組立てセ
ット又はその部品・付属品についての使用,甲24は,テーブル,下駄箱,
多目的棚またはそれらの部品・付属品についての使用であることを示すもの
であって,汎用性のある鋼材ではない。
以上のとおり,原告商品が,「建築用又は構築用の金属製専用材料」であ
る以上,「鋼」と「建築用又は構築用の金属製専用材料」とが互いに排他的
関係にあるか否かは関係がなく,「鋼」には当たらない。
(2) 本件商標と使用標章の社会通念上の同一性判断の誤り(取消事由2)に
対し
本件商標の欧文字「NU−STEEL」の下部塗りつぶし部分は本件商標
の特徴の一つにすぎない。他方,使用標章において塗りつぶし部分に配置さ
れた「HOMES」の文字は,「NU−STEEL」とほぼ同じ大きさで記
載されている。「HOMES」の文字を指定商品「鋼」に使用した場合に,
「HOMES」の文字が常に商品の品質や用途等を表示する付記的な部分で
あると把握し認識されるとする格別の事情はない。
使用標章を構成する「NU−STEEL」の文字の直下に「HOMES」
の文字が加わったことにより,使用標章は,商標を使用する原告の商号であ
る「株式会社ニュー・スチール・ホームズ・ジャパン」の要部である「ニュ
ースチール・ホームズ」として認識される。
本件商標と使用標章に共通する「NU−STEEL」の欧文字は,全体と
して造語といえるものであり,特定の意味合いを生じるものではないのに対
し,使用標章には,「家,家庭,故郷」等の意味合いを有する英単語,ある
いは住宅関連の商品や事業内容などと理解することのある「HOMES」の
欧文字を含み,両者は相違する観念を生じる。
以上によれば,本件商標と使用標章は社会通念上同一とはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 使用標章が使用された指定商品に係る認定判断の誤り(取消事由1)
(1) 原告商品が「鋼」に当たるかについて
原告商品が,被告において不使用取消審判を請求した指定商品「鋼」に使
用されたことが証明できたかについて判断する。
ア 事実認定
(ア) 原告は,豪州CDS−NUSTEEL社からスチール鋼材を輸入
し,日本国内においてライセンス供与の展開により販売普及を目指すこ
とを目的とし,ライセンス供与による建築資材の販売,住宅の建築,販
売及び関連するシステムの販売,建築資材の輸入,輸出販売等を事業内
容とする株式会社である(甲3)。
(イ) 原告は,平成17年7月から8月に掛けて,株式会社コトブキホー
ムビルダー,株式会社スキップホーム等に対して,原告が輸入,販売す
る建築資材の販売,使用,本件商標の使用等について,ライセンス契約
を締結した。
また,原告は,国土交通大臣から,建築基準法37条2号所定の安全
上,防火上又は衛生上必要な品質に関する認定を受けている。その認定
対象は,名称を「CDSニュースチールホームに用いる鋼材」とし,内
容を「平成13年1月16日付けに申請があった国土交通大臣が定める
安全上,防火上又は衛生上必要な品質に関する技術的基準に適合する指
定建築材料(構造用鋼材及び鋳鋼)・・・」とするものであり,原告商
品が同認定対象製品に当たる。
(ウ) 原告が,原告商品等に関連して使用商標を表記して使用している例
として,以下の態様がある。
a 原告は,前記株式会社コトブキホームビルダーとのライセンス供与
契約に基づき,平成17年7月31日付けで,工事名「(仮称)原町
パーキング新築工事建築躯体組み上げ工事(Mチャンネル)」とされ
る工事について,「御見積書」を作成しているが,その書面の右側中
央には使用標章が表示されている(甲4)。
b 原告は,プレスリリース用の用紙(甲7)には,原告商品の特徴を
挙げ,具体的に,原告商品は,オーストラリアのCDS−Nu−St
eel社が製造し,同社から輸入販売する,建築に用いるM型形鋼で
あること,M型形鋼(Mチャンネル)の優位性として,①板厚を薄く
できること,②軽量化できること,③施工性が改善すること等を挙げ
ていることが記載され,原告商品であるM形鋼をを使用した骨組みの
写真とともに使用標章が表示されている。
c 原告に作成に係る「WORK’s ニュースチール パーソナルヒ
ストリー作品集」と題するパンフレット(甲8)には,原告商品であ
るM形鋼を使用した建物の写真とともに使用標章が表示されている。
d 原告作成に係る住宅の宣伝用パンフレット(甲9)には,「当社の
スチールハウスは,独自の特許工法・M型鋼材・Mチャンネルを採
用。その技術は,平成12年に改定された建築基準法の第一号物件と
して国土交通大臣の認定を取得し,高い評価を得ています。」(2
頁)などの記載があり,原告製品のM形鋼を使用した建物の構造に関
する図面又は写真及びこれを使用した建物の外観及び内部の写真が掲
載され,2頁と10頁に,使用標章が表示されている。
e 原告作成に係る「納入実績」(甲10)と題するパンフレットに
は,平成13年から平成19年まで(例えば,平成17年8棟,平成
18年11棟,平成19年14棟)の原告商品を住宅,店舗等の材料
として使用した実績が示され,表紙には使用標章が表示されている。
f 原告作成に係る平成19年4月付けパンフレット(甲23,甲2
4)には,工場や工事現場で発生した廃棄物収納用の大型ごみ収集
箱,テーブル・下駄箱・多目的棚の組立てキット商品として,鋼板の
写真が掲載され,使用商標が表示されている。
g 「形鋼」とは,断面形状が円形でない鋼材の総称であり,H形鋼,
I形鋼等がこれに含まれる(甲26,甲27の1,2)。原告商品
は,断面形状について,片仮名の3個のコの字を連続させて,M字用
に成形させた鋼材である。
(エ) 以上によれば,原告は,審判の請求の登録がされた平成19年11
月6日の前3年以内に,その販売する商品(M形鋼及び鋼板等)の宣伝
広告,見積書,契約書等に,使用標章を表記してこれを使用していると
認められる。
イ 判断
(ア) 原告が登録商標を使用した原告商品が,被告において登録商標の取
消しを求めた指定商品である「鋼」に含まれるか否かを判断する(な
お,取消審判の争点は,原告が登録商標を使用した原告商品が,商標法
施行規則6条別表所定の「鋼」に形式的に該当するか否かではなく,原
告商品が,被告において取消しを求めた指定商品である「鋼」に該当す
るか否かである。この点は,商標法50条1項は,登録商標の不使用を
理由として,登録商標の取消しを求める者は,登録商標に係る指定商品
等の全部又は一部の任意の指定商品を選択して,その取消しの審判を求
めることができる趣旨,同条2項は,商標権者等において,審判請求人
の取消請求に係る指定商品等の使用をしていることを証明しない限り,
その指定商品等に係る登録商標の登録の取消しを免れない趣旨を,それ
ぞれ規定していることから明らかである。)。
上記のとおり,原告は,審判の請求の登録がされた平成19年11月
6日の前3年以内に,原告商品の宣伝広告,見積書,契約書等に,使用
標章を表記してこれを使用している。そして,原告商品は,次のとおり
の特徴を有している。すなわち,①原告商品は,断面形状につき,直角
に互い違いに6回折り曲げて構成されたM字型様の鋼材(形鋼)である
こと,②原告商品は,国土交通大臣から,安全上,防火上又は衛生上必
要な品質に関して,建築基準法所定の認定を受けた建築材料(構造用鋼
材及び鋳鋼)であること,③原告商品は,住宅,店舗等の建物の材料と
して使用されることが多いが,その他,駐車場等の構造物,ごみ収集
箱,テーブル,棚等の材料として使用されることもあること,④原告商
品は,オーストラリアのCDS−Nu−Steel社が製造し,原告が
同社から輸入販売しているものであること等の性質及び特徴がある。
原告商品は,このような性質・特徴を持った典型的な鋼材であるか
ら,被告において登録商標の取消しを求めた指定商品である「鋼」に含
まれることは明らかである。
(イ) この点,被告は,原告商品が「建築用又は建築用のスチール製専用
材料」に該当するから「鋼」には含まれない,したがって,審決の認
定,判断に誤りはないと主張するようである。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。
商標法50条は,何人も,登録商標に係る指定商品等について,その
登録商標の取消しの審判を請求することができる旨,及び,被請求人
(商標権者)が,その請求に係る指定商品等のいずれかについて登録商
標の使用を証明しない限り,登録商標の取消しを免れない旨を規定す
る。不使用取消しに係る審判請求人において,広範な範囲の指定商品等
を不使用取消請求の対象として選択すれば,広範な範囲で取消しの効果
を得ることができるが,他方,被請求人(商標権者)は,広範な範囲の
指定商品等のいずれかについて,登録商標を使用していることを証明す
ることによって,登録商標の取消しを回避することができ,立証負担は
軽減されることになる。同条は,そのような公平の観点から規定された
ものであり,不使用取消に係る審判請求人は,これらの得失を考慮し
て,取消しを求める指定商品の範囲を選択することになる。
ところで,本件において,被告が請求した本件不使用取消しの審判
は,指定商品「鋼」についての登録商標の不使用を理由とするものであ
って,「建築用又は建築用のスチール製専用材料を除外した,その余の
鋼」についての登録商標の不使用を理由とするものではない(このよう
な特定方法が,取消請求の適法な特定として許されるか否かについて,
ここでは言及しない。)。そして,原告(登録商標権者)は,同審判に
おいて,本件商標を「鋼」について使用したこと証明できた以上,不使
用を理由とする取消しを免れるのはいうまでもない。
なお,本件商標の指定商品は,「鋼」とともに「建築用又は構築用の
スチール製専用材料」の両者が併記して登録されているが,そのような
指定商品の登録があるからといって,指定商品「鋼」の意義を,下位概
念である指定商品を除く趣旨に解釈しなければならない根拠とはなり得
ないのみならず,被告のした不使用取消審判の対象とした指定商品につ
いて,「建築用又は建築用のスチール製専用材料を除外した『鋼』」と
解する根拠にもなり得ない。
(2) 小括
以上のとおり,原告が登録商標を使用した原告商品は,被告において登録
商標の取消を求めた指定商品である「鋼」に含まれるから,この点の原告の
主張は理由がある。
2 本件商標と使用標章の社会通念上の同一性判断の誤り(取消事由2)
ア 本件商標と使用商標の構成
(ア) 本件商標は,以下の構成からなる。
上から順に,①黒色の太線で描かれた屋根ないし山形の図形部分,②黒
く描かれた横長長方形の図形,③横長長方形の底辺と平行して,黒色の太
線で描かれた水平の直線からなる。
横長長方形の図形の中心部(前記②部分)は,「N」「U」「点」「左
下方から右上方に緩やかな曲線を描いた図形」「T」「E」「E」「L」
の「欧文字及び図形」部が白色で太く描かれている。欧文字はいずれも,
直線を多用した特有の書体で表記され,「左下方から右上方に緩やかな曲
線で構成される図形」は「S」の文字と読めるような態様で描かれてい
る。「欧文字及び図形」は,これを囲むように黒い陰影が付され,看者に
立体的な印象を与えるように描かれている。さらに「欧文字及び図形及び
陰影」は,欧文字部分についてはその外郭に沿って白い直線で,「S字様
図形」の直下については曲線で,全体を囲むように表記され,看者に立体
的な印象を与えるように描かれている。横長長方形図形は,その上側約5
分の3に「欧文字及び図形」が描かれ,その余の部分は,黒く塗りつぶさ
れたままで,文字又は図形は,何ら描かれていない。
(イ) 使用商標は,以下の構成からなる。
上から順に,①黒色の太線で描かれた屋根ないし山形の図形部分,②赤
く描かれた横長長方形の図形,③横長長方形の底辺と平行して,黒色の太
線で描かれた水平の直線からなる。
横長長方形の図形の中心部(前記②部分)は,「N」「U」「点」「左
下方から右上方に緩やかな曲線を描いた図形」「T」「E」「E」「L」
の「欧文字及び図形」部が白色で太く描かれている。欧文字はいずれも,
直線を多用した特有の書体で表記され,「左下方から右上方に緩やかな曲
線で構成される図形」は「S」の文字と読めるような態様で描かれてい
る。「欧文字及び図形」は,これを囲むように黒い陰影が付され,看者に
立体的な印象を与えるように描かれている。さらに「欧文字及び図形及び
陰影」は,欧文字部分についてはその外郭に沿って白い直線で,「S字様
図形」の直下については曲線で,それぞれ囲むように表記され,看者に立
体的な印象を与えるように描かれている。横長長方形図形は,その上側約
5分の3に「欧文字及び図形」が描かれ,その余の部分は,「HOME
S」の文字が,白い太線で描かれている。
イ 本件商標と使用商標とを対比する。
両商標は,①全体の構成として,上から順に,黒色の太線で描かれた屋根
ないし山形の図形部分,横長長方形の図形,横長長方形の底辺と平行して,
黒色の太線で描かれた水平の直線からなる点,②横長長方形の図形の中心部
は,「N」「U」「点」「左下方から右上方に緩やかな曲線を描いた図形」
「T」「E」「E」「L」の「欧文字及び図形」部が白色で太く描かれ,欧
文字はいずれも,直線を多用した特有の書体で表記され,「左下方から右上
方に緩やかな曲線で構成される図形」は「S」の文字と読めるような態様で
描かれ,「欧文字及び図形」は,これを囲むように黒い陰影が付され,立体
的な印象を与えるように描かれ,さらに「欧文字及び図形及び陰影」は,欧
文字部分についてはその外郭に沿って白い直線で,「S字様図形」の直下に
ついては曲線で,それぞれ囲むように表記され,立体的な印象を与えるよう
に描かれている点において,共通する。
他方,本件商標においては,横長長方形図形は,「欧文字及び図形」の下
方に余白部分があるのに対して,使用商標においては,横長長方形図形の同
余白部に「HOMES」の文字が白い太線で,付加されて描かれている点に
おいて相違する。
しかし,本件商標は,①全体外郭が家を暗示する形状に描かれているこ
と,②中央部の横長長方形に「欧文字及び図形」部分が白抜きで太く描かれ
ている部分が,窓ないし居住部分を暗示する形状に描かれていること,③
「欧文字及び図形」部分は,独創的な書体及び図形が用いられていること等
の点で特徴があるが,使用商標は,その特徴的な構成のすべてを用いている
こと,④「HOMES」の文字を付加したとしても,本件商標の全体外郭が
家を示す形状の商標であり,また,被告の取り扱う商品が建築用材料である
ことに照らすならば,取引者,需要者に与える印象が大きく変わるものとは
解されないこと等,取引の実情等を含めた諸般の事実を総合考慮するなら
ば,使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標と解するのが相当であ
る。
この点,被告は縷々主張するが,いずれも失当である。
3 結論
以上によれば,本件予告登録前3年以内に日本国内において,商標権者であ
る原告がその請求に係る指定商品中「鋼」について,本件商標と社会通念上同
一の商標を使用していることを証明したものであると認めることができるか
ら,被告の請求に係る商標不使用取消請求を認めた審決は誤りであって,その
取消しを免れない。よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容す
ることとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
大 須 賀 滋
裁判官
齊 木 教 朗
(別紙1)
(別紙2)
指定商品目録
第6類
「鋼,建築用又は構築用のスチール製専用材料,スチール製建具,スチール製
金具,スチール製建造物組立てセット,スチール製の滑車,スチール製のばね
及びバルブ(機械要素に当たるものを除く),スチール製の可搬式家庭用温
室,スチール製の吹付け塗装用ブース,スチール製管継ぎ手,スチール製フラ
ンジ,スチール製いかり,スチール製ビット,スチール製ボラード,スチール
製締付け金具,スチール製の金網,スチール製のワイヤロープ,スチール製の
ネームプレート及び標札,スチール製のタオル用ディスペンサー,スチール製
帽子掛けかぎ,スチール製郵便受け,スチール製靴ぬぐいマット,スチール製
ブラインド,スチール製彫刻,スチール製セメント製品製造用型枠」
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