平成20(ワ)7901等損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成21年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条2項7回 特許法29条の23回 特許法102条3項2回 特許法36条4項2回 特許法94条1回 特許法99条3項1回 特許法70条1項1回 特許法104条の31回
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キーワード |
刊行物142回 特許権49回 実施25回 無効24回 進歩性15回 分割12回 審決11回 侵害10回 無効審判10回 損害賠償9回 許諾2回
|
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
1 事案の概要
(第1事件)
電気メッキ処理システムに関する後記第1特許及びメッキ装置のメッキ液噴
出ノズル装置に関する後記第2特許の特許権者である第1事件原告(以下「原
告丸仲」という )が,被告らが製造販売していたメッキ装置は上記特許権を。
侵害すると主張して,被告らに対し,特許権侵害(民法709条,特許法10
2条3項)に基づき,損害賠償金として,被告ら各自に対し3億3799万4
600円及び被告アルメックスPE株式会社(以下「被告PE」という )に。
対し1億2633万8000円並びにこれらの各金員に対する訴状送達の日の
翌日である平成20年4月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成21年12月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成20年(ワ)第7901号 損害賠償請求事件(第1事件)
平成20年(ワ)第7782号 損害賠償請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日 平成21年10月28日
判 決
静岡県三島市〈以下略〉
第 1 事 件 原 告 丸 仲 工 業 株 式 会 社
群馬県みどり市〈以下略〉
第 2 事 件 原 告 藤 本電 気 商 事 有 限 会社
上記両名訴訟代理人弁護士 石 川 幸 吉
東京都港区〈以下略〉
両 事 件 被 告 株 式会 社 ア ル メ ッ クス
同訴訟代理人弁護士 星 千 絵
同 吉 峯 耕 平
栃木県鹿沼市〈以下略〉
両 事 件 被 告 アルメックスPE株式会社
同訴訟代理人弁護士 小 池 豊
同 櫻 井 彰 人
同 萱 島 博 文
同訴訟代理人弁理士 永 井 義 久
同 補 佐 人 弁 理 士 井 上 一
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
-1 -
(第1事件)
1 被告アルメックスPE株式会社は,原告丸仲工業株式会社に対し,1億26
33万8000円及びこれに対する平成20年4月3日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社アルメックス及び被告アルメックスPE株式会社は ,連帯して ,
原告丸仲工業株式会社に対し,3億3799万4600円及びこれに対する平
成20年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(第2事件)
1 被告アルメックスPE株式会社は,原告藤本電気商事有限会社に対し,1億
2633万8000円及びこれに対する平成20年4月3日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社アルメックス及び被告アルメックスPE株式会社は ,連帯して ,
原告藤本電気商事有限会社に対し,3億5836万3200円及びこれに対す
る平成20年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(第1事件)
電気メッキ処理システムに関する後記第1特許及びメッキ装置のメッキ液噴
出ノズル装置に関する後記第2特許の特許権者である第1事件原告(以下「原
告丸仲」という 。)が,被告らが製造販売していたメッキ装置は上記特許権を
侵害すると主張して,被告らに対し,特許権侵害(民法709条,特許法10
2条3項)に基づき,損害賠償金として,被告ら各自に対し3億3799万4
600円及び被告アルメックスPE株式会社(以下「被告PE」という 。)に
対し1億2633万8000円並びにこれらの各金員に対する訴状送達の日の
翌日である平成20年4月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める事案である。
-2 -
(第2事件)
メッキ装置及びメッキ方法に関する後記第3特許の特許権者である第2事件
原告(以下「原告藤本」という 。)が,被告らが製造販売していたメッキ装置
は上記特許権を侵害すると主張して,被告らに対し,特許権侵害(民法709
条,特許法102条3項)に基づき,損害賠償金として,被告ら各自に対し3
億5836万3200円及び被告PEに対し1億2633万8000円並びに
これらの各金員に対する訴状送達の日の翌日である平成20年4月3日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
なお,両事件において原告らがそれぞれの特許権を侵害すると主張する被告
らが製造販売していたメッキ装置は同一のものである。
2 前提となる事実(証拠は各項に掲記)
(1) 当事者
ア 原告丸仲は,メッキ関連設備機器の製作,部品販売等を目的とする株式
会社である。
イ 原告藤本は,メッキ用機械の製造販売等を目的とする株式会社である。
ウ 被告株式会社アルメックス(以下「被告アルメックス」という 。)は,
自動制御装置及びコンピュータ制御関連システムの製作等を目的とする株
式会社である。被告アルメックスは,平成18年10月2日,会社分割を
行い,新設した分割設立会社である被告PEに,プラントエンジニアリン
グ事業部の事業に関わる権利義務を承継させた。
エ 被告PEは,樹脂及び金属の表面処理装置及びその付帯装置の設計,製
作,据付施工等を目的とする株式会社である。上記ウのように,被告PE
は,平成18年10月2日,被告アルメックスの会社分割による新設会社
として設立され,被告アルメックスのプラントエンジニアリング事業部の
事業に関わる権利義務を承継したことにより,メッキ装置の製造販売を行
-3 -
っている。
(2) 第1特許
原告丸仲は,次の特許(以下,この特許に係る特許請求の範囲の請求項1
記載の発明を「第1特許発明」といい,その特許を「第1特許 」,その特許
権を「第1特許権」という 。)の特許権者である 。(甲1の1,2の1)
ア 登録番号 特許第2943070号
イ 発明の名称 均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム
ウ 出願日 平成10年7月30日
エ 登録日 平成11年6月25日
オ 特許請求の範囲
【請求項1】陰極バーとして機能するメッキ処理部用レール軌道(1)
に横移動自在に支持された治具(2)によってメッキ処理されるプリン
ト基板などのシート状短冊製品(W)の製品上部を懸垂状態に挟持し,
前記メッキ処理部用レール軌道から治具を介して製品上部で給電しなが
らメッキ処理タンク(3)内の処理液中に複数の製品を横向きで直列に
した搬送状態で搬送させながら電気メッキするメッキ処理工程(A)を
もつ電気メッキ処理システムにおいて ,前記治具( 2 )に係合爪( 25 )
を,該係合爪の係合部(26)として機能する下端部を前記治具の搬送
方向に枢動可能となるように該係合爪の上端部を前記治具に軸支( 27 )
することによってそれぞれ取付けると共に,複数の係合歯(32)を等
間隔に設けた等速度で駆動されるエンドレス状のメッキ処理部用歯付き
ベルト(30)を該エンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルトの搬送
軌道部(33)を前記メッキ処理工程(A)のメッキ処理タンク上に前
記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って配設し,この搬送軌道部に
ある前記メッキ処理部用歯付きベルトに対して,前処理工程(C)から
メッキ処理工程へ前記治具に懸垂状態に挟持されたシート状短冊製品の
-4 -
横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間
隙幅となるような所定の送りピッチで間欠的に順次送られてくる前記治
具に取付けられた前記係合爪(25)の枢動する係合部(26)を該係
合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処
理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)上に載せて前記メッ
キ処理部用歯付きベルトの係合歯(32)と係合されるように構成し,
前記係合爪と係合された前記メッキ処理部用歯付きベルトの搬送駆動に
よって前記治具に懸垂状態に挟持された前記製品を該製品の横向き間隔
を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅を維持
しながら前記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って横向きで直列に
した搬送状態で搬送させながら電気メッキするように構成したことを特
徴とする均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム。
(3) 第1特許発明の構成要件の分説
第1特許発明の構成要件を分説すると次のとおりであり,それぞれ「構成
要件1(あ)」ないし「構成要件1(か)」という。
1(あ)陰極バーとして機能するメッキ処理部用レール軌道(1)に横移動自
在に支持された治具(2)によってメッキ処理されるプリント基板な
どのシート状短冊製品(W)の製品上部を懸垂状態に挟持し,前記メ
ッキ処理部用レール軌道から治具を介して製品上部で給電しながらメ
ッキ処理タンク(3)内の処理液中に複数の製品を横向きで直列にし
た搬送状態で搬送させながら電気メッキするメッキ処理工程(A)を
もつ電気メッキ処理システムにおいて,
1(い)前記治具(2)に係合爪(25)を,該係合爪の係合部(26)とし
て機能する下端部を前記治具の搬送方向に枢動可能となるように該係
合爪の上端部を前記治具に軸支(27)することによってそれぞれ取
付けると共に,
-5 -
1(う)①複数の係合歯(32)を等間隔に設けた等速度で駆動されるエンド
レス状のメッキ処理部用歯付きベルト(30)を
②該エンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルトの搬送軌道部 33 )
(
を前記メッキ処理工程(A)のメッキ処理タンク上に前記メッキ処
理部用レール軌道(1)に沿って配設し,
1(え)この搬送軌道部にある前記メッキ処理部用歯付きベルトに対して,前
処理工程(C)からメッキ処理工程へ前記治具に懸垂状態に挟持され
たシート状短冊製品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集
中されない所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチで間欠的
に順次送られてくる前記治具に取付けられた前記係合爪(25)の枢
動する係合部(26)を該係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜
位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌
道部 33 )
( 上に載せて前記メッキ処理部用歯付きベルトの係合歯 3
(
2)と係合されるように構成し,
1(お)前記係合爪と係合された前記メッキ処理部用歯付きベルトの搬送駆動
によって前記治具に懸垂状態に挟持された前記製品を該製品の横向き
間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅
を維持しながら前記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って横向き
で直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキするように構成し
た
1(か)ことを特徴とする均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システ
ム。
(4) 第2特許
原告丸仲は,次の特許(以下,この特許に係る特許請求の範囲の請求項1
記載の発明を「第2特許発明」といい,その特許を「第2特許」といい,そ
の特許権を「第2特許権」という 。)の特許権者である 。(甲1の2,2の
-6 -
2)
ア 登録番号 特許第3340724号
イ 発明の名称 メッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置
ウ 出願日 平成12年12月1日
エ 登録日 平成14年8月16日
オ 特許請求の範囲
【 請求項1 】管内のメッキ液供給方向に沿って多数の噴出孔を形成され ,
これらの噴出孔をメッキ液用タンク内のメッキ液内に配設されるように
設置されたノズル管と,当該ノズル管を分岐配管を介して前記メッキ液
用タンク外に設置された循環ポンプと接続するメッキ液供給配管と,前
記メッキ液用タンク内のメッキ液内に吸込み口を配設され,他端側を前
記循環ポンプに接続されたメッキ液回収配管とを備え,前記ノズル管の
噴出孔からメッキ液をメッキ処理される製品に向けて噴出するように構
成されたメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置であり ,前記ノズル管を ,
メッキ処理される製品の移送方向に沿って併設された前記分岐配管から
分岐され,当該分岐配管に所要の間隔をおいて立設状態に並設し,且つ
メッキ処理される製品を介して立設状態に対設させたものにおいて,前
記分岐配管に立設状態に取付けられた前記ノズル管を,当該ノズル管に
形成された噴出孔から噴出されるメッキ液の噴出方向を該ノズル管の管
周り方向の任意な位置に向けられるよう当該ノズル管の管端部を前記分
岐配管に螺着状態に取付けたことを特徴とするメッキ装置のメッキ液噴
出ノズル装置。
(5) 第2特許発明の構成要件の分説
第2特許発明の構成要件を分説すると次のとおりであり,それぞれ「構成
要件2(あ)」ないし「構成要件2(お)」という。
2(あ)①管内のメッキ液供給方向に沿って多数の噴出孔を形成され,これら
-7 -
の噴出孔をメッキ液用タンク内のメッキ液内に配設されるように設
置されたノズル管と,
②当該ノズル管を分岐配管を介して前記メッキ液用タンク外に設置さ
れた循環ポンプと接続するメッキ液供給配管と,
③前記メッキ液用タンク内のメッキ液内に吸込み口を配設され,他端
側を前記循環ポンプに接続されたメッキ液回収配管とを備え,
2(い)前記ノズル管の噴出孔からメッキ液をメッキ処理される製品に向けて
噴出するように構成されたメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置であ
り,
2(う)前記ノズル管を,メッキ処理される製品の移送方向に沿って併設され
た前記分岐配管から分岐され,当該分岐配管に所要の間隔をおいて立
設状態に並設し,且つメッキ処理される製品を介して立設状態に対設
させたものにおいて,
2(え)①前記分岐配管に立設状態に取付けられた前記ノズル管を,
②当該ノズル管に形成された噴出孔から噴出されるメッキ液の噴出方
向を該ノズル管の管周り方向の任意な位置に向けられるよう当該ノ
ズル管の管端部を前記分岐配管に螺着状態に取付けた
2(お)ことを特徴とするメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置。
( 6) 第3特許
原告藤本は,次の特許(以下,この特許に係る特許請求の範囲の請求項1
記載の発明を「第3特許発明」といい,その特許を「第3特許 」,その特許
権を「第3特許権」という 。)の特許権共有持分権者である 。(甲1の3,
2の3)
ア 登録番号 特許第3025254号
イ 発明の名称 めっき装置およびめっき方法
ウ 出願日 平成11年2月5日
エ 登録日 平成12年1月21日
-8 -
オ 特許請求の範囲
【請求項1】被処理物を垂直状態に保持してめっき槽内を搬送するめっ
き装置において,被処理物の保持とめっき電流の給電を行う搬送用ハン
ガー,搬送用ハンガーを懸架してめっき電流を給電するめっき槽搬送手
段,搬送用ハンガーを移送する前処理コンベア,前処理コンベアから搬
送用ハンガーを取り外し,めっき槽搬送手段よりも高速に搬送用ハンガ
ーを移送し,めっき槽搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取り
付ける位置決め搬送手段を有し,めっき槽搬送手段が一定の速度で搬送
した状態で,先にめっき槽搬送手段に取り付けられた被処理物との間隔
をめっき厚さに不均一を生じない大きさに保持して,次の被処理物を取
り付けた搬送ハンガーをめっき槽搬送手段に取り付けて搬送しながらめ
っき処理することを特徴とするめっき装置。
(7) 第3特許発明の構成要件の分説
第3特許発明の構成要件を分説すると次のとおりであり,それぞれ「構成
要件3(あ)」ないし「構成要件3(え)」という。
3(あ)被処理物を垂直状態に保持してめっき槽内を搬送するめっき装置にお
いて,
3(い)①被処理物の保持とめっき電流の給電を行う搬送用ハンガー,
②搬送用ハンガーを懸架してめっき電流を給電するめっき槽搬送手
段,
③搬送用ハンガーを移送する前処理コンベア,
④前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し,めっき槽搬送手段
よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき槽搬送手段に被処理
物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段を有し,
3(う)めっき槽搬送手段が一定の速度で搬送した状態で,先にめっき槽搬送
手段に取り付けられた被処理物との間隔をめっき厚さに不均一を生じ
-9 -
ない大きさに保持して,次の被処理物を取り付けた搬送ハンガーをめ
っき槽搬送手段に取り付けて搬送しながらめっき処理する
3(え)ことを特徴とするめっき装置。
( 8) 被告アルメックス及び被告PEの行為
被告アルメックスは,平成12年1月21日ころから平成18年10月2
日ころまでの間,被告PEは,平成18年10月3日ころから平成19年1
2月ころまでの間,SPSと称するメッキ装置を製造販売した。
被告らが製造販売したメッキ装置を「被告物件」という(被告物件の構成
については当事者間に争いがある 。 。
)
(9) 構成要件の充足
ア 第1特許発明について
被告物件は,構成要件1(い)の「搬送方向に枢動可能」及び構成要件1
(え)の「枢動する係合部」の点,構成要件1(う)①の「等間隔」及び「歯
付きベルト」の点,構成要件1(う)②の「メッキ処理タンク上」の点を除
き,第1特許発明の構成要件をすべて充足する。
イ 第2特許発明について
被告物件は,構成要件2(え)②の「任意な位置に向けられる」及び「螺
着状態」の点を除き,第2特許発明の構成要件をすべて充足する。
ウ 第3特許発明について
被告物件は,構成要件3(い)②の「搬送用ハンガーを懸架」の点,構成
要件3(い)③の「コンベア」の点,構成要件3(い)④の「前処理コンベア
から搬送用ハンガーを取り外し」及び「取り付ける」の点を除き,第3特
許発明の構成要件をすべて充足する。
( 10) 無効審決及び審決取消訴訟
ア 第1特許権について
被告PEは,平成20年7月31日,第1特許発明について,特許無効
審判を請求し(無効2008−800137号事件 ),特許庁は,平成2
1年2月4日 ,「特許第2943070号の請求項1及び3に係る発明に
ついての特許を無効とする 。」との審決をした。
原告丸仲は ,この審決の取消しを求めて審決取消請求事件を提起したが ,
平成21年10月15日,知的財産高等裁判所は,原告の請求を棄却した
(知財高裁平成21年(行ケ)10059号 ) (乙40,45)
。
イ 第2特許権について
被告PEは,平成20年6月25日,第2特許発明について,特許無効
審判を請求し(無効2008−800117号事件 ),特許庁は,平成2
1年2月17日 ,「特許第3340724号の請求項1に係る発明につい
ての特許を無効とする 。」との審決をした。
原告丸仲は ,この審決の取消しを求めて審決取消請求事件を提起したが ,
平成21年10月15日,知的財産高等裁判所は,原告の請求を棄却した
(知財高裁平成21年(行ケ)第10079号 ) (乙41,46)
。
ウ 第3特許権について
被告PEは,平成20年7月31日,第3特許発明について,特許無効
審判を請求し(無効2008−800139号事件 ),特許庁は,平成2
1年4月13日 ,「特許第3025254号の請求項1,3,6及び8に
係る発明についての特許を無効とする 。」との審決をした。
原告藤本は ,この審決の取消しを求めて審決取消請求事件を提起した 知
(
財高裁平成21年(行ケ)第10128号 ) (乙42)
。
3 争点
( 1) 被告物件の構成
(2) 構成要件の充足
ア 第1特許発明について
(ア) 「搬送方向に枢動可能」及び「枢動する係合部」の充足(構成要件1
(い)及び構成要件1(え))
(イ) 「等間隔」及び「歯付きベルト」の充足(構成要件1(う)①)
(ウ) 「メッキ処理タンク上」の充足(構成要件1(う)②)
イ 第2特許発明について
「任意な位置に向けられる」及び「螺着状態」の充足(構成要件2(え)
②)
ウ 第3特許発明について
(ア) 「搬送用ハンガーを懸架」の充足(構成要件3(い)②)
(イ) 「コンベア」の充足(構成要件3(い)③)
(ウ) 「 前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し 」及び「 取り付ける 」
の充足(構成要件3(い)④)
( 3) 特許法104条の3第1項の権利行使の制限
ア 第1特許権について
(ア) 進歩性欠如(特許法29条2項)
(イ) 記載要件不備(特許法36条4項,6項1号)
イ 第2特許権について
進歩性欠如(特許法29条2項)
ウ 第3特許権について
(ア) 進歩性欠如(特許法29条2項)
(イ) 拡大先願(特許法29条の2)
( 4) 第2特許権,第3特許権についての先使用による通常実施権(特許法7
9条)
(5) 損害額(特許法102条3項)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点( 1)(被告物件の構成)について
〔原告らの主張〕
被告物件の構成のうち,第1特許発明及び第2特許発明の構成要件の充足性
が問題となる点を整理したものが別紙第1物件目録(原告ら)であり,第3特
許発明の構成要件の充足性が問題となる点を整理したものが別紙第2物件目録
(原告ら)である。
被告らの主張と異なる点は,各目録のうち下線を引いた部分である。
〔被告らの主張〕
被告物件の構成のうち,第1特許発明及び第2特許発明の構成要件の充足性
が問題となる点を整理したものが別紙第1物件目録(被告ら)であり,第3特
許発明の構成要件の充足性が問題となる点を整理したものが別紙第2物件目録
(被告ら)である。
原告らの主張と異なる点は,各目録のうち下線を引いた部分である。
2 争点( 2)(構成要件の充足)について
(1) 第1特許発明について
〔原告らの主張〕
ア 「 搬送方向に枢動可能 」及び「 枢動する係合部 」の充足( 構成要件1(い)
及び構成要件1(え))
被告物件におけるメッキ処理工程のレール軌道において,治具(2)に
相当するキャリアー25が存在し,これに係合爪(25)に相当する噛合
部材26が搬送方向に回動可能に軸部27によって軸支され取り付けられ
ており,噛合部材26の揺動が一定の角度幅内に規制されていても揺動す
ることには変わりがない。また,噛合部材26が搬送方向に後退した傾斜
位置となるように搬送用ラック15に載せてラックピース15Bの噛合歯
15aと係合されるように構成されおり,噛合部材26が「搬送方向に枢
動可能」なこと(軸支によって揺動すること ),係合部が枢動することは
明らかである。
イ 「等間隔」及び「歯付きベルト」の充足(構成要件1(う)①)
搬送用ラック15上には噛合歯15aが設けられたラックピース15B
が並列され,搬送用ラック15の表面全体にラックピース15Bを介して
噛合歯15aが設けられている。このラックピース15Bはアタッチメン
トによってエンドレス状のチェーン15Aに取り付け固定されており,搬
送用ラック15がチェーン15Aと一体となって「歯付きベルト」を構成
することは明らかである。
各ラックピース15Bの両端で形成される「噛合歯」は他の噛合歯15
aと形状が異なっているが,両端以外の他の噛合歯は同一形状であり,形
状が異なる噛合歯があってもジャンピングして係合し同一の効果を得られ
る。被告が第1特許発明の要件充足を避けるため殊更に変形した設計変更
にすぎず,複数の噛合歯15aが「等間隔」に設けられている。
ウ 「メッキ処理タンク上」の充足(構成要件1(う)②)
第1特許発明における「治具に取り付けられた係合爪25の枢動する係
合部26を,係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように
メッキ処理部用歯付きベルト30の搬送軌道部33上に載せて歯付きベル
ト30の係合歯32と係合させる」という手段構成は ,「メッキ槽の上方
に搬送軌道部を配設するもの」と「メッキ槽の横に搬送軌道部を並列沿設
するもの」のどちらにでも適用することができるものである。発明時にお
いて,搬送軌道部の位置がどちらにくる場合も当然に想定されていたもの
であり,発明の構成上どちらかの構成に限定しなければ実施できないもの
ではない以上,搬送軌道部の位置をメッキ槽の直上部に限定しなければな
らない理由はない。
また,搬送用ラック15の搬送軌道部をめっき槽14の横に離間した状
態で並列に配置しても,何ら特別の作用効果を生むものではなく,かえっ
て無駄な配設スペースを要することになるものであり,技術的な意味を持
たない。
〔被告らの主張〕
ア 「 搬送方向に枢動可能 」及び「 枢動する係合部 」の充足( 構成要件1(い)
及び構成要件1(え))
被告物件においては,係合爪(25)に相当する噛合部材26がピン2
8及び29により所定の角度幅内に規制されるように構成されており , 枢
「
動可能」ではない。ピン28及び29と噛合部材26との隙間は,噛合部
材26が噛合歯15aと噛み合い,又は分離する時に噛合部材の先端が噛
合歯の山を越えるための逃げであり ,「揺動」とか「回動」ではない。
被告物件においては,噛合部材26は軸部27に対し,メッキ処理工程
及び治具戻し工程の前後逆向きの搬送方向に対して回転可能に取り付けら
れておらず ,「搬送方向に枢動可能」ではない。
イ 「等間隔」及び「歯付きベルト」の充足(構成要件1(う)①)
被告物件の搬送用ラック15に設けられた噛合歯15aは,各ラックピ
ース15Bの両端において他の噛合歯と形状が異なっており,搬送用ラッ
ク15の表面全体に「等間隔」に設けられていない。
被告物件において「メッキ処理部用歯付きベルト」に対応する搬送用ラ
ック15は,エンドレス状のチェーン15A上に複数のラックピース15
Bが配設されたものであり,複数の係合歯を表面全体に等間隔に設け裏面
に一定間隔で凹凸が設けられた平帯状のものである「歯付きベルト」とみ
なすことはできない。
ウ 「メッキ処理タンク上」の充足(構成要件1(う)②)
構成要件1(う)②は,メッキ処理部用歯付きベルトの搬送軌道部をメッ
キ処理部用レール軌道に沿って,メッキ処理工程のメッキ処理タンクの上
に配設するとの意味であるが,被告物件においては ,「メッキ処理部用歯
付きベルト」に対応する搬送用ラック15の搬送軌道部は,めっき槽14
の上ではなく,めっき槽14の横に離間した状態でめっき槽14に対し並
列に配置されており ,「メッキ処理タンク上」に配設するとの要件を具備
しない。
また,被告物件は,めっき槽14の横に離間した状態で並列に配置する
構成を採用したことにより,メッキ槽を改変することなく,かつ,搬送軌
道部から発生する塵埃のメッキ槽への混入を防止し,高品質の表面処理を
可能とするという特別な作用効果を奏するものである。
( 2) 第2特許発明について
「 任意な位置に向けられる 」及び「 螺着状態 」の充足( 構成要件2(え)② )
〔原告らの主張〕
被告物件において,分岐配管52に溶接されているのは取付短管61であ
り,ノズル管50はソケット62を介して取付短管61に螺着状態に取り付
けられていることは明らかである。メッキ液の流出を防止するため取付短管
61とソケット62をゴムパッキンを挟んで強力に締め込む構成は,取付短
管61(分岐配管52)にソケット62(ノズル管50)をゴムパッキンを
挟んで締め込むことにより,ノズル管50によるメッキ液の噴出方向をゴム
パッキンの厚さで調整できるようになっており,構成要件2(え)②を充足
する。
また,被告物件のメッキ液の噴出方向を固定するのは,振れ止め・方向固
定板65のキー溝65aの方向だけであるから,ボルトを緩め振れ止め・方
向固定板65をめっき槽14から外しキー溝65aの方向が異なる振れ止
め・方向固定板65に変換すれば,メッキ液の噴出方向をノズル管50の管
周り方向の任意な位置に向けられることは明らかである。
〔被告らの主張〕
被告物件においてノズル管50は,分岐配管52に溶接された取付短管6
1にネジ止め固定されたソケット62内に,ノズル管50に形成されたノズ
ル51から噴出されるメッキ液の噴出方向が被めっき材Mの表面に対し直角
方向になるように差し込まれ,接着剤で固着されるものであり,メッキ液の
噴出方向を任意の方向に向けるようにネジ止めされているものではない。ま
た,ノズル管50の先端には,キー64を設けたキャップ66がキー64と
ノズル51の方向が同一方向を向くように接着剤により固定されており,キ
ー64がめっき槽14にネジ止め固定された振れ止め・方向固定板65に設
けられたキー溝65aに挿入されることにより,ノズル51から噴出される
メッキ液の噴出方向が被めっき材Mの表面に対し直角になる状態が維持され
るようにノズル管50が立設されている。
したがって,被告物件は ,「メッキ液の噴出方向を該ノズル管の管周り方
向の任意な位置に向けられるよう当該ノズル管の管端部を前記分岐配管に螺
着状態に取付け」られていない。
( 3) 第3特許発明について
〔原告らの主張〕
ア 「搬送用ハンガーを懸架」の充足(構成要件3(い)②)
被告物件において「搬送用ハンガー」に相当するキャリアー25は給電
レール16に保持されてぶら下がっているのであるから ,「めっき電流を
給電するめっき槽搬送手段 」(給電レール16)が「搬送用ハンガー 」(キ
ャリアー25)を「懸架」していることは明らかである。
キャリアー25に設けられたローラーが給電レール16を両側から挟み
込むことによってキャリアー25が保持されている状態が「懸架」に当た
らないとしても,単なる設計変更であり,構成要件3(い)②を充足する。
イ 「コンベア」の充足(構成要件3(い)③)
被告物件において,脱脂処理,湯洗処理,水洗処理等のメッキ処理の前
処理を行うためにキャリアー25を昇降・水平スライドさせて移送する装
置は,前処理を行うために搬送用ハンガーを移送する装置であって ,「搬
送用ハンガーを移送する前処理コンベア」に該当する。
ウ 「前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し」及び「取り付ける」
の充足(構成要件3(い)④)
被告物件における前処理機構Aにおいて ,「搬送用ハンガー」に相当す
るキャリアー25は,キャリアー搬送チェーン24から取り外され,第1
昇降レール6に取り付けられ,第2昇降レール7を経て最終的に第3昇降
レール8に取り付けられた後,第3昇降レール8から取り外され ,「位置
決め搬送手段」に相当する第5下部プッシャー105により被メッキ材を
所定の間隔を保持して「めっき槽搬送手段」に相当する搬送用ラック15
(給電レール16)に取り付けられるものであり,構成要件3(い)④を充
足する。
被告らの主張は,特許法70条1項を無視し,理由もなく第3特許発明
の技術的範囲を第3特許発明に係る明細書記載の実施例に限定するもので
あって理由がない。
〔被告らの主張〕
ア 「搬送用ハンガーを懸架」の充足(構成要件3(い)②)
「懸架」とは,物につけてぶら下げるという意味であるが,被告物件に
おいて「搬送用ハンガー」に相当するキャリアー25は,給電レール16
に保持されてはいるが,ぶら下げられているわけではなく,キャリアー2
5に設けられたローラーが給電レール16を両側から挟み込む方法により
保持されているため ,「懸架」の要件を具備しておらず,構成要件3(い)
②を充足しない。
イ 「コンベア」の充足(構成要件3(い)③)
「前処理コンベア」とは,めっき処理の前段階における薬剤によるクリ
ーナー処理,水洗処理,酸洗処理等の前処理領域における搬送用ハンガー
移送を,一定の場所で循環して行う輸送装置を意味している。
被告物件において前処理を行うためにキャリアー25を移送する装置
は,第1昇降レール6,第2昇降レール7,第3昇降レール8,第1上部
プッシャー201,固定レール9,10,11,転回レール12,転回装
置13,第2上部プッシャー202,第3上部プッシャー203,第1下
部プッシャー101,第2下部プッシャー102,第3下部プッシャー1
03,第4下部プッシャー104等により構成されるものであり,これら
の昇降・水平スライド装置により ,キャリアー25を脱脂処理 ,湯洗処理 ,
水洗処理等の複数の前処理工程間を間欠的に移送させるものであるから,
一定の場所で循環する「コンベア」には該当しない。
ウ 「前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り外し」及び「取り付ける」
の充足(構成要件3(い)④)
構成要件3(い)④は,前処理コンベアに取り付けてある搬送用ハンガー
を前処理コンベアから上昇させて取り外し,前処理コンベアから取り外し
た搬送用ハンガーをめっき槽搬送手段よりも高速に移送し,めっき槽搬送
手段上に被処理物を所定の間隔を保持して取り付けるという位置決め搬送
手段を意味している。
被告物件において,キャリアー25を前処理領域から給電レール16へ
移動させるのは第5下部プッシャー105であり,第5下部プッシャー1
05は,前処理機構Aを構成する第3昇降レール8上のキャリアー25を
上昇させて取り外すことなく,単に水平方向に押し出すことにより給電レ
ール16へ移動させるのであるから,前処理コンベアから上昇させて搬送
用ハンガーを取り外し,取り外した搬送用ハンガーをめっき槽搬送手段の
所定位置に移送して取り付けるものではなく,構成要件3(い)④を充足し
ない。
3 争点( 3)(特許法104条の3第1項の権利行使の制限)について
(1) 第1特許権について
〔被告らの主張〕
ア 進歩性欠如(特許法29条2項)
(ア) 第1特許発明は,第1特許の出願日より前に頒布された刊行物である
下記の各刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,第1特許は,特許法29条2項に違反
し,特許無効審判により無効にされるべきものであり,特許法104条
の3第1項により,原告丸仲は被告らに対し,第1特許権の侵害を理由
とする損害賠償請求を行うことはできない。以下詳述する。
a 特開平10−168600号公報(乙9の1。公開日:平成10年
6月23日。以下,この刊行物を「乙9の1刊行物」という 。)
b 特開平10−158896号公報(乙9の2。公開日:平成10年
6月16日。以下,この刊行物を「乙9の2刊行物」という 。)
c 特開平5−311496号公報(乙9の3。公開日:平成5年11
月22日。以下,この刊行物を「乙9の3刊行物」という 。)
d 実願昭55−70374号(実開昭56−173668号)のマイ
クロフィルム(乙9の4の4∼20枚目。公開日:昭和56年12月
22日。以下,この刊行物を「乙9の4刊行物」という 。)
e 米国特許第5558757号明細書(乙9の5。発行日:1996
年(平成8年)9月24日。以下,この刊行物を「乙9の5刊行物」
という 。)
f 実願昭46−42322号(実開昭48−1480号)のマイクロ
フィルム(乙9の6の2∼8枚目。公開日:昭和48年1月10日。
以下この刊行物を「乙9の6刊行物」という 。)
g 特開平9−328212号公報(乙9の7。公開日:平成9年12
月22日。以下,この刊行物を「乙9の7刊行物」という 。)
h 特開昭63−202519号公報(乙9の8。公開日:昭和63年
8月22日。以下,この刊行物を「乙9の8刊行物」という 。)
(イ) 乙9の1刊行物記載の発明(以下「乙9の1発明」という 。)
乙9の1刊行物には,陰極バー2からワーク支持具1を介してシート
形状のワークWの上部で給電し,めっき液中に横向きで搬送させながら
電気メッキするものであること(ワーク支持具1及びワークWは一つし
か記載されていないが,複数の製品を横向きで直列にして搬送するもの
であることは当然である 。 ,ワーク支持具1のレール軌道を構成する
)
陰極バー2がメッキ処理タンク内のメッキ液A上にあること,均一メッ
キ処理を可能にした電気メッキ処理システムであることが記載されてい
る。
(ウ) 第1特許発明と乙9の1発明との相違点
乙9の1発明は,以下の構成が開示されていない点で,第1特許発明
と相違する。
〔相違点A:製品の間隔〕
製品の搬送に際し ,「製品の横向き間隔」として「製品の側端部に
電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅を維持」するという構成
〔相違点B:治具又は製品の搬送構造〕
①係合爪 25 )
( の係合部 26 )
( として機能する下端部が ,治具 2 )
(
の搬送方向に枢動可能となるように係合爪(25)の上端部を治具
(2)に軸支(27)する構成
②複数の係合歯(32)を等間隔に設けた等速度で駆動するエンドレ
ス状のメッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)
をメッキ処理部用レール軌道1に沿って配設する構成
③所定の送りピッチで間欠的に順次送られてくる治具(2)に取付け
られた係合爪(25)の枢動する係合部(26)を,該係合爪の上
端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように搬送軌道部 33 )
(
上に載せて ,メッキ処理部用歯付きベルト( 30 )の係合歯( 32 )
と係合する構成
④係合爪(25)と係合されたメッキ処理部用歯付きベルト(30)
の搬送駆動によって製品を搬送する構成
(エ) 相違点の検討
a 相違点A(製品の間隔)について
第1特許発明における「所定の狭い間隙幅」とは具体的にいかなる
幅をいうのか不明であり,その技術的意義も不明であるから,進歩性
の観点から考慮する必要はない。仮に技術的意義があるとしても,乙
9の5刊行物には ,「ワークピース端部」の間隔幅は「 a1, a2, a3と
いう距離を有して離れている。実際には, a1等の距離は,比較的小
さく保つべきである 」 「そうしなければある距離をおいて互いに向
,
い合せになるワークピース端部3′及び3″の“ K”と“ A”と書か
れたエリアは金属が沈積( deposit)するため,いわゆる「ドッグ・ボ
ーン効果」と呼ばれる厚肉部分を有してしまうからである」と記載さ
れており,製品の横向き間隔を「製品の側端部に電流が過度に集中さ
れない所定の狭い間隙幅」にすることが開示されており,相違点Aは
当業者が容易に想到できたものである。
b 相違点B(治具又は製品の搬送構造)について
メッキ装置の治具をその上部を介して搬送するものに換えて,乙9
の4刊行物記載のように,メッキ装置の治具を支承しながら,それら
の間の摩擦抵抗力に頼って搬送する構成を採用し,さらに,摩擦抵抗
に頼って搬送する場合にスリップが生じる問題を解消するために,被
搬送物(パレット等)に設けた爪とチェンコンベアとの係合によって
搬送するコンベア機構(乙9の6)を適用することは,当業者が容易
に想到できたものである。
この乙9の6刊行物記載のコンベア機構を乙9の4刊行物記載のコ
ンベア機構に適用したコンベア機構と,第1特許発明のコンベア機構
とには,駆動側がチェーンか歯付きタイミングベルトかの相違がある
が,被搬送物をタイミングベルトによって搬送することは,乙9の7
刊行物に記載されているように汎用技術であるから,チェーンに換え
てタイミングベルトを使用することは,当業者が容易に想到できたも
のである。
イ 記載要件不備(特許法36条4項,6項1号)
第1特許に係る明細書及び図面には ,「製品の側端部に電流が過度に集
中されない所定の狭い間隙幅 」(構成要件1(え)及び(お))の具体例につ
いて何ら記載や示唆がなく,当業者が実施することができる程度に発明の
詳細な説明が記載されておらず,また,当業者において認識できる程度に
具体例を開示して記載しているともいえないため,第1特許は,特許法3
6条4項及び同条6項1号に違反し,特許無効審判により無効にされるべ
きものであるから,特許法104条の3第1項により,原告丸仲は被告ら
に対し,第1特許権の侵害を理由とする損害賠償請求を行うことはできな
い。
第1特許に係る明細書の段落【0013】には,係合歯の形成間隔,係
合爪25の取付間隔が具体的に記載されているが(甲1の1 ),シート状
短冊製品の寸法が不明であるから ,「所定の狭い間隙幅」は依然として不
明である。
〔原告らの主張〕
ア 進歩性欠如(特許法29条2項)
被告らの相違点の検討についての主張は,否認ないし争う。
(ア) 相違点Aについて
乙9の5刊行物には ,「所定の狭い間隔幅となるような所定の送りピ
ッチで間欠的に順次送られる」構成について記載がない。
(イ) 相違点Bについて
乙9の1刊行物におけるワーク支持具に換えて乙9の4刊行物の治具
を適用し,更に乙9の6刊行物のコンベア機構を適用するのでは,正に
継ぎ接ぎ構成であり,いかなる発明も多くの先行技術を基礎として成り
立っている事実を無視するものであり,発明の概念自体を否定すること
になりかねない。乙9の4刊行物記載の発明は,コンベア機構の移行路
位置にストッパを突没させることによりキャリアを繰り出す機構であ
り,乙9の6刊行物記載の発明は,チェーンコンベアに係合する爪とそ
の爪を蹴って係合を外すロッドを設ける構成であるから,これら二つを
結びつけるには高度の思考力が必要であり,当業者にとって容易であっ
たということはできない。
被告らが補助引用例として主張する乙9の4刊行物 ,乙9の6刊行物 ,
乙9の7刊行物は,前提となる技術環境が異なり,引用する技術構成部
分も異質な機能,効果を有するものであるから,これらの刊行物に記載
された内容を乙9の1発明に適用する余地はない。
イ 記載要件不備(特許法36条4項,6項1号)
「所定の狭い間隔幅」について,第1特許に係る明細書の段落【001
3】には ,「歯付きベルト30,31に等間隔に形成された各係合歯32
の形成間隔を10mmに形成し ,この10mmの形成間隔に対して複数 4
(
個)の係合爪25の取付け間隔を2.5mmずつズラして取付けることに
よって ,2 .5mmの係合誤差としてある 。 との記載があり( 甲1の1 )
」 ,
被告らの主張には理由がない。
( 2) 第2特許権について
進歩性欠如(特許法29条2項)
〔被告らの主張〕
第2特許発明は,第2特許の出願日より前に頒布された刊行物である下記
の各刊行物に記載された発明・周知技術に基づいて,当業者が容易に発明を
することができたものであるから ,第2特許は ,特許法29条2項に違反し ,
特許無効審判により無効にされるべきものであり,特許法104条の3第1
項により,原告丸仲は被告らに対し,第2特許権の侵害を理由とする損害賠
償請求を行うことはできない。以下詳述する。
a 特許第3025254号公報(乙2。発行日:平成12年3月27日。
以下,この刊行物を「乙2刊行物」という 。)
b 特開2000−223458号公報(乙3。公開日:平成12年8月1
1日。以下,この刊行物を「乙3刊行物」という 。)
c 特開昭55−14834号公報(乙4。公開日:昭和55年2月1日。
以下,この刊行物を「乙4刊行物」という 。)
d 特公平2−4678号公報( 乙5 。公告日:平成2年1月30日 。以下 ,
この刊行物を「乙5刊行物」という 。)
e 特開平9−79442号公報(乙6。公開日:平成9年3月25日。以
下,この刊行物を「乙6刊行物」という 。)
f 特公平4−11640号公報 乙18の6 。
( 公告日:平成4年3月2日 。
以下,この刊行物を「乙18の6刊行物」という 。)
g 特公昭57−39079号公報(乙18の3。公告日:昭和57年8月
19日。以下この刊行物を「乙18の3刊行物」という 。)
ア 乙2刊行物を主引用例とする主張
(ア) 乙2刊行物記載の発明(以下「乙2発明」という 。)
乙2刊行物には,管内のメッキ液供給方向に沿って多数の噴出孔37
を形成され,これらの噴出孔37をメッキ液用タンク14内のメッキ液
内に配設されるように設置され,分岐配管に立設状態に取り付けられた
ノズル管36と,当該ノズル管36を分岐配管を介して前記メッキ液用
タンク14外に設置された循環装置38と接続するメッキ液供給配管
と,前記メッキ液用タンク14内のメッキ液内に吸込み口を配設され,
他端側を前記循環装置38に接続されたメッキ液回収配管とを備え,前
記ノズル管36の噴出孔37からメッキ液をメッキ処理される製品8に
向けて噴出するように構成されたメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置
が記載されている。
乙2刊行物には分岐配管について明記されていないものの,多数のノ
ズル管36に対して,メッキ液循環装置38からメッキ液を供給し回収
する場合,分岐配管を使用することは常套手段であり,乙2刊行物のノ
ズル管36は分岐配管から分岐されたものであると理解できる。
(イ) 第2特許発明と乙2発明との相違点
乙2発明は,以下の構成が開示されていない点で,第2特許発明と相
違する。
〔相違点1〕
「噴出孔から噴出されるメッキ液の噴出方向をノズル管の管周り方
向の任意な位置に向けられるよう」にするという構成
〔相違点2〕
「ノズル管の管端部を分岐配管に螺着状態に取付けた」という構成
(ウ) 相違点の検討
a 相違点1について
乙3刊行物及び乙4刊行物には,エッジング液,現像液,酸化被膜
処理液などの処理液の噴出方向を,ノズル管の管周り方向に回転しな
がら,製品に供給して処理を行い,均一な被膜を形成することが開示
されており ,乙5刊行物には ,メッキ液による表面処理に当たり , 管
「
状容器8をその縦軸11を中心に適当に回転する」ことが開示されて
いる 。乙2発明のノズル管36に ,均一なメッキ皮膜を形成するため ,
同様に均一な表面処理をするための手段である乙3ないし乙5刊行物
に記載された公知又は慣用技術を適用して ,「噴出孔から噴出される
メッキ液の噴出方向をノズル管の管周り方向の任意な位置に向けられ
るよう」に回転する構成とすることは,当業者が容易に想到できたも
のである。
b 相違点2について
乙6刊行物には ,「螺着」構造を採用しつつ ,「管周り方向」に難
なく回転させ,目的の「位置に向けられるよう」にした構造が開示さ
れている。乙6刊行物はノズル管に関するものではないが,液の流れ
に対する継手構造を開示するものであるから,乙2発明のノズル管3
6を分岐配管と接続する際の継手構造として乙6刊行物記載の螺着構
造を採用し,管周り方向に回転させ目的の位置に向けられるようにす
ることは,当業者が容易に想到できたものである。
イ 乙18の6刊行物を主引用例とする主張
(ア) 乙18の6刊行物記載の発明(以下「乙18の6発明」という 。)
乙18の6刊行物には,管10内のメッキ液供給方向に沿って多数の
噴出孔15を形成され,これらの噴出孔をメッキ液用タンク1内のメッ
キ液内に配設されるように設置されたノズル管10と,当該ノズル管1
0を分岐配管12を介して設置されためっき液供給ポンプ(図示されて
いない)と接続するメッキ液供給配管とを備え,前記ノズル管10の噴
出孔15からメッキ液をメッキ処理される製品3に向けて噴出するよう
に構成されたメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置であり,前記ノズル
管10を,メッキ処理される製品3の移送方向に沿って併設された前記
分岐配管12から分岐され,当該分岐配管12に所要の間隔をおいて立
設状態に並設し,且つメッキ処理される製品3を介して立設状態に対設
させたものにおいて,前記分岐配管12に立設状態に取付けられた前記
ノズル管10を,当該ノズル管10に形成された噴出孔15から噴出さ
れるメッキ液の噴出方向を該ノズル管10の管周り方向の任意な位置に
向けられるよう当該ノズル管の管端部を前記分岐配管12に取付けたこ
とを特徴とするメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置が記載されてい
る。
(イ) 第2特許発明と乙18の6発明との相違点
乙18の6発明は,以下の構成が開示されていない点で,第2特許発
明と相違する。
〔相違点X〕
メッキ液の循環構成(具体的には ,「当該ノズル管を分岐配管を介し
て前記メッキ液用タンク外に設置された循環ポンプと接続するメッキ液
供給配管 」,及び「前記メッキ液用タンク内のメッキ液内に吸込み口を
配設され,他端側を前記循環ポンプに接続されたメッキ液回収配管」を
備える構成)
〔相違点Y〕
「ノズル管の管端部を分岐配管に螺着状態に取付けた」という構成
(ウ) 相違点の検討
a 相違点Xについて
乙18の6発明において,設置された「めっき液供給ポンプ 」(図
示されていない)と分岐配管12とが接続され,メッキ液がメッキ液
用タンク内に供給されるのであるから ,「メッキ液供給配管」が設け
られることは当然の事項であり ,乙2刊行物にも示されているように ,
メッキ液を循環させることはメッキの分野における汎用技術であるか
ら,「めっき液供給ポンプ」を「循環ポンプ」とし,供給したメッキ
液を回収するために「メッキ液用タンク内のメッキ液内に吸込み口を
配設され,他端側を前記循環ポンプに接続されたメッキ液回収配管」
を設けることは当業者が行う設計事項にすぎない。
このように,相違点Xは,当業者にとって周知の技術を適用するに
すぎない,あるいは乙2刊行物などに開示の汎用技術であるから,当
業者が容易に想到できたものである。
b 相違点Yについて
相違点Yの構成は,乙6刊行物,乙18の3刊行物,乙4刊行物に
記載されているように周知技術であり,この周知技術を乙18の6発
明に適用することは,当業者が容易に想到できたものである。
〔原告らの主張〕
進歩性欠如についての被告らの主張は,否認ないし争う。
ア 乙2刊行物を主引用例とする主張について
(ア) 乙2刊行物には , 噴出孔37 」と「 ノズル管36 」との記載はなく ,
「
これらは「めっき液噴流ノズル37」と「めっき液噴流装置36」であ
る。「めっき液噴流ノズル37」を第2特許発明の「管内のメッキ液供
給方向に沿って形成された多数の噴出孔」と解する余地はなく ,「めっ
き液噴流装置36」についても,第2特許発明の「ノズル管」と理解す
ることは間違いである。
(イ) 乙3刊行物記載の発明は,処理液(現像液)を空気中においてスプレ
ーし ,スプレー中はスプレーパイプを機械的に回動し続けるものであり ,
乙4刊行物記載の発明も,空気中においてノズルから処理液を噴出し,
処理液噴出中は液噴出パイプを機械的に回動し続けるものであって,こ
れらは第2特許発明における処理液中における噴流とは別次元のもので
あり,技術分野の関連性,課題の共通性,作用・機能の共通性がなく,
容易想到性の根拠とはなり得ないものである。また,メッキ処理液の供
給は,メッキ液を撹拌する役目も果たしており,噴出孔を好ましい方向
に調整してノズル管を取り付けた後は,ノズル管を回動させないもので
ある。
したがって,スプレー又は噴出中に機械的に回動するような構成のも
のは,第2特許発明のようなメッキ液処理用の供給用として使用するこ
とができない。
(ウ) 乙5刊行物記載の「管状容器8」は第2特許発明の「分岐配管」に対
応し,同じく「ノズル7」は分岐配管に取り付けられた「ノズル管」に
相当するが ,乙5刊行物記載の発明においては ,第2特許発明のように ,
「ノズル管」の取付状況を変えて「多数の噴出孔」の向きを任意の位置
に向けられるというものではない。
(エ) 乙6刊行物の記載において,給水栓の継手に「ネジ」があるといって
も,それは単なる接続のためのものであって ,第2特許発明における メ
「
ッキ液の噴出方向を任意な位置に向けられる」ようにするためのものと
は技術的意義が相違する。
(オ) 被告らは,第2特許発明の技術的手段及び乙2ないし乙6刊行物に記
載された技術的内容につき間違えた理解をしており,乙2発明に乙3な
いし乙6刊行物記載の技術内容を適用することはできないから,当業者
が第2特許発明に容易に想到することはできない。
イ 乙18の6刊行物を主引用例とする主張について
(ア) 乙18の6発明は,第2特許発明とは目的及び技術環境を異にし,被
告らが構成の同一性を主張するめっき液噴出口の形態も目的も異なるも
のであって,主引用例としての技術的同一性を欠くものである。
すなわち,被告らが「噴出孔15」であると主張するのは ,「パイプ
にその長手方向に延びるスリット状もしくは孔状のめっき液噴出口」で
あり,その噴出口からは「膜状めっき液噴流が噴出する」ものである。
膜状噴流では ,「スルーホール部やブラインドビアホール部に他の製品
表面と同様な均一なメッキ皮膜を形成する」という第2特許発明の効果
が得られない。
(イ) 乙18の6発明の技術前提は,単品の板状ワークを垂直又は傾斜姿勢
でめっき液に浸け,めっきタンク内で揺すったり,往復運動させたりし
て「ワーク表面全体に新鮮なめっき液が常に接触し,短時間で充分な厚
さのめっきがワーク表面全体に均等に施される」もので,その「めっき
液噴出口15」と第2特許発明における「噴出孔2」とは,設定目的,
形態,作用効果が異なるものである。
( 3) 第3特許権について
〔被告らの主張〕
ア 進歩性欠如(特許法29条2項)
(ア) 第3特許発明は,第3特許の出願日より前に頒布された刊行物である
下記の各刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,第3特許は,特許法29条2項に違反
し,特許無効審判により無効にされるべきものであり,特許法104条
の3第1項により,原告藤本は被告らに対し,第3特許権の侵害を理由
とする損害賠償請求を行うことはできない。以下詳述する。
a 特開平5−311496号公報(乙11の1。公開日:平成5年1
1月22日 。以下 ,この刊行物を「 乙11の1刊行物 」という 。なお ,
乙11の1は乙9の3と同じものである 。)
b 特開平10−168600号公報(乙11の2。公開日:平成10
年6月23日。以下,この刊行物を「乙11の2刊行物」という。な
お,乙11の2は乙9の1と同じものである 。)
c 特開平10−158896号公報(乙11の3。公開日:平成10
年6月16日。以下,この刊行物を「乙11の3刊行物」という。な
お,乙11の3は乙9の2と同じものである 。)
d 特開昭60−202043号公報(乙11の4。公開日:昭和60
年10月12日 。以下 ,この刊行物を「 乙11の4刊行物 」という 。)
e 実願昭55−70374号(実開昭56−173668号)のマイ
クロフィルム(乙11の5の4∼20枚目。公開日:昭和56年12
月22日。以下,この刊行物を「乙11の5刊行物」という。なお,
乙11の5は乙9の4と同じものである 。)
f 特公昭61−32211号公報(乙11の6。公告日:昭和61年
7月25日。以下,この刊行物を「乙11の6刊行物」という 。)
g 米国特許第5558757号明細書(乙11の7。発行日:199
6年(平成8年)9月24日。以下,この刊行物を「乙11の7刊行
物」という。なお,乙11の7は乙9の5と同じものである 。)
(イ) 乙11の1刊行物記載の発明(以下「乙11の1発明」という 。)
乙11の1刊行物には,被処理物を垂直状態に保持してめっきタンク
12内を搬送するめっき装置において,被処理物の保持とめっき電流の
給電を行うワークキャリア2(搬送用ハンガー ),ワークキャリア2を
懸架してめっき電流を給電するめっき槽搬送手段であるワークレール1
3及び無端チェーン14にワークレール13上のワークキャリア2に係
合するプッシャ15,前処理ゾーン1から表面処理ゾーンへワークキャ
リア2を前進させ,めっき槽搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持し
て取り付ける位置決め搬送手段を有し,基部が一定ピッチで枢着された
プッシャ15によって,ワークキャリア2を一定の速度で搬送した状態
で,一定の間隔を保持し,次の被処理物を取り付けたワークキャリア2
をワークレール13及びプッシャ15によって,前記一定の間隔で搬送
しながらめっき処理することを特徴とするめっき装置が記載されてい
る。
(ウ) 第3特許発明と乙11の1発明との相違点
乙11の1発明は,以下の構成が開示されていない点で,第3特許発
明と相違する。
〔相違点甲〕
前処理ゾーンにおける搬送用ハンガーの移送が「 前処理コンベア 」 一
(
定の場所で循環しているベルトや鎖で物体を輸送する装置)で行われる
構成
〔相違点乙〕
前処理ゾーンでの移送手段から搬送用ハンガーを「取り外し」て,め
っき槽ゾーンでの移送手段に搬送用ハンガーを「取り付ける」構成
〔相違点丙〕
めっき槽ゾーンにおける被処理物の間隔を「めっき厚さに不均一を生
じない大きさに保持」する構成
(エ) 相違点の検討
a 相違点甲について
乙11の4ないし6刊行物には,前処理工程におけるワークキャリ
ア等の搬送機構としてのコンベア機構が記載されており,乙11の1
発明の「前処理ゾーン」における搬送機構として,これらの刊行物に
記載されているコンベア搬送機構を採用することは慣用手段の置換に
すぎず,当業者が容易に想到できたものである。
b 相違点乙について
乙11の4刊行物には,前処理コンベアである基板供給部5から基
板Pを取り外し,定速搬送手段へ取り付けることによって搬送するこ
とが記載されおり,また,乙11の6刊行物には,槽仕切を乗り越え
て移送できるようになっており,移送ラインのレール15より挿脱す
るように移動機構を構えていることが記載されていることから,乙1
1の1発明の前処理ゾーンにおける搬送機構において,ワークキャリ
アの「取り外し」及び「取り付け」の手段を設けることは,当業者が
容易に想到できたものである。
c 相違点丙について
被処理物の搬送に際しての「間隔」を,メッキ品質を均一化及び安
定化するための「間隔」に選定することは,メッキ処理分野の当業者
が日常的に行う事項であり,また,乙11の7刊行物には ,「ワーク
ピース端部」の間隔幅は「 a1, a2, a3 という距離を有して離れてい
る。実際には, a1 等の距離は,比較的小さく保つべきである 」 「そ
,
うしなければある距離をおいて互いに向い合せになるワークピース端
部3′及び3″の K” “ A”
“ と と書かれたエリアは金属が沈積( deposit)
するため,いわゆる「ドッグ・ボーン効果」と呼ばれる厚肉部分を有
してしまうからである」と記載されていることから,めっき槽ゾーン
における被処理物の間隔を「めっき厚さに不均一を生じない大きさに
保持」することは,当業者が容易に想到できたものである。
イ 拡大先願(特許法29条の2)
第3特許発明は,第3特許権の出願日より前の他の特許出願であって,
第3特許の出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書及
び図面に記載された発明(特開平11−61495号公報(乙11の8。
以下「乙11の8刊行物」という 。)に記載された発明。出願人:原告丸
仲,出願日:平成9年8月21日,公開日:平成11年3月5日 。)と同
一であるから,第3特許は,特許法29条の2に違反し,特許無効審判に
より無効にされるべきものであり,特許法104条の3第1項により,原
告藤本は被告らに対し,第3特許権の侵害を理由とする損害賠償請求を行
うことはできない。
乙11の8刊行物には,第3特許発明の構成要件がすべて記載されてい
る。
〔原告らの主張〕
ア 進歩性欠如(特許法29条2項)
進歩性欠如についての被告らの主張は,否認ないし争う。
(ア) 乙11の1刊行物には,ワークキャリア2の下部に「被処理物を垂直
状態に保持してめっき槽内を搬送する」という移送機構は記載されてい
ない。
(イ) 乙11の1刊行物に記載された装置は,もともと「めっき装置」では
なく ,「自動表面処理装置における移し換え移送機構」であるから,表
面処理がメッキ処理を含むとしても,ワークキャリア2に給電機能を持
たせるか否かは別問題であり,ワークキャリア2に給電機能を持たせる
旨の記載はないから,乙11の1発明は ,「被処理物の保持とめっき電
流の給電を行う搬送用ハンガー」の構成を欠く。
(ウ) 乙11の1刊行物には ,「前処理コンベアから搬送用ハンガーを取り
外し,めっき槽搬送手段よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき
槽搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送
手段」の構成について記載されていない。
イ 拡大先願(特許法29条の2)
乙11の8刊行物に記載された発明は ,「横向きで直列にした搬送状態
で搬送される前記シート状短冊製品(W)の製品下端部を該製品下端部に
電流が集中されないように遮蔽する遮蔽板(10)をメッキ処理タンク
(3)内に設け,…遮蔽板(10)をシート状短冊製品(W)の下端部の
高さ位置に対応して昇降可能に構成」することによって,均一メッキ処理
を可能にした電気メッキ処理システムの発明であり,第3特許発明とは異
なる。
4 争点( 4)(第2特許権,第3特許権についての先使用による通常実施権)に
ついて
(1) 被告らの主張
仮に ,被告物件が第2特許権 ,第3特許権の技術的範囲に属するとしても ,
被告アルメックスは,第2特許,第3特許の各出願日(平成12年12月1
日,平成11年2月5日)以前に,被告物件と同一のメッキ装置(以下「先
行品」という 。)に具現化された発明を完成させ,第2特許権との関係では
発明の実施である事業を行っており(訴外会社に先行品を販売 ),第3特許
権との関係では発明の実施である事業の準備を行っていた(訴外会社に先行
品の設計図等を提示し,製造設備等の製造を開始)ことから,第2特許権,
第3特許権について先使用による通常実施権を有する。
被告PEは,会社分割により被告アルメックスのプラントエンジニアリン
グ事業部の事業に関わる権利義務を一般承継したものであるから,被告アル
メックスの第2特許権,第3特許権についての先使用による通常実施権を承
継した。
被告物件は,先行品に具現化された発明と同一性を失わない範囲内のもの
であるから,上記先使用権の効力は被告物件にも及び,被告らは,第2特許
権,第3特許権について先使用による通常実施権を有する。
(2) 原告らの主張
特許法94条には特許法79条による先使用による通常実施権は含まれて
いないので,被告PEが先使用による通常実施権を譲り受ける余地はなく,
被告PEの主張には理由がない。
仮に,先使用による通常実施権の譲渡が認められるとしても,これを第三
者に対抗するためには特許法99条3項による移転登録が必要であるから,
移転登録を備えていない被告PEは第三者である原告らに対抗できない。
また,被告らの主張する先行品は,いずれも第2特許権,第3特許権の本
質的特徴部分の構成を有していないため,先使用権が認められるとしてもそ
の効力は発明の同一性の範囲内にない被告物件には及ばない。
5 争点( 5)(損害額)について
(1) 原告丸仲の損害額
〔原告らの主張〕
ア 被告アルメックスは ,平成14年8月ころより平成18年10月2日 会
(
社分割日)ころまでに被告物件を少なくとも58基製造販売し,その売上
金額の合計は少なく見積もっても85億1700万円に達する。
被告PEは,会社分割後の平成18年12月ころより現在まで被告物件
を少なくとも15基製造販売し,その売上金額の合計は少なく見積もって
も31億9000万円に達する。
当業界における特許権の実施許諾において通常行われている実施料額
は,売上金額より梱包費及び運賃を控除した金額に実施料率の4%を乗じ
て算定する。
被告アルメックスが製造販売した被告物件の上記売上金額に対する平均
的な梱包費及び運賃を原告丸仲の例から算定すると6713万5000円
であり,被告PEが製造販売した被告物件の上記売上金額に対する平均的
な梱包費及び運賃を原告丸仲の例から算定すると3155万円である。
イ よって,原告丸仲は,被告らに対し,連帯して,自己が受けた損害の額
として,3億3799万4600円( 85億1700万円−6713万
〔
5000円 〕×4% )の賠償を請求することができる 会社分割前の損害 )
( 。
また,原告丸仲は,被告PEに対し,自己が受けた損害の額として,1
億2633万8000円( 31億9000万円−3155万円 〕×4% )
〔
の賠償を請求することができる(会社分割後の損害 )。
〔被告らの主張〕
否認ないし争う。
( 2) 原告藤本の損害額
〔原告らの主張〕
ア 被告アルメックスは ,平成12年1月ころより平成18年10月2日 会
(
社分割日)ころまでに被告物件を少なくとも63基製造販売し,その売上
金額の合計は少なく見積もっても90億3000万円に達する。
被告PEは,会社分割後の平成18年12月ころより現在まで被告物件
を少なくとも15基製造販売し,その売上金額の合計は少なく見積もって
も31億9000万円に達する。
当業界における特許権の実施許諾において通常行われている実施料額
は,売上げ金額より梱包費及び運賃を控除した金額に実施料率の4%を乗
じて算定する。
被告アルメックスが製造販売した被告物件の上記売上金額に対する平均
的な梱包費及び運賃を原告藤本の例から算定すると7092万円であり,
被告PEが製造販売した被告物件の上記売上金額に対する平均的な梱包費
及び運賃を原告藤本の例から算定すると3155万円である。
イ よって,原告藤本は,被告らに対し,連帯して,自己が受けた損害の額
として,3億5836万3200円( 90億3000万円−7092万
〔
円〕×4%)の賠償を請求することができる(会社分割前の損害 )。
また,原告藤本は,被告PEに対し,自己が受けた損害の額として,1
億2633万8000円( 31億9000万円−3155万円 〕×4% )
〔
の賠償を請求することができる(会社分割後の損害 )。
〔被告らの主張〕
否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原告らが本訴請求の根拠とする第1ないし第3特許発明は,そ
れぞれの出願前に頒布された刊行物等により,当業者(その発明の属する技術
の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明をすることができたもの
であるから,第1ないし第3特許権は,特許法29条2項に違反し,特許無効
審判により無効にされるべきものであり,特許法104条の3第1項により,
特許権者である原告らはその権利を行使することができないと判断する。その
理由は,以下に述べるとおりである。
2 第1特許の進歩性欠如(争点(3)ア(ア))について
(1) 乙9の1刊行物の記載
第1特許の出願前に頒布された刊行物である乙9の1刊行物には,以下の
記載がある。
①「 発明の属する技術分野】本発明は,電気めっき処理装置において,め
【
っき処理されるワークを支持するジグと通称されるワーク支持具の改良に
関する 。 (段落【0001 】
」 )
②「 従来の技術】電気めっき処理装置において,ジグと通称されているワ
【
ーク支持具は,めっき処理されるワークを支持する機能と,電流を陰極バ
ーからワークに通電する機能をもつものである。このワーク支持具は,陰
極バーに吊り下げられる断面略コ字状の極棒接続部をもつハンガー部と,
このハンガー部の下方に設けられたワーク取付け部とから構成されてい
る 。 (段落【0002 】
」 )
③「 発明の実施の形態】…ワーク支持具1は,陰極バー2に吊り下げられ
【
る断面略コ字状の極棒接続部3をもつハンガー部4と,このハンガー部4
の下方に設けられたワーク取付け部5とから構成される。前記ワーク取付
け部5は,シート形状のワークWの上端部の一面側を支承できる一対のワ
ーク支承部6,6をもつ固定支承部材7と,該固定支承部材7に固着され
た一対の押さえクランプ8,8と,該押さえクランプ8,8を介して前記
固定支承部材7に開閉自在に取付けられシート形状のワークWの上端部の
他面側を押圧できる一対のワーク押さえ部9,9をもつ可動押さえ部材1
0,10とから構成される 。 (段落【0009 】
」 )
④「各ワーク支承部6,6は前記陰極バー2からの電流を前記ハンガー部4
を介してワークWへ通電するための通電部としている。このように,前記
陰極バー2からの電流を前記ハンガー部4と前記固定支承部材7(支持板
部材12,支持片部材13,13)を介して前記各ワーク支承部6,6か
らワークWへと通電できるように,これらの素材は銅などの導電性素材で
構成される 」(段落【0010 】)
⑤「なお,前記ハンガー部4の極棒接続部3の上部には,ワーク支持具1を
陰極バー2に沿って移送するため送り爪(図示せず)に係合される係止体
17を突設してある。なお,図1において符号Aは液面を示している 。」
(段落【0010 】)
⑥「 発明の効果】本発明のワーク支持具は,シート形状のワークを確実に
【
支持でき,且つ電流を陰極バーからワークへ確実に通電できる。このよう
に,シート形状のワークを確実に支持でき,且つ電流を陰極バーからワー
クへ確実に通電できるようにしたことによって,めっき処理の全工程が終
了するまで振動や移動によっても,ワークの外れ,ワークの破れ,ワーク
の歪み,ワークに対する通電不良等がなく,めっき製品の品質安定化を期
待できる。…また,本発明のワーク支持具は,めっき液中にワークを支持
するための必要以上の支持具物品を投入する必要がないため,ワーク支持
具へのめっき液の付着を大幅に改善でき,めっき液の他槽からの持込みや
他槽への持出しによる処理液の混入を大幅に防止できる 」(段落【001
7】)
(2) 乙9の1発明の内容
上記(1)の記載から,乙9の1刊行物には,少なくとも以下の構成を有す
る発明(以下「乙9の1発明」という 。)が開示されていると認められる。
「ワーク支持具により支持されたワークを,ワーク支持具上部に突出して設
けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送させ,陰極バ
ーからの電流をワークに通電することによって,めっき槽内でめっき処理す
る電気めっき処理装置」
(3) 第1特許発明と乙9の1発明との対比
第1特許発明と乙9の1発明を対比すると ,乙9の1発明の「 ワークW 」,
「ワーク支持具1 」 「陰極バー2」は,第1特許発明の「シート状短冊製
,
品(W ) ,
」 「治具(2 ) ,
」 「メッキ処理部用レール軌道(1 )」にそれぞれ相
当するから,第1特許発明と乙9の1発明との一致点及び相違点は以下のよ
うに認められる。
〔一致点〕
「陰極バーとして機能するメッキ処理部用レール軌道に横移動自在に支持
された治具によって,メッキ処理されるプリント基板などのシート状短冊
製品の製品上部を懸垂状態に挟持し,前記メッキ処理部用レール軌道から
治具を介して製品上部で給電してメッキ処理タンク内の処理液中に搬送さ
せながら電気メッキするメッキ処理工程をもつ電気メッキ処理システム 。」
である点
〔相違点1〕
第1特許発明では,構成要件1(あ)において,メッキ処理タンク内の処
理液中に複数の製品を横向きで直列した搬送状態で搬送させながら電気メ
ッキする構成となっているが,乙9の1発明では,複数の製品を横向きで
直列した状態で搬送させながら電気メッキする構成が開示されていない点
〔相違点2〕
第1特許発明では,構成要件1(え)及び(お)において,シート状短冊製
品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い
間隙幅となるような所定の送りピッチで搬送する構成となっているが,乙
9の1発明では,各被処理物の間隔につき開示されていない点
〔相違点3〕
第1特許発明では ,シート状短冊製品を挟持した治具の搬送方法として ,
構成要件1(い)ないし(お)によって特定される,係合爪,歯付きベルト,
これらを係合するシステムを採用する構成となっているが,乙9の1発明
では,治具(ワーク支持具)上部に突出して設けられた係止体を送り爪に
係合させてメッキ処理部用レール軌道(陰極バー)に沿って移送させるこ
とが開示されるのみで,係合爪の形態,係合態様や搬送方法についての構
成が開示されていない点
(4) 相違点についての判断
そこで,上記相違点1ないし3に係る構成について,当業者が容易に想到
できたものであるか否かについて検討する。
ア 相違点1について
(ア) 乙9の2刊行物には,以下の記載がある。
①「本発明の目的は,このような問題点を解決することにあり,装置を
小型化できると共にメッキ処理を安定させて不良を防止することが可
能なプッシャタイプのメッキ処理装置を提供することにある 。 (段
」
落【0007 】)
②「このメッキ処理装置1は,被メッキ物10を保持した状態で第1メ
ッキ手段13内又は第2メッキ手段14内で移動可能な複数の保持手
段15と,これらの保持手段15を押圧して所定の距離だけ移動させ
る第1プッシャ手段16及び第2プッシャ手段17と,…を備えてい
る 。 (段落【0012 】
」 )
③「第1メッキ手段13は,メッキ槽12内に直線状に配置した第1陽
電極20に沿って被メッキ物10を水平移動させることによってメッ
キ処理を施すようになっている 。 (段落【0014 】
」 )
④被メッキ物10は,搬送方向に対して横向きで直列した状態で搬送さ
れる 。(6頁【図1】及び【図3 】)
(イ) 以上の記載からすると,メッキ処理タンク内の処理液中にそれぞれ支
持具に支持された複数の製品を横向きで直列した搬送状態で搬送させな
がら電気メッキする技術思想は,第1特許出願前において開示されてい
たことが認められる。
そうすると,乙9の1発明において,めっき槽内の処理液中において
ワークを移送させながら電気メッキするに当たり,上記の技術思想を適
用して,複数のワークを横向きで直列した状態で搬送させることは,技
術分野が共通であり,品質の安定化という技術課題も共通であることか
ら,当業者であれば容易に行い得るものというべきであって,当業者は
相違点1に係る構成を容易に想到できたものと認められる。
イ 相違点2について
(ア) 乙9の5刊行物(乙11の7刊行物)には,以下の記載がある。
①「本発明は,第1に,浴( bath)内に陰極レール又は陰極フレーム
において間隔をあけて1列に配列されたワークピース上になされる電
解コーティングを向上させるプロセスに関する,これにより,陰極処
理電流はワークピースの上記列の方向に平行にある上記レール又は上
記フレーム内を流れる 。 (1欄6∼11行目の訳文)
」
②「上述の3′及び3″は各々 a1, a2, a3 という距離を有して離れて
いる。実際には, a1 等の距離は,比較的小さく保つべきである。そ
うしなければある距離をおいて互いに向い合わせになるワークピース
端 部 3 ′ 及 び 3 ″ の “ K ” と “ A” と 書 か れ た エ リ ア は 金 属 が 沈 積
(deposit)するため,いわゆる「ドッグ・ボーン効果」と呼ばれる厚肉
部分を有してしまうからである 。 (3欄46∼51行目の訳文)
」
(イ) 以上の記載から,乙9の5刊行物(乙11の7刊行物)には,浴内で
陰極レール(1)又は陰極フレームにおいて間隔を空けて交互に1列に
配列されたワークピース(3)上になされる電解コーティングを向上さ
せる工程に関し,各ワークピースの間隔を小さく保つことで「ドッグ・
ボーン効果」と呼ばれる両端部近傍のメッキ厚さが肉厚となる現象の発
生を抑える技術が開示されていることが認められ,一定の間隔に保持さ
れた各被処理物の間隔を設定するに当たり,被処理物の両端近傍のメッ
キ厚が肉厚とならないようにするためにその間隔を小さくすべきこと
は,第1特許出願前におけるメッキ処理という技術分野における公知の
解決手段であったということができる。
そうすると,乙9の1発明において,めっき槽内の処理液中において
複数のワークを搬送させながら電気メッキするに当たり,上記の公知の
解決手段を適用して,ワークの横向き間隔を各ワークの側端部に電流が
過度に集中されない所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチで
移送することは,技術分野が共通であり,均一なメッキ膜を形成し品質
の安定化を図るという技術課題も共通であることから,当業者が容易に
行い得るものというべきであって,当業者は相違点2に係る構成を容易
に想到できたものと認められる。
ウ 相違点3について
(ア) 乙9の6刊行物には,以下の記載がある。
①「チェンコンベアにより物体を搬送するものにおいて,上記被搬送物
体には上記チェンコンベアに係合する爪と,上記被搬送物体が搬送中
に障害物に当るとき,上記爪を蹴って上記爪と上記チェンコンベアと
の係合をはずすロッドとを設けたことを特徴とする搬送装置 。 (明
」
細書1頁5∼10行目)
②「この考案はパレット等の被搬送物体の搬送中にスリップを生ずるこ
となく正確な搬送がなされ…るようにした搬送装置の改良構造に関す
るものである 。 (明細書1頁12∼16行目)
」
③「この考案はチェンコンベアを使用し,パレットにはこのチェンコン
ベアに係合する爪を設けて搬送速度をコンベア速度に等しくする…よ
うにした搬送装置を提供しようとするものである 。 (明細書2頁4
」
∼10行目)
④「以下この考案の一実施を図について説明すると,第1図は平面図,
第2図は正面断面図,第3図はパレットが障害物に当った場合を示す
正面断面図である。図において,(1)は矢印(10)方向へ動くチェン
コンベア,(2)はパレット滑送面,(3)はパレットである。(4)は一
端が上記パレット(3)に軸(5)で枢着され,他の一端が上記チェンコ
ンベア(1)のチェンローラ(8)に係合する爪,(6)は一端が上記パレ
ット(3)の進行方向に突出し,他の一端が上記爪(4)の側部に当たる
ように上記パレット(3)に軸受け(7)で支承されたロッド,(9)は障
害物である。今,チェンコンベア(1)にパレット(3)を積層すれば,
爪(4)は重力により軸(5)を中心に図で時計方向に回転し,矢印(1
0)方向に移動してくるチェンコンベア(1)のチェンローラ(8)に係
合し,チェン(1)の移動速度と全く同一速度でパレット(3)は搬送さ
れる 。 (明細書2頁11行目∼3頁6行目)
」
⑤上記爪は,パレットに固定された軸を中心に時計回りで回転し,爪の
下端部は,爪の上端の軸により支えられている部分に対して進行方向
からみて後退した位置でチェンローラに係合し ,上記チェンローラは ,
チェンコンベアに等間隔で設けられている(第2図 )。
(イ) 以上の記載から,乙9の6刊行物には,パレットに軸により支えられ
て上端部が枢着された爪の下端部が,重力によって軸を中心に時計回り
方向に回転し,爪の上端の軸により支えられている部分に対して進行方
向から見て後退した位置でチェンコンベアに等間隔に設けられたチェン
ローラに係合し,これにより,チェンコンベアと等速度でパレットを移
送する搬送システムについての技術思想が開示されていたと認めること
ができる。
そして,乙9の6刊行物に開示された技術思想における「爪 」 「チ
,
ェンコンベア 」及びこれらの係合システムは ,第1特許発明における 係
「
合爪 」 「歯付きベルト」及びこれらの係合システムと同様の機能・構
,
造を有するものと認められる。
そうすると,乙9の1発明において,ワーク支持具により支持された
ワークを,ワーク支持具上部に突出して設けられた係止体と送り爪とを
係合させて陰極バーに沿って移送させるに当たり,上記搬送システムを
適用することは ,搬送システムという技術分野が共通していることから ,
当業者が容易に行い得るものというべきであって,当業者は相違点3に
係る構成を容易に想到できたものと認められる。
(5) 原告らの主張について
原告らは,乙9の5刊行物には「所定の狭い間隔幅となるような所定の送
りピッチで間欠的に順次送られる」構成について記載がない旨主張するが,
上記(4)イで述べたとおり,乙9の5刊行物に,一定の間隔に保持された各
被処理物の間隔を設定するに当たり,被処理物の両端近傍のメッキ厚が肉厚
とならないようにするため,その間隔を小さく保つべきことが記載されてい
るから,原告らの主張には理由がない。
3 第2特許の進歩性欠如(争点(3)イ)について
(1) 乙18の6刊行物の記載
第2特許の出願前に頒布された刊行物である乙18の6刊行物には,以下
の記載がある。
①「ワーク保持機構により板状ワークを垂直又は傾斜姿勢でめつきタンク内
のめつき液に浸け,移動機構によりワークを水平かつその表面に沿う方向
に移動もしくは揺動(往復運動)させると共に,ワーク表面に沿って上下
に延びる複数のめつき液噴出パイプを上記ワーク移動方向に沿って並置
し,上記パイプにその長手方向に延びるスリット状もしくは孔状のめつき
液噴出口を設け,噴出口から膜状めつき液噴流が噴出するようにしたこと
を特徴とする板状ワークのめつき装置 。 (特許請求の範囲の請求項1)
」
②「ワーク表面に対する上記噴流の角度を変更できるように上記パイプの角
度位置を調整自在にしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の板
状ワークのめつき装置 」(特許請求の範囲の請求項2)
③「両方のアノード8とワーク3の間には垂直なめつき液噴出パイプ10が
設けてある。パイプ10の上端はワーク3の上縁と略同じ高さにあり,下
端はタンク底壁11上のめつき液供給パイプ12に接続し,又パイプ10
の外周にはワーク3側へ突出しためつき液噴出ノズル13がパイプ10の
略全長にわたって設けてある。ノズル13に設けられためつき液噴出口1
5はスリット状で,上下長さℓを有しており,ノズル13の略全長にわた
って延びている。なおパイプ12はめつき液供給ポンプ(図示せず)に接
続している 。 (1頁右欄13∼24行目)
」
④「パイプ12はワーク3の表面に沿って水平方向に長く延びており,各パ
イプ12上に多数のパイプ10が一定間隔を隔てて設けてある。図示の実
施例においてワーク3の両側のパイプ10,10はワーク3を挟んで第2
図で左右に対向している。図示されていない機構により,各パイプ10は
その中心線O(又は中心線Oと平行な垂直線)を軸にしてその角度位置を
矢印Rの如く調整できるようになっている 。 (2頁左欄8∼16行目)
」
⑤「なおワーク3を一方方向Fに連続的に移動させることもできる 。 (2
」
頁左欄27∼28行目)
⑥「ワーク表面に対する上記噴流の角度を変更できるようにパイプ10の角
度位置を調整自在にすると,種々のめつき条件に対応させてめつき液噴出
角を常に最適値に設定できる 。 (2頁右欄11∼14行目)
」
⑦「スリット状噴出口15に代えて,直列に配列された複数の孔状噴出口を
採用することもできる 。 (2頁右欄29∼30行目)
」
(2) 乙18の6発明の内容
上記(1)の記載から,乙18の6刊行物には,少なくとも以下の構成を有
する発明(以下「乙18の6発明」という 。)が開示されていると認められ
る。
「ワーク保持機構により板状ワークを垂直姿勢でめっきタンク内のめっき
液に浸け,移動機構によりワークを水平かつその表面に沿う方向に移動させ
るとともに,ワーク表面に沿って上下に延びる複数のめっき液噴出パイプを
上記ワーク移動方向に沿って並置し,同めっき液噴出パイプに直列に配列さ
れた複数の孔状のめっき液噴出口を設け,同噴出口からめっき液噴流が噴出
するようにした板状ワークのめっき装置であって ,同めっき液噴出パイプは ,
その下端においてめっき液供給パイプに接続されており,また,同パイプは
めっき液供給ポンプに接続されていること,そして,同めっき液噴出パイプ
は,その中心線を軸として角度を調整できるようになっており,これによっ
て,種々のめっき条件に対応してめっき液噴出角度を最適値に設定できるこ
とからなるめっき装置」
(3) 第2特許発明と乙18の6発明との対比
第2特許発明と乙18の6発明を対比すると,乙18の6発明の「板状ワ
ーク 」 「めっき液噴出口・めっき液噴出ノズル 」 「めっき液噴出パイプ 」
, , ,
「めっき液供給パイプ」は,第2特許発明の「メッキ処理される製品 」 「噴
,
出口 」 「ノズル管 」 「分岐配管」にそれぞれ相当するから,第2特許発明
, ,
と乙18の6発明との一致点及び相違点は以下のように認められる。
〔一致点〕
「管内のメッキ液供給方向に沿って多数の噴出孔を形成され,これらの噴出
孔をメッキ液用タンク内のメッキ液内に配設されるように設置されたノズル
管と,当該ノズル管を分岐配管を介して前記メッキ液用タンク外に設置され
たメッキ液供給ポンプと接続するメッキ液供給配管とを備え,
前記ノズル管の噴出孔からメッキ液をメッキ処理される製品に向けて噴出
するように構成されたメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置であり,
前記ノズル管を,メッキ処理される製品の移送方向に沿って併設された前
記分岐配管から分岐され,当該分岐配管に所要の間隔をおいて立設状態に並
設し,且つメッキ処理される製品を介して立設状態に対設させたものにおい
て,
前記分岐配管に立設状態に取り付けられた前記ノズル管を,当該ノズル管
に形成された噴出孔から噴出されるメッキ液の噴出方向を該ノズル管の管周
り方向の任意な位置に向けられるよう当該ノズル管の管端部を前記分岐配管
に取り付けたことを特徴とするメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置 。」で
ある点
〔相違点1〕
第2特許発明では,構成要件2(あ)②及び③において,メッキ液用タンク
内のメッキ液を循環ポンプによって循環させる構成となっているが,乙18
の6発明では,メッキ液を循環させる構成が開示されていない点
〔相違点2〕
第2特許発明では,構成要件2(え)②において,ノズル管の管端部を分岐
配管に螺着状態に取り付ける構成となっているが,乙18の6発明では,ノ
ズル管の管端部と分岐配管の取付状態についての構成が開示されていない点
(4) 相違点についての判断
そこで,上記相違点1,相違点2に係る構成について,当業者が容易に想
到できたものであるか否かについて検討する。
ア 相違点1について
(ア) 乙2刊行物には,以下の記載がある。
①「 発明の属する技術分野】本発明は,板状体を連続的に搬送しなが
【
らめっきを行うめっき装置及びめっき方法に関し,特にプリント基板
等の電子工業用の部品に対して精密なめっきが可能なめっき装置に関
する 。 (段落【0001 】
」 )
②「 課題を解決するための手段】…めっき槽内には,水平方向から被
【
処理物の方向へ傾斜した開口を形成したルーバーを有するめっき液ガ
イド,およびめっき液ガイドの開口部へめっき液を供給するめっき液
噴流装置を有する… 」(段落【0006 】)
③【発明の実施の形態】として ,「ルーバーの開口部35に向かってめ
っき液噴流装置36に設けためっき液噴流ノズル37からめっき液が
被処理物に斜めに供給される。めっき液噴流管には,めっき液循環装
置38からめっき液が供給される 。 (段落【0026 】
」 )
④めっき液循環装置38はめっき液噴流装置36及びめっき槽14と配
管で接続されている 。(7頁【図4 】)
(イ) 以上の記載から,乙2刊行物には,板状体を連続的に搬送しながらメ
ッキを行うメッキ装置において,メッキ液噴流ノズルから被処理物に供
給するメッキ液を,メッキ槽内のメッキ液をメッキ液循環装置によって
循環させることによって供給する技術思想が開示されていたと認めるこ
とができる。
そうすると,乙18の6発明において上記技術思想を参酌し,ワーク
に供給するメッキ液を循環させる構成とすることは,メッキ処理という
技術分野が共通しているため,当業者が容易に行い得るものというべき
であって,当業者は,相違点1に係る構成を容易に想到できたとものと
認められる。
イ 相違点2について
(ア) 乙6刊行物には,以下の内容の記載がある。
①給水栓と配管とを接続する給水栓継手に関するものであること( 課
【
題】)
②給水栓接続用のネジ孔を一端に有し,他端に雌ネジ部と円形孔部とか
ら成るスリーブ用孔を有するエルボ型の継手本体と,この継手本体の
スリーブ用孔に挿入される円筒状のスリーブ等を備えるものであっ
て,このスリーブは,その外周にスリーブ用孔の円形孔部に対応して
嵌合される円形外周面と,雌ネジ部に螺合される雄ネジを有している
こと( 解決手段 】
【 )
③継手本体は,給水栓取付け側端に蛇口等の給水栓の雄ネジが螺合する
ネジ孔を有し,他端には,スリーブを挿入するスリーブ用孔を有して
おり ,このスリーブ用孔は ,開口端側が雌ネジ部となっていること 段
(
落【0009 】)
④スリーブは,その外周に,スリーブ用孔の円形孔部に対応して嵌合さ
れる円形外周面を有するとともに,雌ネジ部に螺合される雄ネジを有
していること(段落【0010 】)
⑤エルボ型の継手は,全体としてコンパクトであるため,立ち上げて設
けられた配管に接続する際,配管と背後の躯体の隙間寸法が小さく,
近接していても,難なく回転させて取り付けることができること(段
落【0018 】)
(イ) 以上の記載から,乙6刊行物には,角度を任意に調整できる配管の接
続手段としての螺着構造の技術が開示されているということができ,ま
た,このような螺着構造は,配管の接続という技術分野において慣用的
な周知技術ということができる。
そうすると,乙18の6発明において,メッキ液噴出パイプ(ノズル
管)の管周り方向の角度を任意に調整するに当たり,同パイプの下端に
おいてメッキ液供給パイプ(分岐配管)に接続する手段として,上記の
周知技術を適用して螺着構造とすることは,当業者であれば容易に行い
得るものというべきであって,当業者は相違点2に係る構成を容易に想
到できたものと認められる。
(5) 原告らの主張について
原告らは,乙18の6発明は,第2特許発明とは目的及び技術環境を異に
し,被告らが構成の同一性を主張するめっき液噴出口の形態も目的も異なる
と主張する。
しかしながら,乙18の6発明はメッキ液噴出ノズルを有するメッキ装置
に関する発明であり,メッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置に関する発明で
ある第2特許発明と同一の技術分野に関する発明であることは明らかであ
り,また,前記(1)⑦で認定したように,乙18の6発明にも,スリット状
噴出口に代えて複数の孔状の噴出口を採用するとの技術が含まれており,メ
ッキ液噴出口の形態に相違は認められないため ,原告らの主張は理由がない 。
4 第3特許の進歩性欠如(争点(3)ウ(ア))について
(1) 乙11の1刊行物の記載
第3特許の出願前に頒布された刊行物である乙11の1刊行物には,以下
の記載がある。
①「 産業上の利用分野】本発明は,電気めっき,無電解めっき,化学研磨
【
等の表面処理を行う際に,一連の処理工程に沿って処理すべき物品を自動
的に移し換えて移送するための自動表面処理装置における移し換え移送機
構に関するものである 。 (段落【0001 】
」 )
②「 発明が解決しようとする課題】本発明は,前記従来の欠点を解消し,
【
前処理ゾーンおよび後処理ゾーンの複数タンクを備えた部分では間欠的移
送方式を採用し ,めっき等の表面処理ゾーンでは連続的移送方式を採用し ,
しかもこれら各処理ゾーン間の物品の移し換え移送を自動化し,常に均一
な表面処理を可能とし,表面処理装置の信頼性を高め,生産性の向上につ
ながる自動表面処理装置における移し換え移送機構を提供することを目的
としている 。 (段落【0004 】
」 )
③「 課題を解決するための手段】本発明は,昇降自在な間欠移送機構を備
【
えた前処理ゾーンと後処理ゾーンを並列配置し,これらの前処理ゾーンか
ら後処理ゾーンへの移送路間をそれらの下降限位置で連絡する移送路を設
けた表面処理ゾーンを連設し,該表面処理ゾーンに物品を移送路に沿って
移送するプッシャを上下方向に揺動自在に枢着した連続循環コンベヤを設
け,前記前処理および後処理ゾーンと表面処理ゾーンの連絡部近傍で,該
連続循環コンベヤの前記後処理ゾーン側から前記前処理ゾーン側に至る反
転走行位置付近に前記プッシャを上昇させ前処理ゾーン側の移送路に下降
させるガイドバーを配設したことを特徴とする自動表面処理装置における
移し換え移送機構である 。 (段落【0005 】
」 )
④「 実施例】本発明の一実施例を図1を参照して説明する。1は,複数の
【
前処理タンクを備えた前処理ゾーンで,物品(図示せず)を懸吊,保持し
たワークキャリヤ2が摺動するワークレール3 1 が備えられ,ワークレー
ル3 1 の上方にはワークレール3 1 に沿って所定範囲を前進,後退するテ
ィーバー4 1 が設けられ,これらは図示しない昇降機構で同時に昇降自在
となっており,ティーバー4 1 には前進時に必要なワークキャリヤ2に係
合してこれを前進させ,後退時には回動してワークキャリヤ2上を後退す
ることができる爪5 1 が一定ピッチで取り付けられている。また,この前
処理ゾーン1と並列して複数の後処理タンクを備えた後処理ゾーン11が
配置され,この後処理ゾーン11にも前処理ゾーン1と同様なワークレー
ル3 2 ,爪5 2 を取り付けたティーバー4 2 が設けられている 。( 段落【 0
」
008 】)
⑤「12は,めっきゾーンである連続したU字形のめっきタンクで,めっき
タンク12に沿ってワークレール13が配設され,ワークレール13の一
端は前処理ゾーン1のワークレール3 1 の下降限位置で連絡され,他端は
後処理ゾーン11のワークレール3 2 の下降限位置で連絡されるように固
定されている。めっきタンク12上には無端チェーン14が連続走行可能
に設けられ,この無端チェーン14にワークレール13上のワークキャリ
ヤ2に係合するプッシャ15の基部が一定ピッチで枢着され,プッシャ1
5は上下方向に揺動自在となっている。前処理ゾーン1および後処理ゾー
ン11とめっきタンク12の連絡部近傍で,無端チェーン14が後処理ゾ
ーン11側から前処理ゾーン1側に至る反転走行する位置付近には,走行
するプッシャ15を押し上げ前処理ゾーン1側で下降させるガイドバー1
6が配設され,無端チェーン14の前処理ゾーン1側付近には,ガイドバ
ー16で押し上げられて走行するプッシャ15を受け取り,前処理ゾーン
のティーバー4 1 がワークキャリヤ2を移送する動作に連動してプッシャ
15をワークレール13に下降させる昇降装置17が設けられている 。」
(段落【0009 】)
⑥「次に,移し換え移送のサイクルを図2∼6によって説明すると,図2は
前処理ゾーン1および後処理ゾーン11のワークレール3 1 ,3 2 および
ティーバー4 1 ,4 2 が下限位置まで下降してめっきタンク12のワーク
レール13と連絡されており,ティーバー4 1 ,4 2 が後進限にある状態
を示している。いま,図3のように,ティーバー4 1 ,4 2 が前進限まで
前進すると,爪5 1 によってワークキャリヤ2のAはワークレール3 1 か
らワークレール13へ移る一方,ワークキャリヤ2のXは引寄せ装置20
の爪5 3 によってワークレール3 2 に移る。次に,図4のように,ワーク
レール3 1 ,3 2 およびティーバー4 1 ,4 2 は上限まで上昇し,ティーバ
ー4 1 ,4 2 は後退限まで後退し,プッシャ15が昇降装置17(図2参
照)によりワークレール13上に下降し,ワークキャリヤ2のAに係合し
てこれを移送すると同時にワークキャリヤ2のXを離したプッシャ15が
ガイドバー16上を摺動して上昇する。次に,図5のように,ティーバー
4 1 ,4 2 は前進限まで前進し,爪5 1 によって前処理ゾーン1の次のワー
クキャリヤ2のBをめっきタンク12の上方に移送する一方,ワークキャ
リヤ2のXはティーバー4 2 の爪5 2 によって後処理ゾーン11の上方に
移送される。次いで,図6のように,ワークレール3 1 ,3 2 およびティ
ーバー4 1 ,4 2 は下限まで下降し,ティーバー4 1 ,4 2 は後退限に後退
する。このようなサイクルを繰り返して,間欠移送が行われる前処理ゾー
ン1および後処理ゾーン11と,連続移送が行われるめっきタンク13と
の移し換え移送が行われる 。 (段落【0011 】
」 )
(2) 乙11の1発明の内容
上記(1)の記載から,乙11の1刊行物には,少なくとも以下の構成を有
する発明(以下「乙11の1発明」という 。)が開示されていると認められ
る。
「被処理物を,前処理ゾーンからメッキ等の表面処理ゾーンへワークキャ
リアで懸吊保持した状態で搬送しつつ,メッキタンク内で被処理物を電気メ
ッキするメッキ装置であって,ワークキャリアを前処理ゾーンで搬送する前
処理コンベア,ワークキャリアを前処理コンベアから取り外し,めっき槽搬
送手段よりも高速にワークキャリアを移送し,めっき槽搬送手段に所定の間
隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段を有し,めっき槽搬送手段が一定
の速度で搬送した状態で,先にめっき槽搬送手段に取り付けられた被処理物
との間隔を一定の間隔に保持して,次の被処理物を取り付けたワークキャリ
アをめっき槽搬送手段に取り付けて搬送しながらめっき処理することを特徴
とするめっき装置」
なお,ワークキャリア2が前処理ゾーン1から表面処理ゾーンへ移し換え
られる段階で,間隔が一定ピッチで無端チェーン14に枢着されたプッシャ
15がワークキャリア2に係合することから,ワークキャリア2は位置決め
搬送されるといえる。
また,ワークキャリア2をワークレール3 1 からワークレール13へ移送
してプッシャ15に係合させる際に,一定速度で移動すると認められる無端
チェーン14に一定の間隔で取り付けられたプッシャ15に対し,それより
も速い速度でワークキャリアを移送するためにティーバー4 1 を作用させる
べきことは合理的に推認されるから,位置決め搬送に際し,前処理コンベア
から取り外したワークキャリアをめっき槽搬送手段よりも高速に移送するも
のと認めるのが相当であり,このことは,乙11の1の図2と図3における
ワークキャリアAとプッシャ15の位置関係を対比すると,ワークキャリア
Aがプッシャ15の移動速度よりも速い速度で移送されることが認められる
ことによっても裏付けられる。
(3) 第3特許発明と乙11の1発明との対比
第3特許発明と乙11の1発明を対比すると,乙11の1発明の「ワーク
キャリア 」 「ワークレール3 1 ,ティーバー4 1 及び爪5 1 」 「ワークレー
, ,
ル13,無端チェーン14及びプッシャ15」は,第3特許発明の「搬送用
ハンガー 」 「前処理コンベア 」 「めっき槽搬送手段」にそれぞれ相当する
, ,
から,第3特許発明と乙11の1発明との一致点及び相違点は以下のように
認められる。
〔一致点〕
「被処理物を保持してめっき槽内を搬送するめっき装置において,
被処理物を保持する搬送用ハンガー,搬送用ハンガーを懸架するめっき
槽搬送手段,搬送用ハンガーを移送する前処理コンベア,前処理コンベア
から搬送用ハンガーを取り外し,めっき槽搬送手段よりも高速に搬送用ハ
ンガーを移送し,めっき槽搬送手段に被処理物を所定の間隔を保持して取
り付ける位置決め搬送手段を有し,
めっき槽搬送手段が一定の速度で搬送した状態で,先にめっき槽搬送手
段に取り付けられた被処理物との間隔を一定の間隔に保持して,次の被処
理物を取り付けた搬送ハンガーをめっき槽搬送手段に取り付けて搬送しな
がらめっき処理することを特徴とするめっき装置 。」である点
〔相違点1〕
第3特許発明では,構成要件3(あ),3(い)①及び②において,搬送用
ハンガーは被処理物を垂直状態に保持し,搬送用ハンガー及びめっき槽搬
送手段を介してメッキ電流が給電される構成となっているが,乙11の1
発明では,搬送用ハンガーに相当する「ワークキャリア2」が被処理物を
垂直状態に保持し ,「ワークキャリア2」及びめっき槽搬送手段に相当す
る「ワークレール13,無端チェーン14及びプッシャ15」を介してメ
ッキ電流が給電される構成が開示されていない点
〔相違点2〕
第3特許発明では,構成要件3(う)において,めっき槽搬送手段に取り
付けられた被処理物の間隔をメッキ厚さに不均一を生じない大きさに保持
する構成となっているが,乙11の1発明では,めっき槽搬送手段に取り
付けられた被処理物の間隔の程度が開示されていない点
(4) 相違点についての判断
そこで,上記相違点1,相違点2に係る構成について,当業者が容易に想
到できたものであるか否かについて検討する。
ア 相違点1について
(ア) 乙11の2刊行物(乙9の1刊行物)には,以下の記載がある。
①「 従来の技術】電気めっき処理装置において,ジグと通称されてい
【
るワーク支持具は,めっき処理されるワークを支持する機能と,電流
を陰極バーからワークに通電する機能をもつものである。このワーク
支持具は,陰極バーに吊り下げられる断面略コ字状の極棒接続部をも
つハンガー部と,このハンガー部の下方に設けられたワーク取付け部
とから構成されている 。 (段落【0002 】
」 )
②「 発明の効果】本発明のワーク支持具は,シート形状のワークを確
【
実に支持でき,且つ電流を陰極バーからワークへ確実に通電できる。
このように,シート形状のワークを確実に支持でき,且つ電流を陰極
バーからワークへ確実に通電できるようにしたことによって,めっき
処理の全工程が終了するまで振動や移動によっても,ワークの外れ,
ワークの破れ,ワークの歪み,ワークに対する通電不良等がなく,め
っき製品の品質安定化を期待できる 。 (段落【0017 】
」 )
③シート形状のワークWを垂直状態で支持していること(6頁【図1】
及び【図2 】)
(イ) 以上の記載から,シート形状の被処理物を支持具で支持してメッキ液
中でメッキ処理するに当たり,被処理物を垂直状態で支持すること,メ
ッキ電流を陰極バー,支持具を介して被処理物に給電することは,第3
特許出願前におけるメッキ処理という技術分野における周知技術であっ
たことが認められる。
そうすると,乙11の1発明において,被処理物をワークキャリアに
保持してメッキ液中でメッキ処理するに当たり,上記の周知技術を適用
して,被処理物を「ワークキャリア2」で垂直状態に保持すること,メ
ッキ電流を「ワークキャリア2」及び「ワークレール13」を介して被
処理物に給電することは,当業者であれば容易に行い得るものというべ
きであって,当業者は相違点1に係る構成を容易に想到できたものと認
められる。
イ 相違点2について
上記2 ,(4)イで詳述したように ,乙9の5刊行物( 乙11の7刊行物 )
には,浴内で陰極レール(1)又は陰極フレームにおいて間隔を空けて交
互に1列に配列されたワークピース(3)上になされる電解コーティング
を向上させる工程に関し,各ワークピースの間隔を小さく保つことで「ド
ッグ・ボーン効果」と呼ばれる両端部近傍のメッキ厚さが肉厚となる現象
の発生を抑える技術が開示されていることが認められ,一定の間隔に保持
された各被処理物の間隔を設定するに当たり,被処理物の両端近傍のメッ
キ厚が肉厚とならないようにするために,その間隔を小さくすべきことは
第3特許出願前におけるメッキ処理という技術分野における公知の解決手
段であったといえる。
そうすると,乙11の1発明において,めっき槽搬送手段に取り付けら
れた各被処理物の間隔を一定の間隔に保持するに当たり,上記の公知の解
決手段を適用して,各被処理物の間隔をめっき厚さに不均一を生じない程
度に小さく保持することは,技術分野が共通であり,均一なメッキ膜を形
成するという技術課題も共通であることから,当業者が容易に行い得るも
のというべきであって,当業者は相違点2に係る構成を容易に想到できた
ものと認められる。
(5) 原告らの主張について
原告らは,乙11の1刊行物には,①被処理物を垂直状態に保持して搬送
する構成,②「めっき電流の給電を行う搬送用ハンガー」の構成,③「めっ
き槽搬送手段よりも高速に搬送用ハンガーを移送し,めっき槽搬送手段に被
処理物を所定の間隔を保持して取り付ける位置決め搬送手段」の構成につい
て記載がないと主張するが,上記①,②については,前記( 4)で述べたよう
に,第3特許出願前における周知技術を適用することにより,当業者が容易
に想到できたものと認められ,上記③については,前記( 2)で述べたように
乙11の1発明の内容と認められるから,原告らの主張に理由はない。
5 まとめ
以上のとおり,第1ないし第3特許発明は,いずれも進歩性を欠く発明であ
り,その特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,
原告らは第1ないし第3特許権を行使することができない(特許法104条の
3第1項 )。
6 結論
よって,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも
理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡 本 岳
裁判官
中 村 恭
裁判官
坂 本 康 博
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