平成21(ワ)19888輸入販売差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成21年12月24日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告アディダスジャパン株式会社 原告ゴヤールサントノレ
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法令 |
商標権
不正競争防止法2条1項2号2回 不正競争防止法2条1項1号2回 不正競争防止法3条1回 商標法38条2項1回 不正競争防止法5条2項1回 商標法37条1号1回 商標法3条1項6号1回
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キーワード |
商標権14回 侵害10回 差止6回 優先権1回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
本件は,別紙原告標章目録記載の標章(以下「原告標章」という。)を付し
たトランクや鞄等を製造販売し,別紙商標目録記載の商標(以下「原告商標」
という。)について後記商標権を有する原告が,別紙被告標章目録記載1の標
章(以下「被告標章1」という。)を付したバッグ(以下「被告バッグ製品」
という。)及び同目録記載2の標章(以下「被告標章2」という。また,被告
標章1及び2を併せて,「各被告標章」という。)を付した靴(以下「被告靴
製品」という。また,被告バッグ製品及び被告靴製品とを併せて,「各被告製
品」という。)を輸入し,販売し,販売のために展示した被告に対し,各被告
標章は原告標章や原告商標と類似し,被告による各被告製品の輸入,販売及び
販売のための展示が不正競争防止法2条1項1号ないし2号に該当する行為で
ある,あるいは,被告による被告バッグ製品の輸入,販売及び販売のための展
示が原告の有する商標権を侵害する行為であると主張して,不正競争防止法3
条1項,2項に基づき,各被告製品の輸入,販売及び販売のための展示の差止
めを求めるとともに,各被告製品の廃棄を求め,商標法36条1項,2項,3
7条1号に基づき,被告バッグ製品の輸入,販売及び販売のための展示の差止 |
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判決文
平成21年12月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成21年第19888号 輸入販売差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成21年11月5日
判 決
フランス国 パリ<以下略>
原 告 ゴ ヤ ー ル サ ン ト ノ レ
同訴訟代理人弁護士 佐 藤 雅 巳
同 古 木 睦 美
東京都新宿区<以下略>
被 告 アディダスジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 渡 辺 広 己
同 中 川 豊
同 篠 原 芳 宏
同 野 中 武
同 戸 田 智 彦
同 秋 山 朋 子
同 阿 部 佳 基
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙被告標章目録記載1の標章を付したバッグ及び同目録記載2の
標章を付した靴を輸入し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
2 被告は,別紙被告標章目録記載1の標章を付したバッグ及び同目録記載2の
標章を付した靴を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金1500万円及びこれに対する平成21年6月19
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,別紙原告標章目録記載の標章(以下「原告標章」という。)を付し
たトランクや鞄等を製造販売し,別紙商標目録記載の商標(以下「原告商標」
という。)について後記商標権を有する原告が,別紙被告標章目録記載1の標
章(以下「被告標章1」という。)を付したバッグ(以下「被告バッグ製品」
という。)及び同目録記載2の標章(以下「被告標章2」という。また,被告
標章1及び2を併せて,「各被告標章」という。)を付した靴(以下「被告靴
製品」という。また,被告バッグ製品及び被告靴製品とを併せて,「各被告製
品」という。)を輸入し,販売し,販売のために展示した被告に対し,各被告
標章は原告標章や原告商標と類似し,被告による各被告製品の輸入,販売及び
販売のための展示が不正競争防止法2条1項1号ないし2号に該当する行為で
ある,あるいは,被告による被告バッグ製品の輸入,販売及び販売のための展
示が原告の有する商標権を侵害する行為であると主張して,不正競争防止法3
条1項,2項に基づき,各被告製品の輸入,販売及び販売のための展示の差止
めを求めるとともに,各被告製品の廃棄を求め,商標法36条1項,2項,3
7条1号に基づき,被告バッグ製品の輸入,販売及び販売のための展示の差止
めを求めるとともに,被告バッグ製品の廃棄を求め,民法709条(不正競争
防止法4条)に基づき,損害賠償として金1500万円の支払を求める事案で
ある。
なお,附帯請求は,不法行為の後の日である平成21年6月19日(訴状送
達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払請求である。
1 争いのない事実等(認定事実については証拠を掲記する。)
(1)当事者(弁論の全趣旨)
ア 原告は,トランク,鞄,袋物の製造販売を業とするフランス国の法人で
ある。
イ 被告は,運動用具及び衣類等スポーツ用品並びに靴の輸出入,販売等を
業とする株式会社であり,ドイツ国の法人であるアディダス社の日本にお
ける子会社である。
(2)原告の商標権(甲11の1・2,甲13,乙28)
原告は,原告商標について次の商標権(以下「原告商標権」という。)を
有する。
登録番号 第4977875号
出願年月日 平成17年12月13日
出願番号 商願2005−121333
登録年月日 平成18年8月11日
優先権主張 国名 フランス共和国
出願年月日 2005年6月16日
商品及び役務の区分 第18類
指定商品 かばん類,皮革製旅行用具入れ,旅行用衣服かばん,旅
行用トランク,旅行用小型手提げかばん,携帯用化粧道
具入れ,リュックサック,ハンドバッグ,ビーチバッグ,
通学用かばん,スーツケース,ブリーフケース,札入れ,
財布(貴金属製のものを除く),皮革製キーケース,カ
ード入れ,傘,日傘,つえ
商標 別紙商標目録記載のとおり
(3)原告標章の使用(甲2の1・2,甲4の各枝番,甲20の1・2等)
原告は,その製造販売するトランク,鞄,袋物に原告標章を付している。
(4)被告の行為(甲6,弁論の全趣旨)
ア 被告は,被告標章1を付したバッグ(定価1万8165円(税込み)。
甲21の1。被告バッグ製品)及び被告標章2を付した靴(定価1万47
00円(税込み)。甲21の2。被告靴製品)を,遅くとも平成20年初
めころから,輸入し,販売し,販売のために展示していた。
イ 被告は,各被告製品の輸入,販売及び販売のための展示を停止した。
2 争点
(1)不正競争防止法違反の成否(争点1)
(2)商標権侵害の成否(争点2)
(3)差止め及び廃棄の必要性(争点3)
(4)損害額(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(不正競争防止法違反の成否)について
〔原告〕
(1)原告標章と各被告標章との類似性
ア 原告標章
原告標章は,褐色の地に,それぞれ卵形の点により構成された,白色の
形の図形,薄茶の 形の図形及び濃い茶色の 形の図形の組合せ
から成るモチーフを連続して配して成る。
イ 各被告標章
(ア)被告標章1
被告標章1は,褐色の地に,それぞれ卵形の点により構成された,白
色の木の葉状の図形,薄い緑がかった茶色の木の葉状の図形,及び濃い
茶色の木の葉状の図形の組合せから成るモチーフを連続して配して成る。
(イ)被告標章2
被告標章2は,黒の地に,それぞれ卵形の点により構成された,白色
の木の葉状の図形,薄い緑がかった茶色の木の葉状の図形及び濃い茶色
の木の葉状の図形の組合せから成るモチーフを連続して配して成る。
(ウ)なお,各被告標章のモチーフは,被告の主張する「トレフォイルマー
ク」(同一色の木の葉状の図形を3つ配したものであり,かつ,中央部
から下部にかけて横に3本の直線で切断されているもの)とは異なる。
ウ 原告標章と各被告標章との類似性
(ア)原告標章と各被告標章とは,いずれも,褐色又は黒の地にモチーフを
連続的に配して成り,上記モチーフは,白色,やや緑がかった茶色及び
濃い茶色の卵形の点で構成された図形を組み合わせて成る。
(イ)原告標章においては,各モチーフを構成する要素である約150度の
角度を成す白色の 形の図形が際立って見え,これが連続して褐色の
地に際立って見える。
他方,各被告標章においては,各モチーフを構成する要素である右側
に配置された白色の木の葉状の図形,中央に配置された薄い緑がかった
茶色の木の葉状の図形が際立って見える。そして,白色の木の葉状の図
形と,この直ぐ右上に配置されたモチーフのうち,やや緑がかった薄い
茶色の木の葉状の図形とが約150度の角度を成して接し,やや緑がか
った薄い茶色の木の葉状の図形と白色の木の葉状の図形とが連続して,
褐色又は黒色の地に際立って見える。
(ウ)以上のとおり,原告標章と各被告標章とは,構成,色彩及び美観の点
において共通しており,両者は類似する。
(2)原告標章の著名性
ア 原告は,1853年にパリのサントノレに誕生した,高級トランク,鞄,
袋物のメーカーである。
原告は,1892年,トランク,鞄の外張りのコーティングキャンバス
に,耐久性,防水性に優れた麻,木綿又は大麻で織り,天然アラビアゴム
を手塗りしてコーティングを施したキャンバスを用い,それに新たに考案
した絡み合った杉綾のモチーフを付した新製品の製造販売を始めた。
絡み合った杉綾のモチーフ(何工程もの手間をかけて,1色ずつ色を加
えて杉綾模様を描き出す。)を付したキャンバスを用いたトランク,鞄は,
時代を超えた,原告を象徴する定番商品となり,現在に至るまで継続して,
製造販売されている。
イ 原告の製造販売するトランク,鞄,バッグ等は,2004年(平成16
年)から日本でも販売されるようになり,「伝統に裏打ちされた高級品」
との評価を受け,着実に売上げを伸ばしてきた。
ウ 原告や絡み合った杉綾のモチーフの連続模様の標章を付したトランク,
鞄,袋物は,2004年(平成16年)以降,継続的に多数のファッショ
ン雑誌等に紹介されてきた(甲4の各枝番)。
「YAHOO!JAPAN」のインターネット検索サイトにおいて,
「GOYARD」の単語を入力して検索すると,日本語のページに限って
も,約39万8000件の検索結果が表示される(甲5の1)。加えて,
原告や原告の商品は,インターネットサイトにおいても,紹介され,販売
されている(甲5の2ないし6)。
エ 以上によれば,褐色の地に濃い茶色の卵形の点から成る図形,薄い茶色
の卵形の点から成る図形,及び白色の卵形の点から成る図形で構成される
絡み合った杉綾のモチーフの連続模様(原告標章)は,原告のトランク,
鞄,袋物の商品に付する標章として著名性を有するといえる。
(3)原告標章の周知性及び各被告標章との誤認混同のおそれ
ア 仮に,原告標章が著名性を有するとはいえないとしても,原告標章は,
日本において,遅くとも2008年(平成20年)初めころには,原告が
製造販売するトランク,鞄,袋物に付する標章として需要者(主に,ファ
ッションに関心のある20歳代から50歳代の婦人層)の間に周知であっ
た。
イ バッグ及び鞄は,ファッション業界では「雑貨」,すなわち衣服以外の
身に付けるものとして把握され,衣類とともに広告宣伝されるものである。
原告標章を付したトランク,鞄,袋物と,被告標章1を付したバッグ及
び被告標章2を付した靴とは,密接に関連し,需要者を共通にする。
したがって,被告標章1を付したバッグや,被告標章2を付した靴を,
輸入し,販売し,販売のために展示することは,需要者の間に,各被告製
品が原告の製造販売に係るものであるとの誤認,又は各被告製品が原告と
何らかの経済的関係にある者により製造され,輸入され,販売され,ある
いは販売のために展示されるものであるとの誤認を生じさせるおそれがあ
るといえる。
(4)以上によれば,被告が各被告製品を輸入し,販売し,又は販売のために展
示する行為は,不正競争防止法2条1項2号,あるいは同項1号の不正競争
行為に該当する。
〔被告〕
(1)原告標章と各被告標章とが非類似であることについて
ア 原告標章の外観と各被告標章の外観とが非類似であること
(ア)原告標章は,3つの杉綾を併記し,「Y」のイニシャルを形作ってい
るモチーフから成る標章である。「Y」字のマークは,上部の「V」の
凹みと下部の棒とが接するように縦に配列され,かつ,各「Y」字の背
景となる隙間が正三角形となるように,それぞれの「Y」字が配列され
た杉綾(ヘリンボーン)模様となっている。「Y」字を構成する3つの
杉綾は,上の白色,右の薄茶色,左の濃い茶色の3色で構成されている。
(イ)各被告標章は,三つ葉をデザイン化した,いわゆる「トレフォイルマ
ーク」と呼ばれる,アディダス社の著名なマークをモチーフとする標章
である。
各被告標章中の三つ葉は,三つ葉を構成する左右の葉が,それぞれ左
上,若しくは右上に配された三つ葉の下部中央部に接するように配置さ
れ,すべての三つ葉の大きさは均一となっている。三つ葉は,右葉の白
色,中央葉の黄緑色(抹茶色),左葉の薄茶色の3色で構成されている。
(ウ)原告標章及び各被告標章に接した需要者は,原告標章については「3
色の杉綾から構成されるYのイニシャルをモチーフとした杉綾地模様」
という印象を持ち,各被告標章については「3色の三つ葉をモチーフに
して,それを均一的に配列した地模様」という,原告標章とは全く異な
る印象を持つはずであり,原告標章と各被告標章とは,外観において,
非類似である。
イ 各被告標章のモチーフである「トレフォイルマーク」の著名性
各被告標章がモチーフとしている「トレフォイルマーク」は,1972
年(昭和47年)に,ドイツ連邦共和国において使用が開始されて以来,
日本を含む世界各国において商標登録され,アディダス社の商品に使用さ
れてきた被告(アディダス社)の著名な登録商標である。
その後,「トレフォイルマーク」は,アディダス社のコーポレート・ロ
ゴに採用され,1997年(平成9年)まで,アディダス社のシンボルと
して使用されてきた。
日本においては,かばん類について1983年(昭和58年),被服に
ついて1985年(昭和60年),履物について1986年(昭和61
年)に商標登録され,アディダス社の種々の商品に使用されている(乙1
3ないし15の各枝番)。
各被告標章が上記のとおりアディダス社の著名な登録商標である「トレ
フォイルマーク」をモチーフとしていることからすると,需要者において,
各被告標章を「Y」のイニシャルをモチーフとした原告標章と誤認混同す
るおそれはない。
ウ 以上のとおり,需要者において,原告標章と各被告標章とを全体的に類
似のものとして受け取るおそれは全くなく,両者は非類似である。
(2)原告標章に著名性が認められないことについて
ア ファッション雑誌等(甲4の各枝番)に原告の商品の広告記事が掲載さ
れていること,「YAHOO!JAPAN」のインターネット検索サイト
において,「GOYARD」の単語を入力して検索すると,約39万80
00件の日本語ページの検索結果が表示されること(甲5の1),原告の
商品がインターネットサイトにおいて,紹介されていること(甲5の2・
3)は認め,原告,原告の商品及び原告標章が日本において著名性を有す
ることは否認ないし争う。
イ 原告が製造販売するトランク,鞄,袋物は,2004年(平成16年)
になって,初めて日本市場に進出したものであり,現在においても,日本
国内での販売店舗数はわずかな数に止まっている。
原告の商品に付されている原告標章が,不正競争防止法2条1項2号所
定の著名性を獲得していないことは明らかである。
ウ 原告の名称である「GOYARD」さえ,いまだ著名性を獲得している
とはいえない現状においては(乙5ないし8参照),単なる商品の模様で
しかない原告標章の知名度が更に低いことは明らかであって,原告標章の
著名性は認められない。
(3)原告標章に周知性が認められないこと及び原告標章と各被告標章との誤認
混同のおそれがないことについて
ア 原告,原告の商品及び原告標章が日本において周知性を有することは否
認ないし争う。
原告が本件において提出する証拠からは,原告標章が周知性を獲得した
とは認められない。
イ 各被告製品が,原告又は原告と何らかの経済的関係にある者の商品であ
ると誤認されるおそれがあるとの点は否認する。
(ア)原告標章を付した原告の商品(トランク,鞄類)が販売されている日
本国内の店舗は,わずかな数である。また,原告の商品の価格帯は,1
0万円以上という,高価格である。
他方,各被告製品は,被告の直営店と2軒の取引先小売店という限定
された店舗において,アディダス社の,主として「トレフォイルマー
ク」を使用した商品である「オリジナルス商品」のカテゴリーに含まれ
る2008年(平成20年)春夏限定企画商品として,販売されたにす
ぎない。また,各被告製品の価格帯は,1万円から2万円である。
以上のとおり,価格帯の全く異なる商品が,それぞれ限定された全く
別の場所で販売されていたことから,両者が混同されるおそれは全くな
い。
(イ)各被告製品には「adidas」の文字も付されており,各被告製品がアデ
ィダス社の商品であることが明らかであるから,需要者において,各被
告製品を原告の商品と混同することはない。
実際にも,各被告製品が販売されていた当時,各被告製品に関して,
原告の商品との間で混同が生じたことはない。
2 争点2(商標権侵害の成否)について
〔原告〕
(1)被告バッグ製品に被告標章1を付す行為は,被告標章1の商標的使用に当
たる。
(2)被告標章1は,前記1の「争点1(不正競争防止法違反の成否)」におけ
る原告の主張(1)記載のとおり,原告商標と類似する。
(3)被告バッグ製品は,原告商標の指定商品に含まれる。
(4)以上によれば,被告が被告バッグ製品を輸入し,販売し,又は販売のため
に展示する行為は,商標法37条1号により,原告商標権を侵害する行為で
あるとみなされる。
(5)被告の主張に対する反論
ア 原告商標の外観に関する被告の主張は否認ないし争う。
イ 原告商標(原告商標に係る商標登録願の写しである甲11の2)からは,
被告の主張する「E GOYARD」,「233 R St」,「HONORE」及び「PARIS」
の文字を看取することができない。
また,原告商標において,識別力を有する要部は,連続模様の部分であ
って,文字部分ではない。
〔被告〕
(1)被告バッグ製品が,原告商標の指定商品に含まれることは認め,その余は
否認ないし争う。
(2)原告商標と被告標章1とが非類似であることについて
ア 原告商標と被告標章1とは,前記1の「争点1(不正競争防止法違反の
成否)」における被告の主張(1)記載のとおり,類似しない。
イ 商標法3条1項6号について,特許庁における審査基準では,「地模様
(例えば,模様的なものの連続反覆するもの)のみからなるものは,本号
の規定に該当するものとする。」とされており,地模様は原則として(使
用による識別性(同条2項)が認められない限り)識別力がないとされて
いる。
原告商標の中央部の「Y」字を構成する,①上部の白色の杉綾の部分に
は「E GOYARD」の文字が,②左下の濃い茶色の杉綾の部分には「233 R S
t」及び「PARIS」の文字が,③右下の薄茶色の杉綾の部分には「HONORE」
及び「PARIS」の文字が,それぞれ記載されている。
原告商標は,その地模様には識別力が認められないものの,上記文字が
記載された3つの杉綾から構成される「Y」字部分に識別力が認められて,
商標登録されたものと考えられる。
原告商標の識別力が,「E GOYARD」,「233 R St」,「HONORE」及び
「PARIS」の文字が記載された「Y」字部分にある以上,この文字部分を
持たない被告標章1と原告商標との間に類似性が認められないことは明ら
かである。
3 争点3(差止め及び廃棄の必要性)について
〔原告〕
被告は,遅くとも平成20年初めころから,各被告製品を輸入し,販売し,
販売のために展示した。
被告は,各被告製品の輸入,販売及び販売のための展示を停止しているもの
の,いつでもこれを再開するおそれがある。
よって,原告は,被告に対し,不正競争防止法3条又は商標法36条により,
侵害行為の差止請求権及び各被告製品の廃棄請求権を有する。
〔被告〕
(1)被告が,各被告製品を輸入し,販売し,販売のために展示したこと,現在
は各被告製品を輸入,販売及び販売のために展示していないことは認め,被
告がこれらの行為を再開するおそれがあるとの原告の主張は争う。
(2)各被告製品は,もともと2008年(平成20年)春夏シーズンに販売期
間を限った商品である(2008年(平成20年)秋冬号以降の被告の商品
カタログ(乙1の1ないし3,乙2,乙3)には,各被告製品は掲載されて
いない。)。
被告は,各被告製品の予定販売期間が終了したため,各被告製品の販売を
終了したのである。
したがって,各被告製品の輸入,販売及び販売のための展示の停止は恒久
的なものであって,一時的なものではない。
なお,被告は,各被告製品の在庫については,裁判資料用に残した数点の
ほかは,すべて廃棄済みである(乙4の1ないし6)。
4 争点4(損害額)について
〔原告〕
(1)被告の不正競争行為による損害額
ア 被告は,原告標章の著名性を被告が展開するブランドのイメージアップ
に利用しようとして,被告標章1を付した被告バッグ製品及び被告標章2
を付した被告靴製品を輸入し,販売し,又は販売のために展示したのであ
るから,被告には,不正競争行為を行うにつき故意がある。
イ 被告は,各被告製品を,被告の「アディダス オリジナル コンセプト
ショップ」と称する直営店14店舗で小売りし,また,取引先に対して
卸売りした。
被告による各被告製品の売上高は,少なくとも5000万円を下らない。
被告は,各被告製品の販売により,少なくとも1500万円の利益を得た。
被告の得た上記利益額1500万円は,原告が被告の不正競争行為によ
り被った損害の額と推定される(不正競争防止法5条2項)。
(2)被告の商標権侵害行為による損害額
ア 被告は,原告商標の周知性を被告が展開するブランドのイメージアップ
に利用しようとして,被告標章1を付した被告バッグ製品を輸入し,販売
し,又は販売のために展示したのであるから,被告には,商標権侵害行為
を行うにつき故意がある。
イ 被告は,被告バッグ製品を,被告の「アディダス オリジナル コンセ
プト ショップ」と称する直営店14店舗で小売りし,また,取引先に対
して卸売りした。
被告による被告バッグ製品の売上高は,少なくとも3500万円を下ら
ない。被告は,被告バッグ製品の販売により,少なくとも1050万円の
利益を得た。
被告の得た上記利益額1050万円は,原告が被告の商標権侵害行為に
より被った損害の額と推定される(商標法38条2項)。
〔被告〕
原告の主張は否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(不正競争防止法違反の成否)について
(1)原告標章と被告標章1との類否について
ア 原告標章の外観
(ア)原告標章は,同じ大きさの3つの杉綾(ヘリンボーン)を,各杉綾の
凸側の綾線が他の2つの杉綾の凸側の綾線とそれぞれ接するように隣り
合わせに配して,「Y」字形としたモチーフ(一模様の単位)を連続し
て配して成る。
(イ)上記モチーフは,①多数の白色の小さな卵形の点が3列に描かれて成
る杉綾,②多数の薄茶色の小さな卵形の点が3列に描かれて成る杉綾,
③多数の濃い茶色の小さな卵形の点が3列に描かれて成る杉綾で構成さ
れる。
(ウ)各モチーフは,モチーフを構成する杉綾の凹み部が,上部,右下部,
左下部に配されたモチーフを構成する2つの杉綾の端部と接するように
(白色の杉綾の凹み部には,薄茶色の杉綾の端部及び濃い茶色の杉綾の
端部が,薄茶色の杉綾の凹み部には,白色の杉綾の端部及び濃い茶色の
杉綾の端部が,濃い茶色の杉綾の凹み部には,白色の杉綾の端部及び薄
茶色の杉綾の端部が,それぞれ接するように)連続して配されている。
各モチーフの隙間である地の部分は,一定の三角形の形状を成してい
る。
イ 被告標章1の外観
(ア)被告標章1は,同じ大きさの3つの葉(楕円形に近い形で,かつ,長
軸方向の両端が尖った形状)を,うち1葉は長軸方向を縦として垂直に,
うち2葉は上記垂直に配された葉の左右にこれに接するように斜めに,
各葉の長軸方向の下端部がほぼ1点に集まるように配して,扇形状とし
たモチーフを連続して配して成る。
(イ)上記モチーフは,①多数の黄緑色(緑がかった薄茶色)の小さな卵形
の点が描かれて成る中央部の葉,②多数の白色の小さな卵形の点が描か
れて成る右部の葉,③多数の茶色の小さな卵形の点が描かれて成る左部
の葉で構成される。
(ウ)上記モチーフは,モチーフを構成する右部の葉(白色)の上端部が,
右横に配されたモチーフを構成する左部の葉(茶色)の上端部及び右上
部に配されたモチーフの下部中央(3つの葉の長軸方向の下端部)付近
に,左部の葉(茶色)の上端部が,左横に配されたモチーフを構成する
右部の葉(白色)の上端部及び左上部に配されたモチーフの下部中央
(3つの葉の長軸方向の下端部)付近に,それぞれ接するように連続し
て配されている。
各モチーフの隙間である地の部分の形状は一定でない。
ウ 原告標章と被告標章1との対比
原告標章の外観と被告標章1の外観とは,①同じ大きさの3つの図形か
ら構成されるモチーフを連続して配して成る模様である点,②モチーフを
構成する図形が多数の小さな卵形の点が描かれて成る点,③モチーフを構
成する図形に白色及び茶色が用いられている点において共通する。
しかしながら,原告標章の外観と被告標章1の外観とは,④原告標章の
モチーフを構成する図形が杉綾(ヘリンボーン)であるのに対し,被告標
章1のモチーフを構成する図形が葉(楕円形に近い形で,かつ,長軸方向
の両端が尖った形状)である点,⑤原告標章のモチーフは「Y」字形であ
るのに対し,被告標章1のモチーフは扇形状である点,⑥原告標章におい
ては,各モチーフの隙間である地の部分は一定の三角形の形状を成してい
るのに対し,被告標章1においては,各モチーフの隙間である地の部分は
一定の形状でない点等において相違している。
原告標章の外観と被告標章1の外観との間には,上記①ないし③の共通
点があるものの,上記④ないし⑥の相違点があるため,原告標章は,全体
として,「3色の杉綾(ヘリンボーン)から構成される「Y」字形をモチ
ーフとした模様」という印象を与えるのに対し,被告標章1は,全体とし
て,「3色の葉から構成される扇形をモチーフとした模様」という印象を
与える。
上記のとおり,原告標章の外観と被告標章1の外観とは,全体として異
なる印象を与えるものであり,類似しない。
また,仮に,原告標章,あるいは被告標章1から何らかの称呼又は観念
が生じ得るとしても,原告標章の外観及び被告標章1の外観は,前記認定
のとおりであって,両者は外観において類似しないのであるから,両標章
から同一又は類似の称呼や観念が生じることはない。
よって,原告標章と被告標章1とは類似しない。
(2)原告標章と被告標章2との類否について
ア 原告標章の外観は,前記(1)アで認定したとおりである。
イ 被告標章2の外観
(ア)被告標章2は,同じ大きさの3つの葉(楕円形に近い形で,かつ,長
軸方向の両端が尖った形状)を,うち1葉は長軸方向を縦として垂直に,
うち2葉は上記垂直に配された葉の左右にこれに接するように斜めに,
各葉の長軸方向の下端部がほぼ1点に集まるように配して,扇形状とし
たモチーフを連続して配して成る。
(イ)上記モチーフは,①多数の黄緑色(緑がかった薄茶色)の小さな卵形
の点が描かれて成る中央部の葉,②多数の白色の小さな卵形の点が描か
れて成る右部の葉,③多数の茶色の小さな卵形の点が描かれて成る左部
の葉で構成される。
(ウ)上記モチーフは,モチーフを構成する右部の葉(白色)の上端部が,
右横に配されたモチーフを構成する左部の葉(茶色)の上端部及び右上
部に配されたモチーフの下部中央(3つの葉の長軸方向の下端部)付近
に,左部の葉(茶色)の上端部が,左横に配されたモチーフを構成する
右部の葉(白色)の上端部及び左上部に配されたモチーフの下部中央
(3つの葉の長軸方向の下端部)付近に,それぞれ接するように連続し
て配されている。
各モチーフの隙間である地の部分の形状は一定でない。
ウ 原告標章と被告標章2との対比
原告標章の外観と被告標章2の外観とは,①同じ大きさの3つの図形か
ら構成されるモチーフを連続して配して成る模様である点,②モチーフを
構成する図形が多数の小さな卵形の点が描かれて成る点,③モチーフを構
成する図形に白色及び茶色が用いられている点において共通する。
しかしながら,原告標章の外観と被告標章2の外観とは,④原告標章の
モチーフを構成する図形が杉綾(ヘリンボーン)であるのに対し,被告標
章2のモチーフを構成する図形が葉(楕円形に近い形で,かつ,長軸方向
の両端が尖った形状)である点,⑤原告標章のモチーフは「Y」字形であ
るのに対し,被告標章2のモチーフは扇形状である点,⑥原告標章におい
ては,各モチーフの隙間である地の部分は一定の三角形の形状を成してい
るのに対し,被告標章2においては,各モチーフの隙間である地の部分は
一定の形状でない点等において相違している。
原告標章の外観と被告標章2の外観との間には,上記①ないし③の共通
点があるものの,上記④ないし⑥の相違点があるため,原告標章は,全体
として,「3色の杉綾(ヘリンボーン)から構成される「Y」字形をモチ
ーフとした模様」という印象を与えるのに対し,被告標章2は,全体とし
て,「3色の葉から構成される扇形をモチーフとした模様」という印象を
与える。
上記のとおり,原告標章の外観と被告標章2の外観とは,全体として異
なる印象を与えるものであり,類似しない。
また,仮に,原告標章,あるいは被告標章2から何らかの称呼又は観念
が生じ得るとしても,原告標章の外観及び被告標章2の外観は,前記認定
のとおりであって,両者は外観において類似しないのであるから,両標章
から同一又は類似の称呼や観念が生じることはない。
よって,原告標章と被告標章2とは類似しない。
(3)以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,被告による各被
告製品の輸入,販売及び販売のための展示が不正競争防止法2条1項1号な
いし2号に該当する行為であるとは認められない。
2 争点2(商標権侵害の成否)について
(1)原告商標の外観
ア 原告商標は,同じ大きさの3つの杉綾(ヘリンボーン)を,各杉綾の凸
側の綾線が他の2つの杉綾の凸側の綾線とそれぞれ接するように隣り合わ
せに配して,「Y」字形としたモチーフを連続して配して成る。
イ 上記モチーフは,①多数の白色の小さな卵形の点が3列に描かれて成る
杉綾,②多数の薄茶色の小さな卵形の点が3列に描かれて成る杉綾,③多
数の濃い茶色の小さな卵形の点が3列に描かれて成る杉綾で構成される。
ただし,原告商標の中央部に位置するモチーフのみは,少なくとも,白
色の部分が「E GOYARD」とのアルファベット文字等を杉綾状に配して,薄
茶色の部分が「HONORE」及び「PARIS」のアルファベット文字を杉綾状に
配して成る杉綾で構成されている(なお,原告の実際の商品においては,
模様を構成するモチーフの一部に,白色の「E:GOYARD」のアルファベッ
ト文字等から成る杉綾,濃い茶色の「233 R St」及び「PARIS」のアルフ
ァベット文字等から成る杉綾,薄茶色の「HONORE」及び「PARIS」のアル
ファベット文字から成る杉綾で構成されたモチーフが使用されている(甲
2の1,甲20の1・2,乙17等)ものの,原告商標権に係る登録証,
出願関係書類等(甲11の1・2,乙27,28,乙29の1ないし3)
からは,濃い茶色の部分の詳細は判然としない。)。
ウ 各モチーフは,モチーフを構成する杉綾の凹み部が,上部,右下部,左
下部に配されたモチーフを構成する2つの杉綾の端部と接するように(白
色の杉綾の凹み部には,薄茶色の杉綾の端部及び濃い茶色の杉綾の端部が,
薄茶色の杉綾の凹み部には,白色の杉綾の端部及び濃い茶色の杉綾の端部
が,濃い茶色の杉綾の凹み部には,白色の杉綾の端部及び薄茶色の杉綾の
端部が,それぞれ接するように)連続して配されている。
各モチーフの隙間である地の部分は,一定の三角形の形状を成している。
(2)被告標章1の外観は,前記1(1)イで認定したとおりである。
(3)原告商標と被告標章1との対比
原告商標の外観と被告標章1の外観とは,①同じ大きさの3つの図形から
構成されるモチーフを連続して配して成る模様である点,②モチーフを構成
する図形が多数の小さな卵形の点が描かれて成る点,③モチーフを構成する
図形に白色及び茶色が用いられている点,において共通する。
しかしながら,原告商標の外観と被告標章1の外観とは,④原告商標のモ
チーフを構成する図形が杉綾(ヘリンボーン)であるのに対し,被告標章1
のモチーフを構成する図形が葉(楕円形に近い形で,かつ,長軸方向の両端
が尖った形状)である点,⑤原告商標のモチーフは「Y」字形であるのに対
し,被告標章1のモチーフは扇形状である点,⑥原告商標においては,各モ
チーフの隙間である地の部分は一定の三角形の形状を成しているのに対し,
被告標章1においては,各モチーフの隙間である地の部分は一定の形状でな
い点,⑦原告商標を構成するモチーフの一部はアルファベット等の文字を杉
綾状に配して成る図形により構成されているのに対し,被告標章1を構成す
るモチーフはすべて卵形の点が描かれて成る図形で構成されている点等にお
いて相違している。
原告商標の外観と被告標章1の外観との間には,上記①ないし③の共通点
があるものの,上記④ないし⑦の相違点があるため,原告商標は,全体とし
て,「3色の杉綾(ヘリンボーン)から構成される「Y」字形をモチーフと
した模様」という印象を与えるのに対し,被告標章1は,全体として,「3
色の葉から構成される扇形をモチーフとした模様」という印象を与える。
上記のとおり,原告商標の外観と被告標章1の外観とは,全体として異な
る印象を与えるものであり,類似しない。
また,仮に,原告商標,あるいは被告標章1から何らかの称呼又は観念が
生じ得るとしても,原告商標の外観及び被告標章1の外観は,前記認定のと
おりであって,両者は外観において類似しないのであるから,両標章から同
一又は類似の称呼や観念が生じることはない。
よって,原告商標と被告標章1とは類似しない。
(4)以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,被告による被告
バッグ製品の輸入,販売及び販売のための展示が原告の有する原告商標権を
侵害する行為であるとは認められない。
3 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれ
も理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿 部 正 幸
裁判官 柵 木 澄 子
裁判官 舟 橋 伸 行
(別紙)
被 告 標 章 目 録
1
2
(別紙)
原 告 標 章 目 録
(別紙)
商 標 目 録
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