平成21(ワ)18950特許権侵害差止請求反訴
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成21年12月16日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
蛍光電子内視鏡システム |
法令 |
特許権
特許法29条2項3回 特許法104条の32回 特許法100条1項1回 特許法102条3項1回 特許法123条1項2号1回
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キーワード |
実施19回 特許権11回 侵害10回 分割6回 無効6回 ライセンス3回 審決3回 無効審判2回 差止2回 刊行物1回 進歩性1回 損害賠償1回
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主文 |
1 反訴原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,名称を「蛍光電子内視鏡システム」とする発明につき後記特許権を
有する反訴原告(以下「原告」という。)が,反訴被告(以下「被告」とい
う。)に対し,その製造,販売する別紙「反訴被告製品目録」記載の製品(蛍
光内視鏡観察システム。以下「被告製品」という。)が本件特許権を侵害する
として,特許法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止
め及び廃棄を求めるとともに,不法行為(特許権侵害)による損害賠償請求権
に基づき,損害合計7億8120万円の一部請求として1億円及びこれに対す
る不法行為の後である平成21年6月11日(反訴状送達の日の翌日)から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)
(1) 原告の特許権
原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係る
発明を「本件発明」という。また,本件特許出願の願書に添付した明細書及
び図面を併せて「本件明細書」という。なお,本件特許公報〈甲2〉を別紙 |
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判決文
平成21年12月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成21年(ワ)第18950号 特許権侵害差止請求反訴事件
口頭弁論終結日 平成21年9月30日
判 決
茨城県つくば市<以下略>
反 訴 原 告 甲
同訴訟代理人弁護士 弓 削 田 博
東京都渋谷区<以下略>
反 訴 被 告 オリンパスメディカルシステムズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 古 城 春 実
堀 籠 佳 典
玉 城 光 博
主 文
1 反訴原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 反訴被告は,別紙「反訴被告製品目録」記載の製品を製造し,販売し,又は
販売のために展示してはならない。
2 反訴被告は,その占有する前項の製品を廃棄せよ。
3 反訴被告は,反訴原告に対し,1億円及びこれに対する平成21年6月11
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件は,名称を「蛍光電子内視鏡システム」とする発明につき後記特許権を
有する反訴原告(以下「原告」という。)が,反訴被告(以下「被告」とい
う。)に対し,その製造,販売する別紙「反訴被告製品目録」記載の製品(蛍
光内視鏡観察システム。以下「被告製品」という。)が本件特許権を侵害する
として,特許法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止
め及び廃棄を求めるとともに,不法行為(特許権侵害)による損害賠償請求権
に基づき,損害合計7億8120万円の一部請求として1億円及びこれに対す
る不法行為の後である平成21年6月11日(反訴状送達の日の翌日)から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)
(1) 原告の特許権
原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係る
発明を「本件発明」という。また,本件特許出願の願書に添付した明細書及
び図面を併せて「本件明細書」という。なお,本件特許公報〈甲2〉を別紙
として添付する。)の特許権者である。
特 許 番 号 第3309276号
発明の名称 蛍光電子内視鏡システム
出願年月日 平成11年3月17日
登録年月日 平成14年5月24日
特許請求の範囲
【請求項1】
「蛍光内視鏡検査において,励起光(例えば,青)とそれ以外の光
(例えば,緑と赤)を交互に組織に照射し,組織から反射してきた光
を感受する白黒CCDの前に励起光は通過させないがそれ以外の光を
すべて通す濾過フィルターをおいて,励起光(例えば,青)が組織に
当たって蛍光(例えば,黄色)を発生させたタイミングで濾過フィル
ターを通過できた蛍光をCCDの3つあるチャンネル(赤,緑,青)
の内1つのチャンネル(例えば,青)で受光し励起光から蛍光を取り
出して,励起光以外の光(例えば,緑と赤)の時はCCDの残りの2
つのチャンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾い,送信後3
つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映
像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする光診断
装置。」
(2) 構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A 蛍光内視鏡検査において,
B 励起光(例えば,青)とそれ以外の光(例えば,緑と赤)を交互に組
織に照射し,
C 組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に励起光は通過さ
せないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルターをおいて,
D 励起光(例えば,青)が組織に当たって蛍光(例えば,黄色)を発生
させたタイミングで濾過フィルターを通過できた蛍光をCCDの3つあ
るチャンネル(赤,緑,青)の内1つのチャンネル(例えば,青)で受
光し励起光から蛍光を取り出して,
E 励起光以外の光(例えば,緑と赤)の時はCCDの残りの2つのチャ
ンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾い,
F 送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と
背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする
G 光診断装置
(3) 被告製品
ア 被告は,遅くとも平成19年2月ころから,業として,被告製品を製造
し,販売している(なお,被告製品の構成については争いがある。)。
イ 被告製品は,本件発明の構成要件A,B,D,Gを充足している。
(4) 本件特許登録後の特許庁における手続の経緯
ア 特許異議
本件特許(請求項1,2)について,平成15年1月29日,特許法2
9条2項の規定に違反してされたものであることを理由として,平成15
年法律第47号による改正前の特許法113条の規定に基づき,特許異議
の申立て(異議2003−70284)がされたが,特許庁は,平成15
年12月22日付けで,本件特許を維持する旨の決定をし,同決定は,平
成16年1月24日に確定した。(甲1,乙6)
イ 特許無効審判
被告は,平成20年10月22日,本件特許について無効審判請求をし
たところ(無効2008−800215),特許庁は,平成21年6月1
9日,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたもので,同法
123条1項2号の規定により無効とすべきである旨の審決をした。(甲
5,26)
原告は,上記審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟
(同裁判所平成21年(行ケ)第10200号)を提起し,同訴訟は,現在,
同裁判所に係属中である。(弁論の全趣旨)
3 争点
(1) 被告製品の構成
(2) 被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか
ア 構成要件C該当性
イ 構成要件E該当性
ウ 構成要件F該当性
エ 均等侵害
(3) 特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限
(4) 損害額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告製品の構成)について
ア 原告
被告製品は,蛍光電子内視鏡観察システムであり,その構成を分説する
と,次のとおりである。
a 蛍光内視鏡検査において
b 励起光R(390∼470nm(青))と照明光G1(540∼56
0nm(緑))と照明光G2(540∼560nm(緑))を交互に組織
に照射し,
c 組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に,励起光Rは
通過させないが,500∼630nmの光を通す濾過フィルターをお
いて,
d 励起光Rが組織に当たって蛍光Fを発生させたタイミングで,濾過
フィルターを通過できた蛍光をCCDの時系列な3つの撮像タイミン
グ(赤,緑,青)の内の1つの撮像タイミング(緑)で受光し,励起
光Rから蛍光Fを取り出し,
e 照明光G1(緑)の時はCCDの時系列な3つの撮像タイミング
(赤,緑,青)の内の赤の撮像タイミングにて背景の映像を拾い,ま
た,照明光G2(緑)の時は,青の撮像タイミングにて背景の映像を
拾い,
f 赤の撮像タイミングで得られた信号は,緑画像信号G1−1,G1
−2,・・・として同時化メモリのRに書き込まれた後,マトリクス
回路に出力され,緑の撮像タイミングで得られた信号は,蛍光Fの蛍
光画像信号F−1,F−2,・・・として同時化メモリのGに書き込
まれた後,マトリクス回路に出力され,青の撮像タイミングで得られ
た信号は,緑画像信号G2−1,G2−2,・・・として同時化メモ
リのBに書き込まれた後,マトリクス回路に出力され,その後,マト
リクス回路において,赤の撮像タイミングで得られた緑画像信号G1
−1,G1−2,・・・は1倍処理したG1’(R)と0.5倍処理し
た0.5G1’に変換され,蛍光画像信号F−1,F−2,・・・は
1倍処理したF(G)に変換される一方で,緑画像信号G2−1,G2
−2,・・・は不要な信号として排除され,その後,G1’(R),0.
5G1’,F(G)は後処理回路に入力され,G1’(R)信号を赤の映
像信号(R),F(G)信号を緑の映像信号(G),0.5G1’を青の映
像信号(B)としてモニターに出力して,モニター上に蛍光の映像と
背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とす
る
g 光診断装置
イ 被告
(ア) 原告が特定した被告製品の構成の内,構成fについては否認する。
構成fについて,反射光G2に基づく電気信号は,処理回路内のFI
FO回路において遮断されるのであって,マトリクス回路において排除
されるのではない。
(イ) なお,被告製品の詳細な構成は,別紙「反訴被告システム説明書」に
記載のとおりである。すなわち,
a 自家蛍光内視鏡検査において
b 励起光B(青,波長390∼470nm)と照明光G1,G2(共
に緑,波長540∼560nm)とを,励起光B,照明光G1,照明
光G2の順で交互に組織に照射し,
c 組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に,励起光Bは
透過させないが波長帯域500∼630nmの光を通す濾過フィルタ
ーを置いて,
d∼f 励起光Bが組織に当たって青の反射光及び蛍光を発生させたタ
イミングで,濾過フィルターを通過できた蛍光を,白黒CCDの
時系列的な3つの撮像タイミング(T1,T2,T3)の内1つ
のタイミングT1で受光し,
白黒CCDから出力されるタイミングT1の画像信号F(蛍光
Fに基づく電気信号)は,処理回路で処理した後,映像信号Fと
して処理回路の出力端子①から出力して,モニターのG端子に入
力し,
照明光G1及び照明光G2(共に緑)の時は,白黒CCDの3
つの時系列の撮像タイミング(T1,T2,T3)の内のタイミ
ングT2及びT3でそれぞれ反射光G1及び反射光G2を受光し,
白黒CCDから出力されるタイミングT3の画像信号G2(反
射光G2に基づく電気信号)は,処理回路に入力した後,FIF
O回路において遮断し(書き込まず),
白黒CCDから出力されるタイミングT2の画像信号G1(反
射光G1に基づく電気信号)は,処理回路内のマトリクス回路に
おいて2つに分割され,1倍の強度を持った映像信号G1aと0.
5倍の強度をもった映像信号G1bとして生成され,前者(映像
信号G1a)を処理回路の出力端子②からモニターのR端子
(赤)に,後者(映像信号G1b)を処理回路の出力端子③から
モニターのB端子(青)にそれぞれ入力することによって,
CCDのタイミングT1の出力信号(画像信号F)に基づき得
られた蛍光の映像信号を緑の映像として,CCDのタイミングT
2の出力信号(画像信号G1)に基づき得られた映像信号をマゼ
ンタ(赤及び青の加色混合色)の映像として,モニター上で重ね
合わせて表示し,同時かつ同じ画面上で見るようにした
g 自家蛍光内視鏡観察システム
(ウ) このように,被告製品の構成について原告の主張するところは正確で
はないが,本件発明と対比する限度においては,原告が主張する被告製
品の構成は,上記(イ)の構成と実質的に同一である。
(2) 争点(2)(被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)について
ア 構成要件C該当性
(ア) 原告
組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に置く濾過フィル
ターの構成について,被告製品の構成cでは「励起光Rは通過させない
が,500∼630nmの光を通す濾過フィルター」であるのに対し,
本件発明の構成要件Cでは「励起光は通過させないがそれ以外の光をす
べて通す濾過フィルター」である。
本件発明の構成要件Cの「それ以外の光」とは,励起光以外のすべて
の光のことではなく(本件明細書の実施例において使用されている濾過
フィルターも,励起光を除外したすべての光を通すものにはなっていな
い。),被観察物を観察するために励起光と共に用いる照明光であると
解されるところ,被告製品の照明光G1,照明光G2の波長は,被告製
品の構成bに記載されたとおり540∼560nmであり,また,被告
製品の濾過フィルターは,上記のとおり,500∼630nmの光を通
すものであるから,被告製品の照明光G1,照明光G2の波長をすべて
通すものであることが明らかである。
したがって,被告製品の構成cは,本件発明の構成要件Cを充足する。
(イ) 被告
構成要件Cは,白黒CCDの前に置く濾過フィルターが「励起光は通
過させないがそれ以外の光をすべて通す」ことを規定しているところ,
被告製品の濾過フィルターは,通す光の波長帯域が500∼630nm
であり,「それ(波長帯域が390∼470nmの励起光)以外の光を
すべて通す」濾過フィルターではない。
したがって,被告製品の構成cは,構成要件Cを充足しない。
イ 構成要件E該当性
(ア) 原告
被告製品の構成eの「照明光G1(緑)」及び「照明光G2(緑)」は,
励起光ではなく,照明光であるから,構成要件Eの「励起光以外の光
(例えば,緑と赤)」に相当する。
被告製品では照明光G2(緑)の画像信号を不要な信号として排除して
おり,3つある撮像タイミングの信号の内2つの信号しか使っていない
が,照明光G2(緑)と全く同じ照明光G1(緑)の画像信号をモニターの
赤と青チャンネルに配信している。本件明細書に記載されている「CC
Dの3つのチャンネル」とは,「モニターのR,G,Bの3つのチャン
ネル」に対応するものであり,「CCDから電子信号化された映像の情
報を3つあるモニターの端末に配信するルート」と解される(な お,
「CCDのチャンネル」と「撮像タイミング」とは何の関連性もな
い。)から,被告製品においても,CCDの3つあるチャンネルの内,
励起光で用いたチャンネル(緑)以外の残りの2つのチャンネル(赤,
青)にて非励起光による背景の映像を拾っていることになる。
したがって,被告製品の構成eは,本件発明の構成要件Eを充足する。
(イ) 被告
構成要件Eは「CCDの残りの2つのチャンネル(例えば,緑と赤)
にて背景の映像を拾い」と規定しているところ,被告製品では,CCD
の3つの受光タイミング(T1,T2,T3)の内,タイミングT3で
受光した光の画像信号G2は処理回路において遮断・廃棄し,モニター
上で「背景の映像」を表示するための信号(映像信号)の生成には使用
していない。すなわち,タイミングT3で受光した画像信号G2をCC
Dからモニターの入力端子まで配信する配信ルート(チャンネル)は存
在せず,「CCDの残りの2つのチャンネル」の内の1つでしか「背景
の映像を拾」っていない。
なお,本件発明の「CCDのチャンネル」とは,その内の1つで蛍光
を「受光し」(構成要件D),残りの2つで「背景の映像を拾」う(構
成要件E)というものであるから,信号配信ルート全体というよりは,
信号配信ルートとして存在する3つのチャンネルの始点を指していると
解される。そうすると,「白黒CCD」(構成要件C)を用いる本件発
明における「CCDのチャンネル」とは,信号配信ルートとしての3つ
のチャンネルの始点であって,具体的には,白黒CCDにおける受光及
び出力を時系列的な3つの撮像タイミングで分割したものを指すと解釈
するのが相当であり,これに反する原告の解釈は,クレームの文理から
して明らかに無理がある。
以上のとおり,被告製品は,構成要件Eを充足しない。
ウ 構成要件F該当性
(ア) 原告
a 本件発明の構成要件Fは,「送信後3つのチャンネルの信号を再構
成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同
じ画面で見るところを特徴とする」であるところ,被告製品の構成f
では,「G1’(R)信号を赤の映像信号(R),F(G)信号を緑の映像
信号(G),0.5G1’を青の映像信号(B)としてモニターに出力し
て,モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同
じ画面でみるところを特徴とする」となっている。すなわち,被告製
品においては,2つの撮像タイミングの映像信号しか用いていないが,
R,G,Bの3つのチャンネルの信号を再構成してモニターに出力し,
モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させて,同時にかつ同じ
画面で見るものである。
b なお,「CCDのチャンネル」について,被告の主張するように
「撮像タイミング」であると解したとしても,本件発明の構成要件F
は,3つのチャンネルの信号をすべて用いて再構成することに限定さ
れるものではなく(本件特許出願当時,色順次方式で照明光を照射し,
ある撮像タイミングで得られた信号を複製し,2つ以上のモニターの
端子に配信したり,他の撮像タイミングの信号を遮断したりすること
は,通常の処理の範囲であり,当業者に周知の技術であった。),3
つのチャンネルの信号を再構成し,少なくともモニター上に蛍光の映
像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るものであれば
足りると解される。
前記のとおり,被告製品においては,緑画像信号G2−1,G2−
2,・・・は不要な信号として排除されているが,緑画像信号G1−
1,G1−2,・・・及び蛍光画像信号F−1,F−2,・・・は変
換され,背景の赤の映像信号(R),背景の青の映像信号(B)及び蛍光
の緑の映像信号(G)としてモニターに出力され,モニター上に蛍光の
映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るものである
から,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニターに蛍光の
映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見る」ものであ
るということができる。
c したがって,いずれにしても,被告製品の構成fは本件発明の構成
要件Fを充足している。
(イ) 被告
a 「3つのチャンネルの信号を再構成し」とは,「CCDの3つの異
なる撮像タイミングで受光した光(蛍光及び2つの反射光)に基づく
3つの信号を3つのチャンネルで配信し,モニター上に映像として同
時にかつ同じ画面で見られるよう表示すること」であると解されると
ころ,被告製品は,CCDのタイミングT3の信号を処理回路内で廃
棄しており,蛍光の映像と背景の映像とを融合させてモニター上に表
示するのに,CCDのタイミングT1の信号とCCDのタイミングT
2の信号という2つのチャンネルの信号しか使用していないか ら,
「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し」ているものではない。
b 本件発明に関して本件明細書が開示しているのは,3色(青,赤,
緑)の照明光を照射し,青光のみを遮断する濾過フィルターを通して
白黒CCDの3つの撮像タイミング(B,R,G)で得られる3つの
画像信号(蛍光の画像信号,赤(R)の画像信号,緑(G)の画像信
号)を,ビデオシステムセンターを介して各色に対応するモニターの
入力端子(B,R,G)に入力することによって,蛍光の映像,赤の
映像及び緑の映像をモニター上で融合させて見られるようにするとい
うことだけであり,本件明細書上,赤,緑,青の3つの撮像タイミン
グで得られる3つの信号の内の2つだけを「モニター上に蛍光の映像
と背景の映像を融合させて」見るために用いることをうかがわせる記
載は存在しない。また,特許請求の範囲に「3つの信号を再構成し」
と記載されているときに,再構成に用いられる信号が「3つの信号」
でなくてよいとする解釈は,技術的範囲の画定における構成要件解釈
として,およそあり得ない。
したがって,構成要件Fについて,「3つのチャンネルの信号をす
べて用いて再構成することに限定されるものではない」とする原告の
解釈は失当である。
c ちなみに,被告製品において,CCDのタイミングT3で得られる
信号(画像信号G2)を捨て,照明光G1のCCDのタイミングT2
で得られる信号(画像信号G1)のみを背景の映像を表示するために
使用している(励起光以外の照明光として,ヘモグロビンの変化に影
響を受けやすい緑色光1色(G)のみを用い,さらに,1つのタイミ
ングで取った画像信号G1(緑の反射光の信号)を処理回路で2つに
分け,モニターのB端子とR端子に入力している)のは,次のような
理由による。
すなわち,被告製品では,モニターのG端子(緑)に蛍光,B端子
(青)とR端子(赤)にG1の信号がそれぞれ入力されることにより,
重ね合わせた映像において,蛍光が減弱した部位(病変部位)はマゼ
ンタ(赤と青の加色混合色)に,減弱しない部位(正常部位)は明る
い緑色に表示され,病変部位と正常部位とが人間の目で識別しやすい
コントラストの高い補色関係(マゼンタと緑)の色調で表示されるこ
とになる。非励起光によって得られる映像と励起光により得られる蛍
光映像とを重ねて表示するのは,生体組織の中でどの部分に病変部分
があるかを識別しやすくするのが目的であるから,被告製品は,かか
る目的にかんがみて,モニターの各端子(R,G,B)に入れる信号
を工夫し,蛍光以外の2つの反射光で得られる2つの信号の内の1つ
をあえて捨てて視認判別性を優先させるという,本件発明とは異なる
設計思想を採用しているのである。
また,一般的に,内視鏡観察時には被写体(生体)とCCDの間に
は相対的な動きが生じるため,表示される映像の色ずれを小さくしよ
うとすれば,3つの異なるタイミングで撮像された画像信号を用いて
映像を構成するよりは,2つの画像信号のみを用いる方が都合がよい。
さらに,被告製品において,白黒CCDから3つのタイミングで出
力する信号の内の1つを利用しないにもかかわらず,励起光B,照明
光G1,照明光G2を照射するのは,既存の3色フィルターに構造上
の変更を加えるより,信号処理により1色分の信号を捨てるようにす
る方が容易だからである。特に,回転フィルターは,2色光照射とす
るために光を透過させる窓を塞ぐと,回転むらや放熱不良などの不具
合が生じ,構造的な変更には最適設計・調整のための多大な労力を必
要とするため,被告製品では,フィルターの構造自体は変更せずに,
既存の3色フィルターの窓の1つを緑のフィルターに変えただけで使
用し,不要な信号(画像信号G2)は信号処理の過程で捨てる構成と
しているのである。
このように,被告製品は,通常の装置に濾過フィルター等を付加す
るだけで簡便かつ安価な装置で明るい視野での蛍光内視鏡観察(フル
オレセイン蛍光)ができることを一大特徴として標榜する本件発明と
は,もともと設計思想を異にしている。
d 以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Fを充足しない。
エ 均等侵害
(ア) 原告
a 仮に,被告製品がCCDの2つの撮像タイミングと3つのチャンネ
ルを使用していることによって,本件特許に対する文言侵害が認めら
れないとしても,被告製品は,以下のとおり本件発明と均等である。
(a) 第1要件(特許請求の範囲に記載された構成中の被告製品と異な
る部分が特許発明の本質的部分でないこと)
本件発明の本質的部分は,明るい背景の中で蛍光がどこで発生し
ているのかがはっきり分かるように,組織に励起光と非励起光とを
交互に照射し,白黒CCDの前に励起光を完全に遮断する濾過フィ
ルターを置き,濾過フィルターを通過できた蛍光の映像を3つある
チャンネルの1つに割り当て,非励起光の映像を残りの2つのチャ
ンネルに割り当てて融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところに
ある。
したがって,本件発明ではCCDの3つの撮像タイミングと3つ
のチャンネルを使用しているのに対し,被告製品ではCCDの2つ
の撮像タイミングと3つのチャンネルを使用している点が相違点と
認められたとしても,この相違点は,本件発明の本質的部分ではな
い。
(b) 第2要件(特許請求の範囲に記載された構成中の被告製品と異な
る部分を被告製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的を
達することができ,同一の作用効果を奏すること)
被告は,平成16年10月までは,励起光に青,非励起光に緑と
赤の3色照明光を用いており,CCDの3つの撮像タイミングの信
号をすべて用いていたが,その当時の被告製品は,明るさ・色彩・
立体感のどれを取ってみても,現在の被告製品に勝るとも劣らない
作用効果を発揮していた。
したがって,本件発明の構成(3色照明光とCCDの3つの撮像
タイミングの信号を用いたシステム)について,被告製品における
もの(2色の照明光とCCDの2つの撮像タイミングの信号を用い
たシステム)に置き換えても,本件発明の目的は達成され,同一の
作用効果を奏する。
(c) 第3要件(特許請求の範囲に記載された構成中の被告製品と異な
る部分を被告製品におけるものと置き換えることについて,被告製
品の製造等の時点において,当業者が容易に想到することができた
ものであること)
特開平10−201707号公報(乙35)の記載から,本件特
許出願当時,色順次方式で照明光を照射し,ある撮像タイミングで
得られた信号を複製して2つ以上のモニターの端子に配信したり,
他の撮像タイミングの信号を遮断したりすることは,通常の処理の
範囲であったことが明らかである。
したがって,当業者は,被告製品の製造時,本件発明の構成と被
告製品の構成の相違点を被告製品の構成に置換することに容易に想
到し得たものといえる。
(d) 第4要件(被告製品が本件特許出願時の公知技術と同一のもので
はなく,また,本件特許出願時の公知技術から当業者が出願時に容
易に推考できたものではないこと)
被告は,平成19年2月1日発売の内視鏡スコープ「EVIS LUCER
A上部消化管汎用ビデオスコープOLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」及び
「EVIS LUCERA大腸ビデオスコープOLYMPUS CF TYPE FH260AZシリー
ズ」について,同年1月17日に自ら作成したホームページ(乙3
6)の中で,「世界初の蛍光観察が可能な消化管ビデオスコープ」
であるとして,その進歩性を強調している。すなわち,被告自身,
被告製品について,本件特許出願時の公知技術と同一のものではな
く,また,本件特許出願時の公知技術から当業者が容易に推考でき
たものでないことを明言している。
(e) 第5要件(被告製品が本件特許出願手続においてクレームから意
識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もないこと)
本件特許の出願手続上,被告製品の構成について,本件発明の技
術的範囲から意識的に除外したなどの事情は存在しない。
被告は,原告が作成した異議意見書(甲9)及び判定上申書(甲
8)の中から前後関係を無視して都合のよいところだけを引用して,
本件発明の技術的範囲は3色の照明光を用いた通常の面順次式電子
内視鏡にシャープカットフィルターを取り付けたものに限定すべき
であるなどと主張しているにすぎない。
b 以上のとおり,被告製品は,本件発明の均等物であって,本件発明
の技術的範囲に属する。
(イ) 被告
a 第1要件(相違点が本質的部分でないこと)
特許発明の本質的部分とは,明細書の特許請求の範囲に記載された
構成の内,当該特許発明特有の作用効果を生じさせる特徴的部分をい
う。
本件明細書では,本件発明の特有の作用効果として,明るい画像を
モニター上に表示することができる旨の記載があるが,当該効果を生
じさせる手段として本件明細書に開示されているのは,3色の照明光
を照射し,それによってCCDで得た3つの信号すべてを用いてモニ
ター上に画像表示する態様のみであり,原告も,通常の面順次式蛍光
内視鏡(白黒CCDが受光する3つのチャンネルの信号をルートを変
えずにそのままモニターのRGB端子に入力する構成である。)の白
黒CCDの前に濾過フィルターを置くだけの構成で蛍光画像を含む明
るい画像が得られることを本件発明の最も重要な特徴として強調して
いる。そして,CCDの2つの撮像タイミングで得られた2つの信号
を用いて映像を構成するという点を除いて本件発明と構成がすべて一
致する公知技術(甲6)が存在するのであるから,CCDの3つのチ
ャンネルの信号すべてを用いること(更にいえば,3色の照明光を用
いること)は,正に本件発明の本質的部分である。
よって,2色の照明光を用い,かつ,CCDの3つのタイミングで
得られる信号の内2つの信号しか画像構成に用いていない被告製品と
本件発明の相違点は,本件発明の本質的部分に係るものであって,均
等法理の第1要件を満たさない。
b 第2要件(置換可能性)
置換可能性と呼ばれる要件が均等法理の第2要件とされるのは,特
許発明の構成要件の一部(非本質的部分)を対象製品の対応する構成
と置き換えても当該発明の目的を達することができ,同一の作用効果
を奏することができれば,対象製品と特許発明の実施品が客観的に同
一と認められるからである。
被告製品と本件発明は,上記のように本件発明の本質的な部分にお
いて構成が異なっているものであるから,第2要件を検討する必要は
ないが,その点をおくとしても,そもそも被告製品と本件発明は技術
思想が大きく異なっている。すなわち,被告製品では,青の励起光に
基づく画像信号をモニターのG(緑)端子に入力し,緑の非励起光に
基づく画像信号をモニターのR(赤)及びB(青)端子に入力するこ
とで,重ね合わせた映像において,蛍光が減弱した部位(病変部位)
はマゼンタに,減弱しない部位(正常部位)は明るい緑色に表示され
るように構成されているが,マゼンタと緑はいわゆる補色関係にあり,
そのコントラストの高さのゆえに,病変部位と正常部位とが人間の目
で識別しやすいという効果が得られる。このように,被告製品は,あ
えて2色の照明光を用い,かつモニターの各端子(R,G,B)に入
れる信号を工夫することによって,生体組織の中でどの部分に病変部
分があるかを識別しやすくしているのであって,これは,本件発明と
は全く異なる設計思想である。
そして,生体組織の吸収・反射特性は光の波長(色)によって異な
るから,本件明細書に開示された装置構成において,照明光(非励起
光)として緑色光のみを用いた場合,赤色光も用いた場合と比べて,
表示される映像の色合いは異なり,被告製品のような視認判別性の高
い色調表示にはならない。原告がこれまでに主張している「本特許の
方法だと映像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画質とし
て通常の電子スコープによる通常のカラー映像とはなんら変わらな
い。」といった本件発明の効果は,青,赤,緑の3色の照明光を用い
なければ得られないものである。
また,CCDの3つのタイミングで得られる信号の内2つの信号し
か画像構成に用いないという被告製品の構成と,本件発明の構成とで
は,色ずれという点でも相違が生じている。
かかる観点に照らしても,均等法理の第2要件を満たすとする原告
の主張は失当である。
c 第3要件(置換容易性)
本件発明の構成は,通常の面順次式の装置と同様,CCDの赤のチ
ャンネルの信号はモニターの赤(R)端子に,CCDの緑のチャンネ
ルの信号はモニターの緑(G)端子に,CCDの青のチャンネルの信
号はモニターの青(B)端子にそれぞれ入力されるというものである
のに対し,被告製品においては,CCDの3つのタイミングで得られ
た信号の内,非励起光に基づく1つの信号を処理回路内で廃棄し,も
う1つの非励起光に基づく信号を処理回路内で2つに分割し,1倍の
強度を持った映像信号と0.5倍の強度を持った映像信号を生成して,
前者をモニターのR端子(赤)に,後者をB端子(青)に入力すると
いう特別な構成が採られている。
本件発明の構成をこのような被告製品の構成に置き換えることは,
当業者が容易に想到し得たものではない。原告は,特開平10−20
1707公報(乙35)を根拠として,均等法理の第3要件が満たさ
れると主張するが,乙35には,被告製品のようにCCDの3つのタ
イミングで得られた3つの信号の内の1つを廃棄したり,別の1つの
信号を2つに分割したりする態様は全く記載されていない。
したがって,均等法理の第3要件を満たすとする原告の主張は理由
がない。
d 第5要件(意識的除外等の特段の事情)
原告は,本件特許の異議申立手続の異議意見書(甲9)において,
「(本特許の映像は)緑と赤で受信した背景の映像と融合させてい
る。」,「本特許の自家蛍光内視鏡写真は通常の面順次式にシャープ
フィルターを取り付けただけで,明るくて鮮明な画像が得られる。既
に,述べたように蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を
緑と赤のチャンネルで受信し,そして3つのチャンネルの信号を融合
させているからである」,「蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背
景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,3つのチャンネルの信号を
融合してモニターに映し出すことになる。・・・本特許の方法だと映
像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画質として通常の電
子スコープによる通常のカラー映像とはなんら変わらない」などと主
張している。また,原告は,判定の手続においても,「背景を拾うの
に1チャンネルしか使用しないとすると得られる映像は2色しかなく
明るさも色彩も悪くなってしまう」と主張している(甲8)。
上記の異議申立手続や判定における原告の主張は,明らかに本件発
明がCCDからの3つの画像信号すべてをモニターの入力端子まで配
信して画像を構成するものであることを前提としており(なお,上記
の引用箇所が実施例に限定して言及したものであることを示す記載は,
異議意見書や判定上申書の中には全く存在しない。),原告は,CC
Dからの3つの画像信号のすべてをモニター上の画像構成に用いない
構成を特許請求の範囲から意識的に除外しているのであるから,均等
法理の第5要件も満たさない。
e まとめ
以上のとおりであるから,被告製品は,本件発明の構成と均等なも
のではなく,本件発明の技術的範囲に属さない。
(3) 争点(3)(特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限)について
ア 被告
(ア) 刊行物記載の発明
a 特表平10−500588号公報(甲6)は,「積分された内部蛍
光を使用して病気の組織の画像を映すための装置および方法」(発明
の名称)に関するものであり,画像の検出装置としてCCDを用い,
生体内の組織に異なる波長の光を照射して得られる蛍光の画像と再放
射光の画像を組み合わせて表示画面上で一緒に表示することにより,
病気の組織の部位を識別するという技術思想が示されているが,その
実施形態(第4の実施形態の変形)として,次の(a)∼(f)の構成を有
する光診断装置(g)の発明が記載されている。
(a) 蛍光内視鏡検査において,
(b) 励起光(青)とそれ以外の光(赤)を交互に組織に照射し,
(c) 組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に励起光は透
過させないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルターをおいて,
(d) 励起光が組織に当たって蛍光を発生させたタイミングで濾過フィ
ルターを通過できた蛍光をCCDの1つのチャンネルで受光し励起
光から蛍光を取り出して,
(e) 励起光以外の光の時は,CCDの別のチャンネルにて背景の映像
を拾い,
(f) 送信後2つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映
像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見る,
(g) 光診断装置
b 特開平8−140929号公報(甲7)は,通常の内視鏡観察と蛍
光診断とを容易に行うことができるように挿入部の先端に2つの固体
撮像素子を設けた「蛍光診断用電子内視鏡装置」(発明の名称)に関
するものであり,次の(a)∼(f)の構成を有する光診断装置(g)の発明
が開示されている。
(a) 蛍光内視鏡検査において,
(b) 励起光(青)と非励起光(緑及び赤)を交互に照射し,
(c) 組織から反射してきた光を感受する白黒CCD(第1の固体撮像
素子)の前に励起光(400nm∼500nm)を通過させない蛍
光透過用フィルター(520∼600nmの波長の光だけを透過す
るフィルター)を置いて,
(d) 励起光(青)が組織に当たって蛍光を発生させたタイミングでフ
ィルターを通過した蛍光をCCDのRGBチャンネルの内のBチャ
ンネルで受光し,励起光から蛍光を取り出し,
(e) 非励起光(赤,緑)の時は,CCDのRチャンネル及びGチャン
ネルで受光し,背景の映像を拾い,
(f) 送信後3つのチャンネルの信号(RGB信号)を,ビデオ回路
(通常画像用ビデオ回路)及びビデオ信号切換回路を経て,モニタ
ー(モニタテレビ)に画像を表示するために,RGB3色のビデオ
信号(蛍光の映像〔Bチャンネルのビデオ信号〕と背景の映像の信
号〔Rチャンネル及びGチャンネルのビデオ信号〕)として出力す
るようにした,
(g) 光診断装置(蛍光診断用電子内視鏡装置)
(イ) 甲6発明に基づく想到容易
a 本件発明と甲6発明の対比
本件発明と特表平10−500588号公報(甲6)に記載された
発明(以下「甲6発明」という。)とを対比すると,両者は,
「蛍光内視鏡検査において,励起光とそれ以外の光を交互に組織に照
射し,組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に励起光
は通過させないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルターをおい
て,励起光が組織に当たって蛍光を発生させたタイミングで濾過フ
ィルターを通過できた蛍光をCCDの1つのチャンネルで受光し励
起光から蛍光を取り出して,励起光以外の光のときはCCDの別の
チャンネルにて背景の映像を拾い,送信後複数のチャンネルの信号
を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時
にかつ同じ画面で見るところを特徴とする光診断装置」
である点において共通し,
本件発明においては,CCDのチャンネルが3つあり,励起光をそ
の内1つのチャンネルで受光し励起光から蛍光を取り出し,励起光以
外の光のときはCCDの残りの2つのチャンネルで背景の映像を拾い,
送信後3つのチャンネルの信号を再構成しているのに対し,甲6発明
は,CCDのチャンネルが3つではなく,励起光以外の光のときはC
CDの別の1つのチャンネルで背景の映像を拾い,送信後CCDの2
つのチャンネルの信号を再構成している点において相違する。
b 甲6発明に基づく想到容易(その1)
上記の相違点は,要するに,本件発明においては,励起光及び照明
光として合計3色を用い,蛍光と照明光の反射光とで合計3つのチャ
ンネルの信号をモニター上の映像表示に使用するのに対し,甲6発明
では励起光及び照明光として2色を用い,蛍光と照明光の反射光とで
2つのチャンネルの信号をモニター上の映像表示に使用するというこ
とである。
しかし,甲6発明の第4の実施形態の変形に記載された装置におい
て,背景の映像を1色の光に基づく1つのチャンネルの信号で構成す
るか,それとも2色の光に基づく2つのチャンネルの信号で構成する
かは,当業者が目的に応じて適宜選択し得る設計事項にすぎない。そ
して,モニターにはRGB3つの入力端子があるから,蛍光の映像と
背景の映像を病変部が識別できるように同時にモニター上に表示しよ
うとするときに,RGB3色に対応するCCDの3つのチャンネルの
信号を使用することは,ごく自然な発想であり,少なくとも当業者に
とって,チャンネルを3つとし,3つのチャンネルの信号でモニター
上に表示される映像を構成することは,容易に想到し得るところであ
る。
また,甲6には,その第4の実施形態の変形について,「この変形
において,内視鏡装置は,光源8がタイミングサイクルを通じて2以
上の波長の光で病気の箇所を順次照明するように変更されている」と
記載されており,2色以上である3色(励起光1色と励起光以外2
色)を照射し,CCDの3つのチャンネルの信号を用いることが示唆
されているし,同じ甲6に記載された第3の実施形態の付加的な変更
においては,赤色の再放射画像,青色の再放射画像及び緑色の内部蛍
光画像の3つを同時にかつ同じ画面でモニターに表示し,これによっ
て正常な組織と異常な組織とを識別し得ること(正常な組織は白で表
示され,炎症を起こした組織は赤みを帯びた色調を有し,異常な組織
は紫を帯びた色調となる。)が記載されている。
そうすると,励起光とそれ以外の照明光から得られる蛍光及び反射
光をCCDの3つのチャンネル(RGBの各チャンネル)で受光し,
そこから出力される3つのチャンネルの映像信号をモニター上の表示
に使用することは,甲6自体において示唆され,少なくとも動機付け
が与えられているということができる。したがって,第4の実施形態
の変形において,2色に代えて3色(励起光1色と励起光以外2色)
を用い,その照射によって得られる蛍光及び再放射光をCCDの異な
る3つのチャンネル(受光タイミング)で受光し,それら3つのチャ
ンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像とを融
合させ同時かつ同一画面で見るようにすることは,本件特許出願前に
当業者が容易に想到し得たことである。
c 甲6発明に基づく想到容易(その2)
甲6発明の第4の実施形態の変形は,蛍光と背景光とをモニター上
に融合(表示手段上で擬似カラー画像として表示するために画像を組
み合わせること)させ,同時かつ同じ画面で見るという基本的な技術
思想において本件発明と何ら異なるところがない。加えて,甲6には,
「この変形において,内視鏡装置は,光源8がタイミングサイクルを
通じて2以上の波長の光で病気の箇所を順次照明するように変更され
ている」として,2色以上である3色(励起光1色と励起光以外2
色)を照射し,CCDの3つのチャンネルの信号を用いることが示唆
されている。
一方,甲7には,甲6発明の第4の実施形態の変形に示唆されてい
る3色照明(励起光1色と励起光以外2色)と同様に3色照明を行い,
かつ,通常画像用ビデオ回路で撮像信号を処理してモニタテレビに画
像を表示するためのRGB3色のビデオ信号に再構成する電子内視鏡
装置が示されている。
そうであれば,当業者が,甲6記載の2以上の波長(3色を含み,
励起光1色と励起光以外2色まで示唆している)を順次照明する光源
と,励起光をカットするフィルタモジュールと,CCDセンサと,画
像処理手段を具備した画像ボードと,RGBモニターとを備え,蛍光
画像と背景画像を組み合わせた擬似カラー画像を表示する蛍光内視鏡
において,甲7に記載された3色照明を行い,その内の1色を励起用
とし,他の2色を背景用として,RGBモニター上に融合させて同時
かつ同じ画面に擬似カラー画像として表示させるようにすることは,
格別の創作力を要することではない。本件発明は,甲6発明に甲7記
載の技術的事項を適用することにより,本件特許出願前に当業者が容
易に想到し得たものである。
d 効果
本件発明の効果とされる「背景の中に蛍光を発しているところを特
定しやすくするだけでなく,従来の蛍光だけの映像と比べて視野が明
るく生検や粘膜切除などの操作が,蛍光をみながら簡単にできるほか,
フィルムやカラープリンターでの写真の撮影も通常観察時と同じ条件
でできる」ことも,蛍光と背景光とをモニター上に融合させ,同時か
つ同じ画面で見るという基本的な技術思想において共通する甲6発明
から予測できる効果の範囲を超えるものではない。
(ウ) 甲7発明に基づく想到容易
a 本件発明と甲7発明の対比
特開平8−140929号公報(甲7)に記載された発明(以下
「甲7発明」という。)は,本件発明の構成要件A∼E,Gに相当す
る装置構成を備えている。
もっとも,甲7には,モニターへの表示に関して,CCDから通常
画像用ビデオ回路に送信された3つのチャンネルの信号を,モニタテ
レビに画像を表示するためにRGB3色のビデオ信号として出力する
こと(f)については記載されているものの,ビデオ回路とモニタテレ
ビとの間には,RGB3色のビデオ信号をモニタテレビに送る通常画
像表示状態と,B信号だけをモニタテレビに送る蛍光画像表示状態と
を選択することができるビデオ信号切り換え回路が「介挿」されるこ
とが記載されており,モニター上に表示する際に「蛍光の映像と背景
の映像を融合させ同時にかつ同じ画面でみる」ようにすることについ
ては積極的な記載がない。したがって,「蛍光の映像と背景の映像を
融合させ同時にかつ同じ画面で見る」ことについては明示がないとい
う点において,両者は相違するということができる。
b 甲7発明に基づく想到容易(その1)
甲7には,青の励起光による反射光を遮るために固体撮像素子(白
黒CCD)の前方にフィルタを配し,RGBの3色光源を使用して白
黒CCDにてRGB面順次方式の撮像を行い,固体撮像素子から出力
されるRGB撮像信号をビデオ回路に入力し,ビデオ回路からRGB
信号としてモニターへと出力する装置が示されている。そして,この
装置において,第1の固体撮像素子から出力され,ビデオ回路に入力
される信号は,3色の照明光を照射し,RGB面順次方式により撮像
された撮像信号であり,ビデオ回路で処理されてモニタテレビに画像
を表示するために出力されるビデオ信号も,RGB3色のビデオ信号
である(Bチャンネルの信号は,青の励起光がフィルタでカットされ
ている結果,蛍光画像の信号となっている。)。すなわち,甲7に示
された装置において,蛍光映像表示は,ビデオ信号切り換え回路がビ
デオプロセッサから入力される固体撮像素子のRGB3色のビデオ信
号の中からB信号(青色の照明光で照明されているときのビデオ信
号)だけを選択して出力することによって行うものであるところ,こ
の装置において,残りのビデオ信号(R,G)を遮断するか,又は,
B信号同様に通過させるかは,単なる二者択一の選択事項の1つであ
るにすぎず,残りのビデオ信号(R,G)を通過させれば,通常画像
用ビデオ回路が出力するRGB3色のビデオ信号は,そのままモニタ
テレビのRGBチャンネルに入力され,蛍光の映像と背景の映像とを
表示場面上で融合させ同時にかつ同じ画面で見ることができる。
そうである以上,本件発明は,甲7記載の装置の使用に際して随時
選択され得る形態にすぎず,そうでないとしても,同装置について当
業者が適宜採用し得る構成であるというべきである。
c 甲7発明に基づく想到容易(その2)
本件発明は,本件特許権者である原告自身が特許異議の手続(異議
2003−70284)で提出した平成15年7月10日付け意見書
(甲9)において「他に,甲第1号証(注:異議における証拠で,特
開平3−97441号公報)をはじめいくつかの特許出願では蛍光の
映像と通常のカラー映像とを融合させる試みもあった。しかし,明る
い画面にはなったが,蛍光の変化をreal timeにみることはできなか
った。本特許の方法は蛍光内視鏡の問題点をはじめて解決できたとい
える。通常使われている面順次式の電子内視鏡の器械に・・・シャー
プカットフィルターを取り付けただけで,繰り返しになるが,蛍光の
映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受
信し,3つのチャンネルの信号を融合してモニターに映し出すことに
なる。これで明るい背景の中でreal timeに蛍光がどのように変化し
ているのかよく分かる。多くて2色から構成されている他の方法で得
られる蛍光の映像と違い,本特許の方法だと映像は青,緑,赤の3色
から構成されているので,画質としては通常の電子スコープによる通
常のカラー映像とはなんら変わらない」と強調していたことにも示さ
れるように,「通常使われている面順次式の電子内視鏡の器械に・・
・シャープカットフィルターを取り付けただけ」の構成であるという
ことができる。
この点,甲7の蛍光観察用の固体撮像素子の撮影光路によって形成
されている電子内視鏡装置の構成は,正に「通常使われている面順次
式の電子内視鏡装置に蛍光透過用フィルターを取り付けた」構成であ
り,ビデオ信号切り換え回路は,この構成の上に「介挿」されるもの
にすぎない。
ここで,緑色の内部蛍光画像のみではなく蛍光以外の青色の再放射
光の画像及び赤色の再放射光の画像も併せて表示装置に送り,表示画
面上で画像を組み合わせて一緒に表示すること(すなわち,表示画面
上で融合させ同時かつ同じ画面に表示すること)は,甲6に「第3の
実施形態の装置の付加的な変更」として明示されている。のみならず,
蛍光の画像と再放射光の画像を組み合わせて一緒に表示することは,
甲6に基本的な技術思想として明示されているところである。
したがって,当業者にとって,甲7の装置を,ビデオ信号切り換え
回路が「介挿」される前の,通常の面順次式の電子内視鏡装置に蛍光
透過用フィルターを取り付けただけの構成に戻すことによって,RG
B3色のカラー画像をモニタテレビに表示させるようにすることは,
容易に想到し得たことである。
d 効果
本件発明の効果は,甲7発明から予測できる効果の範囲を超えるも
のではない。
(エ) 以上のとおり,本件発明は,甲6発明,甲7発明又は両者の組合せに
より,本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない
ものである。
したがって,本件特許には,特許法123条1項2号所定の無効理由
があるから,原告が,被告に対し,本件特許権を行使することは許され
ない(特許法104条の3)。
イ 原告
(ア)a 甲6発明の第4実施形態の変形は,カラーCCDを使用する技術で
あり(なお,面順次照明方式の内視鏡装置において用いられるCCD
は,必ずしも白黒に限られるものではなく,例えば乙20の第2実施
例のように,カラーCCDが用いられる例も存在する。),励起光と
非励起光を交互に照射し,CCDの前に励起光を遮断する濾過フィル
ターを置き,モニター上蛍光の映像と背景の映像を融合させる点は本
件発明と同じであっても,白黒CCDを使用する本件発明とは内容的
に異なる。
b 甲6発明の第4実施形態の変形では,小さいCCD(種類の記載が
ない)で十分な蛍光を得るために,タイミングサイクルの大部分の期
間を利用して青色の励起光を照射し,青色の励起光によって照明され
ている期間中には,低い分解能の蛍光の画像を得るために画像感知手
段の感度を増加させる一方,赤色光/近赤外線(非励起光)を照射さ
れているタイミングサイクル中の短い期間には,高い分解能の画像を
得るために画像感知手段の感度を減少させている。そして,順次に得
られた蛍光画像と非励起光画像を記憶し,同期化してモニター上に表
示するようにしている。また,甲6発明において,非励起光は,蛍光
画像を標準化(距離,角度,照明強度による影響を蛍光から取り除く
ため,蛍光を背景光で除算すること)するために使用されるものであ
り,非励起光による背景の映像の中で蛍光がどこに発生しているのか
を知るために用いられるものではない。したがって,蛍光画像を標準
化する非励起光として好ましいのは,組織の表面構造がよく再現でき
る波長の短い光ではなく,組織の表面構造がほとんど再現されない7
00nm以上の波長を含む長い赤色から赤外光とされる。
これに対し,本件発明では,内視鏡先端にある小さなCCDの感度
を甲6発明の第4実施形態の変形のような特殊な方法で上げるのでは
なく,蛍光の映像そのものの明るさが弱くても,蛍光の映像とは異な
る2色の背景の映像と融合させることで,蛍光が発生しているところ
が3色となり,明るくて鮮明な背景の中にどこで蛍光が発生している
のかがよく分かるというものである。また,本件発明においては,蛍
光画像を標準化しなければならないとは考えられておらず,したがっ
て,非励起光として赤色光を使用する必要もない。
c このように,甲6発明の第4実施形態の変形と本件発明は,発明の
コンセプトに大きな違いがあり,甲6発明の第4実施形態の変形に基
づいて本件発明に想到することが容易であったとはいえない。
(イ) 甲7には,蛍光の映像と背景の映像を融合させるという記述は一切な
く,むしろ「蛍光透過用フィルタが配置されている方の個体撮像素子の
出力信号が選択されているときには,被写体が青色の照明光で照明され
ているときのビデオ信号だけをモニターに入力させるビデオ信号切り換
え手段を設けたことを特徴とする」との記載からすれば,蛍光の映像の
みが得られるようにしていたことが分かる。すなわち,当業者は,本件
発明のように,被写体が青色の照明光で照明されているときのビデオ信
号だけでなく,緑と赤の照明光で照射されているときのビデオ信号も通
常通りモニターに入力させると,うまくいくはずがないと考えていたと
推測できる。
本件発明は,蛍光診断用画像は,1つのチャンネルで受像した1色の
蛍光の映像と,残りの2チャンネルで受像した,蛍光とは異なる2色の
背景の映像とを融合させ,同時にかつ同じ画面で見ることを可能にした
ものであるが,本件特許出願時,当業者は,本件発明がもたらす効果を
全く予想することができなかった。
したがって,甲7発明に基づいて本件発明に想到することが容易であ
ったとはいえない。
(ウ) なお,特許庁は,異議2003−70284の異議決定(乙6)にお
いて,甲6発明及び甲7発明を発展させた特開平9−70384号公報
(乙30)が,いずれもモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合さ
せ,同時にかつ同じ画面で見るもので,検出器の前に励起光を除去する
フィルターを置く点で本件発明と共通するものの,本件発明のように白
黒CCDの3つあるチャンネルの内の1つのチャンネルで蛍光を受光し,
残りの2つのチャンネルで背景の映像を拾うものではなく,本件発明が
甲6及び甲7を発展させた乙30発明に基づいて当業者が容易に発明す
ることができたものということはできないと結論づけている。
また,被告は,特許庁の判定2007−600027(乙3)におい
て本件発明の技術的範囲に属すると判定された「EVIS LUCERA上部消化
管汎用ビデオスコープOLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」,「EVIS LUCERA大腸
ビデオスコープOLYMPUS CF TYPE FH260AZシリーズ」について,平成1
9年2月1日に「世界初の消化器用蛍光ビデオ内視鏡」として販売を開
始しているが,その宣伝用のホームページの中で「自家蛍光は,極めて
微弱な光であるため,通常の小型CCDで検出することは困難であり,
従来はファイバースコープによる観察が主流でした」と述べている。こ
のように,被告自ら,平成11年より前に電子スコープで自家蛍光観察
に成功した本件発明について,当業者が容易に発明できたものでないこ
とを認めている。
(エ) 以上のとおり,甲6発明及び甲7発明は,本件特許の無効理由にはな
り得ない。
本件発明は,蛍光の映像と背景の映像を融合させた初めての蛍光電子
内視鏡システムであり,本件特許出願前,当業者が容易に想到し得なか
った技術である。
(4) 争点(4)(損害額)について
ア 原告
(ア) 本件特許権侵害による損害額は,以下のとおりである。
a 被告は,遅くとも,本件特許の成立の後である平成19年2月から
被告製品を製造・販売しているところ,被告製品の1セット(内視鏡
ビデオスコープシステム「EVIS LUCERA SPECTRUM」,ビデオスコープ
「EVIS LUCERA OLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」及びカラービデオモニタ
ー「OEV191H」)当たりの販売価格は,1041万6000円である。
また,被告による被告製品の製造・販売数については,反訴提起ま
での約2年4か月間で少なくとも合計500セットであると考えられ
る。
b 原告の被告に対する本件特許権のライセンスにおける料率は,被告
製品の売上の15パーセントを下ることはない。
c そうすると,原告の損害額は,特許法102条3項の適用により,
以下の計算式から算出される。
1041万6000円(単価)×500セット(販売数)×15%(ライセン
ス料率)
=7億8120万円(ライセンス料相当額)
(イ) よって,被告が原告に賠償すべき損害額は,合計7億8120万円で
あるところ,原告は,被告に対し,上記損害額の一部である1億円及び
これに対する平成21年6月11日(反訴状送達の日の翌日)から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告製品の構成)について
(1) 被告製品の構成について,原告は,
a 蛍光内視鏡検査において
b 励起光R(390∼470nm(青))と照明光G1(540∼560
nm(緑))と照明光G2(540∼560nm(緑))を交互に組織に照
射し,
c 組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に,励起光Rは通
過させないが,500∼630nmの光を通す濾過フィルターをおいて,
d 励起光Rが組織に当たって蛍光Fを発生させたタイミングで,濾過フ
ィルターを通過できた蛍光をCCDの時系列な3つの撮像タイミング
(赤,緑,青)の内の1つの撮像タイミング(緑)で受光し,励起光R
から蛍光Fを取り出し,
e 照明光G1(緑)の時はCCDの時系列な3つの撮像タイミング(赤,
緑,青)の内の赤の撮像タイミングにて背景の映像を拾い,また,照明
光G2(緑)の時は,青の撮像タイミングにて背景の映像を拾い,
f 赤の撮像タイミングで得られた信号は,緑画像信号G1−1,G1−
2,・・・として同時化メモリのRに書き込まれた後,マトリクス回路
に出力され,緑の撮像タイミングで得られた信号は,蛍光Fの蛍光画像
信号F−1,F−2,・・・として同時化メモリのGに書き込まれた後,
マトリクス回路に出力され,青の撮像タイミングで得られた信号は,緑
画像信号G2−1,G2−2,・・・として同時化メモリのBに書き込
まれた後,マトリクス回路に出力され,その後,マトリクス回路におい
て,赤の撮像タイミングで得られた緑画像信号G1−1,G1−2,・
・・は1倍処理したG1’(R)と0.5倍処理した0.5G1’に変換さ
れ,蛍光画像信号F−1,F−2,・・・は1倍処理したF(G)に変換
される一方で,緑画像信号G2−1,G2−2,・・・は不要な信号と
して排除され,その後,G1’(R),0.5G1’,F(G)は後処理回
路に入力され,G1’(R)信号を赤の映像信号(R),F(G)信号を緑の
映像信号(G),0.5G1’を青の映像信号(B)としてモニターに出
力して,モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ
同じ画面でみるところを特徴とする
g 光診断装置
と特定する。
これに対し,被告は,上記構成fについて,緑画像信号G2−1,G2−
2,・・・(反射光G2に基づく電気信号)は処理回路内のFIFO(Firs
t In First Out)回路において遮断されるものであり,マトリクス回路(蛍
光観察しやすい信号を作るため,CCDで撮像して得られた画像信号をマト
リクス処理する回路)において排除されるのではない旨主張する。
ところで,被告製品の構成についての上記原告主張と被告主張の相違は,
FIFO回路及びマトリクス回路を含むビデオシステムセンター内部におけ
る構成に関するものであるが,本件発明に係る特許請求の範囲には,CCD
で受光した後の電気信号の処理に関する記載はなく,本件明細書の発明の詳
細な説明中にも,「ビデオシステムセンターを通して」(「ビデオシステム
センターによって」,「ビデオシステムセンターを介して」)モニター上に
画像を再構成する旨の記載(段落【0021】,【0028】,【003
5】,【0043】,【0045】,【0046】,【図5】等)が存在す
るにすぎない(甲2)。そして,被告は,CCDで受光した後の緑画像信号
G2−1,G2−2,・・・(反射光G2に基づく電気信号)がビデオシス
テムセンター内において不要な信号として排除されることは認めているので
あるから,結局のところ,緑画像信号G2−1,G2−2,・・・(反射光
G2に基づく電気信号)がビデオシステムセンター内の「処理回路」におい
て遮断され,モニターに出力されないことについては,当事者間に争いがな
いということになる。
したがって,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを検討する
に当たって,照明光G2の反射光(緑画像信号G2−1,G2−2,・・
・)がビデオシステムセンター内のマトリクス回路で遮断されるか,FIF
O回路で遮断されるかは,結論に影響を及ぼさないということに帰着する。
そこで,被告は,本件訴訟係属前,被告製品の構成が原告の主張するとおり
であることを自認していたこと(乙1,2),本件訴訟において,被告製品
のFIFO回路で緑画像信号G2が遮断されていることについての立証が十
分にされているとはいい難いこと等にかんがみ,以下,被告製品は原告の主
張する構成(特許庁における判定〈判定2007−600027〉の手続で
認定されたものと同一の構成)を有するものであることを前提として,本件
発明の技術的範囲に属するか否かを検討する。
2 争点(2)(被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1) 被告製品が本件発明の構成要件A,B,D,Gを充足していることは当事
者間に争いがない。
(2) 構成要件Eについて
ア 本件発明の構成要件Eは,「励起光以外の光(例えば,緑と赤)の時は
CCDの残りの2つのチャンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾
い」であるところ,被告製品の構成eの「照明光G1(緑)」及び「照明
光G2(緑)」は,励起光ではなく,照明光であるから,本件発明の構成
要件Eの「励起光以外の光(例えば,緑と赤)」に相当する。
イ ところで,構成要件Eは「CCDの残りの2つのチャンネル(例えば,
緑と赤)にて背景の映像を拾い」であり,「CCDのチャンネル」(構成
要件D,E)の技術的意義は,特許請求の範囲の記載からは必ずしも一義
的に明確とはいえない。そこで,本件明細書及び添付図面の記載を見ると,
段落【0021】には,「考察:実験に使った光源装置では,光源の前に
三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて順次に三原
色の光を作り出し,被観察物に照射する。そして,被観察物から順次に反
射してくる三原色の光を内視鏡先端の白黒のcharge coupled device(C
CD)にて受光し電気信号に変える。つまり,三原色の赤の時はCCDで
受けた電気信号は赤チャンネルとして,緑の時は緑チャンネルとして,そ
して,青の時は青チャンネルとして扱い,送信後ビデオシステムセンター
によってモニター上に画像を再構成している」との記載が,段落【003
5】には,「白黒CCDでは,三原色の赤,緑,青は区別できず,暗いか
明るいかで判別し電子信号化している。カラーの映像を作り出すためには,
光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて
順次に三原色の光を送り,被観察物を照射する。赤の光が出た時には,被
観察物から反射してくる光を内視鏡先端の白黒のCCDにて受光し赤チャ
ンネルに,緑光の時は緑チャンネルに,そして,青光の時は青チャンネル
に電気信号化して,送信後ビデオシステムセンターによってモニター上に
画像を再構成している」との記載があり,【図6】には,赤色光を被観察
物に照射したタイミングで反射光を白黒CCDで受けて電気信号に変換し
て出力する構成を赤(R)チャンネル,緑色光を被観察物に照射したタイ
ミングで反射光を白黒CCDで受けて電気信号に変換して出力する構成を
緑(G)チャンネル,青色光を被観察物に照射したタイミングで反射光を
白黒CCDで受けて電気信号に変換して出力する構成を青(B)チャンネ
ルとした図が示されている(甲2)。そして,構成要件D,Eの「CC
D」が白黒CCDであり(構成要件C),白黒CCDが赤(R),緑
(G),青(B)の異なる波長の画像信号を得るためには,赤,緑,青の
各波長帯域の反射光を時分割で受光し,出力しなければならないことにか
んがみると,構成要件D,Eの「CCDのチャンネル」とは,「白黒CC
Dの時系列的な各色の撮像タイミング(白黒CCDにおける受光・出力の
タイミングを時系列的に分割したもの)」を意味するものと解するのが相
当である。
この点,原告は,「CCDのチャンネル」について,モニターのR,G,
Bの3つのチャンネルに対応するもので,撮像タイミングとは何の関連性
もない旨を主張する。しかしながら,本件発明において,「CCDのチャ
ンネル」は,その内の1つで蛍光を「受光し」(構成要件D),残りの2
つで「背景の映像を拾」う(構成要件E)ものとされ,蛍光や反射光を受
光するのはモニターではないのであるから,原告の上記解釈は採用するこ
とができない。
ウ そして,被告製品の構成eは,「照明光G1(緑)の時はCCDの時系
列な3つの撮像タイミング(赤,緑,青)の内の赤の撮像タイミング(C
CDの赤のチャンネル)にて背景の映像を拾い,また,照明光G2(緑)
の時は,青の撮像タイミング(CCDの青のチャンネル)にて背景の映像
を拾い」というものであり,CCDの3つあるチャンネルの内,励起光で
用いたチャンネル(緑)以外の残りの2つのチャンネル(赤,青)にて背
景の映像を拾っているということができるから,本件発明の構成要件Eを
充足するものと認められる。
なお,上記のとおり,本件発明の構成要件Eは,白黒CCDにおける撮
像の仕方を規定したものであり,白黒CCDからの出力を受けたビデオシ
ステムセンター内で行われる信号処理の内容とは関係がないから,仮に被
告製品の構成が被告の主張するとおりのもの(別紙「被告システム説明
書」のとおりの構成)であったとしても,上記判断を左右しない。
(3) 構成要件Fについて
ア 本件発明の構成要件Fは,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し
モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で
見るところを特徴とする」であるところ,「3つのチャンネルの信号を再
構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ(る)」の技術的意
義は,本件特許請求の範囲の記載からは必ずしも一義的に明らかではない。
イ(ア) そこで,本件明細書を見ると,「発明の詳細な説明」には次の記載
がある。(甲2)
a 「実験に使った光源装置では,光源の前に三原色RGBのband pa
ss filtersを置き,それを回転させて順次に三原色の光を作り出し,
被観察物に照射する。そして,被観察物から順次に反射してくる三
原色の光を内視鏡先端の白黒のcharge coupled device(CCD)に
て受光し電気信号に変える。つまり,三原色の赤の時はCCDで受
けた電気信号は赤チャンネルとして,緑の時は緑チャンネルとして,
そして,青の時は青チャンネルとして扱い,送信後ビデオシステム
センターによってモニター上に画像を再構成している。」(段落
【0021】)
b 「白黒CCDでは,三原色の赤,緑,青は区別できず,暗いか明
るいかで判別し電子信号化している。カラーの映像を作り出すため
には,光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを
回転させて順次に三原色の光を送り,被観察物を照射する。赤の光
が出た時には,被観察物から反射してくる光を内視鏡先端の白黒の
CCDにて受光し赤チャンネルに,緑光の時は緑チャンネルに,そ
して,青光の時は青チャンネルに電気信号化して,送信後ビデオシ
ステムセンターによってモニター上に画像を再構成している。」
(段落【0035】)
c 「この自家蛍光内視鏡システムに本発明の請求項1に記載の蛍光
の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見る方法を
応用すれば,これらの問題を解決できる。具体的には,水銀ランプ
の前に青色励起フィルターと原色の赤と緑のフィルターを有するban
d pass filtersを置き,それを回転させ,順次に青,緑,赤の光を
粘膜に照射する。通常観察の時はそのまま,粘膜から反射してくる
光を,ファイバースコープで拾い,体外で高感度カメラで電子信号
化し,ビデオシステムセンターを介して,モニター上に映像を再構
築すればよい。蛍光観察の時は,光源の前にもう一枚励起光の青を
よく通すが,赤と緑をある割合でカットする本発明の請求項2に記
載の青の調整フィルターを入れ,かつ高感度カメラのCCDの前に
も青を完全に遮断する黄色フィルター( Kodak Wratten filter No.15)
を差し込めば,蛍光の映像と背景の映像を融合させたものが見え
る。」(段落【0040】)
d 「光源9の前でRGBのband pass filtersが回転している。R
(赤)フィルター10,G(緑)フィルター11,B(青)フィル
ター12をそれぞれ通った光(太い矢印)が調整フィルター13を
通して被観察物であるフルオレセインをつけた白紙14に当たって
反射し,濾過フィルター15を通過して白黒CCD16に達し赤チ
ャンネル17,緑チャンネル18,青チャンネル19に電子信号化
される。この3つのチャンネルがビデオシステムセンター20を介
してモニター21上で画像に再構築される。青チャンネル19は濾
過フィルター15を通して励起光の青光からフルオレセインの黄色
の蛍光を青の信号として取り出している。赤と緑のチャンネル17,
18は調整フィルター13によってある割合でカットされた赤と緑
の光で背景の映像を拾い,青チャンネル19の映像とモニター21
上で再構築される。」(段落【0044】)
e 「本発明の請求項1に記載の蛍光の映像と背景の映像を融合させ,
同時にかつ同じ画面で見る方法は,励起光と調整フィルターで調整
した光を交互に被観察物に照射し,白黒ないしカラーのCCDの前
に濾過フィルターをおいて,蛍光を励起光から取り出し,それを3
つあるチャンネル(赤,緑,青)の内1つのチャンネル(例えば,
青)で受光しかつ強調して,残りの2つのチャンネル(例えば,赤
と緑)にて,調整フィルターで調整した光で背景の映像を拾い,送
信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に画像にするこ
とによって,背景の中に蛍光を発しているところを特定しやすくす
るだけでなく,従来の蛍光だけの映像と比べて視野が明るく生検や
粘膜切除などの操作が,蛍光を見ながら簡単にできるほか,フィル
ムやカラープリンターでの写真の撮影も通常観察時と同じ条件でで
きるところにある。」(段落【0047】)
f また,実施例を示す【図6】においては,赤,緑,青の照明光が
照射され,それに基づくCCDの3つのチャンネルの信号が,赤の
映像,緑の映像,明るい青の映像(背景部分は黒の映像)を作り出
す信号(すなわちRGB信号)として出力され,ビデオシステムセ
ンターを介して,モニター上に映像として重ね合わせて表示される
態様が示されている。
(イ) 上記のとおり,本件発明は,青,赤,緑の3色の照明光を照射し,3
つの照射光に基づいて得られる3つの信号(濾過フィルターで青色光を
カットして得られる蛍光の信号,赤の信号及び緑の信号)のすべてをモ
ニターに入力して映像表示に用いることによって明るい映像を表示する
点を特徴の一つとするものであり,上記のような3色方式以外の構成
(例えば,赤,緑,青の3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の
内の2つだけを「モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させて」
見るために用いるもの)は,本件明細書の詳細な説明及び図面には示さ
れていない。
また,本件明細書には,3色の光を受光する「CCDの3つあるチャ
ンネル(赤,緑,青)」とモニターの入力端子(赤,緑,青)との関係
が,赤(R)−赤(R),緑(G)−緑(G),青(B)−青(B)と
いう1対1対応の関係にある態様しか開示されておらず,これ以外の関
係を示唆する記載も存在しない。
したがって,本件明細書の詳細な説明及び図面に記載されているのは,
白黒CCDの前に濾過フィルターを置き,青,赤,緑の3色の照明光を
照射して得られる信号を,青照射時の信号(蛍光の画像信号)はモニタ
ーの青の端子,赤照射時の信号(赤の画像信号)はモニターの赤の端子,
緑照射時の信号(緑の画像信号)はモニターの緑の端子というように1
対1対応の関係でモニターに入力することによって,3色の照明光によ
り得られる3つの信号のすべてをモニター表示に用いる発明であると認
められる。
(ウ) ちなみに,原告は,平成14年(2002年)に発表した
「 Fluorescein electronic endoscopy: a novel method for detection of early stage
gastric cancer not evident to routine endoscopy」 と題する論文(甲10,乙
5。同論文には,「本研究に記載した方法に基づく機器は,日本・・・
で特許出願中である」〈訳文〉と記載され,ここにいう特許出願とは,
本件特許出願をいうものと認められる。)において,本件明細書の【図
5】(濾過フィルターとCCDにて蛍光の映像と背景の映像を融合させ
て,同時にかつ同じ画面で見る方法のシステム模式図)と同一の図( Fi
gure12. Schematic diagram of fluorescence electronic endoscopic system. White p
aper stained with fluorescein was used as the observed object) について,次の
ように説明している。
「 A black and white charge-coupled device (CCD) behind the objective lens of
the endoscope (GIF-XQ 200, Olympus) picks up the photons of light reflected fro
m tissue and generates electronic signals for, sequentially, red (R), green (G), and
blue (B) reflected light. The video processor (CV-200, Olympus) receives these
3 electronic signals and reconstructs them on a color television monitor. (Fig. 1
2)」
(訳文:内視鏡の対物レンズの後方に配置される白黒CCD(オリンパ
ス製GIF-XQ 200)は,生体から反射されてくる光を受光し,赤(R),
緑(G),青(B)の反射光の信号を順次出力する。ビデオプロセッサ
ー(オリンパス製CV-200)は,これら3つの信号の入力を受け,それら
をカラーテレビモニター上に再構成する。)
また,原告は,同論文において,同じ実験装置で調整フィルターを付
けたもの(本件特許の請求項2に相当するもの)について,次のように
説明している。
「 Reconstruction of the R,G, and B channels on the monitor results in an image
that shows the stains to be white (bright blue + green + red) and the paper yellow
(only green+ red) (Fig.13)」
(訳文:R,G,Bチャンネルをモニター上に再構成することによって,
映像は,(フルオレセイン)染色部分が白く(明るい青+緑+赤),白
紙部分が黄色く(緑+赤のみ)表示されることになる(図13)。)
したがって,原告自身によるこれらの説明に照らしても,本件発明の
内容が上記(イ)のとおり3色の照明光により得られる3つの信号のすべ
てをモニター表示に用いる発明であることが裏付けられるというべきで
ある。
ウ(ア) さらに,原告は,平成15年7月10日付け「特許異議申立に対する
意見書」(甲9)において,本件発明について,次のとおり主張してい
る。
a 「特開平9−70384(判決注:「特表平10−500588」
〈本件訴訟における甲6〉の誤記と認める。以下,b項も含めて同様
である。)・・・では青励起光を組織に照射すると組織から自家蛍光
が生じる。その際,腫瘍からの自家蛍光は正常組織と比べて弱くしか
も緑領域の方が赤の領域よりもその差が優位に大きいという性質(特
開平9−70384, Fig.1a-d)を利用して,まずシャープカットフ
ィルターを用いて青の励起光を完全にカットし,さらに残った蛍光を
緑と赤に分けて受信した後に同じモニター上に合成する。そうすると
腫瘍が赤く,正常組織が緑に見えるというわけである。・・・特開平
9−70384と本特許との根本的な違いは,本特許の映像は青,緑,
赤3色から構成されているのに対し,特開平9−70384では映像
は赤と緑の2色しかないという点である。」
b 「本特許の自家蛍光内視鏡の映像は青チャンネルで腫瘍と正常組織
は発する緑も赤も含めた自家蛍光強さの差として受信し(特開平9−
70384, Fig.1a-d を参考にすると腫瘍の部分からの自家蛍光は弱
い青に,正常な組織からの自家蛍光は強い青に),そしてさらに緑と
赤で受信した背景の映像と融合させている。・・・このように,特開
平9−70384の自家蛍光内視鏡写真は蛍光の映像のみであるのと,
赤と緑(写真では電子的に緑を青にかえている)の2色しかないので,
値段も高く操作性も悪い高感度カラーCCDを使用しているにもかか
わらず,映像としてもまだ大分暗い。・・・それに比べて,本特許の
自家蛍光内視鏡写真は通常の面順次式にシャープフィルターを取り付
けただけで,明るく鮮明な画像が得られる。既に,述べたように蛍光
の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで
受信し,そして3つのチャンネルの信号を融合させているからであ
る。」
c 「本特許の方法は蛍光内視鏡の問題点をはじめて解決できたといえ
る。通常使われている面順次式の電子内視鏡の器械に・・・フィルタ
ーを取り付けただけで,繰り返しになるが,蛍光の映像を青チャンネ
ルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,3つのチャ
ンネルの信号を融合してモニターに映し出すことになる。・・・多く
て2色から構成されている他の方法で得られる蛍光の映像と違い,本
特許の方法だと映像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画
質としては通常の電子スコープによる通常のカラー映像となんら変わ
らない。特別な器械はいらないのでもちろんコストも安い。」
(イ) このように,原告は,上記引用箇所において,本件発明の映像は青,
緑,赤の3つのチャンネルの信号(3色)から構成されているので,赤
と緑の2色しかない甲6(特表平10−500588)発明に比べて優
れている旨を繰り返し主張していたことが認められる。
エ 上記イ,ウのとおり,本件明細書の記載及び特許異議手続における原告
の主張内容からすれば,本件発明の構成要件F「送信後3つのチャンネル
の信号を再構成し」とは,CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用い
てモニター上に映像として再構成することをいい,また,そのような構成
に限定されるものと認めるのが相当である。
この点,原告は,本件発明の構成要件Fについて,CCDの3つのチャ
ンネルの信号をすべて用いて再構成することに限定されない旨の主張をす
るが,同主張は,特許異議手続における前示の経緯に照らし,いわゆる禁
反言の法理に反するものとして許されないというべきである。
オ そこで,被告製品について検討するに,被告製品においては,前示のと
おり,CCDの緑チャンネルで受光した反射光G2(緑画像信号G2−1,
G2−2,・・・)はビデオシステムセンター内において不要な信号とし
て排除され,背景の映像信号としてモニターに出力されていないのである
から,CCDの3つのチャンネルの信号のすべてを用いてモニター上に映
像として再構成しているとはいえない。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Fを充足するものとは認
められない。
(4) 均等侵害について
ア 前示のとおり,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件Fを充足し
ないから,本件特許権に対する文言侵害は認められないが,原告は,被告
製品について,本件発明の構成と均等である旨主張するので,以下,検討
する。
イ 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する
場合であっても,①当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,②当該部
分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達するこ
とができ,同一の作用効果を奏するものであって,③そのように置き換え
ることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者
(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易
に想到することができたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出
願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考
できたものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続にお
いて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事
情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と
均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当
である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号1
13頁)。
ウ これを本件についてみるに,原告は,前記認定のとおり,特許異議(異
議2003−70284)の手続において,本件発明が甲6発明から容易
に想到できたものでないことを主張するに当たって,甲6発明のような従
来技術(モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合するに際し,2色で
構成する技術)との根本的な差異として,本件発明における映像は青,緑,
赤の3色から構成されている点を強調していたのであるから,被告製品の
ように3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけをモニ
ター上の画像構成に用いる技術については,これを特許請求の範囲から意
識的に除外したものと認めるのが相当である。
したがって,被告製品については,少なくとも均等法理の第5要件にい
う「特段の事情」の存在が認められるから,本件発明の構成と均等である
とはいうことはできず,原告の主張する均等侵害も認めることはできない。
3 結論
以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものと認めること
はできないから,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,い
ずれも理由がない。
よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡 本 岳
裁判官
鈴 木 和 典
裁判官
坂 本 康 博
(別紙)
反訴 被 告製 品 目録
内視鏡ビデオスコープシステム「 EVIS LUCERA SPECTRUM」 にビデオス
コープ「 EVIS LUCERA OLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」 を装着してなる蛍
光内視鏡観察システム
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