平成21(行ケ)10102審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成21年9月15日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官小林由美子 原告Inviin株会
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法令 |
商標権
商標法4条1項11号1回
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キーワード |
審決22回 拒絶査定不服審判1回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において原告の本件出願に対する拒絶査
定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写
し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3のとおりの取消
事由があると主張して,その取消しを求める事案である |
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判決文
平成21年9月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10102号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成21年7月16日
判 決
原 告 I n v
n o aV s o
i i n株 会
式 社
同訴訟代理人弁理士 菅 原 正 倫
高 野 俊 彦
被 告 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 田 村 正 明
小 林 由 美 子
安 達 輝 幸
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2008−19421号事件について平成21年3月3日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において原告の本件出願に対する拒絶査
定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写
し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3のとおりの取消
事由があると主張して,その取消しを求める事案である
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願及び拒絶査定
本願商標の構成:別紙図面のとおり(上記審決書の別掲本願商標と同じ。)
-1 -
指定商品:第9類「眼鏡,光学機械器具」
出願日:平成19年10月23日
出願番号:商願2007−108683号
拒絶査定日:平成20年7月1日
(2) 審判手続及び本件審決
審判請求日:平成20年7月31日
審決日:平成21年3月3日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成21年3月13日
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本願商標は,「Eye Lux」の欧文字を横書
きして成る引用商標(登録第4624197号)と称呼を共通にする類似の商標で
あり,両商標の指定商品も同一又は類似であるから,本願商標は商標法4条1項1
1号に該当する,というものである。
3 取消事由
(1) 本願商標についての認定の誤り(取消事由1)
(2) 本願商標と引用商標との類否判断の誤り(取消事由2)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本願商標についての認定の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は,本願商標が「アイラックス」,「アイルクス」又は「アイル
ックス」の称呼を生ずることを前提として,本願商標は引用商標が外観において相
違し,観念において比較することができないとしても,称呼において相紛らわしい
ものであるから,両商標は互いに類似すると判断したが,誤りである。
(2) 本願商標の左端の斜め帯状部分は,「Lux」の欧文字よりも2ないし3
倍も長く,かつ,太く見えるものであるから,本願商標の指定商品に係る需要者
-2 -
は,同帯状部分をアルファベットの「I」と認識することはできない。
また,その横の「−」についても,これを常にハイフンであるということはでき
ず,「マイナス」の表記であることもあるし,何ら意味を持たない付加部分である
場合もあるから,需要者は本願商標の「−」をハイフンであると認識することもで
きない。
(3) 以上によると,本願商標が「I−Lux」であることを前提として,本願
商標から「アイラックス」等の称呼が生ずるとした本件審決の認定は誤りであり,
これを前提とする本願商標と引用商標の類否についての判断も誤りであるから,本
件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1) 原告は,本願商標の審査・審判時において,本願商標が「I」の文字と
「Lux」の文字をハイフンをもって結合させたものであること,本願商標は「ア
イラックス」,「アイルックス」又は「アイルクス」と称呼される一連の造語であ
ると主張していたのであり,これと異なる前提に立って本件審決の誤りを主張する
ことは許されない。
(2) また,仮にこの点を措くとしても,以下のとおり,本願商標が「I−Lu
x」であるとの本件審決の認定に誤りはない。
本願商標は,黄色で着色された楕円図形と紺色で着色された「I−Lux」の文
字とから成る結合商標である。
本願商標の上記文字部分は,「−」(ハイフン)により「I−Lux」と一連に
表記した構成となっており,紺色の文字部分と黄色の図形部分は一見して分けて見
てとれるものである。
本願商標の図形部分は,その配置の仕方に工夫があるとしても,黄色の楕円図形
という以外に直ちに特定の観念を生じさせるものではなく,文字部分を引き立てる
背景的な図形としか認識し得ない。
したがって,本願商標は,その外観構成上,紺色で表記された「I−Lux」の
-3 -
文字部分が,取引者・需要者に対して,商品の出所識別標識として強く支配的な印
象を与えるものである。
(3) 以上によると,本願商標からは「アイラックス」,「アイルクス」又は
「アイルックス」の称呼が生ずるというべきであり,本件審決の認定に誤りはない
から,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 商標の類否は,称呼,外観及び観念を総合的に考察して判断すべきである
ところ,仮に本願商標と引用商標とが共通の称呼を生ずるとしても,両商標は外観
上及び観念上著しく相違するから,商品の出所を誤認混同するおそれは認められな
い。
(2) 本願商標は,主にソフトコンタクトレンズの「DISCONシリーズ」の
すべての商品名の冒頭に付されており,わが国では平成15年から,台湾では平成
9年から継続して大々的に使用され,広告宣伝も幅広く行われたため,本願商標
は,原告の商品である「DISCONシリーズ」を示すものとして需要者の間に広
く知られるに至っている。
(3) 以上のとおり,本願商標は出願人たる原告の商品であることを示すものと
して需要者に知られており,引用商標の「Eye Lux」と混同することはない
というべきであるから,本願商標が引用商標と類似するとの本件審決の判断は誤り
であり,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1) 本願商標と引用商標とは外観上相違するが,「アイラックス」,「アイル
クス」又は「アイルックス」の称呼において同一であり,観念においてはいずれも
特定の観念を生じさせないため比較することができないものである。
本願商標と引用商標とから生ずる「アイラックス」等の称呼は簡潔でなじみやす
いものであり,上記〔原告の主張〕(2)のとおり,本願商標において「I−Lu
-4 -
x」の文字部分が,取引者・需要者に対して,商品の出所識別標識として強く支配
的な印象を与えるものである。
(2) 本願商標と引用商標に共通する指定商品である「眼鏡」には比較的安価な
商品や使い捨ての商品が含まれており,一般消費者も含まれる取引者・需要者が商
標について常に細心の注意を払うものと期待することはできない。
また,指定商品「眼鏡」を取り扱う分野においては,「アイ」の表示(称呼)は
「眼鏡」に密接に関連する「目」を意味する英単語である「eye」(アイ)の意
味で使用されることが多い。
(3) 以上によると,本願商標と引用商標の外観上の相違が,称呼の同一によっ
て生ずる混同のおそれを否定するものと考えることはできず,両商標は需要者をし
て商標の出所を誤認混同させるおそれがあるというべきであるから,両商標の類否
についての本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本願商標についての認定の誤り)について
(1) 原告の本件訴訟における主張と本件出願手続等における意見等
原告は,本願商標が「I−Lux」であることを前提として,本願商標から「ア
イラックス」,「アイルクス」又は「アイルックス」の称呼が生ずるとした本件審
決の認定は誤りであると主張するが,本件出願手続においては,平成20年5月2
1日付け意見書(乙55),同年10月2日付け手続補正書(乙56)及び同年1
2月12日付け意見書(乙57)を提出しているところ,これらの書面には出願人
又は審判請求人たる原告の意見又は説明として,「本願商標は,「I−Lux」の
文字を図案化して横書きで表したもので,…その文字列のとおり「アイラック
ス」,「アイルックス」又は「アイルクス」と称呼される一種の造語である。」
(乙55),「本願商標「I−Lux」の称呼は「アイラックス」である。」(乙
56)及び「本願商標は,文字「I−Lux」と黄色い楕円が一体化された商標で
あり,その文字列のとおり「アイラックス」,「アイルックス」又は「アイルク
-5 -
ス」と称呼される一種の造語である。」(乙57)との記載があることが認められ
る。
そうすると,被告が主張するとおり,原告は,本件出願に係る一連の手続におい
て,本願商標から「アイラックス」,「アイルックス」又は「アイルクス」の称呼
が生ずることを自ら主張していたものであるから,そのような原告が,本件訴訟に
至って,これと明らかに矛盾する主張をすることは信義則上許されないというべき
であり,取消事由1の主張は採用することができない。
(2) 本願商標から生ずる称呼
ちなみに,本願商標の構成は上記第2の1(1)のとおりであり,上記原告の意見
書等にあるように,本願商標が「I−Lux」を図案的に表記したものであること
は容易に認識することができる。
そして,このことは本願商標が付された原告の商品が「アイラックス・フレッシ
ュカラー」などの名称で販売されている事実(乙58)からも裏付けられるもので
ある。
そうすると,本願商標から,「アイラックス」,「アイルクス」又は「アイルッ
クス」の称呼が生ずることは明らかであり,本件審決の認定に誤りはない。
(3) 以上によると,いずれにしても,取消事由1は理由がないことが明らかで
ある。
2 取消事由2(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)について
(1) 原告の主張
原告は,この点につき,本願商標と引用商標とが共通の称呼を生ずるとしても,
両商標は外観上及び観念上著しく相違するから,商品の出所を誤認混同するおそれ
は認められないと主張するので,以下,検討する。
ア 本願商標と引用商標との識別機能
本願商標における図形部分は黄色の楕円形を背景とするものであって,主として
「I−Lux」の文字部分を引き立たせるものであるから,本願商標における出所
-6 -
識別機能の主たる部分は「I−Lux」の文字部分が担っているものというほかな
い。他方,「Eye Lux」の欧文字を横書きして成る引用商標において,使用
されている文字が図案化されているなどの事情もないことから,引用商標の出所識
別機能についても文字部分が担っていることは明らかである。
イ 指定商品についての取引の実情
また,本願商標と引用商標の指定商品として共通する「眼鏡」の取引において
は,取引者が,商品に付された商標の称呼によって商品を指定することが普通に行
われると認められるほか,例えば原告の商品である使い捨てのコンタクトレンズが
インターネット上で片仮名表記により検索される場合がある(乙58)ように,需
要者が商標の称呼を頼りに商品特定することも普通に行われていると認められる。
ウ そうすると,少なくともこれらの場合において,本願商標と引用商標とが外
観上相違することによって,商品の出所についての誤認混同を生ずるおそれがない
ということはできないのであり,原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は,さらに,本願商標は,原告の商品である「DISCONシリー
ズ」を示すものとして需要者の間に広く知られるに至っているから,引用商標との
間で出所を誤認混同するおそれはないとも主張する。
しかしながら,原告の主張は,本願商標と引用商標とに共通する指定商品である
「眼鏡」に含まれる「コンタクトレンズ」についての事情をいうものにすぎず,本
願商標の指定商品全般について引用商標との間で出所の誤認混同を生ずるおそれが
ないとまて主張するものではない。また,「コンタクトレンズ」に限ってみても,
仮に本願商標が原告の商品を示す標章として需要者の間に広く知られるに至ってい
たとしても,原告がわが国において本願商標に係る商標の使用を開始したという平
成15年以前に出願され,かつ,登録された引用商標が現に存在することを前提と
する以上,上記のとおり引用商標と称呼を共通にする本願商標が引用商標との商品
の出所についての誤認混同を生ずるおそれを否定することはできない。
したがって,原告のその他の主張は失当である。
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(3) 以上によると,取消事由2も理由がないことが明らかである。
3 結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 高 部 眞 規 子
裁判官 杜 下 弘 記
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(別紙)
図面
-9 -
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