ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成21(ワ)3556 名称使用差止等請求事件
裁判所 | 認容 東京地方裁判所 |
---|---|
裁判年月日 | 平成21年8月31日 |
事件種別 | 民事 |
当事者 | 被告東証投資事業有限責任組合 原告株式会社東京証券取引所 |
法令 |
不正競争 不正競争防止法2条1項1号5回 不正競争防止法2条1項2号1回 民事訴訟法61条1回 |
キーワード | 侵害4回 差止1回 |
主文 | 1 被告は 「東証投資事業有限責任組合」との組合の名称を使用してはならな,い。 2 被告は,別紙登記目録記載の登記中の組合の名称「東証投資事業有限責任組合」の抹消登記手続をせよ。 3 被告は,名刺,パンフレットその他の営業表示物件から「東証投資事業有限責任組合」の表示を抹消せよ。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。事 実第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨主文同旨 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告の請求をいずれも棄却する。(2) 訴訟費用は原告の負担とする。第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 当事者ア 原告原告は,有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行うための市場施設の提供,相場の公表及び有価証券の売買等の公正の確保その他の取引所金融商品市場の開設に係る業務等を主たる業務の内容とする株式会社である。イ 被告は,株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに有限会社又は企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係わる持分の保有,事業者に対する金銭の新たな貸付け等を組合の事業の内容とする投資事業有限責任組合(組合契約の効力発生日:平成17年9月1日)である。(2) 不正競争該当性ア 不正競争防止法2条1項2号該当性(請求原因1)(ア) 原告の商品等表示「東証」の著名性「 」 , 「 」 ,東証 は 原告の商号 株式会社東京証券取引所 の略称であって原告の営業表示であり 「商品等表示 (不正競争防止法2条1項1号), 」に該当する。「東証」は,次のとおり,既に昭和30年代には日本において東京証券取引所の営業表示として広く認識されており,遅くとも,被告が登記「 」( 「 」 。)した組合の名称 東証投資事業有限責任組合 以下 被告名称 というを使用した時点(組合契約の効力発生日である平成17年9月1日又は登記日である同月16日)には,原告の営業表示として,著名となっていた。, , , 「 」すなわち 原告は 明治11年5月 原告の前身の 東京株式取引所が渋沢栄一らによって設立され,昭和18年に東京を含む全国11か所の取引所が統合され日本証券取引所となり,昭和24年に当時の証券取引法(現・金融商品取引法)に基づき「東京証券取引所」として設立されたものである。以来,原告は,日本の三大証券取引所(他に大阪証券取引所及び名古屋証券取引所)の筆頭であり,日本を代表する証券取引。 , ,所として顕著に著名である また 世界的にもニューヨーク証券取引所ロンドン証券取引所と並ぶ「世界三大証券取引所」に挙げられ,世界経済の中枢の一角を担っている。このように,原告の「東京証券取引所」の名称は,全国のみならず世界の需要者に広く知られるに至っているものであり,原告を示す営業表示として著名である。そして,原告は,日本においては,既に昭和29年には「東証」と略称されており 東証 もまた原告を示す営業表示として著名である 原,「 」 。告自身も 昭和34年から 東証 昭和46年から 東証だより 及び, 「 」, 「 」昭和47年から 東証要覧 など 東証 を使用した書名の出版物の発「 」 ,「 」行を継続しており,また 「東証株価指数」の作成発表(昭和44年 ,, )広報展示室 東証プラザ の設置 昭和63年 東証WAN 構築 平「 」 ( ),「 」 (成10年 東証ARROWS 平成12年 など 原告の事業におい),「 」( ) ,て,専ら略称の「東証」を使用している。(イ) 原告の商品等表示「東証」と被告名称の類似性被告名称のうち「投資事業有限責任組合」の部分は,投資事業有限責任組合契約に関する法律5条1項に基づき名称中に用いることを義務付けられた文字であって,被告名称中,自他識別性を有する唯一の部分は「東証」のみである。そして,被告名称中の要部「東証」と,原告の著名な略称である商品等表示「東証」とは完全に同一であり,被告名称と「東証」とは実質的に同一であって,その類似性は明白である。イ 不正競争防止法2条1項1号該当性(請求原因2)(ア) 原告の商品等表示「東証」の周知性, 「 」 , ,前記ア(ア)の事実によれば 原告の商品等表示 東証 は 遅くとも被告が被告名称を使用した時点(組合契約の効力発生日である平成17) , ,年9月1日又は登記日である同月16日 には 原告の営業表示として, 。需要者の間において広く認識されており 少なくとも周知となっていた(イ) 原告の商品等表示「東証」と被告名称の類似性前記ア(イ)に同じ。(ウ) 混同のおそれ不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」とは,「他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と右他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含し,混同を生じさせる行為というためには両者間に競争関係があることを要しない」とされている(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁,最高裁平成7年(オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判所時報1227号8頁参照 。)本件の場合,前記のとおり,被告名称と原告の商品等表示「東証」とは,実質的に同一であることに加え,被告の業務は,株式の取得・保有等であって,株式等の有価証券売買に関する原告の業務とは極めて密接な関係にあるものであるから,原告被告間に直接の競争関係はないとしても 両者間にいわゆる親会社 子会社の関係や系列関係などの緊密な,「 ,営業上の関係が存すると誤信させる」ものであることは明らかである。すなわち,被告による被告名称の使用は,金融証券関係者及び一般消費者等に対して,原告と被告との間に緊密な営業上の関係が存在すると誤信させるおそれのあることが明白である。(3) 原告の営業上の利益の侵害又はそのおそれ原告は,次のとおり,被告による被告名称の使用により,営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある。, 「 」 ,ア 被告の行為は 原告の商品等表示 東証 と類似する被告名称を使用しこのことにより,長年にわたって築き上げられた原告の商品等表示との混同を生じさせて,これに化体した信用を著しく毀損し,また,その財産的価値 識別性 を希釈化 ダイリューション すると同時に ただ乗り フ( ) ( ) , (リーライド)するものであって,更には有価証券市場において公平であるべき原告自身が投資行為を行うとの誤解を生じさせることによって,そのイメージが汚染(ポリューション/ターニッシュメント)される結果ともなるものである。敷衍すれば 原告は 私達は 投資者をはじめ市場利用者の視点に立っ, ,「 ,て,高い信頼性と利便性を備えた健全な市場の構築を目指し,豊かな社会の実現に貢献します を企業理念として掲げ より具体的には 市場の公。」 , 「正性及び信頼性を確保し,利便性と効率性の高い取引・決済のインフラを, ( , , )構築することにより 多数の市場利用者 投資者 上場会社 取引参加者の信認を得て東証市場の持続的な活性化を実現することにより,東証に課せられた社会的な責任を果たす ものであり 信頼 健全 公正 信」 ,「 」「 」「 」「認」を「社会的な責任」としている極めて公共性の高い企業である。被告の行為は,単に役務の出所の混同を惹起するに止まらず,長年にわたって築き上げられた原告の営業表示の財産的価値にただ乗り(フリーライド)し,これを希釈し,更には原告の商品等表示「東証」の持つ公共性の高いイメージを汚染し,その信用を大きく損なうおそれが高いものである。イ 実際,原告は,井上工業株式会社による平成20年8月28日付け「第三者割当により発行される株式の募集並びに第3回新株予約権の発行に関するお知らせ」において,募集後の大株主として被告「東証投資事業有限責任組合 (26.5%)の記載を発見した。原告としては 「混同のおそ」 ,」 , ,「 」 「 」れ を考慮し 同日 東証ホームページ のトップページの トピックス欄において「 ご注意】東証投資事業有限責任組合なる団体につきまして【は,当社グループとは一切関係がございませんのでご注意ください。NEW!」と掲示する措置を講じることを余儀なくされた。ウ 被告は,原告が平成20年12月19日付け通知書により被告名称の抹消登記等を求めた後も,何ら回答することなく,依然として被告名称の使用を継続している。(4) よって 原告は 被告に対し 不正競争防止法2条1項1号又は2号 3, , , ,条1項及び2項に基づき,被告名称の使用の停止及び予防,被告名称の抹消登記手続並びに営業表示物件からの被告名称の抹消を求める。 2 請求原因に対する認否(1) 請求原因(1)は認める。(2) 請求原因(2)のうち 東京証券取引所 の名称が全国の需要者に広く知ら,「 」れていること及び原告が「東証」と略称されていることは認め,その余は否認する。(3) 請求原因(3)は,ア,イは否認し,ウは認める。理 由1(1) 請求原因(1)は,当事者間に争いがない。(2) 請求原因(2)イ(不正競争防止法2条1項1号該当性)についてア 証拠(甲2ないし5(甲4につき枝番を含む ,甲6及び7の各1,2)。)及び弁論の全趣旨によれば,原告の略称である「東証」は,遅くとも被告名称が使用された時点(組合契約の効力発生日である平成17年9月1日又は登記日である同月16日)において,原告の営業表示として,需要者の間において広く認識されていたと認められるから 請求原因(2)イ(ア)は 認める, ,ことができる。イ 被告名称のうち 投資事業有限責任組合 の部分は 投資事業有限責任組,「 」 ,合契約に関する法律5条1項に基づいて名称中に用いることを義務付けられた文字であり,それのみで識別力を有しないから,自他識別力を有する部分は 東証 である そして これと原告の営業表示である 東証 は 完全,「 」 。 , 「 」 ,に同一であり,被告名称「東証投資事業有限責任組合」と原告の営業表示である 東証 が類似することは明らかであるから 請求原因(2)イ(イ)は 認「 」 , ,めることができる。ウ 不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」とは,他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含し,混同を生じさせる行為というためには両者間に競争関係があることを要しないと解される(前記最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決,前記最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決等参照 。)そして,前記イのとおり,被告名称「東証投資事業有限責任組合」と原告の営業表示である「東証」は,類似すると認められ,また,被告の業務が株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有等であり,原告の業務が有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行うための市場施設の提供等であって(前記⑴のとおり,当事者間に争いがない ,その業務内容には密接。)な関連性があると認められるから,原告被告間に直接の競争関係があるとはいえないとしても 両者間にいわゆる親会社 子会社の関係や系列関係など,「 ,の緊密な営業上の関係が存すると誤信させる」ものであることは明らかである。したがって,請求原因(2)イ(ウ)は,認めることができる。(3) 請求原因(3)ウは,当事者間に争いがなく,また,証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば 請求原因(3)ア及びイの事実が認められるから 原告は 被告, , ,による被告名称の使用により,少なくとも,営業上の利益を侵害されるおそれがあると認めることができる。 2 結論よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官 清 水 節裁判官 坂 本 三 郎裁判官 岩 崎 慎(別紙)登記目録東 京 法 務 局会 社 法 人 等 番 号 0199−05−009146組 合 の 名 称 東証投資事業有限責任組合組合の主たる事務所 東京都中央区〈以下略〉組合契約の効力が発生する年月日 平成17年9月1日組 合 の 存 続 期 間 平成27年8月31日まで登記記録に関する事項 組合契約の効力発生 平成17年9月16日登記 |
事件の概要 | 1 請求原因 (1) 当事者 ア 原告 原告は,有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行うための市場施 設の提供,相場の公表及び有価証券の売買等の公正の確保その他の取引所 金融商品市場の開設に係る業務等を主たる業務の内容とする株式会社であ る。 イ 被告は,株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに有 限会社又は企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係わる持 分の保有,事業者に対する金銭の新たな貸付け等を組合の事業の内容とす る投資事業有限責任組合(組合契約の効力発生日:平成17年9月1日) である。 |
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
特許裁判例 実用新案裁判例 |
意匠裁判例 商標裁判例 |
不正競争裁判例 著作権裁判例 |
特許判例 実用新案判例 |
意匠判例 商標判例 |
不正競争判例 著作権判例 |
2月17日(月) - 大阪 大阪市
(オンライン参加可)体験談から学ぶ知的財産権 その時どうする?~海外で商標権がバッティング?オープンファクトリーの知財リスク?~
2月18日(火) -
2月19日(水) - 東京 港区
2月19日(水) -
2月19日(水) -
2月19日(水) -
2月19日(水) -
2月19日(水) -
2月19日(水) -
2月19日(水) -
2月20日(木) - 東京 港区
2月20日(木) -
2月20日(木) -
2月20日(木) - 東京 千代田区
2月21日(金) - 東京 千代田区
2月21日(金) - 東京 大田
パテントマップを用いた知財戦略の策定方法 -自社が勝つパテントマップ作成と それを活用した開発戦略・知財戦略の実践方法- <東京会場受講(対面)/Zoomオンライン受講 選択可> <見逃し視聴選択可>
2月21日(金) -
2月22日(土) - 東京 板橋区
2月17日(月) - 大阪 大阪市
(オンライン参加可)体験談から学ぶ知的財産権 その時どうする?~海外で商標権がバッティング?オープンファクトリーの知財リスク?~