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平成20(ワ)6081損害賠償請求事件

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裁判所 一部認容 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成21年5月21日
事件種別 民事
当事者 被告P1
原告リリーアイコスエルエルシー
法令 商標権
民事訴訟法248条3回
商標法39条2回
民法709条2回
商標法38条2項2回
キーワード 商標権24回
侵害19回
損害賠償2回
主文 1 被告は,原告に対し,340万9599円及びこれに対する平成20年5月25日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
5 原告のために,この判決に対する控訴の付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない )。 1 原告( ) 原告は,米国の製薬会社であるイーライリリー・アンド・カンパニー (以下「リリー社」という )の子会社である。。 2 本件商標( ) 原告は,別紙商標目録記載の商標権(以下,別紙商標目録記載の商標権 を,同目録掲記の各番号を付して「本件商標権1」などといい,これらを 併せて「本件商標権」ともいう。また,本件商標権に係る登録商標を,同 番号を付して「本件商標1」などといい,これらを併せて「本件商標」と もいう )を有していた(甲1∼4〔いずれも枝番号を含む 。。 。〕) 原告は,平成19年10月5日,本件商標権を,リリー社に譲渡した (甲1の1,2の1,3の1,4の1 。) 3 シアリス( ) シアリス(アルファベット表記は「Cialis )は勃起不全治療薬」 であるが,リリー社がこれを製造し,原告が,世界各地において同治療薬

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判決文

平成21年5月21日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成20年(ワ)第6081号 損害賠償請求事件
判 決
原 告 リリー アイコス エルエルシー
同訴訟代理人弁護士 武 藤 佳 昭
同 達 野 大 輔
同 酒 井 剛 毅
同 倉 田 伸 彦
被 告 P1
同訴訟代理人弁護士 高 橋 金 次 郎
主 文
1 被告は,原告に対し,340万9599円及びこれに対する平成20年5
月25日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とす
る。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
5 原告のために,この判決に対する控訴の付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告は,原告に対し,600万円及びこれに対する平成20年5月25
日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合による金員を支
払え。
(2) 訴訟費用は,被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 原告
原告は,米国の製薬会社であるイーライリリー・アンド・カンパニー
(以下「リリー社」という 。)の子会社である。
(2) 本件商標
原告は,別紙商標目録記載の商標権(以下,別紙商標目録記載の商標権
を,同目録掲記の各番号を付して「本件商標権1」などといい,これらを
併せて「本件商標権」ともいう。また,本件商標権に係る登録商標を,同
番号を付して「本件商標1」などといい,これらを併せて「本件商標」と
もいう。)を有していた(甲1∼4〔いずれも枝番号を含む。 )
〕。
原告は,平成19年10月5日,本件商標権を,リリー社に譲渡した
(甲1の1,2の1,3の1,4の1)。
(3 ) シアリス
シアリス(アルファベット表記は「Cialis 」)は勃起不全治療薬
であるが,リリー社がこれを製造し,原告が,世界各地において同治療薬
を販売し,これが日本国内においても流通していた。その容器には,本件
商標1,2及び4が付されていた。
(弁論の全趣旨)
(4 ) 被告の模造薬販売等
被告は,ヤフーオークション等を通じてシアリスの模造薬(以下「模造
シアリス」という 。)を販売した。
被告は,無許可で勃起不全の治療に薬効がある医薬品を販売し,また販
売目的でこれらの医薬品を貯蔵した罪(薬事法違反)で,平成18年10
月4日に大阪地方裁判所に起訴され(以下「別件刑事事件」という 。 ,

平成19年1月25日に有罪判決を受けた。
2 原告の請求(訴訟物)
原告は,被告による模造シアリスの販売が,本件商標権を侵害するとして,
民法709条の不法行為に基づく損害賠償として600万及びこれに対する
不法行為の後である平成20年5月25日(訴状送達の日の翌日)から支払
済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3 争点
(1 ) 本件商標権侵害の有無(争点1)
(2) 原告の損害額
ア 被告が販売した模造シアリスの売上額(争点2−1)
イ 被告が得た利益の額(争点2−2)
ウ 弁護士費用(争点2−3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件商標権侵害の有無)
【原告の主張】
(1 ) 被告標章の使用
被告は,以下のとおり,別紙被告標章目録①から④記載の標章(以下,
同目録の標章につき,同目録掲記の各番号を付して「被告標章①」などと
いい,これらを併せて「被告標章」ともいう 。)を使用している。
ア 被告標章①及び②
被告は,その開設するウェブサイトにおいて,シアリスの個人輸入代
行を行う旨宣伝し,模造シアリスを販売していたが,同ウェブサイトに
おいては,商品名を「リリー社 Cialis 100㎎ 」 「シアリス

5錠 7,000円」などと表記しており,被告標章①及び②を使用し
ている(甲5の1・2 )。
イ 被告標章③及び④
被告の販売していた模造シアリスのボトル(容器)には被告標章③及
び④が付されており,被告標章③及び④が使用されている。
(2 ) 本件商標と被告標章①ないし④との類似性
ア 被告標章①
被告標章①は,本件商標1及び2と比して,アルファベットの大文字
と小文字が異なるのみであり,外観上類似している。また,その称呼も
本件商標1及び2のそれと全く同一である。
イ 被告標章②
被告標章②の外観・称呼は,本件商標3と全く同一である。
ウ 被告標章③
被告標章③の要部は「Cialis」の文字部分であるから,被告標
章①と同様に,本件商標1及び2と外観が類似する。また ,「シアリ
ス」という称呼も同一である。
エ 被告標章④
被告標章④は,図形が緑色及びオレンジ色で記載されている点で本件
商標4と異なるものの,図形の形状は本件商標4と全く同一であって,
本件商標4と外観が類似する。
(3 ) 被告の故意・過失
被告は,原告の販売するシアリスの模造薬であると知りながら,真正品
であるかのように偽ってこれを顧客に販売していたのであり,本件商標権
を侵害することにつき悪意であった。
また,本件において,過失の推定(商標法39条,特許法103条)を
覆すような事情は存しない。
【被告の主張】
争う。
(1 ) 被告標章の使用
被告は,模造シアリスをP2なる者から仕入れていた。被告がP2から
仕入れた模造シアリスを販売したのは,平成17年4月11日からである
が,同模造シアリスの中には,ボトルにシアリスの表示がなく,また内蓋
にバイアグラのメーカーであるファイザー社のマークが付されているもの
が多数あったことから,同年7月には商品の残りをP2に返品した。
したがって,同年4月11日から同年7月までに販売した模造シアリス
の中には,被告標章が付されていないものが多数あり,少なくとも,これ
らについては本件商標権を侵害しない。
被告は,その後,平成18年1月ころから,P2との取引を再開したと
ころ,その際に仕入れた模造シアリスにはシアリスである旨の標章が付さ
れていた。よって,同模造シアリスの販売において本件商標を使用したこ
とは認める。
(2 ) 被告の認識
被告は,模造シアリスの販売が薬事法に触れるおそれがあることは懸念
していたが,商標についての認識は全くなかった。勃起不全治療薬という
ことが被告にとっての認識の全てであり ,「シアリス」と銘打つことによ
って販売促進機能があるという認識は全くなかった。
したがって,被告には原告の本件商標権を侵害するという認識はなかっ
たのであり,本件商標権侵害についての故意がないのはもちろん,過失も
ない。
2 争点2−1(被告が販売した模造シアリスの売上額)
【原告の主張】
被告は,別紙販売経過一覧表1の「販売日」欄記載の日に,同一覧表「顧
客名」欄記載の者に対し,同一覧表「錠数」欄記載の数量の模造シアリスを,
同一覧表「金額」欄記載の額で販売した。
その売上額合計は,535万9760円である。
【被告の主張】
原告の主張する被告の模造シアリスに係る売上額に対する認否は,別紙販
売経過一覧表1の「認否」欄に記載のとおりであり,145万5150円の
範囲で認める。
同認否欄に「×」を付したものは,模造シアリスではなく,勃起不全治療
薬でバイアグラの後発医薬品である「シラグラ」を販売したものである。た
だし ,「×」を付したものの内 ,「備考」欄に「おまけ」と記載したものに
ついては,いわゆる「おまけ」として提供したものであり,対価を受け取っ
ていない。
また,同認否欄に「△」を付したものは,前記1【被告の主張】(1)のと
おり,シアリスとして販売したものの,その旨の表示を欠いたため,本件商
標権を侵害しないものである。
なお,別件刑事事件において被告方から押収されたノート(甲12∼1
4:以下,併せて「本件ノート」という 。)に,別紙販売経過一覧表1の
「販売日 」 「顧客名 」 「グラム数 」 「ボトル数 」 「錠数」及び「金額」欄
, , , ,
に記載された内容の記載があることは認める。
3 争点2−2(被告が得た利益の額)
【原告の主張】
(1 ) ヤフーオークションにより模造シアリスを販売して得た利益
ア 平成17年4月から同年7月末までの販売利益
被告は,平成17年4月からヤフーオークションを通して模造シアリ
スを販売していたところ,販売開始当初から同年7月末ころまでの1ボ
トル(30錠)当たりの販売価格は,概ね9000円から1万円の範囲
であった。よって,同期間における模造シアリスの販売価格は,1ボト
ル当たり平均9500円である。
被告は,平成17年の4月当初,P2より1ボトル当たり4000円
で模造シアリスを仕入れていたが,その後P3から3000円での仕入
れが可能となったことから,平成17年4月から平成17年7月末日ま
での仕入値は,4000円から3000円の間で推移していた。そこで,
同期間の仕入値の平均額は約3500円であった。
そうすると,被告は,平成17年4月から同年7月末までの期間,模
造シアリスを1ボトル当たり約3500円程度で仕入れた上,顧客に対
して約9500円で転売していたのであるから,その差額約6000円
が模造シアリスの販売利益であり,販売価格の約63%が被告の利益と
なっていた。
よって,同期間中の模造シアリスの売上額(146万2810円)の
63%に当たる約92万円が同期間中の被告の販売利益となる。
イ 平成17年8月から同年12月末までの販売利益
被告は,リピーターに対する販売価格をその当時のオークションでの
即決価格と概ね同じ価格で設定しており,模造シアリスを1ボトル当た
り7000円ないし9000円で販売していた。よって,平成17年8
月から平成18年4月13日までの模造シアリスの販売価格を平均する
と,1ボトル当たり約8000円となる。
被告は,平成17年8月から同年12月末までの間,P3より1ボト
ル当たり3000円で模造シアリスを仕入れていたことから,同期間に
おける模造シアリスの仕入値は1ボトル当たり3000円であった。
そうすると,被告は,平成17年8月から同年12月末までの期間,
模造シアリスを1ボトル当たり3000円で仕入れた上,顧客に対して
約8000円で転売していたのであるから,その差額5000円が模造
シアリスの販売利益となり,販売価格のおよそ62.5%が被告の利益
となっていた。
よって,同期間中の模造シアリスの売上額(193万6500円)の
62.5%に当たる約121万円が同期間中の被告の販売利益となる。
ウ 平成18年1月から同年3月までの販売利益
前記イのとおり,平成17年8月から同18年4月13日までの模造
シアリスの販売価格は約8000円程度であった。
被告は,平成18年1月ころより,P2より,模造シアリスを1ボト
ル当たり2700円で仕入れており,また,同年3月からは,P3より
1ボトル当たり2500円で仕入れていたことから,平成18年1月か
ら同年4月13日までの模造シアリスの仕入値は,概ね2700円から
2500円の範囲で推移しており,平均すると約2600円である。
そうすると,被告は,平成18年1月から同年4月13日までの期間,
模造シアリスを1ボトル約2600円で仕入れた上,顧客に対して約8
000円で転売していたのであるから,その差額約5400円が模造シ
アリスの販売利益となり,販売価格のおよそ67.5%が被告の利益と
なっていた。
よって,同期間中の模造シアリスの売上額(158万0450円)の
67.5%に当たる約107万円が同期間中の被告の販売利益となる。
エ 合計額
以上を合計すると,ヤフーオークションにより販売した模造シアリス
の販売利益は総額約320万円となる。
(2) PISにより模造シアリスを販売して得た利益
被告は,自らが代表を名乗るPIS(パーソナル・インポート・サービ
ス)を通して個人輸入を希望する客に対して模造シアリスを販売していた
ところ,その販売価格は,30錠が2万8000円,10錠が1万200
0円,5錠が7000円,2錠が3000円であった。
PISによる販売は,平成17年4月から同年7月までの間に行われて
いるところ,前記(1)アのとおり,当該期間中における模造シアリスの仕
入値は,概ね1ボトル当たり3500円程度である。よって,30錠販売
した場合の販売利益は2万4500円であり,販売価格のおよそ87.5
%が販売利益となる。ただし,PISにより10錠販売した場合の販売価
格は1万2000円であり,30錠を10錠ずつ3回に分けて販売した場
合の販売額合計は3万6000円となるから,その販売利益はおよそ90
%となる。また,5錠販売した場合の販売価格は7000円であることか
ら,30錠を6回に分けて5錠ずつ販売した場合の販売価格は4万200
0円となり,その販売利益はおよそ92%となる。
PISによる販売は23回なされており,30錠の販売は9回と半数程
度であって,その他は10錠,5錠,2錠と個別の錠数で販売している。
そこで,PISによる模造シアリスの販売における利益割合は87.5%
より大きいものと考えられ,販売価格のおよそ90%程度として計算する
のが妥当である。
よって,PISによる販売による模造シアリスの売上額(38万円)の
90%に当たる約34万円が被告の販売利益となる。
(3 ) 本件ノートに記録されていない販売利益
被告方から押収された本件ノートには,平成17年4月ころから平成1
8年4月13日までの模造シアリスの販売記録が記載されているが,被告
が販売した模造シアリスの全てが本件ノートに記録されているとは限らな
い。被告も,本件ノートの記載が一時的であり,ノートでは販売したシア
リスの数量は分からない旨陳述している(乙1)。
このように,本件ノートに記録されているほかにも,被告が模造シアリ
スの販売により利益を上げていたことは容易に推認することができる。
(4 ) 小括
以上より,オークション落札者への販売及びPISによる販売による模
造シアリスの売上額の合計は少なくとも535万9760円に及び,その
販売利益の合計は少なくとも約354万円にも及ぶことから,商標法38
条2項により,原告は同額の損害を受けたものと推定される。
また,本件ノートの記録以外にも被告が模造シアリスの販売により利益
を上げていたことが推認できることからすれば,模造シアリスの販売利益
の合計は500万円ほどであったと推認できる(民事訴訟法248条 )。
【被告の主張】
(1) 落札手数料
ヤフーオークションを通して販売した場合,落札価格の5.25%をヤ
フージャパンに支払わなければならず,被告はこれを支払った。
よって,かかる落札手数料を控除すべきである。
(2 ) PISにおける利益率
原告が主張する販売価格は,インターネットに掲示していた価格であり,
実際にその価格で販売できたわけではなく,ヤフーオークションによる販
売額とあまり異なる値段で販売することはできなかった。
よって,原告が主張する利益率は過大である。
(3 ) 送料
顧客への送料は原則として被告が負担しており,被告はヤマト運輸株式
会社のメール便(160円)を利用していたので,これを控除すべきであ
る。
4 争点2−3(弁護士費用)
【原告の主張】
原告は,被告により本件商標権の侵害行為がなされたことから,原告訴訟
代理人らに本件訴訟の提起,追行を委任し,その弁護士費用として少なくと
も100万円を支払う旨の約束をした。
よって,原告は被告の上記侵害行為によって弁護士費用として100万円
の損害を被った。
【被告の主張】
不知。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件商標権侵害の有無)について
(1) 被告標章の使用
ア 被告標章①及び②の使用
証拠(甲5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,被告が「PIS」
の代表と称して開設するウェブサイトにおいて,模造シアリスの広告と
して被告標章①及び②を使用し,模造シアリスを販売したことが認めら
れる。
一方,証拠(甲9)によると,被告は,ヤフーオークションにおける
ウェブサイト上の記載では,被告標章①,②の使用を避け ,「シア‥効
き目の長い」などと表記していたことが認められる。
イ 被告標章③及び④の使用
証拠(甲6の1∼4)及び弁論の全趣旨によれば,P2宅から押収さ
れた模造シアリスのボトルに,被告標章③及び④が付されていたことが
認められる。また,証拠(甲10,11,被告本人)及び弁論の全趣旨
によれば,被告は,P2より模造シアリスを仕入れてこれを販売してい
たと認められるから,被告が販売していた模造シアリスの容器にも被告
標章③及び④が付されていたものと推認することができる。
これに対し,被告は,平成17年4月から7月までに販売した模造シ
アリスのボトルには被告標章③及び④が付されていなかったと主張し,
同ボトルの内蓋には,本件商標ではなく,ファイザー社のマークが付さ
れたものが多数あったと主張する。しかし,被告は,別件刑事事件に係
る捜査段階(警察官)の取調べにおいて ,「以前模造シアの内蓋がリ
リー社ではなく,ファイザー社のマークが入った内蓋が貼ってあった事
があり,これは誰が見ても偽物と判断が付くことから,この点を注意し
て確認していたのです 。」と述べるにとどまり(甲10の3頁 ),この
ようなことが多数あったとか,これが原因でP2に返品したというよう
な事実は,少なくとも別件刑事事件に係る証拠からは全く窺えない。
被告は,その本人尋問において,ボトルの外側にシアリスのマークは
付されていなかったと供述するが,そもそも被告は模造シアリスを本物
と偽って販売していたのであるから,購入者に本物のシアリスであると
誤信させる必要があったはずであり(だからこそ上記のように「注意し
て確認していた」というのである 。 ,それにもかかわらず,模造シア

リスのボトルにシアリスであることを窺わせる記載が全くないというの
はにわかに信用できない。
したがって,被告が販売していた模造シアリスのボトルには,被告標
章③及び④が付されていたと認めるのが相当である。
なお,ヤフーオークションを通じた販売においてウェブサイト上に商
品の画像も掲載されているが,被告は医薬品を出品していることを分か
らないようにするため,正面からの撮影ではモザイクを掛けたりしてお
り,顧客は,模造シアリスを購入し,ボトル入りのものが送られてきて
初めて,ボトル上に付された被告標章③及び④を目にすることになる
(ウェブサイト上の画像において,被告標章③及び④が認識できたと認
めるに足りる証拠はない 。 。しかし,顧客は,ウェブサイト上の「U

SA F社100㎎30錠」の表示によりバイアグラであることを,
「レ…CMで話題の商品」の表示によりレビトラであることを ,「シア
‥効き目の長い 30錠」の表示によりシアリスであることを,それぞ
れ認識した上で,これらの中から希望する商品を選択し,購入している
(甲9 )。顧客は,商品が送られてきて,これに付された標章により,
その出所を改めて確認することになる。
(2 ) 本件商標と被告標章との類似性
ア 被告標章①
被告標章①は,横書きされたアルファベットの「Cialis」の文
字から成るものであるのに対し,本件商標1及び2も「CIALIS」
との標準文字から成るものである。
したがって,被告標章①と本件商標1及び2とは,アルファベットの
大文字と小文字が異なるのみであり,外観上類似しているし ,「シアリ
ス」との同一の称呼を生じる。
また,観念については,上記表記から特定の観念が想起されるもので
はなく,強いて言えば,取引者又は需用者において,勃起不全治療薬を
想起させることが考えられる。
よって,被告標章①は本件商標1及び2と類似すると認められる。
イ 被告標章②
被告標章②は,片仮名の「シアリス」の文字を横書きして成るもので
あるのに対し,本件商標3は「シアリス」との標準文字から成るもので
ある。
したがって,被告標章②と本件商標2とは,外観において類似し,称
呼において一致し,観念において一致し得る。
よって,被告標章②は本件商標3と類似すると認められる。
ウ 被告標章③
被告標章③は ,「Cialis」の文字が横書きされるとともに,そ
の左上部と右下部に飾り線が付されたものから成るものであるが,かか
る飾り線は線自体細く ,「Cialis」の文字を囲むように配置され
ているものであるから,出所識別力は「Cialis」の文字部分にあ
るものと認められる。したがって,被告標章③の要部は「Ciali
s」の文字部分であり,同部分は,前記アのとおり,本件商標1及び2
と外観が類似し,称呼において一致し,観念において一致し得る。
よって,被告標章③は本件商標1及び2と類似すると認められる。
エ 被告標章④
被告標章④は,別紙被告標章目録(4)のとおり,毛筆体風に描かれた
アルファベットの「C」の文字の開放された部分をやや右斜め上方向に
向けて配置した緑色の図形が中央に配置され,かかる緑色の文字図形の
左上部にオレンジ色の略三角形の図形と,同緑色の文字図形の中央から
上部にかけてオレンジ色の略楕円形の図形が,それぞれ配置されること
により成るものである。
そうすると,被告標章④は,上記各図形が緑色及びオレンジ色で記載
されている点について,本件商標4は色の指定はないものの(したがっ
て,被告標章④の配色をもって相違するとはいえない 。 ,全体の各図

形の形状は本件商標4とほぼ同一であって,本件商標4と外観において
類似する。
よって,被告標章④は本件商標4と類似すると認められる。
オ 小括
以上より,被告は,模造シアリスの包装であるボトルに,本件商標1
及び2と類似する被告標章③,及び本件商標4と類似する被告標章④を
いずれも付して模造シアリスを販売していたのであるから,本件商標権
1,2及び4をいずれも侵害したものと認められる。
また,被告は,PISのウェブサイトにおいて,模造シアリスの広告
として本件商標1及び2と類似する被告標章①,及び本件商標3と類似
する被告標章②をいずれも付して電磁的方法により提供し,よって模造
シアリスを販売したものであるから,本件商標権1,2及び3をいずれ
も侵害したものと認められる。
(3 ) 被告の故意・過失
上記認定のとおり,被告は本件商標権を侵害したのであるから,商標法
39条(特許法103条)により,同侵害行為について過失があったもの
と推定される。
この点,被告は商標についての認識はなかったとか,販売促進機能があ
るという認識はなかったとして過失がなかったと主張するが,仮に被告に
本件商標権に係る具体的な認識がなく,販売促進機能があるという認識が
なかったとしても,これらの事情をもって過失の推定を覆すことはできな
い。しかも,本件において,被告は模造シアリスを本物のシアリスと偽っ
て販売していたのであるから,商標についての認識がなかったとか,販売
促進機能がなかったということ自体,にわかに信じ難いというべきである。
よって,本件商標権の侵害について,少なくとも被告に過失があったこ
とは明らかである。
2 争点2−1(被告が販売した模造シアリスの売上額)について
(1 ) 本件ノートの記載
別件刑事事件において被告方から押収された本件ノートに,別紙販売経
過一覧表1の「販売日 」 「顧客名 」 「グラム数 」 「ボトル数 」 「錠数」
, , , ,
及び「金額」欄に記載された内容の記載があることについては当事者間に
争いがなく,認否欄に「○」が付されたものについては,模造シアリスの
販売であることに争いがない。
また,同一覧表の認否欄に「△」が付されたものについても,模造シア
リスの販売であることには争いがない(この点,被告は「シアリス」であ
るとの表示を欠いた旨主張するが,前記1(1)イで認定したとおり,模造
シアリスには被告標章③及び④が付されていたと認められるから,これら
についても,本件商標権を侵害したものと認められる 。 。

(2 ) 他の商品(シラグラ)の販売の可能性
同一覧表の認否欄に「×」が付されたもののうち,本件ノートに「シ」
とのみ表記されたものについて,被告は,模造シアリスではなくシアリス
とは別の製品である「シラグラ」を販売したものであると主張するので,
以下検討する。
ア 被告が模造シアリスを販売したこと自体には争いがないところ,
「シ」は「シアリス」の頭文字であること,被告は模造シアリスをヤ
フーオークションに出品する際 ,「USAバ,シ,レ30錠8,000
円即決!」というように,模造シアリスを「シ」とも表現していたこと
(甲9の9頁 ),本件ノートに「シ100」や「シ50」との表記があ
るものについて,被告は模造シアリスであることを認めていること,同
じく「シ③」や「シ⑤」との表記があるものについても模造シアリスで
あること自体は認めていること(ただし,これらについて被告は「おま
け」である旨主張する 。 ,本件ノートの中で,被告は他の勃起不全治

療薬である「レビトラ」の表記として ,「レビ」及び「レ」との表記方
法を区別することなく使用していることが窺われ,本件ノートの記載方
法について厳密なルール( シア」と「シ」とを截然と区別して表記す

るルール)があったとは考えにくいこと,以上に照らすと ,「シ」との
み表記されたものについても,模造シアリスに係る販売記録であると推
認することができる。
イ これに対し,被告は「シ」と表記されたものについて,正規品の「シ
ラグラ」である旨主張する。
(ア) 証拠(甲18,19)及び弁論の全趣旨によれば,シラグラはイン
ドのCipla社製の勃起不全治療薬で,バイアグラのジェネリック
医薬品であり,4錠が1シートとして販売されていること,日本での
個人輸入代行業者では,4錠(1シート)で4000円前後,28錠
(7シート)で9300円ないし1万0300円で販売されているこ
とが認められる。
また,証拠(甲12,20∼23)及び弁論の全趣旨によれば,被
告方から押収されたノートの中で,明らかに「シラグラ」であること
が分かる販売記録は,平成17年4月15日と解される「P4 シラ
グラ 28 」(甲12の30枚目)のほか,同年3月29日と解され
る「3/29 P5 シラグラ28T 6.5千 」(甲23の33枚目黄
色マーカー部分 ),同年4月30日と解される「4/30 P6 シラ
グラ12T 4.5千 」(同38枚目黄色マーカー部分 ),同18年1
月13日と解される「1/13 P7 シラ28T 」(同46枚目黄色
マーカー部分)の4箇所あることが認められる。
(イ) 上記認定のとおり,シラグラは4錠1シートで販売されているもの
であり ,「シラグラ」であることが明らかな上記ノートの記載におい
ても,全て4の倍数の錠数で販売されていることからすれば,被告も
シート単位でシラグラを販売していたものと推認できる。
これに対し,本件ノートの「シ」とのみ表記されたもののうち,例
えば,甲第13号証2枚目左端の上から7行目には「P8 700 ハ
×7 シ×3」という記載がなされ,同8行目には「P9 240 シ
×3」と記載されており,これらの記載では販売錠数が明示されてお
らず,4の倍数になっているとも考え難い。仮に ,「シ×3」という
表示を「シラグラ」を3シート(12錠)という意味に解すると,被
告は「シラグラ」1シート(4錠)を8000円で販売したことにな
り(上記「P9」に対する販売価格が2万4000円であることに争
いはない 。 ,前記認定の「P5」に対する販売価格(28錠で65

00円)よりもはるかに高額で販売したことになる上,個人輸入代行
業者がシラグラを販売している価格帯(4錠で4000円前後)から
しても2倍近い価格で販売したことにもなり不自然である。
また ,「シ」が「シラグラ」であるとすると,上記「P8」は「バ
イアグラ 」 「 ハ」との記載が「バイアグラ」を指すことに争いはな

い。)と共に「シラグラ」を購入したことになる。しかし,前記 (ア)の
とおりシラグラはバイアグラの後発医薬品であるところ,医薬品を購
入する者にとって,後発医薬品は先発医薬品よりも価格が低いことに
主たるメリットがあるのであるから,先発医薬品と後発医薬品とを同
時に購入することは通常考えにくい(後発医薬品の効果を確認すると
いうのであれば最小単位で購入するはずであるところ,上記「P8」
は「シ」で示される医薬品を3単位も購入しており,効果を試すため
のものとも考えにくい 。 。また,本件ノートの中で ,
) 「バイアグラ」
と「シ」で示される医薬品との間に価格差が設けられていたような形
跡も全く窺えない。
なお,被告はシラグラを30錠で販売していたかのような主張もす
るが ,「シラグラ」は4錠1シートとなっているのであるから,30
錠で販売すること自体不自然であるし,本件ノートの中で「シ」と記
載されたもののうち,錠数が30錠である旨明記されたものは見当た
らないから,被告がシラグラを30錠で販売していたとの主張は根拠
を欠くものである。
(ウ) そもそも,被告は,薬品の販売記録をノートに記録していたが(甲
12∼14),シアリスとシラグラを区別する必要がある以上,また,
シアリスを「シ」と表記している例がある以上(前記ア ) 「シ」は

全て「シアリス」を意味し ,「シラ」と記載されているもののみが
「シラグラ」であると考えるのが相当である。
(エ) 被告は,その本人尋問において,平成17年7月ころにP2から仕
入れた模造シアリスを返品し,その販売を止めたと述べるが(被告本
人尋問5頁 ),被告の主張によっても,同年8月2日に「P10」に
対して模造シアリスを販売しているのであり(別紙販売経過一覧表1
の3枚目30行目 ),被告の供述と必ずしも整合しない。また,被告
は,模造シアリスの代わりにシラグラを販売したとも述べるが(被告
本人尋問7頁 ),模造シアリスの代わりにシアリスとは成分の異なる
バイアグラの後発医薬品(シラグラ)を販売したこと自体不自然であ
る上,平成17年3月までさしたる販売実績もなかったシラグラ(前
記(ア))が,特段の事情も窺えないのに同年4月以降突如として売上を
伸ばし,7月以降もさらに売上を伸ばしたというのも,やはり事実の
流れとして不自然といわざるを得ない。
(オ) 以上に加え,被告は,本件訴訟の当初,警察に押収されたノートに
ついて ,「商品の名前までは記載していませんでした。そうした記載
も一時的で,途中でやめてしまいました 。」とか ,「そのノートでは
販売したシアリスの数量は分かりません 」 「私が販売したのはほと

んどがバイアグラで,レビトラも少し売れましたがシアリスはほとん
ど売れませんでした」などと陳述しているが(乙1 ),本訴における
送付嘱託の結果,大阪府警察より送付を受けた本件ノートには,被告
が何を販売したのか判別するに足りる記載が多くなされているし,被
告が認めている範囲でも被告は模造シアリスを145万5150円販
売しており,ほとんど売れなかったなどとはいえないことからすれば,
被告には責任回避的な態度をも窺うことができるところである。
したがって,平成17年7月以降,シアリスに代えて,シラグラを
販売したという被告の供述を信用することはできないというべきであ
る。
ウ 以上より,本件ノートにおいて「シ」と表記された販売記録はいずれ
も模造シアリスに係るものと認めるのが相当である。
(3) 別紙販売経過一覧表1の認否欄に「×」が付されたもののうち,備考欄
に「おまけ」と記載されたものについて,被告は「おまけ」であって対価
を受け取っていないと主張する。
この点,本件において,被告が「おまけ」である旨主張するものは,い
ずれもバイアグラとセットになった5錠又は3錠の模造シアリスであり,
模造シアリスのみを無償で提供したものではない。そうすると,仮にこれ
らの模造シアリスがバイアグラの「おまけ」という名目であったとしても,
全体に対して対価を得ている以上,模造シアリスについて全く対価を得て
いないということはできないというべきである。
もっとも,これらの販売形態をとったのは,ヤフーオークションを通じ
た販売であるところ,5錠又は3錠のばら売りにおいては,ボトルを使用
しているとは認められず,前記1(1)に述べたところを併せ考えると,被
告標章の使用行為があったとはいえない(ヤフーオークションのウェブサ
イトにおいては ,「シア」とだけ記載しているだけである。そして,原告
は,ウェブサイト上に「シア」とだけ記載することだけをもって,本件商
標権の侵害行為として主張しているわけではない 。 。

(4 ) 小括
以上より,本件ノートに記載された模造シアリスの売上額は,別紙販売
経過一覧表1記載のとおり535万9760円であると認められるが,そ
のうち,本件商標を使用した販売による売上額(上記売上から,ヤフー
オークションにおけるばら売り〔30錠単位以外で販売したもの〕を除い
た売上額)は同一覧表2記載のとおり489万4160円であると認めら
れる。
なお,前記(1)にも指摘したとおり,本件ノートに別紙販売経過一覧表
1の内容の記載があることについて,当事者間に争いがないところ,後記
3の計算においては,同一覧表2のとおり,他の販売状況から推認できる
限り,同一覧表1の空欄を埋め(黄色の網掛 ),一方,金額だけ判明して
いるが,その販売数量が不明であるもの(赤色の網掛)については,単価
の計算からは除外し,利益の算定では考慮し,ばら売り(紫色の網掛)に
ついては,計算から除外して計算することとした。
3 争点2−2(被告が得た利益)について
(1 ) ヤフーオークションにより模造シアリスを販売して得た利益について
ア 平成17年4月から同年7月末までの利益
証拠(甲9,11∼16)及び弁論の全趣旨に加え,前記2(3)(ば
ら売りは控除されるべきであること)によれば,同期間における模造シ
アリスの販売価格は1ボトル(30錠)当たり9498円であることが
認められる。一方,同期間の仕入額は1ボトル当たり3000円ないし
4000円であることが認められ,これによれば,被告は,上記期間中,
少なくとも,1ボトル当たり5498円の粗利益(粗利益率57.8
%)を得ていたということができる(仕入額の推移が判明しない以上,
最も高額の4000円であることを前提とし,一方,販売額については,
別紙販売経過一覧表2により認めることのできる平均値を前提として計
算する。後記ウにおいて同じ。 。

よって,上記期間の売上額である146万2810円の57.8%で
ある84万5504円が転売による粗利益となる。
イ 平成17年8月から同年12月末までの利益
証拠(甲9,11∼16)及び弁論の全趣旨によれば,同期間におけ
る模造シアリスの販売価格は1ボトル(30錠)当たり原告が主張する
平均8000円以上(別紙販売経過一覧表2の集計を前提に計算すると
8066円となるが,この額は原告の主張を上回るので,原告の主張を
前提に算定する 。)であること,同期間の仕入額は1ボトル当たり平均
3000円であることが認められ,これによれば,被告は,上記期間中,
少なくとも1ボトル当たり5000円の粗利益(粗利益率62.5%)
を得ていたということができる。
よって,上記期間の売上額である193万2300円の62.5%で
ある120万7687円が転売による粗利益となる。
ウ 平成18年1月から同年3月までの利益
証拠(甲11∼16)及び弁論の全趣旨によれば,同期間における模
造シアリスの販売価格は1ボトル(30錠)当たり7610円であるこ
と,同期間の仕入額は1ボトル当たり平均2600円であることが認め
られ,これによれば,被告は,販売価格の65.8%を粗利益として得
ていたことが認められる。
よって,同期間の売上額である149万9050円の65.8%であ
る98万6374円が転売による粗利益となる。
エ 落札手数料
証拠(乙3,5,6)によれば,ヤフーオークションに出品して落札
された場合 ,「落札システム利用料」として,落札価格の5.25%を
ヤフージャパンに支払わなければならない規約になっており,被告がこ
れを支払ったものと認められる。
そこで,ヤフーオークションによる模造シアリス(本件商標を使用し
たものに限る 。)の販売総額である489万4160円に5.25%を
乗じた額である25万6943円については,販売のために要した経費
としてこれを控除するのが相当である。
オ 送料
証拠(甲27)によれば,被告は平成20年11月13日時点におい
て,「マジコン」なる商品をヤフーオークションに出品しており,発送
方法の一つとして「クロネコメール便」を掲げていること,その際の料
金として「通常メール便」の場合には160円とされていること,被告
は落札者に対して「落札価格に送料と追加価格を合計して入金してくだ
さい」と求めていることが認められ,ヤフーオークションにおける「マ
ジコン」の販売において,160円の「クロネコメール便」を利用した
上,送料を顧客に負担させていることが認められる。そうすると,ヤ
フーオークションによる模造シアリスの販売においても,送料を顧客に
負担させていたと推認することができ,他方で被告において送料を負担
していたと認めるに足りる証拠はない。なお,被告が送料を負担したこ
とを示す証拠として提出する請求書(乙8)や領収書(乙9)について,
被告の上記販売形態では,あらかじめ落札者から送料を送金させた上,
被告において支払うことになるから,被告が送料を支払ったことをもっ
て被告が送料を負担したことを認めることはできない。
以上より,ヤフーオークションによる模造シアリスの販売においては,
被告が送料を負担していたと認めることはできない。
カ 以上より,ヤフーオークションにより模造シアリスを販売して得た利
益は278万2622円(¥845,504+¥1,207,687+¥986,374−¥256,943
=¥2,782,622)と認められる。
(2 ) PISにより模造シアリスを販売して得た利益について
ア PISによる売上額
証拠(甲5の1・2,甲9の17頁)によれば,被告がPISを通し
て模造シアリスを販売した際の販売価格は,30錠が2万8000円,
10錠が1万2000円,5錠が7000円,2錠が3000円であっ
たことが推認できる。これに対し,被告は,実際にはそのような額では
販売できなかったと主張するが,本件ノートでは,PISにおける販売
価格が記載された販売記録もあり(甲第12号証の26枚目の「P1
1」に係る販売〔黄色マーカー部〕の「シア 2T 3千」との記載,
及び同23枚目の「P12」に係る販売〔黄色マーカー部〕の「シアリ
ス 30T 2.8万」との記載 ),少なくともこれらの販売では,上
記販売価格で販売できていたことが認められる。これに加え,被告がP
ISにおいて模造シアリスをいくらで販売したのかについて具体的な金
額を示すことができないことからすれば,他の販売においても上記販売
価格で販売したものと認めるのが相当である。
そうすると,PISによる模造シアリスの販売は,別紙販売経過一覧
表2の青色網掛け部分のとおりと認められるから,その売上額は38万
円と認められる。
イ 仕入額
また,PISによる販売は,平成17年4月から同年7月までの間に
なされており,同期間における模造シアリスの仕入額は,前記(1)アの
とおり1ボトル(30錠)当たり4000円として計算すべきであると
認められる。そうすると,模造シアリス1錠当たりの仕入額は133円
(¥4,000÷30≒¥133)となり,PISによる模造シアリスの販売錠数の
合計は別紙販売経過一覧表2によれば371錠と認められるから,その
仕入額は4万9343円(¥133×371=¥49,343)となる。
ウ 送料
証拠(甲5の1)によれば,被告は,PISにより模造シアリスを販
売するために開設したウェブサイトにおいて「シアリス 激安個人輸入
代行 送料手数料込み」と掲げられていることから,被告において送料
を負担していたものと認められる。
また,証拠(乙7∼9)及び弁論の全趣旨によれば,被告は模造シア
リスを購入者に届ける際,ヤマト運輸株式会社のメール便(160円)
を利用していたことが認められる。
よって,PISによる販売回数である23回に160円を乗じた額で
ある3680円を控除すべきものと認められる。
エ 以上より,PISによる模造シアリスの販売による転売利益は,32
万6977円(¥380,000−¥49,343−¥3,680=¥326,977)と認められる。
(3) 本件ノートに記録されていない販売利益について
原告は,本件ノートに記録されていない模造シアリスの販売もあると主
張し,民事訴訟法248条により500万円の利益があったと推認できる
旨主張する。
たしかに,被告自身,本件ノートには全ての販売記録が記載されている
ものではないと認めてはいるが,かといって,どの程度の売上があったか
については,まったくもって不明というほかない。この点,原告は,模造
のバイアグラ,レビトラ及びシアリスの販売によって,被告が2300万
円ほどの利益を上げていたと主張するところ,かかる主張の根拠となる別
件刑事事件に係る証拠(甲11の2頁10行目)には「2,300万円く
らいの利益だと思います」とは記載されてはいるものの,同記載の前には
「コピーのバイアグラ,レビトラ,シアリスを販売した利益については,
刑事さんの取調べの際,刑事さんと一緒に計算して,2,649万788
円になると分かりました。」と記載されているのであり,同記載によれば,
ここにいう「利益」は「売上」のことを指すものと推測され(別件刑事事
件では「利益」の額は公訴事実の内容となっていない〔甲7〕 )
。 ,しかも,
計算の基となった資料は押収されたノートと推測できる。そうすると,甲
第11号証をもってノートに記載されていない売上を推認することはでき
ないというべきであり,他にこれを推認させる証拠は何ら認められない。
よって,本件ノートに記載されていない模造シアリスの販売に係る売上
額が不明である以上,かかる範囲においては,民事訴訟法248条の「損
害が生じたことが認められる場合」に当たらず,また「損害の性質上その
額を立証することが極めて困難であるとき」にも当たらないというべきで
あり,同条に基づいてその額を認定することはできない。
(4 ) 小括
以上より,模造シアリス(本件商標を使用したものに限る 。)の販売に
より被告が得た利益は310万9599円(¥2,782,622+¥326,977=¥3,10
9,599)と認められ,商標法38条2項により,原告は同額の損害を被った
ものと認められる。
4 争点2−3(弁護士費用)について
原告が原告訴訟代理人弁護士らを訴訟代理人として本件訴訟を提起したこ
とは当裁判所に顕著な事実である。
そこで,本件訴訟の内容,訴訟経過,認容額等本件に顕れた諸般の事情を
考慮すると,被告の商標権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用を30
万円と認めるのが相当である。
第5 結 論
以上によれば,原告の本訴請求は,民法709条に基づき340万959
9円及びこれに対する平成20年5月25日から支払済みまで年5%の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その
余の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条
及び64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し,
主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成21年3月16日)
大阪地方裁判所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三
裁 判 官 島 村 雅 之
裁 判 官 北 岡 裕 章
別 紙
商 標 目 録
(1) 登 録 番 号 第4457616号
出 願 日 平成11年11月25日
登 録 日 平成13年3月9日
商品の区分 第5類
指定商品 薬剤
登録商標 CIALIS(標準文字)
(2) 登 録 番 号 第4964112号
出 願 日 平成16年7月5日
登 録 日 平成18年6月23日
商品の区分 第5類
指定商品 性機能障害治療用薬剤及び調合薬剤,性機能障害予
防用薬剤及び調合薬剤
登録商標 CIALIS(標準文字)
(3) 登 録 番 号 第4850513号
出 願 日 平成16年3月8日
登 録 日 平成17年3月25日
商品の区分 第5類
指定商品 薬剤
登録商標 シアリス(標準文字)
(4) 登 録 番 号 第4695189号
出 願 日 平成14年11月26日
登 録 日 平成15年7月25日
商品の区分 第5類
指定商品 薬剤
登録商標
以 上

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