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平成20(行ケ)10389審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成21年5月21日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告大阪シーリング印刷株式会社
対象物 ラベル連続体(変更後)とする後記特許の出願人
法令 特許権
特許法29条2項2回
キーワード 審決51回
刊行物11回
実施8回
進歩性2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は,発明の名称を「ラベル連続体 (変更後)とする後記特許の出願人」 である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたとこ ろ,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案 である。

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判決文

判決言渡平成21年5月21日
平成20年(行ケ)第10389号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成21年4月28日
判 決
原 告 大阪シーリング印刷株式会社
訴訟代理人弁理士 森 治
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 菅 野 芳 男
同 長 島 和 子
同 北 村 明 弘
同 酒 井 福 造
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2005−23538号事件について平成20年9月16日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「ラベル連続体」(変更後)とする後記特許の出願人
である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたとこ
ろ,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案
である。
2 争点は,原告が平成17年12月7日付けでなした補正後の発明 補正発明 )

が下記刊行物との関係で独立特許要件(進歩性,特許法29条2項)を有する
か,である。
・刊行物:特表平11−512037号公報(発明の名称「自動的に巻かれ
た感熱印刷可能な面材料用のつや消し剥離被覆 」,出願人 メディ
ア・ソリューションズ・インコーポレーテッド,公表日 平成1
1年10月19日。以下この文献に記載された発明を 引用発明 」

という。甲1)
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,平成13年6月5日,名称を「ラベルまたはラベル連続体」とす
る発明につき特許出願(特願2001−169975号。請求項の数9。以
下「本願」という。甲12。公開公報〔特開2002−366035号〕は
甲19)をしたが,拒絶理由通知を受けたことから,平成16年10月25
日付けで名称を「ラベル連続体」とし特許請求の範囲も変更すること等を内
容とする手続補正(請求項の数9。以下「第1次補正」という。甲14)を
したものの,平成17年10月27日付けで拒絶査定(甲10)を受けた。
そこで原告は,平成17年12月7日付けで上記拒絶査定に対する不服の審
判請求(甲15)をした。
特許庁は,同請求を不服2005−23538号事件として審理し,その
中で原告は平成17年12月7日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする
手続補正(第2次補正。以下「本件補正」という。請求項の数7。甲16)
をしたが,特許庁は,平成20年9月16日,本件補正を却下した上,「本
件審判の請求は,成り立たない 。」との審決をし,その謄本は平成20年9
月30日原告に送達された。
(2) 発明の内容
ア 第1次補正時(平成16年10月25日)の請求項は前記のとおり1∼
9から成るが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)
の内容は,下記のとおりである。

「 請求項1】
【 基材と,
前記基材の一方の面に形成された感熱発色層と,
前記基材のもう一方の面に形成された接着剤層と,
前記感熱発色層上に形成された剥離層とを含み,
前記剥離層は,前記感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を構成
する物質の付着を防止するように,剥離材マトリックス中に無機粉体が
分散されてなることを特徴とする,ラベル連続体。」
イ 本件補正時(平成17年12月7日)の請求項は前記のとおり1∼7か
ら成るが,そのうち請求項1に係る発明(以下「補正発明」という)の内
容は,下記のとおりである(下線は第2次補正箇所)。

「 請求項1】
【 基材と,
前記基材の一方の面に形成された感熱発色層と,
前記基材のもう一方の面に形成された接着剤層と,
前記感熱発色層上に形成された剥離層とを含み,
前記剥離層は,前記感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を形成
する物質の付着を防止するとともに,前記加熱体に付着した物質を除去
するように,剥離材マトリックス中に無機粉体が分散されてなり,
前記無機粉体として,シリカ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,
水酸化アルミニウム,アルミナ,リン酸三カルシウム,ヒドロキシアパ
タイト,酸化亜鉛のうち,少なくとも1種を,前記剥離材マトリックス
100重量部あたり28∼50重量部含むことを特徴とする,ラベル連
続体。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,①補正発明は,その出願前に頒布された上記刊行物
に記載された発明(引用発明)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたから特許法29条2項により特許出願の際に独立し
て特許を受けることができず,本件補正は却下すべきものである,②本願
発明も,同様に特許法29条2項により特許を受けることができない,と
いうものである。
イ なお,審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容,同発明と補
正発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
[引用発明の内容]
「基層12と,基層12の前面14を被覆する熱受容可能な像形成材料
16の層と,基層12の裏面18を被覆する接着剤層20と,熱受容性
のある像形成材料16の上に形成された剥離被覆層24を備え,剥離被
覆層24は,感熱プリントヘッド48に付着した物質を除去するように,
第二の剥離剤28中にテトラ・フルオルエチレンの粉体が分散され,テ
トラ・フルオルエチレンの粉体の量は,第二の剥離剤28 100重量
部あたり11.1重量部∼42.9重量部含む,像を形成した後切断し
てラベルとして使用できる面材料11 。」
[一致点]
いずれも「基材と,基材の一方の面に形成された感熱発色層と,基材
のもう一方の面に形成された接着剤層と,感熱発色層上に形成された剥
離層とを含み,剥離層は,加熱体に付着した物質を除去するように,剥
離材マトリックス中に粉体が分散されてなり,粉体を剥離材マトリック
ス中100重量部あたり28∼42.9重量部含むラベル連続体。」で
ある点。
[相違点1]
剥離材マトリックス中への粉体の分散に関して ,補正発明においては,
「感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を形成する物質の付着を防
止する」と特定されているのに対し,引用発明では,上記特定を有する
か不明な点。
[相違点2]
粉体について,補正発明においては,「無機粉体」であり,「シリカ,
炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,水酸化アルミニウム,アルミナ,
リン酸三カルシウム,ヒドロキシアパタイト,酸化亜鉛のうち,少なく
とも1種を含む」ことが特定されているのに対し,引用発明では,上記
特定を有していない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,以下に述べるとおり,審決が補正発明について進歩性を欠
き独立特許要件がないとして本件補正を却下したのは誤りである。
ア 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
(ア) 審決は,相違点1について,「…引用発明においても,剥離被覆層
24は ,『感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を形成する物質の
付着を防止する』ものであり,この点は実質的な相違点にならないと言
わざるを得ない。(9頁23行∼25行)と判断した。

しかし,引用発明においては,剥離層に含有される固体粒子としてテ
トラ・フルオルエチレン(テフロン)などの有機材料が用いられている
ところ,このような有機材料は一般的に融点が低く(例えば,テトラ・
フルオルエチレンの融点は327℃),一方,感熱発色層を発色させる
ために加熱されたサーマルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程
度まで上昇する場合があり,このような温度に加熱されたサーマルヘッ
ドに剥離層が接触すると,剥離層に埋め込まれた有機材料からなる固体
粒子は,その表面が溶融し,サーマルヘッドに付着しやすくなるため,
結果的に剥離被覆層24は,「感熱発色層を発色させる加熱体への剥離
層を形成する物質の付着を防止する」ものとはいえなくなる。
(イ) この点は審決も ,「…テトラ・フルオルエチレンの融点が327℃
である点は,例えば,特開平7−246783号公報【0015】『ポ
リ四フッ化エチレン(m.p327℃ )(なお,前記『ポリ四フッ化エ

チレン』はテトラ・フルオルエチレンを,前記『m.p』は融点をそれ
ぞれ意味する。)に記載されている如く,周知であり,感熱発色層を発
色させるために加熱されたサーマルヘッドの温度を327℃を越える温
度で使用した場合,引用文献1に記載された剥離層を有するラベル連続
体では,剥離層の補強効果やクリーニング効果が小さく,感熱発色層を
発色させる際にサーマルヘッドを汚す恐れが生じるであろうことは,当
業者が当然に予測する程度のことである… 」(11頁5行∼13行)と
して認めている。
(ウ) したがって,相違点1は,補正発明と引用発明との実質的な相違点
ということができるから,審決の相違点1についての判断は誤りである 。
イ 取消事由2(相違点2に関する容易想到性についての判断の誤り)
(ア) 審決は,相違点2について「…刊行物に記載されたテトラ・フルオ
ルエチレンの粉体にかえ,加熱体に付着した物質を除去するために使用
される無機粉体として周知のシリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カルシ
ウム,炭酸マグネシウムのうち,少なくとも1種を含むものとすること
は,当業者が容易に想到しうる程度のことである。そして,補正発明の
作用効果も,刊行物記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範
囲のものである。(10頁21行∼27行)と判断した。しかし,審決

の相違点2に関する判断は誤りである。
(イ) 審決が周知技術を示すものとして引用した甲2(特開平5−116
428号公報,発明の名称「サーマルヘッド用クリーニングテープ 」,
出願人 富士写真フイルム株式会社,公開日 平成5年5月14日)に記
載のものは,サーマルヘッド用のクリーニングテープに関するものであ
る。同じく甲3(特開平9−52381号公報,発明の名称「ラベル連
続体」,出願人 大阪シーリング印刷株式会社,公開日 平成9年2月2
5日)に記載のものは,サーマルヘッドを清掃するクリーニングテープ
が長手方向の一端部に形成されたラベル連続体に関するものであり,さ
らに甲4(特開平10−100454号公報,発明の名称「クリーニン
グリボン及びクリーニング方法 」,出願人 大日本印刷株式会社,公開日
平成10年4月21日)に記載のものは,サーマルヘッドを清掃する
クリーニングリボンに関するものである。
すなわち甲2∼甲4に記載のものは,いずれも,サーマルヘッド用の
クリーニングテープやクリーニングリボンに関するもので,引用発明の
感熱印刷可能な面材料や補正発明のラベル連続体のように,長時間に亘
ってヘッドに接触して使用されるものではなく,極めて短時間ヘッドに
接触して使用することによって,ヘッドに付着したゴミ等を除去するた
めのものであり,感熱記録時におけるヘッドの清掃や,剥離層の補強を
目的としたものではない。
サーマルヘッド用のクリーニングテープやクリーニングリボンの使用
が極めて短時間に限られる理由は,クリーニングテープやクリーニング
リボンのクリーニング層に含まれる粒子が,ヘッドに接触することによ
ってヘッドを摩耗,損傷するおそれがあるからであり,このため,サー
マルヘッドのクリーニングについては,同様の目的で行われる磁気ヘッ
ドのクリーニングの場合と同様,製品カタログ等において,注意事項と
して,クリーニングの時間や回数を制限するとともに,ヘッドを摩耗,
損傷させるおそれがあることが記載されている(甲17,18 )。この
事実は,引用発明の感熱印刷可能な面材料(長時間に亘ってヘッドに接
触して使用されるもの)に用いられているテトラ・フルオルエチレンの
粉体に代えて,無機粉体(シリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カルシウ
ム,炭酸マグネシウムのうち,少なくとも1種)を適用することについ
ての明確な阻害要因になることは明らかである。
なお,審決が周知技術を示すものとした甲7(特開平3−65396
号公報,発明の名称 熱転写記録用シート」 出願人 三菱化成株式会社,
「 ,
公開日 平成3年3月20日)には,サーマルヘッドの走行中に直接接
する層を耐熱滑性層とし,該層を形成するバインダー樹脂として放射線
硬化樹脂を用いるとともに,該バインダー樹脂に無機及び有機の各種の
耐熱性微粒子を含有させ,該耐熱性微粒子として,特に微粒子シリカ,
微粒子酸化チタンはサーマルヘッドのクリーニング効果が良好で適して
いることが記載されている(2頁左下欄19行∼3頁左上欄13行,第
1図)。
しかし甲7に記載の発明は,サーマルヘッドの摩耗が小さくなり走行
性が良好となるように,耐熱滑性層が,耐熱滑性層の基準面より突出す
る,前記微粒子より大きい粒径の球状粒子を成分として含むことを構成
要件とする特殊な層構造(特許請求の範囲(1),2頁左下欄11行∼1
4行)を前提とするものである。また,バインダー樹脂に無機及び有機
の各種の耐熱性微粒子を含有させただけでは,サーマルヘッドの摩耗が
大きくなるとともに,走行性が悪くなることも示唆されている。そもそ
も甲7に記載の発明は,発明の対象が,引用発明の感熱印刷可能な面材
料や補正発明のラベル連続体とは基本的な層構成の異なる熱転写記録用
シートであることもあり,上記甲2∼4についての阻害要因を覆す証拠
にはなり得ない。
(ウ) このように,甲2∼4,甲7からは,引用発明の感熱印刷可能な面
材料や補正発明のラベル連続体のように,長時間に亘ってヘッドに接触
する層を構成するバインダー樹脂,ましてや,剥離剤マトリックスに研
磨作用を有する無機粉体であるシリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カル
シウム,炭酸マグネシウムを含有させて用いることまでもが周知技術で
あるとは到底いえず,これを適用するには阻害要因がある。そうすると,
上記につき周知技術であるとして,相違点2に関し容易想到とした審決
の判断には誤りがある。
(エ) これに対して,補正発明は,研磨作用を有する無機粉体を含有させ
て長時間に亘ってヘッドに接触する層を,表面の平滑度が必然的に高く
なる剥離層とし,さらに,該剥離層を,使用に供されるまでは,基材の
もう一方の面に形成された接着剤層と接合して仮着するようにし,剥離
層から離脱した無機粉体があるとヘッドを摩耗,損傷するおそれがある
ため,使用に供される際にこの離脱した無機粉体を接着剤層に吸着させ
ることによって,長時間に亘ってヘッドに接触する層に研磨作用を有す
る無機粉体を含有させても,ヘッドを摩耗,損傷するおそれを低減する
ことによって,研磨作用を有する無機粉体の使用を可能にしたものであ
る。
そして,補正発明は,長時間に亘ってヘッドに接触する剥離層を有す
るラベル連続体において,剥離層に研磨作用を有する無機粉体を含有さ
せることにより,剥離層が補強されて削れにくくなるとともに,感熱記
録時に剥離層が溶融することがなく,サーマルヘッドへの付着を防止す
ることができるとともに,剥離層を形成する物質等がサーマルヘッドに
付着したとしても,無機粉体の研磨作用により機械的に除去することが
できるという,引用発明及び周知技術からは当業者が予測できない作用
効果を奏するものである。
よって,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができたものではない。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 補正発明は ,「感熱発色層を発色させるために加熱されるサーマルヘッ
ドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する」点を特定事項と
するものではない。
さらに,本件補正後の明細書(甲12 ,14,16。以下「本願明細書」
という)には,「感熱発色層を発色させるために加熱されるサーマルヘッ
ドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する場合がある」につ
いての記載がない。
すなわち,本願明細書の発明の詳細な説明には,サーマルプリンタに関
して,例えば,「…①プリンタ印字品質 寺岡精工製ダイレクトサーマル
プリンタ DP―3600を用いて発色印字を行い…」 段落 0030】
( 【 )
と記載されているだけであって,サーマルヘッドの温度についての記載は
ない。
そこで,明細書又は図面の記載において ,「感熱発色層を発色させるた
めに加熱されるサーマルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度ま
で上昇する場合がある」が自明であるか否かについて検討する。
イ サーマルヘッドの温度に関する技術常識について
(ア) サーマルヘッドの温度に関し,文献には以下の記載がある(下線は
被告が付記)。
a 乙1(特開2001−81425号公報,発明の名称「ライナーレ
ス2色感熱記録用粘着ラベル 」,出願人 王子製紙株式会社,公開日
平成13年3月27日)
「 請求項1】サーマルヘッドからの印加エネルギー量の違いにより異な

る色調に発色する2色感熱記録紙上に放射線によって硬化させた剥離
剤層を設け且つ裏面側に粘着剤層を設けてなるライナーレス2色感熱
記録用粘着ラベルにおいて高印加エネルギー側の発色が0.4∼0.
7mj/dotの印加エネルギー範囲に対し,記録濃度が1.1以上
となり,且つ5000m印字後の記録濃度も1.1以上となる印字濃
度を阻害しない剥離剤層を設けたことを特徴とするライナーレス2色
感熱記録用粘着ラベル。」
「 0004】また,例えばスーパーの値札ラベル等に定価は黒色で印字

し,値引き後の額を赤色で印字することで消費者へアピールし,購買
欲を促す効果を目的に2色感熱記録用粘着ラベルが利用され,該用途
への需要が伸びている。」
「 0006】上記剥離紙の廃棄等の問題から,剥離紙を感熱記録用粘着

ラベルから除去することが考えられ,このことに関し,感熱記録用粘
着ラベル上に剥離剤層を設け,テープ状に仕上げる方法(特公平4−
15110号公報)等の提案がなされ,ライナーレス感熱記録用粘着
ラベルとして市場で利用されるようになった。しかしながら,現存の
ライナーレス感熱記録用粘着ラベルは,黒のみの発色に限られ,前述
の2色感熱記録用粘着ラベルの如きものは製品化されていないのが現
状である。この最大の原因は,ライナーレス2色感熱記録用粘着ラベ
ルを感熱プリンターで印字する際,サーマルヘッドに粕が付着し印字
障害が発生するため,連続印字が不可能なためである。」
「 0008】
【 【課題を解決するための手段】本発明者らは,サーマルヘッ
ドに剥離剤の粕が付着する要因を解析し,粕付着を抑制するための感
熱記録紙の発色感度に関する要件,および剥離剤層の皮膜特性に関す
る要件を検討した結果,ライナーレス2色感熱記録用粘着ラベルの発
色感度特性に,また,さらに剥離剤層の皮膜特性にある適正条件があ
ることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0009】即ち,サーマルヘッドに剥離剤の粕が付着する原因は,感熱
記録紙を感熱記録プリンターで印字する時,該感熱記録紙表面はサー
マルヘッド表面と強く摩擦され,その摩擦力により最外層の剥離剤層
が擦過され破壊された該剥離剤がサーマルヘッドに蓄積されると考え
られる。さらにサーマルヘッドの温度が該剥離剤の軟化点以上に達し
たときに該剥離剤がサーマルヘッドへ付着し印字障害を発生させると
考えられる。
【0010】本発明者らは,印字障害とサーマルヘッドの粕付着(以下,
ヘッド粕)の状態との関係を調査した結果,…即ち,サーマルヘッド
の温度を剥離剤層の軟化点以下に制御することで解決できるのである。
【0011】サーマルヘッドの温度は印加するエネルギー量に応じ上昇す
るが,その温度は測定が困難である。一般に単色の感熱記録用紙の印
字や,2色感熱記録用紙の 1 色目を感熱プリンターで印字する際,該
感熱プリンターのサーマルヘッドの温度は,瞬間的に200℃程度に
なると言われている。また,2色目の印字は,1色目にかけるエネル
ギーの1.5∼2倍程度であり,瞬間的にサーマルヘッドが非常に高
温になると予想される。しかしながら,サーマルヘッドの温度は瞬間
的には上記の如く数100℃となるとしても,定常的にはせいぜい6
0℃程度以下と考えられる。これは,一般の感熱記録用紙の耐熱性は
60∼70℃であり,プリンターで印字記録する際,全面が発色しな
いことからも推測できる。
【0012】また一般にライナーレス感熱記録粘着ラベルの剥離剤として
用いられるシリコーン系剥離剤の軟化点は400℃前後と考えられる
が,感熱プリンターのサーマルヘッドの瞬間的な温度が400℃程度
まで上昇するか否か測定不可能であり,また瞬間的な熱に対してシリ
コーン系剥離剤が軟化,溶融することはない。そこで本発明者らは,
感熱プリンターの印加エネルギーを変量し,ヘッド粕の接着性の関係
を調査し,以下の適正範囲を見出したのである。」
b 乙2(特開2000−272239号公報,発明の名称「多色感熱
記録用粘着ラベル」,出願人 王子製紙株式会社,公開日 平成12年
10月3日)
「 請求項1】支持体の片面に異なる加熱条件で異なった色調に発色する

感熱発色層を設け,該感熱発色層上に直接あるいは保護層を介して無
溶剤型の剥離剤を塗布し,放射線によって硬化させた剥離剤層を設け,
且つ支持体の裏面側に粘着剤層を設けたことを特徴とする剥離紙不要
の多色感熱記録用粘着ラベル。」
「 0006】…また該剥離剤層は剥離剤としての機能を持たせるだけで

なく,感熱プリンターに対する走行性,スティッキング等の一般の感
熱記録用紙と同様の機能を両立させなければならない。特に剥離剤の
硬化不良は,感熱プリンターのサーマルヘッドに直接接触し印字を行
うため剥離剤が剥がれ,粕としてサーマルヘッドに蓄積し,印字不良
を起こす恐れがある。」
「 0010】感熱発色層としては,加熱温度の差,または熱エネルギー

の差を利用して異なる色調の発色が得られるものであれば特に限定は
しない…」
「 0012】更に,本発明者等は,高温発色の際に生じる剥離剤層の成

分がサーマルヘッドに粕付着する問題について研究を重ねた。一般に
単色の感熱記録用紙の印字や,2色感熱記録用紙の1色目の印字を感
熱プリンターで印字する際,該感熱プリンターのサーマルヘッドの温
度は,およそ200℃∼300℃と言われている。しかし,多色感熱
記録用紙の2色目以降の印字において,感熱プリンターのサーマルヘッ
ドに掛けるエネルギーは,1色目に掛けるエネルギーの1.5∼3倍
程度であり,サーマルヘッドが非常に高温となる。」
c 上記a,bの記載によると,乙1,乙2に ,「基材と,前記基材の
一方の面に形成された感熱発色層と,前記基材のもう一方の面に形成
された接着剤層と,前記感熱発色層上に形成された紫外線硬化型シリ
コーンを主剤とする剥離材からなる剥離層とを含むラベル連続体」以

下,「感熱記録用ラベル連続体」という。)に相当するものが記載され
ている。
そして,単色の感熱記録用ラベル連続体(以下 ,「単色感熱記録用
ラベル連続体」という 。)で用いる場合,感熱発色層を発色させるた
めに加熱されるサーマルヘッドは,その表面の温度が300℃以下で
ある(乙1「200℃程度」〔段落【0011 】 ,乙2「200℃∼

300℃ 」〔段落【0012 】 )
〕 。しかし,2色以上の感熱記録用ラ
ベル連続体(以下,「多色感熱記録用ラベル連続体」という 。)として
用いる場合,1色目を印字する際,当該サーマルヘッドは,その表面
の温度が300℃以下であるのに対し,2色目以降を印字する際は,
300℃∼400℃程度まで上昇する場合があるといえる 乙1 1.
( 「
5∼2倍程度 」〔段落【0011 】 ,乙2「1.5∼3倍程度 」
〕 〔段
落【0012】)
〕。
(イ) サーマルヘッド温度を上昇させた場合の問題点に関し,文献には以
下の記載がある(下線は被告が付記)。
・ 乙3(特開2001−66993号公報,発明の名称「ライナーレ
ス感熱記録ラベルシートおよびその製造方法」,出願人 トッパン・フ
ォームズ株式会社,公開日 平成13年3月16日)
「…上記感熱紙3は,例えば60∼80℃で発色するように設定されてい
るものであり,この感熱記録ラベルシート1を装填する形態端末(後述)
のプリンタヘッドの温度により感熱紙3が伸縮したり変形したりしない
ようにする」(段落【0035】)
・ 乙1(特開2001−81425号公報)
「…しかしながら,サーマルヘッドの温度は瞬間的には上記の如く数1
00℃となるとしても,定常的にはせいぜい60℃程度以下と考えられ
る。これは,一般の感熱記録用紙の耐熱性は60∼70℃であり,プリ
ンターで印字記録する際,全面が発色しないことからも推測できる。(段

落【0011】)
・ 乙4(特開2001−18458号公報,発明の名称「ラベル発行
機」,出願人 株式会社イシダ,公開日 平成13年1月23日。下線
は被告が付記)
「 0003】ラベルの印字パターンは,例えば図8に示したように,ラ

ベル1の下段の印字領域2に店名,住所等を印字し,中段の印字領域3
に品名,重量,価格,バーコード等を表示し,上段の強調領域4に値引
き後の価格等を大きな白抜き文字4aで表示して顧客の注意を引き付け
易いようにしている。」
「 0004】しかし,前記ラベルのように,白抜き文字4aで表示する

と,強調領域4の広い面積の背景部4bの大部分の印字ドットを発色さ
せるので,ラベルを連続して発行するとサーマルヘッドの温度が上昇し
て定格温度を超えるため,予めラベルの発行速度を遅くしておく必要が
あった。」
「 0005】また,感熱ラベル用紙の印字は,ラベル1の下段の印字領

域2に店名,住所等を印字したのち一旦待機状態になり,CPUで中段
の印字領域3および上段の強調領域4の印字データをメモリから読み出
し,印字パターンに展開してから印字を開始するので,サーマルヘッド
の温度が高くなると,上記待機状態の間にサーマルヘッドに接している
部分の感熱ラベルが発色し,中段の印字領域3の下端部の印字内容が不
明瞭になるという問題点があった。」
「 0006】本発明は,前記のような課題の解決を目的としてなされた

もので,強調領域の広い面積の背景部を発色させた印字率の高いラベル
を連続発行した場合でもサーマルヘッドの温度上昇が定格温度を超える
ことがなく,かつ,待機期間の間に感熱ラベル用紙に不要な発色を生じ
ることのないラベル発行機を得ることを目的とする。」
「 0018】…図1は,…このラベル1は黒色に発色する感熱ラベル用

紙に…印字した…」
(ウ) 上記(ア),(イ)によると,単色の感熱ラベル連続体の印字におい
て,サーマルヘッドの表面を感熱発色に必要な定格温度を越えて必要
以上に高温に上昇させて用いる場合,待機状態の間にサーマルヘッド
に接している部分の感熱ラベルが発色し,その部分の感熱ラベル用紙
に不要な発色が生じ,印字内容が不明瞭になるという問題点が示され
ている。したがって,感熱記録用ラベルの発色において,サーマルヘッ
ドの温度を感熱発色に必要な定格温度を越えて必要以上に高温に上昇
させて用いることは避けるべき事項であることは明らかである。
ウ 出願当時の感熱記録用ラベル連続体の技術開発状況について
(ア) 2色の感熱記録用ラベルに関し
・ 乙1(特開2001−81425号公報)
「 0004】また,例えばスーパーの値札ラベル等に定価は黒色で印字

し,値引き後の額を赤色で印字することで消費者へアピールし,購買欲
を促す効果を目的に2色感熱記録用粘着ラベルが利用され,該用途への
需要が伸びている。」
「 0006】…このことに関し,感熱記録用粘着ラベル上に剥離剤層を

設け,テープ状に仕上げる方法(特公平4−15110号公報)等の提
案がなされ,ライナーレス感熱記録用粘着ラベルとして市場で利用され
るようになった。しかしながら,現存のライナーレス感熱記録用粘着ラ
ベルは,黒のみの発色に限られ,前述の2色感熱記録用粘着ラベルの如
きものは製品化されていないのが現状である。…」
「 0021】…本発明のライナーレス2色感熱記録用粘着ラベルに用い

る2色感熱記録用紙は,高印加エネルギー側の発色が,概ね0.35∼
0.65mj/dotの印加エネルギーに対し,記録濃度1.1以上で
あり,さらに,低印加エネルギー側の発色が,概ね0.15∼0.35
mj/dotの印加エネルギーに対し,記録濃度1.1以上であること
以外は特に限定はなく,感熱発色層が,異なる発色性染料を高温発色層
と低温発色層というように別層に含有せしめる積層タイプ,或いは片方
の発色性染料をマイクロカプセルに内包するなどして他の発色性染料と
同一層に含有せしめる同一層タイプのどちらも適用可能である。」
(イ) 2色以上の多色感熱記録用ラベルに関し
・ 乙5(特開2001−106986号公報,発明の名称「感熱記録
用粘着ラベル」,出願人 王子製紙株式会社,公開日 平成13年4月
17日)
「 請求項3】感熱記録層が,サーマルヘッドからの加熱印加条件の違い

により少なくとも異なる2色以上の色調に発色する請求項1または2記
載の感熱記録用粘着ラベル。」
「 0009】
【 【課題を解決するための手段】剥離紙不要の感熱記録用粘着
ラベルにおいて,高印加エネルギーの印字では,最上層の剥離剤層はそ
の熱エネルギーとサーマルヘッドとの摩擦力でスティッキングが発生し
たり,終には破壊され,サーマルヘッド上に蓄積し,印字障害となるが,
…」
「 0010】…また,感熱記録層がサーマルヘッドからの加熱印加条件

の違いにより少なくとも2色以上の色調に発色する感熱記録用紙を用い
た多色感熱記録用粘着ラベルであり,高温発色色調の印字適性に優れる
特徴を有する。」
「 0026】…本発明では異なる加熱条件で異なった色調に発色する感

熱記録層を設けることができる。該感熱記録層としては加熱温度の差,
または熱エネルギーの差を利用して異なる色調の発色が得られるもので
あれば特に限定はしないが,異なる発色性染料を高温発色層と低温発色
層というように別層に含有せしめる積層タイプと,片方の発色性染料を
マイクロカプセルに内包するなどして他の発色性染料と同一層に含有せ
しめる同一層タイプに大別することができる。本発明はどちらも適用可
能であるが,同一層タイプの方が高温発色時の熱量が低く設定できるた
め好ましい。また,これらを組み合わせて3色以上の発色層も可能であ
る。」
(ウ) 単色感熱記録用ラベル連続体に関し
・ 乙9(特公平4−15110号公報,発明の名称「感熱発色粘着ラ
ベルとその製造法」,出願人 山陽国策パルプ株式会社,公開日 平成
4年3月16日。なお,当該公報は乙1の段落【0006】に記載の
従来例である)には,以下の記載がある。
「実施例 1
下記成分を夫々ボールミルを用いて 24 時間混合粉砕して分散液A及び
分散液Bを調製した。…
得られた感熱粘着ラベルについて発色性を試験した処,150 ℃,2 Kg
/ cm ,1秒間の印字条件で発色濃度D= 1.3 と充分に高く…」(5頁1
0欄19行∼6頁11欄11行)
(エ) 上記(ア)∼(ウ)の記載によれば,多色感熱記録用ラベル連続体の製
品化が望まれていたこと(乙1の段落【0004 】【0006 】 ,多
・ )
色感熱記録用ラベル連続体においては,サーマルヘッドにより2色目以
降を一色目よりも高エネルギーで連続的に印加する必要がある(乙1の
段落【0011 】【 0021 】
・ ,乙5の段落【0009 】)ので,単色
の場合(乙9)よりも感熱発色層に種々の工夫を要すること(乙1【請
求項1】,乙2【請求項2】,乙5の段落【0010】【0026】等)

が窺える。
また,多色の感熱記録用ラベル連続体は単色のものよりも高い温度で
感熱発色させる必要があり,上記イ(ア)のとおり,その温度が300∼
400℃程度であることに照らせば,単色感熱記録用ラベル連続体にお
ける感熱発色温度は300℃を下回るといえる。
エ 明細書の記載
(ア) 補正発明のラベル連続体は,請求項1の記載からみて,乙1及び乙
2記載の感熱記録用ラベル連続体と同様の基本構造を有するものであ
る。
本願明細書(甲12)には,感熱発色層に関して ,「ラベル基材16
の表面上に形成された感熱発色層22は,たとえばロイコ染料,酸性物
質および結着剤の混合物を含む感熱発色剤を塗布・乾燥することによっ
て形成される。この場合,ロイコ染料としては,たとえば,…などがあ
げられる。(段落【0011】, また,酸性物質としては,たとえば ,
」 )「
…等があげられる。 (段落【0012 】 ,
」 ) 「さらに,結着剤としては,
たとえば,…などがあげられる。この感熱発色層22は,それをプリン
ターのサーマルヘッド等が加熱することによって発色させることができ
る。 (段落【0013】
」 )と記載されているように,ロイコ染料,酸性
物質および結着剤の物質が例示されている。しかし,これらの記載によ
っては,補正発明の感熱記録用ラベル連続体が,単色であるか2色以上
の多色であるかは明らかでない。
仮に,補正発明が「2色以上の多色感熱記録用ラベル連続体」として
用いることを目的とするものであるとすると,本願明細書および図面に
おいては,「2色以上の多色感熱記録用ラベル連続体」に関する旨,あ
るいは上記イで述べたような2色以上の多色の感熱発色剤層に関して種
々の工夫を要すること,2色目以降を高印加エネルギーで連続的な印加
を行う必要がある旨が記載されてしかるべきところ,そのような点は何
ら記載されていない。
したがって,明細書又は図面の記載からは,「2色以上の多色感熱記
録用ラベル連続体」が自明の事項であるとはいえない。上記イの技術開
発状況を勘案すると,補正発明は ,「2色以上の多色感熱記録用ラベル
連続体」ではなく,「単色感熱記録用ラベル連続体」に相当するもので
あるといえる。
(イ) そうすると,上記イ(ウ)で述べたように,感熱発色においてサーマ
ルヘッドの表面温度を必要以上に上昇させることは避けるべき事項であ
るから,補正発明のラベル連続体においては,サーマルヘッドの表面温
度を,単色の感熱発色に必要な温度以上に上昇させる場合は想定されて
いない。そして,単色感熱記録用ラベル連続体における感熱発色温度は
300℃を下回ることから,補正発明においては,サーマルヘッドの表
面温度を300∼400℃に上昇させて用いることを必要としないとい
うべきである。
(ウ) さらに,本願明細書の段落【0012】に記載された感熱発色層に
係る具体的な酸性物質の融点からみても,補正発明は,300℃∼40
0℃のサーマルヘッドを用いることを前提としないことは明らかであ
る。
a 単色感熱記録用ラベル連続体におけるサーマルヘッドの温度と感熱
発色層に係る酸性物質(フェノール性化合物)の融点との関係
(a) 文献には,以下の記載がある(下線は被告が付記)。
・ 乙10(特公昭45−14039号公報,発明の名称「感熱記
録材料」,出願人 ザ・ナショナル・キャッシュ・レジスタ・コン
パニー,公告日 昭和45年5月19日)
「上述の如く,クリスタル・バイオレット・ラクトンは無色の発色物質
である。本発明に有用なジフェノール,トリフェノール又はそれらの
ポリマーは,記録形成反応に使用するまでの貯蔵期間中の気化による
ロスを防ぐため,60℃以下ではその蒸気圧が低いが,通常のサーモ
グラフの温度即ち,150∼200℃では充分に液化及び/又は気化
すべきである。(4欄1行∼8行)

・ 乙11(特開平1−280584号公報,発明の名称「感熱記
録シート 」,出願人 本州製紙株式会社,公開日 平成元年11月
10日)
「本発明の構成は…発色性物質としては…顕色剤は,ロイコ染料に作用
して発色型に変化させ得る電子受容性の物質が用いられるが…有機系
では一般に有機酸が使用できるが,融点,昇華性,毒性などの兼ね合
いで,フェノール系物質が好ましく,とりわけ,4・4′−ジイソプ
ロピリデンジフェノールすなわちビスフェノールA…これらの化合物
が好ましい。(2頁右下欄2行∼3頁左上欄15行)

(b) 上記記載から明らかなように,ロイコ染料と酸性物質(フェノ
ール性化合物)との感熱発色反応は当該酸性物質(フェノール性化
合物)の融点により決定される。
(c) また,乙12(特開昭54−3549号公報,発明の名称「感
熱記録体 」,出願人 本州製紙株式会社,公開日 昭和54年1月1
1日)の実施例1には,「黒発色ロイコ染料」と酸性物質「ビスフ
ェノールA」とで発色させる感熱記録体 4頁左下欄9行∼10行,

14行)が開示され,その第2図を参照すると,サーマルヘッドの
温度 150℃ 」
「 近傍において充分な発色が得られることが分かる。
そして当該酸性物質「ビスフェノールA」の融点が「156℃」 後

述)であるから,感熱記録におけるサーマルヘッドの温度は,感熱
発色層に係る酸性物質(フェノール性化合物)の融点近傍の温度に
上昇すれば,充分な発色が得られることを示している。
さらに乙9(特公平4−15110号公報)には,実施例1にお
いて,ロイコ染料と酸性物質( ビスフェノールA」
「 )とで単色発色
させる単色感熱記録用ラベル連続体(10欄23行∼24行,28
行)が開示され,使用されたサーマルヘッドの温度が「150℃…
の印字条件」(11欄9行∼10行)であることから,単色感熱記
録用ラベル連続体におけるサーマルヘッドの温度は,感熱発色層に
係る酸性物質( ビスフェノールA」
「 )の融点(156℃,後述)近
傍で充分な発色が得られることを示している。
してみれば,単色感熱記録用ラベル連続体における感熱発色反応
に必要なサーマルヘッドの温度は,単色感熱記録発色層の酸性物質
(フェノール性化合物)の融点近傍の温度で充分な発色が得られる
ものといえる。
b 本願明細書記載の具体的酸性物質(フェノール性化合物)の融点
本願明細書(甲12)の段落【0012】には,10種類の具体的
な酸性物質が例示されており,それらの融点は,以下のとおりである。
①「2,2−ビス(4′−オキシフェニル)プロパン」「4,4′−イソ

プロピリデンジフェノール」または「ビスフェノール A」とも称す
る。)融点は156℃(乙10,3頁構造「L」)
②「4−フェニルフェノール」融点は166−167℃(乙10,2頁構
造「B」)
③「4−ヒドロキシアセトフェノン 」(この名称からはその化学構造式が
明らかでない 。「4′−ヒドロキシアセトフェノン」の誤記であると
解する。)
「4′−ヒドロキシアセトフェノン」の融点は108−110℃(乙1
0,2頁構造「G」欄)
④「2,2′−ジヒドロキシジフェニール」融点は103−109℃(乙
10,3頁構造「I」)
⑤「2,2′−メチレンビス(4−メチル−6ターシャリイブチルフェノ
ール)」融点は125−130℃(乙10,3頁構造「K」)
⑥「4,4′イソプロピリデンジフェノール」「2,2−ビス(4′−オ

キシフェニル)プロパン」または ビスフェノール
「 A」とも称する。)
融点は156℃(乙10,3頁構造「L」欄)
⑦「4,4′−イソプロピリデンビス(2−クロロフェノール )」融点は
90−91℃(乙10,3頁構造「M」欄)
⑧「4,4′−イソプロピリデンビス(2−メチルフェノール )」融点は
136℃(乙10,3頁構造「P」欄)
⑨「4,4′−エチレンビス(2−メチルフェノール )」融点は100℃
(乙13 JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY 」 米
「 (
国化学会の会誌)54巻4325頁∼4334頁,発行日1932年
11月5日,4327頁, TABLE I, 「Comp.No.10」「M.p.
, ,
℃. ,
」「100」。当該「M.p.,℃.」は「融点℃」を意味し,43
25頁の下2行の化学構造式,及び4326頁3行∼4行の SeriesII .

Derivatives of o-cresol,X=CH3,Y=H」)
⑩「4,4′−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)〔 ジ
」「
(4−ヒドロキシ−2−メチル−5−t−ブチルフェノール)サルフ
ァイド」とも称する〕融点は159.5℃−160℃(乙14
「JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY 」81巻3
608頁∼3610頁,発行日1959年7月20日,特に,360
9頁,TABLE I,No.I」「Di(4-hydroxy-2-methyl-5-tbutylphenyl) sulfide」
「 欄 ,
「 M . p ., ℃ .」,「 1 5 9 . 5 − 1 6 0 」。 当 該 「 Di
( 4-hydroxy-2methyl-5-tbutylphenyl) sulfide」の日本語名は「ジ(4−ヒ
ドロキシ−2−メチル−5−t−ブチルフェノール)サルファイド」
と称する。また当該「M.p.,℃.」は「融点℃」を意味する。当該
「Di(4-hydroxy-2-methyl-5-tbutylphenyl) sulfide」の化学構造式は,36
10頁, TABLE V I,左欄2段目「I」)
c 上記bのとおり,本願明細書の段落【0012】に記載された酸性
物質の融点は,最大で166∼167℃(上記② ),最小で90∼9
1℃(上記⑦)であるから,これらの物質の感熱発色反応に必要なサ
ーマルヘッドの温度は,最大でも167℃近傍であるといえる。
してみれば,補正発明のラベル連続体は,感熱発色層を発色させる
加熱において,300℃を超えるサーマルヘッドの表面温度を必要と
するものではないことは明らかである。
オ 原告提出の証拠(甲21∼26)について
甲21∼26には ,「サーマルヘッドが300℃∼400℃の温度程度
まで上昇する場合がある」ことが記載されているだけであって,いずれも
「感熱記録用ラベル連続体」において 300℃∼400℃程度まで上昇」

させて用いることは記載されていない。
カ 上記イ∼オのとおりであるから,本願明細書又は図面の記載において,
「感熱発色層を発色させるために加熱されるサーマルヘッドは,その表面
が300℃∼400℃程度まで上昇する場合がある」は自明の事項である
とは到底いえない。
したがって,原告の主張する「感熱発色層を発色させるために加熱され
るサーマルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する場
合がある」ことは,本願明細書または図面に記載されておらず,かつ自明
のことでもないから,補正発明においては,「感熱発色層を発色させるた
めに加熱されるサーマルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度ま
で上昇する場合」は含まれないというべきである。原告の主張は,本願の
特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づくものではなく,失当であ
る。
キ 引用発明(甲1)について
(ア) 甲1(特表平11−512037号公報)には ,「感熱発色層を発
色させるために加熱されるサーマルヘッドは,その表面が300℃∼4
00℃程度まで上昇する場合がある」との記載はない。
そこで,甲1の記載から,その点が自明であるのか否かについて検討
すると,甲1には,サーマルプリンタに関しては,例えば, 図4には,

直感熱プリンタ42に供給し得るように配置された面材料11のロール
10が図示されている。ユーザインターフェース46を有するマイクロ
プロセッサ44が感熱プリンタ42の作動を制御して,基層12の熱受
容層16に像を形成する。(審決6頁,摘記キ)と記載されるだけであ

って,サーマルヘッドの温度についての記載はない。
また,感熱紙に関しては ,「…この被覆した基層12は,マサチュー
セッツ州,ウェアのカンザキ・スペシャリティ・ペーパーズのような供
給源から入手可能である感熱紙であることが好ましい 。(甲1,7頁2

0行∼22行)と記載されているが,甲1記載の感熱紙が単色のもので
あるか多色のものであるか明らかでない。
そして,引用発明(甲1)のラベル連続体が多色のものとして用いる
のであれば,甲1においても 2色以上の多色感熱記録用ラベル連続体」

に関する旨,あるいは,2色以上の多色の感熱発色剤層に関する種々の
工夫を要することや,2色目以降を高印加エネルギーで連続的な印加を
行う必要がある旨が記載されてしかるべきところ,甲1には,そのよう
な点は何も記載されていない。
そうすると,甲1の記載からは,「2色以上の多色感熱記録用ラベル
連続体」が自明の事項であるといえず,引用発明は,「単色感熱記録用
ラベル連続体」に相当するものであるといえる。すなわち,引用発明の
ラベル連続体において,サーマルヘッドの表面温度を,単色の感熱発色
に必要な温度以上に上昇させる場合は想定されていないのであって,サ
ーマルヘッドの表面温度を300∼400℃に上昇させて用いることを
必要としないというべきである。
したがって,甲1の記載において ,「感熱発色層を発色させるために
加熱されるサーマルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度まで
上昇する場合がある」は自明の事項であるとはいえない。
(イ) 以上のとおり,「感熱発色層を発色させるために加熱されるサーマ
ルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する場合があ
る」ことは,甲1に記載されておらず,かつ自明のことでもないから,
引用発明においては ,「感熱発色層を発色させるために加熱されるサー
マルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する場合」
は含まれないというべきである。
(ウ) したがって,引用発明に対して「感熱発色層を発色させるために加
熱されるサーマルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上
昇する場合がある」とする原告の主張は,甲1の記載に基づくものでな
く失当である。
(エ) 原告は ,「感熱発色層を発色させるために加熱されるサーマルヘッ
ドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する場合があり」と
主張した上で,「このような温度に加熱されたサーマルヘッドに剥離剤
が接触すると,剥離剤に埋め込まれた有機材料からなる固体粒子は,そ
の表面が溶融し,サーマルヘッドに付着しやすくなるため,結果的に,
剥離被覆層24は,『感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を形成
する物質を防止する』ものとはいえないものとなる。」と主張するが,
上記「感熱発色層を発色させるために加熱されるサーマルヘッドは,そ
の表面が300℃∼400℃程度まで上昇する場合があり」との主張が
失当であることは既に述べたとおりである。
したがって,原告の主張は前提を欠くものである。
ク 原告は,審決の「テトラ・フルオルエチレンの融点が327℃である点
は…感熱発色層を発色させる際にサーマルヘッドを汚す恐れが生じるであ
ろうことは,当業者が当然に予測する程度のことである」(11頁5行∼
13行)とした点を指摘する。
しかし ,原告が指摘する審決の上記記載は,審判請求書(甲15 )の【請
求の理由】における「感熱発色層を発色させるために加熱されたサーマル
ヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する恐れがあり」
(甲15,7頁2行∼12行)との請求人(原告)の主張については,本
願明細書又は図面の記載に基づく主張ではなく,また証拠に基づく主張で
もなく,その真偽の程は定かではないものの,請求人の当該主張がひとま
ず正しいものと仮定し,審決の「 5)判断 [相違点1]について検討す

る。」及び「 5)判断 [相違点2]について検討する 。
( 」の欄に続いて
段落を区切り,「なお,請求人は ,【請求の理由】(平成17年12月7付
け審判請求書による)において,『引用文献1においては…汚す恐れがあ
ります 。』とする主張はひとまず理解できる。」とした上で ,「当業者が当
然に予想する程度のことである」と記載したものにすぎない。
すなわち,審決は ,「感熱発色層を発色させるために加熱されるサーマ
ルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度まで上昇する恐れがあり 」
とする請求人(原告)の主張を認めるものではない。
そして,補正発明及び引用発明について ,「感熱発色層を発色させるた
めに加熱されたサーマルヘッドは,その表面が300℃∼400℃程度ま
で上昇する場合があり」とする原告の主張が失当であることは既に述べた
とおりである。
したがって,原告の主張は理由がない。
(2) 取消事由2に対し
ア 原告は,甲2∼4に記載のものは,引用発明の感熱印刷可能な面材料や
補正発明のラベル連続体のように,長時間に亘ってヘッドに接触して使用
されるものではなく,極めて短時間ヘッドに接触して使用することによっ
てヘッドに付着したゴミ等を除去するためのものであり,感熱記録時にお
けるヘッドの清掃,ましてや,剥離層の補強を目的としたものではない旨
主張する。
しかし,補正発明は ,「長時間に亘ってヘッドに接触して使用される」
点を発明の特定事項としていない。原告の上記主張は ,「長時間に亘って
ヘッドに接触して使用される」点が補正発明の特定事項であることを前提
とする主張であって,失当である。
また,感熱記録時におけるヘッドの清掃については,甲1に,「テトラ
・フルオルエチレンは感熱プリントヘッドを洗浄する柔らかい研磨剤とし
て機能する 」(審決摘記オ) 「固体の剥離剤26の突き出す粒子は,感熱

プリンタ42のプリントヘッド48から少なくとも多少の塵埃を機械的に
除去して,定期的な洗浄の間に印刷可能な面材料11の長さを長くする」
(審決摘記キ)と記載されるように,引用発明のラベル連続体が有する機
能として記載されている事項である。
そもそも,甲2∼4は,甲7とともに,「…加熱体(サーマルヘッド)
のクリーニング性向上のために,該加熱体(サーマルヘッド)の走行中に
直接接する層をクリーニング機能を有する層となし,該層を形成するバイ
ンダー樹脂として放射線硬化樹脂を用いるとともに,該バインダー樹脂に
無機粉体であるシリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カルシウム,炭酸マグ
ネシウムを含有させて用いること」(審決10頁15行∼19行)が周知
技術であることを裏付けるために引用したものであり,原告主張は理由が
ない。
イ(ア) また原告は,甲17,18の記載に基づく事実から,引用発明のテ
トラ・フルオルエチレンの粉体に代えて,無機粉体を適用することにつ
いての明確な阻害要因になること(当業者であれば,引用発明の感熱印
刷可能な面材料のように長時間に亘ってヘッドに接触して使用されるも
のに,ヘッドを摩耗しやすい無機粉体を使用しようとはしないこと)は
明らかであると主張する。
(イ) しかし,甲17(平成13年・ソニー株式会社「感熱ヘッドクリー
ニングカートリッジ」,甲18(平成19年7月2日・東芝ホクト電子

株式会社「サーマルプリントヘッド取り扱い上の注意事項 」)は本願出
願前に頒布された刊行物であるとはいえず,しかも,その記載内容は原
告が主張する阻害要因を裏付けるものではない。
甲17において原告が引用する箇所の1頁最左欄下5行∼3行には,
「クリーニングすると付着したゴミと一緒に感熱ヘッドの表面を削り取
るため,頻繁にクリーニングを行うと感熱ヘッドの摩耗を促進させるこ
とになります。必要以上にクリーニングすることはお避けください 。」
と記載されるだけであって,補正発明のように ,「長時間に亘ってサー
マルヘッドに接触する層を構成するバインダー樹脂に,無機粉体を含有
させて用いる」ことについては一切記載がない。
また甲18において原告が引用する箇所の[4/13]頁「3.クリ
ーニング」欄の「 1)項」には,
( 「日本ミクロコーティング製#100
00の研磨テープにて,研磨して下さい。研磨の際には,#10000
よりも粗い研磨テープは使用しないで下さい。…」と記載されているだ
けであって,当該「日本ミクロコーティング製#10000の研磨テー
プ」が,補正発明のように,「長時間に亘ってサーマルヘッドに接触す
る層を構成するバインダー樹脂に,無機粉体を含有させて用いる」こと
については一切記載がない。
以上によれば,甲17,18は,本願出願前に頒布された刊行物でな
く,補正発明のように,「長時間に亘ってサーマルヘッドに接触する層
を構成するバインダー樹脂に,無機粉体を含有させて用いる」ことにつ
いては一切記載がないのであるから,甲17及び18の記載に基づいて
「明確な阻害要因になる」とする原告の上記主張は根拠を欠くものであ
る。
(ウ) 加えて,乙15(特開昭61−16890号公報,発明の名称「感
熱転写記録材料 」,出願人 富士ゼロックス株式会社,公開日 昭和61
年1月24日)には,以下の記載がある(下線は被告が付記)。
・ 「1.ベースフィルムと感熱インク層とからなる感熱転写材料において,
前記ベースフィルムがマトリックスポリマー中に補強充填剤を含有する
ものであることを特徴とする感熱転写記録材料。
2.補強充填剤が,金属あるいは金属酸化物,シリカ,カーボン及び有
機高分子粒子から選択される特許請求の範囲第1項に記載の感熱転写記
録材料。(特許請求の範囲)

・ 「本発明者らは鋭意検討の結果ベースフィルムおよび該フィルム上面に設
けられた熱溶融性や熱昇華性等を有する感熱インク層よりなる感熱転写
材においてベースフィルムを構成するマトリクスポリマーに金属,金属
酸化物,無機物,高分子粒子等の補強充填剤を含有せしめることにより
ベースフィルムを補強,難溶融化すると,加熱ヘッドから加えられる熱
パルスやフラッシュ光,レーザー光等による印加熱によってベースフィ
ルムの一部が溶融して加熱ヘッドに融着するステッキング現象が防止さ
れ,またフィルム走行不良化も防止されて高感度で,転写画像の品質を
損ねることのない感熱転写材を実現しうることを見出し,本発明を完成
するに至った。…
本発明において用いられる補強充填剤は金属あるいは金属酸化物その他
無機物,高分子粒子,特に架橋高分子粒子等であって,ベースフィルム
を構成する高分子物質と親和性を有するものが良く,…特にカーボンブ
ラック,シリカ,アルミナ,ZnO,Ti02粒子等が補強充填剤とし
ては好適である。(2頁右上欄1行∼左下欄10行)

・ 「本発明により,補強充填剤をマトリクスポリマー中に含有せしめること
によって非晶部が熱的,力学的に補強されるためベースフィルムが難融
化し,スティッキングの発生が防止,改善される 。 (2頁右下欄13行

∼17行)
上記記載によると,長時間に亘ってサーマルヘッドに接触する層を構
成するバインダー樹脂に,補強充填剤としてシリカ,酸化亜鉛,アルミ
ナなどの無機粉体または有機粉体を含有させることにより,当該層を難
融化し,スティッキングの発生を防止し,当該層の補強を図ることがで
きる。
すなわち,長時間に亘ってヘッドに接触して使用される感熱印刷可能
な面材料において,無機粉末または有機粉体を配合することが阻害要因
にならないことを示している。
したがって, 引用発明の感熱印刷可能な面材料 長時間に亘ってヘッ
「 (
ドに接触して使用されるもの)に用いられているテトラ・フルオルエチ
レンの粉体に代えて,無機粉体(シリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カ
ルシウム,炭酸マグネシウムのうち,少なくとも1種)を適用すること
についての明確な阻害要因になる」との原告の主張は失当である。
ウ(ア) 原告は,甲7(特開平3−65396号公報)は特殊な層構造を前
提とするものであって,バインダー樹脂に無機及び有機の各種の耐熱性
微粒子を含有させただけでは,サーマルヘッドの摩耗が大きくなるとと
もに,走行性が悪くなることが示唆されていると主張するが,そのよう
な示唆は甲7に記載されていない。
すなわち,甲7には,以下の従来技術に関する説明箇所において,走
行性改善のために,バインダー樹脂に耐熱性微粒子を添加することが記
載されている。
「しかしながら,この種の感熱転写記録方式では,熱転写記録用シートが
サーマルヘッドで高温に加熱されるため,熱転写記録用シートのベースフ
ィルムの耐熱性が不充分な場合には,ベースフィルムがサーマルヘッドに
融着し,この融着によりスティック音と呼ばれる音の発生やサーマルヘッ
ドへのカスの付着が生じ,融着が更に顕著となるとサーマルヘッドの走行
が不可能となり記録を行うことができなくなる。そのため従来,ベースフ
ィルムの耐熱性を改良するために各種の耐熱性樹脂の保護膜を設けること
が提案され(…また走行性を更に改善するために上記保護層中に耐熱性の
微粒子,…などを添加することも提案されている(…特開昭56−155
794号公報…)」
。(1頁右欄下6行∼2頁左上欄11行)
そして,甲7に例示された「特開昭56−155794号公報」(乙
16,発明の名称「感熱転写材 」,出願人 富士化学工業株式会社,公開
日 昭和56年12月2日)の記載をみると,以下の記載がある(下線
は被告が付記)。
・ 「ベースフィルムの上面に熱溶融性インキ層が設けられてなる感熱転写材
において,前記ベースフィルムの下面に滑性の高い無機顔料と熱硬化性ま
たは高軟化点の樹脂材料とからなるスティック防止層を設けたことを特徴
とする感熱転写材」(特許請求の範囲)
・ 「このような状態においては感熱転写材の送りが妨げられ,スティックと
呼ばれる現象が生ずるようになる。(2頁右上欄3行∼5行)

・ 「前記無機顔料としては,たとえばタルク,雲母粉,微細シリカ粉末,二
硫化モリブデンなどの粒径が0.01∼5μ程度のものがあげられる。 2


頁右下欄6行∼8行)
・ 「…たとえスティック防止層(8)の有する樹脂の軟化点以上に加熱ヘッ
ド(5)の発熱温度が上昇したばあいでも,該スティック防止層(8)に
含有される高い滑性を有する無機顔料によって軟化した樹脂が直接加熱
ヘッド(5)に融着する惧れがなくなり,加熱ヘッド(5)の滑りに支障
をきたすことがない。(3頁左上欄15行∼右上欄1行)

上記によれば ,「滑性の高い無機顔料と熱硬化性または高軟化点の樹
脂材料とからなるスティック防止層」「加熱ヘッド(5)の滑りに支障

をきたすことがない」のように,耐熱性のバインダー樹脂に無機の耐熱
性微粒子を含有させただけで,無機の耐熱性微粒子を含有させない場合
に比べ,サーマルヘッドの摩耗が小さくなるとともに,走行性が良好に
なることが示唆されている。そして,この示唆は甲7記載の「特殊な層
構造」を前提としたものではない。
したがって,「甲7に記載の発明から,バインダー樹脂に無機及び有
機の各種の耐熱性微粒子を含有させただけでは,サーマルヘッドの摩耗
が大きくなるとともに,走行性が悪くなることが示唆されていると認め
られる。」とする原告の主張は,根拠を欠き失当である。
(イ) 原告は,甲7記載の発明は,発明の対象が,引用発明の感熱印刷可
能な面材料や補正発明のラベル連続体とは基本的な層構成の異なる熱転
写記録用シートであることと相俟って,上記阻害要因を覆す証拠にはな
り得ないものであると主張する。
しかし,甲7の記載の発明において走行性が悪化するとの阻害要因が
示唆されていないことは既に述べたとおりである。
さらに,甲7には,以下の記載がある。
・ 「本発明の熱転写記録シートは図1に示す様にベースフィルム(1)の
一方の面に熱転写インキ層(2)を塗布し,もう一方の面にバインダー樹
脂(3a),球状粒子(3b),微粒子(3c)よりなり,球状粒子が表面
に突出した耐熱滑性層(3)により構成されている。なお,本明細書にお
いては,耐熱滑性層表面に現れた微粒子を結んだ面を耐熱滑性層基準面
(4)と呼ぶ。
本発明に用いられる球状の粒子としては,無機及び有機の各種の耐熱性
の粒子を用いることができるが,特にシリコーン樹脂の球状粒子あるいは
球状シリカが秀れている。…
球状粒子と共に用いられる微粒子については,特にその形状は問わない
が,無機および有機の各種の耐熱性微粒子を用いることができる。特に,
微粒シリカ,微粒酸化チタン等は,サーマルヘッドのクリーニング効果が
良好で適している。…
これらの粒子の使用量は,球状粒子は,バインダー樹脂100重量部に
対して,1∼50重量部,特に5∼20重量部が好ましい。又,微粒子の
使用量はバインダー樹脂100重量部に対して5∼100重量部,特に1
0∼50重量部が好ましい。
耐熱滑性層を形成するためのバインダー樹脂としては,各種の耐熱性の
熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,放射線硬化樹脂などが挙げられるが,放射
線硬化樹脂は,特に耐熱性が良好で,耐熱滑性層の形成が容易であるため
適している。…」(2頁左下欄下2行∼3頁左上欄13行)
・ 「…上記塗布液の塗膜は適宜の手段で乾燥して溶媒を除いてがら,加熱
或いは放射線照射等の常法にしたがって硬化させる。…特に好ましい硬化
は紫外線又は電子線による硬化である。 4頁左上欄18行∼右上欄7行)


上記記載によると,甲7には ,熱転写記録用シートについて,審決 1

0頁8行∼14行)が認定したとおり ,「サーマルヘッドの走行中に直
接接する層を耐熱滑性層とし,該層を形成するバインダー樹脂として放
射線硬化樹脂(例えば紫外線硬化樹脂)を用いるとともに,該バインダ
ー樹脂に無機および有機の各種の耐熱性微粒子を含有させ,該耐熱性微
粒子として,特に微粒子シリカ,微粒子酸化チタンはサーマルヘッドの
クリーニング効果が良好で適していることが記載されている(2頁左下
欄19行−3頁左上欄17行および第1図 )」から,甲7記載の熱転写
記録用シートは,長時間に亘ってサーマルヘッドに接触する層を有し,
当該層は紫外線硬化型樹脂マトリックス中にシリカ無機粉体を分散させ
た層であって,サーマルヘッド加熱体に付着した物質を除去する点で,
補正発明および引用発明と共通する層構造を有するものである。
そうすると,甲7の記載により認定された周知技術を引用発明に適用
することに阻害要因は存在しない。
したがって,「甲7に記載の発明は,発明の対象が,引用発明の感熱
印刷可能な面材料や補正発明のラベル連続体とは基本的な層構成の異な
る熱転写記録用シートであることと相俟って,上記阻害要因を覆す証拠
にはなり得ないものである。」とする原告の上記主張は,前提を欠くも
のであり,失当である。
エ 原告は,甲2∼4,甲7からは,引用発明の感熱印刷可能な面材料や補
正発明のラベル連続体のように,長時間に亘ってヘッドに接触する層を構
成するバインダー樹脂,ましてや,剥離剤マトリックスに研磨作用を有す
る無機粉体を含有させて用いることまでが周知技術であるとは到底いえな
いと主張する。
しかし,上記のとおり,甲2∼4 ,甲7の記載に基づいて, 加熱体(サ

ーマルヘッド)のクリーニング性向上のために,該加熱体(サーマルヘッ
ド)の走行中に直接接する層をクリーニング機能を有する層となし,該層
を形成するバインダー樹脂として放射線硬化樹脂を用いるとともに,該バ
インダー樹脂に無機粉体であるシリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カルシ
ウム,炭酸マグネシウムを含有させて用いることは周知の技術であるとい
える。 審決10頁15行∼20行)

( とした審決の認定に誤りはないから,
原告の主張は失当である。
オ なお,審決が認定した周知技術については,以下の①・②のとおり,乙
3(特開2001−66993号公報),乙5(特開2001−1069
86号公報 ),乙17(特開平5−8541号公報,発明の名称「剥離型
感熱記録体およびその製造方法」,出願人 三菱製紙株式会社,公開日 平
成5年1月19日)にも同様の層構造が記載されている。
① 「長時間に亘ってヘッドに接触する層を構成するバインダー樹脂が
剥離剤マトリックスであって,当該剥離剤マトリックスに研磨作用
を有する無機粉体であるシリカ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウ
ム,水酸化アルミニウムを含有させた感熱記録用ラベル連続体」に
相当するものが,乙3( 請求項1】∼【請求項4 】 「無機系のチ
【 ,
クソトロピー付与剤も特に限定されるものではないが,具体的には
例えば,…シリカ粉末,炭酸マグネシウム…などの無機物であって
…本発明においては,これらのチクソトロピー付与剤の単独もしく
は2種以上の混合物を使用できる 。」段落【0016 】 ,乙5(段

落【0005】,及び「通常,上記の如き問題点を解決する方法に無
機あるいは有機顔料,例えば炭酸カルシウム ,水酸化アルミニウム,
…炭酸マグネシウム,…方法が知られている…」段落【0007】)
に記載されている。
② ラベル連続体であるか否かは明確でないが,「ヘッドに接触する層
を構成するバインダー樹脂が剥離剤マトリックスであって,当該剥離
剤マトリックスに研磨作用を有する無機粉体である炭酸カルシウム,
炭酸マグネシウム,水酸化アルミニウムを含有させた感熱記録用ラベ
ル」に相当するものが,乙17( 請求項1】∼【請求項7 】 「ステ
【 ,
ィッキング防止用,…目的で,これらの剥離層を形成する樹脂に有機
あるいは無機顔料を含有させることが可能である。たとえば…炭酸カ
ルシウム,水酸化アルミニウム,…炭酸マグネシウム,このような顔
料の剥離樹脂に対する割合は,剥離樹脂100部に対して,顔料5部
∼300部程度である。顔料の割合がこの値より少ないと,期待され
る効果を示さないし,この値より多いと粘度が増加しすぎて,塗工が
困難になり,また塗布量が増加して熱記録性を低下させる 。 段落【0

025】)に記載されている。
したがって,相違点2について ,「刊行物に記載されたテトラ・フルオ
ルエチレンの粉体にかえ,加熱体に付着した物質を除去するために使用さ
れる無機粉体として周知のシリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カルシウム ,
炭酸マグネシウムのうち,少なくとも1種を含むものとすることは,当業
者が容易に想到しうる程度のことである。(審決10頁21行∼25行)

とした審決の判断に誤りはない。
カ また原告は,補正発明は,研磨作用を有する無機粉体の使用を可能にし
たものであり,剥離層が補強されて削れにくくなるのでサーマルヘッドに
付着するのを防止できるとともに,付着したとしても機械的に除去するこ
とができるという予測できない効果を奏すると主張する。
しかし,研磨作用を有する粉体によるヘッドのクリーニング効果につい
ては,甲1に,感熱記録時の洗浄作用として「テトラ・フルオルエチレン
は感熱プリントヘッドを洗浄する柔らかい研磨剤として機能する 」(審決
摘記オ)「固体の剥離剤26の突き出す粒子は,感熱プリンタ42のプリ

ントヘッド48から少なくとも多少の塵埃を機械的に除去して,定期的な
洗浄の間に印刷可能な面材料11の長さを長くする」(審決摘記キ)と記
載されている。さらに,甲2∼4及び甲7に無機粉体含有によるクリーニ
ング作用が記載され,乙15(段落【0007】,乙17(段落【002

5】)に無機粉体あるいは有機粉体の含有によるクリーニング作用が記載
されているように,研磨作用を有する粉体の使用によるヘッドのクリーニ
ング効果は,ヘッドの使用状況や粉体の種類に拘わらず,周知の事項であ
る。
また,剥離層の補強効果については,上記乙15(特公昭61−168
90号公報)の記載のように,バインダー樹脂に,無機粉体または有機粉
体を含有させることにより,層の補強を図ることが周知事項であるところ ,
補正発明の無機粉体が,その融点からみて,引用発明の有機粉体に比べ,
高温に加熱されたサーマルヘッドに対しても溶融することなく,剥離層を
保持させるであろうことは,当業者が当然に予期することである。
してみれば,補正発明において ,「剥離層が補強されて削れにくくなる
とともに,感熱記録時に剥離層が溶融することがなく,サーマルヘッドへ
の付着を防止することができる 」 「剥離層を形成する物質等がサーマル

ヘッドに付着したとしても,無機粉体の研磨作用により機械的に除去する
ことができる」という作用を奏するであろうことは,刊行物(甲1)の記
載及び周知技術から当業者が予測できることである。
したがって,審決が「…補正発明の作用効果も,刊行物記載の発明及び
周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。(10頁26行∼2

7行)とした判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ),(2)(発明の内容 ),(3)(審決
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下原告主張の取消事由について判断する。
2 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 原告は,審決が,補正発明と引用発明との相違点1について,「…引用発
明においても,剥離被覆層24は,『感熱発色層を発色させる加熱体への剥
離層を形成する物質の付着を防止する』ものであり,この点は実質的な相違
点にならないと言わざるを得ない。(9頁23行∼25行)と判断したこと

は誤りであり,引用発明の剥離層が含有するテトラ・フルオルエチレン(テ
フロン)の融点が327℃であるところ,サーマルヘッドの表面は300℃
∼400℃程度まで上昇する場合があるから,その場合固体粒子の表面が溶
融し,剥離被覆層24が「感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を形成
する物質の付着を防止する」ものとはいえないから,この相違点1は実質的
な相違点であって,審決の判断は誤りであると主張する。
ア 引用発明の記載された刊行物(甲1)には,以下の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
「1.感熱プリントヘッドを洗浄し得るようにされた,自動的に巻か
れた直感熱印刷可能な面材料ロールにおいて,
前面と,裏面とを有する,連続的な長さの基層と,
該基層の該前面における熱受容可能な像形成層と,
該基層の前記裏面における接着剤層と,
前記熱受容可能な像形成層における剥離被覆層とを備え,
前記基層が複数の巻き付け体となるように巻かれて,その一方
の巻き付け体の前記接着剤層が隣接する巻き付け体の前記剥離被
覆層と接触するようにし,
前記剥離被覆層が,共に前記接着剤層に対する接着性の小さい
第一及び第二の剥離剤を含み,
前記第一の剥離剤が,固体粒子の粒状組成物を有し,
前記第二の剥離剤が,前記第一の剥離剤を感熱プリントヘッド
を機械的に洗浄する位置に埋め込むためのマトリックスを形成す
る,ロール。
2.…」
(イ) 発明の詳細な説明(判決注:便宜のため摘記の前に①∼⑪の符号を
判決で付した)
① 「技術分野
本発明は,印刷可能な面材料に関し,特に,接着剤及び剥離被覆
により覆われた両面を有する,自動的に巻かれた面材料,及びその
面材料に直に感熱印刷することに関する。(5頁3行∼6行)

② 「…しかし,感熱プリントヘッドは,剥離被覆した面に印刷すると
き,より急速に汚れることが分かった。これは,多分,剥離被覆し
た面が塵埃をプリントヘッドを通じて運び去るのに十分,多孔質で
あり,又は摩耗性でないためであろう。(5頁末行∼6頁3行)

③ 「発明の概要
当該発明は,過度の摩耗を防止し且つ,接着剤に対する接着性を
小さく保ちつつ,感熱プリントヘッドを機械的に洗浄するつや消し
表面を提供し得るように,自動的に巻かれた直感熱印刷可能な面材
料を改変するものである。また,このつや消し表面は,印刷可能で
あり,つやが少なく,レーザ走査による読み取りを向上させる。」
(6頁4行∼9行)
④ 「当該発明の一例は,微細に粉砕した(ポリ)テトラ・フルオルエ
チレン(テフロン)の粒子をシリコーン剥離剤に添加する。この混
合体の薄い層を直接,感熱印刷可能な基層上に被覆する。テトラ・
フルオルエチレンの粒子の相対的な寸法は,シリコーン被覆を貫通
して突き出すのに十分に大きく且つ感熱プリントヘッドと直感熱印
刷可能な基層との間にて十分な熱伝導を保つのに十分に小さい。
接着剤層は,直感熱印刷可能な基層の裏面に付与される。この面
材料を巻いてロールにし,その1巻のロールの剥離被覆層が隣接す
る1巻のロールの接着剤層に接触するようにする。テトラ・フルオ
ルエチレンの粒子を含むシリコーン混合体は,接着剤に対する接着
性が小さく,このため,面材料ロールを巻き懈き且つ直感熱プリン
タを通じて供給することができる。(6頁10行∼19行)

⑤ 「このように,シリコーン及び固体のテトラ・フルオルエチレンの
双方が接着剤の剥離剤として機能する。しかしながら,また,シリ
コーンは,固体のテトラ・フルオルエチレンの結合剤としても機能
し,また,テトラ・フルオルエチレンは感熱プリントヘッドを洗浄
する柔らかい研磨剤として機能する。テトラ・フルオルエチレンの
粒子は,固体から1μm乃至 30 μmの寸法に減磨することが好ま
しくし,また,硬化可能な液体シリコーン内に重量比で 10 %乃至 30
%の濃度にて分散させることが好ましい。硬化した後,シリコーン
は,テトラ・フルオルエチレン粒子がその内部にて機械的に結合さ
れたマトリックスを形成する。(6頁20行∼27行)

⑥ 「また,シリコーン内に埋め込まれたテトラ・フルオルエチレンの
粒子は,多くの付随的な利点もある。例えば,これらの粒子は,そ
の他の形態のつや消しと同様に表面仕上げの光沢をなくし,その下
側の印刷した材料をレーザ・スキャナーでより読み取り易くする。
又,この表面は,印刷可能であり,又,直感熱印刷可能な層を放射
熱,及び紫外線の双方による劣化から保護すると考えられる。(6

頁28行∼7頁3行)
⑦ 「面材料11は,紙又はフィルムから成る連続的な長さのウェブの
形態の基層12を備えている。基層12の前面14には,ロイコ建
染め染料及び酸の溶液のような,熱受容性のある像形成材料16が
被覆されている。この被覆した基層12は,マサチューセッツ州,
ウェアのカンザキ・スペシャリティ・ペーパーズのような供給源か
ら入手可能である感熱紙であることが好ましい。この基層の裏面1
8には,感圧型であることが好ましい,共接着性,位置変更性,剥
離可能性及び低温に対する抵抗性といった他の品質を持つ接着剤層
20が被覆されている。この接着剤層20の組成物,又はパターン
は,個々の用途の必要条件に合うように調節する。(7頁18行∼

26行)
⑧ 「図2に極く拡大して示した剥離被覆層24は,2種類の剥離剤2
6,28を含む特殊な混合体である。この剥離剤26は,特別な寸
法の粒子の粒状組成を有する ,(ポリ)テトラ・フルオルエチレン
(テフロン)のような固体である。剥離剤28は,シリコーンのよ
うな硬化可能な液体であるが,固体の剥離剤26に対する結合剤と
しても機能する。プライマー22及び剥離剤28の双方は,熱蒸発
及び電子ビームを含むその他の硬化方法も採用可能であるが,紫外
線で硬化させることが好ましい。
剥離剤26の固体粒子は,1μm乃至 30 μmの範囲の寸法であ
ることが好ましく,また,剥離剤の総混合体の重量比で 10 %乃至 30
%を占めることが好ましい。… 」(8頁6行∼14行)
⑨ 「該硬化可能な液体剥離剤28は,固体の剥離剤26の平均粒子寸
法よりも薄いことが好ましい厚さを有し,このため,剥離剤26の
埋め込まれた粒子が硬化可能な液体剥離剤28から突き出るように
する。しかしながら,この硬化可能な液体剥離剤28は,剥離剤2
6の固体粒子と強力な物理的結合を為し得るように剥離剤26の平
均粒子寸法の少なくとも1/2の最小厚さを有することが好まし
い。…」(8頁17行∼21行)
⑩ 「…実際には,剥離剤26,28の双方共に接着剤層20に対する
接着性が小さいが,硬化可能な液体剥離剤28は,プライマー層2
2及び固体の剥離剤26に緊密に結合する。 9頁11行∼13行)


⑪ 「…固体の剥離剤26の突き出す粒子は,感熱プリンタ42のプリ
ントヘッド48から少なくとも多少の塵埃を機械的に除去して,定
期的な洗浄の間に印刷可能な面材料11の長さを長くする。 」 9
…(
頁17行∼19行)
(ウ) 図面(かっこ内は【発明の詳細な説明】における図面の説明及びそ
の説明の記載箇所である)
・ 【図1】 当該新規な面材料のロールの極く拡大した断面図である。

〔7頁5行〕)
・ 【図2】(固体の剥離剤の分散状態を示す,面材料の上における剥
離被覆層の更なる拡大図である 。〔7頁6行∼7行〕

(エ) 上記(ア)∼(ウ)によれば,引用発明は,印刷可能な面材料に直に感
熱印刷する面材料ロールに関する発明であり(特許請求の範囲,(イ)摘
記①),剥離被覆した面に印刷する際,感熱プリントヘッドが急速に汚
れるとの知見のもと((イ)摘記② ),テトラ・フルオルエチレンを剥離
剤として用いるとともに感熱プリントヘッドを洗浄する研磨剤としても
用いることに関するものである((イ)摘記⑤)。
具体的には,直感熱印刷可能な面材料において,接着剤が被覆された
裏面(接着剤層20)に接着する剥離被覆層(24)をシリコーン剥離
剤とし ,そこに微細に粉砕されたテトラ・フルオルエチレン テフロン )

の粒子を添加する((イ)摘記④)。シリコーン等の液体(剥離剤28)
及び固体のテトラ・フルオルエチレン(剥離剤26)の双方が接着剤の
剥離剤として機能するほか,テトラ・フルオルエチレンは感熱プリント
ヘッドを洗浄する柔らかい研磨剤として機能する((イ)摘記⑤) また,

テトラ・フルオルエチレンの粒子に関する付随的な利点としては,つや
消しと同様に表面仕上げの光沢をなくし,下側の印刷した材料をレーザ
ー・スキャナーでより読み取り易くするものである((イ)摘記⑥ )。剥
離剤26の固体粒子は,1μm∼30μmの範囲の寸法であることが望
ましいとされ((イ)摘記⑧ ),硬化した液体剥離剤28中に分散し,強
力な物理的結合をなし得るもの((イ)摘記⑨,【図2】及びその説明)
であり,固体の剥離剤26の突き出す粒子は,感熱プリンタ42のプリ
ントヘッドから多少の塵埃を機械的に除去するものであること((イ)摘
記⑪),が認められる。
(オ) そして,上記(エ)のとおり引用発明が剥離剤として用いるテトラ・
フルオルエチレンに関しては,文献に以下の記載がある。
・ 甲20(大木道則ほか編集「化学辞典」株式会社東京化学同人20
00年〔平成12年〕10月2日第6刷発行・1372頁)
「ポリテトラフルオロエチレン …テトラフルオロエチレン…の重
合体.…融点327℃.耐熱性,耐薬品性に優れ,ほとんどすべて
の有機溶剤,酸,アルカリに侵されず,超低温でももろくならない.
…テフロン(Teflon)は du Pont 社の商品名.」
(カ) また,サーマルヘッドに関する文献等である甲21∼26,乙1∼
4,9には以下の記載がある。
・ 甲21(紙業タイムス社出版部編「ペーパーセールスエンジニアリ
ング・シリーズ④情報産業用紙」株式会社紙業タイムス社 昭和56
年4月10日発行・186頁)
「図3−13−10に,ある一定条件下における黒発色感熱紙の動
的発色カーブを示す。ほぼ感度の順序として静的発色と同じ傾向にあ
る。」として ,「加熱パルス幅とヘッド温度の影響 1 ) )
,5
」とする図3
−13−10に,ヘッド表面温度が300℃,350℃の場合の発色
濃度を表すグラフが示されている。
・ 甲22(特開平5−38827号公報,発明の名称「サーマルヘッ
ド」,出願人 アオイ電子株式会社,公開日 平成5年2月19日)
「 産業上の利用分野】本発明は,サーマルヘッドの発熱体に関する。(段
【 」
落【0001】)
「 実施例】サーマルヘッドの発熱体の温度は,印加するエネルギーに比

例して高くなる。…」(段落【0007】)
「…このサーマルヘッドが自己発熱により400℃になった場合の抵抗
値は…」(段落【0009】

・ 甲23(特開平5−42697号公報,発明の名称「サーマルヘッ
ド及びその製造方法 」,出願人 京セラ株式会社,公開日 平成5年2
月23日)
「 産業上の利用分野】本発明は,ワードプロセッサ,ファクシミリ等の

プリンタ機構に組み込まれるサーマルヘッドの改良に関するものであ
る。(段落【0001】
」 )
「前記発熱抵抗体4は…印字画像を形成するに必要な温度,例えば25
0∼400℃の温度に発熱する。(段落【0019】
」 )
「…発熱抵抗体を350℃に発熱させながら感熱紙を13mm/sec
で走行させ…」(段落【0026】)
・ 甲24 特開平6−122220号公報 ,
( 発明の名称 サーマルヘッ

ド」,出願人 株式会社東芝,公開日 平成6年5月6日)
「 産業上の利用分野】本発明は,製版機やファクシミリなどの発熱記録

装置に用いられるサーマルヘッドに関する。(段落【0001】
」 )
「このような解像度の上昇は,駆動時に発熱抵抗体の発熱温度の高温化
をもたらす。例えば,通常のファクシミリのサーマルヘッドが200∼
350℃であるのに対し,製版機用等の高解像度のサーマルヘッドは4
00∼500℃にもなる。(段落【0015】
」 )
・ 甲25(特開平6−143812号公報,発明の名称「熱変色性組
成物及びそれを用いた記録方法,記録媒体」 出願人 株式会社リコー ,

公開日 平成6年5月24日)
「本発明では,支持体上に変色色相及び変色温度の両者とも異なる2種
以上の熱変色性組成物を,ストライプ状…等の規則的なパターンで配置
することによって該記録媒体又は表示媒体を多色化することができる。

(段落【0037】)
「…本実施例によるサーマルヘッド温度は約400℃であり…」 段落【0

041】【0042】【0043】
・ ・ )
・ 甲26 特開平11−99682号公報 ,
( 発明の名称 サーマルヘッ

ド」,出願人 京セラ株式会社,公開日 平成11年4月13日)
「 発明の属する技術分野】本発明はワードプロセッサやファクシミリ等

のプリンタ機構として組み込まれるサーマルヘッドの改良に関するもの
である。(段落【0001】
」 )
「前記発熱抵抗体3は窒化タンタル等から成っており…記録媒体Mに印
画を形成するのに必要な所定の温度(例えば200℃∼350℃)に発
熱する。(段落【0012】
」 )
・ 乙1(特開2001−81425号公報,発明の名称「ライナーレ
ス2色感熱記録用粘着ラベル 」,出願人 王子製紙株式会社,公開日
平成13年3月27日)
「 課題を解決するための手段】本発明者らは,サーマルヘッドに剥離剤

の粕が付着する要因を解析し,粕付着を抑制するための感熱記録紙の
発色感度に関する要件,および剥離剤層の皮膜特性に関する要件を検
討した結果,ライナーレス2色感熱記録用粘着ラベルの発色感度特性
に,また,さらに剥離剤層の皮膜特性にある適正条件があることを見
出し,本発明を完成するに至った。(段落【0008】
」 )
「即ち,サーマルヘッドに剥離剤の粕が付着する原因は,感熱記録紙を
感熱記録プリンターで印字する時,該感熱記録紙表面はサーマルヘッ
ド表面と強く摩擦され,その摩擦力により最外層の剥離剤層が擦過さ
れ破壊された該剥離剤がサーマルヘッドに蓄積されると考えられる。
さらにサーマルヘッドの温度が該剥離剤の軟化点以上に達したときに
該剥離剤がサーマルヘッドへ付着し印字障害を発生させると考えられ
る。(段落【0009】
」 )
「本発明者らは,印字障害とサーマルヘッドの粕付着(以下,ヘッド粕)
の状態との関係を調査した結果,…即ち,サーマルヘッドの温度を剥
離剤層の軟化点以下に制御することで解決できるのである。(段落【0

010】)
「サーマルヘッドの温度は印加するエネルギー量に応じ上昇するが,そ
の温度は測定が困難である。一般に単色の感熱記録用紙の印字や,2
色感熱記録用紙の 1 色目を感熱プリンターで印字する際,該感熱プリ
ンターのサーマルヘッドの温度は,瞬間的に200℃程度になると言
われている。また,2色目の印字は,1色目にかけるエネルギーの1.
5∼2倍程度であり,瞬間的にサーマルヘッドが非常に高温になると
予想される。しかしながら,サーマルヘッドの温度は瞬間的には上記
の如く数100℃となるとしても,定常的にはせいぜい60℃程度以
下と考えられる。これは,一般の感熱記録用紙の耐熱性は60∼70
℃であり,プリンターで印字記録する際,全面が発色しないことから
も推測できる。(段落【0011】
」 )
「また一般にライナーレス感熱記録粘着ラベルの剥離剤として用いられ
るシリコーン系剥離剤の軟化点は400℃前後と考えられるが,感熱
プリンターのサーマルヘッドの瞬間的な温度が400℃程度まで上昇
するか否か測定不可能であり,また瞬間的な熱に対してシリコーン系
剥離剤が軟化,溶融することはない。そこで本発明者らは,感熱プリ
ンターの印加エネルギーを変量し,ヘッド粕の接着性の関係を調査し,
以下の適正範囲を見出したのである。(段落【0012】
」 )
・ 乙2(特開2000−272239号公報,発明の名称「多色感熱
記録用粘着ラベル」,出願人 王子製紙株式会社,公開日 平成12年
10月3日)
「…また該剥離剤層は剥離剤としての機能を持たせるだけでなく,感熱
プリンターに対する走行性,スティッキング等の一般の感熱記録用紙
と同様の機能を両立させなければならない。特に剥離剤の硬化不良は,
感熱プリンターのサーマルヘッドに直接接触し印字を行うため剥離剤
が剥がれ,粕としてサーマルヘッドに蓄積し,印字不良を起こす恐れ
がある。(段落【0006】
」 )
「更に,本発明者等は,高温発色の際に生じる剥離剤層の成分がサーマ
ルヘッドに粕付着する問題について研究を重ねた。一般に単色の感熱
記録用紙の印字や,2色感熱記録用紙の1色目の印字を感熱プリンタ
ーで印字する際,該感熱プリンターのサーマルヘッドの温度は,およ
そ200℃∼300℃と言われている。しかし,多色感熱記録用紙の
2色目以降の印字において,感熱プリンターのサーマルヘッドに掛け
るエネルギーは,1色目に掛けるエネルギーの1.5∼3倍程度であ
り,サーマルヘッドが非常に高温となる。(段落【0012】
」 )
・ 乙3(特開2001−66993号公報,発明の名称「ライナーレ
ス感熱記録ラベルシートおよびその製造方法」,出願人 トッパン・フ
ォームズ株式会社,公開日 平成13年3月16日)
「…上記感熱紙3は,例えば60∼80℃で発色するように設定されて
いるものであり,この感熱記録ラベルシート1を装填する形態端末(後
述)のプリンタヘッドの温度により感熱紙3が伸縮したり変形したり
しないようにする」(段落【0035】)
・ 乙4(特開2001−18458号公報,発明の名称「ラベル発行
機」,出願人 株式会社イシダ,公開日 平成13年1月23日)
「しかし,前記ラベルのように,白抜き文字4aで表示すると,強調領
域4の広い面積の背景部4bの大部分の印字ドットを発色させるので,
ラベルを連続して発行するとサーマルヘッドの温度が上昇して定格温
度を超えるため,予めラベルの発行速度を遅くしておく必要があった。」
(段落【0004】)
・ 乙9(特公平4−15110号公報,発明の名称「感熱発色粘着ラ
ベルとその製造法」,出願人 山陽国策パルプ株式会社,公開日 平成
4年3月16日)
「実施例 1
下記成分を夫々ボールミルを用いて 24 時間混合粉砕して分散液A及
び分散液Bを調製した。…
得られた感熱粘着ラベルについて発色性を試験した処,150 ℃,2 Kg
/ cm ,1秒間の印字条件で発色濃度D= 1.3 と充分に高く…ラベルと
しての粘着性及び粘着層と剥離層との間の剥離性も良好であった。 5


頁10欄19行∼6頁11欄15行)
(キ) 上記(オ),(カ)によれば,テトラ・フルオルエチレンは融点が32
7℃であるところ,プリンタの感熱ヘッドの温度は,60℃∼80℃ 乙

3),150℃(乙9)等のほか,200℃(甲24,27)ないし2
50℃(甲23)から400℃,高解像度の製版機用等の場合には50
0℃になる場合(甲24)があること,瞬間的な熱に対してシリコーン
系剥離剤が軟化,溶融することはないこと(乙1・段落【0012】,

サーマルヘッドの温度の上昇に基づく問題を回避するためにラベルの発
行速度を遅くすることが知られていたこと(乙4・段落【0004 】)
が認められる。
(ク) 上記(エ)∼(キ)で認定した事実によれば,引用発明は,剥離被覆し
た面に印刷する際に感熱プリントヘッドが急速に汚れるとの知見のもと
に,テトラ・フルオルエチレンを剥離剤としてのほか感熱プリントヘッ
ドを洗浄する研磨剤としても用いるものであるところ,引用発明の記載
された甲1には感熱プリントヘッドの温度に関する記載はないものの,
微細に粉砕されたテトラ・フルオルエチレンを用いた剥離剤26は硬化
した液体剥離剤28中に分散してこれと強力な物理的結合をなし,その
突き出す固体粒子が感熱プリンタのプリンタヘッドの塵埃を機械的に除
去する機能を果たすことが記載されているものであるから,これに接し
た当業者 その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者 )

としては,感熱プリンタのプリントヘッドをテトラ・フルオルエチレン
の融点 327℃)
( 以下ないしこれが溶融等することによりプリントヘッ
ドに物質が付着することのない程度の温度等の諸条件で用いることを前
提とするものと理解するというべきである。
そうすると,引用発明においても,剥離被覆層中に分散しこれと強固
に結合して固化した剥離剤(テトラ・フルオルエチレン)が機械的に塵
埃を除去する働きをすることにより,剥離被覆層は感熱発色層を発色さ
せる加熱体であるプリントヘッドに剥離層を形成する物質が付着するこ
とを防止するものということができる。
イ 一方,本件補正後の明細書(甲12 ,14〔明細書の段落【0001 】,
【0004 】 【0005 】 【図4】の説明 〕
, , ,16〔特許請求の範囲,段
落【0006】)には,以下の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲(請求項1,甲16)
「基材と,
前記基材の一方の面に形成された感熱発色層と,
前記基材のもう一方の面に形成された接着剤層と,
前記感熱発色層上に形成された剥離層とを含み,
前記剥離層は,前記感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を
形成する物質の付着を防止するとともに,前記加熱体に付着した物
質を除去するように,剥離材マトリックス中に無機粉体が分散され
てなり,
前記無機粉体として,シリカ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウ
ム,水酸化アルミニウム,アルミナ,リン酸三カルシウム,ヒドロ
キシアパタイト,酸化亜鉛のうち,少なくとも1種を,前記剥離材
マトリックス100重量部あたり28∼50重量部含むことを特徴
とする,ラベル連続体。」
(イ) 発明の詳細な説明
・ 「 発明の属する技術分野】この発明は,感熱発色層を有するラベ

ルが連続して形成されたラベル連続体に関し,特に,たとえば感熱
発色層を感熱発色させて印刷をするプリンタのヘッドにラベル連続
体の表面層を形成するものが付着することを防ぐことができる,ラ
ベル連続体に関する。(甲14,段落【0001】
」 )
・ 「それゆえに,この発明の主たる目的は,剥離紙がなくても裏面の
接着剤層との剥離性を有し,且つ,プリンタにて印字を行ってもヘッ
ドに付着する現象が発生しない,ラベル連続体を提供することであ
る。(甲14,段落【0004】
」 )
・ 「 作用】

この発明によれば,サーマルプリンタにてプリントするときに高
熱がラベル連続体にかかっても,剥離材マトリックスに分散された
無機粉体の作用により,剥離層が補強され,削れにくくなり,剥離
層が溶融することなく,プリンタのサーマルヘッドに付着すること
を防ぐことができる。
特に,無機粉体を,少なくともその一部が剥離材マトリックスの
表面より露出するように形成すれば,たとえばプリンタにて印字を
行っても,プリンタのサーマルヘッドに付着した物質を無機粉体で
機械的に除去するので,プリンタのサーマルヘッドに剥離層を構成
する物質の付着が防がれる。(甲14,段落【0005】
」 )
・ 「ラベル基材16の表面上に形成された感熱発色層22は,たとえ
ばロイコ染料,酸性物質および結着剤の混合物を含む感熱発色剤を
塗布・乾燥することによって形成される。この場合,ロイコ染料と
しては,たとえば…などがあげられる。 甲12, 【0011 】

( 段落 )
・ 「また,酸性物質としては,たとえば,2,2−ビス(4′−オキ
シフェニル)プロパン,4−フェニルフェノール,4−ヒドロキシ
アセトフェノン,2,2′−ジヒドロキシジフェニル,2,2′−
メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール ),4,4
′イソプロピリデンジフェノール,4,4′−イソプロピリデンビ
ス(2−クロルフェノール ) 4,4′−イソプロピリデンビス(2

−メチルフェノール),4,4′−エチレンビス(2−メチルフェ
ノール ),4,4′−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェ
ノール)等があげられる 。(甲12,段落【0012】
」 )
・ 「剥離層20は,剥離材マトリックス20aに無機粉体20bが分
散されたものを塗布してなり,剥離材マトリックス20aは,たと
えばカチオン重合型シリコーンを含む剥離剤を含み,無機粉体20
bは,特定の大きさの粒子の粒状組成を有する炭酸カルシウム等で
前記剥離材マトリックス20aの塗膜を補強し,その塗膜を削れに
くくするとともに,プリンタのヘッドのクリーニングをする効果を
有するものである。
前者の剥離材マトリックス20aは,紫外線にて硬化するカチオ
ン重合型シリコーンであり,後者の無機粉体20bの結合剤として
も機能するもので,前記した無機粉体20bを混合し,それをコー
ティングして剥離層20を形成し,且つ,無機粉体20bを定着し
剥離層20表面近傍にも存在するように形成されるものである。」
(甲12,段落【0016】)
・ 「無機粉体20bとしては,たとえば次のようなものが利用できる 。
すなわち,シリカ,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,水酸化ア
ルミニウム,アルミナ,リン酸三カルシウム,ヒドロキシアパタイ
ト,酸化亜鉛微粒子である。
無機粉体の量は,剥離材マトリックス100重量部あたり28∼
50重量部がより好ましい。無機粉体の量が減少すると剥離層塗膜
の保護効果が減少し,プリンタのサーマルヘッドのクリーニング効
果も小さくなる傾向にある。また,無機粉体の量が増加すると,ラ
ベル連続体として巻回したとき下層の感圧型接着剤層からの剥離性
に難点を生ずる場合がある。
無機粉体20bの平均粒径が小さい場合は,図2で示すように,
剥離材マトリックス20a全体に平均的に存在することとなり,剥
離層20の表面近傍に存在する無機粉体20bが剥離層20の表面
より露出する。また,無機粉体20bの平均粒径が比較的大きいも
のを混合した場合は,図3に示すように,比較的大きい無機粉体2
0bの上部の一部分が剥離層20の表面より露出する。
そして,剥離層20の表面より露出した無機粉体20bが,感熱
発色層22を発色させるプリンタのサーマルヘッドのクリーニング
をする作用をすると推定される 。(甲12,段落【0018】
」 )
・ 「 発明の効果】この発明によれば,剥離紙がなくても裏面の粘着

剤層との剥離性を有し,且つ,プリンタにて印字を行ってもヘッド
に付着する現象が発生しないラベルおよびラベル連続体を得ること
ができる 。(甲12,段落【0032】
」 )
(ウ) 図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である。)
・ 【図1】(この発明の一実施の形態であるラベル連続体の斜視図で
ある。甲12)
・ 【図2】(この発明の一実施の形態であるラベル連続体の断面図解
図である。甲12)
(エ) 上記(ア)∼(ウ)によれば,補正発明は,感熱発色層を感熱発色させ
て印刷するラベル連続体に関し,サーマルプリンタのヘッド(サーマル
ヘッド)にラベル連続体の表面層を形成するものが付着するのを防ぐた
め(段落【0001】,サーマルヘッドに付着した物質を除去する無機

粉体を剥離材マトリックス中に無機粉体を分散し(特許請求の範囲 ),
これは溶融することなくサーマルヘッドに付着するのが防止され(段落
【0005】,さらにその一部が剥離材マトリックスの表面より露出す

るように形成することによりサーマルヘッドに付着した物質を機械的に
除去するので,物質の付着が防がれるものである(段落【0005 】・
【0018】【図2】。
・ )
ウ 上記ア,イによれば,引用発明及び補正発明のいずれにおいても,剥離
被覆層は,感熱発色層を発色させる加熱体への剥離層を形成する物質の付
着を防止するものであるから,引用発明にはこの点の特定がないことを内
容とする相違点1については,引用発明と補正発明との実質的な相違点で
はないとした審決の認定に誤りはないというべきである。
(2) 当事者の主張に対する補足的判断
ア 被告は,補正発明及び引用発明は,いずれも2色以上の多色感熱記録用
ラベル連続体ではなく,単色感熱記録用ラベル連続体に相当する旨主張す
る。
しかし,本願明細書には,補正発明につき単色感熱記録用のものに限定
されると解すべき記載はなく,引用発明に関しても,これが記載された甲
1にそのように限定して解すべき記載はないのであるから,被告の上記主
張は採用することができない。
イ 次に原告は,サーマルヘッドの温度は300℃∼400℃程度まで上昇
する場合があるところ,引用発明において剥離剤として用いられたテトラ
・フルオルエチレンの融点は327℃であるから,表面が溶融し,サーマ
ルヘッドに付着しやすくなるから,引用発明の剥離被覆層42は感熱発色
層を発色させる加熱体への剥離層を形成する物質の付着を防止するものと
はいえず,相違点1は実質的な相違点である旨主張する。
しかし,上記(1)ウのとおり,引用発明の剥離被覆層は,感熱発色層を
発色させる加熱体への剥離層を形成する物質の付着を防止するものである
から,審決の認定した相違点1は,引用発明と補正発明との実質的な相違
点ではないと認められる。加えて,上記(1)ア(ク)のとおり,瞬間的な熱
に関しては溶融等の問題が起こることはなく,また感熱プリンタの高温化
に伴う問題を回避するためにラベル走行速度を調整すること等の条件設定
も可能なものであるから,サーマルヘッド自体の温度のみから剥離剤に用
いる物質の融点との関係で直ちに問題が生じるものとも認められないとい
うべきである。原告の上記主張は採用することができない。
ウ 次に原告は,審決の「…テトラ・フルオルエチレンの融点が327℃で
ある点は,例えば,特開平7−246783号公報【0015】『ポリ四
フッ化エチレン(m.p327℃)(なお,前記『ポリ四フッ化エチレン 』

はテトラ・フルオルエチレンを,前記『m.p』は融点をそれぞれ意味す
る。)に記載されている如く,周知であり,感熱発色層を発色させるため
に加熱されたサーマルヘッドの温度を327℃を越える温度で使用した場
合,引用文献1に記載された剥離層を有するラベル連続体では,剥離層の
補強効果やクリーニング効果が小さく,感熱発色層を発色させる際にサー
マルヘッドを汚す恐れが生じるであろうことは,当業者が当然に予測する
程度のことである… 」(11頁5行∼13行)との記載によれば,審決も
相違点1が実質的な相違点である旨認めているものと主張する。
しかし,審決の上記記載は,請求人である原告の主張に対する補足的説
明において,テトラ・フルオルエチレンの融点が327℃であることは周
知でありこれを用いた引用発明においてサーマルヘッドの温度が327℃
を超えた場合に問題が生じうることを当業者は当然認識し,それに伴う行
動をとるであろうことを述べたに過ぎず,審決が相違点1を実質的な相違
点である旨を認めたものとは解されないから,原告の上記主張は採用する
ことができない。
3 取消事由2(相違点2に関する容易想到性についての判断の誤り)について
(1)ア 原告は ,審決が周知技術を示すものとして引用した甲2∼4,甲7は,
補正発明のラベル連続体のように長時間に亘ってヘッドに接触する層を構
成するバインダー樹脂や剥離剤マトリックスに研磨作用を有する無機粉体
を含有させて用いるものではなく,これらを適用するには阻害要因があり ,
審決がこれらを適用して相違点2につき容易想到と判断したのは誤りであ
る旨主張する。
イ(ア) この点に関し審決は,甲2∼4,甲7によれば「…加熱体(サーマ
ルヘッド)のクリーニング性向上のために,該加熱体 サーマルヘッド )

の走行中に直接接する層をクリーニング機能を有する層となし,該層を
形成するバインダー樹脂として放射線硬化樹脂を用いるとともに,該バ
インダー樹脂に無機粉体であるシリカ,酸化亜鉛,アルミナ,炭酸カル
シウム,炭酸マグネシウムを含有させて用いること」(10頁15行∼
19行)は周知の技術であると認定したものである。
(イ) ところで甲2∼4,甲7には,以下の記載がある。
a 甲2(特開平5−116428号公報,発明の名称「サーマルヘッ
ド用クリーニングテープ」,出願人 富士写真フイルム株式会社,公開
日 平成5年(1993)5月14日)
・ 「 産業上の利用分野】本発明は熱転写記録に用いられる熱転写プリ

ンターのサーマルヘッド用クリーニングテープに関するものである 。

(段落【0001】)
・ 「本発明に用いるサーマルヘッド用のクリーニングテープは支持体の
サーマルヘッドに接する面にバインダーと有機物もしくは無機物の微
粒子固体及び/又は帯電防止剤を含む層を形成することによって得ら
れる。クリーニングテープに用いる支持体は前記色素供与材料に用い
る支持体と同様のものが用いられる。厚さも2μmないし20μmの
ものが好ましい。材料としてはポリイミド,ポリエチレンテレフタレ
ートが好ましい。クリーニングテープに用いるバインダーは前記色素
供与材料や色素受像材料に用いるバインダー樹脂が用いられる。ポリ
ウレタン樹脂やポリビニルブチラール樹脂のような架橋性の樹脂が好
ましい。又,本発明においてのバインダーの使用量は,0.05g/
2 2
m ∼20g/m が好ましい。(段落【0030】
」 )
・ 「クリーニングテープに用いる有機物又は無機物の微粒子固体として
は,上記バインダー樹脂と非相溶のものが好ましい。また熱による変
形の少ないものが好ましい。無機物の微粒子固体の例としては,酸化
物(例えば,二酸化珪素,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化マグネシウム,
酸化アルミニウム等),アルカリ土類金属塩(例えば,硫酸塩や炭酸塩
であって,具体的には硫酸バリウム,炭酸カルシウム,硫酸マグネシ
ウム,硫酸カルシウム等)やガラス,クレー,タルク,ケイソウ土,
ケイ酸アルミニウム,合成ゼオライト,リトボン等を用いることがで
きる。(段落【0031】
」 )
・ 「また,有機物の微粒子固体としては熱による軟化が60℃以下で起
こらないものが望ましい。そのような例としては,セルロースエステ
ル(例えば,セルロースアセテートプロピオネート等),セルロースエ
ーテル(例えば,エチルセルロース等),合成樹脂等である。合成樹脂
の例としては,例えばアルキルメタクリレート,アルコキシアルキル
メタクリレート,グリシジルメタクリレート,アクリルアミド,メタ
クリルアミド,スチレンなどの単独もしくは組合せ,又はこれらとア
クリル酸,メタクリル酸,α,β−不飽和ジカルボン酸,ヒドロキシ
アルキル−アクリレートまたは−メタクリレート,スルホンアルキル
−アクリレートまたは−メタクリレート,スチレンスルホン酸等の組
合せを単量体成分とするポリマーを用いることができる。なかでもポ
リメチルメタクリレートが好ましい。またポリエチレン等のビニル系
合成樹脂,テフロン等のフッ素系合成樹脂,ベンゾグアナミン樹脂,
ポリカーボネート樹脂,AS樹脂なども用いることができる 。 (段落

【0032】)
b 甲3(特開平9−52381号公報,発明の名称「ラベル連続体」,
出願人 大阪シーリング印刷株式会社,公開日 平成9年(1997)
2月25日)
・ 「 発明の属する技術分野】この発明は,剥離紙を有しないラベル連

続体に関し,特にたとえば値札やバーコードラベルなどとして用いて
好適な複数のラベルが連続して形成された,ラベル連続体に関する 。

(段落【0001】)
・ 「 発明が解決しようとする課題】ところが,このような剥離紙を有

しないラベル連続体1では,粘着剤層5と剥離剤層4との界面で剥離
した後に,図5に示すように,粘着剤5′の一部が剥離剤層4の表面
に残ってしまうことがある。しかし,この剥離剤層4の表面は,ラベ
ル連続体1の表面になり,サーマルヘッド6が接する面である。その
ため,感熱印字の際に,剥離剤層4表面に残った粘着剤5′が,サー
マルヘッド6の先端に付着して汚染するという不都合がある。また,
サーマルヘッド6が粘着剤5′で汚染されると,粘着剤5′の上から
埃塵芥などが付着して,サーマルヘッド6がさらに汚れるという問題
がある。このように,サーマルヘッド6の先端が汚染されると,汚染
された部分の熱伝導性が悪くなり,感熱発色層に熱が伝わりにくくな
る。そのため,感熱印字の濃度が不均一になったり,発色しにくくな
ったりして,ラベル連続体1の感熱発色の状態を良好に保てなくなる。
また,サーマルヘッド6の汚れが,ラベル連続体1の表面に転移して,
ラベル連続体1の表面を汚染する不都合もある。(段落【0003】
」 )
・ 「それゆえに,この発明の主たる目的は,剥離紙を有しないラベル連
続体に感熱印字することにより付着したサーマルヘッドの汚れを除去
することができるラベル連続体を提供することである 。 (段落【00

04】)
・ 「ラベル連続体10の長手方向の一端部には,サーマルヘッドを清掃
するためのクリーニングテープ30が連続的かつ一体的に形成される。
クリーニングテープ30は,基材14を含む。この基材14は,ラベ
ル連続体10の基材14と共通のものである。すなわち,ラベル連続
体10の基材14のみが長手方向に延長され,その延長された基材1
4が,クリーニングテープ30の基材14として用いられる。そして,
基材14の表面には,基材14よりも摩擦係数の高いクリーニング層
32が形成される。クリーニング層32は,体質顔料をバインダに分
散させたものを基材14の表面に塗布し,乾燥・硬化して形成される。
基材14よりも摩擦係数の高いクリーニング層32を形成することに
より,クリーニングテープ30による摩擦力が高まりサーマルヘッド
6の先端の汚れを除去する力が高まる。(段落【0019】
」 )
・ 「クリーニング層32を形成するための体質顔料としては,たとえば
炭酸カルシウム,沈降性硫酸バリウム,タルク,クレー,アルミナホ
ワイト,活性白土,焼成カオリン,微粉ケイ酸および微粉酸化アルミ
などが用いられる。また,バインダとしては,熱可融性のものはサー
マルヘッドに付着する虞れがあるため使用しにくく,たとえば,ポリ
ビニルアルコール,カルボキシメチルセルロース,メチルビニルエー
テル−マレイン酸共重合体,ヒドロキシエチルセルロース,ガゼイン,
ゼラチン,アラビアゴム,メトキシセルロース,ポリアクリルアミド,
ポリアクリル酸,デンプンなどの水溶性高分子または水性エマルジョ
ンなどが使用できる。(段落【0034】
」 )
c 甲4(特開平10−100454号公報,発明の名称「クリーニン
グリボン及びクリーニング方法」,出願人 大日本印刷株式会社,公開
日 平成10年4月21日)
・ 「 発明の属する技術分野】本発明は熱転写プリンターのサーマルヘッ

ドのクリーニング処理を行うクリーニングリボンに関し,更に詳しく
は熱転写によるサーマルヘッドへの付着物を完全に除去し,サーマル
ヘッドの表面を粗く研磨することがなく,印字される画像にスジや濃
度ムラ等の影響のない高品質の画像を与えることができるクリーニン
グリボンに関するものである。(段落【0001】
」 )
・ 「 クリーニング層)上記基材の一方の面に形成するクリーニング層

は,バインダー樹脂,離型剤,充填剤より構成されていることが好ま
しい。クリーニング層を形成するバインダー樹脂は,特に限定されず,
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の単独又は混合物でよく,これらの樹脂
中に反応性基を有する場合には,耐熱性向上のために各種イソシアネ
ート硬化剤や不飽和結合を有するモノマー,オリゴマーとの反応生成
物でもよく,硬化方法は,加熱,電離放射線の照射等,硬化手段は特
に限定されない。また,バインダー樹脂をシリコーンや長鎖アルキル
によって変性した各種変性樹脂も使用可能である。 段落 0010】

( 【 )
・ 「…又,本発明では,サーマルヘッドへの付着物を除去するために,
無機又は有機の充填剤を用いることが望ましい。充填剤を選択するに
際しては,クリーニング層の表面に凹凸形状を形成するのに充分な粒
径と形状を有し,且つサーマルヘッドの磨耗が少ないことが条件とさ
れる。用いるのに適当な充填剤としては,例えば,タルク,カオリン,
クレー,炭酸カルシウム,水酸化マグネシウム,炭酸マグネシウム,
酸化マグネシウム,沈降性硫酸バリウム,ハイドロタルサイトシリカ
等の無機充填剤と,アクリル樹脂,ベンゾグアナミン樹脂,シリコー
ンやテフロン等からなる有機充填剤が挙げられるが,モース硬度で3
以上9以下のものがサーマルヘッドの付着物を研磨し除去しやすいた
め好ましい。(段落【0019】
」 )
d 甲7(特開平3−65396号公報,発明の名称「熱転写記録用シ
ート」,出願人 三菱化成株式会社,公開日 平成3年3月20日)
① 「 産業上の利用分野)

本発明は熱転写記録用シートに関し,特にファクシミリ,プリンタ,
複写機などのOA端末機におけるカラー記録やテレビ画像のカラー記
録用等に有利に使用できる熱転写記録用シートに関する 。 (1頁左欄

下6行∼下2行)
② 「しかしながら,この種の感熱転写記録方式では,熱転写記録用シー
トがサーマルヘッドで高温に加熱されるため,熱転写記録用シートの
ベースフィルムの耐熱性が不充分な場合には,ベースフィルムがサー
マルヘッドに融着し,この融着によりスティック音と呼ばれる音の発
生やサーマルヘッドへのカスの付着が生じ,融着が更に顕著となると
サーマルヘッドの走行が不可能となり記録を行うことができなくなる。
そのため従来,ベースフィルムの耐熱性を改良するために各種の耐熱
性樹脂の保護膜を設けることが提案され…また走行性を更に改善する
ために上記の保護層中に耐熱性の微粒子,…などを添加することも提
案されている(…特開昭56−155794号公報…)」
。(1頁右欄下
6行∼2頁左上欄11行)
③ 「…本発明の熱転写記録用シートに於ては,球状粒子が耐熱滑性層の
基準面より突出しているために,サーマルヘッドの摩耗が小さくなり
走行性が良好である上,耐熱滑性層のバインダー樹脂中に,微粒子を
含むため,この微粒子の効果により,サーマルヘッドのクリーニング
性が良好となるものである。(2頁左下欄11行∼17行)

④ 「本発明の熱転写記録シートは図1に示す様にベースフィルム(1)
の一方の面に熱転写インキ層(2)を塗布し,もう一方の面にバイン
ダー樹脂(3a ),球状粒子(3b ),微粒子(3c)よりなり,球状
粒子が表面に突出した耐熱滑性層(3)により構成されている。なお,
本明細書においては,耐熱滑性層表面に現れた微粒子を結んだ面を耐
熱滑性層基準面(4)と呼ぶ。
本発明に用いられる球状の粒子としては,無機及び有機の各種の耐熱
性の粒子を用いることができるが,特にシリコーン樹脂の球状粒子あ
るいは球状シリカが秀れている。…
球状粒子と共に用いられる微粒子については,特にその形状は問わな
いが,無機および有機の各種の耐熱性微粒子を用いることができる。
特に,微粒シリカ,微粒酸化チタン等は,サーマルヘッドのクリーニ
ング効果が良好で適している。…
これらの粒子の使用量は,球状粒子は,バインダー樹脂100重量部
に対して,1∼50重量部,特に5∼20重量部が好ましい。又,微
粒子の使用量はバインダー樹脂100重量部に対して5∼100重量
部,特に10∼50重量部が好ましい。
耐熱滑性層を形成するためのバインダー樹脂としては,各種の耐熱性
の熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,放射線硬化樹脂などが挙げられるが,
放射線硬化樹脂は,特に耐熱性が良好で,耐熱滑性層の形成が容易で
あるため適している。…」(2頁左下欄下2行∼3頁左上欄13行)
⑤ 「…上記塗布液の塗膜は適宜の手段で乾燥して溶媒を除いてから,加
熱或いは放射線照射等の常法にしたがって硬化させる。…特に好まし
い硬化は紫外線又は電子線による硬化である 。 (4頁左上欄18行∼

右上欄7行)
(ウ) 上記(イ)によれば,甲2には,サーマルヘッド用のクリーニングテ
ープに関し(段落【0001】,サーマルヘッドに接する面にバインダ

ーと,これと非相溶の有機物又は無機物の微粒子固体を用いて層を形成
し(段落【0030】【0031】,無機物を微粒子個体の例として,
・ )
酸化亜鉛,炭酸カルシウム等が示され(段落【0031】,微粒子固体

を有機物として用いる際には熱による軟化が60℃以下で起こらないも
のが望ましいとしてテフロンもその一例として示されている(段落【0
031】。

また,甲3には,剥離紙を有しないラベル連続体において(段落【0
001】,その一端部にサーマルヘッドと直接接しこれを清掃するクリ

ーニングテープを設け(段落【0019】,そのクリーニングテープの

クリーニング層に炭酸カルシウム等の無機物とバインダを用いることが
示されている(段落【0034 】。
さらに甲4には,熱転写プリンターのサーマルヘッドのクリーニング
処理を行うクリーニングリボンに関し(段落【0001】,熱可融性の

ものはサーマルヘッドに付着する問題があり(段落【0034 】,サー

マルヘッドの摩耗が少ないことも条件となるとした上で,サーマルヘッ
ドの付着物を除去するために無機又は有機の充填剤を用いることが望ま
しいとし,無機物として炭酸カルシウム等,有機物としてテフロン等が
示されている(段落【0019 】。

甲7には,熱転写記録用シートに関し(摘記①),サーマルヘッドと
直接接する層である耐熱性保護膜にサーマルヘッドの走行性を改善する
ために耐熱性の微粒子を用いること(摘記②),サーマルヘッドと直接
接する層である耐熱滑性層に耐熱性の無機及び有機の微粒子を用いるこ
とができるところ特に微粒シリカ等を用いるとサーマルヘッドのクリー
ニング効果が良好である(摘記④)旨が記載されている。
(エ) 上記(ウ)によれば,サーマルヘッドのクリーニングのためにサーマ
ルヘッドと直接接する層にクリーニング機能を有する無機粉体を含有さ
せることは周知技術であると認められる。
そうすると,審決が認定した引用発明と補正発明との相違点2に関す
る構成は上記周知技術に基づき容易想到であるとした審決の判断に誤り
はないというべきである。
(2) 原告の主張に対する補足的判断
ア(ア) 原告は,審決が周知技術の認定の根拠とした甲2∼4はクリーニン
グテープやクリーニングリボンであり,補正発明のように長時間サーマ
ルヘッドに接して用いることができないから,相違点2に係る構成に適
用するには阻害要因があると主張し,これに沿う証拠として甲17,1
8を提出する。
(イ) 甲17,18には以下の記載がある。
・ 甲17(SONY「感熱ヘッドクリーニングカートリッジ」説明書
・Sony Corporation C 2001〔平成13年〕と記載のあるもの)
「クリーニングカートリッジの取り扱い上のご注意…
・ クリーニングすると付着したゴミと一緒に感熱ヘッドの表面を削
り取るため,頻繁にクリーニングを行うと感熱ヘッドの摩耗を促進
させることになります。
必要以上にクリーニングすることはお避けください。」
・ 甲18(東芝ホクト電子株式会社「サーマルプリントヘッド取り扱
い上の注意事項」2007〔平成19年〕.07.02 の日付記載のあるもの)
「3.クリーニング
塵埃を抑え,TPHの抵抗体表面をきれに保つようにして下さい。
塵埃は,スクラッチ傷の原因となり,TPHのリードを傷つけるこ
とがあります。
表面のクリーニングが必要な場合には,酸,アルカリ,その他TP
Hを腐食させるような液体を使用せず,TPHに直接手でふれな
いようにして,乾いたガーゼ,綿棒などで優しくふいて下さい。

(1) 日本ミクロコーティング製#10000の研磨テープにて,
研磨して下さい。研磨の際には,#10000よりも粗い研
磨テープは使用しないで下さい。また,研磨方法は,下記ど
ちらかにして下さい。
a.…
b.研磨テープを小さく切って指に捲きつけ,TPHの抵抗体ラ
インに沿って1回につき5往復ほど研磨して下さい。研磨回数
は累計で300往復までとして下さい。」
(ウ) 上記(ア)のとおり,甲2∼4,甲7は,サーマルヘッドと直接接す
る層において,サーマルヘッドの熱による微粒子の溶融・軟化,無機の
充填剤を用いた場合のサーマルヘッドの摩耗等の問題を考慮したもので
あり,これらを相違点2に関する構成について適用するに当たり阻害要
因があるものとは認められない。また,上記(イ)の甲17,18が本願
出願当時 平成13年6月5日)
( の技術常識を示すものであるとしても ,
これらは感熱サーマルヘッドにクリーニングテープを用いる際の一般的
な注意事項に過ぎず,ヘッドクリーニングの方法を示すものにすぎない
上,クリーニングテープないしプリントヘッドの仕様も明らかでないか
ら,上記認定の周知技術を適用するにつき阻害要因を示すものとはいえ
ない。原告の上記主張は採用することができない。
イ 次に原告は,甲7記載の発明は,バインダー樹脂に無機及び有機の耐熱
微粒子を含有させただけではサーマルヘッドの摩擦が大きくなり走行性が
悪くなることから耐熱性微粒子よりも大きい球状粒子を成分として含有す
るという耐熱滑性層が特殊な構成をしており,甲2∼4の適用阻害要因を
覆すものとなりえないと主張する。
しかし,甲2∼4,甲7についての適用阻害要因に関する原告の主張に
理由がないことは上記アのとおりであるほか,甲7には上記( 1)イ(イ)d
の摘記②のとおり耐熱性樹脂中に耐熱微粒子を含有することで一定程度の
走行性は確保されているし,摘記③記載のとおり,球状粒子によって摩擦
を小さくすれば走行性が良好になることも記載されていることからすれ
ば,大小の粒子を含有していること自体が阻害要因となるものではない。
原告の上記主張は採用することができない。
ウ さらに原告は,補正発明は,①剥離層から離脱した無機粉体が接着剤層
に吸着されてヘッドが摩耗等するのを低減する,②無機粉体を含有するこ
とで剥離層が溶融してサーマルヘッドに付着せず,補強されて削れにくく
なる,③剥離層形成物質のサーマルヘッドへの付着が生じても無機粉体の
研磨作用で機械的に除去できるという予測できない作用効果を奏するもの
であると主張する。
しかし,原告の主張する上記作用効果①については本願明細書には記載
がなく,前提を欠くというべきである。また,同②,③については,上記
2(1)ア(エ)のとおり,引用発明のテトラフルオルエチレンを用いた剥離
剤26もシリコーン等を用いた剥離剤28と強力な物理的結合をなし,テ
トラフルオルエチレンが剥離作用及び研磨作用を有していること,また無
機粉体のもたらす効果についても上記(1)イ(ウ)・(エ)記載のとおりであ
ることから,補正発明が予測できない作用効果を奏するものとは認められ
ない。原告の上記主張は採用することができない。
4 結語
以上によれば,本件補正却下の違法をいう原告主張の取消事由は,いずれも
理由がない。
よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 今 井 弘 晃
裁判官 真 辺 朋 子

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