平成19(ワ)7877著作権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成21年3月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告大和ハウス工業株式会社
株式会社伸和エージェンシー斉藤紀代
ら訴訟代理人弁護士松本光右藤本清 原告X井上周一
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法令 |
著作権
著作権法112条1項1回
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キーワード |
侵害46回 許諾4回 損害賠償2回 差止2回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は 独り暮らしをつくる100 と題する書籍をイラスト 後記の 原,「 」 ( 「
告各イラスト )とともに著作した原告が,被告大和ハウス工業株式会社が被」
告伸和エージェンシーにその作成を依頼して作成させた「マンション読本」と
題する冊子その他の広告宣伝物等の中の被告各イラストが,原告各イラストを
複製し又は翻案したものであって,上記「マンション読本」の作成,発行及び
配布するなどの被告大和ハウス工業株式会社の行為は原告各イラストに係る複
製権,翻案権,自動公衆送信権(送信可能化権)を侵害し,また,同一性保持
権、氏名表示権を侵害すると主張して,被告大和ハウス工業株式会社に対し,
著作権法112条1項,2項に基づき,被告各イラストの使用,同イラストを
使用した「マンション読本」の印刷,出版,頒布,同イラストを使用した広告
宣伝物の作成,譲渡,引渡し,展示,同イラストのインターネットホームペー
ジ上への掲載の各差止め並びに上記「マンション読本 ,その広告宣伝物の廃」
棄及びインターネットホームページ上の被告各イラストの削除を求めるととも
に,被告らに対し,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為(民法719条,
709条)に基づき,3000万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後 |
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判決文
平成21年3月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成19年(ワ)第7877号 著作権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成20年11月21日
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁護士 三 山 峻 司
井 上 周 一
金 尾 基 樹
被 告 大和ハウス工業株式会社
被 告 株式会社伸和エージェンシー
被告ら訴訟代理人弁護士 松 本 光 右
斉 藤 紀 代
藤 本 清
飯 田 和 宏
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告大和ハウス工業株式会社は,別紙被告イラスト目録記載1ないし39の
各イラスト( 以下順に「 被告イラスト1 」ないし「 被告イラスト39 」といい ,
併せて「被告各イラスト」と総称する 。)を使用してはならない。
2 被告大和ハウス工業株式会社は,被告各イラストを使用した別紙出版物目録
記載の出版物を印刷,出版,又は頒布してはならない。
3 被告大和ハウス工業株式会社は,被告各イラストを使用した広告宣伝物を作
成し,譲渡し,引き渡し,又は展示してはならない。
4 被告大和ハウス工業株式会社は,被告各イラストをインターネットホームペ
ージ上に掲載してはならない。
5 被告大和ハウス工業株式会社は,被告各イラストを使用した別紙出版物目録
記載の出版物及び広告宣伝物を廃棄するとともに,被告各イラストに関する画
像データを記録した記録媒体から,当該データを削除せよ。
6 被告大和ハウス工業株式会社は ,同被告のインターネットホームページ上に ,
別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を,同目録記載の掲載条件により掲載せよ。
7 被告らは,連帯して,原告に対し,金3000万円及びこれに対する平成1
9年7月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
8 訴訟費用は被告らの負担とする。
9 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は , 独り暮らしをつくる100 」と題する書籍をイラスト( 後記の「 原
「
告各イラスト 」)とともに著作した原告が,被告大和ハウス工業株式会社が被
告伸和エージェンシーにその作成を依頼して作成させた「マンション読本」と
題する冊子その他の広告宣伝物等の中の被告各イラストが,原告各イラストを
複製し又は翻案したものであって,上記「マンション読本」の作成,発行及び
配布するなどの被告大和ハウス工業株式会社の行為は原告各イラストに係る複
製権,翻案権,自動公衆送信権(送信可能化権)を侵害し,また,同一性保持
権、氏名表示権を侵害すると主張して,被告大和ハウス工業株式会社に対し,
著作権法112条1項,2項に基づき,被告各イラストの使用,同イラストを
使用した「マンション読本」の印刷,出版,頒布,同イラストを使用した広告
宣伝物の作成,譲渡,引渡し,展示,同イラストのインターネットホームペー
ジ上への掲載の各差止め並びに上記「マンション読本 」,その広告宣伝物の廃
棄及びインターネットホームページ上の被告各イラストの削除を求めるととも
に,被告らに対し,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為(民法719条,
709条)に基づき,3000万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後
の日(訴状送達の日の翌日)である平成19年7月10日から支払済みまで民
法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等( 末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない 。)
( 1) 当事者
ア 原告は,インテリアデザイナー,インテリアコーディネーター,イラス
トレーターである。原告は,後記原告著書を含めこれまで4冊の書籍を執
筆,出版しているほか,各種雑誌への寄稿・記事掲載,テレビ出演をして
いる(甲1 )。
イ 被告大和ハウス工業株式会社(以下「被告大和ハウス工業」という 。)
は,昭和22年に設立され,住宅その他の建築事業,都市開発事業,観光
事業等を目的とする株式会社である。
被告株式会社伸和エージェンシー(以下「被告伸和エージェンシー」と
いう 。)は,昭和29年4月に設立され,広告代理業,一般旅行業等を目
的とする株式会社である。
被告らは,いずれも大和ハウスグループの一員をなす関連会社である。
( 2) 原告の著作権
ア 原告各イラストの特定
原告は,平成16年2月ころ,書籍「独り暮らしをつくる100 」(文
化出版局刊。以下「原告著書」という 。)を著した。原告著書の多くの頁
中には,女性の各種イラストが多数点描かれている。
上記各イラストは,例えば,別紙原告イラスト目録記載1ないし127
のとおりである(以下,各イラストを順に「原告イラスト1 」「原告イラ
スト127」などといい,併せて「原告各イラスト」と総称する 。 。そ
)
して,原告が原告各イラストを複製・翻案したものと主張する被告各イラ
ストとの対応関係は,別表記載のとおりである。
イ 原告各イラストの著作物性
原告各イラストは,原告の思想又は感情を創作的に表現したものであっ
て,いずれも(美術の)著作物に該当する。
ウ 原告イラストに関する原告の権利
原告は ,原告各イラストの著作者として ,原告各イラストを複製 ,翻案 ,
譲渡又は公衆送信する権利を専有する。
( 3) 被告らの行為
ア 「マンション読本」の作成,発行,配布
被告大和ハウス工業は,関連会社である被告伸和エージェンシーに依頼
し,平成17年5月ころ,マンション購入希望者を対象にマンション購入
のポイント等のノウハウを教示するための冊子として,別紙出版物目録記
載の小冊子「マンション読本 」(以下「マンション読本」という 。)を作
成させた。
被告伸和エージェンシーは,マンション読本の製作に当たって,グラフ
ィックデザイナーであるA(以下「A」という 。)に対してイラストを含
むデザインの製作を依頼し,A及び作画担当者であるBが同被告の依頼に
基づいて作画した被告各イラストをマンション読本に掲載した。ただし,
Aに対する委託業務の内容及びその条件というような事項については,す
べて口頭により合意されたものであり,これらの事項を明示する書類等の
取り交わしは行われていない。
被告大和ハウス工業は,平成17年5月31日,マンション読本500
0部の印刷を印刷会社に行わせ ,その後も ,同年9月15日に5000部 ,
平成18年1月30日,同年4月11日,同年6月21日,同年9月7日
にそれぞれ3000部の増刷を行わせた。これにより,マンション読本は
合計2万2000部印刷された。
被告大和ハウス工業は,上記のように印刷されたマンション読本を,平
成17年6月以降,同被告の分譲マンションのモデルルームの訪問客に対
して配布した。また,新聞,雑誌及びインターネット上において「 マン
『
ション読本』差し上げます」との広告を掲載し,申込者に対してマンショ
ン読本を送付した。
イ モデルルームにおける案内パネルへのイラスト掲載
被告大和ハウス工業は,平成18年5月ころ,大阪府堺市北区所在の分
譲マンション「C」モデルルームにおいて,被告各イラストの一部を掲載
したパネルを作成し,展示した。また,同年11月ころには,大阪府和泉
市所在の分譲マンション「D」モデルルームにおいても,被告各イラスト
の一部を掲載したパネルを展示した。
ウ ウェブサイト上のイラスト掲載
被告大和ハウス工業は,平成18年3月ころから,3期にわたり,同被
告のインターネットホームページ上において , 『 マンション読本』差し
「
上げます」との広告を掲載するとともに,被告各イラストの一部を掲載し
たマンション読本の一部ページを複製して掲載し,これを閲覧者に対する
閲覧に供した。
また,他社の運営する住宅情報サイトに,マンション読本の配布に関す
る広告を,被告各イラストの一部と併せて掲載した。
エ 雑誌へのイラスト掲載
被告大和ハウス工業は,平成18年4月22日発売の隔週刊雑誌「婦人
公論 」2006年5月7日号及び平成18年12月1日発売の月刊雑誌 V
「
ERY(ヴェリー )」2006年12月号の両雑誌に,いずれもマンショ
ン読本の配布に関する広告を,被告各イラストの一部と併せて掲載した。
2 争点
( 1) 被告各イラストは原告各イラストを複製し又は翻案したものであるか。
( 2) 著作者人格権侵害の有無
( 3) 被告らの過失の有無
( 4) 損害額
( 5) 謝罪広告の要否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点( 1)(被告各イラストは原告各イラストを複製し又は翻案したものであ
るか)について
【原告の主張】
( 1) 原告の著作権
原告著書は,独り暮らしをする女性が,自分の居室をいかに居心地良くコ
ーディネートするかをコンセプトにしたいわゆるハウツウ本であり,そのよ
うなコンセプトをイメージさせるため,原告著書の多くの頁中に,目鼻立ち
が小さい丸顔で頬が赤く,髪の毛を頭頂部で束ね,なで肩で足をハの字形に
開いて立つことを特徴とする女性(キャラクター)の顔や体の動静を表す各
種の図案(原告各イラスト)が描かれている。
( 2) 依拠性
被告各イラストの作成者であるAは,マンション読本を出版物として店頭
販売するとの動きが出てきたことを契機として,同書中の被告各イラストの
作成に当たり,原告著書のデザインやイラストを無断で参考にしたので,謝
罪して慰謝料を支払いたい旨を原告に連絡してくるとともに,原告に対して
店頭販売に関する了解を求めてきた(甲11 )。このことにより,マンショ
ン読本による原告の著作権等侵害が発覚した。このように,Aは,原告各イ
ラストに依拠して被告各イラストを作成したことを自認しており,上記経緯
からすれば,被告各イラストが原告各イラストに依拠して作成されたことは
明らかである。
( 3) 複製又は翻案の成否
ア 被告各イラストと原告各イラストとの類似点は,別表記載のとおりであ
る。かかる具体的な類似点から,被告らは,単に原告各イラストのタッチ
や構図を模倣したにとどまらず,原告各イラストの具体的な創作的表現物
としての本質的部分の多くを模倣していることが明りょうである。また,
被告各イラストからは,原告各イラストの本質的特徴を直接感得し得るも
のである。したがって,被告各イラストは,原告各イラストを複製,翻案
したものであって,被告らの上記行為は,原告の複製権,翻案権,自動公
衆送信権(送信可能化権)を侵害する。
すなわち,原告は,原告各イラストに描かれた人物を読者に親しみやす
いものとするため,以下のような工夫を凝らしている。
(ア) 輪郭を○や△などの単純なシルエットにしてイラストの視認性を高
めるため,頭頂部で髪を結い,極端なまでのなで肩の女性として描いて
いる。
(イ) 顔と身体をほぼ同じ幅で描いている。
(ウ) 手足が先端に行くほど細く,直立時の足はハの字に開いている。
(エ) 実際の人間に近い6等身のプロポーションを採用している。
(オ) 頭部において,耳と顔の輪郭をつなげて一続きに描いている。
(カ) 開いた目には楕円形に二重線を引いて眼球を表現し,閉じた目は楕
円形の下円弧線で表現している。
(キ) 正面図の鼻や口は「 ∧」 「―」のような一本線で表現している。
,
(ク) 顔の左右にピンク 1色印刷のページは茶色 )
( のぼかした円を入れ ,
頬の輪郭としている。
(ケ) 前髪は輪郭内に線描きで表現している。
(コ) 横顔の輪郭は円に近い卵形で ,鼻の部分を「 > 」の形状で突起させ ,
耳まで一続きの線で描いている。
被告各イラストは,原告各イラストと同じ若い女性を描いているという
だけではなく,以上のような原告各イラストの具体的な表現上の特徴を余
すところなく模倣している。
イ ところで,原告は,原告各イラストの背景にある抽象的な人格概念であ
るキャラクター自体を具体的な表現物から離れて著作権法で保護すべきで
あると主張するものではない。しかし,被告各イラストが,特定の著作物
である原告著書における人物(原告各イラスト)の特徴を備え,当該人物
の表現と同一性のある再製をした場合に,被告各イラストが原告各イラス
トの複製物に当たるとするには,個々の表現物のどの画面のどの場面の絵
画的部分を複製したものであるかを厳密に特定することまでも必要とする
ものではない(ポパイネクタイ事件に関する最判平成9年7月17日 )。
したがって ,被告が原告各イラストと被告各イラストの各部の位置や服装 ,
頭部,顔部の違いと称して,細部の相違点を列挙するのは的外れである。
被告各イラストは,原告各イラストの具体的な表現上の本質的な特徴を備
えたものであり,原告各イラストを同一性のある範囲で再製したものであ
る。
著作物の複製というためには,第三者の作品が絵画部分の特定の画面に
描かれた登場人物の絵画と細部まで一致することを要するものではなく,
その特徴から当該絵画の人物を描いたと知り得るものであれば足りる。ま
た,そのように解さなければ,個々のイラストに描かれた登場人物の動作
・表情を変え,服装を変えることにより,容易にフリーライドがなされ,
極めて不当な結果を招来することになる。
【被告らの主張】
( 1) 依拠性
AがEメール(甲11)を原告に送付した事実は認めるが,これをもって
被告各イラストが原告イラストに依拠して作成されたとの主張は争う。Aに
よると ,多くの補助資料のうちの1つとして原告著書に触れたことがあり 原
(
告著作だけに限定されない 。 ,人物の描き方,表現方法を自己のイラスト
)
タッチの「参考にした」とのことであり,原告の描く「女性」をそのまま複
製ないし翻案したものではない。
また,Aが同号証において「著作権侵害をした」と記載していることは,
法に精通していない一般人が権利自白を行ったにすぎないものであって,こ
の記載が本件において著作権侵害を決定づけるものではない。
( 2) 複製又は翻案の有無
被告各イラストは,以下のとおり,原告各イラストの女性のキャラクター
を直接感得させ,そのキャラクターの表現物たる原告各イラストの著作権を
侵害するものではない。
ア まず原告は,原告著書の中で描かれている「目鼻立ちが小さい丸顔で頬
が赤く,髪の毛を頭頂部で束ね,なで肩で足をハの字形に開いて立つこと
を特徴とする女性」が,いわゆる「キャラクター」であると主張し,被告
各イラストは当該「キャラクター」を感得させ,もって(個々の図柄を特
定せずとも ) 原告イラスト 」の複製権を侵害すると主張するようである 。
「
しかし,原告著書から当該女性の図柄を取り除き,また別の図柄と入れ
替えたとしても ,原告著書の内容は十分伝達され得るものであり ,当該 女
「
性」の図柄に連載漫画の登場人物などと同様のキャラクター性,即ち「そ
の女性固有の『具体的表現から昇華した抽象的人格 』」といったものを感
得することはできない。
当該「女性」の図柄は,原告著書における挿絵的な位置にあるものとい
うべきであり,原告が「原告キャラクター」として述べる「女性」の特徴
は,あくまで原告が描いた個々の「女性」の図柄における特徴である。
イ 原告各イラストのうち,原告イラスト1,2と被告イラスト1,2につ
いて対比すると,以下のような相違点を指摘することができる。
(ア) 原告イラスト1と被告イラスト1の具体的相違点
① 各部の位置の違い
頭部において,頭頂部と顎先を基準にすると,髪先,眉,目,鼻,
耳,口の各位置がすべて異なる。
また全身において,頭頂部と爪先を基準とすると,上記の顔のパー
ツのほか,肘,腰の位置が異なり,かつ,肩から肘,肘から手の作り
出す角度が異なる。
② 服装の違い
原告イラスト1の服装は,フィットした七分袖シャツにギンガムチ
ェックのミニスカート,ストレッチパンツであることに対し,被告イ
ラスト1はゆったり目の長袖シャツにラインチェックのマイクロミニ
スカート,ストレートパンツである。
③ 頭部・顔部の違い
a 髪は,直形(原告)に対し斜形(被告 )。
b 眉は,一文字(原告)に対し山形(被告 )。
c 目は,楕円で白目(原告)に対しカプセル型で黒目(被告 )。
d 鼻は,逆V字で高いこと(原告)に対し,山形で低い(被告 )。
e 口は,スラッシュ型(原告)に対し弓形(被告 )。
f 輪郭は,緩い菱形であごの線がないこと(原告)に対し,卵形で
あごが描かれている(被告 )。
これらに加え,さらに全体の構図,シチュエーション,色彩など
に相違点がある(乙1 )。
(イ) 原告イラスト2と被告イラスト2の具体的相違点
① 表現範囲:上半身に対し全身。
② 表情:無表情に近い原告に対し,にんまりとした微笑みの被告。
③ 眼鏡の形:ラウンド型に対しオパール型。
④ 右手指先の位置:テンプルに対しフロント。
⑤ 持ち物:クリップファイルに対し冊子。
⑥ 左手の位置:胸部に対し腹部。
⑦ 服装:白衣に対しシャツ。
などが異なるほか,上記(ア)で指摘した頭部・顔部の違い,構図・シ
チュエーションが異なるところとなっている(乙2 )。
(ウ) 醸し出される雰囲気の相違
被告各イラストに著された「 mum」という人物は ,「結婚5年目を期
に持家としてのマンション購入を検討する仲睦まじい三人家族」の「堅
実なママ」ないし「堅実で優しい主婦」という性格付けの下,これを具
現化するよう描かれたものであって(乙3,4 ),原告各イラストに著
された「女性」が醸し出す「初めて一人暮らしをする若い女性」の印象
とは相当異なるところとなっている。
以上のような原告イラスト1,2と被告イラスト1,2における具体
的相違点及び各イラストの印象の違いを踏まえるならば,被告イラスト
1,2から原告イラスト1,2の本質的特徴を感得できるとまでいうこ
とはできない。
なお,原告自身も,任意交渉時に,被告各イラストについて“自分の
もの(原告各イラスト)とは似ていない”と評していたところである。
ウ さらに,原告が原告各イラストの特徴とする箇所は他のイラストにも散
見され(乙4 ),原告イラスト2の構図に関してはA自身が過去にも著し
たことのある構図であって(乙4別紙B ),原告各イラストにだけ特徴的
なものとはいい難い。
また ,「目鼻立ちが小さい」点 ,「丸顔で頬が赤い」点 ,「なで肩」であ
る点については,人物を簡素化して描いた場合に共通する表現(いわゆる
タッチないし画風)ともいい得るところであって,原告が原告イラストの
特徴という点が同イラストの著作権の保護範囲に含まれるものとは評価し
得ない。
エ 原告は,被告各イラストがそれぞれ別表記載の原告各イラストの著作権
を侵害する旨主張する。
しかし,原告がその著作権を侵害されたと主張する個々の原告イラスト
と,その対比された個々の被告イラストとの間には,乙第7号証の1ない
し39にそれぞれ指摘するとおり,その細部の形状,位置,色彩などの点
で各々相当数の相違があり,あるいは原告による類似点の指摘が ,「腕を
組む 」 「後ろ姿 」 「座っている」などの一般的な姿勢・ポーズに由来す
, ,
るにすぎないものであって,結局のところ,これら個々の被告イラストを
して,対比された個々の原告イラストの本質的特徴を直接感得せしめると
いうことはできないといわざるを得ない。
この点,原告が,原告各イラストに共通する「特徴」という,輪郭の形
状,鼻や口の表現が単純であること,頭頂部で髪を束ねていること,数本
の線で髪の毛を表現していること,なで肩であること,プロポーション等
(上記【原告の主張】( 3)ア(ア)ないし(コ))は,原告各イラストにだけ
特徴的な表現方法ではなく,まさに人物(女性)を簡略化して描いた場合
に一般的によく見られる表現方法,あるいは既に指摘したように画風ない
しタッチと思料される。
そのように解さなければ ,“頭頂部で髪を束ねる”という比較的多く見
られるファッションないしヘアスタイルをし ,“やせ形(華奢 )”という
ごく普通の体型をした女性の姿を,簡略的にイラスト化する表現方法が極
めて狭められる。
原告が「特徴」として指摘する表現方法及びその組合せは,原告のみが
独占し使用するものであってはならず,原告各イラストが創作される以前
もそれ以後も,イラスト業界のみならず世間一般における基本的な表現方
法として,誰によっても利用可能とされなければならない。
したがって,原告各イラストと被告各イラストのこれら表現方法に共通
点,類似点があるとしても,それをもって被告各イラストが原告各イラス
トの著作権を侵害するとされる謂われはない。
3 そうすると,被告各イラストが,その対比された原告各イラストの著作
権を侵害するかどうかは,原告が「特徴」という基本的な表現方法が一致
ないし類似しているかという観点ではなく,それら特徴を現実化する場合
において,形状,配置,配色等の細部の表現について両者の表現が共通す
ることで,個々の原告各イラストの本質的特徴を直接感得できるかが問わ
れるべきであり(東京高裁平成13年1月23日判決と同旨 。 ,この点
)
については先に主張したとおりであるから,被告各イラストは,対比され
た個々の原告各イラストの著作権を侵害するものではない。
2 争点( 2)(著作者人格権侵害の有無)について
【原告の主張】
( 1) 同一性保持権
被告らが,原告各イラストを原告に無断で改変して作成した39点の被告
各イラストをマンション読本のほか ,被告大和ハウス工業等のウェブサイト ,
マンションモデルルームのパネル,雑誌広告に掲載した行為は,原告の同一
性保持権を侵害する。
( 2) 氏名表示権
被告各イラストは,原告各イラストの複製物であるから,原告は被告各イ
ラストに対して原著作者として氏名表示権を有する。しかるに,被告らが,
マンション読本をはじめ,被告大和ハウス工業等のウェブサイト,マンショ
ンモデルルームのパネル,雑誌広告において,原告の承諾を得ることなく原
告の氏名を表示しないで被告各イラストを掲載した行為は,いずれも原告の
氏名表示権を侵害する。
【被告らの主張】
原告の主張はいずれも争う。
3 争点( 3)(被告らの過失の有無)について
【原告の主張】
( 1) 被告伸和エージェンシーは,業務上日常頻繁に著作物を扱う広告代理店
として,デザイナー,イラストレーターを利用して広告宣伝物を作成する場
合でも,作成されたイラストが他者の著作権等の権利を侵害していないかに
ついて十分に注意し,使用許諾等の措置をとったか否か等について十分確認
すべき注意義務を負う。しかるに,同被告は,特段の注意を払うことがなか
った。そのため,原告の著作権,著作者人格権を侵害する被告各イラストが
作成され,衆人に流布されたものであって,同被告には少なくとも過失が認
められる。
( 2) 被告大和ハウス工業は,一般消費者に対してマンション等の住宅販売の
業務を行う者として,その販売活動に当たって広告物を作成し,また作成さ
せ,これを衆人の目に触れさせることを日常的に行っている。したがって,
同被告においては,自己が作成し,あるいは他者に依頼して作成させた広告
物のうちに著作権侵害品が含まれないように十分に注意し,使用許諾等の措
置をとったか否かについて十分確認して作成者に対しても指示を徹底する等
の措置を講じるべき注意義務がある。しかるに,同被告は,かかる注意義務
を怠ったから,同被告には少なくとも過失が認められる。
( 3) 被告らは,次のとおり主張する。すなわち,マンション読本作成の初期
段階においては ,原告各イラストのうち1点を含めたA3用紙2枚程度の ラ
「
フ図」の提供を受けたにとどまり ,「版下」の段階でイラストがオリジナル
であるか否かを確認した上でこれを使用し,自ら著作権侵害に関する注意義
務を果たした,また,被告らは,毎年数多く出版される書籍の中から著作権
侵害の対象となる著作物がないか否かについて調査すべき義務はない,と。
しかし,まず,マンション読本は,パンフレット等の通常の広告物とは異
なり,マンション販売の主要なツールとなる広告物として,被告大和ハウス
工業が企画のみならず編集についても強く関与しなければ製作し得ない内容
で構成された出版物である。次に,被告各イラストは,マンション読本中に
必要不可欠な主要キャラクターを表すものとして,繰り返し使用することが
予定されていた中核となる著作物である。また,被告大和ハウス工業は,自
身の発案,企画によるマンション読本の作成に当たって,自ら直接,イラス
トを含めたラフ図や版下のやりとりを行っていたと解される。そのような事
情に加えて,出版物の通常の編集工程やその中におけるラフ図や版下の意義
に照らせば ,被告らが本来なすべき確認義務を怠っていたことは明白である 。
また,原告著書以外に多数の出版物が発行されているといっても,原告著書
はマンション読本と同一の「住まい・インテリア」の分野における著書であ
り,また,話題書として書店においても大きな扱いを受けていたこと,さら
に,被告大和ハウス工業はまた,原告著書と同一分野の他の書籍の発行に深
く関わっているといった事情に照らせば,被告らに著作権侵害の事実を知り
得ず,調査義務もなかったとの弁解はいずれも認められるべきではない。
【被告らの主張】
原告の主張は争う。
( 1) 被告らが,Aから自己申告を受けるなど何らかの先行著作物に依拠した
ことが明らかである場合であれば,これを確認することは当然である。しか
し,本件においては,被告各イラストの作成者であるAから,当初「著作権
侵害のおそれはない」旨,すなわち先行著作物に依拠して作成したものでは
ない旨の申告を受けていた。こうした状況においては,被告らにおいて,使
用許諾等を取得したかの確認をなすべき契機ないしAをして使用許諾等取得
の措置をとらしめるべき契機がなく,こうした確認をしなかったことが過失
に当たるものではない。
( 2) また,被告らが,Aからの自己申告がなくとも,著作権侵害等のおそれ
がある先行著作物の有無を製作依頼者である被告ら自身においても確認すべ
き注意義務があるという点については,過去の膨大な数の出版物に加え,我
が国だけでも新たに毎年7∼8万点にのぼる多種多様な出版物が続々と発刊
される現状において(しかも著作物は出版物のみに限られないことは言をま
たない ),いかなる種類・範囲の先行著作物を,いかなる手段・方法をもっ
て確認すれば注意義務を果たしたといえるのか,そうした先行著作物に依拠
しない限り著作権侵害の問題が生じないこと,図柄等が類似しているのみで
は著作権侵害を把握できないことを考え合わせるならば,原告の主張は製作
依頼者に事実上不可能を強いるものである。
また,原告は,被告らは独自に少なくとも「住まい・インテリア」分野の
書籍を調査すべき義務があったと主張する 。しかし , 住まい・インテリア 」
「
分野とは「居住空間のコーディネート」を中心主題とする分野であると思料
されるところ,マンション読本は「住まい・インテリア」分野に属する冊子
ではなく ,「建物の性能や維持管理」に関する冊子である。したがって,被
告らが独自に「住まい・インテリア」分野の書籍を調査しようという契機・
端緒がない 。しかし ,それ以前の問題として ,原告の主張は ,原告著書が「 住
まい・インテリア」分野に属している書籍であるという理由から演繹して主
張しているだけで,結果から顧みているだけであり,結局,被告らはあらゆ
る分野の,しかも文献に限らないあらゆる著作物を調査しなければ,著作権
侵害のおそれを回避できないことになるのであって,被告らに事実上実現不
可能を強いる結果回避可能性のない主張であって,失当である。
( 3) 以上のとおり,被告らは,その具体的状況において,Aに対する注意義
務は果たしたものであるし,被告ら独自に,少なくとも「住まい・インテリ
ア」分野の先行著作物を調査すべき義務があるとは解されないから,被告ら
に過失はない。
4 争点( 4)(損害額)について
【原告の主張】
( 1) 著作財産権侵害に基づく損害 5722万円
別紙損害額算定計算書に記載のとおりである。
( 2) 著作者人格権侵害に基づく信用毀損・精神的苦痛による損害
300万円
( 3) 弁護士費用相当の損害 300万円
( 4) 合計 6322万円
原告は,被告らに対し,上記6322万円のうち3000万円の損害賠償
を求める。
【被告らの主張】
原告の主張は争う。
5 争点( 5)(謝罪広告の要否)
【原告の主張】
原告は,被告らの著作権,著作者人格権侵害行為及び一般不法行為により,
上記のとおり著しく社会的名望及び声望を傷つけられるのではないかとの信用
失墜の不安を生じ,また今後のイラストレーター等の活動について支障が生じ
ており,そのような回復措置としては,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同
目録の掲載条件の下で掲載することが不可欠である。
【被告らの主張】
上記のとおり,被告らは,A及び原告,原告関係者から著作権侵害のおそれ
がある旨指摘された以降,侵害か否かにかかわらず,迅速にマンション読本ほ
か被告各イラストが描かれている物品ないしデータ等の頒布 ,利用を停止した 。
こうした被告らの対応にかんがみれば,仮に侵害を前提としても,謝罪広告ま
で必要なほどの強度の違法性は認められない。
第4 当裁判所の判断
1 争点( 1)(被告各イラストは原告各イラストを複製し又は翻案したものであ
るか)について
( 1) 原告著書と原告各イラスト
証拠(甲5,13,14)及び弁論の全趣旨によれば,原告著書(甲5)
は,原告が,独り暮らしをする若い女性向けに平成16年2月ころ著した,
自分の居室をいかに居心地良くコーディネートするかということを主題とし
て,これを教示するいわゆるハウツウ本であること,原告各イラストの女性
は,原告著書の主題である「独り暮らしをする若い女性」を表す主人公(メ
インキャラクター)として原告著書で使用するために原告が創作したもので
あり,原告によれば,キャラクターを登場させることにより読者に「親しみ
やすさ」や「楽しさ」といったイメージを与え ,「本書への馴染みやすさ」
を高めるための工夫をしたものであること,原告各イラストは,①成人女性
をモチーフにし,頭部や手足に簡略化を施し,②いずれも茶色の細線で手書
きのタッチで描画し,線の内側(髪の毛,服装)には彩色があり,③本文内
容に合わせた複数のポーズ(立ち姿,座り姿,後ろ姿,横顔等 )・構図が存
在する ,以上の点を基本的な構想としたことが認められる 。そして ,原告は ,
原告各イラストを,以下の特徴を有するキャラクターとして表現したものと
主張している。
ア 頭頂部を髪で結い,極端ななで肩とした。すなわち,○や△に近い単純
なシルエットで(顔の○,結った髪の○,肩の△ ),視認性を高め,身体
のみ(若しくは上半身のみ)でも個性を発揮するための工夫。
イ 顔と身体をほぼ同じ幅とした。すなわち,顔のバランスをやや大きめに
し,顔の印象が弱くならないように工夫した。
ウ 手足が先端に行くほど細く,直立時の足はハの字に開いている。すなわ
ち,人体細部の簡略化により,図案の煩雑さを抑え,イラストを見やすく
した。
エ 人間に近いプロポーションを採用した(顔を1としてほぼ6等身 )。す
なわち,インテリアの本であることから,実際の空間や家具,住設備と比
率を合わせるための工夫である。
オ 身体の頭部は,次の特徴があるものとした。
(ア) 耳と顔の輪郭をつなげて,一続きに描いている。すなわち,輪郭を
デフォルメして単純化し,明快なラインでキャラクターとしての独自性
や個性を発揮するようにした。
(イ) 開けている目は,楕円形に二重線を引いて眼球とし,閉じている目
は,楕円形の下円弧線で表現した。すなわち,人間の目の形(楕円形)
をモチーフに,愛らしさ,親しみやすさを出した。
(ウ) 鼻や口は ,「∧ 」「―」のような1本線で表現した。すなわち,過
剰な表現を排し ,端的に表現することで ,強い印象になるよう工夫した 。
また,輪郭の形状と合わせ ,「シンプルでいて愛らしさがある」という
個性を発揮するよう工夫した。
(エ) 顔の左右にピンク(1色印刷の頁は茶色)のぼかした円を入れ,頬
の表現としている。すなわち,シンプルな顔に人物の温かさを添えるた
めの工夫である。
(オ) 前髪は輪郭内に線描きで表現している。すなわち,輪郭の外に出る
線(髪の毛)を排し,輪郭をより強く打ち出し,個性が発揮できるよう
にした。
(カ) 横顔の輪郭は ,円に近い卵形で鼻の部分を「 > 」の形状で突起させ ,
耳まで一続きの線で描いている。すなわち,横顔においても,顔の輪郭
を単純化し,明快なラインでキャラクターとしての個性を発揮するため
に工夫した。
(キ) 後ろ姿頭部は,正面と同じ輪郭に,数本の線で髪の毛を描き,表現
した。すなわち,明快なラインの輪郭を利用し,目鼻がなくとも主人公
であることを表すため工夫した。
( 2) マンション読本と被告各イラスト
前記争いのない事実等,証拠(甲7,乙3,4)及び弁論の全趣旨によれ
ば,マンション読本は,被告ダイワハウス工業が,平成17年5月ころ,マ
ンション購入希望者を対象にマンション購入のポイント等のノウハウを教示
するための冊子(マンション読本の表紙には「 Mansion How to Book」との記
載がある 。)として企画し,その作成を被告伸和エージェンシーに依頼した
ものであり,同被告は,イラストを含むデザインの製作をグラフィックデザ
イナーであるAに依頼し,A及び作画担当者であるBに被告各イラストを作
画させたこと,Aは,これからマンションを購入しようとしている結婚5年
目のひとつの家族 daddy 夫・おとうさん 〕 mum 妻・おかあさん 〕
( 〔 , 〔 及び sam
〔息子〕からなる家族)を主人公(メインキャラクター)として被告各イラ
ストを作画したものであること,原告が複製権・翻案権侵害を主張する被告
各イラストは,上記キャラクターのうち「 mum」であり,夫と幼い息子のい
る30歳の既婚女性と性格決定された上で描かれたものであることが認めら
れる。
そして,マンション読本において,被告各イラストの女性は,おおむね以
下の特徴を有するものとして描かれていることが認められる(甲7 )。
ア 頭頂部を髪で結い,なで肩とした。
イ 顔と身体をほぼ同じ幅とした。
ウ 手足は比較的細く,直立時の足はハの字に開いている。
エ 顔を1としてほぼ6等身である。
オ(ア) 耳と顔の輪郭をつなげて,一続きに描いている。
(イ) 開けている目は,楕円形に二重線を引いて眼球とし,閉じている目
は,楕円形の下円弧線で描いている。
(ウ) 鼻や口は ,「∧ 」「―」のような1本線で描いている。
(エ) 顔の左右にピンク(1色印刷の頁は茶色)のぼかした円を入れ,頬
の表現としている。
(オ) 前髪は輪郭内に線描きで表現している。
(カ) 横顔の輪郭は ,円に近い卵形で鼻の部分を「 > 」の形状で突起させ ,
耳まで一続きの線で描いている。
(キ) 後ろ姿頭部は ,正面と同じ輪郭に ,数本の線で髪の毛を描いている 。
( 3) 被告各イラストは原告各イラストについての原告の著作権を侵害するも
のか
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させ
るに足りるものを再製することをいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に
依拠し,かつ,原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができ
る別の著作物を創作することをいう。したがって,被告各イラストが原告各
イラストを複製又は翻案したものというためには,被告各イラストが原告各
イラストの特定の画面に描かれた女性の絵と細部まで一致することを要する
ものではないが,少なくとも,被告各イラストに描かれた女性が原告各イラ
ストに描かれた女性の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるこ
とを要するものというべきであり(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判
決・民集32巻6号1145頁,同平成9年7月17日第一小法廷判決・民
集51巻6号2714頁参照 ),その結果,被告各イラストの女性が原告各
イラストの女性を描いたものであることを想起させるに足りるものであるこ
とを要するものというべきである。
したがって,原告各イラストの著作権者である原告において,被告各イラ
ストが原告各イラストを複製又は翻案したと主張している本件においては,
被告各イラストが原告各イラストに依拠して作成されたことを前提として,
それが原告各イラストを複製したものか又は翻案したものかを区別すること
に実益はなく,少なくとも,原告各イラストのうち本質的な表現上の特徴と
認められる部分を被告各イラストが直接感得することができる程度に具備し
ているか否かを検討することをもって足りるというべきである。以下におい
ては,そのような観点から検討することとする。
( 4) 被告各イラストは原告各イラストに依拠したものであるか
ア そこで,まず,被告らが原告各イラストに依拠したものであるか否かに
ついて検討する。ここでいう「依拠」とは,ある者が他人の著作物に現実
にアクセスし,これを参考にして別の著作物を作成することをいう。
イ ところで,原告著書に描かれている原告各イラストは極めて多数にのぼ
り,被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのうちどのイラストに依拠
して作成されたものであるかを個別に特定して主張立証することは著しく
困難である。他方,原告著書のように,同一のコンセプトに基づき,かつ
同一の特徴を有する人物をひとつのキャラクターとして多様に表現する場
合,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストに依拠しながら,
その本質的な表現上の特徴を直接感得できるようなイラスト(すなわち,
同一のキャラクターを表現していると認められるイラスト)を新たに創作
するものと解される。したがって,後から描かれるイラストは,先に描か
れたイラストを原著作物とする二次的著作物と見られる場合が多いと考え
られる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与され
た創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする
部分には生じない 前掲最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決 )
( から ,
第三者が二次的著作物に依拠してその内容及び形式を覚知させるに足りる
ものを再製したとしても,その再製した部分が二次的著作物において新た
に付与された創作的部分ではなく,原著作物と共通しその実質を同じくす
る部分にすぎない場合には二次的著作物の著作権を侵害したものとはいえ
ない。しかし,二次的著作物に依拠したとしても,これにより原著作物の
内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとすれば,二次的著作
物を介して原著作物に依拠したものということができ,原著作物の著作権
を侵害することになる。また,一話完結の連載漫画などとは異なり,原告
著書のように1冊の著書に多数のキャラクターがイラストとして描かれて
いる場合に,どのイラストをもって原著作物とし,どのイラストをもって
二次的著作物とするかを判然と区別することは困難である。以上の点を考
慮すると,本件において,原告としては個々の被告各イラストについて,
原告各イラストのうち被告らが実際に依拠したイラストを厳密に特定し,
これを立証するまでの必要はなく,原告各イラストのうちのいずれかのイ
ラストに依拠し,そのイラストの内容及び形式を覚知させるに足りるもの
を再製し又はそのイラストの表現上の本質的な特徴を直接感得することが
できる別の著作物を創作したことを主張立証することをもって,原告各イ
ラストの著作権侵害の主張立証としては足りるというべきである。
ウ 以上の点を前提に,被告各イラストが原告各イラストに依拠して作成さ
れたものであるか否かについて判断するに,証拠(甲11)及び弁論の全
趣旨によれば,Aは ,「実は,約一年ほど前にハウスメーカーのダイワハ
ウス様の依頼を受けまして分譲マンションのノウハウ本 マンション読本 』
『
というものを制作したのですが,その際,X様の著書『独り暮しをつくる
100』のデザイン及びイラストを私一人の判断で無断で参考にさせて頂
き作成してしまいました。X様の著作権を侵害し何とお詫びをすればよい
のか,誠に申し訳ございません 。」と記載した電子メールを原告宛てに送
信したことが認められる。これによれば,Aは,原告各イラストが描かれ
た原告著書に接し,個々の被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのう
ちどのイラストに依拠して作成したものであるかを具体的に特定すること
はできないものの,原告各イラストのうちのいずれかのイラストを参考に
して個々の被告各イラストを描いたことが認められるから,被告各イラス
トが原告各イラストに依拠して描かれたものであることを優に認めること
ができる。
( 5) 被告各イラストは原告各イラストを複製又は翻案したものか
ア 上記( 4)のとおり,原告としては,個々の被告各イラストがそれぞれ原
告各イラストのうちどのイラストに依拠して作成したものであるかを具体
的に特定することは必ずしも必要でないが,個々の被告各イラストが個々
の原告各イラストを複製又は翻案したか否かを判断するためには ,最低限 ,
個々の被告各イラストが依拠したと考えられる原告各イラストを選択し,
特定した上で,個々の被告各イラストが,このように特定された個々の原
告各イラストの本質的な表現上の特徴を直接感得することができるか否か
を検討する必要がある。したがって,まず,個々の原告各イラストの本質
的な表現上の特徴がどこにあるのかを検討する必要がある。
そして,この点を検討するに当たっては,個々のイラストを他のイラス
トとは切り離してそれ自体からその本質的な特徴は何かを検討するのでは
なく,原告各イラスト全体を観察し,原告各イラストを通じてそのキャラ
クターとして表現されているものを特徴付ける際だった共通の特徴を抽出
し,これをもとに個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴がどこに
あるかを認定すべきものと解される。なぜなら,原告各イラストは,原告
が別紙原告イラスト目録で挙げるだけでも127点の多数に及ぶものであ
るところ,これらの各イラストは同一の女性(キャラクター)を表現する
ものとして同一のコンセプトの下に描かれたものであるから,そのキャラ
クターを特徴付ける共通の特徴を見いだすことができるのであり,その特
徴は,まさに個々の原告各イラストの本質的な表現を特徴づけるものとみ
るのが相当だからである。もちろん,キャラクターなるものは,そのイラ
ストの具体的表現から昇華した人物の人格ともいうべき抽象的概念であっ
て,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表
現したものということはできない(前掲最高裁平成9年7月17日第一小
法廷判決参照)から,キャラクター自体に著作物性を認めることはできな
い。しかし,個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴が何かを検討
する際に各イラストに共通する表現上の特徴を考慮することは,キャラク
ター自体に著作物性を認めることではないから,これを考慮することに何
らの問題はないというべきである。
イ そして,そのような観点から原告各イラストに共通して現れている特徴
を観察すると,原告各イラストの基本的なコンセプトは,前記のとおり,
「独り暮らしをする若い女性」であり,上記( 1)のアないしオを表現上の
特徴として描かれたものであることが認められる。これに対し,被告各イ
ラストは,マンション読本の表紙に,被告イラスト1を含む3人の人物が
描かれており,被告イラスト1の女性とその夫,その子である男児が描か
れている 。上記3名の人物について上記のような設定がされていることは ,
被告イラスト1には「 mum」と,男性には「 daddy」と,男児には「 sam」
とそれぞれ付記されていることから明らかである。これにより,上記キャ
ラクターのうち被告各イラストの mum」 , ( daddy)
「 は 夫 と幼い息子 sam)
(
のいる30歳という比較的若年の既婚女性であって,これから家族の住む
マンションを購入しようと考えている主婦である,などといった性格・環
境決定された上で描かれたものであることが認められる。このように,原
告各イラストと被告各イラストとは,その性格・環境決定の上で異なるコ
ンセプトをもって描かれたものということができる。
ウ そして,より具体的に原告各イラストの本質的な表現上の特徴は何かに
ついて検討すると,証拠(甲5,12,21)によれば,原告各イラスト
のうち ,その服装( 服装の種類 ,色彩等 ) 姿勢ないしポーズ ,体の向き ,
,
手足の動き等は原告各イラストごとに様々であり,原告各イラストに共通
する特徴を見いだすことはできず,原告各イラストにおいてこれらの各要
素をもって原告各イラストの本質的な表現上の特徴ということはできな
い。また,これらの各要素は,それだけを取り出してみても,単に,人物
を描く際に通常考慮され,具体的な状況に応じて適宜選択される事項であ
るから,原告各イラストの具体的な表現と離れて抽象的に服装,姿勢ない
しポーズ等をもって原告各イラストの本質的な表現上の特徴ということは
できない(もっとも,服装,姿勢ないしポーズ等の要素が特定のキャラク
ターと不可分一体に結びつき,それが具体的表現としての人物等の本質的
な表現上の特徴と見得る場合もあると考えられる。しかし,原告各イラス
トはそのような場合には当たらない 。 。したがって,これらの各要素に
)
おいて被告各イラストに共通するものがあるからといって,被告各イラス
トが原告各イラストの本質的な表現上の特徴を備えており,原告各イラス
トを複製又は翻案したものということはできない。
そうすると,原告各イラストに共通する表現上の特徴を見いだすとすれ
ば,頭部とりわけ顔面と細身の体型における具体的な表現であるというほ
かない。もっとも,このうち原告各イラストにおける体型について,原告
は,極端ななで肩としたこと ,○や△に近い単純なシルエットとしたこと ,
顔と身体をほぼ同じ幅としたこと,手足が先端に行くほど細く,直立時の
足はハの字に開いていること,人間に近いプロポーションを採用した(顔
を1としてほぼ6等身 ) というような特徴があると主張する 。なるほど ,
,
原告各イラストには,共通してそのような表現上の特徴の存在することが
認められる(ただし,原告各イラスト中には,直立時の足がハの字に開い
ていないものがある〔例えば,原告イラスト4,35〕など,必ずしも上
記各特徴を備えているとはいい難いものもある 。 。しかし,これらの各
)
特徴は,人物をイラストで単純化して表現する場合にごく一般的に見られ
るものというべきであり(乙4,11,12,14参照 ),それ自体を取
り出してみても,痩身の若い女性を単純化して描いたイラストとしての本
質的な表現上の特徴というべきものとはいえない。
エ 以上によれば,結局のところ,原告各イラストを特徴づける本質的な表
現上の特徴は,顔面を含む頭部に顕れた特徴ということにならざるを得な
い。そこで,原告各イラスト(甲5,12)を総合した場合の際だった表
現上の特徴を抽出すると,次のとおりと認められる(ただし,厳密には,
原告各イラスト中に以下の各特徴を備えないものもあるが,それらはごく
例外的なものと認められ,そのような例外的なイラストを考慮しても,原
告各イラストを特徴づけるものとみて差し支えないものと認められる 。 。
)
(ア) 顔の輪郭は,正面視略菱形であり鋭角的であること
(イ) 目は,その形状が横楕円形であり,ひとみ部分を横楕円形を3等分
するように縦線で区画して表し,かつ,ひとみ部分を黒く塗りつぶして
いない(白目のままである 。)こと
(ウ) 左右のほおに,略円形状のぼかしたピンク又は茶色のほお紅を入れ
ていること
(エ) 髪の毛を薄い茶色地に頭頂部から下方に向けて放射状に伸びた2な
いし3本の略直線で簡略に表現し,これを頭頂部付近で二重の略楕円形
状に束ねていること
(オ) 眉と口を「−」で,鼻を「∧ 」(横顔の場合は「<」又は「> 」)
で,耳を顔の輪郭と連続した半円形で表現していること
(カ) 顔の表情が感情に乏しく無表情で堅めであること
原告各イラストは,上記(ア)ないし(カ)の各特徴を有することにより総
じて,独特の透明感のあるクールなタッチで,知的で好奇心がおう盛な若
い独り暮らしの女性であることを強く印象づけるものとなっている。した
がって,この点が原告各イラストの本質的な表現上の特徴をなしているも
のといえる。
オ そこで,上記観点から,個々の被告各イラストが原告各イラストの本質
的な表現上の特徴を直接感得し得るものであり,これを複製又は翻案した
ものといえるか否か順次検討する。
(ア) 被告イラスト1
a 被告イラスト1は,両腕を曲げて腰の後ろに当て,足をややハの字
に開いた状態で直立している正面視の女性を描いたものであり,その
表現の上で以下のような特徴があることが認められる。
① 着用している服装は,赤いセーター様の上着,緑地に黒の格子模
様を施したスカート及び薄緑色のレギンスである。
② 体型は,なで肩で顔と身体がほぼ同じ幅であり,両足をハの字に
開いている。
③ 顔面を中心とする頭部の特徴は,以下のとおりである。
( a) 顔の輪郭は,下ぶくれの略円形(卵型)である。
( b) 目の形状は横長円形のカプセル形であり,ひとみの部分を横
長円形を3等分するように縦線で区画して表し,黒目を黒く塗り
つぶしている。
( c) 左右のほおに,略円形状のぼかしたピンクのほお紅を入れて
いる。
( d) 髪の毛を比較的濃い灰色地に数本の斜線をほどこすことで表
現し,これを頭頂部付近で二重の略楕円形状に束ねている。
( e) 眉を「͡」で,口を「 ‿ 」で,鼻を「∧」で,耳を顔の輪郭
と連続した半円形に表現している。
( f) 顔の表情が柔和で,ほほえんでいるようにみえる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト1が作成された
と主張する原告イラスト75は,その表現の上で以下のような特徴が
あることが認められる。
① 着用している服装は,赤いセーター様の上着,白地に灰色の格子
模様を施したスカート及び黒色のレギンスである。
② 体型は,なで肩で顔と身体がほぼ同じ幅であり,両足はハの字に
開いている。
③ 顔面を中心とする頭部の特徴は以下のとおりであり,原告各イラ
ストの特徴である前記エ(ア)ないし(オ)の各特徴を備えている。
( a) 顔の輪郭は,正面視略菱形であり鋭角的である。
( b) 目は,その形状が横楕円形であり,ひとみの部分を横楕円形
を3等分するように縦線で区画して表し,黒目を黒く塗りつぶし
ていない(白目のままである 。 。
)
( c) 左右のほおに,略円形状のピンクのぼかしたほお紅を入れて
いる。
( d) 髪の毛を薄い茶色地に頭頂部から下方に向けて放射状に伸び
た2本の直線で表現し,これを頭頂部付近で二重の略楕円形状に
束ねている。
( e) 眉と口を「−」で,鼻を「∧」で,耳を顔の輪郭と連続した
半円形に表現している
( f) 顔の表情は無表情で堅めであり,知的で引き締まっている。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト1は,原告イラスト75と対
比して,着用している服装の点で類似しており,また,顔面を中心と
する頭部の特徴においても ,髪の毛を灰色地に引いた略直線で表現し ,
これを頭頂部付近で二重の略楕円形状に束ねていること,顔の左右に
略円形状のピンクのぼかしたほお紅を入れていること等において,原
告イラスト1と共通するところがあり,これらの各要素が共通するこ
とによって一見すると似たような印象を受ける。しかし,服装(服装
の種類,色彩等 ),姿勢ないしポーズ等が,原告イラスト1を含む原
告各イラストの特徴をなすものでないことは前示のとおりである。ま
た,原告イラスト1が眉,口を「−」と直線で表現するとともに,目
のひとみ部分を黒く塗りつぶしていないのに対し,被告イラスト1に
おいては,眉及び口をそれぞれ「͡ 」 「 ‿ 」で表現するとともに,目
,
のひとみ部分を黒く塗りつぶしている点,髪の毛の描き方が,原告イ
ラスト75においては,薄い茶色地に頭頂部から下方に向けて放射状
に伸びた2本の直線で表現しているのに対し,被告イラスト1におい
ては,比較的濃い灰色地に数本の斜線をほどこすことで表現している
点,顔の輪郭が,原告各イラストでは菱形のやや鋭角的であるのに対
し,被告各イラストでは下ぶくれの略円形(卵型)である点や,表情
の点において相違するのであって,このような相違によって,原告イ
ラスト75が,独特の透明感のあるクールなタッチで,知的で好奇心
がおう盛な若い独り暮らしの女性であることを強く印象づけるものと
なっているのに対し,被告イラスト1は,比較的平凡なタッチで,柔
和で優しく親しみやすい若い母親を印象づけるものになっているとい
える。以上より,上記両イラストは,その特徴的な部分において相当
顕著に異なるものというべきであり,その結果,被告イラスト1は,
原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができ
ず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,
被告イラスト1は,原告イラスト75に依拠して描かれたものである
と推認されるが,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえ
ない。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト77を挙げる 。しかし ,
同イラストは,服装が赤いワンピースであること,頭髪が薄地に3本
の上下の線で表現されているほかは,原告イラスト75とほぼ同一で
あって,被告イラスト1は,原告イラスト77の本質的な表現上の特
徴を直接感得することができるものとはいえない。
(イ) 被告イラスト2
a 被告イラスト2は,被告イラスト1の女性(服装,体型は同一であ
る。)に眼鏡を着用させ,右腕をひじから折り曲げて人差指で上記眼
鏡を支え,左腕に「 Mansion How to Book」と題する冊子を抱え,足を
ややハの字に開いた状態で直立している正面視の女性を描いたもので
ある 。(なお,前記ウで説示したとおり,原告各イラストにおいて,
服装,姿勢ないしポーズ,体の向き,手足の動き等は様々であり,こ
れらの各要素をもって原告各イラストの本質的な表現上の特徴という
ことはできず,被告各イラストにおいてこれらの要素において共通す
るところがあるとしても,これをもって原告各イラストの本質的な表
現上の特徴を直接感得することができるものではない。したがって,
以下においては,被告各イラストにおけるこれらの要素の摘示を省略
することがある 。)
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト2が作成された
と主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記載
したような特徴があることが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト2は,原告イラスト75と対
比して,上記(ア)cで認定したような各共通点があるが,他方,同認
定の相違点のほか,眼鏡着用の有無,手足の動き等における相違点が
ある。このうち,眼鏡着用の有無,手足の動き等の相違点は重視すべ
きではないが(前記ウ ),顔面を含む頭部の特徴において,前記(ア)
cで認定したような相違点があり,その特徴的な部分において相当顕
著に異なるものというべきであり,その結果,被告イラスト2は,原
告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができ
ず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,
被告イラスト2は,原告イラスト75に依拠して描かれたものである
と推認されるが,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえ
ない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト69を挙げる。同イラ
ストは,原告各イラストの女性に眼鏡を着用させ,右人差指で眼鏡を
支え,左腕に冊子又はファイル様のものを抱えている胸部より上の部
分を描いたものであり,眼鏡を着用していることや,姿勢・ポーズ,
手足の動きの点で被告イラスト2と共通する部分がある。しかし,服
装や姿勢・仕草の点が原告各イラストの特徴をなすものでないことは
前示のとおりである。また,原告イラスト69の女性の顔面を含む頭
部について,原告イラスト75と同一の特徴があるから,上記cの説
示に照らし,被告イラスト2は,原告イラスト75の本質的な表現上
の特徴を直接感得することができない。
(ウ) 被告イラスト3
a 被告イラスト3は,自転車を運転している被告各イラストの女性を
右側面から描いたものであり,その表現の上で以下のような特徴があ
ることが認められる。
① 体型は,顔と身体がほぼ同じ幅のやせ形である。
② 顔面を中心とする頭部の特徴は以下のとおりである。
( a) 顔面は,右側方視で下ぶくれの略円形(卵型)である。
( b) 目の形状は横長円形のカプセル形であり,ひとみの部分を横
長円形を3等分するように縦線で区画して表し,黒目を黒く塗り
つぶしている。
( c) 右のほおに,略円形状のぼかしたピンクのほお紅を入れてい
る。
( d) 髪の毛を比較的濃い灰色地に数本の斜線をほどこすことで表
現し,これを頭頂部付近で二重の略楕円形状に束ねている。
( e) 眉を「͡」で,口を右下がりの「−」で,鼻を「>」で,耳
を顔の輪郭と連続した半円形に表現している。
( f) 顔の表情が柔和で,ほほえんでいるようにみえる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト3が作成された
と主張する原告イラスト85は,アームチェアに腰掛け,机上のノー
トパソコンを操作している原告各イラストの女性を左側面から茶色一
色で描いたもので,その表現の上で以下のような特徴があることが認
められる。
① 女性の体型は顔と身体がほぼ同じ幅のやせ形である。
② 顔面を中心とする頭部の特徴は以下のとおりである。
( a) 顔の輪郭は,左側面視で略円形の卵形である。
( b) 目の形状は目を閉じた状態の「 ‿ 」にまつげを表す二本線を
その下方に配している。
( c) 顔の左側面に略円形状のぼかした茶色のほお紅を入れている 。
( d) 髪の毛を略円形状の薄茶色地に頭頂部から顔面側方付近に向
けて放射状に伸びた2本の直線で表現し,髪の毛を頭頂部付近で
略楕円形に束ねている。
( e) 眉と口を直線で,鼻を「<」で,耳を顔の輪郭と連続した半
円形で表現している
( f) 顔の表情は瞑想しているかのような表情であり,笑顔ではな
い。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト3は女性が自転車を運転して
いるところを右側面から描いたのに対し,原告イラスト85は女性が
いすに座ってノートパソコンを操作しているところを左側面から描い
たものであって,その置かれた状況が異なる。他方,被告イラスト3
は,顔面を中心とする頭部の特徴において,髪の毛を薄地に引いた線
で表現し,これを頭頂部付近で楕円形状に束ねていること,顔面に略
円形状のぼかしたほお紅を入れている点において,原告イラスト85
と共通するところがある。しかし,原告イラスト85が眉,口を直線
で表現するとともに,目を閉じた状態であるのに対し,被告イラスト
3においては,眉及び口をそれぞれ「͡」及び右下がりの「−」で表
現するとともに,目のひとみ部分を黒く塗りつぶしている点,顔の輪
郭及び表情の点で相違し,この相違によって,原告イラスト85にお
いては,独特の透明感のあるタッチで,知的で好奇心がおう盛な若い
独り暮らしの女性であることを印象づけるものとなっているのに対
し,被告イラスト3は,比較的平凡なタッチで,柔和で優しく親しみ
やすい若い母親を印象づけるものになっているといえる 。したがって ,
この点で,被告イラスト3は,原告イラスト85の本質的な表現上の
特徴を直接感得することができず,同一のキャラクターを表現したも
のとはいえない。したがって,被告イラスト3は,原告イラスト85
に依拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラスト85を
複製又は翻案したものとはいえない。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト122 ,70を挙げる 。
しかし,これらの原告イラストも,被告イラスト3とは置かれた状況
が異なる上,上記cで認定したところと同様の相違点があることが認
められるから,被告イラスト3は,これらの原告イラストの本質的な
表現上の特徴を直接感得することができない。
(エ) 被告イラスト4
a 被告イラスト4は,被告イラスト1の女性を後方から描いたもので
あり,右手に息子( sam)の左手をつなぎ,左手は左腕ひじを曲げて
左方に伸ばし,右足を地面に付け,左足を後ろにけり上げているもの
である。その服装,体型は被告イラスト1と同一である。頭部は,後
頭部のみが描かれたものであるが,表現上以下の特徴があることが認
められる。
(a ) 頭の輪郭は,略円形である。
( b) 髪の毛は,比較的濃い灰色地に頭頂部から下方に向けて放射状
に伸びた4本の曲線で表現し,髪の毛を頭頂部付近で二重の略楕円
形状に束ねている。
(c ) 耳を顔の輪郭と連続した半円形で表現している。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト4が作成された
と主張する原告イラスト6は,黒いワンピースを着用し,右腕のひじ
にハンドバッグをかけて歩いている原告各イラストの女性を後方から
描いたものである。その体型は原告イラスト75と同一である。頭部
は,後頭部のみが描かれたものであるが,表現上以下のような特徴が
あることが認められる。
(a) 頭の輪郭は,縦長の略楕円形である。
( b) 髪の毛を略楕円形状の薄茶色地に頭頂部から下方に向けて放射
状に伸びた3本の直線ないし緩やかな曲線で表現し,髪の毛を頭頂
部付近で略楕円形に束ねている。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト4は女性が子供と手をつない
で散歩をしているような様子を後方から描いたのに対し,原告イラス
ト6はハンドバッグを下げた女性が道を歩いているところを後方から
描いたものであって,その置かれた状況が異なる。他方,顔面を含む
頭部の形状が,被告イラスト4は略円形であるのに対し,原告イラス
ト6は縦長の略楕円形であること,髪の毛の描き方において軽視でき
ない相違点があり,この相違点により,原告イラスト6が独特の透明
感のあるクールなタッチで,好奇心がおう盛な独り暮らしの若い女性
であることを印象づけるものとなっているのに対し,被告イラスト4
は,比較的平凡なタッチで,優しい若い母親を印象づけるものになっ
ているといえる。したがって,この点で,被告イラスト4は,原告イ
ラスト6の本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一
のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,被告イラ
スト4は,原告イラスト6に依拠して描かれたものであると推認され
るが,原告イラスト6を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト75,97,61を挙
げる。しかし,原告イラスト75は服装,体型において被告イラスト
4と類似しているが,これらの点は原告イラスト75を特徴づけるも
のではない。原告イラスト97,61は,いずれも原告各イラストの
女性を後方から描いたものであるが,これも頭部の形状や髪の毛の描
き方において被告イラスト4と顕著に相違するものであり,上記cの
説示に照らし,被告イラスト4とは異なる印象を与えるものである。
したがって,被告イラスト4は,原告イラスト75,97,61の本
質的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(オ) 被告イラスト5
a 被告イラスト5は,顔面をやや上方に向けて直立した被告各イラス
トの女性を右側面から描いたものであり,両腕をやや後方にまっすぐ
伸ばして手を体に沿わせている。体型は他の被告各イラストと同様,
顔と身体がほぼ同じ幅のやせ形でなで肩に描かれている。顔面を含む
頭部について,表現上以下の特徴があることが認められる。
(a ) 顔の輪郭は,右側方視で下ぶくれの略円形(卵型)である。
( b) 目の形状は横長円形のカプセル形であり,ひとみの部分を横長
円形を3等分するように縦線で区画して表し,黒目を黒く塗りつぶ
している。
(c ) 右のほおに ,略円形状のぼかしたピンクのほお紅を入れている 。
( d) 髪の毛を比較的濃い灰色地に数本の斜線をほどこすことで表現
し,これを頭頂部付近で二重の略楕円形状に束ねている。
( e) 眉を「͡」で,口を右下がりの「−」で,鼻を「>」で,耳を
顔の輪郭と連続した半円形に表現している。
(f ) 顔の表情が柔和で,ほほえんでいるようにみえる。
b これに対し,被告がこれに依拠したと原告が主張する原告イラスト
47は,顔面をやや上方に向けて直立した原告各イラストの女性を右
側面から描いたものであり,両腕を伸ばしてやや後ろにそらすように
している。その体型は,顔と身体がほぼ同じ幅のやせ形でなで肩に描
かれている。顔面を含む頭部について,表現上以下の特徴があること
が認められる。
(a) 顔の輪郭は,右側方視で略円形の卵形である。
( b) 目の形状は横楕円形であり,ひとみの部分を横長円形を3等分
するように縦線で区画して表し,黒目を塗りつぶしていない(白目
のままである 。 。
)
( c) 髪の毛を比較的薄い茶色地に頭頂部から下方に向けて放射状に
伸びた2本の直線で表現し,髪の毛を頭頂部付近で二重の略楕円形
に束ねている。
( e) 眉を「−」で,口を「−」で,鼻を「>」で,耳を顔の輪郭と
連続した半円形で表現している。
(f ) 顔の表情が堅く無表情である。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト5は,原告イラスト47とほ
ぼ同様の体型の女性を描いている。また,顔面を中心とする頭部の特
徴において,原告イラスト47は髪の毛を薄地に引いた線で表現し,
髪の毛を頭頂部付近で楕円形状に束ねている点において,被告イラス
ト5と共通するところがある。しかし,原告イラスト47が眉,口を
「−」で表現するとともに,目のひとみ部分を黒く塗りつぶしていな
い(白目のままである 。)のに対し,被告イラスト5においては,眉
及び口をそれぞれ「͡ 」,右下がりの「−」で表現するとともに,目
のひとみ部分を黒く塗りつぶしている点で相違し ,この相違によって ,
原告イラスト47においては ,独特の透明感のあるクールなタッチで ,
知的で好奇心がおう盛な若い独り暮らしの女性であることを印象づけ
るものとなっているのに対し,被告イラスト5は,比較的平凡なタッ
チで,柔和で優しく親しみやすい若い母親を印象づけるものになって
いるといえる。したがって,この点で,被告イラスト5は,原告イラ
スト47の本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一
のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,被告イラ
スト5は,原告イラスト47に依拠して描かれたものであると推認さ
れるが,原告イラスト47を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト31を挙げる 。しかし ,
同イラストも,被告イラスト5と上記と同様の相違点があることが認
められるから,被告イラスト5は,上記の原告イラスト31の本質的
な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(カ) 被告イラスト6
a 被告イラスト6は,机に両ひじをつき,両手のひらをあごに当てて
目を閉じ考え事をしている被告各イラストの女性の上半身を正面から
描いたものであり,顔面を含む頭部について,表現上以下の特徴があ
ることが認められる。
(a ) 顔の輪郭は,下ぶくれの略円形(卵型)である。
( b) 目を半円下半分状に閉じ,その下方にまつげを表す短線が表示
されている。
( c) 左右のほおに,略円形状のぼかしたピンクのほお紅を入れてい
る。
( d) 髪の毛を比較的濃い灰色地に数本の斜線をほどこすことで表現
し,これを頭頂部付近で二重の略楕円形状に束ねている。
( e) 眉を「−」で,口を「͡」で,鼻を「∧」で,耳を顔の輪郭と
連続した半円形に表現している。
(f ) 顔の表情は無表情であるが,柔和である。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト6が作成された
と主張する原告イラスト89は,左手をほおに当てて目を閉じている
原告各イラストの女性の上半身を描いたものであり,顔面を含む頭部
について,表現上以下の特徴があることが認められる。
(a) 顔の輪郭がやや略菱形で鋭角的である。
( b) 目を下向きの曲線状に閉じ,その下方にまつげを表す短線が表
示されている。
(c ) 顔の左右に略円形状のぼかした茶色のほお紅を入れている。
( d) 髪の毛を茶色地に頭頂部から下方に放射状に伸びる2本の直線
で表現し,髪の毛を頭頂部付近で二重の略楕円形状に束ねている。
(e ) 眉をやや八の字形の「 − 」で ,口をやや右下下がりの「 − 」で ,
鼻を「∧」で,耳を顔の輪郭と連続した半円形で表現している。
( f) 顔の表情は考え事をしているかのようであるが,ほほ笑むよう
柔和な表情に見える。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト6は,原告イラスト89と同
様,手のひらをあごないしほおに当てて考え事をしている様子を描い
たものである。しかし,顔面を含む頭部について,顔の輪郭,眉・口
の形状,表情の点で軽視できない相違点があり,その結果,原告イラ
スト89は,独特の透明感のあるクールなタッチで,若い独り暮らし
の女性であることを印象づけるものとなっているのに対し,被告イラ
スト6は,比較的平凡なタッチで,若い母親であることを印象づける
ものになっているといえる。したがって,この点で,被告イラスト6
は,原告イラスト89の本質的な表現上の特徴を直接感得することが
できず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがっ
て,被告イラスト6は,原告イラスト89に依拠して描かれたもので
あると推認されるが,原告イラスト89を複製又は翻案したものとは
いえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト126を挙げる。同イ
ラストは,原告イラスト89とは逆に右手のひらを右ほおに当て,顔
を右側にやや傾け,植栽された植木鉢を左手で抱えるようにしている
ところを描いたものであるが,被告イラスト6とは顔の輪郭や眉の配
置,口の形状が異なり,その結果,上記cと同様の異なる印象を与え
るものと認められるから,被告イラスト6は,上記の原告イラスト1
26の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはい
えない。
(キ) 被告イラスト7
a 被告イラスト7は,子供( sam)の両肩に手を置き,夫( daddy)か
ら両肩に手を置かれている直立した被告各イラストの女性を描いたも
のであり,顔面を含む頭部について,被告イラスト1(前記(ア)a)
と同様の表現上の特徴があることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト7が作成された
と主張する原告イラスト77は,頭頂部から下方に放射状に伸びる頭
髪が3本で表現されているほかは,原告イラスト75(上記頭髪が2
本で表現されている 。)とほぼ同一であり(前記(ア)b ),その表現
の上で,前記(ア)bに記載したような特徴があることが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト7は,前記(ア)cと同様の理
由により,原告イラスト77の本質的な表現上の特徴を直接感得する
ことができず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。し
たがって,被告イラスト7は,原告イラスト77に依拠して描かれた
ものであると推認されるが,原告イラスト77を複製又は翻案したも
のとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト3を挙げる。同イラス
トは,原告各イラストの女性が両手に買い物袋を提げて直立した姿勢
を描いたものであるが,その顔面を含む頭部には原告イラスト75と
同様の特徴があり,上記cの説示に照らして,被告イラスト7は,原
告イラスト3の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるも
のとはいえない。
(ク) 被告イラスト8
a 被告イラスト8は,子供( sam)と夫( daddy)とともに,デイパッ
クを背負い,ヘルメットを着用して直立した被告各イラストの女性を
描いたものであり,ヘルメットを着用しているため頭部及び顔面側面
部が隠れているものの ,顔面を含む頭部について ,被告イラスト1 前
(
記(ア)a)と同様の表現上の特徴があることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト8が作成された
と主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記載
したような特徴があることが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト8と原告イラスト75は,ヘ
ルメットにより隠された頭部の一部を除き,前記(ア)cで説示した相
違点があり,同説示と同様の理由により,被告イラスト8は,原告イ
ラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同
一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,被告イ
ラスト8は,原告イラスト75に依拠して描かれたものであると推認
されるが,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト73を挙げる。同イラ
ストは,原告各イラストの女性がエプロンを着用し,直立してやや左
方向に体を傾け,左手を他の女性の右手と重ね合わせてかけ声を掛け
合っているところを描いたものであるが,その顔面を含む頭部には原
告イラスト75と同様の特徴があり(ただし,顔の輪郭が他の原告各
イラストとは異なりより丸顔であるが,他の特徴は同じである 。 ,
)
上記説示に照らして,被告イラスト8は,原告イラスト73の本質的
な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない(原告
イラスト73の女性の顔の輪郭はより丸顔であるが,他の相違点を考
慮すると,この点で被告イラスト8により類似するとしても,原告イ
ラスト73の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるもの
とはいえないとの上記判断を左右しない 。 。
)
(ケ) 被告イラスト9
a 被告イラスト9は,子供( sam)を中心に夫( daddy)と並んで直立
した被告イラスト1と同じ女性を描いたものであり,顔面を含む頭部
について,被告イラスト1(前記(ア)a)と同様の表現上の特徴があ
ることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト9が作成された
と主張する原告イラスト75は,前記(ア)bと同様の特徴があること
が認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト9と原告イラスト75は,前
記(ア)cで説示した相違点があり,同説示と同様の理由により,被告
イラスト9は,原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得
することができるものとはいえない 。したがって ,被告イラスト9は ,
原告イラスト75に依拠して描かれたものであると推認されるが,原
告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト73を挙げる。同イラ
ストは,上記(ク)dの特徴があり,上記説示に照らして,被告イラス
ト9は,原告イラスト73の本質的な表現上の特徴を直接感得するこ
とができるものとはいえない。
(コ) 被告イラスト10
a 被告イラスト10は,後ろ向きに直立し,額縁を壁に掛けようと両
手を頭付近に掲げた被告各イラストの女性を描いたものであり ,服装 ,
姿勢・ポーズ及び手足の動きを除き,被告イラスト4(前記(エ)a)
と同様の表現上の特徴があることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト10が作成され
たと主張する原告イラスト49は,後ろ向きに直立し,両手を腰に当
てた原告各イラストの女性を描いたものであり,頭部は原告イラスト
6 前記(エ)b )
( と同様の表現上の特徴を有することが認められる た
(
だし,頭頂部から下方に放射状に描かれた髪の毛を数は原告イラスト
6が3本であるのに対し,原告イラスト49は2本である 。 。
)
c 上記a及びbによれば,被告イラスト10と原告イラスト49は,
その頭部の描き方において前記(エ)cと同様の相違点があり,同説示
と同様の理由により,被告イラスト10は,原告イラスト75の本質
的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一のキャラクター
を表現したものとはいえない。したがって,被告イラスト10は,原
告イラスト49に依拠して描かれたものであると推認されるが,原告
イラスト49を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト105を挙げる。同イ
ラストは,後ろ向きに直立し背伸びをしている原告各イラストの女性
が,小首を左にかしげて右手を挙げて壁紙を貼っているところを描い
たものであるが,その頭部の描き方において原告イラスト6と同様の
特徴があり,上記説示に照らして,被告イラスト10は,原告イラス
ト105の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるものと
はいえない。
(サ) 被告イラスト11
a 被告イラスト11は,机の上で本を両手で持って読書している被告
各イラストの女性の上半身を正面から描いたものであり,顔面を含む
頭部について,目が閉じているように描かれているところを除き,被
告イラスト1と同様の表現上の特徴があることが認められる(前記
(ア)a参照。目の特徴は被告イラスト6と同様である。前記(カ)a参
照)。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト11が作成され
たと主張する原告イラスト100は,ソファに腰をおろして両手に持
った本を膝に置き,読書している原告各イラストの女性を正面から描
いたものであり,顔面を含む頭部について,目が閉じているように描
かれているところを除き,原告イラスト75と同様の表現上の特徴が
あることが認められる(前記(ア)b参照。目の特徴は原告イラスト8
9と同様である。前記(カ)b参照 )。
c 上記a及びbによれば ,被告イラスト11と原告イラスト100は ,
読書をしているという状況は同じであるが,その顔面の描き方におい
て前記(ア)cと同様の相違点があり,同説示と同様の理由により,被
告イラスト11は,原告イラスト100の本質的な表現上の特徴を直
接感得することができず,同一のキャラクターを表現したものとはい
えない。したがって,被告イラスト11は,原告イラスト100に依
拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラスト100を複
製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト68を挙げる。同イラ
ストは,ソファに腰をかけて両手に持った本を膝に置き,読書をして
いる被告各イラストの女性を描いている点で同様であり,その顔面を
含む頭部の特徴としては,目にまつ毛が描かれていないところが原告
イラスト100と異なるのみである。したがって,上記cの説示に照
らし,被告イラスト11は,原告イラスト68の本質的な表現上の特
徴を直接感得することができるものとはいえない。
(シ) 被告イラスト12
a 被告イラスト12は,縞模様のシャツに赤いカーディガン様のもの
を羽織り,灰青色のパンツを着用して直立した被告各イラストの女性
が,右足を左足の前に交差させ,左手を右肘に当て,右手を顎に当て
て考え事をしているかのように描いたものであり,顔面を含む頭部に
ついて,以下の表現上の特徴がある。
( a) 顔の輪郭や,目・鼻・耳・髪の毛及びほお紅の描き方は,被告
イラスト1(前記(ア)a)と同一である。
( b) 眉毛が顔中心から外側に向けてやや上向きの直線で描かれ,口
も左上がりの直線で描かれている。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト12が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記
載したような特徴がある。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト12は,顔面を含む頭部の描
き方,とりわけ顔の輪郭や目の描き方において原告イラスト75と顕
著な相違があり,その結果,被告イラスト12は,原告イラスト75
とは顕著な印象上の違いがあり,その本質的な表現上の特徴を直接感
得することができず,同一のキャラクターを表現したものとはいえな
い。したがって,被告イラスト12は,原告イラスト75に依拠して
描かれたものであると推認されるが,原告イラスト75を複製又は翻
案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト63,46を挙げる。
原告イラスト63は,パジャマを着て頭部にヘアキャップを着用した
原告各イラストの女性が,右手のひらをほおに当てて寝具を見下ろし
ているところを左側面から描いたものであり,原告イラスト46は,
直立した原告各イラストの女性が,右手を左肘に当て,左手のひらを
口元に当てて目を閉じているところを右側面から描いたものであり,
描かれたポーズが被告イラスト12と一部類似していなくもない。し
かし,顔の輪郭や目の描き方等において相当に異なるものといわざる
を得ず,その結果,上記cのような印象上の違いが生じている。した
がって,被告イラスト12が,原告イラスト63,46の本質的な表
現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(ス) 被告イラスト13
a 被告イラスト13は,子供( sam)を中心に夫( daddy)と並んでソ
ファに腰掛け ,団欒している様子を右斜め上方から描いたものであり ,
顔面を含む頭部について,被告イラスト5と同様の特徴を有するもの
と認められる(前記(オ)a )。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト13が作成され
たと主張する原告イラスト59は,ソファに一人で腰をかけている原
告各イラストの女性が,膝に載せた本を両手で持って読書していると
ころを右斜め上方から描いたものであり,顔を上げた角度を除き,原
告イラスト47と同様の特徴を有するものと認められる。
c 前記(オ)cのとおり,被告イラスト13と同様の特徴を有する被告
イラスト5は,原告イラスト47を複製又は翻案したものとはいえな
い。そして,上記a及びbによれば,被告イラスト13と原告イラス
ト59は ,前記(オ)cで認定したのと同様の相違点があると認められ ,
同説示と同様の理由により,被告イラスト13は,原告イラスト59
の本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一のキャラ
クターを表現したものとはいえない。したがって,被告イラスト13
は,原告イラスト59に依拠して描かれたものであると推認されるが ,
原告イラスト59を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト13を挙げる。同イラ
ストは,床上の座布団に足を投げ出して座り,右手にケーキを載せた
皿を持ち,左手にケーキを突き刺したフォーク様のものを持った原告
各イラストの女性を右斜め上方から描いたものである(ただし,顔面
は正面を向いている 。 。原告イラスト13は,その頭部の描き方に
)
おいて原告イラスト75と同様の特徴があり,上記c及び(ア)cの説
示に照らして,被告イラスト13は,原告イラスト13の本質的な表
現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(セ) 被告イラスト14
a 被告イラスト14は,被告イラスト13を反転させたものであり,
被告各イラストの女性及びその夫( daddy)の未来における年老いた
姿と思わせる描き方となっていることが認められる。被告イラスト1
4のその他の特徴は被告イラスト13と同じであるであることが認め
られる。
b これに対し,原告は,被告イラスト14が,被告イラスト13と同
様,原告イラスト59,13に依拠してこれを複製・翻案したもので
あると主張する。
c しかし,上記(ス)c,dで認定説示したところと同様,被告イラス
ト14は,原告イラスト59,13の本質的な表現上の特徴を直接感
得することができるものとはいえない。
(ソ) 被告イラスト15
a 被告イラスト15は,アームチェアに腰をかけて机に向い,ペンを
持って書き物をしている被告各イラストの女性を左側方から描いたも
のであり,顔面を含む頭部について,被告イラスト3(前記(ウ)a)
と同様の特徴があることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト15が作成され
たと主張する原告イラスト85は,その表現の上で,前記(ウ)bで認
定した特徴を有する。
c 前記(ウ)cのとおり,被告イラスト3は,原告イラスト85を複製
又は翻案したものとはいえない。そして,上記a及びbによれば,被
告イラスト15は原告イラスト85と同様,アームチェアに腰をかけ
た女性が机に向かって作業をしている(原告イラスト85ではノート
パソコンを操作している 。)点で同じであるが,前記(ウ)cで認定説
示した相違点があり,同説示と同様の理由により,被告イラスト15
は,原告イラスト85の本質的な表現上の特徴を直接感得することが
できるものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト122を挙げる。同イ
ラストは,床に正座して左手に碗を,右手に箸を持って食事をしてい
る原告各イラストの女性を左側方から描いたものであり。原告イラス
ト122は,その頭部の描き方において原告イラスト85と同様の特
徴があり(ただし,原告イラスト122では目を開けている 。 ,上
)
記c及び(ウ)cの説示に照らして,被告イラスト15は,原告イラス
ト122の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるものと
はいえない。
(タ) 被告イラスト16
a 被告イラスト16は,夫( daddy)に腕枕をしてもらって,仰向け
に横になって目を閉じているいる被告各イラストの女性を上方から描
いたものであり,顔面を含む頭部について,被告イラスト11(前記
(サ)a〔 (ア)a ,(カ)a 〕 と同様の特徴を有することが認められる 。
)
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト16が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bと同
様の特徴があることが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト16と原告イラスト75は,
前記(ア)cで説示した相違点に加え,目を閉じているか否かという相
違があり,同説示と同様の理由により,被告イラスト16は,原告イ
ラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同
一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,被告イ
ラスト16は,原告イラスト75に依拠して描かれたものであると推
認されるが ,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえない 。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト111 ,96を挙げる 。
原告イラスト111は,仰向けに大の字になって横になっている原告
各イラストの女性を描いたものであり(ただし,目は開けている 。 ,
)
原告イラスト96は,机の上の花瓶等の配置を変えている目を閉じた
原告各イラストの女性を描いたものである。しかし,これらのイラス
トの顔面を含む頭部は,原告イラスト75,89と同様の特徴を備え
ており,上記cの説示のほか,前記(ア)c,(カ)cの各認定説示に照
らし,被告イラスト16が原告イラスト111,96の本質的な表現
上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(チ) 被告イラスト17
a 被告イラスト17は,目を閉じて深呼吸をするように両手を斜め下
に広げて直立している被告各イラストの女性を描いたものである。顔
面を含む頭部について,被告イラスト1(前記(ア)a ),11(前記
(サ)a〔(ア)a,(カ)a 〕 ,16と同様の特徴を有することが認め
)
られる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト17が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記
載したような特徴があることが認められる。
c 前記(ア)cのとおり,被告イラスト17と同様の特徴を有する被告
イラスト1は原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえな
い。上記a及びbによれば ,被告イラスト17と原告イラスト75は ,
前記(ア)cで説示した相違点及び目を閉じているか否かという相違が
あり,同説示と同様の理由により,被告イラスト17は,原告イラス
ト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一の
キャラクターを表現したものとはいえない。したがって,被告イラス
ト17は,原告イラスト75に依拠して描かれたものであると推認さ
れるが,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト96を挙げる。原告イ
ラスト96は,上記(タ)dで認定した特徴を備えており,上記cの説
示のほか,前記(ア)c,(カ)cの各認定説示に照らし,被告イラスト
17が原告イラスト96の本質的な表現上の特徴を直接感得すること
ができるものとはいえない。
(ツ) 被告イラスト18
a 被告イラスト18は,右手で顔面の汗を拭いている直立した被告各
イラストの女性を描いたものであり,顔面を含む頭部については,被
告イラスト1(前記(ア)a)の女性の額に汗をかかせ,眉毛を顔の中
央から外側に向けてやや下方に垂れた八の字眉とし,口をほぼ直線状
の「−」としたものであることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト18が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記
載したような特徴がある。
c 前記(ア)cのとおり,被告イラスト18と同様の特徴を有する被告
イラスト1は原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえな
い。上記a及びbによれば ,被告イラスト18と原告イラスト75は ,
前記(ア)cで説示した相違点があり,同説示と同様の理由により,被
告イラスト18は,原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接
感得することができず,同一のキャラクターを表現したものとはいえ
ない。したがって,被告イラスト18は,原告イラスト75に依拠し
て描かれたものであると推認されるが,原告イラスト75を複製又は
翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト99,13を挙げる。
原告イラスト99は,チアガールの姿をし,両手にポンポンを持って
腰に当てた原告各イラストの女性が描かれていることが認められ,原
告イラスト13は,前記(ス)dで認定説示したとおりの特徴があるこ
とが認められる。これらの原告イラストは,いずれもその頭部の描き
方において原告イラスト75と同様の特徴があり,上記c及び(ア)c
の説示に照らして,原告イラスト99,13の本質的な表現上の特徴
を直接感得することができるものとはいえない。
(テ) 被告イラスト19
a 被告イラスト19は,被告イラスト17(18)と同じ女性が,被
告イラスト1(前記(ア)a)と同じポーズをとったものとして描かれ
たものであり ,被告イラスト1と同じ特徴を有することが認められる 。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト19が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記
載したような特徴がある。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト19と原告イラスト75は,
前記(ア)cで認定した相違点があり,同説示と同様の理由により,被
告イラスト19は,原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接
感得することができず,同一のキャラクターを表現したものとはいえ
ない。したがって,被告イラスト1は,原告イラスト75に依拠して
描かれたものであると推認されるが,原告イラスト75を複製又は翻
案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト99,13を挙げる。
しかし,上記(ツ)dで認定説示したのと同様の理由により,原告イラ
スト19は,原告イラスト99,13の本質的な表現上の特徴を直接
感得することができるものとはいえない。
(ト) 被告イラスト20
a 被告イラスト20は,いすに腰をかけて足を組み,右手に飲み物が
入ったコーヒーカップを持ち目を閉じた被告各イラストの女性を描い
たものであり,顔面を含む頭部について,被告イラスト1(前記(ア)
a),11(前記(サ)a〔(ア)a,(カ)a 〕 ,16等と同様の特徴を
)
備えていることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト20が作成され
たと主張する原告イラスト100は,前記(サ)bで認定したとおりの
特徴を有することが認められる。
c 上記a及びbによれば ,被告イラスト20と原告イラスト100は ,
前記(サ)cで認定した相違点があり,同説示と同様の理由により,被
告イラスト20は,原告イラスト100の本質的な表現上の特徴を直
接感得することができず,同一のキャラクターを表現したものとはい
えない。したがって,被告イラスト20は,原告イラスト100に依
拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラスト100を複
製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト87を挙げる。原告イ
ラスト87は,床に置いた座布団に膝を立てて座り膝に本を載せた状
態でうたた寝をしている原告各イラストの女性を描いたものであるこ
とが認められる。しかし,同イラストも,原告イラスト75,89の
特徴を備えているものであり,上記(カ)cで認定説示したのと同様の
理由により,原告イラスト20が原告イラスト87の本質的な表現上
の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(ナ) 被告イラスト21
a 被告イラスト21は,顔面を右方向に向け,体はおおよそ正面を向
き,子供( sam)と熊のぬいぐるみとを両手につないで遊戯をしてい
る被告各イラストの女性を描いたものであり,顔面を含む頭部につい
て,被告イラスト3(前記(ウ)a ),5(前記(オ)a ),13,14,
15と同じ特徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト21が作成され
たと主張する原告イラスト34は,床に正座して手を前につき,床に
広げた種々の書類を見下ろしている読んでいる原告各イラストの女性
を左側方から描いたものであり,頭部を含む顔面の側方視の特徴は,
原告イラスト85,47等と同じであると認められる。
c 前記(ウ)cのとおり,被告イラスト21と同様の特徴を有する被告
イラスト3は原告イラスト85を複製又は翻案したものとはいえな
い。上記a及びbによれば ,被告イラスト21と原告イラスト34は ,
前記(ウ)c,(オ)c等で認定した相違点があり,同説示と同様の理由
により,被告イラスト21は,原告イラスト34の本質的な表現上の
特徴を直接感得することができず,同一のキャラクターを表現したも
のとはいえない。したがって,被告イラスト21は,原告イラスト3
4に依拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラスト34
を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト110を挙げる。原告
イラスト110は,右足をつま先立ちにし,左足をほぼ水平に上げて
右方向に体を傾かせた上,両手をほぼ水平方向に上げているところを
描いたものであることが認められるが,被告イラスト21とは,姿勢
・動作の点で似ているところがあるとはいえ,上記cで説示したのと
同一の理由により,原告イラスト21は,原告イラスト110の本質
的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(ニ) 被告イラスト22
a 被告イラスト22は,体の右側面を正面に向け,顔面は正面を向け
て右手で電気掃除機の柄を持ち,左足を床につけ,右足を後方にけり
上げているかのような姿勢の被告各イラストの女性を描いたものであ
り,顔面を含む頭部について,被告イラスト1(前記(ア)a)と同一
の特徴を有することが認められる。
b これに対し,被告がこれに依拠したと原告が主張する原告イラスト
121は,体の左側面を正面に向け,顔面は正面を向けて両手で鍋を
抱えている原告各イラストの女性を描いたものであり,正面を向いた
顔面を含む頭部は,原告イラスト75(前記(ア)b)等の特徴を備え
るものである。
c 前記(ア)cのとおり,被告イラスト22と同様の特徴を有する被告
イラスト1は,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえな
い。上記a及びbによれば,被告イラスト22は,原告イラスト12
1と対比して,その姿勢・ポーズにおいて共通するところがある。し
かし,これらの点が原告各イラストを特徴づけるものでないことは前
示のとおりである上,原告イラスト121の顔面を含む頭部は,同7
5のそれと同じ特徴を有するものであるところ,被告イラスト22の
顔面を含む頭部の特徴は被告イラスト1のそれと同一であり,前記
(ア)cの説示に照らし,被告イラスト22が原告イラスト75の本質
的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえず,同一
のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,被告イラ
スト22は,原告イラスト75に依拠して描かれたものであると推認
されるが,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト28を挙げる。同イラ
ストは,原告各イラストの女性がやや前のめりに歩行又は走行し,左
足を床につけ,右足を後方にけり上げ,右膝を家具にぶつけている様
子を右方向から描いたものであり,その姿勢及び右足を後方にけり上
げている態様は ,被告イラスト22と共通するところがある 。しかし ,
これらの点が原告各イラストを特徴づけるものでないことは前示のと
おりである上,その他の,とりわけ顔面を含む頭部の表現は,被告イ
ラスト22と著しく異なることが明らかである。したがって,被告イ
ラスト22は,原告イラスト28の本質的な表現上の特徴を直接感得
することができるものとはいえない。
(ヌ) 被告イラスト23
a 被告イラスト23は,正面視で右斜め方向に体を向け,両手のひじ
をやや折り曲げてワンピースの前ポケットに入れて,顔面を含む頭部
は左側面を描いたものであり,顔面を含む頭部について,被告イラス
ト3(前記(ウ)a ),5(前記(オ)a ),13,14,15と同じ特
徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト23が作成され
たと主張する原告イラスト77は,服装や姿勢・ポーズにおいて類似
するところがあるものの,これらの点が原告各イラストを特徴づける
ものでないことは前示のとおりである上,被告イラスト23とは異な
り,顔面を含む頭部は正面を向いており ,原告イラスト75 前記(ア)
(
b)と同じ特徴を有している。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト23は,原告イラスト77と
対比して ,その姿勢・ポーズにおいて共通するところがある 。しかし ,
これらの点が原告各イラストを特徴づけるものでないことは前示のと
おりである。また,原告イラスト77の顔面は正面を向いており,被
告イラスト23とは一見して異なることが明らかであって,被告イラ
スト23が原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得する
ことができるものとはいえず,同一のキャラクターを表現したものと
は到底いえない。したがって,被告イラスト23は,原告イラスト7
7を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト31を挙げる。同イラ
ストは,原告各イラストの女性が右側面を正面に向け,買い物かごを
下げて歩行しているところを右側面から描いたものであるが,顔面を
含む頭部の表現において,被告イラスト23と著しく異なることが明
らかである。したがって,被告イラスト23は,原告イラスト31の
本質的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえな
い。
(ネ) 被告イラスト24
a 被告イラスト24は,赤いワンピースを着用した被告各イラストの
女性が,いすに腰をかけてテーブル上の飲み物が入ったコーヒーカッ
プを両手で持っているところを右側面から描いたものであり,顔面を
含む頭部について ,被告イラスト3( 前記(ウ)a ) 5( 前記(オ)a )
,
と同様の特徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト24が作成され
たと主張する原告イラスト107は,原告各イラストの女性が,ボッ
クスを左わきに置いて布を貼り付けているところを右側面から描いた
ものであり,顔面を含む頭部については,原告イラスト31と同様の
特徴があることが認められる。
c 前記(オ)cのとおり,被告イラスト24と同様の特徴を有する被告
イラスト5は,原告イラスト107と同様の特徴を有する原告イラス
ト31を複製又は翻案したものとはいえない 。上記a及びbによれば ,
被告イラスト24は,原告イラスト107と対比して,その姿勢・ポ
ーズにおいて共通するところがある。しかし,これらの点が原告各イ
ラストを特徴づけるものでないことは前示のとおりである上,原告イ
ラスト107の顔面を含む頭部は,同31のそれと同じ特徴を有する
ものであるところ,被告イラスト24の顔面を含む頭部の特徴は被告
イラスト5のそれと同一であり,前記(オ)cの説示に照らし,被告イ
ラスト24が原告イラスト107の本質的な表現上の特徴を直接感得
することができるものとはいえず,同一のキャラクターを表現したも
のとはいえない。したがって,被告イラスト24は,原告イラスト1
07に依拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラスト1
07を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト67を挙げる。同イラ
ストは,原告各イラストの女性がいすに腰をかけて足をぶらつかせな
がら顔面を上方に向け居眠りしているところを描いたものであること
が認められる。いすに腰をかけた状況や体型に共通するところがある
とはいえ,顔面を含む頭部の表現において,被告イラスト24と著し
く異なることが明らかである。したがって,被告イラスト24は,原
告イラスト67の本質的な表現上の特徴を直接感得することができる
ものとはいえない。
(ノ) 被告イラスト25
a 被告イラスト25は,被告各イラストの女性が,被告イラスト1と
同じポーズをとったものとして描かれたものである(ただし,服装は
異なる 。)ことが認められ,顔面を含む頭部については,被告イラス
ト1(前記(ア)a)と同一の特徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト25が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記
載したような特徴があることが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト25と原告イラスト75は,
前記(ア)cで認定した相違点があり,同説示と同様の理由により,被
告イラスト25は,原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接
感得することができず,同一のキャラクターを表現したものとはいえ
ない。したがって,被告イラスト25は,原告イラスト75に依拠し
て描かれたものであると推認されるが,原告イラスト75を複製又は
翻案したものとはいえない。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト51を挙げる 。しかし ,
原告イラスト51は,服装やポーズの上で被告イラスト25と共通す
るところがあるとはいえ,これらの点が原告各イラストを特徴づける
ものでないことは前示のとおりである上,顔面を含む頭部の特徴にお
いて,被告イラスト25と顕著な相違がある。したがって,被告イラ
スト25は,原告イラスト51の本質的な表現上の特徴を直接感得す
ることができるものとはいえない。
(ハ) 被告イラスト26
a 被告イラスト26は,被告各イラストの女性が,ソファに腰をかけ
て正面を向いているところを正面から描いたものであり,顔面を含む
頭部については,被告イラスト1(前(ア)a)と同一の特徴を有する
ことが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト26が作成され
たと主張する原告イラスト100は,前記(サ)bで認定したとおりの
特徴を有することが認められる。
c 上記a及びbによれば,前記(サ)cと同様の理由により,被告イラ
スト26は,原告イラスト100の本質的な表現上の特徴を直接感得
することができず ,同一のキャラクターを表現したものとはいえない 。
したがって,被告イラスト26は,原告イラスト100に依拠して描
かれたものであると推認されるが,原告イラスト100を複製又は翻
案したものとはいえない。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト93を挙げる 。しかし ,
原告イラスト93は,いすに腰をかけたポーズの点で被告イラスト2
6と共通するところがあるとはいえ,この点が原告各イラストを特徴
づけるものでないことは前示のとおりである上,顔面を含む頭部の特
徴において,被告イラスト26と顕著な相違があることは,前記(ア)
cの説示に照らし明らかである。したがって,被告イラスト26は,
原告イラスト93の本質的な表現上の特徴を直接感得することができ
るものとはいえない。
(ヒ) 被告イラスト27
a 被告イラスト27は,子供( sam)と並び顔を見合わせながら,テ
ーブルに置いた家具のミニチュアを動かしている被告各イラストの女
性を右側面から描いたものであり,顔面を含む頭部について,被告イ
ラスト5(前記(オ)a)と同様の特徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト27が作成され
たと主張する原告イラスト96は,その表現の上で,前記(タ)dで認
定した特徴を有することが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト27と原告イラスト96は,
テーブルの上の物を動かしている点で共通するが,そのような点が原
告各イラストを特徴づけるものでないことは前示のとおりである上,
顔面を含む頭部の特徴において両者は著しく異なることが明らかであ
る。したがって,被告イラスト27は,原告イラスト96の本質的な
表現上の特徴を直接感得することができず,同一のキャラクターを表
現したものとはいえない。したがって,被告イラスト27は,原告イ
ラスト96に依拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラ
スト96を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト104,107を挙げ
る。しかし,いずれもテーブルの上の物を動かすなど作業をしている
という点で共通するにすぎず,顔面を含む頭部の特徴において両者は
著しく異なることが明らかである。したがって,被告イラスト27か
ら,原告イラスト104,107の本質的な表現上の特徴を直接感得
することができるものとはいえない。
(フ) 被告イラスト28
a 被告イラスト28は,被告イラスト1の女性の服装をピンクのスー
ツにしたところを正面から描いたものであり,顔面を含む頭部につい
ては,被告イラスト1(前記(ア)a)と同一の特徴を有することが認
められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト28が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記
載したような特徴がある。
c 前記(ア)cのとおり,被告イラスト28と同様の特徴を有する被告
イラスト1は,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはいえな
い。上記a及びbによれば,被告イラスト28は,原告イラスト75
と対比して,その姿勢・ポーズにおいて共通するところがないではな
い。しかし,これらの点が原告各イラストを特徴づけるものでないこ
とは前示のとおりである上,被告イラスト28の顔面を含む頭部の特
徴は被告イラスト1のそれと同一であり ,前記(ア)cの説示に照らし ,
被告イラスト28が原告イラスト75の質的な表現上の特徴を直接感
得することができるものとはいえず,同一のキャラクターを表現した
ものとはいえない。したがって,被告イラスト28は,原告イラスト
75に依拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラスト7
5を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト113を挙げる。同イ
ラストは,レースクイーンの姿をし,傘をさした原告各イラストの女
性が正面を向いて直立しているところを正面から描いたものである
が,顔面を含む頭部の表現において,被告イラスト28と著しく異な
ることが明らかである。したがって,被告イラスト28は,原告イラ
スト113の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるもの
とはいえない。
(へ) 被告イラスト29
a 被告イラスト29は,被告各イラストの女性がマンションの壁の拭
き掃除をしているところを背後から描いたものであり ,頭部について ,
被告イラスト4(前記(エ)a)と同一の特徴を有すると認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト29が作成され
たと主張する原告イラスト49は,腰に手を当てて直立する原告各イ
ラストの女性を背後から描いたものであり,頭部について,原告イラ
スト6と同一の特徴を有すると認められる。
c 前記(エ)cのとおり,被告イラスト29と同一の特徴を有する被告
イラスト4は,原告イラスト49と同一の特徴を有する原告イラスト
6を複製又は翻案したものとはいえない。上記a及びbによれば,被
告イラスト29と原告イラスト49は,顔面を含む頭部の特徴,とり
わけ顔の輪郭において異なることが明らかであり,被告イラスト29
は,原告イラスト49の本質的な表現上の特徴を直接感得することが
できず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがっ
て,被告イラスト29は,原告イラスト49に依拠して描かれたもの
であると推認されるが,原告イラスト49を複製又は翻案したものと
はいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト61,6を挙げる。同
各イラストは ,原告各イラストの女性を背後から描いたものであるが ,
いずれも原告イラスト49と同一の特徴を有することが認められる。
したがって,上記cで説示したとおり,被告イラスト29は,原告イ
ラスト61,6の本質的な表現上の特徴をも直接感得することができ
るものとはいえない。
(ホ) 被告イラスト30
a 被告イラスト30は,台のようなものに腰をかけ,膝に載せた本を
両手に持って読書をしている被告各イラストの女性を正面から描いた
ものであり,顔面を含む頭部は,被告イラスト1(前記(ア)a)と同
一の特徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト30が作成され
たと主張する原告イラスト100は,その表現の上で,前記(サ)bで
認定したとおりの特徴(前記(ア)b)を有することが認められる。
c 前記(サ)cのとおり,顔面を含む頭部の特徴において被告イラスト
30と同一の特徴を有する被告イラスト11は,原告イラスト100
を複製又は翻案したものとはいえない。被告イラスト30は,目を開
けている点において原告イラスト100とはさらに異なるものという
べきである 。このことと上記a及びbによれば ,被告イラスト30は ,
原告イラスト100と対比して,顔面を含む頭部の特徴において著し
く異なり,その本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,
同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,被告
イラスト30は,原告イラスト100に依拠して描かれたものである
と推認されるが,原告イラスト100を複製又は翻案したものとはい
えない。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト93を挙げる 。しかし ,
原告イラスト93は,前記(ハ)dで説示したのと同様,いすに腰をか
けたポーズの点で被告イラスト30と共通するところがあるとはい
え,この点が原告各イラストを特徴づけるものでないことは前示のと
おりである上,顔面を含む頭部の特徴において,被告イラスト30と
顕著な相違があることは,前記(ア)c及び(サ)cの説示に照らし明ら
かである。したがって,原告イラスト30は,原告イラスト93の本
質的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(マ) 被告イラスト31
a 被告イラスト31は,濃紺のスーツを着用し,履歴書を膝に載せて
いすに腰をかけている被告各イラストの女性を正面から描いたもので
あり,顔面を含む頭部は,被告イラスト1(前記(ア)a)と同一の特
徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト31が作成され
たと主張する原告イラスト93は,被告イラスト31の女性と同様に
いすに腰をかけたところを正面から描いたものであり,顔面を含む頭
部の特徴において,原告イラスト75(前記(ア)b)と同一の特徴を
有することが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト31は,いすに腰をかけたポ
ーズの点で原告イラスト93と共通するところがある。しかし,この
点が原告各イラストを特徴づけるものでないことは前示のとおりであ
る。また,原告イラスト93の顔面を含む頭部の特徴において,被告
イラスト31と顕著な相違があることは,前記(ア)cの説示に照らし
明らかである。したがって,被告イラスト31は,原告イラスト93
の本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一のキャラ
クターを表現したものとはいえない。したがって,被告イラスト31
は,原告イラスト93に依拠して描かれたものであると推認されるが ,
原告イラスト93を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト100を挙げる。しか
し,原告イラスト100も,原告イラスト93と同様,いすに腰をか
けたポーズの点で被告イラスト31と一部共通するところがあるとは
いえ,この点が原告各イラストを特徴づけるものでないことは前示の
とおりである上,顔面を含む頭部の特徴において,被告イラスト31
と顕著な相違があることは ,前記(ア)cの説示に照らし明らかである 。
したがって,原告イラスト31は,原告イラスト100の本質的な表
現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(ミ) 被告イラスト32,33
a 被告イラスト32,33は,いずれも被告各イラストの女性の頭部
と胸部を正面から描いたものであり,顔面を含む頭部について,被告
イラスト1(前記(ア)a)と同一の特徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト32,33が作
成されたと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)
bに記載したような特徴がある。
c 前記(ア)cのとおり,被告イラスト32,33と同様の特徴を有す
る被告イラスト1は,原告イラスト75を複製又は翻案したものとは
いえない。上記a及びbによれば,被告イラスト32,33は,顔面
を含む頭部の特徴において,原告イラスト75とは顕著に異なり,原
告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができ
ず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,
被告イラスト32,33は,原告イラスト75に依拠して描かれたも
のであると推認されるが,原告イラスト75を複製又は翻案したもの
とはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト2を挙げる。確かに,
原告イラスト2は,原告イラスト75を初めとする他の原告各イラス
トと比べて顔の輪郭が略菱形というより円形に近く,それだけ被告イ
ラスト32,33と類似するところがある。しかし,その点を考慮す
るとしても,眉毛,目及び口の形状・配置や髪の毛の描き方,表情の
等の点において両者の間には軽視できない相違があり,被告イラスト
32,33は,原告イラスト2の本質的な表現上の特徴を直接感得す
ることができるものとはいえない。
(ム) 被告イラスト34
a 被告イラスト34は,やや上方を向いて悲しげな表情をしている被
告各イラストの女性の頭部及び胸部を右側面から描いたものであり,
顔面を含む頭部について ,表情の点を除き ,被告イラスト3 前記(ウ)
(
a),5(前記(オ)a)と同一の特徴を有することが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト34が作成され
たと主張する原告イラスト31は,その表現の上で,前記(ヌ)dで認
定したような特徴を有することが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト34と原告イラスト31は,
顔面を含む頭部の特徴,すなわち眉毛,目及び口の形状・配置や髪の
毛の描き方,表情の等の点において軽視できない相違があることが認
められる。このように,被告イラスト34は,原告イラスト31の本
質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一のキャラクタ
ーを表現したものとはいえない。したがって,被告イラスト34は,
原告イラスト31に依拠して描かれたものであると推認されるが,原
告イラスト31を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト107,122を挙げ
る。しかし,これらのイラストも,眉毛,目及び口の形状・配置や髪
の毛の描き方,表情の等の点において被告イラスト34との間に軽視
できない相違があり,その結果,被告イラスト34は,原告イラスト
107,122の本質的な表現上の特徴を直接感得することができる
ものとはいえない。
(メ) 被告イラスト35
a 被告イラスト35は,悲しそうに目を閉じ口をへの字形にしている
被告各イラストの女性の頭部又は胸部を正面から描いたものであり,
顔面を含む頭部について,目を閉じているところや表情の点を除き,
被告イラスト1(前記(ア)a)と同一の特徴を有することが認められ
る。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト35が作成され
たと主張する原告イラスト96は,前記(タ)dで認定したような特徴
を有することが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト35と原告イラスト96は,
その表現の上で,目を閉じているところに共通するところがあるが,
顔面を含む頭部の特徴,すなわち顔の輪郭,眉毛,目及び口の形状・
配置や髪の毛の描き方等の点において軽視できない相違があることが
認められる。このように,被告イラスト35は,原告イラスト96の
本質的な表現上の特徴を直接感得することができず,同一のキャラク
ターを表現したものとはいえない 。したがって ,被告イラスト35は ,
原告イラスト96に依拠して描かれたものであると推認されるが,原
告イラスト96を複製又は翻案したものとはいえない。
d なお ,原告は ,参考例として ,原告イラスト89を挙げる 。しかし ,
これらのイラストも,顔の輪郭,眉毛,目及び口の形状・配置や髪の
毛の描き方,表情等の点において被告イラスト35との間に軽視でき
ない相違があり,その結果,原告イラスト35は,原告イラスト89
の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえな
い。
(モ) 被告イラスト36
a 被告イラスト36は,年老いた被告各イラストの女性が,軽くお辞
儀をしながら,鍵を若い世代の家族に渡しているところを右側面から
描いたものであり,顔面を含む頭部について,被告イラスト3(前記
(ウ)a ),5(前記(オ)a)と同一の特徴を有している(ただし,年
老いたことを示すためにほおに縦じわを刻んでいる 。)ことが認めら
れる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト36が作成され
たと主張する原告イラスト70は,直立してカラーボックスに天板を
取り付けている原告各イラストの女性を右方向から描いたものであ
り,顔面を含む頭部の特徴において,原告イラスト31,107等と
同一の特徴を有していることが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト36と原告イラスト70は,
顔面を含む頭部を除いては,両腕を前に出した仕草において共通する
ところがあるが,そのような点が原告各イラストの特徴ということは
できず,また,顔面を含む頭部の特徴においても,顔の輪郭,眉毛,
目及び口の形状・配置や髪の毛の描き方,表情等において軽視できな
い相違点のあることが認められる 。このように ,被告イラスト36は ,
原告イラスト70の本質的な表現上の特徴を直接感得することができ
ず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,
被告イラスト36は,原告イラスト70に依拠して描かれたものであ
ると推認されるが,原告イラスト70を複製又は翻案したものとはい
えない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト121,118を挙げ
る。しかし,これらのイラストも,両腕を前に出した仕草という,原
告各イラストの特徴とはいえない点で共通するにとどまり,顔面を含
む頭部の特徴においては,顔の輪郭,眉毛,目及び口の形状・配置や
髪の毛の描き方,表情等の点(原告イラスト121においては顔の向
きも異なる 。)において被告イラスト36との間に軽視できない相違
があり,その結果,被告イラスト36は,原告イラスト121,11
8の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえ
ない。
(ヤ) 被告イラスト37
a 被告イラスト37は,体を前かがみにしてちり取りを左手に持ち,
ほうきを右手に持って掃除をしている被告各イラストの女性を右方向
から描いたものであり ,顔面を含む頭部について ,被告イラスト3 前
(
記(ウ)a ),5(前記(オ)a)と同一の特徴を有していることが認め
られる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト37が作成され
たと主張する原告イラスト54は,下方の引出しに手を伸ばして体を
前かがみにさせている原告各イラストの女性を右方向から描いたもの
であり,顔面を含む頭部の特徴において,原告イラスト31,107
と同一の特徴を有していることが認められる。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト37と原告イラスト54は,
顔面を含む頭部を除いては,下方に手を伸ばして体を前かがみにさせ
ている点において共通するところがあるが,そのような点が原告各イ
ラストの特徴ということはできず,また,顔面を含む頭部の特徴にお
いても,顔の輪郭,眉毛,目及び口の形状・配置や髪の毛の描き方,
表情等において軽視できない相違点のあることが認められる。このよ
うに,被告イラスト37は,原告イラスト54の本質的な表現上の特
徴を直接感得することができず,同一のキャラクターを表現したもの
とはいえない。したがって,被告イラスト37は,原告イラスト54
に依拠して描かれたものであると推認されるが,原告イラスト54を
複製又は翻案したものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト107を挙げる。しか
し,同イラストも,両腕を前に出した仕草という,原告各イラストの
特徴とはいえない点で一部共通する点があるにとどまり,顔面を含む
頭部の特徴においては,顔の輪郭,眉毛,目及び口の形状・配置や髪
の毛の描き方,表情等の点において被告イラスト37との間に軽視で
きない相違があり,その結果,原告イラスト37は,原告イラスト1
07の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはい
えない。
(ユ) 被告イラスト38
a 被告イラスト38は,オレンジ色のシャツの上に赤いロングベスト
を着用し,横縞の入ったパンツをはいて直立した被告各イラストの女
性を正面から描いたものであり,顔面を含む頭部について,被告イラ
スト1(前記(ア)a)と同一の特徴を有していることが認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト38が作成され
たと主張する原告イラスト75は,その表現の上で,前記(ア)bに記
載したような特徴があることが認められる。
c 上記(ア)cのとおり,顔面を含む頭部の特徴において被告イラスト
38と同一の特徴を有する被告イラスト1は,原告イラスト75を複
製又は翻案したものとはいえない 。したがって ,被告イラスト38は ,
原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができ
ず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。したがって,
被告イラスト38は,原告イラスト75に依拠して描かれたものであ
ると推認されるが,原告イラスト75を複製又は翻案したものとはい
えない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト2,3を挙げる。しか
し,まず,原告イラスト3は,顔面を含む頭部の特徴において,顔の
輪郭,眉毛,目及び口の形状・配置や髪の毛の描き方,表情等の点に
おいて被告イラスト38との間に著しい相違があり,その結果,被告
イラスト38は,原告イラスト3の本質的な表現上の特徴を直接感得
することができるものとはいえない。
また,原告イラスト2は,前記(ミ)dで認定説示したように,原告
イラスト75を初めとする他の原告各イラストと比べて顔の輪郭が略
菱形というより円形に近く,それだけ被告イラスト38と類似すると
ころがある。しかし,その点を考慮するとしても,眉毛,目及び口の
形状・配置や髪の毛の描き方,表情の等の点において両者の間には軽
視できない相違があり,被告イラスト38は,原告イラスト2の本質
的な表現上の特徴を直接感得することができるものとはいえない。
(ヨ) 被告イラスト39
a 被告イラスト39は,子供( sam)を挾んで夫( daddy)と3人で頭
部をやや右側に傾け,ソファに寄り添って腰をかけている被告各イラ
ストの女性を背後から描いたものであり,顔面は隠れて見えず,頭部
について,被告イラスト4,10等と同一の特徴を有していることが
認められる。
b これに対し,原告が,これに依拠して被告イラスト39が作成され
たと主張する原告イラスト57は,デスクチェアに腰をかけてデスク
に向かっている原告各イラストの女性を背後から描いたものである。
c 上記a及びbによれば,被告イラスト39は,原告イラスト57と
は置かれた状況が異なる上,頭部の特徴として,原告イラスト57の
顔の輪郭が略菱形で鋭角的であるのに対し,被告イラスト39が下ぶ
くれの略円形(卵型)であることが認められ,これにより,前記(エ)
cで説示したのと同様,上記相違点により,原告イラスト57が独特
の透明感のあるクールなタッチで,若い独り暮らしの女性であること
を印象づけるものとなっているのに対し,被告イラスト39は,比較
的平凡なタッチで,優しく親しみやすい若い母親であることを印象づ
けるものになっているといえる。したがって,この点で,被告イラス
ト39は,原告イラスト57の本質的な表現上の特徴を直接感得する
ことができず,同一のキャラクターを表現したものとはいえない。し
たがって,被告イラスト39は,原告イラスト57に依拠して描かれ
たものであると推認されるが,原告イラスト57を複製又は翻案した
ものとはいえない。
d なお,原告は,参考例として,原告イラスト81を挙げる。原告イ
ラスト81は原告各イラストの女性が頭部を右方向に傾けた状態で歩
いているところを背後から描いたものであり,頭部を右方向に傾けて
いる点において被告イラスト39と共通するところがある。しかし,
原告イラスト81も被告イラスト39とは置かれた状況が異なる。ま
た,原告イラスト81は,原告各イラストの女性を背後から描いたも
のであるが,顔の輪郭,頭髪の描き方等において,被告イラスト39
と軽視できない相違があるものといべきであって,上記cの説示に照
らし,被告イラスト39とは異なる印象を与えるものである。したが
って,被告イラスト39も,原告イラスト81の本質的な表現上の特
徴を直接感得することができるものとはいえない。
カ 小括
以上のとおり,個々の被告各イラストは,これが依拠したと原告が主張
する個々の原告各イラストを複製又は翻案したものとは認められないか
ら,「マンション読本」の作成,発行,配布するなどした被告の行為が原
告の複製権又は翻案権ないしは自動公衆送信権を侵害したということはで
きない。
2 争点( 2)(著作者人格権侵害の有無)について
争点( 1)における判断のとおり,被告各イラストの個々のイラストは,これ
が依拠したと原告が主張する個々の原告各イラストを複製又は翻案したものと
は認められない。したがって,被告各イラストは,原告各イラストとは別の著
作物であり,原告各イラストを変更,切除その他の改変をしたものではない。
また,同様の理由により,原告が被告各イラストに対して原著作者として氏名
表示権を有するものでもない。
よって,マンション読本の作成,発行,配布するなどの被告の行為が原告の
著作者人格権を侵害するということもない。
第5 結論
以上によれば,原告の本件請求は,その余の争点について判断するまでもな
く理由がない。
なお,本件訴訟の審理の経緯にかんがみ,付言する。上記のとおり,被告ら
の行為は ,原告各イラストの著作権又は著作者人格権を侵害するものではなく ,
被告らが原告に対しこれによる法的責任を負うものではない。しかし,被告ら
がイラスト作成を依頼したAにおいて原告各イラストに依拠し,これを参考に
して被告各イラストを作成したことは前示のとおりであり ,被告各イラストが ,
一見すると原告各イラストによく似ているところがあることは否定できない。
原告において,被告各イラストを見て原告各イラストを模倣されたと感じたこ
とは無理もないところであるし,被告らにおいてもこの点を問題視していたこ
とは,原告からの指摘後直ちにマンション読本の配布を取りやめるとともに,
全ての在庫を調査して回収し,廃棄していることからも明らかである。したが
って,被告らは原告に対し,法的責任はともかく,道義上の責任を負うことは
否定できない。当裁判所は,このような本件の特殊性にかんがみ,口頭弁論終
結後を含め,本件を適切に解決するため当事者双方に和解を勧試してきたが,
当審においては合意に至ることはできなかった。当裁判所としては,上記の事
情にかんがみ,当事者双方において上訴審の審理の過程その他適当な機会をと
らえて,本件を適切に解決するよう努力されることを期待するものである。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田 中 俊 次
裁判官 西 理 香
裁判官 北 岡 裕 章
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