知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成20(行ケ)10402 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成20(行ケ)10402審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成21年3月25日
事件種別 民事
当事者 被告有限会社ティーエム
原告有限会社鈴木人形
対象物 人形
法令 意匠権
意匠法3条1項3号1回
商標法3条1項3号1回
キーワード 審決67回
無効8回
意匠権2回
無効審判1回
主文 1 特許庁が無効2007−880017号事件について平成20年10月1日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,意匠に係る物品の名称を「人形」とする意匠登録第1310310 号(平成18年12月24日出願,平成19年8月17日設定登録。以下「本 件登録意匠」という。)の意匠権者である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 意匠権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成21年3月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10402号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成21年1月14日
判 決
原 告 有 限 会 社 鈴 木 人 形
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 田 村 公 總
同 山 内 淳 三
被 告 有 限 会 社 テ ィ ー エ ム
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 橋 本 克 彦
同 松 下 浩 二 郎
主 文
1 特許庁が無効2007−880017号事件について平成20年10
月1日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,意匠に係る物品の名称を「人形」とする意匠登録第1310310
号(平成18年12月24日出願,平成19年8月17日設定登録。以下「本
件登録意匠」という。)の意匠権者である。
被告は,平成19年12月7日,特許庁に対し,本件登録意匠を無効にする
ことを求めて審判(無効2007−880017号事件。以下「本件審判」と
いう。)を請求した。
特許庁は,平成20年10月1日,「登録第1310310号の登録を無効
とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本を同年10
月14日に原告に送達した。
2 本件審決の理由
本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件登録意
匠(別紙1「本件登録意匠」のとおり)は,平成19年11月の原告のホーム
ページ(掲載頁のアドレスは,http://www.suzuki-ningyo.com/。以下「原告
ホームページ」という。)に掲載された意匠(以下「引用意匠」という。別紙
2「引用意匠画像」のとおり)に類似し,意匠法3条1項3号に掲げる意匠に
該当し,同条の規定に違反して登録されたものであるから,その余について判
断するまでもなく,意匠法48条1項の規定により,無効にすべきものであ
る,というものである。
上記判断に際して本件審決が認定した本件登録意匠及び引用意匠の内容,両
者の一致点及び差異点は,以下のとおりであり(審決書10頁10行から11
頁24行),当該部分を引用する。
「2.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成18年12月24日に出願され,平成19年8月
17日に意匠権の設定の登録がなされた,意匠登録第1310310号の
意匠であって,願書の記載及び願書添付の図面によれば,意匠に係る物品
を「人形」とし,その形態を願書及び同図面記載のとおりとし,実線で表
された部分を,部分意匠として意匠登録を受けた部分(以下,「当該部
分」という。)としたものである(別紙第1参照)。
3.引用意匠
引用意匠は,甲第12号証に記載の,被請求人会社ホームページ(掲載
頁のアドレス http://www.suzuki-ningyo.com/)の中に掲載された,雛
人形(甲第12号証第4頁)(掲載頁のアドレス http://www.suzuki-nin
gyo.com/catalogue/2007.htm )の本件登録意匠に相当する部分の意匠
(以下,「引用意匠」という。)である(別紙第2参照)。
その雛人形は,「BELL'S KISS SERIES」と銘打たれた画像中に掲載され
ているが,当該画像は,「BELL'S KISS SERIES」の雛人形を示すものでは
なく,「BELL'S KISS SERIES」の雛人形頭部を示すためのものであり,頭
部の発表のために,胴部を付けて同ホームページに掲載されたものであ
る。そして,当該頁は,平成18年12月3日の同社ホームページリニュ
ーアル時点から現在に至るまで掲載されているものである。したがって,
「BELL'S KISS SERIES」と銘打たれた画像中に掲載された雛人形の意匠
は,本件登録意匠出願前に電気通信回線を通じて利用可能となった意匠で
ある。
4.両意匠の対比
本件登録意匠と引用意匠を対比すると,意匠に係る物品は,本件登録意
匠は「人形」であり引用意匠は「雛人形」であるが,実質的に両意匠の物
品は一致し,本件登録意匠の当該部分と引用意匠のそれに相当する部分
(以下,「両意匠の部分」という。)は,重襟元の最内側のレース地によ
る飾り部分であるから,両意匠の部分の用途及び機能,さらに全体の形態
の中での位置,大きさ,範囲においても一致する。そして,両意匠の部分
の形態については,以下の共通点及び差異点が認められる。
[共通点]
両意匠の部分は,基本的構成態様を,(A)重襟元からさらに内側に襟
を重ねるように,帯状レース地を配して飾り部としたもので,当該部分の
全体を略V字状とし,具体的構成態様において,(B)レース地を,基部
側を濃密な密度の編み地とし,先端側に円形模様を1個ずつ,周方向に連
続して設けたものとし,(C)円形模様を,円形外輪の中央に,直径を円
形外輪の約1/2とした円形部を形成し,円形外輪と中央円形部を多数の
放射状細線で繋いだ,車輪様の花図形状とし,(D)先端側輪郭を,円形
模様の円形外輪が,略半円状に突出して連なった形状とし,(E)円形模
様の配置を,左右の襟が重なり合う略V字状の尖り部に1個が表れるよう
配し,そこから正面視略左右対称に,連続して円形模様が表れるよう配し
た点が,共通する。
[差異点]
両意匠の部分は,具体的構成態様において,(a)基部側編み地部を,
本件登録意匠は縦横の糸が表れるメッシュ地としたのに対し,引用意匠は
編み方まで視認できない点,(b)円形模様の略V字状の左右側の数を,
本件登録意匠は2個ずつとしたのに対し,引用意匠は背に回っていく2個
目は後方が半分隠れ,約1個半程度ずつとした点,(c)円形模様先端部
までの幅(襟からの突出方向の長さ)について,本件登録意匠は襟元開口
部左右幅の約1/4とし,円形模様先端部の略半円状突出部は人形の顔に
当たっていないのに対し,引用意匠は同約1/3とし,同略半円状突出部
が人形の顔に当たり,先端部が折れ曲がっている点に,差異が認められ
る。」
第3 当事者の主張
1 取消事由に係る原告の主張
本件審決には,以下のとおり,(1)引用意匠誤認による共通点及び差異点の
認定の誤り(取消事由1),(2)引用意匠に基づかない認定の誤り(取消事由
2),(3)意見書提出機会の看過の誤り(取消事由3)及び(4)本件審決の理由
不備の誤り(取消事由4)がある。
(1) 取消事由1(引用意匠誤認による共通点及び差異点の認定の誤り)
ア 引用意匠の(A)基本的構成態様を「全体を略V字状」と認定した誤り
本件審決は,引用意匠の基本的構成態様を,「重襟元からさらに内側に
襟を重ねるように,帯状レース地を配して飾り部としたもので,当該部分
の全体を略V字状」(審決書11頁5行∼7行)と認定し,その点で本件
登録意匠の基本的構成態様と共通するとした。
しかし,引用意匠の襟飾りの形状は,(A)「全体を略V字状」とする
ものではなく,逆三角形の形状(上端を塞いだ形状)であるから,本件審
決の上記(A)「全体を略V字状」とする認定は,誤りである。
イ 不鮮明な画像から襟飾りの詳細を具体的に認定した誤り
本件審決は,全体に極めて不鮮明にして曖昧模ことした人形の襟飾りの
画像(甲12)から,引用意匠の襟飾りの意匠を具体的詳細に認定してい
る(審決書11頁5行∼24行)。
しかし,引用意匠の襟飾りの画像からは,白色密度の高い部分と,白色
の間に小さな黒点状ないし線状の輪郭で穴の開いたような密度の低い部分
によって濃淡模様となっていることから,該襟飾りがレース地を用いたも
のであることは,判別できるとしても,本件審決がした具体的詳細な認定
をすることはできない。
以下のとおり,(A)ないし(E)及び(a)ないし(c)の下線部分
に係る本件審決の認定は,その根拠を欠き,誤りである。
(ア) 本件審決は,基本的構成態様について,「重襟元からさらに内側に
襟を重ねるように,」(A)「帯状レース地を配して飾り部としたもの
で,当該部分の全体を略V字状とする」ものであると認定した。
しかし,引用意匠の画像からは,引用意匠の襟飾りが,面状のレース
地を切り取り使用したものではなく,帯状レース地を使用したものであ
ると判別することはできないから,本件審決の上記(A)「帯状レース
地」との認定は誤りである。
(イ) 本件審決は,具体的構成態様について,(B)「レース地を,基部
側を濃密な密度の編み地とし,先端側に円形模様を1個ずつ,周方向に
連続して設けたもの」と認定した。
しかし,レース地に「基部」と「その先端側に円形模様」のあるこ
と,円形模様なるものが1個づつ周方向に連続していることは,引用意
匠の画像から判別することはできないから,本件審決の上記認定(B)
は,誤りである。なお,本件審決は,内襟を,レース地の基部と誤認し
ている。
(ウ) 本件審決は,(C)「円形模様を,円形外輪の中央に,直径を円形
外輪の約1/2とした円形部を形成し,円形外輪と中央円形部を多数の
放射状細線で繋いだ,車輪状の花図形状」と認定した。
しかし,レース地に存在するという円形模様なる円形外輪,中央の円
形部,それも円形外輪の約1/2の径を有しているとする円形部,円形
外輪と円形部を結ぶ放射状細線といったものの存在,これらによって円
形模様なるものが車輪状の花図形状を形成することについて,引用意匠
の画像から判別することはできないから,本件審決の上記認定(C)は
誤りである。
(エ) 本件審決は,(D)「先端側輪郭を,円形模様の円形外輪が,略半
円状に突出して連なった形状」と認定した。
しかし,円形模様なるものの円形外輪,これが半円状に突出している
こと,該半円状に突出した円形外輪が先端側輪郭をなしていることを,
引用意匠の画像から判別することはできないから,本件審決の上記認定
(D)は誤りである。
(オ) 本件審決は,(E)「円形模様の配置を,左右の襟が重なり合う略
V字状の尖り部に1個が表れるよう配し,そこから正面視略左右対称
に,連続して円形模様が表れるよう配した」ものと認定した。
しかし,円形模様なるものの配置態様について,中央に1つ,左右対
称に2つ存在して,この円形模様なるものの配置に連続性があること
は,引用意匠の画像から判別することはできないから,本件審決の上記
認定(E)は,誤りである。
(カ) 本件審決は,差異点について,(a)「基部側編み地部を,・・・
引用意匠は編み方まで視認できない」と認定した。
しかし,本件審決が認定した濃密な密度の編み地であるとした基部な
るものは,引用意匠に存在していないから,存在していないものを取り
上げて,その編み方を云々する本件審決の上記認定(a)は,前提にお
いて誤りである。
(キ) 本件審決は,(b)「円形模様の略V字状の左右側の数を,・・・
背に回っていく2個目は後方が半分隠れ,約1個半程度ずつ」と認定し
た。
しかし,円形模様なるものの数,背中側に回る2個目,片側1個半づ
つという具体的態様は,引用意匠の画像から判別することができないか
ら,本件審決の上記認定(b)は,誤りである。
(ク) 本件審決が(c)「円形模様先端部までの幅(襟からの突出方向の
長さ)について,・・・」「襟元開口部左右幅」の「約1/3と
し,」,「円形模様先端部の略半円状突出部」が「人形の顔に当たり,
先端部が折り曲がっている」と認定した。
しかし,本件審決の上記認定(c)は,誤りである。すなわち,顔両
側の下位に横向きの板状のものが,円形模様なるものの先端部の略半円
状突出部であること,これが折り曲がったものであることを,判別する
ことはできない。また,顔両側の下位に板状のものがあっても,その傾
斜した部分は,直線をなす傾斜辺を形成しており,これが半円状突出
部,すなわち円弧辺をなすものと判別することはできない。人形の顔に
当たって折り曲がっているが,その曲がった部分の寸法は不明であるか
ら,襟元開口部の左右幅に対して約1/3という比率を確定することは
できない。本件審決は,襟飾りに内襟を加えた幅を「円形模様部先端部
までの幅」と誤認し,重襟から内襟を除いた幅を「襟元開口部左右幅」
と誤認し,この襟元開口部左右幅を,引用意匠に見られる黒色の襟の内
側を基準としてその距離を把握したことになるが,内襟をレース地の基
部であると誤解して,その比率が1/3であるとしても,それは根拠の
ない誤った比率にすぎない。
ウ 共通点と相違点の誤認が本件審決の結論に影響を及ぼすこと
本件審決は,不鮮明な引用意匠による上記認定を前提として,本件登録
意匠と引用意匠の差異点は,基部側の編み地部,円形模様なるものの数,
円形模様先端部なるものまでの幅のみにあるとし,該円形模様なるものの
幅の差異は,「人形の首元をどの程度に長く露出させるか」の差異にすぎ
ないから,これらの差異点はいずれも微差にすぎないとして,本件登録意
匠は引用意匠に類似すると判断した。
以上のように,本件審決は,引用意匠の認定を誤り,本件登録意匠と引
用意匠の対比における共通点及び差異点の認定を誤ったものであり,その
誤った共通点及び差異点の認定に基づいて,本件登録意匠を引用意匠に類
似するとの判断をしたものであるから,上記誤りは本件審決の結論に影響
を及ぼす。したがって,本件審決は,取り消されるべきである。
(2) 取消事由2(引用意匠に基づかない認定の誤り)
本件訴訟の当事者間には,原告の有する意匠登録第1310309号(雛
人形の袖飾りに係る部分意匠)について,被告が請求した別件無効審判請求
事件(無効2007−880016号。以下「別件審判」という。)が係属
している。
平成20年5月8日,別件審判において,本件審判を担当する審判官と同
一の審判官2名が,原告の本社ショールームで展示されていた「BELL’S KI
SS SERIERS」の展示人形(立ち雛)を撮影した上,原告に対する平成20年
7月2日付けの職権審理結果通知書(甲31)において,原告ホームページ
に掲載された「BELL’S KISS SERIERS」の人形の袖口に係る引用意匠を詳細
かつ具体的に認定し,当該意匠が商標法3条1項3号に該当し,無効とすべ
きである旨の通知をした(甲31)。
ところで,甲32の写真は,上記職権審理結果通知書(甲31)添付の写
真1及び2の前記展示人形(立ち雛)を改めて撮影したものである。本件審
決において,引用意匠として認定した内容は,甲32の写真と詳細において
一致する。
以上の経緯に照らすならば,別件審判の審判官と同一の審判官が,上記の
原告ショールームにおいて撮影した写真(甲32類似の写真)を参考にし
て,本件審決における引用意匠の構成態様を認定したものと推認される。
そうすると,本件審決は,本件審決記載の引用意匠とは別の意匠(出願前
公知のものではない。)に基づいて,引用意匠の具体的態様を認定したもの
であり,引用意匠に基づかない認定をしたものであるから,取り消されるべ
きである。
(3) 取消事由3(意見書提出機会の看過の誤り)
本件審決において,別件審判における職権審理の結果を用いるのであれ
ば,本件審判の審理に際しても,別件審判と同様の職権審理結果通知を行
い,その襟飾りについての認定を明らかにした上で,原告に対して意見を述
べる機会を与えるべきであったにもかかわらず,本件審判では,職権審理結
果通知がされなかった。したがって,本件審判には,職権審理結果通知を欠
き,原告に対して意見を述べる機会を与えなかった手続上の瑕疵があるか
ら,本件審決は,取り消されるべきである。
(4) 取消事由4(本件審決の理由不備の誤り)
本件審決は,別件審判の職権審理の過程で得た引用意匠を使用したにもか
かわらず,その旨の理由記載を欠くから,理由不備として,取り消されるべ
きである。
2 被告の反論
(1) 取消事由1(引用意匠誤認による共通点及び差異点の認定の誤り)に対

ア 引用意匠の基本的構成態様について(A)「全体を略V字状」と認定し
た誤りに対し
原告は,本件審決には,引用意匠の襟飾りの基本的構成態様について,
逆三角形の形状(上端を塞いだ形状)であるのに,「全体を略V字状」と
認定した点に誤りがあると主張する。
しかし,引用意匠の飾り部は,全体が略V字状の重襟元から更に内側に
襟を重ねたものであり,重襟に沿って形成されることからみて,略V字状
であると認定できる。
イ 不鮮明な画像から襟飾りの詳細を具体的に認定した誤りに対し
原告は,引用意匠について,襟元の飾り部分が密度変化の濃密模様を配
置したレース地であること以外は,客観的に不明りょうであり,本件審決
認定の前記(B)ないし(E)及び(a)ないし(c)の下線部分は,認
定できないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり失当である。
(ア) すなわち,原告は,平成20年3月4日付けで提出した審判事件答
弁書(2)(乙1,6頁22行∼8頁18行)において,引用意匠につ
き,以下のとおり認識している。
① 女雛が着用した十二単の正面にその重ね襟元(襟口)にレース地の
飾りが配置してある。
②正面にその重ね襟元から首までの間を埋めるように上向きに突出配置
したメッシュ地にして面内のメッシュ密度を変化した濃密模様を配置
したレース地の襟元飾り。
③中央上端をやや凹陥状とするとともにその左右両側に同じくレース地
によるヒレ状の小片を配置した。
したがって,襟元の飾り部分が密度変化の濃密模様を配置したレース
地であること以外は客観的に不明りょうであるとする原告の主張は,理
由がない。
(イ) 本件審決における引用意匠は,インターネットにおける原告ホーム
ページの画像中に掲載された雛人形の意匠であり,それを印刷した写真
ではない。原告ホームページの画像自体(乙6)によれば,引用意匠に
ついて本件審決認定のとおりの共通点及び差異点を判別できる。乙3
は,被告において印刷した引用意匠であるが,原告が引用意匠として提
出した甲29と比較して,より鮮明である。
乙4は,引用意匠と同時期に原告ホームページに引用意匠である雛人
形と同様の襟飾りを配した雛人形を示すものであり,引用意匠の画像を
原告ホームページにて見た者は,この画像も同時に見ることができる。
また,引用意匠に用いられているような連続する車輪模様の帯状レー
スは,例えば過去の登録例(乙5)や市販のレース地(甲8レース地
(J))として,本件意匠登録前から普通に見られ,需要者に広く知ら
れている。よって,引用意匠を見る需要者は,このようなレース地の意
匠が存在していることを認識した状態で意匠を認識することは通常行わ
れていることであり,このことにより,多少なりとも不鮮明な意匠の部
分を補って判断することは許される。
(2) 取消事由2(引用意匠に基づかない認定の誤り)に対し
原告は,別件審判についての合議体が,本件審判の合議体と同一の構成で
あり,別件審判において実見した知識ないし撮影写真を,引用意匠に代えて
又は引用意匠とともに使用して,引用意匠の認定を行ったと推認されると主
張する。
しかし,別件審判における事実認定の結果が本件審決に影響を与えたこと
は有り得ない。
(3) 取消事由3(意見書提出機会の看過の誤り)及び4(本件審決の理由不
備の誤り)に対し
原告主張の取消事由3(意見書提出機会の看過の誤り)及び4(本件審決
の理由不備の誤り)については,争う。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用意匠誤認による共通点及び差異点の認定の誤り)
当裁判所は,本件審決のした,引用意匠についてした認定部分(下線を引い
た部分)は,いずれも「引用意匠」(甲12,4頁の画像)により確定するこ
とができず,何らの根拠に基づくことのない認定であるから,誤りがあると判
断する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 本件審決は,本件登録意匠と引用意匠の対比において,次のとおり共通
点及び差異点を認定した(審決書11頁4行目ないし24行目。ただし,下
線部分は判決において表示した。)。
「[共通点]
両意匠の部分は,基本的構成態様を,(A)重襟元からさらに内側に襟を
重ねるように,帯状レース地を配して飾り部としたもので,当該部分の全体
を略V字状とし,具体的構成態様において,(B)レース地を,基部側を濃
密な密度の編み地とし,先端側に円形模様を1個ずつ,周方向に連続して設
けたものとし,(C)円形模様を,円形外輪の中央に,直径を円形外輪の約
1/2とした円形部を形成し,円形外輪と中央円形部を多数の放射状細線で
繋いだ,車輪様の花図形状とし,(D)先端側輪郭を,円形模様の円形外輪
が,略半円状に突出して連なった形状とし,(E)円形模様の配置を,左右
の襟が重なり合う略V字状の尖り部に1個が表れるよう配し,そこから正面
視略左右対称に,連続して円形模様が表れるよう配した点が,共通する。
[差異点]
両意匠の部分は,具体的構成態様において,(a)基部側編み地部を,本
件登録意匠は縦横の糸が表れるメッシュ地としたのに対し,引用意匠は編み
方まで視認できない点,(b)円形模様の略V字状の左右側の数を,本件登
録意匠は2個ずつとしたのに対し,引用意匠は背に回っていく2個目は後方
が半分隠れ,約1個半程度ずつとした点,(c)円形模様先端部までの幅
(襟からの突出方向の長さ)について,本件登録意匠は襟元開口部左右幅の
約1/4とし,円形模様先端部の略半円状突出部は人形の顔に当たっていな
いのに対し,引用意匠は同約1/3とし,同略半円状突出部が人形の顔に当
たり,先端部が折れ曲がっている点に,差異が認められる。」。
(2) しかし,本件審決が,引用意匠の基礎的構成態様及び具体的構成態様と
して挙げた部分(上記下線を引いた部分)に係る認定内容は,いずれも,
「引用意匠」(甲12,4頁の画像)により確定することはできない。
すなわち,引用意匠について,①基本的構成態様において引用意匠が帯状
レース地を配していること,②レース地を,基部側を濃密な密度の編み地と
し,先端側に円形模様を1個ずつ,周方向に連続して設けたものとしている
こと,③円形模様を,円形外輪の中央に,直径を円形外輪の約1/2とした
円形部を形成し,円形外輪と中央円形部を多数の放射状細線で繋いだ,車輪
様の花図形状としていること,④先端側輪郭を,円形模様の円形外輪が,略
半円状に突出して連なった形状としていること,⑤円形模様の配置を,左右
の襟が重なり合う略V字状の尖り部に1個が表れるよう配し,そこから正面
視略左右対称に,連続して円形模様が表れるよう配していること,⑥基部側
編み地部であること,⑦円形模様先端部までの幅(襟からの突出方向の長
さ)について,引用意匠は同約1/3とし,同略半円状突出部が人形の顔に
当たり,先端部が折れ曲がっていること,以上の各事実は,いずれも,引用
意匠の襟元部の画像(甲12,4頁の画像)が不鮮明であるため,その形
状,素材又は態様を確定することができない。この点は,同じホームページ
に掲載された画像又はその写真(甲29,乙3,乙6・別紙「引用意匠画
像」)によっても,確定することはできない。
この点について,被告は,原告ホームページに引用意匠と同じ時期に掲載
された雛人形の画像(乙4)を併せて見ることにより,本件意匠が審決の認
定したとおりの内容及び態様であることを推認できる旨主張する。しかし,
乙4の画像も不鮮明であって,同画像から審決の認定した引用意匠の内容を
確定することは到底できない。
また,被告は,引用意匠を見る需要者は,過去の登録例(乙5)や市販の
レース地(甲8レース地(J))によって,不鮮明な意匠の部分を補って判
断をするから,本件審決が審決の認定したとおりの内容及び態様を確認でき
ると主張する。しかし,多数存在する既存のレース地から乙5や甲8のレー
ス模様を選択し,その形状を確定することは到底できない。
被告の上記主張はいずれも失当である。
以上によれば,本件審決が,引用意匠の基礎的構成態様及び具体的構成態
様として挙げた部分(上記下線を引いた部分)の認定内容は,いずれも,
「引用意匠」(甲12,4頁の画像)から確定することができず,何らの根
拠に基づくことなく認定したものであって,誤りというべきである。
2 結論
以上によれば,原告主張の取消事由1(引用意匠誤認による共通点及び差異
点の認定の誤り)には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,
原告の本訴請求は理由があるから,本件審決を取り消すこととし,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
齊 木 教 朗
裁判官
嶋 末 和 秀
別紙1 「本件登録意匠」
(別紙2) 「引用意匠画像」

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

来週の知財セミナー (3月10日~3月16日)

3月11日(火) - 東京 港区

特許調査の第一歩

3月12日(水) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅰ)

3月12日(水) - 愛知 名古屋市中区

技術情報管理と秘密保持契約

3月13日(木) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅱ)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

松嶋知的財産事務所

神奈川県横浜市港北区日吉本町1-4-5パレスMR201号 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 訴訟 鑑定 コンサルティング 

エムケー特許事務所(大阪・奈良・和歌山(全国対応))

大阪市天王寺区上本町六丁目9番10号 青山ビル本館3階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

IPP国際特許事務所

〒141-0031 東京都品川区西五反田3-6-20 いちご西五反田ビル8F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング