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平成20(行ケ)10247審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成21年3月25日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長史
原告ハイピリオンカタリシスーポレイテッド
対象物 ランダムに配向されたカーボンフィブリルの三次元の巨視的集合体およびそれを含有する複合物
法令 特許権
特許法36条4項1回
キーワード 審決45回
実施4回
刊行物1回
優先権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「ランダムに配向されたカーボンフィブリルの三次元 の巨視的集合体およびそれを含有する複合物」とする発明につき,平成6年5 月3日,国際特許出願をし(パリ条約による優先権主張1993年(平成5 年)5月5日,アメリカ合衆国,以下「本願」という。),その一部を平成 15年11月5日,新たな特許出願をしたが,平成17年1月14日付けの 拒絶査定を受けたので,同年4月18日,これに対する審判請求(不服200 5−6869号事件)をすると共に,平成19年11月6日付けの手続補正 書(甲11)を提出した。

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判決文

平成21年3月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10247号 審決取消請求事件
平成21年2月16日口頭弁論終結
判 決
原 告 ハイピリオン カタリシス
インターナショナル インコ
ーポレイテッド
同訴訟代理人弁理士 浅 村 皓
同 浅 村 肇
同 岩 井 秀 生
同 長 沼 暉 夫
同 高 松 武 生
被 告 特 許 庁 長 史
同 指 定 代 理 人 鈴 木 由 紀 夫
同 山 田 靖
同 中 田 と し 子
同 小 林 和 男
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2005−6869号事件について平成20年2月26日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「ランダムに配向されたカーボンフィブリルの三次元
の巨視的集合体およびそれを含有する複合物」とする発明につき,平成6年5
月3日,国際特許出願をし(パリ条約による優先権主張1993年(平成5
年)5月5日,アメリカ合衆国,以下「本願」という。),その一部を平成
15年11月5日,新たな特許出願をしたが,平成17年1月14日付けの
拒絶査定を受けたので,同年4月18日,これに対する審判請求(不服200
5−6869号事件)をすると共に,平成19年11月6日付けの手続補正
書(甲11)を提出した。
特許庁は,平成20年2月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし(付加期間90日),その謄本は同年3月7日に原告に送達され
た。
2 特許請求の範囲
平成19年11月6日付け手続補正書(甲11)による補正後の本願の請求
項1,8,14は,下記のとおりである(請求項の数は16である。)。
【請求項1】「(a)多数のランダムに配向されたカーボンフィブリルの三
次元の巨視的集合体であって,前記フィブリルが実質的に一定の直径を有する
実質的に円筒状であり,その円筒軸に対して実質的に垂直なc軸を有し,熱分
解堆積炭素を実質的に含まず,かつ3.5∼70nmの直径を有しており,前
記集合体がその少なくとも一次元軸に沿って比較的均一な物理的性質および
0.001∼0.50g/ccの嵩密度を有している,前記集合体;および(
b)(i)粒状固体,または(ii)電気活性物質,または(iii)触媒活
性の金属または含金属化合物からなる第二成分をフィブリル1部当り50部以
下の量で含んでいる複合材料。」
【請求項8】「多数のランダムに配向されたカーボンフィブリルの三次元の
巨視的集合体であって,前記フィブリルが実質的に一定の直径を有する実質的
に円筒状であり,その円筒軸に対して実質的に垂直なc軸を有し,熱分解堆積
炭素を実質的に含まず,かつ3.5∼70nmの直径を有しており,前記集合
体がその少なくとも一平面において比較的等方性の物理的性質および0.00
1∼0.50g/ccの嵩密度を有している,前記集合体。」
【請求項14】「(a)多数のランダムに配向されたカーボンフィブリルの
三次元の巨視的集合体であって,前記フィブリルが実質的に一定の直径を有す
る実質的に円筒状であり,その円筒軸に対して実質的に垂直未満のc軸を有
し,熱分解堆積炭素を実質的に含まず,かつ3.5∼70nmの直径を有して
おり,前記集合体がその少なくとも一次元軸に沿って比較的均一な物理的性質
および0.001∼0.50g/ccの嵩密度を有している,前記集合体;お
よび(b)(i)粒状固体,または(ii)電気活性物質,または(iii)
触媒活性の金属または含金属化合物からなる第二成分をフィブリル1部当り5
0部以下の量で含んでいる複合材料。」
3 審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願に係る特許請求の範囲の
記載は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記
載した請求項に区分してあることに適合しないし,発明の詳細な説明には,当
業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び
効果が記載されているとはいえないから,本願は,特許法(判決注 平成6年
法律第116号による改正前のもの,以下「旧特許法」という。)36条4項
又は5項及び6項に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることが
できないとするものである。
上記結論を導くに当たっての審決の判断の要点は,以下のとおりである。
(1)ア 請求項1には,「円筒軸に対して実質的に垂直なc軸」の記載が,請
求項14には,「円筒軸に対して実質的に垂直未満のc軸」の記載が認め
られるが,ここに記載の「c軸」,「円筒軸に対して実質的に垂直」及
び「円筒軸に対して実質的に垂直未満」の技術的内容が不明である。
イ 以上のとおり,請求項1,14には,その技術的内容が明確とはいえな
い記載が認められ,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明
の構成に欠くことができない事項のみを記載した請求項に区分してあるこ
とに適合しているとはいえない(以下「審決の判断1」という。)。
(2)ア 請求項1には「物理的性質」との記載があり,同文言については,段
落【0011】に,「集合体の固有の測定可能な性質,たとえば,抵抗
率,を意味する。」と定義されているが,同定義では,請求項1に係る発
明の十分な特定とはいえず,発明の明確性を欠く。
イ 段落【0023】に,「光学的濃度」なるものが「物理的性質」の例と
して示されているが,その技術的内容が不明である。
ウ 以上のとおり,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明の
構成に欠くことができない事項のみを記載した請求項に区分してあること
に適合しないし,発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をする
ことができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていると
はいえない(以下「審決の判断2」という。)。
(3) 請求項1には,「集合体がその少なくとも一次元軸に沿って比較的均一
な物理的性質および0.001∼0.50g/ccの嵩密度を有している」
と記載されているが,同記載の物理的性質の例として,その具体的な性質が
特定されている訳ではなく,また,物理的性質の例とされている光学的濃度
の技術的内容が不明であることから,集合体が一次元に沿って均一な物理的
性質を有していることを確認する手段は不明である。
以上のとおり,発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をするこ
とができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとはい
えない(以下「審決の判断3」という。)。
(4) 請求項1には,「フィブリルが実質的に一定の直径を有する実質的に円
筒状であり,その円筒軸に対して実質的に垂直なc軸を有し,熱分解堆積炭
素を実質的に含まず,」と記載されているが,「実質的に」の用語を定義し
た段落【0011】の記載からも,技術的内容が明確であるとはいえない。
以上のとおり,請求項1は,その技術的内容が不明であり,特許請求の範
囲の記載は,特許を受けようとした発明の構成に欠くことができない事項の
みを記載した請求項に区分してあることに適合しているとはいえない(以
下「審決の判断4」という。)。
(5) 請求項8には,「集合体がその少なくとも一平面において比較的等方性
の物理的性質および0.001∼0.50g/ccの嵩密度を有してい
る,」とあり,「等方性」との語が用いられているが,本願に係る明細書(
甲1,11。以下「本願明細書」という。)には,「等方性」について,「
集合体の平面または体積の範囲内で物理的性質の全測定が測定方向に依存す
ることなく一定の値を有することを意味する。かかる非中実組成物(non
−solid composition)の測定はボイド空間(void
space)の平均値を勘定に入れるように集合体の代表試料に対してなさ
れているはずであることが理解される。」(段落【0011】)と説明され
ている。しかし,「かかる非中実組成物(non−solid compo
sition)の測定はボイド空間(void space)の平均値を勘
定に入れるように集合体の代表試料に対してなされているはずであることが
理解される。」との説明では,「等方性」の技術的内容が不明である。
以上のとおり,請求項8には,その技術的内容が不明確な記載が認めら
れ,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明の構成に欠くこと
ができない事項のみを記載した請求項に区分してあることに適合していると
はいえない(以下「審決の判断5」という。)。
第3 取消事由に係る原告の主張
以下のとおり,審決の判断1ないし5は,いずれも誤りがあり,本願は,旧
特許法36条4項又は5項及び6項に規定する要件を満たしていないとした審
決は誤りであるから,取り消されるべきである。
1 審決の判断1について
(1) 「c軸」に関して
①本願に係る特許請求の範囲において,「前記フィブリルが実質的に一定
の直径を有する実質的に円筒状であり,その円筒軸に対して実質的に垂直な
c軸を有し」と記載されていること,②「c軸」がフィブリル等の結晶軸の
主軸を表わす用語として当業者に周知のものであること(甲15ないし2
0)に照らすならば,フィブリルがc軸を有する,すなわち結晶軸を有する
ことは明らかである。したがって,審決の判断1は誤りである。
(2) 「円筒軸に対して実質的に垂直」,「円筒軸に対して実質的に垂直未
満」 に関して
「円筒軸に対して垂直未満」に関しては,本願明細書の段落【0020】
に「いわゆるフィッシュボーン形態のフィブリルはそのc軸がフィブリルの
円筒軸に対して垂直より若干小さい角度であるものとして特徴付けられ
る。」と記載され,また,特開昭61−239019号公報(甲21)に
は,そのc軸がフィブリルの円筒軸に対して垂直より若干小さい角度である
形態のフィブリルが記載されているから,不明確とはいえない。
「実質的」に関しては,本願明細書の段落【0011】に,「それぞれの
場合に応じて集合体の軸に沿って又は平面または体積の範囲内で測定された
ときの物理的性質の値の95%が平均値の±10%以内にあることを意味す
る。」と定義されているから,「実質的に垂直」と「実質的に垂直未満」に
ついて,当業者であれば十分に理解できる。
したがって,審決の判断1は誤りである。
2 審決の判断2,3について
「物理的性質」は,本願明細書に記載された抵抗率等の,集合体についての
測定可能な性質を意味し,本願に係る特許請求の範囲には,それらの測定可能
な物理的性質が比較的均一であることを記載している。
「光学的濃度」は,「optical density」の和訳で,物質が
光を吸収する程度を表わす量として,当業者が普通に使用する術語である。
したがって,審決の判断2,3は,誤りである。
3 審決の判断4について
本願明細書の段落【0011】には,「実質的に」の定義が記載されている
から,「実質的に一定の直径を有する」,「実質的に円筒状であり」と「実質
的に熱分解堆積炭素を実質的に含まず」については,当業者が十分に理解でき
るものである。したがって,審決の判断4は誤りである。
4 審決の判断5について
本願明細書の段落【0011】のとおり,「等方性」は,集合体の平面又は
体積の範囲内で物理的性質が測定方向に依存することなく一定の値を有するこ
とを意味し,かつ,非中実組成物である集合体の代表試料を採るに際しては当
然のこととして,ボイド空間の平均値を考慮することを記載したものである。
したがって,審決の判断5は誤りである。
第4 被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 審決の判断1について
(1) 「c軸」について
請求項1,14に記載のフィブリルが結晶構造を持つものとして特定され
ているわけではない。したがって,技術的内容は明確であるとはいえない。
(2) 「円筒軸に対して実質的に垂直」,「円筒軸に対して実質的に垂直未
満」について
本願明細書の段落【0011】によれば,「実質的に」は「物理的性質の
値の95%が平均値の±10%以内にあることを意味する」とされるが,上
記定義に照らしても,c軸に関し,「円筒軸に対して実質的に垂直」や「円
筒軸に対して実質的に垂直未満」の技術的内容を理解することができない。
また,本願明細書には,それぞれにつき複合材料としての効果などの技術的
意義が記載されておらず,請求項1に記載の「円筒軸に対して実質的に垂
直」と請求項14に記載の「円筒軸に対して実質的に垂直未満」との違いに
よる技術的意義の差異も記載されていないことから,「円筒軸に対して実質
的に垂直」や「円筒軸に対して実質的に垂直未満」の技術的内容を理解する
ことができない。
したがって,審決の判断1に誤りはない。
2 審決の判断2,3について
(1) 「物理的性質」について
本願明細書の段落【0011】によれば,「物理的性質」は,「集合体の
固有の測定可能な性質」と定義されているから,同定義によれば,本願明細
書にある「抵抗率」など,測定可能な性質のすべてを網羅した,総体として
の性質ということになる。ところが,請求項1に係る発明が対象とする「多
数のランダムに配向されたカーボンフィブリルの三次元の巨視的集合体」の
場合は,カーボンフィブリルの配置が均質でないから,物理的性質が比較的
均一であることはあり得ない。本願明細書の段落【0035】∼【0039
】に記載の実施例1から3には,実際に測定されたとされている物理的性質
としては,電気抵抗率が挙げられているのみで,物理的性質という総体とし
ての性質について比較的均一であることが確認されているわけではない。そ
もそも,網羅されるすべての性質を確認することは不可能である。
したがって,「集合体が比較的均一な物理的性質を有している」との事項
は,発明を特定しているとはいえない。
(2) 「光学的濃度」について
本願明細書には,「光学的濃度」の測定方法についての記載がなく,仮に
それが慣用語であったとしても,その技術的内容が明確であるとはいえな
い。
したがって,審決の判断2,3に誤りはない。
3 審決の判断4について
前記1(2)のとおり,「実質的に」は,「物理的性質の値の95%が平均値
の±10%以内にあることを意味する」とされるが,かかる定義に照らして
も,「フィブリルの直径が一定であること」,「フィブリルが円筒状であるこ
と」及び「フィブリルが熱分解堆積炭素を含んでいないこと」が「実質的」で
あることの技術的内容が理解できない。また,本願明細書には上記の効果等の
技術的意義が記載されておらず,本願明細書の記載では,技術的内容を理解す
ることができない。
したがって,審決の判断4に誤りはない。
4 審決の判断5について
本願明細書の段落【0011】の「かかる非中実組成物の測定はボイド空間
の平均値を勘定に入れるように集合体の代表試料に対してなされているはずで
あることが理解される。」との記載は,測定部位のサンプリング手法に関する
ものと理解できるとしても,それが具体的にどのような手立てと解するのか理
解することができない。
したがって,審決の判断5に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,審決の判断2ないし5についての認定判断に誤りはなく,審決
の判断1中,本願に係る特許請求の範囲の「c軸」についての認定判断部分に
誤りがあるが,この点は審決の結論に影響を及ぼすものではないから,原告の
請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 審決の判断1について
(1) 「c軸」について
本願の請求項1には,「円筒軸に対して実質的に垂直なc軸」の記載が,
請求項14には,「円筒軸に対して実質的に垂直未満のc軸」の記載があ
り,円筒状のフィブリルがその円筒軸に対して特定の位置関係を有すること
が特定されている。そして,本願出願前の刊行物(甲15ないし20)によ
れば,「c軸」は結晶軸の用語であることが認められる。そうだとすると,
請求項1及び14におけるフィブリルは結晶構造を持つものであると理解す
るのが合理的であり,「c軸」に関する技術内容は特定されているというべ
きである。したがって,この点に関する審決の認定判断部分は,誤りであ
る。
(2) 「円筒軸に対して実質的に垂直」,「円筒軸に対して実質的に垂直未
満」について
原告は,本願明細書の段落【0011】に,「それぞれの場合に応じて集
合体の軸に沿って又は平面または体積の範囲内で測定されたときの物理的性
質の値の95%が平均値の±10%以内にあることを意味する。」と定義さ
れているから,「実質的に垂直」と「実質的に垂直未満」の意義について,
当業者が十分理解できると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。すなわち,確かに,本願明細書の段落
【0011】によれば,「実質的に」について,「それぞれの場合に応じて
集合体の軸に沿って又は平面または体積の範囲内で測定されたときの物理的
性質の値の95%が平均値の±10%以内にあることを意味する。」との定
義は存在するが,同定義は,集合体の物理的性質に関するものであり,フィ
ブリルの円筒軸とc軸との角度等の位置関係に関するものではなく,他に円
筒軸とc軸との角度等を確定する記載はない。また,本願明細書の上記記載
を根拠として,「実質的に」に関する技術的な意義を確定することは到底で
きない。したがって,「円筒軸に対して実質的に垂直」,「円筒軸に対して
実質的に垂直未満」との記載について理解することができないというべきで
あるから,「実質的に垂直」,「実質的に垂直未満」に関する審決の判断1
に誤りはない。
2 審決の判断2,3について
「物理的性質」について,本願に係る特許請求の範囲には,「前記集合体が
その少なくとも一次元軸に沿って比較的均一な物理的性質」(請求項1ないし
8,15,16),「前記集合体がその少なくとも一平面において比較的等方
性の物理的性質」(請求項9ないし14)と記載され,また,本願明細書に
は,「集合体の固有の測定可能な性質,たとえば,抵抗率,を意味する。」(
段落【0011】),「抵抗率は等方性であり」(段落【0039】)と記載
され,多様な意義を有するものとして記載されている。また,一般に「物理的
性質」には,熱的,電気的,磁気的,光学的,機械的等の諸性質を含むものと
理解される。
以上を総合すると,本願の請求項1に係る「集合体がその少なくとも一次元
軸に沿って比較的均一な物理的性質・・・」との記載中の「物理的性質」につ
いて,どのような要素までを含むのか,また,どのようにして測定した結果均
一であると判断するのかを確定することができないから,本願の請求項1は不
明確である。したがって,「物理的性質」の技術内容が理解できず不明確であ
るとした審決の判断2,3に誤りはない。
3 審決の判断4について
本願の請求項1の「フィブリルが実質的に一定の直径を有する実質的に円筒
状であり,その円筒軸に対して実質的に垂直なc軸を有し,熱分解堆積炭素を
実質的に含まず,」の技術的意義については,以下のとおり,確定することが
できない。
すなわち,「実質的」の意義について記載した「それぞれの場合に応じて集
合体の軸に沿って又は平面または体積の範囲内で測定されたときの物理的性質
の値の95%が平均値の±10%以内にあることを意味する。」(段落【00
11】)との定義によっても,フィブリルの各直径の平均値,各円筒の変形度
合いの平均値,熱分解堆積炭素の含有平均値を確定することはできない。ま
た,本願明細書の他の記載を総合考慮しても,上記記載の意義を明確にするこ
とはできない。したがって,本願の請求項1に係る発明の技術的範囲が明確で
あるとはいえないとした審決の判断4に誤りはない。
4 審決の判断5について
本願の請求項8には「集合体がその少なくとも一平面において比較的等方性
の物理的性質および0.001∼0.50g/ccの嵩密度を有している,」
と記載されているが,「等方性」については,以下のとおり,いかなる技術的
内容を定義としているのかが不明である。
すなわち,本願明細書の段落【0011】には,「用語『等方性』は,集合
体の平面または体積の範囲内で物理的性質の全測定が測定方向に依存すること
なく一定の値を有することを意味する。かかる非中実組成物(non−sol
id composition)の測定はボイド空間(void spac
e)の平均値を勘定に入れるように集合体の代表試料に対してなされているは
ずであることが理解される。」との記載がある。このうち,「ボイド空間の平
均値を勘定に入れる」との記載は,測定に当たり何らかの要素を考慮すること
を理解することはできても,具体的にどのような要素を考慮をするのか,ま
た「平均値」とは,何を指すのかが本願明細書の記載を参酌しても不明であっ
て,上記の記載は明確性を欠く。したがって,本願の請求項8の「等方性」の
記載は不明確であるとした審決の判断5に誤りはない。
5 結論
以上のとおり,その余の点(「光学的濃度」の用語が明確か否か)について
判断するまでもなく,審決を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
中 平 健
裁判官
上 田 洋 幸

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