平成20(行ケ)10318審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成21年2月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告株式会社ハマダ工商
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法令 |
特許権
特許法29条2項3回
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キーワード |
審決22回 実施1回 進歩性1回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,後記特許出願(以下「本願」という。)に対する拒絶査定を不
服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取
消しを求める事案である。 |
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判決文
平成20年(行ケ)第10318号 審決取消請求事件
平成21年2月26日判決言渡,平成21年1月22日口頭弁論終結
判 決
原 告 株式会社ハマダ工商
訴訟代理人弁理士 竹中一宣,大矢広文
被 告 特許庁長官
指定代理人 関根裕,山口由木,森川元嗣,森山啓
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2006−20316号事件について平成20年7月24日にし
た審決を取り消す。」との判決
第2 事案の概要
本件は,原告が,後記特許出願(以下「本願」という。)に対する拒絶査定を不
服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取
消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本願(甲7)
出願人:原告
発明の名称:「窓(扉,戸等の開閉手段を含む)のロック部の自動施錠及び/又
は開錠と,センサーによる窓の開閉を司る窓の自動開閉システム」
出願番号:特願2005−334626号
出願日:平成17年11月18日
手続補正日:平成18年4月26日(甲8。以下「甲8補正」という。)
拒絶査定:平成18年8月15日付け
(2) 審判請求手続
審判請求日:平成18年9月13日(不服2006−20316号)
審決日:平成20年7月24日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成20年8月5日
なお,原告は上記審判請求と同日付けで手続補正をしたが,同補正は審決におい
て新規事項を含むものとして却下されたところ,原告はこの補正却下決定を争って
いない。
2 発明の要旨
審決が対象とした甲8補正後の請求項1に記載の発明(以下「本願発明」とい
う。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
建物の窓の施錠及び/又は開錠を司るロック施錠,開錠機構は,一方の窓の窓枠
に開設された孔に取付けた基台と,この基台に設けたロック本体でなるロック部と,
このロック部に係止される他方の窓の窓枠に設けたロック片と,前記ロック本体の
可動を司る第1制御部で構成し,この第1制御部の操作で,前記ロック施錠,開錠
機構を作動し,前記窓の施錠,開錠を図る窓のロック部の自動施錠及び/又は開錠
と,センサーによる窓の開閉を司る窓の自動開閉システムであり,
この窓の開放及び/又は閉塞を図る窓開閉機構は,框の上方に取付けた取付具本
体と,この取付具本体に設けた止め具と,この取付具本体に設けた正逆転可能な駆
動部と,この駆動部に設けた伝達機構と,この伝達機構で駆動され,かつ直接窓枠
の上方に当接する回転可能な駆動部本体と,前記駆動部を作動する第2制御部で構
成し,
この取付具本体を,止め具を介して前記框の上方に取付け,
またこの第2制御部の操作で,前記駆動部を作動し,この窓の開閉を図る装置と
する構成とした窓のロック部の自動施錠及び/又は開錠と,センサーによる窓の開
閉を司る窓の自動開閉システム。」
3 審決の理由の要旨
審決は,本願発明は,下記引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)
及び下記各周知例等にみられる周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることがで
きないとした。
引用例 特開2000−8710号公報(甲1)
周知例1 特開昭63−130885号公報(甲3)
周知例2 実願平5−63899号(実開平7−26569号)のCD−ROM
(甲4)
周知例3 実公昭51−8605号公報(甲5)
周知例4 特開平8−158737号公報(甲6)
審決の理由中,本願発明の進歩性について判断した部分は,以下のとおりである。
(1) 引用発明
「内窓部4の縦かまち6aには,閉状態の両窓部3,4を締結して施錠するクレセント10
が設けられており,クレセント10は,使用者が把持して回転操作するためのレバー32と,
該レバー32に回転軸33を介して一体に設けられた大略円盤状の掛止部材34とを備えてお
り,該回転軸33は,該掛止部材34を収容するケース35に回転自在に支持されており,前
記掛止部材34は,外窓部3の縦かまち5aに固設された掛け金36に掛止する爪部37をそ
の外周に備えており,前記ケース35は内窓部4の縦かまち6aに設けた孔にボルトを介して
固定され,制御手段12の制御で解錠手段11を作動して解錠する,窓の自動解錠と,火災検
知手段61からの窓開放信号により制御手段12を作動させて自動的に窓開けを行う窓開放シ
ステムであり,
窓部3,4を開方向に移動させる移動手段9は,外窓部3の上部横かまち5bに取り付けら
れたラック部材15に歯合するピニオンギア16と,該ピニオンギア16を回転駆動する第1
駆動モータ17とを備えて,支持部材18を介して内窓部4の縦かまち6aに取り付けられて
おり,該第1駆動モータ17は減速機19を一体に備え,その回転駆動軸20の回転は第1電
磁クラッチ21及び接続ギヤ22を介してピニオンギア16に伝達される構成であり,
制御手段12は,第1駆動モータ17を駆動して窓開放が検出されるまで窓部3,4を移動
させ,窓の開放を行う,窓の自動解錠と,火災検知手段61からの窓開放信号により制御手段
12を作動させて自動的に窓開けを行う窓開放システム。」
(2) 本願発明と引用発明との対比
ア 一致点
「建物の窓の開錠を司るロック施錠,開錠機構は,一方の窓の窓枠に開設された孔に取付け
た基台と,この基台に設けたロック本体でなるロック部と,このロック部に係止される他方の
窓の窓枠に設けたロック片と,前記ロック本体の可動を司る制御装置で構成し,この制御装置
の操作で,前記ロック施錠,開錠機構を作動し,前記窓の開錠を図る,窓のロック部の自動開
錠と,センサーによる窓の開を司る窓の自動移動システムであり,
この窓の開放を図る窓開閉機構は,取付具本体と,この取付具本体に設けた止め具と,この
取付具本体に設けた駆動装置と,この駆動装置に設けた伝達機構と,この伝達機構で駆動され,
かつ窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本体と,前記駆動部を作動する制御装置で構成し,
この取付具本体を,止め具を介して取付け,
またこの制御装置の操作で,前記駆動装置を作動し,この窓の開を図る装置とする構成とし
た,窓のロック部の自動開錠と,センサーによる窓の開を司る窓の自動移動システム。」
イ 相違点
(ア) 相違点1
取付具本体の固定が,本願発明は「止め具を介して(窓枠ではなく躯体側の)框の上方に取
付け」た構成であるのに対し,引用発明は,何らかの止め具で固定されてはいるものの,窓枠
である「内窓部4の縦かまち6a」の上方に固定されたものであって,躯体側の框に固定され
たものではない点。
(イ) 相違点2
駆動部本体が,本願発明は「直接窓枠の上方に当接する」構成であるのに対し,引用発明は,
外窓部3の上部横かまち5bに取り付けられたラック部材15に当接するものであって,直接
窓枠に当接するものではない点。
(ウ) 相違点3
制御装置が,本願発明は「ロック施錠,開錠機構を作動する第1制御部と,窓開閉機構を作
動する第2制御部とを備えた」構成であるのに対し,引用発明は,ロック施錠,開錠機構の作
動と窓開閉機構の作動とが一つの制御手段12で行われている点。
(エ) 相違点4
窓のロック部の自動開錠と,センサーによる窓の開を司る窓の自動移動システムが,本願発
明は「窓のロック部の自動施錠及び/又は開錠と,正逆転可能な駆動部により,センサーによ
る窓の開閉を司る窓の自動開閉」を行うものであるのに対し,引用発明は,窓の自動解錠と,
第1駆動モータ17を駆動して,火災検知手段61からの窓開放信号により自動的に窓開けを
行うものではあるが,施錠や窓の閉動作を行うものではない点。
(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
窓を自動開閉する部材の取付具本体を,躯体側の框の上方に取付ける技術は,例えば,拒絶
理由通知で引用した周知例1および周知例2の他,周知例3等にみられるように周知技術であ
る。一方の窓の相対移動を実現するためには,取付具本体を,他方の窓の窓枠に固定するか,
躯体側の框に固定するかしかないのであるから,引用発明において,取付具本体を他方の窓枠
である「内窓部4の縦かまち6a」の上方に固定する構成に代えて,上記周知な躯体側の框に
固定する構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
イ 相違点2について
窓の自動開閉システムにおいて,ゴム等の摩擦ローラで駆動ホイル16を構成して直接窓枠
の上方に当接させる構成のものも,ラック&ピニオンを用いた構成のものも,どちらも広く用
いられており,その作用は同等のものである(必要なら,周知例4(特に,【0052】)等
参照。)。したがって,引用発明において,ラック&ピニオンを用いた駆動方式に代えて上記
直接窓枠の上方に当接させる構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
ウ 相違点3について
複数の制御を一つの制御装置で行うか,複数の制御毎に個別の制御装置を設けて行うかは,
コスト等を考慮して当業者が適宜選択し得た事項に過ぎない。引用発明において,ロック施錠,
開錠機構を作動する制御装置と,窓開閉機構を作動する制御装置とを個別の制御装置で構成す
ることは,当業者が容易になし得たことである。
エ 相違点4について
正逆転可能な駆動装置により,ロックの開錠や窓の自動開放だけでなく,ロックの自動施錠
や窓の自動閉動作も行う自動開閉システムとする技術は,例えば周知例4等にみられるように,
本願前に周知の技術であるから,引用発明においても,正逆転可能な駆動装置により,開動作
だけでなく閉動作も行う構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
そして,本願発明の作用効果は引用発明および上記周知技術から当業者が予測できた範囲内
のものであって,格別なものということはできない。
したがって,本願発明は,引用発明および上記周知技術から当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
(4) 審決の「むすび」
以上のとおり,本願発明は,引用発明および上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明を
することができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない
から,本願は拒絶すべきものである。
第3 当事者の主張の要点
1 審決取消事由(格別の作用効果の看過)の要点
審決は,本願発明が奏する下記の格別の作用効果(以下「本件作用効果」とい
う。)を看過した結果,本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けるこ
とができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。
(1) 本件作用効果の格別性
ア 本願発明は,相違点1,2及び4に係る各構成等を含めた下記構成を備える
ものである。
「『窓開閉機構は,止め具を介して框の上方に取付けた取付具本体と,取付具本体に設けた
正逆転可能な駆動部と,駆動部に設けた伝達機構と,伝達機構で駆動され,かつ直接窓枠の上
方に当接する回転可能な駆動部本体を有する』との構成」
イ 本件作用効果は,本願発明の上記アの構成に由来するものである。なお,下
記(ウ)の作用効果は,本願に係る甲8補正後の明細書(甲8。以下「本願明細書」
という。)に記載はないものの,本願発明の構造から明らかなものである。
(ア)「本願発明は,駆動部本体の係止部がゴム,樹脂等の粘着体,植毛の粘性体等で構成さ
れており,凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けることにより,確実な窓の開閉を司ること
ができ,さらに,駆動部本体を窓枠に直接当接させるため,ラック等の貼り付け部材を新しく
貼り付ける必要もなく,部品点数の減少,取付けの容易化等を図ることができる。」
(イ)「本願発明は,自動開閉システムを,既設の窓枠,ガラス又は框の上方に設置すること
ができるので,窓枠,ガラス,框の上方,建物等の有効利用とコストの削減を図り,廃棄に伴
う弊害を除去し,環境保護に役立つなどの有益性を有する。」
(ウ)「本願発明は,取付具本体を框の上方に取り付け,一方の窓枠の上方に回転輪の係止部
が直接当接されているため,結露による水滴が付着しにくく,また,仮に水滴が付着したとし
ても,窓の中央部付近や下方に取り付ける場合と比較して,付着する水滴の量は少ない。」
(2) 審決の判断の誤り
ア 審決は,本願発明が奏する作用効果について,下記のとおり判断した。
「本願発明の作用効果は引用発明および上記周知技術から当業者が予測できた範囲内のもの
であって,格別なものということはできない。」
イ しかしながら,以下のとおり,本件作用効果は,引用発明及び審決が認定し
た周知技術から当業者が予測することができた範囲内のものではないから,審決に
は,本願発明が奏する格別の作用効果を看過した誤りがあるというべきである。
(ア) 引用発明について
引用発明は,前記第2の3(2)イのとおり,本願発明と異なる構成を有する。し
たがって,本件作用効果は,引用発明が奏する作用効果とは異なるものである。
(イ) 周知例1に記載された発明について
周知例1に記載された発明は,窓枠の中間位置の窓戸の上端に当たる窓枠に沿っ
て横方向に延びる取着部材を取り付けるものであり,本願発明とは異なる構成を有
する。したがって,本件作用効果は,周知例1に記載された発明が奏する作用効果
とは異なるものである。
(ウ) 周知例2に記載された考案について
周知例2に記載された考案は,窓外枠又は框に電動駆動部,駆動モータ等を取り
付け,内窓の窓枠内の上枠表面と平行に固設したラック部材を設けるものであり,
本願発明とは異なる構成を有する。したがって,本件作用効果は,周知例2に記載
された考案が奏する作用効果とは異なるものである。
(エ) 周知例3に記載された考案について
周知例3に記載された考案は,引扉を自動ドアにする場合,ゴム帯を扉の上壁面
に固定し,鴨居には外函を固定してゴム帯を扉のゴム帯に押圧接触させ,モーター
を起動すれば,回転歯車が回転して受金と共にローラで張架されたゴム帯を回動し,
これに接触する摩擦力でゴム帯の固定した引扉を開閉するものであり,本願発明と
は異なる構成を有する。したがって,本件作用効果は,周知例3に記載された考案
が奏する作用効果とは異なるものである。
(オ) 乙1に記載された発明について
特開平10−231658号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)に記載さ
れた発明は,駆動モータにより動作される駆動プーリが引戸の外表面に当接して引
戸を開閉するとの構成及び駆動プーリを引戸の上端付近,中央部又は下端付近に当
接する構成(駆動プーリを引戸のどの位置にも設置することができる構成)を有し,
駆動プーリを引戸の上端付近に設けるとの構成を採用した場合,引戸の上端を吊持
してスライドさせる「上吊り式」の引戸に使用するものであり,本願発明とは,開
閉の対象物,対象物における従動手段の設置箇所等において大きく相違する。した
がって,本件作用効果は,乙1公報に記載された発明が奏する作用効果とは大きく
異なるものである。
(カ) 乙2に記載された考案について
実願平3−35275号(実開平4−120876号)のマイクロフィルム(乙
2。以下「乙2公報」という。)に記載された考案は,駆動ローラと従動ローラで
扉を挟むとの構成を有するものであり,本願発明とは,対象物,駆動手段と従動手
段との関係及び部品点数において大きく相違する。したがって,本件作用効果は,
乙2公報に記載された考案が奏する作用効果とは大きく異なるものである。特に,
本願発明は,既存の窓枠に設置することができるものであるが,乙2公報に記載さ
れた考案は,上記構成上,既存の窓枠に設置するのが困難である。
(キ) 乙3に記載された考案について
実願昭62−186120号(実開平1−90983号)のマイクロフィルム
(乙3。以下「乙3公報」という。)に記載された考案は,固定部を窓枠に固定し,
対向する窓枠に車輪を接触させるとの構成を有するものであり,本願発明とは,対
象物における従動手段の設置箇所において大きく相違する。したがって,本件作用
効果は,乙3公報に記載された考案が奏する作用効果とは大きく異なるものである。
特に,乙3公報に記載された考案において,固定部を窓の中央部付近の窓枠に固定
するとの構成又は窓の下方の外枠に本体を固定し,下方の窓枠に車輪を接触させて
窓を開閉するとの構成を採用した場合,結露による水滴によって車輪がスリップを
起こし,窓が開閉しないとの不都合が生じる。
2 被告の反論(「格別の作用効果の看過」に対して)の骨子
本件作用効果は,以下のとおり,引用発明並びに周知例1ないし4及び乙1ない
し乙3の各公報が示す周知技術から予測することができた範囲内のものであって,
格別のものということはできないから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(1) 本件作用効果の(ア)のうち,「駆動部本体の係止部がゴム,樹脂等の粘着体,
植毛の粘性体等で構成されており,凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けること
により,確実な窓の開閉を司ることができ(る)」との点(以下「本件作用効果
(ア)a」という。)は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
(2) 本件作用効果の(ア)のうち,その余の点(以下「本件作用効果(ア)b」とい
う。)は,周知例4及び乙1公報ないし乙3公報が示す周知技術(窓枠等に直接当
接する回転可能な駆動部本体を用いるとの技術)から容易に予測することができた
ものである。
(3) 本件作用効果の(イ)は,周知例1ないし3が示す周知技術(取付具本体を既
設の窓枠,ガラス又は框の上方に設置するとの技術)から容易に予測することがで
きたものである。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由(格別の作用効果の看過)について
(1) 引用発明及び周知技術の認定について
ア 引用発明が,審決(前記第2の3(1))が認定したとおりの構成を備えたも
のであることは,当事者間に争いがない。
イ 証拠(甲3ないし5(周知例1ないし3))及び弁論の全趣旨によれば,窓
を自動開閉する部材である取付具本体を躯体(建物)側の框の上方に取り付けると
の技術(相違点1に係る技術)は,本願当時の周知技術であったものと認められる
(原告も,上記各証拠による当該認定を実質的に争うものではない。以下,当該技
術を「本件周知技術1」という。)。
また,証拠(甲6,乙1,2(周知例4,乙1公報,乙2公報))及び弁論の全
趣旨によれば,回転可能な駆動部本体を窓枠の上方に直接当接させるとの技術(相
違点2に係る技術)は,本願当時の周知技術であったものと認められる(原告も,
上記各証拠による当該認定を実質的に争うものではない。以下,当該技術を「本件
周知技術2」という。)。
(2) 本件作用効果(ア)aについて
ア 本願明細書には,本願発明(甲8補正後の請求項1に係る発明)の実施例と
して,次の各記載がある。
(ア)「この窓開閉機構10は,・・・回転輪15(駆動部本体)と,・・・で構成されてお
り,・・・回転輪15には,窓枠3−1等に圧接するゴム,樹脂等の粘着体,又は植毛等の粘
性体でなる係止部15aが設けられて(いる)」(段落【0041】)
(イ)「係止部15a及び/又は窓枠3−1等に凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けるこ
ともあり得る。この各凹凸,スリット等の滑り止め手段の構成を採用することで,確実な窓9
の可動が図れる特徴がある。」(段落【0042】)
イ しかしながら,前記第2の2のとおり,本願発明に係る請求項1には,駆動
部本体(本願明細書にいう「回転輪15」)につき,「伝達機構で駆動され,かつ
直接窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本体」との規定があるのみであって,
駆動部本体の係止部がゴム,樹脂等の粘着体,植毛の粘性体等で構成されるとの特
定はない。
また,同請求項には,同様に,「直接窓枠の上方に当接する回転可能な駆動部本
体」との規定があるのみであって,(回転輪15の係止部15a,窓枠3−1等
に)凹凸,スリット等の滑り止め手段を設けるとの構成についての特定はない。
そうすると,本件作用効果(ア)aは,本願発明が奏するものと認めることはでき
ない。
(3) 本件作用効果(ア)bについて
ア 本願明細書には,次の各記載がある。
(ア)「本発明は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能とすること,また部品点数
を少なくし製造の容易化を図ること・・・等を意図する。」(段落【0012】)
(イ)「請求項1は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能であること,また部品点
数を少なくし製造の容易化が図れること・・・等の実益を有する。」(段落【0026】)
イ しかしながら,本件周知技術2は,上記(1)イのとおり,回転可能な駆動部
本体を窓枠の上方に直接当接させるとの技術であって,ラック等の部材の貼り付け
を不要とするものであるから,引用発明に本件周知技術2を適用することにより,
本件作用効果(ア)b(ラック等の部材の貼り付けが不要であることから,部品点数
を減少させ,取付けの容易化等を図ることができるとの作用効果)を奏することは,
本願当時の当業者が十分に予測し得る範囲内のものであったと認めるのが相当であ
る。
(4) 本件作用効果の(イ)について
ア 本願明細書には,次の各記載がある。
(ア)「本発明は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能とすること,・・・等を意
図する。」(段落【0012】)
(イ)「請求項1は,・・・既設の窓にも簡易かつ確実に取付け可能であること,・・・等の
実益を有する。」(段落【0026】)
(ウ)「本発明の特徴とする処は,自動開閉システムを既設の窓枠3−1,ガラス3a,框9
0の上方にそれぞれ設置できるので,この窓枠3−1,ガラス3a,框90の上方や建物等の
有効利用と,コストの削減化,廃棄に伴う弊害の解除と,環境保護に役立つ等の有益性を有す
る。」(段落【0045】)
イ しかしながら,本件周知技術1は,上記(1)イのとおり,窓を自動開閉する
部材の取付具本体を躯体(建物)側の框の上方に取り付けるとの技術であって,取
付具本体を既設の建物部材に取り付けるというものであるから,引用発明に本件周
知技術1を適用することにより,本件作用効果の(イ)(既設の框の上方等に設置す
ることから,建物等の有効利用とコストの低減を図ることができるとともに,廃棄
に伴う弊害を除去し,もって,環境保護に役立つなどの作用効果)を奏することは,
本願当時の当業者が十分に予測し得た範囲内のものであったと認めるのが相当であ
る。
(5) 本件作用効果の(ウ)について
本願明細書には,本件作用効果の(ウ)についての記載はないところ,上記(1)イの
とおり,本件周知技術1は,窓を自動開閉する部材である取付具本体を躯体(建
物)側の框の上方に取り付けるとの技術であって,取付具本体の設置箇所を結露に
よる水滴がたまりにくい場所とするものであり,また,本件周知技術2は,回転可
能な駆動部本体を窓枠の上方に直接当接させるとの技術であって,同様に,結露に
よる水滴がたまりにくい場所を駆動部本体の設置箇所とするとともに,上記「直接
の当接」との構成により,窓と駆動部本体との間に隙間を設けない作用効果が期待
できるものであるから,引用発明に本件周知技術1及び2を適用することにより,
本件作用効果の(ウ)(取付具本体を框の上方に設置し,回転輪15の係止部15a
を窓枠の上方に直接当接することにより,結露による水滴を付着しにくくし,また,
付着したとしても,これを少量のものとするとの作用効果)を奏することは,本願
当時の当業者が十分に予測し得た範囲内のものであったと認めるのが相当である
(なお,原告も,本件作用効果の(ウ)は,本願発明の構造自体から明らかなもので
ある旨自認するところである。)。
(6) 小括
以上のとおり,本件作用効果のうち,同(ア)aは,本願発明が奏するものではな
く,その余の作用効果は,引用発明並びに周知技術1及び2により,本願当時の当
業者が十分に予測し得た範囲内のものであって,格別のものとはいえないから,審
決に,本願発明が奏する格別の作用効果,すなわち本件作用効果を看過した誤りは
ないというべきである。
(7) 原告の主張について
ア 引用発明に係る主張について
原告は,引用発明が本願発明とその構成を異にすることを理由に,本件作用効果
は引用発明が奏する作用効果とは異なる旨主張するが,上記(6)の判断は,引用発
明のみならず,本件周知技術1及び2をも根拠とするものであるから,原告の当該
主張は,主張自体失当であるといわざるを得ない。
イ 周知例1ないし3,乙1公報及び乙2公報(以下「周知例1等」という。)
に記載された発明又は考案に係る各主張について
原告は,周知例1等に記載された発明又は考案が本願発明とその構成を異にする
ことを理由に,本件作用効果はこれらの発明又は考案が奏する作用効果とは異なる
旨主張するが,上記(6)の判断は,これらの発明又は考案が奏する作用効果を根拠
とするものではなく,周知例1等により認められる周知技術(本件周知技術1及び
2)を根拠とするものであるから,原告の当該主張も,主張自体失当であるといわ
ざるを得ない。
2 結論
以上の次第で,審決取消事由は失当であり,原告の請求は理由がないから,これ
を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田 中 信 義
裁判官
榎 戸 道 也
裁判官
浅 井 憲
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