平成19(ワ)28506不当利得返還請求事件
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裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成21年2月18日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告末広産業株式会社 原告ケイコン株式会社
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法令 |
特許権
特許法105条の31回 特許法70条1項1回
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キーワード |
実施59回 特許権20回 侵害9回
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主文 |
1 被告は,原告に対し,金1億1024万2800円並びに内金9600万円に対する平成19年11月9日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員及び内金1424万2800円に対する平成20年7月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件は コンクリート構造物の機械施工方法及び装置 に関する特許権を有,「 」
する原告が,被告の実施する方法及び使用する装置により上記特許権が侵害さ
れたとして,被告に対し,実施料相当額の不当利得金3億6747万6000
円の返還並びに内金3億2000万円に対する訴状送達の日の翌日である平成
19年11月9日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払及び内金4747万6000円に対する訴えの変更申立書送達の
日の翌日である平成20年7月24日から支払済みに至るまで同年5分の割合
による遅延損害金の支払を求めた事案である。 |
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判決文
平成21年2月18日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成19年(ワ)第28506号 不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日 平成20年12月3日
判 決
京都市<以下略>
原 告 ケ イ コ ン 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 中 島 敏
同訴訟代理人弁理士 一 色 健 輔
群馬県前橋市<以下略>
被 告 末 広 産 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 足 立 進
同訴訟代理人弁理士 羽 鳥 亘
主 文
1 被告は,原告に対し,金1億1024万2800円並びに内金960
0万円に対する平成19年11月9日から支払済みに至るまで年5分の
割合による金員及び内金1424万2800円に対する平成20年7月
24日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告
の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,金3億6747万6000円並びに内金3億2000
万円に対する平成19年11月9日から支払済みに至るまで年5分の割合によ
る金員及び内金4747万6000円に対する平成20年7月24日から支払
済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は , コンクリート構造物の機械施工方法及び装置 」
「 に関する特許権を有
する原告が,被告の実施する方法及び使用する装置により上記特許権が侵害さ
れたとして,被告に対し,実施料相当額の不当利得金3億6747万6000
円の返還並びに内金3億2000万円に対する訴状送達の日の翌日である平成
19年11月9日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払及び内金4747万6000円に対する訴えの変更申立書送達の
日の翌日である平成20年7月24日から支払済みに至るまで同年5分の割合
による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠等を末尾に記載する 。)
(1)当事者
ア 原告は,セメント製品製造販売,土木建築請負業,不動産売買業,コン
クリート製品及び製造設備の賃貸業,それらに附帯する一切の業務を目的
とする株式会社である。
イ 被告は ,建設機械及び油圧機械の製造及び修理 ,建設機械の販売 ,土木 ,
鉄工及び建築工事一式,核シェルターのコンサルタント業,核シェルター
の施工業務並びにシェルター用部品類の製造及び販売,自動車,自動二輪
車,原動機付自転車及び中古建設機械の売買,建設機械,木材,住宅用建
材及び家具の輸出入業務,自動車,自動二輪車及び原動機付自転車の点検
整備及び修理,ベッドの開発及び製造,それらに附帯関連する一切の業務
を目的とする株式会社である。
(2)原告の特許権
ア 原告は ,次の特許( 以下「 本件特許 」という 。 につき ,特許権( 以下「 本
)
件特許権 」という 。 を有している( 以下 ,本件特許に係る別紙特許公報を
)
「本件公報 」,その明細書を「本件明細書 」,その図面を「本件図面」とい
い,本件図面を示すときは,その番号を末尾に付して「本件図1」などと
表記する 。 。
)
発明の名称 コンクリート構造物の機械施工方法及び装置
特 許 番 号 特許第3055054号
出 願 番 号 特願平8−31257号
出 願 日 平成8年1月26日
特許登録日 平成12年4月14日
イ 本件特許に係る特許請求の範囲( 以下「 本件特許請求の範囲 」という 。)
における請求項4(以下「本件請求項4」という 。)について
(ア)本件請求項4の記載は,次のとおりである(以下,本件請求項4記載
の発明を「本件方法特許発明」という 。 。
)
「先導モールドとホッパー部と成形モールドからなるモールドをコン
クリート構造物が施工される経路に沿って移動させ,その移動経路に沿
って予め鉄筋を組み立てて置き,前記ホッパー部に生コンクリートを連
続的に供給しながら先導モールドに前記鉄筋を順次導入して成形モール
ドによってコンクリート構造物を自動的に機械施工する方法において,
前記鉄筋を浮動設置し,前記モールドの移動と共に前記鉄筋を先導モー
ルドに導入させ,前記鉄筋の内形を前記先導モールドの内部に設けられ
た接触部材と接触させながらホッパー部まで移動させることにより先導
モールド内での鉄筋の振れを防止してなることを特徴とするコンクリー
ト構造物の機械施工方法 。」
( イ )本件方法特許発明は ,次のとおり ,構成要件に分説することができる 。
方法A 先導モールドとホッパー部と成形モールドからなるモールドを
コンクリート構造物が施工される経路に沿って移動させ,
方法B その移動経路に沿って予め鉄筋を組み立てて置き,
方法C 上記ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しながら先導
モールドに上記鉄筋を順次導入して成形モールドによってコンク
リート構造物を自動的に機械施工する方法において,
方法D 上記鉄筋を浮動設置し,
方法E 上記モールドの移動と共に上記鉄筋を先導モールドに導入さ
せ,
方法F 上記鉄筋の内形を上記先導モールドの内部に設けられた接触部
材と接触させながらホッパー部まで移動させることにより先導モ
ールド内での鉄筋の振れを防止してなることを特徴とする
方法G コンクリート構造物の機械施工方法。
ウ 本件特許請求の範囲における請求項8( 以下「 本件請求項8 」という 。)
について
(ア)本件請求項8の記載は,次のとおりである(以下,請求項8記載の発
明を「本件装置特許発明」といい,本件方法特許発明及び本件装置特許
発明を総称して「本件特許発明」という 。 。
)
「先導モールドとホッパー部と成形モールドからなるモールドをコン
クリート構造物が施工される経路に沿って移動させ,その移動経路に沿
って予め鉄筋を組み立てて置き,前記ホッパー部に生コンクリートを連
続的に供給しながら先導モールドに前記鉄筋を順次導入して成形モール
ドによってコンクリート構造物を自動的に機械施工する装置において,
前記鉄筋を浮動設置された鉄筋であり,前記鉄筋の内形と接触する接触
部材を前記先導モールドの内部に設けてなることを特徴とするコンクリ
ート構造物の機械施工装置 。」
( イ )本件装置特許発明は ,次のとおり ,構成要件に分説することができる 。
装置A 先導モールドとホッパー部と成形モールドからなるモールドを
コンクリート構造物が施工される経路に沿って移動させ,
装置B その移動経路に沿って予め鉄筋を組み立てて置き,
装置C 上記ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しながら先導
モールドに上記鉄筋を順次導入して成形モールドによってコンク
リート構造物を自動的に機械施工する装置において,
装置D 上記鉄筋を浮動設置された鉄筋であり,
装置E 上記鉄筋の内形と接触する接触部材を上記先導モールドの内部
に設けてなることを特徴とする
装置F コンクリート構造物の機械施工装置。
(3)被告の事業内容
被告は,公共の道路工事の下請業者として,専用の成形機を使い,同一断
面のコンクリートを連続的に打設及び構築(成形)する技術であるスリップ
フォーム工法を用いて ,鉄筋コンクリート製の円形水路の施工を行っており ,
その施工においては ,ベースコンクリートを地面に打設しない場合 以下 基
( 「
礎無し工事 」という 。 と ,それを打設する場合( 以下「 基礎有り工事 」とい
)
う。)とがある(乙26,28,弁論の全趣旨 )。
2 争点
(1)被告の実施した方法及び被告の使用した装置は,それぞれ,本件方法特許
発明及び本件装置特許発明の構成要件を充足するか(争点1)
(2)被告による不当利得の有無及びその額(争点2)
3 争点についての当事者の主張
(1)争点1(被告の実施した方法及び被告の使用した装置は,それぞれ,本件
方法特許発明及び本件装置特許発明の構成要件を充足するか)について
(原告の主張)
ア 被告の行為
被告は,平成12年ころから,業として,別紙物件目録記載の方法(以
下「被告方法」という)を実施し,また,その際,別紙物件目録記載の装
置(以下「被告装置」という)を使用している。
イ 構成の対比
(ア)被告方法の構成
被告方法の構成を分説すると,次のとおりである。
方法a モールドは,先導モールド部とホッパー部と成型モールド部
とからなり,このモールドは車輌に取り付けられ,コンクリー
ト構造物からなる円形水路が施工される経路に沿って移動され
る。
方法b モールドの移動経路に沿って,予め鉄筋を組み立ててなる鉄
筋籠が地面に置かれている。
方法c 上記ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しながら先
導モールド部に上記鉄筋籠を順次導入して,成形モールド部に
よってコンクリート構造物を自動的に機械施工する方法であ
る。
方法d 上記鉄筋籠は,地面に固定されることなく,直接又はベース
コンクリートを介して,地面に置かれている。
方法e 上記モールドの移動と共に,上記鉄筋籠は一対の支持ロッド
に懸垂された状態で先導モールド内に導入される。
方法f 鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側が,先導モー
ルドの内部に取り付けられた一対の支持ロッドに接触して懸垂
されながら,ホッパー部に移動する。鉄筋籠は上方左右コーナ
ーの内側が支持ロッドに接触・懸垂されており,かつ,最初に
鉄筋籠のモールドに近い部分を一対の支持ロッドによって地面
から浮上するように懸垂するときも,鉄筋籠は約50mと長く
支持ロッドに挿入された部分より後方の鉄筋籠の部分が地面に
接しているので,鉄筋籠は,上下左右に揺れることがなくホッ
パー部へ移動される。また,鉄筋籠が順次ホッパー部に導入さ
れて,コンクリートが打設されると,成形モールド部において
円形水路が形成されて地面に設置されることになる 。このとき ,
鉄筋籠は,成型コンクリート内に埋設され所定の形状を維持し
ている先行の鉄筋籠と連続しているから,一対の支持ロッドに
より懸垂されて先導モールド部及びホッパー部にある後続の鉄
筋籠も,上下左右に揺れることがない。
方法g 上記方法aないし方法fの構成からなるコンクリート構造物
の機械施工方法である。
(イ)被告装置の構成
被告装置の構成を分説すると,次のとおりである。
装置a モールドは,先導モールド部とホッパー部と成型モールド部
とからなり,このモールドは車輌に取り付けられ,コンクリー
ト構造物からなる円形水路が施工される経路に沿って移動され
る。
装置b その移動経路に沿って,予め鉄筋を組み立ててなる鉄筋籠が
地面に置かれている。
装置c 上記ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しながら先
導モールド部に上記鉄筋籠を順次導入して成形モールド部にお
いてコンクリート構造物を自動的に機械施工する装置である。
装置d 上記鉄筋籠は ,(直接又はベースコンクリートを介して ,)地
面に固定されることなく置かれている鉄筋である。
装置e 上記先導モールド部の内部には支持ロッドが設けられ,この
支持ロッドは鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側に
接触して鉄筋籠を懸垂し,鉄筋籠をホッパー部に移動する。
装置f 上記装置aないし装置eの構成からなるコンクリート構造物
の機械施工装置である。
(ウ)本件方法特許発明と被告方法の構成の対比
a 方法aにおいて,モールドは,先導モールドとホッパー部と成形モ
ールドからなり,コンクリート構造物からなる円形水路が施工される
経路に沿って移動するから,方法aは,構成要件方法Aを充足する。
b 方法bにおいて,鉄筋籠は,予め鉄筋を組み立てたものであって,
地面に置かれているから,方法bは,構成要件方法Bを充足する。
c 方法cにおいて,先導モールド部に鉄筋籠を順次導入し,ホッパー
部に生コンクリートを連続的に供給し,成形モールド部においてコン
クリート構造物を自動的に機械施工するから,方法cは,構成要件方
法Cを充足する。
d 方法dにおいて,鉄筋籠は,地面に固定されることなく,地面に置
かれているから,方法dは,構成要件方法Dを充足する。
e 方法eにおいて,鉄筋籠は,一対の支持ロッドに懸垂された状態で
先導モールド内に導入されるから,方法eは,構成要件方法Eを充足
する。
f 方法fにおいて,鉄筋籠の上方左右コーナーの内側が,先導モール
ドの内部に取り付けられた一対の支持ロッドに接触・懸垂されながら
ホッパー部に移動し,鉄筋籠が上下左右に揺れることがないから,方
法fは,構成要件方法Fを充足する。
g 方法gは,コンクリート構造物の機械施工方法であるから,構成要
件方法Gを充足する。
(エ)本件装置特許発明と被告装置の構成の対比
a 装置aにおいて,モールドは,先導モールドとホッパー部と成形モ
ールドからなり,コンクリート構造物からなる円形水路が施工される
経路に沿って移動するから,装置aは,構成要件装置Aを充足する。
b 装置bにおいて,鉄筋籠は,予め鉄筋を組み立てたものであって,
モールドの移動経路に沿って置かれているから,装置bは,構成要件
装置Bを充足する。
c 装置cにおいて,鉄筋籠を先導モールドに順次導入し,ホッパー部
でこれに生コンクリートを連続的に供給し,成形モールド部において
コンクリート構造物を自動的に機械施工するから,装置cは,構成要
件装置Cを充足する。
d 装置dにおいて,鉄筋籠は,地面に固定されることなく置かれてい
るから,装置dは,構成要件装置Dを充足する。
e 装置eにおいて,支持ロッドは,先導モールドの内部に設けられ,
鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側に接触して鉄筋籠を懸
垂し,鉄筋籠をホッパー部へ移動するから,装置eは,構成要件装置
Eを充足する。
f 装置fは,コンクリート構造の機械施工装置であるから,構成要件
装置Fを充足する。
ウ 効果の対比
(ア)本件特許発明の効果
本件特許発明は,本件公報の【発明が解決しようとする課題】記載の
とおり,従来のスリップフォーム工法が,機械施工方法であるにもかか
わらず,手作業が占める割合が高く,コスト高となり,また,鉄筋にか
ぶり不足が生ずるおそれがあったところ,手作業の割合を減少させ,工
期短縮,コストダウン及び品質の改良を図って,それらの問題点を解決
するものである 段落 0009 】 0010 】
( 【 【 ・5欄13ないし28行 )。
(イ)被告方法及び被告装置の効果
被告方法及び被告装置は,鉄筋を地面に固定して設置する必要がない
ので,従来のようなアンカー筋を設置する必要がなく,従来のようにア
ンカー筋と鉄筋とを固定する作業も不要となる。したがって,工期の短
縮が可能となり,コストも低減する。
そして,被告方法及び被告装置は,コンクリート構造物を地面上に直
接設置することができるものとなり,必要に応じてベースコンクリート
の施工を省略できるものとなる。したがって,この面においても工期の
短縮が可能となり,コストも低減する。
さらに,被告方法及び被告装置を使用することにより,モールド内で
鉄筋籠が上下左右に揺れることがないから,成形されたコンクリート構
造物は,鉄筋を覆うコンクリートが不足して不良品になることもない。
(ウ)本件特許発明と被告方法及び被告装置の効果の対比
以上によれば,被告方法及び被告装置によって得られる効果は,本件
特許発明によって得られる効果と同じである。
エ 結論
したがって,被告方法及び被告装置の構成及び効果は,本件特許発明の
それらと同一であるので,被告方法及び被告装置は,本件特許発明の技術
的範囲に属し,被告の行為は,本件特許権に対する侵害行為を構成する。
オ 被告の主張に対する反論
(ア)基礎有り工事について
被告は,基礎有り工事が,本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主
張する。
確かに ,本件特許発明は , 鉄筋を浮動設置 」することを構成要件とす
「
るものであるため,鉄筋を,アンカー鉄筋,差し筋等により,ベースコ
ンクリートに固定しないものであり,これは,本件明細書に記載された
従来技術( 段落【 0004 】及び【 0005 】・4欄16ないし33行及
び段落【0008 】・5欄5ないし12行)と区別される点である。
しかしながら,ベースコンクリートを地面に打設するか否かは,本件
特許発明の構成要件ではない 。本件明細書にも , 本発明はベースコンク
「
リートの構成を除外するものではなく,ベースコンクリートを施設する
ものも含むものである 」ことが明記されている( 段落【 0022 】・7欄
37ないし39行 )。
また,被告は,鉄筋を地面に対して固定する場合に限ってベースコン
クリートを打設している旨主張するが,そのような内容の施工を行った
場合,鉄筋の固定がすべて手作業で行われるため,コストが大幅に上昇
し,競争に耐えられるものではなく,被告が同施工を採用することはあ
り得ない。
(イ )「接触」及び「接触部材」の限定解釈について
a 被告は ,本件特許発明における「 接触 」及び「 接触部材 」の意義を ,
鉄筋を強制的に拘束するものに限ると限定解釈した上,被告方法及び
被告装置においては,鉄筋籠が,左右一対の指示軸で懸垂(吊支)さ
れるものの,それに「接触」するものではない旨主張する。
b しかしながら ,接触部材との接触に関しては ,本件明細書において ,
「コンクリート構造物を自動的に機械施工する方法において,前記鉄
筋を浮動設置し,前記モールドの移動と共に前記鉄筋を先導モールド
に導入させ,前記鉄筋を前記先導モールドの内面あるいは接触部材と
接触させながらホッパー部まで移動させることにより先導モールド内
での鉄筋の振れを防止してなることを特徴とするコンクリート構造物
の機械施工方法 。( 段落【 0012 】
」 ・5欄39ないし45行 )である
ことが記載されているのみであり,鉄筋との「接触」には鉄筋を吊支
することを含まないとか,吊支以上の別の要素を必要とするとかの記
載は一切なく,これを示唆するものもない。本件特許発明が,鉄筋を
先導モールド内面あるいは接触部材と接触させながら,ホッパー部の
所定位置に確実に効率よく移動させる発明であることは明らかであ
る。本件特許発明における接触,接触部材は,上記の移動を安定して
行うことができる鉄筋と先導モールドとの接触及びその部材であれば
足りるのであって , 本発明は鉄筋が先導モールドの内部で上下左右に
「
振れないものであれば良い 」(段落【0023 】・7欄43ないし44
行)とされているのである。
したがって,被告の主張のような「吊支以上の要素」とか「強制的
に拘束」することを必須とする記載は本件明細書に存在せず,そのよ
うに無理に限定解釈すべき根拠も存在しないというべきである。
c 本件図1及び本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載(段落【0
020 】・7欄10ないし25行 )によれば ,ガイド板18によってす
くい上げられた鉄筋16は,先導モールドの底面によって保持され,
上下に振れることがないとともに,先導モールドの内面(に設けられ
た接触部材)に接触することによって左右への振れも防ぐことができ
て,ホッパー部の所定位置へ鉄筋16を導くことができる。
そして,鉄筋と接触部材の接触は,鉄筋が左右に振れずにホッパー
部へ移動するためのものであり,その振れ防止がコンクリートのかぶ
り不足を生じない程度のものであれば足りることは,本件明細書の全
記載から明らかというべきである。
これに反して,鉄筋を接触部材で強制的に拘束したならば,施工用
車輌の側面に設置された先導モールドのスムーズな移動が妨げられ,
かえって工事の進行を阻害する結果となるのは,被告の指摘を待つま
でもなく明白であり,本件特許発明は,そのようなものではない。
d 本件特許請求の範囲に記載された「接触」の位置や形式は,本件明
細書に記載された実施例を示す図面に限定されるものではなく,鉄筋
の底部,側面,上部等いずれでもよく,また,吊支であってもよい。
特に,本件特許発明がパイオニア発明であることを考慮すれば,この
点は,一層明らかである。
したがって,被告が実施する吊支手段により吊支することも,本件
特許発明において,コンクリートかぶり不足を防止する程度に鉄筋の
振れを防止する方策の一つとして,当業者が採用できる「接触」の一
態様であり,被告の行為は,本件特許権の侵害に該当する。
e 被告は ,被告装置に関し , 摺動可能な可動軸を備えた一対の支持軸
「
ないし支持装置( ブラケット ) であると主張するが ,別紙物件目録の
」
写真5,6及び8によれば,各支持ロッド9は1本の丸棒状ロッドで
あり,複数本のL字型支持アームに固着されているから,可動ではな
い。
また,それらが「可動」だったと仮定しても,施工条件に応じて支
持ロッドの長さを可変とすることは,技術分野を問わず適宜行われる
慣用技術にすぎないから,本件特許発明の「接触部材」と被告装置の
支持ロッドとが異なるという理由となるものではない。
(ウ )「振れを防止」することについて
a 被告は,被告方法及び被告装置においては,鉄筋の自重によって鉄
筋籠を揺れにくくするが,揺れを禁止するのではない旨主張する。
b しかしながら ,本件方法特許発明の構成要件方法Fには , 鉄筋の振
「
れを防止する 」ことが規定されているものの , 揺れを禁止する 」との
「
要件は規定されてない。
また,構成要件方法Fにおいて「鉄筋の振れを防止する」のは,ホ
ッパー部の所定位置に迅速かつ確実に鉄筋を導入するためのものであ
ることは,本件特許発明の全趣旨から明らかなことである。
この「 振れを防止する 」ことの意義は ,本件特許発明の技術分野( 土
木工学)と目的に基づいて解釈されなければならないのであり,精密
工学のような技術分野と同視して,揺れを全く生じないように「禁止
する」と限定解釈されるべきものではない。
c また,被告方法においては,鉄筋籠が50メートル等と長く,支持
ロッドが挿入された部分より後方(支持ロッドの進行方向前方)の鉄
筋籠の部分が地面に接しているので,鉄筋籠はその自重もあいまって
上下左右に揺れることがなく,支持ロッドに吊支されながら支持ロッ
ド上を滑動して迅速かつ確実にホッパー部へ導入されるのであるか
ら,「鉄筋の振れ」が防止されている。
(エ)吊支領域について
a 被告は,被告方法及び被告装置における吊支の領域は,先導部に止
まらず,ホッパー部を超えて成形部との境界域にまで達し,かつ,可
動軸での調整を行う点で,本件特許発明とは異なる旨主張する。
b ホッパー部では,上方から連続的に生コンクリートが投入されるこ
とによる衝撃波と下方への押圧が働き,さらには,振動装置をホッパ
ー部に設ける構造とすることも多い(本件明細書の【発明の詳細な説
明】における段落【0006 】,4欄37ないし39行 )。
したがって,ホッパー部に導入された鉄筋籠が何らの支持を受ける
こともなく振動の中に放置されたならば,ホッパー部における鉄筋籠
の位置が定まらないこととなり,その結果として鉄筋籠の沈下,かぶ
り不足,出来上がった水路等構造物が波打つ等の問題が発生し,実用
に供しえないことは,自明であるといえる。
c 本件特許発明は , スリップフォーム工法において ,工期を短縮し ,
「
コストダウンを得るための改良された機械打設方法及び装置を提供す
る」(本件明細書の【発明の詳細な説明】における段落【0010 】,
5欄26ないし28行 )ために , 前記鉄筋を前記先導モールドの内面
「
あるいは接触部材と接触させながらホッパー部まで移動させることに
より先導モールド内での鉄筋の振れを防止してなることを特徴とす
る」(同段落【0012 】,5欄42ないし45行)発明であるがゆえ
に,ホッパー部における鉄筋の振れについては特別の記載はない。
しかしながら,ホッパー部に衝撃や下方圧力があることは,上記b
のとおり周知のことであり,かぶり不足を防止すべきことを繰り返し
強調していること ( 同段落 【 0008 】 【 0009 】 【 0019 】 及
, ,
び【 0021 】 からも明らかなように ,本件特許発明が ,ホッパー部
)
における揺れ防止がなされることを前提として,上記ホッパー部の所
定位置に適切かつ迅速に鉄筋を導入するために先導モールド内での鉄
筋籠の振れを防止した発明であることは,明らかである。
すなわち,ホッパー部における鉄筋位置の維持方法について具体的
な記載がないのは,本件特許発明が上記のようなものであったからで
あり,このことは,本件特許発明においてホッパー部で鉄筋の振れが
生じるとか,沈下することを意味するものではない。むしろ,ホッパ
ー部において,これを防止できる適切な手段を具備することを前提と
して,先導モールド内の鉄筋の振れを防止し,適切かつ効率的に成形
部に鉄筋を導入して,これによりコンクリートのかぶり不足防止を実
現したものにほかならない。
したがって,本件特許発明には被告方法及び被告装置におけるホッ
パー部の構成が記載されていないから,被告方法及び被告装置が本件
特許発明と異なるとする被告の主張は,失当である。
(被告の主張)
ア 被告方法及び被告装置の構成について
(ア)被告方法の構成について
a 方法aないし方法e及び方法gについて
原告の主張を認める。
ただし,方法dに関しては,被告は,鉄筋を地面に対して固定する
場合に限り,ベースコンクリートを打設し,基礎有り工事を行ってい
る。
b 方法fについて
(a)鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側が,先導モールド
の内部に取り付けられた一対の支持ロッドに接触して懸垂されなが
ら,ホッパー部に移動するとの点について
概ね認める 。ただし , 一対の支持ロッド 」というのは正確ではな
「
い。すなわち,被告方法は,被告の有する特許第3378802号
の特許( 乙1 )に係る発明( 以下「 被告発明 」という 。 に基づくも
)
のであるが,被告方法の特徴は,モールドの成形部に鉄筋を導入す
る際,摺動可能な可動軸を備えた一対の支持軸ないしは支持装置
( ブラケット 」
「 と呼ばれるもの )が鉄筋の上部両側を吊支する点 乙
(
1 ,図3 ) また ,その吊支の領域が ,先導部に止まらず ,ホッパー
,
部を超え成形部との境界域にまで達し,なおかつ,コンクリート成
形に悪影響が出ないよう可動軸での調整を行う点(乙1の段落【0
012】及び【0014 】)にある。
(b)鉄筋籠の上方左右コーナーの内側が支持ロッドに接触・懸垂され
ているとの点について
鉄筋籠が ,左右一対の支持軸で「 懸垂 」 吊支 )されている点は認
(
めるが , 接触 」とする点は否認する 。被告の技術は ,吊支された鉄
「
筋の揺れを許容しながら,鉄筋の自重でその位置決めが自然に行わ
れるようにしたものであり,モールド内の何かに接触させて鉄筋の
揺れを防止するものではない。
(c)鉄筋籠は約50メートルと長いとの点について
正確ではない。鉄筋籠は,被告発明では,必ずしも溶接を要する
ものではないが,現時点では溶接して使用している。その場合,運
搬効率の点から ,長さ5メートル程度の鉄筋籠を基本ユニットにし ,
工事に応じた数を用意して使用するが,その長さが50メートルに
限られるわけではない。
(d)鉄筋籠は上下左右に揺れることなくホッパー部へ移動されるとの
点について
否認する。原告は,①鉄筋籠の上方左右コーナーの内側が支持ロ
ッドに接触・懸垂され,②支持ロッドに挿入された部分より後方の
鉄筋籠の部分が地面に接しているので,鉄筋籠は上下左右に揺れる
ことはないとするもののようである 。しかしながら ,被告の技術は ,
鉄筋籠を揺れにくくするが,モールド内の何かに接触させて揺れを
禁止するものではない。
(e)鉄筋籠は,成形コンクリート内に埋設され,所定の形状を維持し
ている先行の鉄筋籠と連続しているから,一対の支持ロッドにより
懸垂されて先導モールド部及びホッパー部にある後続の鉄筋籠も,
上下左右に揺れることがないとの点について
否認する。被告の施工方法は,鉄筋籠の揺れを許容するものであ
る。
(イ)被告装置の構成について
a 装置aないし装置d及び装置fについて
原告の主張を認める。
ただし,装置dに関しては,被告は,鉄筋を地面に対して固定する
場合に限り,ベースコンクリートを打設し,基礎有り工事を行ってい
る。
b 装置eについて
原告の主張を否認する。原告のいう支持ロッドは,上記のとおり,
ブラケットのことであるが ,その支持軸による鉄筋の吊支を , 鉄筋籠
「
の上方左右コーナー部の内側に接触して鉄筋籠を懸垂し」とするのは
不合理である。すなわち,被告装置は,吊支された鉄筋の揺れを許容
しながら,鉄筋の自重でその位置決めが自然に行われるようにしたも
のであり,モールド内の何かに接触させて鉄筋の揺れを防止するもの
ではない。鉄筋籠をブラケットの支持軸で吊支すれば,その鉄筋の内
側と支持軸が触れるのは当然であり,この態様での接触は,元々,吊
支( 懸垂 )の概念に含まれている 。したがって ,原告のいう接触とは ,
それ以上の要素との接触を指すものでなければならないが,被告装置
にそうした要素は存在しない。
イ 基礎有り工事が本件特許発明の技術的範囲に属しないことについて
(ア)本件明細書の【発明が解決しようとした課題 】(段落【0009 】・5
欄13ないし24行)を見れば明らかなように,ベースコンクリートを
伴う施工に本件特許発明を用いれば,同【発明の効果】に記載された,
鉄筋を地面に固定して設置する必要がないという効果 段落 0028 】
( 【
・8欄21ないし27行)及びベースコンクリートを省略できるという
効果(段落【0029 】・8欄28ないし32行)を得られなくなる。
確かに ,本件明細書の【 発明の実施の形態 】においては , ベースコン
「
クリートを施設するものも含む 」と記載されているが( 段落【 0022 】
・7欄39行 ) 本件特許発明の上記技術的効果からすれば ,同記載は ,
,
余事記載にとどまるものといえる。
(イ)原告は,被告の基礎有り工事の施工についても,ベースコンクリート
を打った上に,本件特許発明を実施したものである旨主張する。
しかしながら,ベースコンクリート付きのスリップフォーム円形水路
は,日本道路公団では採用されなくなったものの,国土交通省や地方自
治体では,いまだに多数が施工されている。例えば,平成20年度末に
施工が予定される基礎付きの円形水路についても,従来の手型枠にて発
注されているものが存在する( 乙38の1 ,2 ) 被告は ,このような手
。
型枠による施工をする場合,被告自身が有する特許第1975970号
の特許( 乙3 )に係る発明( 以下「 旧被告特許発明 」という 。 を実施し
)
ているもので,本件特許発明を実施してはいない。
(ウ)したがって,被告方法及び被告装置のうち基礎有り工事に用いられる
ものは,本件特許発明の技術的範囲に属さず,被告による基礎有り工事
は,本件特許権を侵害するものではない。
ウ 被告方法fが構成要件方法Fを充足せず,被告装置eが構成要件装置E
を充足しないことについて
(ア)本件方法特許発明及び本件装置特許発明における「鉄筋の内形」が意
味するもの
構成要件方法Fは , 鉄筋の内形を先導モールドの内部に設けられた接
「
触部材と接触させながらホッパー部まで移動させることにより先導モー
ルド内での鉄筋の振れを防止」することを主要要件とし,また,構成要
件装置Eも , 鉄筋の内形と接触する接触部材を前記先導モールドの内部
「
に設け」ることを主要要件とするが,この「鉄筋の内形」の具体的な意
味については,その文言のみで明らかにすることはできない。
そこで,上記「鉄筋の内形」の意味を理解するために,本件明細書の
【発明の詳細な説明】における「該接触部材19Dが鉄筋16の内形と
接触することにより該鉄筋16の振れを防止している」との記載(段落
【 0027 】・8欄17ないし19行 )及び本件図4( D )の「 底板上に
おかれた接触部材19Dが鉄筋16の内形中央から下部にかけて嵌まり
込むように接触配置されている図面 」を参照すると , 鉄筋の内形 」
「 とは ,
鉄筋の内部形状を示すものと解することができる。
(イ)本件特許発明における「接触部材」及び「接触」が意味するもの
構成要件方法F及び構成要件装置Eにおいては , 鉄筋の内形 」が「 接
「
触部材」と「接触」するものとされるが,この「接触部材」とは,本件
図4(D)から,鉄筋の内部形状に合致して鉄筋の振れを防止するよう
に,その内部に嵌まり込むものと解することができる。すなわち,本件
特許発明は,鉄筋の内部形状に合致する「接触部材」により「鉄筋を強
制的に拘束してその上下左右の振れを防止する」技術や方法,手段をい
い,かつ,これに限定されるものである。
これにより,本件特許発明にいう「接触」も単なる物理的な接触をい
うのではないことは明らかである。すなわち,その接触は,先導モール
ド内での鉄筋の揺れを「接触部材」によって強制的に防止する機能を確
保する態様のものを指すと解すべきだからである。
原告は ,被告方法及び被告装置を , 接触・懸垂されながら 」「 鉄筋籠
「 ,
の上方左右コーナー部の内側に接触して鉄筋籠を懸垂し 」などと表現し ,
懸垂(吊支)は,本件特許発明の「接触」に内包されるかのような主張
を行うが,そもそも吊支と接触は,社会通念上異なる概念であるし,被
告方法及び被告装置における吊支は,本件特許発明における「接触」機
能を全く有していない。
(ウ)したがって,被告方法fは,構成要件方法Fを充足せず,被告装置e
は,構成要件装置Eを充足しない。
エ 被告方法及び被告装置は,被告が有する特許第3378802号の特許
権( 乙1 )に係る発明( 以下「 被告特許発明 」という 。 を実施するもので
)
あることについて
(ア)本件特許発明の特徴と問題点
a 本件特許発明においては,先導モールド(先導部)内での鉄筋の振
れを防止するため,接触部材19D(別紙特許公報の図面に記載され
た符号である 。以下同じ 。 が先導モールド( 先導部 )内に設けられて
)
おり,さらに,この先導モールド(先導部)に設けた「接触部材」を
鉄筋の内形に押し付ける構造となっているため,鉄筋の組み立て精度
が悪ければ,鉄筋は先導モールド(先導部)へ飲み込まれず,また,
組み立て精度が良く飲み込まれた後でも,接触部材に引っかかって引
きずられるおそれが極めて高いものである。
特に,接触部材19Dをホッパー部まで延長すれば,鉄筋内に生コ
ンクリートが殆ど流入しなくなるため,その配置位置は先導モールド
(先導部)内に限られる構造となっている。
したがって,本件特許発明では,鉄筋の安定性が最も必要とされる
ホッパー部から後方脱型部の区間内において,鉄筋が自重によってた
わんだままふらつき,その状態で,鉄筋がホッパー部に投入される生
コンクリートの衝撃波及び生コンクリートのヘッド圧を受けて,下方
へ押圧されることになる。また,ホッパー部ではバイブレータによる
振動で生コンクリートの流動化が促進され,生コンクリートがいまだ
不定形の流動状態にあるので,鉄筋は生コンクリート中に沈下しなが
ら埋設されることになる。
特に,この現象は,鉄筋の生コンクリートかぶり量が多いほど顕著
に発現され,また,施工物の要求強度によって鉄筋径を太く,かつ,
配置ピッチを細かくした単位長さ重量の大きい鉄筋において,より顕
著に発現するものである。
b 本件特許発明の「鉄筋を先導モールドの内面あるいは接触部材と接
触させながらホッパー部まで移動させる」技術は,本件明細書の【図
面の簡単な説明】における【図4】で「鉄筋の外形と接触する接触部
材を設けた場合」と「鉄筋の内形と接触する接触部材を設けた場合」
との2つに分けてその具体例が図示,説明されているとおり,鉄筋の
形状に応じてモールド内部を工作するか,接触部材を鉄筋の外部又は
内部に配し,それらの工作や部材でモールド内に進んだ鉄筋を抱きか
かえ又は挟み込むように固定し,その揺れを防止しようとするもので
ある。そして,モールド内の工作や接触部材は,鉄筋の形状に依拠し
て造られる必要があるから,本件特許発明において鉄筋の形状は極め
て重要な意味を持つ。
そして,使用される鉄筋の形状に依拠する本件特許発明は,それが
大きな欠点にもなる。すなわち,鉄筋の組立精度が悪く,鉄筋の形状
が一定しなければ,モールド内の加工とミスマッチが生じ,鉄筋は先
導モールド内へ飲み込まれないし,また,飲み込まれた後でも,接触
部材等に容易に引っかかって引きずられるおそれが極めて高くなる。
(イ)被告特許発明の特徴と利点
a 被告方法及び被告装置においては,施工の都度変化する生コンクリ
ートの軟らかさの度合い(コンシステンシー)その他の各変動要因に
応じて,生コンクリートが十分に締め固められるまでブラケットが鉄
筋を保持し,これを生コンクリートが凝固化する直前に解き放し,そ
の埋設位置を確定できるようにしたものである。
すなわち,被告装置においては,モールドの長手方向へ摺動可能に
した可動軸をもつ一対の並列状を成すブラケットにより,鉄筋の上部
両側を吊支しながら,可動軸の末端位置をホッパー部より後方の成形
部の区間内に位置付けられるようにしてある。
これにより,被告方法及び被告装置においては,各種変動要因に応
じて可動軸の末端位置を,ホッパー部と成形部の区間内において自在
に変化させ,生コンクリートが十分に締め固められるまで鉄筋を吊支
してその沈下を防ぎ,埋設位置を正規位置に確定することができる。
b 確かに,被告特許発明も,本件特許発明と同様,先導モールド内に
おいて鉄筋の内側部分に接触する部材を有しているが,その部材は,
鉄筋を「吊支」するものであり,先導モールド内での「鉄筋の振れを
防止する」ものではない。
したがって,本件特許発明においては,先導モールド内において鉄
筋が振れないように接触部材を接触させる必要があり,そのため,鉄
筋の横断面の形状(内形や外形)が技術の要点となるのに対し,被告
特許発明は ,鉄筋を吊支すればよく ,そこには ,媒介物等で固定して ,
鉄筋の振れを意図的に防止する契機は存在せず,鉄筋の横断面の形状
(内形や外形)に依拠する必要もないのである。
c さらに,被告方法及び被告装置においては,鉄筋の正規位置への埋
設完了後,可動軸を前方へ延ばし,モールドの遥か前方で鉄筋の吊支
を行ってモールド内での鉄筋の変形による干渉を完全に防止できると
ともに,後方脱型部から出たコンクリート構造物と可動軸との間にお
いて,鉄筋を正規位置に水平状態に保つことができる。
(ウ)原告の主張に対する反論
原告は,吊支の領域について,請求項にホッパー部の構成が記載され
ていなくても,ホッパー部に導入された鉄筋籠が何らかの支持を受ける
ことなく,振動の中に放置されたならば,ホッパー部における鉄筋籠の
位置が定まらないことは自明であり,本件特許発明は,ホッパー部にお
いて鉄筋籠の沈下を防止できる適切な手段を具備することを前提とする
旨主張する。
しかしながら ,本件特許発明の意図するところは , 鉄筋を前記先導モ
「
ールドの内面あるいは接触部材と接触させながらホッパー部まで移動さ
せることにより先導モールド内での鉄筋の振れを防止」することにあり
( 本件明細書における【 発明の詳細な説明 】の段落【 0012 】・5欄4
2ないし44行 ) ホッパー部での鉄筋の揺れを防止するためにホッパー
,
部内に格別の手段を講じることを想定していないのは明白である 。また ,
実際,原告の当初の成形機には,ホッパー部に鉄筋の保持装置は設置さ
れておらず,そのため,工事が失敗し,その後,原告の成形機にも被告
特許発明と同様にロッドが設置されるに至った( 乙26 ) この事実は ,
。
本件特許発明の限界を自白するに等しいものであり,被告特許発明の有
用性,独自性を端的に証明するものといえる。
(エ)以上のとおり,被告方法及び被告装置は,被告が独自に開発した被告
特許発明によるものであって,本件特許発明とは全く相違するものであ
るから,本件特許権を侵害するものではない。
(2)争点2(被告による不当利得の有無及びその額)について
(原告の主張)
ア 被告方法又は被告装置による施工の距離
(ア)被告は,平成12年4月から平成19年3月までの間,被告方法又は
被告装置を用いて,次のとおり,合計320,004メートルにわたる
円形水路の施工を行った。
平成12年度 77,240メートル
平成13年度 25,876メートル
平成14年度 11,540メートル
平成15年度 77,615メートル
平成16年度 43,656メートル
平成17年度 37,240メートル
平成18年度 46,837メートル
合計 320,004メートル
(イ)被告は,平成19年4月から平成20年3月までの間,被告方法又は
被告装置を用いて,47,476メートルにわたる円形水路の施工を行
った。
イ 本件特許発明の実施料相当額
(ア)本件特許発明の実施料については,発注者である日本道路公団の積算
資料において ,施工1メートル当たり1000円で計上され 甲6の1 ,
(
2 ) 日本道路公団と元請業者との実際の契約においても ,
, 同様に算定さ
れており(甲7 ),西日本高速道路株式会社も ,「土木工事等単価ファイ
ル」に「特許料」単価が1メートル当たり1000円であることを記載
している(甲13 )。
また ,国土交通省を発注者とする国道工事においても , 工事数量総括
「
表 」に「 特許料を含む 」と記載され( 甲9ないし11 ) その金額も ,上
,
記日本道路公団の場合と同等である。
そして,工事積算のための市販のコンピューターソフトウェアである
「 メビウス 」 以下「 メビウス 」という 。 においても , 円型水路( スリ
( ) 「
ップフォーム ) の「 特許料 」が1メートル当たり1000円であること
」
が明記されている(甲12の1ないし3 )。
このような実施料は,本件特許発明を実施することによって,従来工
法に比し,大幅にコストを低減することができ(1メートル当たり20
00円程度のコストが削減される 。 ,工期も大幅に短縮できることを考
)
慮して,積算されたものであり,発注者にとっても「特許料」を支払う
十分な意義を有しているのである。
(イ)発注者と元請業者との契約 ,元請業者と下請業者の契約においては , 特
「
許料 」が他の工事代金( 例えば , 円形水路 」の工事代金 )の中に包含さ
「
れる場合がある 乙29のB−1頁 ,
( 番号2 , ) その場合であっても ,
3 。
工事代金総額として,積算価格に対し,100ないし90パーセントの
割合の価格で契約されることが従来の常識であり ,その金額の中に , 特
「
許料」についても,上記積算価格に対して100ないし90パーセント
相当分の価格が含まれていることは,明らかである。
本件においても,名目のいかんを問わず,施工1メートル当たり約1
000円の本件特許発明の実施料が含まれており,被告は,当該金額を
不当利得したというべきである。
(ウ)以上により,本件特許発明の実施料は,施工1メートル当たり100
0円が相当である。
ウ したがって,被告は,原告に対し,上記ア(ア)の施工に関して約3億
2000万円を,上記ア(イ)の施工に関して4747万6000円を,
本件特許発明の実施料として支払うべきであったにもかかわらず,それら
の支払を免れたというべきである。
エ 被告の主張に対する反論
被告は,原告が施工1メートル当たり1771円の値引きをしているこ
とから(乙36の1ないし3 ) 「特許料」が有名無実化している旨主張す
,
る。
しかしながら,原告は,本件特許の特許権者であるが,被告は,本件特
許の特許権者ではなく,本件訴訟における原告と被告の立場は,根本的に
異なる。
すなわち,原告は,本件特許の特許権者であるから,本件特許発明を実
施した工事の施工代金に 特許料 」
「 を上乗せして請求することもできるし ,
また , 特許料 」を請求しないことによって ,他者よりも低廉な価格で受注
「
し,競争上優位な立場に立つこともできる。
他方,被告は,本件特許発明を実施するに当たって,その特許権者であ
る原告に対し,実施料を支払わなければならず,そのための原資として,
発注者から「特許料」の支給を受ける立場にある。
また,発注者としても,従来工法で施工した場合に比して,全体のコス
トを低減化することができるので,上記「特許料」を支払うことに十分な
理由がある。
以上のとおり,原告による値引きを可能としているのは,原告が優位な
立場にあることによるものである。
(被告の主張)
ア 基礎無し工事による施工の距離について
被告が,被告方法により,又は,被告装置を用いて行った円形水路の施
工のうち,基礎無し工事による施工の距離の合計は,251,382メー
トルである(甲5 )。
イ 本件特許発明の実施料相当額について
(ア)円形水路に関するスリップフォーム工法は,公共の道路工事でしか用
いられず,しかも,受注者は,大手の舗装企業に限定され,原告や被告
は,その下請先となる。
そして ,発注者作成に係る「 土木工事積算基準 」には , 特許料1式 」
「
との記載はあるものの ,単価は全く定まっておらず( 甲3の1 ,2 ) 同
,
作成に係る実際の工事の単価表においても , 特許料 」は ,個別の費用費
「
目に含まれていない( 乙29 ) これは ,元請企業との契約においても同
。
様である。
(イ)発注者の元請企業に対する発注額や元請企業からの受注額においても ,
特許発明の実施料は ,全く考慮されていない 乙28 ,
( 30ないし32 )。
そもそも ,原告や被告のような下請企業がこうした工事を請けるには ,
発注者による「歩切り」や元請企業による「値下げ」を前提とせざるを
得ず,厳しく制限された受注環境の中で工事代金を入札するのであるか
ら,原告のように特許発明の実施料を主張するようなことは皆無である 。
被告と原告は,同業の下請業者であり,共に日本道路公団や国土交通
省等が発注する道路工事を下請受注しているが ,被告は , 特許料 」の支
「
払を受けていない。同じ立場にありながら,原告には「特許料」が支払
われ,被告には支払われないという事態はあり得ない。
( ウ )原告は , 特許料 」が他の工事代金に包含される場合がある旨主張する
「
が ,原告が最近施工したトンネル工事において , 特許料 」は請求されて
「
おらず,他の工事代金に包含されるどころか,原告主張の「特許料」を
大幅に上回る値引きがされているのである(乙36の1ないし3 )。
(エ)したがって,原告の主張する施工1メートル当たり1000円という
本件特許発明の実施料は,不当に高額であり,工事実態に照らせば,そ
の価値はないに等しく,有名無実化しているというべきである。
ウ 被告が実施する被告特許発明と本件特許発明の重なり合いの程度につい
て
被告が実施している被告特許発明の先導部における技術が,仮に,何ら
かの意味で本件特許発明と重なる部分があったとしても,その程度は些少
というべきである。
すなわち,先導部で鉄筋を保持し,その揺れを防止するという本件特許
発明の技術は,世界的にも国内的にも酷似した実施例が存在し(乙11な
いし25 ),その価値は高いものではない。
また,被告特許発明の独創性は,ホッパー部や成形部でもブラケットに
よる鉄筋の吊支を行い,それにより,ホッパー部では鉄筋の位置や形状を
安定させ,さらに,ブラケットを可動にすることで,成形部での調整を可
能にした点にあるが,こうした工夫は,先導部の技術以上に,コンクリー
トの安定成形に資するものである。
エ 結論
以上によれば,被告は,浮動設置の円形水路工事を行ってはいるが,原
告が主張するような不当利得は存在しないというべきである。
仮に,先導部に関する技術において,被告特許発明と本件特許発明とで
重なる部分が存在するとしても,それは,被告特許発明の本質的な部分と
はいえず,その程度はわずかであり,これらを総体的にみれば,被告にお
いて,本件特許発明の実施を原因とする不当利得は発生していないといわ
ざるを得ない。
第3 争点に対する判断
1 争点1(被告方法及び被告装置は,それぞれ,本件方法特許発明及び本件装
置特許発明の構成要件を充足するか)
(1)基礎有り工事に関する被告の主張について
ア 基礎有り工事が本件特許発明の技術的範囲に属するかについて
(ア)被告は,スリップフォーム工法による円形水路の施工に際し,ベース
コンクリートを打設する場合,すなわち,基礎有り工事を行う場合は,
本件特許発明の効果を得られなくなるなどとして,被告方法及び被告装
置のうち基礎有り工事に用いられるものは,本件特許発明の技術的範囲
に属しない旨主張する。
(イ)本件特許発明に関して,本件明細書には,次のような記載がある(甲
2)。
a 【発明が解決しようとした課題】
「上述の従来公知のスリップフォーム工法には以下のような問題点
があった。すなわち,従来工法では,予めベースコンクリート7を打
設して置き,該ベースコンクリート7にアンカー鉄筋9,差し筋9A
あるいはアンカー金具9Bを埋設し,更に加えて該アンカー鉄筋9,
差し筋9Aあるいはアンカー金具9Bに鉄筋8を固定して置く必要が
ある。これらの作業工程は,全て作業員の手作業によるものであり,
これが工事コストのアップをもたらし,工期が長期間となる原因とな
っている。また,鉄筋8の組立て精度如何によっては,かぶりが生じ
てしまう 。 (段落【0009 】
」 ・5欄14ないし24行)
なお ,上記段落【 0009 】中の「 かぶり 」の記載は , かぶり不足 」
「
(鉄筋を覆うコンクリート量が不足し,又は,鉄筋がコンクリート構
造物の外に露出してしまい,不良品となること)の誤記であると認め
られる(弁論の全趣旨 )。
b 【課題を解決するための手段】
「まず,本発明の特徴とする構成は以下のとおりである。先導モー
ルドとホッパー部と成形モールドからなるモールドをコンクリート構
造物が施工される経路に沿って移動させ,その移動経路に沿って予め
鉄筋を組み立てて置き,前記ホッパー部に生コンクリートを連続的に
供給しながら先導モールドに前記鉄筋を順次導入して成形モールドに
よってコンクリート構造物を自動的に機械施工する方法において,前
記鉄筋を浮動設置し,前記モールドの移動と共に前記鉄筋を先導モー
ルドに導入させ,前記鉄筋を前記先導モールドの内面あるいは接触部
材と接触させながらホッパー部まで移動させることにより先導モール
ド内での鉄筋の振れを防止してなることを特徴とするコンクリート構
造物の機械施工方法 。 (段落【0012 】
」 ・5欄33ないし45行)
c 【発明の実施の形態】
「・・・本発明の図示の実施例では,鉄筋16及び先導モールド1
2の構造が従来のスリップフォーム工法とは異なるものとなってい
る。すなわち,鉄筋16は地面Gに対して固定されることなく,浮動
設置されている。先導モールド12は,その大きさが鉄筋16の大き
さと略同一の大きさとなっており,先導モールド12の内面と接触し
て案内されながらホッパー部13に導入される 。( 段落 0016 】
」 【 ・
6欄26ないし33行)
「以下に,本発明の上記実施例になるコンクリート構造物17の機
械施工について説明する。本発明によると,従来のように地面Gにベ
ースコンクリートを打設する必要がない。そして,地面Gに対して固
定することなく,浮動状態に鉄筋16を設置する。そして,モールド
11を移動させて浮動している鉄筋16を先導モールド12の中に順
次導入していく 。 (段落【0018 】
」 ・6欄38ないし44行)
「・・・図2の(B)においては,鉄筋16Aが地面G上に浮動設
置されており,そのままの状態で先導モールド12Aの内部へ導入さ
れるものとなっている 。( 段落【 0020 】
」 ・7欄18ないし21行 )
「上述の説明において,本発明ではベースコンクリートが不要の構
成として説明しているが,本発明はベースコンクリートの構成を除外
するものではなく,ベースコンクリートを施設するものも含むもので
ある 。 (段落【0022 】
」 ・7欄36ないし39行)
d 【発明の効果】
「以上説明した本発明の機械施工方法及び装置によると,次のよう
な効果を奏する 。 1 )まず ,鉄筋を地面に固定して設置する必要がな
(
いので,従来のようなアンカー筋を設置する必要がない。また,従来
のようにアンカー筋と鉄筋とを固定する作業も不要となる。従って,
工期の短縮が可能となり,コストも低減する 。 (段落【0028 】
」 )
「 2 )また ,コンクリート構造物を地面上に直接設置することがで
(
きるものとなり,必要に応じてベースコンクリートの施工を省略でき
るものとなる。従って,この面においても工期の短縮が可能となり,
コストも低減する 。 (段落【0029 】
」 )
(ウ)上記(イ)の各記載を総合すれば,本件特許発明による従来技術の課
題の解決に関し,次のようにいうことができる。
すなわち,従来工法においては,予めベースコンクリートを打設し,
そこにアンカー鉄筋,差し筋又はアンカー金具を埋設して,これらに鉄
筋を固定しておく必要があり,かつ,それをすべて作業員の手作業によ
らねばならなかったため,工事コストのアップ,工期の長期化,コンク
リートのかぶり不足といった問題が生じていたところ ,本件特許発明は ,
そのような問題を解決するため,モールドの移動経路に沿って,予め鉄
筋を組み立てて浮動設置し,当該鉄筋を,モールドの移動と共に先導モ
ールドに導入させ,先導モールドの内面あるいは接触部材と接触させる
ことにより,その振れを防止しつつコンクリートが供給されるホッパー
部まで移動させるという仕組みを採用したものである。
そうすると,本件特許発明においては,鉄筋を固定不要にして接触部
材等と接触させながらホッパー部まで移動させるということが,上記の
問題解決に直結する,必要不可欠な要素であるといえ,鉄筋を固定する
ためのベースコンクリートの打設を省略できることは,本件特許発明の
招来する副次的な効果にすぎないと解すべきであり,ベースコンクリー
トの打設の省略が,上記問題解決のための必須の構成となるものではな
いことは,明らかといえる。
このような理解は ,上記各記載において , 本発明はベースコンクリー
「
トの構成を除外するものではなく,ベースコンクリートを施設するもの
も含む 」とされ ,また , 必要に応じてベースコンクリートの施工を省略
「
できる」とされていることとも整合するものである。
(エ)その他,本件明細書及び本件図面上,本件特許発明の技術的範囲を基
礎無し工事に係るものに限定解釈すべき記載を見出すことはできず,ま
た,そのような限定解釈をすべき事情を認めるに足りる証拠もないから ,
被告の上記主張を採用することはできない。
イ 基礎有り工事の構成について
また,被告は,鉄筋を地面に対して固定する場合に限って,ベースコン
クリートを打設している旨主張する。
しかしながら,被告は,スリップフォーム工法による円形水路の施工に
際し,ベースコンクリートを打設する場合,すなわち,基礎有り工事の場
合には,旧被告特許発明を実施している旨主張するところ,旧被告特許発
明に係る特許権の特許公報( 乙3 )上 ,従来技術においては , コンクリー
「
トを打設してなるベースの上に ,型枠を連続状に組み付け固定する 」 段落
(
【 0002 】・3欄5ないし7行 )とされていたのに対し ,当該特許発明に
おいては ,ベースコンクリートに相当する「 スペーサ 」上に鉄筋を「 載置 」
する,すなわち,載せた状態とする方法が明示されている(段落【001
1】・4欄22行 )。そうすると,被告による基礎有り工事においては,鉄
筋が地面に固定されていないものと認められる。
したがって,被告の上記主張を採用することはできず,被告方法及び被
告装置の構成から基礎有り工事を除外して考えることはできない。
ウ 小括
以上によれば ,被告方法は ,基礎有り工事を実施する場合を含み ,また ,
被告装置は,基礎有り工事に用いられるものも含むと認められ,弁論の全
趣旨によれば,被告方法及び被告装置の各構成は,次のとおりであると認
められる。
(ア)被告方法の構成
方法a モールドは,先導モールド部とホッパー部と成型モールド部
とからなり,このモールドは,車輌に取り付けられて,コンク
リート構造物からなる円形水路が施工される経路に沿って移動
される。
方法b モールドの移動経路に沿って,予め鉄筋を組み立ててなる鉄
筋籠が地面に置かれている。
方法c 上記ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しながら,
先導モールド部に上記鉄筋籠を順次導入して,成形モールド部
によってコンクリート構造物を自動的に機械施工する方法であ
る。
方法d 上記鉄筋籠は,地面に固定されることなく,直接又はベース
コンクリートを介して,地面に置かれている。
方法e 上記鉄筋籠は,上記モールドの移動と共に,一対のブラケッ
トによって懸垂された状態で,先導モールド内に導入される。
方法f 鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側が,先導モー
ルドの内部に取り付けられた一対のブラケットによって懸垂さ
れながら,ホッパー部に移動することによって,鉄筋の自重に
より,先導モールド部及びホッパー部において,鉄筋籠が揺れ
にくくなり,その位置決めが行われる。
方法g 上記方法aないし方法fの構成からなるコンクリート構造物
の機械施工方法である。
(イ)被告装置の構成
装置a モールドは,先導モールド部とホッパー部と成型モールド部
とからなり,このモールドは,車輌に取り付けられ,コンクリ
ート構造物からなる円形水路が施工される経路に沿って移動さ
れる。
装置b その移動経路に沿って,予め鉄筋を組み立ててなる鉄筋籠が
地面に置かれている。
装置c 上記ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しながら,
先導モールド部に上記鉄筋籠を順次導入して,成形モールド部
においてコンクリート構造物を自動的に機械施工する装置であ
る。
装置d 上記鉄筋籠は,地面に固定されることなく,直接又はベース
コンクリートを介して,地面に置かれている。
装置e 上記先導モールド部の内部にはブラケットが設けられ,この
ブラケットは,鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側
で鉄筋籠を懸垂し,鉄筋籠をホッパー部に移動する。
装置f 上記装置aないし装置eの構成からなるコンクリート構造物
の機械施工装置である。
そして,被告方法が基礎有り工事で実施される場合及び被告装置のうち
基礎有り工事に用いられるものについて,基礎有り工事であることを理由
として,直ちに本件特許発明の技術的範囲に属さないということはできな
い。
(2)構成要件方法F及び構成要件装置Eの解釈に関する被告の主張について
ア 被告は ,構成要件方法F及び構成要件装置Eにおける「 接触部材 」とは ,
「 鉄筋の内形 」 すなわち ,鉄筋の内部形状に合致して ,鉄筋を強制的に拘
,
束し ,その上下左右の振れを防止するものであり ,かつ ,これに限定され ,
同「接触」も,単なる物理的な接触ではなく,先導モールド内での鉄筋の
揺れを強制的に防止する機能を確保する態様のものを指す旨主張する。
イ 本件特許発明に関して ,本件明細書には ,次のような記載がある 甲2 )
( 。
(ア )【従来技術】
「従来のスリップフォーム工法では,鉄筋8をベースコンクリート7
上に予め固定し,その固定された鉄筋をモールド1の先導モールド2に
導入させるようにしている 。このように ,鉄筋8を固定して置かないと ,
先導モールド2内で鉄筋が上下左右に振れてしまい,鉄筋にかぶり(鉄
筋の位置がコンクリート構造物6の外側に剥き出しとなって出てしまう
等 )を生じてしまうからである 。( 段落【 0008 】
」 ・5欄5ないし12
行)
(イ )【課題を解決するための手段】
「 本発明の特徴とする構成は以下のとおりである 。・・・前記鉄筋を浮
動設置し,前記モールドの移動と共に前記鉄筋を先導モールドに導入さ
せ,前記鉄筋を前記先導モールドの内面あるいは接触部材と接触させな
がらホッパー部まで移動させることにより先導モールド内での鉄筋の振
れを防止してなることを特徴とする・・・ 。( 段落 0012 】
」 【 ・5欄3
3ないし45行)
(ウ )【発明の実施の形態】
「本発明は鉄筋が先導モールドの内部で上下左右に振れないものであ
れば良いので,以下のような実施例とすることもできる 。 (段落【00
」
23 】・7欄43ないし45)
「次に,図4の(D)に示す実施例は,先導モールド12に底板21
が設けられており,該底板に接触部材19Dを設けたものである。そし
て,該接触部材19Dが鉄筋16の内形と接触することにより該鉄筋1
6の振れを防止している 。( 段落【 0027 】
」 ・8欄15ないし19行 )
ウ 本件明細書における上記イの各記載によれば,本件特許発明において,
「鉄筋の内形を先導モールドの内部に設けられた接触部材と接触させなが
らホッパー部まで移動させる 」こと( 構成要件方法F )とされ ,あるいは ,
「鉄筋の内形と接触する接触部材を前記先導モールドの内部に設け」るこ
と(構成要件装置E)とされているのは,いずれも,先導モールド内に案
内された鉄筋が,上下左右に振れて位置を変えることにより,先導モール
ド後方のホッパー部及び成形モールド内に導入されて生コンクリートによ
る成形がされる際に,所定の位置からずれてしまい,コンクリート構造物
の表面に露出してしまうという事態を防止するためであると解される。
しかも,上記イ(ウ)の記載中に本件方法特許発明及び本件装置特許発
明の実施例として言及された本件図4(D)においては,先導モールドの
底板の上の鉄筋の内側部分に鉄筋の高さの約3分の2の高さを有する台形
状の接触部材が設けられ ,当該接触部材の外側と鉄筋の内形とが接触して ,
鉄筋の振れを防止する態様が記載されているところ,この実施例は,鉄筋
の内形を接触部材で支持することにより,鉄筋自体の自重でその振れを防
止し,特に上方向への移動を抑えるものであり,強制的に上下方向等への
移動を拘束するものではないと認められる(甲2 )。
そうすると,本件特許発明における「接触部材」とは,鉄筋の内形に接
触し,鉄筋がホッパー部及び成形モールドに移動した時点で所定の位置か
らずれない程度に,先導モールド内において鉄筋の振れを防止し得るもの
であれば足り,同「接触」も,そのような機能を果たす程度のもので足り
ると解すべきであって,鉄筋を強制的に拘束して,その上下左右の振れを
防止するものに限定されず,かつ,振れの防止に鉄筋の自重を利用する場
合も包含するものというべきである。
エ その他,本件明細書及び本件図面上,構成要件方法F及び構成要件装置
Eを,被告が主張するように限定解釈すべき記載を見出すことはできず,
また ,そのような限定解釈をすべき事情を認めるに足りる証拠もないから ,
被告の上記主張を採用することはできない。
(3)その他の被告の主張について
被告は,被告方法及び被告装置が,被告特許発明を実施するものであり,
本件特許発明と全く相違するものであるから,本件特許権を侵害するもので
はないとして,被告特許発明と本件特許発明の相違点等について主張する。
しかしながら,仮に,被告方法及び被告装置が被告特許発明を実施するも
のであったとしても,そのことが直ちに本件特許発明を実施していないこと
にはつながらないというべきである。そもそも,特許発明の技術的範囲は,
特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであるから(特許
法70条1項 ) 当該特許発明の特許請求の範囲に記載された個々の具体的な
,
構成要件の充足の検討を離れ,他の特許発明を実施していることを理由とし
て,当該特許発明の技術的範囲に属しないとする主張は,失当であるといわ
ざるを得ない。
したがって,被告の上記主張を採用することはできず,その他,被告方法
及び被告装置を用いた施工が本件特許発明を実施するものではないとして縷
々主張するところは,いずれも採用することができない。
(4)小括
以上によれば,被告方法及び被告装置の構成要件充足性について,次のよ
うにいうことができる。
ア 被告方法について
(ア)方法aにおいては,先導モールド,ホッパー部及び成形モールドから
なるモールドが,コンクリート構造物からなる円形水路が施工される経
路に沿って移動させられるという構成が示されているのであるから,方
法aは,構成要件方法Aを充足するというべきである。
(イ)方法bにおいては,予め鉄筋を組み立てて作られた鉄筋籠が,モール
ドの移動経路に沿って,地面に置かれているという構成が示されている
のであるから ,方法bは ,構成要件方法Bを充足するというべきである 。
(ウ)方法cにおいては,ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しな
がら,先導モールド部に鉄筋籠を順次導入し,成形モールド部において
コンクリート構造物に自動的に機械施工するという構成が示されている
のであるから,方法cは,構成要件方法Cを充足する。
(エ)方法dにおいては,鉄筋籠が,地面に固定されることなく,直接又は
ベースコンクリートを介して地面に置かれているという構成が示されて
おり,これが「浮動設置」に該当することは明らかであるから,方法d
は,構成要件方法Dを充足する。
(オ)方法eにおいては,鉄筋籠が,モールドの移動とともに先導モールド
内に導入されるという構成が示されているのであるから,方法eは,構
成要件方法Eを充足するというべきである。
(カ)方法fにおいては ,鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側が ,
先導モールドの内部に取り付けられた一対のブラケットによって懸垂さ
れながら,ホッパー部に移動することによって,鉄筋の自重により,先
導モールド部及びホッパー部において,鉄筋籠が揺れにくくなり,その
位置決めが行われるという構成が示されている。
そして,上記ブラケットは,鉄筋籠をその上方左右コーナー部内側で
懸垂するものであるから,鉄筋の内形に接触しているものといえる。ま
た,鉄筋籠の自重により,上下左右の振れが制約されること,特に,鉄
筋籠が上記ブラケットに接触し懸垂されている部分は,その上方左右コ
ーナー部であり,左右の振れが制約されることから,被告方法は,鉄筋
籠が,ホッパー部及び成形モールドに移動した時点で所定の位置からず
れない程度に,先導モールド内における振れを防止し得るものであると
いうことができる。
したがって ,方法fは ,構成要件方法Fを充足するというべきである 。
(キ)方法gにおいては,コンクリート構造物の機械施工方法が示されてい
るのであるから,方法gは,構成要件方法Gを充足するというべきであ
る。
したがって,被告方法の構成は,本件方法特許発明の構成要件をすべて
充足する。
イ 被告装置について
(ア)装置aにおいては,先導モールド,ホッパー部及び成形モールドから
なるモールドが,コンクリート構造物からなる円形水路が施工される経
路に沿って移動させられるという構成が示されているのであるから,装
置aは,構成要件装置Aを充足するというべきである。
(イ)装置bにおいては,予め鉄筋を組み立てて作られた鉄筋籠が,モール
ドの移動経路に沿って,地面に置かれているという構成が示されている
のであるから ,装置bは ,構成要件装置Bを充足するというべきである 。
(ウ)装置cにおいては,ホッパー部に生コンクリートを連続的に供給しな
がら,先導モールド部に鉄筋籠を順次導入し,成形モールド部において
コンクリート構造物に自動的に機械施工する装置であるという構成が示
されているのであるから,装置cは,構成要件装置Cを充足する。
(エ)装置dにおいては,鉄筋籠が,地面に固定されることなく,直接又は
ベースコンクリートを介して地面に置かれているという構成が示されて
おり,これが「浮動設置」に該当することは明らかであるから,装置d
は,構成要件装置Dを充足する。
(オ)装置eにおいては ,先導モールド部の内部に設けられたブラケットが ,
鉄筋籠のループ筋の上方左右コーナー部の内側で鉄筋籠を懸垂し,鉄筋
籠をホッパー部に移動するという構成が示されているところ,同ブラケ
ットは,上記ア(カ)の場合と同様に,鉄筋の内形に接触する接触部材
ということができるのであるから,装置eは,構成要件装置Eを充足す
るというべきである。
(カ)装置fにおいては,コンクリート構造の機械施工装置であるという構
成が示されているから,装置fは,構成要件装置Fを充足するというべ
きである。
ウ 以上によれば,被告方法は,本件方法特許発明の技術的範囲に属し,被
告装置は,本件装置特許発明の技術範囲に属するものといえ,被告方法を
実施する被告の行為及び被告装置を用いて施工を行う被告の行為は,いず
れも本件特許権を侵害するものであると認められる。
2 争点2(被告による不当利得の有無及びその額)について
(1)被告方法又は被告装置を用いた施工の距離について
ア 証拠(甲4,5,9ないし11)及び弁論の全趣旨によれば,被告が被
告方法又は被告装置を用いて行った円形水路の施工の距離は,①平成12
年4月から平成19年3月までの合計が320,040メートルであり,
②同年4月から平成20年3月までの合計が47,476メートルである
と認められる。
ただし,①については,原告において,320,000メートルである
旨主張することから,その限度において認めることとする。
イ 本件特許発明の実施料相当額について
( ア )証拠( 甲3の1ないし10 ,甲4 ,6の1 ,2 ,甲7 ,9ないし13 ,
乙37)及び弁論の全趣旨によれば,日本道路公団が,平成14年6月
ころに作成した工事代金の積算資料において , 特許料 」の単価を1メー
「
トル当たり1000円としており,実際にも,元請業者との間で,平成
12年3月24日から平成14年8月10日までのスリップフォーム工
法によるトンネル内円形水路の施工に関し , 特許料 」
「 として施工1メー
トル当たり1000円を支払うという内容を含む請負契約を締結したこ
と,西日本高速道路株式会社が,その作成に係る平成17年度の「土木
工事等単価ファイル 」と題する資料において , 円形スリップフォーム工
「
法特許料」の単価を1メートル当たり1000円としていたこと,原告
が,国土交通省の各地方事務所等から依頼を受け,平成16年度ないし
平成19年度について,円形水路の施工における工事積算の参考に供す
ることを目的とした単価の見積書を作成したところ,それらにおいて,
本件特許についての「特許料」の単価を1メートル当たり1000円と
していたこと,工事積算のための市販のコンピューターソフトウェアで
あるメビウスにおいては , 円型水路( スリップフォーム ) の「 特許料 」
「 」
が1メートル当たり1000円であるとされていることが認められるほ
か,単価については示されていないものの,日本道路公団並び東日本高
速道路株式会社,中日本高速道路株式会社及び西日本高速道路株式会社
が,平成14年度以降,その監修に係る「日本道路公団土木工事積算基
準 」において , 円形水路施工歩掛( スリップフォーム ) に関し , 特許
「 」 「
料」の項目を記載していること,被告において,平成17年9月,同年
10月及び平成18年1月に被告方法又は被告装置を用いて円形水路を
施工したところ ,それらの工事に関し ,国土交通省が , 工事数量総括表 」
「
に「特許料含む」との記載をしていたことが認められ,上記認定を覆す
に足りる的確な証拠はない。
他方,証拠(乙27,29ないし32,36の1ないし3)及び弁論
の全趣旨によれば ,被告方法及び被告装置が用いられる円形水路工事は ,
すべて公共工事であり,日本道路公団及びその後継の東日本高速株式会
社等,国土交通省及び地方自治体のみが発注して大手の元請業者が受注
し,そこから原告及び被告が請け負うという構造になっていること,上
記工事に関する発注者と元請業者との契約においては,特許に関係する
費用が計上されない事例も存在したこと,原告が平成20年4月に施工
したスリップフォーム工法による円形水路工事(以下「原告工事」とい
う 。 の見積書においては , 特許料 」の項目が記載されておらず ,かつ ,
) 「
その施工の単価が1メートル当たり7380円とされていたこと,原告
工事において , 特許料 」を1000円として ,メビウスにより積算すれ
「
ば,施工の単価は1メートル当たり9151円となることが認められ,
上記認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
(イ)上記(ア)の認定事実によれば,円形水路工事の発注者は,下請業者
が本件特許発明を実施することを考慮に入れ,元請業者との契約におい
て , 特許料 」という名称の項目を立て ,あるいは ,その他の経費に包含
「
させる形で,特許発明の実施料に相当する額を経費として加算している
といえる。
ただし,原告工事において,施工費全体に関し,1メートル当たり1
771円の値引きがされていることに照らして,発注者と元請業者との
間で下請業者が支払うべき実施料相当額が見積もられた場合には,その
額について,少なくとも施工費全体における値引きの割合に比例した値
引き(約2割)がされ得ると解するのが相当である。
この点,原告は,原告工事における上記の値引きが,本件特許権を有
していること等の優位な立場にあることによるものである旨を主張する
ところ,仮にそうであれば,本件特許発明を実施した円形水路工事にお
いては,原告のみがその実施料を支払わなくてよい分に相当する値引き
を受け得るということになるが,本件全証拠によっても,そのような主
張を根拠付ける事実を認めることはできず,原告の同主張を採用するこ
とはできない。
さらに,上記西日本高速道路株式会社作成の「土木工事等単価ファイ
ル」及びメビウスのいずれもが,スリップフォーム工法において一般的
に 特許料 」
「 を計上していることからみて ,同工法の施行に当たっては ,
本件特許発明以外の特許も実施されるものと推測される。そして,本件
に表れているだけでも,我が国におけるスリップフォーム工法に関する
特許発明としては,本件特許発明以外に,被告特許発明及び旧被告特許
発明が存在すると認められ,そのことも上記推測を裏付けるものといえ
る。
(ウ)以上の諸事情を総合考慮すれば,本件特許発明の実施料相当額が1メ
ートル当たり1000円であると認めるには,いまだ疑問が残るといわ
ざるを得ず,他にその事実を認めるに足りる的確な証拠もないので,こ
の点に係る原告の主張は理由がない。
ウ 相当な損失額の認定
これまで認定したところによれば,本件においては,被告方法を実施す
る被告の行為及び被告装置を用いて施工を行う被告の行為により,原告に
損失が生じ,他方,被告に利得が生じていることは,明らかであるが,上
記イのとおり,本件特許発明の実施料相当額は立証されていない。
しかしながら,本件に表れた諸事情を考慮すれば,原告の損失額を立証
するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であ
るということができるから,特許法105条の3の類推適用により,口頭
弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,原告の損失額を認定するこ
とが相当である。
本件においては ,上記のとおり ,本件特許発明の実施料相当額について ,
少なくとも2割程度の値引きがされ得ること,スリップフォーム工法に関
する特許発明が少なくとも3つは存在すること等の事情が認められること
から,これらの事情を踏まえ,本件の一切の事情も総合考慮すれば,被告
が本件特許権を侵害したことにより支払うべきであった実施料相当額につ
いて,施工1メートル当たり300円と認めるのが相当である。
エ 小括
したがって,被告は,本件特許権を侵害したことにより,原告に対し,
上記ア①の施工に関して9600万円を,上記ア②の施工に関して142
4万2800円を,本件特許発明の実施料相当額として支払うべきであっ
たにもかかわらず,それらの支払を免れ,その結果,原告に同額の損失が
生じ,被告に同額の利得が生じたものというべきである。
第4 結論
以上の次第で,原告の被告に対する本件請求は,被告による平成12年4月
から平成19年3月までの不当利得金9600万円及びこれに対する訴状送達
の日の翌日である同年11月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払並びに同年4月から平成20年3月までの不当利得金1
424万2800円及びこれに対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である
同年7月24日から支払済みに至るまで同様の割合による遅延損害金の支払を
それぞれ認める限度で理由があるから,これを認容することとし,その余は理
由がないから,棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清 水 節
裁判官 佐 野 信
裁判官 國 分 隆 文
物 件 目 録
第1 被告方法の説明
被告方法は,本目録記載の被告装置,すなわち,先導モールド部5とホッパ
ー部6と成形モールド部7とからなり,車輌3に取り付けられ,コンクリート
構造物からなる円形水路が施工される経路に沿って移動されるモールド2を使
用する鉄筋コンクリート製円形水路1の施工方法である。
モールドの移動経路に沿って予め鉄筋を組み立ててなる鉄筋籠10が,直接
又はベースコンクリートを介して ,地面に固定されることなく ,置かれている 。
鉄筋籠10は,底面および両側部に所定間隔を置いてモールドの移動方向に
配置された水平筋10aと,これらの水平筋を所定の間隔に保持するよう,こ
れを囲むように配置されたループ筋10bとからなり,ループ筋上方の左右コ
ーナー部10cは円弧状に折り曲げられ,その先の自由端部10dは更にく字
状に湾曲形成されている。この鉄筋籠10のモールドの移動方向は約50mの
長さとなっている(写真7,11,12 )。
上記のように組み立てた鉄筋籠10をモールド2の移動経路に沿って整地し
た地面上に載置しておく( 写真7 ,11 ,12 ) 車輌3の移動に伴いモールド
。
2が鉄筋籠10に近付いてきたときに,最初は作業者が鉄筋籠の端部を持ち上
げ,先導モールド部5に取り付けられた一対の支持ロッド9の前方部9aが鉄
筋籠10のループ筋10b上方の左右コーナー部10cの内側に挿入されるよ
うにすると,鉄筋籠のモールドに近い部分は載置されていた地面から浮上して
支持ロッド9に保持される。このとき,鉄筋籠のモールドから離れた部分は地
面に接した状態のままにある。その後モールドが車輌と共に進行すると,支持
ロッド9が鉄筋籠の中に順次挿入されてゆき,これにより鉄筋籠は支持ロッド
によって順次地面から浮上され,懸垂された状態でモールド内に取り込まれて
ゆく。
鉄筋籠10が最初にモールド2内に取り込まれてホッパー部6の下方に来た
時にホッパー部の上方から生コンクリートが投入される。この生コンクリート
は車輌3に伴走するコンクリートミキサー車からベルトコンベア4 写真10 ,
(
11)を経てホッパー部6内に順次投入される。投入されたコンクリートはホ
ッパー部において撹拌されバイブレーターによって締め固められ,成形モール
ド部7に入る。成形モールド7内において,コンクリートは鉄筋籠をおおった
状態で締め固められ ,鉄筋コンクリート製円形水路1( 写真1 )に形成される 。
最初に懸垂するときも ,鉄筋籠は約50mと長く( 写真7 ,11 ,12 ) 支
,
持ロッドに挿入された部分より後方の鉄筋籠の部分が地面に接しており(写真
7 ,11 ,12 ) また鉄筋籠が順次ホッパー部に導入されて ,コンクリートが
,
打設されるときは,鉄筋籠は成型コンクリート内に埋設され所定の形状を維持
して鉄筋籠と連続しているから,一対の支持ロッド9により懸垂されて先導モ
ールド部5及びホッパー部6内にある後続の鉄筋籠10も上下左右に揺れるこ
とがない。
その結果 ,鉄筋コンクリート製円形水路1は地面の上に連続的に成型され 写
(
真9 ),所定時間の経過により固化する。
第2 被告装置の説明
この装置は道路に沿って排水用の鉄筋コンクリート製円形水路1(写真1)
をモールド2(写真2)の移動によって機械的に連続して施工する装置であっ
て,モールド2は車輌3に取り付けられ,先導モールド部5とホッパー部6と
成形モールド部7とからなる。モールド2は,側部に取り付けられ車輌3と共
に移動する。
モールド2は,天面2aと天面両側から垂下する両側壁2b,2bと,天面
中央部の垂直懸垂壁2cによって支持されモールドの進行方向に延伸する円柱
部2dとを有している(写真3,5 )。
先導モールド部5では円柱部2dの左右両側には略L字型の1対の支持アー
ム8が間隔を置いて形成され,これらの支持アーム8の上端にはモールドの進
行方向に丸棒状の支持ロッド9が固着されている。この支持ロッドの前方部9
aと先端部9bは先導モールド部5の前面より突出し( 写真6 ,8 ) その後端
,
部はホッパー部と成型モールド部の界面近傍まで延伸している。
モールド2の移動経路に沿って,予め鉄筋を組み立ててなる鉄筋籠10が,
直接又はベースコンクリートを介して,地面に固定されることなく置かれてい
る(写真11,12 )。
上記支持ロッド9は,鉄筋籠のループ筋上方の左右コーナー部10cの内側
に接触して鉄筋籠10を懸垂し 写真6 , ) 鉄筋籠をホッパー部6に移動し ,
( 8 ,
ホッパー部で生コンクリートを連続的に供給し,成形モールド部7において鉄
筋コンクリート構造物を自動的に機械施工する,鉄筋コンクリート製円形水路
1の機械施工装置である。
最初に懸垂するときも ,鉄筋籠は約50mと長く( 写真7 ,11 ,12 ) 支
,
持ロッドに挿入された部分より後方の鉄筋籠の部分が地面に接しており(写真
7 ,11 ,12 ) また鉄筋籠が順次ホッパー部に導入されて ,コンクリートが
,
打設されるときは,鉄筋籠は成型コンクリート内に埋設され所定の形状を維持
して鉄筋籠と連続しているから,一対の支持ロッド4により懸垂されて先導モ
ールド部5及びホッパー部6内にある後続の鉄筋籠10も上下左右に揺れるこ
とがない。
第3 符号の説明
1 鉄筋コンクリート製円形水路
2 モールド
2a モールドの天面
2b モールドの側壁
2c モールドの垂直懸垂壁
2d モールドの円柱部
3 車輌
4 ベルトコンベア
5 先導モールド部
6 ホッパー部
7 成型モールド部
8 支持アーム
9 支持ロッド
9a 支持ロッドの前方部
9b 支持ロッドの先端部
10 鉄筋籠
10a 水平筋
10b ループ筋
10c ループ筋上方の左右コーナー部
10d ループ筋の自由端
第4 写真の説明
写真1 施工された鉄筋コンクリート製円形水路を示す写真
写真2 モールドに鉄筋籠を取り込んだ状態を示す,モールドの進行方向
前方上からの写真
写真3 モールドの進行方向後方からの写真
写真4 モールドの側面を示す,モールドの進行方向後からの写真
写真5 モールドの進行方向前方からの写真
写真6 モールドに鉄筋籠を取り込んだ状態を示す写真
写真7 鉄筋籠をがモールドの進行方向前方の地面に固定することなく置
かれている写真
写真8 モールドに鉄筋籠を取り込んだ状態を拡大して示す写真
写真9 施工された水路を示す写真
写真10 モールドのホッパー部に生コンクリートを供給するベルトコンベ
アを示す写真
写真11 施工時におけるモールド,鉄筋籠,車輌,ベルトコンベアの関係
を示す一例
写真12 施工時におけるモールドと鉄筋籠の関係を示す一例
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