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平成19(ワ)30807商標権移転登録抹消登録請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成21年2月5日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社ウィルコム
原告アイティティ国際電電株式会社
法令 商標権
キーワード 無効6回
商標権5回
実施1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が被告に対し,原告から被告に対する登録商標の移転登録の原因 行為となった原告と被告との間の契約について,錯誤無効又は詐欺取消しを主張 して,商標権に基づき移転登録の抹消登録手続を求める事案である。

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判決文

平成21年2月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成19年(ワ)第30807号 商標権移転登録抹消登録請求事件
口頭弁論終結日 平成20年12月18日
判 決
東京都北区<以下略>
原 告 アイティティ国際電電株式会社
同訴訟代理人弁護士 戸 田 等
東京都港区<以下略>
被 告 株 式 会 社 ウ ィ ル コ ム
同訴訟代理人弁護士 田 辺 邦 子
同 植 松 祐 二
同訴訟復代理人弁護士 竹 内 久 美 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,別紙商標目録1記載の登録商標について,別紙登録目
録記載の登録の抹消登録手続をせよ。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告に対し,原告から被告に対する登録商標の移転登録の原因
行為となった原告と被告との間の契約について,錯誤無効又は詐欺取消しを主張
して,商標権に基づき移転登録の抹消登録手続を求める事案である。
1 前提となる事実
(1)当事者
原告は,かつて,PHS(Personal Handyphone System,以下同じ。)に
よる携帯電話事業等を行っていた株式会社である。(弁論の全趣旨)
被告は,現に,PHSによる携帯電話事業等を行っている株式会社である。
(弁論の全趣旨)
(2)原告と被告との間の契約
原告と被告は,平成19年3月9日,「登録商標一時譲渡契約書」と題す
る書面(以下「本件契約書」という。)をもって,要旨,次のとおりの条項
の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。(争いのない事実,甲7,
弁論の全趣旨)
「第1条(目的)
本契約は、乙〔判決注・被告,以下同じ。〕が商標登録を受けようと
する商標(I=PHS)の出願に、甲〔判決注・原告,以下同じ。〕が
協力することを目的とする。」
「第2条(本件商標)
甲は、本契約有効期間中、以下に表示される甲の商標(以下、「本件
商標」という。)を無償で乙に一時譲渡することに同意する。
(1)登録番号:商標登録第4398047号
(2)称呼:「アイピッチ」
(3)商品及び役務の区分並びに指定商品:第9類 簡易携帯電話機」
「第3条(譲渡手続き及び返却)
乙は、前条に基づき甲から一時譲渡された本件商標を遅くとも本契約
有効期間の満了日までに甲に返却するものとする。
2.前条並びに本条前項に基づく本件商標の移転登録に必要な一切の手
続きは別途甲より提出される譲渡証書及び単独申請承諾書に基づき全て
乙の費用負担で行うものとし、甲はこれに協力するものとする。
3.第1項に基づき乙が本件商標を甲に返却しようとするときは、乙は
その旨を甲に書面で通知し、甲が返却手続き開始の同意を書面で乙に通
知することにより、乙は返却手続きを開始するものとする。」
「第4条(契約有効期間)
本契約は、2007年3月1日に有効となり、2009年2月29日
を以て終了する。ただし、契約期間の満了を待たず乙が前条各項に基づ
き本件商標を甲への移転登録を完了した場合は、当該移転登録の日をも
って本契約は終了したものとみなす。
2.〔省略〕
3.〔省略〕」
「第5条(禁止権不行使)
甲及び乙は、現在並びに将来、自己の商標権の使用について相手方よ
り異議申し立てを受けないものとする。
2.前項は、本契約有効期間満了後も有効とする。」
(3)登録商標と移転登録
別紙商標目録1記載の登録商標(本件契約2条所定の「本件商標」と同じ。
以下「本件商標」という。)について,原告から被告に対し,平成19年5
月1日受付をもって,別紙登録目録記載の移転登録(以下「本件登録」とい
う。)が経由されている。(争いのない事実)
(4)被告の登録商標
被告は,現在,別紙商標目録2記載の各登録商標(以下「被告商標」とい
う。)を保有している。(乙5の1・2,弁論の全趣旨)
2 争点
(1)錯誤無効の成否
(2)詐欺取消しの成否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)〔錯誤無効の成否〕について
〔原告の主張〕
(1)原告は,本件契約の締結にあたり,被告の法務知財部長のAらから,真実
は,本件契約に基づき本件商標につき移転登録をするつもりであるのに,そ
の意図を秘して,本件契約書は「特許庁に対する単なる疎明資料である」,
「名義の移転はないが,『I=PHS』の商標登録申請を行うにあたり,社
内稟議決裁を得るための補足資料として必要である」,「ITTに対してネ
ットワークの協力を行うにあたり,上司や組織内部で有利に説得展開を図る
ために必要である」にすぎず,移転登録をすることはない,との虚偽の説明
を受け,原告において,上記書類がそのような目的にのみ使用され,移転登
録はされないものと誤信して,本件契約を締結した。
また,原告は,本件契約の締結にあたり,Aらから,真実は,原告がその
次期商品である3次元動画伝送サービスを行う際,被告がそのネットワーク
を原告に全面的に開放,利用させ,協力する意思がないにもかかわらず,そ
の意思がある旨の説明を受け,原告において,そのような協力が得られるも
のと誤信して,本件契約を締結した。
このような原告が本件契約に応じた趣旨は,本件契約を締結する際に,原
告の動機として被告に表示され,本件契約の要素となっている。
ところが,被告は,上記のような説明に反して,本件契約に基づき本件登
録を経由した上,3次元動画伝送サービスについては,これに関する協力を
しなかった。
原告は,このような錯誤がなければ,被告との間で締結された本件契約に
係る意思表示をしなかったものである。
(2)したがって,本件契約は,原告の錯誤による意思表示に基づくものであり,
無効である。
〔被告の主張〕
(1)原告の主張(1)及び(2)は,否認ないし争う。
(2)仮に,原告において,何らかの錯誤があったとしても,重大な過失がある。
2 争点(2)〔詐欺取消しの成否〕について
〔原告の主張〕
(1)被告の法務知財部長のAらは,本件契約の締結にあたり,原告に対し,真
実は,本件契約に基づき本件商標につき移転登録をするつもりであるのに,
その意図を秘して,本件契約書は「特許庁に対する単なる疎明資料である」,
「名義の移転はないが,『I=PHS』の商標登録申請を行うにあたり,社
内稟議決裁を得るための補足資料として必要である」,「ITTに対してネ
ットワークの協力を行うにあたり,上司や組織内部で有利に説得展開を図る
ために必要である」にすぎず,移転登録をすることはない,との虚偽の説明
を受け,原告において,上記書類がそのような目的にのみ使用され,移転登
録はされないものと誤信して,本件契約を締結した。
また,原告は,本件契約の締結にあたり,Aらから,真実は,原告がその
次期商品である3次元動画伝送サービスを行う際,被告がそのネットワーク
を原告に全面的に開放,利用させ,協力する意思がないにもかかわらず,そ
の意思がある旨の説明を受け,原告において,そのような協力が得られるも
のと誤信して,本件契約を締結した。
被告は,本件商標につき本件登録を経由した上,3次元動画伝送サービス
については,これに関する協力をしなかった。
(2)したがって,本件契約は,被告の詐欺による原告の意思表示に基づくもの
であり,取り消すことができる。
(3)原告は,平成20年9月25日の本件訴訟の第10回弁論準備手続期日に
おいて,被告に対し,本件契約に係る原告の意思表示を取り消した。
〔被告の主張〕
原告の主張(1)及び(2)は,否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 前記第2の1前提となる事実に,証拠(甲6∼8,11,16∼18,乙3
の1・2,乙4,6,7,証人A,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれ
ば,次の事実が認められる。
(1)被告は,被告商標を登録出願するにあたって類似商標の有無等を調査し,
本件商標の存在が判明したものの,これにより登録が拒絶される可能性は低
いとの認識であった。しかし,万が一の場合に備え,円滑に登録を進めるた
めの対策を講じる方針が採られることとなった。
(2)平成19年2月19日,被告の法務知財部長のAは,原告代表者のBに連
絡を取り,同月22日にBと面会して協力を要請し,本件商標の譲渡を申し
入れた。
平成19年2月27日,BからAに対し,本件商標の譲渡はできないもの
の,貸与は可能である旨の回答があった。
そのため,平成19年3月1日の面談で,AからBに対し,貸与の具体的
方法として,本件商標権をいったん被告に移転し,一定期間経過後,再度原
告に移転する方法が説明され,本件契約の案文(乙3の1)が提示された。
この席上,Bは,Aに対し,「Iビジョン」という動画コンテンツの配信サ
ービスの事業構想を持ち出したものの,具体的な資料の提示などはされなか
った。
その後,上記の案文を持ち帰ったBからAに対し,当日中に連絡があり,
①契約の目的が被告商標の登録に対する原告の協力であることの明記,②禁
止権不行使(4条)につき原告に返却された後に使用できなくなるような書
き方の修正を求めた。
これに対し,Aが上記を踏まえて修正した本件契約の案文(乙3の2)を
作成したところ,平成19年3月5日の面談で,Bから,③譲渡の有効期間
を2年から1年に短縮し,④禁止権不行使(修正後の5条)につき相互に商
標の使用に異存がないとするような書き方への修正を求められた。この席上,
Bから,「Iビジョン」について,被告の回線を使用できるかの検討のため,
回線のカタログ,エリアマップ及びネットワーク図面の提供の要望があり,
AがこれらをBに交付した。
さらに,平成19年3月6日の電話で,AからBに対し,上記③について,
有効期間の短縮は被告商標の登録上困難であることを説明し,④について,
自己の商標権の使用につき相手方から異議申立てを受けないことを提案した
結果,いずれもBの了解が得られた。そして,BからAに対し,被告のコン
テンツ事業の営業担当者の紹介の要望があったため,Aにおいて,これを了
承した。
そして,平成19年3月9日,AとBが面談し,本件契約書(甲7)の
ほか,本件商標の移転登録に必要な「譲渡証書及び単独申請承諾書」(甲
8)について,Bが所定の箇所に原告の会社の角印と代表取締役の丸印をそ
れぞれ押印させて,原告名義部分を完成させた。
(3)その後,被告は,本件登録にあたり,担当弁理士から,本件商標の登録原
簿上の被告の所在地が譲渡証書及び単独申請承諾書の記載と異なっており,
原簿の表示を変更する必要があるとの指摘を受けた。
そのため,平成19年3月27日,AがBと面談し,委任状の案文(乙
4)を示して,捺印を求めたところ,Bから,記載された委任事項のうち,
①登録名義人の表示変更登録の申請の取下げ,②この手続に関する復代理人
の選任及び解任をいずれも削除するよう要請があった。
そして,平成19年4月5日,AとBが面談し,上記の事項を削除した
「商標登録第4398047号の登録名義人の表示変更(更正)登録の申
請」を委任事項とする委任状(甲11)について,Bが所定の箇所に原告の
代表取締役の丸印を押印し,原告名義部分を完成させた。
(4)原告と被告は,平成19年6月4日ころ,「三次元画像配信サービスの検
討」を協力して実施する際の交換情報の取扱いについて,秘密保持契約(乙
6)を締結し,被告のコンテンツ事業営業担当者とBが会うなどした。
なお,原告は,現在,代表者のBのほかは,従業員1名のみの会社であり,
平成19年当時,本件商標を使用していなかった。
2 争点(1)〔錯誤無効の成否〕について
原告は,本件契約の締結にあたり,Aらから,真実は,本件契約に基づき本
件商標につき移転登録をするつもりであるのに,その意図を秘して,本件契
約書は「特許庁に対する単なる疎明資料である」,「名義の移転はないが,
『I=PHS』の商標登録申請を行うにあたり,社内稟議決裁を得るための補
足資料として必要である」,「ITTに対してネットワークの協力を行うにあ
たり,上司や組織内部で有利に説得展開を図るために必要である」にすぎず,
移転登録をすることはない,との虚偽の説明を受け,原告において,上記書類
がそのような目的にのみ使用され,移転登録はされないものと誤信して,本件
契約を締結したと主張し,原告代表者の供述や陳述書(甲19,20,25)
中には,上記の主張に沿った趣旨の供述部分や記載部分がある。しかしながら,
前記1で認定したところによれば,①本件契約の条項は簡潔で明確であり,被
告商標の登録の便宜のため,本件登録まで予定したものであることが容易に読
み取れること,②原告代表者のBは,本件契約書について,押印する前に,2
度にわたり条項の修正を求め,これらの修正が本件契約の条項に反映されてい
ることからみて,本件契約書が原告の主張するような単に被告の社内での説明
の便宜上作成されたにすぎないものとは考え難いことに照らすと,上記の各部
分は,たやすく信用することができず,他に原告の上記主張を裏付ける証拠は
ない。
また,原告は,本件契約の締結にあたり,Aらから,真実は,原告がその次
期商品である3次元動画伝送サービスを行う際,被告がそのネットワークを原
告に全面的に開放,利用させ,協力する意思がないにもかかわらず,その意思
がある旨の説明を受け,原告において,そのような協力が得られるものと誤信
して,本件契約を締結したものであり,原告のこのような動機は被告に表示さ
れて本件契約の要素となっている旨を主張し,上記原告代表者の供述や陳述書
には,上記の主張に沿う部分があるものの,上記供述及び記載部分は,証人A
の証言及び乙第7号証〔Aの陳述書〕に照らし,採用することができない。前
記1で認定したところによれば,原告における実現可能性は措くとしても,原
被告間において「三次元画像配信サービスの検討」のための秘密保持契約の締
結に至っており,原告における3次元画像配信サービスの構想について,本件
契約の締結を契機として,一応の検討がされたことは認められる。しかしなが
ら,本件契約書に被告による協力義務を定めた条項はなく,原告において,本
件契約の際,本件契約書に被告による協力を条項化するように求めた形跡もな
いこと,原告の提供する上記サービスについて原告から具体的資料の提示等は
ない上,被告による協力の内容について,上記の検討を行った以外に当事者間
で具体的な進展があったことが窺われないことに照らすと,原告において3次
元動画伝送サービスを行う際に被告がネットワークを原告に全面的に開放,利
用させ,協力することが本件契約の要素となっていたと認めることはできない。
したがって,原告が被告から期待するような協力を得られなかったとしても,
本件契約の要素の錯誤とはならないというべきである。
錯誤無効についての原告の主張は,採用することができない。
3 争点(2)〔詐欺取消しの成否〕について
原告は,被告の法務知財部長のAらが,本件契約の締結にあたり,原告に対
し,真実は,本件契約に基づき本件商標につき移転登録をするつもりであるの
に,その意図を秘して,本件契約書は「特許庁に対する単なる疎明資料であ
る」,「名義の移転はないが,『I=PHS』の商標登録申請を行うにあたり,
社内稟議決裁を得るための補足資料として必要である」,「ITTに対してネ
ットワークの協力を行うにあたり,上司や組織内部で有利に説得展開を図るた
めに必要である」にすぎず,移転登録をすることはない,との虚偽の説明を受
け,原告において,上記書類がそのような目的にのみ使用され,移転登録はさ
れないものと誤信して,また,真実は,原告がその次期商品である3次元動画
伝送サービスを行う際,被告がそのネットワークを原告に全面的に開放,利用
させ,協力する意思がないにもかかわらず,その意思がある旨の説明を受け,
原告において,そのような協力が得られるものと誤信して,本件契約を締結し
た旨主張する。
しかしながら,被告の原告に対する上記のような欺罔行為があったと認める
ことができないことは,前記1で述べたことから明らかである。
詐欺取消しについての原告の主張は,採用することができない。
4 結論
以上のとおりであるから,原告の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿 部 正 幸
裁判官 平 田 直 人
裁判官 柵 木 澄 子
商 標 目 録 1
商 標 登 録 番 号 第4398047号
出 願 年 月 日 平成10年9月18日
出 願 番 号 商願平10−080535
登 録 年 月 日 平成12年7月7日
商品及び役務の区分 第9類
指 定 商 品 簡易型携帯電話機
登 録 商 標
登 録 目 録
甲区順位番号2番
【特定承継による本権の移転】
受 付 年 月 日 平成19年5月1日
受 付 番 号 008942
登 録 年 月 日 平成19年5月16日
登 録 名 義 人 株式会社ウィルコム〔被告〕
商 標 目 録 2
1 商 標 登 録 番 号 第5112465号
出 願 年 月 日 平成19年2月19日
出 願 番 号 商願2007−013600
登 録 年 月 日 平成20年2月22日
商品及び役務の区分 第9類及び第38類
登 録 商 標
2 商 標 登 録 番 号 第5111420号
出 願 年 月 日 平成19年2月19日
出 願 番 号 商願2007−013601
登 録 年 月 日 平成20年2月15日
商品及び役務の区分 第9類,第16類,第35類,第37類,第38類,
第41類及び第42類
登 録 商 標

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