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平成20(行ケ)10221審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成21年1月28日
事件種別 民事
当事者 被告花王株式会社
原告持田製薬株式会社
法令 商標権
商標法4条1項11号9回
商標法4条1項15号8回
キーワード 審決20回
無効5回
実施1回
無効審判1回
商標権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 被告は,登録第4994961号商標(平成17年11月7日登録出願,出 願番号2005−104304号。平成18年9月1日登録査定,同年10月 。 「 」 。) 。 ,13日設定登録 以下 本件商標 という の商標権者である 本件商標は 別紙1のとおり 「ディープコラゲ」及び「 」の文字を上下二, DEEP COLLAGE , , ,段に横書きにした構成からなり 商品の区分を第3類 指定商品をせっけん類 化粧品,香料類,つけづめ,つけまつ毛とする。 原告は,平成19年8月30日,本件商標の登録を無効とすることを求めて 無効審判請求(無効2007−890143号)をした。

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判決文

平成21年1月28日 判決言渡
平成20年(行ケ)第10221号 審決取消請求事件
平成20年11月13日 口頭弁論終結
判 決
原 告 持 田 製 薬 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 末 吉 亙
同 高 橋 元 弘
訴訟代理人弁理士 網 野 友 康
同 初 瀬 俊 哉
同 石 井 茂 樹
同 豊 崎 玲 子
被 告 花 王 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 尾 関 孝 彰
同 鰺 坂 和 浩
同 岡 崎 士 朗
訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
同 齋 藤 宗 也
同 工 藤 莞 司
同 黒 川 朋 也
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2007−890143号事件について平成20年4月30日
にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,登録第4994961号商標(平成17年11月7日登録出願,出
願番号2005−104304号。平成18年9月1日登録査定,同年10月
13日設定登録。以下「本件商標」という 。 の商標権者である。本件商標は,

別紙1のとおり,「ディープコラゲ」及び「DEEP COLLAGE」の文字を上下二
段に横書きにした構成からなり,商品の区分を第3類,指定商品をせっけん類 ,
化粧品,香料類,つけづめ,つけまつ毛とする。
原告は,平成19年8月30日,本件商標の登録を無効とすることを求めて
無効審判請求(無効2007−890143号)をした。
特許庁は,平成20年4月30日 ,「本件審判の請求は,成り立たない 。」
との審決(以下「審決」という。 をし,その謄本は,平成20年5月19日 ,

原告に送達された。
2 審決の理由
別紙審決書写しのとおりであり,要旨以下のとおりである。すなわち,本件
商標は,原告の商標である登録第2120276号商標(構成は,別紙2のと
おりである。以下「引用商標1」という 。,登録第2318621号商標(構

成は,別紙3のとおりである。以下「引用商標2」という。,登録第2413

569号商標(構成は,別紙4のとおりである。以下「引用商標3」といい,
引用商標1ないし3を包括して「引用商標」という。)と非類似であるから,
商標法4条1項11号に該当しない,また,本件商標は,その指定商品に使用
しても原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標と認めることは
できないから,商標法4条1項15号にも該当しない,したがって,本件商標
は商標法46条1項の規定により無効とすることはできない,というものであ
る。
審決のした①商標法4条1項11号該当性の判断(本件商標と引用商標の類
否),②商標法4条1項15号該当性の判断(本件商標の使用による原告の業
務に係る商品との混同の有無)は,次のとおりである。
(1) 商標法4条1項11号該当性について
本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と引用商標より生ずる「コ
ラージュ」又は「コラージユ」の称呼は,前者が6音よりなるものであるの
に対し,後者は4音又は5音よりなるものであるから,構成音数が相違する
ばかりでなく,両称呼中の各音の配列からみて,両称呼が類似するという要
素は見出せないから,それぞれの称呼を一連に称呼した場合においても,そ
の語調,語感が明らかに相違したものとなり,明瞭に聴別し得る。また,本
件商標は,構成全体をもって造語を表したものと認識されるから,「貼付け
絵,コラージュ」等の観念を生ずる引用商標とは,観念上比較することはで
きない。さらに,本件商標と引用商標は,それぞれの構成よりみて,外観上
明らかに相違するものであり,互いに紛れるおそれはない。
したがって,本件商標と引用商標は,その称呼,観念及び外観のいずれの
点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である 。(審決第5,1
(3))
(2) 商標法4条1項15号該当性について
原告の使用に係る「 Collage」の表示それ自体は,本件商標の登録出願前
より,化粧品等の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはでき
ないものであり,加えて ,本件商標中の COLLAGE」
「 の文字部分は, DEEP」

の文字部分と外観上軽重の差なく一体的に結びつき,欧文字全体が「ディー
プコラゲ」との称呼のみを生ずる造語を形成しているものであって,かかる
構成よりなる本件商標にあって,その構成中の「COLLAGE」の文字部分の
みが独立して,その需要者に強く印象づけられるものとはいえない。
そうすると,本件商標に接する需要者がこれより直ちに原告の使用に係る
「Collage」の表示を想起又は連想するとみることはできず,まして ,「コラ
ージュ」の表示を想起又は連想することはないというべきである。
したがって,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,その
商品が原告又は原告と業務上何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品で
あるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標と認め
ることはできない。(審決第5,2(2))
第3 原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消
事由1) 商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)があるから,

違法として取り消されるべきである。
1 商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)
(1) 以下の諸点を総合考慮すると,本件商標の要部は , COLLAGE」の部分

であると解するのが相当である。
すなわち,①「ディープ」 「DEEP」という語は,化粧品,せっけん類と

の関係において ,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,肌等の深部
に浸透する」との意味で品質を表示する語として用いられており,識別力が
薄弱であること,②本件商標の下段の「 DEEP COLLAGE」の部分におい
て, DEEP」と「 COLLAGE」の間に間隔が存在し, COLLAGE」の部分が
「 「
分離して認識されること,③化粧品,せっけん類の業界では,普通名称とし
てフランス語が用いられているほか,商標の採択に当たってもフランス語が
好んで用いられ,また, collage」という語は,フランス語で「コラージュ」

という読み方をし,「貼付け絵」を意味する既成語であって,中学校の美術
の教科書にも掲載され,書名やブログ名称等にも用いられるなど,世上一般
に通用しているため,本件商標の「COLLAGE」の部分について,需要者,
取引者は,フランス語的な発音である「コラージュ」と称呼すること,④化
粧品の取引においては,欧文字と仮名文字の二段併記の商標について,欧文
字部分のみを使用することが多く,本件商標は,欧文字部分のみが目立つ態
様で用いられる可能性が極めて高いから,その称呼の認定に当たって,片仮
名文字の存在を重視すべきではないこと,⑤本件商標の登録出願時(平成1
7年11月7日)及び登録査定時(平成18年9月1日)には , Collage」

との表示は,原告の商品の表示として周知,著名であったこと等の諸事情を
総合考慮するならば,本件商標の要部は , COLLAGE」の部分にあると解

すべきである。
そうすると,本件商標は,その要部である「 COLLAGE」から ,「コラー
ジュ」の称呼を生じ,「貼付け絵,コラージュ」の観念を生ずる。
引用商標は,それぞれ「コラージュ」の称呼及び「貼付け絵,コラージュ」
の観念を生ずる。本件商標と引用商標は,いずれも「コラージュ」の称呼を
生じ,「貼付け絵,コラージュ」の観念を生ずるから,称呼及び観念を同一
とし,いずれも類似する。
(2) したがって,審決が,本件商標と引用商標は非類似であり,本件商標は
商標法4条1項11号に該当しないとした判断は誤りである。
2 商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)
(1) 原告は,昭和55年1月から , Collage」又は「コラージュ」との表示

を付した化粧品,せっけん類の製造販売を行っていたが,平成16年4月,
その事業を,原告が100%出資して設立した持田ヘルスケア株式会社に譲
渡した(以下 , Collage」又は「コラージュ」との表示の使用の主体等とし

て,原告と持田ヘルスケア株式会社を通じて「原告」という 。。

原告は,昭和55年1月以降,基礎化粧品を中心としたシリーズ商品であ
るコラージュシリーズを表す一種のファミリーネームとして, Collage」と

の表示を継続して使用してきた。具体的には,①「 Collage」の欧文字を,
コラージュシリーズの各商品のパッケージに大きく表示し,②新聞・雑誌の
広告,コラージュシリーズの各商品を取り扱う薬局等の店頭広告やチラシな
どに , Collage」の欧文字を掲載し , Collage」の文字が表示された各商品
「 「
の写真を掲載するなどしてきた。原告は,コラージュシリーズの宣伝に多額
の費用をかけ,売上げを伸ばした。また,コラージュシリーズの各商品を取
り上げた新聞・雑誌の記事には , Collage」の文字が表示され,その表示が

された商品の写真が掲載された。このような使用によって,本件商標の登録
出願時(平成17年11月7日)及び登録査定時(平成18年9月1日)に
は, Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,著名であった。

前記1(1)のとおり,本件商標と引用商標は,称呼及び観念を同一とし,
類似する商標である。
そうすると,本件商標は,原告の業務に係るコラージュシリーズの商品と
混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)に該当する。
(2) したがって,審決が,本件商標は原告の業務に係る商品と混同を生ずる
おそれがある商標(商標法4条1項15号)と認めることはできないとした
判断は,誤りである。
第4 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)に対し
(1) 以下の事情を総合考慮すると,本件商標は,「ディープコラゲ」若しくは
「 DEEP COLLAGE」の各部分又は本件商標全体によって識別力を有する
ものであり , COLLAGE」の部分のみが識別力を有するということはでき

ない。
本件商標において, DEEP」と「COLLAGE」は,同一の書体で軽重の差

なく表されているから , DEEP」と「 COLLAGE」が分離して認識されるこ

とはない。
「ディープ 」 「DEEP」という語が,化粧品,せっけん類との関係におい

て,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,肌等の深部に浸透する」
との意味で品質を表示する語として用いられている事実はない。また,たん
ぱく質の一種である「コラーゲン( collagen)」が化粧品や食品の成分として
注目されており, コラゲ」 COLLAGE」
「 ,
「 の部分は, コラーゲン collagen)
「 ( 」
を連想させるから,商標としての識別力は弱い。したがって ,「ディープ」
と「コラゲ 」 「 DEEP」と「 COLLAGE」は,分離されることはなく一体的

に認識される。
化粧品や食品の成分として「コラーゲン(collagen)」が注目されているこ
と,他方 ,「貼付け絵」という意味のフランス語である「 collage」という語
は本件商標の指定商品である化粧品やせっけん類等とは無関係であることに
照らすと,本件商標から「ディープコラゲ」という称呼が生ずることは,合
理的であり,不自然とはいえない。
化粧品の取引において,欧文字と片仮名文字の二段併記の商標の片仮名の
みを用いることは少なくないから,その称呼の認定に当たって,片仮名文字
が存在する点は重視されるべきである。
また, Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,著名である

とはいえない。
以 上 に よ れ ば , 本 件 商 標 は , デ ィ ー プ コ ラ ゲ 」 若 し く は 「 DEEP

COLLAGE」の各部分又は本件商標全体によって識別力を有するものであり ,
「ディープコラゲ」という称呼のみを生じさせ,また,造語であるから,特
定の観念を生じさせない。
(2) 本件商標と引用商標は,いずれも外観,称呼,観念を異にし,類似しな
い。したがって,審決が本件商標と引用商標は非類似であると判断したこと
に誤りはない。
2 商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)に対し
(1) 原告がその商品に欧文字の「Collage」との表示ではなく片仮名の「コラ
ージュ」との表示を使用した例があること , Collage」又は「コラージュ」

との表示を付した原告の商品のシェアは,国内の同種の化粧品,せっけん類
のうち0.4%を占めるにすぎないこと, Collage」との表示は,化粧品の

成分である「コラーゲン(collagen)」を容易に連想させ,識別力が弱いこと
などを総合すると , Collage」との表示は,原告の商品の表示として周知,

著名であったとはいえない。また,前記1( 2)のとおり,本件商標と引用商
標はいずれも類似しない。以上の事情に照らすと,本件商標をその指定商品
に使用しても,原告の業務に係る商品との混同を生ずるおそれはない。
(2) したがって,審決が本件商標は原告の業務に係る商品と混同を生ずるお
それがある商標と認めることはできないとした判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)について
(1) 本件商標と引用商標の類否
ア 本件商標の外観,称呼,観念
(ア) 本件商標は ,「ディープコラゲ」の片仮名文字を上段に , DEEP

COLLAGE」の欧文字を下段に,それぞれ上下二段に横書きしたもので
ある。
まず,本件商標のうち,上段の「ディープコラゲ」の構成部分は,同
一の書体で一連に記載された一体表記であり, DEEP
「 COLLAGE 」の
部分の上段に併記され , DEEP
「 COLLAGE」は,ローマ字で ,「ディ
ープコラゲ」と読まれるから ,「ディープコラゲ」の部分は , DEEP

COLLAGE」のローマ字読みをそのまま表記したものと理解される。
次に,本件商標のうち,下段の「DEEP COLLAGE」の構成部分は ,
「DEEP」 「COLLAGE」
と の間にわずかな間隔が存在するものの , DEEP」

と「COLLAGE」は,同一の書体及び大きさで表記され,一方が他方よ
りも看者の注意を強く引くような態様で表記されることもなく,外観的
特徴において差異がないことから,一体のものとして認識され,ことさ
ら「COLLAGE」の部分のみが切り離されて認識されることはない。
そうすると,本件商標は ,「ディープコラゲ」若しくは「 DEEP
COLLAGE」の各部分又は本件商標全体によって識別され,前記のとお
り,「ディープコラゲ」の片仮名文字を上段に , DEEP
「 COLLAGE」
の欧文字を下段に,それぞれ上下二段に横書きした外観を有し ,「ディ
ープコラゲ」との称呼を有する商標と認められる。なお , DEEP

COLLAGE」 「ディープコラゲ」は,いずれも特定の観念を生じさせな

い造語であるから,本件商標は特定の観念を生じさせない造語であると
認められる。
(イ) 原告の主張に対し
これに対し,原告は,本件商標のうち , COLLAGE」の構成部分の

みが識別力を有する要部であると主張するが,同主張は ,以下のとおり,
失当である。
a 原告は,「ディープ」「DEEP」という語は,化粧品,せっけん類と

の関係において,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,肌等
の深部に浸透する」との意味で品質を表示する語として用いられてお
り,識別力が薄弱であると主張する。
確かに,化粧品の名称に「ディープ」 「DEEP」との表示を含む例

が認められる(甲8の1ないし6,甲31の1ないし10,甲39の
1ないし3)。しかし,少なくとも商標が片仮名表記される場合は,
「ディープ」との表示は他の語と一体に表記され ,「ディープ」とい
う語は,化粧品等の効能を示す語として独立して用いられるのではな
く,他の語と結合して商標の一部を構成する要素として用いられてお
り,必ずしも,「ディープ」「DEEP」という語が,化粧品,せっけん

類との関係において,「頑固な毛穴の汚れ等を強力に落とすために,
肌等の深部に浸透する」との意味で用いられているとはいえない。
そうすると,「ディープ」「DEEP」という語は品質を表示する語と

して用いられているのでその部分の識別力は薄弱であるとする原告の
上記主張は,その前提において,採用できない。
b 原告は,化粧品,せっけん類の業界では,フランス語が好んで用い
られていること,また , collage」という語は,フランス語で「コラ

ージュ」という読み方をし, 貼付け絵」を意味する既成語であって,

中学校の美術の教科書にも掲載され,世上一般に通用していることか
ら,需要者,取引者は,本件商標の「COLLAGE」という部分から,
フランス語的な発音である「コラージュ」の称呼を認識する旨主張す
る。
確かに,国語辞典には ,「コラージュ【 collage フランス 】(貼り合せの
意)近代絵画の技法の一。画面に紙・印刷物・写真などの切抜きを貼
りつけ,一部に加筆などして構成する 。・・・貼付け絵 。 (広辞苑第

五版)との記載があり,中学校の美術の教科書などに,絵画の技法の
一種として「コラージュ」(貼付け絵)が掲載されていること,化粧
品業界においては,フランス語に由来する商標名が少なくないことが
認められる(甲5,甲25の1ないし10,甲30の1,2)。
しかし,提出された証拠による限り,中学校の美術の教科書には,
「コラージュ」という片仮名が記載されているものがあっても,
「collage」という欧文字の綴りが記載されているものは認められない
(甲25の1ないし10)。我が国において,欧文字をローマ字読み
する例は一般的であることから,ローマ字読みにより「 COLLAGE」
を「コラーゲ」「コラゲ」などと読むことが不自然であるとはいえな

い。また ,「コラーゲン( collagen)」は,動物の体内の結合組織に含
まれるたんぱく質の一つで,熱を加えるとゼラチンになり,細胞や組
織をつなぎ,機能の活性化を促進し,皮膚や骨,目などの老化を防止
するとされ,若さを保つ成分として,食品や化粧品の原材料や成分な
どとして注目されており(乙1,乙36) 本件商標の「COLLAGE」

の部分,引用商標2,3の「 Collage」の部分は,「コラーゲン」を意
味する「collagen」と「n」の1文字が相違するのみであって,需要者 ,
取引者をして, collagen」を容易に連想させる。

そうすると,需要者,取引者は,本件商標の指定商品である化粧品
等について使用される「COLLAGE」の文字部分について,そこから,
化粧品等とはおよそ関連性の薄い「貼付け絵」を連想して ,「コラー
ジュ」と称呼するのではなく,化粧品等の原材料や成分として利用さ
れ,化粧品等と関連性の強い「コラーゲン」を連想し ,「コラーゲン
(collagen)」に由来して「コラーゲ」 「コラゲ」と称呼すると解する

ことに合理性がある。また, 化粧品,せっけん類」を指定商品とし ,

「コラゲ」や「 COLLAGE」の文字を含む商標が,出願され,登録さ
れていることも認められる(乙2)。
したがって,「コラージュ」という語が我が国においてある程度知
られていたとしても,本件商標の「 COLLAGE」の部分が ,「コラー
ゲン」の連想から,ローマ字読みに従って「コラゲ」と発音されるこ
とは不自然とはいえず , COLLAGE」の部分からフランス語的な発

音である「コラージュ」の称呼を認識することが一般的であるとはい
えない。以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用すること
はできない。
c 原告は,化粧品の取引においては,欧文字と仮名文字の二段併記の
商標について,欧文字部分のみを使用することが多く,本件商標は,
欧文字部分のみが目立つ態様で用いられる可能性が高いから,その称
呼の認定に当たって,片仮名文字の存在を重視すべきではないと主張
する。
確かに,甲16(化粧品業界における登録商標の使用に関する実態
調査の報告書)によれば,欧文字と仮名文字の二段併記の商標につい
て,実際の使用態様において,化粧品の容器や包装箱の表面に欧文字
のみを表示したものが少なくないことが認められる。
しかし,化粧品の容器や包装箱の表面に欧文字と仮名文字を併記し
たものも存在する上,化粧品の容器や包装箱の裏面には,製造者に関
する記載と併せて片仮名文字により商標が表示されている例も多いこ
と(甲16),容器の表面に欧文字のみを表示したものについても,
ウェブサイト上では,商品名,ブランド名が片仮名のみで表示されて
いること(乙12ないし乙18 ),引用商標及び本件商標の双方の指
定商品であるせっけん類について,原告は,容器や包装箱の表面に,
「Collage」との表示とともに,「コラージュ石鹸 」 「コラージュ液体

石鹸 」 「コラージュ薬用入浴剤 」 「コラージュリンス」という片仮
, ,
名を含む表示を併記して使用していること(乙7ないし乙11)が,
それぞれ認められる。
したがって,化粧品,せっけん類などを指定商品とする欧文字と仮
名文字の二段併記の商標について,その称呼の認定に当たり,片仮名
文字の存在を重視すべきでないとの原告の上記主張は,採用すること
ができない。
d 原告は,本件商標の登録出願時(平成17年11月7日)及び登録
査定時(平成18年9月1日)には, Collage」との表示は,原告の

商品の表示として周知,著名であったと主張する。
しかし,後記2( 1)イのとおり , Collage」との表示は原告の商品

の表示として周知,著名であったとは認められず,原告の上記主張は,
採用することができない。
イ 引用商標の外観,称呼,観念
引用商標1は, コラージユ」の片仮名文字を横書きにしたものであり,

「コラージユ」の称呼を生じ,「貼付け絵」の観念を生じる。
引用商標2は,「コラージュ」の片仮名文字と「 Collage」の欧文字を上
下二段に横書きにしたものであり,「コラージュ」の称呼を生じ,「貼付け
絵」の観念を生じる。
引用商標3は, Collage」の横書きの欧文字と「コラージュ」の横書き

の片仮名文字及び花草模様の図形を上下3段に配したものであり ,「コラ
ージュ」の称呼を生じ,「貼付け絵」の観念を生じる。
ウ 本件商標と引用商標の類否
(ア) 本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1を対比すると,外観において,本件商標の「デ
ィープコラゲ」の部分と引用商標1は ,「コラ」との文字と片仮名の長
音を含む点で共通するが,全体の文字数やその余の文字が異なり ,また,
本件商標は「 DEEP COLLAGE」との欧文字を含むから,本件商標と
引用商標1は,外観において異なる。
本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と引用商標1より生ず
る「コラージユ」の称呼は,前者が6音よりなるのに対し,後者は4音
又は5音よりなり,構成音数が相違する上 ,「コラ」の音を除いたその
他の音が相違するから ,本件商標と引用商標1は,称呼において異なる。
本件商標は特定の観念を生じない造語であるから,本件商標と引用商
標1の観念を比較することはできない。
したがって,本件商標と引用商標1は,外観,称呼が異なり,観念を
比較することはできないから,類似しない。
(イ) 本件商標と引用商標2の類否
本件商標と引用商標2を対比すると,外観において,本件商標の「デ
ィープコラゲ」の部分と引用商標2の「コラージュ」の部分は , コラ」

との文字と片仮名の長音を含む点で共通し,本件商標の「 COLLAGE」
の部分と引用商標2の「Collage」の部分は,冒頭の「 C」の大文字と綴
りにおいて共通する。しかし,本件商標の「ディープコラゲ」の部分と
引用商標2の「コラージュ」の部分は,全体の文字数が異なり, コラ」

との文字と片仮名の長音以外の文字は異なる上,前記ア(ア)のとおり,
本件商標の「 DEEP COLLAGE」の部分は,外観上一体のものと認め
られ , COLLAGE」のみが切り離されて認識されることはない。そう

すると,本件商標と引用商標2は,外観において異なる。
本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と引用商標2より生ず
る「コラージュ」の称呼は,前者が6音よりなるのに対し,後者は4音
よりなり,構成音数が相違する上 ,「コラ」の音を除いたその他の音が
相違するから,本件商標と引用商標2は,称呼において異なる。
本件商標は特定の観念を生じない造語であるから,本件商標と引用商
標2の観念を比較することはできない。
したがって,本件商標と引用商標2は,外観,称呼が異なり,観念を
比較することはできないから,類似しない。
(ウ) 本件商標と引用商標3の類否
本件商標と引用商標3を対比すると,外観において,本件商標の
「COLLAGE」の部分と引用商標3の「Collage」の部分は ,冒頭の「C」
の大文字と綴りにおいて共通し,本件商標の「ディープコラゲ」の部分
と引用商標3の「コラージュ」の部分は,「コラ」との文字と片仮名の
長音を含む点で共通する。しかし,前記ア(ア)のとおり,本件商標の
「 DEEP COLLAGE」 の 部 分 は , 外 観 上 一 体 の も の と 認 め ら れ ,
「 COLLAGE」のみが切り離されて認識されることはない上,本件商標
の「ディープコラゲ」の部分と引用商標3の「コラージュ」の部分は,
全体の文字数が異なり,「コラ」という文字と片仮名の長音以外の文字
も異なり,さらに,引用商標3は,独特の花草模様の図形が配されてい
る点で本件商標と相違する。そうすると,上記のような共通点があると
しても,本件商標と引用商標3は,外観において異なる。
前記(イ)と同様に,本件商標より生ずる「ディープコラゲ」の称呼と
引用商標3より生ずる「コラージュ」の称呼は異なる。
本件商標は特定の観念を生じない造語であるから,本件商標と引用商
標3の観念を比較することはできない。
したがって,本件商標と引用商標3は,外観,称呼が異なり,観念を
比較することはできないから,類似しない。
(2) 本件商標と引用商標の類否に関する判断の誤りの有無
前記( 1)ウのとおり,本件商標と引用商標はいずれも類似しないから,審
決が,本件商標と引用商標は非類似であり,本件商標は商標法4条1項11
号に該当しないと判断したことに誤りはない。したがって,取消事由1は理
由がない。
2 商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)について
(1) 事実認定
ア 原告の「Collage」との表示等に係る使用態様は,以下のとおりである。
原告は,昭和55年1月 , Collage」又は「コラージュ」との表示を付

した化粧品の販売を開始し(最初の製品は「コラージュクリーム」であっ
た。 ,その後, Collage」又は「コラージュ」との表示を付した化粧品,
) 「
せっけん類を,「コラージュシリーズ」と称する一連の商品として製造販
売してきた。本件商標の登録出願時(平成17年11月7日)及び登録査
定時(平成18年9月1日)におけるコラージュの表示を付した一連の商
品は,別紙5のとおりである。コラージュの表示を付した一連の商品のパ
ッケージ(容器,包装箱等)には,いずれもその前面に「 Collage」又は
「コラージュ」との表示が付されている。コラージュの表示を付した一連
の商品について,カタログや広告には,低刺激性の化粧品,せっけん類で
あり,皮膚や毛髪等にトラブルのある場合にも使用することができるとい
う特徴が記載されている(甲6の1,2,甲10の1ないし3,甲13,
甲20の1ないし14,甲42 )。
コラージュの表示を付した一連の商品の売上額は,別紙6のとおりであ
り,年間15億円ないし28億円で推移している(甲18,甲43)。
コラージュの表示を付した一連の商品は,( a)新聞・雑誌への広告の掲
載(甲12,甲26の1ないし124 ) b)コラージュの表示を付した一
,(
連の商品を販売する薬局等におけるパンフレットやチラシの配布,POP
広告やディスプレイの設置(甲9の2,甲10の1ないし46,甲28の
1ないし44 ) c)コラージュの表示を付した一連の商品の愛用者の会で
,(
ある「コラージュ倶楽部」の結成 ,会員への情報や便宜の提供(甲9の3,
甲10の4ないし6,甲13) d)新製品の販売開始に際しての,試供品
,(
や商品セットのプレゼントキャンペーンの実施(甲10の1ないし46)
などにより,宣伝広告がされてきた 。「コラージュ倶楽部」の会員は,平
成12年9月の時点で1万5000人を超えており(甲10の4 ),コラ
ージュの表示を付した一連の商品の宣伝広告費は,別紙7のとおりであり ,
年間2億円ないし7億6000万円余りであった(甲19)。
新聞・雑誌には,コラージュの表示を付した一連の商品を紹介する記事
等が掲載され,低刺激性であること,皮膚や毛髪等にトラブルのある場合
でも使用が可能であること等の説明がされている(甲11,甲14,甲1
5,甲27の1ないし43)。また,インターネット上においても,コラ
ージュの表示を付した一連の商品が販売されている 乙7ないし乙11)
( 。
上記使用態様によれば,原告のコラージュの表示を付した一連の商品は ,
低刺激性であること等の特徴から,需要があり,化粧品,せっけん類の需
要者の中に , Collage」又は「コラージュ」との表示を,原告の商品を表

示するものとして認識する者が存在することが認められる。
イ しかし,そのような事実があっても, Collage」との表示が,原告の商

品の出所を示すものとして,周知又は著名であったということはできない 。
すなわち,前記アの使用態様のうちには,片仮名の「コラージュ」との
表示のみを使用し,欧文字の「 Collage」との表示を使用していないもの
や欧文字の「 Collage」との表示が判読できないものも多数存在すること
(乙19ないし乙21),コラージュの表示を付した原告商品の年間の売
上額は多くても28億円(別紙6,平成5年度,6年度,甲18,甲43)
であるのに対して,国内における同種の商品(シャンプー,ヘアリンス,
クレンジングクリーム,モイスチャークリーム,乳液,化粧水,美容液)
の売上額(出荷額)は年間約6400億円(平成18年。乙22中の「平
成18年(1月∼12月分)全国化粧品出荷実績表」の上記商品の出荷金
額の合計)であって,上記原告商品の同種商品全体に占めるシェアは,わ
ずか約0.44%(28 億円/ 6400 億円≒ 0.0044)にすぎないこと等の事
情にかんがみると, Collage」との表示は,原告の商品を表示するものと

して,本件商標の登録出願時 平成17年11月7日 )
( 及び登録査定時 平

成18年9月1日)に周知又は著名であったとは認められない。
ウ また,前記1(1)ウのとおり,本件商標と引用商標はいずれも類似しな
い。
(2) 原告の商品との混同の有無についての判断
前記( 1)イのとおり , Collage」との表示は,原告の商品を表示するもの

として周知又は著名であるとは認められないこと,前記1(1)ウのとおり,
本件商標と引用商標はいずれも類似しないことから,本件商標は,その指定
商品である化粧品,せっけん類等に使用しても , Collage」又は「コラージ

ュ」との表示を付した原告の商品と混同を生ずるおそれはないと解される。
なお,審決は,片仮名文字の「コラージュ」との表示は,原告の業務に係
る商品を表示する商標として,本件商標の登録出願時に,化粧品,せっけん
類等の需要者に周知であったと認定しているが(審決第5,2(1)キ),
仮に審決の認定するとおり,片仮名文字の「コラージュ」との表示が原告の
商品の表示として周知であったとしても,上記のとおり,欧文字の Collage」

との表示が原告の商品の表示として周知又は著名であるとは認められないこ
と,本件商標と引用商標はいずれも類似しないことから,本件商標をその指
定商品である化粧品,せっけん類等に使用しても, Collage」又は「コラー

ジュ」との表示を付した原告の商品と混同を生ずるおそれはないものと解さ
れる。
したがって,本件商標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれが
ある商標(商標法4条1項15号)に該当しないというべきである。
そうすると,審決が,本件商標は原告の業務に係る商品と混同を生ずるお
それがある商標(商標法4条1項15号)と認めることはできないと判断し
たことに誤りはない。したがって,取消事由2は理由がない。
3 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決にこれを取
り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 中 平 健
裁判官 上 田 洋 幸
別 紙 1
別 紙 2
別 紙 3
別 紙 4
別 紙 5
別 紙 6 (省略)
別 紙 7(省略)

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