平成20(行ケ)10254審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告アルゼ株式会社
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対象物 |
遊技機の回転リールユニット |
法令 |
特許権
特許法126条3項2回 特許法126条1項2回 特許法134条の32回 特許法181条2項2回 特許法126条5項1回 特許法29条2項1回
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キーワード |
実施46回 審決36回 訂正審判7回 無効6回 進歩性3回 特許権1回 刊行物1回 無効審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,平成9年4月18日,名称を「遊技機の回転リールユニット」
とする発明につき特許の出願をし,平成16年3月26日その設定登録を受けたと
ころ,これに関し原告が平成20年2月25日付けで訂正審判請求(甲18。以下
「本件訂正」といい,同訂正後の上記発明を「本件訂正発明」という。本件訂正明
細書は甲19 )をしたので,特許庁がこの請求を訂正2008−390024号。
事件として審理し,平成20年5月27日,請求不成立との審決をしたことから,
原告がその取消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成20年12月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10254号 審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日 平成20年12月18日
判 決
原 告 ア ル ゼ 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 田 中 康 久
同 中 込 秀 樹
同 岩 渕 正 紀
同 岩 渕 正 樹
同 松 永 暁 太
同 長 沢 幸 男
同 長 沢 美 智 子
同 大 西 剛
同 今 井 博 紀
訴訟代理人弁理士 豊 岡 静 男
同 正 林 真 之
同 青 木 和 夫
同 八 木 澤 史 彦
同 佐 藤 武 史
同 清 水 俊 介
同 進 藤 利 哉
同 岸 武 弘 樹
同 新 山 雄 一
同 加 藤 竜 太
同 渡 辺 浩 司
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 河 本 明 彦
同 津 田 俊 明
同 森 川 元 嗣
同 小 林 和 男
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が訂正2008−390024号事件について平成20年5月27日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,平成9年4月18日,名称を「遊技機の回転リールユニット」
とする発明につき特許の出願をし,平成16年3月26日その設定登録を受けたと
ころ,これに関し原告が平成20年2月25日付けで訂正審判請求(甲18。以下
「本件訂正」といい,同訂正後の上記発明を「本件訂正発明」という。本件訂正明
細書は甲19 。)をしたので,特許庁がこの請求を訂正2008−390024号
事件として審理し,平成20年5月27日,請求不成立との審決をしたことから,
原告がその取消しを求めた事案である。
争点は,本件訂正が,①特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正といえるか,②
新規事項の追加に当たるものでないか,③独立特許要件を満たしているか(すなわ
ち特開平7−100241号公報〔発明の名称「スロットマシン 」,出願人 株式
会社オリンピア,公開日 平成7年4月18日,甲1。以下「引用例1」といい,
これに記載された発明を「引用発明」という 。〕との関係における進歩性の有無
〔特許法29条2項 〕)である。
1 特許庁等における手続の経緯
(1) 原告は,平成9年4月18日,発明の名称を「遊技機の回転リールユニッ
ト」とする特許出願をし,平成16年3月26日,特許第3537630号として
設定登録を受けた(特許公報は甲13 )。これに関し,原告は,平成20年2月2
5日付けで本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判(甲18。本
件訂正)を請求したので,特許庁は,この請求を訂正2008−390024号事
件として審理し,平成20年5月27日 ,「本件審判の請求は,成り立たない 。」
との審決をし,その謄本は平成20年6月6日原告に送達された。
(2) なお,上記特許に対し,平成16年12月20日,Aが無効審判請求を行っ
ているが,その現在に至るまでの状況は次のとおりである。
すなわち,特許庁は,同請求を無効2004−80262号事件として審理し,
平成18年3月7日,特許を無効とする旨の審決をしたが,これに不服の原告は,
審決取消訴訟を提起し,平成18年7月7日,訂正審判請求を行った(後に,特許
法134条の3第4項の規定によりみなし取下げ )。そして,知的財産高等裁判所
は,平成18年8月25日,特許法181条2項により上記審決を取り消す旨の決
定をしたので,特許庁において,上記無効2004−80262号事件の審理が再
び続けられることとなった。
その中で原告は,平成18年10月16日,訂正請求を行った(甲16。特許法
134条の3第3項の規定により,上記訂正審判請求事件の訂正明細書を援用。な
お,同訂正請求に係る訂正請求書〔甲16 〕,全文訂正明細書については,平成1
9年10月31日付けで手続補正がなされた〔甲14,15 〕)が,特許庁は,平
成19年11月27日 ,「訂正を認める。特許第3537630号の請求項1,2
に係る発明についての特許を無効とする 。」旨の審決(甲17)をした。そこで,
これに不服の原告は,審決取消訴訟を提起し,当裁判所は,これを平成20年(行
ケ)10004号事件として審理している(平成20年11月6日口頭弁論終結。
なお原告は,同審決取消訴訟を提起した後,本件訂正にかかる訂正審判請求をし,
前記のとおり,特許庁はこれを訂正2008−390024号事件として審理する
こととなったが,当裁判所は,特許法181条2項により上記無効審決を取り消す
という決定をすることなく同審決取消訴訟の審理を続けたものである。 。
)
2 特許請求の範囲
本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項2のみから成り(請求項1は本件訂正に
より削除された 。 ,その発明の内容は次のとおりである(本件訂正発明。なお,
)
本件訂正明細書は甲19 )。
【請求項2】上下方向に回転可能な円筒状をしたリールドラムと,このリールドラ
ムの外周に左右方向を幅方向として設けられる,種々の図柄が描かれたリール帯と,
前記リールドラムの内部に設けられ,これら図柄を背後から照らす光源とを備えて
構成される,スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,スト
ップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回
転リールユニットにおいて,
前記図柄の内,第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄は,その一部分をそ
れぞれ半透明に形成され,その半透明に形成した部分を,前記リールドラムの回転
方向に直交する方向において,前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方
に配され,前記特定図柄の半透明に形成された以外の部分は,種類ごとに異なる色
に着色されると共に,遮光性が付されたことを特徴とするスロットマシンの回転リ
ールユニット。
(下線部は,審決のとおり。)
3 審決の内容
審決は,前記のとおり,本件訂正審判請求は成り立たないとしたものである。そ
の理由の要点は,本件訂正が,①特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正といえな
い,②新規事項の追加に当たるものである,③独立特許要件を満たしていない(す
なわち本件訂正発明は引用発明との関係において進歩性がない)としたものであり,
その具体的な内容は,次のとおりである。
(なお,本判決においては,審決を引用する場合を含め,甲第1号証を「甲1 」,乙第1号証
を「乙1」などと表記する 。)
「1.訂正内容
本件訂正は,特許請求の範囲の訂正,発明の詳細な説明の訂正,図面の簡単な説明及び発
明の名称の訂正から成っており,特許請求の範囲の訂正に限っていうと,訂正前の請求項1を
削除し,請求項2を独立形式に改めた上で次のように訂正するものである。以下,訂正後の請
求項2に記載された事項によって特定される発明を「訂正発明」という。
「上下方向に回転可能な円筒状をしたリールドラムと,このリールドラムの外周に左右方向
を幅方向として設けられる,種々の図柄が描かれたリール帯と,前記リールドラムの内部に設
けられ,これら図柄を背後から照らす光源とを備えて構成される,スタートレバーの操作によ
り前記リールドラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転
を停止するスロットマシンの回転リールユニットにおいて,
前記図柄の内,第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄は,その一部分をそれぞれ半
透明に形成され,その半透明に形成した部分を,前記リールドラムの回転方向に直交する方向
において,前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され,前記特定図柄の半透
明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付され
たことを特徴とするスロットマシンの回転リールユニット 。 (下線部は,訂正前の請求項2に
」
それが引用する請求項1を併せたものを訂正前請求項2とした上で,それに対して訂正がされ
た箇所を当審において示すものである 。)
2.訂正目的の検討
上記下線部の内 ,「上下方向に回転可能な円筒状をした 」 「左右方向を幅方向として」 「前
, ,
記リールドラムの内部に設けられ」及び「前記図柄の内,第1の種類及び第2の種類の2つの
特定図柄は,その一部分をそれぞれ半透明に形成され,その半透明に形成した部分を,前記リ
ールドラムの回転方向に直交する方向において,前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又
は左方に配され,前記特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色
に着色されると共に,遮光性が付された」との部分は ,「回転リールユニット」を直接的に限
定するものであるから,特許請求の範囲を減縮を目的とするものと認める 。「上下方向に回転
可能」及び「左右方向を幅方向」とするかどうかについては,回転リールユニットの形状等の
みからは定まらないものの,種々の図柄が描かれており,図柄の多くは方向性を持っているこ
とから,回転リールユニットの構成としても特定できる。
また,訂正前の請求項2には「前記遊技機はスロットマシンまたは弾球遊技機である」と
の限定があるから ,「スロットマシンの回転リールユニット」と訂正することも,特許請求の
範囲を減縮を目的とするものと認める。もっとも ,「回転リールユニット」が用いられる対象
が「スロットマシン」であるのか「弾球遊技機」であるのかによって ,「回転リールユニッ
ト」がどのように特定されるのかについては幾分疑義があるものの,スロットマシン用回転リ
ールユニットと弾球遊技機用の回転リールユニットでは,サイズの相違等があると考えられる
から,漠然とではあるが「スロットマシンの」と限定することには意味があるものと認める。
しかし,そのスロットマシンが「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を
開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシン」
であるのか,それ以外のスロットマシンであるのかによって,回転リールユニットを特定する
ことはできない。もちろん,特定図柄の一部分が半透明に形成されていることから,ストップ
スイッチの操作時期を遊技者が適切に判断することが可能となり ,「ストップスイッチの操作
により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシン」に適していることは認められるも
のの,それは ,「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,ストップス
イッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニッ
ト」以外の構成によって特定できるものであって,この構成によって回転リールユニットを特
定することは困難である。
しかも,特定図柄の一部分が半透明に形成されていても ,「スタートレバーの操作により前
記リールドラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停
止するスロットマシン」以外のスロットマシンに使用できない理由はないから ,「スタートレ
バーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リー
ルドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニット」と訂正することにより,訂
正後の請求項2の発明はかえって不明確となった。この点さらに補足すると ,「スタートレバ
ーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リール
ドラムの回転を停止するスロットマシンの」との修飾語が「回転リールユニット」を限定する
ものだとすると,訂正後の請求項2から「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回
転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止する」との文言を
除いた「スロットマシンの回転リールユニット」であって,訂正発明の技術的範囲の属するも
のと属しないものがなければならない。しかし,そのような回転リールユニットは,すべから
く「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作
により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシン」に使用できるばかりか ,「特定図
柄の半透明に形成された部分」を有する関係上,そのようなスロットマシンに使用することが
適切であるから,どのような回転リールユニットが後者に該当するのか理解しがたい。そして,
訂正後の請求項2から「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,スト
ップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止する」との文言を除いた「スロット
マシンの回転リールユニット」のうちのどのような回転リールユニットが後者に該当するのか
理解しがたいことは,上記修飾語が存在するがために発明が不明確になることを意味する。
形式的には,上記修飾語は回転リールユニットが用いられる対象であるスロットマシンを
限定するものであるから,上記修飾語は用途を限定するものである。そして,発明の用途を限
定することにより,発明自体が間接的に限定されることがあり得ることは認めるが,本件にお
いては用途を限定することが回転リールユニットの限定には結びつかないのである。また,
「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作に
より前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニット」は,本件出願
当時例をあげるまでもなく周知であるから,訂正発明が「回転リールユニット」の用途を新た
に開発した用途発明であると認めることもできない。
特許法は訂正審判における訂正目的として「特許請求の範囲の減縮 」(126条1項1号)
をあげているが,これは形式的に特許請求の範囲の減縮に該当すればよいというのではなく,
減縮後の特許請求の範囲が明確であり,特許発明の技術的範囲がどのように減縮されるかも明
確であることが前提である。
本件訂正はこの前提を欠くから,特許法126条1項ただし書きの規定に適合しない。
3.新規事項追加
「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると
共に,遮光性が付された」について検討する。
訂正前の明細書には「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フ
ィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれているが,各半透明部分32aおよ
び33aにはこの有色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキによる背景印
刷は全面に対して行われ,最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は各半透明部分32aお
よび33aを除く領域に対して行われている 。 (段落【0024 】
」 )と記載されており ,「最後
の遮光性銀色インキによるマスク処理」が訂正後の「遮光性が付された」に該当することは認
められるものの,遮光性が付されるのは半透明部分を除く全体であって,当然図柄部分以外に
も遮光性が付されている。
ところが,訂正後の上記記載においては,「種類ごとに異なる色に着色される」部分と「遮
光性が付された」部分は「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分」として同一部分で
あるように記載されているから,図柄以外の部分には遮光性が付されないものを含むが,その
ようなことは訂正前の明細書からは一切窺い知ることができない。
したがって ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分」を着色し,遮光性を付すこ
となど訂正前明細書に記載されていないし,自明の事項でもない。
この点請求人は,半透明部分がリール帯の右方又は左方に配されていること,及び半透明
部分の識別性から ,「訂正後の特許請求の範囲の記載は,特定図柄以外の部分についても遮光
性を付していることが自明 」(意見書8頁2∼3行)と主張するが,特定図柄以外の部分にも
遮光性を付すのなら,そのように明確に記載しなければならないだけでなく ,「右方又は左
方」を背景に近い箇所に限定解釈しなければならない理由はない。したがって,請求人の上記
主張を採用することはできない。
そればかりか ,「種類ごとに異なる色に着色」も訂正前明細書には記載されていない。請求
人は,この訂正の根拠を訂正前の段落【0025】及び段落【0018】の記載に求めている。
段落【0025】の記載が,訂正前の請求項1,2に係る発明の実施例の説明であることは認
めるが,そこには「種類ごとに異なる色に着色」に該当する記載はない。訂正前の明細書にお
いては,段落【0016】∼【0022】に ,【図1 】(a)に示される回転リールユニットの
説明記載があるが,これは訂正前の請求項1,2に係る発明の実施例ではない。そうすると,
段落【0018】に「リール帯21上の各セブン22の図柄部分はそれぞれ光透過性赤色イン
キで着色され,各ウルフ23の図柄部分はそれぞれ光透過性青色インキで着色されている 。」
との記載があることは事実であるものの,訂正前の請求項1,2に係る発明とは無関係である
から,この記載があるからといって,訂正前の請求項1,2に係る発明において「種類ごとに
異なる色に着色」が記載されていたわけではない。しかも ,「遊技者はこの発光色の相違から
特定シンボルの種類を識別することが出来 」(段落【0022 】)及び「遊技者はこの発光位置
の相違から特定シンボルの種類を識別することが出来 」(段落【0031 】)との記載によれば,
特定シンボルの種類を識別する手段として,2つの異なる手段が異なる実施形態(一方の実施
形態は発明の実施例ではない 。)として記載されているのであって,それらを併用することが
記載されていたのではない。さらに,段落【0022】の上記記載及び「リール帯21上の各
セブン22の図柄部分はそれぞれ光透過性赤色インキで着色され,各ウルフ23の図柄部分は
それぞれ光透過性青色インキで着色されている。リール帯21はこの光透過性有色インキによ
る各シンボルの印刷後,光透過性白色インキで背景が印刷される。最後に,セブン22および
ウルフ23の図柄領域を除き,遮光性銀色インキが印刷されてマスク処理が施されている 。」
(段落【0018 】)によれば,特定図柄に相当するセブンおよびウルフの図柄領域だけが,
光源の光を透過可能であり,他の領域は遮光されるのだから,リール背後の光源からの光を透
過可能な領域を異なる色に着色することに技術的意義があるのであって,透過不可能な領域を
異なる色に着色することが記載されていないことは理の当然である。そうである以上,2つの
実施形態を併用するとしても,リール背後の光源からの光を透過可能な領域であるところの異
なる種類の特定図柄の半透明部分を異なる色で着色することが導かれるだけであって「特定図
柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色」は導かれない。
請求人は,段落【0025】の「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成
する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれている」との記載を根拠
に,「有色インクがどのようなものであるかは「上記実施形態」と同様である 。 (意見書8頁
」
19∼20行)と主張するが,上記記載は「リール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に
光透過性有色インキが印刷されて描かれている」点が,段落【0025】の実施形態と「上記
実施形態 」(段落【0018】の実施形態)で共通することをいうにとどまり,インク色まで
も「同様」としていると認めることはできない。
請求人はさらに ,「訂正前明細書に明示的に記載された事項でないとしても ,「特定図柄」
の遮光部分を「種類ごとに異なる色に着色」することは,当業者であれば自明です 。 (意見書
」
9頁7∼9行)とも主張するが,後記進歩性の判断で述べるとおり,異なる図柄を異なる色に
着色することが周知であることは事実として認めることができるものの,図柄自体の属性とし
て異なる色であるべき場合に異なる色に着色することが周知であるにとどまり,図柄自体の属
性とは関係なく ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に
着色される」ことまでが自明であると認めることはできない。
以上のとおりであるから,本件訂正は特許法126条3項の規定に適合しない。
4.独立特許要件欠如
(1)引用刊行物記載の発明の認定
本件出願前に頒布された特開平7−100241号公報(添付の参考資料1であり,以下
「引用例1」という。)には,以下のア∼クの記載が図示とともにある。
…(中略)したがって,引用例1には,リールユニットとして次のようなものが記載され
ていると認めることができる。
「3個の回転リールを横方向に並列し,各回転リールをそれぞれ回転する3個のリールモー
タを備えたスロットマシンのリールユニットであって,
各回転リールは回転ドラムとその外周に貼着される帯状のリールテープから構成され,リ
ールテープの表面は,複数のシンボルマークが所定間隔で表示されており,
少なくとも1個の回転リールには,その複数のシンボルマークのうち少なくとも1個のシ
ンボルマークの位置に関して,黒等に着色してマスクした背景中に半透明部分を配し,回転ド
ラムの内部には,リールテープの前記半透明部分を照明する発光源としてのランプを配置した
リールユニット。 (以下「引用発明」という。
」 )
(2)訂正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
…(中略)訂正発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
〈一致点 〉「上下方向に回転可能な円筒状をした円筒状をしたリールドラムと,このリールド
ラムの外周に左右方向を幅方向として設けられる,種々の図柄が描かれたリール帯と,これら
図柄を背後から照らす光源とを備えて構成される,スタートレバーの操作により前記リールド
ラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロ
ットマシンの回転リールユニットにおいて,特定図柄の位置に関係して,半透明に形成された
一部分を配したスロットマシンの回転リールユニット 。」
〈相違点1〉半透明に形成された部分と特定図柄の位置関係について,訂正発明では,特定
図柄の一部分としているのに対し,引用発明にはその特定がない点。
〈相違点2〉半透明に形成された部分と特定図柄種類の関係につき,訂正発明では「第1の
種類及び第2の種類の2つの特定図柄」に関係して「前記リールドラムの回転方向に直交する
方向において,前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され」及び「種類ごと
に異なる色に着色」と限定するのに対し,引用発明ではそもそも「第1の種類及び第2の種類
の2つの特定図柄」に関係しているとはいえない点。
〈相違点3〉訂正発明では,特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は遮光性が付さ
れているのに対し,引用発明では「黒等に着色してマスクした背景中に半透明部分を配し」て
いるものの,訂正発明が上記構成を有するとまではいえない点。
(3)相違点の判断
〈相違点1について〉
引用発明では,黒等に着色してマスクした背景中に半透明部分を配している。背景を黒等
に着色することの技術的意義が引用例1に明確に記載されているわけではないが,背景が白地
であったのでは,リール回転中に半透明部分を認識することが困難,すなわち,半透明部分か
らの光の視認性が低下することは明らかであり,またそのことが明らかであるからこそ,引用
例1に記載されていないと解すべきである。
本件出願前に頒布された実願昭60−175597号(実開昭62−84485号)のマ
イクロフィルム(添付の参考資料3であり,以下「引用例2」という 。)には ,「第5図(2)
は,・・・ドラム1aの周面中央部に縦線状のマーク16を一連に付することによって ,・・・
タイミング付与手段(審決注;訂正発明及び引用発明の「半透明に形成された一部分」もタイ
ミング付与手段の1つであると認める 。)を形成した 」(7頁13∼17行)との記載があり,
第5図(2)からは縦線状のマーク16が,3つの絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)部分と
重複していることが読み取れる。
同じく本件出願前に頒布された特開平4−108468号公報(添付の参考資料2であり ,
以下「引用例3」という 。)には ,「絵柄を透した光透過部を形成すると共に,リールの内部に
表示窓に対応しかつ前記光透過部に対向した発光面を有する光源を配設した 」【請求項1 】
( )
との記載がある。ここでいう光透過部は,特定の図柄を狙い易くするため,すなわちタイミン
グ付与手段として設けられたものではないが,絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)の一部分を
光透過部とする点では訂正発明と一致する構成が記載されているといえ,引用例3の記載から
みても,図柄の一部分を半透明に形成することの阻害要因がないことは明らかである。
他方,図柄(引用発明のシンボルマーク)は,通常白地に対して着色されて形成されるも
のであるから,図柄には着色部分があると考えられる。そして,引用例2の上記記載・図示か
らは,タイミング付与手段と図柄が重複することを容認することが読み取ることができ,さら
に引用例3には図柄の一部分を光透過性にする構成が記載されており,図柄の着色部分自体の
一部を半透明とすれば,半透明部分の視認性が向上することは明らかである。
そうである以上,引用発明を出発点として,白地に対して着色処理によりシンボルマーク
を形成するとの通常の処理を維持し,半透明部分の視認性を確保するために着色部である図柄
それ自体の一部分を半透明部分とすること,すなわち相違点1に係る訂正発明の構成を採用す
ることは当業者にとって想到容易である。
〈相違点2について〉
本件出願前に頒布された「必勝パチスロファン」平成7年10月号(添付の参考資料4は
その一部であり,以下「引用例4」という 。)には,
「コンドルの目押しは羽根を見ながら押せ
クランキーコンドルは目押しをする機会が多い。ボーナス絵柄をそろえる時はもちろんのこ
と,ビッグ中の小役ゲームにも目押しは必要だ。
その中にあって,一番目押しする回数が多いのはコンドルである。レギュラーの時には,
必ずこの絵柄の目押しをするからである。
コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うとよい。コンドルは黒い絵柄だ
し,右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない。目立つはずだ。
ちなみに,赤7は切れ目押し。青7は直視だと見やすい 。 (7頁左下欄)との記載があり ,
」
同記載がスロットマシン遊技についての記載であることは明らかである。
上記記載によれば,遊技者が目押し対象とする絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)が複数
種類あることは明らかである。引用例4によらずとも,引用例1記載の「ビッグボーナス」相
当図柄(引用例4記載の「赤7」及び「青7」もその例と解される 。)が複数種類存するスロ
ットマシンは周知であり,その場合には当然複数の図柄が目押し対象となる。
そうであれば,引用発明を出発点として,半透明部分の配置対象となるシンボルマーク
(図柄)を複数種類とすること,その中でも2種類とすることは当業者にとって想到容易であ
る。
もっとも,そのようにした場合でも,2種類の図柄を区別せず,同一性状の半透明部分を
配し,どの図柄が目押し対象となるかを遊技者の視認力又は偶然に任せることも一案であるが,
遊技者の便宜を図り,2種類の図柄の半透明部分を区別可能とすることも一案であり,どちら
を採用するかは設計事項である。そして,後者を採用する場合,さまざまな区別手法が想定で
きる。区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,位置の相違を
用いることは,例えば,特開平7−141472号公報に「連続する文字列情報があるかとい
う情報に基ずいてカーソル,マ−クの形状を変化させた一例である。このようにすれば,前も
って使用者が分かるので使い勝手は向上する。また,形を変化させる方法だけでなく,色,表
示位置により区別してもよく 」(段落【0033 】)と,特開平5−81290号公報に「A領
域およびB領域については,点灯位置により区別がつく 」(段落【0023 】)と,特開昭64
−26925号公報に「障害表示手段7と画面表示手段8は,ディスプレイ端末装置上での表
示領域として予め設定した位置により区別しておく 」(2頁左下欄6∼9行)と,特開平8−
178198号公報に「カメラ等のセンサの監視視野内に複数の異常発生箇所が生じる可能性
がある場合には,例えばカメラの視野内の位置により識別したり 」(段落【0006 】)と,特
開平4−43358号公報に「各チップ毎の異なる位置に同形のパターン5を形成し,その形
成位置により識別する方法等が用いられている 。 (2頁左上欄14∼17行)と,特開昭62
」
−68034号公報に「モータのコイルの抵抗値のちがいをリード線の取り出し口の位置によ
り識別することができ 」(2頁左下欄1∼3行)と,及び特公平7−56726号公報に「第
3図に示すディスクと異なる点は判別マーク14にある 。・・・ディスクの種類はこのマーク
の個数或いは位置により識別できるようになっている 。 (4欄6∼11行)とそれぞれ記載さ
」
れているように周知である。
そうであれば,引用発明を出発点として,2種類の図柄を区別するために,2種類の図柄
における半透明部分の位置を互いに異ならせることは図柄区別に当たっての設計事項というべ
きである。さらに,高速回転中に異なる半透明部分を位置において区別しようとすれば ,「リ
ールドラムの回転方向に直交する方向」において異なる位置に配することは当然採用すべき事
項にすぎず(リールドラムの回転方向の位置を異ならせても,高速回転であるがゆえに区別困
難となる 。 ,異なる位置が離れているほど区別しやすいことは自明であるから ,
) 「前記特定図
柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され」とすることも設計事項というべきである。
請求人は ,「特開平7−141472号公報,特開平5−81290号公報,特開昭64−
26925号公報,特開平8−178198号公報,特開平4−43358号公報及び特開昭
62−68034号公報に記載の技術は「類似する複数のものから1つのものを区別又は識別
する」技術です。これに対し,相違点2に係る構成は,回転中の複数の図柄の中の2つについ
て,いずれか1つの特定図柄を区別又は識別するためのものです 。 (意見書14頁27行∼1
」
5頁5行)と主張するが ,「回転中の複数の図柄の中の2つ」は特定図柄であり「類似する複
数のもの」に該当するから ,「類似する複数のものから1つのものを区別又は識別する」技術
である点は,上記各文献記載の技術と共通している。
請求人はさらに ,「特公平7−56726号公報に記載された技術はそもそも,人の視覚に
よる識別性を向上する技術ではなく,発光ダイオードと光検出器によって反射率の差を検出す
る精度を向上する技術であり,その技術分野においても発明の目的においても,訂正発明とは
全く関係がありません 。 (意見書15頁6∼9行)とも主張するが ,
」 「人の視覚による識別性
を向上する技術」であることに共通性がないとしても ,「類似する複数のものから1つのもの
を区別又は識別する」技術である点では共通し,人の視覚による場合にも,位置の相違を区別
又は識別に利用できることは明らかである。
そればかりか,引用例4の「コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うと
よい。コンドルは黒い絵柄だし,右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない 。」との記載か
らは,特定図柄(引用例4記載の例では「コンドル 」)を他の図柄と区別するために,左右方
向における同特定図柄特有の位置を利用することが読み取れるから,引用発明を出発点として
2種類の図柄を区別するに当たって,2種類の図柄それぞれにおいて,左右方向における各図
柄特有の位置を持たせる(当然,右方又は左方とすることが有利である 。)ことは当業者が難
なく採用できる構成というべきである。そして,引用発明を出発点として,半透明部分の配置
対象となるシンボルマーク(図柄)を2種類とする場合には,各図柄特有の位置となるべきも
のが,各図柄における半透明部分であることは当然であるから,この点からみても ,「第1の
種類及び第2の種類の2つの特定図柄は,その一部分をそれぞれ半透明に形成され,その半透
明に形成した部分を,前記リールドラムの回転方向に直交する方向において,前記特定図柄の
種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され」との構成に至ることに困難性はない。
また ,「赤7」 「青7」に例示されるように,図柄はカラー表示することが多く,異なる図
,
柄を異なる色に着色することは,半透明部分を区別するかどうかに関係なく広く採用されてい
る技術であるから,「種類ごとに異なる色に着色」することも設計事項というべきである。
以上のとおりであるから,相違点2に係る訂正発明の構成を採用することは当業者にとっ
て想到容易である。
〈相違点3について〉
本件出願前に頒布された特開平6−327808号公報(以下「引用例5」という 。)には,
「本発明は,回転体(リールテープ)を備える遊戯装置(スロットマシン,パチスロ及び同装
置を内蔵するパチンコ遊技機など)に用いられる回転体をユニット化した回転体構造に関す
る 。 (段落【0001 】 ,
」 ) 「リールテープRとしては,透過性印刷処理を施した半透明リール
テープを用いることができる。半透明リールテープは,透明テープ材の裏面に光透過性有色イ
ンキでシンボルを印刷し,その後,光透過性白色インキで背景を印刷し,最後に,特殊シンボ
ル領域を除き,光遮光性銀色打ち印刷(マスク処理)を行うことにより,より安価に形成でき
る 。 (段落【0019 】
」 )及び「特殊シンボルLがウインドウWに出現した時,遊戯者は特殊
シンボルLを通じてリール5,6,7の内側に配置された発光源40の光を見ることができ
る。 (段落【0020 】
」 )との各記載があり,「回転体をユニット化した回転体構造」とは「回
転リールユニット」にほかならず,リールの内側に発光源を配するとともに,リールの一部分
を除く部分に遮光性を付すことが記載されている。
引用例5における「リールの一部分」は「特殊シンボル領域」であって,引用発明の「半
透明部分」とは異なるけれども,引用発明においても「半透明部分」からの光の透過を強調し
て遊技者が認識しやすくすることは当然考慮すべきであり ,「半透明部分」以外からの光の透
過を阻止するために,引用例5記載の「光遮光性銀色打ち印刷(マスク処理 )」を採用するこ
とには困難性がない。そして ,「半透明部分」以外全部に遮光性を付せば ,「特定図柄の半透明
に形成された部分以外の部分」に遮光性を付すことになる。
すなわち,相違点3に係る訂正発明の構成を採用することも当業者にとって想到容易であ
る。
(4)訂正発明の独立特許要件の判断
相違点1∼3に係る訂正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり,こ
れら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできないから,訂正発明は引用
発明,引用例2∼5記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであって,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち,本件訂正は特許法126条5項の規定に適合しない。
以上のとおり,本件訂正は特許法126条1項ただし書き,同条3項及び同条5項の規定に
適合しないから,本件訂正を認めることはできない。」
第3 原告主張の審決取消事由
審決には,次に述べるとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきであ
る。
1 取消事由1(訂正目的に関する判断の誤り)
(1) 審決は,「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し,
ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシ
ン」(の回転リールユニット)との訂正事項(以下「訂正事項1」という 。)につ
いて,特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しないとする。
しかし,本件訂正前の請求項2の回転リールユニットは ,「スロットマシンまた
は弾球遊技機」の回転リールユニットと規定しており,スロットマシンの回転リー
ルユニットと規定することは,弾球遊技機の回転リールユニットであることを除外
するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することは明
らかである。
また,スロットマシンには ,「スタートレバーの操作により前記リールドラムの
回転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止す
る」スロットマシンのほかにも,ストップスイッチがなく,リールが自動停止する
スロットマシンも存在するのであるから ,「スタートレバーの操作により前記リー
ルドラムの回転を開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転
を停止する」スロットマシンと規定することにより,特定のスロットマシンに限定
することとなり,回転リールユニットについても,当該限定したスロットマシンの
回転リールユニットであると限定されることになる。
(2) 仮に,訂正事項1が回転リールユニットの構成を特定するものではないか
ら,特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しないものであったとしても,
請求項2に係る訂正は,全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当
する。
すなわち,同じ請求項の中に複数の訂正事項がある場合には,すべての訂正事項
が個別に訂正目的を満足するものである必要はなく,全体として特許請求の範囲の
減縮を目的とするものであればよいと解するのが相当である。しかるに,審決は,
「 上下方向に回転可能な円筒状をした 』 『左右方向を幅方向として 』 『前記リー
『 , ,
ルドラムの内部に設けられ』及び『前記図柄の内,第1の種類及び第2の種類の2
つの特定図柄は,その一部分をそれぞれ半透明に形成され,その半透明に形成した
部分を,前記リールドラムの回転方向に直交する方向において,前記特定図柄の種
類ごとにリール帯の右方又は左方に配され,前記特定図柄の半透明に形成された部
分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された』と
の部分は ,『回転リールユニット』を直接的に限定するものであるから,特許請求
の範囲の減縮を目的とするものと認める 。 (3頁下から12行∼4行)としてい
」
るのであるから,訂正事項1が特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当し
ないものであったとしても,請求項2に係る訂正は,全体として特許請求の範囲の
減縮を目的とするものに該当する。
2 取消事由2(新規事項追加に関する判断の誤り)
(1) 審決は ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに
異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(以下「訂正事項
2」という。)について,
ア 「 特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分』を着色し,遮光性を付す
『
ことなど訂正前明細書に記載されていないし,自明の事項でもない 。 (6頁5行
」
∼7行),
イ 「 種類ごとに異なる色に着色』も訂正前明細書には記載されていない 。 (6
『 」
頁15行∼16行 ) 「図柄自体の属性とは関係なく ,
, 『特定図柄の半透明に形成さ
れた部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色される』ことまでが自明である
と認めることはできない 。 (7頁26行∼28行)
」
ことを理由として,訂正事項2は新規事項の追加に当たるとするが,誤りである。
「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色さ
れる」ことは,訂正前明細書(甲13)に実質的に記載されており,新規事項の追
加には該当しない。
(2) 上記(1)アについて
ア 本件訂正後の請求項2の記載のみからは ,「前記特定図柄の半透明に形成さ
れた部分以外の部分」とは,2つの特定図柄の内部の部分について規定しているの
か,2つの特定図柄の半透明部分以外のリール帯の部分について規定しているのか
は,必ずしも明確とはいえない。
そして,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することがで
きない場合には,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈すべきであるか
ら,訂正前明細書を参酌することとする。
イ まず,本件訂正発明は,リール帯の円周方向に描かれた複数種類の特定シン
ボルが表示窓を通過する際に,異種の特定シンボルを遊技者に識別させることを課
題とし,当該課題を解決するために,特定図柄の一部分を半透明に形成した部分を,
特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配し,特定図柄の半透明に形成さ
れた部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されるとともに,遮光性が付さ
れていることを特徴とするものであり,リールドラムが回転すると,異なる種類の
特定図柄は,リールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置で発光す
るから,遊技者は発光部の通過位置の相違から特定図柄の種類を識別することがで
きるとの作用効果を奏するものである。
したがって,請求項2の解釈に当たっては,本件訂正発明が上記の作用効果を奏
するものとして解釈すべきであるところ,2つの特定図柄の半透明部分以外の部分
は,種類ごとに異なる色に着色されるとともに,遮光性が付されているが,他の図
柄や背景部分が半透明又は透明になっていれば,他の図柄や背景部分も発光し,特
定図柄を明確に識別することはできないものと解され,一方,2つの特定図柄以外
の図柄や背景部分にも遮光性が付されていれば,2つの特定図柄の半透明部分の発
光が明確に視認できて,上記の作用効果を奏することは明らかである。
ウ また,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】には ,「各シンボルは上
記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色
インキが印刷されて描かれているが,各半透明部分32aおよび33aにはこの有
色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキによる背景印刷は全面
に対して行われ,最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は各半透明部分32a
および33aを除く領域に対して行われている 。」と記載されており,2つの特定
図柄の半透明部分以外の全領域に遮光性銀色インキによるマスク処理が行われてい
る。
エ さらに,訂正前明細書(甲13)の段落【0028】には ,「このような本
実施形態において,リールドラム12が回転するとリールドラム12の外周に貼ら
れたリール帯31が回転し,各半透明部分32a,33aも回転する。本実施形態
においても,リールドラム12の内部に設けられたバックランプ14は常時点灯し
ているため,リール帯31が回転して各半透明部分32a,33aがバックランプ
14の照射部前部を通過すると,各半透明部分32a,33aからバックランプ1
4の出射光が漏れ,各半透明部分32a,33aは発光する 。」と記載されており,
図1(b)及び図2とを併せ考慮すれば,特定図柄以外の他の図柄やリール帯の図
柄以外の背景部分にマスク処理が行われなければ,これらの部分からも出射光が漏
れ,半透明部分からの出射光を明確に識別することが困難になることから,上記の
記載は,特定図柄以外の他の図柄やリール帯の図柄以外の背景部分にマスク処理を
することを前提として記載されているものと解される。
オ 以上によれば,本件訂正後の請求項2の記載のみでは,遮光性を付す箇所は
必ずしも明確であるとはいえないとしても,明細書を参酌し,本件訂正発明が作用
効果を奏するための技術的意義を考慮すれば,訂正事項2の ,「特定図柄の半透明
に形成された部分以外の部分は,着色されると共に,遮光性が付された」との部分
は,特定図柄の半透明部分以外の全領域に遮光性が付されていると解釈すべきであ
り,このような事項は訂正前明細書に記載されていた事項であるから新規事項では
ない。
(3) 前記(1)イについて
ア 審決は,「訂正前の明細書においては,段落【0016】∼【0022】に,
【図1 】(a)に示される回転リールユニットの説明記載があるが,これは訂正前
の請求項1,2に係る発明の実施例ではない 。 (6頁19行∼22行 ) 「段落
」 ,
【0025】の『各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明
フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれている』との記載…は
『リール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷され
て描かれている』点が,段落【0025】の実施形態と『上記実施形態 』(段落
【0018】の実施形態)で共通することをいうにとどまり,インク色までも『同
様』としていると認めることはできない 。 (7頁11行∼19行)とするが,誤
」
りである。
(ア) 訂正前明細書(甲13)の段落【0025】と段落【0018】との記載
を比較検討すれば,段落【0025】の ,「各シンボルは上記実施形態と同様にリ
ール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描
かれている」は,段落【0018】の ,「各シンボルはこの透明フィルム材の裏面
に光透過性有色インキで印刷されて描かれている。この際,リール帯21上の各セ
ブン22の図柄部分はそれぞれ光透過性赤色インキで着色され,各ウルフ23の図
柄部分はそれぞれ光透過性青色インキで着色されている 。」に対応しており,段落
【0025】では各セブン及び各ウルフについて,各半透明部分32aおよび33
aにはこの赤色インキ及び青色インキが印刷されていないことが記載されていると
解される。
そうすると,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】には ,「特定図柄の半
透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色される」ことが記
載されていたと解するのが相当である。
(イ) また,スロットマシンの回転リールユニットには,各種のシンボルが多色
の有色インキで色分けされて印刷されていることは,甲4(引用例4 ,「必勝パチ
スロファン」平成7年10月,株式会社日本文芸社)などから周知の事項であり,
また,複数種類の特定シンボルを赤や青に着色することも周知の事項である。
そうすると,訂正前明細書(甲13)の段落【0018】の ,「この際,リール
帯21上の各セブン22の図柄部分はそれぞれ光透過性赤色インキで着色され,各
ウルフ23の図柄部分はそれぞれ光透過性青色インキで着色されている 。」との記
載は,特定シンボルが赤や青の異なる色に着色されることが多いことに起因する記
載であり,各セブン及び各ウルフは異なる色に着色されていることの単なる例示で
あって,赤や青に着色することに特別な技術的意義があるとは解されない。
したがって,訂正前明細書の段落【0025】の ,「各シンボルは上記実施形態
と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印
刷されて描かれている」との記載を,審決のとおり解釈したとしても,各シンボル
を光透過性有色インキで印刷する際には,各シンボルを多色の有色インキで色分け
して印刷し,特に,複数種類の特定シンボルを異なった色に着色することが通常で
あることにかんがみれば,上記段落【0025】においても,各シンボルを多色の
有色インキで色分けして印刷し,特に,複数種類の特定シンボルを異なった色に着
色することが実質的に記載されていると解するのが相当である。
イ 審決は,訂正前明細書(甲13)の段落【0018】及び同【0022】
の記載によれば ,「特定図柄に相当するセブンおよびウルフの図柄領域だけが,光
源の光を透過可能であり,他の領域は遮光されるのだから,リール背後の光源から
の光を透過可能な領域を異なる色に着色することに技術的意義があるのであって,
透過不可能な領域を異なる色に着色することが記載されていないことは理の当然で
ある。そうである以上,…『特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種
類ごとに異なる色に着色』は導かれない 。 (7頁2行∼10行)とする。
」
しかし,上記アに記載したように,スロットマシンの回転リールユニットには,
各種のシンボルが多色の有色インキで色分けされて印刷されていることは周知の事
項であり,リール背後の光源からの透過光によりシンボルを照らさなくても,リー
ル表面からの外光の反射光によりシンボルを視認できるから,色分けすることには
意味がある。
この点,訂正前明細書(甲13)の段落【0016】∼【0022】に記載され
た参考例においては,セブンは赤色発光し,ウルフは青色発光するから,両シンボ
ルを区別して並べることができるが,このことは,他のシンボルの形状や色が全く
視認できないということを意味するのではなく,両シンボルが半透明になっている
から,リール背後の光源からの透過光により照らされる結果,他のシンボルよりも
はるかに明るくなって,形状や色を視認しやすくなるということを意味しているの
である。
したがって,訂正前明細書(甲13)の段落【0016】∼【0022】に記載
された参考例において,特定図柄領域以外の領域は遮光されていても,各シンボル
が多色に着色されていると解釈することに何ら差し支えはなく,同明細書の段落
【0023】∼【0031】に記載された実施例において ,「特定図柄の半透明に
形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色」されていることは,訂
正前明細書の記載から自明な事項である。
ウ 審決は ,「異なる図柄を異なる色に着色することが周知であることは事実と
して認めることができるものの,図柄自体の属性として異なる色であるべき場合に
異なる色に着色することが周知であるにとどまり,図柄自体の属性とは関係なく,
『特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色さ
れる』ことまでが自明であると認めることはできない 。 (7頁23行∼28行)
」
とする。
しかし,周知技術を勘案しても,特定図柄の種類が異なれば,図柄自体の特性と
して異なる色であるべきといえるのであるから ,「特定図柄の半透明に形成された
部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色される」ことは,訂正前明細書の記
載から自明であるといえる。すなわち,訂正前明細書の記載から,複数種類の特定
シンボルを異なった色に着色するという周知技術があるにもかかわらず,特定シン
ボルを種類が異なっても同じ色に着色することしか記載されていないと認定すべき
根拠はない。
3 取消事由3(本件訂正発明の独立特許要件に関する判断の誤り)
審決は,相違点1及び相違点2の判断を誤り,その結果,本件訂正発明の独立特
許要件に関する判断を誤ったものである。
(1) 相違点1の判断の誤り
ア 引用例2(実願昭60−175597号(実開昭62−84485号)のマ
イクロフィルム〔甲3〕)について
審決が,引用例2(甲3)について ,「第5図(2)からは縦線状のマーク16
が,3つの絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)部分と重複していることが読み取れ
る 。 (11頁4行∼5行)としたのは正確ではなく,相違点1を判断する前提と
」
しての認定としては誤りである。
すなわち,第5図(2)は,タイミング付与手段としての縦線状のマークを,特
定絵柄以外の位置の周面中央部に一連に付することを図示したものであり,特定絵
柄に連続した3つの絵柄が存在するので,その3つの絵柄にマークが付されている
にすぎず,目印を付する位置としては,引用例1(甲1)が,特定のシンボルマー
クの近傍,上,左右に目印としての投光窓を設けていることと同じ範疇のものであ
る。
イ 引用例3(特開平4−108468号公報〔甲2 〕)について
引用例3(甲2)において,絵柄の略中央部に光透過部を設けているのは,絵柄
を照明する際に絵柄の中央部から透過光を照射して照明効果を高めるためであり,
すべての絵柄に光透過部を設けているから,特定絵柄を目押しする際には全く機能
せず,各絵柄が停止した後の,入賞ラインや入賞絵柄の視認性を高めるとの機能し
かない。すなわち,特定図柄を目押しすることを課題とする引用発明に対し,図柄
の目押しの課題を有さず,目押しの機能を発揮し得ない引用例3(甲2)に記載さ
れた技術的事項を適用する動機付けは全く存在しない。
(2) 相違点2の判断の誤り
ア 本件訂正発明は,従来の遊技機の回転リールユニットが,複数種類の特定シ
ンボルの通過を遊技者に識別させることができなかったとの課題を解決するために,
特定図柄の一部分に形成された半透明部分を,特定図柄の種類ごとに右方又は左方
に配したものである。しかるに,引用例4(甲4)では,コンドルを目押しする方
法として,リール帯自体に何らかの加工をするのではなく,コンドルの図柄の黒い
色や右側にはみ出た羽根の形が,他の図柄とは異なる特殊形状であることを利用す
ることを記載しているにすぎない。すなわち,引用例4には,目押しを容易とする
ために,特定図柄に何らかの目印を付することは記載されておらず,2つの特定図
柄を区別するために,目印を左右方向の異なった位置に付することの記載も示唆も
されていない。
イ 特開平7−141472号公報(甲22 ),特開平5−81290号公報
(甲23 ),特開昭64−26925号公報(甲24 ),特開平8−178198
号公報(甲25 ),特開平4−43358号公報(甲26 ),特開昭62−680
34号公報(甲27 ),特公平7−56726号公報(甲28)には,回転する2
つの特定図柄を区別して目押しするために,特定図柄の種類ごとに半透明部分を特
定図柄の一部の右方又は左方に配することや,2つの物を視認して区別するために
左右の異なる位置に目印を付することは記載されていない。すなわち,これらの周
知例には,相違点2に関して,引用発明に適用すべき技術的事項が記載されていな
い。
(3) 相違点1と相違点2との関連についての判断の欠如
相違点1と相違点2とは相互に関連したものであり,個別に判断するだけでは足
りず,両相違点を同時に採用することが容易か否かも判断すべきである。
ア 本件訂正発明は,複数種類の特定シンボルの通過を遊技者に識別させること
はできなかったとの課題を解決するために,第1の種類及び第2の種類の2つの特
定図柄の一部分を半透明に形成し,半透明形成部分を特定図柄の種類ごとにリール
帯の右方又は左方に配したものであり,特定図柄が種類ごとに異なる色に着色され
ているのは従来のものと同様である。そして,これにより,リールドラムが回転す
ると,異なる種類の特定図柄は,リールドラムの回転方向に直交する方向において
異なる位置で発光し,遊技者は発光部の通過位置の相違から特定図柄の種類を識別
することができるのであるから,相違点1と相違点2とが相互に関連していること
は明らかである。
イ 本件訂正発明は,相違点1及び相違点2の構成を同時に備えることにより,
初心者であっても,2つの特定図柄の目押しが容易にできるという顕著な作用効果
を奏する。すなわち,各図柄は異なる色彩により着色されているが,回転リールは
1分間に80回転で高速回転しているから,特定図柄を目押ししようとしても,各
図柄が混ざって見え,色も混色して判別できなくなる。ところが,2つの種類の特
定図柄の左右方向の異なる位置に半透明部分を形成して背後から照明すると,回転
リールが高速回転しているにもかかわらず,2つの種類の特定図柄は,左右方向の
異なる位置で,半透明部分及びこれに近い部分が照明されて,それぞれの図柄の色
が鮮やかに浮かび上がるため,2つの種類の特定図柄の色を明確に区別して目押し
するタイミングを把握することができるのである。これは,特定図柄の一部分を半
透明に形成することと,異なる色に着色された特定図柄の左右方向の異なる位置を
半透明に形成することによる相乗効果といえる。
ウ これに対して,引用発明は,1つの種類の特定図柄の位置に関連して,特定
図柄以外の部分に単に光透過部(背後からの照明を透過させる穴)を形成するもの
にすぎず,特定図柄の一部分を半透明に形成するものではなく,また,特定図柄を
区別して識別するために,左右方向の異なる位置を半透明に形成するものでもない。
すなわち,引用発明には,2つの種類の特定図柄を区別して目押しすることを容易
にしようとする技術思想は開示ないし示唆されていないから,相違点1及び相違点
2の構成を同時に備えることの動機付けはない。
エ 以上のように,相違点1と相違点2とは相互に関連したものであり,引用発
明に相違点1及び相違点2の構成を同時に備えることの動機付けはないから,引用
発明に両相違点を同時に採用することは,当業者といえども容易ではない。
第4 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(訂正目的に関する判断の誤り)に対し
(1) 訂正事項1は ,「回転リールユニット」を直接的に限定するものではなく,
「回転リールユニット」が用いられる対象であるスロットマシンを限定するもので
あって,形式的には「回転リールユニット」の用途を限定するものといえる。しか
し,「スロットマシン」が「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転
を開始し,ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロ
ットマシン」であるのか,それ以外のスロットマシンであるのかは ,「回転リール
ユニット」自体を何ら特定するものではない。そして,このように「回転リールユ
ニット」を特定するものでない訂正が,そもそも「特許請求の範囲の減縮」を目的
とするものに該当するものとはいえない。
(2) 訂正目的である「特許請求の範囲の減縮」は,形式的に特許請求の範囲の
減縮に該当すればよいというのではなく,減縮後の特許請求の範囲自体が明確であ
るとともに,特許権の効力である特許発明の技術的範囲がどのように減縮されるか
も明確であることが前提である。しかるに,上記(1)に述べたとおり,訂正事項1
により「回転リールユニット」を特定することは困難であり,同訂正により,訂正
後の請求項2に係る発明はかえって不明確となったといわざるを得ず,特許発明の
技術的範囲がどのように減縮されるかも明確でない。そうすると,訂正事項1が特
許請求の範囲の減縮に該当するか否かの判断すらできず,このような訂正は ,「特
許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するものとはいえない。
2 取消事由2(新規事項追加に関する判断の誤り)に対し
(1) 請求項に係る発明は,請求項の記載のみによって解釈するのが原則である
ところ,本件訂正後の請求項2には ,「種類ごとに異なる色に着色される」部分と
「遮光性が付された」部分は ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分」
として同一部分であるように記載されており,記載内容は明確である。そうすると,
本件訂正発明は,図柄以外の部分に遮光性が付されない「回転リールユニット」を
含むものとなる。
(2) 原告は,訂正前明細書(甲13)の段落【0025 】,同【0028】の
記載を指摘するが,これらはいずれも【発明の実施の形態】についてのものにすぎ
ないところ,訂正後の請求項2の記載は不明確ではないから,上記段落の記載は,
本件訂正発明を解釈するに当たり参酌すべきでない。そうすると ,「特定図柄の半
透明に形成された部分以外の部分」を,特定図柄の半透明部分以外の全領域と解釈
すべきであるとの原告の主張は誤りである。
(3) 訂正前明細書(甲13)の段落【0018】記載の実施形態は,本件訂正
前の請求項1,2に係る発明とは無関係であり,この記載があるからといって,本
件訂正前の請求項1,2に係る発明において訂正事項2が記載されていたというこ
とはできない。すなわち,同段落【0025】の「各シンボルは上記実施形態と同
様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷さ
れて描かれている」という記載は「リール帯31を形成する透明フィルム材の裏面
に光透過性有色インキが印刷されて描かれている」点が,上記段落【0025】記
載の実施形態と「上記実施形態 」(段落【0018】記載の実施形態)で共通する
ことをいうにとどまり,インク色までも「同様」としていると認めることはできな
い。さらに,これら2つの実施形態を併用することが記載されていないことは,上
記各実施形態の続きとして,それぞれ「遊技者はこの発光色の相違から特定シンボ
ルの種類を識別することが出来 」(段落【0022 】)及び「遊技者はこの発光位
置の相違から特定シンボルの種類を識別することが出来 」(段落【0031 】)と
あるように,特定シンボルの種類を識別する手段として,2つの異なる手段が異な
る実施形態として記載されていることからも明らかである。
(4) 原告は,各種のシンボルが多色の有色インキで色分けされて印刷されるこ
とは周知の事項であると主張する。しかし ,「異なる図柄を異なる色に着色するこ
と」が周知であることは事実として認めることができるものの,図柄自体の属性と
して異なる色であるべき場合に異なる色に着色することが周知であるにとどまり,
図柄自体の属性とは関係なく ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,
種類ごとに異なる色に着色される」ことまでが自明であるということはできない。
(5) 原告は,特定図柄の種類が異なれば,図柄自体の特性として異なる色であ
るべきといえると主張するが,例えば ,「赤7」と「赤いチェリー 」 「青7」と
,
「青いジャック」など特定図柄の種類が異なっていても,同じ色になることはあり
得るので,原告の上記主張は,その前提において誤っている。
3 取消事由3(本件訂正発明の独立特許要件に関する判断の誤り)に対し
(1) 相違点1の判断の誤りに対し
ア 審決が,引用例2(甲3)に示されていると認定した技術事項は ,「縦線状
のマーク16が,3つの絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)部分と重複している」
ことである。それは,引用例2(甲3)の図面,特に「タイミング付与手段の実施
例を示す説明図」第5図(2)に ,「タイミング付与手段」となる「縦線状のマー
ク16」が3つの絵柄部分と重複していることが明らかに示されていることによる
ものである。したがって,審決が ,「第5図(2)からは縦線状のマーク16が,
3つの絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)部分と重複していることが読み取れる」
と認定したことに誤りはない。
イ 審決は,①引用発明は,半透明部分を,その視認性低下を避けるべく,黒等
に着色してマスクした背景中に配している,②図柄は,通常白地に対して着色され
て形成されるものであるから,図柄には着色部分がある,③引用例2(甲3)から,
タイミング付与手段(引用発明の「半透明部分 」)と図柄が重複することが読み取
れる,④引用例3(甲2)には,絵柄の一部分を光透過性にする構成が記載されて
いる,との認定判断を行った上で ,「引用発明を出発点として,白地に対して着色
処理によりシンボルマークを形成するとの通常の処理を維持し,半透明部分の視認
性を確保するために着色部である図柄それ自体の一部分を半透明部分とすること,
すなわち相違点1に係る訂正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易
である。 (11頁21行∼25行)とした。
」
上記①に誤りがないことは,引用例1(甲1)の記載から明らかである。なお,
背景を黒等に着色することの技術的意義が引用例1(甲1)に明確に記載されてい
るわけではないが,審決で述べたとおり,背景が白地であったのでは,リール回転
中に半透明部分を認識することが困難,すなわち,半透明部分からの光の視認性が
低下することは明らかであり,またそのことが明らかであるからこそ,引用例1
(甲1)に記載されていないと解すべきである。上記②については,スロットマシ
ンの分野において一般的な事項である。上記③については,上記アで述べたとおり
であり,上記④については,引用例3(甲2)の【請求項1】の記載から明らかで
ある。なお,引用例3(甲2)は,絵柄の一部分を光透過性とするという,本件訂
正発明と一致する構成が記載されているとして示したものであり,原告の主張のよ
うに,動機付けの観点で引用したものではない。
以上によれば,相違点1に係る半透明部分と特定図柄の位置関係について,半透
明部分を図柄自体に重複させることが容認され,また,特定図柄自体に光透過部を
形成する構成が排除されないばかりか,白地に形成した図柄の着色部分自体に半透
明部分を配することが,引用発明における視認性の向上という技術的意義にも相応
するのであるから ,「引用発明を出発点として,白地に対して着色処理によりシン
ボルマークを形成するとの通常の処理を維持し,半透明部分の視認性を確保するた
めに着色部である図柄それ自体の一部分を半透明部分とすること,すなわち相違点
1に係る訂正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である 。」とし
た審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点2の判断の誤りに対し
ア 原告は,引用例4(甲4)には,相違点2に関して,引用発明に適用すべき
技術的事項は記載されていないと主張する。しかし,甲4は,コンドルの羽根の形
が右側にはみ出ていることに着目し,それが目押しのポイントとなることを記載し
たものであり,特定図柄の右側又は左側における特有の部分を目押しの目安として
利用できることを示すものといえる。一方,引用発明は,積極的に,目押しの目安
として半透明に形成した部分を特定図柄に関係して付すものであり,2種類の特定
図柄を区別する場合に,この目安を配する位置について,甲4を参酌し,相違点2
に係る「第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄は,その一部分をそれぞれ半
透明に形成され,その半透明に形成した部分を,前記リールドラムの回転方向に直
交する方向において,前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配さ
れ」との構成に想到することに困難性はない。
イ 原告は,甲22∼28に記載の各技術は,相違点2に関して,引用発明に適
用すべき技術的事項ではないと主張するが,いずれも,区別手法として,あるもの
を類似の他のものと区別又は識別するために,位置の相違を用いることの周知技術
の例として妥当なものである。
(3) 相違点1及び相違点2の関連についての判断の欠如に対し
相違点1及び相違点2は,いずれも「半透明に形成した部分」と「特定図柄」と
の関係ではあるものの,前者は ,「半透明に形成した部分」が「特定図柄」の一部
分かどうかという位置関係についての相違点であり,後者は「半透明に形成した部
分」と「特定図柄」種類の関係について,具体的には「種類ごとにリール帯の右方
又は左方に配され」及び「種類ごとに異なる色に着色」されるかという相違点であ
り,それぞれ異なる技術的観点に係るものであるから,各相違点ごとに個別にその
容易想到性を判断することが可能かつ相当であり,両相違点を同時に採用すること
の容易性を勘案しないと適切な判断ができないとする理由はない。そして,審決は,
各相違点を総合的に判断して,その作用効果についても検討した上,当業者が容易
に発明をすることができたと結論したものであり,審決の認定判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 訂正前明細書(甲13)には,次の記載がある。
(1) 発明の属する技術分野
「本発明はスロットマシンや弾球遊技機といった遊技機に用いられる回転リール
ユニットに関するものである 。 (段落【0001】
」 )
(2) 従来の技術
「回転リールユニット11はリールドラム12の外周にリール帯13が張り付け
られて構成されている。このリール帯13の周囲には図示しない種々の図柄(シン
ボル)が描かれている。これらシンボルは,各リールドラム12の内部に設けられ
た図5(b)に示すバックランプ14によって背後から映し出され,スロットマシ
ン1の各窓2から観察される。バックランプ14はリールドラム12の内部に固定
される基板18に3個取り付けられている。投入口3にメダルが投入されてスター
トレバー4が操作されると,ブラケット15に取り付けられたモータ16が駆動さ
れ,各リールドラム12が回転する。従って,各窓2には高速に移動するシンボル
が観察される 。 (段落【0003】
」 )
「このようなストップスイッチ5の操作タイミングは熟練者でないと判別がつか
ず,初心者は高速で回転する各シンボルの相違を識別することが困難である。従っ
て,従来,ストップスイッチ5の操作タイミングを初心者に教える様々な手段が提
案されている 。 (段落【0005】
」 )
(3) 発明が解決しようとする課題
「しかしながら,上記従来のいずれの遊技機の回転リールユニットにおいても,
内部光や蛍光物質によって識別させることの出来る特定シンボルは1種類である。
従って,上記従来のいずれの遊技機の回転リールユニットによっても,リール帯の
円周方向に描かれた複数種類の特定シンボルの通過を遊技者に識別させることは出
来なかった。 (段落【0009 】
」 )
(4) 課題を解決するための手段
「本発明はこのような課題を解決するためになされたもので,上記リール帯は,
異なる種類の複数の特定図柄の一部分が,それぞれ透明または半透明に形成され,
かつ,リールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置に配されている
ことを特徴とするものである 。 (段落【0013】
」 )
「本構成においては,リールドラムが回転すると,異なる種類の特定図柄は,リ
ールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置で発光する。従って,遊
技者は発光部の通過位置の相違から特定図柄の種類を識別することが出来る 。」
(段落【0014】)
(5) 発明の実施の形態
「リール帯21は円筒状をしたリールドラム12の外周に沿って曲げられ,その
外周面に貼られている。リール帯21の表面には種々のシンボルが描かれており,
本実施形態ではそのうちのセブン22およびウルフ23を特定シンボルとしている。
すなわち,本実施形態ではこれらセブン22およびウルフ23の異種シンボルの識
別を容易化する。 (段落【0017】
」 )
「リール帯21は透明フィルム材からなり,各シンボルはこの透明フィルム材の
裏面に光透過性有色インキで印刷されて描かれている。この際,リール帯21上の
各セブン22の図柄部分はそれぞれ光透過性赤色インキで着色され,各ウルフ23
の図柄部分はそれぞれ光透過性青色インキで着色されている。リール帯21はこの
光透過性有色インキによる各シンボルの印刷後,光透過性白色インキで背景が印刷
される。最後に,セブン22およびウルフ23の図柄領域を除き,遮光性銀色イン
キが印刷されてマスク処理が施されている。 (段落【0018】
」 )
「このような過程を経て,図1(a)に示すリール帯21が得られている。すな
わちリール帯21は,セブン22およびウルフ23の異なる2つの特定シンボルの
図柄部分だけが,それぞれ半透明に形成され,かつ,それぞれ異なる色に着色され
ている。なお,セブン22の図柄領域に付された格子は赤色を表し,ウルフ23の
図柄領域に付された斜線は青色を表している。また,光透過性白色インキによる背
景印刷をセブン22,ウルフ23の特定図柄領域を除く領域に対して行い,セブン
22,ウルフ23の特定図柄領域を半透明ではなく,透明に形成しても良い 。」
(段落【0019】)
「このような構成において,モータ16が駆動されてリールドラム12が回転す
ると,リールドラム12の外周に貼られたリール帯21も回転する。リールドラム
12の内部に設けられた基板18に取り付けられたバックランプ14は,常時点灯
している。このため,リール帯21が回転してセブン22のシンボルがバックラン
プ14の照射部前部を通過すると,セブン22はバックランプ14の出射光を背後
に浴びて赤色に発光する。また,ウルフ23のシンボルがバックランプ14の照射
部前部を通過すると,ウルフ23はバックランプ14の出射光を背後に浴びて青色
に発光する。 (段落【0020 】
」 )
「これらセブン22の赤色発光やウルフ23の青色発光はスロットマシン1の窓
2から観察される。従って,窓2から観察される赤色の発光により,セブン22の
シンボルが窓2を通過するタイミングを判別することが出来,また,窓2から観察
される青色の発光により,ウルフ23のシンボルが窓2を通過するタイミングを判
別することが出来る 。 (段落【0021】
」 )
「本実施形態のリール帯31では,セブン32およびウルフ33の2つの各特定
シンボルの図柄の一部分に,それぞれ円形の半透明部分32aおよび33aが形成
されている。つまり,セブン32のシンボルでは,図2(a)の拡大図に示すよう
に,ウルフの足跡部分に円形半透明部分32aが形成されている。また,ウルフ3
3のシンボルでは,図2(b)の拡大図に示すように,目の部分に円形半透明部分
33aが形成されている 。 (段落【0024】
」 )
「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の
裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれているが,各半透明部分32aおよ
び33aにはこの有色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキに
よる背景印刷は全面に対して行われ,最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は
各半透明部分32aおよび33aを除く領域に対して行われている 。 (段落【0
」
025】)
「セブン32のシンボルに形成された半透明部分32aと,ウルフ33のシンボ
ルに形成された半透明部分33aとは,リールドラム12の回転方向に直交する方
向,つまりリール帯31の幅方向において異なる位置に配されている。すなわち,
セブン32のシンボルではこの幅方向の右方に半透明部分32aが位置しており,
ウルフ33のシンボルではこの幅方向の左方に半透明部分33aが位置してい
る。 (段落【0027 】
」 )
「このような本実施形態において,リールドラム12が回転するとリールドラム
12の外周に貼られたリール帯31が回転し,各半透明部分32a,33aも回転
する。本実施形態においても,リールドラム12の内部に設けられたバックランプ
14は常時点灯しているため,リール帯31が回転して各半透明部分32a,33
aがバックランプ14の照射部前部を通過すると,各半透明部分32a,33aか
らバックランプ14の出射光が漏れ,各半透明部分32a,33aは発光する 。」
(段落【0028】)
「これら各半透明部分32a,33aの発光はスロットマシン1の窓2から観察
される。この際,セブン32のシンボルに形成された半透明部分32aはリール帯
31の幅方向の右側に観察され,ウルフ33のシンボルに形成された半透明部分3
3aはリール帯31の幅方向の左側に観察される。 (段落【0029】
」 )
「すなわち,窓2の右方に観察される半透明部分32aの発光により,セブン3
2のシンボルが窓2を通過するタイミングを判別することが出来,また,窓2の左
方に観察される半透明部分33aの発光により,ウルフ33のシンボルが窓2を通
過するタイミングを判別することが出来る。 (段落【0030】
」 )
(6) 発明の効果
「以上説明したように本発明によれば,リールドラムが回転すると,異なる種類
の特定図柄は,リールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置で発光
する。従って,遊技者は,発光部の通過位置の相違から特定図柄の種類を識別する
ことが出来る 。 (段落【0033】
」 )
「このため,初心者であっても容易に高速に移動する特定図柄の識別を行うこと
が可能となり,初心者であっても遊技機の持つ興趣を十分堪能することが可能とな
る。 (段落【0034 】
」 )
2 取消事由2(新規事項追加に関する判断の誤り)について
本件事案にかんがみ,まず ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,
種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正
事項2)が新規事項の追加に当たるかについて判断する。
(1) まず,特許法126条3項にいう「願書に添付した明細書,特許請求の範
囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」との文言について ,「明細書,特
許請求の範囲又は図面…に記載した事項」とは,当業者によって,明細書,特許請
求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,
訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を
導入しないものであるときは,当該訂正は ,「明細書,特許請求の範囲又は図面…
に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
もっとも,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項は,通常,当該明
細書,特許請求の範囲又は図面によって開示された技術的思想に関するものである
から,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加
する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書,特許請求の範囲
又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場
合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しな
いものであると認められ ,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の
範囲内において」するものであるということができる。
(2) そこで本件訂正(訂正事項2)について見ると,そもそも訂正事項2は,
異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,
「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色さ
れると共に,遮光性が付された」との構成を採用しようとするものである。しかる
に,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)を精査しても ,「種類ごと
に異なる色に着色」することが,半透明部分を形成することと関連して,どのよう
な技術的意義を有するかについて当業者が読み取ることができる記載部分が存在す
るとは認められず,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総
合しても ,「種類ごとに異なる色に着色」することが,半透明部分を形成すること
と関連して,どのような技術的意義を有するかについて当業者が導くことができる
とは認められない。この点,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】には,
「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏
面に光透過性有色インキが印刷されて描かれているが,各半透明部分32aおよび
33aにはこの有色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキによ
る背景印刷は全面に対して行われ,最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は各
半透明部分32aおよび33aを除く領域に対して行われている 。」との記載があ
るが,これも,各シンボルがリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透
過性有色インキが印刷されて描かれていることを示すものにすぎない。
したがって,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総合し
ても,当業者が,本件訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に
半透明部分を形成するという構成において ,「種類ごとに異なる色に着色」すると
いう構成を採用することの技術的意義について導くことができるとはいえず,本件
訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成する
という構成において ,「種類ごとに異なる色に着色」するという構成を採用するこ
との技術的意義は不明というほかない。そうすると,たとえ属性ごとに各図柄を色
で塗り分けること自体は周知の事項であるとしても,そのような技術的意義が不明
である構成を新たに導入することについてまで,同様に周知の事項であるというこ
とはできない。
以上によれば ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに
異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正事項2)は,
「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するもの
ということはできず,新規事項の追加に当たるといわなければならない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】と段落【0018】と
の記載を比較検討すれば,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】には ,「特
定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色され
る」ことが記載されていたと解される,と主張する。
しかし,訂正前明細書(甲13)の段落【0018】に,セブン22の図柄部分
が赤色インキで,ウルフ23の図柄部分が青色インキで着色されていることの記載
があったとしても,このような段落【0018】は,異なる種類の複数の特定図柄
それ自体の一部分が半透明に形成された構成を有する実施例の記載ではなく,セブ
ン22及びウルフ23の図柄領域を光透過性とし,これらの領域を除き遮光性銀色
インキが印刷されてマスク処理が施されているという,発光する部分において大き
く異なる構成を有する参考例の記載にすぎない。そうすると,両者の共通性を根拠
に,異なる種類の複数の特定図柄それ自体の一部分が半透明に形成された構成を有
する実施例の記載である段落【0025】からも「特定図柄の半透明に形成された
部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色される」旨の記載が導かれるという
ことはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,スロットマシンの回転リールユニットに,各種のシンボルが多色の
有色インキで色分けされて印刷されていることや,複数種類の特定シンボルを赤や
青に着色することは周知の事項であるから,訂正前明細書(甲13)の段落【00
25】においても,各シンボルを多色の有色インキで色分けして印刷し,特に,複
数種類の特定シンボルを異なった色に着色することが実質的に記載されていると主
張する。
しかし,前記(2)に説示したように,本件訂正発明のように,異なる種類の複数
の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において ,「種類ごとに異
なる色に着色」するという構成を採用することの技術的意義は不明というほかない
のであって,たとえ属性ごとに各図柄を色で塗り分けること自体は周知の事項であ
るとしても,そのような技術的意義が不明である構成を導入することについてまで,
同様に周知の事項であるということはできないから,訂正前明細書(甲13)の段
落【0025】において,各シンボルを多色の有色インキで色分けして印刷し,特
に,複数種類の特定シンボルを異なった色に着色することが実質的に記載されてい
るということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は,訂正前明細書(甲13)の段落【0016】∼【0022】に記
載された参考例においては,セブンは赤色発光し,ウルフは青色発光するから,両
シンボルを区別して並べることができるが,このことは,他のシンボルの形状や色
が全く視認できないということを意味するのではなく,両シンボルが半透明になっ
ているから,リール背後の光源からの透過光により照らされる結果,他のシンボル
よりもはるかに明るくなって,形状や色を視認しやすくなるということを意味して
いる,したがって,訂正前明細書(甲13)の段落【0016】∼【0022】に
記載された参考例において,特定図柄領域以外の領域は遮光されていても,各シン
ボルが多色に着色されていると解釈することに何ら差し支えはなく,同明細書の段
落【0023】∼【0031】に記載された実施例において ,「特定図柄の半透明
に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色」されていることは,
訂正前明細書(甲13)の記載から自明な事項であると主張する。
しかし,上記参考例においては,遮光されていない半透明の特定図柄領域が発光
し,同領域及びそれに近い部分が照明されることによって,特定図柄領域以外の部
分も照明されることになるのに対し,上記実施例においては,特定図柄領域の一部
分である遮光されていない半透明部分が発光し,同半透明部分及びそれに近い部分
が照明されることによって,同半透明部分以外の部分も照明されることとなるもの
である。そうすると,両者は,遮光されていない半透明の部分が発光すること自体
においては共通するものの,透過光により直接発光する半透明の部分が相違してい
るため,遮光部分のうち透過光により照明される部分が異なり,照明されて色が浮
かび上がる部分も異なることになる。そうすると,両者は,目押しをする際の機能
において差があるといわざるを得ず,その技術的意義は異なるというべきであるか
ら,上記参考例における解釈を根拠に,これと技術的意義が異なる上記実施例にお
いて ,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に
着色」されていることを自明な事項であるということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は,周知技術を勘案しても,特定図柄の種類が異なれば,図柄自体の特
性として異なる色であるべきといえるのであるから ,「特定図柄の半透明に形成さ
れた部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色される」ことは,訂正前明細書
(甲13)の記載から自明であると主張するが,上記イの説示に照らし,原告の同
主張は失当である。
(4) よって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2は,理由が
ない。
3 結語
以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由がないから,本件訂正はその要件を
欠くことになり,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理
由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
本 多 知 成
裁判官
田 中 孝 一
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