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平成20(行ケ)10004審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年12月25日
事件種別 民事
当事者 被告Y
原告アルゼ株式会社
対象物 遊技機の回転リールユニット
法令 特許権
特許法150条5項4回
特許法150条1項2回
特許法29条2項2回
特許法134条の32回
特許法181条1回
キーワード 審決70回
進歩性13回
無効9回
訂正審判2回
無効審判2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,平成9年4月18日,名称を「遊技機の回転リールユニット」 とする発明につき特許の出願をし,平成16年3月26日その設定登録を受けたと ころ,これに対し被告が無効審判請求をしたので,特許庁がこの請求を無効200 4−80262号事件として審理し,特許を無効とする旨の審決をしたことから, 原告がその取消しを求めた事案である。

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判決文

平成20年12月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10004号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年11月6日
判 決
原 告 ア ル ゼ 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 田 中 康 久
同 中 込 秀 樹
同 岩 渕 正 紀
同 岩 渕 正 樹
同 松 永 暁 太
同 長 沢 幸 男
同 長 沢 美 智 子
同 今 井 博 紀
訴訟代理人弁理士 正 林 真 之
同 井 口 嘉 和
同 八 木 澤 史 彦
同 小 野 寺 隆
同 佐 藤 玲 太 郎
同 佐 藤 武 史
同 清 水 俊 介
同 進 藤 利 哉
同 小 椋 崇 吉
被 告 Y
訴訟代理人弁理士 黒 田 博 道
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2004−80262号事件について平成19年11月27日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,平成9年4月18日,名称を「遊技機の回転リールユニット」
とする発明につき特許の出願をし,平成16年3月26日その設定登録を受けたと
ころ,これに対し被告が無効審判請求をしたので,特許庁がこの請求を無効200
4−80262号事件として審理し,特許を無効とする旨の審決をしたことから,
原告がその取消しを求めた事案である。
争点は,特開平7−100241号公報(発明の名称「スロットマシン 」,出願
人 株式会社オリンピア,公開日 平成7年4月18日,甲2。以下,この発明を
「甲2発明」という 。)との関係における進歩性の有無(特許法29条2項)であ
る。
1 特許庁等における手続の経緯
原告は,平成9年4月18日,発明の名称を「遊技機の回転リールユニット」と
する特許出願をし,平成16年3月26日,特許第3537630号として設定登
録を受けた(特許公報は甲13)。
これに対し,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁は,同請求を無効200
4−80262号事件として審理し,平成18年3月7日,特許を無効とする旨の
審決をしたが,これに不服の原告は,審決取消訴訟を提起し,平成18年7月7日,
訂正審判請求を行った(後に,特許法134条の3第4項の規定によりみなし取下
げ)。そして,知的財産高等裁判所は,平成18年8月25日,特許法181条2
項により上記審決を取り消す旨の決定をしたので,特許庁において,上記無効20
04−80262号事件の審理が再び続けられることとなった。
その中で原告は,平成18年10月16日,訂正請求を行った(甲19。特許法
134条の3第3項の規定により,上記訂正審判請求事件の訂正明細書〔甲20〕
を援用。なお,同訂正請求に係る訂正請求書〔甲19 〕,全文訂正明細書〔甲2
0〕については,平成19年10月31日付けで手続補正がされた〔甲32,3
3〕)が,特許庁は,平成19年11月27日 ,「訂正を認める。特許第3537
630号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,
その謄本は平成19年12月7日原告に送達された。
2 特許請求の範囲
上記訂正後の特許請求の範囲は,前記のとおり請求項1,2から成るが,その発
明の内容は次のとおりである(以下,それぞれ「本件発明1 」 「本件発明2」と

いう。訂正明細書〔甲13,33〕 。

【請求項1】上下方向に回転可能な円筒状をしたリールドラムと,このリールドラ
ムの外周に設けられる,種々の図柄が描かれたリール帯と,これら図柄を背後から
照らす光源とを備えて構成される遊技機の回転リールユニットにおいて,前記リー
ル帯は,異なる種類の複数の特定図柄それ自体の一部分が,それぞれ半透明に形成
され,かつ,前記リールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置に配
され,当該異なる位置がリール帯の幅方向の右方及び左方であることを特徴とする
遊技機の回転リ一ルユニット。
【請求項2】前記遊技機はスロットマシンまたは弾球遊技機であることを特徴とす
る請求項1記載の遊技機の回転リールユニット。
3 審決の内容
(1) 審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件発
明1,2は甲2発明,甲4(特開平4−108468号公報 ),甲6(実願昭60
−175597号〔実開昭62−84485号〕のマイクロフィルム ) 甲9

( 必勝パチスロファン」平成7年10月号抜粋,株式会社日本文芸社)に基づい

て当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受
けることができない,というものである。
(2) なお,審決が認定した甲2発明の内容,本件発明1との一致点,相違点は ,
次のとおりである。
<甲2発明の内容>
「3個の回転リールを横方向に並列し,各回転リールをそれぞれ回転する3個のリ
ールモータを備えたスロットマシンのリールユニットであって,各回転リールは回
転ドラムとその外周に貼着される帯状のリールテープから構成され,リールテープ
の表面は,複数のシンボルマークが所定間隔で表示されており,
少なくとも1個の回転リールには,その複数のシンボルマークのうち少なくとも
1個のシンボルマークの位置に関して,黒等に着色してマスクした背景中に半透明
部分を配し,回転ドラムの内部には,リールテープの前記半透明部分を照明する発
光源としてのランプを配置したリールユニット。」
<一致点>
「上下方向に円筒状をしたリールドラムと,このリールドラムの外周に設けられる,
種々の図柄が描かれたリール帯と,これら図柄を背後から照らす光源とを備えて構
成される遊技機の回転リールユニットにおいて,
前記リール帯は,特定図柄の位置に関係して,半透明に形成された一部分を配し
た遊技機の回転リ一ルユニット。」である点
<相違点1>
半透明に形成された一部分と特定図柄の位置関係について,本件発明1では,
「特定図柄それ自体の一部分」としているのに対し,甲2発明にはその特定がない
点。
<相違点2>
半透明に形成された一部分と特定図柄種類の関係につき,本件発明1では「異な
る種類の複数の特定図柄」に関係して「リールドラムの回転方向に直交する方向に
おいて異なる位置に配され,当該異なる位置がリール帯の幅方向の右方及び左方で
ある」のに対し,甲2発明ではそもそも「異なる種類の複数の特定図柄」に関係し
ているとはいえない点。
第3 原告主張の審決取消事由
審決には,以下に述べるとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべき
である。
1 取消事由1(特許法150条5項違反)
審決は,特開平7−141472号公報(甲35 ),特開平5−81290号公
報(甲36 ),特開昭64−26925号公報(甲37 ),特開平8−17819
8号公報(甲38 ),特開平4−43358号公報(甲39 ),特開昭62−68
034号公報(甲40 ),特公平7−56726号公報(甲41)を引用して,
「区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,位置の
相違を用いる」ことを「周知」であるとしている(16頁 )。これは,上記7件の
特許公報を証拠として職権で取り調べ(特許法150条1項 ),事実認定の基礎と
したものにほかならない。
このように,特許法150条1項の職権証拠調べが行われた以上,同条5項の意
見申立機会が付与されなければならず,この機会が付与されていない点で審決には
手続的瑕疵があり,この手続的瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼすものである。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
(1) 甲6(実願昭60−175597号(実開昭62−84485号)のマイ
クロフィルム)の認定の誤り
審決は ,「甲6には ,『第5図(2)は,…ドラム1aの周面中央部に縦線状のマー
ク16を一連に付することによって,…タイミング付与手段(審決注;本件発明1及
び甲2発明の『半透明に形成された一部分』もタイミング付与手段の1つであると
認める。)を形成した』…との記載があり,第5図(2)からは縦線状のマーク16が,
3つの絵柄(本件発明1の「図柄」に相当)部分と重複していることが読み取れ
る 。 (14頁30行∼35行)とするが,甲6の「タイミング付与手段と図柄が

重複すること」を,本件発明1の「特定図柄それ自体の一部分」と同様の構成とす
る認定は誤りである。
すなわち,甲6の「タイミング付与手段」と本件発明1の「特定図柄それ自体の
一部分」とでは,用いている技術手段が大きく違うから,全く異なった構成である。
まず,甲6では,マークを付すること,あるいは背景色,絵柄の大きさを変えるこ
とによって「タイミング付与手段」を形成しており,本件発明1のように図柄を背
後から照らす光源を利用するものではない。また,甲6には,本件発明1の「特定
図柄」に相当する「ボーナスゲームに関わる『7』の絵柄」と「タイミング付与手
段」とを重複させる技術について,何ら開示されていない。さらに,甲6の第5図
(2)に示された「タイミング付与手段」であるマーク等は,3つの絵柄にまたがっ
ており,明らかに図柄からはみ出すものであって,半透明に形成された部分を「特
定図柄それ自体の一部分」に設けた本件発明1とは異なっている。
(2) 甲4(特開平4−108468号公報)の認定の誤り
審決は ,「甲4には ,『絵柄を透した光透過部を形成すると共に,リールの内部
に表示窓に対応しかつ前記光透過部に対向した発光面を有する光源を配設した』
(【請求項1】)との記載がある。ここでいう光透過部は,特定の図柄を狙い易くす
るため,すなわちタイミング付与手段として設けられたものではないが,絵柄(本
件発明1の「図柄」に相当)の一部分を光透過部とする点では本件発明1と一致す
る構成が記載されている…」(14頁36行∼15頁3行)とするが,誤りである。
すなわち,甲4記載の技術は,その【請求項1】の記載にあるように,すべての
絵柄の略中心に小径の透孔を設けるものであり,本件発明1のように特定図柄に限
ってその一部分を半透明に形成する構成とは全く異なる。また,甲4記載の技術の
課題は ,「入賞時などにこのLEDを選択的に点灯,点滅させると,これによる装
飾効果によってゲームの盛上がりを一挙に高める 」(2頁右下欄16行∼19行)
という点であり,あくまでも,リールが停止した時点におけるシンボルの表示識別
性を向上させるという点である。一方,本件発明1の課題は,リール回転時におけ
る特定図柄(シンボル)の表示の識別性を高めることで,初心者であっても容易に
回転移動する特定図柄の識別を行うことを可能とする点である。このように,両者
はそれぞれの課題及び適用場面が全く異なり,絵柄の一部分を光透過部とする点を
もって一致点ということはできない。
(3) 相違点1の判断の誤り
審決は ,「甲2発明では,黒等に着色してマスクした背景中に半透明部分を配し
ている 。 (14頁24行∼25行 ) 「甲2発明を出発点として,白地に対して着
」 ,
色処理によりシンボルマークを形成するとの通常の処理を維持し,半透明部分の視
認性を確保するために着色部である図柄それ自体の一部分を半透明部分とすること,
すなわち相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容
易である 。 (15頁13行∼17行)とするが,誤りである。

まず,甲2発明において,背景は白地であると解される。なぜなら,甲2の段落
【0015】の記載は,背面を黒等に着色して遮光性を持たせることを記載してい
るのであり,表面を黒地にすることを記載しているものではないところ,甲43
(特開平6−254209号公報)からも分かるように,黒等に着色してマスクし
てもリールテープの表面は白色とすることができる上,図柄の背景が黒地に着色さ
れていることは通常考えられないからである。
また,上記(1),(2)のとおり,審決は,甲6及び甲4記載の各技術の認定を誤っ
ているので,想到容易性の判断の前提から誤っている。
また,審決は,甲2発明と甲6及び甲4記載の各技術とを組み合わせて想到容易
性を判断しているが,組合せの容易性においても審決は誤っている。すなわち,甲
2発明は,シンボルマークの近くに半透明部分を設け,背後から照明するものであ
るから,マークを付すること,あるいは背景色,絵柄の大きさを変えることによっ
て「タイミング付与手段」を形成する甲6とでは,用いている技術手段が大きく違
い,構成が全く異なる。また,甲4は,すべての絵柄の略中心に小径の透孔を設け
ることで,あくまでも,リールが停止した時点におけるシンボルの表示識別性を向
上させるものであり,甲2のリール回転時におけるシンボルマークの表示識別性を
高めるものとでは,光透過部を設けたことについて適用場面が異なり,目的の相反
性が顕著であるから,両者を組み合わせることに阻害要因がある。
3 取消事由3(相違点2の判断における理由不備)
(1) 「複数種類の図柄の半透明部分を区別可能」とすることを採用することが
設計事項であるとした点について
審決は ,「複数種類の図柄を区別せず,同一性状の半透明部分を配し,どの図柄
が目押し対象となるかを遊技者の視認力又は偶然に任せることも一案であるが,遊
技者の便宜を図り,複数種類の図柄の半透明部分を区別可能とすることも一案であ
り,どちらを採用するかは設計事項である。 (16頁1行∼5行)とする。

しかし,まず,前者の一案(複数種類の図柄を区別せず,同一性状の半透明部分
を配し,どの図柄が目押し対象となるかを遊技者の視認力又は偶然に任せること)
について検討すると,どの図柄が目押し対象となるかを遊技者の視認力又は偶然に
任せるのであれば,そもそも図柄に半透明部分を配するという構成すら必要ない。
一方,後者の一案(遊技者の便宜を図り,複数種類の図柄の半透明部分を区別可
能とすること)を検討すると,複数種類の図柄の半透明部分を区別可能とするため
には,本件発明1の「異なる種類の複数の特定図柄それ自体の一部分が,それぞれ
半透明に形成され,かつ,前記リールドラムの回転方向に直交する方向において異
なる位置に配」するという新たな構成が必要となる。そして,この新たな構成によ
り,半透明に形成した部分が,複数種類の特定図柄のうちどの特定図柄の半透明に
形成した部分であるかを,当該出射光が漏れる位置に基づき,種々の図柄の移動態
様に着目しながら把握することができるので,種々の図柄の移動態様に着目しなが
らストップスイッチを操作するという遊技機本来の面白みを持ったままで,初心者
であっても,回転移動する複数種類の特定図柄を容易に識別可能にする,という格
別の効果が得られる。
したがって,新たな構成の存在や,当該構成により奏する格別な効果を無視し,
これを設計事項であるとした審決の認定は,誤りである。
(2) 「区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために ,
位置の相違を用いる」ことを「周知」であるとした点について
審決は,①特開平7−141472号公報(甲35 ),②特開平5−81290
号公報(甲36 ),③特開昭64−26925号公報(甲37 ),④特開平8−1
78198号公報(甲38 ),⑤特開平4−43358号公報(甲39 ),⑥特開
昭62−68034号公報(甲40 ),⑦特公平7−56726号公報(甲41)
を引用して ,「区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するた
めに,位置の相違を用いる」ことを「周知」であるとする。
しかし,本件発明1は回転する種々のもの(図柄)から,1つのもの(図柄)を
区別又は識別するものである。しかるに,上記①∼⑥には ,「回転する種々のもの
(図柄)から,1つのもの(図柄)を区別又は識別する」技術は全く開示されてお
らず,また,⑦はそもそも,人の視覚による識別性を向上する技術でなく,発光ダ
イオードと光検出器によって反射率の差を検出する精度を向上する技術であり,本
件発明1とは全く関係のない技術である。
したがって,本件発明1と全く無関係の周知技術を列挙し,何ら根拠なく,本件
発明1に適用できるとした上,想到容易との結論を導く理由としている審決は,そ
の判断を誤っている。
(3) 「当該異なる位置がリール帯の幅方向の右方及び左方」を設計事項とした
点について
審決は ,「高速回転中に異なる半透明部分を位置において区別しようとすれば,
『リールドラムの回転方向に直交する方向(審決注;左右方向に同じと認める。)に
おいて異なる位置に配』することは当然採用すべき事項にすぎず(リールドラムの
回転方向の位置を異ならせても,高速回転であるがゆえに区別困難となる。),異
なる位置が離れているほど区別しやすいことは自明であるから ,『当該異なる位置
がリール帯の幅方向(審決注;左右方向に同じと認める。)の右方及び左方』とする
ことも設計事項というべきである 。 (16頁29行∼36行)とするが,誤りで

ある。
すなわち,審決は ,「リールドラムの回転方向の位置を異ならせても,高速回転
であるがゆえに区別困難となる」ことを理由として ,「リールドラムの回転方向に
直交する方向において異なる位置に配」することは当然採用すべき事項とする。し
かし,遊技の熟練者であれば,そもそも半透明部分がなくとも高速回転する図柄を
区別できるのであるから,半透明部分をリールドラムの回転方向において異なる位
置に配置すれば,区別がますます容易になるのであり,区別困難ではない。本件発
明1は,熟練者が図柄を区別できることを目的とするのではなくて,遊技の初心者
が図柄を区別できるようにすることを目的とし,この目的達成のために,半透明部
分をリールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置に配しているので
ある。また,審決は ,「高速回転中に異なる半透明部分を位置において区別しよ
う」という発想を設計事項の前提としているが,このような発想は,異種の特定シ
ンボルを初心者に識別させるという本件発明1により初めて見いだされた課題を解
決するためのものであり,このような発想を,何ら理由なく設計事項とする審決の
認定は,誤りである。
(4) 「複数種類の図柄を区別するに当たって,複数種類の図柄それぞれにおい
て,左右方向における各図柄特有の位置を持たせる」ことを当業者が難なく採用で
きる構成とした点について
審決は ,「甲9の『コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うと
よい。コンドルは黒い絵柄だし,右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない 。』
との記載からは,特定図柄(甲9記載の例では『コンドル』)を他の図柄と区別する
ために,左右方向における同特定図柄特有の位置を利用することが読み取れるから,
甲2発明を出発点として複数種類の図柄を区別するに当たって,複数種類の図柄そ
れぞれにおいて,左右方向における各図柄特有の位置を持たせる(当然 ,『リール
帯の幅方向の右方及び左方』とすることが有利である。)ことは当業者が難なく採
用できる構成というべきである 。 (16頁37行∼17頁6行)とするが,誤り

である。
すなわち,甲9( 必勝パチスロファン」平成7年10月号抜粋,株式会社日本

文芸社)には,右側という1つの方向しか記載されていないにもかかわらず,なぜ,
左右方向という2つの方向が読み取れるのか,審決の理由は不明である。また,そ
もそも甲9には,「コンドル」の羽根が「右側」にはみ出ている旨の記載はあるが,
記載されているのは「右側」のみであって ,「左側」にはみ出る等の特徴をもった
図柄に関する記載は一切ない。すなわち,甲9から読み取れることは,多くの図柄
の中から1つの特定図柄を区別するために,1つの特定図柄特有の位置を利用する
ことのみであり,2つ(左右)の方向を互いに利用することは読み取れない。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性の判断の誤り)
(1) 本件発明1は,相違点1及び2に係る構成により,半透明に形成した部分
が,複数種類の特定図柄のうちどの特定図柄の半透明に形成した部分であるかを,
当該出射光がリール帯の幅方向の右方から漏れているか左方から漏れているかに基
づき,種々の図柄の移動態様に着目しながら把握することができる。したがって,
種々の図柄の移動態様に着目しながらストップスイッチを操作するという,回転リ
ールユニットを備えた遊技機を用いたときに得られる本来の面白みを持ったままで,
初心者であっても,回転移動する複数種類の特定図柄を容易に識別可能にする,と
いう格別の効果が得られる。
(2) 本件発明1は,相違点1及び相違点2の構成を同時に備えることにより,
特定図柄の一部分を半透明に形成することと,特定図柄の左右方向の異なる位置を
半透明に形成することによる相乗効果として,回転リールが高速回転しているにも
かかわらず,複数種類の特定図柄は,左右方向の異なる位置で,半透明部分及びこ
れに近い部分が照明されて,それぞれの図柄の色が鮮やかに浮かび上がるため,複
数種類の特定図柄を明確に区別して目押しするタイミングを把握することができ,
初心者であっても,2つの特定図柄の目押しが容易にできるという顕著な作用効果
を奏する。
(3) 本件発明1においては,特定図柄それ自体の一部分を半透明に形成してい
るため,甲2発明のスロットマシンのリールを回転させたときに透過部分が残像現
象により線状に見えることとは異なり,リールドラムの回転中において透過部分が
一定時間ごとに点滅するように見え ,「リールドラムが回転すると,異なる種類の
特定図柄は,リールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置で発光す
る。従って,遊技者は,発光部の通過位置の相違から特定図柄の種類を識別するこ
とが出来る 。」という効果(訂正明細書(甲13,33)の段落【0033 】)を
奏する。
5 取消事由5(本件発明2の進歩性の判断の誤り)
上記のとおり,本件発明1の進歩性の判断には誤りがあるから,同様の理由によ
り,本件発明2の進歩性の判断にも誤りがある。
第4 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(特許法150条5項違反)に対し
審決は,まず,相違点2が設計事項であると認定した上で,その補助的証拠とし
て,甲35∼41を示したにすぎない。そうすると,このような補助的証拠がなく
ても,相違点2が設計事項であると認定できるものであるから,原告に意見申立て
機会が付与されなかったとの取消事由1の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対し
(1) 甲6について
甲6の第5図(2)では,縦線状のマークが特定図柄である「7」のみに付されな
いことにより,この縦線状のマークを「タイミング付与手段」として用いている。
したがって,甲6は,特定図柄それ自体の一部分をタイミング付与手段として用い
ているものではないが,特定図柄それ自体をタイミング付与手段として用いたもの
が開示されていることとなる。
(2) 甲4について
審決は,甲4については ,「ここでいう光透過部は,特定の図柄を狙い易くする
ため,すなわちタイミング付与手段として設けられたものではない」として,課題
等が異なることを前提とした上で ,「絵柄(本件発明1の『図柄』に相当)の一部
分を光透過部とする点では本件発明1と一致する構成が記載されている」とするも
のであるから,審決の認定に誤りはない。
(3) 相違点1の判断について
上記(1),(2)のとおり,審決の甲6,甲4の認定に誤りはない。また,審決は,
甲2発明の図柄には着色部分があり,この着色部分を「タイミング付与手段」とす
ることができること,甲6から,タイミング付与手段が図柄と重複することが読み
取れること,甲4には,図柄の一部を透孔とすることが記載されていることからす
ると,甲2の特定の図柄を区別するための透孔を図柄それ自体の内部に設け ,「タ
イミング付与手段」とした本件発明1の構成は容易に想到できる,としているもの
であり,審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点2の判断における理由不備)に対し
(1) 原告は,審決が「複数種類の図柄の半透明部分を区別可能」とすることを
採用することが設計事項であるとした点に関し ,「半透明部分」の作用効果につい
て言及する。しかし ,「半透明部分」を含んだ相違点は,審決では相違点1に整理
され,ここで議論すべき取消事由3は相違点2についての適否であるから,原告は
主張を誤っている。
(2) 原告は,審決が「区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は
識別するために,位置の相違を用いる」ことを「周知」であるとした点を批判する。
しかし,周知技術であると認定した甲35∼41は,いずれもあるものを類似の他
のものと区別又は識別するために,視覚によって位置の相違を知るための技術であ
るから,審決に誤りはない。
(3) 原告は,甲9には一方向しか記載されていないので,左右に関する記載が
ないとも主張する。しかし,甲9では積極的に「右側にはみ出したコンドルの羽根
を狙う」と記載されている。また,①特定図柄の通過を検知するために特定図柄は
他の図柄に比べて左右方向の大きさを大きくはみ出させる,②複数の特定図柄のう
ちの一の特定図柄の通過を検知するために,各々の特定図柄の左右方向にはみ出し
ている部分の色を変える,ことを行うのは慣用技術であり,このような慣用技術を
もとにして,甲9の「右側にはみ出したコンドルの羽根を狙う」との記載を見ると,
左右にはみ出した異なった色のいずれかの色を狙うことによって,複数の特定図柄
のうちの一の特定図柄の通過を検知する「タイミング付与手段」とすることは,当
業者にとって容易想到であるといえる。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性の判断の誤り)及び取消事由5(本件発明
2の進歩性の判断の誤り)に対し
上記2,3のように,相違点1あるいは相違点2に関する本件発明1及び2の構
成についての審決の判断に誤りはない。また,相違点1あるいは相違点2に起因す
る本件発明1及び2の作用効果についても,従来技術が有する作用効果の域を出て
いない。したがって,本件発明1及び2は,いずれも当業者が容易に発明できたも
のであり,進歩性がない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(特許法150条5項違反)について
原告は,審決は,特開平7−141472号公報(甲35 ),特開平5−812
90号公報(甲36 ),特開昭64−26925号公報(甲37 ),特開平8−1
78198号公報(甲38 ),特開平4−43358号公報(甲39 ),特開昭6
2−68034号公報(甲40 ),特公平7−56726号公報(甲41)を引用
して ,「区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,
位置の相違を用いる」ことを「周知」であるとし(16頁 ),これは,上記7件の
特許公報を証拠として職権で取り調べ(特許法150条1項 ),事実認定の基礎と
したものにほかならない,このように,特許法150条1項の職権証拠調べが行わ
れた以上,同条5項の意見申立機会が付与されなければならず,この機会が付与さ
れていない点で審決には手続的瑕疵があり,この手続的瑕疵は,審決の結論に影響
を及ぼすものであると主張する。
しかし,上記甲35∼41は ,「区別手法として,あるものを類似の他のものと
区別又は識別するために,位置の相違を用いる」点が一般的に周知事項であり,技
術常識であることの根拠として説示されたものにすぎない。また ,「区別手法とし
て,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,位置の相違を用いる」
点自体も,後記3(4)に説示するとおり,甲9( 必勝パチスロファン」平成7年

10月号抜粋,株式会社日本文芸社)の記載から,高速で回転するリールドラムに
おいて,特定図柄を他の図柄と区別するための特徴を,その特定図柄の右側の位置
に存在する特定部分の存在に求めることが読みとれることに照らせば,甲9に記載
されているに等しい事項というべきである。そうすると,このような上記甲35∼
41について原告への通知や意見申立ての機会の付与がなされていなかったとして
も,審決の結論に影響を及ぼすような,特許法150条5項に違反する手続的瑕疵
があったということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
(1) 甲6(実願昭60−175597号〔実開昭62−84485号〕のマイ
クロフィルム)の認定の誤りについて
原告は,甲6の「タイミング付与手段と図柄が重複すること」を,本件発明1の
「特定図柄それ自体の一部分」と同様の構成とする審決の認定は誤りである,すな
わち,まず,甲6は,本件発明1のように図柄を背後から照らす光源を利用するも
のではない,また,甲6には,本件発明1の「特定図柄」に相当する「ボーナスゲ
ームに関わる『7』の絵柄」と「タイミング付与手段」とを重複させる技術につい
て何ら開示されておらず,甲6の第5図(2)に示された「タイミング付与手段」で
あるマーク等は,半透明に形成された部分を「特定図柄それ自体の一部分」に設け
た本件発明1とは異なっていると主張する。
しかし,本件発明1のように図柄を背後から照らす光源を利用することはそもそ
も甲2に記載されており,本件発明1と甲2発明との一致点となるものであるから,
ここで検討している相違点1の内容となっている事項ではない。また,甲6が図柄
を背後から照らす光源を用いる構成でないとしても,後記(3)イの説示にも照らせ
ば,甲6を甲2発明に適用できない理由として十分なものとはいえない。そして,
甲6の第5図(2)において,本件発明1の「特定図柄」に相当するのは ,「ボーナ
スゲームに関わる『7』の絵柄」ではなく,それ以外の他の図柄部分と見ることが
できるから,そうである以上,甲6には,半透明に形成された一部分と特定図柄の
位置関係について,たとえ図柄部分でない部分にはみ出していたとしても,縦線状
のマーク16が本件発明1の「特定図柄」に相当する図柄部分と重複している点が
十分開示されているというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 甲4(特開平4−108468号公報)の認定の誤りについて
原告は,甲4における光透過部について,絵柄(本件発明1の「図柄」に相当)の
一部分を光透過部とする点で本件発明1と一致する構成であるとの審決の認定は誤
っている,すなわち,甲4記載の技術は,すべての絵柄の略中心に小径の透孔を設
けるものであり,本件発明1のように特定図柄に限ってその一部分を半透明に形成
する構成とは全く異なる,また,甲4記載の技術の課題は,リールが停止した時点
におけるシンボルの表示識別性を向上するという点であるが,本件発明1の課題は,
リール回転時における特定図柄(シンボル)の表示の識別性を高めることで,初心
者であっても容易に回転移動する特定図柄の識別を行うことを可能とする点である,
と主張する。
しかし,審決は,特定絵柄に直接透光窓を設けることが甲4に記載されていると
したものではなく,甲4からは,図柄の一部分を半透明に形成することに阻害要因
がないことを導いたにすぎない。しかるに,たとえ甲4記載の技術が,すべての絵
柄の略中心に小径の透孔が設けられるものであり,また,その課題が,リールが停
止した時点におけるシンボルの表示識別性を向上させるという点にあることを前提
としても,図柄の一部分を半透明に形成することについての甲4の記載から,その
ような構成が格別困難なものではなく阻害要因がないこと自体は十分認められると
いうべきである。そして,特定絵柄の近傍に透光窓を設けることが甲2に記載され,
また,特定絵柄自体にタイミング付与手段を設けることが甲6に記載されているこ
とからすれば,特定絵柄に直接透光窓を設けることは,当業者が容易に想到できる
ことである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 相違点1の判断について
ア 原告は,相違点1の判断についての主張として,甲2発明において,背景は
白地であると解されると主張する。しかし,原告は,審決の「黒等に着色してマス
クした背景中に半透明部分を配し ,」という甲2発明の認定を認めている(原告準
備書面(1)(平成20年2月20日付け)の3頁参照 )。また,甲2の段落【00
15】の「例えば透光窓71の位置だけ透明乃至は半透明として,他の箇所を黒等
に着色してマスクしてもよい 。」との記載や,背景が白地であったのでは半透明部
分からの光の視認性が低下することが明らかであることからすれば,審決の上記認
定は自然であり,単に,黒等に着色してマスクしても表面は白地にできる可能性が
あること,黒地にすることは通常考えられないことなどを指摘したとしても,上記
認定を左右できるものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,審決が甲6及び甲4記載の各技術の認定を誤っていることを前提に,
相違点1の判断の誤りを主張するが,上記(1),(2)に照らせば,原告の主張はその
前提を欠くものであり失当である。
ウ 原告は,審決は甲2発明と甲6及び甲4記載の各技術とを組み合わせて容易
想到性を判断しているところ,組合せの容易性においても審決は誤っている,と主
張する。
しかし,甲2発明と甲6記載の技術とは,ある特定図柄を初心者が狙いやすいよ
うにするための目印を設けるという意味において共通するから,甲2発明に甲6記
載の技術を組み合わせることができ,そうすれば,当業者が,特定絵柄に直接透光
窓を設けるという相違点1の構成を容易に想到できることを導くことができる。ま
た,前記(2)に説示したとおり,甲4記載の技術がある特定図柄を初心者が狙いや
すくするためのものでないとしても,図柄の一部分を半透明に形成する構成が格別
困難なものではなく阻害要因がないこと自体は十分認められるというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由3(相違点2の判断における理由不備)について
(1) 原告は,複数種類の図柄の半透明部分を区別可能とするためには,本件発
明1の「異なる種類の複数の特定図柄それ自体の一部分が,それぞれ半透明に形成
され,かつ,前記リールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置に
配」するという新たな構成が必要となり,これにより,初心者であっても回転移動
する複数種類の特定図柄を容易に識別可能にするという格別の効果が得られるのに,
これを無視し設計事項であるとした審決は誤りであると主張する。
しかし,半透明部分が「特定図柄それ自体の一部分」であるように構成すること
は,上記2(2),(3)の説示に照らし,当業者が容易に想到できることである。そし
て,当該半透明に形成された一部分を,リールドラムの回転方向に直交する方向に
おいて異なる位置に配するという構成も,後記(2),(3)の説示に照らし,当業者は
容易に想到できるというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は,特開平7−141472号公報(甲35 ),特開平5−8129
0号公報(甲36 ),特開昭64−26925号公報(甲37 ),特開平8−17
8198号公報(甲38 ),特開平4−43358号公報(甲39 ),特開昭62
−68034号公報(甲40)には ,「回転する種々のもの(図柄)から,1つの
もの(図柄)を区別又は識別する」技術は全く開示されておらず,また,特公平7
−56726号公報(甲41)は,そもそも,人の視覚による識別性を向上する技
術でなく,発光ダイオードと光検出器によって反射率の差を検出する精度を向上す
る技術であり,いずれも,回転する種々のもの(図柄)から1つのもの(図柄)を
区別又は識別する本件発明1とは全く関係のない技術であると主張する。
しかし,回転する種々のもの(図柄)から1つのもの(図柄)を区別又は識別す
る技術は,既に甲2,甲6(実願昭60−175597号〔実開昭62−8448
5号〕のマイクロフィルム)に記載されており,審決は,甲35∼41については,
区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,位置の相
違を用いることが技術分野を問わず周知であることの根拠として使用したにすぎな
い。また,甲41(特公平7−56726号公報)記載の技術も,人の視覚による
識別性を向上する技術ではないが,回転同期マーク検出装置として,マークからの
反射光束が受光できる位置に配置された第1の光検出器と,マークからの反射光束
が受光できない位置に配置された第2の光検出器を設けることにより,ディスクに
記録された同期マークや判別マークにつき,表面の汚れ,キズ等による誤ったマー
クを識別することなく,正しいマークを識別することができるように構成したもの
において,そのマークの位置を異ならせることによって,ディスクの種類を区別で
きるようにしたものである。そうすると,甲41記載の技術も,あるディスクを他
のディスクと区別又は識別するためにマークを設ける位置の相違を用いた技術であ
ることに変わりはない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3)ア 原告は,審決は「リールドラムの回転方向の位置を異ならせても,高速
回転であるがゆえに区別困難となる」ことを理由として ,「リールドラムの回転方
向に直交する方向において異なる位置に配」することは当然採用すべき事項とする
が,遊技の熟練者であれば,半透明部分をリールドラムの回転方向において異なる
位置に配置すれば,区別がますます容易になる,本件発明1は,熟練者が図柄を区
別できることを目的とするのではなく,遊技の初心者が図柄を区別できるようにす
ることを目的とし,この目的達成のために,半透明部分をリールドラムの回転方向
に直交する方向において異なる位置に配している,と主張する。
しかし,複数種類の図柄における半透明部分を互いに異なった位置にするに当た
り,リールドラムの回転方向と一致する方向において互いに異なった位置にすると,
他の方向,すなわち回転方向に直交する方向において互いに異なった位置にした場
合に比べて,高速回転のために区別がより困難になるのは明らかであるから,審決
の上記説示に誤りはない。このことは,本件発明1が,熟練者でなく遊技の初心者
が図柄を区別できるようにすることを目的とすることを指摘したとしても,左右さ
れるものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,審決は「高速回転中に異なる半透明部分を位置において区別しよ
う」という発想を設計事項の前提としているが,このような発想は,異種の特定シ
ンボルを初心者に識別させるという本件発明1により初めて見いだされた課題を解
決するためのものであり,このような発想を,何ら理由なく設計事項とする審決の
認定は誤りであると主張する。
しかし,審決は,15頁19行∼38行において,甲2及び甲9( 必勝パチス

ロファン」平成7年10月号抜粋,株式会社日本文芸社)によれば,遊技者が目押
し対象とする図柄が複数種類あることは明らかであるから,甲2発明を出発点とし
て,半透明部分の配置対象となる図柄を複数種類とすることは当業者にとって容易
に想到できることを説示し,これを踏まえて,異種の特定シンボルを初心者に識別
させるという課題を解決するための高速回転中に異なる半透明部分を位置において
区別することの容易想到性について検討しているものであり ,「高速回転中に異な
る半透明部分を位置において区別しよう」という発想を何ら理由なく設計事項とし
たものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 原告は,甲9( 必勝パチスロファン」平成7年10月号抜粋,株式会社

日本文芸社)には,右側という1つの方向しか記載されていないにもかかわらず,
なぜ,左右方向という2つの方向が読み取れるのか不明である,甲9から読み取れ
ることは,多くの図柄の中から1つの特定図柄を区別するために,1つの特定図柄
特有の位置を利用することのみであり,2つ(左右)の方向を互いに利用すること
は読み取れないと主張する。
しかし,甲9の「コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うとよ
い。コンドルは黒い絵柄だし,右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない 。」と
の記載からは,高速で回転するリールドラムにおいて,特定図柄を他の図柄と区別
するための特徴を,その特定図柄の右側の位置に存在する特定部分の存在に求める
ことが読みとれるから,甲2発明に接した当業者は,かかる甲9の記載から,多く
の図柄の中から複数種類の図柄を区別する際に,ある特定図柄における半透明部分
の位置が,別の特定図柄における半透明部分より右側になるように配置することを
容易に想到できるというべきである。さらに,半透明部分を図柄の右側又は左側に
設けることは,甲2の図6,7にも記載されている。これらによれば,審決が本件
発明1の「当該異なる位置がリール帯の幅方向の右方及び左方」とすることを設計
事項と認定したことに誤りはない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件発明1は,相違点1及び2に係る構成により,半透明に形成
した部分が,複数種類の特定図柄のうちどの特定図柄の半透明に形成した部分であ
るかを,当該出射光がリール帯の幅方向の右方から漏れているか左方から漏れてい
るかに基づき,種々の図柄の移動態様に着目しながら把握することができるから,
種々の図柄の移動態様に着目しながらストップスイッチを操作するという,回転リ
ールユニットを備えた遊技機を用いたときに得られる本来の面白みを持ったままで,
初心者であっても,回転移動する複数種類の特定図柄を容易に識別可能にするとい
う格別の効果が得られると主張する。
しかし,上記2,3に説示したとおり,審決が,本件発明1の相違点1,2が当
業者にとって容易に想到できるとしたことに誤りはない。そして,原告が主張する
上記の効果も,そのような相違点1,2の構成が当然に奏する効果というほかない
から,これをもって格別な効果であるということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は,本件発明1は,相違点1及び相違点2の構成を同時に備えること
により,特定図柄の一部分を半透明に形成することと,特定図柄の左右方向の異な
る位置を半透明に形成することによる相乗効果として,回転リールが高速回転して
いるにもかかわらず,複数種類の特定図柄は,左右方向の異なる位置で,半透明部
分及びこれに近い部分が照明されて,それぞれの図柄の色が鮮やかに浮かび上がる
ため,複数種類の特定図柄を明確に区別して目押しするタイミングを把握すること
ができ,初心者であっても,2つの特定図柄の目押しが容易にできるという顕著な
作用効果を奏すると主張する。
しかし,本件発明1は,複数種類の特定図柄の色をそれぞれ異なった色とするこ
とをその発明特定事項とするものではないから,それぞれの図柄の色が鮮やかに浮
かび上がることにより区別できることを相違点1及び相違点2の効果とすることは
できない。そうすると,図柄の色の点を除いて,原告が主張する上記の効果を見て
も,その内容自体から見て,相違点1の構成による効果と相違点2の構成による効
果を併せたものを超える顕著な作用効果ということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は,本件発明1においては,特定図柄それ自体の一部分を半透明に形
成しているため,甲2発明のスロットマシンのリールを回転させたときに透過部分
が残像現象により線状に見えることとは異なり,リールドラムの回転中において透
過部分が一定時間ごとに点滅するように見え ,「リールドラムが回転すると,異な
る種類の特定図柄は,リールドラムの回転方向に直交する方向において異なる位置
で発光する。従って,遊技者は,発光部の通過位置の相違から特定図柄の種類を識
別することが出来る 。」という効果(訂正明細書(甲13,33)の段落【003
3】)を奏すると主張する。
しかし,本件発明1において,半透明部分が特定図柄それ自体の一部分であるこ
とはともかく,種々の色を有する絵柄の内部に半透明部分が形成されることが発明
特定事項になっているものではない。そうすると,原告の上記主張は,そもそもそ
の前提を欠き,採用することができない。
5 取消事由5(本件発明2の進歩性の判断の誤り)について
原告は,本件発明2の進歩性の判断の誤りを主張するが,上記2∼4の説示に照
らせば,本件発明1の進歩性について審決の判断に誤りがないのであるから,本件
発明1の「遊技機」を「スロットマシンまたは弾球遊技機」であると限定したもの
である本件発明2の進歩性についての審決の判断にも誤りはないこととなる。
6 結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
本 多 知 成
裁判官
田 中 孝 一

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