平成20(行ケ)10251審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告サントリー株式会社ピング・クラブ
株式会社サントリー・ショッ
紀伊産業株式会社
ら訴訟代理人弁理士森則雄
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法令 |
意匠権
意匠法3条1項3号3回
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キーワード |
審決38回
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主文 |
1 特許庁が不服2007−23689号事件について平成20年5月13日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,意匠に係る物品を「ビールピッチャー」とし,その部分につき,平
成18年7月19日,意匠登録出願(以下「本件意匠登録出願」という。)を
したが,平成19年1月12日付けの拒絶理由通知を受け(甲17),同年7
月19日付けの拒絶査定を受けた(甲19)。これに対して,原告は,同年8
月29日,審判請求(不服2007−23689号事件)をし,同年11月8
日付け(甲21)及び平成20年3月4日付け(甲9)の手続補正書を提出し
たが,特許庁は,同年5月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をした。 |
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判決文
平成20年12月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10251号 審決取消請求事件
平成20年11月11日口頭弁論終結
判 決
原 告 サ ン ト リ ー 株 式 会 社
原 告 株式会社サントリー・ショッ
ピング・クラブ
原 告 紀 伊 産 業 株 式 会 社
原告ら訴訟代理人弁理士 森 則 雄
同 永 芳 太 郎
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 鍋 田 和 宣
同 岩 井 芳 紀
同 小 林 和 男
主 文
1 特許庁が不服2007−23689号事件について平成20年5月1
3日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は,意匠に係る物品を「ビールピッチャー」とし,その部分につき,平
成18年7月19日,意匠登録出願(以下「本件意匠登録出願」という。)を
したが,平成19年1月12日付けの拒絶理由通知を受け(甲17),同年7
月19日付けの拒絶査定を受けた(甲19)。これに対して,原告は,同年8
月29日,審判請求(不服2007−23689号事件)をし,同年11月8
日付け(甲21)及び平成20年3月4日付け(甲9)の手続補正書を提出し
たが,特許庁は,同年5月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をした。
2 審決が認定した本願意匠の態様
審決が認定した本件登録意匠出願に係る意匠登録を受けようとする部分は,
別紙図面第1(審決書写し中の別紙図面第1と同じ。)の実線部分であり,内
容器と外容器からなる二重構造のビール用ピッチャーにおいて,上縁部正面の
注ぎ口以外の部分を外側に折り返して外容器の上端に接合した内容器部分であ
る(甲8,9。以下,登録を受けようとする部分の意匠を「本願意匠」とい
う。)。
3 審決の内容
(1) 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願意匠は,意匠に係る
物品を「ビール用ピッチャー」とする意匠登録第1187522号の意匠
(甲10。別紙図面第2)のうち本願意匠に対応する部分(以下この部分を
「引用意匠」という。)に類似するから,意匠法3条1項3号の意匠に該当
する,とするものである。
(2) 審決は,本願意匠と引用意匠とを対比し,その共通点と差異点を下記の
とおり認定した。
ア 共通点
(ア) 共通点1
内容器全体は,肉薄の有底略円筒形の上部正面中央(把手の反対側)
を前方に拡張して注ぎ口とし,注ぎ口を除いて上端より外側へ折り返し
た部分(以下「折り返し部」という。)を形成し,形態全体を透明とし
た態様である点。
(イ) 共通点2
内容器の折り返し部及び注ぎ口を除いた部分(以下「本体部」とい
う。)の外側面は,底面周縁を丸面状とし,上端に向かって次第に拡張
した態様である点。
(ウ) 共通点3
内容器の全高に対し,折り返し部上端の内径が約11分の7である点。
(エ) 共通点4
折り返し部は,外側面をやや広幅でごくわずかに斜め上向きとし,下
縁をわずかに拡張した略玉縁状とし,注ぎ口の左右両端から中央の折り
曲げ部の下側の部分にかけて一体状に形成している点。
(オ) 共通点5
注ぎ口は,平面視略「V」字形状であって内容器の折り返し部よりも
やや前方に突出し,中央の折り曲げ部の下端が折り返し部の下端よりも
やや下側である点。
イ 差異点
(ア) 差異点1
内容器の外側面の底面周縁より上方の側方視態様について,本願意匠
は,直線状であるのに対し,引用意匠は,底面周縁寄りをごく緩やかな
山折り状に屈曲し,上端寄りをごく緩やかな谷折り状に屈曲している点。
(イ) 差異点2
内容器の全高に対する折り返し部の縦幅について,本願意匠は,約5
分の1であるのに対し,引用意匠は,約7分の1である点。
(ウ) 差異点3
折り返し部の下縁の下側の接合部について,本願意匠は,ごく細幅の
凹溝状であるのに対し,引用意匠は,ごく細幅の凸溝状である点。
(エ) 差異点4
注ぎ口の態様について,本願意匠は,上端を側方視水平状とし,突端
を平面視やや角張って形成しているのに対し,引用意匠は,上端を側方
視やや下り傾斜状とし,突端を平面視やや角丸状に形成し,中央の折り
曲げ部の傾斜を,本願意匠は引用意匠よりもやや急傾斜状としている点。
第3 原告主張の取消事由
審決は,本願意匠と引用意匠との差異点を看過し,本願意匠と引用意匠の共
通点及び差異点の評価を誤り,その結果,本願意匠と引用意匠とが類似すると
の誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 本願意匠と引用意匠との相違点の看過
(1) 共通点2の認定の誤り(差異点1に関する看過)
審決は,本願意匠と引用意匠とは「底面周縁を丸面状とし」との点で共通
すると認定したが,誤りである。
本願意匠の底面周縁は曲率半径が大きく,底面中ほど近くまで深く入り込
んだ丸面構成としているのに対し,引用意匠は,底面とその周縁(側壁面)
との角部のみを普通の角丸状に処理した程度にすぎず,丸面状とは到底いえ
ない。よって,審決は共通点2の認定を誤った結果,内容器の本体部の外側
面の底面周縁の態様(差異点1)に関する差異点を看過した。
(2) 共通点5の認定の誤り(差異点4に関する看過)
審決は,本願意匠と引用意匠とは,「平面視略「V」字形状であって」及
び「中央の折り曲げ部の下端が折り返し部の下端よりもやや下側である」と
の点で共通すると認定したが,誤りである。よって,審決は共通点5の認定
を誤った結果,注ぎ口の態様(差異点4)に関する差異点を看過した。
ア 「平面視略「V」字形状であって」について
本願意匠における注ぎ口は,平面視において,突端が尖り,かつその突
端から下方に向けて一本の直線状に延びる鋭角な谷線を介して,左右の三
角形状の略平坦面が折壁状折り曲げ部を構成し,上縁が左右両辺をわずか
に外側に膨らませた湾曲線からなる略V字形状といえる態様であり,正面
視に二重V字形状に感得されるシャープな印象を与える。
これに対し,引用意匠における注ぎ口は,平面視において,口先部分は
丸く,左右の口角部分が内側に窄まってから外側に反って広がり湾曲線を
描く態様であり,平面視略V字形状とはいえない。しかも,後記のとおり
引用意匠の場合,図面に注ぎ口の一体状の輪郭形状等を表す線の記載がな
く,上記湾曲線は,注ぎ口にやや垂れて突出したスリット孔のある上蓋突
端泡止め部のものであって,注ぎ口のものではない。
イ 「中央の折り曲げ部の下端が折り返し部の下端よりもやや下側である」
について
本願意匠は,正面視略二重V字形状について,上端から下側の縦長V字
形状の下端までの縦幅が,折り返し部に表れる上側のV字形状の同縦幅の
2倍弱あり,折り曲げ部中央の下端が折り返し部の下端よりかなり下にあ
ることは明らかである。よって,本願意匠は,「中央の折り曲げ部の下端
が折り返し部の下端よりもやや下側である」とはいえない。
2 類似性についての判断の誤り
(1) 共通点に関する評価の誤り
ア 共通点1ないし3について
審決は,共通点1ないし3は,両意匠に共通する骨格的な態様を構成し
ているといえるから,両意匠の類似性に大きな影響を与えるものであると
判断したが,誤りである。上記共通点は骨格的な構成といえる具体的態様
を何ら表わしていないから,両意匠の類否判断に与える影響は少ない。
イ 共通点4について
審決は,共通点4について,「折り返し部の外側面を注ぎ口の左右両端
から中央の折り曲げ部の下側の部分にかけて一体状に形成した態様が,注
ぎ口に平面視略V字形状の輪郭を生じる意匠的な効果があり,使用時に注
ぎ口を注視する場合が多い点も勘案すると,両意匠の類似性についての判
断に与える影響が大きいものである。」と判断したが,誤りである。
本願意匠には,正面視二重略V字形状に感得されるシャープな印象を与
える独自の形状のうち,上側の一体状のV字形状部分の輪郭形状が折り返
し部に表れるのに対して,引用意匠には,図面に注ぎ口の一体状の輪郭形
状等を表す線の記載はなく,注ぎ口に正面視略V字形状の輪郭は生じてい
ない。このように,引用意匠の図面には注ぎ口の一体状の輪郭形状等を表
す線の記載はなく,注ぎ口に平面視略V字形状の輪郭を生じる意匠的な効
果は認められないから,これを前提とした審決の上記判断は誤りである。
ウ 共通点5について
審決は,共通点5について,「折り返し部よりもやや前方に突出した注
ぎ口は,使用態様において注意を惹く部分であり,また,前方に拡張した
部分の平面視態様が目線よりも下側で観察される場合が多い点も考慮する
と,両意匠の類似性についての判断に影響を与えるものである。」と判断
したが,誤りである。
注ぎ口が他の部位より突出するのは極めて普通のことであり,審決の共
通点5の認定は前記のとおり誤りであるから,これら誤った認定部分を差
し引くと,共通点5には両意匠の類似性の判断に影響を与える要素はない。
(2) 差異点に関する評価の誤り
ア 差異点1について
審決は,差異点1について,「この種物品分野において,内容器の外側
面の底面周縁の側方視態様を本願意匠と略同様に直線状としたものは,例
を挙げるまでもなく普通に見受けられ,本願意匠は観る者の注意を惹くも
のでなく,一方,引用意匠も屈曲の程度はいずれも軽微であって特異の態
様でないから,その差異が両意匠の類似性の判断に与える影響は微弱であ
る。」と判断したが,誤りである。
差異点1に関して審決が看過した差異点を付け加えると,本体部の側方
視態様全体について,本願意匠は,底面周縁を曲率半径が大きく底面中ほ
どまで深く入り込んだ丸面構成とし,それより上を上端まで直線状にシャ
ープなラインを描いて拡張してなる態様であるのに対して,引用意匠の,
底面周縁のみを普通の角丸状処理とし,それより上を上端までS字状に極
緩やかに湾曲するいわゆるスネークラインを描いて拡張してなる態様であ
る点において差異があり,その差異は,その具体的な態様のまとまり感に
おいて両意匠の美感の違いを生じさせ,需要者の注意を惹くから,両意匠
の類似性の判断に与える影響は大きい。
イ 差異点2について
審決は,差異点2について,「比率についての軽微な差異にすぎないも
のであるから,両意匠の類似性の判断に与える影響は微弱である。」と判
断したが,誤りである。
上記比率の差異と差異点1の本体部の側方視態様全体の差異があいまっ
た視覚的な効果において,本体部と折り返し部の形態がなす具体的な態様
は,内容器の形態全体の具体的な態様の骨格を構成しており,それと別の
骨格を構成する差異点1及び差異点2が両意匠の類否判断に与える影響は
大きい。
ウ 差異点4について
審決は,差異点4について,本願意匠の出願前から,この種物品分野に
おいて,「注ぎ口の上端を側方視水平状とした態様のものは,例えば,甲
第11号証(ジュースピッチャー),甲第12号証(ビールピッチャー)
に見受けられ,また,「注ぎ口の突端が平面視やや角張り,中央の折り曲
げ部の傾斜を急傾斜状とした態様のもの」は,例えば,甲第13号証(水
差し),甲第14号証(液体つぎ)に見受けられるとし,「本願意匠の注
ぎ口のいずれの部分の態様も格別新規ではないから,その差異は,観る者
の注意を惹くものではなく,かつ,意匠全体からみれば,限られた部位の
態様についての軽微な差異にすぎないものであり,両意匠の類似性につい
ての判断に与える影響は微弱である」と判断したが,上記判断は,以下の
とおり誤りである。すなわち,
(ア) 甲11,13,14は,本願意匠のように二重構造ではなく,甲1
2及び甲2は,二重構造であるが引用意匠の程度に小ぶりで浅く緩傾斜
であり,これらを公知意匠として斟酌することはできない。
また,乙5は,二重構造ではなく,乙6は二重構造ではあるが正面視
二重V字形状に感得されるものではなく,上側は上縁であって下側のみ
が一重に表れ,正面視U字状のものであり,乙7は二重構造であるが正
面視一重に表れ,乙8は上記甲2と同様であり,乙3は二重構造ではあ
るが,上側は上縁であって下側のみが一重に表れ,正面視は本願意匠ほ
どにシャープではないおだやかさがあるものであり,乙4は二重構造で
はあるが,小ぶりで浅い点で本願意匠と異なる。
(イ) 本願意匠の注ぎ口の特徴は,とりわけ,折り返し部に形成された一
体状の折り曲げ部と内容器に形成された折り曲げ部の輪郭とが正面視二
重略V字形状に感得されるシャープな印象を与える独自な形状の態様と,
折り曲げ部中央が二重構造の内容器の縦長V字形状の下端まで約65度
で急傾斜し,本体部と直線に近い「く」の字状に接合し,総じて大きく
深い態様にあり,これらの新たな創作的工夫により格別新規で独自な美
感が発揮される。これに対し,引用意匠は,図面には注ぎ口の輪郭形状
等を表す線の記載がない上,それ以外の顔を覗かせるようにわずかに表
れているのは,薄唇様の柔らかな印象を与える極普通の態様のみであっ
て,折り曲げ部中央が折り返し部の下端やや下側まで約45度で緩傾斜
し,本体部と谷折り状に湾曲して接合し,総じて小ぶりで浅いありふれ
た態様でしかない。
このように,注ぎ口は,内容器の中でも使用の態様も勘案して形態を
観察する需要者の目に触れ易い主要な部分といえ,その主要部を構成す
る具体的な態様に関する差異点4は,引用意匠の図面には注ぎ口の輪郭
形状等を表す線の記載がない点を含め相当程度際立った差異であって,
両意匠の美感の違いをよく表出し,需要者の注意を強く惹くから,両意
匠の類否判断に与える影響は大きく,「意匠全体からみれば限られた部
位の態様についての軽微な差異にすぎない。」とした審決の上記判断は
誤りである。
第4 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 本願意匠と引用意匠との差異点の看過に対し
(1) 共通点2について
本願意匠の底面の外側面の丸面状とした部分は,添付図面によれば,底面
の最大径の4分の1以内にとどまる部分であるから底面全体からみれば周縁
というべきであり,曲率半径に大小の差異があるとしても,両意匠は,内容
器の外側面の底面周縁をいずれも側方視弧状の丸面状としている点で共通す
るものである。原告が主張する差異点は,内容器の形態全体からみれば内奥
に位置する目立たない部分の曲率半径の大きさに帰着するわずかな差異にす
ぎないものであり,本願意匠と引用意匠の類否の判断に影響を及ぼすもので
はない。
(2) 共通点5について
ア 「平面視略「V」字形状であって」について
引用意匠の平面図,右側面図及び内容器の平面図によれば,引用意匠の
注ぎ口は,平面視略「V」字形状であることは明らかであり,この種物品
の使用態様において,前方に拡張した注ぎ口が目線よりも下側で観察され
る場合が多い点を考慮すれば,注ぎ口の形態については,その平面視の形
態を重視して認定するのが相当である。審決の認定に誤りはない。
イ 「中央の折り曲げ部の下端が折り返し部の下端よりもやや下側である」
について
本願意匠と引用意匠は,内容器の折り返し部の下端から底面までは折り
返し部の縦幅の数倍程度の長さがあるため,内容器の形態全体からみれば,
中央の折り曲げ部の下端は,折り返し部の下端のやや下側といえる。また,
両意匠のA−A断面図によれば,中央の折り曲げ部は,内容器の折り返し
部下端から下側部分が上側部分よりも短い点においても共通するものであ
る。審決の認定に誤りはない。
2 類似性の判断の誤りに対し
(1) 共通点に関する評価の誤り
ア 共通点1ないし3について
共通点1に係る態様は,両意匠の内容器の主要部を構成しているとの審
決の認定に誤りはないし,両意匠は,内容器の全高に対し,折り返し部上
端の内径が11分の7である点で内容器の形態全体のプロポーションが共
通し,いずれも内容器の全高が折り返し部よりもかなり長い態様であるか
ら,共通点2,3に関する審決の判断に誤りはない。
イ 共通点4について
引用意匠の注ぎ口は,中央の折り曲げ部の左右両側から下方中央に向け
て,内容器の折り返し部に一体状に山折り状部分を形成し,内容器と一体
状に形成した山折り状の部分が折り返し部の下端よりも下側まで延びてい
る態様であることが,引用意匠に係る意匠公報(甲10)掲載の各図面か
ら推定できる。そうすると,引用意匠は,その骨格的な構成において本願
意匠と共通しているといえるものであり,形態全体を透明とする引用意匠
の注ぎ口にも平面視略V字形状の輪郭を生じる意匠的効果が想定し得るこ
とから,両意匠の類似性についての判断に与える影響が大きいとした審決
の判断に誤りはない。
ウ 共通点5について
共通点5は,内容器の注ぎ口の部位及びその平面視態様についての共通
点であり,両意匠の骨格的な構成に係るものであるから,両意匠の類似性
の判断に影響を与える要素というべきである。したがって,審決の認定・
判断に誤りはない。
(2) 差異点に関する評価の誤り
ア 差異点1の評価の誤り
本願意匠に係る物品と同種の物品分野において,内容器本体の外側面の
底面周縁より上方の側方視態様を本願意匠と略同様に直線状としたものは,
例えば,意匠登録第1039553号の意匠(乙2),意匠登録第107
3904号の意匠(甲2),意匠登録第1187908号の意匠(甲1
2),意匠登録第1190857号の意匠(乙3),意匠登録第1212
084号の意匠(乙4)等に見られるようにありふれたものであって,看
者の注意を殊更惹くものではない。他方で,引用意匠も屈曲の程度はごく
わずかであって,直線を主体とした構成態様といえることから,その差異
が両意匠の類似性についての判断に与える影響は微弱であるとした審決の
認定・判断に誤りはない。
イ 差異点2の評価の誤り
差異点2の比率の差異は軽微であり,前記のとおり,差異点1の側方視
態様全体の差異が両意匠の類似性についての判断に与える影響は微弱であ
るから,差異点1の側方視態様全体の差異とあいまった視覚的な効果を考
慮したとしても,その差異が,両意匠の類似性についての判断に与える影
響は微弱にとどまるものとした審決の認定・判断に誤りはない。
ウ 差異点4の評価の誤り
注ぎ口の形態については,引用意匠の注ぎ口が図面上,本願意匠の二重
略V字形状に感得される部分を実線で描いていないとしても,その骨格的
な構成において本願意匠と共通しているといえる。また,本願意匠の注ぎ
口と略同様に,上側を側方視水平状とし,突端を平面視やや角張って形成
している態様のものは,甲13,14,乙5等において見受けられるよう
に極めてありふれた態様である。そして,原告が本願意匠の特徴であると
主張する注ぎ口の形状は,乙6ないし8等にも見受けられるように,いず
れもありふれたものであって,本願意匠のみを特徴づける形態であるとは
いい難いから,本願意匠の注ぎ口は,看者の注意を殊更惹くほどのもので
はない。したがって,審決の認定・判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,本願意匠と引用意匠とは類似するとはいえないので,本願意匠
は意匠法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断には誤りがあると判断
する。その理由は,以下のとおりである。
1 本願意匠と引用意匠の対比
(1) 本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点の認定
ア 審決が共通点として認定した事項は,認定の限りにおいて,誤りはない。
① 内容器全体は,肉薄の有底略円筒形の上部正面中央(把手の反対側)
を前方に拡張して注ぎ口とし,注ぎ口を除いて上端より外側へ折り返し
た部分(以下,「折り返し部」という。)を形成し,形態全体を透明と
した態様である点,
② 内容器の折り返し部および注ぎ口を除いた部分の外側面は,底面周縁
を丸面状とし,上端に向かって次第に拡張した態様である点,
③ 内容器の全高に対し,折り返し部上端の内径が約11分の7である点,
④ 折り返し部は,外側面をやや広幅でごくわずかに斜め上向きとし,下
縁をわずかに拡張した略玉縁状とし,注ぎ口の左右両端から中央の折り
曲げ部の下側の部分にかけて一体状に形成している点,
⑤ 注ぎ口は,平面視略「V」字形状であって内容器の折り返し部よりも
やや前方に突出し,中央の折り曲げ部の下端が折り返し部の下端よりも
やや下側である点
が認められる。
イ また,審決が差異点として認定した事項は,認定の限りにおいて誤りは
ない(なお,下記③で,本願意匠において,接合部の形状が,ごく細幅の
凹溝状であるとの認定は,必ずしも確認できないが,結論を左右するもの
ではない。)。
① 内容器の外側面の底面周縁より上方の側方視態様について,本願意匠
は,直線状であるのに対し,引用意匠は,底面周縁寄りをごく緩やかな
山折り状に屈曲し,上端寄りをごく緩やかな谷折り状に屈曲している点,
② 内容器の全高に対する折り返し部の縦幅について,本願意匠は,約5
分の1であるのに対し,引用意匠は,約7分の1である点,
③ 折り返し部の下縁の下側の接合部について,本願意匠は,ごく細幅の
凹溝状であるのに対し,引用意匠は,ごく細幅の凸溝状である点,そし
て,
④ 注ぎ口の態様について,本願意匠は,上端を側方視水平状とし,突端
を平面視やや角張って形成しているのに対し,引用意匠は,上端を側方
視やや下り傾斜状とし,突端を平面視やや角丸状に形成し,中央の折り
曲げ部の傾斜を,本願意匠は引用意匠よりもやや急傾斜状としている点
が認められる。
(2) 本願意匠と引用意匠の各意匠(部分意匠として意匠登録を受けようとす
る部分及びこれに対応する引用意匠の部分を中心とするが,判断に影響のあ
る範囲で,その他の部分も含める。)の具体的態様は,以下のとおりである。
ア 本願意匠
(ア) 折り返し部
折り返し部(注ぎ口を除いた部分)は,正面視及び側面視において,
(断面図上)いずれも直線からなる内側面,頭頂面及び外側面により構
成されているため,(断面図上)交点の形状は,角張った印象を与え,
丸みは帯びていない。内側面は,鉛直方向よりわずかに傾くように形成
され(傾斜角度は水平に対し約85度),また,外側面も,鉛直方向よ
りごくわずかに傾くように形成され(傾斜角度は水平に対し約85度),
その下縁はわずかに拡張した略玉縁状とされている。
本願意匠に係る物品は透明体であるため,折り返し部の内側面も視認
することができる。そのため,正面視において,折り返し部の外側面で
形成された形状として,下辺がやや長い横長の台形(上辺,下辺,高さ
の比が,順におおむね32対34対9),及び,内側面で形成された形
状として,上辺がやや長い横長の台形(上辺,下辺,高さの比が,順に
おおむね30対28.5対9)が,双方とも目視することができる態様
である。折り返し部(外側面)の縦の長さは,内容器の全高の約5分の
1である。
(イ) 注ぎ口
前方に突き出した注ぎ口は,正面視において,注ぎ口面と折り返し部
外側面が交わることにより形成される形状が,略V字(逆二等辺三角形
状,以下「外側面V字形状」という。)を呈している。外側面V字形状
の下端は,折り返し部の外側面の下縁(略玉縁状部分)であり,比較的
浅く形成されている。外側面V字形状における水平幅と高さの比は,5
対3であり,その下端の内角は,約80度である。正面視において,注
ぎ口の突出部により中央線が表れる。
また,注ぎ口と折り返し部内側面が交わることにより形成される形状
も,略V字(逆二等辺三角形状,以下「内側面V字形状」という。)を
呈している。内側面V字形状における水平幅と高さの比は,9対8であ
り,その下端の内角は,約60度である。正面視において,注ぎ口の突
出部により中央線が表れる。内側面V字形状の下端は,深く形成されて
いる。
上記のとおり,本願意匠に係る物品が透明体であることから,正面視
において,注ぎ口は,上辺が短く浅い外側面V字形状と,上辺が長く深
い内側面V字形状の二重の略V字形状が表れる。
側方視において,内容器の折り返し部よりも前方に直線的に突出して
おり,注ぎ口の折り返し部の上部が水平であることから,内容器の折り
返し部上端は,水平な直線を形成している。また,注ぎ口の先端は角張
って形成され,その角度(内角)は約67度である。
平面視において,折り返し部の中央の下部線が表れる。
イ 引用意匠
(ア) 折り返し部
折り返し部(注ぎ口を除いた部分)は,正面視(本願意匠に合わせて,
注ぎ口方向からの目視を指すものとする。以下同じ)及び側方視(本願
意匠に合わせて,注ぎ口方向から90度回転した方向からの目視を指す
ものとする。以下同じ)において,(断面図上)直線状の内側面,丸み
を帯びた頭頂面,及び直線上の外側面から構成されており,角張った印
象を与えない。内側面は,鉛直方向よりわずかに傾くように形成され
(傾斜角度はおおむね85度と推認される。),また,外側面も鉛直方
向よりごくわずかに傾くように形成され(傾斜角度はおおむね83度と
推認される。),その下縁はわずかに拡張した略玉縁状が形成されてい
る。
引用意匠の内容器として示されている各図面によれば,引用意匠(前
記のとおり,本願意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分
に相当する部分)の物品は,透明体ではないことから,正面視において,
折り返し部の内側面を視認することができない。そのため,折り返し部
の外側面で形成される形状(玉縁状部を含む。)として,下辺がやや長
い横長の台形形状(上辺,下辺,高さの比が,順におおむね約35対3
8対6.5)のみが表れることになる。四隅はいずれも丸みを帯びてお
り,その縦幅は内容器の全高の約7分の1である。
(イ) 注ぎ口
前方に突き出した注ぎ口の上端部は,正面視において,水平方向の直
線を形成することはなく,緩やかな円弧状を呈している。
「注ぎ口面」と「折り返し部外側面」が交わる部分は,直線又は曲線
を含めて,何らかの特定の形状(輪郭)を示すか否か明らかでなく,ま
た,「注ぎ口面」と「折り返し部内側面」が交わる部分も,直線又は曲
線を含めて,何らかの特定の形状(輪郭)を示すか否か明らかでない。
甲10においても,特定の輪郭線は図示はされていない(材質,表面の
光沢,光の当て方等によって左右されよう。)。少なくとも,本願意匠
のような外側面V字形状又は内側面V字形状を呈しないことは明白であ
る。
側方視において,折り曲げ部の上部は,直線かつ下り傾斜状(下がり
勾配角度20度)である。注ぎ口の先端は角張って形成され,その角度
(内角)は約70度である。また,「注ぎ口面」と「折り返し部内側
面」とは,(断面図上)曲線を描いて交わっており,ひらがな「く」を
傾けた形状を示している。
平面視において,注ぎ口は,手前から先端に進むに従い,曲率半径の
小さい曲線,曲率半径の大きい緩やかな曲線,先端部の丸みを帯びた曲
線へと変化し,直線は表れない。
⑵ 本願意匠と引用意匠の類否
ア 両意匠の特徴的部分
本願意匠は,①折り返し部について,正面視及び側面視において,いず
れも(断面図上)直線形状からなる内側面,頂面及び外側面により構成さ
れていること,②本願意匠に係る物品が透明体であるため,折り返しの内
側面も視認することができ,正面視において,下辺がやや長い横長の台形
と上辺がやや長い横長の台形との双方を目視することができる構造となっ
ていること,③折り返し部の縦の長さは,内容器の全高の約5分の1であ
り,縦に長い形状であること,④注ぎ口について,本願意匠に係る物品が
透明体であるため,正面視において二重略V字形状を有し,それぞれが折
り返し部上端の直線を底辺とする逆二等辺三角形を構成していること,⑤
注ぎ口の側方視において,上端が水平状であり,折り返し部の上部横線の
延長線上に位置し,突端を平面視やや角張って形成している点に特徴があ
る。
これに対し,引用意匠は,①折り返し部について,正面視及び側方視に
おいて,いずれも(断面図上)直線状の内側面,丸みを帯びた頭頂面,及
び直線上の外側面から構成されており,全体として角張った印象を与えな
いこと,②本願意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分に相
当する部分の物品は,透明体ではないため,正面視において,折り返し部
の内側面を視認することができないこと(視認することができる旨の図示
はされていないこと),③下辺がやや長い横長の台形形状の四隅はいずれ
も丸みを帯びており,その縦幅は内容器の全高の約7分の1であって,短
く形成されていること,④注ぎ口について,正面視において,内容器の折
り返し部上端は,水平方向の直線を形成することはなく,緩やかな円弧状
を呈しており,少なくとも,本願意匠にあるような直線的な外側面V字形
状又は内側面V字形状を呈していないこと,⑤注ぎ口は,側方視において,
上端をやや下り傾斜状とし,中央の折り曲げ部の傾斜は(断面図)曲線を
描いて「折り返し部内側面」に連なっていること,平面視において,注ぎ
口は,手前から先端に進むに従い,曲率半径の小さい曲線,曲率半径の大
きい緩やかな曲線,先端部の丸みを帯びた曲線へと変化し,直線が用いら
れてないこと等に特徴がある。
イ 類否の判断
上記の認定に基づいて,本願意匠と引用意匠の類否を判断する。
本願意匠は,折り返し部及び注ぎ口ともに基本的に直線で形成され,全
体の縦が長く,注ぎ口を大きくかつ深く,正面視において二重略V字形状
を有し,これらの特徴を総合すると規則的であるが,シャープな印象を与
える形状ということができる。
これに対して,引用意匠は,注ぎ口の側方視を除いて折り返し部及び注
ぎ口ともに基本的に曲線で形成され,全体の縦の長さが横の長さに比して
短く,注ぎ口が小さくかつ浅く,正面視において円弧形状を示し,平面視
において,注ぎ口は,手前から先端に進むに従い,曲率半径を変化させ,
曲線が多用され,これらの特徴を総合すると,不規則かつ複雑であるが,
全体として柔軟で暖かな印象を与えるものといえる。
⑶ 上記によれば,本願意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品がいずれもビー
ルピッチャーであり,いずれもその構造が内容器と外容器の二重構造を有す
るうちの内容器に関するものである他,注ぎ口及び折り返し部を有するとい
う基本的な構成態様において共通する点を有するが,具体的な注ぎ口及び折
り返し部の形状態様において,看者に異なる美感を与えているものというべ
きである。したがって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはでき
ない。
⑷ 被告の主張に対し
被告は,①本願意匠の物品分野において,内容器本体の外側面の底面周縁
より上方の側方視態様を直線状としたものや,②外側注ぎ口の上側を側方視
水平状とし,突端を平面視やや角張って形成し,中央の折り曲げ部の傾斜を
急傾斜とした態様のものは,甲2,11ないし14,乙2ないし8にみられ
るようにありふれたものであり,看者の注意を惹くものではないと主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,注ぎ口の上記態様は,側方視において看者の注意を惹くもので
あること,上記公知意匠は本願意匠と異なり,①内容器と外容器との二重構
造をなすものではないこと(甲11,13,14,乙5),②注ぎ口の端部
が曲線からなるもの(甲11),略台形状からなるもの(甲12)であるこ
と,③注ぎ口の下端が折り返し部の下部と接していないこと(甲2,12,
乙2),④注ぎ口の下斜め線が直線となっていないこと(甲14),⑤注ぎ
口の輪郭が正面視略V字形状を有するとしても,その外側に注ぎ口内部の輪
郭線が示されて二重略V字形状を有するものではないこと(乙3ないし8)
からすれば,本願意匠の一部について公知のものが含まれるとしても,それ
をもって本願意匠と引用意匠との類否の判断に影響を及ぼすものとはいえな
い。
2 結論
以上に検討したところによれば,本願意匠と引用意匠とは類似するとはいえ
ず,意匠法3条1項3号に該当しないから,審決の判断は誤りであり,原告の
主張する取消事由には理由がある。
よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 中 平 健
裁判官 上 田 洋 幸
(別紙)
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