ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成20(行ケ)10249 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成20年12月25日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告特許庁長官 原告X |
| 対象物 | 鋏 |
| 法令 |
特許権 特許法29条1回 |
| キーワード | 審決14回 実施5回 進歩性4回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 本件は,原告が発明の名称を「鋏」とする特許の出願をしたところ,拒絶査定を 受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をし たことから,その取消しを求めた事案である。 |
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平成20年12月25日判決言渡
平成20年(行ケ)第10249号 審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日 平成20年12月18日
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁護士 中 村 昌 樹
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 菅 澤 洋 二
同 野 村 亨
同 森 川 元 嗣
同 小 林 和 男
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2007−8098号事件について平成20年5月20日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が発明の名称を「鋏」とする特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。争点は,本願発明(特許請求の範囲の請求項1記載のもの)が,実願平5−32号(実開平6−85665号)のCD−ROM(甲8)に記載された発明(以下「甲8発明」という 。)との関係で進歩性を有するかどうか(特許法29条項)である。1 特許庁における手続の経緯原告は,平成14年2月7日,特許出願(特願2002−31583号。請求項の数は2。以下「本願」という。平成15年8月19日出願公開,特開2003−号〔甲2 〕)をし,平成18年9月11日,手続補正をした(甲4)が,特許庁は,平成19年2月20日,特許出願に対する拒絶査定をした。これに対し,原告は,上記拒絶査定に対する不服の審判請求をしたので,特許庁は,この請求を不服2007−8098号事件として審理し,平成20年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない 。」との審決をし,その謄本は平成20年月9日原告に送達された。2 本願発明上記補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1には,次の発明が記載されている(以下「本願発明」という。 。)「 請求項1】基端が交差状態で軸支された1対のブレード1,2のうち,長さL【の片方のブレード2の先端が,突き刺し易いように尖っていること,先端が尖っている側のブレード2において,他方のブレード1の長さL1より寸法Aだけ長く突出している先端2aのブレード角をそのまま根元まで延長した形状とすることによって,該ブレード2の全長にわたってその幅を細く形成してあること,を特徴とする鋏。」3 審決の内容審決の理由の要旨は,次のとおりである。引用文献2:実願平5−32571号(実開平6−85665号)のCD−ROM(甲8)には,「ハサミ」に関して,図面とともに,以下の記載がある。 …以上によれば,引用文献2には ,「ほぼ中央に位置するピンを支点にして開閉自在に支持された上下のハサミ単体から構成されたハサミ本体において,上のハサミ単体における他方側の下面に位置するみねはピン側から先端にかけて,少しずつ先細の針状になるよう一様な角度で部分的に細くなっているハサミ 。 (甲8発明)が記載されている。」本願発明と甲8発明とを比較すると,鋏である点で,両者は共通しており,さらに,後者の「上下のハサミ単体」は,前者の「1対のブレード1,2」に相当し,さらに,後者の ,「上のハサミ単体における他方側の下面に位置するみねはピン側から先端にかけて,少しずつ先細の針状になるよう一様な角度で部分的に細くなっている」点は,前者の「先端2aのブレード角をそのまま延長した形状とすることによって,該ブレード2の幅を細く形成してある」点に相当する。してみれば,両者の一致点は以下のとおりである。<一致点>「基端が交差状態で軸支された1対のブレード1,2のうち,片方のブレード2の先端が,突き刺し易いように尖っていて,先端2aのブレード角をそのまま延長した形状とすることによって,該ブレード2の幅を細く形成してある鋏 。」そして,以下の点で相違している。<相違点1>本願発明は ,「先端が尖っている側の長さL2のブレード2において,他方のブレード1の長さL1より寸法Aだけ長く突出している」のに対して,甲8発明はそうではない点。<相違点2>本願発明の先端2aのブレード角をそのまま延長したのは ,「根元まで」であり,これにより,該ブレード2がその幅を細く形成してあるのは ,「全長にわたって」であるのに対して,甲8発明では,上のハサミ単体における他方側の下面に位置するみねはピン側から先端にかけて少しずつ先細の針状になるよう構成されてはいるが,先細なのは部分的であって,根元まで先細ではなく,これにより,上のハサミ単体は,全長にわたって幅を細く形成してはいない点。<相違点1>について検討する。甲7発明(実願昭50−124085号(実開昭52−37388号)のマイクロフィルム)において,下刃は針状に形成され,しかも,上刃より長く形成されている。そして,甲7発明の下刃は本願発明の長さL2の片方のブレード2に相当し,同様に,上刃は,長さL1の他方のブレード1に,相当することが明らかである。さらに ,「寸法A」についてみても,その意味するところは,他方のブレード1の長さL1より,片方のブレード2の長さL2が,Aだけ長いというにとどまり,Aという値それ自体に意味は見い出せない。以上のとおり,相違点1に係る本願発明の構成は甲7発明に示されているということができ,鋏を閉じた状態で使うことは甲7発明に示され,突出した針状の先端部で突き刺し,窓を開ける作業を行う点でも,甲8発明と甲7発明は共通しているから,これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。してみれば,相違点1に係る構成の違いは,甲8発明に甲7発明を組み合わせたにすぎないものであり,当業者が容易に想到し得たものである。<相違点2>について検討する。相違点2は,刃わたり全体を先細とするか,部分的に先細とするかの違いであって,これは,鋏を開いた状態において,先細のブレード2を根元まで突き刺せるか,途中まで突き刺せるかの違いであって,鋏としての使い方であるブレードの開閉操作による切断においては,両者共,違いはない。そして,先細部分の長さを,刃わたり全体とするか,部分的にするかは,用途や要求される仕様に応じ,ブレードの強度,使い勝手などを踏まえて適宜決定して設計すればよい事項である。してみれば,相違点2に係る構成の違いは,設計的事項であり,当業者が容易に想到し得たものである。以上のとおり,本願発明は,甲8発明,甲7発明,及び設計的事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第3 原告主張の取消事由
審決には,以下に述べるとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(甲8発明の認定の誤り)
審決は,甲8発明を ,「…上のハサミ単体における他方側の下面に位置するみねはピン側から先端にかけて,少しずつ先細の針状になるよう一様な角度で部分的に細くなっている…」(5頁7行∼9行)と認定する。しかし,甲8の【請求項2】には ,「下のハサミ単体の他方側における刃とは反対側に位置するみね部分には,ペーパーナイフ用刃部が形成されている」との記載がある。この点,甲8の【請求項2】には「下のハサミ」と記載されているものの,【図2】の使用状態を見ると,4Cのハサミすなわち「上のハサミ」の嶺部分にペーパーナイフ用刃部が形成されていることが明らかであるから,上記【請求項2】にいう「下のハサミ」とは,甲8の【請求項1】にいう「上のハサミ」の誤記であると解される。これを前提とすると,甲8の【請求項2】の上記記載によれば,上のハサミについては,刃の反対側にもペーパーナイフ用刃部が形成されていることになる。そうだとすると,上のハサミについては,ハサミの両面に刃が存するため ,「先細の針状」であるのは,あくまで4Eのみね部分にすぎず,はさみ全体の構成としては「針状」ということはできず,それゆえ効果としても ,「針状」の形状がもたらす効果を期待できない。また,甲8の【請求項2】にいう「下のハサミ」が【請求項1】にいう「上のハサミ」の誤記でないとしても,甲8発明において ,「先細の針状」であるのは4Eのみね部分にすぎず,甲8発明のブレード(はさみ)が全体的に「針状」といえないことに変わりはない。
2 取消事由2(本願発明の顕著な作用効果等の看過)
審決は,次に述べるように,本願発明の顕著な作用効果等を看過したものである。すなわち,本願発明においては,寸法Aだけ長く突出している部分2aのブレード角をそのまま根元まで延長した形状とすることによって,該ブレード2の全長にわたって,段差なしに,その幅を細く形成してあるため,根元まで抵抗なく容易に一気に突き刺せるので,引き続いて双方のブレード1,2を1∼2回だけ開閉操作するだけですみ,突き刺してから切断まで連続してスムーズに,少ない開閉操作でカットできるという顕著な効果を奏し,開封以外でも,密生状態の蘭の剪定や,カニ料理を食べる際の使用等に,便利な効果が期待できる。また,ブレード2の先端から根元まで,全長にわたってブレード角をそのまま延長した形状であるため,該ブレード2の形状がシンプルとなり,製造も容易になり,量産に適し,安価に提供することが可能となる。これに対し,実願昭50−124085号(実開昭52−37388号)のマイクロフィルムに記載された発明(甲7発明)の場合,下刃1の先端部3を針状に形成するために,先端部3の背嶺部を切除してあり,これにより背嶺部を切除した針状の先端部3と背嶺部を切除していない下刃1との間に段差ができる。その結果,この針状の先端部3をシートなどの被切断部に突き刺した場合,段差部が邪魔になって,それ以上突き刺すことができず,引き続いてカットすることができない。また,先端部を突き刺した最初の段階では,ブレードを小刻みに開閉して,いったん口を大きく開けてからでないと,ブレード全長を挿入することができず,操作性が悪く,子供や高齢者には使い勝手が悪い鋏となる。また,甲8発明においては,そもそも,ハサミの両面に刃が存在することから,先細の針状であるのはあくまで4Eのみね部分にすぎないため,本願発明が想定している食品等の包装用のパックなどを突き刺して開封するには適さない。さらに,甲7発明の課題が,主としていわゆる窓切りを容易にすることにとどまり,また,甲8発明の課題が,紙,絹類の平面の途中から切り口ができてそのまま切り抜きが簡単にできるようにすることにとどまるのに対し,本願発明の課題は,パックの開封等を容易にかつ小さな力で行えるようにすることにあることからすれば,課題の共通性も存しない。このような甲8発明,甲7発明と比較して,本願発明は,針を突き刺すように容易に包装パック等に突き刺すことができるという顕著な効果を発揮できる。そのため,本願発明は ,「日本産業発展に寄与すること大なる優秀なる発明」として新日本優秀発明選定協議会から表彰されている(甲9)。
第4 被告の反論
1 取消事由1(甲8発明の認定の誤り)に対し
甲8においては,明細書全体を通じて2つの実施例が示されているところ,第1の実施例は段落【0006 】 【0007】及び【図1 】 【図2】に記載のハサミ, ,に係るもの,他の実施例はペーパーナイフ用刃部を有するもので,段落【000】 【0009 】, ,及び図3∼6に記載のハサミ11に係るものとして示されている。そして,甲8の段落【0009】の記載は ,【図4】∼【図6】に記載のペーパーナイフ用刃部51Eが,下のハサミ単体51のみね部に形成されたものであることを示している。そうすると,甲8の【請求項2】の「下のハサミ単体の他方側における刃とは反対側に位置するみね部分には,ペーパーナイフ用刃部が形成されている請求項1記載のハサミ 。」との記載は,上記段落【0009】の記載と対応するから,同【請求項2】の記載において「下のハサミ」としている点は誤記ではない。すなわち,【図2】は,ペーパーナイフ用の刃部を有するものではないし,第1の実施例のハサミ1の上のハサミ4Cのみね部分にペーパナイフ用刃部が形成されてもいない。したがって,
(原告の主張)
は前提において誤っており,審決の甲8発明の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本願発明の顕著な作用効果等の看過)に対し
(1) 原告は,甲7発明との比較において,本願発明の格別の効果を主張する。
しかし,審決は,甲7発明を,先端が尖っている側のブレードを他方のブレードより長くした点(相違点1)について引用したものであるところ,原告は,単に甲発明との比較のみで有利な効果を主張しているものであり,失当である。すなわち,原告主張の点は甲8発明にあり,甲8発明も,程度の差こそあれ本願発明と同様の効果を奏するものである。また,相違点2については,細い部分の長さをどの程度とするかは,刃の強度や用途,生産性等を考慮して当業者が適宜設定すべき事項であるから,当業者が容易に想到し得たものである。
(2) 原告は,本願発明は甲7発明,甲8発明と課題の共通性がないと主張する 。
しかし,本願発明は,シート状物の面の中央を切り抜くことができる点で甲7発明,甲8発明と共通しており,原告が主張する甲7発明,甲8発明との比較における本願発明特有の課題は,発明の用途をパックの開封などに限定したというものにすぎず,パックの開封自体は何ら新規な課題ではない。
(3) なお,審決の甲8発明の認定に関する誤りがないことは,前記1で述べた
とおりであるから,これを前提とする
(原告の主張)
は失当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(甲8発明の認定の誤り)について
原告は,甲8発明について,甲8の【請求項2】には「下のハサミ」と記載されているものの ,【図2】の使用状態を見ると,4Cのハサミすなわち「上のハサミ」の嶺部分にペーパーナイフ用刃部が形成されていることが明らかであるから,【請求項2】にいう「下のハサミ」とは,甲8の【請求項1】にいう「上のハサミ」の誤記であると解され,これを前提とすると ,「先細の針状」であるのは,あくまで4Eのみね部分にすぎず,はさみ全体の構成としては「針状」ということはできない,甲8の【請求項2】にいう「下のハサミ」が【請求項1】にいう「上のハサミ」の誤記でないとしても,甲8発明において ,「先細の針状」であるのは4Eのみね部分にすぎず,甲8発明のブレード(はさみ)が全体として構成として「針状」といえないことに変わりはない,と主張する。しかし,まず,甲8の【請求項2】には「下のハサミ」と明記されているところ,甲8の段落【0009】にも ,「…下のハサミ単体51の他方側51Cにおける刃Dとは反対側に位置するみね部分には,ペーパーナイフ用刃部51Eが形成されている 。」とあり,下のハサミにペーパーナイフ用刃部51Eが形成されていることが記載されている。また,背面図である図4を見ても,下のハサミ(背面図であるため,同図では上側に位置している)に51Eがあることが示されている。原告が指摘する【図2】は,上のハサミのみね部分がたまたまペーパーの切り口に沿っているように見えるにとどまり ,【図2】のハサミ1について記載されている段落【0006 】 【0007】を見ても,ペーパーナイフ用刃部51Eの記載はな,いから ,【図2】は,ペーパーナイフ用刃部を発明特定事項としない【請求項1】の実施例であるとみるのが自然である。そうすると,甲8発明においてペーパーナイフ用刃部が形成されているのは,甲の【請求項2】に記載されたとおり,先細の針状にはなっていない方である下のハサミであることが明らかである。したがって,甲8の【請求項2】にいう「下のハサミ」が【請求項1】にいう「上のハサミ」の誤記であるとする
(原告の主張)
の前提がそもそも失当であることとなる。また,原告は,甲8発明において「先細の針状」であるのは,4Eのみね部分であって,ブレードではないと主張する。確かに,甲8では ,「みね4Eはピン側から先端にかけて少しずつ先細の針状になるよう構成されている 。 (段落【0007 】」 )と記載され,みね部分が針状になっていると受け取ることができる記載がされている。しかし,はさみのブレードは,切断に関与する刃とその反対側に位置するみねによって構成されているものであるから,先細の針状となったみね4Eが存在するブレードの部分も,先細の針状になっているということができる。また,審決は,甲8発明のハサミが全体として「先細の針状」であると認定してはおらず ,「上のハサミ単体における他方側の下面に位置するみねはピン側から先端にかけて,少しずつ先細の針状になるよう一様な角度で部分的に細くなっているハサミ 。」と認定している上,原告が指摘するような,幅を細く形成してある部分が全長にわたるものか部分的なものであるかという点は,相違点2において認定されている。以上によれば,原告の上記主張は採用することができず,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願発明の顕著な作用効果等の看過)について
(1) 原告は,本願発明では,ブレード2の全長にわたって,段差なしに,その
幅を細く形成してあるため,根元まで抵抗なく容易に一気に突き刺せるので,突き刺してから切断まで連続してスムーズに,少ない開閉操作でカットできるという顕著な効果を奏し,開封以外でも,密生状態の蘭の剪定やカニ料理を食べる際の使用等に便利な効果が期待でき,シンプルな構成のため量産に適し,安価に提供もできる,一方,甲7発明では,段差があるので深く突き刺すことができず,操作性が悪いと主張する。しかし,審決は,幅を細く形成してある部分が根元までかどうかという点は相違点2として認定し,甲8発明を引用発明としてその容易想到性を判断しているところ,甲8の【図1】∼【図4】には,その先端から根元までの全長の半分を超える長さにわたり,幅を細く形成したハサミが示されている。そうすると,たとえ甲7に図示されたハサミにおいては幅を細く形成してある部分が先端付近にとどまっており蘭の剪定やカニを食べる際の操作性が悪いとしても,甲8に図示されたハサミを考慮すれば,幅を細く形成してある部分を,根元に至るまで延長するかどうか,そもそもどの程度の長さにするかということは,その使用対象や使い勝手等を考慮して当業者が適宜決定する設計的事項というほかない。そうすると,本願発明が,ブレード2の全長にわたって段差なしにその幅を細く形成してあるとしても,そのような本願発明の効果が甲8発明と対比して進歩性を肯定できるような顕著な効果であるということはできない。以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は,甲8発明においては,そもそも,ハサミの両面に刃が存在するこ
とから,先細の針状であるのはあくまで4Eのみね部分にすぎないため,本願発明が想定している食品等の包装用のパックなどを突き刺して開封するには適さないと主張する。しかし,甲8発明のハサミが包装用のパックなどを突き刺して開封するには適さない面があるとしても,上記(1)の説示に照らせば,そのことのみでは本願発明の進歩性を肯定できるような,作用効果の顕著性を根拠付けるには十分とはいえない。また,
(原告の主張)
が,甲8発明において先細の針状になっている方である「上のハサミ」にペーパーナイフ用刃部が形成されていることを前提とするのであれば,前記1の説示に照らし,そもそもその前提が失当というべきである。以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は,甲7発明の課題が,主としていわゆる窓切りを容易にすることに
とどまり,また,甲8発明の課題が,紙,絹類の平面の途中から切り口ができてそのまま切り抜きが簡単にできるようにすることにとどまるのに対し,本願発明の課題は,パックの開封等を容易にかつ小さな力で行えるようにすることにあることからすれば,課題の共通性も存しないと主張する。しかし,甲7発明と甲8発明は,対象物に突き刺して使用する点では共通しているから,当業者は,甲7発明の利点を甲8発明でも得るべく,同じ機能を果たすための突き刺し部分の構成を甲8に適用して,本願発明の相違点1を容易に想到することができるというべきである。また,甲8発明と本願発明とは,技術分野を共通にし,対象物に突き刺して使用するという課題も共通にするというべきであり,本願発明の文言を見ても,その課題を,パックの開封等を容易にかつ小さな力で行えるようにするという点に限定して解することはできない。以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 原告は,甲8発明,甲7発明と比較して,本願発明は,針を突き刺すよう
に容易に包装パック等に突き刺すことができるという顕著な効果を発揮できるのであり,本願発明は ,「日本産業発展に寄与すること大なる優秀なる発明」として新日本優秀発明選定協議会から表彰されていると主張する。しかし,前記(1)の説示に照らせば,本願発明が
(原告の主張)
するような顕著な効果を有するということはできない。また,本願発明が上記の団体から表彰された事実は原告主張のとおり認められるが,上記の説示に照らし,そのような事実から直ちに原告主張の進歩性や顕著な効果を認めることはできない。以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(5) よって,取消事由2は,理由がない。
3 結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所 第1部裁判長裁判官塚 原 朋 一裁判官本 多 知 成裁判官田 中 孝 一
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