平成20(行ケ)10232審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年12月24日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告マルコ株式会社
補助参加人Z 原告X
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対象物 |
衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイド方式 |
法令 |
特許権
特許法148条3項1回 特許法29条2項1回 特許法148条1回
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キーワード |
審決60回 分割58回 実施29回 進歩性5回 無効4回 刊行物2回 無効審判2回 特許権1回 職務発明1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 被告は,発明の名称を「衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダー
メイド方式」とする特許第3692084号(請求項の数12)の特許権者で
ある。原告が上記特許の請求項1∼12について無効審判請求をしたところ,
特許庁は,補助参加人に特許法148条により参加を許可して審理した上,請
求不成立の審決をした。本件訴訟は,上記審決に不服の原告が,その取消しを
求めた事案である。 |
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判決文
判決言渡 平成20年12月24日
平成20年(行ケ)第10232号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年12月17日
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁理士 谷 義 一
同 阿 部 和 夫
同 佐 藤 久 容
同 登 山 桂 子
訴訟復代理人弁理士 新 開 正 史
被 告 マ ル コ 株 式 会 社
被 告 補 助 参 加 人 Z
訴訟代理人弁護士 東 野 修 次
同 飯 島 歩
同 中 山 務
同 栗 山 貴 行
訴訟代理人弁理士 横 井 知 理
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2007−800144号事件について平成20年5月8日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は,発明の名称を「衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダー
メイド方式」とする特許第3692084号(請求項の数12)の特許権者で
ある。原告が上記特許の請求項1∼12について無効審判請求をしたところ,
特許庁は,補助参加人に特許法148条により参加を許可して審理した上,請
求不成立の審決をした。本件訴訟は,上記審決に不服の原告が,その取消しを
求めた事案である。
2 争点は,本件特許発明1∼12が下記の各刊行物に記載された発明との関係
で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記
・ 特開2000−135233号公報(発明の名称「パンティーガード
ル」,出願人 A,公開日平成12年5月16日,甲1。以下同公報に記載
された発明を「甲1発明」という。)
・ 特表平9−504636号公報(発明の名称「注文服製造装置及び方
法」,出願人 カスタム クロージング テクノロジー コーポレイショ
ン,公表日平成9年5月6日,甲2)
・ 特開平7−316909号公報(発明の名称「体型把握用洋服」,出願人
B,公開日平成7年12月5日,甲3)
・ 特開平8−158111号公報(発明の名称「ファウンデーション」,出
願人 株式会社ダッチェス,公開日平成8年6月18日,甲4)
・ 「Dublevé(デューブルベ)」と称する株式会社ワコールのセミオ
ーダーシステムに関するカタログ(カタログ有効期間2000年[平成12
年]8月1日∼2001年[平成13年]1月31日,甲5)
・ 特開2000−64104号公報(発明の名称「カップ付き女性用衣
類」,出願人 株式会社ワコール,公開日平成12年2月29日,甲6)
・ 「手作りランジェリー」レディブティックシリーズ通巻1404号(19
99年[平成11年]3月20日株式会社ブティック社発行。甲7)
3 なお,補助参加人はマルコ株式会社に対し,本件特許に関し,大阪地裁平成
18年(ワ)第7529号事件において職務発明対価請求訴訟を提起してい
る。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
被告は,平成14年2月13日,発明者をZ(被告補助参加人)とし名称
を「衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイド方式」とする
発明について,特許出願(特願2002−34888号。公開特許公報は特
開2003−239130号)をし,平成17年6月24日特許第3692
084号として登録を受けた(請求項の数12。甲10。以下「本件特許」
という。)。
これに対し原告は,平成19年7月25日付けで,本件特許の請求項1∼
12について無効審判請求をしたので,特許庁は,同請求を無効2007−
800144号事件として審理し,Z(補助参加人)は被告を補助するため
特許庁の決定により特許法148条3項に基づき同事件に参加したところ,
特許庁は,平成20年5月8日,「本件審判の請求は成り立たない。」旨の
審決をし,その謄本は平成20年5月19日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件特許は,上記のとおり請求項1∼12から成るが,その内容は,次の
とおりである(以下,各請求項に対応して「本件特許発明1」などとい
う。)。
「【請求項1】身頃のヒップ部にヒップカップサイズを調節可能なヒップ
カップ計測手段を設けたオーダーメイド用ボトム計測サンプルで,該ヒップ
カップ計測手段は,前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向か
って切り込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介し
て着脱自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされ,前記一片の他
片との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が記されたことを特徴と
するオーダーメイド用ボトム計測サンプル。
【請求項2】前記ヒップ部の切り込みの内端位置は,ヒップトップの高さ
よりも下としたことを特徴とする請求項1記載のオーダーメイド用ボトム計
測サンプル。
【請求項3】身頃のウエスト部にウエストサイズを調節可能なウエスト計
測手段を設けた請求項1又は2記載のオーダーメイド用ボトム計測サンプル
で,該ウエスト計測手段は,前記ウエスト部がその上端から略縦方向に切り
込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自
在に止着可能でウエストサイズ調節可能とされ,前記一片の他片との連結位
置にウエストサイズ計測用の目盛が記されたことを特徴とするオーダーメイ
ド用ボトム計測サンプル。
【請求項4】身頃の脚囲部にその下端の脚口サイズを調節可能な脚口計測
手段を設けた請求項1∼3のいずれかに記載のオーダーメイド用ボトム計測
サンプルで,該脚口計測手段は,前記脚囲部が脚口から略縦方向に切り込み
を入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に
止着可能で脚口サイズ調節可能とされ,前記一片の他片との連結位置に脚口
サイズ計測用の目盛が記されたことを特徴とするオーダーメイド用ボトム計
測サンプル。
【請求項5】前記脚口計測手段は,前記ヒップカップ計測手段と連続して
形成されたことを特徴とする請求項4記載のオーダーメイド用ボトム計測サ
ンプル。
【請求項6】身頃の胴部に胴部サイズを調節可能な胴部計測手段を設けた
請求項1∼5のいずれかに記載のオーダーメイド用ボトム計測サンプルで,
該胴部計測手段は,前記胴部がその上端から略縦方向に切り込みを入れて分
割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能で
胴部サイズ調節可能とされ,前記一片の他片との連結位置に胴部サイズ計測
用の目盛りが記されたことを特徴とするオーダーメイド用ボトム計測サンプ
ル。
【請求項7】請求項1∼6のいずれかに記載のボトム計測サンプルに,カ
ップ部を有するトップが付設されたオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項8】前記トップは,前記ボトム計測サンプルに着脱可能に付設さ
れた請求項7記載のオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項9】前記トップは,バージスサイズを変えた複数のカップ受部
と,1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部との
組み合わせからなり,カップ受部に対してカップ部を着脱可能に設けてなる
請求項7又は8記載のオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項10】前記トップは,バージスサイズを変えた複数のカップ受部
と,1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部と,
一つのカップ受部において寸法の異なる複数のバック部との組み合わせから
なり,カップ受部に対してカップ部及びバック部を着脱可能に設けてなる請
求項7又は8記載のオーダーメイド用衣類計測サンプル。
【請求項11】前記衣類が体型補正機能を有する衣類である請求項1∼1
0のいずれかに記載のオーダーメイド用計測サンプル。
【請求項12】ヒップサイズを変えた請求項1∼11のいずれかに記載の
計測サンプルを複数用意し,着用者のヒップサイズに応じて計測サンプルを
選択して着用させ,カスタムサイズの計測をする衣類のオーダーメイド方
式。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件
特許発明1∼12は,甲1∼7に記載された発明に基づいて容易に発明す
ることができたとはいえない,というものである。
イ なお,審決が認定する甲1発明の内容,本件特許発明1と甲1発明との
一致点及び相違点は,次のとおりである。
<甲1発明の内容>
「左右の前身頃に両者の重ね合わせ量を調節可能な調節手段を設けた
パンティーガードルで,該調節手段は,パンティー部上端の前面中央部
から下方に向かって切り込みを入れてV字状に分割され,分割された前
身頃(8a)と前身頃(8b)とが,一方に設けた複数個のフック(1
5)と,他方に設けた,フック(15)と同数の段を複数備えた受け
(16)を介して着脱自在に止着可能で,複数個のフック(15)と止
着する受け(16)の段を選択することにより,両前身頃(8a,8
b)の重ね合わせ量を調節可能とされるパンティーガードル。」
<一致点>
「身頃を調節可能なボトムで,身頃が切り込みを入れて分割され,分
割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能でサイズ
調整可能なボトム。」
<相違点>
本件特許発明1は,身頃のヒップ部にヒップカップサイズを調節可能
なヒップカップ計測手段を設けたオーダーメイド用ボトム計測サンプル
であって,ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切り
込みを入れて分割されており,一片の他片との連結位置にヒップカップ
サイズ計測用の目盛が記されているのに対し,甲1発明は,前身頃がパ
ンティー部上端の前面中央部から下方に向かって切り込みを入れてV字
状に分割されており,両前身頃(8a,8b)の重ね合わせ量を調節可
能としたパンティーガードルである点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法なものとし
て取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件特許発明1と甲1発明との相違点についての判断の誤
り)
(ア) 審決は,本件特許発明1の技術的意義について,「…本件特許発明
1は,ボトムのヒップ部が,股口からヒップカップ部の略中央に向かっ
て切り込みを入れて分割されており,着用者の股口において,分割され
た一片と他片を合わせることにより,ボトムの脚周りを着用者の脚の付
根の水平方向における周長に合わせるとともに,ヒップカップ部の略中
央側の切り込み端部を頂点とする円錐形が形成され,ヒップトップを頂
点とした着用者のヒップ部に適合してヒップカップを形成し,一片の他
片との連結位置に記されたヒップカップサイズ計測用の目盛により,ボ
トムをオーダーメイドで作製する際のサンプルを形成するものと解する
ことできる。」(16頁11行∼19行)と判断しているが,この判断
は,次のとおり,本件特許請求の範囲「請求項1」の記載に基づくもの
ではなく,誤りである。
a 本件特許請求の範囲「請求項1」には,前記のとおり「身頃のヒッ
プ部にヒップカップサイズを調節可能なヒップカップ計測手段を設け
たオーダーメイド用ボトム計測サンプルで,該ヒップカップ計測手段
は,前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切り
込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して
着脱自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされ,前記一片
の他片との連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が記されたこ
とを特徴とするオーダーメイド用ボトム計測サンプル。」と記載され
ている。
この記載によれば,ヒップカップ計測手段を構成する「切り込み」
は,「股口からヒップカップ部の略中央に向かって」入れられて,ヒ
ップ部を分割するものと認められるが,上記記載からは,「切り込
み」における略中央側の切り込み端部の位置を特定することはでき
ず,この「略中央側の切り込み端部」が,ヒップカップの頂点に位置
するとは一概にいえない。
b そうであれば,「切り込み」により,ヒップカップサイズの調節を
行うに当たり,「略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形が形
成」されるとは限らず,また,「ヒップトップを頂点とした着用者の
ヒップ部に適合」するとも限らないから,審決が,「ヒップカップ部
の略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形が形成され,ヒップト
ップを頂点とした着用者のヒップ部に適合してヒップカップを形成
し」と認定したのは,誤りである。
c 本件特許請求の範囲「請求項1」の記載からすると,本件特許発明
1の技術的意義は,「股口からヒップカップ部の略中央に向かって」
入れられた「切り込み」により,ヒップカップ部下方におけるヒップ
サイズの調整が可能であるというにすぎないというべきである。
(イ) また審決は,「…甲第1号証発明は,前身頃(8a)と前身頃(8
b)の重ね合わせ量を調節することにより,着用者の骨盤における左右
の腸骨を,その本来の回動方向に向かって引き締めることにより正常な
骨盤矯正効果を得るとともに,腹部の筋肉の弛みを取ることをその技術
的課題としているものである。してみると,甲第1号証発明において
は,前身頃(8a)と前身頃(8b)の重ね合わせ量を調節することに
より,体型に応じて左右の腸骨に対する所望の引き締め作用を奏すれば
よいものであって,パンティーガードルの立体形状を,前身頃(8a)
と前身頃(8b)の切り込み始端側から終端側にかけての着用者の身体
の立体形状に合わせる必然性は何ら存在せず,現に,甲第1号証のいず
れにも,前身頃(8a)と前身頃(8b)の切り込み始端部を装着者の
身体のどの部分に対応させるのかについて何ら記載されていない。」
(16頁28行∼17頁3行)と判断しているが,この判断は,次のと
おり失当である。
a 甲1の【図6】には,審決(9頁下3行∼10頁4行)で認定され
たとおり,「…前身頃が,パンティー部上端の前面中央部(臍近傍)
から下方に向けて切り込みを入れて前身頃(8a)と前身頃(8b)
とにV字状に分割され,一方の前身頃(8b)に複数個のフック(1
5),他方の前身頃(8a)に,フック(15)と同数の受け(1
6)が複数段配置されている態様が図示されており,着用者に合わ
せ,複数のフック(15)と係合する受け(16)の段を選択するこ
とにより,前身頃(8a)と前身頃(8b)の重ね合わせ量を調節す
ること」が示されている。
また,甲1には,重ね合わせ量の調節に関し,「【0037】…ベ
ルト(13)より幅広とした同様のベルト(20)を,全長に亘っ
て,前身頃(8a)(8b)及び後身頃(9a)(9b)の内面に縫
着するとともに,左右の前身頃(8a)(8b)の間で開閉しうる前
開きとし,その左右の前身頃(8a)(8b)のいずれか一方に上記
と同様の複数のフック(15)を設け,かつ他方に,このフック(1
5)の個数と同数のものを1段として,複数段(この例では4段)の
リング状の受け(16)をほぼベルト(20)の長手方向に並ぶよう
にして設け,上記フック(15)をいずれかの段の受け(16)に選
択的に係合することにより,前面の開口部を閉じるとともに,ベルト
(20)の実効長を調節できるようにしている。すなわち,この実施
形態においても,フック(15)と受け(16)とが,間接的にベル
ト(20)の結合手段(14)となっている。」と記載されている。
b 上記aの記載によれば,前身頃(8a)と前身頃(8b)の重ね合
わせ量を調節することによって,ベルトの実効長を調節することが理
解できるところ,そうであれば,重ね合わせ量の調節とベルトの実効
長の調節とが,全く無関係であるとはいえない。むしろ,ベルトの実
効長の調節により,骨盤の矯正を行うためには,着用者の身体の立体
形状に合わせて,重ね合わせ量を調節する必要があると解するのが妥
当である。すなわち,調節の目的が骨盤の矯正にあるとはいえ,着用
者の体型はそれぞれ異なるものであり,着用者の身体の立体形状に合
わせなければ,調節の意味を成さないものである。
換言すると,甲1発明の本質は,着用者の体形に合わせて調整する
こと,ないしは,着用者の体形を補整することにあるというべきであ
り,骨盤の矯正は,体形に合わせた調整ないしは体形の補整の結果と
しての,ベルトの実効量の調節によって行われると解すべきである。
c さらに,甲1には,「【0005】また,腰まわりの長さを調節す
る手段を設けていないパンティーガードルにおいては,腰まわりより
太ももまわりが長い人の場合,パンティーガードルの腰まわりのサイ
ズを太ももまわりのサイズに合わせると,腰まわりがゆるくなり,骨
盤矯正の役割を果たせず,一方,太ももまわりより腰まわりが長い人
の場合,腰部を締めつけすぎる傾向がある。」,「【0006】本発
明は,従来のパンティーガードルが有している上記のような問題点に
鑑み,骨盤における左右の腸骨をその本来の回動方向に向かって引き
締めることができ,正常な骨盤矯正作用が得られるようにするととも
に,腰部の筋肉の弛みをとることができ,しかも腰まわりの長さを調
節しうるようにしたパンティーガードルを提供することを目的として
いる。」,「【0039】…フック(15)に係合する複数段の受け
(16)の列を,下方に向かって収束するほぼV字状の配置とし,パ
ンティー部(1)の上部を体形に合わせて引き締めることができるよ
うにしている。」と記載されており,これらの記載からみても,甲1
発明は,体形に合わせて引き締められるようにしたものであるとい
え,着用者の体形に合わせて調整すること,ないしは,着用者の体形
を補整することを,「矯正」するための前提としたものであることは
明らかである。
d そうすると,パンティーガードルの立体形状を,前身頃(8a)と
前身頃(8b)の切り込み始端側から終端側にかけての着用者の身体
の立体形状に合わせる必然性は大いに存在するというべきであるか
ら,「…パンティーガードルの立体形状を,前身頃(8a)と前身頃
(8b)の切り込み始端側から終端側にかけての着用者の身体の立体
形状に合わせる必然性は何ら存在せず,…」(審決16頁下3行∼下
1行)とする審決の認定は誤っている。
e また,甲1の段落【0039】には,上記cの記載があり,甲1の
【図6】には,上記aの事項が示されている。
上記の各記載によれば,甲1発明においては,「切り込み」の終端
がパンティー部下方の前面略中央部にあり,「切り込み」の始端がパ
ンティー部上端に位置することは明らかである。したがって,甲1に
明記されていないからといって,「…現に,甲第1号証のいずれに
も,前身頃(8a)と前身頃(8b)の切り込み始端部を装着者の身
体のどの部分に対応させるのかについて何ら記載されていない。」
(審決16頁下1行∼17頁3行)と認定することは誤りである。
f ところで,衣類に「切り込み」を設け,「切り込み」によりV字状
に分割された部分同士の重ね合わせ量を調節することによって,衣類
を身体の部分の体形に合わせるようにする採寸手法は,本願出願前周
知である(例えば,甲3の記載(審決11頁3行∼16行)参照)と
ころ,この手法によって身体の部分の体形に合わせるのであれば,
「切り込み」の終端は,重ね合わせの必要のない身体の部分に対応さ
せるのは当然であって,一方「切り込み」の始端をどの部分に対応さ
せるかについては,「切り込み」による調節を必要とする身体の部位
に応じて定められるものといえる。
g 以上のとおり,甲1発明の技術的意義についての審決の認定は誤り
であり,甲1発明は,「パンティーガードルの立体形状を,前身頃
(8a)と前身頃(8b)の切り込み始端側から終端側にかけての着
用者の身体の立体形状に合わせる」とともに,「前身頃(8a)と前
身頃(8b)の切り込み始端部」は「パンティー部の上部の体型に合
わせてパンティー上端に位置する」こと,及び「前身頃(8a)と前
身頃(8b)の切り込み終端部」は「重ね合わせの必要のない(調整
しない部分である)パンティー部下方の前面略中央部に位置する」こ
とを開示している。
そうすると,甲1発明は,調整する部分に切り込みの先端部が位置
し,調整を要しない部分に切り込みの終端部が位置するように切込み
を設けてなる,体型に合わせるための重ね合わせ調整技術であるとも
解することができるのである。
(ウ) また審決は,「…甲第1号証は,切り込み終端側で周長を合わせる
とともに,切り込み始端部を頂点とする円錐形を形成するという技術思
想を何ら示唆するものではなく,ましてや,着用者の股口において,分
割された一片と他片を合わせることにより,ボトムの脚周りを被計測者
の脚の付根の水平方向における周長に合わせるとともに,ヒップカップ
部の略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形を形成し,ヒップトッ
プを頂点とした被計測者のヒップ部に適合してヒップカップを形成する
という本件特許発明1の技術思想について,甲第1号証には何らの記載
も示唆もなされていないというべきである。」(17頁4行∼11行)
と判断しているが,この判断は,次のとおり誤っている。
a まず,「…甲第1号証は,切り込み終端側で周長を合わせるととも
に,切り込み始端部を頂点とする円錐形を形成するという技術思想を
何ら示唆するものではなく,…」は,「甲第1号証は,切り込み始端
側で周長を合わせるとともに,切り込み終端部を頂点とする円錐形を
形成するという技術思想を何ら示唆するものではなく,…」の誤記で
あると考えられる。
b 本件特許発明1が,「切り込み終端部を頂点とする円錐形を形成す
る」,「ヒップカップ部の略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐
形を形成し,ヒップトップを頂点とした被計測者のヒップ部に適合し
てヒップカップを形成する」という技術思想を必ずしも有するもので
ないことは,上記(ア)で述べたとおりである。
c そして上記(イ)で述べたとおり,甲1発明は,「パンティーガード
ルの立体形状を,前身頃(8a)と前身頃(8b)の切り込み始端側
から終端側にかけての着用者の身体の立体形状に合わせる」ととも
に,「前身頃(8a)と前身頃(8b)の切り込み始端部」は,「パ
ンティー部の上部の体型に合わせてパンティー部上端に位置する」よ
うにし,「前身頃(8a)と前身頃(8b)の切り込み終端部」は,
「重ね合わせの必要のない(調整しない部分である)パンティー部下
方の前面略中央部に位置する」ようにしたものである。
パンティーガードルにおいて,ヒップ部の膨らみ具合であるヒップ
カップサイズが,フィット性の向上のため,また,体型補正のために
調整を要するものであることは,本件特許明細書(甲10)に,「【
0002】【従来の技術】ガードル等のフィット性及び/又は体型補
正機能のある衣類は,様々な型の既製品が市販されており,着用者は
その中から目的に応じて体型に合うものを購入する。ガードルは,前
身,後身,股下部及び必要に応じて股口に連設される脚囲部を備えて
おり,ヒップ部頂部の周長であるヒップサイズ,ヒップ部の膨らみ具
合であるヒップカップサイズ及びウエストの最もくびれた部分の周長
であるウエストサイズが重要である。」と記載されているとおり,本
件特許出願前に周知である。なお,上記(イ)cの甲1の段落【000
5】の記載からみても,「パンティーガードルにおいて,ヒップ部の
膨らみ具合であるヒップカップサイズが,フィット性の向上のため,
また,体型補正のために調整を要するものであること」は明らかであ
る。
そうであれば,甲1発明に接した当業者であれば,甲1発明の「切
り込み」を用いた重ね合わせ調整技術が,ヒップカップサイズの調整
にも用いられることを容易に理解できるというべきであり,ヒップカ
ップサイズの調整に用いるに当たり,「重ね合わせの必要のない(調
整しない部分である)」部分として,「ヒップカップ部の略中央」を
定め,これに向かう,股口からの「切り込み」を設けることは,甲1
発明から容易に想到できることといわねばならない。
d 隆起部の頂点に向かう切り込みを設けることにより,隆起部の立体
形状に合わせたものとすることは周知の技術にすぎない。例えば,甲
8(近藤れん子著「近藤れん子の立体裁断と基礎知識」1998年[
平成10年]12月15日五版発行,株式会社モードェモード社,5
9頁及び83頁)のB3,B4,E及びFの図には,乳房(隆起部)
の頂点に向う切込み(ダーツ)を設けることにより,婦人服の胸部
を,乳房(隆起部)の立体形状に合わせたものとすることが示されて
いる。また,甲9(実願昭50−84855号[実開昭52−383
5号]のマイクロフィルム[考案の名称「X字形基本によるブラジャ
ー用パターン」,出願人 C])には,センター6(隆起部)の頂点
に切り込み部5(ダーツ)を設けることより,乳房(隆起部)の立体
形状に合わせたブラジャー用パターンが示されている。
上記甲8の記載は,肩部分から胸部に向かって「切り込み」を設
け,「切り込み」によりV字状に分割された部分同士の重ね合わせ量
を,普通体型と乳房の低い体型や鳩胸体型の場合によって調節するこ
とによって衣類を身体の部分の体型に合わせるようにしたものであ
る。また,上記甲9の記載は,胸の脇側から中心に向かって「切り込
み」を設け,「切り込み」によりV字状に分割された部分同士の重ね
合わせ量を調節することによって衣類を身体の部分の体型に合わせた
ものである。
これらの甲8及び甲9の記載からみても,衣類に「切り込み」を設
け,「切り込み」によりV字状に分割された部分同士の重ね合わせ量
を調節することによって,衣類を身体の部分の体形に合わせるように
する採寸手法は,本件特許出願前から周知であり,「切り込み」によ
る調節を必要とする身体の部位や用途に応じて定められるものといえ
る。
この周知技術からすれば,甲1発明をまたずとも,ヒップカップ部
に重ね合わせ調整用の切り込みを設け,切り込みを股口から「ヒップ
カップ部の略中央に向った」ものとすることは,当業者ならば容易に
想到できることというべきである。
なお,補助参加人は,甲8,甲9に記載の技術は,乳房に関するも
のであり,伸張を予定したものではないから,生地が伸張した状態で
着用するというパンティーガードルの性質に適応させることが必要と
なるため直ちに応用することはできない旨を主張する。しかし,「切
り込み」によりV字状に分割された部分同士の重ね合わせ量を調節す
ることによって,衣類を身体の部分の体形に合わせるようにする周知
技術が,身体の部分によらず調節の必要な部分に適用され得ることは
明らかである。パンティーガードルが,生地が伸張した状態で着用す
るものであるとしても,重ね合わせ量の調節の問題に帰するのである
から,生地が伸張した状態で着用するものであるからといって,上記
周知技術が応用できないとすることはできない。また,パンティーガ
ードルの生地の伸張はその用いる生地によって異なるところである
が,生地の伸張の程度に応じた調節方法が本件特許明細書に開示され
ているわけではなく,結局は作成した計測サンプルの生地において重
ね合わせ量の調節を行っているにすぎない。仮に,パンティーガード
ルの生地の伸張に合わせて,それに対応する計測用サンプルを作るの
であれば,パンティーガードルの種類に応じ伸張の度合いが異なる各
生地ごとに異なった計測用サンプルを作る必要があるが,この点につ
いて本件特許明細書には何ら記載されていない。さらに,本件特許請
求の範囲「請求項1」には,「…該ヒップカップ計測手段は,前記ヒ
ップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切り込みを入れ
て分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に
止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされ,…」と記載されてい
るのであり,「切り込み」を設けること以外に,生地が伸張した状態
で着用するものであるがゆえの調節用の構成が何ら特定されていな
い。
また,補助参加人は,甲8に記載されている技術は,図Cから明ら
かなように,調整後のカップ状になる部分の容量を意識して調節を行
うものではなく,また,図Fをガードル(ヒップ)に置き換えた場
合,カップ部の容量を変化させる部分に調節部分が存在しないことに
なると主張する。しかし,原告は,「切り込み」によりV字状に分割
された部分同士の重ね合わせ量を調節することによって,衣類を身体
の部分の体形に合わせるようにすることが周知であると主張している
のであり,甲8に記載の技術が,調整後のカップ状になる部分の容量
を意識して調節を行うものであるとも,ガードル(ヒップ)に置き換
えた場合に,カップ部の容量を変化させる部分に調節部分が存在する
とも主張しているわけではない。上記周知技術が,調節を要するもの
であることが明らかなヒップカップサイズの調整にも用いられること
は容易に理解できるのであるし,容量が意識されるか否かは,調節の
必要な部分の体型,調節の目的に因るのであって,ヒップカップサイ
ズの調整に上記周知技術を適用することに阻害要因が存在するわけで
はない。
(エ) 審決は,「…甲第1号証は,そもそも,分割された前身頃(8a)
と前身頃(8b)とが,一方に設けた複数個のフック(15)と,他方
に設けた,このフック(15)と同数の段を複数備えた受け(16)を
介して着脱自在に止着可能とすることにより,1つのパンティーガード
ルにより,種々の着用者の体型に合わせ,前身頃(8a)と前身頃(8
b)の重ね合わせ量を調節可能とするものであり,製品として完結した
ものといえ,これをパンティーガードルをオーダーメイドで作製する際
のサンプルとする技術的背景や動機付けは何ら見当たらない。」(17
頁12行∼19行)と判断しているが,この判断も,次のとおり誤って
いる。
a 従来,衣服等を作製するに当たって,着用者の体型に合わせたもの
とするため,また,着用者の体型を補整できるものとするため,事前
に,計測用サンプルを用いて,衣類等における各部分の採寸を行うこ
とは周知である(例えば,甲2,甲3参照)。また,この採寸に当た
って,あらかじめ重ね合わせ部分を設け,重ね合わせ量を調節可能と
することも広く行われている手法である(例えば,甲3参照)。さら
に,衣類に「切り込み」を設け,「切り込み」によりV字状に分割さ
れた部分同士の重ね合わせ量を調節することによって,衣類を身体の
部分の体形に合わせるようにする採寸手法が,本件特許出願前から周
知であることは上記(ウ)で述べたとおりである。
b 甲3には「【0006】【実施例】…上半身の体型に服地を添わせ
てそれぞれの縫合部で調整し採寸を行う。各縫合部に接着具(マジッ
クテープ等)を設ければ,待ち針,しつけ縫いを必要としない。」と
記載されており,マジックテープ等により各人の体型に添わせて調整
することができるものが記載されている。そして,甲1発明では,フ
ックと受け部により各人の体型に合わせて調整可能としている。そう
すると,当該重ね合わせ部分は,調整可能とするためのものである点
での作用,機能が共通しており,甲1と甲3とを結び付け,甲3に記
載の技術を甲1発明に適用することについて動機付けがあるといえ
る。審決は,甲1発明をオーダーメイド用サンプルとする技術的背景
や動機付けがなければ,甲1と甲3とを結び付けることはできないと
考えているようであるが,両証拠を結び付けるために,そのような技
術的背景等は必ずしも必要なものではない。
c また,そうであれば,仮に,甲1発明が,「1つのパンティーガー
ドルにより,種々の着用者の体型に合わせ,前身頃(8a)と前身頃
(8b)の重ね合わせ量を調節可能とするものであり,製品として完
結したもの」であるとしても,甲1発明の「切り込み」を用いた重ね
合わせ調整技術が,パンティーガードルをオーダーメイドで作製する
際のサンプルにも適用できるものであることは,上記甲2,甲3記載
の技術的な事項を勘案すれば当業者ならば容易に理解することであ
る。
製品として完結したものであっても,サンプル用に用いることがで
きることは明らかである(例えば甲2参照)から,甲1発明をサンプ
ル用に用いることは可能であるし,本件特許発明1に係る計測サンプ
ルであっても,「分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自
在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能」とされている以上,補
整用としても充分機能するものと認められるから,製品として完結し
ているか否かは,用い方の問題というべきであって,いずれにしろ,
相違点の判断を何ら左右するものではない。
(オ) 審決は,「…甲第2号証,甲第3号証に,試着服,体型把握用洋服
等の計測サンプルを用いて採寸することや,分断箇所に目盛を設けるこ
とが記載されているからといって,甲第1号証発明における前身頃(8
a)と前身頃(8b)の連結位置に計測用の目盛を記すことが当業者が
容易に想到し得ることとは到底いえない。」(17頁20行∼24行)
と判断している。
しかし,甲1発明の「切り込み」を用いた重ね合わせ調整技術が,パ
ンティーガードルをオーダーメイドで作製する際の計測用サンプルにも
適用できることは,既に述べたとおりであり,目盛を設けることは,計
測用サンプルにおいて周知の事実であるから,甲1発明の「切り込み」
を用いた重ね合わせ調整技術を,パンティーガードルをオーダーメイド
で作製する際の計測用サンプルに適用するに当たって,分割片の一片の
他片との連結位置に計測用の目盛を記すことは,当業者ならば容易に想
到できるというべきである。
(カ) 審決は,「また,請求人が提出した甲第2号証ないし甲第7号証の
いずれにも,本件特許発明1の相違点に係る構成や,上述した技術的意
義について,何らの記載も示唆もなされていないし,請求人の主張を勘
案してもこれらが本願出願前より周知の技術であるとの根拠も見いだせ
ないから,甲第1号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項や周知
技術をいかに組み合わせたとしても,本件特許発明1が,当業者にとっ
て容易に想到し得るものであるということはできない。」(17行25
行∼31行)と判断している。
しかし,この判断は,本件特許発明1及び甲1発明の技術的意義につ
いての誤った認定を前提としたものである。本件特許発明1と甲1発明
との相違点につき当業者が容易に想到できたことは,既に述べたとおり
であって,審決の上記判断は誤っている。
(キ) 以上のとおり,審決の本件特許発明1と甲1発明との相違点につい
ての判断は誤りであり,相違点は,甲1発明及び甲2,甲3記載の発明
並びに周知技術に基づいて容易に想到できるものである。
イ 取消事由2(本件特許発明2∼11の進歩性判断の誤り)
審決は,本件特許発明2∼12に関して,「…本件特許発明1が,本願
出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号ないし甲第7
号証に記載された発明に基いて,当業者がその本願出願前に容易に発明を
することができたものとはいえないから,本件特許発明1の構成をすべて
含む本件特許発明2ないし12が,甲第1号証ないし甲第7号証に記載さ
れた発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものといえな
いことは検討するまでもないことである。」(18頁9行∼15行)と判
断している。
しかし,前記アのとおり,本件特許発明1についての相違点の判断は誤
っており,本件特許発明1は,甲1発明及び甲2,甲3記載の発明並びに
周知技術に基づいて容易に想到できるものである。したがって,唯一,特
許発明1が容易に発明をすることができたものではないことを根拠とする
本件特許発明2∼12についての進歩性の判断にも誤りがある。
2 請求原因に対する認否
(1) 被告
被告は,本件口頭弁論期日に出頭せず,請求原因に対する認否もしない。
(2) 被告補助参加人
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 補助参加人の反論
(1) 取消事由1に対し
ア 原告は,本件特許請求の範囲「請求項1」の記載からは,「切り込み」
における略中央側の切り込み端部の位置を特定することはできず,この
「略中央側の切り込み端部」がヒップカップの頂点に位置するとは一概に
いえないことを根拠として,審決が「…ヒップカップ部の略中央側の切り
込み端部を頂点とする円錐形が形成され,ヒップトップを頂点とした着用
者のヒップ部に適合してヒップカップを形成し,…」(16頁14行∼1
6行)と判断したのは誤りであると主張する。
そもそも,ヒップトップとは,「ヒップの頂部(ヒップの最も太い部
分)」(本件特許明細書[甲10]段落【0016】)と同義であるとこ
ろ,原告のいう「ヒップカップの頂点」がいかなる意味であるかは明らか
ではない。しかし,この点をさておくとしても,本件特許請求の範囲「請
求項1」は「ヒップカップ計測手段」に関するものであるところ,本件特
許明細書(甲10)段落【0018】には「ここで,ヒップカップサイズ
とは,(ヒップサイズ)−(脚の付根の水平方向における周長寸法)で表
され,…」と記載され,また,段落【0016】において「また,ヒップ
の頂部(ヒップの最も太い部分)を通る水平方向の周長寸法で表されるヒ
ップサイズ…」と記載されているから,「ヒップカップ計測手段」とは,
ヒップトップすなわちヒップの頂点と脚の付根の水平方向における周長寸
法との差を計測する手段を意味することは自明である。
したがって,「ヒップカップ部の略中央側の切り込み端部を頂点とする
円錐形が形成され,ヒップトップを頂点とした着用者のヒップ部に適合し
てヒップカップを形成し,」と判断した審決に誤りはない。
イ 原告は,甲1の【図6】及び段落【0037】の記載に基づいて,甲1
発明の本質は,着用者の体形に合わせて調整すること,ないしは,着用者
の体形を補整することにあるというべきであり,骨盤の矯正は,体形に合
わせた調整ないしは体形の補整の結果としての,ベルトの実効量の調節に
よって行われると解すべきであるとの見解に基づき,審決が,甲1発明に
ついて,「…パンティーガードルの立体形状を,前身頃(8a)と前身頃(
8b)の切り込み始端側から終端側にかけての着用者の身体の立体形状に
合わせる必然性は何ら存在せず,…」(16頁下3行∼下1行)などと判
断したことを失当であると主張する。
しかし,甲1発明は,「…骨盤矯正機能を有するパンティーガードルに
関する。」(甲1,段落【0001】),「…骨盤における左右の腸骨を
その本来の回動方向に向かって引き締めることができ,正常な骨盤矯正作
用が得られるようにするとともに,腰部の筋肉の弛みをとることができ,
しかも腰まわりの長さを調節しうるようにしたパンティーガードル…」
(甲1,段落【0006】)との記載から明らかなように,骨盤の歪みや
それに伴う筋肉の弛み等を矯正,つまり「欠点をなおし,正しくする」
(「広辞苑第6版」株式会社岩波書店2008年[平成20年]1月発行
732頁[乙1])ことを目的とするものである。そこには,正常な状態
からずれてしまった骨格等を正常な状態に戻すための解決手段が示されて
いるにすぎず,本件特許発明1のように,着用者に合わせて,その人の体
型に見合った適切な美的外観を提供するとともに,着用者の好みに合わせ
た体型の補整,つまり「補い整えること」(「広辞苑第6版」2589頁
[乙2])を目的とするものとは性質が異なる技術が開示されているのみ
である。原告は,「調節の目的が骨盤の矯正にあるとはいえ,着用者の体
形はそれぞれに異なるものであり,着用者の身体の立体形状に合わせなけ
れば,調節の意味を成さない」と主張するが,着用者の体形に逐一合わせ
ていたのでは,ゆがんだ骨格を正しく直す力を発揮することは不可能であ
り,「矯正」の目的を全く果たすことができなくなってくることは明らか
であるから,原告のこのような主張は,「矯正」を目的とした甲1発明の
技術と矛盾するものであり,「甲1号証発明の本質は,着用者の体形に合
わせて調整すること,ないしは,着用者の体形を補整することにある。」
との主張は誤っている。
ウ 原告は,甲1の段落【0039】及び【図6】の記載から,「『切り込
み』の終端がパンティー部下方の前面略中央部にあり,『切り込み』の始
端が,パンティー部上端に位置することは明らかである』として,「…現
に,甲第1号証のいずれにも,前身頃(8a)と前身頃(8b)の切り込み始
端部を装着者の身体のどの部分に対応させるのかについて何ら記載されて
いない。」(16頁下1行∼17頁3行)との審決の判断を誤りであると
主張する。
しかし,甲1の【図5】においては,V字状の切り込みが,パンティー
部下方のやや右寄りに向かって入れられているのであり,甲1発明におけ
る切込みの形状が【図6】記載の形状に限定されているものではない。す
なわち,【図6】は,切り込み始端部を特定するための根拠とはなりえな
いものであり,甲1に切り込みの始端に関する明確な記載がない以上,そ
の部位を特定することは不可能である。
エ 原告は,「…甲第1号証は,切り込み終端側で周長を合わせるととも
に,切り込み始端部を頂点とする円錐形を形成するという技術思想を何ら
示唆するものではなく,ましてや,着用者の股口において,分割された一
片と他片を合わせることにより,ボトムの脚周りを被計測者の脚の付根の
水平方向における周長に合わせるとともに,ヒップカップ部の略中央側の
切り込み端部を頂点とする円錐形を形成し,ヒップトップを頂点とした被
計測者のヒップ部に適合してヒップカッブを形成するという本件特許発明
1の技術思想について,甲第1号証には何らの記載も示唆もなされていな
いというべきである。」(17頁4行∼11行)との審決の判断につき誤
りであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張には理由がない。
(ア) まず,上記原告の主張の根拠の1点目である,本件特許発明1が
「ヒップカップ部の略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形が形成
され,ヒップトップを頂点とした着用者のヒップ部に適合してヒップカ
ップを形成する」という技術思想を必ずしも有するものではないとの主
張が失当であることは,既に述べたとおりである。
(イ) 上記主張の根拠の2点目として,原告は,甲1の段落【0002】
の記載に基づいて,「パンティーガードルにおいて,ヒップ部の膨らみ
具合であるヒップカップサイズが,フィット性の向上のため,また,体
形補正のために調整を要するものであること」が周知であると主張して
いる。
しかし,原告が指摘する段落【0002】の記載中には「市販され
て」いる「既製品」についてのものであることが明記されているとこ
ろ,既製品は,調整することを意図していないものであるから,同記載
から「調整が重要である」との思想を読み取ることは不可能であり,こ
のような考えが周知であったことの根拠とはおよそなり得ない。
(ウ) 以上のように,原告の上記の主張はいずれも前提が誤ったものであ
る以上,原告が,これらの主張に基づいて導いている「甲1発明に接し
た当業者であれば,甲1発明の『切り込み』を用いた重合せ調整技術
が,ヒップカップサイズの調整にも用いられることを容易に理解できる
というべきであり,ヒップカップサイズの調整に用いるに当たり,『重
ね合わせの必要のない(調整しない部分である)』部分として,『ヒッ
プカップ部の略中央』を定め,これに向かう,股口からの『切り込み』
を設けることは,甲1発明から容易に想到できる」との主張も失当であ
ることは明白である。
(エ) なお,原告は,V字状に分割された部分同士の重ね合わせ量を調節
する技術に関する証拠として甲8及び甲9を提出し,これらについて主
張しているが,これらの技術はいずれも乳房の形状に関するものであ
る。これらをパンティーガードルに応用する場合には,生地が伸張した
状態で着用するというパンティーガードルの性質に適応させることが必
要となるため,このような伸張を予定しない技術を直ちに応用すること
はできない。甲8,甲9とも,パンティーガードルのこのような特質に
適応させるとの技術的思想が存在しない。
また,甲8に記載されている技術は,図Cから明らかなように,調整
後のカップ状になる部分の容量を意識して調節を行うものではなく,ま
た,図Fから明らかなように,バストの位置すなわちカップ部が形成さ
れる位置が変化しているだけである。ここには,本件特許発明1のよう
な,カップの容量を変化させ,着用者の体形補整効果を発揮しようとの
思想は存在せず,本件特許発明1とはその技術的発想が全く異なる。さ
らに,図Fをガードル(ヒップ)に置き換えた場合,アンダーバストに
位置するところが大腿部,ウエストが足口になるが,図Fでは当該部分
は調整される部位とはなっていない。すなわち,本件特許発明1におい
てカップの容量を変化させる部分に調整部分が存在しないことになる。
そして,甲8には,調整部分を変更することについて何らの示唆もされ
ていない。
以上のとおり,甲8及び甲9を基にしても,切り込みを「ヒップカッ
プ部の略中央に向かった」ものとする思想は容易に想到しうるものでは
ない。
オ 原告は,審決が,「…甲第1号証は,…製品として完結したものとい
え,これをパンティーガードルをオーダーメイドで作製する際のサンプル
とする技術的背景や動機付けは何ら見当たらない。」(17頁12行∼19
行)と判断したことが誤りであると主張する。原告の主張の根拠は,「事
前に計測用サンプルを用いて衣類等における各部分の採寸を行うことは周
知であること(例えば,甲2,甲3参照)」,「衣類に『切り込み』を設
け,『切り込み』によりV字状に分割された部分同士の重ね合わせ量を調
節することによって,衣類を身体の体形に合わせるようにする採寸手法が
本件特許出願前から周知であること」にある。
しかし,前者の理由付けに関しては,甲2及び甲3とも,採寸用のサン
プルとして,計測の目的のためにのみ使用されるものであり,この点で完
成した製品であり,採寸という用途を全く想定していない甲1発明とは大
きく異なるのであるから,完成品である甲1発明をオーダーメイドで作製
する際のサンプルとする技術的背景や動機付けが存在すると解する根拠と
なる余地はない。また,後者の理由付けについても,甲1発明にはそもそ
も着用者の体形に合わせるといった技術的思想が存在しないことは,既に
述べたとおりであるから,衣類を身体の体形に合わせる採寸手法の存在を
前提としたとしても,これと全く技術的思想の異なる甲1発明に基づい
て,完成品をオーダーメイドで作製する際のサンプルとすることの技術的
背景や動機付けが読み取れるとすることは不可能である。
カ 原告は,「甲1発明の『切り込み』を用いた重ね合わせ調整技術が,パ
ンティーガードルをオーダーメイドで作製する際の計測用サンプルにも適
用できることは,既に述べたとおりであり,目盛を設けることは,計測用
サンプルにおいて周知の事実であるから,甲1発明の「切り込み」を用い
た重ね合わせ調整技術を,パンティーガードルをオーダーメイドで作製す
る際の計測用サンプルに適用するに当たって,分割片の一片の他片との連
結位置に計測用の目盛を記すことは,当業者ならば容易に想到できるとい
うべきである。」と主張し,審決が,甲2,甲3から「甲第1号証におけ
る前身頃(8a)と前身頃(8b)の連結位置に計測用の目盛を記すこと
が当業者に容易に想定しうることとは到底いえない。」,「甲第1号証な
いし甲第7号証に記載された技術的事項や周知技術をいかに組み合わせた
としても,本件特許発明1が当業者にとって容易に相当し得るものである
ということはできない。」とした判断が誤りであると主張する。
この点,「甲1発明の『切り込み』を用いた重ね合わせ調整技術が,パ
ンティーガードルをオーダーメイドで作製する際の計測用サンプルにも適
用できる」との原告の主張が失当であることは,既に述べたとおりである
から,原告の主張は前提を欠く。また,原告の「目盛を設けることは,計
測用サンプルにおいて周知の事実である」との主張の裏付けとなる証拠は
甲2及び甲3しか存在しないところ,これらが対象としているのはいずれ
もアウターであり,アウターの場合は着用時に衣類を大きく伸縮させるこ
とはないため,目盛を付する際に特別な考慮は必要ないが,本件特許発明
1のようなファンデーションの場合,着用者の身体に直接触れる形で着用
されるものであり,かつ,着用時に必然的に生地が大きく伸張するから,
単純に目盛を付したのでは正確な採寸などできない。したがって,アウタ
ーについて目盛を付する技術が存在するからといって,直ちにファンデー
ションについても同様に目盛を付することが容易に想到しうるということ
はできない。
(2) 取消事由2に対し
前記(1)のとおり,審決には,本件特許発明1について,審決の結果に影
響を及ぼす判断の誤りは存在しない。
したがって,本件特許発明1に関する審決の判断に誤りがあることのみを
本件特許発明2∼12の進歩性判断の誤りの根拠としている原告の主張は失
当である。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,被告において本件口頭弁論期日に出頭せず,認否もせ
ず,被告補助参加人においてこれを争わないので,これらの事実について被告
は自白したものとみなされる。
2 本件特許発明1∼12の意義について
(1) 本件特許請求の範囲は,前記第3,1(2)のとおりである。また,本件特
許明細書(甲10)の【発明の詳細な説明】には,次の記載がある。
ア 発明の属する技術分野
「本発明は,ショートガードル,ロングガードル,ショートボディスー
ツ,ロングボディスーツ,スリーインワン,ウエストニッパー,水着等の
ボトムを有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイド
方式に関する。」(段落【0001】)
イ 従来の技術
「ガードル等のフィット性及び/又は体型補正機能のある衣類は,様々
な型の既製品が市販されており,着用者はその中から目的に応じて体型に
合うものを購入する。ガードルは,前身,後身,股下部及び必要に応じて
股口に連設される脚囲部を備えており,ヒップ部頂部の周長であるヒップ
サイズ,ヒップ部の膨らみ具合であるヒップカップサイズ及びウエストの
最もくびれた部分の周長であるウエストサイズが重要である。
しかし,上記サイズのすべてを組み合わせたガードルを用意するのは,
膨大な数となってコストがかかってしまう。そのため,市販されている既
製品はほぼ標準体型のサイズのものとなってしまい,着用者が完全に体型
に合ったものを見つけるのは難しいものとなっていた。
体型に合わず,身体に適度にフィットしないものを着用してしまうと体
型補正機能等の目的を達成できないばかりか,適度なフィット感が得られ
ず不快感を感じてしまう。特に,きつすぎる場合には圧迫により苦痛を感
じ,血流が悪くなる等して,身体に悪影響が及ぼされる。」(段落【00
02】∼【0004】)
ウ 発明が解決しようとする課題
「そこで,幾種類か標準サイズのガードルを予め用意しておき,カスタ
ムサイズに修正する方式が採用されている。すなわち,複数の標準サイズ
のものから着用者の体型に近似したサイズのものを選び,試着させる。そ
して,サイズが大きくて合わない部分がある場合は,その部分をつまみ,
つまみの長さを計測し,その分だけ小さくなるように修正していた。
しかしながら,標準サイズからカスタムサイズに修正するためには熟練
した技術を要し,修正ミスが起こりやすい難点があった。また,着用者が
仕上り製品の正確な着用感をあらかじめ疑似体験できないという難点があ
った。さらに,サンプルのサイズが小さい場合には,どの程度小さいのか
が実際に計測できないため,勘が頼りとなってしまい,正確に修正するの
は困難であった。
そこで,仕上がり状態と寸法的に同様な計測用サンプルを試着して実際
の着用感を体感でき,また体形補正を目的として,あるいは着用者の好み
に合わせて細かい寸法調整のできる衣類のオーダーメイド方式が望まれて
いた。
本発明の目的とするところは,着用者の体型にフィットしたカスタムサ
イズの衣類を提供し得るオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイ
ド方式を提供するところにある。また,着用者がカスタムサイズと同様な
計測サンプルを試着することができ,そのフィット感を確認した上で注文
することができる衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイ
ド方式を提供することを目的とする。」(段落【0006】∼【0008
】)
エ 課題を解決するための手段
(ア) 「上記目的を達成するために,本発明は,身頃のウエスト部にウエ
ストサイズを調節可能なウエスト計測手段を設けた衣類のオーダーメイ
ド用ボトム計測サンプル(以下,ボトム計測サンプルと略す)を特徴と
している。サイズ未調節のボトム計測サンプルを顧客に着用させ,ウエ
スト計測手段でウエストサイズを顧客のウエストに合わせて調節すれ
ば,カスタムサイズのウエストサイズを有するボトム計測サンプルが完
成されると共に,顧客はカスタムサイズ(顧客に合わせたサイズ)のボ
トム計測サンプルを試着をすることができる。同時に,その調節された
ウエストサイズを計測することができるので,これにしたがって衣類を
製造すれば,カスタムサイズのウエストサイズを有する衣類を提供する
ことができる。なお,ウエスト部とは,胴のくびれた部分に対応する部
位である。
ウエスト計測手段は,ウエストサイズを調節する機能と,その調節量
を計測する機能とを併せ持っている。ウエストサイズを調節する機能
は,身頃のウエスト部をその上端から略縦方向に切り込みを入れて分割
し,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能と
する態様で発現できる。一片と他片とを連結部材を介して着脱自在に止
着可能とするには,一片側を周方向に延設し,両片をオーバーラップさ
せ,両片に設けた連結部材で止着する態様が望ましい。または,分割さ
れた一片の外面と他片の内面とに面ファスナー等の連結部材を設け,一
片の連結部材を一片から他片方向にはみ出て延長させ,この延長部分に
より,一片と他片とを離反して連結させる態様としてもよい。ウエスト
調節量を計測する機能は,例えば,分割片の一片側に周方向に目盛を付
し,他片の端縁と目盛との合致位置で計測する態様で発現できる。
なお,ウエスト計測手段は,身頃のウエスト部の一部を錐形につまん
で周方向に折返した折返部を形成し,この折返部を折返した側のウエス
ト部に止着し,又は離反可能とする態様により,ウエストサイズを調節
する機能を発揮できるようにしてもよい。この折返しの量を変えること
により,ウエストサイズを調節することができる。この場合,ウエスト
調節量を計測する機能は,例えば,折返部を折返した側のウエスト部に
周方向に目盛を付し,折返部の連結位置(重ね合わせ位置)で計測する
態様で発現できる。
切り込み(又は折返し)は,前身側又は後身側のいずれに形成しても
よいが,サイズ調節のしやすさからいえば,前身側が好適である。ま
た,切り込み(又は折返し)は,ウエスト部のみならず,ウエスト部に
連なる前身側の下腹部又は後身側のヒップ部まで形成すると,調節量を
多くすることができる。
一片と他片(又は折返部と延長上のウエスト部)とを止着する手段と
しては,面ファスナー,スライドファスナー,フックアンドアイ,スナ
ップ,ボタン等,適宜の連結部材を選択できるが,着脱のしやすさ及び
サイズ調整のしやすさから面ファスナーが好適である。
また,一片と他片との連結において面ファスナーを使用する場合,試
着時に肌に触れる側を,多数のループ状係合素子が設けられた比較的肌
当たりの良い雌側の面ファスナー(ループテープ)とするのが好まし
い。例えば,一片を内側にし,他片を外側として連結する場合,他片の
内面に雌側の面ファスナー(ループテープ)を設け,一片の外面にフッ
ク状係合素子を有する雄側の面ファスナー(フックテープ)を設ける態
様が挙げられる。
また,目盛は,切込み(又は折返し)の内端部を中心にウエスト上端
に向かって放射状に形成し,切り込み(又は折返し)のある全範囲でウ
エストサイズを計測できるようになっている。」(段落【0009】∼
【0015】)
(イ) 「また,ヒップの頂部(ヒップの最も太い部分)を通る水平方向の
周長寸法で表されるヒップサイズが同じでも,ヒップの膨らみ具合,つ
まり,ヒップカップサイズが異なることが多い。ヒップサイズのみのオ
ーダーメイド方式では,顧客のヒップ形状に合わせることができない。
ヒップカップサイズは各種あるため,顧客に合ったヒップカップサイズ
のカスタムサイズにオーダーできるのが好ましい。
そこで,本発明は,後身のヒップ部にヒップカップサイズを調節可能
なヒップカップ計測手段を設けたボトム計測サンプルを提供するもので
ある。この構成によると,ボトム計測サンプルを顧客の身体に当ててヒ
ップカップサイズを顧客のヒップカップサイズに調節できる。したがっ
て,カスタムサイズのヒップカップサイズを有するボトム計測サンプル
を試着させることができ,同時にその調節されたヒップカップサイズを
計測することができる。
ここで,ヒップカップサイズとは,(ヒップサイズ)−(脚の付根の
水平方向における周長寸法)で表され,脚の付根の水平方向における周
長が短い程,ヒップの膨らみの具合は大きくなり,ヒップカップサイズ
は大きくなる。また,ヒップ部とは,後身のうち左右一対のヒップカッ
プ部と,その間の臀裂部とを含む概念であり,ヒップカップ部とは,臀
部の膨らみを包み込む部位を意味する。
ヒップカップ計測手段は,ヒップカップサイズを調節する機能と,そ
の調節量を計測する機能とを併せ持っている。ヒップカップサイズを調
節する機能は,前身の下端縁,後身の下端縁及び股下部の側縁によって
囲まれた股口のうち,後身の下端縁からヒップカップ部側に切り込みを
入れて分割し,分割した一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止
着可能とする態様で発現できる。また,身頃の股口の一部を錐形につま
んで周方向に折返した折返部を形成し,この折返部を折返した側の股口
に止着し,又は離反可能とする態様により,ヒップカップサイズを調節
する機能を発揮できるようにしてもよい。この折返しの量を変えること
により,ヒップカップサイズを調節することができる。また,ヒップカ
ップ調節量を計測する機能は,ウエスト計測手段と同様な構成によって
発現される。
また,切り込み(又は折返し)の内端位置は,ヒップトップの高さよ
りも下としたほうが好ましい。この位置をヒップトップの高さよりも高
い位置とすると,ヒップカップサイズの調節時にヒップサイズまでもが
変わってしまうからである。また,切り込み(又は折返し)は,ヒップ
カップ部の略中央に向かって形成すれば,ヒップカップ調節時にヒップ
カップのカップ形状が壊れにくいので好ましい。上記のヒップ計測手段
は,ボトム計測サンプルにおいて,単独で,また,ウエスト計測手段と
組み合わせて適用することができる。」(段落【0016】∼【002
0】)
(ウ) 「また身頃に,股口から脚の大腿部をも覆う脚囲部が付設されてい
るロングガードル等のボトム計測サンプルの場合,切り込み(又は折返
し)は,脚囲部の下端の脚口からヒップカップ部まで形成することがで
きる。この場合,脚囲部に脚口サイズを調節可能な脚口計測手段を設け
ることもできる。脚囲部とは,人体の脚部を覆う部位をいい,特に大腿
部(脚の付根から膝までの部分)に対応する部位に相当する。
脚口計測手段は,脚口サイズを調節する機能とその調節量を計測する
機能とを併せ持っている。脚口サイズを調節する機能は,脚囲部の脚口
から股口付近まで略縦方向に切り込みを入れて分割し,分割された一片
と他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能とする態様で発現でき
る。また,身頃の脚口の一部を錐形につまんで周方向に折返した折返部
を形成し,この折返部を折返した側の脚口に止着し,又は離反可能とす
る態様により,脚口サイズを調節する機能を発揮してもよい。この折返
しの量を変えることにより,脚口のサイズを調節することができる。ま
た,調節量を計測する機能は,ウエスト計測手段と同様な構成によって
発現される。
さらに,身頃に,胴部が付設されている股上の長いショートガードル
やロングガードル等のボトム計測サンプルの場合,切り込み(又は折返
し)は,胴部上端から下腹部又はヒップ部まで形成することができる。
この場合,胴部に胴部サイズを調節可能な胴部計測手段を設けることも
できる。ここで,胴部とは,ウエストと胸部との間の一部又は全部を指
し,胴部サイズとは胴部周りの水平長さのことである。
胴部計測手段は,胴部サイズを調節する機能とその調節量を計測する
機能とを併せ持っている。胴部サイズを調節する機能は,身頃の胴部の
上端からウエスト部上端まで略縦方向に入れて分割し,分割した一片と
他片とが連結部材を介して着脱自在に止着可能とする態様で発現でき
る。また,身頃の胴部の一部を錐形につまんで周方向に折返した折返部
を形成し,この折返部を折返した側の胴部に止着し,又は離反可能とす
る態様により,胴部サイズを調節する機能を発揮できるようにしてもよ
い。この折返しの量を変えることにより,胴部のサイズを調節すること
ができる。また,調節量を計測する機能は,ウエスト計測手段と同様な
構成によって発現される。
さらにまた,上記のボトム計測サンプルに,カップ部を有するトップ
を付設させた衣類のオーダーメイド用衣類計測サンプル(以下,衣類計
測サンプルと称す)とすれば,カップ部を有するボディスーツ等の衣類
に対応させることができる。なお,トップとは,上半身をの一部又は全
部を覆う衣類をいう。トップをボトム計測サンプルに付設させる形態
は,トップの下端及び/又はボトム計測サンプルの上端をそれぞれボト
ム計測サンプル方向及び/又はトップ方向に延長させて,トップをボト
ム計測サンプルに直接,付設させてもよいし,胴体を覆う胴体部を介し
て付設させるようにしてもよい。
その付設の形態は,連結する形態をとってもよいし,連結しない形態
をとってもよいが,連結させたほうが衣類全体としての着用感を体感で
きるので好ましい。また,その連結を着脱可能なものとすれば,ボトム
計測サンプルとトップとの種々の組合せが可能となるため,多様な体型
に対応でき好ましい。したがって,衣類計測サンプルの部品点数を少な
くすることができる。
トップは,バージスサイズを変えた複数のカップ受部と,1つのバー
ジスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部との組み合わせ
からなり,カップ受部に対してカップ部を着脱可能に設けたものであ
る。このように構成すれば,顧客のバージスサイズ及びカップ高さにフ
ィットしたカップ受部とカップ部を選定することが容易であり,顧客は
カスタムサイズのカップ部を有する衣類計測サンプルを試着し,そのフ
ィット感を確認した上で注文することができるので,着用時にフィット
感のある衣類を提供できる。なお,バージスサイズとは,乳房の下縁の
半円状の輪郭線(バージスライン)の長さのことをいう。
さらに,本発明においては,カップ受部とカップ部との組合せのみな
らず,バック部も着脱可能に組み合わせることにより,よりフィット感
のあるカップ部を有するオーダーメイド用衣類計測サンプルを提供でき
る。すなわち,バージスサイズを変えた複数のカップ受部と,1つのバ
ージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部と,一つのカ
ップ受部において寸法の異なる複数のバック部とを有し,カップ受部に
対してカップ部及びバック部を着脱可能に設けたものである。
これにより,トップバスト及びアンダーバストのフィット性も左右す
るバック部の寸法を含めた全体が着用者の体形にあったカスタムサイズ
の衣類計測サンプルとすることができ,よりフィット性の高い衣類を提
供することができる。しかも,顧客はカスタムサイズの衣類計測サンプ
ルを試着して全体としてのフィット感を確認した上で注文することがで
きる。なお,バック部の寸法とは着用時における周方向の寸法であり,
その周方向の長さを変えることにより着用者のアンダーバストのサイズ
に対応することができる。」(段落【0021】∼【0029】)
(エ) 「また,本発明は上記のようなボトム計測サンプルや衣類計測サン
プルを用いたオーダーメイド方式も提供している。ボトム計測サンプル
を用いたオーダーメイド方式では,ヒップサイズを変えた上記の計測サ
ンプルを複数用意し,着用者のヒップサイズに応じてボトム計測サンプ
ルを選択して着用させ,カスタムサイズの計測をする衣類のオーダーメ
イド方式である。
すなわち,ヒップサイズを変えたボトム計測サンプルを複数種類用意
し,着用者のカスタムサイズに合ったヒップサイズのボトム計測サンプ
ルを選択して着用させる。そして,ウエスト計測手段,ヒップカップ計
測手段,脚口計測手段及び/又は胴部計測手段により,それぞれのサイ
ズを顧客のサイズに調節することにより,カスタムサイズとなったボト
ム計測サンプルの試着させることができる。同時に,調節されたそれぞ
れのサイズを計測することができる。
これにより顧客はカスタムサイズのボトム計測サンプルを試着した上
で注文することができるので,着用者の体型に合った衣類を提供できる
とともに,あらかじめそのフィット感を確認した上で注文することがで
きるオーダーメイド方式を提供することができる。また,この方式によ
れば,メジャー等での計測だけでは分からない素材収縮率の調整,体形
補正を意図した修正なども実際の着用感を伴って実施することができ
る。また,同時に,カスタムサイズを計測することができるので,それ
に従ってカスタムサイズの衣類を製造し,提供することができる。
また,ヒップサイズを変えたものさえ複数用意すれば,ウエスト,ヒ
ップカップ等を調節して,多様な体型に対応することができる。したが
って,ボトム計測サンプル点数が少なくてすみ,保管場所をとらず,持
ち運びも容易となる。ボトムを有する衣類をオーダーメイド方式で店舗
販売する場合の試着式採寸に限らず,出張採寸にも適したオーダーメイ
ド用ボトム計測サンプル及びオーダーメイド方式といえる。
また,トップとボトムとを組み合わせた上記衣類計測サンプルを用い
たオーダーメイド方式の場合,ボトムについては上記と同様にして計測
する。トップについては,着用者のバージスサイズに合うカップ受部を
選択し,カップ部をカップ受部に対して着脱可能に設けて,着用者のカ
ップ高さに合うカップ部を選択する。さらに,カップ受部とカップ部の
組合せのみならず,バック部も着脱可能に組み合わせた場合は,バック
部をカップ受部に対して着脱可能に設けることにより,着用者の寸法に
合うバック部を選択する。
このように顧客の体型にフィットするボトム並びに,カップ受部,カ
ップ部及びバック部を組み合わせることにより,顧客はカスタムサイズ
に調節された衣類計測サンプルを試着した上で注文することができるの
で,あらかじめそのフィット感を確認した上で注文することができる。
また,試着と同時にカスタムサイズの計測をすることができるので,そ
れにしたがって製品を製造すれば,着用者の体型に合った衣類を提供す
ることができる。
なお,本発明のボトム計測サンプル,衣類計測サンプル及びそれらの
オーダーメイド方式は体型補正機能を有する衣類に好適であり,また,
ガードルのような下着(インナー)に止まらず,水着,アウターも含め
て衣類全般について適用することができる。」(段落【0030】∼【
0036】)
オ 発明の効果
「以上の説明から明らかな通り,本発明の計測サンプルを使用すれば,
顧客の体型にフィットした計測サンプルとすることが容易であり,顧客は
カスタムサイズを有する計測サンプルを試着した上で注文することができ
るので,着用者の体型に合った衣類を提供できるとともに,あらかじめそ
のフィット感を確認した上で注文することができる利点を有している。
また本発明のオーダーメイド方式によると,顧客はカスタムサイズを有
する計測サンプルを試着した上で注文することができるので,着用時にフ
ィット感のある衣類を提供できるとともに,あらかじめそのフィット感を
確認した上で注文することができるオーダーメイド方式となし得たのであ
る。また,このようなオーダーメイド方式によれば,メジャー等での計測
だけでは分からない素材収縮率の調整,体形補正を意図した修正なども実
際の着用感を伴って実施することができる利点も有している。」(段落【
0080】∼【0081】)
(2) 上記(1)の記載によれば,本件特許発明1∼12は,「衣類のオーダーメ
イド用計測サンプル及びオーダーメイド方式」に関する発明であり,いずれ
の発明も,「身頃のヒップ部にヒップカップサイズを調節可能なヒップカッ
プ計測手段を設けたオーダーメイド用ボトム計測サンプルで,該ヒップカッ
プ計測手段は,前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって
切り込みを入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着
脱自在に止着可能でヒップカップサイズ調節可能とされ,前記一片の他片と
の連結位置にヒップカップサイズ計測用の目盛が記されたことを特徴とする
オーダーメイド用ボトム計測サンプル。」(本件特許発明1)の構成を含ん
でおり,着用者の体型に合った衣類を提供できるとともに,あらかじめその
フィット感を確認した上で注文することができる利点を有しているものであ
る。
3 甲1発明の意義
(1) 一方,甲1(特開2000−135233号公報)には,次の記載があ
る。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】 腹部を覆う前身頃と,臀部及び背の下部を覆う後身頃
を両側部と股部とにおいて結合したパンティー部を有するパンティーガー
ドルにおいて,前記パンティー部に,前記前身頃及び後身頃の材質より収
縮力が強い伸縮性材料よりなるベルトを,前記後身頃においては,左右の
腸骨の上部に対応する部分を左右方向に横切り,前記前身頃においては,
腸骨の両側部より内下方に向かって延出し,かつ両端部が前身頃のほぼ中
央において係脱自在な結合手段により結合されるようにして装着したこと
を特徴とするパンティーガードル。
【請求項6】 腹部を覆う前身頃と,臀部及び背の下部を覆う後身頃を
両側部と股部とにおいて結合したパンティー部を有するパンティーガード
ルにおいて,前記パンティー部に,前記前身頃及び後身頃の材質より収縮
力が強い伸縮性材料よりなるベルトを,前記後身頃においては,左右の腸
骨の上部に対応する部分を左右方向に横切り,前記前身頃においては,腸
骨の両側部より内下方に向かって延出し,かつ両端部が前身頃のほぼ中央
において互いに結合するようにして装着したことを特徴とするパンティー
ガードル。
【請求項7】 腹部を覆う前身頃と,臀部及び背の下部を覆う後身頃を
両側部と股部とにおいて結合したパンティー部を有するパンティーガード
ルにおいて,前記パンティー部に,前記前身頃及び後身頃の材質より収縮
力が強い伸縮性材料よりなるベルトを,前記後身頃においては,左右の腸
骨の上部に対応する部分を左右方向に横切り,前記前身頃においては,腸
骨の両側部より内下方に向かって延出して,前身頃のほぼ中央において互
いに交差し,かつ両端部がパンティー部の両側部に縫着されるようにして
装着したことを特徴とするパンティーガードル。
【請求項8】 腹部を覆う前身頃と,臀部及び背の下部を覆う後身頃を
両側部と股部とにおいて結合したパンティー部を有するパンティーガード
ルにおいて,前記パンティー部に,前記前身頃及び後身頃の材質より収縮
力が強い伸縮性材料よりなるベルトを,前記後身頃においては,左右の腸
骨の上部に対応する部分を左右方向に横切り,前記前身頃においては,腸
骨の両側部より内下方に向かって延出して,前身頃のほぼ中央において互
いに交差し,さらに,パンティー部の両側部を回って,後身頃の下部中央
まで延出し,そこで両端部が互いに結合されるようにして装着したことを
特徴とするパンティーガードル。」
イ 発明の詳細な説明
(ア) 発明の属する技術分野
「本発明は,骨盤矯正機能を有するパンティーガードルに関する。」
(段落【0001】)
(イ) 従来の技術
「従来のパンティーガードルには,骨盤における左右の腸骨の上部を
引き締めることにより,開いた骨盤全体を閉じるように矯正するように
したものがある。」(段落【0002】)
(ウ) 発明が解決しようとする課題
「骨盤における左右の腸骨は,背柱の延長線である完全な垂直軸を中
心として開閉するのではなく,仙骨との連結部において,外下向き傾斜
する仮想の軸線を中心として回動するようになっている。」(段落【0
003】)
「それに対して,上述のような従来の骨盤矯正機能を有するパンティ
ーガードルは,左右の腸骨の上部を,ほぼ水平方向に引き締めるように
なっているので,その引き締め方向と腸骨の本来の回動方向とにずれが
生じ,このずれが腸骨と仙骨その他の骨との連結部にストレスとなって
作用し,矯正効果に悪影響を及ぼしている。」(段落【0004】)
「また,腰まわりの長さを調節する手段を設けていないパンティーガ
ードルにおいては,腰まわりより太ももまわりが長い人の場合,パンテ
ィーガードルの腰まわりのサイズを太ももまわりのサイズに合わせる
と,腰まわりがゆるくなり,骨盤矯正の役割を果たせず,一方,太もも
まわりより腰まわりが長い人の場合,腰部を締めつけすぎる傾向があ
る。」(段落【0005】)
「本発明は,従来のパンティーガードルが有している上記のような問
題点に鑑み,骨盤における左右の腸骨をその本来の回動方向に向かって
引き締めることができ,正常な骨盤矯正作用が得られるようにするとと
もに,腰部の筋肉の弛みをとることができ,しかも腰まわりの長さを調
節しうるようにしたパンティーガードルを提供することを目的としてい
る。」(段落【0006】)
(エ) 発明の実施の形態
a 「以下,本発明の実施の形態を,添付図面を参照して説明する。図
1∼図3は,本発明の第1の実施形態を示す。(1)は,腹部と,臀
部及び背の下部とを覆うパンティー部,(2)は,大腿部を覆う大腿
被部で,これは,所要幅の股関節部(3)を介してパンティー部
(1)に連設されている。」(段落【0021】)
「(4)は,縦横両方向に強い収縮力を有する伸縮性繊維,または
非伸縮性繊維よりなる所要幅の帯状のパワーネット側布で,パンティ
ー部(1)及び大腿被部(2)の両側部に,股関節部(3)の側面部
(3a)を跨いで上下に連続するように配設されている。」(段落【
0022】)
「股関節部(3)における側面部(3a)から,両大腿被部(2)
の分岐部である股部(5)に至る股関節部(3)の前面部(3b)及
び後面部(3c)は,伸縮性繊維をバイアス編みすることにより,縦
横両方向の収縮力がパワーネット側布(4)より弱い所要幅のメッシ
ュテープ(6)をもって構成されている。各メッシュテープ(6)の
上縁はパンティー部(1)に,同じく下縁は大腿部(2)に,同じく
外側縁はパワーネット側布(4)に,また同じく内側縁は股部(5)
にそれぞれ縫着されている。股部(5)は,メッシュテープ(6)と
同一か,又はその他の通気性と弾力性とに富んだメッシュ材(7)に
より構成されている。」(段落【0023】)
「パンティー部(1)の前面は,伸縮性のない例えばシルク等の布
地か,またはパワーネット側布(4)より収縮力の弱い伸縮性素材よ
りなる左右の前身頃(8a)(8b)を互いに縫着し,かつ左右の前
身頃(8a)(8b)の外側縁を,パワーネット側布(4)の上半部
前縁に縫着したものよりなっている。」(段落【0024】)
「パンティー部(1)の後面は,前身頃(8a)(8b)よりさら
に収縮力の弱い薄地の伸縮性レース地よりなる左右の後身頃(9a)
(9b)を中央で互いに縫合し,両側部をパワーネット側布(4)
に,かつ下部中央を股部(5)に,それぞれ縫着したものよりなって
いる。」(段落【0025】)
「パンティー部(1)の上端部内周においては,環状に連続する平
ゴム(10)が,両パワーネット側布(4),前身頃(8a)(8
b)及び後身頃(9a)(9b)の各上端部にそれぞれ縫着されてい
る。」(段落【0026】)
「かくして,両パワーネット側布(4)の上半部,前身頃(8a)
(8b),後身頃(9a)(9b),平ゴム(10)等により,パン
ティー部(1)が形成されている。」(段落【0027】)
「各大腿被部(2)は,パワーネット側布(4)の下半部をその一
部とし,その前後の側縁部に,パンティー部(1)の前身頃(8a)
(8b)と同材質の左右の前身頃(11a)(11b)と後身頃(1
2a)(12b)との各外側縁を縫合するとともに,前身頃(11
a)(11b)と後身頃(12a)(12b)との内側縁同士を互い
に縫合し,それらの上縁部をメッシュテープ(6)及びメッシュ材
(7)に縫着することにより形成されている。」(段落【0028
】)
b 「本実施形態では,上記の構成に,前身頃(8a)(8b)及び後
身頃(9a)(9b)の材質より収縮力が強い,例えばゴム等の伸縮
性材料よりなるベルト(13)を,後身頃(9a)(9b)において
は,着用者の左右の腸骨(a)の上部に対応する部分を左右方向に横
切り,前身頃(8a)(8b)においては,両側部より内下方に向か
って延出し,かつ両端部が前身頃(8a)(8b)のほぼ中央におい
て係脱自在な結合手段(14)により結合されるようにして,パンテ
ィー部(1)に装着するという構成を付加したことを特徴としてい
る。」(段落【0030】)
「ベルト(13)は,その左端部近傍のみが左前身頃(8a)に縫
着されている。(13a)は,その縫着部である。結合手段(14)
は,図3に示すように,ベルト(13)の右端に設けられた複数個
(1個としてもよい)のフック(15)と,このフック(15)の個
数と同数のものを1段として,複数段(この例では3段)をベルト
(13)の長手方向に並べてベルト(13)の左端部に設けられ,か
つフック(15)が選択的に係合しうるようにしたリング状の受け
(16)とからなるものとし,ベルト(13)の実効長を調節できる
ようにしている。」(段落【0031】)
「左右の後身頃(9a)(9b)の縫合部の上部には,ベルト(1
3)が左右方向に挿通するベルト挿通部をなすひも状のベルト通し
(17)が設けられている。」(段落【0032】)
「パワーネット側布(4)におけるベルト(13)との交差部の内
面には,袋状のベルト挿通部(18)が設けられ,このベルト挿通部
(18)にベルト(13)が挿通されている。」(段落【0033
】)
「この実施形態のようにすると,着用者の骨盤における左右の腸骨
(a)は,ベルト(13)により,図1に示すように,外下向き傾斜
する仮想の軸線(L1)(L2)を中心として,前身頃(8a)(8
b)におけるベルト(13)の延出方向とほぼ一致する本来の回動方
向に向かって引き締められ,正常な骨盤矯正効果が得られる。」(段
落【0034】)
「すなわち,ベルト(13)による左右の腸骨(a)の引き締め方
向と腸骨(a)の本来の回動方向とがほぼ一致し,それらの間にずれ
が生じることがないので,ずれが生じる従来のもののように,そのず
れが腸骨(a)と仙骨(b)その他の骨(図示略)との連結部にスト
レスとなって作用し,矯正効果に悪影響を及ぼすといったことがな
い。」(段落【0035】)
c 「図4は,本発明の第2の実施形態を示す。なお,第1の実施形態
のものと同様の部材には,同一の符号を付して図示するに止め,それ
らについての詳細な説明は省略する(第3以降の実施形態においても
同様とする)。」(段落【0036】)
「第2の実施形態においては,第1の実施形態のベルト(13)よ
り幅広とした同様のベルト(20)を,全長に亘って,前身頃(8
a)(8b)及び後身頃(9a)(9b)の内面に縫着するととも
に,左右の前身頃(8a)(8b)の間で開閉しうる前開きとし,そ
の左右の前身頃(8a)(8b)のいずれか一方に上記と同様の複数
のフック(15)を設け,かつ他方に,このフック(15)の個数と
同数のものを1段として,複数段(この例では4段)のリング状の受
け(16)をほぼベルト(20)の長手方向に並ぶようにして設け,
上記フック(15)をいずれかの段の受け(16)に選択的に係合す
ることにより,前面の開口部を閉じるとともに,ベルト(20)の実
効長を調節できるようにしている。すなわち,この実施形態において
も,フック(15)と受け(16)とが,間接的にベルト(20)の
結合手段(14)となっている。この第2の実施形態においても,第
1の実施形態と同様の作用及び効果を奏することができる。」(段落
【0037】)
d 「図5は,本発明の第3の実施形態を示す。第3の実施形態におい
ては,第2の実施形態におけるのと同様に,ベルト(20)を,全長
に亘って,前身頃(8a)(8b)及び後身頃(9a)(9b)の内
面に縫着するとともに,前開き部分を,左前身頃(8a)において,
ベルト(20)とほぼ直交する斜め下方を向くように形成し,その前
開き部分のいずれか一方の側縁部に,上記と同様の複数のフック(1
5)を設け,かつ他方の側縁部に,フック(15)の個数と同数のも
のを1段として,複数段のリング状の受け(16)をほぼベルト(2
0)の長手方向に並ぶようにして設け,上記フック(15)をいずれ
かの段の受け(16)に選択的に係合することにより,前開き部分を
閉じるとともに,ベルト(20)の実効長を調節できるようにしてい
る。なお,複数のフック(15)を,複数段の受け(16)に跨って
係合させることにより,図5に想像線で示すように,前開き部分の一
方の側縁部を,他方の側縁部に対して斜めに重ね合わせることもでき
る。この実施形態においても,フック(15)と受け(16)とが,
間接的にベルト(20)の結合手段(14)をなし,第1の実施形態
と同様の作用及び効果を奏することができる。」(段落【0038
】)
e 「図6は本発明の第4の実施形態を示す。第4の実施形態において
は,フック(15)に係合する複数段の受け(16)の列を,下方に
向かって収束するほぼV字状の配置とし,パンティー部(1)の上部
を体形に合わせて引き締めることができるようにしている。」(段落
【0039】)
(オ) 発明の効果
「請求項1及び6∼8記載の発明によると,ベルトの両端部がパンテ
ィー部の前面において内下方に向かって延出し,着用者の骨盤における
左右の腸骨を,その本来の回動方向に向かって引き締めることができる
ので,腸骨の本来の回動方向とベルトによる引き締め方向との間にずれ
が生じることがなく,正常な骨盤矯正効果を得ることができるととも
に,腹部の筋肉の弛みをとることができる。すなわち,腸骨の本来の回
動方向とベルトによる引き締め方向との間のずれにより,腸骨と仙骨そ
の他の骨(図示略)との連結部にストレスが生じ,矯正効果に悪影響を
及ぼすといったことがない。」(段落【0051】)
(2) 上記(1)の記載及び甲1記載の【図1】∼【図6】によれば,甲1には,
審決が認定する次の発明(甲1発明)が記載されているものと認められる。
「左右の前身頃に両者の重ね合わせ量を調節可能な調節手段を設けたパン
ティーガードルで,該調節手段は,パンティー部上端の前面中央部から下方
に向かって切り込みを入れてV字状に分割され,分割された前身頃(8a)
と前身頃(8b)とが,一方に設けた複数個のフック(15)と,他方に設
けた,フック(15)と同数の段を複数備えた受け(16)を介して着脱自
在に止着可能で,複数個のフック(15)と止着する受け(16)の段を選
択することにより,両前身頃(8a,8b)の重ね合わせ量を調節可能とさ
れるパンティーガードル。」
そして,上記(1)の記載及び甲1記載の【図1】∼【図6】によれば,甲
1発明は,腸骨の本来の回動方向とベルトによる引き締め方向との間にずれ
が生じることがなく,正常な骨盤矯正効果を得ることができるとともに,腹
部の筋肉の弛みをとることができるものであると認められる。
4 取消事由1(本件特許発明1と甲1発明との相違点についての判断の誤り)
について
(1) 原告は,本件特許発明1において,ヒップカップ計測手段を構成する
「切り込み」の略中央側の切り込み端部の位置を特定することはできず,こ
の「略中央側の切り込み端部」が,ヒップカップの頂点に位置するとは一概
にいえないにもかかわらず,審決が「…ヒップカップ部の略中央側の切り込
み端部を頂点とする円錐形が形成され,ヒップトップを頂点とした着用者の
ヒップ部に適合してヒップカップを形成し,…」(16頁14行∼16行)
と判断したのは誤りであると主張する。
しかし,本件特許請求の範囲「請求項1」は「…該ヒップカップ計測手段
は,前記ヒップ部が股口からヒップカップ部の略中央に向かって切り込みを
入れて分割され,分割された一片と他片とが連結部材を介して着脱自在に止
着可能でヒップカップサイズ調節可能とされ,…」というものであって,
「切り込み」は,ヒップカップ部の略中央に向かって入れられるから,ヒッ
プカップ部の略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形が形成されるもの
と認められる。このことは,「切り込み」の略中央側の切り込み端部がヒッ
プカップの頂点に位置するかどうかにかかわりないというべきである。した
がって,「ヒップカップ部の略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形が
形成され,」との審決の判断に誤りがあるということはできない。
また,本件特許請求の範囲「請求項1」の「ヒップカップ計測手段」は,
上記のとおり「ヒップカップサイズを調節可能な」ものであるところ,本件
特許明細書における前記2(1)エ(イ)の記載を参酌すると,ここでいう「ヒ
ップカップサイズ」は「(ヒップサイズ)−(脚の付根の水平方向における
周長寸法)」を意味すること,「ヒップサイズ」は,ヒップの頂部(ヒップ
の最も太い部分)を通る水平方向の周長寸法で表されるものであることが明
らかである。そして,着用者のヒップ部がヒップトップを頂点とするもので
あることも明らかであるところ,本件特許発明1の「ヒップカップ計測手
段」は,そのような着用者のヒップ部に適合したヒップカップを形成させる
ことによって,上記のような意味での「ヒップカップサイズ」を調節可能と
したものであるから,「ヒップトップを頂点とした着用者のヒップ部に適合
してヒップカップを形成し,」との審決の判断に誤りがあるということはで
きない。このことは,「切り込み」の略中央側の切り込み端部がヒップカッ
プの頂点に位置するかどうかにかかわりないというべきである。
原告は,審決の上記判断は,ヒップカップ計測手段を構成する「切り込
み」の略中央側の切り込み端部がヒップカップの頂点に位置することを述べ
たものであると主張するが,審決は,上記のような趣旨のものと解されるの
であって,「切り込み」の略中央側の切り込み端部がヒップカップの頂点に
位置することを述べたものとは解されない。もっとも,本件特許発明1は,
「ヒップカップ計測手段」に関する発明であるから,「切り込み」の略中央
側の切り込み端部は,「ヒップカップ計測手段」にふさわしいものでなら
ず,前記2(1)エ(イ)のとおり本件特許明細書に「また,切り込み(又は折
返し)の内端位置は,ヒップトップの高さよりも下としたほうが好ましい。
この位置をヒップトップの高さよりも高い位置とすると,ヒップカップサイ
ズの調節時にヒップサイズまでもが変わってしまうからである。また,切り
込み(又は折返し)は,ヒップカップ部の略中央に向かって形成すれば,ヒ
ップカップ調節時にヒップカップのカップ形状が壊れにくいので好まし
い。」と記載されているのも,そのような「ヒップカップ計測手段」の一例
を示したものということができる。
したがって,審決が本件特許発明1の意義について「ヒップカップ部の略
中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形が形成され,ヒップトップを頂点
とした着用者のヒップ部に適合してヒップカップを形成し,」と判断したこ
とに,誤りはないというべきである。
(2) 原告は,甲1発明の本質は,着用者の体形に合わせて調整すること,な
いしは,着用者の体形を補整することにあるというべきであり,骨盤の矯正
は,体形に合わせた調整ないしは体形の補整の結果としての,ベルトの実効
量の調節によって行われると解すべきであるから,甲1発明について,「…
パンティーガードルの立体形状を,前身頃(8a)と前身頃(8b)の切り
込み始端側から終端側にかけての着用者の身体の立体形状に合わせる必然性
は何ら存在せず,…」(16頁下3行∼下1行)とする審決の認定は誤って
いると主張し,その根拠として,甲1の段落【0005】,【0006】,
【0037】,【0039】及び【図6】を引用する。
しかし,前記3(2)のとおり,甲1発明は,「腸骨の本来の回動方向とベ
ルトによる引き締め方向との間にずれが生じることがなく,正常な骨盤矯正
効果を得ることができるとともに,腹部の筋肉の弛みをとることができる」
というものであって,オーダーメイド用にヒップカップサイズを計測するも
のではない。前記3(1)イ(ウ)の段落【0005】及び【0006】,前記
3(1)イ(エ)cの段落【0037】,前記3(1)イ(エ)eの段落【0039】
の各記載並びに【図6】は,いずれもこのような観点から理解できるもので
ある。そして,甲1発明においては,前身頃(8a)と前身頃(8b)の重
ね合わせ量を調節することができるが,その調節は,正常な骨盤矯正効果を
高め,腹部の筋肉の弛みをとるためにされるものであって,オーダーメイド
用にヒップカップサイズを計測する際の調節とは目的が異なるから,それら
は一致するものではないことは明らかである。このような意味において,甲
1発明について,「パンティーガードルの立体形状を,前身頃(8a)と前
身頃(8b)の切り込み始端側から終端側にかけての着用者の身体の立体形
状に合わせる必然性は何ら存在せず,」とする審決の認定に誤りがあるとい
うことはできない。
また,原告は,甲1の段落【0039】及び【図6】の記載に基づき,甲
1発明について,「…現に,甲第1号証のいずれにも,前身頃(8a)と前
身頃(8b)の切り込み始端部を装着者の身体のどの部分に対応させるのか
について何ら記載されていない。」(16頁下1行∼17頁3行)とする審
決の認定は誤りであると主張する。ここでいう「始端部」がV字状の頂点の
側を意味することは,審決の前後の記載から明らかであるところ,甲1の【
図6】には,ほぼV字状の配置したフック(15)に係合する複数段の受け
(16)の列の始端と終端が図示されているが,甲1には,その頂点の側を
どのように定めたかについて,前記3(1)イ(エ)eの段落【0039】に
も,また,その他の部分にも,記載されていないから,上記の審決の認定に
誤りがあるということはできない。そして,甲1発明の上記の技術的意義か
らすると,甲1発明の切り込み始端部が,オーダーメイド用の計測手段とし
て定められるものでないことも明らかである。
(3) 原告は,「…甲第1号証は,切り込み終端側で周長を合わせるととも
に,切り込み始端部を頂点とする円錐形を形成するという技術思想を何ら示
唆するものではなく,ましてや,着用者の股口において,分割された一片と
他片を合わせることにより,ボトムの脚周りを被計測者の脚の付根の水平方
向における周長に合わせるとともに,ヒップカップ部の略中央側の切り込み
端部を頂点とする円錐形を形成し,ヒップトップを頂点とした被計測者のヒ
ップ部に適合してヒップカップを形成するという本件特許発明1の技術思想
について,甲第1号証には何らの記載も示唆もなされていないというべきで
ある。」(17頁4行∼11行)との審決の判断は誤っている,と主張する
ので,次に判断する。
ア まず,原告は,上記審決の判断のうち「…甲第1号証は,切り込み終端
側で周長を合わせるとともに,切り込み始端部を頂点とする円錐形を形成
するという技術思想を何ら示唆するものではなく,…」が「甲第1号証
は,切り込み始端側で周長を合わせるとともに,切り込み終端部を頂点と
する円錐形を形成するという技術思想を何ら示唆するものではなく,…」
の誤記であると主張するが,審決の前後の記載からすると,誤記であると
は認められない。
イ 本件特許発明1が,審決が認定する「切り込み始端部を頂点とする円錐
形を形成する」,「ヒップカップ部の略中央側の切り込み端部を頂点とす
る円錐形を形成し,ヒップトップを頂点とした被計測者のヒップ部に適合
してヒップカップを形成する」という技術思想を有することは,上記(1)
で述べたとおりである。
ウ 上記(2)のとおり,甲1発明における前身頃(8a)と前身頃(8b)
の重ね合わせ量の調節は,オーダーメイド用にヒップカップサイズを計測
する際の調節とは異なるものであって,そのような意味において,甲1発
明について「パンティーガードルの立体形状を,前身頃(8a)と前身頃
(8b)の切り込み始端側から終端側にかけての着用者の身体の立体形状
に合わせる必然性は何ら存在せず,」ということができるのであり,ま
た,甲1発明の切り込み始端部が,オーダーメイド用の計測手段として定
められるものでないことも明らかである上,甲1発明はヒップカップ部に
関する発明でもないから,甲1発明は,本件特許発明1が有する,「ヒッ
プカップ部の略中央側の切り込み端部を頂点とする円錐形を形成し,ヒッ
プトップを頂点とした被計測者のヒップ部に適合してヒップカップを形成
する」オーダーメイド用のヒップカップ計測手段という,本件特許発明1
の技術思想を有するものではなく,それが示唆されているということもで
きない。
したがって,本件特許発明1の「ヒップカップ部の略中央側の切り込み
端部を頂点とする円錐形を形成し,ヒップトップを頂点とした被計測者の
ヒップ部に適合してヒップカップを形成する」オーダーメイド用のヒップ
カップ計測手段という技術思想については,当業者(その発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者)が,甲1発明から容易に想到す
ることができたということにはならない。
なお,パンティーガードルにおいて,ヒップ部の膨らみ具合であるヒッ
プカップサイズが,フィット性の向上のため,また,体型補正のために調
整を要することが本件特許出願前に周知であるとしても,甲1発明は,上
記のようなものであって,甲1発明と周知技術から容易に本件特許発明1
の構成を想起することができたとはいえないから,上記周知技術は上記認
定を左右するものではない。
エ 審決の上記判断のうち,「着用者の股口において,分割された一片と他
片を合わせることにより,ボトムの脚周りを被計測者の脚の付根の水平方
向における周長に合わせる」点については,分割された一片と他片の合わ
せ方としては通常考え得るものであり,甲1の【図6】においても,ほぼ
V字状の配置したフック(15)に係合する複数段の受け(16)の列の
終端は,パンティー部上端の水平方向の周長に存することからすると,こ
の点のみであれば,当業者は容易に想到することができたとも考えられる
が,本件特許発明1には,それとともに,「ヒップカップ部の略中央側の
切り込み端部を頂点とする円錐形を形成し,ヒップトップを頂点とした被
計測者のヒップ部に適合してヒップカップを形成する」オーダーメイド用
のヒップカップ計測手段という技術思想が存するのであり,これを甲1発
明から容易に想到することができたということはできないことは,上記の
とおりである。
オ したがって,審決の上記判断に誤りがあるということはできない。
(4) 原告は,甲8(近藤れん子著「近藤れん子の立体裁断と基礎知識」59
頁及び83頁),甲9(実願昭50−84855号[実開昭52−3835
号]のマイクロフィルム)の記載に基づき,「衣類に『切り込み』を設け,
『切り込み』によりV字状に分割された部分同士の重ね合わせ量を調節する
ことによって,衣類を身体の部分の体形に合わせるようにする採寸手法は,
本件特許出願前から周知であり,『切り込み』による調節を必要とする身体
の部位や用途に応じて定められるものといえるから,甲1発明をまたずと
も,ヒップカップ部に重ね合わせ調整用の切り込みを設け,切り込みを股口
から『ヒップカップ部の略中央に向った』ものとすることは,当業者ならば
容易に想到できることというべきである。」と主張するので,以下検討す
る。
ア 甲8につき
(ア) 甲8の「Ga 体型とスローパ コルサージュ」には,次の記載が
ある。
a 「従って婦人服では,体型とスローパ(体型やデザインに合わせて
裁断した木綿の型)の関係は密接なつながりを持ちます。そこで体躯
の形態がスローパに及ぼす影響について2,3の例を説明してみたい
と思います。」(82頁右欄6行∼9行)
b 「写真B1B2:普通体型と乳房の低い体型におけるダーツの対比
を検討してみました。同型の人台の1つを胸のポイント位置を下げ
て,スローパを作ってみました。…同形態の胸回り寸法と同じカップ
サイズの乳房を条件とした場合でも乳房の位置が低い場合には,必ず
ダーツ量は小さくなることがB3B4のスローパの比較で了解できる
とおもいます。」(83頁右欄1行∼14行)
c 「写真C1C2:普通体型と鳩胸体型におけるダーツの対比。…人
台の胸部をふくらませて変型し,トワルでコルサージュを裁断したス
ローパで検討してみると写真C3のように12度のダーツ分量が見ら
れました。普通体型では14.5度であり,2.5度分鳩胸体型は胸
の曲量が少ないことになります。一般に鳩胸の人は胸が突起して見え
るのでダーツ量と錯覚して計算する場合が多いのですが,ダーツ量は
外観よりは多くありません。むしろ前丈が長くなることが具体的な実
験で理解できます。従い鳩胸体型に合わせて作った婦人服を普通体型
の人が着ると上胸の部分に余剰分がだぶつくことになります。」(8
3頁左欄1行∼下1行)
(イ) 甲8の「Ef 胸」には,次の記載がある。
a 「図E:ダーツ線の種類ですがデザインにより,また縫製の工程に
よって,いろいろ変化させます。」(59頁左欄13行∼14行)
b 「図F:胸のポイント位置が上にあるほどダーツ量が大きくなり下
がるほどダーツ量は小さくなることを示したものです。…鳩胸とは乳
房のふくらみではなく胸部が高く盛り上がっている体型で,この場合
には外観よりダーツ量を小さくしないと,美しい胸の線が求められな
い場合の多いことを知っておいて下さい。」(59頁左欄15行∼2
3行)
c 図E中には,体型に忠実に合わせたダーツ線,体型に少し合わせた
ダーツ線及び既製服のダーツ線がそれぞれ図示されている。
(ウ) 以上の記載によれば,甲8には,一般的な立体裁断技術として,婦
人服の肩部分から胸部に向かって「切り込み」(ダーツ)を設け,「切
り込み」を変えることにより,乳房の形に合わせた衣服を作ることがで
きることが記載されている。
イ 甲9につき
(ア) 甲9には,次の記載がある。
a 実用新案登録請求の範囲
「図に示すように,本体(1)に2∼6(2’∼6’)で構成され
た左右対称のX字形ブラジャー用パターンの実用新案」
b 考案の詳細な説明
「この実用新案は,X字形パターンにより着用者の体型,大小にそ
れぞれ適応できるブラジャーの製造に用いるものである。
従来のものにくらべ,着用者の体型,大小に適応できる範囲が大き
いことと,容易に立体化できるパターンであるから,無縫製ブラジャ
ーとして製造工程が簡易化される。
これを図面について説明すれば,接合点2(2’)を曲線部3∼4
(3’∼4’)に沿って接合させるとき円錐状の立体が得られる。曲
線部分上の2(2’)の位置により,円錐の大きさが変えられる。と
め紐をつければ,そのままブラジャーとしても使用できる。」
c 図面の簡単な説明
「第1図はX字形パターンの平面。
第2図はパターンを立体化したものの斜面図。
第3図はとめ紐をつけたものの斜面図。
図中の番号1は本体,2は接合点,3∼4は曲線部,5は切り込み
部,6はセンター。
(イ) 以上の記載及び甲9の第1図∼第3図によれば,甲9には,本体1
に切り込み部5を設け,曲線部分上の接合点2(2’)の位置により円
錐の大きさを変えることができる,乳房の立体形状に合わせたブラジャ
ー用パターンが記載されている。
ウ そうすると,甲8,甲9には,衣類に「切り込み」を設け「切り込み」
を変化させることによって人体の立体形状に合わせた衣類を製作すること
が記載されているものの,その分割された一片と他片とを着脱自在に止着
することについては何ら記載されておらず,また,身頃のヒップ部のヒッ
プカップ部にそれを適用して,ヒップカップサイズを調整可能にすること
も記載されていない。さらに,「ヒップカップ部の略中央側の切り込み端
部を頂点とする円錐形を形成し,ヒップトップを頂点とした被計測者のヒ
ップ部に適合してヒップカップを形成する」という本件特許発明1の技術
思想が記載又は示唆されているということもない。
したがって,甲8,甲9に関するその余の主張について判断するまでも
なく,甲8,甲9に基づき,甲1発明をまたずとも,本件特許発明1を容
易に発明することができたということはないし,甲1発明に,甲8,甲9
に記載された技術的事項を総合したとしても,本件特許発明1を容易に発
明することができたということもできない。
(5)ア 甲2(特表平9−504636号公報)の「発明の詳細な説明」に
は,次の記載がある。
(ア) 技術分野
「この発明は,一般的に,注文仕立により身体に合うように作られる
衣服の製造に関し,より具体的には,多くの試着用衣服とシステムを用
いて注文仕様の衣服を製造する装置及び方法に関する。」(14頁4行
∼6行)
(イ) 発明を実施する最良の形態
「望ましい実施例において,試着服(10)は,それら寸法のサイズ
変化に応じて,棚(20)の中に保存される。例えば,婦人用ズボンの
場合,ウエストサイズ24の試着服(10)は,棚(20)の第1カラ
ムの中に入れられ,各区画部(30)では同じヒップサイズの試着服が
5着収容される。ヒップサイズは,5着の試着服(10)が入れられた
各区画部(30)毎に1インチずつ大きくなっている。区画部(30)
の中には,ウエストとヒップが特定の組合せの試着服(10)が5着ず
つ収容されており,各試着服の股上の寸法値は,夫々異なっている。」
(20頁15行∼21行)
「本発明の方法及び装置によれば,顧客は試着服(10)を選択し,
サイズ合わせした情報を店員に報告し,システム(40)の中に入力さ
れる。もし最初の選択したものが顧客の要望に合わない場合,システム
(40)は,顧客のサイズ合わせ情報に応じて次の試着服(10)を試
すように奨める。」(20頁27行∼21頁2行)
イ 甲3(特開平7−316909号公報)の「発明の詳細な説明」には,
次の記載がある。
(ア) 産業上の利用分野
「本発明は洋服仕立ての採寸時にわずかの体型の歪みも把握できる体
型把握用洋服に関するものである。」(段落【0001】)
(イ) 従来の技術
「従来のオーダー服の採寸方法では,丈,幅,の採寸だけで縫製して
いたため,体の厚み,反り,前かがみ,肩の上がり下がり,左右の肩の
勾配などのわずかの違いは特別の技術者以外は容易に把握出来ず,着心
地の良い洋服の仕立ては非常に難しかった。」(段落【0002】)
(ウ) 発明が解決しようとする課題
「本発明は従来の採寸方法では把握できなかった,体の厚み,反り,
前かがみ,肩の上がり下がり,左右の肩の勾配などのわずかの違いを本
発明の体型把握用洋服を試着し採寸することによって,各人の体型に合
った洋服の縫製が容易に出来ることを目的とする。」(段落【0003
】)
(エ) 課題を解決するための手段
「衿なし洋服の左右の前身頃(1)と左右の後身頃(2)の複数箇所
に生地を重ねた縫合部(3.4.5.6.8.9.10)を設けて分断
し,肩の縫合部(7)と袖の縫合部(11.12)も生地を重ねて分断
し,その各分断箇所に目盛部(13.14.15.16.17.18.
19.20.21)を設けたことを特徴とする技術で上記の課題を解決
した。」(段落【0004】)
(オ) 作用
「本発明は上記のように構成されているので採寸時に体型把握用洋服
を試着することによって各人の体型の厚み,反り,前かがみ,肩の上
り,下がり,肩の左右の勾配の違いなどをそれぞれの縫合部の合わせを
浅くしたり深くしたりすることによって服地を無理なく身体に添わせる
ことができ,分断箇所に設けてある目盛で分断箇所の開き具合の採寸も
同時に容易に行うことができる。」(段落【0005】)
(カ) 実施例
「次に図面を参照しながら本発明の体型把握用洋服を説明する。前身
頃の縫合部(3.4.5.6),肩の縫合部(7),後身頃の縫合部
(8.9.10.),袖の縫合部(11.12)を標準寸法で仮縫いを
しておく。次に体型別の採寸方法を説明する。上半身が反っている人
(胸の出ている人)は,前身頃が吊り上がり左右の前身頃が重なり過ぎ
るので前身頃の縫合部A(3),B(4),C(5),D(6)の縫合
を浅くすることによって前身頃の裾を平に調整し,上半身が反ることに
よって生じる後身頃の裾の垂れは後身頃の縫合部A(8),B(9),
C(10)の縫合を深く(縫い込みを多くする)することによって後身
頃の裾を平にする。反対に上半身が前かがみの人は前身頃が垂れ下がり
左右の身頃の裾が開いてしまうので前身頃の縫合部A(3),B
(4),C(5),D(6)の縫合を深くすることによって前身頃の裾
を平にし,前かがみの人の後身頃は吊り上がっているので後身頃の縫合
部A(8),B(9),C(10)を浅くすることによって後身頃の裾
を平にする。左右の腕の長短,及び肘の曲り具合は,腕の形に添って袖
の縫合部A(11),B(12)を調整する。肩の上り下がりは厚い肩
パット,薄い肩パットを数種類用意して各人の肩に合わせて縫合する。
洋服の採寸を行いながら同時に体型の歪みが各部の目盛(13),(1
4),(15),(16),(17),(18),(19),(2
0),(21)によって把握できる。上半身の体型に服地を添わせてそ
れぞれの縫合部で調整し採寸を行う。各縫合部に接着具(マジックテー
プ等)を設ければ,待ち針,しつけ縫いを必要としない。」(段落【0
006】)
ウ 上記ア,イのとおり,甲2,甲3には,事前に,計測用サンプルを用い
て,衣類等における各部分の採寸を行うことが記載されている。
そして甲2には,上記アのとおり,ウエストとヒップと股上の寸法が異
なる多くの試着服を用意しておき,その中から顧客に合った試着服を見つ
けるシステムが記載されているものの,それ以上に本件特許発明1が記載
又は示唆されているということはない。
また甲3には,上記イのとおり,生地を重ねて分断し,その各分断箇所
に目盛部を設けておき,それを用いて洋服仕立ての採寸を行うことが記載
されている。甲3の上記記載は,分断箇所に目盛部を設けておき,それを
用いて採寸を行う点では,本件特許発明1と共通するが,ヒップカップサ
イズを計測するものではなく,甲3には,「ヒップカップ部の略中央側の
切り込み端部を頂点とする円錐形を形成し,ヒップトップを頂点とした被
計測者のヒップ部に適合してヒップカップを形成する」という,本件特許
発明1の技術思想については,何らの記載も示唆もなされていない。
エ したがって,甲1発明に,甲2,甲3に記載された発明を総合したとし
ても,本件特許発明1を容易に発明することができたということはでき
ず,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
(6)ア 甲4(特開平8−158111号公報)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
「【請求項1】バストを収容するカップ部及びこのカップ部の周縁に
形成されたカップ止着部を有する一対のカップ部材と,上記各カップ部
材の形状に略々適合する一対のカップ用凹部及びこれら各カップ用凹部
の周縁に形成されて上記各カップ部材のカップ止着部が係脱可能に係着
する一対のカップ係着部を有し,上記一対のカップ部材を身体胸部に装
着する装着手段とを具備することを特徴とするファウンデーション。」
(イ) 発明の詳細な説明
a 課題を解決するための手段
「本発明において,上記カップ部については,その形状,サイズ,
材質等について特に制限されるものではないので従来公知のものをそ
のまま採用してもよいが,好ましくは,カップ部の外形が同じで肉厚
が異なって収容できるバストのサイズが異なるもの等を各バストサイ
ズ毎に設けるのが望ましい。」(段落【0009】)
「上記カップ係着部は,カップ部の周縁と適合するカップ用凹部の
周縁に設けられ,上記カップ止着部を係止できるものであると共に,
肌に直接触れる場合があるから肌触りの良い柔軟性のあるものであれ
ばよく,例えば,表面に多数の柔軟パイルを有するテープを上記カッ
プ用凹部の周縁全体に設ければよい。また,上記柔軟パイルとして
は,例えば,ベルベットファスナーの雌ファスナーや,ポリエステル
製,ナイロン製,綿製等の起毛パイルで形成された縁取りテープ,更
にはフィルムファスナーと称される面状ファスナー等を挙げることが
でき,肌触りやカップ止着部との固着性の観点からパイル高さ1∼5
mm程度の起毛パイル製の縁取りテープが好ましい。」(段落【00
11】)
b 作用
「…左右のカップ部のサイズは,それぞれ対応するバストのサイズ
に合ったものを各々選ぶことができるので,各カップ部と各バストと
の間の隙間を無くすことができ,左右両方のカップ部を左右両方のバ
ストにフィットさせることができる。」(段落【0025】)
c 実施例
「…このブラジャーB1は,基本的には,バストを収容するカップ
部2a及びそのカップ部の周縁に形成されたカップ止着部2bからな
る一対のカップ部材2と,上記各カップ部2aの周縁と適合する一対
のカップ用凹部1a及びそのカップ用凹部1aの周縁に形成されたカ
ップ係着部1bを有し,上記カップ部2aを身体胸部に装着する装着
手段1とで構成されている。」(段落【0028】)
「…着用者は,アンダーバストに合わせて装着手段1を選択し,右
バストに合ったカップ部を有するカップ部材2を選択し,左バストに
合ったカップ部を有するカップ部材2を選択した後,カップ部材のカ
ップ止着部2b,2bをそれぞれ装着手段のカップ係着部1b,1b
に係止することで,右バスト,左バスト,アンダーバスト全てにフィ
ットするファウンデーションを着用することができる。」(段落【0
030】)
(ウ) 【図2】には,装着手段1,カップ用凹部1a,カップ係着部1
b,カップ部2a,カップ止着部2bの図が示されている。
イ 甲5(「Dublevé(デューブルベ)」と称する株式会社ワコール
のセミオーダーシステムに関するカタログ)の2枚目右頁左欄には,次の
記載がある。
「本来ブラの役割は,バストラインを美しくととのえて下垂を防ぐこ
と。でも,バストのかたちやサイズに合っていないとブラの機能が活かせ
ず,うつくしくととのえられないばかりか,肩こりなど不快感の原因にも
なりかねません。美しいバストラインのためには,ジャストフィットのブ
ラを選ぶことが大切です。」
「デューブルベではコンサルタントがあなたのバストを測定。…しか
も,トップとアンダーの採寸だけでなく,オリジナル測定器(バージスメ
ジャー)でのバストの底面周径サイズ(バージスサイズ)の測定や,ゲー
ジブラでのフィット感の確認等を行ったうえで,コンサルタントがブラの
「フィット診断」を行い,全1248サイズのブラの中から最適なブラを
ご提案。あなたのバストのためだけのブラをおつくりします。」
ウ 甲6(特開2000−64104号公報)の「発明の詳細な説明」の
「発明の実施の形態」には,次の記載がある。
「図示の通り,左右一対の乳房を覆うカップ部1L,Rは下カップ布1
1L,Rと上カップ布12L,Rをそれぞれ縫着して形成されており,下
カップ布11L,Rのそれぞれの下縁湾曲部(下方の湾曲した縁部)に
は,半円弧状のワイヤ2L,R(図2参照)が縫い込まれたカップワイヤ
ー部21L,Rが縫着されている。このワイヤ2L,Rは,形状記憶合金
などの金属や剛性のあるプラスチック等で成形されており,乳房のバージ
スラインに好適にフィットする形状をなしている。」(段落【0041
】)
エ 甲7(「手作りランジェリー」レディブティックシリーズ通巻1404
号)の52頁,53頁のイラストには,ブラジャーが,胸布A,Bと,胸
布A,Bと組み合わされるベルトAと,ベルトAと連結される,背中部分
のベルトBとで構成されることが図示されている。
オ 甲4∼7は,以上のとおり,いずれもブラジャーに関するものであっ
て,本件特許発明1の構成が記載又は示唆されているものでないことは明
らかである。このことに,上記(5)で述べたところを総合すると,甲1発
明に,甲2∼7に記載された発明を総合したとしても,本件特許発明1を
容易に発明することができたということはできず,その旨の審決の判断に
誤りがあるということはできない。
(7) 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由がない。
5 取消事由2(本件特許発明2∼11の進歩性判断の誤り)について
本件特許発明2∼12は,本件特許発明1の構成をすべて含むところ,前記
4のとおり,本件特許発明1は,甲1∼7に記載された発明及び周知技術に基
づいて容易に発明をすることができたものとはいえないから,本件特許発明2
ないし12も,甲1∼7に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいうことはできない。したがって,その旨の審決
の判断に誤りがあるということはできず,原告主張の取消事由2は理由がな
い。
6 結論
以上の次第で,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 澁 谷 勝 海
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