平成20(行ケ)10188審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年12月24日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告スリーエムカンパニー
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対象物 |
液体噴霧装置(平成18年9月6 |
法令 |
特許権
特許法29条2項3回 特許法184条の81回
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キーワード |
審決35回 進歩性3回 優先権1回
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主文 |
1 特許庁が不服2007−5236号事件について平成20年1月7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,原告(旧名称 ミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチャ
リング・カンパニー)が,発明の名称を「液体噴霧装置 (平成18年9月6」
日付け補正による変更後)とする後記特許についての国際出願をしたところ,
, ,日本国特許庁から拒絶査定を受けたので これを不服として審判請求をしたが
, 。同庁から請求不成立の審決を受けたことから その取消しを求めた事案である
2 争点は,上記出願が特開平7−289956号公報(発明の名称「塗料スプ
レーガン ,出願人 ランズバーグ コーポレーション,公開日 平成7年11月」
7日。以下この文献を「引用文献」といい,これに記載された発明を「引用発
明」という。甲7)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項 ,であ)
る。 |
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判決文
判決言渡日 平成20年12月24日
平成20年(行ケ)第10188号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年12月17日
判 決
原 告 ス リ ー エ ム カ ン パ ニ ー
訴訟代理人弁理士 田 中 光 雄
同 山 田 卓 二
同 伊 藤 晃
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 荘 司 英 史
同 小 谷 一 郎
同 深 澤 幹 朗
同 森 川 元 嗣
同 八 板 直 人
同 酒 井 福 造
主 文
1 特許庁が不服2007−5236号事件について平成20年1月7
日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,原告(旧名称 ミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチャ
リング・カンパニー)が,発明の名称を「液体噴霧装置」(平成18年9月6
日付け補正による変更後)とする後記特許についての国際出願をしたところ,
日本国特許庁から拒絶査定を受けたので ,これを不服として審判請求をしたが,
同庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である 。
2 争点は,上記出願が特開平7−289956号公報(発明の名称「塗料スプ
レーガン 」,出願人 ランズバーグ コーポレーション,公開日 平成7年11月
7日。以下この文献を「引用文献」といい,これに記載された発明を「引用発
明」という。甲7)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項 ),であ
る。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,1997年(平成9年)1月24日及び1997年(平成9年)
6月18日の各優先権(英国)を主張して,1998年(平成10年)1月
14日,名称を「液体噴霧装置,並びに該装置とともに使用するのに適する
使い捨て収納容器およびライナー」とする発明について国際特許出願(PC
T/US98/00796,日本における出願番号は特願平10−5320
37号。以下「本願」という。請求項の数54)をし,平成11年1月23
日付けで特許法184条の8第1項の規定に基づく手続補正をし(請求項の
数27,甲1〔公表公報〕の48頁∼50頁 ),平成11年7月16日付け
で日本国特許庁に翻訳文を提出した(国内公表は特表2001−50869
8号〔甲1〕。その後原告は,平成15年11月18日付け(甲2)及び平
)
成18年9月6日付け(発明の名称を「液体噴霧装置」と変更。請求項の数
14。以下「本件補正」という。甲3)で各補正をしたが,拒絶査定を受け
たので,不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2007−5236号事件として審理した上,平
成20年1月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(出訴期
間として90日を附加)をし,その謄本は平成20年1月22日原告に送達
された。
(2) 発明の内容
本件補正後の請求項は,1ないし14から成るが,そのうち請求項1に係
る発明(以下「本願発明」という)の内容は,以下のとおりである。
「1.液体タンク(12)と,
基部(13A)および側壁(13B)を備え,前記液体タンク内に配
置される取り外し可能かつ崩壊可能なライナー(13)と,
前記ライナー(13)内の液体を分配するスプレーノズル(4)と,
から構成される液体をスプレーするための装置であって,
前記ライナー(13)は,前記装置の動作の間にライナー内の液体が
排出される際に崩壊するものであり,
前記ライナー(13)は,前記液体タンク内にピッタリと密着するよ
う,非崩壊状態において襞 ,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく,
側壁と基部との内部接合部に溝を有しておらず,前記液体タンクの内部
に対応した形状を有していることを特徴とする装置。
」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,前記引用文献記載の発明(引用発明)
及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたから,特許法29条
2項により特許を受けることができない,としたものである。
イ なお審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容を以下のとおり
認定し,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりとした。
〈引用発明の内容〉
「塗料カップと,前記塗料カップに配置される取り外し可能な可撓
性の袋と,
前記可撓性袋内の塗料を分配するノズルと,
から構成される塗料スプレーガンであって,
前記可撓性の袋は,前記塗料スプレーガンの動作の間に空気およ
び塗料が排出されると
袋がつぶされるものである装置。」
〈一致点〉
本願発明と引用発明は,
「液体タンクと,
前記液体タンク内に配置される取り外し可能なライナーと,
前記ライナー(13)内の液体を分配するスプレーノズル(4)
と,
から構成される液体をスプレーするための装置。」
である点で一致する。
〈相違点1〉
本願発明は,ライナーが「基部(13A)および側壁(13B)を
備え」かつ,「液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状態
において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく,側壁と基部
との内部接合部に溝を有しておらず,前記液体タンクの内部に対応し
た形状を有している」のに対し,引用発明の可撓性の袋は,形状等が
不明な点。
〈相違点2〉
本願発明は,「ライナー内の液体が排出される際に崩壊するもの」
であるのに対し,引用発明では ,「塗料が排出されると袋がつぶされ
るもの」である点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから違法として取消し
を免れない。
ア 取消事由1(相違点の看過)
(ア) 本願発明は,通常互いに相反する技術的課題である,ライナーの崩
壊性と,襞等が皆無の状態(非襞)での自立性ないし保形性,の2つを
両立させた点に要点がある。
すなわち本願発明は,①スプレー装置の使用時,液体タンク内に収納
されたライナーが,その内部がライナー内に充填されている液体の排出
に伴う減圧により容易に崩壊する崩壊性構造を具有している。そして,
②上記崩壊性を実現するためには,ライナーを柔軟構造にする必要があ
るが,柔軟構造であってもなおかつ自立性ないし保形性 (液体タンクか
ら取り外しても自立ないし形を保つこと )を持たせるために,ライナー
を基部と側壁とで構成するとともに,液体タンク内にピッタリと密着す
るよう,非崩壊状態において襞がなく ,タンク内部に対応した形状となっ
ている。すなわち,本願発明のライナーは非襞・自立構造を備えている
ものである。
(イ) 一般に,液体タンク内部の内袋であるライナーの崩壊性を実現しよ
うとすると,例えば甲13(特開平8−258864号公報,発明の名
称 バッグインカートンおよびカートンブランク体 」出願人 東北リコー
「 ,
株式会社及び大日本印刷株式会社,公開日 平成8年10月8日)にあ
るフィルム状袋のような柔軟構造を採用すると,通常ライナーの腰が弱
いため,液体タンクから外すと,自立性や保形性がなく ,またその結果,
必然的に襞や波等の凹凸が生じることになる。ライナーに自立性や保形
性がないと,その中で液体の混合作業は困難となるため,別の剛性容器
を使用して液体の混合を行い,その後,剛性容器内の混合液を当該ライ
ナーに移し換えせざるを得ない。これは作業が面倒であるばかりか,別
容器を汚すことにもなり,その結果混合液の無駄が発生する等の不具合
も生じる(甲1〔公表公報 〕,15頁下4行∼末行)。また,襞等の凹凸
形状は,その部位に混合液が入り込むために,この場合も混合液の無駄
が発生することになる(甲1,26頁2行∼4行)。また,柔軟構造体に
自立性や保形性を付与するためには,通常リブ等の補強構造体を形成す
ることになるが ,このようなリブ等は,ライナーに凹凸形状をもたらし ,
上記襞等と同様の不具合を生じることになる。このように,ライナーの
上記崩壊構造と上記非襞・自立構造とは技術的に相反する関係にある。
本願発明は,上記崩壊性構造と上記非襞・自立構造を採用することに
より,互いに相反する性質,つまり,ライナーの崩壊性と,非襞・自立
性とを同時的に実現した点に要点がある。これらに関する明細書の記載
としては,ライナーの崩壊性と自立性について「本発明は,側壁と,プ
ラスチック材料から熱/真空成形される比較的剛性がある基部とを備え
る収納容器であって,側壁が基部に比べて薄くて崩壊可能であり,側壁
が延在して直立した状態で,支持されずに基部で立つことが可能な収納
容器を提供する。(甲1,9頁2行∼5行)と,また本願発明の「崩壊
」
可能」についての定義として ,「 崩壊可能』という用語は,本発明に
「『
よる収納容器/ライナーの側壁に関して本明細書で使用する場合,その
側壁が,たとえば手の圧力など,適度な圧力を加えることにより変形す
ることができ,したがって収納容器のリムを収納容器の基部に向かって
押すことができるとともに側壁が破壊しない状態を意味する。(同11
」
頁6行∼9行)と記載されていることから,ライナーの側壁はある程度
の腰,すなわち自立性がある性状を有していることが分かる。加えて,
「…塗料をライナー 13 の内部から除去すると,ライナーの側部は,ラ
イナー内の減圧によって崩壊する。ライナーの基部は比較的剛性があり
その形状を保つので,ライナーは,横断方向ではなく長手方向に崩壊し,
塗料のポケットがライナー内に閉じ込められる可能性が少なくなる 。」
(15頁4行∼7行)と記載されていることから,比較的剛性のある基
部とある程度の腰がある側壁からなる本願発明のライナーが自立性と保
形性を有していることが明らかである。本願発明のライナーが襞を有し
ないことについては,「…ライナー 13 には襞,波,継ぎ目,接合部また
はガセットがなく,側壁 13B と基部 13A との内部接続部には溝もない。
…」(同14頁9行∼10行)と記載されている。
一方,引用発明は,本願発明の上記①の崩壊性については開示するも
のの,上記②の非襞・自立性については全く開示するところがない。
(ウ) しかし審決は,本願発明の上記要点を看過し,本願発明の上記崩壊
構造(①)は引用発明に開示されており,上記非襞・自立構造(②)は
周知技術であるので,当該周知技術を引用発明に適用することで本願発
明が容易想到であるとした。しかし審決は,ライナーの崩壊構造と非襞
・自立構造の一般的相反性についての認識を欠き,その結果,本願発明
が相反する目的を同時に達成するという本願発明の要点の認識がない。
審決は,本願発明と引用発明との相違点,すなわち本願発明のライナー
は崩壊可能でありながら,襞がなく,自立性ないし保形性を有している
点を看過したものであり,これは本願発明の要点であって,この誤りが
審決の結論に影響を与えることは明らかであるから,審決は取り消され
るべきである。
イ 取消事由2(周知技術認定の誤り)
(ア) 審決は,相違点1について,『基部(13A)および側壁(13B )
「
を備え』かつ,『液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状態
において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく,側壁と基部と
の内部接合部に溝を有しておらず,前記液体タンクの内部に対応した形
状を有している』とすることは,周知技術にすぎない 」(4頁下7行∼
下3行)と認定し,周知技術を示す証拠として,前記特開平8−258
864号公報(甲13)と,実願平1−143329号〔実開平3−8
1879号〕のマイクロフイルム(考案の名称「包装箱」,出願人 東罐
興業株式会社,公開日 平成3年8月21日,甲14)を摘示した。
しかし,上記文献は何れも相違点1の内容を開示するものではなく,
相違点1について審決がした周知技術の認定は誤りである。
(イ) すなわち,甲13は,バックインカートン等に関する発明であり,
カートンブランク2'の内部に貼着される内袋3を備えた構造を示して
いる。しかし,ここに示された内袋3は,素材が薄いプラスチックフィ
ルムから成るものと解せられる柔軟ないわゆる「袋」にすぎない。この
内袋3は,カートンブランク2'から取り外して,外部で液体が充填さ
れるようなものではなく,カートンブランク2'に貼着した後,カート
ンブランク2'の組立後に液体が充填されるようになっている(段落【0
031】。
)
従って,この内袋3は,本願発明のように基部と側壁とで構成して自
立性を持たせるようにしたものではなく,そのような自立性のある内袋
の場合は,カートンブランク2'の組立自体が不可能になる。また。内
袋3は,カートンブランク2'の内面の一部にエマルジョンを用いて貼
着され,その後カートンブランク2'の組立に伴ってカートンブランク
内で袋状に広がるようにしたものであるから,内袋自体に襞等の凹凸が
形成されることは避けられない。よって,甲13には,前記非襞・自立
性を備えた袋(ライナー)は開示されていないから,審決の認定は誤りで
ある。
(ウ) また,甲14は,バッグインボックスタイプの包装箱を開示するも
ので,液体を充填する柔軟なバッグ38を,段ボール原紙10からなる
包装箱の内部に収納した構造を示している。しかし ,ここに示されたバッ
グ38も柔軟なもので,段ボール包装箱から取り外して,外部で液体を
充填するようなものではなく,包装箱内に収納した後,包装箱の組立後
に液体が充填されるようになっている(7頁5行∼7行)。従って,この
バッグ38も,上部,中間部,下部という必然的部位は当然あるものの,
積極的に基部と側壁とで構成して自立性を持たせることは何ら意図され
ていないし,また,その必要性もない。このバッグ38は,襞等が必然
的に生じるとはいえないが,自立構造については開示も示唆もされてい
ない点において,審決の認定は誤りである。
(エ) 上記によれば,甲13は,非襞性と自立性の何れも開示するもので
はなく ,また,甲14も,自立性の点において開示がないのであるから ,
たとえ,引用発明に甲13,14を適用したとしても,上記②の非襞・
自立構造を有するライナーは達成し得ない。さらに,甲14のバッグ3
8の剛性が高く自立性があると仮定しても,当該バッグ38自体には液
体排出による崩壊性の崩壊構造は開示されていないから,そもそも崩壊
性と相反する自立性を有する剛性の高いバッグの構成を適用する動機が
生じることは当業者にはあり得ず,よって,崩壊性を開示する引用発明
に甲14のバッグを適用することは当業者に困難なことである。
審決の周知技術の認定は誤りであり,この誤りは審決の結論に影響を
及ぼすものである。
2 請求原因に対する認否
請求の原因(1)∼(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の判断は正当であり,審決に原告主張の誤りはない。
(1) 取消事由1に対し
原告は,①崩壊性と,②非襞・自立性とを同時的に実現した点に,発明の
要点,つまり,発明の技術的意味があると主張するが,原告のいう非襞・自
立性については,特許請求の範囲の請求項1において,「基部(13A)お
よび側壁(13B)を備え」「前記ライナー(13)は,前記液体タンク内
,
にピッタリと密着するよう,非崩壊状態において襞,波,継ぎ目,接合部ま
たはガセットがなく,側壁と基部との内部接合部に溝を有しておらず,前記
液体タンクの内部に対応した形状を有している」と記載されているだけであ
り,原告が主張している「自立性」を裏付ける記載はない。そして,特許法
29条2項に規定する要件を判断するに当たっては,特許請求の範囲の請求
項の記載に基づいてなされなければならないことは,特許請求の範囲の機能
からして,当然のことであるから,原告の,「自立性」に関する主張は,特
許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張ではなく,失当である。
なお ,「積極的に基部と側壁とで構成して自立性を持たせること」に関し
ては,「基部」の剛性について請求項7で記載したうえで,請求項10で自
立性について記載している点からも,原告の自立性に関する主張は,特許請
求の範囲の請求項1の記載に基づく主張とはいえないことが明らかである。
そして,審決では本願発明を特許請求の範囲の請求項1の記載に基づいて
認定しており,原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2に対し
審決は,本願発明における,ライナーが「基部(13A)および側壁(1
3B)を備え」かつ,「液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状
態において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく,側壁と基部との
内部接合部に溝を有しておらず,前記液体タンクの内部に対応した形状を有
している」点を本願発明と引用文献記載の発明との相違点1として認定した
上で,相違点1に係る本願発明の構成については周知技術であることを,甲
13,14を挙げて示している。
甲13には,「…通常,BICのカートンは,平坦な底面及び頂面と,そ
の間の平坦な4側面とを有する直方体形状をなしており,内袋はカートンの
4側面の内面に貼り付けられている。このBICは,一般にジュース,酒等
の粘度の低い液体包装用として使用されており,内容物を注出口から取り出
す際は,内容物の排出に伴い,内袋がカートン内で変形するようになってい
る 。 ( 0002 】 ,
」【 ) 「…図4,図5において,BIC1は,外容器を構成
するカートン2と,その内部に収容された内袋3を有しており,その内袋3
内にインキ等の液体4が収容されている。カートン2は直方体状をなし,平
坦な矩形状の底面2aと,その周囲に直立する平坦な前面2b,両側面2c,
2d及び後面2eと,平坦な頂面2fを有している 。 ( 0016 】
」【 )との
記載,及び第4図,第5図からみて ,「内袋(3)は,カートン(2)と同
様に底面と4側面を備え,内容物が満たされた状態では,カートン(2)内
にピッタリと密着するよう,非崩壊状態において襞,波,継ぎ目,接合部ま
たはガセットがなく,4側面と底面との内部接合部に溝を有しておらず,前
記カートン(2)の内部に対応した形状を有している」ことが記載されてい
る。
また,甲14には ,「つぎにこのような段ボール原紙10を用いて包装箱
を組立てる動作を説明する。折曲げ線15によって4枚の側板11∼14が
4角筒状をなすように折曲げる。そして接合片17によって側板11と側板
14とを互いに連結する。さらに折曲げ線18によって側板11∼14の下
部に連設されているフラップ19を折曲げて底部を閉塞することによって,
上部が開放された段ボール製の包装箱が第2図に示すように組立てられるこ
とになる。このような包装箱内には第4図に示すような合成樹脂製のバッグ
38が収納されるようになっている。このバッグ38は合成樹脂成形体から
成る円筒状の口部39を備えており,この口部39が上記包装箱のフラップ
23,24の半円形の切込み25および蓋板27の切込み28によって形成
される開口を通してその外側に引出されるようになっている。そして口部3
9にはキャップ40が装着されるようになっている。そしてこのような包装
箱内に収納されたバッグ38に液体が第4図に示すように充填されるように
なっている。(6頁8行∼7頁7行)との記載,及び第3図,第4図からみ
」
て,「底板,側板(11∼14)を備えた直方体形状をなした外箱にピッタ
リと密着するよう,非崩壊状態において襞 , ,
波 継ぎ目 ,接合部またはガセッ
トがなく,側壁と基部との内部接合部に溝を有しておらず,前記外箱の内部
に対応した形状を有している合成樹脂製バッグ(38) が記載されている。
」
したがって,甲13,14を挙げて相違点1に係る本願発明の構成を周知
技術であるとした審決の判断に誤りはない。
原告は,「自立構造について開示も示唆もされていない点において審決の
摘示は誤りである。」と主張しているが,「自立構造」に基づく主張は取消事
由1で反論したとおり,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものでは
ないので原告の主張は誤りである。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ) 2)(発明の内容) 3)(審決
,( ,(
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 原告は,本願発明のライナーは,崩壊可能でありながら襞がない状態で
自立性ないし保形性がある一方,引用発明のライナーは崩壊性については規
定するものの,襞がないこと,及び自立性ないし保形性については規定して
いないから,審決はこの本願発明の要点に係る相違点を看過したものであり,
この誤りは審決の結論に影響を及ぼす旨主張するので,以下検討する。
ア 本件補正後の明細書(以下「本願明細書」という。甲1〔公表公報〕,
甲3〔平成18年9月6日付け手続補正書〕
)には以下の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲(甲3)
・ 請求項1
「1.液体タンク(12)と,
基部(13A)および側壁(13B)を備え,前記液体タンク内
に配置される取り外し可能かつ崩壊可能なライナー(13)と,
前記ライナー(13)内の液体を分配するスプレーノズル(4)
と,
から構成される液体をスプレーするための装置であって,
前記ライナー(13)は,前記装置の動作の間にライナー内の液
体が排出される際に崩壊するものであり,
前記ライナー(13)は,前記液体タンク内にピッタリと密着す
るよう,非崩壊状態において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセッ
トがなく,側壁と基部との内部接合部に溝を有しておらず,前記液
体タンクの内部に対応した形状を有していることを特徴とする装
置。」
・ 請求項7
「7.前記ライナー(13)が,比較的剛性がある基部(13A)
と,前記基部(13A)に比較して相対的に薄くて崩壊可能な側壁
(13B)と,前記液体タンク(12)の開放端部の縁部に着座す
るよう形成された外部に延在する平坦なリム部(14)とを有する,
請求項2から6のいずれか一に記載の装置。」
・ 請求項10
「10.前記ライナー(13)は,前記側壁(13B)が直立して
上方に延びた状態で支持されずに基部(13A)に立つことが可能
である,請求項7から9のいずれか一に記載の装置。」
(イ) 発明の詳細な説明(甲1)
① 「使用者がスプレーガンのタンク内の液体を変えたい場合,一般に ,
古い液体の痕跡がガン内に残って新しい液体を汚濁させないように,
ガンをきわめて完全に清掃する必要がある。これは,特に塗料スプ
レーガンに言えることである。なぜなら,古い回分の塗料がガン内
に残っていると,新しい回分の塗料を使用できなくなる程,新しい
回分の塗料の色に影響するからである。…しかし,スプレーガンの
清掃は,比較的複雑かつ時間がかかる作業である。さらに,塗料ス
プレーガンの場合,清掃作業では,環境上の理由から取扱いおよび
廃棄に注意を要する溶剤をかなり多量に使用する。その結果,塗装
作業のコストが著しく増大する可能性がある。使い捨てライナーを
スプレーガンの塗料タンクつまり塗料ポット内に使用して,ガンの
清掃を単純化するとともに,必要な溶剤の量を減少させる方法は既
に提案されていた(上記の欧州公開第 0 678 334 号を参照)。(8頁
」
9行∼22行)
② 「発明の開示 本発明は,十分に安価で使い捨て可能であるととも
に,廃棄されるときに,できれば容易に崩壊することができ,しか
も使用の際に取扱いおよび充填が比較的容易な収納容器を提供する
ことに関する。本発明は,特に,別の容器内のライナーとして使用
するのに適する収納容器の提供に関する。本発明はさらに ,スプレー
ガンおよび類似装置の清掃を単純化して,その結果,こうした清掃
作業に関連する時間および経費を減少させることを可能にすること
に関する。
本発明は,側壁と,プラスチック材料から熱/真空成形される比較
的剛性がある基部とを備える収納容器であって,側壁が基部に比べ
て薄くて崩壊可能であり,側壁が延在して直立した状態で,支持さ
れずに基部で立つことが可能な収納容器を提供する。
さらに詳しく述べるなら,本発明は,基部と,基部から延在する側
壁とを備える収納容器であって,基部および側壁がプラスチック材
料から一緒に熱/真空成形され,基部は比較的剛性があり,側壁が
基部に比べて薄くて崩壊可能であるが,側壁が延在して直立した状
態で支持されずに基部で立つことが可能である収納容器を提供する。
本発明による収納容器は,容器のライナーとして使用することがで
き,ライナーは,容器の内部に対応する形状を有する。一変形例と
して,本発明は,容器と組み合わせて,容器内部に適合し,容器の
内部に対応する形状を有する使い捨てライナーであって,プラスチッ
ク材料から熱/真空成形されるライナーを提供する。このライナー
は,崩壊可能であることが好ましいが,必ずしも崩壊可能である必
要はない。(8頁下6行∼9頁16行)
」
③ 「本発明のもう1つの態様により,タンクの開口部に位置してタン
クの流体出口が形成される着脱可能な蓋を有し,タンクに対応する
形状を有してタンク内に密接に適合する着脱可能かつ崩壊可能なラ
イナーを備える,スプレーガンに取り付ける流体タンクであって,
ライナーが,開口部の外周部で蓋によりタンクに固定され,蓋とと
もにタンクから取り外すことができる流体タンクを提供する。本発
明はさらに,スプレーガンに取り付ける流体タンクであって,タン
クの開口部に位置してタンクの流体出口が形成され,流体出口がス
プレーガンに取り付けるように賦形される着脱可能な蓋と,蓋から
離れたタンクの端部に閉鎖可能な通気口とを備える流体タンクを提
供する。
本発明のさらにもう1つの態様により,スプレーガンのタンクに使
用するライナーであって,プラスチック材料から形成され,タンク
内に密接に適合し,比較的剛性がある基部と,基部に比べて薄くて
崩壊可能な側壁とを有するライナーを提供する 。 (10頁9行∼2
」
1行)
④ 「 崩壊可能』という用語は,本発明による収納容器/ライナーの
『
側壁に関して本明細書で使用する場合,その側壁が,たとえば手の
圧力など,適度な圧力を加えることにより変形することができ,し
たがって収納容器のリムを収納容器の基部に向かって押すことがで
きるとともに側壁が破壊しない状態を意味する 。 (11頁6行∼9
」
行)
⑤ 「塗料ポット 11 のライナー 13 は,上記のとおり,形状が収納容器 12
の内部に対応し,収納容器の上縁部に着座する開放端部に細いリム
14 を有する。以下のとおり,ライナーは自立するが崩壊可能でもあ
り,比較的剛性がある基部 13A および比較的薄い側壁 13B を有し,
崩壊する場合,基部ではなく側壁によって長手方向に崩壊する。さ
らに,ライナー 13 には襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがな
く,側壁 13B と基部 13A との内部接続部には溝もない。こうしたタ
イプのライナーについて,図 19 および図 20 を参照してさらに詳し
く説明する。さらに,こうしたライナーを製造できる熱成形工程に
ついても説明する。(14頁5行∼12行)
」
⑥ 「…塗料をライナー 13 の内部から除去すると ,ライナーの側部は,
ライナー内の減圧によって崩壊する。ライナーの基部は比較的剛性
がありその形状を保つので,ライナーは,横断方向ではなく長手方
向に崩壊し,塗料のポケットがライナー内に閉じ込められる可能性
が少なくなる。(15頁4行∼7行)
」
⑦ 「ライナー 13 は,上記のとおり,収納容器 12 の内側に正確に適合
し,滑らかな内面を有するので,別個の容器の中ではなく,収納容
器 12 自体の中で塗料を混合することができる。こうして,別個の混
合容器の清掃がなくなり,使用する溶剤の量をさらに減少させるこ
とができる。図1の6に示すように従来の塗料ポットを備えた重力
供給ガンを使用する場合,ポット6の両端が開いているので,この
可能性はない。ライナー 13 が混合器具によって孔があくかまたは破
損する可能性は,第1にライナーが収納容器 12 内に正確に適合する
ため,第2に,以下に説明するライナーの自立性によって,混合工
程中に収納容器内部の周囲でライナーが引きずられる可能性が少な
いため最小限である。(15頁下4行∼16頁5行)
」
⑧ 「次に,図2の塗料ポット 11 に戻り,ライナー 13 について,その
製造方法とともにさらに詳しく説明する。図 19 および図 20 に分離
して示されているライナーは透明であって,1個のプラスチック材
料,できればポリエチレンまたはポリプロピレンから熱成形するこ
とが好ましい。ライナーの形状は,収納容器 12 内部の形状により必
然的に決まる。比較的剛性がある基部 13A は円形であり,ライナー 13
は,収納容器 12 の内部と同様にほぼ円筒形だが,口から基部 13A
に向かってわずかに内側にテーパーが付いている。リム部分 14 は,
基部と同様に比較的剛性があるが,側壁 13B は可撓性であり,既に
述べたように崩壊させることができる。にも関わらず,ライナー 13
は,支持しなくても,図 19 に示すように側壁 13B が延在して直立
した状態で基部 13A で立つことができる。ライナー 13 が崩壊する
場合,比較的剛性がある基部 13A はその形状を保つが,側壁 13B が
崩壊すると,図 20 に示すようにライナーのリム部分 14 方向に移動
する。側壁 13B は,プラスチックの袋と同様の状態で崩壊し,たと
えば割れるか,裂けるかまたは亀裂が生じたりして破壊することは
ない。(23頁4行∼17行)
」
⑨ 「図 21 および図 22 に関して説明した工程により製造されるライ
ナー 13 は,図2のスプレーガンタンクに使用する場合,図 20 に関
して説明したように崩壊する。ライナー 13 は,ライナーの基部 13A
をリム 14 方向に押して手で崩壊させることもできる。ライナーは一
般に,支持しなくてもその基部 13A で立つことができ,この特徴は,
ライナーをスプレーガンのタンク 11 に使用する上で不可欠ではない
が,保管の点で役立つ。このライナーには,襞,皺,継ぎ目,接合
部もしくは折り目がなく,基部 13A を備えた側壁 13B の内部の接続
箇所には溝がなく,したがって,ライナー内部に材料が閉じ込めら
れる場所はない。ライナーの基部 13A は必然的にスプレーガンタン
ク 11 の収納容器 12 の基部で多少の空間を占めるので,収納容器 12
の壁上のマーキングは,この点を考慮して配置する必要がある。
図 19 のライナー 13 について,特に図2の塗料ポット 11 に使用す
る場合を説明してきたが,同一または類似の製品は他の方法で使用
することもできる(必要な場合,寸法を適切に変更する)。たとえば,
図 19 に示したタイプの製品は,スプレーガンタンク以外の多くの形
態の容器のライナーとしても使用することができる。容器に使い捨
てライナーを設けることが好ましい場合は多くあり,たとえば容器
を清潔に保つ,清掃しやすくする,あるいは容器またはその中身を
保護するといった目的がある。図 19 に示すタイプのライナーは,こ
れらのどの目的にも使用することができ,複数の物質が一緒に混合
される容器に特に有用である。つまり,ライナー内部には,材料を
閉じ込めて混合されない状態に保つ場所はないからである。 (25
」
頁下4行∼26頁16行)
⑩ 「さらにもう1つの代替例として,図 19 に示すタイプの製品は,
単に収納容器として使用することもでき,この場合,壁 13B は可撓
性の点でプラスチックの袋に匹敵するが,支持されなくても,充填
されるときおよびその後直立に立つことができるという利点がある。
この収納容器は,任意の適切なサイズで良く,粉末や液体など,多
くの様々なタイプの物品を収納するために使用するか,または小売
業者が消費者に提供するプラスチック/紙製の袋の単に代替物とし
て使用することができる。何れの場合にも,この収納容器は,収納
容器内の材料が閉じ込められる場所が内部にないという利点があ
る。(27頁末行∼28頁7行)
」
⑪ 「使用後,収納容器を廃棄する必要がある場合,側壁 13B は,リ
ム 14 を基部に向かって押すことにより手で崩壊させると,その結果
図 20 に示す形態になった収納容器は廃棄に要する空間が少なくな
る。既に述べたとおり,側壁 13B は,プラスチックの袋と同様に,
割れるか,裂けるかまたは亀裂が生じたりして破壊せずに崩壊する
ことができる。(28頁14行∼18行)
」
(ウ) 図面(かっこ内は「図面の簡単な説明」〔11頁14行∼12頁1
9行〕中の当該図面に関する記載である。甲1)
・ 図1(先行技術のスプレーガンの斜視図であり,塗料を充填できる
ように部分的に分解された状態を示す 。)
・ 図2(図1に示したスプレーガン用の代替形態〔判決注:代替形態
がすなわち本願発明〕の塗料タンクの構成部品を展開した状
態で示す。)
・ 図3(組み立てた状態の図2の塗料タンクと,タンクをスプレーガ
ンに接続するアダプタとを示す 。)
・ 図4(図3の塗料タンクおよびアダプタの長手方向の断面図を示
す。)
・ 図6(スプレーガンに使用される図4の塗料タンクを示す。)
・ 図7(図4の塗料タンクの構成部品を使用後に取り外した状態を示
す。)
・ 図19(本発明によるライナー/収納容器の斜視図である。)
・ 図20(類似している図だが,崩壊して廃棄される過程にあるライ
ナー/収納容器を示す 。)
イ また,請求項1に記載のある「ライナー 」,及び「ガセット」の意味に
ついて,各種の辞典によれば,以下のとおりであるとされている。
・ 甲16,18( 小学館ランダムハウス英和大辞典」小学館ラ
「
ンダムハウス英和大辞典編集委員会編,1989年〔平成元年〕
4月1日第11刷発行)
「liner …2.裏地,裏(lining)…」
「gusset …1.まち,三角切れ(皮)…」
・ 甲17,19( 英和プラスチック工業辞典」小川伸著,株式
「
会社工業調査会,1985年〔昭和60年〕6月10日第4版第
1刷発行)
「liner …ライナー 2つの部品の関係を一定に保つための交
換可能な部品…
4)ライナークロス
5)容器の内張りフィルム…」
「gusset …ガセット,(縦の)ひだ」
ウ 上記ア,イによれば,本願発明(請求項1)のライナーは,噴霧装置の
液体タンク内に取り外し可能に配置される液体を収容可能な内袋であり,
基部と側壁とを備え,かつ崩壊可能であって,非崩壊状態では襞等を有し
ないものである(請求項1,図2,図6等)
。
従来の液体噴霧装置において,塗料などを使い捨てのライナーに収容し
て噴霧装置に装着し,噴射後にライナーを取り外すことにより清掃を単純
化し,清掃に必要な溶剤の低減化を実現することは既に知られていたとこ
ろ(上記ア(イ)摘記①),本願発明のライナーは,それ自身が収納容器と
しても使用可能であるとともに,噴霧装置の液体タンク内に配置される内
袋としても使用可能で(同⑩),非使用時の保管(同⑨),使用の際の取扱
い及び内容液の充填も容易で,廃棄の際には容易に崩壊できるもの 同②)
(
を提供することを目的とするものである。
そのため本願発明のライナーは「崩壊可能」とされているところ(請求
項1)「崩壊可能」は日本語として一義的な意味を有するものではない。
,
そして,本願明細書において崩壊可能の用語をライナーの側壁に関し使用
する場合には,手の圧力など,適度な圧力を加えることにより変形でき,
基部に向かって押すことができるものの側壁が破壊しない状態を意味する
(上記ア(イ)摘記④)と定義されている。またライナーは,支持しなくて
も延在して直立した状態で立つことができる旨が記載されている 同⑧)
( 。
そうすると,本願発明のライナーは,手の圧力などの人為的な圧力を加え
ない限り,側壁は変形せずに収納容器の形状を保つ性質を有するものであ
り,自立構造(自立性ないし保形性)を有するものといえる。この性質を
有することにより,本願発明のライナーは,非使用時の保管・内容物の充
填が容易であり,また内容物を充填したまま単なる収納容器として使用出
来ると共に,使用後に廃棄する必要があるときは,側壁が割れたり裂ける
などの破壊をすることなく,手で押しつぶして崩壊させ,廃棄に要する空
間を少なくできる等の意義を有するものと認められる。
また,ライナーは上記のように自立構造(自立性ないし保形性)を有し
つつ, 液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状態において襞,
「
波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく」(請求項1,関連する記載と
して上記ア(イ)摘記⑤)との,襞のない(非襞)構造を有していることか
ら,ライナーを別個の収納容器の内側に適合させた状態で,収納容器中の
塗料を混合器具によって破損されることなく混合することが可能となる
(上記ア(イ)摘記⑦)と共に,ライナー内部に材料が閉じこめられる場所
がないために内容物を十分に排出できる(同⑨,⑩)という意義を有する
ものである。
エ 一方,引用発明が記載されている甲7には以下の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲の記載
・ 「 請求項1】 ボディと,該ボディの前方端部に取り付けられたノ
【
ズル組立体と,前記ボディの後方端部に隣接するところから延びる
取っ手とを有する手持ち用の塗料スプレーガンであって,前記取っ
手に接続された霧化空気供給用の管を有しており,前記ノズル組立
体は,作動中に塗料を噴霧軸線の周りで霧化放出し ,塗料カップと,
該塗料カップを前記後方端部に隣接して前記ボディに取り付けるた
めの塗料カップ取付け手段とを具備しており,前記塗料カップは,
前記取っ手の反対側から前記ボディの前記後方端部を越えて前記噴
霧軸線に対し25°から35°の角度をなす軸線に沿って延びてお
り,前記塗料カップから前記ノズル組立体へ塗料を運ぶために接続
されたチューブを具備する塗料スプレーガン 。」
・ 「 請求項8】 塗料は吸引供給を通じて前記塗料スプレーガンへ流
【
れ,前記塗料スプレーガンは,使い捨て可能な可撓性の袋を更に有
しており,該袋は,一端部に隣接した開口部と,反対端部に隣接し
たシールされたジッパー閉鎖部と,塗料を前記チューブへ運ぶため
に流体流通路に前記袋の前記開口部を接続する手段とを有しており,
前記袋は,塗料が前記袋から前記塗料スプレーガンへ運ばれるとつ
ぶれる請求項1に記載の塗料スプレーガン。」
(イ) 発明の詳細な説明
・ 「使い捨て可能なつぶれる袋を塗料カップに入れるのが好ましい。
ブシュは,袋の排出開口部と,塗料カップからの流体出口との間の
液密接続を形成する。工具を使用して,袋に開口部を形成して,ブ
シュをその形成した開口部へ通し,ブシュを塗料カップの底部の塗
料出口開口部へ挿入する。袋は,袋が塗料で満たされたあと,一体
的な液密ジッパーで塞がれるような塗料カップの蓋に隣接した開口
端部を有する。袋を使用するとき,塗料カップは,塗料で汚れるこ
とはなく,従って使用後に掃除する必要がない。塗料スプレーガン
が吸引塗料供給で作動し,残った全ての空気が閉じられた袋から除
去されるならば,塗料スプレーガンは,従来の水平で下方向と同様
に,上方向へ噴霧するように作動する。噴霧の終了後,霧化空気は
止められて塗料供給チューブの吸引を遮断する。それから塗料スプ
レーガンの引き金が引かれて,圧搾されるボトルまたは注射器が,
溶剤をノズルから塗料スプレーガンを通って袋へ流して戻すのに使
用される。塗料スプレーガンは,0.06リットル(2流量オンス)
くらいの少ない溶剤で掃除される。従って,塗料は塗料スプレーガ
ンと塗料供給チューブから除去されて ,閉じられた袋に集められる。
使用されずに残った塗料と,使用した溶剤とを含む袋は,塗料カッ
プから取り外され,簡単に処理される。明らかに,塗料および溶剤
を閉じた袋へ流して戻すことは,溶剤や塗料が閉じた袋に集められ
て,外気に散布されないので,含まれたスプレーガン用のクリーナー
のための現存する環境基準に従っている。従って,高価なスプレー
ガン用のクリーナーの必要性は排除される。(段落【0010 】
」 )
・ 「塗料カップ26は,塗料カップ26を通る長手軸線60が鉛直に
なっているときに,塗料カップ26の塗料の量を表示するための目
盛り82(図5参照)を備えてもよい。特定の塗料の噴霧が終了し
たあとには,塗料スプレーガン25および塗料カップ26から塗料
を取り除く必要がある。これは,塗料カップ26および塗料スプレー
ガン25を通して塗料溶剤を流し込むことによってなされる。除去
しやすくするために,図9から図11に示すように使い捨ての可撓
性の袋83を塗料カップ26に入れてもよい。袋83は塗料溶剤耐
性のプラスチックから形成され,且つ一体的に設けられた漏れ防止
用のジッパー閉鎖部84を有する。小さな開口部85が,袋83の
底部に形成される。ブシュ86が,開口部85に挿入されて,袋8
3が塗料カップ26のニップル51の中央開口部53に取り付けら
れる。図10に示すように,ブシュ86は,略管状であり,且つ袋
83の開口部85よりも大きな端部87を有する。袋83の開口部
85は,ブシュ86の端部87を通すために,伸びなければならな
い。袋83の開口部85の周辺の張力によって,袋83がブシュ8
6にシールされる。ブシュ86の大きな直径を有する半径方向のフ
ランジ88によって,ブシュ86全体が袋83の開口部85を通過
してしまうのを防ぐ。ブシュ86は,袋83を塗料カップ26に取
付け且つ袋83を塗料カップ26から取り外す際に掴むための大き
な直径を有する端部89を有する。多数の溝90を端部89に設け
て,塗料を袋83からブシュ86を通って中央路91へ流しやすく
するのが好ましい。中央路91は,端部89の直径が端部87の直
径よりも大きくなるように,段になっている。分離したブシュ86
を示したが,そのブシュ86が袋83に一体的に設けられた部分と
して成形されてもよいことは明らかである。(段落【0020 】
」 )
・ 「図11は,ブシュ86によって塗料カップ26の内側に取り付け
られた袋83を示している。ブシュ86の端部87は,ニップル5
1の路によって収容される大きさであり,そのニップル51の路を
シールするようになっている。使用においては,塗料スプレーガン
25の利用者は,袋83を塗料カップ26の内側へ取り付けて,袋
83のジッパー閉鎖部84を開く。所望の量の塗料を袋83へ注ぎ ,
ジッパー閉鎖部84をシールして,蓋35を塗料カップ26に取り
付ける。塗料が袋83に保持されているので,塗料に露出している
のは,ニップル51の路と,チューブ55と,ノズル組立体27の
塗料路とだけであり,使用後に掃除する必要があるのはこれらのみ
である。それから利用者は,塗料スプレーガン25の噴霧軸線37
が鉛直状態に上方へ塗料スプレーガン25を向けて,塗料スプレー
ガン25の引き金を引く。袋83にある空気は,塗料スプレーガン
25を通る霧化空気流により生じた吸引力によって排出される。空
気および塗料が袋83から引き出されると,袋83がつぶれる。全
ての空気が袋83から除去されると,塗料スプレーガン25は,塗
料スプレーガン25が向けられた方向にかかわらず,塗料を放出す
る。従って,吸引供給およびシールされたつぶれる袋83を使用す
ることによって,塗料スプレーガン25は,上方へ噴霧し,水平面
の下面を塗装することが可能である。従来技術の手持ち用の塗料ス
プレーガンにおいては,塗料供給チューブが塗料表面の下で浸され
ているような方向へ向けられるときにだけ噴霧可能である。 (段落
」
【0022】)
(ウ) 図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である)
・ 【図3】(水平軸線の周りで噴霧して鉛直面を塗装するための本発
明に従った塗料カップを上部に備える手持ち用の塗料スプ
レーガンの側面図である。)
・ 【図4 】(図3の塗料スプレーガンの塗料カップおよび蓋の側面図
である。)
・ 【図9】(塗料カップに入れるための袋の側面図である。)
・ 【図10】(図9の袋を塗料カップへ取り付けるためのブシュの拡
大断面図である。)
・ 【図11】(塗料カップの内側で部分的に充填されて入れられた袋
を鎖線で示した図4の塗料カップの拡大図である。)
(エ) 上記(ア)∼(ウ)によれば,引用発明にいう袋は,塗料カップ内に入
れる使い捨て可能なつぶれる袋であるところ(請求項8,段落【001
0】,
)この袋はプラスチックから形成されるが,
袋の上部は液密ジッパー
で塞がれ(段落【0010 】 【0022 】 ,袋の下部は袋の開口部周
, )
辺の張力によって袋の排出開口部と接続するブシュにシールされる構成
となっており(段落【0020 】,図11記載の部分的に塗料が充填さ
)
れた状態をみても,引用発明の袋は,それ自体として自立性ないし保形
性を有しないことが明らかである。
オ 以上ア∼エの検討によれば,本願発明のライナーは,自立構造(自立性
ないし保形性)を有するものであるのに対し,引用発明の袋は,内容物た
る塗料がない状態では,自立性ないし保形性を有しないものである。審決
が認定した一致点及び相違点は上記第3, 3)イのとおりであるところ,
1(
審決はこの相違点を看過している。
そして,本願発明のライナーは,自立性ないし保形性を有することによ
り,上記ウのとおり,ライナー自身を収納容器として使用することも可能
で,非使用時の保管・内容物の充填も容易となる等の作用効果を奏するも
のであるから,この相違点の看過が審決の結論に影響を及ぼすことは明ら
かであり,原告主張の取消事由1は理由がある(なお,上記引用発明から
本願発明に進歩性がない判断とすることも相当でない )。
(2) 被告の主張に対する補足的説明
ア 被告は,本願発明の特許請求の範囲には,ライナーが自立性を持つこと
の記載はない旨主張する。
しかし,請求項1の「崩壊可能」の解釈については上記ウで検討したと
おりであり,本願発明のライナーについては自立性ないし保形性を有する
ものと認めることができる。被告の上記主張は採用することができない。
イ また被告は, 積極的に基部と側壁とで構成して自立性を持たせること」
「
に関しては ,「基部」の剛性について請求項7で記載したうえで,請求項
10で自立性について記載している点からも,本願発明(請求項1)のラ
イナーが自立性を有することは特許請求の範囲の記載に基づかないとも主
張する。
なるほど上記(1)ア(ア)のとおり,請求項7はライナーの基部の剛性に
ついて,同10は直立して上方に延びた状態で支持されずに基部に立つ側
壁を有することについて,それぞれ記載しているが,請求項1のライナー
についてはこのような記載はない。しかし請求項1にも「崩壊可能」の語
があり,これについて自立性ないし保形性を有することが示されていると
解されることは上記で検討したとおりであるから,被告の上記主張は採用
することができない。
3 結語
以上によれば,原告主張の取消事由1は理由があり,これが審決の結論に影
響を及ぼすことは明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,
審決は違法として取消しは免れない。
特許庁は,他の引用発明の有無も含め,改めて本願発明等の進歩性の有無に
ついて検討すべきである。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 今 井 弘 晃
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