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平成20(行ケ)10049審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年12月22日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告大和化成工業株式会社 小島プレス工業株式会社 ら訴訟代理人弁理士岡田英彦,犬飼達彦,福田鉄男,太田直矢,服部光芳,
対象物 クリップ
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 刊行物102回
審決31回
実施2回
分割1回
優先権1回
主文 原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。
事件の概要 本件は,特許出願に対する拒絶査定を不服とする審判請求に対する不成立審決の 取消しを求める事案である。

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判決文

平成20年(行ケ)第10049号 審決取消請求事件
平成20年12月22日判決言渡,平成20年11月17日口頭弁論終結
判 決
原 告 大和化成工業株式会社
原 告 小島プレス工業株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士 岡田英彦,犬飼達彦,福田鉄男 ,太田直矢 ,服部光芳,
伊藤寿浩,神谷十三和
被 告 特許庁長官
指定代理人 村本佳史,山岸利治,森山啓,紀本孝,岩谷一臣
主 文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2006−1562号事件について平成19年12月25日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定を不服とする審判請求に対する不成立審決の
取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯(争いのない事実)
大和化成工業株式会社(以下「旧大和化成工業」という 。)及び小島プレス工業
株式会社(以下「旧小島プレス工業」という。)は,発明の名称を「クリップ」と
する発明について,平成9年3月19日(国内優先権主張:平成8年6月3日)に
特許出願(以下「本件出願」という 。)をしたが,平成17年12月20日付けで
拒絶査定を受けたので,平成18年1月25日,同拒絶査定に対する不服審判を請
求した。
特許庁は,上記不服審判請求を不服2006−1562号事件として審理し,平
成19年12月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成
20年1月15日,その謄本を原告らに送達した。
なお,原告大和化成工業株式会社及び同小島プレス工業株式会社は,いずれも平
成19年10月1日,会社分割により旧大和化成工業及び旧小島プレス工業から本
件出願に係る発明の特許を受ける権利の持分をそれぞれ承継し,いずれも平成20
年3月21日,被告に対してその旨の出願人名義変更届(一般承継)をした。
2 発明の要旨
審決は,平成15年7月2日付けの手続補正書(甲4),平成17年10月6日
付けの手続補正書(甲5)及び平成19年11月26日付け手続補正書(甲6)に
より補正された明細書(甲3∼6。以下「本願補正明細書」という 。)の特許請求
の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という 。)を対象としたも
のであるところ,その要旨は次のとおりである なお,
( 請求項の数は3個である 。。

「 請求項1】
【 リブを有する被取付け部材を,取付け孔を有する取付け板に装
着するために使用されるクリップであって,
被取付け部材のリブに前もって取り付けられ,このリブを取付け板の取付け孔に
押し込むことによって該取付け孔に挿入され,それによって被取付け部材が取付け
板に取り外し可能に装着されるように構成され,
樹脂材によって一体成形されたクリップ本体は,挿入部と,挿入部の内側から垂
下する一対の挟持部と,挿入部の両側において外側に張り出した形状の係止肩とを
有し,
係止肩は,クリップ本体が被取付け部材のリブと共に取付け板の取付け孔に挿入
されたときに,この取付け孔の縁に弾性的に係合するように設定され,
両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された
係合突部とを有し,両挟持面はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられ
たときに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触するように設定され,両係合
突部はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブに形成さ
れている係合孔に,挟持面と直角な面で係合するように設定されていることを特徴
とするクリップ。」
3 審決の理由の要旨
(1) 審決は,本願発明は,実願昭62−172298号(実開平1−7711
1号)のマイクロフィルム(甲1。以下 ,「刊行物1」という。)に記載された発明
及び実願昭63−155953号(実開平2−76211号)のマイクロフィルム
(甲2。以下「刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受
けることができないとした。
審決が上記結論に至った理由は,以下のとおりである。なお,略語,符号等を一
部訂正したところがある。
ア 刊行物1記載の発明
刊行物1には,以下の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているもの
と認められる。
「内装材4の裏面にクリップ3と係合する突入部材5を構成する壁部6を立設し,クリップ
3を突入部材に押し込んで一体的に取り付け,次に,突入部材5をクリップ3と共に自動車の
ボディパネル1の取付孔2にクリップ3を介して突入させ,容易に着脱しうるようにし,クリ
ップ3は合成樹脂材で一体成形され,U字形状断面をなす頭部11とその頭部11からハの字
状断面をなすように延出された一対の脚部12とからなり,頭部11の両脚部12の内側部分
に向けて開口する開口部には,互いに対向する向きに凸設された一対の突部13が長手方向に
延在しており,U字形状をなす頭部11の内側にはその開口部を両突部13により狭められた
凹設部14が郭成され,両突部13は,凹設部14が構成する面と直角な面で係合され,脚部
12の両基端部には左右に向けて凹設された溝状の係合部15がそれぞれ形成されているクリ
ップ3。」
イ 刊行物2の記載事項
刊行物2には, 車両の部品取付構造」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア) 「この考案は,上記課題を解決するためになされたもので,ガタツキや異音を発生さ
せることのない車両の部品取付構造を提供することを目的とする 。 (第4頁第1−4行参照)

(イ) 「第1図において,インストルメントパネル11に取り付けられる部品の1つである
クラスタ12の背面側には取付用突起13が形成され,この取付用突起13にはクリップ14
が装着されている。このクリップ14は第2図および第3図に斜視図で示すように,弾性板材
をU字状に折り曲げ,その両端部を断面L字状に拡開変形させて抜止め片15としたものであ
り,そのクリップ14のU字状部16はクラスタ12の取付用突起13を装着させる部分であ
る。クリップ14の両方の抜止め片15には,その一部を切り起こして抜止め片15の先端側
に延びる係止片17がそれぞれ形成されている。また,これらの係止片17の先端にはU字状
部16側に向けて折り返された爪17aがそれぞれ形成されている。
一方,クラスタ12の取付用突起13の中胴部には,その先端がクリップ14のU字状部1
6の底に当接する位置まで挿入を完了した状態のもとで初めて上記係止片17の爪17aの係
止を許容する横穴18が形成され,この横穴18に係止片17の爪17aが係止することに
よってクリップ14は取付用突起13に装着される。 第5頁第11行−第6頁第12行参照)


ウ 本願発明と刊行物1記載の発明との対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「内装材4の裏面に
クリップ3と係合する突入部材5を構成する壁部6を立設し,クリップ3を突入部材に押し込
んで一体的に取り付け,次に,突入部材5をクリップ3と共に自動車のボディパネル1の取付
孔2にクリップ3を介して突入させ,容易に着脱しうるようにし」は,第1図及び第2図を参
酌して検討すると,内装材4は突入部材を構成する壁部6を有し,この突入部材5にクリップ
3を取付け,即ち前もって突入部材5にクリップが取り付けられ,この突入部材5を自動車の
ボディパネル1の取付孔2に突入即ち挿入して着脱しうるもの,すなわち取り外し可能に装着
するものである。従って,刊行物1記載の発明の上記事項は,本願発明の「リブを有する被取
付け部材を,取付け孔を有する取付け板に装着するために使用されるクリップであって,被取
付け部材のリブに前もって取り付けられ,このリブを取付け板の取付け孔に押し込むことに
よって該取付け孔に挿入され,それによって被取付け部材が取付け板に取り外し可能に装着さ
れるように構成され」に相当する。また,刊行物1記載の発明の「クリップ3は合成樹脂で一
体成形され」は本願発明の「樹脂材によって一体成形されたクリップ本体」に相当する。そし
て,刊行物1記載の発明の「U字形状断面をなす頭部11の内側には,その開口部を両突部1
3により狭められた凹設部14が郭成されている」は,これにより突入部材5の拡頭部を受容
するものであることから本願発明の「挿入部」に相当し ,「両突部13」は凹設部14が突入
部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられた突部であることから,本願発明の「係合
突部」とその機能において共通する。そして,刊行物1記載の発明の「脚部12の両基端部に
は左右に向けて凹設された溝状の係合部15」は,挿入部を有する頭部11からハ字状断面を
なすように延出,つまり挿入部の両側において外側に張り出した形状の部材であり,また取付
孔2に弾発的に係合するものあることから,本願発明の「挿入部の両側において外側に張り出
した形状の係止肩」に相当する。
そうすると,本願発明と刊行物1記載の発明とは,本願発明の用語に倣えば,
「リブを有する被取付け部材を,取付け孔を有する取付け板に装着するために使用されるク
リップであって,被取付け部材のリブに前もって取り付けられ,このリブを取付け板の取付け
孔に押し込むことによって該取付け孔に挿入され,それによって被取付け部材が取付け板に取
り外し可能に装着されるように構成され,
樹脂材によって一体成形されたクリップ本体は,挿入部と,挿入部の両側において外側に張
り出した形状の係止肩とを有し,
係止肩は,クリップ本体が被取付け部材のリブと共に取付け板の取付け孔に挿入されたとき
に,この取付け孔の縁に弾性的に係合するように設定され,係合突部を有するクリップ 。」
である点で一致し,次の点で相違する。
本願発明は,挿入部の内側から垂下する一対の挟持部を有し,両挟持部は互いに平行に対向
する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,両挟持面はクリップ本
体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触
するように設定され,係合突部はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたときに
該リブに形成されている係合孔に挟持面と直角な面で係合するように設定されているのに対
し,刊行物1記載の発明のクリップの挿入部にはこのような挟持部はなく,係合突部は挿入部
を構成するものであって,リブに形成されている係合孔に係合するように設定されていない点 。
エ 相違点についての判断
(ア) 上記相違(点)について検討するに,刊行物2には ,クラスタの取付用突起に装着し,
インストルメントパネルに取り付けられるクリップ,すなわち,本願発明及び刊行物1記載の
発明と共通の技術分野に属するリブを有する被取り付け部材を取付板に装着するために使用さ
れるクリップにおいて,ガタツキや異音の発生を防ぐため,挿入部に相当する抜止め片から延
びる一対の係止片を形成し,この係止片に取付用突起に設けた横穴に係止するための係止片1
7a(判決注: 係止片の爪17a」の誤記と認める 。
「 )を設けるという技術事項が記載されて
いる。そして,刊行物1記載の発明の挿入部及び係合突部に対して,刊行物2に記載された上
記技術事項を適用することにつき,格段の想到困難性があるものともいえない。
したがって,刊行物1記載の発明に対し,刊行物2に記載された技術事項を適用して,上記
相違に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到しうるものである。
(イ) その際,挟持面と直角な面で係合するように係合突部を設定する点は,刊行物1の摘
記事項ニ.(判決注:審決3頁「ニ.」の「第2図,第3図をみると,クリップ3の頭部11の
両脚部12の内側に向けて開口する開口部に延在する開口部に突設された一対の突部13は,
凹設部14が構成する面と直角な面で拡頭部7と係合しているものと認められる 。」との摘記
事項)において指摘したように,刊行物1記載の発明の係止突部は,拡頭部7と接する凹設部
14の面と直角な面で拡頭部7と係合するものであることに鑑みれば,刊行物1記載の発明の
挿入部及び係合突部に対して刊行物2に記載された上記技術事項を適用する際,係止突部の係
合部の形状として刊行物1に記載された係止突部のものを採用し,挟持面と直角な面で係合す
るように係合突部を設定することは,当業者であれば容易に想起しうるものであり,格別な創
作性を要するものとはいえない。
(ウ) そして,請求項1に係る発明が奏する作用効果も,刊行物1に記載された発明及び刊
行物2に記載された技術事項から当業者が予測できる範囲内のものである。
(2) 原告らは,審決の上記(1)の認定判断のうち,ア,イを認め ,ウのうち ,「両

突部13」は凹設部14が突入部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられ
た突部であることから,本願発明の「係合突部」とその機能において共通する 。」
との部分を争い,その余の部分を認め,エのうち,(ア)及び(ウ)を争い,(イ)を認
めている。
第3 審決取消事由の要点
1 取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)
(1) 審決は,本願発明と刊行物1記載の発明の対比において,「両突部13」

は凹設部14が突入部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられた突部であ
ることから,本願発明の「係合突部」とその機能において共通する 。」と認定して
いる。
しかしながら,本願補正明細書における特許請求の範囲の請求項1には「挿入部
の内側から垂下する一対の挟持部と ,・・・両挟持部は互いに平行に対向する平坦
な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合突部とを有し,」と特定されている
とおり,本願発明の「係合突部」は ,「樹脂製のクリップ本体にあって,挿入部の
内側から垂下する一対の挟持部の互いに平行に対向する平坦な挟持面に形成され
る」ものである。
したがって,単に機能面のみを捉えて,本願発明の「係合突部」が刊行物1記載
の「両突部13」と共通すると認定したことは違法である。
(2) 本願発明に係るクリップは,
「リブを有する被取付け部材を,取付け孔を有
する取付け板に装着するために使用されるクリップ」であり,この種のクリップは,
一般にその構成要素として,クリップを被取付け部材に取付けるための「リブへの
取付け構造」と,クリップを取付け板の取付け孔に係合させる「取付け孔への係合
構造」を備えている。
そして,本願発明では,「係合突部」が「挿入部の内側から垂下する挟持部」に
形成され,「挿入部の内側」及び「挿入部の内側から垂下する挟持部」と共に,ク
リップを「リブ」へ取り付けるための「リブへの取付け構造」を構成し,この「リ
ブへの取付け構造」は, 取付け孔への係合構造 」に該当する「係止肩」に対して ,

内外面(表裏)に独立した別部材としての形状で,連続して重複する存在として構
成されている。すなわち,本願発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔へ
の係合構造」は,クリップの拡開方向に対して2重構造をしている。
これに対し,刊行物1記載の発明では,「リブへの取付け構造」は「頭部11の
内側」及び「両突部13」により構成され ,「取付け孔への係合構造」に該当する
「脚部12」は ,「両突部13」よりもクリップの挿入方向の下方に形成されてい
る。すなわち,刊行物1記載の発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔へ
の係合構造」はクリップの挿入方向で上下の位置関係にある。
このように,本願発明と刊行物1記載の発明では ,「リブへの取付け構造部」と
「取付け孔への係合構造」の位置関係が相違しているにもかかわらず,この相違点
を看過した審決は違法であり,取り消されるべきである。
2 取消事由2(刊行物2記載の技術事項の誤認による相違点についての判断の
誤り)
審決は,刊行物1記載の発明に対し,刊行物2記載の「ガタツキや異音の発生を
防止するため,挿入部に相当する抜止め片から延びる一対の係止片を形成し,この
係止片に取付用突起に設けた横穴に係止するための係止片17aを設ける」との技
術事項を適用し,相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到
し得たことであると判断しているが,誤りである。
(1) 本願発明の「挟持部」及び「係止肩」は,本願補正明細書の請求項1にお
いて「樹脂材によって一体形成されたクリップ本体は,・・・挿入部の内側から垂
下する一対の挟持部と,挿入部の両側において外側に張り出した形状の係止肩とを
有し ,・・・両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に
形成された係合突部とを有し,」と特定されている。すなわち,本願発明のクリッ
プ本体を構成する一対の挟持部は,「挿入部の内側から垂下され,かつ互いに平行
に対向する平坦な挟持面」を有するものであり,同じくクリップ本体を構成する係
止肩は, 挿入部の両側において外側に張り出した形状」に形成されるものであり,

また,本願発明の「係合突部」は,「挟持部の互いに平行に対向する平坦な挟持面
に形成され」るものである。
そして,相違点に係る本願発明の構成は,上記の「挟持部」「係止肩」及び「係

合突部」が挿入部とともに樹脂材によって一体成形され,「挟持部」と「係止肩」
とが内外面(表裏)に独立する別部材としての形状で,連続して重複する存在とし
て構成されている。すなわち,本願発明では,挿入部の内側から垂下する「挟持部 」
と挿入部の両側において外側に張り出した 係止肩」 ,
「 が 共に挿入部から延設され,
クリップの拡開方向に対して「挟持部」が内側に形成され ,「係止肩」が外側に形
成された,2重構造をしている。
(2) これに対し,刊行物2に記載された発明の「係止片17」は,弾性板材を
U字状に折り曲げて抜止め片15とし,その抜止め片15の一部を切り起こして抜
止め片15の先端側に延びるように形成されたものであって,あくまでも係止片1
7は,抜止め片15の一部としての形状を構成するものである。このように,刊行
物2においては,一枚の弾性板材から形成される係止片17と抜止め片15を,内
外面(表裏)に重複して存在するように構成することは不可能であり,刊行物2に
は,係止片17と抜止め片15とが内外面(表裏)に重複して存在するように構成
すること,すなわち,本願発明の「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部」との
技術事項は記載されていない。
(3) 以上のとおり,刊行物2には,相違点に係る本願発明の構成は記載されて
いないから,刊行物1記載の発明に対し,刊行物2に記載された技術事項を適用し
て本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)
審決は,本願発明が奏する作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の
技術事項から当業者が予測できる範囲内のものであると認定しているが,誤りであ
る。
本願発明は,その構成により ,「取付け孔に対する挿入に伴って係止肩には内側
(内方)の弾力が蓄積され,その蓄積弾力が挟持部を内側(内方)に向って撓む方
向の弾力として付与され,この付与される弾力によって,挟持部の挟持面に形成さ
れた係合突部とリブに形成された係合孔との係合状態をより一層強固とし,両者の
係合状態を外れにくくする」という特有の作用効果を奏するものであり,この作用
効果は,抜止め片15の一部を切り起こして抜止め片15の先端側に延びる係止片
17を形成する刊行物2記載の技術事項からは達成し得ないものである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)に対し
刊行物1記載の発明の「両突部13」は,本願発明の「リブ」に相当する「突入
部材5」に係合するものであるから,本願発明の「係合突部」と刊行物1記載の発
明の「両突部13」は,構成上の相違はあるものの,共に「リブ」に係合する機能
を奏する点で共通する。
審決は,このことを踏まえて,本願発明の「係合突部」と刊行物1記載の発明の
「両突部13」について,上記の共通する機能を一致点とし,異なる構成を相違点
と認定したのであるから,審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(刊行物2記載の技術事項の誤認による相違点についての判断の
誤り)に対し
(1) 原告らは,本願発明の「挟持部」と「係止肩」とは,内外面(表裏)に独
立する別部材としての形状で,連続して重複する存在として構成されていると主張
する。
しかし,本願補正明細書の請求項1には,本願発明の「挟持部」が「挿入部の内
側から垂下する一対の」ものであること,「係止肩」が「挿入部の両側において外
側に張り出した形状」であること,が特定されているにすぎず ,「挟持部」と「係
止肩」とは必ずしも「連続して重複する存在」とはされておらず,また,請求項1
の上記「挟持部」と「係止肩」に係る特定事項から ,「挟持部」と「係止肩」とが
「連続して重複する存在」であることを明らかに導き出せるものでもない。
したがって,原告らの上記主張は,本願発明の構成に基づくものではなく,失当
である。
(2) 樹脂製あるいは金属製のクリップは,いずれも広く利用されている慣用手
段であって,しかも,形状や構造が類似しているものも多々存在することから,一
方のクリップの構造,形状についての技術を他方のクリップに適用することは,当
業者であれば当然試みるものである。
そして,刊行物2に記載された技術事項は「ガタツキや異音を発生させることの
ない車両の部品取付構造を提供することを目的とする。(甲2の4頁2∼4行)も

のであり,本願発明の「被取付け部材のリブに対するクリップ本体の取り付け状態
を安定させ」(本願補正明細書の段落番号【0005】)という目的と共通するもの
であるし,この目的は,クリップを設計する際に通常考慮することでもあり,刊行
物1記載の発明も当然有するものである。
加えて,刊行物1記載の発明に対して刊行物2に記載された技術事項を適用する
ことを阻害する技術的理由はない。
したがって,刊行物1記載の発明と刊行物2に記載された技術事項が共に有する
目的を達成すべく,刊行物1記載の発明の「両突部13」に対し刊行物2に記載さ
れた技術事項を適用し,「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部を有し」,さらに
「両挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された
係合突部とを有し,両挟持面はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられ
たときに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触するように設定され,係合突
部はクリップ本体が被取付け部材のリブに形成されている係合孔に挟持面と直角な
面で係合するように設定されている」という構成とすることは,当業者であれば容
易に想到し得たことである。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)に対し
原告らが主張する「取付け孔に対する挿入に伴って係止肩には内側(内方)の弾
力が蓄積され,この蓄積弾力が挟持部を内側(内方)に向って撓む方向の弾力とし
て付与され,この付与される弾力によって,挟持部の挟持面に形成された係合突部
とリブに形成された係合孔との係合状態をより一層強固とし,両者係合状態を外れ
にくくする」という特有の作用効果は,本願補正明細書に明記されたものでも,本
願発明の構成から導かれるものでもない。
仮に,本願発明の構成が,原告ら主張に係る上記作用効果を奏するものであると
すれば,刊行物2に記載されたクリップについても,その形状・構造から,取付用
穴11aへの挿入に伴い,抜止め片15に蓄積される内側の弾力によって内側に向
かって撓む方向の弾力が係止片17に付与され,係止片17の爪17aと横穴18
の係合状態が一層強固となるから,本願発明と同様の上記作用効果を奏するといえ
る。
そうすると,刊行物1記載の発明の「両突部13」に対し刊行物2に記載された
技術事項を適用し,
「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部を有し」,さらに「両
挟持部は互いに平行に対向する平坦な挟持面と,これらの挟持面に形成された係合
突部とを有し,両挟持面はクリップ本体が被取付け部材のリブに取り付けられたと
きに該リブの両側面に押し付けられた状態で接触するように設定され,係合突部は
クリップ本体が被取付け部材のリブに形成されている係合孔に挟持面と直角な面で
係合するように設定されている」としたものが,原告ら主張に係る本願発明と同様
の作用効果を奏することは,当業者であれば容易に予測できるものである。
したがって,本願発明が奏する作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2に
記載された技術事項から当業者が予測できる範囲内のものあるとした審決の判断に
誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)について
(1) 原告らは,審決が,本願発明と刊行物1記載の発明の対比において,「両

突部13」は凹設部14が突入部材5の拡頭部を弾発的に受容するために設けられ
た突部であることから,本願発明の「係合突部」とその機能において共通する 。」
と認定したことは誤りであると主張する。
ア そこで,まず,本願発明の係合突部と刊行物1記載の発明の両突部13とが
機能において共通するとした審決の認定判断の当否について検討する。
(ア) 本願補正明細書には,係合突部について,以下の記載がある。
(a) 「 0008】このように前記クリップ本体は,その両挟持部の平坦な挟

持面が前記リブをその両側から挟み付けた状態で接触し,かつ前記係合突部がリブ
の係合孔に係合することにより,前記被取付け部材に取り付けられる。したがって
このクリップ本体の取り付け状態が安定し,前記取付け板の係合孔に対するクリッ
プ本体の挿入作業が容易となり,また前記リブからクリップ本体が外れ落ちると
いったことが防止される。」
(b) 「 0017】
【 ・・・図4で示すように両挟持面18がリブ32に対してそ
の両側から接触すると同時に,前記の係合突部22がリブ32の係合孔34に対し
てその両側からそれぞれ係合する。これにより,クリップ本体10はセンタクラス
ター30のリブ32に対して安定した状態で取り付けられたこととなる。」
上記記載によれば,本願発明は,クリップ本体を被取付け部材に取り付けたとき
に,両挟持部の平坦な挟持面が取付部材のリブを両側から挟み付けた状態で接触す
るとともに係合突部がリブの係合孔に係合することにより,クリップ本体のリブへ
の安定的取付けとクリップ本体のリブからの抜止めの機能を実現するための部材で
あるといえる。
(イ) 刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。
(a) 「クリップに設けられた凹設部に,取付部材に設けられた突入部材の拡頭
部が弾発的に係合した状態で,クリップを被取付部材の係止孔に抜け止めさせれば,
取付部材を被取付部材に好適に固定することができる。(4頁8∼12行)

(b) 「合成樹脂材からなる内装材4の裏面には,クリップ3と係合する突入部
材5を構成する壁部6が一体成形されて立設しており,その壁部6の図に於ける上
方には長円形断面形状をなす拡頭部7が形成されている。(5頁5∼9行)

(c) 「クリップ3は,図に於ける下方に向けて開口するU字形状断面をなす頭
部11と,その頭部11から図の下方に向けてハの字状断面をなすように延出され
た一対の脚部12とからなり,可撓性を有する合成樹脂材で一体成形されている。
頭部11の両脚部12の内側部分に向けて開口する開口部には,互いに対向する向
きに凸設された一対の突部13が長手方向に延在しており,U字形状をなす頭部1
1の内側にはその開口部を両突部13により狭められた凹設部14が郭成されてい
る。(5頁17∼6頁6行)

(d) 「次に本実施例の組付要領を以下に示す。
先ず,第1図に示されるように,クリップ3をその脚部12側から矢印Aの向き
に内装材4の突入部材5に押込む。このとき,クリップ3の凹設部14が突入部材
5の拡頭部7を弾発的に受容するため,クリップ3が突入部材5に一体的に取付け
られる。(6頁10∼16行)

(e) 第2図は,取付部材を被取付部材に取り付けた状態のクリップの構造を示
す断面図であるが,クリップ3の両脚部12の内側に向けて開口する開口部に長手
方向に延在するように突設された一対の突部13は,凹設部14が構成する面と直
角な面で拡頭部7と係合している。
以上の記載によれば,刊行物1記載の発明は,クリップ3を被取付部材に取り付
けたときに,突入部材5の壁部6の上方に形成された拡頭部7が,可撓性を有する
凹設部14に弾発的に受容され,両突部13が拡頭部7と係合することにより,ク
リップ3が突入部材5に一体(安定)的に取り付けられるようにしたものであり,
両突部13は,クリップ3を突入部材5に一体(安定)的に取り付けるとともにク
リップ3の突入部材5からの抜止めの機能を有する部材といえる。
(ウ) 以上の検討結果によれば,本願発明の係合突部も刊行物1記載の発明の両
突部13も共にクリップを被取付部材のリブ(刊行物1記載の発明における突入部
材5がこれに相当する。)に安定的に取り付けるとともにクリップのリブからの抜
止めの機能を有する部材である点で共通するといえる。
したがって,審決が,刊行物1記載の発明の両突部13は本願発明の係合突部と
機能において共通すると判断したことに誤りはない。
イ そして,審決は,上記の判断に基づき,機能の共通性において対応する本願
発明の係合突部と刊行物1記載の発明の両突部13とを対比し,前記第2の3(1)
ウのとおり,本願発明の「係合突部」は「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部
の互いに平行に対向する平坦な挟持面に形成される」点及び「クリップ本体が被取
付け部材のリブに取り付けられたときに該リブに形成されている係合孔に挟持面と
直角な面で係合するように設定されている」点を,上記対比に係る本願発明と刊行
物1記載の発明との構成上の相違点として認定しており,この相違点の認定につい
ては,原告らも認めているところである。
したがって,審決の上記一致点の認定に誤りはなく ,原告らの主張は失当である。
(2) また,原告らは,本願発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔への
係合構造」は,クリップの拡開方向に対して2重構造をしているのに対し,刊行物
1記載の発明では,「リブへの取付け構造」と「取付け孔への係合構造」はクリッ
プの挿入方向で上下の位置関係にあり,本願発明と刊行物1記載の発明では両者の
位置関係が相違しているにもかかわらず,この相違点を看過した審決は違法である
と主張する。
そこで,検討するに,本願発明の構成に関する原告らの上記主張の適否はさてお
き,原告らは,刊行物1記載の発明が本願発明の係止肩に相当する構成(これが,
原告らのいう「取付け孔への係合構造」に当たるものと解される。)を備えている
ことは認めているのであるから,結局,上記主張は,原告らが主張するところの リ

ブへの取付け構造」に係る構成が本願発明と刊行物1記載の発明とで相違している
ことをいうものと解されるところ,上記(1)に判断したとおり,審決は,原告らの
いう「リブへの取付け構造」に係る構成を本願発明と刊行物1記載の発明との相違
点と認定しており,その対比自体に不十分な点は認められないのであるから,審決
が相違点を看過したとの主張は,その前提を欠くものというべきである。
(3) 以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(刊行物2記載の技術事項の誤認による相違点についての判断の
誤り)について
原告らは ,刊行物2には,相違点に係る本願発明の構成が記載されていないから ,
刊行物1記載の発明に対し,刊行物2に記載された技術事項を適用して本願発明の
構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではないと主張するので,以下,
検討する。
(1) 刊行物2(甲2)には,名称を「車両の部品取付構造」とする考案につい
て,図面とともに以下の記載がある。
(ア) 「実用新案登録請求の範囲
(1) U字状に折り曲げた弾性板材の両端部を拡開変形させて抜止め片としたク
リップのU字状部に部品の取付用突起を装着し,インストルメントパネルに形成さ
れた取付用穴に前記クリップを挿入しその抜止め片を取付用穴の口縁に係止させる
ことによりクリップを介して部品をインストルメントパネルに取り付けるようにし
た車両の部品取付構造において,
前記クリップの抜止め片の一部を切り起こして,クリップのU字状部側に向けて
折り返された爪を先端に有する係止片を形成するとともに,前記部品の取付用突起
には,その先端がクリップのU字状部の底に当接する位置まで挿入されたときは,
はじめて前記係止片の爪が係止しうる横穴を形成したことを特徴とする車両の部品
取付構造 。(1頁4∼19行)

(イ) 「この考案は ,・・・ガタツキや異音を発生させることのない車両の部品
取付構造を提供することを目的とする。(4頁1∼4行)

(ウ) 「第1図において,インストルメントパネル11に取り付けられる部品の
1つであるクラスタ12の背面側には取付用突起13が形成され,この取付用突起
13にはクリップ14が装着されている。このクリップ14は第2図および第3図
に斜視図で示すように,弾性板材をU字状に折り曲げ,その両端部を断面L字状に
拡開変形させて抜止め片15としたものであり,そのクリップ14のU字状部16
はクラスタ12の取付用突起13を装着させる部分である。クリップ14の両方の
抜止め片15には,その一部を切り起こして抜止め片15の先端側に延びる係止片
17がそれぞれ形成されている。また,これらの係止片17の先端にはU字状部1
6側に向けて折り返された爪17aがそれぞれ形成されている。
一方,クラスタ12の取付用突起13の中胴部には,その先端がクリップ14の
U字状部16の底に当接する位置まで挿入を完了した状態のもとで初めて上記係止
片17の爪17aの係止を許容する横穴18が形成され,この横穴18に係止片1
7の爪17aが係止することによってクリップ14は取付用突起13に装着され
る。(5頁11∼6頁12行)

(エ) 第1図は,実施例である車両の部品取付構造を示す縦断面図であるが,同
図では,係止片17は,クリップをインストルメントパネル11の取付用穴11a
に挿入する方向を上方とした場合に,U字状部16の下方に挿入方向と平行に形成
されている。また,クリップを取付用突起に取り付けた状態において,係止片17
は,取付用突起13の横穴18から先端にかけての部分13aに接している。
(2) 上記記載によれば,刊行物2について,以下のことが認められる。
ア 刊行物2の車両の部品取付構造は,クラスタの取付用突起に装着し,インス
トルメントパネルに取り付けられるクリップに関する考案であり,リブを有する被
取付け部材を取付板に装着するために使用されるクリップであるという点で,本願
発明及び刊行物1記載の発明と共通の技術分野に属する。
イ 刊行物2のクリップは,ガタツキや異音の発生を防ぐため,抜止め片の一部
を切り起こして一対の係止片を形成し,この係止片に取付用突起に設けた横穴に係
止するための係止片爪を設けている。この係止片及び係止片爪は,クリップを取付
用突起(本願発明のリブに相当する 。)にがたつくことなく取り付けるための部材
であり,係止片爪は,クリップの取付用突起からの抜止めの機能を有している。
ウ 係止片は,クリップの挿入方向と平行に,U字状部の下方に形成されており,
平坦面を有し,当該平坦面は,クリップを取付用突起に取り付けた状態において,
取付用突起の横穴よりも先端の部分の側面に接している。
(3) 以上によれば,刊行物1記載の発明と刊行物2のクリップは,共通の技術
分野に属しているうえ,この種のクリップにおいては,従来から「クリップ1と取
付用突起2aとの間にガタツキが生じて,車両走行時にビビリ音などの異音を発生
させる」(甲2の3頁16∼18行) 「左右にぐらつきやすく,リブ32に対する

クリップ本体200の取り付け状態が不安定になる 」(甲3の段落【0004 】)
など,クリップのリブへの取付けの不具合に関連した課題として知られていたとこ
ろ,これらの課題は,刊行物1記載の発明においても共通するものといえるから,
刊行物1記載の発明において,クリップのリブへの取付け部材である両突部に対し,
刊行物2に記載された,クリップのリブへの取付けに関する係止片に係る技術事項
を適用することは,当業者にとって格別困難なことではないというべきである。
そして,前記(2)に認定した刊行物2の係止片の形状,機能,クリップ本体にお
ける位置,取付用突起との関係等の技術事項に照らして見れば,合成樹脂材で一体
成形される刊行物1記載の発明において,刊行物2の係止片を適用するに当たり,
これを挿入部に相当する頭部の内側から垂下する一対の挟持部として構成すること
は,当業者がさしたる困難もなく試行し得た範囲の事項であると認められるから,
相違点に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(4) これに対し,原告らは,本願発明では,挿入部の内側から垂下する「挟持
部」と挿入部の両側において外側に張り出した「係止肩」が,共に挿入部から延設
され,クリップの拡開方向に対して「挟持部」が内側に,「係止肩」が外側に,独
立する別部材として形成され,2重構造をしているが,刊行物2には,本願発明の
この2重構造に係る「挿入部の内側から垂下する一対の挟持部」との技術事項は記
載されていないと主張する。
しかしながら,本件においては,審決は,本願発明と刊行物1記載の発明との相
違点について,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術事項を適用して容易想到
であると判断しているのであるから,刊行物2記載の技術事項を適用した結果とし
て,相違点に係る本願発明の構成を容易に想到することができたかどうかが問題な
のであり,必ずしも刊行物2において,相違点に係る本願発明の構成と全く同一の
構成が記載されている必要はないというべきであるから,原告らの上記主張は,相
違点についての審決の判断の誤りを指摘するものとして的確な主張とはいえない。
加えて,相違点に係る本願発明の構成が,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技
術事項を適用して容易に想到し得たものであることは,上記(3)に説示したとおり
である。
したがって,原告らの主張を採用することはできず,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について
(1) 原告らは,本願発明は,その構成により,「取付け孔に対する挿入に伴って
係止肩には内側(内方)の弾力が蓄積され,その蓄積弾力が挟持部を内側(内方)
に向って撓む方向の弾力として付与され,この付与される弾力によって,挟持部の
挟持面に形成された係合突部とリブに形成された係合孔との係合状態をより一層強
固とし,両者の係合状態を外れにくくする」という特有の作用効果を奏すると主張
する。
(2) 本願補正明細書には,挟持部とリブとの係合状態について,以下の記載が
ある。
ア 「 0017】つづいてクリップの使用手順について説明する。まず前記セ

ンタクラスター30のリブ32に対してクリップ本体10をはめると、このリブ3
2が前記案内片20に案内されて前記挟持部16を押し広げながら、これら挟持部
16における平坦な挟持面18の間に進入する。これによって図4で示すように両
挟持面18がリブ32に対してその両側から接触すると同時に、前記の係合突部2
2がリブ32の係合孔34に対してその両側からそれぞれ係合する。これにより、
クリップ本体10はセンタクラスター30のリブ32に対して安定した状態で取り
付けられたこととなる。」
イ 「 0020】メンテナンスなどにおいて、インストルメントパネル40か

らセンタクラスター30を取り外す必要が生じた場合は、センタクラスター30を
強く引っ張ることにより、クリップ本体10の挿入部12が内側に撓んで前記取付
け孔42の縁に対する両係止肩24の係合が外れる。これはセンタクラスターのリ
ブ32に対してクリップ本体10が安定して取り付けられているためであり、これ
によって前記リブ32にクリップ本体10を取り付けたままでセンタクラスター3
0をインストルメントパネル40から取り外すことができる。したがってセンタク
ラスター30をインストルメントパネル40に対して再び装着するときにはクリッ
プ本体10をそのまま使用できる。」
(3) 上記記載によれば,本願補正明細書には,本願発明の挟持部とリブとの係
合状態について,クリップ本体がリブに対して安定して取り付けられると記載され
ているのみで,原告らの主張に係る前記(1)の特有の作用効果を奏する旨の記載は
ないから,原告らの主張は,本願補正明細書に基づくものとはいえない。
そうすると,本願発明の挟持部とリブとの係合状態について本願発明の構成から
認められる効果としては,クリップ本体がリブに対して安定して取り付けられるこ
とに尽きるのであり,この効果は,当業者にとって格別予想外のものであるとは認
められない。
したがって,原告らの主張を採用することはできず,取消事由3は理由がない。
4 以上の次第であるから,審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を違
法とする事由もないから,審決は適法であり,本件請求は理由がない。
第6 結論
よって,本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田 中 信 義
裁判官
榎 戸 道 也
裁判官
浅 井 憲

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