平成20(行ケ)10099審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年12月11日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社エイブル近藤利英子 原告大日本スクリーン製造株式会社速見禎祥
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対象物 |
基板端縁洗浄装置 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
審決64回 実施13回 無効8回 特許権1回
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主文 |
1 特許庁が無効2006−80273号事件について平成20年2月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は 基板端縁洗浄装置 とする名称の発明の特許権を有する原告が その請,「 」 ,
求項1∼3に係る発明についての特許を無効とする旨の審決を受けたことから,そ
の請求人である被告に対し,審決の取消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成20年12月11日判決言渡
平成20年(行ケ)第10099号 審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日 平成20年11月20日
判 決
原 告 大日本スクリーン製造株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩 坪 哲
速 見 禎 祥
被 告 株 式 会 社 エ イ ブ ル
同訴訟代理人弁理士 吉 田 勝 広
近 藤 利 英 子
梶 原 克 哲
主 文
1 特許庁が無効2006−80273号事件について
平成20年2月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨。
第2 事案の概要
本件は, 基板端縁洗浄装置」とする名称の発明の特許権を有する原告が,その請
「
求項1∼3に係る発明についての特許を無効とする旨の審決を受けたことから,そ
の請求人である被告に対し,審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成4年9月14日に名称を「基板端縁洗浄装置」とする発明につき特
許出願をし,平成9年10月17日に設定登録を受けた 特許第2708337号 。
(
請求項の数5。甲9。以下「本件特許」という。。
)
これに対し,平成18年12月27日に被告から本件特許のうち請求項1∼3に
係る発明につき特許を無効にすることを求める特許無効の審判請求がされ,同請求
は,無効2006−80273号事件として特許庁に係属した。
原告は,平成19年4月2日付けで訂正(以下「本件訂正」という。 を請求した
)
(甲10の1,2)。
特許庁は,平成20年2月5日, 訂正を認める。特許第2708337号の請求
「
項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする。 との審決をし,
」 その
謄本は,同月15日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
本件訂正後の請求項1∼3(以下,本件訂正後の請求項につき,それぞれ,単に
「請求項1」などという。 に係る発明 以下,
) ( それぞれ 本件発明1」
「 などという。)
の内容は,次のとおりである。
【請求項1】表面に薄膜が形成された角型基板を載置保持する基板保持手段と,その基板保
持手段によって保持された前記角型基板の端縁の表裏両面の少なくともいずれか一方に溶剤を
吐出して不要薄膜を溶解する溶剤吐出手段とを備えた基板端縁洗浄装置において,前記溶剤吐
出手段に,前記角型基板の端縁に沿った複数の吐出口を備えさせるとともに,前記溶剤吐出手
段を前記角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段と,前記溶剤吐出手段を角型基板
の大きさに応じて,その端縁に沿って直線的に移動できる位置に変位できるように,溶剤吐出
手段を角型基板の端縁に対して遠近変位する位置調整手段とを備え,前記移動手段は角型基板
の端縁に沿って相対的に移動する移動台を備え,前記位置調整手段は,前記移動台に設けられ
たガイドに沿って角型基板に対して遠近する方向に移動可能な支持部材を備え,前記溶剤吐出
手段は前記支持部材に取り付けられていることを特徴とする基板端縁洗浄装置。
【請求項2】請求項1に記載の溶剤吐出手段からの溶剤によって溶解された不要薄膜をガス
の吐出によって角型基板の端縁よりも外方に吹き飛ばすガスノズルを設けるとともに,前記ガ
スノズルを前記溶剤吐出手段とともに前記角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段
を設けてある基板端縁洗浄装置。
【請求項3】請求項2に記載の溶剤吐出手段からの溶剤やガスノズルからのガスによって吹
き飛ばされた不要薄膜を吸引排出する吸引部材を設けるとともに,前記吸引部材を前記ガスノ
ズルおよび前記溶剤吐出手段とともに角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段を設
けてある基板端縁洗浄装置。
3 審決の判断
(1) 本件訂正請求の訂正を認める。
(2) 本件発明1∼3の無効について
審決は,次のとおり,特開平4−65115号公報(甲1)に記載された発明(以
下「引用発明1」という。 の内容,本件発明1∼3と引用発明1との一致点及び相
)
違点1∼7を認定した上で,これらの相違点につき,いずれも当業者が容易に想到
できたものであるとし,本件発明1∼3の特許は,特許法29条2項の規定に違反
してされものであるから,同法123条1項2号の規定に該当して無効とされる,
とした。
ア 引用発明1の内容
「処理槽11の中央にレジストが表面に塗付された角形基板aを固定するための基台として
の角形基板aよりも一回り小さな固定テーブル12と,前記固定テーブル12に保持された角
形基板aの側面から底面にかけて接触可能な状態で装着されレジスト除去液を供給するクリー
ニングヘッド21とを備える不要レジスト除去装置において,
前記不要レジスト除去装置は,
前記処理槽11の各側壁のそれぞれにピン13を支点として水平面内回転可能に,角形基板
aの端面の接線延長線上に取り付けられて,クリーニングヘッド21を角形基板aの端面接線
方向に沿って移動させるヘッド駆動手段としてのシリンダ20と,
前記シリンダ20の各シリンダ部と処理槽11の各側壁との間にそれぞれ介挿されて,前記
ピン13を支点としてシリンダ20を回動させるための第2のエアシリンダ30とを備え,
前記シリンダ20のピストンロッド20aの先端に設けられる前記クリーニングヘッド21
は,高分子材からなる弾力性のある材料により構成されL字形断面を有するパッド21aと,
前記パッド21aを保持するベース21bとを備えるとともに,前記ベース21bの上面に複
数のノズル23aを有するパイプ23が配設され,前記パッド21aの上面にはレジスト除去
液を供給する各ノズル23aの先端が下向きに形成されており,
表面にフォトレジストが塗付された角形基板aが,全エアシリンダ20を外側に回転させた
状態で不要レジスト除去装置の固定テーブル12上に載置され,真空吸着手段により固定され
て,第2のエアシリンダ30を作動させて4つのエアシリンダ20を所望の位置まで回動させ
た後,パイプ23に設けられたノズル23aよりレジスト除去液を滴下させながら,エアシリ
ンダ20に圧縮空気を送ってシリンダロッド20aを往復動させると,パッド21aが角形基
板aの側面から底面にかけて接触したままこすられるように移動して,角形基板aの側面から
底面にかけて付着した不要なレジストがパッド21aによってこすりとられて脱落し,角形基
板aの周縁が清浄化された後,第2のエアシリンダ30が作動されてエアシリンダ23が角形
基板aから遠ざかる方向へ回動されて,当初の位置まで待避した後,真空吸着手段を解除して
角形基板aを開放し,搬送手段により固定テーブル12上から角形基板aを持ち上げ,処理槽
11から外部へ搬出するようにした不要レジスト除去装置」(13頁5∼37行)
イ 本件発明1と引用発明1との対比
本件発明 1 と引用発明1との一致点及び相違点1∼3について
(ア ) 一致点
「表面に薄膜が形成された角型基板を載置保持する基板保持手段と,その基板保持手段によ
って保持された前記角型基板の端縁の表裏両面の少なくともいずれか一方に溶剤を吐出して不
要薄膜を溶解する溶剤吐出手段とを備えた基板端縁洗浄装置において,前記溶剤吐出手段に,
前記角型基板の端縁に沿った複数の吐出口を備えさせるとともに,前記溶剤吐出手段を前記角
型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段と,前記溶剤吐出手段を角型基板の大きさに
応じて,その端縁に沿って直線的に移動できる位置に変位できるように,溶剤吐出手段を角型
基板の端縁に対して遠近変位する位置調整手段とを備える基板端縁洗浄装置」 19頁5∼13
(
行)
(イ ) 相違点1
「本件発明1が, 移動手段は角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動台を備え』るの
『
に対し,引用発明1は,前記構成を欠いている点。(19頁15∼17行)
」
(ウ) 相違点2
「本件発明1が, 位置調整手段は,移動台に設けられたガイドに沿って角型基板に対して遠
『
近する方向に移動可能な支持部材を備え』るのに対し,引用発明1は,前記構成を欠いている
点。(19頁18∼20行)
」
(エ) 相違点3
「本件発明1が, 溶剤吐出手段は支持部材に取り付けられてい』
『 るのに対し,引用発明1は,
前記構成を欠いている点。(19頁21,22行)
」
ウ 本件発明2と引用発明1との対比
本件発明2と引用発明1との一致点及び相違点1∼5について
本件発明2と引用発明1とは, 請求項1に記載の基板端縁洗浄装置」である点で一致し,上
「
記相違点1∼3のほかに,次の相違点4及び5で両者の構成が相違する。
(ア) 相違点4
「本件発明2が『溶剤吐出手段からの溶剤によって溶解された不要薄膜をガスの吐出によっ
て角型基板の端縁よりも外方に吹き飛ばすガスノズルを設ける』のに対して,引用発明1は,
前記構成が設けられていない点。(26頁13∼16行)
」
(イ) 相違点5
「本件発明2が『前記ガスノズルを前記溶剤吐出手段とともに前記角型基板の端縁に沿って
相対的に移動する移動手段を設けてある』のに対して,引用発明1は,前記構成が設けられて
いない点。(26頁17∼19行)
」
エ 本件発明3と引用発明1の対比
本件発明3と引用発明1との一致点及び相違点1∼7について
本件発明3と引用発明1とは, 請求項3において引用されている請求項2がさらに引用する
「
請求項1に記載の基板端縁洗浄装置」である点で一致し,上記相違点1∼5のほかに,次の相
違点6及び7で両者の構成が相違する。
(ア) 相違点6
「本件発明3が『不要薄膜を吸引排出する吸引部材を設ける』のに対して,引用発明1は,
前記構成が設けられていない点。(29頁19,20行)
」
(イ) 相違点7
「前記ガスノズルおよび前記溶剤吐出手段とともに,本件発明3が『前記吸引部材を角型基
板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段を設けてある』のに対して,引用発明1は,前記
構成を欠いている点。(29頁21∼23行)
」
第3 原告主張の審決取消理由の要点
以下のとおり,審決には誤りがあり,これらは審決の結論に影響を及ぼすもので
あるから,審決は取り消されなければならない。
1 取消理由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 審決は,引用発明1と本件発明1との一致点として ,「・・・前記溶剤
吐出手段を角型基板の大きさに応じて,その端縁に沿って直線的に移動できる
位置に変位できるように,溶剤吐出手段を角型基板の端縁に対して遠近変位す
る位置調整手段 」を備えることを認定するが( 19頁10∼13行 ) これは誤
,
っている。
甲1には , 角型基板の大きさに応じて溶剤吐出手段を角型基板の端縁に対し
「
て遠近変位する」位置調整手段は開示も示唆もされておらず,審決の認定は,
技術的にも誤ったものである。
そして,上記の一致点認定の誤りは,本件発明2及び3と引用発明1の一致
点認定の誤りでもある。
(2) 審決は , 引用発明1は , 第2のエアシリンダ30がシリンダ20の各
「 『
シリンダ部と処理槽11の各側壁との間にそれぞれ介挿されており,第2のエ
アシリンダの伸縮によりシリンダ20をピン13を支点として回動させて,前
記シリンダ20を角形基板aの端面接線方向に対して接近させたり離隔させた
りすることにより,前記シリンダ20のピストンロッド20aの先端に設けら
れたクリーニングヘッド21の位置を角形基板aの端面方向に対して調整する
ことができる』というものである。 / そして,引用発明1の前記構成によ
れば ,固定テーブル12に保持された角形基板aは ,甲1の第1図に図示されて
いる角形基板aよりも大きい場合には,第2のエアシリンダ30が収縮してシリン
ダ20とともにクリーニングヘッド21を処理槽11の側壁に接近するようにピン
13を支点として水平面内で揺動させ,かつ,大きい角形基板aを処理槽11の各
側壁に対して,角形基板aの端縁が各側面と平行ではなく,偏向された状態に固定
されたテーブル12に保持することにより,クリーニングヘッド21を角形基板a
の端縁に沿って直線的に移動できる位置に変位可能である。(24頁26行∼25
」
頁2行)とする。
しかしながら,審決の上記の解釈である,処理槽11の側壁と平行でなく,
さらに固定テーブル12の辺とも平行でない状態(偏向された状態)で「大き
い基板」も保持できるという事項は,甲1に全く開示も示唆もされておらず,
審決が新たに甲1の開示に付加した事項にほかならない。
また,出願時の当業者の技術常識においても,処理槽11の側壁にも固定テ
ーブル12の辺にも平行でない状態でレジスト基板を保持する基板端縁洗浄装
置などというものは存在しない。
基板端縁洗浄装置は,近時では1辺がメートル単位にも達する基板(例えば
液晶用)について,その端縁をミリ単位で洗浄処理する装置である。このよう
な緻密さの要求される基板端縁洗浄装置において ,格別の技術的工夫もなく 角
「
形基板aの固定テーブル12上の保持方向を偏向させる」といった発想を,当
業者が抱くことはない。
(3) また ,引用発明1において ,基台である固定テーブル12はそのままに ,
薄板状の基板を偏向載置した場合,基台に近い部分と基台から遠い部分との間
で不等沈下が生ずる。このような状態では,クリーニングヘッド21が基板端
面を均等かつ適切に清浄化できるものではない。
(4) さらに ,エアシリンダの技術常識として ,ピストンロッドの伸縮長さを
任意に制御することができない(伸びた位置と縮んだ位置の2値しか存在しな
い)ことは当業者にとって明らかであるから,第2のシリンダ30は,格段の
技術手段を付加しない限り,クリーニングパッドを基板に当接する実線位置と
基板を開放する退避位置の2つの位置にしか位置決めできない 。すなわち , 角
「
型基板の大きさに応じて」溶剤吐出手段を遠近変位することはできない。
(5) さらにまた ,審決の解釈によれば ,甲1において不要レジストを除去で
きない部分が発生する。甲1のクリーニングヘッド21は,第1図における基
板aの大きさに合わせてシリンダロッド20aの前後動により基板の端面を摺
動可能なようになっているが,この構造を,審決の解釈に従って「偏向して保
持された大きい角形基板」に適用した場合,クリーニングヘッドが届かず,端
面を清浄化できない部分が生じる。
このような「基板の端面全体を清浄化できない不要レジスト除去装置」が甲
1に開示されているとの結論が避けられないという認定は ,誤ったものである 。
(6) さらにまた,審決の認定(角型基板aの固定テーブル12上の保持方向
を偏向させれば大きい基板の端縁に沿ってクリーニングヘッド21を直線的に
移動できるという解釈)は,角形基板aが正方形の場合にのみ当てはまる認定
であり,角形基板が長方形の場合には,クリーニングヘッドは「基板の端縁に
沿って直線的に移動できる位置に変位」できない。
これに対し , 本件発明1は , 0022 】 及び 【 図1 】 にサポートされている
【
とおり,長辺と短辺を有する長方形の角型基板であってもすべての辺について
「溶剤吐出手段を角型基板の大きさに応じて,その端縁に沿って直線的に移動
できる位置に変位できるように,溶剤吐出手段を角型基板の端縁に対して遠近
変位」することが可能である。
2 取消理由2(相違点1の判断の誤り)について
(1) 審決は,本件発明1と引用発明1の相違点1について,甲7(特開平2
−132444号公報)を引用し ,「甲7に記載されている『ノズル操作機構に
おける・・・ノズル保持部材90a,90bの移動手段』は,半導体ウェハ4
6に対して相対的に移動する,移動台78,移動台82及び移動板88から構
成される『移動台』を備えているといえる。 / e そうすると,引用発明
1の『クリーニングヘッド21を角型基板aの端面接線方向に沿って移動させ
るヘッド駆動手段としてのシリンダ20』からなる移動手段を,甲7に記載さ
れている『ノズル操作機構73における・・・ノズル保持部材90a,90b
の移動手段』のような移動手段に変更することにより,本件発明1の前記相違
点1に係る『移動手段は角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動台を備
え』る構成とすることは,当業者が格別の技術力を要せずに容易に想到できる
ことである 」(21頁11∼29行)とする。
(2) しかしながら ,上記の判断は ,甲7の開示事項を見誤った判断である 。
甲7に開示された移動手段(ノズル操作機構73)は,円形の半導体ウェハに
対し複数種の液を供給する手段であって , 角型基板の端縁に沿って相対的に移
「
動」する機構を開示するものではない。甲7はこのような円形のウェハに対し
「ノズル保持部材90a,90b,90cをそれぞれX軸,Y軸,Z軸に沿っ
て移動させる」ノズル操作機構73を開示するものにすぎない。
一方,甲1におけるシリンダ20は,クリーニングヘッド21を角形基板a
の4辺の端面接線方向に沿って摺動させる機構である 。甲1の「 シリンダ20 」
を甲7の「ノズル操作機構73」に代替するためには,ノズル操作機構を角形
基板の端面( 4つの辺 )に沿って移動可能な手段に改変しなければならないが ,
そのような改変を示唆する記載は甲7には存在しない。
(3) したがって ,甲1の 「 シリンダ20 」を甲7の 「 ノズル操作機構73 」
に代替できるとする審決の判断は,誤ったものである。
3 取消理由3(相違点2の判断の誤り)について
(1) 審決は,本件発明1と引用発明1との相違点2について,甲7を補助引
例として ,「甲7に記載されている前記ノズル操作機構73における・・・ 半
『
導体ウェハ46 』・・・は ,本件発明1の・・・ 角型基板 』
『 ・・・にそれぞれ相
当するから , 甲7には , ノズル操作機構73は , 移動台82に設けられたガイ
『
ドレール79に沿って半導体ウェハ46に対して遠近する方向に移動可能な移
動板88を備え』る構成,すなわち,本件発明1の前記相違点2に係る『位置
調整手段は,移動台に設けられたガイドに沿って角型基板に対して遠近する方
向に移動可能な支持部材を備え 』る構成が記載されているといえる 」 22頁2
(
4∼33行 )とした上で , 引用発明1に ,甲7に記載されている前記 『 ノズル
「
操作機構73は,移動台82に設けられたガイドレール79に沿って半導体ウ
ェハ46に対して遠近する方向に移動可能な移動板88を備え』る構成を採用
すること・・・・は ,当業者が容易に想到することができたことである 」 22
(
頁34行∼23頁4行)と判断する。
(2) しかしながら ,審決の上記判断には事実誤認が含まれており ,また ,こ
の判断は技術的な必然性も存在しない誤ったものである。
甲7における 「 半導体ウェハ46 」 は円形のウェハであり , 角型基板 」 に相
「
当するとの認定は明らかな事実誤認である。
また,甲1に記載されている発明は,角型基板の4辺の端面をクリーニング
ヘッド21で摺動するというものであり,その駆動機構である4つの「シリン
ダ20」を,審決が認定する「ウェハ46に対して遠近する方向に移動可能な
移動板88」に代替するには,甲7においては1つしか存在しない「移動板8
8」を4つに増やす改変が不可避であるが,甲7にはそのような改変を示唆す
る記載は一切存在せず,かつ,甲7の目的からしてその技術的必然性もなく,
無暗に機構を複雑にするだけの技術的阻害要因を含む改変である。
4 取消理由4(相違点3の判断の誤り)について
(1) 審決は,本件発明1と引用発明1の相違点3について ,「甲7に記載さ
れている上記ノズル操作機構73では,第1ノズル97aをホールドしたノズ
ル保持部材90a,90bが移動板88に搭載されているのであり,甲7に記
載されている上記ノズル操作機構73の『第1ノズル97a』及び『移動板8
8』が,それぞれ本件発明1の『溶剤吐出手段』及び『支持部材』に相当する
から,甲7には,本件発明1の相違点3に係る・・・構成が記載されていると
いえる 」 23頁6∼12行 )とし ,引用発明1に係る相違点3を本件発明1の
(
ようにすることは,推考容易であると結論する。
(2) しかしながら,上記認定判断には誤りがある。
甲7における「第1ノズル97a」は,溶剤吐出手段ではなく,レジスト液
の滴下用ノズルである。
本件発明1の 「 溶剤吐出手段 」 は , 不要薄膜 ( 不要レジスト ) を溶解する溶
「
剤吐出手段」であって,レジスト液を滴下する甲7の第1ノズル97aは,機
能において正反対のものである。そして,甲1に記載されたクリーニングヘッ
ド21の「ノズル23a」も,甲7の第1ノズル97aと正反対に「アセトン
のようなレジスト除去液を供給」するものである。
したがって ,引用発明1に甲7の上記開示事項を適用しても , 溶剤吐出手段
「
は支持部材に取り付けられて」いるとの相違点3の構成は導き出されない。
甲1に甲7を適用して相違点3に係る構成が容易に想到できるとする審決の
判断は誤りである。
5 取消理由5(本件発明2に係る判断の誤り)について
(1) 相違点4について
ア 審決は ,本件発明2と引用発明1の相違点4について , 甲2( 判決注:
「
特開平1−298720号公報)及び甲5( 判決注:特開平3−263314号公
報)の前記記載からみて ,『空気や窒素ガス等の気体をノズルからウェハの外周
方向に噴射させて,気流の作用で窒素ガス噴流がウェハに付いているレジスト
剥離液を吹き飛ばす 』技術手段は ,本願特許出願時の周知技術であるといえる 。
・・・そうすると,引用発明1に,前記『空気や窒素ガス等の気体をノズルか
らウェハの外周方向に噴射させて,気流の作用で窒素ガス噴流がウェハに付い
ているレジスト剥離液を吹き飛ばす』周知技術を採用することにより,本件発
明2の前記相違点4に係る・・・構成とすることは,当業者が容易に想到でき
たことである 」(27頁10∼26行)とする。
イ しかしながら,甲1に記載された不要レジスト除去装置は,不要レジス
トの乱流がパターニングの支障となるという技術的課題を解決するために「基
板の端面に接触可能な摺動部材」として「クリーニングヘッド21」を採用し
「基板aの側面から底面にかけて付着した不要なレジストがパッド22aによ
ってこすりとられて脱落 」するというものであり , 不要薄膜をガスの吐出によ
「
って角型基板の端縁よりも外方に吹き飛ばす」という技術的思想を導入する動
機が存在しないどころか,クリーニングヘッド21(パッド22a)によって
こすりとられた不要なレジストを噴射する機構を甲1の第1図の機構にどのよ
うに適用すればよいか全く不明である。
したがって,審決の上記判断は根拠を欠くものである。
(2) 相違点5について
ア 審決は,相違点5について,甲2の記載を根拠に ,「引用発明1に,前記
『ブロックにレジスト剥離液用ノズルと窒素ガス用ノズルと壁部材が取り付け
られてユニット化された,ガイドレールに沿って移動可能なユニット』の周知
技術を採用することにより,本件発明2の前記相違点5に係る・・・構成とす
ることは , 当業者が容易に想到できたことである 」 28頁17∼22行 ) とす
(
る。
イ しかしながら , 本件発明2は , 角型基板の端縁に沿って 」 ガスノズルが
「
相対的に移動するものであり,甲2には,このような構成の開示はなく,上記
の判断も誤ったものである。
6 取消理由6(本件発明3に係る判断の誤り)について
(1) 相違点6について
ア 審決は,本件発明3と引用発明1との相違点6につき ,「甲4(判決注:
特開昭64−61917号公報)及び甲6( 判決注:特開平4−206626号公
報)の記載及び図面の図示からみて ,『ノズルからレジスト膜の溶剤を供給して
基板周辺部のレジストを溶解させ,排気装置またはダクトに連結された管によ
り,溶剤と溶解物とを吸引により排出させるようにする不要レジストを吸引排
出する手段 』 は , 本願特許出願時の周知技術であるといえる 」 30頁33行∼
(
31頁2行)とし,引用発明1との相違点6を本件発明3のようにすることは
容易であるとする。
イ しかしながら,甲4又は甲6に開示の吸引手段を甲1に適用する動機付
けとなるものは甲1に一切存在しない。審決の上記判断は根拠を欠く。
(2) 相違点7について
ア 審決は,本件発明3と引用発明1との相違点7につき ,「引用発明1に記
載の移動手段としてのシリンダ20に代わる甲7に記載の移動手段に,前記周
知技術における前記レジストを供給するノズルと不要レジストを吸引排出する
装置とが一体である不要レジストを吸引排出する構成を設けることにより,本
件発明3の前記相違点7に係る『前記吸引部材を角型基板の端縁に沿って相対
的に移動する移動手段を設けてある』の構成を得ることは,周知技術に基づい
て当業者が容易になし得る設計事項である 」(31頁22∼28行)とする。
イ しかしながら , 審決が 「 周知技術 」 の根拠とする甲4は , 角型基板の端
「
縁に沿って相対的に移動する 」ものではなく ,また , 上記4(2)のとおり , 甲7
の移動手段(ノズル操作機構73)は,甲1のシリンダ20と置換できない正
反対の部材である。
第4 被告の反論の要点
以下のとおり,審決の認定判断に誤りはない。
1 取消理由1(一致点の認定の誤り)に対して
(1) 審決における本件発明1と引用発明1との一致点の認定に誤りはない。
原告は,「甲1には,『角型基板の大きさに応じて溶剤吐出手段を角型基板の端縁
に対して遠近変位する位置調整手段』は開示も示唆もされていない」と主張するが,
上記位置調整手段は,甲1に実質上開示されている。
甲1の第1図において,角型基板が,図示の角型基板aよりも大きい場合には,
第2のエアシリンダ30が収縮してシリンダ20とともにクリーニングヘッド21
を処理槽11の側壁に接近するようにピン13を支点として水平面内で揺動させ,
かつ,大きい角型基板を,処理槽11の各側壁に対して,角型基板の端縁が各側壁
と平行ではなく,偏向された状態に固定テーブル12に保持することにより,クリ
ーニングヘッド21を角型基板の端縁に沿って直線的に移動できる位置に変位可能
である。
このような実施の形態は,甲1には文言をもって直接的には記載されていないも
のの,甲1の特許請求の範囲に当然含まれる実施の形態であり,かつ,当業者が甲
1の第1図を参照すれば,シリンダ30とシリンダ20との単純な動作で採り得る
から,上記実施の形態は第1図に実質的に開示されているというべきである。
(2) 原告は,本件発明1において, 偏向して保持された大きい角型基板」に適
「
用した場合,クリーニングヘッドが届かず端面を清浄化できない部分が生ずる,と
主張する。
しかしながら,保持テーブル9よりも極端に大きい角型基板1の隅が処理槽側壁
に達するような角型基板を処理することはあり得ず,また,保持テーブル9よりも
小さい角型基板を処理することもあり得ないから,原告は,本件発明1でもあり得
ない状態を想定し,引用発明1を評価していることになる。
甲1の第1図に示す装置においては,処理可能な角型基板のサイズは自ら限界が
あり,本件発明1においても処理できる角型基板のサイズは,引用発明1と同様で
あるから,原告の上記主張には理由がない。
(3) 原告は,過大なサイズの角型基板を示し,
「精密な位置決め」ができないと
主張する。しかし, 精密な位置決め」は,引用発明1の出願時において極めて容易
「
な技術的手段であり,原告主張には理由がない。
(4) 原告は,引用発明1では長方形の角型基板は処理できない,と主張する。
しかし,本件発明1は,長方形の角型基板に使用することに限定されておらず,
正方形の角型基板への適用も当然含まれるから,原告の上記主張には理由がない。
(5) 以上のとおり,角型基板aについてあり得ない状態を想定して行っている原
告主張には理由がなく,審決において本件発明1と引用発明1との一致点の認定に
は誤りはなく,本件発明2及び3においても上記一致点の認定には誤りはない。
2 取消理由2(相違点1の判断の誤り)に対して
(1) 甲7には,
「ノズル操作機構73における基台20上に支持されているガイ
ドレール74に沿って案内移動可能な移動台78,該移動台78上に支持されてい
るガイドレール79に沿ってX軸方向に案内移動可能な前記移動台78上の移動板
82・・・前記移動台82上に搭載されている移動板88からなるノズル保持部材
90a,90bの移動手段」が記載されており,この移動手段は,本件発明1の「移
動手段は角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動台を備え」ると同一構成で
ある。
そして,甲7に記載の上記構成と,甲1に記載の構成である「クリーニングヘッ
ド21を角型基板aの端縁接線方向に沿って移動させるヘッド駆動手段としてのシ
リンダ20」とは,ともに液体吐出ノズルを所望の位置に移動させて液体を所望の
位置に供給するという目的において共通しているから,甲7に記載の上記構成を甲
1に記載の上記構成に置換して,本件発明1のように構成することは当業者が格別
の技術力を要しない,とする審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は, 甲7に開示された移動手段(ノズル操作機構73)は,円形の半
「
導体ウエハに対し複数種の液を供給する手段であって, 角型基板の端縁に沿って相
『
対的に移動』する機構を開示するものではな」く,甲1の「シリンダ20」を甲7
の「ノズル操作機構73」に代替できるとする審決の判断に誤りがある,と主張す
る。
しかしながら,審決の判断は,液体が付与される被処理物(角型基板,円形のウ
エハ)の形状を問題としているのではなく, 被処理物に対して,液体吐出ノズルを
「
所望の位置に移動させて液体を所望の位置に供給する」という技術構成に着目した
ものである。甲7には上記構成が記載されており,この構成を同様な目的を有する
引用発明1に適用して本件発明1のように構成することは, 当業者が格別の技術力
「
を要せず,容易に想到できることである」という審決の判断に誤りはない。
(3) また,原告は,「甲1の『シリンダ20』を甲7の『ノズル操作機構73』
に代替するためには,ノズル操作機構を角型基板の端面(4つの辺)に沿って移動
可能な手段に改変しなければならないが,そのような改変を示唆する記載は甲7に
は存在しない。 と主張するが,
」 甲7に記載の前記構成を引用発明1に適用するため
には,本件発明1が角型基板の4つの辺に溶剤吐出手段等を設けていると同様な理
由で,周知の技術的手段によって当然に「改変」が必要であり, 必要性」も「必然
「
性」もある。
(4) したがって,甲1の「シリンダ20」を甲7の「ノズル操作機構73」に容
易に代替できるとする審決の判断に誤りはない。
3 取消理由3(相違点2の判断の誤り)に対して
(1) 原告は,
「甲7における『半導体ウエハ46』は本件発明1の『角型基板』
とは,その形状からしても異なり,事実誤認である」旨主張する。
しかしながら,審決は,液体が付与される被処理物(角型基板,円形のウエハ)
の形状を問題としているのではなく, 被処理物に対して,
「 液体吐出ノズルを所望の
位置に移動させて液体を所望の位置に供給する」という技術構成に着目したもので
あり,甲7には,上記構成が記載されており,この構成を同様な目的を有する引用
発明1に適用して本件発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できる
ことである,とする審決の認定判断に誤りはない。
(2) 甲7には,
「ノズル操作機構73は,移動台82に設けられたガイドレール
79に沿って半導体ウエハ46に対して遠近する方向に移動可能な移動板88を備
え」る構成が記載され,この構成は本件発明1の相違点2に係る 位置調整手段は,
「
移動台に設けられたガイドに沿って角型基板に対して遠近する方向で移動可能な支
持部材を備え」る構成と同一である。
そして甲7の前記構成と,甲1の「前記シリンダ20の各シリンダ部と処理槽1
1の各側壁との間にそれぞれ介挿されて,前記ピン13を支点としてシリンダ20
を回動させるためのシリンダ30」とは,ともに液体吐出ノズルを所望の位置に移
動させて液体を所望の位置に供給するという目的において共通しているから,甲7
に記載の前記構成を甲1に記載の前記構成に置換して,本件発明1のように構成す
ることは当業者が容易に想到することができる。
4 取消理由4(相違点3の判断の誤り)に対して
(1) 甲7には,
「第1ノズル97a(30a)をホールドしたノズル保持部材9
0a,90bが移動板88に搭載されているノズル操作機構73」なる構成が記載
され,この構成は本件発明1の前記相違点3に係る「溶剤吐出手段は前記支持部材
に取りつけられている」という構成と同一である。
そして,甲7に記載の上記構成と,甲1の「上記各エアシリンダ20のピストン
ロッド20aの先端に装着されたクリーニングヘッド21」という構成とは,液体
を所望の位置に供給するという目的において共通しているから,甲7に記載の前記
構成を甲1に記載の前記構成に置換して,本件発明1のように構成することは,当
業者が格別の困難を伴うことなく容易に想到できたことである。
(2) 原告は, 甲7における『第一ノズル97a(30a) は,溶剤吐出手段で
「 』
はない。レジスト液の滴下用ノズルである」とし,上記認定は事実誤認を含むと主
張する。
しかしながら,審決は, 第1ノズル97a(30a) から供給される液体と「ク
「 」
リーニングヘッド21」から供給される液体の種類の異同を判断したものではなく,
「液体を吐出する手段がどのように構成されているか」という技術構成に着目した
ものであって,甲7には上記構成が記載されており,この構成を同様な目的を有す
る引用発明1に適用して本件発明1のように構成することは, 当業者が格別の困難
「
を伴うことなく容易に想到できたことである」という審決の認定判断に誤りはない。
5 取消理由5(本件発明2に係る判断の誤り)に対して
(1) 相違点4について
ア 甲2及び5には, 空気や窒素ガス等の気体をノズルからウエハの外周方向に
「
噴射させて,気流の作用で窒素ガス噴流がウエハに付いているレジスト剥離液を吹
き飛ばす」という周知技術が記載され,この周知技術は,本件発明2の「溶剤吐出
手段からの溶剤によって溶解された不要薄膜をガスの吐出によって角型基板の端縁
よりも外方に吹き飛ばすガスノズルを設ける」という構成と同一である。
そして,甲2及び5に記載の上記周知技術を,引用発明1に適用して, 溶剤吐出
「
手段からの溶剤によって溶解された不要薄膜をガスの吐出によって角型基板の端縁
よりも外方に吹き飛ばすガスノズルを設ける」構成とすることは,当業者が容易に
想到できることである。
イ 原告は,甲1には, 不要薄膜をガスの吐出によって角型基板の端縁よりも外
「
方に吹き飛ばすという技術的思想を導入する『動機』が存在せず,クリーニングヘ
ッド21(パッド22a)によってこすりとられた不要なレジストを噴射する機構
を甲1の第1図の機構にどのように適用すればよいか全く不明である」と主張する。
しかしながら,甲1には,パッド22aによってこすりとられて脱落した不要レ
ジストが存在し 甲1の3頁右上欄6∼8行) これらの脱落した不要レジストの存
( ,
在が好ましくないことは,甲1(2頁右上欄15∼17行)にも記載され,かつ,
このことは,甲2,5等においてよく知られた事項であるから,甲1には,不要薄
膜をガスの吐出によって角型基板の端縁よりも外方に吹き飛ばすという技術的思想
を導入する「動機」が存在する。
また,不要なレジストを噴射する機構を甲1の第1図の機構にどのように適用す
ればよいかは,甲2,5等を参照すれば当業者に自明の事項である。
(2) 相違点5について
ア 甲2には, ブロックにレジスト剥離用ノズルと窒素ガス用ノズルと壁部材が
「
取りつけられてユニット化された,ガイドレールにそって移動可能なユニット」の
技術手段が記載され,該技術手段は,本件発明2の「前記ガスノズルを前記溶剤吐
出手段とともに前記角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段を設けてあ
る」という構成と同一である。
そして甲2に記載の上記周知技術を,引用発明1に適用して, 前記ガスノズルを
「
前記溶剤吐出手段とともに前記角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段
を設けてある」構成とすることは,当業者が容易に想到できることである。
イ 原告は, 甲2には,角型基板の端縁に沿ってガスノズルを相対的に移動する
「
構成は,記載されていない」と主張する。
しかしながら,審決は,ガスが吹き付けられる被処理物の形状を判断したもので
はなく,被処理物にガスを吹き付ける手段の移動について判断したものであって,
原告の上記主張は,理由がない。
6 取消理由6(本件発明3に係る判断の誤り)に対して
(1) 相違点6について
ア 甲4には「排気装置またはダクトに連結されている第3の管24」が記載さ
れ,また,甲6には「矢印7に示すウエハ3の周辺部の外側方向にレジスト膜の溶
剤を吸引する手段」及び「矢印11に示すウエハ3の周辺部の外側方向に現像液が
流れるように吸引する手段」が記載されている。
そして,甲4及び6に記載の上記周知技術を,引用発明1に適用して, 不要薄膜
「
を吸引排出する吸引部材を設ける」構成とすることは,当業者が容易に想到できる
ことである。
イ 原告は, 甲4又は甲6に開示の吸引手段を甲1に適用する動機付けとなるも
「
のは甲1には一切存在しない」と主張する。
しかしながら,甲1には,パッド22aによってこすりとられて脱落した不要レ
ジストが存在し 甲1の3頁右上欄6∼8行) これらの脱落した不要レジストや溶
( ,
剤の存在が好ましくないことは,甲1(2頁右上欄15∼17行)にも記載され,
かつ,このことは,甲2,甲5等においてよく知られた事項であるから,甲1には,
甲4又は6に記載の吸引手段を適用する 動機付け」
「 が存在し,原告の上記主張は,
理由がない。
(2) 相違点7について
ア 甲4記載の「ノズルからレジスト膜の溶剤を供給して基板周辺部のレジスト
を溶解させ,排気装置またはダクトに連結された管により,溶剤と溶解物とを吸引
により排出させるようにする不要レジストを吸引排出する手段」との周知技術にお
いては,不要レジストを吸引排出する手段のレジストを供給するノズルと不要レジ
ストを吸引排出する装置とが一体の構成となっている。
そうすると,引用発明1の移動手段としてのシリンダ20に代わる甲7に記載の
移動手段に,前記周知技術における前記レジストを供給するノズルと不要レジスト
を吸引排出する装置とが一体である不要レジストを吸引排出する構成を設けること
により,本件発明3の前記相違点7に係る「前記吸引部材の角型基板の端縁に沿っ
て相対的に移動する移動手段を設けてある」の構成を得ることは,周知技術に基づ
いて当業者が容易になし得る設計事項である。
イ 原告は,「審決が『周知技術』の根拠とする甲4は,
『角型基板』の端縁に沿
って相対的に移動するものではない」と主張する。
しかしながら,審決は,液体が付与される被処理物(角型基板,円形のウエハ)
の形状を問題としているのではなく, 不要レジストを吸引排出する手段のレジスト
「
を供給するノズルと不要レジストを吸引排出する装置とが一体の構成となってい
る」という技術構成に着目したものであるところ,甲4には,上記構成が記載され
ており,この構成を,甲7に適用し,同様な目的を有する引用発明1に応用して本
件発明3のように構成することは, 当業者が容易になし得る設計事項である」
「 と認
められ,審決のこのような認定判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消理由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 審決の認定判断について
審決は,本件発明1と引用発明1との一致点を,次のように認定した。
「(ア) ここで,本件発明1と引用発明1とを対比すると,引用発明1の『レジスト』『角形
,
基板a』『角形基板aを固定するための基台としての角形基板aよりも−回り小さな固定テー
,
ブル12』 『レジスト除去液』『前記固定テーブル12に保持された角形基板aの側面から底
, ,
面にかけて接触可能な状態で装着されレジスト除去液を供給するクリーニングヘッド21』及
び『不要レジスト除去装置』のそれぞれが,本件発明1の『薄膜』『角型基板』『角型基板を
, ,
載置保持する基板保持手段』 『溶剤』 『溶剤を吐出して不要薄膜を溶解する溶剤吐出手段』及
, ,
び『基板端縁洗浄装置』のそれぞれに相当することは,明らかである。
(イ) また,引用発明1の『クリーニングヘッド21を角形基板aの端面接線方向に沿って移
動させるヘッド駆動手段としてのシリンダ20』が,本件発明1の『前記溶剤吐出手段を前記
角型基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段』に相当する。
(ウ) そして,引用発明1では,シリンダ20のピストンロッド20aの先端に設けられたク
リーニングヘッド21のベース21bの上面に配設されるパイプ23に 複数のノズル23a 』
『
が設けられていて,前記『複数のノズル23a』からレジスト除去液が滴下されるようになっ
ており,しかも,前記クリーニングヘッド21は,ヘッド駆動手段としてのシリンダ20によ
り,角形基板aの端面接線方向に沿って移動されて,角形基板aの側面から底面にかけて接触
可能であること,および,甲1の第2図における『複数のノズル23a』の図示を参酌すると ,
前記『複数のノズル23a』は,角形基板aの端面接線方向に沿って配列されていることが明
らかであるから,引用発明1の前記『複数のノズル23a』が,本件発明1の『前記角型基板
の端縁に沿った複数の吐出口』に相当するといえる。
(エ) さらに,引用発明1の『第2のエアシリンダ30』は,シリンダ20の各シリンダ部と
処理槽11の各側壁との間にそれぞれ介挿されて,ピン13を支点としてシリンダ20を回動
させるものであり, 第2のエアシリンダ30』の伸縮によりシリンダ20をピン13を支点と
『
して回動させて,前記シリンダ20を角形基板aの端面接線方向に対して接近させたり離隔さ
せたりすると,前記シリンダ20のピストンロッド20aの先端に設けられたクリーニングヘ
ッド21の位置を角形基板aの端面接線方向に対して調整することになるから,引用発明1の
『前記シリンダ20の各シリンダ部と処理槽11の各側壁との間にそれぞれ介挿されて,前記
ピン13を支点としてシリンダ20を回動させるための第2のエアシリンダ30』が,本件発
明1の『溶剤吐出手段を角型基板の端縁に対して遠近変位する位置調整手段』に相当する。
(オ) そうすると,本件発明1と引用発明1とは,
『表面に薄膜が形成された角型基板を載置保持する基板保持手段と,その基板保持手段によっ
て保持された前記角型基板の端縁の表裏両面の少なくともいずれか一方に溶剤を吐出して不要
薄膜を溶解する溶剤吐出手段とを備えた基板端縁洗浄装置において,前記溶剤吐出手段に,前
記角型基板の端縁に沿った複数の吐出口を備えさせるとともに,前記溶剤吐出手段を前記角型
基板の端縁に沿って相対的に移動する移動手段と,前記溶剤吐出手段を角型基板の大きさに応
じて,その端縁に沿って直線的に移動できる位置に変位できるように,溶剤吐出手段を角型基
板の端縁に対して遠近変位する位置調整手段とを備える基板端縁洗浄装置』
である点で一致」(18頁4行∼19頁14行)する。
(2) 原告は,上記一致点の認定に誤りがあると主張するので,以下検討する。
ア 甲1には,次の記載がある。
(ア ) 「2.特許請求の範囲
(1) レジストが表面に塗付された基板を固定するための基台と,該基台に保持された基板の
端面に接触可能な摺動部材と,この摺動部材を基板の端面接線方向に沿って移動させる駆動手
段とを備えてなることを特徴とする不要レジスト除去装置。(1頁左下欄4行∼9行)
」
(イ) 「 実施例]
[
第1図には本発明に係る不要レジスト除去装置の一実施例の平面図が示されている。
同図において,11は中央に基板aよりも一回り小さな基台としての固定テーブル12を有
する処理槽で,処理槽11の各側壁には,基板aの端面の接線延長線上にシリンダ20がそれ
ぞれピン13を支点として水平面内回転可能に取り付けられている。そして,上記各エアシリ
ンダ20のピストンロッド20aの先端には,第2図に拡大して示すようなL字形断面を有す
るパッド21aと,これを保持するベース21bとからなるクリーニングヘッド21が,基板
の側面から底面にかけて接触可能な状態で装着されている。上記パッド21aは,例えばブチ
ルゴムなどの高分子材からなるスポンジゴムのような弾力性のある材料により構成されてい
る。
また,各パッド21aを保持するベース21bの上面には複数のノズル23aを有するパイ
プ23が配設されており,各ノズル23aはパッド21aの上面に,アセトンようなレジスト
除去液を供給できるように先端が下向きに形成されている。なお,上記パイプ23の先端は閉
塞されているとともに,パイプ23の始端にはフレキシブルなチューブ24が接続されており ,
図示しないポンプからレジスト除去液が輸送されるようになっている。
さらに,上記各エアシリンダ20のシリンダ部と処理槽11の側壁との間には,上記ピン1
3を支点としてエアシリンダ20を回動させるための第2のエアシリンダ30がそれぞれ介挿
されている。
次に,上記不要レジスト除去装置の動作を説明する。
第3図に示すレジスト塗付装置により表面にフォトレジストが塗付されたガラス基板aは,
第1図に2点鎖線A∼Dで示すように,全エアシリンダ20を外側に回転させた状態で不要レ
ジスト除去装置の固定テーブル12上に載置され,図示しない真空吸着手段により固定される。
次に,第2のエアシリンダ30を作動させて4つのエアシリンダ20を第1図に実線で示され
るような位置まで回動させる。それから,パイプ23に設けられたノズル23aよりレジスト
除去液を滴下させながら,エアシリンダ20に圧縮空気を送ってシリンダロッド20aを往復
動させる。すると,パッド22aが基板aの側面から底面にかけて接触したままこすられるよ
うに移動するため,基板aの側面から底面にかけて付着した不要なレジストがパッド22aに
よってこすりとられて脱落し,基板の周縁が清浄化される。
レジスト除去後,第2のエアシリンダ30が作動されてエアシリンダ23が基板から遠ざか
る方向へ回動され,2点鎖線A∼Dの位置まで待避する。
その後,真空吸着手段を解除して基板aを開放し,図示しない搬送手段により固定テーブル
12上から基板を持ち上げ,処理槽11から外部へ搬出してベーキング装置(図示省略)へ送
ってレジストを焼成して,一連のフォトレジスト塗付工程が終了する。そして,続いて露光,
現象,エツチング,フォトレジスト除去の各工程が行なわれる。(2頁左下欄19行∼3頁右
」
上欄20行)
(ウ) 「以上説明したように上記実施例においては,レジストが表面に塗付された基板を固定
するための基台としての固定テーブルと,該固定テーブルに保持された基板の端面に接触可能
なクリーニングヘッドと,このクリーニングヘッドを基板の端面接線方向に沿って移動させる
ヘッド駆動手段としてのエアシリンダとにより不要レジスト除去装置を構成したので,回転式
レジスト塗付装置により塗付された基板の周縁の不要レジストを確実に除去することができ,
これによって露光工程での位置ずれをなくしてパターニングの際の精度を向上させ,またフォ
トレジスト塗付工程後の搬送工程や露光工程において不要レジストの剥離によって生じる残留
物による歩留りの低下を防止することができるという効果がある。 3頁左下欄1行∼15行)
」
(
(エ) 「なお,上記実施例では,基板の周縁に接触して不要レジストを除去するヘッドを往復
移動させる駆動手段や基板に向かって接近・離反させる駆動手段としてエアシリンダを用いて
いるが,駆動手段はこれに限定されるものでなく,油圧シリンダやモータ等を用いてもよいこ
とはいうまでもない。
また,上記実施例ではレジスト除去液を供給するパイプ23とノズル23aをクリーニング
ヘッド21と一体に設けたが,パイプとノズルは予め基板の周縁上方に固定しておいたり,別
の駆動機構によって接近・離反させるようにしてもよい。
さらに,上記実施例では角形のガラス基板に塗付された不要レジストの除去装置について説
明したが,本発明は円形の半導体ウェーハ等の不要レジスト除去にも利用することができる。
その場合,ウェーハ端面に接触するパッドを円形とし,これを所定角度の範囲で往復回転させ
るように駆動機構を構成するとよい。(3頁左下欄16行∼右下欄13行)
」
(オ) 第1図には,次のとおりの不要レジスト除去装置の一実施例を示す平面図が記載されて
いる。
イ 上記ア(イ)の 上記各エアシリンダ20のシリンダ部と処理槽11の側壁との
「
間には,上記ピン13を支点としてエアシリンダ20を回動させるための第2のエ
アシリンダ30がそれぞれ介挿されている。 との記載によれば,甲1には,審決が
」
引用発明1の構成として認定したとおりの「前記シリンダ20の各シリンダ部と処
理槽11の各側壁との間にそれぞれ介挿されて,前記ピン13を支点としてシリン
ダ20を回動させるための第2のエアシリンダ30」 13頁15∼17行)
( が記載
されていることが認められる。
また,上記ア(イ)の 第2のエアシリンダ30を作動させて4つのエアシリンダ2
「
0を第1図に実線で示されるような位置まで回動させる。 及び「レジスト除去後,
」
第2のエアシリンダ30が作動されてエアシリンダ23が基板から遠ざかる方向へ
回動され,2点鎖線A∼Dの位置まで待避する。 との記載並びに第1図によれば,
」
「第2のエアシリンダ30の作動により,各エアシリンダ20がピン13を支点と
して回動し,エアシリンダ20のピストンロッド20aの先端に装着されたクリー
ニングヘッド21が,ガラス基板aの端縁に接触した状態の位置(第1図の実線に
よって示されたヘッドの位置)とクリーニングヘッド21がガラス基板aの端縁か
ら離隔した状態の位置(同図の2点鎖線によって示されたヘッドの位置)との間を
往復運動すること」が認められる。
さらに,上記ア(エ)の「上記実施例では,基板の周縁に接触して不要レジストを除
去するヘッドを往復移動させる駆動手段や基板に向かって接近・離反させる駆動手
段としてエアシリンダを用いているが,駆動手段はこれに限定されるものでなく,
油圧シリンダやモータ等を用いてもよいことはいうまでもない」
との記載によれば,
第2のエアシリンダ30(又はこれを代替する油圧シリンダやモータ等)は,クリ
ーニングヘッドを基板に向かって接近・離反させる手段であり,クリーニングヘッ
ド21をガラス基板aの端縁に対して遠近変位する手段と認めることができる。
さらにまた,甲1のクリーニングヘッド21は,レジスト除去液を供給する複数
のノズル23aを備えており,本件発明1の「溶剤吐出手段」に相当すること,ガ
ラス基板aは,本件発明1の「角型基板」に相当することが認められる。
したがって,引用発明1の「前記シリンダ20の各シリンダ部と処理槽11の各
側壁との間にそれぞれ介挿されて,前記ピン13を支点としてシリンダ20を回動
させるための第2のエアシリンダ30」は,本件発明1の「溶剤吐出手段を角型基
板の端縁に対して遠近変位する」「手段」に相当すると認定することができる。
(3) ガラス基板aと大きさの異なる角型基板に関する処置の甲1における開示
について
一方,甲1には,実施例としては,第1図に記載されたガラス基板aの処理に用
いる不要レジスト除去装置とその動作が説明されており,また,上記(2)ア(エ)には,
「上記実施例では角形のガラス基板に塗付された不要レジストの除去装置について
説明したが,本発明は円形の半導体ウェーハ等の不要レジスト除去にも利用するこ
とができる。 と記載されるものの,
」 ガラス基板aと大きさの異なる角型基板に関す
る処理については,何ら開示も示唆もされていない。すなわち,甲1には, 角型基
「
板の大きさに応じて」,溶剤吐出手段を角型基板の端縁に対して遠近変位すること
は,記載されてはいない。
そして,甲1の第1図を参照すると,処理槽11の側壁,基台(固定テーブル)
12の辺及び角型のガラス基板aの辺がほぼ平行に配置されているところ,エアシ
リンダ20は,ピン13を支点として水平面内回転可能に取り付けられている」2
「 (
頁右下欄5∼7行)ものであって,ピン13は処理槽11の側壁に固着されている
ものであるから,エアシリンダロッド20aの往復動の方向(クリーニングヘッド
21の移動方向)が固定テーブル12の辺と平行となるのは,エアシリンダ20が
処理槽11の側壁に対してピン13を介して直角となる状態,すなわち,第1図に
実線で示されるような位置のみであることが認められる。
したがって,甲1において,角型基板を,第1図に記載されるように,基板の各
辺が固定テーブル12の各辺に平行となるように載置することを前提とした場合,
エアシリンダ20を「前記溶剤吐出手段を角型基板の端縁に沿って相対的に移動す
る移動手段」として機能させるためには,エアシリンダ20を第1図の実線の位置
に移動させることが必要であり,このとき,角型基板の大きさは第1図に示される
ガラス基板aの大きさでなければならないことが認められる。
そして,甲1において,第1図に記載された角型基板やエアシリンダ20の配置
について,改変を行うことの開示や示唆が認められず,甲1に記載の装置は,第1
図に記載のガラス基板aと同一の大きさの角型基板を処理することのみを開示して
いるということができる。
(4) 大きさの異なる角型基板についての審決の判断について
ア 審決は,大きさの異なる角型基板について,次のように認定判断する。
「引用発明1は, 第2のエアシリンダ30がシリンダ20の各シリンダ部と処理槽11の各
『
側壁との間にそれぞれ介挿されており,第2のエアシリンダ30の伸縮によりシリンダ20を
ピン13を支点として回動させて,前記シリンダ20を角形基板aの端面接線方向に対して接
近させたり離隔させたりすることにより,前記シリンダ20のピストンロッド20aの先端に
設けられたクリーニングヘッド21の位置を角形基板aの端面接線方向に対して調整すること
ができる』というものである。
そして,引用発明1の前記構成によれば,固定テーブル12に保持された角形基板aが,甲
1の第1図に図示されている角形基板aよりも大きい場合には,第2のエアシリンダ30が収
縮してシリンダ20とともにクリーニングヘッド21を処理槽11の側壁に接近するようにピ
ン13を支点として水平面内で揺動させ,かつ,大きい角形基板aを処理槽11の各側壁に対
して,角形基板aの端縁が各側壁と平行ではなく,偏向させた状態に固定テーブル12に保持
することにより,クリーニングヘッド21を角形基板aの端縁に沿って直線的に移動できる位
置に変位可能である。また,固定テーブル12に保持された角形基板aが,第1図に図示され
ている角形基板aよりも小さい場合には,第2のエアシリンダ30が伸張してシリンダ20と
ともにクリーニングヘッド21を処理槽11の各側壁から離隔するようにピン13を支点とし
て水平面内に揺動させ,かつ,小さい角形基板aを処理槽11の各側壁に対して,大きい場合
とは反対向きに偏向させた状態に固定テーブル12に保持することにより,クリーニングヘッ
ド21を角形基板aの端縁に沿って直線的に移動できる位置に変位可能である。
したがって,・・・ 楔状の隙間が生じて,クリーニングヘッド21が角形基板aの端縁に点
『
接触する』という危惧は,引用発明1においては,処理槽11の側壁に対してクリーニングヘ
ッド21の方向及び角形基板aの固定テーブル12上の保持方向を偏向させることにより,回
避することができるようになっていることからみて,引用発明1においても,本件発明1と同
様に,角形基板aの大きさに応じて,クリーニングヘッド21を角形基板aの端縁に沿って直
線的に移動できる位置に変位可能であるといえる。(24頁26行∼25頁17行)
」
イ 以上のとおり,審決は, 処理槽11の側壁に対してクリーニングヘッド21
「
の方向及び角形基板aの固定テーブル12上の保持方向を偏向させること」によっ
て, 引用発明1においても,本件発明1と同様に,角形基板aの大きさに応じて,
「
クリーニングヘッド21を角形基板aの端縁に沿って直線的に移動できる位置に変
位可能である」と判断する。そして,審決が,前記のとおり,本件発明1と引用発
明の一致点を, ・・・前記溶剤吐出手段を角型基板の大きさに応じて,
「 その端縁に
沿って直線的に移動できる位置に変位できるように,溶剤吐出手段を角型基板の端
縁に対して遠近変位する位置調整手段とを備える基板端縁洗浄装置」として認定し
たのは,大きさの異なる角型基板について, 角形基板aを処理槽11の各側壁に対
「
して,角形基板aの端縁が各側壁と平行ではなく,偏向させた状態に固定テーブル
12に保持すること」
(以下「偏向保持」という。)が,甲1に実質的に記載されて
いることを前提とするものといえる。
ウ ところで,大きさの異なる角型基板の偏向保持は,甲1に明示的に記載され
ていないところ,それにもかかわらず,この保持形態が甲1に実質的に記載されて
いると認定することができるのは,これが,甲1の記載を総合してみることによっ
て認められる場合又は当業者にとって周知技術又は技術常識といえる事項を補って
認められる場合である。
しかしながら,審決は, 引用発明1の前記構成によれば」とし,甲1の記載の内
「
容のみから,大きさの異なる角型基板の偏向保持とそれに対するクリーニングヘッ
ドの変位が可能であると結論付けており,このような角型基板の保持形態が,当業
者にとって周知技術又は技術常識といえる事項を補って認められるものであること
は何ら示していない。そして,甲1の記載を総合してみても,大きさの異なる角型
基板の偏向保持について記載されているとは認められない。
なお,審判手続ないし当審において証拠として提出された書証によっても,偏向
保持が当該技術分野の周知技術又は技術常識であると認めることはできず,大きさ
の異なる角型基板の偏向保持が甲1に実質的に記載されているとの審決の認定を首
肯することはできない。
(5) 洗浄工程との関係について
次に,偏向保持につき,洗浄(不要レジスト除去)工程との関係において検討す
る。
ア 「基板端部の塗布膜除去装置」に係る発明の公開特許公報である甲4には,基
「
板端部のレジスト除去について説明すると,
・・・基板27の周縁部を2㎜ほど間隙
23内に挿入し,第1,第2の管21,22より溶剤28を供給し,基板27端部
のレジスト26を溶解させ,第3の管24より溶剤と溶解物とを排出させるように
する。(3頁右上欄6∼13行)との記載があるように,基板端縁洗浄装置は,基
」
板の端縁をミリ単位で洗浄処理する装置である。
このような緻密さの要求される基板端縁洗浄装置において,角型基板の偏向保持
のためには,単純な前工程からの平行移動とは異なる,中心位置がずれないように
しつつ斜めに基板を回動させる精密な位置決め手段が必要であり,また,大きさの
異なる角型基板ごとに偏向すべき角度も異なるから,適切な角度を算出して回動を
制御する手段も必要となる。しかし,甲1には,このような位置決め・制御の手段
についての開示又は示唆の記載がない。
イ また,甲1に記載の装置において,大きさの異なる角型基板であっても,偏
向保持を行えば基板の端縁に沿ってクリーニングヘッド21を直線的に移動できる
という解釈は,角型基板aが正方形の場合にのみ成立する。
他方,長辺と短辺を有する長方形の場合には,基板の大きさに応じて保持位置を,
対向する2つのクリーニングヘッドを基板の端縁に沿って直線的に移動できる位置
に調整した場合には,他の2つのヘッドは角型基板の端縁に点でしか接触できず,
4つのクリーニングヘッドを同時に「基板の端縁に沿って直線的に移動できる位置
に変位」できないことになる。
したがって,審決の指摘する偏向保持を前提とした場合は,処理対象は正方形の
角型基板に限定されることとなるが,甲1には,対象とする角型基板が正方形のも
のに限定されるとの記載はない。
ウ さらに,甲1に記載の装置において,大きさの異なる角型基板の不要レジス
ト除去を行うためには,角型基板の辺の長さに応じたシリンダロッド20aの往復
動の制御(クリーニングヘッド21の移動距離の制御)及び角型基板の偏向角度に
応じた第2のエアシリンダ30の制御(エアシリンダ20の回動角度の制御)が必
要であるが,甲1には, エアシリンダ20」及び「第2のエアシリンダ30」を,
「
ガラス基板aと大きさの異なる角型基板に対してどのように動作させ,クリーニン
グヘッド21をどのように駆動させるのかについての具体的な記載はない。
エ 以上によれば,甲1には,角型基板を偏向保持するために必要となる装置の
構成や各種の要件について開示も示唆もされておらず,甲1は,大きさの異なる角
型基板を偏向保持することを想定していない,と認められる。
(6) 位置調整手段の検討について
ア 上記(3)∼(5)のとおり,甲1には,大きさの異なる角型基板を偏向保持する
ことは記載されておらず,角型基板の各辺が固定テーブル12の各辺に実質的に平
行となるように載置することのみが記載されているといえる。
イ そこで,甲1において,角型基板の各辺が固定テーブル12の各辺に実質的
に平行となるように載置する場合,審決が認定した本件発明1と引用発明1の一致
点中で挙示する, 前記溶剤吐出手段を角型基板の大きさに応じて,
「 その端縁に沿っ
て直線的に移動できる位置に変位できるように,溶剤吐出手段を角型基板の端縁に
対して遠近変位する位置調整手段」としては,エアシリンダ20の作動方向(シリ
ンダロッド20aの往復動方向)を角型基板の辺と平行に維持したまま,角型基板
の大きさに応じて,エアシリンダ20を角型基板の端縁に対して遠近変位する機構
が必要であると認められるが,甲1には,エアシリンダ20を水平面内回転可能と
する機構のみが記載され,エアシリンダ20の作動方向を角型基板の辺と平行に維
持したまま,エアシリンダ20を角型基板の端縁に対して遠近変位する機構につい
ては,何ら記載されていない。
ウ したがって,甲1は, 溶剤吐出手段を角型基板の大きさに応じて,その端縁
「
に沿って直線的に移動できる位置に変位できるように,溶剤吐出手段を角型基板の
端縁に対して遠近変位する」構成を開示していない。
(7) 小括
以上によれば,甲1には,審決が前提とする角型基板の偏向保持が記載されてい
ることが認められず,また,角型基板の大きさに応じて,溶剤吐出手段を基板の端
縁に沿って移動できるように調整する手段が開示されていることも認められない。
したがって,甲1には,本件発明1の特定事項である「前記溶剤吐出手段を角型
基板の大きさに応じて,その端縁に沿って直線的に移動できる位置に変位できるよ
うに,溶剤吐出手段を角型基板の端縁に対して遠近変位する位置調整手段」が,実
質的に記載されているということはできないから,審決が,上記位置調整手段を本
件発明1と引用発明1との一致点,本件発明1を引用する本件発明2と引用発明1
との一致点及び本件発明2を引用する本件発明3と引用発明1との一致点としてそ
れぞれ認定したことは,誤りといわざるを得ない。
2 結論
以上のとおりであるから,審決は,上記位置調整手段に係る相違点についての認
定判断のないままに結論に至ったことになり,結論に至るに必要な認定判断を欠く
ものとして違法となる。取消理由1は理由があり,これが審決の結論に影響を及ぼ
すことは明らかである。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があること
になるから認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
本 多 知 成
裁判官
田 中 孝 一
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