平成18(ワ)23402等不正競争行為差止等本訴請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成20年11月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告亡A訴訟承継人
亡A訴訟承継人
亡A訴訟承継人
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法令 |
不正競争
不正競争防止法4条16回 民法709条11回 不正競争防止法3条2回 不正競争防止法5条2項2回 不正競争防止法2条1項1号1回 民法715条1項1回 不正競争防止法21条1回
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キーワード |
損害賠償39回 差止34回 侵害27回
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主文 |
1 被告会社及び被告Y1は,原告会社に対し,連帯して,210万円及びこれに対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2(1) 被告Y1は,原告X1に対し,9万円及びこれに対する平成20年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(2) 被告Y1は,原告X2に対し,4万5000円及びこれに対する平成20年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(3) 被告Y1は,原告X3に対し,4万5000円及びこれに対する平成20年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告会社は,被告Y1に対し,24万円及びこれに対する平成20年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の本訴請求,被告Y1のその余の反訴請求並びに被告会社及び被告Y2の反訴請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,本訴・反訴を通じ,(1) 原告会社と被告会社との間においては,原告会社に生じた費用の10分の1を被告会社の負担とし,その余は各自の負担とし,(2) 原告会社と被告Y1との間においては,原告会社に生じた費用の20分の1を被告Y1の負担とし,その余は各自の負担とし,(3) 原告会社と被告Y2との間においては,被告Y2に生じた費用の5分の1を原告会社の負担とし,その余は各自の負担とし,,(4) 原告X1,原告X2及び原告X3と被告Y1との間においては,原告X1原告X2及び原告X3に生じた費用の20分の1を被告Y1の負担とし,その余は各自の負担とし,(5) 原告X1,原告X2及び原告X3と被告Y2との間においては,被告Y2に生じた費用の10分の1を原告X1,原告X2及び原告X3の負担とし,その余は各自の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本訴請求
(1) 原告会社は,①ザイラン1052等との表示を付して被告会社製品を販売
したなどの行為は,不正競争防止法2条1項1号(以下,不正競争防止法2条1項
の各号を指摘する場合は,号数のみで表示する。)の周知の商品等表示に類似した
商品を販売するなどし,他人の商品と混同を生じさせる行為であり,②同行為は,
13号の品質誤認行為に該当し,又は③被告らが,原告会社の取引先に対し 「原,
告会社は潰れる」等と発言したことは,14号の虚偽の事実の告知・流布に該当す
るとして,被告らに対し,同法3条に基づき営業行為及び譲渡等の差止め(原告会
社の本訴請求(1)ア及び(2)。同(1)アの予備的請求として同(1)イ)並びに同法4条
に基づき損害賠償の連帯支払(同(3))を求めた(ただし,原告会社の本訴請求(2)の
差止請求のうち,別紙物件目録(2),(3),(5)及び(6)の製品については,14号の
みに基づく請求である。)。
(2) 原告らは,被告Y1と被告Y2が共謀して,原告会社の株主である,A
(以下「A」という )及び被告Y1の兄弟らに送付した文書の内容が原告会社,。
Aの信用,名誉を毀損し,不法行為を構成すると主張して,被告Y1及び被告Y2 |
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判決文
平成20年11月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成18年(ワ)第23402号 不正競争行為差止等本訴請求事件
平成19年(ワ)第24141号 反訴請求事件
口頭弁論終結日 平成20年11月14日
判 決
東京都葛飾区<以下略>
本訴原告・反訴被告 株式会社オーベル
(以下「原告会社」という。)
千葉県市川市<以下略>
原告 亡A訴訟承継人
X1
(以下「原告X1」という。)
同所
原告 亡A訴訟承継人
X2
(以下「原告X2」という。)
東京都港区<以下略>
原告 亡A訴訟承継人
X3
(以下「原告X3」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士 大澤一郎
東京都葛飾区<以下略>
本訴被告・反訴原告 株式会社サンベスト
(以下「被告会社」という。)
東京都葛飾区<以下略>
本訴被告・反訴原告 Y1
(以下「被告Y1」という。)
東京都葛飾区<以下略>
本訴被告・反訴原告 Y2
(以下「被告Y2」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 海田麻子
主 文
1 被告会社及び被告Y1は,原告会社に対し,連帯して,210万円及びこれ
に対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2(1) 被告Y1は,原告X1に対し,9万円及びこれに対する平成20年2月
23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1は,原告X2に対し,4万5000円及びこれに対する平成20
年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告Y1は,原告X3に対し,4万5000円及びこれに対する平成20
年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告会社は,被告Y1に対し,24万円及びこれに対する平成20年1月2
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の本訴請求,被告Y1のその余の反訴請求並びに被告会社及
び被告Y2の反訴請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,本訴・反訴を通じ,
(1) 原告会社と被告会社との間においては,原告会社に生じた費用の10分の
1を被告会社の負担とし,その余は各自の負担とし,
(2) 原告会社と被告Y1との間においては,原告会社に生じた費用の20分の
1を被告Y1の負担とし,その余は各自の負担とし,
(3) 原告会社と被告Y2との間においては,被告Y2に生じた費用の5分の1
を原告会社の負担とし,その余は各自の負担とし,
(4) 原告X1,原告X2及び原告X3と被告Y1との間においては,原告X1 ,
原告X2及び原告X3に生じた費用の20分の1を被告Y1の負担とし,その余は
各自の負担とし,
(5) 原告X1,原告X2及び原告X3と被告Y2との間においては,被告Y2
に生じた費用の10分の1を原告X1,原告X2及び原告X3の負担とし,その余
は各自の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告会社の本訴請求
(1)ア 主位的請求
被告らは,日本国内において,別紙顧客目録記載の者に対し,面会を求め,電話
をし,パーソナルコンピューターでメールを送信し,又は郵便物を送付するなどし
て,売買契約・請負契約の締結,締結の勧誘又は契約に付随する営業行為をしては
ならない。
イ 予備的請求
被告らは,別紙顧客目録記載の者に対し ,「原告会社は潰れる 」「Aは横領犯」
若しくは「Aは逮捕される」旨を告知し,又はこれらのいずれかを記載した文書を
配布してはならない。
(2) 被告らは,別紙顧客目録記載の者に対し,別紙物件目録記載の商品を輸出 ,
譲渡してはならない。
(3) 被告らは,原告会社に対し,連帯して,5387万2500円及びこれに
対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告Y1及び被告Y2は,原告会社に対し,連帯して,550万円及びこ
れに対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
2 被告らの本案前の申立て
原告会社の被告らに対する本訴請求(1)ア,(2)及び(3)の訴えをいずれも却下す
る。
3 原告X1,原告X2及び原告X3(以下「原告Xら」という 。)の本訴請求
(1)ア 被告Y1及び被告Y2は,原告X1に対し,連帯して,275万円及び
これに対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
イ 被告Y1及び被告Y2は,原告X2に対し,連帯して,137万5000
円及びこれに対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
ウ 被告Y1及び被告Y2は,原告X3に対し,連帯して,137万5000
円及びこれに対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
(2)ア 被告Y1は,原告X1に対し,55万円及びこれに対する平成20年2
月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被告Y1は,原告X2に対し,27万5000円及びこれに対する平成2
0年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 被告Y1は,原告X3に対し,27万5000円及びこれに対する平成2
0年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らの反訴請求
(1) 原告会社は,被告会社に対し,200万円及びこれに対する平成19年1
0月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告会社は,被告Y1に対し,次の金員を支払え。
ア 200万円及びこれに対する平成19年10月4日から支払済みまで年5
分の割合による金員,
イ 100万円及びこれに対する平成20年1月24日から支払済みまで年5
分の割合による金員
(3) 原告会社は,被告Y2に対し,300万円及びこれに対する平成19年1
0月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本訴請求
(1) 原告会社は,①ザイラン1052等との表示を付して被告会社製品を販売
したなどの行為は,不正競争防止法2条1項1号(以下,不正競争防止法2条1項
の各号を指摘する場合は,号数のみで表示する。)の周知の商品等表示に類似した
商品を販売するなどし,他人の商品と混同を生じさせる行為であり,②同行為は,
13号の品質誤認行為に該当し,又は③被告らが,原告会社の取引先に対し ,「原
告会社は潰れる」等と発言したことは,14号の虚偽の事実の告知・流布に該当す
るとして,被告らに対し,同法3条に基づき営業行為及び譲渡等の差止め(原告会
社の本訴請求(1)ア及び(2)。同(1)アの予備的請求として同(1)イ)並びに同法4条
に基づき損害賠償の連帯支払(同(3))を求めた(ただし,原告会社の本訴請求(2)の
差止請求のうち,別紙物件目録(2),(3),(5)及び(6)の製品については,14号の
みに基づく請求である。)。
(2) 原告らは,被告Y1と被告Y2が共謀して,原告会社の株主であ る ,A
(以下「A」という 。)及び被告Y1の兄弟らに送付した文書の内容が原告会社,
Aの信用,名誉を毀損し,不法行為を構成すると主張して,被告Y1及び被告Y2
に対し,民法709条,719条に基づき損害賠償の支払を求めた(原告会社の本
訴請求(4),原告Xの本訴請求(1))。
(3) 原告Xらは,原告会社の平成19年11月8日開催の臨時株主総会におけ
る被告Y1の発言がAの名誉を毀損し,不法行為を構成すると主張して,被告Y1
に対し,民法709条に基づき損害賠償の支払を求めた(原告Xらの本訴請求(2)) 。
2 反訴請求
(1) 被告らは,原告会社の本訴請求(1)ア,(2)及び(3)は不当訴訟であり,不法
行為を構成するとして,原告会社に対し,民法709条,会社法350条に基づき
損害賠償の支払を求めた(被告らの反訴請求(1),(2)ア及び(3))。
(2) 被告Y1は,平成19年11月8日開催の原告会社の臨時株主総会におけ
る当時の代表取締役Aらの発言は,被告Y1の名誉を毀損し,不法行為を構成する
として,原告会社に対し,民法709条,会社法350条,民法715条に基づき,
損害賠償の支払を求めた(同(2)イ)。
3 前提事実
(1) 当事者
ア 原告会社
(ア) 原告会社は,自動車部品の固体潤滑コーティング及び塗料の販売等を行う
会社である。
原告会社の取引先の大半は,本田技研工業株式会社(以下「ホンダ」という。)系
列の会社である株式会社ケーヒン(以下「ケーヒン」という。)や本田金属技術株式
会社などである。
(争いのない事実,甲28,弁論の全趣旨)
(イ) Aは,平成9年3月から平成20年7月31日に死亡するまで,原告会社
の代表取締役であった。原告X1は,原告会社の取締役であったが,平成20年7
月26日,原告会社の代表取締役に就任した。Aと原告X1は,夫婦である。
(ウ) 原告会社の株主は,平成9年から平成10年ころに2度増資をしてAに割
り当てた結果,Aが発行済み株式の60%,被告Y1が同16%,B(以下「B」
という。)が16%,亡C(以下「C」という。)の相続人であるD(以下「D」とい
う。),E(以下「E」という。)及びF(以下「F」という。)が合計8%をそれぞ
れ有していた。
(エ) B,C,被告Y1及びAは,兄弟であり,年齢は上記順序のとおりである。
(オ) Aは,平成20年7月31日死亡し,Aの妻原告X1が2分の1,Aの子
原告X2及び原告X3が各4分の1の割合で,Aの被告Y1及び被告Y2に対する
損害賠償請求権(原告Xらの本訴請求(1),(2))を相続した。
(以上,争いのない事実,弁論の全趣旨,甲30,31)
イ 被告会社
(ア) 被告会社は,平成14年4月に設立された塗料及び塗料機械,器具類の製
造,販売等を目的とする会社である。
(イ) 被告Y1は被告会社の代表取締役であり,被告Y2は同監査役である。被
告Y1と被告Y2は,夫婦である。
(以上,争いのない事実)
(2) 原告会社の設立経緯等
ア 原告会社
(ア) 原告会社(旧商号は有限会社オーベル化学研究所。昭和55年に株式会社
オーベルに組織変更。)は,昭和42年3月に,B,被告Y1及び被告Y2を発起
人として設立された会社である。
(イ) 原告会社の代表取締役は,設立当初から平成9年2月まではBであった。
その経営には,B,被告Y1及び後に加わったCが当たっていた。
(ウ) 平成9年3月,BとCが原告会社から引退し,末弟であるAが原告会社の
代表取締役に就任した。
(エ) 被告Y1は,平成13年8月ころから,Aに依頼されて,社長代行として
原告会社の業務を行っていたが,平成14年3月の株主総会で,社長代行を解任さ
れた。
(オ) 被告Y1の原告会社への貢献については,現在の対立状況から双方の主張
が激しく対立しているが,被告Y1が,協調性などの点で問題があったとしても
(甲58),主として技術面で相当の貢献をしたことは,否定し難い。
(以上,争いのない事実,甲28(添付資料9),58,乙8,10∼12,弁論の
全趣旨)
イ 三洋商事
(ア) 三洋商事株式会社(以下「三洋商事」という。)は,塗料等の輸出,販売を
目的とする会社であるが,昭和60年ころ,原告会社が買収してその傘下におさめ
た。
(イ) 三洋商事の代表取締役は,平成9年4月まではBが,それ以降は被告Y1
が務めていた。
被告Y1は,平成14年3月,三洋商事の取締役を解任され,その後は,Aが代
表取締役を務めていた。
(ウ) 三洋商事は,平成17年12月,原告会社に吸収合併された。その合併比
率は,三洋商事が赤字であったため,1対0とされた。
(以上,争いのない事実,甲39,58,乙8,9,弁論の全趣旨)
(3) 塗料の説明
ア ザイラン1052
「ザイラン1052」(英語表記では「XYLAN1052」)は,アメリカのウ
ィットフォード社製の塗料である(以下,この塗料を意味するときは ,「ザイラン
1052(ウィットフォード社製)」という。)。
岡畑興産株式会社(以下「岡畑興産」という。)は,ザイラン1052(ウィット
フォード社製)の日本における独占的販売代理店であった。
(争いのない事実,甲28)
イ ホスタフロン5875
(ア) ホスタフロン5875は,ドイツのヘキスト社が製造販売していた塗料の
名称である(以下,ヘキスト社が製造していた塗料を意味するときは ,「ホスタフ
ロン5875(ヘキスト社製)」という。)。
(イ) ヘキスト社は,遅くとも平成4年ころ,ホスタフロン5875(ヘキスト
社製)の製造を中止し,その技術及び製法を,ドイツのワイルバーガー社及びアメ
リカのウィットフォード社に譲渡した。
(ウ) ヘキスト社が製造していたホスタフロン5875(ヘキスト社製)と同じ塗
料が,現在,ワイルバーガー社からは「グレブロン1211」との商品名で,ウィ
ットフォード社からは「ザイラン1075」との商品名で,それぞれ製造,販売さ
れている(以下,これらの塗料を「グレブロン1211(ワイルバーガー社製)等」
という。)。
(以上,争いのない事実)
(4) 自動車部品関連の取引
ア 原告会社とホンダ及びケーヒンとの関係
(ア) 基本契約及びケーヒン仕様等
a 原告会社は,昭和56年,ケーヒン(ただし,当時の商号は「株式会社京
浜気化器」である。)との間で,自動車部品取引に関する基本契約を締結し,以後 ,
同契約に基づき,コーティング加工をした自動車部品を納入していた。
b ケーヒンのスロットルシャフトに関するフッ素樹脂コーティングの仕様書
(甲71∼73)には,昭和56年ころから,塗料として「XYLAN−1052」
を使用する旨が記載されている(以下,この意味で使用する場合を「ザイラン10
52(ケーヒン仕様)」という。)。
c ケーヒンのバキュームピストンに関するテフロンコーティングの仕様書
(甲74)にも,昭和57年ころから,塗料として「ホスタフロン5875」を使用
する旨が記載されている(以下,この意味で使用する場合を「ホスタフロン587
5(ケーヒン仕様)」という。)。
d そして,上記仕様書に基づいて作成されたケーヒンのスロットルシャフト
の工程表(甲3の1∼3)には「ザイラン1052」と,同バルブスロットルやバキ
ュームピストンの工程表(甲3の4∼8)には「ホスタフロン5875」等とそれぞ
れ記載されている。
e 原告会社は,昭和58年ころ,ホンダの関係会社である株式会社ホンダ気
化器研究所(現在の株式会社本田技術研究所)との間で,内燃機関の燃料供給系部品
(気化器等)における摺動部に塗布するフッ素系樹脂コーティング材に関する技術開
発に関して共同開発契約を締結した。
(以上,争いのない事実,甲3の1∼8,28,61,71∼74,乙8,12の
1,2)
(イ) コーティング加工業務
a 原告会社は,岡畑興産から,ザイラン1052(ウィットフォード社製)を
購入し,それを自ら行う自動車部品のコーティング加工に使用し,加工済みの自動
車部品をケーヒンに納入していた。
b また,原告会社は,ホスタフロン5875(ヘキスト社製)の製造中止後は,
グレブロン1211(ワイルバーガー社製)等を購入し,それらを自ら行う自動車部
品のコーティング加工に使用し,加工済みの自動車部品をケーヒンに納入していた。
(以上,争いのない事実,甲28,58,弁論の全趣旨)
イ 東邦メッキとの関係
(ア)a 東邦メッキ株式会社(以下「東邦メッキ」という。)は,ケーヒンの下請
として,自動車部品等の塗装,コーティングを業とする会社である。
原告会社は,昭和57年9月28日,東邦メッキとの間で,ケーヒンに納品する
スロットルシャフト等のコーティングに関して,原告会社が東邦メッキにコーティ
ングのノウハウを提供すること等を内容とする契約を締結した(甲40添付資料5)。
同契約書の第5条には ,「この装置に使用するコーティング材料等については本
契約の精神に基き別途取決めるものとする 。」と規定されている。
b 東邦メッキは,原告会社から購入した後記ザイラン1052(原告会社製)
を使用してコーティング加工を行った自動車部品をケーヒンに納入していた。
(イ)a 三洋商事は,平成16年12月末まで,東邦メッキに対し,コーティン
グ加工で使用されるザイラン1052(原告会社製)を販売していた。
b 東邦メッキは,三洋商事又は原告会社から,後記グレブロン1211等
(原告会社製)を購入したことはなかった。
(以上,甲40,弁論の全趣旨)
ウ 原告会社の塗料販売
(ア) 原告会社は,ザイラン1052(ウィットフォード社製)を使用して塗料
(以下「ザイラン1052(原告会社製)」という。),並びにグレブロン1211及
びザイラン1075を使用して塗料(以下「グレブロン1211等(原告会社製)」
という。)をそれぞれ製造し,原告会社及び原告会社が三洋商事を買収した後は三
洋商事が,ケーヒン,東邦メッキ等に販売していた。
(争いのない事実,甲28,40,弁論の全趣旨)
(イ) ザイラン1052(原告会社製)の利益率
原告会社又は三洋商事のザイラン1052(原告会社製)の販売価格は1kg当たり
6500円程度,仕入価格は1kg当たり4000円程度であり,その余の販売経費
を控除すると,その利益率は売上げの25%であり,1kg当たりの利益額は162
5円である。
(争いのない事実)
(ウ) グレブロン1211等(原告会社製)の利益率
原告会社又は三洋商事のグレブロン1211等(原告会社製)の販売価格は1kg当
たり7000円程度,仕入価格は1kg当たり3000円ないし4000円であり,
その余の販売経費を控除すると,その利益率は売上げの25%であり,1kg当たり
の利益額は1750円である。
(争いのない事実)
エ 被告会社と東邦メッキとの取引内容
(ア) ザイラン1052
a 被告会社は,東邦メッキに対し,平成17年1月から平成18年7月まで,
塗料缶に貼付したラベルの品名欄に「XYLAN 1052」と表示した製品(甲
20。以下「ザイラン1052(被告会社製)」という。)を,少なくとも毎月40k
g販売した。
b ザイラン1052(被告会社製)は,ザイラン1052(ウィットフォード
社製)とは異なる成分の塗料である(甲5∼8)。
c 被告会社がザイラン1052(被告会社製)の販売により得た利益は,原告
会社又は三洋商事がザイラン1052(原告会社製)の販売により得た利益と同額程
度である。
(以上,争いのない事実)
(イ) ホスタフロン5875
a 被告会社は,東邦メッキに対し,平成17年1月から平成18年7月まで,
塗料缶に貼付したラベルの品名欄に「ホスタフロン 5875」と表示した製品
(甲21。以下「ホスタフロン5875(被告会社製)」という。)を,少なくとも毎
月20kg販売した。
b ホスタフロン5875(被告会社製)は,ホスタフロン5875(ヘキスト
社製)並びにそれを継承したグレブロン1211(ワイルバイガー社製)等とは異な
る成分の塗料である(甲10∼13)。
c 被告会社がホスタフロン5875(被告会社製)の販売により得た利益は,
原告会社又は三洋商事がグレブロン1211等(原告会社製)の販売により得た利益
と同額程度である。
(以上,争いのない事実)
(5) 原告らと被告らとの間の一連の紛争
ア 横領訴訟事件
(ア) 原告会社と三洋商事は,平成13年12月26日,東京地方裁判所に対し,
原告会社及び三洋商事の経理を担当していたG(以下「G」という。)及び原告会社
の取 引先である有限会社H工業所(以下「H工業所」という。)の取締役H(以下
「H」という。)を相手方として(ただし,Hに対しては,原告会社のみ),①G及
びHは,共謀して,H又はH工業所が原告会社に対して水増し又は架空請求をする
方法により,原告会社から合計2120万5000円を横領した,②Gは,不正経
理により,原告会社から210万9960円を,三洋商事から60万円をそれぞれ
横領したと主張して,不法行為に基づき上記額の損害賠償金の支払を求める訴訟を
提起した(平成13年(ワ)第27725号。乙5。以下,関与した者の範囲について
は争いがあるが,これらの横領を「本件横領」という。)。
(イ) Hは,その準備書面(乙6,7)において,請求した金額の大半は過大な請
求ではない,一部に架空請求をしたものがあるが,これは原告会社の裏金作りのた
め,Aの指示に基づいて行ったものであって,受け取った代金はすべて原告会社に
返還した旨主張していた。
原告会社とHとの間で,平成14年11月15日,Hが原告会社に80万円を支
払い,原告会社はその余の請求を放棄する旨の訴訟上の和解が成立した。
(ウ) Gは,請求原因事実を否認する旨の答弁書を提出しただけで,口頭弁論期
日に出頭せず,Aが架空請求に関与した旨の主張をしなかった。
東京地方裁判所は,平成15年2月28日,Gに対し,原告会社及び三洋商事の
請求を全額認容する旨の判決をし(甲14),同判決は,控訴期間満了により確定し
た。
(以上,争いのない事実,甲14,乙6,7,弁論の全趣旨)
イ 退職慰労金等請求事件
(ア) 被告Y1は,東京地方裁判所に対し,原告会社を相手方として,退職慰労
金残金,保証料残金,技術料及び社長代行報酬の支払を求める訴訟を提起した(平
成14年(ワ)第12515号。第1事件)。
(イ) また,被告Y1は,東京地方裁判所に対し,三洋商事を相手方として,被
告Y1が三洋商事の取締役を解任されたことに正当事由がないとして,残りの在任
期間の報酬と慰謝料の支払を求める訴訟を提起した(平成14年(ワ)第12786号。
第2事件本訴)。
これに対し,三洋商事は,被告Y1に対し,被告Y1が三洋商事の代表取締役在
任中に支払を受けた技術料の返還,被告Y1が受け取った売掛金の返還,弁護士費
用の返還,保険金の積立貯蓄部分の返還,並びに被告Y1が前記技術料を受け取っ
たことにより三洋商事が加算税を課されたことによる損害賠償の支払を求める反訴
を提起した(平成14年(ワ)第21525号。第2事件反訴)。
(ウ) 東京地方裁判所は,平成16年3月31日,第1事件について,平成14
年9月までに被告Y1が原告会社の社長代行に選任されたことは認めたものの,社
長代行報酬の金額まで定めた合意に至っていたと認めることはできないとして,被
告Y1の請求のうち,社長代行報酬の支払請求については棄却し,その余の請求を
認容し,第2事件本訴については,取締役報酬相当額の損害賠償の一部を認容し,
その余は棄却し,第2事件反訴については,売掛金名目の支払の返還の限度で認容
し,その余は棄却する旨の判決をした(乙1)。
(以上,争いのない事実,乙1)
ウ 取締役解任請求事件
(ア) 被告Y1は,平成17年4月8日,東京地方裁判所に対し,原告会社,A
及び原告X1を相手方として,A及び原告X1の原告会社の取締役の解任を求める
訴訟を提起した(平成17年(ワ)第7086号)。
被告Y1は,A及び原告X1の解任事由として,①Aは,自己の利益を図って,
原告会社の重要な財産である不動産を必要もないのに,A及び有限会社ラーラアヴ
ィス(Aの娘である原告X2が代表取締役。その後,原告X1に変更。以下「ラー
ラアヴィス」という。)に不当に廉価で譲渡した上,高額の賃料で原告会社に賃借
させ,取締役の職務に関する不正な行為をした,②Aは,原告会社の支配権を確保
するために,株主総会決議を経ずに新株を発行してAに割り当て,法令に違反した,
③Aは,原告会社の取引業者をして,原告会社に対し水増し及び架空請求をさせ,
取締役の職務に関する不正の行為をしたと主張し,③の点について,前記アの事件
で原告会社が主張したG及びHの原告会社への水増し及び架空請求に,Aが関与し
ていたことが,同事件後の調査により判明した旨主張した。
(イ) 東京地方裁判所は,平成18年9月26日,被告Y1の請求を棄却する旨
の判決をした(甲30)。
同判決は,①の点については,平成15年12月,原告会社がAに対し,工場の
土地建物を代金6884万3000円で譲渡し(第1譲渡),Aがそれを原告会社に
対し,賃料月額128万8380円で賃貸していること(第1賃貸借。年額賃料は ,
譲渡代金の22.4%となる。),平成16年10月,原告会社がラーラアヴィス
に対し,工場の他の土地建物を代金5112万9600円で譲渡し(第2譲渡),ラ
ーラアヴィスがそれを原告会社に対し,賃料月額78万5885円で賃貸している
こと(第2賃貸借。年額賃料は,譲渡代金の18.4%となる。),第1賃貸借につ
いては,取締役会の承認を得ていなかったことを認定したが,取締役の解任事由と
なる不正な行為とはいえない旨判断した。
同判決は,③の点については,Gの証言は採用できないから,Aが本件横領に関
与したとは認定できないと判断した。
(ウ) 東京高等裁判所は,平成19年4月26日,被告Y1の控訴を棄却する旨
の判決をしたが(甲31),上記③の点については,原判決の理由を引用した。
(エ) 最高裁判所は,平成19年9月21日,被告Y1の上告を棄却し,上告受
理申立てを受理しない旨の決定をした(甲47)。
(以上,争いのない事実,甲30,31,47,乙39∼42)
エ 賃料支払差止請求事件
(ア) 被告Y1は,平成17年,東京地方裁判所に対し,Aを相手方として,株
主の取締役に対する違法行為差止請求権に基づき,原告会社からA及びラーラアヴ
ィスに対する賃料支払の差止めを求める訴訟を提起した(平成17年(ワ)第1337
7号)。その主張内容は,前記ウ(ア)①とほぼ同旨である。
(イ) 東京地方裁判所は,平成18年9月26日,同不動産の譲渡代金及び賃貸
借の賃料額はいずれも不当であるとは認められず,Aが私腹を肥やす目的で同不動
産の譲渡及び賃貸借を行ったものとは認められないとして,被告Y1の請求を棄却
する旨の判決をした(甲32)。
(ウ) 東京高等裁判所は,平成19年7月18日,被告Y1の控訴を棄却する旨
の判決をした(甲33)。
(以上,争いのない事実,甲32,33)
オ 本件横領についての刑事告発
被告Y1は,平成16年1月ころ,Aを本件横領を内容とする商法上の特別背任
罪で警視庁に告発したが,いったん取り下げ,平成17年3月3日,再度,亀有警
察署に告発した。
Aは,平成18年12月22日,同容疑につき,不起訴処分を受けた。
不起訴処分の理由を明らかにする証拠は提出されていないが,嫌疑不十分である
可能性が高い。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
カ 放火についての刑事告発
(ア) 平成9年3月5日,原告会社の吉川工場が火災で焼失した。
(争いのない事実)
(イ) Gは,平成18年8月ころ,吉川警察署あてに上申書(甲90)を提出し,
Aを放火犯として告発した。
(甲90,弁論の全趣旨)
4 争点
(1) 争点1 1号違反
ア 争点1−1 商品等表示性等
(ア) ザイラン1052
a 商品等表示性
b 周知性
c 請求主体性
(イ) ホスタフロン5875
a 商品等表示性
b 周知性
イ 争点1−2 被告らの行為
ウ 争点1−3 類似性・混同のおそれ及び営業上の利益の侵害
エ 争点1−4 被告Y1及び被告Y2の被告適格
(2) 争点2 13号違反
ア 争点2−1 品質表示性
(ア) ザイラン1052
(イ) ホスタフロン5875
イ 争点2−2 被告らの行為,営業上の利益の侵害及び差止めの必要性
ウ 争点2−3 被告Y1及び被告Y2の被告適格
(3) 争点3 14号違反
ア 争点3−1 競争関係
イ 争点3−2 被告らの行為及び営業上の利益の侵害
ウ 争点3−3 被告Y1及び被告Y2の被告適格
エ 争点3−4 消滅時効
(4) 争点4 原告会社の損害等
ア 争点4−1 故意過失
イ 争点4−2 逸失利益
ウ 争点4−3 信用毀損の損害
エ 争点4−4 弁護士費用
(5) 争点5 本件文書1∼4の送付による名誉毀損の不法行為
ア 争点5−1 被告Y1及び被告Y2の行為
イ 争点5−2 正当行為等
(ア) 正当行為
(イ) 真実性又は相当性等
ウ 争点5−3 損害
(6) 争点6 不当訴訟提起の不法行為及び訴え却下申立ての理由
ア 争点6−1 違法性,故意
イ 争点6−2 損害
(7) 争点7 A及び原告X1の発言による名誉毀損の不法行為
ア 争点7−1 A及び原告X1の行為
イ 争点7−2 違法性
ウ 争点7−3 損害
(8) 争点8 被告Y1の発言による名誉毀損の不法行為
ア 争点8−1 被告Y1の行為
イ 争点8−2 違法性
ウ 争点8−3 損害
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(1号違反)
ア 争点1−1(商品等表示性等)
(原告会社の主張)
(ア) ザイラン1052
a 商品等表示性
前提事実(3)アのとおり,岡畑興産は,ザイラン1052(ウィットフォード社
製)の日本における独占的販売代理店であったものであり,ザイラン1052(ウィ
ットフォード社製)に付されたザイラン1052との商標は,日本国内において,
岡畑興産の商標と理解されている。
b 周知性
ザイラン1052との商標は,日本国内において,岡畑興産が塗料に使用する商
標として周知性を有している。
c 請求主体性
(a) 原告会社は,岡畑興産から,ザイラン1052(ウィットフォード社製)
を購入し,それを使用して製造したザイラン1052(原告会社製)にザイラン10
52との商標を付して他に販売することを認められている。
(b) よって,原告会社は,ザイラン1052との商標について,固有,正当 ,
直接的な利害関係を有しており,1号の請求主体となることができる。
(イ) ホスタフロン5875
a 商品等表示性
(a)一 原告会社は,グレブロン1211等(原告会社製)を,ホスタフロン5
875との商品名を付して,日本国内で販売してきた。
二 原告会社は,グレブロン1211等(原告会社製)にルブコート206等と
の表示も使用しているが,これは,原告会社内部で使用される商品の整理番号にす
ぎず,取引先に対しては,ホスタフロン5875を商品名として使用している。
(b) したがって,ホスタフロン5875との商標は,日本国内においては,
原告会社の商品等表示である。
b 周知性
(a)一 系列等自動車業界においては,元請,下請の系列関係で取引が行われ
るから,自動車業界で使用される商品等表示の周知性は,当該系列企業内において
周知か否かを判断すれば足りる。
二 グレブロン1211等(原告会社製)は,ホンダ系列の企業において使用
される自動車関連の塗料であるから,それに付された商品等表示の周知性は,ホン
ダ系列の企業内において周知か否かを判断すれば足りる。
三 ホンダ系列の企業内においては,原告会社は,その販売するグレブロン
1211等(原告会社製)にホスタフロン5875との商標を付していただけでなく,
自ら行うコーティング加工業務において,長年,ホスタフロン5875との商標を
付したグレブロン1211等(原告会社製)を使用していることが知られていた。
(b) 販売実績
一 三洋商事及びそれを引き継いだ原告会社は,少なくとも25年以上前か
らホスタフロン5875との商品名で塗料を販売してきた。
二 被告会社がホスタフロン5875(被告会社製)の販売を始める前は,三
洋商事及びそれを引き継いだ原告会社のみがホスタフロン5875との商標を付し
た塗料を販売していた。
三 原告会社は,ケーヒン及びその海外子会社に対して,グレブロン121
1等(原告会社製)を販売してきた。
(c) 加工業務の実績
原告会社は,25年以上前から,ホスタフロン5875(ヘキスト社製)又はグレ
ブロン1211(ワイルバーガー社製)等を使用して,自動車用部品のコーティング
加工を行ってきた。
(d) まとめ
したがって,ホスタフロン5875との商標は,原告会社の商品等表示として周
知性を有している。
(被告らの主張)
(ア) ザイラン1052
a 商品等表示性
原告会社の主張(ア)aは否認する。
岡畑興産は,単なる輸入代理店にすぎず,岡畑興産が販売するザイラン1052
(ウィットフォード社)に付された商標は,ウィットフォード社の商標である。
b 周知性
同(ア)bは否認する。
ザイラン1052(原告会社製)の販売数量は,東邦メッキに対する年間約20缶,
シャトル工業株式会社(以下「シャトル工業」という。)に対する合計18缶,台湾
京濱油器股分有限公司(以下「台湾ケーヒン」という。)に対する合計30缶の3社,
年間平均販売数約50缶にすぎない(甲41∼43)。
c 請求主体性
同(ア)cは否認する。
ザイラン1052(原告会社製)は,ルブコート202との商品名で販売されてい
た。
(イ) ホスタフロン5875
a 商品等表示性
同(イ)aは否認する。
グレブロン1211等(原告会社製)は ,「ルブコート206」との商品名で販売
されていた。
また ,「ホスタフロン」は,現在の我が国においても,ヘキスト社の商標として
知られている。
b 周知性
(a) 系列等
同(イ)b(a)は否認する。
(b) 販売実績
同(イ)b(b)は否認する。
グレブロン1211等(原告会社製)の最近の販売数量は,原告会社が提出する証
拠(甲41∼43)によっても,台湾ケーヒンに対する合計12缶(240kg)だけで
ある。
(c) 加工業務の実績
同(イ)b(c)は認める。
(d) まとめ
同(イ)b(d)は否認する。
イ 争点1−2(被告らの行為)
(原告会社の主張)
(ア) ザイラン1052(被告会社製)
被告会社は,東邦メッキのほか(前提事実(4)エ(ア)),ケーヒン等に対し,ザイラ
ン1052(被告会社製)を「XYLAN 1052」との商品名で販売している。
(イ) ホスタフロン5875(被告会社製)
被告会社は,東邦メッキのほか(前提事実(4)エ(イ)),ケーヒン等に対し,ホスタ
フロン5875(被告会社製)を「ホスタフロン 5875」との商品名で販売して
いる。
(被告らの主張)
(ア) ザイラン1052(被告会社製)
原告会社の主張(ア)は否認する。
(イ) ホスタフロン5875(被告会社製)
同(イ)は否認する。
ウ 争点1−3(類似性・混同のおそれ及び営業上の利益の侵害)
(原告会社の主張)
被告会社の前記イ(原告会社の主張)の行為は,需要者に商品又は営業の混同を生
じさせ,原告会社の営業上の利益を侵害している。
(被告らの主張)
(ア) 原告会社の主張は否認する。
(イ) 塗料のような商品の場合には,製造者,製造番号が重要であり,ラベルの
品名欄にも ,「XYLAN 1052」又は「ホスタフロン 5875」(前提事
実(4)エ)のほか,被告会社の名前が大きく表示されている。
したがって,ザイラン1052(被告会社製)及びホスタフロン5875(被告会
社製)が被告会社が製造した商品であることは一見して明らかであり,混同のおそ
れはない。
エ 争点1−4(被告Y1及び被告Y2の被告適格)
(原告会社の主張)
(ア) 不正競争防止法の被告適格
a 法律論
(a) 実際に不正競争行為を行っている者に対する差止め,損害賠償を認めな
ければ,不正競争防止法の目的を達し得ない。
(b) 不正競争防止法21条では,実行行為者を違反者とし,法人又は使用者
は,同法22条の両罰規定によって初めて刑事上の処罰対象となっている。
(c) これらのことからすると,民事上の差止請求及び損害賠償請求において
も,行為者個人に対する請求が認められるべきである。
b 被告Y1及び被告Y2の行為
(a) 被告Y1及び被告Y2は,共謀して ,「XYLAN 1052」との商
品名を付してザイラン1052(被告会社製)を ,「ホスタフロン 5875」との
商品名を付してホスタフロン5875(被告会社製)をそれぞれ販売した。
(b) したがって,被告Y1及び被告Y2は,上記行為が被告会社の業務とし
て行われたものであったとしても,不正競争防止法3条及び4条の「営業上の利益
を侵害する者」等に当たる。
(イ) 法人格否認の法理
a 被告会社は,被告Y1及び被告Y2が原告会社の顧客を奪うために設立し
た会社であり,被告会社の法人格は,違法,不当な目的のために濫用されているに
すぎない。
b したがって,被告会社に対して認められる不正競争防止法上の請求は,被
告Y1及び被告Y2に対しても認められるべきである。
(被告Y1及び被告Y2の主張)
(ア) 不正競争防止法の被告適格
a 法律論
原告会社の主張(ア)aは争う。
b 被告Y1及び被告Y2の行為
同(ア)b(a)は否認する。
(イ) 法人格否認の法理
同(イ)は否認する。
(2) 争点2(13号違反)
ア 争点2−1(品質表示性)
(原告会社の主張)
(ア) ザイラン1052
a 品質表示性
(a) ザイラン1052(ケーヒン仕様)は,ザイラン1052(ウィットフォー
ド社製)を使用し,粘度調整のための溶剤以外のものを加えないものを意味する。
(b) したがって,ホンダ系列の企業に塗料を販売する場合 ,「XYLAN
1052」との品名表示は,ザイラン1052(ウィットフォード社製)を使用し,
溶剤以外のものを加えないものであり,ザイラン1052(ケーヒン仕様)を満たし
ている製品であることを意味している。
b ザイラン1052(被告会社製)の品質
前提事実(4)エ(ア)bのとおり,ザイラン1052(被告会社製)は,ザイラン10
52(ウィットフォード社製)とは異なる成分の塗料であるから,ザイラン1052
(ケーヒン仕様)を満たさない。
c まとめ
したがって,品名として「XYLAN 1052」と表示してザイラン1052
(被告会社製)を販売する行為は,13号に該当する。
(イ) ホスタフロン5875
a 品質表示性
(a) ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)は,グレブロン1211(ワイルバ
ーガー社製)等を使用し,粘度調整のための溶剤以外のものを加えないものを意味
する。
(b) したがって,ホンダ系列の企業に塗料を販売する場合 ,「ホスタフロン
5875」との品名表示は,グレブロン1211(ワイルバーガー社製)等を使用
し,溶剤以外のものを加えないものであり,ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)
を満たしている製品であることを意味している。
b ホスタフロン5875(被告会社製)の品質
前提事実(4)エ(イ)bのとおり,ホスタフロン5875(被告会社製)は,グレブロ
ン1211又はザイラン1075とは異なる成分の塗料であり,ホスタフロン58
75(ケーヒン仕様)を満たさない。
c まとめ
したがって,品名として「ホスタフロン 5875」と表示してホスタフロン5
875(被告会社製)を販売する行為は,13号に該当する。
(被告らの主張)
(ア) ザイラン1052
a 品質表示性
原告会社の主張(ア)aは否認する。
b ザイラン1052(被告会社製)の品質
同(ア)bは否認する。
ザイラン1052(被告会社製)は,ザイラン1052(ウィットフォード社製)と
成分は異なるが,ザイラン1052(ケーヒン仕様)の要求する機能を満たし,かつ,
更に改良された製品であり,ザイラン1052(ケーヒン仕様)を満たしている。
c まとめ
同(ア)cは否認する。
被告会社の取引先は,ザイラン1052(ケーヒン仕様)の機能を保障されている
ことに着目して被告会社から購入するのであるから,品質誤認を生じる余地はない。
(イ) ホスタフロン5875
a 品質表示性
同(イ)aは否認する。
b ホスタフロン5875(被告会社製)の品質
同(イ)bは否認する。
ホスタフロン5875(被告会社製)は,グレブロン1211(ワイルバーガー社
製)等と成分は異なるが,ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)の要求する機能を
満たし,かつ,更に改良された製品であるから,ホスタフロン5875(ケーヒン
仕様)を満たしている。
c まとめ
同(イ)cは否認する。
被告会社の取引先は,ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)の機能を保障されて
いることに着目して被告会社から購入するのであるから,品質誤認を生じる余地は
ない。
イ 争点2−2(被告らの行為,営業上の利益の侵害及び差止めの必要性)
(原告会社の主張)
(ア) ザイラン1052
a 被告らの行為
被告会社は,平成18年7月まで,東邦メッキのほか(前提事実(4)エ(ア)),ケー
ヒン等に対し,ラベルの品名欄に「XYLAN 1052」と記載してザイラン1
052(被告会社製)を販売した。
b 営業上の利益の侵害
上記販売行為は,ザイラン1052(原告会社製)を販売している原告会社の営業
上の利益を侵害する。
c 差止めの必要性
上記aの事実によれば,被告会社の品質誤認行為を差し止める必要性は,依然と
して存在する。
(イ) ホスタフロン5875
a 被告らの行為
被告会社は,平成18年7月まで,東邦メッキのほか(前提事実(4)エ(イ)),ケー
ヒン等に対し,ラベルの品名欄に「ホスタフロン 5875」と記載してホスタフ
ロン5875(被告会社製)を販売した。
b 営業上の利益の侵害
上記販売行為は,ホスタフロン5875(原告会社製)を販売している原告会社の
営業上の利益を侵害する。
c 差止めの必要性
上記aの事実によれば,被告会社の品質誤認行為を差し止める必要性は,依然と
して存在する。
(被告らの主張)
(ア) ザイラン1052
a 被告らの行為
同(ア)aのうち,東邦メッキについては認め,その余は否認する。
品名欄の「XYLAN 1052」との記載は,東邦メッキの要望により,同社
内での塗料の取り間違いを防止するため,ケーヒンの工程表(甲3の1∼3)等の記
載と一致する表記をしたものである。
b 営業上の利益の侵害
同(ア)bは否認する。
c 差止めの必要性
同(ア)cは否認する。
被告会社は,ウイットフォード社から注意を受けたため,ラベルの品名欄に「X
YLAN 1052」と表示することを止め,平成18年8月以降は ,「SBC+
番号」の表示をしている(乙32)。
(イ) ホスタフロン5875
a 同(イ)aのうち,東邦メッキについては認め,その余は否認する。
品名欄の「ホスタフロン 5875」との記載は,東邦メッキの要望により,同
社内での塗料の取り間違いを防止するため,ケーヒンの工程表(甲3の4∼8)等の
記載と一致する表記をしたものである。
b 営業上の利益の侵害
同(イ)bは否認する。
c 差止めの必要性
同(イ)cは否認する。
被告会社は,ウイットフォード社から「XYLAN 1052」について注意を
受けた際に,ラベルの品名欄に「ホスタフロン 5875」と表示することを止め,
平成18年8月以降は ,「SBC+番号」の表示をしている(乙32)。
ウ 争点2−3(被告Y1及び被告Y2の被告適格)
(原告会社の主張)
(ア) 前記争点1−4(原告会社の主張)中の(ア)b(a)を次の(イ)のとおり変える
ほか,同主張のとおり。
(イ) 被告Y1及び被告Y2は,共謀して ,「XYLAN 1052」との品名
を付してザイラン1052(被告会社製)を ,「ホスタフロン 5875」との品名
を付してホスタフロン5875(被告会社製)をそれぞれ販売した。
(被告Y1及び被告Y2の主張)
(ア) 前記争点1−4(被告Y1及び被告Y2の主張)中の(ア)b(a)を次の(イ)の
とおり変えるほか,同主張のとおり。
(イ) 原告会社の主張(イ)のうち,被告Y1が原告会社主張の行為を行ったこと
は認め,その余は否認する。ただし,被告Y1の行為は,被告会社の代表取締役と
しての行為である。
(3) 争点3(14号違反)
ア 争点3−1(競争関係)
(原告会社の主張)
原告会社と被告会社とは,少なくとも塗料の製造,販売において,競争関係にあ
る。
(被告らの主張)
原告会社の主張は認める。
イ 争点3−2(被告らの行為及び営業上の利益の侵害)
(原告会社の主張)
(ア) 被告らの行為
a 営業誹謗行為
(a) 被告Y1は,被告Y2と共謀して,被告会社の業務として,別紙「営業
誹謗行為一覧表」のとおり,同一覧表「対象会社・個人名」記載の取引先に対して,
①オーベルは潰れる,②A社長は横領犯,又は③社長の逮捕は近い旨の事実を告知
し,原告会社の信用を毀損した。
(b) 前提事実(1)イ(イ)のとおり,被告Y1は,被告会社の代表取締役である
ところ,被告Y1の上記(a)の行為は,被告会社の職務としてされたものである。
b ①オーベルは潰れるの虚偽性
原告会社の経営は順調であり,原告会社が潰れるというのは虚偽である。
c ②A社長は横領犯及び③社長の逮捕は近いの虚偽性
(a) Aが本件横領に関与したことはなく,上記事実は虚偽である。
(b) 前提事実(5)ウのとおり,被告Y1が提起したAらの取締役解任請求事件
(東京地裁平成17年(ワ)第7086号)においても,平成18年9月26日,Aが
原告会社の金銭を流用した事実は認定できない旨の判決がされ,平成19年9月2
1日,同判決は確定した。
(c) 前提事実(5)オのとおり,被告Y1は,Aを本件横領につき商法上の特別
背任罪で告発したが,Aは,平成18年12月22日,不起訴処分を受けた。
(d) したがって,仮に,当初は②A社長は横領犯等の事実が真実であると考
えたことに相当の理由があったとしても,平成18年末以降には,真実であると考
えたことに相当の理由があったとはいえない。
(イ) 営業上の利益の侵害
上記(ア)の営業誹謗行為は,競争関係にある原告会社の営業上の利益を侵害する 。
(被告らの主張)
(ア) 被告らの行為
a 営業誹謗行為
原告会社の主張(ア)aは否認する。
被告Y1は,原告会社の社長代行及び三洋商事の代表取締役を解任されたため,
退任の挨拶のために取引先を訪問し,その際,不当解任であること,及び被告Y1
が今後は原告会社の役員として技術協力はできなくなった旨を述べたことはあるが,
原告会社主張のような発言をしたことはない。
b ①オーベルは潰れるの虚偽性
同(ア)bは否認する。
原告会社の業績は,固体潤滑の技術力を有する被告Y1を原告会社から追い出し
たため,悪化していた。
c ②A社長は横領犯及び③社長の逮捕は近いの虚偽性
同(ア)c(a)及び(d)は否認する。
(イ) 営業上の利益の侵害
同(イ)は否認する。
ウ 争点3−3(被告Y1及び被告Y2の被告適格)
(原告会社の主張)
(ア) 前記争点1−4(原告会社の主張)中の(ア)b(a)を次の(イ)のとおり変える
ほか,同主張のとおり。
(イ) 前記争点3−2(原告会社の主張)(ア)a(a)のとおり。
(被告Y1及び被告Y2の主張)
(ア) 前記争点1−4(被告Y1及び被告Y2の主張)中の(ア)b(a)を次の(イ)の
とおり変えるほか,同主張のとおり。
(イ) 原告会社の主張(イ)は否認する。
エ 争点3−4(消滅時効)
(被告らの主張)
(ア) 原告会社は,原告会社が主張する各営業誹謗行為がされたころに,被告ら
がそれらの行為をしたことを知った。
(イ) 原告らは,平成18年10月13日付けの訴状で本件訴えを提起したが,
原告会社が主張する営業誹謗行為のうち平成15年10月14日以前の行為につい
ては,各行為時から3年が経過した。
(ウ) 被告らは,平成19年7月25日の本件弁論準備手続期日において,上記
消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(エ) したがって,原告会社は,14号違反に基づく損害賠償請求のうち平成1
5年10月14日以前の行為に基づくものについて,請求することができない。
(原告らの主張)
被告らの主張(ア)は否認し,(イ)及び(ウ)は認め,(エ)は争う。
被告Y1の行為は,秘密裏に行われており,原告会社が営業誹謗行為がされてい
ることを知ったのは,平成17年以降である。
(4) 争点4(原告会社の損害等)
ア 争点4−1(故意過失)
(原告会社の主張)
(ア) 1号違反
被告らには,1号違反の行為を行って原告会社の利益を侵害したことにつき,故
意又は少なくとも過失があった。
(イ) 13号違反
被告らには,13号違反の行為を行って原告会社の利益を侵害したことにつき,
故意又は少なくとも過失があった。
(ウ) 14号違反
被告らには,14号違反の行為を行って原告会社の利益を侵害したことにつき,
故意又は少なくとも過失があった。
(被告らの主張)
(ア) 1号違反
原告会社の主張(ア)は否認する。
(イ) 13号違反
同(イ)は否認する。
(ウ) 14号違反
同(ウ)は否認する。
被告Y1は,刑事告発が受理され,捜査が進んだため,Aが特別背任罪に該当す
る行為をして,近く逮捕されると信じたのであるから,信じたことについて相当な
理由があり,故意過失はない。
イ 争点4−2(逸失利益)
(原告会社の主張)
(ア) 販売に関する逸失利益
a ザイラン1052
(a) 東邦メッキに対する販売分の逸失利益
一 三洋商事から東邦メッキに対する平成16年12月までのザイラン10
52(原告会社製)の販売量は,毎月40kg程度あった。
二 しかし,被告らの不正競争行為のため,原告会社は,平成17年1月以
降,東邦メッキに対して,ザイラン1052(原告会社製)を販売することができな
くなった。
三 前提事実(4)エ(ア)aのとおり,被告会社は,平成17年1月から平成1
8年7月まで,東邦メッキに対し,毎月40kgのザイラン1052(被告会社製)を
販売した。
四 前提事実(4)ウ(イ)及びエ(ア)のとおり,原告会社のザイラン1052(原
告会社製)販売による利益額は1kg当たり1625円であり,被告会社の利益額も ,
原告会社と同額程度である。
五 したがって,原告会社の平成17年1月から平成18年7月までの19
か月分の損害額は,123万5000円となり,原告会社は,被告らに対し,不正
競争防止法4条,5条1項又は2項,民法719条に基づき,同額の損害賠償請求
権(不真正連帯)を有する。
1625円×40kg×19か月=123万5000円
(b) ケーヒンタイ向けの販売分の逸失利益
一 原告会社は,平成18年1月から,東邦メッキに対し,ケーヒンのタイ
工場向けにザイラン1052(原告会社製)を毎月20kgを販売する予定であった。
二 しかし,被告らの不正競争行為のため,原告会社は,それを販売するこ
とができなかった。
三 被告会社は,平成18年1月から,東邦メッキに対し,ケーヒンのタイ
工場向けにザイラン1052(被告会社製)を販売している
四 前提事実(4)ウ(イ)及びエ(ア)のとおり,原告会社のザイラン1052(原
告会社製)販売による利益額は1kg当たり1625円であり,被告会社の利益額も ,
原告会社と同額程度である。
五 したがって,原告会社の平成18年1月から同年7月までの間の7か月
分の逸失利益は,22万7500円となり,原告会社は,被告らに対し,不正競争
防止法4条,5条1項又は2項,民法719条に基づき,同額の損害賠償請求権
(不真正連帯)を有する。
1625円×20kg×7か月=22万7500円
(c) シャトル工業に対する販売分の逸失利益
一 原告会社は,平成16年10月まで,ケーヒンの下請業者であるシャト
ル工業に対し,毎月80ないし120kgのザイラン1052(原告会社製)を販売し
ていた。
二 しかし,被告らの不正競争行為のため,原告会社は,平成16年11月
以降,それを販売することができなくなった。
三 被告会社は,平成16年11月以降,シャトル工業に対し,ザイラン1
052(被告会社製)を販売している。
四 前提事実(4)ウ(イ)及びエ(ア)のとおり,原告会社のザイラン1052(原
告会社製)販売による利益額は1kg当たり1625円であり,被告会社の利益額も ,
原告会社と同額程度である。
五 したがって,原告会社の平成17年1月から平成18年7月までの19
か月分の逸失利益は,308万7500円となり,原告会社は,被告らに対し,不
正競争防止法4条,5条1項又は2項,民法719条に基づき,同額の損害賠償請
求権(不真正連帯)を有する。
1625円×100kg(平均)×19か月=308万7500円
(d) 台湾ケーヒンに対する販売分の逸失利益
一 三洋商事は,平成16年8月まで,台湾ケーヒンに対して,ザイラン1
052(原告会社製)を毎月平均100kg販売していた。
二 しかし,被告らの不正競争行為により,平成16年9月以降販売するこ
とができなくなった。
三 被告会社は,平成16年9月以降,台湾ケーヒンに対し,ザイラン10
52(被告会社製)を販売している。
四 前提事実(4)ウ(イ)及びエ(ア)のとおり,原告会社のザイラン1052(原
告会社製)販売による利益額は1kg当たり1625円であり,被告会社の利益額も ,
原告会社と同額程度である。
五 したがって,原告会社の平成16年9月から平成18年7月までの23
か月分の逸失利益は,373万7500円となり,原告会社は,被告らに対し,不
正競争防止法4条,5条1項又は2項,民法719条に基づき,同額の損害賠償請
求権(不真正連帯)を有する。
1625円×100kg×23か月=373万7500円
b ホスタフロン5875
(a) 東邦メッキに対する販売分の逸失利益
一 原告会社は,平成17年1月以降,東邦メッキに対して,毎月20kgの
グレブロン1211等(原告会社製)を販売する予定であった。
二 しかし,被告らの不正競争行為のため,原告会社は,平成17年1月以
降,それを販売することができなかった。
三 前提事実(4)エ(イ)aのとおり,被告会社は,平成17年1月から平成1
8年7月まで,東邦メッキに対し,ホスタフロン5875(被告会社製)を毎月20
kg販売した。
四 前提事実(4)ウ(ウ)及びエ(イ)のとおり,原告会社のグレブロン1211等
(原告会社製)の販売による利益額は1kg当たり1750円であり,被告会社の利益
額も,原告会社と同額程度である。
五 したがって,平成17年1月から平成18年7月までの19か月分の原
告会社の損害額は,66万5000円となり,原告会社は,被告らに対し,不正競
争防止法4条,5条1項又は2項,民法719条に基づき,同額の損害賠償請求権
(不真正連帯)を有する。
1750円×20kg×19か月=66万5000円
(b) ケーヒンタイ向けの販売分の逸失利益
一 原告会社は,平成18年4月から,東邦メッキに対して,ケーヒンのタ
イ工場向けに,グレブロン1211等(原告会社製)を毎月20kg販売する予定であ
った。
二 しかし,被告らの不正競争行為のため,原告会社は,それを販売するこ
とができなかった。
三 前提事実(4)ウ(ウ)及びエ(イ)のとおり,原告会社のグレブロン1211等
(原告会社製)の販売による利益額は1kg当たり1750円であり,被告会社の利益
額も,原告会社と同額程度である。
四 したがって,平成18年4月から同年7月までの4か月分の原告会社の
逸失利益は14万円となり,原告会社は,被告らに対し,不正競争防止法4条,民
法719条に基づき,同額の損害賠償請求権(不真正連帯)を有する。
1750円×20kg×4か月=14万円
(c) 台湾ケーヒンに対する販売分の逸失利益
一 原告会社は,平成16年8月まで,台湾ケーヒンに対し,グレブロン1
211等(原告会社製)を毎月80kg販売していた。
二 しかし,被告らの不正競争行為により,原告会社は,平成16年9月以
降,それを販売することができなくなった。
三 前提事実(4)ウ(ウ)及びエ(イ)のとおり,原告会社のグレブロン1211等
(原告会社製)の販売による利益額は1kg当たり1750円であり,被告会社の利益
額も,原告会社と同額程度である。
四 したがって,原告会社の平成16年9月から平成18年7月までの23
か月分の逸失利益は,322万円となり,原告会社は,被告らに対し,不正競争防
止法4条,民法719条に基づき,同額の損害賠償請求権(不真正連帯)を有する。
1750円×80キロ×23か月=322万円
(d) デュラウエア社に対する販売分の逸失利益
一 原告会社は,平成17年前半ころ,デュラウエア(Duraware)社
から,グレブロン1211等(原告会社製)を毎月約200kg購入したいとの申出を
受けた。
二 しかし,被告らの不正競争行為のため,原告会社は,それを販売するこ
とができなかった。
三 被告会社は,平成17年7月以降,デュラウエア社に対し,ホスタフロ
ン5875(被告会社製)を販売している。
四 前提事実(4)ウ(ウ)及びエ(イ)のとおり,原告会社のグレブロン1211等
(原告会社製)の販売による利益額は1kg当たり1750円であり,被告会社の利益
額も,原告会社と同額程度である。
五 したがって,原告会社の平成17年7月から平成18年7月までの13
か月の逸失利益は,341万2500円となり,原告会社は,被告らに対し,不正
競争防止法4条,5条1項又は2項,民法719条に基づき,同額の損害賠償請求
権(不真正連帯)を有する。
1750円×150kg(平均)×13か月=341万2500円
(イ) コーティング加工業務に関する逸失利益
a ケーヒンのコーティング加工業務の受注減に関する逸失利益
(a) 原告会社は,ケーヒンとの間で,自動車用部品をコーティングする加工
業務を請け負ってきた。
平成15年(1月∼12月) 1億6705万6824円(売上額)
平成16年(1月∼12月) 1億4695万6189円(売上額)
平成17年(1月∼12月) 1億1644万9614円(売上額)
(b) しかし,被告らの不正競争行為の結果,原告会社のケーヒンからのコー
ティング加工業務の受注は急減し,平成18年1月から6月までの6か月分の加工
業務の受注は,約1250万円減少した。
(c) これに対し,東邦メッキは,被告会社から購入した塗料を使用して,ケ
ーヒンからのコーティング加工業務の受注を,同額増加させている。
(d) 原告会社のコーティング加工業務による営業利益率は10%である。
(e) したがって,原告会社の平成18年1月から6月までの6か月分の逸失
利益は,125万円となり,原告会社は,被告らに対し,不正競争防止法4条,民
法719条に基づき,同額の損害賠償請求権(不真正連帯)を有する。
1250万円×10%=125万円
b ケーヒンのコーティング加工業務の受注見込分の逸失利益
(a) 原告会社は,平成16年8月以降,ケーヒンから,上記a以外に,回転
自動塗装機1台当たり月額750万円程度のコーティング加工業務を受注できる見
込みであった。
(b) しかし,被告らの不正競争行為のため,原告会社は,それを受注するこ
とができなかった。
(c) 原告会社のコーティング加工業務による営業利益率は10%である。
(d) したがって,原告会社の平成16年8月から平成18年7月までの24
か月分の逸失利益は,2700万円となり,原告会社は被告らに対し,不正競争防
止法4条,民法719条に基づき,同額の損害賠償請求権(不真正連帯)を有する。
月額750万円×(12か月×1(前半の12か月は回転自動塗装機1台分)+1
2か月×2(後半の12か月は回転自動塗装機2台分))×10%=2700万円
(ウ) 合計
よって,原告会社は,被告らに対し,合計4397万5000円の損害賠償請求
権(不真正連帯)を有する。
(エ) 推定を覆す事情
a 被告会社の営業努力
後記被告らの主張(エ)aは否認する。
b 代替品の存在
同(エ)bは否認する。
原告会社は,ホンダ系列の企業である東邦メッキ,ケーヒングループ等と,塗料
販売だけでなく,コーティング加工について長年取引をしていたから,他に競業者
がいたとしても,被告らの不正競争行為がなければ,新規取引分を含めて,原告会
社が塗料を販売していた。
c まとめ
同(エ)cは否認する。
(被告らの主張)
(ア) 販売に関する逸失利益
a ザイラン1052
(a) 東邦メッキに対する販売分の逸失利益
原告会社の主張(ア)a(a)のうち,一は不知,二及び五は否認する。
(b) ケーヒンタイ向けの販売分の逸失利益
同(ア)a(b)のうち,一は不知,二及び五は否認する。
(c) シャトル工業に対する販売分の逸失利益
同(ア)a(c)のうち,一は不知,二及び五は否認する。
(d) 台湾ケーヒンに対する販売分の逸失利益
同(ア)a(d)のうち,一は不知,二及び五は否認する。
b ホスタフロン5875
(a) 東邦メッキに対する販売分の逸失利益
同(ア)b(a)のうち,一は不知,二及び五は否認する。
(b) ケーヒンタイ向けの販売分の逸失利益
同(ア)b(b)のうち,一は不知,二及び四は否認する。
(c) 台湾ケーヒンに対する販売分の逸失利益
同(ア)b(c)のうち,一は不知,二及び四は否認する。
(d) デュラウエア社に対する販売分の逸失利益
同(ア)b(d)のうち,一は不知,二及び五は否認する。
(イ) コーティング加工業務に関する逸失利益
a ケーヒンのコーティング加工業務の受注減に関する逸失利益
同(イ)aのうち,(a)は不知,(b)ないし(e)は否認する。
b ケーヒンのコーティング加工業務の受注見込分の逸失利益
同(イ)bのうち,(a)は不知,(b)及び(d)は否認する。
(ウ) 合計
同(ウ)は否認する。
(エ) 推定を覆す事情
a 被告会社の営業努力
被告会社が,ザイラン1052(被告会社製)及びホスタフロン5875(被告会
社製)を販売できたのは,被告会社の営業努力によるものである。
b 代替品の存在
ザイラン1052(被告会社製)及びホスタフロン5875(被告会社製)について
は,ウィットフォード社及びワイルバーガー社が同等品を販売しているから,被告
会社が販売しなかったとしても,原告会社以外の競業者が販売する余地があった。
c まとめ
したがって,ザイラン1052(被告会社製)及びホスタフロン5875(被告会
社製)について,被告会社が販売しなくても原告会社が利益を得たとはいえない事
情があった。
ウ 争点4−3(信用毀損の損害)
(原告会社の主張)
(ア) 原告会社は,被告らの不正競争行為により,信用を毀損され,500万円
の損害を受けた。
(イ) よって,原告会社は,被告らに対し,不正競争防止法4条,民法719条
に基づき,500万円の損害賠償請求権(不真正連帯)を有する。
(被告らの主張)
原告会社の主張は否認する。
エ 争点4−4(弁護士費用)
(原告会社の主張)
(ア) 原告会社は,被告らの不正競争行為(1号,13号,14号)のため,本件
訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人である大澤弁護士に委任し,相当額の弁護
士費用を支払う旨約束した。
(イ) 被告らの不正競争行為と因果関係のある損害は,他の損害額の10%に相
当する489万7500円である。
(4397万5000円+500万円)×10%=489万7500円
(ウ) よって,原告会社は,被告らに対し,不正競争防止法4条,民法719条
に基づき,489万7500円の損害賠償請求権(不真正連帯)を有する。
(被告らの主張)
原告会社の主張(ア)は不知,(イ)及び(ウ)は否認する。
(5) 争点5(本件文書1∼4の送付による名誉毀損の不法行為)
ア 争点5−1(被告Y1及び被告Y2の行為)
(原告らの主張)
(ア) 本件文書1ないし4の配布
a 被告Y1及び被告Y2は,共謀して,次の①ないし④の書簡を各名あて人
に送付した。
① 平成15年7月20日付けのCあての被告Y1及び被告Y2名義の書簡(甲1
6。以下「本件文書1」という。)
② 平成15年12月11日付けのB及びCあての被告Y1名義の書簡(甲17。
以下「本件文書2」という。)
③ 平成17年3月28日付けのBあての被告Y1名義の書簡(甲18。以下「本
件文書3」という。)
④ 平成17年3月28日付けのD,E,Fあての被告Y1名義の書簡(甲19。
以下「本件文書4」という。)
b 仮に,公然性が要求されるとしても,本件文書1ないし4は,その名あて
人のみでなく,少なくともそれぞれの家族が見る可能性があるから,不特定又は多
数人に対して配布されたものである。
(イ) 本件文書1ないし4の内容
本件文書1ないし4には,別紙「名誉毀損文言一覧表」記載のとおりの文言が含
まれている。
(被告Y1及び被告Y2の主張)
(ア) 本件文書1ないし4の配布
原告らの主張(ア)aのうち,被告Y1及び被告Y2が本件文書1を,被告Y1が
本件文書2ないし4を各名あて人に送付したことは認め,その余は否認する。
同(ア)bは否認する。
本件文書1ないし4は,各名あて人にあてた親書であり,他の人が読むことは予
定されていない文書であるから,不特定多数人に配布したものとはいえない。
(イ) 本件文書1ないし4の内容
同(イ)は認める。
イ 争点5−2(正当行為等)
(被告Y1及び被告Y2の主張)
(ア) 正当行為
本件文書1ないし4は,原告会社や三洋商事の株主である被告Y1らが,それら
の株主である各名あて人に対して,株主として必要な情報を伝達するために送付さ
れたものであり,株主として正当な行為として,違法性が阻却される。
(イ) 真実性又は相当性等
a 本件文書1ないし4は,原告会社や三洋商事の株主である被告Y1らが,
それらの株主である各名あて人に対して,株主として必要な情報を伝達するために
送付されたものであり,公共の利害に関する事実に係り,公益を図る目的で送付さ
れたものである。
b 本件文書1ないし4に記載された内容は,真実であり,少なくとも被告Y
1らが真実であると信じたことにつき,相当の理由がある。
(原告らの主張)
(ア) 正当行為
被告Y1及び被告Y2の主張(ア)は否認する。
本件文書1ないし4には,詐欺,横領等の刑法上の犯罪である旨の記載があり,
株主の正当な行為として許容される限度を超えている。
(イ) 真実性又は相当性等
同(イ)は,いずれも否認する。
ウ 争点5−3(損害)
(原告らの主張)
(ア) 原告会社の損害
a 信用毀損の損害
原告会社は,本件文書1ないし4の配布により,信用を毀損され,少なくとも5
00万円の損害を被った。
b 弁護士費用
(a) 原告会社は,本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人の大澤弁護士
に委任し,相当額の弁護士費用を支払うことを約した。
(b) 弁護士費用のうち,上記信用毀損による損害の1割である50万円が上
記不法行為と相当因果関係のある損害である。
c まとめ
したがって,原告会社は,被告Y1及び被告Y2に対し,民法709条,719
条に基づき,550万円及びこれに対する平成18年10月29日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
(イ) Aの損害
a 名誉毀損
Aは,本件文書1ないし4の配布により,名誉を毀損され,精神的苦痛を被った。
これを慰謝するには少なくとも500万円が相当である。
b 弁護士費用
(a) Aは,本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人の大澤弁護士に委任
し,相当額の弁護士費用を支払うことを約した。
(b) 弁護士費用のうち,上記名誉毀損による損害の1割である合計50万円
が上記不法行為と相当因果関係のある損害である。
c まとめ
したがって,民法709条,719条に基づき,被告Y1及び被告Y2に対し,
原告X1は275万円,原告X2及び原告X3は各137万5000円及びこれら
に対する平成18年10月29日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の連帯支払を求める。
(被告Y1及び被告Y2の主張)
原告らの主張(ア)及び(イ)のうち,各b(a)(弁護士費用の支払約束)は不知,その
余はいずれも否認する。
(6) 争点6(不当訴訟提起の不法行為及び訴え却下申立ての理由)
ア 争点6−1(違法性,故意)
(被告らの主張)
(ア) 過大な請求の趣旨
特定の取引先に対して一切の営業活動の禁止を求める原告会社の本訴請求(1)ア
は,不正競争防止法が予定する差止めの範囲を明らかに逸脱した過大なものであり,
法律上の根拠を欠くことは明らかである。
(イ) 1号又は13号関係
a ザイラン1052(原告会社製)及びグレブロン1211等(原告会社製)を
販売していたのは三洋商事であって,原告会社には,上記製品の販売実績がなかっ
たことは明らかであるから,原告会社は,1号の周知の商品等表示の立証ができな
いことを知っていた。
さらに,原告会社は,三洋商事が塗料をルブコートとの商品名で販売し,ザイラ
ン1052やホスタフロン5875との商品名で販売していなかったことを知って
いた。
b ザイラン1052(被告会社製)及びホスタフロン5875(被告会社製)の
品名欄に記載された「XYLAN 1052 」「ホスタフロン 5875」が13
号の品質表示に当たらないことは,明らかである。
(ウ) 14号関係
a 原告会社は,14号違反の行為について,何ら客観的な証拠を提出してい
ないものであり,それらの立証ができないことを知っていた。
b 原告会社が主張する営業誹謗行為には,商品の誹謗は含まれていないから,
14号違反を理由に,別紙物件目録中の「(2) SBC1052 」「(3) ルブコー
ト202同等品 」「(5) SBC5875」及び「(6) ルブコート206同等品」
の輸出・譲渡の差止請求が認められないことは,明らかである。
(エ) 損害賠償請求
a 被告会社はコーティング加工業務を行っていないから,加工業務について
は,原告会社と被告会社との間に競争関係はない。したがって,原告会社が請求し
ている加工業務の受注減による損害を不正競争行為による損害として請求できない
ことは,容易に判断できたことである。
b 原告が請求している塗料販売の損害の大半は,今までの取引実績のない取
引先に対する見込み利益であり,それらが認容されないことは,明らかである。
(オ) 被告Y1及び被告Y2に対する請求
a 被告Y1及び被告Y2は,いずれも個人として塗料の販売を行っていない
から,1号,13号又は14号に基づく被告Y1及び被告Y2に対する差止請求及
び損害賠償請求が成り立たないことは,明らかである。
b 殊に,被告Y2の関与を示す証拠がないことは,明らかである。
(カ) 違法・不当な目的,故意
上記(ア)ないし(オ)の事実と本件訴訟における原告会社の主張立証態度を考慮する
と,原告会社は,①本件訴訟を通じて,被告らが有する技術ノウハウを不当に取得
しようとする意図,②被告会社に対する営業妨害の意図,③被告Y1から,和解に
より原告会社の株式を取り上げようとする意図から,本件訴訟を提起したものであ
り,違法性が認められ,故意も認められる。
そして,原告会社の本訴請求(1)ア,(2)及び(3)は,いずれも訴えの利益を欠く
ものとして,却下されるべきである。
(原告会社の主張)
被告らの主張はいずれも否認する。
イ 争点6−2(損害)
(被告らの主張)
(ア) 被告会社の損害
a 応訴のための弁護士費用 538万円
b 信用毀損による無形損害 200万円
c 反訴提起のための弁護士費用 73万8000円
d まとめ
よって,被告会社は,原告会社に対し,民法709条に基づき,損害合計811
万8000円の内金200万円及びこれに対する平成19年10月4日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(イ) 被告Y1の損害
a 応訴のための弁護士費用 538万円
b 慰謝料 200万円
c 反訴提起のための弁護士費用 73万8000円
d まとめ
よって,被告Y1は,原告会社に対し,民法709条に基づき,損害合計811
万8000円の内金200万円及びこれに対する平成19年10月4日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(ウ) 被告Y2の損害
a 応訴のための弁護士費用 538万円
b 慰謝料 300万円
c 反訴提起のための弁護士費用 83万8000円
d まとめ
よって,被告Y2は,原告会社に対し,民法709条に基づき,損害合計921
万8000円の内金300万円及びこれに対する平成19年10月4日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(原告会社の主張)
被告らの主張は,いずれも否認する。
(7) 争点7(A及び原告X1の発言による名誉毀損の不法行為)
ア 争点7−1(A及び原告X1の行為)
(被告Y1の主張)
(ア) 本件横領への関与
Aは,平成19年11月8日開催の原告会社の臨時株主総会(以下「本件株主総
会」という。)において,被告Y1に対し,被告Y1がGと共謀して横領行為をし
た旨の発言をした。
具体的な発言は,以下のとおりである。
① (誰が横領犯人かという話の流れで)「うん,Y1でしょう」
② 「うんうん,ほおー。まあ,Gから3000万,金取ってるんだから,あれは
もう,いっそ,分けたらいいじゃ 。」
③ 「あんた(注:被告Y1)が持ってるって,そういうことをさ,一緒にやってる
んでしょう 。」
④ 「だから,Y1が買ったらどう,盗んだのあるでしょう,盗んだのが 。」
⑤ 「全然盗んでない?(笑)」
⑥ 「そうよ,だれか買ってくれる人,だから,おたく(注:被告Y1)でもいいよ。
さっきから言っているとおり,がっぽり盗んだ金があるから 。」
(イ) 精神障害者
A及び原告X1は,本件株主総会において,被告Y1に対し,被告Y1が精神障
害者である旨の発言を繰り返した。
具体的な発言は,以下のとおりである。
① 原告X1「同じことを何回も何回も,何度も何度も病気みたいに言ってき
て。」
② A「病気だよ,これ」
③ 原告X1「病気ですよ。本当に。少し病院に行って見てもらった方がいいです
よ。」
④ A「これはあのね,K先生が言ってたよ。これは弁護士の問題じゃなくて,精
神科医の問題だって言ってたよ 。」
⑤ A「だれが言ったの,じゃあ。こっちはK先生が,ねぇ,これは精神科だって
言ったよ 。」
(原告会社の主張)
被告Y1の主張は認める。
イ 争点7−2(違法性)
(原告会社の主張)
(ア)a 本件株主総会の出席者は,A,被告Y1を含め4人である。
b 出席者は全員,Aと被告Y1との間に対立状態があることを知っていた。
(イ)a 被告Y1も,後記(8)ア(原告Xらの主張)記載のとおり,Aが本件横領
に関与した旨の発言をした。
b Aの発言は,過去の原告会社における本件横領に関して,株主間で口論中
にされた発言である。
(ウ) Aの発言を聞いた同株主総会の出席者は,被告Y1の名誉が毀損されたと
か,被告Y1が侮辱されたとは認識していない。
(エ) 以上の状況,発言内容等からすると,Aらの発言は,被告Y1に対する名
誉毀損行為又は侮辱行為とはならないし,名誉毀損又は侮辱行為となるとしても,
損害賠償を求めることができるほどの違法性を有しない。
(被告Y1の主張)
(ア) 原告会社の主張(ア)のうち,aは認め,bは否認する。
本件株主総会には,委任状による部外者が出席していたし,発言内容が出席者を
通じて他に伝播されるおそれがあることからすると,全く予備知識がない第三者が
Aの発言を聞けば,被告Y1が横領行為をしたと誤認する可能性は大いにあり,被
告Y1の社会的評価が低下する蓋然性があるから,Aらの発言は,被告Y1の名誉
を毀損するものであり,違法性がある。
(イ) 同(イ)は認める。
株主総会においては,株主の自由な発言を確保するために,株主の発言について
は違法性阻却を広く認めるべきであるが,他方,経営者側の発言については,正確,
適正であることが求められる。
しかも,被告Y1は,本件株主総会において,相当な根拠をもって,多額の金員
の不正流出に関与したのではないかとAを追及したものである。これに対し,Aの
本件株主総会における本件横領に被告Y1が関与した旨の発言は,確たる証拠もな
しに,被告Y1が関与したと決めつけたものであり,株主総会における活発な議論
の名の下に許容されるものではない。
(ウ) 同(ウ)は否認する。
(エ) 同(エ)は争う。
ウ 争点7−3(損害)
(被告Y1の主張)
(ア) 損害
a 慰謝料
被告Y1は,A及び原告X1の上記ア(被告Y1の主張)記載の発言により,精神
的苦痛を受けた。
これを慰謝するには少なくとも300万円が相当である。
b 反訴提起のための弁護士費用 30万円
(イ) まとめ
よって,被告Y1は,原告会社に対し,民法709条,会社法350条,民法7
15条に基づき,上記330万円の内金100万円及びこれに対する平成20年1
月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(原告会社の主張)
被告Y1の主張は否認する。
(8) 争点8(被告Y1の発言による名誉毀損の不法行為)
ア 争点8−1(被告Y1の行為)
(原告Xらの主張)
(ア) Aが本件横領に関与している旨の発言
被告Y1は,本件株主総会において,以下の発言をした。
① 「仕事じゃなくて,泥棒のこと?仕事ってなんのこと」
② 「警察や検察から言われてっからね 。」
③ 「A,あのね。犯人は,何だっけ,Gじゃなかったていうことは我々も知った
し,検察からも言われたし,警察からも言われた。それじゃだれなのって言うこと
でAだろう。ほかにいないんだから,ねえ 。」
④ 「取ったのはあんただからさ 。」
⑤ 「A自分でねぇ,お金を取っておいてね。人のせいにしたっていうことをちゃ
んと言う機会が(Gには)あったでしょうと,本当なら 。」
⑥ 「我々はね,Aみたいにぽっぽ,ぽっぽやっていないからさ 。」
⑦ 「こっちはね,自分で働いたお金でね,みんな養わないとなんない。あんたた
ちの盗んだお金と違うからさ 。」
⑧ 「ねぇ,GとHさんとAが三人組んでやった詐欺横領事件というのがね。さっ
き,チラッとこれは知ってると言ったの。あれでね。商法違反で有罪ですよという
ことで」
⑨ 「お金に名前が書いてないからね。Aのね,通帳の中にはこれだね。これだ
け。」
⑩ 「えっ,じゃあ,Aが盗んだのなんかすごいね。何億だね。何億になるね」
⑪ 「Aが盗んだお金をGに転嫁したものを何でこっちが買えるのよ 。」
⑫ 「何でAなんかと手組んで。Hと三人だもの,いえねー,何で一緒にやったの
よ」
⑬ 「Gがとったなんて嘘をつくんじゃないよ」
⑭ 「お金も持っていってるけど,これ位全部持って行ってるでしょう」
⑮ 「きれいにみんなポケットにいれちゃった」
⑯ 「Gがあんたたちと組んで,ああいうことをやるからがスタートじゃない 。」
⑰ 「いや,Aの通帳にもありましたと(警察が被告Y1に)言ってくれたよ 。」
⑱ 「盗んだお金で払ったんだろうからいいけど」
(イ) Aが放火犯である旨の発言
a 被告Y1は,本件株主総会において,以下の発言もした。
① 「放火も時効になっちゃったんだってね 。」
② 「ええ,誰かがつけさせたらしいね 。」
③ 「私は聞いた 」「警察から」
④ 「(Aが放火の点について捜査しないよう警察官のWさんを脅したという点に
ついてWさんが)あんた(注:A)が脅しに行ったと言ってたよ」
b 被告Y1の上記aの発言は,Aが放火犯であると述べたものである。
(被告Y1の主張)
(ア) Aが本件横領に関与している旨の発言
原告Xらの主張(ア)は認める。
ただし,原告Xらが指摘する被告Y1の「取った」との発言中には,横領したこ
とだけでなく,①A及びその家族が,原告会社から不当過大な役員報酬を貰ってい
ること,②A及びAらの会社であるラーラアヴィスが不当に安価で原告会社の工場
を取得したこと,③A及びラーラアヴィスが過大な賃料の支払を受けていることを
指している場合が含まれている。
(イ) Aが放火犯である旨の発言
a 同(イ)aは認める。
b 同(イ)bは否認する。
被告Y1は,放火事件が時効になったこと及び誰かがつけさせたと述べただけで
あり,Aが放火犯であると具体的に指摘していない。
イ 争点8−2(違法性)
(被告Y1の主張)
(ア) 正当行為
a(a) 本件株主総会は ,「(1)訴訟の経緯と取り巻き団体についての説明」等
を議題として開催された。
(b) その実態は,被告Y1を糾弾するために開催された総会である。
b 被告Y1の発言は,上記議題に関して,株主として,自己の言い分を述べ
るためにされたものである。
c したがって,被告Y1の発言は,正当行為として違法性が阻却される。
(イ) 相当性等
a 株主総会における発言と相当性の判断
株主総会における発言については,会社法の趣旨に鑑みて,株主が自由に発言で
きる機会を実質的に確保するために,事実が真実であると信じたことについての相
当な理由は,広く認められるべきである。
b 本件横領への関与の点
(a) 被告Y1は,刑事告発が受理され,捜査が進んだため,Aが特別背任罪
に該当する行為をし,近く逮捕されると信じたのであるから,信じたことについて
相当な理由がある。
(b) 原告会社は,民事の確定判決がある旨主張するが,理由中の判断にすぎ
ない。
c 公共の利害等
被告Y1の発言は,本件株主総会で,株主として自己の言い分を述べるためにさ
れたものであるから,公共の利害に関する事実に係り,公益を図る目的でされたも
のである。
(原告Xらの主張)
(ア) 正当行為
被告Y1の主張(ア)のうち,a(a)は認め,その余は否認する。
(イ) 相当性
a 株主総会における発言と相当性の判断
同(イ)aは争う。
b 本件横領への関与の点
同(イ)b(a)は否認する。
Aの本件横領への関与の点については,前提事実(5)ウ及びオのとおり,既に不
起訴処分がされ,民事でも判決が確定しており,既に解決済みの問題であった。
c 公共の利害等
同(イ)cは否認する。
ウ 争点8−3(損害)
(原告Xらの主張)
(ア) 慰謝料
Aは,前記ア(原告Xらの主張)記載の名誉毀損行為により,精神的苦痛を被った。
これを慰謝するには,少なくとも100万円が相当である。
(イ) 弁護士費用
a Aは,この点の請求の拡張及び追行を大澤弁護士に委任し,相当額の弁護
士費用を支払うことを約した。
b 被告Y1の名誉毀損行為と相当因果関係のある弁護士費用は,少なくとも
合計10万円である。
(ウ) まとめ
よって,民法709条に基づき,被告Y1に対し,原告X1は55万円,原告X
2及び原告X3は各27万5000円及びこれらに対する平成20年2月23日か
ら各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告Y1の主張)
原告Xらの主張のうち,(イ)aは不知,その余は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 事実認定
前提事実,各項に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
(1) 原告会社の設立経緯等
ア(ア) 原告会社は,昭和42年3月に,B,被告Y1及び被告Y2を発起人と
して設立された会社である。原告会社の代表取締役は,設立当初から平成9年2月
まではBであった。その経営には,B,被告Y1及び後に加わったCが当たってい
た。
(イ) 被告Y1の原告会社への貢献については,現在の対立状況から双方の主張
が激しく対立しているが,被告Y1が,協調性の点で多少問題があったとしても,
主として技術面で相当の貢献をしたことは,否定し難い。
(ウ) 平成9年3月,BとCが原告会社から引退し,末弟であるAが原告会社の
代表取締役に就任し,平成20年7月31日に死亡するまで原告会社の代表取締役
であった。
(エ) 原告X1は原告会社の取締役であったが,平成20年7月26日,原告会
社の代表取締役に就任した。
(オ) 原告X1は,Aの妻である。
(前提事実(1)ア(イ)及び(2)ア)
イ 被告Y1は,平成13年8月ころから,Aから依頼されて,社長代行とし
て原告会社の業務を行っていたが,平成14年3月の株主総会で,社長代行を解任
された。
(以上,前提事実(2)ア(エ))
ウ 原告会社の株主は,平成9年から平成10年ころに2度増資をしてAに割
り当てた結果,Aが発行済み株式の60%,被告Y1が同16%,Bが16%,C
の相続人であるD,E及びFが合計8%をそれぞれ有していた。
(前提事実(1)ア(ウ))
(2) 原告会社のコーティング加工業務及び塗料
ア ケーヒンとの基本契約
原告会社は,昭和56年,ケーヒンとの間で,自動車部品取引に関する基本契約
を締結し,以後,同契約に基づき,コーティング加工をした自動車部品を納入して
いた。
(前提事実(4)ア(ア))
イ 塗料
(ア)a 「ザイラン1052」(英語表記では「XYLAN1052」)は,アメ
リカのウィットフォード社製の塗料である(ザイラン1052(ウィットフォード社
製))。岡畑興産は,ザイラン1052(ウィットフォード社製)の日本における独占
的販売代理店であった。
b 原告会社は,ザイラン1052との商標は,日本国内においては岡畑興産
の商標と理解されているとか,原告会社は岡畑興産からザイラン1052との商標
を付して他に販売することを認められている旨主張するが,ザイラン1052との
商標が,我が国において,製造者であるウィットフォード社ではなく,販売を行う
岡畑興産の商標として認識されていることを認めるに足りる証拠はない。
(イ) ホスタフロン5875は,ドイツのヘキスト社が製造販売していた塗料の
名称である。ヘキスト社は,遅くとも平成4年ころ,ホスタフロン5875(ヘキ
スト社製)の製造を中止し,その技術及び製法を,ドイツのワイルバーガー社及び
アメリカのウィットフォード社に譲渡した。
現在,ヘキスト社が製造していたホスタフロン5875と同じ塗料が,ワイルバ
ーガー社からは「グレブロン1211」との商品名で,ウィットフォード社からは
「ザイラン1075」との商品名で,それぞれ製造,販売されている(グレブロン
1211(ワイルバーガー社製)等)。
(前提事実(3))
ウ ケーヒン仕様
(ア) ケーヒンは,昭和56年ころ,自動車部品の一つであるスロットルシャフ
トに関してフッ素樹脂コーティングの仕様書(甲71∼73)を,昭和57年ころ,
バキュームピストンに関してテフロンコーティングの仕様書(甲74)をそれぞれ作
成し,その後,それらの仕様書に基づく工程表(甲3の1∼8)を作成した。上記ス
ロットルシャフトに関する仕様書及び工程表には,コーティングに使用する塗料と
して「XYLAN1052」又は「ザイラン1052」と記載されている。上記バ
キュームピストンに関する仕様書及び工程表には,コーティングに使用する塗料と
して「ホスタフロン5875」等と記載されている。
(イ)a ザイラン1052(ケーヒン仕様)は,ザイラン1052(ウィットフォ
ード社製)を使用し,粘度調整のための溶剤以外のものを加えないものを意味し,
ホンダ系列の会社に塗料を販売する場合 ,「XYLAN 1052」との品名表示
は,ザイラン1052(ウィットフォード社製)を使用し,溶剤以外のものを加えな
いものであり,ザイラン1052(ケーヒン仕様)を満たしている製品であると需要
者によって理解されるものと認められる。
b ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)は,グレブロン1211(ワイルバ
ーガー社製)等を使用し,粘度調整のための溶剤以外のものを加えないものを意味
し,ホンダ系列の会社に塗料を販売する場合 ,「ホスタフロン 5875」との品
名表示は,グレブロン1211(ワイルバーガー社製)等を使用し,溶剤以外のもの
を加えないものであり,ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)を満たしている製品
であると需要者によって理解されるものと認められる。
(前提事実(4)ア,甲28,79,弁論の全趣旨)
エ 原告会社のコーティング加工
(ア) 原告会社は,岡畑興産から,ザイラン1052(ウィットフォード社製)を
購入し,それを自ら行う自動車部品のコーティング加工に使用し,加工済みの自動
車部品をケーヒンに納入していた。
(イ) また,原告会社は,ホスタフロン5875(ヘキスト社製)の製造中止後は,
グレブロン1211(ワイルバーガー社製)等を購入し,それらを自ら行う自動車部
品のコーティング加工に使用し,加工済みの自動車部品をケーヒンに納入していた。
(ウ) コーティング加工は,原告会社の主要な業務であり,売上の大半を占めて
いる。
(前提事実(4)ア(イ),甲40,45,46)。
オ 東邦メッキ
東邦メッキは,ケーヒンの下請として,自動車部品等の塗装,コーティングを業
とする会社である。
原告会社は,昭和57年9月28日,東邦メッキとの間で,ケーヒンに納品する
スロットルシャフト等のコーティングに関して,原告会社が東邦メッキにコーティ
ングのノウハウを提供すること等を内容とする契約を締結した。
同契約書の第5条には ,「この装置に使用するコーティング材料等については本
契約の精神に基き別途取決めるものとする 。」と規定されている。
東邦メッキは,上記契約書第5条の趣旨に基づき,原告会社からザイラン105
2(原告会社製)を購入し,それを使用してコーティング加工を行った自動車部品を
ケーヒンに納入していた。
(前提事実(4)イ(ア),甲40,弁論の全趣旨)
カ 本田技術研究所
原告会社は,昭和58年ころ,ホンダの関連会社である株式会社ホンダ気化器研
究所(現在の株式会社本田技術研究所)との間で,内燃機関の燃料供給系部品(気化
器等)における摺動部に塗布するフッ素系樹脂コーティング材に関する技術開発に
関して共同開発契約を締結した。
(前提事実(4)ア(ア)e)
キ シャトル工業
その後,原告会社は,ホンダの下請業者であるシャトル工業に対しても,コーテ
ィング加工に必要な塗料を販売するようになった。
(甲28,40)
ク 台湾ケーヒン
原告会社は,平成12年3月13日,ケーヒンの海外子会社である台湾ケーヒン
との間で,ザイラン及びホスタフロンコーティングについて技術指導をするための
技術者派遣契約(甲52),製造設備供給契約(甲53)を締結し,台湾ケーヒンに対
して,ザイラン及びホスタフロンコーティング設備一式を販売した(甲54)。
その後,三洋商事は,台湾ケーヒンに対し,コーティング加工に必要な塗料を販
売していた。
(甲40,52∼54)
ケ 塗料の販売
(ア) 三洋商事
a 三洋商事は,塗料等の輸出,販売を目的とする会社であるが,昭和60年
ころ,原告会社が買収してその傘下におさめた。
b 三洋商事の代表取締役は,平成9年4月まではBが,それ以降は被告Y1
が務めていたが,被告Y1は,平成14年3月,三洋商事の取締役を解任され,そ
の後は,Aが代表取締役を務めていた。
c 三洋商事は,平成17年12月,原告会社に吸収合併された。その合併比
率は,三洋商事が赤字であったため,1対0とされた。
(前提事実(2)イ)
(イ) 販売実績
a 東邦メッキ
(a) 上記(ア)aの買収後は,三洋商事が,東邦メッキに対して,ザイラン10
52(原告会社製)を「ルブコート202」との商品名で,ザイラン1052(ケー
ヒン仕様)を満たす製品として販売し,その販売量は,平成13年5月に40kg,
平成14年4月から平成15年3月までの間に合計400kg(1缶当たり20kg,
単価1kg当たり6500円),平成15年4月から平成16年3月までの間に36
0kg(1缶当たり20kg,単価1kg当たり6500円),平成16年4月から同年1
1月までの間に230kg(単価1kg当たり6500円)であった。
前記オのとおり,東邦メッキは,昭和57年9月以降,原告会社からザイラン1
052(原告会社製)を購入してコーティング加工を行っていたから,原告会社又は
三洋商事は,記録が残っていない平成13年4月以前においても,東邦メッキに対
し,長年,毎月40kg程度のザイラン1052(原告会社製)を販売していたものと
推認することができる。
(b) 原告会社は ,「ルブコート202 」「ルブコート206」は内部的な整理
番号であり,対外的にはザイラン1052,ホスタフロン5875との商品名で販
売していた旨主張する。確かに,東邦メッキ及び他社への納品関係の書類の中には,
甲42の一部及び50のように,ザイラン1052,ホスタフロン5875を商標
として使用していた可能性を示すものもないではないが,甲40添付資料3,41
∼43,48,49,51等多くの証拠は,原告会社が,商標としてはルブコート
202,ルブコート206を使用し,当該商品の成分や使途を示す「品名」として
ザイラン1052,ホスタフロン5875を使用していたことをうかがわせるもの
であるから,原告会社の上記主張は採用することができない。
(前提事実(4)イ(イ),ウ,甲40∼43,48∼51)
b シャトル工業
三洋商事は,ホンダの下請業者であるシャトル工業に対し,ザイラン1052
(原告会社製)を「ルブコート202」という商品名で,ザイラン1052(ケーヒ
ン仕様)を満たす製品として,平成14年9月に60kg,平成15年1月から10
月までの間に,合計360kg(単価1kg当たり6500円)販売した。
前記キのとおり,シャトル工業は古くから原告会社又は三洋商事からコーティン
グ加工に必要な塗料を購入していたから,原告会社又は三洋商事は,記録が残って
いない平成14年8月以前においても,シャトル工業に対し,長年,毎月40kg程
度のザイラン1052(原告会社製)を販売していたものと推認することができる。
(甲28,40,42,49,50,弁論の全趣旨)
c 台湾ケーヒン
三洋商事は,台湾ケーヒンに対して,ザイラン1052(原告会社製)を「ルブコ
ート202」との商品名で,ザイラン1052(ケーヒン仕様)を満たす製品として,
平成15年4月に160kg,平成16年3月から10月までの間に,合計600kg
(単価1kg当たり6688円)販売した。
また,三洋商事は,台湾ケーヒンに対して,グレブロン1211等(原告会社製)
を「ルブコート206」との商品名で,ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)を満
たす製品として,平成15年4月に80kg,平成16年1月に80kg,同年5月に
160kg(いずれも単価1kg当たり1万0325円)販売した。
前記クのとおり,台湾ケーヒンは平成12年3月以降三洋商事からコーティング
加工に必要な塗料を購入していたから,平成15年3月以前においても,三洋商事
は,台湾ケーヒンに対し,同量程度のザイラン1052(原告会社製)及びグレブロ
ン1211等(原告会社製)を販売していたものと推認することができる。
(甲40,43,51,弁論の全趣旨)
d 原告会社の利益率
原告会社がザイラン1052(原告会社製)を販売して得る利益額は,1kg当たり
6500円(原告の販売価格)×25%(原告の利益率)=1625円であり,原告会
社がグレブロン1211等(原告会社製)を販売して得る利益額は,1kg当たり70
00円(原告の販売価格)×25%(原告の利益率)=1750円である。
(前提事実(4)ウ(イ)及び(ウ))
(3) 被告会社の設立経緯及び販売実績
ア 設立経緯
被告会社は,被告Y1が平成14年3月に三洋商事の代表取締役等を解任され
た後の同年4月に設立された塗料等の製造,販売等を目的とする会社である。
被告Y1は被告会社の代表取締役,被告Y2は同監査役である。被告Y1と被告
Y2は,夫婦である。
(前提事実(1)イ)
イ 販売実績
(ア) ザイラン1052(被告会社製)
a 被告会社は,東邦メッキに対し,平成17年1月から平成18年7月まで,
塗料缶に貼付したラベルの品名欄に「XYLAN 1052」と表示したザイラン
1052(被告会社製)を,少なくとも毎月40kg販売した。
b ザイラン1052(被告会社製)は,ザイラン1052(ウィットフォード
社製)とは異なる成分の塗料である。
c 被告会社がザイラン1052(被告会社製)の販売により得た利益は,原告
会社がザイラン1052(原告会社製)の販売により得た利益と同額程度である。
d 被告会社は,ウイットフォード社から注意を受けたため,ラベルの品名欄
に「XYLAN 1052」と表示することを止め,平成18年8月以降は ,「S
BC+番号」の表示をしている。
e 被告らは,品名欄の「XYLAN 1052」等の記載は,東邦メッキの
要望により,同社内での塗料の取り間違いを防止するため,ケーヒンの工程表等の
記載と一致する表記をしたものであり,被告会社の取引先は,ザイラン1052
(ケーヒン仕様)等の機能を保証されていることに着目して被告会社から購入するの
であるから,品質誤認を生じる余地はない旨主張する。
しかしながら,甲28,乙8及び弁論の全趣旨によれば,人命に関わる自動車部
品の仕様の決定に当たっては,十分な安全性の確認が必要であり,使用する塗料の
成分等を決定する権限を有する最終納入先(本件では,ケーヒン)に開示し,最終納
入先の安全性や耐用性の試験を経た上でその承認を要すると認められるところ,被
告会社が,各販売の当時,ケーヒンはもちろん,東邦メッキ等のホンダの下請企業
に対しても,ザイラン1052(被告会社製),ホスタフロン5875(被告会社製)
がザイラン1052(ケーヒン仕様),ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)と成分
が異なるが,同じ機能を果たすことができることを説明した上,承認を得ていたこ
とを認めるに足りる証拠はない。
よって,被告らの上記主張は採用することができない。
(前提事実(4)エ(ア),甲28,乙32,弁論の全趣旨)
(イ) ホスタフロン5875(被告会社製)
a 被告会社は,東邦メッキに対し,平成17年1月から平成18年7月まで,
塗料缶に貼付したラベルの品名欄に「ホスタフロン 5875」と表示したホスタ
フロン5875(被告会社製)を,少なくとも毎月20kg販売した。
b ホスタフロン5875(被告会社製)は,ホスタフロン5875(ヘキスト
社製)並びにそれを継承したグレブロン1211(ワイルバイガー社製)等とは異な
る成分の塗料である。
c 被告会社がホスタフロン5875(被告会社製)の販売により得た利益は,
原告会社がグレブロン1211等(原告会社製)の販売により得た利益と同額程度で
ある。
d 被告会社は,ウイットフォード社から注意を受けた際に,ラベルの品名欄
に「ホスタフロン 5875」と表示することを止め,平成18年8月以降は,
「SBC+番号」の表示をしている。
(前提事実(4)エ(イ),甲28,乙32,弁論の全趣旨)
(ウ) 行為者
a 被告会社の代表取締役である被告Y1は,ラベルの品名欄に「XYLAN
1052 」「ホスタフロン 5875」と表示したザイラン1052(被告会社
製),ホスタフロン5875(被告会社製)の販売を行っていた者であり,13号の
不正競争行為を行って原告会社の営業上の利益を侵害したことにつき,故意,又は
少なくとも過失があった。
(弁論の全趣旨)
b 被告会社の監査役である被告Y2が,ラベルの品名欄に「XYLAN 1
052 」「ホスタフロン 5875」と表示したザイラン1052(被告会社製),
ホスタフロン5875(被告会社製)の販売を担当していたこと,又はこのような販
売を被告Y1と共謀したことを認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告らと被告らとの間の一連の紛争
ア 原告らと被告らとの間の民事訴訟及び刑事告発等の一連の紛争の経緯は,
前提事実(5)のとおりである。
イ(ア) Hは,平成15年5月及び6月ころ,被告Y1に対し,本件横領にAが
関与していることを認める話をした。同年12月ころ,被告Y1がGに確認したと
ころ,Gも,本件横領がAの指示である旨の話をした。その結果,被告Y1は,A
が本件横領に関与していたのではないかとの疑いを抱くようになった。
(イ) 前提事実(5)ア(イ)のとおり,Hが,横領訴訟事件の準備書面(乙6,7)に
おいて,一部に架空請求をしたものがあるが,これは原告会社の裏金作りのため,
Aの指示に基づいて行ったものである旨主張し,Gも,取締役解任請求事件に証人
として出廷し,Aの指示である旨供述していること(甲78)からすると,被告Y1
の陳述書(甲28添付資料5,9及び10,乙8)を信用できないものとして排斥す
ることはできない。
(甲28添付資料5,9及び10,乙6∼8,弁論の全趣旨)
ウ そのため,被告Y1は,次のエのとおり,平成15年7月以降,B及びC
らに対し,本件文書1ないし4を送付し,前提事実(5)ウ及びオのとおり,平成1
6年1月以降,本件横領を内容とする商法上の特別背任罪でAを刑事告発し,平成
17年4月,Aらの取締役解任を求める訴訟を提起したものである。
(乙8,弁論の全趣旨)
エ(ア) 被告Y1及び被告Y2は,本件文書1を,被告Y1は,本件文書2ない
し4を各あて人に送付した。本件文書1ないし4には,別紙「名誉毀損文言一覧
表」記載のとおりの文言が含まれている。
① 本件文書1
平成15年7月20日付けのCあての被告Y1及び被告Y2名義の書簡(甲16)
② 本件文書2
平成15年12月11日付けのB及びCあての被告Y1名義の書簡(甲17)
③ 本件文書3
平成17年3月28日付けのBあての被告Y1名義の書簡(甲18)
④ 本件文書4
平成17年3月28日付けのD,E,Fあての被告Y1名義の書簡(甲19)
本件文書2ないし4の送付につき,被告Y2が被告Y1と共謀したことを認める
に足りる証拠はない。
(争いのない事実)
(イ)a 被告Y1らが本件文書1ないし4で指摘する本件横領への関与以外の点
については ,「三洋まで乗っ取り,完全に両社を私物化」の点は,言葉は強烈であ
るが,それらの評価的表現の基礎をなす三洋商事の1対0での吸収合併,少なくと
も不当との批判を招いても仕方がない額でのA及びラーラアヴィス(原告X1らが
代表取締役)への原告会社の不動産の譲渡及びその後の原告会社への賃貸があった
ものである。
b 「技術を捨て」の点については,少なくとも被告Y1が原告会社及び三洋
商事を去ったことは,事実であり,それが一部の取引先に対し,技術の面で不安感
を与えたことは,事実である。
c 「従業員も殆ど新人にしてしまった」との点については,立場による違い
はあるものの,退職者が多かったことは,事実である。
d 役員報酬の点についても,Aだけでなく,妻の原告X1並びに子の原告X
2が原告会社の役員となり,平成18年度に,他の4名の役員と共に,総額412
0万円の役員報酬を得ていることも事実である。
(前提事実(2)イ及び(5)ウ,甲28添付資料5及び9,乙8,38,弁論の全趣旨)
(5) 本件株主総会
ア 議題
平成19年11月8日,原告会社の臨時株主総会(本件株主総会)が開催された。
同年10月25日付けの本件株主総会の招集通知(乙30)には,議題について次
の記載があり,本件訴訟や本件横領に関するものが主な議題であった。
「(1) 訴訟の経緯と取り巻き団体
(2) 部外者・団体からのオーベル攻撃について
…
(3) ”追及する会”の活動報告
(4) 「弁護士倫理規定」の廃止と弁護士の倫理問題
…
(5) Gの負債売却について
(6) 株主説明・株主報告の再開について
(7) 和解案への対応」
(争いのない事実,乙30)
イ 本件株主総会における発言
(ア) 本件株主総会には,A,原告X1,被告Y1,Iの4人が出席した。
Aは,原告会社の代表取締役であるとともに,株主であり,B,Fの代理人を兼
ねていた。
原告X1は,原告会社の取締役であるとともに,株主であるDの代理人を兼ねて
いた。
Iは,Eの代理人として出席していた。
(イ) 本件株主総会では,本件横領へのAの関与や本件訴訟に関して,Aと被告
Y1との間で,次のやりとりがされた。
a 本件横領への関与に関連する発言部分
(a) 取締役の報酬のことが話題になった際に,被告Y1が「おまえの方何だ
ろう,給料は何百万?」と質問し,Aが「あー,それは仕事に見合った分をいただ
いて。 と答えたのに対し,被告Y1がAに対し, 仕事じゃなくて,泥棒のこ
」 「
と?仕事って。何のこと 。」と発言した(甲83の11頁16行目)。
(b) Aが前提事実(5)ウの取締役解任請求事件につき最高裁判所の上告棄却及
び上告受理申立ての不受理決定がされたにもかかわらず ,「オーベル社長横領犯人
説」をまた出してくるのかと追及したのに対し,被告Y1が「警察や検察から言わ
れているからね 。」と発言し(甲83の13頁下から3行目),Aから「警察から何 ,
言われたの。 と問われたのに対し,被告Y1は, いや,まあ,いいや,それ
」 「
は。」と答えた。
(c) 本件横領に関して,被告Y1が「(警察からGが)犯人じゃないんですよ
ってね,あれ,Jさん(注:刑事)に言われたときにね,それじゃしょうがないです
ねって,3人しかいないんだから,じゃあ,GじゃなくてHじゃなかったら,だれ
なのっていう 。」と発言したところ,Aが「うん,Y1でしょう(笑)」と発言した
(甲83の24頁6行目)。
(d) Gが本件横領の損害賠償金を支払わないことが議題となっている際に,
被告Y1がAに対し ,「A,あのね。犯人は,何だっけ,Gじゃなかったていうこ
とは我々も知ったし,検察からも言われたし,警察からも言われた。それじゃだれ
なのって言うことで,Aだろう。ほかにいないんだから,ねえ 。」と発言した(甲
83の40頁下から5行∼3行目)。
Aが,Gが支払わないことに関して ,「だって,(Gが)あんだけ取っていってる
んだからさ 。」と発言したのに対して,被告Y1は,Aに対して ,「取ってないで,
取ったのはあんただからさ 。」と発言した(甲83の41頁16行目)。
さらに,被告Y1は,Aに対し ,「A自分でねぇ,お金を取っておいてね,人の
せいにしたっていうことをちゃんと言う機会があったでしょうと,本当なら 。」と
発言した(甲83の50頁下から8行目∼6行目)。
(e) Aが,被告Y1に対して,これまで複数の訴訟を提起したことを取り上
げていた際に,被告Y1はAに対して ,「だって,お金かかんじゃない。我々はね ,
Aみたいに,ぽっぽ,ぽっぽやってないからさ 。」と発言した(甲83の59頁5
行目∼6行目)。
(f) Aが,被告Y1に対して ,「うんうん,ほおー。まあ,Gから3000
万,金を取ってるんだから,あれはもう,いっそ,分けたらいいじゃ 。」(甲83
の5 9頁9行目∼10行目)と発言し,被告Y1は「Gから3000万も 取 った
の?Gは持ってるの?」(甲83の59頁11行目)と問い返したのに対し,Aは,
被告Y1に対し ,「あんたが持ってるって,そういうことをさ,一緒にやってるん
でしょう 。」(甲83の59頁12行目)と発言した。
(g) 本件訴訟追行が話題になった際に,被告Y1は,Aに対し ,「あんたは
これだけやってりゃいいんだろうけどね,こっちはね,自分で働いたお金でね,み
んな養わないとなんない,あんたたちの盗んだお金と違うからさ 。」(甲84の1
4頁下から10行∼9行目)と発言した。
(h) 本件横領が話題になった際に,被告Y1は,Aに対し ,「ねぇ,GとH
さん,Aが3人組んでやった詐欺横領事件というのがね,さっき,チラッとこれは
知っ てると言ったの,あれでね ,商法違反でね,有罪ですよっていうこと で 。」
(甲84の18頁9行∼11行目)と発言した。
(i) さらに,被告Y1は,Aに対し,警察から聞いたこととして ,「不起訴
は何で不起訴ですか,不起訴というのは,無罪ですかと言ったら,とんでもないで
すって,限りなく黒なんだけど,今回は,だけどHが 。」(甲84の19頁5行目
∼6行目) ,「…だけど,Hが死んだので,しょうがないんですと,それで 。」(甲
84の19頁8行目∼9行目) ,「お金に名前が書いてないからね,Aのね,通帳
の中には,これだね。これだけ 。」(甲84の19頁13行目∼14行目) ,「(通帳
は)警察が持ってるってよ。この間ね,聞いたら,ちゃんとありますって 。」(甲8
4の19頁下から6行目) ,「警察が持ってるって言ってたよ,うん 。」(甲84の
19頁下から4行目)と発言した。
(j) Gに対する損害賠償債権を他に譲渡することが議題になっている際に,
Aが「全部で3000万を超えるから 。」と話したところ,被告Y1は,Aに対し ,
「えっ,じゃあ,それ,Aが盗んだのなんかすごいね。何億だね。何億になる
ね。」(甲84の26頁9行目∼10行目)と発言した。
(k) 債権譲渡先を話題にしている際に,Aが被告Y1に対し ,「だから,Y
1が買ったらどう。盗んだのあるでしょう,盗んだのが 。」(甲84の28頁下か
ら8行目)と発言し,被告Y1が ,「お金ないよ,そんな,こっちはね,おたくと
違ってね,全然盗むんじゃなく,本当にね,一銭も盗んでないからね 。」(甲84
の2 8頁 下から 7行目 ∼6行目)と答え たのに 対し,Aは,被告Y1に対し て,
「全然盗んでない?(笑)」(甲84の28頁下から5行目)と発言した。
(l) さらに,Aが,被告Y1に対し ,「そうよ。だれか買ってくれる人,だ
から,おたくでもいいよ。さっきから言っているとおり,がっぽり盗んだ金がある
から 。」(甲84の29頁最終行∼30頁1行目)と発言したのに対し,被告Y1は ,
Aに ,「ふん,そんなにね,Aが盗んだお金をね,Gに転嫁したものを何でこっち
が買えんのよ,ばかじゃないの 。」(甲84の30頁2行目∼3行目)と発言した。
(m) 本件横領が話題になっている際に,被告Y1は,Aに対し ,「何でAな
んかと手,組んで,Hと3人だもの,いえね,何で一緒にやったのよって 。」(甲
84の34頁6行∼7行目)と発言した。また,被告Y1は,Aに対し ,「Gがと
ったなんて,うそをつくんじゃないよ 。」(甲84の39頁12行目)と発言した。
(n) 本件訴訟で被告らから提出された書証の入手方法を追及された際に,被
告Y1は,Aに対し ,「(Aは)お金も持っていってるけど,これぐらい全部持って
行ってるでしょう 。」と発言した(甲84の46頁下から8行∼7行目)。
(o) さらに,被告Y1は,Aに対し ,「きれいにみんなポケットにいれちゃ
った,会社から,工場から何から全部自分の名義になっちゃったね 。」(甲84の
48頁8行目∼9行目)と発言した。
(p) 本件横領に関して,被告Y1は,Aに対し ,「Gがあんたたちと組んで,
ああいうことをやるからがスタートじゃない 。」(甲84の52頁下から3行目),
「えっ?いや,Aの通帳にありましたと(警察が)言ってくれたよ 。」(甲84の5
4頁5行目) ,「盗んだお金で払ったんだろうからいいけど 。」(甲84の57頁下
から6行目)と発言した。
b 放火犯に関する発言部分
Aが,本件横領についてGが敗訴した民事判決のやり直し(再審)を求めればいい
じゃないかと発言したのに対し,被告Y1は,再審は時効により無理ではないかと
答えたのに引き続き,Aに対し, あの,放火も時効になっちゃったんだって
「
ね。」…「Gがつけたんじゃなくて 。 「ええ,だれかがつけさせたらしいね 。
」 」…
「うーん,私は聞いた 。」…「警察から 。」…「それでね,分かるでしょう。これ
は脅 しに行ったんじゃない,あ んたが 。」…「あんたが脅しに行ったと言 っ てた
よ。」…「そのWさんを」(甲83の42頁7行目,15行目,17行目,19行
目,21行目,25∼26行目,43頁2行目,4行目)と発言した。
c 被告Y1が精神障害者である旨の発言部分
(a) 原告X1は,本件株主総会の終盤に,被告Y1に対し ,「同じことを何
回も何回も,何度も何度も病気みたいに言ってきて 。」(甲84の42頁下から3
行目)と発言した。
(b) 原告X1の発言に続いて,Aが ,「病気だよ,これ 。 ,原告X1が ,
」 「病
気ですよ。本当に。少し病院に行って見てもらった方がいいですよ 。」(甲84の
42頁下から2行目∼1行目)と発言し,さらに,Aが ,「これはあのね,K先生
が言ってたよ。これは弁護士の問題じゃなくて,精神科医の問題だって言ってた
よ。」(甲84の43頁3行目∼4行目)と発言した。
(c) これに対して,被告Y1が「ああ,Aのこともそう言ってた,うん 。」
(甲84の43頁5行目)と発言したのに対し,Aは ,「だれが言ったの,じゃあ。
こっちはK先生が,ねぇ,これは精神科だって言ったよ 。」(甲84の43頁9行
目∼10行目)と発言した。
(d) 以上の原告X1の発言は,株主の立場からではなく,原告会社の経営陣
の1人である取締役の立場でされたものと認められる。
(以上,争いのない事実,甲83,84,弁論の全趣旨)
2 判断
(1) 争点2(13号違反)
ア 争点2−1(品質表示性)
前記1(2)ウのとおり,ザイラン1052(ケーヒン仕様)は,ザイラン1052
(ウィットフォード社製)を使用し,粘度調整のための溶剤以外のものを加えないも
のを意味し,ホンダ系列の会社に塗料を販売する場合 ,「XYLAN 1052」
との品名表示は,ザイラン1052(ウィットフォード社製)を使用し,溶剤以外の
ものを加えないものであり,ザイラン1052(ケーヒン仕様)を満たしている製品
であると需要者によって理解されるものである。同様に,ホスタフロン5875
(ケーヒン仕様)は,グレブロン1211(ワイルバーガー社製)等を使用し,粘度調
整のための溶剤以外のものを加えないものを意味し,ホンダ系列の会社に塗料を販
売す る場合 ,「ホスタフロン 5875」との品名表示は,グレブロン1 2 11
(ワイルバーガー社製)等を使用し,溶剤以外のものを加えないものであり,ホスタ
フロン5875(ケーヒン仕様)を満たしている製品であると需要者によって理解さ
れるものである。
イ 争点2−2(被告らの行為,営業上の利益の侵害及び差止めの必要性)
(ア) 被告らの行為
前記1(3)イのとおり,被告会社は,ホンダ系列の企業である東邦メッキに対し ,
ラベルの品名欄に「XYLAN 1052」と表示してザイラン1052(被告会
社製)を,ラベルの品名欄に「ホスタフロン 5875」と表示してグレブロン1
211等(被告会社製)を,それぞれ販売していたものである。
これらの行為は ,「商品の…品質…について誤認させるような表示」をして譲渡
等するものであり,13号に該当すると認められる。
(イ) 営業上の利益の侵害
被告会社の上記行為は,ホンダ系列の企業に対し,ザイラン1052(ケーヒン
仕様),ホスタフロン5875(ケーヒン仕様)を満たす製品として,ザイラン10
52(原告会社製),グレブロン1211等(原告会社製)を販売していた原告会社
(前記1(2)ケ(イ))の営業上の利益を侵害するものと認められる。
ウ 差止めの必要性について
前記1(3)イ(ア)d及び(イ)dのとおり,被告会社は,ウイットフォード社から注
意を受けたため,ラベルの品名欄に「XYLAN 1052 」「ホスタフロン 5
875」と表示することを止め,平成18年8月以降は ,「SBC+番号」の表示
をしている。
したがって,被告会社に今後「XYLAN 1052 」「ホスタフロン 587
5」の表示を使用するおそれがあるとは認められないから,不正競争防止法3条に
基づく差止請求(原告会社の本訴請求(1)及び(2))は,その余の点について判断する
までもなく理由がない。
(2) 争点4(原告会社の損害等)
ア 争点4−1(故意過失)
前記1(3)イ(ウ)のとおり,被告会社の代表取締役である被告Y1には,13号の
不正競争行為を行って原告会社の営業上の利益を侵害したことにつき,故意,又は
少なくとも過失があった。
イ 争点4−2(逸失利益)
(ア) 前記1(2)ケ(イ)d及び(3)イのとおり,被告会社は,東邦メッキに対して ,
「XYLAN 1052」と表示をしたザイラン1052(被告会社製)を合計76
0kg(40kg×19か月)販売し,被告会社がザイラン1052(被告会社製)の販売
により得た利益は,原告会社がザイラン1052(原告会社製)の販売により得た利
益と同額程度であり,1kg当たり1625円であるから,被告会社は123万50
00円の利益を得たものである。
1625円×760kg=123万5000円
したがって,原告会社は,不正競争防止法5条2項により,同額の損害を被った
ものと推定される。
(イ) 前記1(2)ケ(イ)d及び(3)イのとおり,被告会社は,東邦メッキに対して ,
「ホスタフロン 5875」と表示をしたホスタフロン5875(被告会社製)を合
計380kg(20kg×19か月)販売し,被告会社がホスタフロン5875(被告会
社製)の販売により得た利益は,原告会社がグレブロン1211等(原告会社製)の
販売により得た利益と同額程度であり,1kg当たり1750円であるから,被告会
社は66万5000円の利益を得たものである。
1750円×380kg=66万5000円
したがって,原告会社は,不正競争防止法5条2項により,同額の損害を被った
ものと推定される。
(ウ)a 被告らは,被告会社がザイラン1052(被告会社製)等を販売できたの
は,被告会社の営業努力によるものである旨主張する。
しかしながら,13号違反による損害として考える限り,ケーヒン仕様を満たし
ていたことの立証のないザイラン1052(被告会社製)等は,本来ホンダ系列の会
社により購入されることのなかったものであるから,被告らのこの点の主張は理由
がない。
b さらに,被告会社は,ザイラン1052(被告会社製)等については,ウィ
ットフォード社及びワイルバーガー社が同等品を販売しているから,被告会社が販
売しなかったとしても,原告会社以外の競業者が販売する余地があった旨主張する。
しかしながら,ウィットフォード社及びワイルバーガー社が原告会社又は被告会
社を通さずに,ホンダ系列の企業にザイラン1052(ウィットフォード社)製等を
販売していたことを認めるに足りる証拠はないし,前記1(2)オ,キ及びクのとお
り,原告会社は東邦メッキらとの間で,自動車部品のコーティング加工について技
術指導契約等を締結した上で,同コーティング加工に必要なザイラン1052(原
告会社製)等を販売していたものであるから,被告会社の13号違反の不正競争行
為がなくても,マーケットシェアに従い,ウィットフォード社らが被告会社が販売
した分の一部を販売していたものと認定することはできない。
(エ) その余の逸失利益
原告会社のその余の逸失利益の主張は,被告会社が13号違反のザイラン105
2(被告会社製)等を販売したことの主張がないから,13号違反の行為との間に,
因果関係があることを認定することができず,理由がない。
ウ 争点4−4(弁護士費用)
弁論の全趣旨によれば,原告会社は,本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理
人である大澤弁護士に委任し,相当額の弁護士費用を支払う旨約束したことが認め
られる。
本件事案の態様,認容額その他本件に顕れた諸般の事情を総合すると,原告会社
が負担する弁護士費用のうち,上記品質誤認の不正競争行為と相当因果関係のある
損害は,20万円であると認められる。
エ 争点4−3(信用毀損の損害)
原告会社は,信用毀損の損害を被った旨主張するが,13号違反の不正競争行為
により原告会社がそのような損害を被ったものと認めることはできないから,この
点の原告会社の主張は,理由がない。
オ まとめ
(ア) 被告会社
以上によれば,被告会社は,原告会社に対し,不正競争防止法4条,2条1項1
3号により,損害賠償金210万円及びこれに対する平成18年10月29日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
(イ) 被告Y1
以上によれば,被告Y1も,原告会社対し,不正競争防止法4条,2条1項13
号により,損害賠償金210万円及びこれに対する平成18年10月29日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
(ウ) 被告Y2
前記1(3)イ(ウ)bで説示したとおり,被告Y2に対する請求は,理由がない。
(3) 争点1(1号違反)
ア 争点1−1(商品等表示性等)について
(ア) はじめに
前記(1)及び(2)のとおり,13号違反により原告会社の請求を一部認容したが,
1号及び14号違反による請求が認められることにより,13号違反により認容し
たもの以上に原告会社の請求を認容する余地があるか否かについて検討する。
(イ) ザイラン1052
前記1(2)イ(ア)のとおり,ザイラン1052との商標が,製造者であるウィット
フォード社ではなく,日本において販売を行う岡畑興産の商標として認識されてい
ることを認めるに足りる証拠はない。
しかも,前記1(2)ケ(イ)aのとおり,原告会社がザイラン1052を商標として
使用していたことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,原告会社のザイラン1052につき1号違反を理由とする請求は,
その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(ウ) ホスタフロン5875
前記1(2)イ(イ)のとおり,ホスタフロン5875は,ドイツのヘキスト社が平成
4年ころまで自己の商標として使用していたところ,前記1(2)ケ(イ)aのとおり,
原告会社がホスタフロン5875を自己の商標として使用していたことを認めるに
足りる証拠もない。
したがって,原告会社のホスタフロン5875につき1号違反を理由とする請求
は,その余について判断するまでもなく理由がない。
イ よって,1号違反を理由に,原告会社の本訴請求(1)ないし(3)を認容する
ことはできない。
(4) 争点3(14号違反)
ア 争点3−2(被告らの行為及び営業上の利益の侵害)について
(ア) 原告会社は,被告Y1は被告Y2と共謀して,被告会社の業務として,別
紙「営業誹謗行為一覧表」のとおり,①オーベルは潰れる,②A社長は横領犯,又
は③社長の逮捕は近い旨の事実を告知した旨主張する。
そして,原告会社は,これを裏付ける証拠として,甲27(原告会社従業員Lの
陳述書),甲28,29,37,38,39及び81(Aの陳述書),甲36(行政書
士Mの陳述書),甲70(保険外交員Nの陳述書),甲75(ケーヒンのO部長発言の
反訳書面),甲76(東邦メッキのP社長発言の反訳書面),甲77(岡畑興産のQの
反訳書面),甲80(原告会社従業員Rの陳述書)等を提出する。
また,前記1(1)イ及び(3)アのとおり,被告Y1は,平成14年3月に原告会社
の社長代行や三洋商事の代表取締役を解任された直後の同年4月に,原告会社と競
業する被告会社を設立したものであり,さらに,前記1(4)ア及びエのとおり,被
告Y1は,平成16年及び平成17年にAを本件横領を内容とする商法上の特別背
任罪で刑事告発し,平成17年4月に,Aらの取締役の解任を求める訴訟を提起し,
その理由の一部として本件横領に関与したことを主張し,平成15年7月以降,A
が本件横領に関与したことなどを内容とする本件文書1ないし4を,原告会社の株
主であり,兄弟等であるBらに送付しているものである。そして,兄弟で経営する
会社の内紛事件では,第三者が兄弟同士の争いに巻き込まれることを恐れて,証人
として出頭することに協力しないことが多いことを併せ考慮すると,原告会社が主
張する営業誹謗行為があったのではないかと相当疑われる状況にある。
(イ) 他方,被告らは,営業誹謗行為を否定する証拠として,乙8(被告Y1の
陳述書),乙9(被告Y2の陳述書)のほか,第三者の陳述書として,乙13(保険外
交員Nの陳述書),乙15(日研工業のS社長の確認書),乙16(台湾ケーヒンのT
の確認書),乙17(元インドケーヒンのUの確認書),乙18(ホンダ技術研究所朝
霞研究所のVの確認書),乙29(東邦メッキのP社長の確認書)を提出しているも
のである。
(ウ) さらに,前記1(1)アのとおり,被告Y1は,原告会社に対し,主として
技術面で相当の貢献があったものであり,そのような立場にいる被告Y1が原告会
社及び三洋商事から退社すれば,取引先が技術の面で原告会社との取引の継続につ
き不安を感じることはあり得ることであり,被告Y1がそのような内容を述べたと
しても,信用を害する虚偽の事実の告知とはいえない。
また,甲80(原告会社従業員Rの陳述書)中にも,被告Y1のAについての誹謗
中傷行為は,平成15年ころまでは,一般の人に対するものではなかった旨の記載
部分があることからすると(2頁10行目∼12行目),兄弟等に対する本件文書1
ないし4の存在から,同旨の話が取引先に対してもされたものと推認することも困
難である。
甲75(ケーヒンのO部長発言の反訳書面),甲76(東邦メッキのP社長発言の
反訳書面),甲77(岡畑興産のQ発言の反訳書面)についても,どのような状況下
で録音されたものか明らかではない。
(エ) 以上の点を総合すると,本件に提出された証拠のみから,すなわち,被告
Y1から誹謗する話を直接聞いた者の証人尋問の申請はなく,証人尋問がないまま
に,原告会社主張の営業誹謗行為があったものと認定することはできない。
イ まとめ
よって,14号違反を理由に,原告会社の本訴請求(1)ないし(3)を認容すること
はできない。
(5) 争点5(本件文書1∼4の送付による名誉毀損の不法行為)
ア 争点5−1(被告Y1及び被告Y2の行為)
(ア) 前記1(4)エのとおり,被告Y1及び被告Y2は本件文書1を,被告Y1
は本件文書2ないし4を,B,C,Cの相続人らに送付した。
(イ) 別紙「名誉毀損文言一覧表」のとおり,本件文書1ないし4の内容の大部
分は,本件横領にAが関与したことに関するものであるが,一部は,原告会社から
A及びラーラアヴィスとの不動産譲渡及び賃貸借並びにAらの役員報酬額などを問
題とするものである。
これらの事実は,Aの名誉を毀損するものと認められる。
(ウ) なお,被告らは,本件文書1ないし4はいずれも親族にあてた私信である
から,公然性を欠き,名誉毀損にならない旨主張する。
しかし,民事上の名誉毀損の成立に,公然性は必ずしも必要ではないから,被告
らの上記主張は採用することができない。
イ 争点5−2(正当行為等)
(ア) 本件横領への関与の点
本件文書1ないし4で述べた本件横領への関与の点につき,これらの文書を送付
した平成15年7月から平成17年3月までの時点では,前記1(4)イのとおり,
H及びGが本件横領にAが関与した旨述べていたものであり,さらに,前記1(4)
ア(前提事実(5)ウ及びオ)のとおり,被告Y1が平成17年4月に提起した取締役
解任請求事件についての判断が一審段階でも示されておらず,被告Y1がAに対し
てした本件横領についての刑事告発に対する起訴,不起訴の判断もされていなかっ
たものであるから,被告Y1及び被告Y2がAの本件横領への関与の事実を真実で
あると信じたことにつき,少なくとも相当な理由があったものと認められる。
(イ) 不動産譲渡等の点
横領以外の不動産譲渡等の点についても,本件文書1ないし4を送付した平成1
5年7月から平成17年3月までの時点では,前記1(4)エ(イ)に認定の事実があり,
前記1(4)ア(前提事実(5)ウ)のとおり,被告Y1が平成17年4月に提起した取締
役解任請求事件についての判断が一審段階でも示されていなかったものであるから,
被告Y1及び被告Y2が不動産譲渡等の事実を真実であると信じたことにつき,少
なくとも相当な理由があったものと認められる。
(ウ) 公共の利害等
前記アの本件文書1ないし4の記載内容並びに上記(ア)及び(イ)の相当な理由から
すると,原告会社や三洋商事の株主である被告Y1らが,それらの株主である名あ
て人に対して,株主として必要な情報を伝達するために本件文書1ないし4を送付
したものであり,公共の利害に関する事実に係り,公益を図る目的の要件も満たす
ことが認められる。
ウ まとめ
よって,原告会社の本訴請求(4)及び原告Xらの本訴請求(1)は,その余について
判断するまでもなく理由がない。
(6) 争点6(不当訴訟提起の不法行為及び訴え却下申立ての理由)
ア 判断方法
訴えの提起が不法行為となるのは,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は
法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,同人がそのことを知りながら
又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて訴えを提起したなど,裁
判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限られる(最高裁昭和63
年1月26日判決民集42巻1号1頁参照)。
そして,本件において,原告会社は,1号,13号又は14号の選択的併合と主
張しているが(事案の概要1(1)参照),1号違反と13号違反は実質的にも選択的
併合の関係にあるが,14号違反は,1号又は13号違反とは事実関係が必ずしも
重なり合うものではないから,不当訴訟か否かの判断は,1号違反及び13号違反
を一つの単位とし,14号違反はこれらとは別個の単位にあるものとして行うべき
であると考えられる。
イ 1号違反及び13号違反
(ア) 過大な請求の趣旨
1号違反又は13号違反が認められた場合,通常採用される主文は,周知の商品
等表示の使用又は品質表示の表示,並びにそれらを付しての被告製品の販売等の差
止めであるから,原告会社の本訴請求(1)アは,過大な請求であると認められる。
ただし,原告会社の本訴請求(2)は ,「XYLAN 1052」又は「ホスタフロ
ン 5875」を商標又は品名として表示した被告製品の販売等の差止めの限度で,
その一部を認容することができると認められる(その意味で ,「SBC1052」
等の商標が表示された被告製品であっても,品名として「XYLAN 1052」
と表示されていれば,同13号に基づく請求が認容されることは十分可能であ
る。)。そして,本訴において13号に基づく差止請求が全部棄却されたのは,前
記(1)ウで説示したとおり,ウイットフォード社から注意を受けてその使用を止め
たためであり,原告会社の本訴請求(2)が本来的に一部であっても認容することが
できないものであったからではない。
(イ) 1号又は13号関係
a 被告らは,ザイラン1052(原告会社製)等を販売していたのは三洋商事
であって,原告会社には上記製品の販売実績がないから,原告会社は1号の周知の
商品等表示の立証ができないことを知っていた旨主張するが,三洋商事を吸収合併
した原告会社が三洋商事の時代に形成された周知性を承継することができることは
当然であるから,この点の被告らの主張は理由がない。
被告らは,原告会社は,三洋商事が塗料をルブコートとの商品名で販売し,ザイ
ラン1052やホスタフロン5875との商品名で販売していなかったことを知っ
ていた旨主張するが,前記1(2)ケ(イ)aで説示したとおり,ザイラン1052等を
商標として使用していた可能性を示す証拠もあったものであるから,この点を知り
ながら,又は通常人であれば容易に知り得たもの認めることはできない。
b 被告らは,ザイラン1052(被告会社製)等の品名欄に記載された「XY
LAN 1052」等が13号の品質表示に当たらないことは明らかである旨主張
するが,本訴で13号に基づく請求を一部認容したとおり,この点は,何ら明らか
なことではない。
(ウ) 被告Y1及び被告Y2に対する請求
a 被告らは,被告Y1及び被告Y2は,いずれも個人としては塗料の販売を
行っていないから,1号又は13号に基づく被告Y1及び被告Y2に対する差止請
求及び損害賠償請求が成り立たないことは明らかである旨主張する。
確かに,14号を除いては,行為者である代表取締役や社員に対する差止請求は,
実務上余り採用されておらず,学説上もさほど議論されていないが,14号につい
ての議論を参考にすれば,1号又は13号により代表取締役個人や従業員個人に対
して差止請求を行うことが,法律上の根拠を欠くものであったとまで認めることは
できない。
個人に対する損害賠償請求は,不正競争防止法4条,民法719条,会社法42
9条等の適用により,裁判例上も学説上も認められているから,この点の被告らの
主張に理由がないことは明らかである。
b 被告Y2は,同被告の関与を示す証拠がないことは明らかである旨主張す
る。
しかしながら,前記1(3)ア及び(4)エのとおり,被告Y2は,被告Y1の夫であ
り,本件文書1の送付の際は被告Y1と一緒に差出人となっており,被告会社の監
査役に就任しているほか,原告らは,被告Y2が少なくとも一時は被告Y1の意に
沿った行動をしていたことを示す証拠(甲57,58)を提出しているものであるか
ら,被告Y2に対する請求が事実的基礎を欠いたものであるとまで認めることはで
きない。
(エ) まとめ
以上からすると,差止請求の範囲が過大なものである点などで,原告会社の1号
又は13号に基づく請求に問題があったことは,被告ら主張のとおりであるが,本
件訴訟における1号又は13号に基づく請求を全体として見た場合,事実的,法律
的根拠を欠くものであったと認めることはできない。
ウ 14号違反
(ア) 過大な請求の趣旨
特定の取引先に対して一切の営業活動の禁止を求める原告会社の本訴請求(1)ア
は,不正競争防止法が予定する差止めの範囲を逸脱した過大な請求であると認めら
れ,このような請求を支持する裁判例又は学説上の根拠を見いだすことは,極めて
困難である。また,14号違反を理由に,原告会社の本訴請求(2)の差止めを認め
ることも,裁判例及び学説上,極めて困難であると認められる。
しかし,原告会社が予備的に請求した本訴請求(1)イは,何ら過大なものではな
い。
(イ) 14号関係
被告らは,原告会社は14号違反の行為について何ら客観的な証拠を提出してい
ないものであり,それらの立証ができないことを知っていた旨主張する。
確かに,本件訴訟では,第三者的な立場にある者の証人申請がなかったが,前記
(4)ア(ア)で説示したとおり,原告会社は,第三者が兄弟同士の争いに巻き込まれる
ことを恐れて,証人として出頭することに協力しないことが多い兄弟で経営する会
社の内紛事件において,前記(4)ア(ア)に記載の証拠を提出しているものであるから,
原告会社が14号違反の行為の立証ができないことを知っていたと認めることは,
到底できない。
(ウ) 損害賠償請求
a 被告らは,被告会社はコーティング加工業務については原告会社と競争関
係になく,原告会社が請求している加工業務の受注減による損害を不正競争防止法
上の損害としては請求できないことは,容易に判断できた旨主張するが,不正競争
行為の成立要件としての競争関係があるか否かの問題と,いったん競争関係にある
と認められた場合における損害の因果関係の問題とは別問題であるから,被告らの
上記主張は理由がない。
b 被告らは,原告が請求している塗料販売の損害の大半は今までの取引実績
のない取引先に対する見込み利益であり,それらが認容されないことは明らかであ
った旨主張する。
しかし,前記1(2)ケ(ア)のとおり,原告会社は,三洋商事を吸収合併したもので
あり,原告会社としては取引実績がなかったとしても,三洋商事が有していた取引
関係を引き継ぐことができるものである。さらに,新たな取引先との間で取引によ
る損害が認められるか否かは,14号違反の行為の有無及びその内容の立証による
ものであるから,新たな取引先に対する見込み利益であるからといって,事実的基
礎を欠くものと認めることはできない。よって,この点の被告らの主張は理由がな
い。
(エ) 被告Y1及び被告Y2に対する請求
a 被告らは,被告Y1及び被告Y2は,いずれも個人としては塗料の販売を
行っていないから,14号に基づく被告Y1及び被告Y2に対する差止請求及び損
害賠償請求が成り立たないことは明らかである旨主張する。
しかしながら,14号に基づく請求においては,行為者である代表取締役や社員
に対する差止請求が一定の場合に認められることは,裁判例上も学説上も認められ
ており,個人に対する損害賠償請求は,不正競争防止法4条,民法719条,会社
法429条等の適用により,裁判例上も学説上も認められているから,この点の被
告らの主張に理由がないことは明らかである。
b 被告Y2は,同被告の関与を示す証拠がないことは明らかである旨主張す
るが,同被告のこの点の主張は,前記イ(ウ)bと同旨の理由で,理由がない。
(オ) まとめ
以上からすると,差止請求の範囲が過大なものである点などで,原告会社の14
号に基づく請求に問題があったことは,被告ら主張のとおりであるが,本件訴訟に
おける14号に基づく請求を全体として見た場合,事実的,法律的根拠を欠くもの
であったと認めることはできない。
エ 違法・不当な目的,故意
被告らは,1号違反及び13号違反並びに14号違反を通じて,原告会社は,①
本件訴訟を通じて,被告らが有する技術ノウハウを不当に取得しようとする意図,
②被告会社に対する営業妨害の意図,③被告Y1から,和解により原告会社の株式
を取り上げようとする意図から,本件訴訟を提起したものであり,違法性が認めら
れる旨主張する。
甲28及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,被告Y1らの原告会社及びAに対
する執拗な本件横領等の主張にたまりかね,相応の事実上及び法律上の根拠をもっ
て,原告会社に対する営業誹謗行為及び品質誤認行為の差止めを目指して本訴に至
ったものであり,本件訴訟中に適当な機会があれば,被告Y1の原告会社等の株式
を買い取る和解を目指していたことが認められる。しかしながら,原告会社がその
余の意図を有していたことを認めるに足りる証拠はない。
このような本件訴訟の提起をもって,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当
性を欠くものと認めることは,できない。
オ まとめ
(ア) 以上によれば,不当訴訟を理由とする被告らの反訴請求(1),(2)ア及び
(3)は理由がない。
(イ) また,原告会社の請求(1)ア,(2)及び(3)につき却下を求める申立ても,
理由がない。
(7) 争点7(A及び原告X1の発言による名誉毀損の不法行為)
ア 争点7−1(A及び原告X1の行為)
(ア) 本件横領への関与
本件株主総会における議題及び本件株主総会における発言は,前記1(5)ア及び
イのとおりであるが,前記1(5)イの発言のうち,(イ)a(c),(f),(k),(l)のAの
発言は,本件横領に被告Y1が関与したことを述べるものであり,被告Y1の名誉
を毀損する行為である。
(イ) 精神障害者
a また,前記1(5)イの発言のうち,(イ)c(a)の原告X1の発言は ,「病気
みたいに」と述べるだけで,被告Y1の名誉を毀損する行為であるとまではいえな
い。
b しかし,(イ)c(b)及び(c)のA及び原告X1の発言は,被告Y1を精神障
害者であるかのように述べるものであり,被告Y1の名誉を毀損する行為である。
イ 争点7−2(違法性)
(ア) A及び原告X1の上記ア(ア)及び(イ)bの発言については,これが真実であ
ることや真実であると信じたことについて相当な理由があることの主張立証はない。
(イ) 原告会社は,本件株主総会の出席者は,A,被告Y1を含め4人であるこ
と,出席者は全員,Aと被告Y1との間に対立状態があることを知っていたこと,
被告Y1も,Aが原告会社の金を横領した旨の発言をしたこと,Aの発言は,過去
の原告会社における横領事件に関して,株主間で口論中にされた発言であることな
どを理由に,Aらの発言は名誉毀損行為とはならないとか,損害賠償を求めること
ができるほどの違法性を有しない旨主張するが,これらの事情は,慰謝料額の算定
に当たっては十分考慮すべき事情ではあっても,Aらの発言を違法性がないものと
する事情とは到底いえない。
したがって,原告会社は,Aの不法行為については会社法350条に基づき,原
告X1の不法行為については民法715条1項に基づき,被告Y1が被った損害を
賠償すべきである。
ウ 争点7−3(損害)
(ア) 前記発言内容,発言がされた状況,これまでの原告らと被告らの一連の紛
争経緯その他一切の事情を考慮すると,被告Y1が被った精神的苦痛を慰謝する慰
謝料額としては,20万円が相当であると認められる。
(イ) また,本件事案の態様,認容額その他諸般の事情を考慮すると,被告Y1
が負担する弁護士費用のうち,A及び原告X1の不法行為と相当因果関係のある損
害としては,4万円が相当である。
(ウ) 後記被告Y1がした名誉毀損行為との対比で検討すると,Aらが述べた内
容には,お互いに言い合った本件横領に関することに限らず,被告Y1が精神障害
者であることが含まれていたこと,被告Y1が本件横領に関与したこと及び精神障
害者であることについては,本訴で真実性又は相当性の抗弁も提出できないほど,
根拠がほとんどないものであったと認められること,後記(8)ア(イ)のとおり,被告
Y1の放火犯についての発言は,Aと名指しする直前で止められたものであること
などからすると,本件株主総会における言動に限ってみれば,原告会社が支払う損
害額は,被告Y1の支払う損害額よりも多額とならざるを得ない。
エ まとめ
よって,被告Y1の反訴請求(2)イは,24万円及びこれに対する平成20年1
月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る限度で理由があるが,その余は理由がない。
(8) 争点8(被告Y1の発言による名誉毀損の不法行為)
ア 争点8−1(被告Y1の行為)
(ア) 本件横領への関与に関する発言
本件株主総会における議題及び本件株主総会における発言は,前記1(5)ア及び
イのとおりであるが,イ(イ)aの発言のうち,(d),(e),(g),(h),(j),(l),(m),
(n),(o),(p)の被告Y1の発言は,本件横領にAが関与したことを述べるもので
あり,Aの名誉を毀損する行為である。その余の部分は,Aの名誉を毀損する行為
であると認めることはできない。
また,名誉毀損に当たると認めた上記(d)等の発言は,その一部に,不動産譲渡 ,
賃貸借及び過大な役員報酬等の非難を含むものと認められるが,本件横領にAが関
与したことを述べる部分を含んでいることは間違いないものである。
(イ) 放火犯に関する発言
また,前記1(5)イ(イ)bの放火犯に関する被告Y1の発言は,当てこすり的に,
Aが吉川工場の放火犯であると述べる直前まで行っているが,最後の一線は越えず
に踏みとどまっているものであり,Aの名誉を毀損する行為であると認めることは
できない。
イ 争点8−2(違法性)
(ア) 株主総会は,株主の総意によって会社の意思を決定する機関であるから,
株主総会における株主の発言が第三者の名誉又は信用を毀損するような場合であっ
ても,その発言が会社の意思決定のために必要な事項についてのものである場合に
は,通常の場合におけるよりも,真実性又は相当性の程度を低くすることも考えら
れないではない。
(イ) しかしながら,Aが本件横領に関与した旨の発言は,前記1(4)ア(前提事
実(5)ウ及びオ)のとおり,被告Y1が提起した取締役解任請求事件についての一審
判決が平成18年9月に出され,本件株主総会が開催された日の2か月前である平
成19年9月に上告不受理決定等により確定し,本件株主総会が開催された日の1
年近く前の平成18年12月には,被告Y1が本件横領についてした刑事告発に対
する嫌疑不十分を理由とする不起訴処分もされていたものであるから,被告Y1の
発言が,原告会社の株主総会において,代表取締役の不正行為に関して,株主の立
場からされたものであることを考慮しても,被告Y1が依然としてAが本件横領に
関与していたと信じたことに,相当な理由があったものと認めることはできない。
(ウ) したがって,被告Y1は,民法709条に基づき,同被告の本件横領にA
が関与しているとの発言によりAが被った損害を賠償すべきである。
エ 損害
(ア) 前記発言内容,発言がされた状況,これまでの原告らと被告らの一連の紛
争経緯その他一切の事情を考慮すると,Aが被った精神的苦痛を慰謝する慰謝料額
としては,15万円が相当であると認められる。
(イ) 弁護士費用
本件事案の態様,認容額その他諸般の事情を考慮すると,原告Xらが負担する弁
護士費用のうち,被告Y1の不法行為と相当因果関係のある損害としては,合計3
万円が相当である。
オ まとめ
よって,原告Xらの本訴請求(2)は,原告X1について9万円,原告X2及び原
告X3について各4万5000円及びこれらに対する平成20年2月23日から各
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の限度で理由があるが,そ
の余は理由がない。
3 結論
よって,
(1) 原告会社の本訴請求(1)ア及びイ並びに(2)(差止め)は,いずれも理由がな
いからこれを棄却し,
(2) 原告会社の本訴請求(3)(13号等による損害賠償)は,被告会社及び被告Y
1に対して,連帯して210万円及びこれに対する平成18年10月29日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由が
あるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,
(3) 原告会社の本訴請求(4)(本件文書1∼4)は理由がないから棄却し,
(4) 原告Xらの本訴請求(1)(本件文書1∼4)は理由がないから棄却し,
(5) 原告Xらの本訴請求(2)(株主総会)は,原告X1について9万円,原告X2
及び原告X3について各4万5000円及びこれらに対する平成20年2月23日
から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度
で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却し,
(6) 被告らの反訴請求(2)イ(株主総会)は,24万円及びこれに対する平成20
年1月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める
限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却すること
とし,
(7) 被告らの反訴請求(1),(2)ア及び(3)(不当訴訟)は,理由がないから棄却す
ることとし,仮執行宣言は相当でないのでこれを付さないこととして,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市 川 正 巳
裁判官
大 竹 優 子
裁判官
中 村 恭
(別紙)
顧客目録
(1)名 称 株式会社ケーヒン
住 所 <略>
(2)名 称 KEIHIN FIE PRIVATE LTD(インドケーヒン)
住 所 <略>
(3)名 称 TAIWAN KEIHIN CARBURETOR CO.,LTD(台湾ケーヒン)
住 所 <略>
(4)名 称 KEIHIN(THAILAND)CO.,LTD(タイケーヒン)
住 所 <略>
(5)名 称 NANJING KEIHIN CARBURETOR CO., LTD(南京ケーヒン)
住 所 <略>
(6)名 称 東邦メッキ株式会社
住 所 <略>
(7)名 称 DURAWARE PVT.LTD
住 所 <略>
(8)名 称 シャトル工業株式会社
住 所 <略>
以 上
(別紙)
物件目録
(1)ザイラン1052
(2)SBC1052
(3)ルブコート202同等品
(4)ホスタフロン5875
(5)SBC5875
(6)ルブコート206同等品
以 上
(別紙)
名誉毀損文言一覧表
1 本件文書1
(1) 「35年間苦労して育て上げた『オーベルの将来』を託した心算の創立者
達と貴殿を騙して,Aは三洋まで乗っ取り,完全に両社を私物化」している。(1
頁下から11行∼10行)
(2) 「Aは,オーベルの負債を増やし,技術を捨て,客先や銀行からも見放さ
れ,従業員も殆ど新人にしてしまった 。」(1頁下から7行∼6行)
(3) 「然しその後の調査では信じ難いAの背任行為の事実が次々に明らかにな
ってきています 。」(2頁14行∼15行)
(4) 「我々に対する詐欺,横領,人権侵害,名誉毀損などのきわめて悪質な行
為」(2頁17行)
2 本件文書2
(1) 「…AとGとが三洋商事からごまかした塗料仕入れ代金の年度別不正金額
は次のようであった。…」(1頁の項目2)
(2) 「これら不正はすべてA社長がHとGに命じてやらせ,大半の資金はA社
長が横領した…」(2頁の項目1)
(3) 「オーベルの経済状態も悪化してきたと聞いている。技術の低下,収益率
の低下,水増し請求によるH工業所への垂れ流し,急増した借入金の返済と利息,
塗料不正仕入れの発覚による中断,などが原因として考えられる 。」(2頁の項目
7)
3 本件文書3
(1) 「警察から漏れ聞くところでは,Aの逮捕が近いようです 。」(1 頁10
行)
(2) 「○オーベルが横領によって約7千万円以上の被害を受けていた こ と」
「○それが,社長であるAによるものであること(特別背任にあたると警察で言わ
れました)」(1頁12行∼14行)
(3) 「…Gの犯行にすり替えて約2000万円の詐欺横領で2人を告訴し,自
己の横領を隠蔽したこと」(1頁16行∼17行)
(4) 「…Hを介した5000万円以上の横領が隠蔽されたこと」(1頁19行∼
20行)
(5) 「Aは自分の悪行は全て他人のせいにする 。」(1頁25行)
(6) 「…現金40万円をA自身が着服という社長にあるまじき浅ましい犯行を
した事 。」(1頁下から5行)
(7) 「…(Aは金に汚いが,自己防衛の為には会社の金をばらまく) 。」(2頁7
行∼8行)
(8) 「○しかし,Y1に社長になられると,自分のやった横領が露見する恐れ
があったのと,会社私物化の計画が続けられなくなる 。」(2頁24行∼25行)
(9) 「…60歳になるまでにあらゆる手段を講じてオーベルを根こそぎ自分の
ものにする計画だったそうです 。」(2頁下から9行∼8行)
(10) 「…オーベルの資金がどんどんAとその家族の懐へ流出していま す 。」
(2頁下から3行)
(11) 「会社はAとその家族役員たちに吸尽くされて抜け殻状態です 。」(2頁
最終行)
(12) 「…Aの気違いじみた強欲,私利私欲に会社が食い荒らされているのを見
るのは本当に辛いです 。」(3頁下から7行∼6行)
4 本件文書4
(1) 「…月100万から400万円をHに命じて架空請求させ,現金でAに直
接戻させるという方法で横領していた事が後で判りました 。」(2頁1行∼2行)
(2) 「その時はオーベルの経営が破綻しかけた原因がまさかAの横領にあると
は気がつきませんでした」(2頁18行∼19行)
(3) 「…A(は)当初からの計画であった会社のっとりのシナリオを継続し,平
成9年から実行してきた詐欺横領の隠蔽を図ったことは今になってみれば明白で
す。」(2頁下から10行∼8行)
(4) 「…Aは,平成9年以来の長期間にわたって多額の詐欺横領をしており,
その隠蔽を図るためとその後の不正計画を続けるためにはY1を会社から追い出さ
なければならなかったということです 。」(2頁下から6行∼4行)
以 上
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