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平成20(行ケ)10074審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年11月26日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告パテント−トロイハント−ゲゼルシヤフトフユアエレ
対象物 放電ランプ用フードテープの製造方法,放電ランプ用フードテープ,放電ランプおよび放電ランプの製造方法
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 刊行物201回
審決62回
優先権1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,原告が,名称を「放電ランプ用フードテープの製造方法,放電ランプ用 フードテープ,放電ランプおよび放電ランプの製造方法」とする発明につき特許出 願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成 り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。

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判決文

平成20年(行ケ)第10074号 審決取消請求事件
平成20年11月26日判決言渡,平成20年10月22日口頭弁論終結
判 決
原 告 パテント−トロイハント−ゲゼルシヤフト フユア エレ
クトリツシエ グリユーランペン ミツト ベシユレンク
テル ハフツング
訴訟代理人弁理士 山口巖
訴訟復代理人弁理士 松崎清
被 告 特許庁長官
指 定 代 理 人 西島篤宏,飯野茂,岩崎伸二,森山啓
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2006−1008号事件について平成19年10月16日にし
た審決を取り消す。
」との判決。
第2 事案の概要
本件は,原告が,名称を「放電ランプ用フードテープの製造方法,放電ランプ用
フードテープ,放電ランプおよび放電ランプの製造方法」とする発明につき特許出
願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成
り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願
出願人:パテント−トロイハント−ゲゼルシヤフト フユア エレクトリツシエ
グリユーランペン ミツト ベシユレンクテル ハフツング(原告)
発明の名称: 放電ランプ用フードテープの製造方法,放電ランプ用フードテー

プ,放電ランプおよび放電ランプの製造方法」(後記平成17年5月18日の手続
補正による補正前の名称は「放電ランプ用フードテープの製造方法」)
出願日:平成8年5月28日(国際出願)
優先権主張日:1995年(平成7年)6月16日(ドイツ)
出願番号:特願平9−502469号
(2) 本件手続
手続補正日:平成17年5月18日(甲第4号証)
拒絶査定日:平成17年10月12日
審判請求日:平成18年1月16日(不服2006−1008号)
審決日:平成19年10月16日
審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない。
「 」
審決謄本送達日:平成19年11月1日
2 本願発明の要旨
審決が対象とした発明(平成17年5月18日付け手続補正後の請求項1に記載
された発明であり,以下 本願発明 」
「 という。なお,請求項の数は全11項である。)
の要旨は,以下のとおりである。
「担持体テープ(1)が放電ランプ内に封入すべき少なくとも1種類の材料,特に
水銀合金(2)及び/又はゲッタ材料(3)で被覆されている放電ランプ用フード
テープの製造方法において,担持体テープ(1)からその長手方向(LB)に直角
に,放電ランプ用フードテープ(4)又はこのフードテープの一部を形成しその全
幅(BT)に亘って少なくとも1種類の材料で被覆された部品(5)が切断され,
担持体テープ(1)における直角方向はフードテープ(4)又はこのフードテープ
の一部として使用される部品(5)の長手方向(LT)になることを特徴とする放
電ランプ用フードテープの製造方法。」
3 審決の理由の要点
審決は,本願発明は,下記刊行物1記載の発明及び下記刊行物2記載の技術に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2
項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
刊行物1 特開平6−76796号公報(甲第1号証)
刊行物2 特開平6−302267号公報(甲第2号証)
審決の理由中,刊行物1の記載事項の認定,本願発明と刊行物1記載の発明との
対比及び相違点についての判断(刊行物2の記載事項の認定を含む 。)の部分は,
以下のとおりである(明らかな誤記を訂正し,また,略称を本判決の指定したもの
に改めた部分がある。。

( 1) 刊行物1の記載事項の認定
「・・・刊行物1・・・には,次の事項が記載されている。
ア『 0003】よって,最少必要量の水銀をランプ内に供給するためZr−Ti−Hg合金

を金属板上に塗布した水銀ディスペンサを外部より高周波加熱することにより,水銀を放出さ
せる方法が用いられる。・・・
【0006】本発明の目的は,水銀ディスペンサを電極部囲いとして用いた場合に点灯外観を
損なわず十分な水銀量を確保する低圧放電灯を提供することにある 。』
イ『 0016】水銀ディスペンサは,幅5㎜のニッケル板7に,幅2㎜でZr−Ti−Hg

合金8を塗布したものを使用し,フィラメント9の周囲を囲むようにリング状にして溶接し固
定する。
【0017】ところで,水銀ディスペンサはZr−Ti−Hg合金の塗布部分では溶接出来な
いために,図2a,bのように上下に幅1 .5㎜ の溶接しろを設けてある。溶接によって固定
する以上,この幅を小さくすることは困難であり,水銀ディスペンサの幅を5㎜以下にすると,
Zr−Ti−Hg合金を塗布する幅は,2㎜以下になって,ランプの種類によっては,水銀量
を確保することが困難となる。よって,図2c,dのように一部にZr−Ti−Hg合金を塗
布した水銀ディスペンサを用いることが有効である。』
ウ『 0018】図3に,囲いの幅を変えて作成したランプの,囲いの部分の輝度の相対値を

示す。囲いがないランプを100%としている。幅5㎜以上では影による輝度の低下が無視出
来なくなる。
【0019】図4に,囲いの幅を変えて作成したランプの,一千時間点灯時における黒化の発
生割合を示す。幅4㎜以下では,幅を小さくするほど黒化発生率が高い。』
エ 図面の図2(c)(d)には,フィラメント9の周囲を囲んで設けられた水銀ディスペン
サを構成するニッケル板7には,その全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布され,ニッケ
ル板7の長手方向を屈曲させることによりフィラメント9の周囲を囲んでいる構成が記載され
ている。
したがって上記刊行物1には次の発明・・・が記載されているものと認める。
<刊行物1記載の発明>
『ニッケル板7が低圧放電灯内に十分な水銀量を供給するための材料であるZr−Ti−Hg
合金で塗布され,フィラメント9の周囲を囲むようにリング状に固定される水銀ディスペンサ
の製造方法において,ニッケル板7の全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布された水銀デ
ィスペンサの製造方法。 」

( 2) 本願発明と刊行物1記載の発明との対比
「本願発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
その技術的意義からみて,後者の『低圧放電灯 』 『低圧放電灯内に十分な水銀量を供給する

ための材料であるZr−Ti−Hg合金 』 『フィラメント9の周囲を囲むようにリング状に固

定される水銀ディスペンサ』は,それぞれ,前者の『放電ランプ 』 『放電ランプ内に封入すべ

き少なくとも1種類の材料,特に水銀合金(2), 放電ランプ用フードテープ』に相当する。
』『
また,後者における『ニッケル板7』は,それ自体が『フィラメント9の周囲を囲むように
リング状にして溶接し固定 』・・・することで水銀ディスペンサとなるための部品であること
から,前者の『部品(5 )』に相当し,また,同『ニッケル板7』と前者における『担持体テ
ープ(1)』とは,『板状部材』である限りで一致する。
更に,後者における,ニッケル板7がZr−Ti−Hg合金で『塗布され』ることは,結果
としてZr−Ti−Hg合金でニッケル板7が被覆されることとなるのであるから,前者の,
担持体テープ(1)が水銀合金(2)で『被覆され』ていることに相当する。
してみると,本願発明と刊行物1記載の発明とは次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
『板状部材が放電ランプ内に封入すべき少なくとも1種類の材料,特に水銀合金で被覆され
ている放電ランプ用フードテープの製造方法において,部品の全幅に亘って少なくとも1種類
の材料で被覆された放電ランプ用フードテープの製造方法。』
<相違点>
前者においては,『担持体テープ(1)からその長手方向(LB)に直角に,放電ランプ用
フードテープ(4)又はこのフードテープの一部を形成』する『部品(5)が切断され 』 『担

持体テープ(1)における直角方向はフードテープ(4)又はこのフードテープの一部として
使用される部品(5)の長手方向(LT)になる』のに対し,後者においては,水銀ディスペ
ンサとなるための部品であるニッケル板7は,その全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布
されているものの,当該ニッケル板自体を製造する方法については不明であり,したがって,
切断された部品の長手方向の向きについても不明である点。」
( 3) 相違点についての判断
「上記相違点について検討する。
・・・刊行物2・・・には,次の事項が記載されている。
ア『 0001】

【産業上の利用分野】本発明は冷陰極蛍光ランプの電極に関するものであり,詳細にはその製
造方法に係るものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種の電極90の構成の例を示すものが図6であり,前記電極90は
鉄にニッケル鍍金を施した板状部材で形成された電極本体91に,ジルコンなどで構成される
ゲッター材92と,水銀及びチタンによる水銀アマルガム材93とが混和されたものの適宜量
が保持させられたものであり,前記電極本体91は一対が,ニッケル線94a及びデュメット
線94bで成る導入線94に両面からスポット溶接などにより取付けられている。
【0003】この電極90を形成するときには ,予めにニッケル鍍金が施された帯状の鉄板に,
ゲッター材92と水銀アマルガム材93とが混和されたものを所定幅で塗布したものを形成し
ておき,この帯状部材を蛍光ランプの管の内径に合わせて所定幅Dとして切断し,これにより
得られる電極本体91を前記導入線94に溶接することで製造するものである。』
イ 図面の図6より,屈曲される前の電極本体91の形状は略長方形である構成,及び,電極
本体91の幅Dの全幅に亘ってゲッター材92と水銀アマルガム材93とが設けられている構
成が記載されている。
当該摘記事項から,ゲッター材92と水銀アマルガム材93とが混和されたものを所定幅で
塗布した帯状部材(帯状の鉄板)を蛍光ランプの管の内径に合わせて所定幅Dとして切断する
製造方法が読み取れる。そして,帯状部材から所定幅Dとして切断して形状が略直方形の板状
部材を製造するには,その切断方向を帯状部材の長手方向に対して直角とすることは通常に採
用される技術である。
したがって,刊行物2には ,『ゲッター材と水銀アマルガム材とが混和されたものを所定幅
で塗布した帯状部材(本願発明の『担持体テープ(1 )』に相当する)を,その長手方向に直
角に切断して水銀を放出する機能を有する,全幅に亘ってゲッター材92と水銀アマルガム材
93とが設けられた板状部材(本願発明の『部品(5 )』に相当する)とする技術』が記載さ
れている。
そして,刊行物1記載の発明においては,ニッケル板7の全幅に亘ってZr−Ti−Hg合
金が塗布されており,そのニッケル板7はフィラメント9の周囲を囲むようにリング状に固定
されて水銀ディスペンサとなるのであり,なお且つ,上記摘記事項『2.エ』より,全幅に亘
ってZr−Ti−Hg合金が塗布される幅方向とは直角の方向が長手方向となるのであるか
ら,当該ニッケル板7に対して上記の刊行物2に記載の技術を適用することにより,相違点に
係る技術事項を得ることは当業者が容易に想到し得たものといえる。
そして,本願発明の作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載の技術から当業者
が予測可能な範囲内のものであって,格別なものではない。」
( 4) 審決の「むすび」
「よって,本願請求項1に係る発明は,上記刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載の技術に
基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規
定により特許を受けることができない。」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本願発明と刊行物1記載の発明(以下「刊行物発明」という。)との相
違点の認定を誤り(取消事由1 ),また,当該相違点についての判断を誤り(取消
事由2),さらに,本願発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由3)結果,本
願発明が刊行物発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたとの誤った判断に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)
(1) 審決は ,本願発明と刊行物発明とが「前者(判決注:本願発明)においては,
『担持体テープ(1)からその長手方向(LB)に直角に,放電ランプ用フードテ
ープ(4)又はこのフードテープの一部を形成』する『部品(5)が切断され 』,
『担持体テープ(1)における直角方向はフードテープ(4)又はこのフードテー
プの一部として使用される部品(5)の長手方向(LT)になる』のに対し,後者
(判決注:刊行物発明)においては,水銀ディスペンサとなるための部品であるニ
ッケル板7は,その全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布されているものの,
当該ニッケル板自体を製造する方法については不明であり,したがって,切断され
た部品の長手方向の向きについても不明である点」で相違すると認定した。
すなわち,審決は,刊行物発明に係る「水銀ディスペンサとなるための部品であ
るニッケル板7」が「切断された部品」であるものとし,あたかもニッケル板7が
「切断」という方法によって製造されるかのように認定したものであるが,刊行物
1には,ニッケル板7が「切断」という方法によって製造される旨の記載は全く存
在しない。審決の上記相違点の認定は,他方で ,「当該ニッケル板自体を製造する
方法については不明であ(る)」としているのであるから,そもそも,上記相違点
の認定は,自己撞着というべきものであり,誤りであることが明らかである。
(2) もっとも,原告は,刊行物発明のニッケル板7を製造する場合に ,「切断」
という方法が採用され得ることを否定するものではない。しかしながら,ニッケル
板7を「切断」という方法によって製造する場合には,本願発明と刊行物発明との
間に,以下の相違点があることに留意すべきである。
すなわち,本願発明の要旨が「担持体テープ(1)から・・・その全幅(BT)
に亘って少なくとも1種類の材料で被覆された部品(5)が切断され」と規定する
とおり,本願発明においては,切断の前に水銀合金等による被覆がなされるもので
ある。これに対し,刊行物1には「水銀ディスペンサは,幅5㎜のニッケル板7に,
幅2㎜でZr−Ti−Hg合金8を塗布したものを使用し, (段落【0016】
」 )との
記載があり,この記載にかんがみれば,刊行物発明においては,予め「切断」によ
り製造した幅5㎜のニッケル板を用意して,これに水銀合金を塗布(被覆)するも
のと考えられるから,水銀合金による被覆がなされるのは切断の後である。
したがって,本願発明と刊行物発明とでは,「切断」と「被覆」との前後関係が
相違するものである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
( 1) 審決は,本願発明と刊行物発明との上記相違点につき,刊行物2に「ゲッタ
ー材と水銀アマルガム材とが混和されたものを所定幅で塗布した帯状部材・・・
を,その長手方向に直角に切断して水銀を放出する機能を有する,全幅に亘ってゲ
ッター材92と水銀アマルガム材93とが設けられた板状部材・・・とする技術」
が記載されていると認定した上 ,「刊行物1記載の発明においては,ニッケル板7
の全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布されており,そのニッケル板7はフィ
ラメント9の周囲を囲むようにリング状に固定されて水銀ディスペンサとなるので
あり,なお且つ ,・・・全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布される幅方向と
は直角の方向が長手方向となるのであるから,当該ニッケル板7に対して上記の刊
行物2に記載の技術を適用することにより,相違点に係る技術事項を得ることは当
業者が容易に想到し得たものといえる」と判断した。
(2) しかしながら,刊行物2において ,「ゲッター材と水銀アマルガム材とが混
和されたものを所定幅で塗布した帯状部材」は ,「蛍光ランプの管の内径に合わせ
て所定幅Dとして切断」(段落【0003】)されるものである。そして,水銀アマルガ
ム材の量は,切断幅Dに依存するものであるから(図6参照),結局,刊行物2に
記載された発明において,水銀の量は,ランプの管の内径によって制約を受けるこ
とになる。これに対し,本願発明は,水銀の放出量の制御・調整は,フードテープ
の高さ(本件特許出願に係る図面(甲第3号証。以下「本願図面 」という 。 の FIG.

3に示された本願発明の幅BT)の選択によって行うものであるところ,フードテ
ープをリングフードとしてランプの管内に固定したときに,フードテープの高さ方
向は管の長手方向となるから,ある程度の自由度があり,したがって,本願発明に
おいては,上記幅BTの選択により,水銀の放出量の制御・調整を容易に行うこと
ができる。
このように,刊行物2記載の発明と本願発明とは基本的に相違するものであるか
ら,刊行物発明のニッケル板7に刊行物2に記載の技術を適用することにより,相
違点に係る本願発明の技術事項を得ることができるとした審決の判断は誤りであ
る。
( 3) また,審決には,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせることが
何故に容易であるかについて,全く説示がない。
刊行物1には,ニッケル板7の製造方法について全く触れられていない。
他方,刊行物2の図6に示された電極90の所定幅Dが,本願図面の FIG.3に
示された本願発明の幅BTに相当するとした場合,刊行物2の電極90の長さ(長
辺)が,本願発明のフードテープの長さBBに相当するということになるが,刊行
物2の電極90は剛体であり,「フードテープ」すなわち「何物かを頭巾のように
覆い囲うテープ」ではない。したがって,刊行物2は「フードテープ」を開示して
いるものということはできない。
刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせるには,刊行物1にフードテー
プの製造方法について示唆があり,かつ,刊行物2にフードテープの記載があるこ
とが最低限必要である。しかるところ,上記のとおり,刊行物1にも刊行物2にも
これらの記載や示唆はないのであるから,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組
み合わせる根拠は存在せず,審決の上記判断は誤りである。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)
平成17年5月18日の手続補正(甲第4号証)により補正された後の本件特許
出願に係る明細書(甲第3号証。以下,同補正後の同明細書を「本願明細書」とい
う。)の「部品幅BT(この場合5mm)を規定することによって,放電ランプ内
に加熱により封入すべき材料(水銀合金及び/又はゲッタ)の量が規定される。他
方では,担持体テープの単位長当たりに塗布すべき材料の量はフードテープのその
ときの固定幅BTを考慮して規定される 。(甲第3号証3頁23∼26行)との記

載により,本願発明のフードテープの部品幅BTが可変であることは明らかである。
しかるところ,上記のとおり,フードテープをリングフードとしてランプの管内に
固定したときに,部品幅BT(フードテープの高さ方向)は管の長手方向となるか
ら,刊行物2記載の技術のように放電ランプの内径によって制約を受けるというこ
とがなく,ある程度の自由度がある。すなわち,本願発明は,部品幅BTを変える
ことにより,ランプの管内に封入すべき水銀合金及び/又はゲッターの量を変える
ことができるのであるから,フードテープに塗布された水銀及びゲッターの放出量
を非常に簡単に,かつ正確に規定することができるという効果を奏することができ
る。
これに対し,刊行物1には,水銀ディスペンサ(フードテープ)の幅を変えるこ
とにより水銀の放出量を変えるということは記載も示唆もされていない。なお,刊
行物1には ,「囲いの幅を変えて作成したランプ」との記載があるが,囲いの幅を
変える目的は,ランプ点灯中のちらつきや電極周辺の黒化を改善することにあり,
水銀の放出量については,「十分な水銀量を確保する」(段落【0006】)とされてい
るだけである。また,刊行物2にも ,「ゲッター材と水銀アマルガム材とが混和さ
れたものを所定幅で塗布した帯状部材」を所定幅Dで切断する際に,その所定幅D
を変えてゲッター材と水銀アマルガム材の水銀の放出量を変えることは記載も示唆
もされていない。刊行物2記載の技術は,上記のとおり,そもそも所定幅Dが放電
ランプの内径によって制約を受けるため,水銀アマルガム材の量は,管の内径によ
って決まってしまうものである。
本願発明の上記効果は,本願発明の「担持体テープ(1)からその長手方向(L
B)に直角に,放電ランプ用フードテープ(4)又はこのフードテープの一部を形
成しその全幅(BT)に亘って少なくとも1種類の材料で被覆された部品(5)が
切断され」との要件(以下「要件A」という。)及び「担持体テープ(1)におけ
る直角方向はフードテープ(4)又はこのフードテープの一部として使用される部
品(5)の長手方向(LT)になる」との要件(以下「要件B」という。)が規定
する構成によって初めてもたらされるものであって,刊行物1,2の記載から当業
者が予測可能なものではない。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)に対し
( 1) 原告は,審決の相違点の認定に係る「切断された部品の長手方向の向きにつ
いても不明である」との記載を捉え,審決はニッケル板7が「切断」という方法に
よって製造されるかのように認定したとし,他方,審決は「当該ニッケル板自体を
製造する方法については不明であ(る)」とも認定しているのであるから,審決の
相違点の認定が,自己撞着であり,誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,刊行物発明の認定においては,Zr−Ti−Hg合金が
塗布されるニッケル板7が「切断により製造される」ものであることを特定してお
らず,また,本願発明と刊行物発明との一致点の認定においても,刊行物発明のニ
ッケル板7と本願発明の担持体テープ(1)とがその限りで一致するとした「板状
部材」が,「切断により製造される」ものであることまで特定して一致すると認定
したものではない。また,審決は,本願発明と刊行物発明との相違点の認定におい
て,「後者(判決注:刊行物発明)においては,水銀ディスペンサとなるための部
品であるニッケル板7は,・・・当該ニッケル板自体を製造する方法については不
明であり」と認定し,「判断 」(相違点についての検討)において,刊行物2の記載
事項を摘記した上,刊行物2に,帯状部材を長手方向に直角に切断して板状部材を
製造する方法が記載されていることを認定している。
したがって,審決は,刊行物発明のニッケル板7が「切断」という方法によって
製造されたものと認定したものではなく,切断により製造されたものではないこと
を前提として判断をしたことが明らかである。
そうすると,審決の相違点の認定に係る「切断された部品の長手方向の向きにつ
いても不明である」との記載が,誤解を生む不適切な表現であったとしても,審決
の結論に影響を及ぼす誤りであるとはいえない。
( 2) また,原告は,刊行物発明においては水銀合金による被覆がなされるのは切
断の後であるから,切断の前に水銀合金等による被覆がなされる本願発明とは, 切

断」と「被覆」との前後関係が相違するとも主張する。
しかしながら,原告がその主張の根拠として引用する刊行物1の段落【 0016】の
記載は,リング状にして溶接する前に,ニッケル板7にZr−Ti−Hg合金が塗
布 被覆)されていることを示すに止まり ,ニッケル板7を製造する際に,仮に「切

断」という方法が採られた場合において,その切断と被覆との前後関係についてま
で記載したものとはいえず,また,他に,切断の前に水銀合金等による被覆がなさ
れることを排除するような記載は刊行物1にない。したがって,刊行物発明におい
て水銀合金による被覆がなされるのが切断の後であることを前提とする原告の上記
主張は誤りである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対し
( 1) 原告は,刊行物2に記載された発明において,水銀の量は,ランプの管の内
径によって制約を受けることになるのに対し,本願発明は,水銀の放出量の制御・
調整をフードテープの高さの選択によって行うものであり,高さ方向は管の長手方
向となるため,ある程度の自由度があって,水銀の放出量の制御・調整を容易に行
うことができるから,刊行物2記載の発明と本願発明とは基本的に相違するもので
あり,刊行物発明のニッケル板7に刊行物2記載の技術を適用することにより,相
違点に係る本願発明の技術事項を得ることができるとした審決の判断は誤りである
と主張する。
しかしながら,当該主張のうち,本願発明につき,水銀の放出量の制御・調整を
フードテープの高さの選択によって行うものであり,高さ方向は管の長手方向とな
るため,ある程度の自由度があるとする,本願発明の作用効果に関する点は,後記
取消事由3に対する反論で主張するとおり,製造方法の発明である本願発明によっ
て特定される事項に基づく作用効果ではないから,失当である。
他方,刊行物2に記載された技術に関しては ,審決は,刊行物2の記載に基づき,
「ゲッター材と水銀アマルガム材とが混和されたものを所定幅で塗布した帯状部材
・・・を,その長手方向に直角に切断して水銀を放出する機能を有する,全幅に亘
ってゲッター材92と水銀アマルガム材93とが設けられた板状部材・・・とする
技術」が記載されているものとして,当該技術事項を引用し,これを刊行物発明に
適用することにより,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到し得ると判断した
ものであって,刊行物2記載の技術における切断幅Dと水銀量の調整との関係に係
る技術事項を認定,引用したものではないから,原告の主張は失当である。
( 2) また,原告は,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせるには,刊
行物1にフードテープの製造方法について示唆があり,かつ,刊行物2にフードテ
ープの記載があることが最低限必要であるとした上,刊行物1にも刊行物2にもこ
れらの記載はないのであるから,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせ
る根拠は存在せず,刊行物発明のニッケル板7に対し刊行物2に記載の技術を適用
することにより,相違点に係る技術事項を得ることは当業者が容易に想到し得たと
する審決の判断が誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物発明における「フィラメント9の周囲を囲むようにリング
状に固定される水銀ディスペンサ」は,本願発明の「放電ランプ用フードテープ」
に相当するところ,刊行物1には,当該「水銀ディスペンサ」を構成する「ニッケ
ル板7」の製造方法に関する直接的な記載はないが,リング状に固定される前のニ
ッケル板7が長方形状の板状部材であることは極めて容易に認識し得るところであ
り,また,そのような形状のニッケル板7が適宜の製造方法を用いることにより得
られるものであることも明白である。
しかるところ,審決の説示するとおり,刊行物2の段落【0002】及び【0003】に
は,冷陰極蛍光ランプの電極本体91の製造に関して,ゲッター材92と水銀アマ
ルガム材93とが混和されたものを所定幅で塗布した帯状部材(帯状の鉄板)を蛍
光ランプの管の内径に合わせて所定幅Dとして切断する製造方法が開示されてお
り,また,その図6には,これによって得られた電極本体91の形状が略長方形状
の板状部材であることが示されているから,上記切断の方向は,帯状部材の長手方
向に対して直角方向であることは明らかであり,そのように切断することも通常に
採用される技術にすぎないものである。
そして,刊行物発明も刊行物2記載の技術も,ともに放電ランプに関する技術分
野に属するものであり,また,刊行物発明の水銀ディスペンサを構成するニッケル
板7も,刊行物2記載の技術に係る電極本体91も,ともに長方形状の板状部材で
ある点で共通するから,刊行物発明のニッケル板7の製造方法として,刊行物2に
記載された電極本体91の製造方法を適用することは,当業者であれば容易に想起
できることであって,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせることに困
難性はない。この場合に,「フードテープ」が刊行物1のみならず,刊行物2にま
で記載又は示唆されている必要はない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)に対し
( 1) 原告は,本願発明において,フードテープをリングフードとしてランプの管
内に固定したときに,部品幅BT(フードテープの高さ方向)は管の長手方向とな
るから,刊行物2記載の技術のように,放電ランプの内径によって制約を受けると
いうことがなく,ある程度の自由度があるところ,本願発明は,部品幅BTを変え
ることにより,ランプの管内に封入すべき水銀合金及び/又はゲッターの量を変え
ることができるのであるから,フードテープに塗布された水銀及びゲッターの放出
量を非常に簡単に,かつ正確に規定することができるという効果を奏するものであ
り,このような効果は,本願発明の要件A,Bが規定する構成によって初めてもた
らされるものであって,刊行物1,2の記載から当業者が予測可能なものではない
と主張する。
しかしながら,フードテープをリングフードとしてランプの管内に固定したとき
に,フードテープの高さ方向は管の長手方向となるから,ある程度の自由度がある
との点は,本願発明の製造方法によってそのような技術事項が特定されたものでは
なく,放電ランプの構造上の技術事項(放電ランプのフィラメントを取り囲む金属
リングフードの構造)として共通していえることである。そうであれば,本願発明
において,部品幅BTを変えることにより,ランプの管内に封入すべき水銀合金及
び/又はゲッターの量を変えることができるという点も,上記放電ランプの構造上
の技術事項によってもたらされるものであって,要件A,Bが規定する構成によっ
て達成されるものではない。要件A,Bは,放電ランプ用フードテープを担持体テ
ープ(1)から製造する(切り出す)ための条件を特定したにすぎないものであっ
て,部品幅BTの選択の仕方や技術的意義について特定したものではない。
したがって,本願発明の作用効果に関する原告の主張は,本願発明の製造方法に
基づかないものであるから,失当であるといわざるを得ない。
( 2) さらに,以下のとおり,刊行物1,2にも,原告が主張する効果についての
示唆が存在する。
すなわち,刊行物1には ,「水銀ディスペンサは,幅5㎜のニッケル板7に,幅
2㎜でZr−Ti−Hg合金8を塗布したものを使用し,フィラメント9の周囲を
囲むようにリング状にして溶接し固定する。 ところで,水銀ディスペンサはZr
−Ti−Hg合金の塗布部分では溶接出来ないために,図2a,bのように上下に
幅1.5㎜ の溶接しろを設けてある。溶接によって固定する以上,この幅を小さく
することは困難であり,水銀ディスペンサの幅を5㎜以下にすると,Zr−Ti−
Hg合金を塗布する幅は,2㎜以下になって,ランプの種類によっては,水銀量を
確保することが困難となる。よって,図2c,dのように一部にZr−Ti−Hg
合金を塗布した水銀ディスペンサを用いることが有効である 。 (段落【 0016】
」 ,
【0017】)との記載があるところ,囲いの幅に応じて放出される水銀量も変化する
ことは明らかであるから,刊行物1には,囲いの幅を変えることによって,水銀の
放出量を変更・調整することができるという技術事項が示唆されているといえる。
加えて,上記のとおり,フードテープをリングフードとしてランプの管内に固定し
たときに,フードテープの高さ方向は管の長手方向となるから,ある程度の自由度
があることは,放電ランプに共通する構造上の技術事項であって,刊行物発明(刊
行物1の図2c,d記載のもの)についても当てはまることであるから,原告の主
張する作用効果は,刊行物発明においても当然奏するものである。
また,刊行物2に記載された電極本体91は,切断幅Dがランプの管径により制
約を受けるものの,その制約を受けるまでの寸法の範囲内においては切断幅Dを選
択することで水銀放出量を調整することができることも明らかである。
( 3) したがって,本願発明の作用効果は,刊行物発明及び刊行物2に記載された
ものと比較して格別顕著なものということはできず,刊行物発明及び刊行物2記載
の技術から,当業者が予測し得るものであって,その旨の審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
( 1) 審決の相違点の認定は,「前者(判決注:本願発明)においては,『担持体テ
ープ(1)からその長手方向(LB)に直角に,放電ランプ用フードテープ(4)
又はこのフードテープの一部を形成』する『部品(5)が切断され』『担持体テー

プ(1)における直角方向はフードテープ(4)又はこのフードテープの一部とし
て使用される部品(5)の長手方向(LT)になる』のに対し,後者(判決注:刊
行物発明 )においては,水銀ディスペンサとなるための部品であるニッケル板7は,
その全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布されているものの,当該ニッケル板
自体を製造する方法については不明であり,したがって,切断された部品の長手方
向の向きについても不明である点」というものである。
しかるところ,この認定における刊行物発明のニッケル板7についての「切断さ
れた部品」との表現は,それ自体としては,あたかもニッケル板7が「切断」とい
う方法によって製造されるものと認定したかのように見えるものであって,仮に,
審決がそのように認定したものとすれば,ニッケル板7が「切断」という方法によ
って製造される旨の記載が全く見当たらない刊行物1に基づかない認定であるとと
もに,上記相違点の認定中に刊行物発明につき「当該ニッケル板自体を製造する方
法については不明であり,」とある部分とも矛盾撞着するものとなることは,原告
主張のとおりである。
しかしながら,審決は,摘記した刊行物1の各記載に基づき,刊行物発明を「ニ
ッケル板7が低圧放電灯内に十分な水銀量を供給するための材料であるZr−Ti
−Hg合金で塗布され,フィラメント9の周囲を囲むようにリング状に固定される
水銀ディスペンサの製造方法において,ニッケル板7の全幅に亘ってZr−Ti−
Hg合金が塗布された水銀ディスペンサの製造方法 。」と認定しているのであり,
この刊行物発明の認定には,ニッケル板7が「切断」という方法によって製造され
るとの認定は含まれていない。また,審決の相違点の認定中に,刊行物発明につき
「当該ニッケル板自体を製造する方法については不明であり,」とする部分がある
ことは上記のとおりである。さらに,審決は,相違点についての判断において,刊
行物2を引用し,摘記した各記載から,刊行物2には「ゲッター材と水銀アマルガ
ム材とが混和されたものを所定幅で塗布した帯状部材(本願発明の『担持体テープ
(1 )』に相当する)を,その長手方向に直角に切断して水銀を放出する機能を有
する,全幅に亘ってゲッター材92と水銀アマルガム材93とが設けられた板状部
材(本願発明の『部品(5 )』に相当する)とする技術」が記載されていると認定
した上で,刊行物発明のニッケル板7に対し,刊行物2記載の上記技術(上記のと
おり,本願発明の「担持体テープ(1)」に相当する帯状部材を「その長手方向に
直角に切断」するとの技術事項を含むものである。)を適用して,相違点に係る技
術事項を得ることは当業者が容易に想到し得たものと判断したのである。
このような認定判断の経緯に照らせば,審決が,刊行物発明につきニッケル板7
が「切断」という方法によって製造されるものと認定したものではなく,ニッケル
板7の製造方法は不明であるとし,この点を,担持体テープ(1)からその長手方
向(LB)に直角に部品(5)を切断してフードテープを製造する本願発明との相
違点として認定した上で,当該相違点につき判断をしたものであることは明らかで
あって,相違点の認定に係る上記「切断された部品」との記載のうち「切断された」
との部分は誤記の類であることが,審決に接する者に容易に理解されるものと認め
られる。
そうすると,当該誤記は,審決の重要部分に存する甚だ好ましからざるものでは
あるが,上記のとおり,審決に接する者に明らかな誤記と理解されるものである上,
審決は,刊行物発明のニッケル板7が「切断」という方法によって製造されるとの
当該誤記の内容を前提として相違点の判断をしたものではなく,ニッケル板7の製
造方法は不明であるとする正しい認定を前提として相違点の判断をし,その結論に
至っているのであって,当該誤記は,審決の結論に全く影響を及ぼしていないので
あるから,当該誤記は,そもそも審決の認定の誤りというべき程のものではなく,
仮に,誤りというべきものとしても,審決の結論に影響を及ぼす誤りということは
できない。
したがって,いずれにせよ原告の上記主張を採用することはできない。
(2) また,原告は,刊行物発明のニッケル板7を「切断」という方法によって製
造する場合には ,刊行物発明は水銀合金による被覆がなされるのは切断の後であり,
本願発明は切断の前に水銀合金等による被覆がなされるのであるから,本願発明と
刊行物発明との間に ,「切断」と「被覆」との前後関係が相違するという相違点が
あると主張する。
上記主張は,審決が,刊行物発明のニッケル板7が「切断」という方法によって
製造されるものとの認定をした上で,刊行物発明と本願発明との一致点及び相違点
の認定をしたことを前提とした場合に,審決に相違点の看過があるとの趣旨の主張
であると解されるが,上記( 1)のとおり,審決は,刊行物発明につきニッケル板7
が「切断」という方法によって製造されるものと認定したものではないから,原告
の上記主張は,その前提を欠き,それ自体失当といわざるを得ない。
なお,念のため付言するに,審決は,相違点の認定において ,刊行物発明につき,
水銀ディスペンサ(本願発明の「フードテープ」に相当する。)となるための部品
であるニッケル板7の製造方法は不明であると認定しているのであるから,担持体
テープ(水銀合金等による被覆がなされている 。)からフードテープとなる部品が
切断される本願発明との関係においては,製造方法が「切断」という方法である点
とともに,それが,既に水銀合金等による被覆がなされているものからの切断であ
る点(換言すれば,被覆,切断の順である点)を含めて,相違点として認定してい
るといえるものである。そして,審決は,その上で,刊行物2に,ゲッター材と水
銀アマルガム材とが混和されたものを所定幅で塗布した帯状部材(本願発明の「担
持体テープ」に相当する。)を切断して板状部材(本願発明の「フードテープとな
る部品」に相当する。)とする技術(換言すれば,塗布(被覆),切断の順である技
術)が記載されていると認定し,刊行物発明のニッケル板7に上記刊行物2記載の
技術を適用することにより,相違点に係る技術事項を得ることは当業者が容易に想
到し得たものと判断したものであるから,被覆と切断の先後関係についての審決の
認定判断には,特段の齟齬や看過は存在しないというべきである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
( 1) 原告は,刊行物2に記載された発明において,水銀の量は,ランプの管の内
径によって制約を受けることになるのに対し,本願発明は,水銀の放出量の制御・
調整をフードテープの高さの選択によって行うものであり,高さ方向は管の長手方
向となるため,ある程度の自由度があって,水銀の放出量の制御・調整を容易に行
うことができるから,刊行物2記載の発明と本願発明とは基本的に相違するもので
あり,刊行物発明のニッケル板7に刊行物2に記載の技術を適用することにより,
相違点に係る本願発明の技術事項を得ることができるとした審決の判断は誤りであ
ると主張する。
しかしながら,審決の相違点についての判断において,刊行物2はいわゆる副引
用例に当たるものであって,それに記載された発明の構成のうちの特定部分ないし
それに記載された特定の技術事項を引用し,主引用発明である刊行物発明に適用し
て,相違点に係る本願発明の構成ないし技術事項とすることが容易になし得るか否
かが問題とされるものである。そして,審決は,上記1の( 1)のとおり,刊行物2
には「ゲッター材と水銀アマルガム材とが混和されたものを所定幅で塗布した帯状
部材(本願発明の『担持体テープ(1)』に相当する)を,その長手方向に直角に
切断して水銀を放出する機能を有する,全幅に亘ってゲッター材92と水銀アマル
ガム材93とが設けられた板状部材(本願発明の『部品(5)』に相当する)とす
る技術」が記載されていると認定した上で,この技術を刊行物発明のニッケル板7
に適用することにより相違点に係る技術事項を得ることは,当業者が容易に想到し
得えたとしたものであり,審決が刊行物2から引用したのは,上記技術に尽きるも
のである。刊行物2の段落【0003】の記載及び図6の図示によれば,刊行物2記載
の発明(ただし,刊行物2において従来例とされているものである。 においては,

帯状部材から切り出した板状部材の切断幅(所定幅D)の方向を,管の径方向に向
けて取り付けるため ,「帯状部材を蛍光ランプの管の内径に合わせて所定幅Dとし
て切断」するとされていることが認められるが,審決は,板状部材の切断幅の方向
を管の径方向に向けて取り付けることまで(したがって,切断幅を「蛍光ランプの
管の内径に合わせて」所定幅Dとすることまで ),刊行物2から引用するものでは
ない。
そうすると,刊行物2に記載された発明自体において,所定幅Dに依存する水銀
の量がランプの管の内径によって制約を受けることになるからといって,そのこと
が,刊行物2に記載された上記技術を刊行物発明のニッケル板7に適用して相違点
に係る本願発明の技術事項を得ることにつき,何ら妨げとならないことは明らかで
あり,原告の上記主張を採用することはできない。
なお,水銀の放出量の制御・調整を容易に行うことができるということが,本願
発明の作用効果ということができないことは,後記3の(1)のとおりである。
( 2) また,原告は,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせるには,刊
行物1にフードテープの製造方法について示唆があり,かつ,刊行物2にフードテ
ープの記載があることが最低限必要であるとした上,刊行物1にも刊行物2にもこ
れらの記載や示唆はないのであるから,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み
合わせる根拠は存在せず,刊行物発明のニッケル板7に対し刊行物2に記載の技術
を適用することにより,相違点に係る技術事項を得ることは当業者が容易に想到し
得たとする審決の判断が誤りであると主張する。
しかるところ,刊行物1にニッケル板7の製造方法についての記載は見当たらず,
このことは,上記1の( 2)のとおり,審決が認定するところである。また,刊行物
2記載の電極90(正確には板状部材である電極本体91)が剛体であって,フー
ドテープに当たらないことも原告主張のとおりである。
しかしながら,刊行物1に「ニッケル板7が低圧放電灯内に十分な水銀量を供給
するための材料であるZr−Ti−Hg合金で塗布され,フィラメント9の周囲を
囲むようにリング状に固定される水銀ディスペンサの製造方法において,ニッケル
板7の全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布された水銀ディスペンサの製造方
法」の発明である刊行物発明が記載されていること,刊行物発明の「低圧放電灯」
が本願発明の「放電ランプ」に相当することは当事者間に争いがない。
他方,刊行物2には,以下の記載がある。
ア「 産業上の利用分野】本発明は冷陰極蛍光ランプの電極に関するものであり,詳細には

その製造方法に係るものである。 (段落【0001】
」 )
イ「 従来の技術】従来のこの種の電極90の構成の例を示すものが図6であり,前記電極

90は鉄にニッケル鍍金を施した板状部材で形成された電極本体91に,ジルコンなどで構成
されるゲッター材92と,水銀及びチタンによる水銀アマルガム材93とが混和されたものの
適宜量が保持させられたものであり,前記電極本体91は一対が,ニッケル線94a及びデュ
メット線94bで成る導入線94に両面からスポット溶接などにより取付けられている。 こ
の電極90を形成するときには,予めにニッケル鍍金が施された帯状の鉄板に,ゲッター材9
2と水銀アマルガム材93とが混和されたものを所定幅で塗布したものを形成しておき,この
帯状部材を蛍光ランプの管の内径に合わせて所定幅Dとして切断し,これにより得られる電極
本体91を前記導入線94に溶接することで製造するものである。(段落【0002】【0003】
」 , )
これらの記載及び図6の図示によれば,刊行物2に記載された発明は冷陰極蛍光
ランプの電極の製造方法に関するものであり,また,従来技術として,「ゲッター
材と水銀アマルガム材とが混和されたものを所定幅で塗布した帯状部材を切断し
て,全幅にわたってゲッター材92と水銀アマルガム材93とが塗布された板状部
材とする技術」が記載されていることが認められる。
しかるところ,刊行物1の段落【0009】の記載によれば,刊行物発明の「低圧放
電灯」は「蛍光ランプ」のことであると認められるから,結局,本願発明,刊行物
発明及び刊行物2記載の技術は,いずれも放電灯(蛍光ランプ)に関するものであ
って,技術分野を共通にするものである。また,上記のとおり,刊行物発明の水銀
ディスペンサはニッケル板7の全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布されたも
のであり,刊行物2記載の板状部材は,全幅にわたってゲッター材92と水銀アマ
ルガム材93とが設けられたものであるから,両者は,いずれも放電灯(蛍光ラン
プ)に用いられ,全幅にわたって水銀合金が塗布された,水銀合金を担持する部材
である点で共通するものである。
そうであれば,放電灯(蛍光ランプ)に関する技術分野の当業者が,刊行物1,
2に接し,刊行物発明の水銀ディスペンサの製造方法を検討するに当たって,刊行
物2に記載された板状部材の製造方法の適用を試みることには,十分な動機付けが
あることは明らかである。そして,刊行物発明に刊行物2記載の製造方法を適用す
る場合には,水銀ディスペンサの材料であるニッケル板によって刊行物2記載の帯
状部材に相当するものを形成し,これに水銀合金を所定幅で塗布した上,当該帯状
部材を,これに塗布された水銀合金の所定幅方向を切断方向とし,かつ,その切断
方向が切り出された部材の長手方向になるようにして切断する(そのように切断し
なければ,切り出された部材が,刊行物1の図2c,dに図示された刊行物発明の
「ニッケル板7の全幅に亘ってZr−Ti−Hg合金が塗布された水銀ディスペン
サ」とならない 。)ことによって,水銀ディスペンサ(ニッケル板7)を製造する
ことになるが,その際,上記切断方向が帯状部材の長手方向に垂直な方向となるよ
う,帯状部材を形成すれば,同一形状のニッケル板7を効率よく製造し得ることは
極めて容易に理解し得るところであり,当業者が通常採用する技術事項であると認
められる。
したがって,刊行物発明のニッケル板7に対し刊行物2に記載の技術を適用する
ことにより,相違点に係る技術事項を得ることは当業者が容易に想到し得たとする
審決の判断に誤りはない。刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせるには,
刊行物1にフードテープの製造方法について示唆があり,かつ,刊行物2にフード
テープの記載があることが最低限必要であるとの原告の主張は,独自の見解であっ
て採用することができない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について
( 1) 原告は,本願発明において,フードテープをリングフードとしてランプの管
内に固定したときに,部品幅BT(フードテープの高さ方向)は管の長手方向とな
るから,刊行物2記載の技術のように,放電ランプの内径によって制約を受けると
いうことがなく,ある程度の自由度があるところ,本願発明は,部品幅BTを変え
ることにより,ランプの管内に封入すべき水銀合金及び/又はゲッターの量を変え
ることができるのであるから,フードテープに塗布された水銀及びゲッターの放出
量を非常に簡単に,かつ正確に規定することができるという効果を奏するものであ
り,このような効果は,本願発明の要件A,Bが規定する構成によって初めてもた
らされるものであって,刊行物1,2の記載から当業者が予測可能なものではない
と主張する。
しかしながら,本願発明の要件Aは「担持体テープ(1)からその長手方向(L
B)に直角に,放電ランプ用フードテープ(4)又はこのフードテープの一部を形
成しその全幅(BT)に亘って少なくとも1種類の材料で被覆された部品(5)が
切断され」との要件,要件Bは「担持体テープ(1)における直角方向はフードテ
ープ(4)又はこのフードテープの一部として使用される部品(5)の長手方向(L
T)になる」との要件であるところ,これらの要件によれば,担持体テープ(1)
から,フードテープ又はフードテープの一部として使用される部品(5)を,「全
幅(BT)」の幅で切断される手順を有する方法であることは特定されているもの
の,「全幅(BT)」の幅長が調節可能であることや,その幅長を調節する手順につ
いては,要件A,Bによって特定されているものとはいえず,また,その幅長を調
節することにより水銀及びゲッターの放出量を調節する手順について特定されてい
るものともいうことはできない。本願発明の要旨の要件A,B以外の部分について
も,同様である。
そうすると,原告主張の上記作用効果は,製造方法の発明である本願発明におい
て,発明の要旨によって特定される発明の奏する作用効果であるということはでき
ないから,原告の上記主張は,その前提において失当である。
( 2) のみならず,刊行物1には,囲いの影の大きさ及び黒化発生率との相関関係
についての記載ではあるが,水銀ディスペンサを電極囲いとして用いた場合の囲い
の幅(したがって水銀ディスペンサを形成するニッケル板7の幅)を変えることが
記載されている(段落【0018】【0019】
, )ほか,「水銀ディスペンサは,幅5㎜のニ
ッケル板7に,幅2㎜でZr−Ti−Hg合金8を塗布したものを使用し,フィラ
メント9の周囲を囲むようにリング状にして溶接し固定する。 ところで,水銀デ
ィスペンサはZr−Ti−Hg合金の塗布部分では溶接出来ないために,図2a,
bのように上下に幅1.5㎜ の溶接しろを設けてある。溶接によって固定する以上,
この幅を小さくすることは困難であり,水銀ディスペンサの幅を5㎜以下にすると,
Zr−Ti−Hg合金を塗布する幅は,2㎜以下になって,ランプの種類によって
は,水銀量を確保することが困難となる。よって,図2c,dのように一部にZr
−Ti−Hg合金を塗布した水銀ディスペンサを用いることが有効である。(段落

【0016】 【 0017】
, )との記載がある。この記載は,図2a,bのようにZr−Ti
−Hg合金を塗布した水銀ディスペンサについて,同合金を塗布する幅が狭すぎる
と水銀量が足りなくなることに言及したものであるが,ニッケル板7の全幅に亘っ
てZr−Ti−Hg合金が塗布された,刊行物発明の水銀ディスペンサ(図2c,
d)においては,Zr−Ti−Hg合金を塗布する幅は,当然,ニッケル板7自体
の幅となるのであるから,上記段落【0018】【0019】の記載と併せ,刊行物1には,

ニッケル板7の幅長を変えることによって,水銀放出量を変更・調節するという技
術事項が示唆されているということができる。
( 3) そうすると,原告の主張する上記作用効果は,そもそも,本願発明の作用効
果ということができないものであるし,仮にこの点を措くとしても,刊行物1,2
の記載に基づいて,
当業者が予測し得る程度のものであるといわざるを得ないから,
原告の上記主張を採用することはできない。
4 結論
以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきで
ある。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田 中 信 義
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
杜 下 弘 記

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