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平成20(行ケ)10212審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年11月26日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社サラブランド
原告ジャック・ウルフスキン・アウスリュストゥング・ベュンテ・フン・ン・ムニ・
法令 商標権
商標法4条1項11号8回
商標法4条1項15号5回
キーワード 審決33回
無効7回
無効審判2回
抵触1回
商標権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 本件は,被告が有する下記商標(本件商標)登録について,原告が後記引用 商標1及び引用商標2と類似し,かつ出所につき混同を生じるおそれがあり商 標法4条1項11号又は15号に違反するとして,商標登録無効審判請求をし たところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求 めた事案である。

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判決文

判決言渡 平成20年11月26日
平成20年(行ケ)第10212号 審決取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成20年10月20日
判 決
原 告 ジャック・ウルフスキン・アウスリュストゥング・
フューア・ドラウセン・ゲゼルシャフト・ミット・
ベ ュ ン テ ・ フ ン ・ ン ・ ム ニ ・
シ レ ク ル ハ ツ グ ウ ト コ パ ー
コ ン ィ ト ゲ ル ャ ト ア フ ア チ ン
マ デ ッ ・ ゼ シ フ ・ ウ ・ ク ェ
訴訟代理人弁護士 加 藤 義 明
同 木 村 育 代
訴訟復代理人弁護士 松 永 章 吾
訴訟代理人弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト
同 山 崎 和 香 子
被 告 株 式 会 社 サ ラ ブ ラ ン ド
訴訟代理人弁護士 片 山 卓 朗
同 伊 藤 真
訴訟代理人弁理士 古 関 宏
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2007−890029号事件について平成20年1月24日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,被告が有する下記商標(本件商標)登録について,原告が後記引用
商標1及び引用商標2と類似し,かつ出所につき混同を生じるおそれがあり商
標法4条1項11号又は15号に違反するとして,商標登録無効審判請求をし
たところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求
めた事案である。
2 争点は,①本件商標が原告の有する下記引用商標1と類似するかどうか(商
標法4条1項11号),②本件商標が他人の業務に係る商品と混同を生じるお
それがある商標に当たるか(同法4条1項15号)
,である。

(1) 本件商標
・商標 ・指定商品
第25類
「被服,ガーター,靴下止め,ズボン
つり,バンド,ベルト,仮装用衣服」
・出願日 平成15年12月15日
・登録日 平成17年6月24日
・登録第4874789号
(2) 引用商標1
・商標 ・指定商品
第20類
「クッション,座布団,まくら,マット
レス」
第22類
「衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿」
第24類
「布製身の回り品,かや,敷布,布団,
布団カバー,布団側,まくらカバー,
毛布」
第25類
・出願日 昭和63年6月30日 「被服」
・登録日 平成3年7月31日 (平成14年5月15日の書換登録後)
・登録第2324652号
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
被告は,平成15年12月15日,上記内容の本件商標について商標登録
出願をし,平成17年6月24日に登録第4874789号として設定登録
を受けた(甲1,2)。これに対し原告は,平成19年3月9日付けで下記
無効理由1,2に基づき本件商標登録の無効審判を請求した(甲27)。
特許庁は,上記請求を無効2007−890029号事件として審理した
上,平成20年1月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決
(出訴期間として90日を附加)をし,その謄本は平成20年2月5日原告
に送達された。

a 無効理由1:本件商標は上記引用商標1及び下記引用商標2と類似するか
ら商標法4条1項11号に違反する。

〈引用商標2〉
・商標 ・指定商品
引用商標1と同じ 第18類
「傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」
第25類
「履物」
第26類
・出願日 昭和63年6月30日 「靴飾り(貴金属製のものを除く。,靴はとめ,

・登録日 平成3年8月30日 靴ひも,靴ひも代用金具」
・登録第2329483号 (平成14年5月15日の書換登録後)
b 無効理由2:本件商標は,他人(原告)の業務に係る商品と混同を生じる
おそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に違反
する。
(2) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,①本件
商標と引用商標2の指定商品とは非類似の商品である,②本件商標は,引用
商標1と類似しないから商標法4条1項11号に該当しない,③本件商標は
原告の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標とは認められないか
ら商標法4条1項15号に該当しない,というものである。
(3) 審決の取消事由
しかしながら,審決の判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として
取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件商標と引用商標1の類似性についての判断の誤り)
(ア) 称呼の類似
審決は ,「本件商標は,構成中『Sarah』の文字に相応して『サ
ラー』の称呼を生ずるものであるが,図形部分から特定の称呼が生ずる
ものとは認められない」(11頁29行∼31行)とし,引用商標1に
ついては,「取引に資されるべき特定の称呼は生じないというのが相当
である 」(11頁末行∼12頁1行)として,両者が称呼において相紛
れる余地はないと判断した(12頁23行∼25行)。
しかし,以下に述べるとおり,引用商標1と本件商標とは,「ジュウ
ルイノアシアト」という同一の称呼を生ずるものである。
すなわち引用商標1は,下部に黒塗り山形図形を配し,その上部に,
4つの黒塗り歪形の図形を該黒塗り山形図形の凸部に沿うように配して
なるものであり,全体の図形は仮想垂直線より左方向にやや傾いて描い
てなるものである。そして,上記黒塗り山形図形は獣類の足裏の肉瘤を,
また,上部の4つの黒塗り歪形の図形はその足指を表したかのように看
取され,これらは全体として,獣類の足跡を表わしたと理解させるもの
であるから,その構成態様に応じて「ジュウルイノアシアト」の称呼を
生ずる。
一方,本件商標の図形部分は,下部に黒塗りで丸みのある不整形の山
形図形,その上部に上記山形図形の凸部に沿うように4つの黒塗りの縦
長楕円様図形を配した図形からなるものであり,獣類の足跡として看取
されるものであるから,その構成に相応して「ジュウルイノアシアト」
の称呼を生ずる。審決は,本件商標の図形部分から特定の称呼は生じな
いとしたが,本件商標の図形部分は文字部分と分離独立しても自他商品
の識別標識としての機能を果たし得ること,本件商標の図形部分は3個
の図形全体から,下から上方向へ歩行した獣の足跡として看取されるの
が相当であることからすれば,識別標識としての機能を持つというべき
であり,獣類の足跡として看取される本件商標の図形部分から特定の称
呼が生じないとの審決の判断は不合理である。
よって,引用商標1と本件商標とは,いずれも全体として,「ジュウ
ルイノアシアト」の称呼を生ずる。
被告は,本件商標は文字部分から「サラー」の称呼のみが生じ図形部
分からは何らの称呼も生じないと主張する。しかし,本件商標は「Sa
rah」の文字部分と3つの獣類の足跡が描かれた図形部分の組合せか
らなる結合商標であるところ,文字部分である「Sarah」とは,旧
約聖書上の人物であるアブラハム(Abraham)の妻であり,また
は,英語圏の女性名であるSallyという名前に付けられる愛称であ
るから,3つの獣類の足跡と看取される図形部分と「Sarah」の文
字との間には,何らの関連性もなく,また図形部分と文字部分の重なり
合いはなく,図形部分と文字部分は若干隔離されている。
これらを総合的に判断すれば,本件商標の図形部分と文字部分は,そ
れぞれの称呼や観念上,全く一体性がなく,これらを分離して観察する
ことが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているとはいえない
から,本件商標からは,文字部分と図形部分のそれぞれから称呼・観念
が生じる。
そして,需要者は,この3個の獣類の足跡を同一図形を単純に配列し
たものとして受け止めるのが自然であり,図形が3個あることや,それ
らが左右互い違いの歩行跡のように配置されていることに格別の意味が
あるものとの印象を受けないから,図形部分に接する需要者に印象され
る観念は, 左右互い違いの歩行跡のように描かれた3個の獣類の足跡」

ではなく,当該図形部分を構成する個々の「獣類の足跡」であり,これ
が需要者に強く印象付けられるのであるから,3つの獣類の足跡が描か
れた図形全体のみならず,個々の足跡の図形からも称呼・観念が生じる 。
そこで本件商標の個々の獣類の足跡の図形について観察すると,一般
の需要者は,中央下部に凸形図形を配し,その凸部に沿うように縦長楕
円形が複数並べられた図形を見た場合,凸形図形を獣類の足裏の肉瘤と
看取し,その凸部に沿うように並べられた縦長楕円様図形を獣類の足指
を表したかのように看取するのが自然であり,犬又はそれに類する何ら
かの種類の獣の足跡であると認識する。
したがって,本件獣類の足跡の図形からは, ジュウルイノアシアト」

との称呼が生じるというべきである。
(イ) 観念の類似
審決は,「引用商標1は,『爪のある獣の足跡』との観念が生ずるもの
であるが,本件商標の図形部分は『歩行している獣の3個の足跡』ほど
の観念をもって看取されるというのが相当である」(12頁13行∼1
5行)とし ,「両者は,単に『獣の足跡』の観念を共通にして相紛らわ
しいものということはできず,上記観念においても充分に区別し得るも
のである」(12頁21行∼22行)と判断した。
しかし,本件商標の図形部分は,歩行することによって印される足跡
の極めて自然な状態を描いてなるものであって,3個であることに格別
の意味があるものとの印象を受け難いものであるから,これに接する取
引者,需要者は,これを単なる「獣の足跡」の図形として認識する場合
も少なくない。特に引用商標1及び本件商標の指定商品である被服等の
分野においては,ある図形を表す場合にその数を増減することはデザイ
ンのバリエーションとして通常よく行われるところであり,取引者,需
要者が図形の数を以て両者を識別できるとは限らない。
そうすると,両者は「獣類の足跡」の共通の観念を有する。
(ウ) 外観の類似
審決は ,「本件商標の図形部分と引用商標1とを比較してみても,前
者が三個の丸みのある獣の足跡が左右互い違いの歩行跡のように描かれ
たものであり,後者が1個の爪のある獣の足跡であって,両者の全体か
ら受ける印象は全く異なるものといわざるを得ないから,本件商標と引
用商標1とを,時と所を異にして観察した場合にも,両者は相紛れるこ
となく判然と区別されるというべきである。(12頁7行∼12行)と

判断した。
しかし,引用商標1,本件商標の図形部分を構成する足跡の図形は,
共に全体が黒塗りの図形で,中央下部に丸みのある不整形の山形図形,
その上部に上記山形図形の凸部に沿うように4つの縦長楕円様図形を配
して構成されている。これらの外観上の共通点から,当該図形に接した
取引者及び需要者は,両者がともに「獣類の足跡」であることを容易に
看取することができる。
そして,本件商標の図形部分が3個の図形からなるものの,3個であ
ることに格別の意味があるわけではなく,取引者・需要者が図形の数を
手がかりとして両者を識別できるわけではない。また,引用商標1の爪
についても,きわめて小さく表わされていることから,これが看者の印
象に強く残るとは考えにくい。
そうすると,引用商標1と本件商標は,山形図形を配し,その上部に
縦長楕円形を山形図形の凸部に沿うように並べてなり,一見して獣類の
足跡と認められる点が共通していることから,両者は外観上も類似する。
(エ) 上記(ア)∼(ウ)によれば,引用商標1と本件商標は ,「ジュウルイ
ノアシアト」の称呼及び「獣類の足跡」の観念において共通し,外観に
おいて類似する互いに相紛らわしい商標である。
そして,本件商標の指定商品のうち「第25類 被服」は,引用商標
1の指定商品と抵触する。よって,本件商標は上記指定商品について,
商標法4条1項11号に該当するから,審決の判断は誤りであり,取り
消されるべきである。
イ 取消事由2(出所の混同のおそれについての判断の誤り)
引用商標1の周知性は審決も認めているところであるが,引用商標1は
昭和60年代の初めころから,原告の業務に係る被服等の商品に使用され,
雑誌にも広告が多数掲載されたことから,日本における需要者の間で周知
となっている(甲14の1∼39,甲15の1∼37)。
上記アのとおり,本件商標と引用商標1は称呼,観念及び外観において
類似する互いに相紛らわしい商標であるから,引用商標1に接した需要者
が,その出所として原告を想起する可能性は高い。
そして原告は,被服を中心としたアウトドア関連の商品に引用商標1を
使用している。引用商標1の指定商品である第25類の「被服」以外の商
品である,「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装様
衣服」(本件商標の指定商品)は,原告が取り扱う商品の中でも,特に被
服と密接な関係にあることから,本件商標がこれらの商品に使用された場
合には,原告の商品との関連において出所の混同を生ずるおそれが否定で
きない。
そうすると,本件商標がその指定商品中,第25類の「被服」以外の商
品に使用されれば,商標の類似性,及び引用商標1の周知性に鑑みて,原
告の商品との関連において出所につき混同が生ずるおそれは否定できな
い。本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした審決の判断は誤
りであり,取り消されるべきである。
2 請求原因に対する認否
請求原因の(1),(2)の事実は認めるが,同(3)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
ア 称呼について
原告は,本件商標と引用商標1とは,いずれも全体として「ジュウルイ
ノアシアト」の称呼を生ずると主張するが,本件商標からは「サラー」の
みの称呼が生ずるのに対して,引用商標1からは取引に資されるべき特定
の称呼は生じないというべきであるから,両者が称呼において相紛れる余
地はないとした審決の認定・判断に誤りはない。
原告は ,本件商標から ジュウルイノアシアト」
「 の称呼を生ずるとして ,
識別標識としての機能を持ち獣類の足跡として看取される本件商標の図形
部分から特定の称呼が生じないというのは不合理であり本件商標の図形部
分の構成に応じてかかる称呼を生ずる,とする。
しかし,商標の図形部分が他の構成要素から独立して識別標識としての
機能を有し,且つ,一定の意味合いを看取させる場合であっても,当該図
形部分から商標の類否判断の要素としての称呼を生じないことは往々にし
てある。審決が正当に説示するように,本件商標に接する需要者・取引者
は,称呼を生じやすい文字部分を捉え,そこから生ずる「サラー」の称呼
をもって取引に供するというべきであり,称呼が発生しにくい図形部分か
らは何らの称呼をも生じない。
一方,引用商標1については,獣類の足跡を表わしたと理解されるもの
ではない。すなわち ,「獣類」は,一般に「4足で歩く哺乳動物」を意味
するから,イヌ,ネコ,クマ,パンダ,カバ,サイ,キリン,ラクダ,ウ
シ,ウマ,シカ,イノシシ,ウサギ,リス,ビーバー,イタチ,アライグ
マ,ネズミ,カンガルー,コアラ等,ありとあらゆる4足で歩く哺乳動物
を包含する。しかし,これら各動物の足跡,例えば,イヌの足跡とウマの
足跡が異なるものであることは容易に理解できる。つまり,引用商標1が
「獣類の足跡」を表したと理解され,そこから「獣類の足跡」の観念及び
「ジュウルイノアシアト」の称呼を生ずるということは,イヌの足跡やウ
マの足跡等,4足で歩く哺乳動物の足跡を含め同一であるということと同
義となる。したがって,引用商標1に接する需要者・取引者をして,そこ
から「獣類の足跡(即ち,4足で歩く哺乳動物の足跡 )」の観念を生じ,
「ジュウルイノアシアト」の称呼をもって取引に供するとの原告の主張は ,
取引の実情から乖離している。
また,パリ条約の加盟国に広く開放され,国際的に広く採用されてい
る「ウイーン分類」,及び,それに準拠し,日本の社会・文化を考慮し,
独自に作成された「標章の図形要素の細分化ウイーン分類表(ウイーン
分類第5版準拠 第2版 ) (特許庁商標課
」 2005年〔平成17年〕
8月発行,乙3)によれば,動物の図形は12に分類されており,中で
も「四足獣」は5つに分類されている。したがって,国際的にみても,
動物に関する図形商標について「獣類」という概念で括ることができな
いことは明らかである。
そうすると,審決が正当に説示するように,引用商標1からは取引に
資されるべき特定の称呼は生じないというべきである。
イ 観念について
本件商標と引用商標1は,観念において充分に区別し得るものであると
する審決の判断に誤りはない。原告は,本件商標と引用商標1は「獣類の
足跡」の観念において共通する,と主張するが,理由がない。
すなわち,商標に接する取引者・需要者がその商標を一定の図形を表わ
したものと理解したとしても,その理解された内容が直ちに商標の類否判
断における観念であるということはできない。類否判断の要素としての観
念は,その商標が如何なる意味合いをもって取引に供されるかという観点
から判断されるべきである。原告の主張する「獣の足跡」のように,意味
内容ないし用語法が極めて広いものであるときは,単純にその広い意味内
容のまま考察した場合,各種獣類の足跡はその足跡において同じというこ
とにもなり,その商標の識別力を稀釈して,その識別機能を見誤るおそれ
があるからである。
したがって,原告による観念類似の主張は理由がなく,本件商標と引用
商標1は観念において充分に区別し得るものであるとの審決の判断に誤り
はない。
ウ 外観について
原告は,本件商標の図形部分を構成する足跡図形の一構成要素と,引用
商標1の全体構成とを比較しており,本件商標の図形部分の全体構成を比
較対象にしていない。しかし,取引の経験則に徴すれば,本件商標に接す
る需要者・取引者は,左側に表された図形部分と右側に表された文字部分
をそれぞれ一体の識別標識として認識,把握すると解される。
審決は ,「本件商標から,あえて個々の図形が抽出されて印象し記憶さ
れるとすべき特段の事情もない」(12頁5行∼6行)とし,本件商標の
図形部分と引用商標とを比較してみても,両者の全体から受ける印象は全
く異なるものといわざるを得ないから,本件商標と引用商標1とを,時と
所を異にして観察した場合にも,両者は相紛れることなく判然と区別され
る,と正当に認定判断をしているものである。
したがって,本件商標の図形部分の構成要素の1つと引用商標1とを比
較する原告の主張は,商標の外観類否の判断手法を誤るものであり,失当
である。
エ 以上のとおり,本件商標は,引用商標1との間で,外観,称呼,及び観
念のいずれの点からしても,相紛れるおそれのない非類似のものであるか
ら,商標法4条1項11号の規定に該当するものではない。審決の判断に
誤りはない。
(2) 取消事由2に対し
以下のとおり,本件商標は商標法4条1項15号の規定に該当するもので
はない。
ア 引用商標1の非周知性
原告は,引用商標1の周知性は審決が認めるとおりである,としてい
る。しかし審決は ,『 Jack
「 Wolfskin』の文字と引用商標
と同一の構成からなる図形とを結合してなる商標(別掲(3) 使用商標 』

参照のこと 。)を,昭和60年代の初め頃から,同人に係る被服を中心と
したアウトドア関連の商品に継続して使用していることが認められ,ま
た,当該図形のみからなる商標についても,本件商標の出願前より上記
商品に使用したことが認められる 。 (12頁末行∼13頁5行)と認定

しているだけであり,引用商標1の周知性を認めているわけではない。
イ 商標の非類似性
原告は,本件商標と引用商標1は称呼,観念及び外観において類似す
る互いに相紛らわしい商標であるから,本件商標に接した需要者が,そ
の出所として原告を想起する可能性は高い旨主張する。
しかし,本件商標と引用商標1は,前記(1)のとおり,外観,称呼及び
観念のいずれの見地からしても類似するところのない,非類似の商標で
ある。したがって,原告の主張は失当であり,審決が認定判断するとお
り,本件商標と引用商標1は,別異の出所を表示する商標として看取さ
れるというべきである。
ウ 商品の非同一及び非類似
原告は,本件商標がその指定商品中,第25類の「被服」以外の商品
に使用されれば,商標の類似性,及び引用商標1の周知性に鑑みて,原
告の商品との関連において出所につき混同が生ずるおそれは否定できな
いと主張する。
原告がいう「第25類の『被服』以外の商品」とは,「ガーター,靴下
止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服」のことであるとする
ところ,原告の商品については,アウトドア関連用品という以上に特定
していない。したがって,原告は,本件商標が上記「ガーター,靴下止
め…」等の商品に使用された場合,原告のいかなる商品について使用さ
れた場合に出所の混同を生ずるおそれがあると主張しているのか不明で
ある。
エ 以上のとおり,本件商標が商標法4条1項15号の規定に該当するとの
原告の主張は理由がなく,審決の判断は正当であって誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯) (2)(審決の内容)の各事実は,

当事者間に争いがない。
2 本件における付加的事実関係
(1) 本件商標登録は,前記のとおり,被告により平成15年12月15日付
けで出願され,平成17年6月24日に登録されたものであるが,証拠(甲
1,24)及び弁論の全趣旨によれば,本件商標登録に対し原告から平成1
7年9月26日付けで,本件商標は前記引用商標1及び別添審決写し末尾(3)
の使用商標(後記3(1)で摘示。決定書では「引用商標2」と表記)に類似
するから,商標法4条1項11号に該当することを理由として,商標法43
条の2に基づく登録異議の申立てがなされ,これを受けた特許庁は,異議2
005−90501号事件として審理した上,平成18年3月14日,「登
録第4874789号商標の商標登録を維持する」との決定がなされ,平成
18年4月5日確定した。その理由は,下記のとおりである。

「本件商標は,前記のとおり図形と『Sarah』の文字を組み合わせた
構成よりなるところ,図形部分と文字部分とはこれを常に一体のものとし
て把握しなければならない特段の事情を有するものとは認められないか
ら,図形部分も独立して自他商品の識別機能を有するものというべきであ
る。そして,該図形部分は下部に黒塗り山形図形を配し,その上部に,4
つの黒塗り歪形の図形を該山形図形の凸部に沿うように配した図形を,上
方向に3個左右互い違いに配し,これよりはあたかも獣類の足跡を表して
なるかのように看取され ,『獣類の足跡』あるいは『足跡』を表したと理
解させるものといえる。
一方,引用商標1は,前記のとおり黒塗り山形図形を配し,その上部に,
4つの黒塗り歪形の図形を該山形図形の凸部に沿うように配し,これら4
つの歪形の図形の上部には,それぞれ小さな黒塗り三角形を配してなるも
のであり,上記黒塗り山形図形は獣類の足裏の肉瘤を,また,上部の4つ
の黒塗り歪形の図形はその足指を,また,先端の小さな黒塗り三角形はそ
の爪を表したかのように看取され,これらは全体として,『獣類の足跡』
を表したと理解させるものといえる。
また,引用商標2は,前記のとおり『Jack Wolfskin』の
文字と図形とを組み合わせた構成よりなるところ,図形部分と文字部分と
はこれを常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情を有す
るものとは認められないから,図形部分も独立して自他商品の識別機能を
有するものというべきであり,前記引用商標1と相似形の図形からなるも
のと認められるから,前記認定と同様に全体として,『獣類の足跡』と理
解させるものといえる。
そこで,本件商標と引用商標の構成中の図形部分の類否についてみるに,
本件商標は前記のとおり『歩行している如き3個の獣類の足跡』を表して
なるのに対し,引用商標の図形部分は『1個の獣類の足跡』を表してなる
ものであって,構成上顕著な差異を有するから,これに接する看者をして
一見して異なった印象を抱かさせ,記憶されるとみるのが相当である。
そうとすると,本件商標は,たとえこれを構成する個々の図形において,
引用商標の図形と近似するところがあるとしても,あえて個々の図形部分
を抽出して比較しなければならない特段の事情も見い出し得ないから,両
商標は,これを時と所を異にして比較したときには,外観上十分に区別し
得るものである。
また,本件商標と引用商標は,たとえ『獣類の足跡』の称呼,観念にお
いて類似する場合があるとしても,これが上記外観上の差異を凌ぐものと
は認められない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録
されたものということはできないから,同法第43条の3第4項の規定に
基づき,その登録を維持すべきものである。

(2) なお,被告は下記内容の商標についての商標権者であるが,これは,前
権利者である有限会社プレイヤーバッグから平成15年11月21日移転を
受け平成15年12月5日にその旨の登録がなされたものである。

・ 商標 ・ 指定商品
第21類
「かばん類,袋物,その他本類に属する商品」
〔ただし,平成17年8月17日の書換登録後は,
第14類「身飾品( カフスボタン」を除く 。 ,
「 )
第18類 かばん類,
「 袋物,携帯用化粧道具入れ」,
第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バ
ンド,ベルト,第26類「衣服用き章(貴金属製
のものを除く。 ,衣服用バッジ(貴金属製のもの

・出願日 昭和56年9月30日 を除く。 ,衣服用バックル,衣服用ブローチ,帯

・登録日 昭和59年10月31日 留,ボンネットピン(貴金属製のものを除く。,

・登録第1724500号 ワッペン,腕章」〕
3 取消事由1(本件商標と引用商標1の類似性に関する判断の誤り)について
(1) 本件商標の内容
ア 本件商標の構成は,前記第2,2(1)のとおりであり,右下側に筆記体
で「Sarah」と表記された文字部分と,左側の図形部分とから成る。
図形部分は,下部に黒塗りで丸みのある不整形の山形図形,その上部にそ
の凸部に沿うように概ね大きさを同じくする4つの黒塗りの縦長の楕円様
の図形を配した同じ図形を,縦に3個並べてなる。その配列は,一番上と
一番下のものが左斜めおよそ45度弱の角度で,また,中のものが,右斜
めおよそ45度弱の角度で傾斜しており,一番上のものに対し中のものが
右,最下部のものが若干左へと,垂直線に比して少しずつ左右にずれる位
置に配置され,それらの間隔も各図形半個分程度であり,大きくはない。
文字部分は,一番大きく表記された大文字の「S」が3個からなる図形
部分のうちの1個とほぼ同じ大きさであり,その余の「arah」は小文
字の筆記体で一繋がりに表記されている。
イ そして,本件商標の文字部分に用いられている「Sarah」の語に関
し,文献には以下の記載がある。
「Sarah…サラ(1 女の名; 愛称》Sally. 2〔聖書〕Abraham

の妻で Isaac の母 」 甲30[小西友七編集主幹「ジーニアス英和辞典」

1572頁,株式会社大修館書店2000年〔平成12年〕4月1日
改訂版7版発行])
そうすると, Sarah」の語は,本件商標の指定商品である「被服,

ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服」との関
係では,外国の女性の名前を想起する程度の意味を有すると解される。
ウ 上記によれば,本件商標は,構成中の「Sarah」の文字部分に相応
して「サラ」ないしこれをローマ字読みした「サラー」の称呼を生ずるも
のと認められる。
一方,本件商標の図形部分は,上記3個の図形の一つ一つは獣類の足跡
を想起させるところ,それらの配列・間隔,及び爪のないことからして,
下から上方向へ歩行した比較的小さな獣類の足跡を想起するものと解さ
れ,歩行した小獣類の足跡の観念を生じる。
しかし本件商標の図形部分は上記のとおり小獣類の足跡を示すものにす
ぎないから,特定の称呼は生じないというべきである。
(2) 引用商標1の内容
これに対し引用商標1の構成は上記第2,2( 2)のとおりであるところ,
不整形の丸みを帯びた山形の図形の上に4つの概ね大きさを同じくする楕円
図形と ,更にその各楕円図形の上に小さな二等辺三角形の図形4つを配して,
これが右斜めおよそ45度程度方向に傾斜したものである。
そこからは,全体として爪のある獣類の足跡の観念が生じるものと解され
る。しかし,獣類の足跡であるからそこから特定の称呼が生じるものとは認
められないというべきである。
(3) 本件商標と引用商標1の類否
ア 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場
合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決
すべきであるが ,それには ,そのような商品に使用された商標がその外観,
観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合
して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る
限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭
和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
イ そこで以上の見地に立って,本件商標と引用商標1とを対比すると,本
件商標と引用商標1とは,本件商標の3個からなる図形部分のうちの一つ
一つが,小獣類の足跡の外観を有する点からすると,引用商標1が爪のあ
る獣類の足跡の外観を有する点に共通性があるということはできる。
しかし,本件商標においては,図形部分の足跡様の3個の図形は,上記
のとおり下から上に,左右各斜めに,かつ短い間隔で配されており,爪も
ないことから,比較的小さな獣類が歩行した足跡を想起するものとみられ
る。そしてその大きさもさほど大きくないことからして,その一つのみが
分離して観察されるものとは解されないから,3個で一体・一連のものと
して把握されるというべきである。そうすると,本件商標には加えて「S
arah」の文字部分もあることから,本件商標と引用商標1とは外観上
区別することができるというべきである。
また本件商標の図形部分からは歩行した小獣類の足跡の観念が生じ,引
用商標1からは爪のある猛々しい獣類の足跡の観念が生じるところ,これ
らも区別し得るものである。
称呼についても,図形部分からは特定の称呼は生じないものの,本件商
標の文字部分からは「サラ」ないし「サラー」の称呼が生じ,一方,引用
商標1から特定の称呼が生じないことは前記のとおりであるから,称呼に
おいても両者は区別することができる。
このように,本件商標は,外観,観念,及び呼称のいずれにおいても引
用商標1と区別することができるから,本件商標は引用商標1と類似する
ものとは認められない。そうすると,本件商標が商標法4条1項11号に
該当しないとした審決の判断は正当として是認できる。
ウ 原告の主張に対する補足的説明
(ア) 原告は,本件商標の文字部分と図形部分からはそれぞれ称呼・観念
が生じ,かつ本件商標の図形部分と引用商標1とでは ,「ジュウルイノ
アシアト」との同一の称呼を生じると主張する。
しかし,引用商標1自体から特定の称呼が生じると認められないこと
は上記のとおりであり,取引の実情に照らして引用商標1に「ジュウル
イノアシアト」との称呼が生じると認めるに足る証拠もない。
(イ) また原告は,本件商標において足跡が3個であることに格別の意味
はなく,単なる「獣の足跡」の図形として認識するから,本件商標と引
用商標1とは共通の観念を有すると主張する。
しかし,本件商標の図形部分の足跡として看取される各図形の配列,
間隔からして,3個が一体・一連のものとして把握されることは上記の
とおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) また原告は,外観においても,本件商標の図形部分において足跡が
3個であることに意味はなく,引用商標1の爪についても極めて小さい
ことから看者の印象に残らず,両者は外観上も類似すると主張する。
しかし,本件商標の図形部分について一体・一連のものとして把握す
べきことは上記のとおりであり ,また引用商標1は足跡が1つであって ,
不成形の丸みを帯びた山形部分,その上部の4つの楕円図形がいずれも
丸みを帯びた形であるのに比して,先の尖った二等辺三角形の爪の部分
は,狼等の猛々しい動物を連想させ,十分に看者の印象に残るものであ
り,本件商標の図形部分の一つと外観上区別し得る要素の一つと認めら
れる。原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由2(出所の混同のおそれについての判断の誤り)について
(1) 原告は,昭和60年代初めころから,下記の態様(以下「使用商標」と
いう)で,原告を示す「Jack Wolfskin」の文字と共に引用商標1を使用す
るほか,引用商標1を単独でも商品等に付してこれを使用し,原告製品の出
所を示すものとして需要者に周知となっているところ,引用商標1は本件商
標とは称呼,観念,及び外観において類似しているから,引用商標1の指定
商品でもある第25類の「被服」以外の商品に本件商標が使用されると,需
要者はその出所を原告と混同するおそれがあり,審決の判断は誤りであると
主張する。

(2) 証拠(甲15の1∼37)によれば,原告は1988年〔昭和63年〕ころ
から引用商標1を一部に含む上記使用商標の態様で外国で発行されたアウト
ドア用品のカタログ等に使用し(甲15の1∼4),1990年〔平成2年〕
からは我が国においても上記のとおり「Jack Wolfskin」の文字に引用商標
1を付してジャケット等のアウトドア用品の販売を開始した(甲15の4〔1
990 JackWolfskin Catalogue INDEX/PRICE LIST,株式会社キャラバン
発行〕2枚目に「本年より日本の皆様にJack Wolfskinのアウトドアー製品
をご紹介出来る様になりました 。」との記載がある)ことが認められる。ま
た1995年〔平成7年〕ころからは複数のアウトドア関連の雑誌にも上記
使用商標を用いて広告を掲載し(甲13,14の1∼39),2002年〔平成
14年〕ころには日本全国に14のジャックウルフスキン直営店(甲11),
340の特約店(甲12)を展開し,また引用商標1を商品に付して販売し
ていたこと(甲15の22等)が認められる。
(3) しかし,本件商標と引用商標1とが類似しないことについては上記3で
説示したとおりであり,本件商標と引用商標1とは区別し得るものであるか
ら,本件商標は,原告の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれのある
商標ということはできない。
したがって,本件商標登録は商標法4条1項15号に違反してなされたも
のではないとした審決の判断に誤りはない。
5 結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 今 井 弘 晃
裁判官 清 水 知 恵 子

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